説明

自己遮蔽したフラックス芯付き電極

【課題】異種の金属の溶接及び炭素鋼及び低合金鋼のハードフェーシングの方法におけるクラックの発生を低下させるのに使用できる溶接電極を提供する。
【解決手段】少なくとも4重量%のマンガン及び/又は少なくとも10重量%のクロムを含有する高マンガン金属溶着を形成するための芯付き電極であって、金属鞘と充填組成物をもち、該充填組成物が金属合金化剤及びスラグ系を含有し、該スラグ系が少なくとも20重量%のバルク剤、少なくとも1重量%の気体発生化合物及び少なくとも2重量%のスラグ湿潤化化合物を含有する芯付き電極。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、溶接の分野に関し、さらに特に、異種の金属の結合及び/又は炭素鋼及び/又は低合金鋼上への緩衝層の溶着に有用な電極に関する。
【背景技術】
【0002】
アーク溶接の分野において、アーク溶接の3つの主要なタイプは、サーブマージアーク溶接(SAW)、遮蔽金属アーク溶接(SMAW)、及びフラックス芯付きアーク溶接(FCAW)である。サーブマージアーク溶接では、融合物は、露出した金属電極と作業されている金属との間を電気アークにより熱することにより生成する。溶接部は、顆粒状または溶融可能な物質またはフラックスにより覆われている。溶接操作は、フラックスの下にアークをあてて熱を生じさせて周りのフラックスを溶融し、それにより電流の連続的な流れにより流体を維持する流体下の伝導性のプールを形成することによって開始する。電極の末端とその直ぐ下の素材とは、溶融し始め、そして溶融した充填金属は、電極から素材上に溶着する。溶融した充填金属は、フラックスプールを置き換え、そして溶接部を形成する。遮蔽金属アーク溶接では、遮蔽は、フラックスの緩い顆粒状のブランケットの代わりにフラックスコーティングによって生成する。フラックス芯付き電極では、フラックスは金属鞘内に含まれる。
【0003】
溶接技術では、多くの従来の努力は、予定された方法で行なわれることを目的とする予定されたフラックスコンポーネントを有するタイプのフラックス組成物を開発することに費やされてきた。多数の組成物は、一般に溶接フラックスとしての使用及び金属性芯上または鞘内のコーティングとしての使用の両者としてアーク溶接におけるフラックスとして用いるために開発されてきた。フラックスは、アーク溶接において、アークの安定性をコントロールし、溶接金属組成物を変性し、そして大気中の汚染物からの保護をもたらすのに利用されている。アーク安定性は、通常、フラックスの組成を変性することによってコントロールされる。そのため、フラックス混合物中のプラズマ電荷キャリヤーとしてうまく機能する物質を有することが望ましい。フラックスは、また金属中の不純物をさらに容易に溶融するようにしそして金属がスラグを形成する前にこれらの不純物がそれと結合する物質を用意することにより、溶接金属の組成を変性する。他の物質が添加されてスラグの融点を低下させてスラグの流動性を改善しそしてフラックス粒子のための結合剤として働く。
【0004】
コーティングされた電極及び芯付き電極は、鋼に基づく金属の電気アーク溶接に通常使用される。これらの電極は、一般に、高い溶接速度で単一のパス及び複数のパスで高い強さの溶接部を生ずる。これらの電極は、種々の用途の所望の最終使用で満足できる引張強さ、延性及び衝撃強さを有する固体の実質的に非多孔性の溶接ビードをもたらすように処方される。電極は、また、溶接工程中に発生するスラグの量を最小にするように処方される。溶接工程後のスラグは取り出されて、きれいな表面を提供し、それは、もし所望ならば後に処理(例えば塗料の塗布、コーティング)されて外観の質の向上、腐食の阻害などを行なうことができる。
【0005】
芯付き電極は、構造上の構成における改善された生産性のために固体の溶接ワイヤの代替物として次第に使用されてきている。芯付き電極は、金属鞘と種々の材料の組成を含む芯とを有する。芯付き電極は、代表的に、増大した溶接溶着速度をもたらしそして多くの固体ワイヤより広くしかもさらに一定した浸透プロフィルを生ずる。芯付き電極は、また代表的に、発生する蒸発気体及びスパッターがより少なく、改善したアーク安定性をもたらしそして多くの固体ワイヤに比べて改善された湿潤化特性を有する溶接溶着を生成する。
【0006】
