説明

自律型掘削装置

【課題】従来の掘削装置の問題点を解決した新たな自律型掘削装置を提供する。
【解決手段】自律型掘削装置の本体下部101は、円柱と下端部の円錐とを組み合わせた形状であり、その外周には螺旋状のブレード102が右ねじ形状に設けられている。本体下部101の内部にはホイール103が設けられており、その軸104はベアリング105、106によって回転自在に支持されている。ホイール103の上部には、モータ108が本体下部101に固定して設けられ、その出力軸は軸104と同軸に接続されている。したがって、モータ108は、ホイール103を本体下部101に対して回転させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地面や他の天体の表面を自律的に掘削する自律型掘削装置に関する。
【背景技術】
【0002】
将来の無人月面探査ミッションにおいて、月面に月震計(月における地震計)などの測定装置を設置することが必要となるが、月には大気がなく寒暖の差が激しいため、測定装置にとっては厳しい環境である。一方、月の砂(「レゴリス」と呼ばれる)には断熱作用があり、1mほど掘削した位置に測定装置を埋設すれば温度変化が少なくなるため、環境の厳しさが緩和される。そこで、測定装置等を人間の手を介さずに自律的にレゴリスの中に埋設する技術が望まれている。
【0003】
東北大学の水野らは、モータで本体に設けられたブレードを回転させて本体下方のレゴリスをかき出し、本体内にレゴリスを取り込んで、バケットエレベータでブレードを回転させながら本体の外にレゴリスを排出する掘削装置を提案している(非特許文献1)。それによると、試作された装置によって、120分で126mm沈降したとの報告がなされている。
【0004】
図12は、この水野らの掘削装置を示しており、上が横から見た状態、下が上から見た状態を示している。横断面が長円形の本体1001の下方の両側にブレード1002a、1002bが設けられており、これらはモータ1003a、1003bによりそれぞれ駆動される。モータ1003a、1003bの回転は、ブレード1002a、1002bがぶつかり合わないように同期されている。この二つのモータのトルクが相殺し合うため、本体は回転しない。ブレード1002a、1002bが回転すると、レゴリスはレゴリス取り込み穴1005から本体内に取り込まれる。そしてバケットエレベータ1004により、上方に運ばれて、本体の外に排出される。
【0005】
【非特許文献1】「月・惑星掘削探査ロボットのプロトタイプ開発」計測自動計測学会東北支部第199回研究集会(2001年12月15日)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前述の掘削装置には、以下のような課題が考えられる。
(1)レゴリスをバケットエレベータで本体外部に排出する構造のため、本体の高さよりも深くまで掘削することができない。
(2)本体に対してブレードが相対運動するため、本体とブレードとの間のクリアランスにレゴリスが挟まって動作しなくなるおそれがある。
(3)本体内部を貫通するレゴリス排出用の空間を設ける必要があり、ペイロード用のスペースが狭くなる。
(4)ブレードの回転とレゴリスの排出という二つの機構が必要となる。
(5)回転トルクを相殺するために二つのブレードを逆回転させる必要があるため、機構が複雑になりコストと重量が増加する。
(6)レゴリス中で後退することができないため、一度掘削を開始すると、掘削のやり直しができない。
(7)穴が屈曲していれば太陽光が差し込むのを防いで温度環境をよりよくすることができるが、前述の掘削装置では、垂直方向での掘削しかできない。
【0007】
そこで、本発明は、上で述べたような課題を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するため、本発明に係る自律型掘削装置は、全体として軸対称形状とされ、進行方向先端部が先細形状とされた本体と、前記本体の外側に螺旋状に設けられたブレードと、前記本体内部に設けられ、回転自在に支持されたホイールと、前記本体内部に固定して設けられ、前記ホイールを回転駆動するモータと、前記モータを駆動して前記ホイールを回転させるときの回転速度を変化させ、このとき本体に働くトルクに基づいて前記本体を回転させることで前記ブレードが地面を掘削して本体が地中に進行するようにしたことを特徴とする。
【0009】
前記自律型掘削装置において、さらに、前記ホイールの回転軸を揺動する揺動手段を少なくとも一つ備え、前記揺動手段により前記ホイールの回転軸を本体の中心軸に対して傾けることにより、進行方向を可変とすることができる。
