説明

自己重合ナノペプチドを用いる心筋幹・前駆細胞移植方法

【課題】十分な数の移植細胞を長期間、確実に病巣部、特に心筋梗塞部位に生着させることが可能な新規な細胞移植方法等を提供すること。
【解決手段】以下の工程を含む、心筋幹・前駆細胞移植方法:
(1)心筋幹・前駆細胞の集団を含む0.1〜0.3重量%の自己重合ナノペプチドの第一の溶液を心筋梗塞部位の周辺部に注入する工程、
(2)心筋幹・前駆細胞の集団を含む0.5〜0.7重量%の自己重合ナノペプチドの第二の溶液を心筋梗塞部位の表面に塗布する工程、及び、
(3)心筋梗塞部位の表面に塗布された該溶液をゲル化させる工程、及び、
該方法に用いる心筋幹・前駆細胞移植用キット。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自己重合ナノペプチドを用いる新規な心筋幹・前駆細胞移植方法、及び心筋幹・前駆細胞を含む自己重合ナノペプチド溶液からなる心筋幹・前駆細胞移植に用いるキット等に関する。
【背景技術】
【0002】
生活習慣の欧米化にともない、我が国では高血圧、心筋梗塞などの動脈硬化性疾患が増加し、心疾患は日本人の死亡原因の第2位を占めている。しかし、薬物治療、外科治療、循環補助装置の進歩にもかかわらず、重症心不全の生存率は3年で約30%とその予後は極めて不良であり、また、高齢化社会をむかえるにあたり、心不全患者は今後増加すると考えられる。このような社会環境において、心血管再生治療は新しい治療法として脚光を浴びている(1)。
【0003】
心血管再生に対するアプローチは、細胞移植治療、遺伝子治療、サイトカイン治療などが研究されているが、中でも、自家移植可能な骨格筋芽細胞、骨髄単核球細胞、骨髄間葉系細胞、内皮前駆細胞を用いた細胞移植治療は早くから基礎研究が行われた。しかし、近年、急性心筋梗塞患者の冠状動脈から自家骨髄単核球細胞または末梢血前駆細胞を注入した臨床試験の結果が3報報告されたが、心機能改善効果は報告間で一致を見ず、左室機能改善効果は駆出率3%前後とごく軽度であった(2)。また、左室機能低下を伴う重症虚血性心不全患者に対する自家骨格筋芽細胞移植のPhase II-III臨床試験(MAGIC trial)は、駆出率に有効性を見いだせないまま登録患者数不足のため中止となった (3)。細胞を心筋へ移植する方法は、心筋への直接注入、または冠状動脈からの経カテーテル注入が主に行われているが、これらの方法では、移植細胞が十分に遊走しない限り移植効果は限られる。また、移植された骨髄単核球細胞または末梢血前駆細胞が心筋細胞に分化するという考えは疑問視されており、一般に移植細胞の生着率は極めて低いと言われている (4)。したがって、虚血または非虚血性の重症心不全患者の心機能を長期にわたり保つためには、多数の細胞を長期間生着させる細胞移植方法が必要である。
【0004】
細胞移植床は十分な数の移植細胞を確実に病巣部に生着させるために世界中で研究されている。細胞外マトリックスが、細胞増殖、分化、細胞間や細胞と組織間の相互作用に影響を与え、重要なシグナル伝達を促進させることは多くの研究結果から証明されている(5)。さらに、従来の培養皿による2次元培養よりも、3次元環境で細胞を培養することにより、in vivoに近似した最適化した細胞外マトリックス/細胞微小環境が得られ、複雑な組織再構築を可能として移植効果が増幅されると考えられる。これまで3次元細胞培養には、コラーゲン、Matrigelのような免疫源性や感染などの問題をかかえた動物由来のマテリアル、あるいはPLA、PLGA、リン酸カルシウムのような細胞増殖性に優れない合成スキャフォールドが使用されてきた(5)。また、近年、細胞シートを作成して心臓周囲に添付する方法が開発されているが、大動物の心筋層を修復するのに必要な厚みを持った移植シートを作成することが困難である(6)。
【0005】
PuraMatrix(商標名)5nmのオリゴペプチドで形成され、3次元多孔性スキャフォールドを形成し、生分解性、非免疫源性に優れ、細胞の増殖と遊走が容易なマテリアルである。PuraMatrix(商標名)は種々の未分化細胞の培養に適していることが報告され、また、in vivoでは骨形成を促進する移植床として期待されている(7(非特許文献1), 8(非特許文献2))。
【非特許文献1】Ellis-Behnke RG, Liang YX, You SW, Tay DK, Zhang S, So KF, Schneider GE.Nano neuro knitting: peptide nanofiber scaffold for brain repair and axon regeneration with functional return of vision. Proc Natl Acad Sci U S A.;103:5054-9 2006.
