自然発火性の簡易推定方法、固形燃料の製造方法、及び、固形燃料の製造設備
【課題】有機性汚泥を原料として、自然発火性の安定した固形燃料を製造する方法を提供する。
【解決手段】有機性汚泥の乾燥物を炭化炉で炭化し、固形燃料としての炭化物を製造するに際し、炭化炉から排出される炭化物を、所定酸素濃度の気体を通気しながら、所定の温度条件下で所定時間保持するとともに、その際の消費酸素量及び炭化物の温度上昇速度のうち少なくとも一方を測定し、この測定値が所定の安全基準値以下となるように炭化炉における炭化温度及び炭化時間の少なくとも一方を調節する。
【解決手段】有機性汚泥の乾燥物を炭化炉で炭化し、固形燃料としての炭化物を製造するに際し、炭化炉から排出される炭化物を、所定酸素濃度の気体を通気しながら、所定の温度条件下で所定時間保持するとともに、その際の消費酸素量及び炭化物の温度上昇速度のうち少なくとも一方を測定し、この測定値が所定の安全基準値以下となるように炭化炉における炭化温度及び炭化時間の少なくとも一方を調節する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下水処理場にて処理される汚泥(以下、下水汚泥と言う)、し尿汚泥、家畜糞尿汚泥、農業集落排水汚泥等の有機性汚泥原料を炭化して固形燃料とする固形燃料の製造方法、並びに有機性汚泥を炭化する際における炭化物の自然発火性の簡易推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
環境問題の高まりに応じて、有機性汚泥の有効利用に関する技術開発が盛んに行われている。有機性汚泥の有効利用については、従来のコンポスト化による緑農地利用、建設資材への利用をさらに発展させて、炭化汚泥とする技術も開発されている。
特許文献1には、乾燥下水汚泥を造粒し、空気遮断雰囲気のロータリーキルンにより、300〜600℃で4〜22分間炭化し、その後に直ちに冷却したものを、ボイラーやセメントキルン等の燃料代替として使用することが開示されている。
【特許文献1】特開2000‐265186号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
特許文献1においては、製紙スラッジ、食品汚泥、下水汚泥が一様なものとみなされているが、現実に、これらの有機性汚泥は、排出形態や処理方法(消化工程の有無等)、季節変動によって性状が大きく相違するものであり、一律的な乾燥及び炭化処理を行うと、固形燃料として安定した品質を確保できない。中でも、自然発火性の点で安定した品質を確保することは、安全のため極めて重要である。ここに、自然発火性とは、酸化熱、分解熱、吸着熱などの化学的な原因によって自然発火する性質を意味する。自然発火性の高い物質は、貯留中や輸送中等に発熱・蓄熱し発火に至る恐れがあるため、十分な安全管理が必要となる。
さらに、自然発火性に関する品質管理のためには、製品たる炭化物の自然発火性を知る必要があるが、従来、安価かつ簡易な手法が存在しなかった。
そこで、本発明の主たる課題は、有機性汚泥の乾燥物を炭化炉で炭化するに際し、炭化物の自然発火性を安価かつ容易に知るための手法を提供することにある。また、他の課題は、有機性汚泥を原料として、自然発火性の点で安定した品質の固形燃料を製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決した本発明のうち、第1の発明は、有機性汚泥を炭化炉で炭化するに際し、炭化炉から排出される炭化物を、所定酸素濃度の気体を通気しながら、所定の温度条件下で所定時間保持するとともに、その際の消費酸素量及び炭化物の温度上昇速度のうち少なくとも一方を測定し、この測定値が所定の安全基準値を超えたか否かに基づき自然発火性を推定することを特徴とする自然発火性の簡易推定方法である。
ここで、消費酸素量とは、炭化物に通気する前後の酸素濃度の差である。厳密に言うと、炭化物への通気前後で気体の流量は変化しているが、その変化量はわずかなものであるため、酸素濃度の差により、消費酸素量を近似的に求めることができる。また、温度上昇速度とは、単位時間に上昇した温度差から求められる値である。
【0005】
本発明者らは、自然発火性を簡易に推定できる手法について鋭意研究した結果、消費酸素量と発熱上昇温度との間に相関があること、及び炭化物の温度上昇速度と発熱上昇温度との間に相関があることを知見し、第1の発明をなしたものである。発熱上昇温度は、炭化物を、所定酸素濃度の気体を通気しながら、所定の温度条件下で所定時間保持したときに、炭化物が酸化反応により発熱してどの程度温度が上昇するかを表すものであり、自然発火性の一つの指標となるものである。よって、消費酸素量及び炭化物の温度上昇速度のうち少なくとも一方を監視することで、炭化物の自然発火性を監視できる。後述するように、消費酸素量、及び炭化物の温度上昇速度はいずれも高価な測定装置が不要で、しかも容易に測定できるものである。