【0010】
本発明に係る自律型掘削装置の制御方法は、前記モータが一方向に回転するときは、本体が回転を開始する所定の閾値よりも大きなトルクで前記ホイールの駆動を行い、前記一方向とは逆の方向に回転するときは、前記閾値よりも小さいトルクで前記ホイールの駆動を行って、間欠的に掘削動作を行うようにすることを特徴とする。
【0011】
本発明に係る別の自律型掘削装置の制御方法は、前記揺動手段によって、方向転換の軸および本体の軸に垂直な軸の回りに前記モータの回転軸を傾ける第1工程と、前記モータが一方向に回転するときは、本体が回転を開始する所定の閾値よりも大きなトルクで前記ホイールの駆動を行い、前記一方向とは逆の方向に回転するときは、前記閾値よりも小さいトルクで前記ホイールの駆動を行うよう制御する第2工程と、本体の方向転換が済むまで前記第1工程及び第2工程を繰り返す第3工程とを含むことを特徴とする。
【0012】
本発明に係る更に別の自律型掘削装置の制御方法は、前記モータを停止させる第1工程と、前記揺動手段により、方向転換の軸および本体の軸に垂直な軸の回りに前記モータの回転軸を傾ける第2工程と、前記モータの回転速度を十分にゆっくり上昇させる第3工程と、前記揺動手段により、方向転換の軸および本体の軸に垂直な軸の回りに逆向きに前記モータの回転軸を傾ける第4工程と、前記回転軸がいっぱいまで傾いたら、前記モータの回転方向をゆっくりと逆向きにする第5工程と、本体の方向転換が済むまで前記第4及び第5工程を繰り返す第6工程とを含むことを特徴とする。
【0013】
本発明に係る更に別の自律型掘削装置の制御方法は、前記揺動手段によって、前記モータの回転軸を本体の軸と略一致させる第1の工程と、前記モータが一方向に回転するときは、本体が回転を開始する所定の閾値よりも大きなトルクで前記ホイールの駆動を行い、前記一方向とは逆の方向に回転するときは、前記閾値よりも小さいトルクで前記ホイールの駆動を行うことを繰り返すことで、前記揺動手段の揺動の軸が方向転換の軸と略垂直になるように制御する第2工程と、前記揺動手段によって、揺動の軸回りに前記モータの回転軸を傾ける第3工程と、前記モータが一方向に回転するときは、本体が回転を開始する所定の閾値よりも大きなトルクで前記ホイールの駆動を行い、前記一方向とは逆の方向に回転するときは、前記閾値よりも小さいトルクで前記ホイールの駆動を行うよう制御する第4工程と、本体の方向転換が済むまで前記第1工程から第4工程を繰り返す第5工程と、を含むことを特徴とする。
【0014】
本発明に係る更に別の自律型掘削装置の制御方法は、前記揺動手段によって、前記モータの回転軸を本体の軸と略一致させる第1工程と、前記モータが一方向に回転するときは、本体が回転を開始する所定の閾値よりも大きなトルクで前記ホイールの駆動を行い、前記一方向とは逆の方向に回転するときは、前記閾値よりも小さいトルクで前記ホイールの駆動を行うことを繰り返すことで、前記揺動手段の揺動の軸が方向転換の軸と略垂直になるように制御する第2工程と、前記モータを停止させる第3工程と、前記揺動手段により、揺動の軸の回りに前記モータの回転軸を傾ける第4工程と、前記モータの回転速度を十分にゆっくり上昇させる第5工程と、前記揺動手段により、方向転換の軸および本体の軸に垂直な軸の回りに逆向きに前記モータの回転軸を傾ける第6工程と、前記回転軸がいっぱいまで傾いたら、前記モータの回転方向をゆっくりと逆向きにする第7工程と、本体の方向転換が済むまで前記第6及び第7工程を繰り返す第8工程とを含むことを特徴とする。
【0015】
本発明に係る自律型探査システムは、前記請求項1又は2に記載の自律型掘削装置と、該自律型掘削装置を搬送するローバーとを含み、遠隔地からの制御に基づいて地表面を移動して掘削位置を見出し、掘削を開始することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明の自律型掘削装置は、上記のように構成したことにより、前述の「発明が解決しようとする課題」の項において述べた課題を解決することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に図面を参照しながら、本発明のいくつかの実施形態について説明する。
[実施形態1]
まず、図1は、本発明の実施形態1に係る自律型掘削装置の斜視図であり、図2は、その内部の構造が分かるように示した断面図である。
【0018】