【非特許文献2】Horii A, Wang X, Gelain F, Zhang S. Biological designer self-assembling Peptide nanofiber scaffolds significantly enhance osteoblast proliferation, differentiation and 3-D migration. PLoS ONE. ;2:e190 2007.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明の目的は、十分な数の移植細胞を長期間、確実に病巣部、特に心筋梗塞部位に生着させることが可能な新規な細胞移植方法等を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した目的を達成するため、本発明者らが鋭意検討した結果、自己重合ナノペプチドを用いた細胞移植方法を開発し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は以下の各態様を包含する。
【0009】
[態様1]以下の工程を含む、心筋幹・前駆細胞移植方法:
(1)心筋幹・前駆細胞の集団を含む0.1〜0.3重量%の自己重合ナノペプチドの第一の溶液を心筋梗塞部位の周辺部に注入する工程、
(2)心筋幹・前駆細胞の集団を含む0.5〜0.7重量%の自己重合ナノペプチドの第二の溶液を心筋梗塞部位の表面に塗布する工程、及び、
(3)心筋梗塞部位の表面に塗布された該溶液をゲル化させる工程。
[態様2]態様1記載の方法により心筋幹・前駆細胞を移植することによる、正常心筋、心筋梗塞境界領域、及び/又は心筋梗塞領域におけるアポトーシス細胞数を減少させる方法。
[態様3]態様1記載の方法により心筋幹・前駆細胞を移植することによる、心筋梗塞後の血管数を増加させる方法。
[態様4]自己重合ナノペプチドが、配列(アミノ酸一文字表記):NH2-RADARADARADARADA-COOHから成るオリゴペプチドである、態様1〜3のいずれか一項に記載の方法。
[態様5]第一の溶液が0.1重量%の自己重合ナノペプチドを含む、態様1〜4のいずれか一項に記載の方法。
[態様6]第一の溶液が0.5重量%の自己重合ナノペプチドを含む、態様1〜5のいずれか一項に記載の方法。
[態様7]心筋梗塞急性期に心筋幹・前駆細胞移植を行う、態様1〜6のいずれか一項に記載の方法。
[態様8]態様1記載の方法により心筋幹・前駆細胞を移植することによる、哺乳動物の心不全又は心筋梗塞の治療方法。
[態様9]態様1記載の方法により心筋幹・前駆細胞を移植することによる、哺乳動物の心血管再生治療方法。
[態様10]以下の溶液を含む、心筋幹・前駆細胞移植用キット:
(1)心筋幹・前駆細胞の集団を含む0.1〜0.3重量%の自己重合ナノペプチドの第一の溶液、及び(2)心筋幹・前駆細胞の集団を含む0.5〜0.7重量%の自己重合ナノペプチドの第二の溶液。
【発明の効果】
【0010】
本発明の細胞移植方法により、心筋梗塞後の梗塞範囲を有意に軽減でき、正常心筋、心筋梗塞境界領域、及び/又は心筋梗塞領域におけるアポトーシス細胞数を減少させ、心筋梗塞後の血管数を増加させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の最良の実施形態について詳細に説明するが、本発明は当業者に自明のその他の多くの異なる形態による実施が可能であり、以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0012】
本発明の心筋幹・前駆細胞移植方法においては、生体内環境下でゲル化せず、組織内に注入可能な程度の比較的低い濃度、即ち、0.1〜0.3重量%、好ましくは0.1重量%の自己重合ナノペプチドの第一の溶液、及び、ゲル化するような比較的高い濃度、即ち、0.5〜 0.7重量%、好ましくは0.5重量%の自己重合ナノペプチドの第二の溶液に、移植する心筋幹・前駆細胞を混合して使用することを特徴とする。これら自己重合ナノペプチド溶液に含まれる移植細胞数は、細胞の種類・調製方法等に応じて適宜調整することができ、通常、1x10〜1x10個/ml である。尚、自己重合ナノペプチドの溶液には、移植細胞の培養に使用した培地の成分、又はシュクロース等の任意の補助成分を含むことができる。
【0013】