多くの問題を生ずる溶接操作の1つのタイプは、異種の金属の溶接である。金属の異なる組成により、これらの2つの金属の間に形成される溶接部は、クラックの形成を通常生ずる大きな応力に曝される。これらの応力は、部分的には、金属の異なる物理的性質(例えば熱膨張係数、熱伝導性、硬化可能性、降伏強さ、伸びなど)による。問題の生ずる溶接操作の他のタイプは、炭素鋼及び炭化クロムを有する低合金鋼のハードフェーシングである。クラックは、通常、ハードフェーシング操作中の高炭素鋼中への水素の拡散そしてまた高炭素鋼中に拡がる炭化クロムで形成するクラックによるハードフェーシング操作で形成する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
異種の金属の溶接及び炭素鋼及び低合金鋼のハードフェーシングの技術の現在の状態を考えて、このような溶接及びハードフェーシングの方法におけるクラックの発生を低下させるのに使用できる溶接電極が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、溶接電極に関し、さらに特に、異種の金属の間に溶接ビードを形成しそしてこれら溶接ビードのクラッキングの発生を低下させるのに使用できる溶接電極に関する。本発明は、またもしくは別に、鋼のハードフェーシング中及び/又はその後に、これら鋼のクラッキングの発生を低下させるためにこれらの鋼上の緩衝層の溶着に関する。
【0009】
本発明の電極は、鞘の芯の充填組成物を囲む金属鞘を有する芯付き電極に特に関し、それに特に関して記述されるが、しかし、他のタイプの電極が使用できることも理解できるだろう。本発明の芯付き電極は、スラグ系、並びにクラック抵抗性高マグネシウム組成物(異種の金属をともに溶接するのに特に有用でありそして炭素鋼及び低合金鋼上に緩衝層を溶着するのに有用である)を溶着する金属合金系を含む充填組成物を有する。本発明の電極により形成される溶接部は、金属レールを接続及び/又は修復するのに特に有用なねばり強い堅いかつ耐衝撃性の表面仕上げを形成するのに使用できる。本発明の電極は、また、マグネシウム鋼をともに溶接するのに使用できる。本発明の電極は、さらに、300℃以内の作業温度で熱抵抗性のステンレス鋼及び鋳物鋼を溶接するのに使用できる。本発明の電極によって形成される溶接金属は、約150−300HBの硬度を有し、そして約275−400HBの機械的歪により冷間硬化する。
【0010】
本発明の1つの構成では、本発明の電極は、自己遮蔽電極である。それ自体、電極を使用するとき、ほとんどまたは全く遮蔽気体は必要としない。しかし、遮蔽気体を使用できることも理解すべきである。もし遮蔽気体を使用するならば、遮蔽気体は、電極と使用されて、大気中の元素及び/又は化合物から溶接ビードまたは緩衝層を保護する。遮蔽気体は、一般に、1つ以上の気体を含む。これら1つ以上の気体は、一般に、溶接ビードまたは緩衝層の組成に関して不活性または実質的に不活性である。遮蔽気体は、CO遮蔽気体、またはCO及びアルゴンの混合気体を含むがこれらに限定されず、COは混合物の約2−40%を構成する。本発明の1つの態様(本発明を限定しない)では、混合された遮蔽気体が使用されるとき、遮蔽気体は、その5−25容量%が二酸化炭素でありそして残りがアルゴンである。理解できるように、他の不活性または実質的に不活性な気体及び/又は追加のそれらも使用できる。
【0011】
本発明の他の構成及び/又は別の構成では、芯付き電極は、鉄(例えば、炭素鋼、低炭素鋼、ステンレス鋼、低合金鋼など)から主として形成される金属鞘を含むが、金属鞘は、例えばアルミニウム、アンチモン、ビスマス、硼素、炭素、クロム、コバルト、銅、鉛、マンガン、モリブデン、ニッケル、ニオブ、珪素、硫黄、錫、チタン、タングステン、バナジウム、亜鉛及び/又はジルコンであるがこれらに限定されない他の金属を含むことができる。本発明の1つの態様(本発明を限定しない)では、金属鞘は、鉄と1つ以上の例えば炭素、クロム、銅、マンガン、モリブデン、ニッケル及び/又は珪素であるがこれらに限定されない他の元素とを主として含む。本発明の1つの態様(本発明を限定しない)では、金属鞘の鉄含量は、少なくとも約80重量%である。
【0012】