本実施形態の自律型掘削装置の本体下部101は、円柱と下端部の円錐とを組み合わせた形状であり、その外周には螺旋状のブレード102が右ねじ形状に設けられている。本体上部122は、本体下部101よりも直径の小さい円柱からなり、本体下部101と完全に結合している。本体上部122の後部には、外部から装置本体につながる電源通信ケーブル111がねじれるのを防止するためのスリップリング110が取り付けられている。
【0019】
図2に示すように、本体下部101の内部にはホイール103が設けられており、その軸104はベアリング105、106によって回転自在に支持されている。ホイール103の上部には、モータ108が本体下部101に固定して設けられ、その出力軸は軸104と同軸に接続されている。したがって、モータ108は、ホイール103を本体下部101に対して回転させることができる。
【0020】
モータ108は、制御装置109から供給される信号によって駆動されて、両方向に回転(正転及び反転)することができる。モータ108としては、DCモータ等が使用可能であり、ギヤやハーモニックドライブ等によって減速させる構成としてもよい。前述のように、ブレード102は右ねじ状になっているので、本体が上から見て右方向に回転するときに、図中下方向に向かって掘削を行う。
【0021】
本体上部122に設けられた観測センサ120は、レゴリス中で観測を行うための観測センサであり、たとえば振動センサや、温度センサ等を含めることができる。モータ108及び観測センサ120のための電力は、外部から電源通信ケーブル111を通して供給する。また、電源通信ケーブル111を通して制御信号の授受や情報の取得も行うことができる。
【0022】
続いて、図3のモデル図を参照しながら、本実施形態の掘削の原理を説明する。図3は、本体下部を横に切った断面をモデル化したものである。図3に示すように、ホイール103及びこれと共に回転する部分の軸の回り慣性モーメントをI1、本体下部101及びこれと共に回転する部分の軸の回りの慣性モーメントをI2とする。そして、I1、I2の角速度をそれぞれω1、ω2とする。さらに、モータ108のトルクをTm、本体に作用する掘削トルクをTdとする。このとき、Tmは、I1、I2に互いに逆向きに作用することから、運動方程式は以下のようになる。
【数1】

【0023】
掘削に必要な最小のトルクをTdminとすると、Td≦Tdminのときには、
【数2】

となり、Td>Tdminのときには、
【数3】

となる。つまり、Td≦Tdminのときには本体は回転せず、Td>Tdminのときには本体の角速度に変化が生じる。一般に、モータの回転数には上限が存在するので、これをωmaxとすると、以下の式で表される。
【数4】

【0024】
続いて、本実施形態の自律型掘削装置に掘削動作を行わせる方法の一例を、図4のタイミングチャートを参照しながら説明する。図4中、(a)は、モータ108に供給する制御信号を、(b)はω1を、(c)はω2をそれぞれ示している。
【0025】
t=t0では、ω1、ω2は共にゼロ、すなわちモータも本体も共に停止した状態である。t=t0になった時点において、電流制御信号i1が入力されたとする。このときのモータのトルクは、|Tm|<|Tdmin|となるように設定してある。それゆえ、この間、ω2はゼロのままで、ω1のみが変化する。
【0026】
t=t1において、モータの回転数が下限−ωmax(反転方向の最大回転数)になると、ω1=−ωmaxで一定となる。その後、t=t2において、電流制御信号をi1からi2に変化させる。これにより、モータは急速に減速を開始し、回転が一時的にゼロになったあと正転を開始してωmaxまで加速する。このときのモータのトルクは、|Tm|>|Tmin|となるように設定してある。それゆえ、ω1とω2は、逆向きに変化する。このとき本体は、図4(c)に示すようにモータとは逆向きに回転する。
【0027】
t=t3において、ω1−ω2=ωmaxとなると、それ以降、モータのトルクは発生しない。ω2は掘削トルクで減速され、ω1はω2が減速した分、増速する。t=t4において、ω1=ωmax、ω2=0となり、一定となる。
【0028】
t=t5において、電流制御信号を再びi1にする。このときのモータのトルクは、|Tm|<|Tdmin|となるように設定してある。それゆえ、モータは正転回転は徐々に減速し、一時的にゼロになったあとで逆転に移行し、ω1=−ωmaxとなるt6まで逆方向に加速する。この間、ω2は0のまま、ω1のみが変化する。t=t6において、モータの回転数が下限−ωmaxになると、ω1=−ωmaxで一定となる。
【0029】