「自己重合ナノペプチド」とは、細胞外マトリックスに近い、数ナノメートル程度の長さを有するオリゴペプチドであり、中性pH且つイオン存在下で、ペプチド間の疎水結合とイオン結合により3次元ペプチドゲルを形成し得るものを意味する。特に、生分解性、非免疫源性に優れ、細胞の増殖と遊走が容易なものが好ましい。その代表的な例として、配列(アミノ酸一文字表記):NH2-RADARADARADARADA-COOHから成るオリゴペプチドである、「PuraMatrix:商標名」(3Dマトリックス社製)を挙げることが出来る。
【0014】
ここで、「心筋幹・前駆細胞」とは、成熟した心筋細胞に分化誘導可能な多分化能性を有する当業者に公知の任意の細胞を意味し、その例として、心筋stem cell antigen-1 (Sca-1) 陽性細胞、心筋side population細胞、脂肪および骨髄由来多能性間葉系幹細胞等を挙げることができる。それらの細胞はヒト及びマウス等を含む哺乳動物に由来するものが好ましい。「心筋幹・前駆細胞」として、例えば、本明細書に実施例で使用したマウスcSca-1細胞株、骨髄間葉系細胞由来のCMG細胞株、及び、ヒト由来の骨髄間葉系細胞株(UE6E7T-1 (JCRB1131)、UBE6T-7 (JCRB1143)等の細胞株を挙げることができる。尚、これら細胞株は当業者が容易に入手することができる。この心筋幹・前駆細胞の移植は、宿主による移植免疫をできるだけ防ぐために、心筋梗塞部位を有する細胞移植対象(宿主)と同系の細胞株が好ましい。更に例えば、宿主自身の心房筋、脂肪、骨髄等から当業者に公知の任意の方法で取得・調製された細胞を用いた、自家移植として行うことが好ましい。尚、細胞移植対象の例としては、ヒト及びマウス等を含む哺乳動物を挙げることができる。
【0015】
自己重合ナノペプチドの第一の溶液は、シリンジ等の当業者に公知の任意の手段により、心筋梗塞部位の周辺部の数箇所に、適宜、注入することができる。1回の注入量及び注入量総計は心筋梗塞部位の大きさ等に応じて適宜決めることが出来る。その後、自己重合ナノペプチドの第二の溶液を心筋梗塞部位の表面に塗布するが、その塗布面積、塗布量等も心筋梗塞部位の大きさ等に応じて適宜決めることが出来る。通常、どちらの溶液も総量が数〜十数μl程度である。塗布された第二の溶液は体液と接触して、1〜3分後にゲル化する。尚、細胞の移植前の開胸及び移植後の閉胸手術は、当業者に公知の任意の方法で行うことができる。
【0016】
本発明による細胞移植は病状等に応じて、当業者が適時、実施時期を選択することが可能であるが、動物実験の結果では心筋の急性虚血時に効果があることが実証されていること、及び、ヒトでは急性心筋梗塞の急性期に、手術的に細胞を移植することは非現実的である等の理由から、特にヒトの場合は、重症虚血による心機能障害時期(心筋梗塞または梗塞後の心不全患者で、重症虚血が悪化した急性期と亜急性期)に実施することが好ましい。
【0017】
本発明は、又、本発明の心筋幹・前駆細胞移植方法に使用するキットにも係る。このようなキットには、(1)心筋幹・前駆細胞の集団を含む0.1〜0.3重量%の自己重合ナノペプチドの第一の溶液、及び(2)心筋幹・前駆細胞の集団を含む0.5〜0.7重量%の自己重合ナノペプチドの第二の溶液が含まれる。更に、該キットには、本発明の心筋幹・前駆細胞移植方法を実施する際に使用するその他の任意の試薬、器具等を適宜含むことができる。
【実施例】
【0018】
以下、実施例を挙げて本発明に更に具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。尚、「%」は「重量%」を意味する。
【0019】
[方法]
実験動物モデル:すべての動物実験方法は、千葉大学動物実験指針に準拠して行った。10-12週齢の野生型C57BL/6マウスにペントバルビタール腹腔内注射により麻酔後、気管内挿管下に正中開胸した。心膜切開後に左前下行枝を6-0ナイロン糸で結紮して心筋梗塞を作成した。
【0020】
移植細胞/PuraMatrix複合体作成と移植方法:C57BL/6マウスの心臓から単離したstem cell antigen-1陽性細胞(成熟した心筋細胞へ分化誘導可能な細胞)を10%胎仔牛血清含有Iscove's Modified Dulbecco's Medium内で限界希釈法により継代培養した細胞株(cSca-1)を用いた(10)。1%のPuraMatrix(ペプチド配列:NH2-RADARADARADARADA-COOH)溶液と1X104個の細胞/10%Sucrose浮遊液をそれぞれ1:9、1:1の割合で混合して0.1% および0.5%のcSca-1/PuraMatrix浮遊液を作成した後に、10μl の0.1%cSca-1/PuraMatrix浮遊液を心筋梗塞周辺部にハミルトンシリンジを用いて1-2カ所注入し(図1A、B(拡大図))、次に、10μl の0.5%cSca-1/PuraMatrix浮遊液を心筋梗塞部位表面に塗布した。体液と接触した0.5%cSca-1/PuraMatrix浮遊液がゲル化したことを確認して閉胸した(図1C)。比較対照として心筋梗塞マウスに細胞非含有PuraMatrixを同様に移植した群と、細胞、PuraMatrixともに移植していない心筋梗塞マウスを作製した。尚、心筋梗塞を作成した後に細胞移植をするまでの時間は約15分程度であった。