本発明のさらに他の態様(本発明を限定しない)では、芯付き電極の鞘は、低炭素鋼を含む。本発明の他の態様(本発明を限定しない)では、芯付き電極の鞘は、ステンレス鋼の鞘(例えば304、304L、314など)を含む。充填組成物が芯付き電極に含まれるとき、充填組成物は、代表的に、全電極重量の少なくとも約1重量%、そして全電極重量の約55重量%以下を構成し、そして代表的に全電極重量の約10−50重量%を構成し、より代表的に全電極重量の約20−48重量%を構成し、さらに代表的に全電極重量の約25−45重量%を構成する。本発明の1つの態様(本発明を限定しない)では、芯付き電極の充填組成物は、鞘が低炭素鋼から形成されるとき、より多い重量%を有する。1つの特別な態様(本発明を限定しない)では、低炭素鋼の鞘の芯付き電極の充填組成物は、全電極の約30−50重量%、代表的に全電極の約35−48重量%そしてさらに代表的に全電極の約40−46重量%である。他の特別な態様(本発明を限定しない)では、ステンレス鋼の鞘の芯付き電極の充填組成物は、全電極の約10−30重量%、代表的に全電極の約12−28重量%そしてさらに代表的に全電極の約20−26重量%である。
【0013】
本発明のなお他の構成及び/又は別の構成では、芯付き電極は、金属鞘及び充填組成物(高いマグネシウム含量を有する金属溶着を形成する)を含む。本発明の1つの態様(本発明を限定しない)では、本発明の電極の金属溶着は、少なくとも約4重量%のマンガン少なくとも約5重量%のニッケル、そして少なくとも約12重量%のクロムを含む。この態様の1つの構成(本発明を限定しない)では、本発明の電極の金属溶着は、少なくとも約4.5重両%のマンガン、少なくとも約7重量%のニッケルそして少なくとも約17重量%のクロムを含む。この態様の他の特別な態様(本発明を限定しない)では、本発明の電極の金属溶着は、約4.5−7.5重量%のマンガン、約7−10重量%のニッケル、約17−20重量%のクロム、約0.2重量%以内の炭素、約0.3重量%以内の銅、約0.3重量%以内のモリブデン、約0.035重量%以内の燐、約1.2重量%以内の珪素、そして約0.025重量%以内の硫黄を含む。本発明の他の態様(本発明を限定しない)では、本発明の電極の金属溶着は、ISO 17633クラス18 8Mnの標準に合致する組成を有する。
【0014】
本発明の他の構成及び/又は別の構成では、本発明の電極は、電極により形成される1つ以上の溶接層または1つ以上の緩衝層を増大させるスラグ系を有する充填組成物を含む。充填組成物中の1つ以上のスラグ形成剤は、また、形成された溶接ビード又は溶着された緩衝層を大気から少なくとも部分的に遮蔽する。充填組成物は、代表的に、所望の溶接金属組成物に少なくとも密接に適合する及び/又は形成された溶接ビードの所望の性質を得るように選択された1つ以上の金属合金化剤を含む。充填組成物の成分は、1つ以上の金属酸化物(例えば酸化アルミニウム、酸化硼素、酸化カルシウム、酸化クロム、酸化鉄、酸化マグネシウム、酸化ニオブ、酸化カリウム、二酸化珪素、酸化ナトリウム、酸化錫、酸化チタン、酸化バナジウム、酸化ジルコンなど)、1つ以上の金属炭酸化物(例えば炭酸カルシウムなど)、1つ以上の金属フッ化物(例えばフッ化バリウム、フッ化ビスマス、フッ化カルシウム、フッ化カリウム、フッ化ナトリウム、テフロンなど)及び/又は1つ以上の金属合金化剤(例えばアルミニウム、アンチモン、ビスマス、硼素、カルシウム、炭素、クロム、コバルト、銅、鉄、鉛、マンガン、モリブデン、ニッケル、ニオブ、珪素、硫黄、錫、チタン、タングステン、バナジウム、亜鉛、ジルコンなど)を含むことができる。本発明の1つの態様(本発明を限定しない)では、充填組成物のスラグ系は、電極の少なくとも約1重量%、代表的には電極の30重量%より少ない量、さらに代表的には電極の約3−20重量%そしてより代表的には電極の約7−14重量%を構成する。
【0015】
本発明の他の態様(本発明を限定しない)では、充填組成物のスラグ系は、充填組成物の金属合金含量より少ない重量%を有する。本発明の1つの構成(本発明を限定しない)では、金属合金含量対スラグ系含量の重量%の比は、少なくとも約1.5:1、代表的には少なくとも約1.75:1、さらに代表的には約1.9−5.5:1そしてより代表的には約2−4:1である。充填組成物のスラグ系は、溶着工程中及び/又はその後の溶接金属または緩衝層への保護を少なくとも部分的に提供する及び/又は特別な溶着工程を助けるのに使用される。本発明のなお他の態様(本発明を限定しない)では、スラグ系は、少なくとも1つの溶着保護剤を含む。本発明の1つの構成(本発明を限定しない)では、少なくとも1つの溶着保護剤は、金属溶着操作中遮蔽気体を発生する気体発生化合物を含む。