【0006】
他方、第2の発明は、有機性汚泥を炭化炉で炭化することにより、固形燃料としての炭化物を製造する方法において、
炭化炉から排出される炭化物を、所定酸素濃度の気体を通気しながら、所定の温度条件下で所定時間保持するとともに、その際の消費酸素量及び炭化物の温度上昇速度のうち少なくとも一方を測定し、この測定値が前記所定の安全基準値以下となるように前記炭化炉における炭化温度または炭化時間を調節する、
ことを特徴とする固形燃料の製造方法である。
このように、消費酸素量及び炭化物の温度上昇速度のうち少なくとも一方をそれぞれ測定し、この測定値が所定の安全基準以下となるように炭化条件を調節することにより、自然発火性に関して安定した品質の固形燃料を製造できるようになる。
【0007】
さらに、第3の発明として、有機性汚泥を炭化する炭化炉と、
前記炭化炉から排出される炭化物の一部を抜き出す炭化物抜出装置と、
この炭化物抜出装置により抜き出された炭化物の一部が供給される炭化物供給口と、空気供給口と、空気抜き出し口と、前記炭化物の温度を測る温度測定装置及び前記空気抜き出し口から排出される空気の酸素濃度を計測する酸素濃度測定装置の少なくとも一方とを有する測定装置と、
を備えたことを特徴とする固形燃料の製造設備も提案される。
【発明の効果】
【0008】
以上のとおり、本発明によれば、炭化物の自然発火性を安価かつ容易に知ることができるようになる、安定した品質の固形燃料を製造できるようになる、などの利点がもたらされる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の一実施の形態について詳説する。
<製造設備例>
図1は固形燃料の製造設備例を示している。ベルトプレスなどにより脱水された脱水有機性汚泥1は乾燥機10に供給される。乾燥機10に供給された脱水有機性汚泥は、第1熱風炉12から乾燥機10に供給される熱風により乾燥される。乾燥した乾燥汚泥2は炭化炉20に供給される。炭化炉20には、第2熱風炉22において燃料の下で発生させた熱風が供給され、乾燥汚泥を間接的に加温し、所定の炭化温度及び炭化時間で炭化処理が行われる。第2熱風炉22に供給される燃焼空気は、第2熱交換器18において炭化炉20から排出される熱風の一部との熱交間により加温される。炭化炉20からは炭化物(炭化汚泥)が順次排出される。炭化物は冷却された後、ハンドリング性の良化などの観点から、図示しない造粒機、好ましくは圧縮造粒機により所定の粒度に造粒され、固形燃料とされる。なお、造粒は炭化前に行っても良く、造粒機としては混合造粒機、圧縮造粒機等が適応可能であるが、特に押出造粒機が好適である。
【0010】
炭化炉20で発生する乾留ガスは、再燃炉14により燃焼空気及び燃料の吹込み下で燃焼した後に第1熱交換器16に供給され、別途第1熱交換器16に供給される乾燥機10の排ガスとの熱交換により、乾燥機10の乾燥用熱風の昇温熱源として利用される。乾燥機10の排ガスは第1熱交換器16で再燃炉14からの排ガスの熱を受けて昇温された後、第1熱風炉12に供給され、燃焼空気及び燃料の吹込み下で昇温された後に、乾燥用熱風として乾燥機10に供給される。また、乾燥機10の排ガスの一部は、減湿塔24に導かれ、湿度の低減が図られた上で再燃炉14にて高温で燃焼処理される。
【0011】
図2に示すように、減湿塔24を使用せず、乾燥機10の排ガスの一部を再燃炉に直接供給する構成とすることも可能である。
【0012】
これらの設備は例示であり、他の形態も当然に採用できる。また、乾燥機10や炭化炉20の形式に限定はない。ちなみに、炭化炉20の形式としては、ロータリーキルン、スクリュー式、流動床式などがある。乾燥機10では、出口水分が10〜40%、特に20〜30%とするのが望ましい。
【0013】
炭化炉から排出された炭化物は図12に示す測定装置30を用いて自然発火性を測定するのが好ましい。この測定装置30は、炭化物供給口31および炭化物排出口32を有する密閉恒温槽33に、一定量の炭化物を充填しガス吹込み口35より、所定温度且つ所定酸素濃度(例えば温度105℃、酸素濃度21体積%)のガスを定量供給し、ガス抜き出し口36から排出(自然排出)するように構成したものである。特徴的には、ガス吹き込み口35から供給されるガスの流量計測するための流量計40及び酸素濃度を計測するための酸素濃度計41と、ガス抜き出し口36から排出されるガスの酸素濃度を計測するための酸素濃度計42が設けられるとともに、炭化物の温度を計測するための温度計43が適宜設置されている。なお、供給するガスとして空気を使用する場合など、酸素濃度が一の場合は酸素濃度計41を省略することができる。また、図示例では、炭化炉20から排出される炭化物は、スクリューコンベヤ等の移送装置50により一部が自動的にサンプリングされ、測定装置30に供給され、残りの非サンプリング分は測定装置を通らずに冷却等の後工程に供給される。測定装置30に供給された炭化物は測定後、非サンプリング分に合流混合してもよいし、個別に回収してもよい。