これ以降、同様のシーケンスを繰り返すことで、本体は間欠的に一方向に回転を続ける。本体が右回転すれば、ブレード102の作用で、本体は下向きに掘削を行い、本体が左回転すれば、本体は逆向きに、すなわち上方に進もうとする。
【0030】
以上説明したように、本実施形態においては、本体内部のホイールを手順に従って駆動することによって掘削を行うことができる。以上の説明から理解されるように、本実施形態によれば、
(1)掘削したレゴリスをコンベアで排出する必要がないため、体より深い位置まで掘削して潜ることが可能である
(2)本体外部で相対運動する部位が一切存在しないため、クリアランスにレゴリスが挟まって動かなくなるおそれがない
(3)掘削したレゴリスが、本体外側を通って後部側に排出されるため、本体内部を貫通するレゴリス排出用の空間を必要としない
(4)必要とするモータが一つだけであり、構造がシンプルである
(5)二つの回転機構で回転トルクを相殺する必要がない
(6)逆方向に駆動することで、掘削方向に進行するだけでなく、後退することも可能である
といった特徴がある。
【0031】
[実施形態2]
図5は、本発明の実施形態2に係る自律型掘削装置の断面図である。本実施形態に係る自律型掘削装置は、レゴリス中で進行方向を変えることができるようにしたものである。
【0032】
図5に示すように、本体下部201は、円柱の下端部に円錐を組み合わせた形状とされており、本体下部201の外周には螺旋状のブレード202が右ねじ形状に設けられている。本体下部201の図中上方には、制御装置209が設置されている。電源通信ケーブル211を通して、外部から電力を供給し、また制御や情報の取得を行う。本体上部222の上端にはスリップリング210が取り付けられており、電源通信ケーブル211がねじれるのを防止している。
【0033】
本体下部201の上には、円筒形状の本体上部222が蛇腹機構221を介して弾性的に連結されている。蛇腹機構221によって、本体上部222は本体下部201に対して屈曲することができるようになっている。
【0034】
本体下部201の内部には、モータ208が2軸ジンバル機構(揺動手段)230によって支持されている。モータ208は、図中上下両方に軸が出ており、それぞれにホイール203a、203bが取り付けられている。すなわち、ホイール203a、203bは、同一の軸に取り付けられている。2軸ジンバル機構230は、二つのアクチュエータ231及び232によって、図中のx軸回り、y軸回りに駆動される。
【0035】
図6は、前述の2軸ジンバル機構230の構造及び動作を分かり易く示した斜視図である。同図に示すように、モータ208の周囲には、リング240が設けられ、これはy軸と平行な軸241a、241bの周囲に回転自在に取り付けられている(241b側の軸受は図示を省略している)。この回転は、ロッド242を介してアクチュエータ231によって駆動される。モータ208はまた、x軸と平行な軸243a、243bの周囲に回転自在に取り付けられている(243bは図では見えない)。この回転は、ロッド244を介してアクチュエータ232によって駆動される。したがって、アクチュエータ231、232を所定量だけ回転駆動することによって、本体下部201の中心軸に対するモータ208の傾きを、連続的に変えることができる。
【0036】
本実施形態の自律型掘削機構においては、2軸ジンバル機構230を傾けない状態で使用すると、実施形態1と同様に図中下方向への掘削及び上方向への後退の各動作を行うことができる。
【0037】
次に、本実施形態において、レゴリス中で方向転換を行う方法について説明する。本実施形態では、以下に示す2種類の方法で方向転換を行うことができる。図7は、このうちの第1の方法を説明するための図である。
【0038】
図7では、簡単のために本体下部201とホイール203a、203bのみを示している。ここでは、z軸を本体の軸、x軸を方向転換の軸とする。2軸ジンバル機構230によって、ホイール203a、203bは、本体の中心軸に対してy軸(方向転換の軸および本体の軸に垂直な軸)回りに傾いている。この状態で、モータ208がトルクTを発生すると、ホイール203a、203bは、加速もしくは減速を行う。このとき、本体下部201には2軸ジンバル機構230を通してトルクTと大きさが等しく向きが逆の反力トルクT’が作用する。反力トルクT’は、z軸回りトルクTz’とx軸回りトルクTx’に分解することができる。つまり、本体下部201の内部でホイール203a、293bを、中心軸に対して傾けた状態で加速することによって、本体下部201には、中心軸回りに回転するトルクTz’と、傾けようとするトルクTx’が作用することになる。