【0021】
心筋梗塞サイズ測定:梗塞後2週間目に心臓を緩衝液にて灌流後摘出して10%ホルマリン溶液で固定後にパラフィン包埋した。結紮部位から400μmごとに短軸切片を作成してMasson-Trichrome染色を行い、心筋全周長に対する梗塞痂皮組織の長さの%を梗塞範囲として定量した。定量化方法はPfeffer等の方法に準じた (9)。
【0022】
心臓超音波検査:マウス心エコーはVisualsonics 社製Vevo660により、左室収縮末期径(ESD)および左室拡張末期径(EDD)を測定し、左室短縮率(%FS)を(EDD-ESD)/EDDx100%として計算した。
【0023】
免疫組織染色およびアポトーシス細胞検出:ホルマリン固定パラフィン包埋切片または新鮮凍結切片を用いて酵素抗体法により免疫染色を行った。一次抗体は抗von Willebrand因子抗体(Dako Japan)を用いた。アポトーシス細胞はin situ Apoptosis Detection Kit(Takara Japan)を用いて検出した。アポトーシス細胞の頻度は、正常心筋、梗塞境界領域、梗塞領域のそれぞれの総細胞数に対するTunel染色陽性細胞の%により定量化した。心筋の血管数は1mm2あたりのvon Willebrand因子陽性血管数により定量化した。
【0024】
統計:数値はすべて平均±標準偏差で表記した。群間比較はχ二乗検定、または一元配置分散分析による多重比較検定を行い、P<0.05を統計学的有意とした。
【0025】
[結果]
心筋梗塞急性期にcSca-1/PuraMatrixを移植することにより、心筋梗塞範囲が縮小するか確認するために、移植後2週間目の梗塞範囲を定量化した。cSca-1/PuraMatrix移植群(cSca-1/PM)では、PuraMatrixのみを梗塞急性期に移植した群(PM)、及び、非移植心筋梗塞群(AMI)に比較して有意に梗塞範囲が小さかった(AMI 55.8±3.3% , PM 53.7±13.9%, cSca-1/PM 38.3±14.2%; P<0.05 AMI vs cSca-1/PM, PM vs cSca-1/PM 図2A)。これらの結果から、cSca-1/PuraMatrixを用いた本発明の細胞移植方法により、心筋梗塞範囲が縮小することが示された。尚、cSca-1を単独で心筋梗塞部位に移植しても梗塞縮小効果が得られなかった。
【0026】
cSca-1/PuraMatrix移植が心筋梗塞後の左室機能に及ぼす効果を検討するために、心臓超音波検査により左室拡大の指標であるEDDと左室収縮能の指標である%FSについて検討した。cSca-1/PMは、PMおよびAMIに比較してEDDは小さく、%FSは高い傾向にあった(EDD;AMI 5.94±0.54mm , PM 5.32±0.88mm, cSca-1/PM 4.98±0.71mm図3A, %FS; AMI 7.19±2.59%, PM 9.94±3.78%, cSca-1/PM 13.7±7.48% 図3B)。
【0027】
免疫染色法により梗塞24時間後の正常心筋、境界領域および梗塞領域、それぞれのTunel陽性アポトーシス細胞の頻度を、cSca-1/PMとPMについて比較した。その結果、cSca-1/PMではPMに比較して境界領域および梗塞領域において有意にアポトーシス細胞が少なかった(図4A:境界領域 cSca1/PM 2.4%, PM 11.5% P<0.05; 梗塞領域 cSca1/PM 3.9%, PM 9.2% P<0.05)。これらの結果から、cSca-1/PuraMatrixを用いた本発明の細胞移植方法により梗塞後のアポトーシス細胞が減少することが示された。
【0028】
免疫染色法により梗塞2週間後の正常心筋、境界領域および梗塞領域、それぞれのvon Willwbrand因子陽性血管数を、cSca-1/PM、PM、AMIについて比較検討した。その結果、cSca-1/PMではPM、AMIに比較して、境界領域および梗塞領域における単位心筋面積あたりの血管数が有意に高値であった(境界領域AMI 18.8±2.9/mm2, PM 19.1±6.1/mm2, cSca-1/PM 32.0±13.9/mm2; P<0.05 AMI vs cSca-1/PM, PM vs cSca-1/PM; 梗塞領域 AMI 9.4±3.1/mm2, PM 11.6±2.8/mm2, cSca-1/PM 28.2±8.6/mm2;P<0.05 AMI vs cSca-1/PM, PM vs cSca-1/PM 図5)。これらの結果から、cSca-1/PuraMatrixを用いた本発明の細胞移植方法により梗塞後の血管数が増加することが示された。