【0014】
なお、上記測定装置30は、バッチ的に炭化物の自然発火性を測定するものであるが、バッチ方式に限ることはなく、測定装置30においてスクリューコンベヤ等の移送装置を設け、炭化物供給口31から供給される炭化物を順次移送装置により炭化物排出口32まで所定の移送速度で移送するように構成する、連続方式でもよい。
【0015】
<製造方法例>
下水汚泥等の有機性汚泥を乾燥し炭化させて得られる固形燃料を製品とする場合、安定した品質を確保することが極めて重要であり、そのような品質管理の上で重要となる炭化度の一つの指標として水素(H)と炭素(C)の原子数比H/Cがある。前述のように、下水汚泥を始めとする有機性汚泥は、排出形態や処理方法(消化工程の有無等)、季節変動によって性状が大きく変動するが、固形燃料の製造に際して、炭化炉20から排出される炭化物の原子数比H/Cを求め、この値が、所定の管理値(単一の値のみならず、数値範囲をも含む)となるように炭化炉20における炭化温度及び炭化時間(炉内滞留時間)の少なくとも一方を調節する(炭化条件を制御する)ことにより目的の炭化度の固形燃料を確実に得ることができる。この原子数比H/Cに基づく制御は連続的または間欠的に行うことができる。以下、炭化物の原子数比H/Cの求め方、所定の管理値の定め方、及び炭化温度及び炭化時間の調節の仕方について順に説明する。
【0016】
(原子数比H/Cの簡易推定方法)
汚泥性状に応じて炭化条件を調節し品質の安定化を図る場合、調節頻度も多くなるため、炭化物の原子数比H/Cを求める方法は簡易であるのが好ましい。そこで、以下のような原子数比H/Cの簡易推定方法が提案される。
すなわち、炭化物における原子数比H/Cは、炭化物の可燃分残存率と相関があり、また炭化物の単位可燃分質量あたりの発熱量とも相関がある。図3は、炭化物の可燃分残存率と原子数比H/Cとの関係を表したグラフであり、図4は、炭化物の単位可燃分質量あたりの発熱量と炭化物の原子数比H/Cとの関係を表したグラフである。これらグラフに見られる相関は汚泥の種類が同一であれば現れるものである。
よって、これらの相関(相関を求める際には、JIS M 8812「石炭類及びコークス類‐工業分析法」に準拠した方法により水素と炭素を測定し、原子数比H/Cを算出することができる)を予め求めておくことにより、固形燃料の製造に際して、可燃分残存率及び単位可燃分質量あたりの発熱量の少なくとも一方を測定するだけで、得られる炭化物の原子数比H/Cを簡易に求めることができる。
【0017】
ここで、可燃分残存率とは、炭化前に原料中に含まれていた可燃分が炭化後にどの程度残存するかを示すものであり、同一原料及び同一炭化条件では実質的に一定の値となるものである。可燃分残存率は例えば次の2通りの方法で測定することができる。もちろん、他の方法で測定することもできる。
【0018】
第1の方法は、炭化炉に供給される乾燥物の総質量(無水ベース)及び可燃分と、炭化炉から排出される炭化物の総質量(無水ベース)及び可燃分とをそれぞれ測定し、前者から乾燥物中の可燃分の総質量Aを算出し、後者から炭化物中の可燃分の総質量Cを算出し、これらA及びCを下記の式(2)に代入することにより可燃分残存率を求めるものである。
可燃分残存率(%) = C/A × 100 …(2)
【0019】
この第1の方法では、乾燥物総質量と炭化物総質量とをそれぞれ測定する必要があり、試験であれば問題ないが、操業中に精度良く測定するのは困難である。
【0020】
そこで、第2の方法として、炭化前後において灰分の質量が不変であるとの仮定に基づき、乾燥物及び炭化物の一部を自動的に又は手作業でサンプリングし、乾燥物サンプルの灰分b(%)及び可燃分a(%)、並びに炭化物サンプルの灰分y(%)及び可燃分x(%)をそれぞれ測定し、これら値を下記の式(3)に代入することにより可燃分残存率を算出することも提案する。
可燃分残存率(%) = (b×x)/(a×y) × 100 …(3)
【0021】