【0039】
この第1の方法を用いて方向転換を行う際には、本体下部201に作用するトルクTx’が傾けたい方向となるように2軸ジンバル機構230を傾けて、モータ208を駆動すればよい。この方法で方向転換を行う際には、本体下部201が中心軸回りに大きく回転してしまうと、方向転換トルクの方向も向きが大きく変わってしまうため、1サイクルあたりの中心軸回りの回転は、数度〜10度程度に抑えるのが望ましい。また、本実施形態においては、本体下部201後方に本体上部222が弾性的に連結されているので、本体下部201がスムーズに向きを変えることができる。
【0040】
次に、図8を参照して、第2の方法について説明する。図8では、簡単のために、本体下部201とホイール203a、203bのみを示している。ここでも、z軸を本体の軸、x軸を方向転換の軸とする。ホイール203a、203bは、角速度ω1で回転しており、I1・ω1の角運動量を有している。この状態で、2軸ジンバル機構230を角速度Ωでy軸の回りに傾けると、本体下部201にはジャイロモーメントTG(=I1・ω1・Ω)がx軸回りに作用する(図7(a)参照)。このジャイロモーメントTGを利用して方向転換することができる。
【0041】
2軸ジンバル機構230を一方向に傾けると、いずれ傾きは最大になる(図7(b)参照)。次に、反力で本体が動かないように、ホイール203a、203bをゆっくりと逆向きに回転させる(図7(c)参照)。その後にジンバルを角速度Ωで逆向きに傾ける(図7(d)参照)。すると、ホイール203a、203bが逆回転しているのでジャイロモーメントTGは、前回と同じ向きに動く。それゆえ、同じ方向に方向転換することができる。この手順を繰り返すことによって、同じ向きのトルクを間欠的に与えることができる。
【0042】
以上説明したように、本実施形態においては、実施形態1で説明したのと同様の効果の他に、地中での方向転換を行うことができるという効果を奏することができる。なお、本実施形態の自律型掘削装置において、不測の事態によってアクチュエータ231又は232のいずれかが動作不能になった場合においても、後述の実施形態3と同様のシーケンスで方向転換を行うことが可能である。
【0043】
[実施形態3]
図9は、実施形態3に係る自律型掘削装置の斜視図、図10は、同縦断面図である。本体301は、円柱に尖端円錐が組み合わされた形状をしている。本体301の外周には、4枚の螺旋状のブレード302が右ねじ形状に設けられている。本体301の上端には、スリップリング310が取り付けられており、電源通信ケーブル311がねじれるのを防止している。
【0044】
図10に示すように、本体301の内部には、モータ308が、アクチュエータ311と軸受332によって支持されている(揺動手段)。モータ308の出力軸にはホイール303が取り付けられている。モータ308は、アクチュエータ331によって、図中のx軸回りに揺動される。本体301の図中上方には、制御装置309及び観測センサ320(振動センサ、温度センサ等が含まれる)が設置されている。制御装置309には、モータ駆動用のアンプ及び姿勢検知用の加速度センサ、角速度検出用のジャイロが組み込まれている。電力は、電源通信ケーブル311を通して外部から供給され、またこの電源通信ケーブル311を通して制御や情報の取得も行われる。
【0045】
本実施形態の自律型掘削装置が実施形態2のそれと異なる点は、アクチュエータ331が一つだけ設けられている点と、ホイールの向きを1軸でのみ変えられるようにした点である。また、本体の径と高さがほぼ同程度であるため、実施形態1や実施形態2の装置に比べて転倒しにくいという利点がある。
【0046】
前述の実施形態2では、方向転換トルクを発生させる際に、第1の方法、第2の方法とともに、発生させたい方向転換トルクと直交する軸回りに2軸ジンバル機構を傾けることを説明した。これに対し、本実施形態では、揺動手段の自由度が少ないため任意の方向に傾けることができない。そこで、まず、本体を実施形態1と同様の方法で、モータ308を傾けるための軸が方向転換トルクと直交する向きになるまで回転させる。この際の回転方向は、掘削が進む方向でもよいし、逆方向でもよい。いずれの向きであっても、制御装置309に組み込まれたジャイロ等の角度検出センサで本体の回転角を検出し、回転角と直交したあとには、実施形態2と同様に、方向転換を行うことができる。
【0047】
本実施形態の自律型掘削装置は、実施形態2のそれと比較して、制御シーケンスは複雑になるものの、機械的な構成をシンプルにできるという利点がある。
【0048】