【0029】
近年、移植細胞の効果としてパラクライン機構による放出因子が重要であると報告されている(11)。本発明方法によりcSca-1とPuraMatrixの混合物を移植した群では心筋梗塞後のアポトーシス細胞数の減少、血管数の増加が対照群に比べて認められたことは、細胞/移植床複合体から抗アポトーシス作用や血管新生作用を有する因子が放出されたと考えられる。これまでに、骨髄、脂肪、骨格筋などの間葉系細胞はVEGF、HGF、IGF-1などの血管新生因子や抗アポトーシス因子を分泌することが知られている(4)。また、近年、Thymosin b4やSecreted frizzled related protein 2 などの新しい因子が心筋保護作用のある間葉系細胞由来分泌因子として報告されている(11, 12)。
【0030】
参考文献
1. Dimmeler S, Zeiher AM, Schneider MD.Unchain my heart: the scientific foundations of cardiac repair. J. Clin. Invest. 115:572-583 2005.
2. Cardiac cell therapy--mixed results from mixed cells. Rosenzweig A. N Engl J Med.;355:1274-7 2006.
3. Cleland JG, Coletta AP, Abdellah AT, Nasir M, Hobson N, Freemantle N, Clark AL.Clinical trials update from the American Heart Association 2006: OAT, SALT 1 and 2, MAGIC, ABCD, PABA-CHF, IMPROVE-CHF, and percutaneous mitral annuloplasty. Eur J Heart Fail.;9:92-7 2007.
4. Christoforou N, Gearhart JD. Stem cells and their potential in cell-based cardiac therapies. Prog Cardiovasc Dis.;49:396-41 2007.
5. Eschenhagen T, Zimmermann WH. Engineering myocardial tissue. Circ Res.;97:1220-31 2005.
6. Memon IA, Sawa Y, Fukushima N, Matsumiya G, Miyagawa S, Taketani S, Sakakida SK, Kondoh H, Aleshin AN, Shimizu T, Okano T, Matsuda H.Repair of impaired myocardium by means of implantation of engineered autologous myoblast sheets. J Thorac Cardiovasc Surg. 2005 ;130:1333-41 2005.
7. Ellis-Behnke RG, Liang YX, You SW, Tay DK, Zhang S, So KF, Schneider GE.Nano neuro knitting: peptide nanofiber scaffold for brain repair and axon regeneration with functional return of vision. Proc Natl Acad Sci U S A.;103:5054-9 2006.
8. Horii A, Wang X, Gelain F, Zhang S. Biological designer self-assembling Peptide nanofiber scaffolds significantly enhance osteoblast proliferation, differentiation and 3-D migration. PLoS ONE. ;2:e190 2007.