また、炭化物の単位可燃分質量あたりの発熱量は、同一原料及び同一炭化条件では実質的に一定の値となるものであり、例えば、炭化物の一部を自動的に又は手作業でサンプリングし、その炭化物サンプルに関して可燃分Dを測定するとともに、JIS M 8814「石炭類及びコークス類−ボンブ熱量計による総発熱量の測定方法及び真発熱量の計算方法」に準拠した発熱量測定装置を用いて発熱量Eを測定し、これらD及びEを下記の式(4)に代入することにより求めることができるものである。もちろん、他の方法で測定することもできる。
単位可燃分質量あたりの発熱量(kcal/kg) = E/D …(4)
【0022】
(H/Cの管理値の選定について)
原子数比H/Cの管理値、並びに炭化温度及び炭化時間の具体的な選定方法は適宜定めることができるが、例えば次の方法を好適に用いることができる。
有機性汚泥の一例として下水汚泥を乾燥し炭化させた固形燃料を化石燃料の代替とする場合、その燃料を得る過程での消費エネルギーを、CO2の排出量の観点から考えることが、環境問題を解決する上で必要である。すなわち、図5に示すように、下水汚泥の乾燥及び炭化に必要なエネルギーとして、電力及び化石燃料(たとえば灯油)を消費する。これらは電力消費に伴うCO2の排出量(1)及び化石燃料消費に伴うCO2の排出量(2)としてあらわすことができる。これに対し、下水汚泥の炭化物を代替燃料に使用すればその分がCO2の削減量(3)となる。つまり、CO2の排出量の削減の観点からは、(1)+(2)<(3)であることが望ましい。
【0023】
ここで、(1)及び(2)は、製造プロセスによって変化するが、図1のプロセスでは、図6の関係があることを知見した。図6は、乾燥に供する下水汚泥(脱水汚泥:脱水処理後の汚泥)の水分と、その下水汚泥の可燃分と、固形燃料における水素分と炭素分の原子数比H/Cとの関係を表したものであり、前記電力及び(化石)燃料の使用に伴うCO2排出量((1)+(2))に対して前記固形燃料を使用することによるCO2削減量(3)がバランスする(等しい)点を、原子数比H/Cごとプロットしたものである。かかる第1の相関を実験的にあるいは推計計算により、予め求める。なお、水分は、JIS M 8812「石炭類及びコークス類−工業分析方法」に準拠した方法により測定できる。
【0024】
そして、この第1の相関を利用することによって、処理対象たる現に乾燥に供する有機性汚泥の水分と、その有機性汚泥の可燃分とに基づき、CO2の排出量を考慮して(例えば上記(1)+(2)<(3)の関係を満足するように)、得ようとする固形燃料における水素分と炭素分の原子数比H/Cを選定することができる。
【0025】
この第1の相関に基づく選定範囲内において、又は第1の相関とは無関係に、固形燃料における水素分と炭素分の原子数比H/Cの管理値を、得ようとする固形燃料(炭化物)の特性に応じて適宜選定することができる。例えば、石炭火力発電所において石炭と混焼する場合、原子数比H/Cの管理値は0.8〜1.8であるのが望ましく、特に1.0〜1.6が好適であると知見している。石炭の原子数比H/Cは、産地によって異なるが、0.6〜1.0程度で、平均は0.8程度である。この点に関し、先行技術文献のものは、条件がかなり不明であるものの、原子数比H/Cは0.6以下ではないかと挙げられた各種の数値から推測される。この意味で、上記範囲の原子数比H/Cの値はかなり高いものである。
【0026】
図7は、H/Cと燃料比(固定炭素の揮発分に対する重量比)との相関グラフであり、H/Cの低下とともに燃料比が増大し、固形燃料としての燃焼性が悪化すると共に窒素酸化物の生成量も増加する。しかし、石炭火力発電所において石炭と混焼する場合には高い燃焼性が要求される。石炭の燃料比は、産地によってバラツキがあるが、1.0〜2.4程度(平均で約1.6程度)であり、石炭と同等以上の固形燃料とするには燃料比1.6以下、より望ましくは燃料比1.0以下とすることが必要である。
さらに、原子数比H/Cが高いと、高い黒色度が得られず、石炭の黒色度と大きく相違するものとなり、外観の点で不安感を与える難がある。
【0027】
また、炭化物を固形燃料とする場合、発熱量が高いほど望ましい。某都市下水処理場からの未消化下水汚泥について、炭化温度及び炭化時間を変えることにより、有機性汚泥中の水素分と炭素分の原子数比H/Cを種々に変えたものを得て、これらについて、発熱量を調べたところ、図8に示す結果を得た。この結果から、発熱量は原子数比H/Cに大きく依存し、原子数比H/Cがほぼ1.0以下において急激に低下し、原子数比H/Cが1.8までは発熱量の低下が少ない。よって、発熱量を重視する場合には、原子数比H/Cの管理値を1.0超1.8以下の範囲で選定するのが望ましい。
【0028】