[実施形態4]
図11は、上記各実施形態に係る自律型掘削装置を含んだ自律型探査システムを、実施形態4として示した図である。本実施形態に係る自律型掘削装置401(実施形態1乃至2の自律型掘削装置とすることができる)は、例えば月面410の中に掘削して潜っている。自律型ローバー403は、車輪404によって月面上を移動できるようになっている。ケーブル繰り出し機構406は、電力通信ケーブル408が適当な長さとなるよう維持している。また、太陽電池パネル407によって必要な電力を生成するとともに、アンテナ405によって外部との通信を行う。
【0049】
本実施形態によれば、自律型ローバー403によってシステム全体を掘削に適した場所まで移動させ、そこで自律型掘削装置401をレゴリス中に沈降させることができるので、自律型掘削装置401に搭載された各種センサ類を容易に最適な場所で地中に埋設することが可能となる。
【0050】
なお、上記各実施形態では、装置本体の形状が円柱と円錐とを組み合わせた形状のものとして説明したが、これ以外にも例えば、全体が円錐形状のも、あるいはいわゆるビアダル形状のものなども、全体として軸対称形状で進行方向先端部が先細状であれば、本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明の自律型掘削装置及び自律型掘削システムは、月面等の地球外天体の探査や各種測定機器の設置のための手段として好適に利用することができる。また、地球上においても、特に砂漠や海底などのように人間が作業することが困難な環境において、必要な物資を地中や海底の内部に搬送・設置する場合に好適に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の実施形態1に係る自律型掘削装置の斜視図である。
【図2】本発明の実施形態1に係る自律型掘削装置の内部の構造が分かるように示した断面図である。
【図3】本発明の掘削の原理を説明するためのモデル図である。
【図4】本発明の自律型掘削を行わせる方法の一例を示したタイミングチャートである。
【図5】本発明の実施形態2に係る自律型掘削装置の断面図である。
【図6】本発明の実施形態2に係る2軸ジンバル機構の構造及び動作を分かり易く示した斜視図である。
【図7】本発明の実施形態2に関連して、レゴリス中で方向転換を行う方法について説明するための図である。
【図8】本発明の実施形態2に関連して、レゴリス中で方向転換を行う方法について説明するための図である。
【図9】本発明の実施形態3に係る自律型掘削装置の斜視図である。
【図10】本発明の実施形態3に係る自律型掘削装置の縦断面図である。
【図11】本発明の実施形態4に係る自律型探査システムを示した図である。
【図12】従来の掘削装置を示した図である。
【符号の説明】
【0053】
101、201、301 本体下部
122、222 本体上部
102、202、302 ブレード
103、203a、203b、303 ホイール
108、208、308 モータ
109、209、309 制御装置
110、210、310 スリップリング
111、211、311 電源通信ケーブル
230 2軸ジンバル機構
231、232 アクチュエータ
401 自律型掘削装置
403 自律型ローバー
406 ケーブル繰り出し機構
407 太陽電池パネル
408 電力通信ケーブル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
全体として軸対称形状で、進行方向先端部が先細状になっている本体と、
前記本体の外側に螺旋状に設けられたブレードと、
前記本体内部に設けられ、回転自在に支持されたホイールと、
前記本体内部に固定して設けられ、前記ホイールを回転駆動するモータと、
前記モータを駆動して前記ホイールを回転させるときの回転速度を変化させ、このとき本体に働くトルクに基づいて前記本体を回転させることで前記ブレードが地面を掘削して本体が地中に進行するようにしたことを特徴とする自律型掘削装置。
【請求項2】
さらに前記ホイールの回転軸を揺動する揺動手段を少なくとも一つ備え、前記揺動手段により前記ホイールの回転軸を本体の中心軸に対して傾けることにより、進行方向を可変としたことを特徴とする請求項1に記載の自律型掘削装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の自律型掘削装置の掘削動作を制御する自律型掘削装置の制御方法であって、