気体発生化合物は、一般に、溶接操作中分解し、そして溶接金属または緩衝層を少なくとも部分的に保護する気体を放出する(例えば、CO発生化合物、フッ化物発生化合物など)。放出された気体は、アーク環境中の窒素の分圧を低下させる効果を有して、溶着された金属の窒素吸収を低下させる。溶着された金属上の過剰の窒素は、溶着された金属の物理的性質及び外観を損なう溶着された金属における有害な多孔性を導く。放出された気体は、またもしくは別にアーク領域から水分を洗浄し、それにより溶着された金属による水素吸収の量を減少させる。溶着された金属に関する水分を減少させることにより、水からの水素の減少した量は、溶着された金属中に吸収され、それによって溶着された金属の多孔性を低下させる。この態様の1つの特別な構成(本発明を限定しない)では、気体発生化合物は、フッ化物発生化合物(例えばCaF、KAlFなど)を含む。1つの処方(本発明を限定しない)では、1つ以上のフッ化物発生化合物は、気体発生化合物の大部分を構成する。この態様の1つの特別な構成(本発明を限定しない)では、気体発生化合物は、電極の少なくとも約0.1重量%、代表的には電極の約0.2−5重量%、さらに代表的には電極の約0.4−2重量%そしてより代表的には電極の約0.6−1.4重量%を構成する。気体発生化合物は、またもしくは別に、スラグ系の少なくとも約1重量%を構成し、代表的にスラグ系の約2−40重量%、さらに代表的にスラグ系の約4−18重量%そしてより代表的にスラグ系の約8−12重量%を構成する。
【0016】
本発明の他の態様(本発明を限定しない)では、スラグ系は、少なくとも1つのバルク剤を含み、それは金属溶着層が少なくとも部分的に固化するまで溶着した金属層をカバーしそして大気からそれを保護するのに使用される。この態様の1つの特別な構成(本発明を限定しない)では、バルク剤は金属酸化物(例えばTiOなど)を含む。1つの処方(本発明を限定しない)では、酸化チタンはバルク剤の大部分を構成する。この態様の1つの特別な構成(本発明を限定しない)では、バルク剤は、電極の少なくとも約1重量%、代表的に電極の約1.5−8重量%、さらに代表的に電極の約2−6重量%そしてより代表的に電極の約3.5−5重量%を構成する。バルク剤は、またもしくは別に、スラグ系の少なくとも約20重量%、代表的にスラグ系の約25−90重量%、さらに代表的にスラグ系の約30−60重量%そしてより代表的にスラグ系の約40−55重量%を構成する。
【0017】
本発明のなお他の態様(本発明を限定しない)では、スラグ系は、少なくとも1つのスラグ湿潤化剤、アーク安定化剤、スラグ除去剤及び/又は表面溶着剤を含む。スラグ湿潤化剤は、使用されるとき、スラグが完全に溶着した金属をカバーして、金属溶着層が少なくとも部分的に固化するまで大気からの溶着した金属の保護及び/又は溶着した金属の外観の向上を確実に行なうことを助ける。この態様の1つの特別な構成(本発明を限定しない)では、スラグ湿潤化剤は金属酸化物(例えばSiO、Alなど)を含む。1つの処方(本発明を限定しない)では、二酸化珪素は、スラグ湿潤化剤の大部分を構成する。この態様の1つの特別な構成(本発明を限定しない)では、スラグ湿潤化剤は、電極の少なくとも約0.1重量%、代表的に電極の約0.2−6重量%、さらに代表的に電極の約0.5−5重量%そしてより代表的に電極の約1−4重量%を構成する。スラグ湿潤化剤は、またもしくは別に、スラグ系の少なくとも約10重量%、代表的にスラグ系の約15−60重量%、さらに代表的にスラグ系の約20−40重量%そしてより代表的にスラグ系の約20−35重量%を構成する。安定化剤は、使用されるとき、スパッターを最小にする静かなアークを生成するのに助ける。この態様の1つの特別な構成(本発明を限定しない)では、安定化剤は金属酸化物(KO、NaO、TiOなど)を含む。1つの処方(本発明を限定しない)では、酸化カリウム及び/又は酸化ナトリウムは、安定化剤の大部分を構成する。この態様の1つの特別な構成(本発明を限定しない)では、安定化剤(ある制限された程度のアーク安定化効果を有するバルク剤例えばTiOを除く)は、電極の少なくとも約0.1重量%、代表的に電極の約0.2−4重量%、さらに代表的に電極の約0.3−3.5重量%そしてより代表的に電極の約0.5−2重量%を構成する。安定化剤(ある制限された程度のアーク安定化効果を有するバルク剤例えばTiOを除く)は、またもしくは別に、スラグ系の少なくとも約1.5重量%、代表的にスラグ系の約2−40重量%、さらに代表的にスラグ系の約5−20重量%そしてより代表的にスラグ系の約7−15重量%を構成する。