さらにまた、炭化物を固形燃料とする場合、自然発火性の点で安定した品質を確保することは、安全のため極めて重要である。図9は、H/Cと発熱上昇速度の関係を示したものであり、H/Cが1.2〜1.6程度の領域において発熱上昇速度が低くなり、H/Cの低下に伴い増加することがわかる。そして、H/Cが0.7〜0.9程度の領域でピークを迎えた後、今度は減少に転じる。よって、自然発火性を抑えるためには原子数比H/Cの管理値を0.7〜0.9より可能な限り大きい範囲、好ましくは1.2以上で選定するのが望ましい。
【0029】
ただし、自然発火性と原子数比H/Cとの相関のみでは、絶対的な自然発火性を監視し管理することはできない。そこで、これを解決する方法として、炭化炉から排出される炭化物を、所定酸素濃度の気体を通気しながら、所定の温度条件下で所定時間保持した際の消費酸素量及び炭化物の温度上昇速度のうち少なくとも一方をそれぞれ測定し、この測定値が所定の安全基準値を超えたか否かに基づき自然発火性を推定する方法が提案される。
【0030】
使用気体の酸素濃度は10〜100%の範囲内とすることができ、利便性からも通常は空気(酸素濃度約21%)を使用するのが好ましい。使用気体の温度は常温〜500℃程度とすることができ、特に50〜150℃とするのが好ましい。また、保持時間は10分〜50時間程度とすることができ、特に30分〜24時間とするのが好ましい。さらに、所定の安全基準値は、予め試験を行うことにより定めることができ、例えば消費酸素量8%以下、もしくは温度上昇速度5℃/hr以下とすることができる。
【0031】
消費酸素量及び温度上昇速度の測定は、たとえば図12の装置を用いればよく、当該装置において、消費酸素量を測定する場合には、ガス吹込み口35から供給する気体の酸素濃度から、ガス抜き出し口36から排出される気体の酸素濃度を差し引いて求めるようにする。また、温度上昇速度を測定する場合には、温度計43にて測定される温度において、単位時間に上昇した温度から求めるようにする。
【0032】
図10は、消費酸素量と発熱上昇温度との関係を表したグラフであり、図11は、炭化物の温度上昇速度と発熱上昇温度との関係を表したグラフである。これらグラフに見られる相関は汚泥の種類が同一であれば現れるものである。発熱上昇温度は自然発火性の一つの指標となるものであり、数値が高い程自然発火性も高くなるものであるため、消費酸素量及び炭化物の温度上昇速度のうち少なくとも一方を測定し監視することで、炭化物の自然発火性を監視できるのである。
【0033】
そして、監視の結果、消費酸素量及び温度上昇速度の少なくとも一方の測定値が所定の安全基準値を超えたときには、測定値が安全基準値以下となるように原子数比H/Cの管理値を選定し直す、つまりより高い原子数比H/Cを新たな管理値とすることにより、後述する炭化条件を調節する。このようなフィードバック制御により、自然発火性の点で安定した品質を確保できるようになる。
なお、このことからも判るように、原子数比H/Cの管理値は固定とせずに、連続的又は段階的に変化させることが可能である。
【0034】
(炭化条件の選定について)
一方、炭化条件の選定に際しては、炭化に供する炭化時間と、炭化温度と、固形燃料における水素分と炭素分の原子数比H/Cとの第2の相関を予め求めておき、選定した原子数比H/Cの管理値に基づき、この第2の相関下で、炭化時間及び炭化温度を選定する。炭化炉では、この選定条件の下で炭化を行う。
【0035】
この第2の相関は、下水汚泥の可燃分への依存性は低く、かつ、乾燥汚泥の水分が10%以下の範囲内においては一義的に、炭化装置による炭化実験により求めることができるものである。水分が10%を超える場合は、水分蒸発に伴う炭化時間の遅れを補正する必要があるが、水分が30%までであれば、その変動幅は20%以内に収まることが知見されている。
【0036】
第2相関を利用して、炭化時間及び炭化温度を選定する際に、原子数比H/Cを定めたとき、その原子数比H/Cの図13の変化グラフにおいて、設備の放熱を考えると、炭化時間を短く設定した方が望ましい。しかし、炭化時間を短くするにしたがって、目的の原子数比H/Cを得ることが運転制御上困難となる。例えば、原子数比H/C1.4の固形燃料を得るために炭化温度を450℃に設定した場合、炭化時間が約1分遅れると原子数比H/C1.5となる。目的のH/Cを得るには、炭化時間として数十秒間の誤差範囲で制御することが必要となるが、このような運転は実質的に困難である。
しかし、本発明者らは、実質的に運転制御可能な炭化時間、炭化温度の設定に関し、以下のポイントが最適ポイントであることを知見した。
【0037】