前記モータが一方向に回転するときは、本体が回転を開始する所定の閾値よりも大きなトルクで前記ホイールの駆動を行い、前記一方向とは逆の方向に回転するときは、前記閾値よりも小さいトルクで前記ホイールの駆動を行って、間欠的に掘削動作を行うように制御することを特徴とする自律型掘削装置の制御方法。
【請求項4】
請求項2に記載の自律型掘削装置の掘削動作を制御する自律型掘削装置の制御方法であって、
前記揺動手段によって、方向転換の軸および本体の軸に垂直な軸の回りに前記モータの回転軸を傾ける第1工程と、
前記モータが一方向に回転するときは、本体が回転を開始する所定の閾値よりも大きなトルクで前記ホイールの駆動を行い、前記一方向とは逆の方向に回転するときは、前記閾値よりも小さいトルクで前記ホイールの駆動を行うよう制御する第2工程と、
本体の方向転換が済むまで前記第1工程及び第2工程を繰り返す第3工程と、
を含むことを特徴とする自律型掘削装置の制御方法。
【請求項5】
請求項2に記載の自律型掘削装置の掘削動作を制御する自律型掘削装置の制御方法であって、
前記モータを停止させる第1工程と、
前記揺動手段により、方向転換の軸および本体の軸に垂直な軸の回りに前記モータの回転軸を傾ける第2工程と、
前記モータの回転速度を十分にゆっくり上昇させる第3工程と、
前記揺動手段により、方向転換の軸および本体の軸に垂直な軸の回りに逆向きに前記モータの回転軸を傾ける第4工程と、
前記回転軸がいっぱいまで傾いたら、前記モータの回転方向をゆっくりと逆向きにする第5工程と、
本体の方向転換が済むまで前記第4及び第5工程を繰り返す第6工程と、
を含むことを特徴とする自律型掘削装置の制御方法。
【請求項6】
請求項2に記載の自律型掘削装置の掘削動作を制御する自律型掘削装置の制御方法であって、
前記揺動手段によって、前記モータの回転軸を本体の軸と略一致させる第1工程と、
前記モータが一方向に回転するときは、本体が回転を開始する所定の閾値よりも大きなトルクで前記ホイールの駆動を行い、前記一方向とは逆の方向に回転するときは、前記閾値よりも小さいトルクで前記ホイールの駆動を行うことを繰り返すことで、前記揺動手段の揺動の軸が方向転換の軸と略垂直になるように制御する第2工程と、
前記揺動手段によって、揺動の軸回りに前記モータの回転軸を傾ける第3工程と、
前記モータが一方向に回転するときは、本体が回転を開始する所定の閾値よりも大きなトルクで前記ホイールの駆動を行い、前記一方向とは逆の方向に回転するときは、前記閾値よりも小さいトルクで前記ホイールの駆動を行うよう制御する第4工程と、
本体の方向転換が済むまで前記第1工程乃至第4工程を繰り返す第5工程と、
を含むことを特徴とする自律型掘削装置の制御方法。
【請求項7】
請求項2に記載の自律型掘削装置の掘削動作を制御する自律型掘削装置の制御方法であって、
前記揺動手段によって、前記モータの回転軸を本体の軸と略一致させる第1工程と、
前記モータが一方向に回転するときは、本体が回転を開始する所定の閾値よりも大きなトルクで前記ホイールの駆動を行い、前記一方向とは逆の方向に回転するときは、前記閾値よりも小さいトルクで前記ホイールの駆動を行うことを繰り返すことで、前記揺動手段の揺動の軸が方向転換の軸と略垂直になるように制御する第2工程と、
前記モータを停止させる第3工程と、
前記揺動手段により、揺動の軸の回りに前記モータの回転軸を傾ける第4工程と、
前記モータの回転速度を十分にゆっくり上昇させる第5工程と、
前記揺動手段により、方向転換の軸および本体の軸に垂直な軸の回りに逆向きに前記モータの回転軸を傾ける第6工程と、
前記回転軸がいっぱいまで傾いたら、前記モータの回転方向をゆっくりと逆向きにする第7工程と、
本体の方向転換が済むまで前記第6及び第7工程を繰り返す第8工程と、
を含むことを特徴とする自律型掘削装置の制御方法。
【請求項8】
前記請求項1又は2に記載の自律型掘削装置と、該自律型掘削装置を搬送するローバーとを含み、遠隔地からの制御に基づいて地表面を移動して掘削位置を見出し、掘削を開始することを特徴とする自律型探査システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2009−179988(P2009−179988A)
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−19060(P2008−19060)
【出願日】平成20年1月30日(2008.1.30)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.ハーモニックドライブ
【出願人】(503361400)独立行政法人 宇宙航空研究開発機構 (453)
【Fターム(参考)】