【0018】
表面溶着剤は、使用されるとき、溶着した金属の光沢及び全体の外観に寄与する。この態様の1つの特別な構成(本発明を限定しない)では、表面溶着剤は金属酸化物(例えばAl、NaO、KOなど)を含む。1つの処方(本発明を限定しない)では、酸化アルミニウムは表面溶着剤の大部分を構成する。この態様の1つの特別な構成(本発明を限定しない)では、表面溶着剤は、電極の少なくとも約0.1重量%、代表的に電極の約0.2−4重量%、さらに代表的に電極の約0.3−3.25重量%そしてより代表的に電極の約0.4−1.8重量%を構成する。表面溶着剤は、またもしくは別に、スラグ系の少なくとも約1.6重量%、代表的にスラグ系の約2−35重量%、さらに代表的にスラグ系の約6−22重量%そしてより代表的にスラグ系の約8−16重量%を構成する。スラグ除去剤は、使用されるとき、溶着した金属の上及び/又はそのまわりのスラグの容易な除去に寄与する。この態様の1つの特別な構成(本発明を限定しない)では、表面溶着剤は金属酸化物(例えばNaO、KOなど)を含む。スラグ系は、またスラグの粘度の上昇及び/又は下降及び/又は蒸発気体の生成の低下を行う剤を含むことができる。
【0019】
異種の金属、高マンガン金属をともに溶接することを改善すること、及び/又は低炭素鋼及び/又は低合金鋼のハードフェーシングまたは堅い表面処理を改善することは、本発明の主な目的である。
【0020】
本発明の他の目的及び/又は別の目的は、ISO 17633クラス18 8Mnの標準を満たす金属溶着及びそれを形成する方法を提供することである。
【0021】
本発明のなお他の目的及び/又は別の目的は、ISO 17633クラス18 8Mnの標準を満たす金属溶着を形成するフラックス芯付き電極を利用する金属溶着及びその形成方法を提供することである。
【0022】
本発明の他の目的及び/又は別の目的は、ISO 17633クラス18 8Mnの標準を満たす金属溶着の形成を助けるスラグ系を有するフラックス芯付き電極を利用する金属溶着及びその形成方法を提供することである。
【0023】
本発明のなお他の目的及び/又は別の目的、自己遮蔽系であるスラグ系を有するフラックス芯付き電極を利用する金属溶着及びその形成方法を提供することである。
これら及び他の目的及び利点は、本発明の記述から明らかになるだろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明は、異種の金属をともに溶接するためまたは炭素鋼及び低合金鋼の上に緩衝層を形成するために特に処方される改善されたフラックス芯付き電極に関する。フラックス芯付き電極は、フラックス芯付き電極が遮蔽気体とともにまたはなしで使用できる新規なスラグ系を含む。もし遮蔽気体が使用されるならば、遮蔽気体は、代表的に二酸化炭素または約18−25%の二酸化炭素を含む二酸化炭素−アルゴン混合物である。
フラックス芯付き電極は、異種金属の結合並びに炭素鋼及び低合金鋼上への緩衝層の溶着に特に有用なクラック抵抗性、高マンガンステンレス鋼組成物を溶着するように処方される。
フラックス芯付き電極は、代表的に、低炭素軟鋼鞘またはステンレス鋼鞘を有する。低炭素軟鋼鞘が使用されるとき、鞘は、代表的にフラックス芯付き電極の約40−60重量%そしてさらに代表的にフラックス芯付き電極の約55重量%からなる。ステンレス鋼鞘例えば304Lが使用されるとき、鞘は、代表的にフラックス芯付き電極の約65−80重量%そしてさらに代表的にフラックス芯付き電極の約75重量%からなる。
フラックス芯付き電極からの溶着した金属は、代表的に18 8Mnの分類の下のISO 17633標準を満たす組成を有する。一般に、溶着した金属は、以下の一般的な重量%の組成を有する。
【0025】
炭素 0.2最大
クロム 17−20
銅 0.3最大
マンガン 4.5−7.5
モリブデン 0.3最大
ニッケル 7−10
燐 0.035最大
珪素 1.2最大
硫黄 0.025最大
【0026】
フラックス芯付き電極は、素材上への金属の溶着を増大させそして所望の溶着した金属組成物を得ることを助ける充填組成物を含む。充填組成物は、代表的に、電極の重量%でその約5−15重量%がスラグ系であり、残りは合金化剤である。1つの特定の態様では、充填組成物は、電極の約20−50重量%を構成し、そして電極の重量%でその約8−12重量%がスラグ系であり、残りは合金化剤である。スラグ系の1つの一般的な組成は、電極の重量%で以下のものを含む。