第2相関において、目的の原子数比H/Cを得るにあたり、炭化温度θ℃と、当該原子数比H/Cカーブとの交点における炭化時間をT(θ)分としたとき、原子数比H/Cカーブに対して0.1ポイント異なる2つの隣接する原子数比H/Cカーブとの交点のうち、前記T(θ)に対してより近い炭化時間の差(たとえば図13において、炭化時間の差XとYがあるとき、X<YであるからXを基準とする。)をΔT(θ)とした場合、
ΔT(θ)/T(θ)≧0.2
となる炭化時間のポイントが最適炭化時間となる。
【0038】
(その他)
有機性汚泥のその他の例として、し尿汚泥や家畜糞尿汚泥等があるが、下水汚泥の場合と大きな相違はない。図6〜図7及び図13について、し尿汚泥と家畜糞尿汚泥のデータをそれぞれ▲マークと●マークにて示す。図6および図13では、水素分と炭素分の原子数比H/Cが1.0となるポイントを示しているが、下水汚泥のそれとほぼ同等の値を取る。図7についても、下水汚泥の場合と同等となる。
【産業上の利用可能性】
【0039】
得られる固形燃料は、石炭火力発電所において石炭と混焼する場合に特に有効であるが、固形燃料物を燃料とするボイラーへの適用も可能である。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】第1の設備例のフローシートである。
【図2】第2の設備例のフローシートである。
【図3】H/Cと可燃分残存率との相関グラフである。
【図4】H/Cと単位可燃分質量あたりの発熱量との相関グラフである。
【図5】CO2量に関する説明図である。
【図6】下水汚泥の水分と、可燃分と、固形燃料における水素分と炭素分の原子数比H/Cとの第1の相関図である。
【図7】H/Cと燃料比との相関グラフである。
【図8】H/Cと発熱量との相関グラフである。
【図9】H/Cと発熱上昇速度との相関グラフである。
【図10】消費酸素量と発熱上昇温度との相関グラフである。
【図11】温度上昇速度と発熱上昇温度との相関グラフである。
【図12】消費酸素量及び温度上昇速度の測定装置例を示す図である。
【図13】炭化時間と、炭化温度と、固形燃料における水素分と炭素分の原子数比H/Cとの第2の相関図である。
【符号の説明】
【0041】
1…脱水有機性汚泥、10…乾燥機、14…再燃炉、16…第1熱交換器、20…炭化炉、22…第1熱風炉、30…消費酸素量及び温度上昇速度の測定装置。
【技術分野】
【0001】
本発明は、下水処理場にて処理される汚泥(以下、下水汚泥と言う)、し尿汚泥、家畜糞尿汚泥、農業集落排水汚泥等の有機性汚泥原料を炭化して固形燃料とする固形燃料の製造方法、並びに有機性汚泥を炭化する際における炭化物の自然発火性の簡易推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
環境問題の高まりに応じて、有機性汚泥の有効利用に関する技術開発が盛んに行われている。有機性汚泥の有効利用については、従来のコンポスト化による緑農地利用、建設資材への利用をさらに発展させて、炭化汚泥とする技術も開発されている。
特許文献1には、乾燥下水汚泥を造粒し、空気遮断雰囲気のロータリーキルンにより、300〜600℃で4〜22分間炭化し、その後に直ちに冷却したものを、ボイラーやセメントキルン等の燃料代替として使用することが開示されている。
【特許文献1】特開2000‐265186号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
特許文献1においては、製紙スラッジ、食品汚泥、下水汚泥が一様なものとみなされているが、現実に、これらの有機性汚泥は、排出形態や処理方法(消化工程の有無等)、季節変動によって性状が大きく相違するものであり、一律的な乾燥及び炭化処理を行うと、固形燃料として安定した品質を確保できない。中でも、自然発火性の点で安定した品質を確保することは、安全のため極めて重要である。ここに、自然発火性とは、酸化熱、分解熱、吸着熱などの化学的な原因によって自然発火する性質を意味する。自然発火性の高い物質は、貯留中や輸送中等に発熱・蓄熱し発火に至る恐れがあるため、十分な安全管理が必要となる。
さらに、自然発火性に関する品質管理のためには、製品たる炭化物の自然発火性を知る必要があるが、従来、安価かつ簡易な手法が存在しなかった。
そこで、本発明の主たる課題は、有機性汚泥の乾燥物を炭化炉で炭化するに際し、炭化物の自然発火性を安価かつ容易に知るための手法を提供することにある。また、他の課題は、有機性汚泥を原料として、自然発火性の点で安定した品質の固形燃料を製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決した本発明のうち、第1の発明は、有機性汚泥を炭化炉で炭化するに際し、炭化炉から排出される炭化物を、所定酸素濃度の気体を通気しながら、所定の温度条件下で所定時間保持するとともに、その際の消費酸素量及び炭化物の温度上昇速度のうち少なくとも一方を測定し、この測定値が所定の安全基準値を超えたか否かに基づき自然発火性を推定することを特徴とする自然発火性の簡易推定方法である。