9. Pfeffer JM, Pfeffer MA, Fletcher PJ, Braunwald E. Progressive ventricular remodeling in rat with myocardial infarction. Am J Physiol 1991;260:H1406-H1414.
10. Matsuura K, Nagai T, Nishigaki N, Oyama T, Nishi J, Wada H, Sano M, Toko H, Akazawa H, Sato T, Nakaya H, Kasanuki H, Komuro I. Adult cardiac Sca-1-positive cells differentiate into beating cardiomyocytes. J Biol Chem. ;279:11384-91 2004.
11. Gnecchi M, He H, Noiseux N, Liang OD, Zhang L, Morello F, Mu H, Melo LG, Pratt RE, Ingwall JS, Dzau VJ. Evidence supporting paracrine hypothesis for Akt-modified mesenchymal stem cell-mediated cardiac protection and functional improvement. FASEB J. 20:661-9 2006.
12. Bock-Marquette I, Saxena A, White MD, Dimaio JM, Srivastava D. Thymosin beta4 activates integrin-linked kinase and promotes cardiac cell migration, survival and cardiac repair. Nature. 432:466-72 2004.
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明の細胞移植方法で心筋幹・前駆細胞を移植することによる、哺乳動物の心不全又は心筋梗塞の治療又は心血管再生治療が可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】移植手順を示す写真である。
【図2】(A)心筋梗塞2週間後の梗塞範囲の比較を示す。(B)〜(D)は、夫々、AMI、PM、及び、cSca-1/PMのMasson-Trichrome染色像を示す写真である。
【図3】心筋梗塞2週間後の左室拡張末期径(EDD)および左室短縮率(%FS)の比較を示す。
【図4】(A)心筋梗塞24時間後の正常心筋、境界領域および梗塞領域のTunel陽性アポトーシス細胞の頻度を示す。(B)及び(C)は、夫々、PM及びcSca-1/PMの梗塞境界領域のTunel陽性細胞(黒色矢頭)を示す写真である(Scale Bar:10μm)。
【図5】(A)〜(C)心筋梗塞2週間後の正常心筋、境界領域および梗塞領域の血管数の比較を示す。(D)〜(F)は、夫々、AMI、PM、及び、cSca-1/PMのvon Willwbrand因子陽性細胞(黒色矢頭)を示す写真である(Scale Bar:100μm)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程を含む、心筋幹・前駆細胞移植方法:
(1)心筋幹・前駆細胞の集団を含む0.1〜0.3重量%の自己重合ナノペプチドの第一の溶液を心筋梗塞部位の周辺部に注入する工程、
(2)心筋幹・前駆細胞の集団を含む0.5〜0.7重量%の自己重合ナノペプチドの第二の溶液を心筋梗塞部位の表面に塗布する工程、及び、
(3)心筋梗塞部位の表面に塗布された該溶液をゲル化させる工程。
【請求項2】
請求項1記載の方法により心筋幹・前駆細胞を移植することによる、正常心筋、心筋梗塞境界領域、及び/又は心筋梗塞領域におけるアポトーシス細胞数を減少させる方法。
【請求項3】
請求項1記載の方法により心筋幹・前駆細胞を移植することによる、心筋梗塞後の血管数を増加させる方法。
【請求項4】
自己重合ナノペプチドが、配列(アミノ酸一文字表記):NH2-RADARADARADARADA-COOHから成るオリゴペプチドである、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
第一の溶液が0.1重量%の自己重合ナノペプチドを含む、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
第一の溶液が0.5重量%の自己重合ナノペプチドを含む、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
心筋梗塞急性期に心筋幹・前駆細胞移植を行う、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
請求項1記載の方法により心筋幹・前駆細胞を移植することによる、哺乳動物の心不全又は心筋梗塞の治療方法。
【請求項9】
請求項1記載の方法により心筋幹・前駆細胞を移植することによる、哺乳動物の心血管再生治療方法。
【請求項10】
以下の溶液を含む、心筋幹・前駆細胞移植用キット:
(1)心筋幹・前駆細胞の集団を含む0.1〜0.3重量%の自己重合ナノペプチドの第一の溶液、及び(2)心筋幹・前駆細胞の集団を含む0.5〜0.7重量%の自己重合ナノペプチドの第二の溶液。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図1】
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【公開番号】特開2009−90031(P2009−90031A)
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−265848(P2007−265848)
【出願日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【出願人】(304021831)国立大学法人 千葉大学 (601)
【Fターム(参考)】