【0027】
バルク剤 1−10%
気体発生化合物 0.05−6%
スラグ湿潤化剤 0.05−7%
安定化剤 0−5%
表面溶着剤 0−5%
スラグ系の他の一般的な組成は、電極の重量%で以下のものを含む。
バルク剤 2−9%
気体発生化合物 0.1−5%
スラグ湿潤化剤 0.1−6%
安定化剤 0.1−4%
表面溶着剤 0−4%
スラグ系のなお他の一般的な組成は、電極の重量%で以下のものを含む。
酸化チタン 2−6%
フッ化発生化合物 0.4−2%
二酸化珪素 0.2−5%
カリウム/ナトリウム化合物 0.2−4%
酸化アルミニウム 0−4%
【0028】
スラグ系の1つの特定の組成(本発明を限定しない)では、電極の重量%で以下のとおりである。
酸化チタン 4.3%
CaFプラスKAlF 1%
二酸化珪素 2%
カリウム及びナトリウムの酸化物 0.83%
酸化アルミニウム 0.95
【0029】
上記の特定のスラグ系の成分の機能は、以下に示されるが、しかし、示された機能は考えられた機能であり、これらの成分の実際または完全な機能ではないことを理解すべきである。
【0030】
スラグ系の酸化チタンは、主として、スラグにバルクを提供して、スラグが溶着した金属をカバーするようにする。酸化チタンは、またアークの安定化を助ける。理解できるように、他のバルク剤または追加のバルク剤も使用できる。
【0031】
フッ化化合物は、スラグ系の気体発生特性を提供する。フッ化化合物(例えばCaF、KAlFなど)は、代表的に溶接中電気アークに少なくとも部分的に蒸発し、それにより電極から溶着した金属の領域の周りに気体バリヤーを形成する。理解できるように、他の気体発生化合物または追加の気体発生化合物も使用できる。この気体バリヤーは、溶融した溶着した金属の周りの環境中の窒素の分圧を低下させ、それにより溶着した金属による窒素の吸収の量を低下させる。溶着した金属中の窒素の低下した量は、溶着した金属の多孔性の量を減少させ、それにより溶着した金属の物理的性質及び外観を向上させる。気体バリヤーは、またアーク領域から水分を洗浄するのを助け、それにより溶着した金属による水素の吸着の量を低下させる。溶着した金属中の水素の過剰な量は、溶着した金属における多孔性の問題を生ずる。アーク領域の周りの水分は、水素の源である。
【0032】
二酸化珪素は、スラグ湿潤化剤である。二酸化珪素は、溶着した金属の外観を改善するように、スラグが素材上の溶着した金属をカバーするのを助ける。理解できるように、他のスラグ湿潤化剤または追加のスラグ湿潤化剤も使用できる。スラグ系中の二酸化珪素の量は、その片がスラグ及び溶着した金属の冷却中に実質的に爆発する粘着力のあるスラグを避けるように制限されねばならない。代表的に、スラグ系の二酸化珪素の含量は、電極の約7重量%以下そして代表的に電極の約4重量%以下である。
【0033】
酸化アルミニウムもスラグの湿潤化を助ける。酸化アルミニウムは、主として、溶着した金属のスラグのカバーの下面のガラス様の特性を改善しそれにより溶着した金属の光沢及び全体の表面の外観を改善する表面溶着剤として機能する。理解できるように、他の表面溶着剤または追加の表面溶着剤も使用できる(例えばNaO、KOなど)。スラグ系中の酸化アルミニウムの量は、二酸化珪素の含量と同じく、粘着力のあるスラグを避けねばならない。代表的に、スラグ系の酸化アルミニウム含量は、電極の約5重量%以下そして代表的に電極の約3重量%以下である。
【0034】
ナトリウム及びカリウムの化合物は、素材上への金属の溶着中アークの安定化をもたらす。酸化ナトリウム及び酸化カリウムは、スラグ系で使用される代表的な化合物である。理解できるように、他のナトリウム及び/又はカリウムの化合物または追加のそれらも使用できる(例えばKAlFなど)。理解できるように、他の安定化剤または追加の安定化剤も使用できる(例えばTiOなど)。アーク安定化剤は、溶着工程中ほとんどスパッターを発生しない軟らかな静かなアークを生成するのを助ける。酸化ナトリウムがスラグ系に含まれるとき、酸化ナトリウムは、またスラグ及び溶着した溶接金属が冷却されるとき、スラグのガラス的性質及びスラグの除去を促進するのを助ける。酸化ナトリウムは、またスラグのねばり強さを低下させ、それによりそれが冷却するときスラグを安定化するのを助ける。