ここで、消費酸素量とは、炭化物に通気する前後の酸素濃度の差である。厳密に言うと、炭化物への通気前後で気体の流量は変化しているが、その変化量はわずかなものであるため、酸素濃度の差により、消費酸素量を近似的に求めることができる。また、温度上昇速度とは、単位時間に上昇した温度差から求められる値である。
【0005】
本発明者らは、自然発火性を簡易に推定できる手法について鋭意研究した結果、消費酸素量と発熱上昇温度との間に相関があること、及び炭化物の温度上昇速度と発熱上昇温度との間に相関があることを知見し、第1の発明をなしたものである。発熱上昇温度は、炭化物を、所定酸素濃度の気体を通気しながら、所定の温度条件下で所定時間保持したときに、炭化物が酸化反応により発熱してどの程度温度が上昇するかを表すものであり、自然発火性の一つの指標となるものである。よって、消費酸素量及び炭化物の温度上昇速度のうち少なくとも一方を監視することで、炭化物の自然発火性を監視できる。後述するように、消費酸素量、及び炭化物の温度上昇速度はいずれも高価な測定装置が不要で、しかも容易に測定できるものである。
【0006】
他方、第2の発明は、有機性汚泥を炭化炉で炭化することにより、固形燃料としての炭化物を製造する方法において、
炭化炉から排出される炭化物を、所定酸素濃度の気体を通気しながら、所定の温度条件下で所定時間保持するとともに、その際の消費酸素量及び炭化物の温度上昇速度のうち少なくとも一方を測定し、この測定値が前記所定の安全基準値以下となるように前記炭化炉における炭化温度または炭化時間を調節する、
ことを特徴とする固形燃料の製造方法である。
このように、消費酸素量及び炭化物の温度上昇速度のうち少なくとも一方をそれぞれ測定し、この測定値が所定の安全基準以下となるように炭化条件を調節することにより、自然発火性に関して安定した品質の固形燃料を製造できるようになる。
【0007】
さらに、第3の発明として、有機性汚泥を炭化する炭化炉と、
前記炭化炉から排出される炭化物の一部を抜き出す炭化物抜出装置と、
この炭化物抜出装置により抜き出された炭化物の一部が供給される炭化物供給口と、空気供給口と、空気抜き出し口と、前記炭化物の温度を測る温度測定装置及び前記空気抜き出し口から排出される空気の酸素濃度を計測する酸素濃度測定装置の少なくとも一方とを有する測定装置と、
を備えたことを特徴とする固形燃料の製造設備も提案される。
【発明の効果】
【0008】
以上のとおり、本発明によれば、炭化物の自然発火性を安価かつ容易に知ることができるようになる、安定した品質の固形燃料を製造できるようになる、などの利点がもたらされる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の一実施の形態について詳説する。
<製造設備例>
図1は固形燃料の製造設備例を示している。ベルトプレスなどにより脱水された脱水有機性汚泥1は乾燥機10に供給される。乾燥機10に供給された脱水有機性汚泥は、第1熱風炉12から乾燥機10に供給される熱風により乾燥される。乾燥した乾燥汚泥2は炭化炉20に供給される。炭化炉20には、第2熱風炉22において燃料の下で発生させた熱風が供給され、乾燥汚泥を間接的に加温し、所定の炭化温度及び炭化時間で炭化処理が行われる。第2熱風炉22に供給される燃焼空気は、第2熱交換器18において炭化炉20から排出される熱風の一部との熱交間により加温される。炭化炉20からは炭化物(炭化汚泥)が順次排出される。炭化物は冷却された後、ハンドリング性の良化などの観点から、図示しない造粒機、好ましくは圧縮造粒機により所定の粒度に造粒され、固形燃料とされる。なお、造粒は炭化前に行っても良く、造粒機としては混合造粒機、圧縮造粒機等が適応可能であるが、特に押出造粒機が好適である。
【0010】
炭化炉20で発生する乾留ガスは、再燃炉14により燃焼空気及び燃料の吹込み下で燃焼した後に第1熱交換器16に供給され、別途第1熱交換器16に供給される乾燥機10の排ガスとの熱交換により、乾燥機10の乾燥用熱風の昇温熱源として利用される。乾燥機10の排ガスは第1熱交換器16で再燃炉14からの排ガスの熱を受けて昇温された後、第1熱風炉12に供給され、燃焼空気及び燃料の吹込み下で昇温された後に、乾燥用熱風として乾燥機10に供給される。また、乾燥機10の排ガスの一部は、減湿塔24に導かれ、湿度の低減が図られた上で再燃炉14にて高温で燃焼処理される。
【0011】
図2に示すように、減湿塔24を使用せず、乾燥機10の排ガスの一部を再燃炉に直接供給する構成とすることも可能である。