スラグ系における酸化ナトリウムの量は、溶着した金属の多孔性を増大させるスラグによる過剰の水分の吸収を避けるように制限すべきである。代表的に、スラグ系の酸化ナトリウムの含量は、電極の約4重量%以下そしてさらに代表的に電極の約2重量%以下である。酸化カリウムは、酸化ナトリウムと同じく、またスラグ及び溶着した溶接金属が冷却されたとき、スラグのガラス性及びスラグの除去を促進するのを助ける。スラグ系における酸化カリウムの量は、酸化ナトリウム含量と同じく、溶着した金属の増大した多孔性を導くスラグによる過剰の水分の吸収を避けるように制限すべきである。代表的に、スラグ系の酸化カリウムの含量は、電極の約2重量%以下そしてさらに代表的に電極の約1重量%以下である。代表的に、ナトリウム及びカリウムの酸化物がスラグ系に含まれるとき、酸化ナトリウムの含量は、酸化カリウムの含量より大きい。1つの態様(本発明を限定しない)では、スラグ系における酸化ナトリウム対酸化カリウムの重量比は、約1.5−10:1そして代表的に約4−6:1であるが、しかし他の比も存在できる。
【0035】
充填組成物中の合金化剤は、金属鞘の組成に応じて変化するだろう。軟鋼鞘に使用される充填組成物中の合金化剤は、代表的に、クロム、マンガン及びニッケルを含む。合金化剤は、また銅、モリブデン及び珪素を含むことができる。1つの組成物(本発明を限定しない)では、低炭素軟鋼鞘に使用される充填組成物中の合金化剤は、電極の重量%で、約16−22重量%のクロム、約0.6重量%以内の銅、約3−9重量%のマンガン、約0.5重量%以内のモリブデン、約6−12重量%のニッケル、約0.1−1.8重量%の珪素、及び約10−35重量%の鉄を含む。1つの組成物(本発明を限定しない)では、304Lステンレス鋼鞘に使用される充填組成物中の合金化剤は、電極の重量%で、5重量%以内のクロム、約0.6重量%以内の銅、約1−7重量%のマンガン、約0.5重量%以内のモリブデン、約3重量%以内のニッケル、約0.8重量%の珪素、及び約2−23重量%の鉄を含む。
【0036】
上記のように、フラックス芯付き電極の主な応用は、ハードフェーシング前の異種金属の結合並びに炭素鋼及び低合金鋼上の緩衝層の形成である。代表的な異種金属の結合は、普通の軟鋼構造部材への磨耗抵抗性低合金鋼の磨耗板の溶接、並びに普通の軟鋼または14%マグネシウム鋼の他の片への14%Mnマグネシウム鋼片の溶接を含むが、これらに限定されない。フラックス芯付き電極により形成される溶接金属は、これらのタイプの応用において溶接金属のクラッキングに抵抗する。フラックス芯付き電極により形成される緩衝層の例(本発明を限定しない)は、高度磨耗抵抗性炭化クロムによる鋼のクラッディング前の高炭素鋼(例えば1045鋼、1080鋼など)上への緩衝層の適用である。溶着した金属組成物のオーステナイト性マトリックスがHAZ上への拡散から水素に抵抗するため、緩衝層は、溶接中高炭素鋼のHAZにおけるクラッキングに抵抗する。炭化クロムのクラッディングの適用後、クラッディングはクラックし勝ちであるが(これは望ましい)、しかしクラッディングのクラッキングは、高炭素鋼のクラッキングを生ずる(こらは望ましくない)。緩衝層は、高炭素鋼中の拡大からクラッディングにおけるクラックに抵抗するかまたは予防する。緩衝層の組成は、さらに、緩衝層が硬化しないため、クラッディングと高炭素鋼との間により良い結合をもたらす。
【0037】
上記の態様のこれらの変更及び他の変更並びに本発明の他の態様は、本明細書の記述から当業者にとり明白であり示唆されており、それにより前記の記述が本発明の単なる例示でありそしてそれを限定するものではないと解釈されるべきであると明確に理解すべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも4重量%のマンガン及び/又は少なくとも10重量%のクロムを含有する高マンガン金属溶着を形成するための芯付き電極であって、金属鞘と充填組成物をもち、該充填組成物が金属合金化剤及びスラグ系を含有し、該スラグ系が少なくとも20重量%のバルク剤、少なくとも1重量%の気体発生化合物及び少なくとも2重量%のスラグ湿潤化化合物を含有することを特徴とする芯付き電極。
【請求項2】
該気体発生化合物の含量が、溶着工程中該金属溶着を完全に遮蔽するのに充分な量である請求項1の芯付き電極。
【請求項3】
該金属鞘が、低炭素銅金属またはステンレス鋼である請求項1または2の芯付き電極。
【請求項4】
該充填組成物が、芯付き電極の10−50重量%を構成する請求項1〜3のいずれか1項の芯付き電極。
【請求項5】
該スラグ系が、芯付き電極の3−20重量%を構成する請求項1〜4のいずれか1項の芯付き電極。
【請求項6】
該充填組成物中の該金属合金化剤対該スラグ系の重量%の比が、1.9−9.5:1である請求項1〜5のいずれか1項の芯付き電極。
【請求項7】
該バルク剤が、主として、二酸化チタンを含む請求項1〜6のいずれか1項の芯付き電極。
【請求項8】
該気体発生剤が、主として、フッ化物発生化合物を含む請求項1〜7のいずれか1項の芯付き電極。
【請求項9】
該スラグ湿潤化化合物が、主として、二酸化珪素を含む請求項1〜8のいずれか1項の芯付き電極。
【請求項10】
該スラグ系が、芯付き電極の0.1−3重量%の酸化カリウム、酸化ナトリウムまたはこれらの混合物、芯付き電極の0.1−3重量%の酸化アルミニウム、芯付き電極の0.1−3重量%のフッ化物発生化合物、芯付き電極の0.2−6重量%の二酸化珪素及び芯付き電極の1−8重量%の酸化チタンを含む請求項1〜9のいずれか1項の芯付き電極。
【請求項11】
少なくとも4重量%のマンガン及び少なくとも10重量%のクロムを含む金属溶着を形成する方法であって、
a)金属鞘及び充填組成物を含む芯付き電極を用意し、該充填組成物は、金属合金化剤及びスラグ系を含有し、該スラグ系は、少なくとも20重量%のバルク剤、少なくとも1重量%の気体発生化合物及び少なくとも2重量%のスラグ湿潤化化合物を含有し、そして
b)電流により該芯付き電極を少なくとも一部溶融して、該気体発生化合物から遮蔽気体を生じさせそして該芯付き電極の溶融した部分から素材上に溶融した金属を溶着させ、該溶融した金属が少なくとも4重量%のマンガン及び少なくとも10重量%のクロムを含むことを特徴とする金属溶着を形成する方法。
【請求項12】
遮蔽気体を該素材に導いて、素材上に溶着される該芯付き電極の該溶融した部分を少なくとも部分的に遮蔽する工程を含む請求項11の方法。
【請求項13】
該遮蔽気体がアルゴン、二酸化炭素またはこれらの混合物を含む請求項12の方法。
【請求項14】
該気体発生化合物の含量が、素材上に溶着される該芯付き電極の該溶融した部分を完全に遮蔽するのに充分な量である請求項11〜13のいずれか1項の方法。
【請求項15】
該金属鞘が、低炭素鋼金属またはステンレス鋼である請求項11〜14のいずれか1項の方法。
【請求項16】
該充填組成物が、芯付き電極の10−50重量%を構成する請求項11〜15のいずれか1項の方法。
【請求項17】
該スラグ系が、芯付き電極の3−20重量%を構成する請求項11〜16のいずれか1項の方法。
【請求項18】
該充填組成物中の該金属合金化剤対該スラグ系の重量%の比が、1.9−5.5:1である請求項11〜17のいずれか1項の方法。
【請求項19】
該バルク剤が、主として、二酸化チタンを含む請求項11〜18のいずれか1項の方法。
【請求項20】
該気体発生剤が、主として、フッ化物発生化合物を含む請求項11〜19のいずれか1項の方法。
【請求項21】
該スラグ湿潤化化合物が、主として、二酸化珪素を含む請求項11〜20のいずれか1項の方法。
【請求項22】
該スラグ系が、芯付き電極の0.1−3重量%の酸化アルミニウム、酸化ナトリウムまたはこれらの混合物、芯付き電極の0.1−3重量%の酸化アルミニウム、芯付き電極の0.1−3重量%のフッ化物発生化合物、芯付き電極の0.2−6重量%の二酸化珪素及び芯付き電極の1−8重量%の酸化チタンを含む請求項11〜21のいずれか1項の方法。
【請求項23】
該金属溶着が、4.5−7.5重量%のマンガン、7−10重量%のニッケル、17−20重量%のクロム、0.2重量%以内の炭素、0.3重量%以内の銅、0.3重量%以内のモリブデン、0.035重量%以内の燐、1.2重量%以内の珪素、そして0.025重量%以内の硫黄を含む請求項11の方法。

【公開番号】特開2006−110625(P2006−110625A)
【公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−155192(P2005−155192)
【出願日】平成17年5月27日(2005.5.27)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(399011597)リンカーン グローバル インコーポレーテッド (24)
【Fターム(参考)】