【0012】
これらの設備は例示であり、他の形態も当然に採用できる。また、乾燥機10や炭化炉20の形式に限定はない。ちなみに、炭化炉20の形式としては、ロータリーキルン、スクリュー式、流動床式などがある。乾燥機10では、出口水分が10〜40%、特に20〜30%とするのが望ましい。
【0013】
炭化炉から排出された炭化物は図12に示す測定装置30を用いて自然発火性を測定するのが好ましい。この測定装置30は、炭化物供給口31および炭化物排出口32を有する密閉恒温槽33に、一定量の炭化物を充填しガス吹込み口35より、所定温度且つ所定酸素濃度(例えば温度105℃、酸素濃度21体積%)のガスを定量供給し、ガス抜き出し口36から排出(自然排出)するように構成したものである。特徴的には、ガス吹き込み口35から供給されるガスの流量計測するための流量計40及び酸素濃度を計測するための酸素濃度計41と、ガス抜き出し口36から排出されるガスの酸素濃度を計測するための酸素濃度計42が設けられるとともに、炭化物の温度を計測するための温度計43が適宜設置されている。なお、供給するガスとして空気を使用する場合など、酸素濃度が一の場合は酸素濃度計41を省略することができる。また、図示例では、炭化炉20から排出される炭化物は、スクリューコンベヤ等の移送装置50により一部が自動的にサンプリングされ、測定装置30に供給され、残りの非サンプリング分は測定装置を通らずに冷却等の後工程に供給される。測定装置30に供給された炭化物は測定後、非サンプリング分に合流混合してもよいし、個別に回収してもよい。
【0014】
なお、上記測定装置30は、バッチ的に炭化物の自然発火性を測定するものであるが、バッチ方式に限ることはなく、測定装置30においてスクリューコンベヤ等の移送装置を設け、炭化物供給口31から供給される炭化物を順次移送装置により炭化物排出口32まで所定の移送速度で移送するように構成する、連続方式でもよい。
【0015】
<製造方法例>
下水汚泥等の有機性汚泥を乾燥し炭化させて得られる固形燃料を製品とする場合、安定した品質を確保することが極めて重要であり、そのような品質管理の上で重要となる炭化度の一つの指標として水素(H)と炭素(C)の原子数比H/Cがある。前述のように、下水汚泥を始めとする有機性汚泥は、排出形態や処理方法(消化工程の有無等)、季節変動によって性状が大きく変動するが、固形燃料の製造に際して、炭化炉20から排出される炭化物の原子数比H/Cを求め、この値が、所定の管理値(単一の値のみならず、数値範囲をも含む)となるように炭化炉20における炭化温度及び炭化時間(炉内滞留時間)の少なくとも一方を調節する(炭化条件を制御する)ことにより目的の炭化度の固形燃料を確実に得ることができる。この原子数比H/Cに基づく制御は連続的または間欠的に行うことができる。以下、炭化物の原子数比H/Cの求め方、所定の管理値の定め方、及び炭化温度及び炭化時間の調節の仕方について順に説明する。
【0016】
(原子数比H/Cの簡易推定方法)
汚泥性状に応じて炭化条件を調節し品質の安定化を図る場合、調節頻度も多くなるため、炭化物の原子数比H/Cを求める方法は簡易であるのが好ましい。そこで、以下のような原子数比H/Cの簡易推定方法が提案される。
すなわち、炭化物における原子数比H/Cは、炭化物の可燃分残存率と相関があり、また炭化物の単位可燃分質量あたりの発熱量とも相関がある。図3は、炭化物の可燃分残存率と原子数比H/Cとの関係を表したグラフであり、図4は、炭化物の単位可燃分質量あたりの発熱量と炭化物の原子数比H/Cとの関係を表したグラフである。これらグラフに見られる相関は汚泥の種類が同一であれば現れるものである。
よって、これらの相関(相関を求める際には、JIS M 8812「石炭類及びコークス類‐工業分析法」に準拠した方法により水素と炭素を測定し、原子数比H/Cを算出することができる)を予め求めておくことにより、固形燃料の製造に際して、可燃分残存率及び単位可燃分質量あたりの発熱量の少なくとも一方を測定するだけで、得られる炭化物の原子数比H/Cを簡易に求めることができる。
【0017】
ここで、可燃分残存率とは、炭化前に原料中に含まれていた可燃分が炭化後にどの程度残存するかを示すものであり、同一原料及び同一炭化条件では実質的に一定の値となるものである。可燃分残存率は例えば次の2通りの方法で測定することができる。もちろん、他の方法で測定することもできる。
【0018】
第1の方法は、炭化炉に供給される乾燥物の総質量(無水ベース)及び可燃分と、炭化炉から排出される炭化物の総質量(無水ベース)及び可燃分とをそれぞれ測定し、前者から乾燥物中の可燃分の総質量Aを算出し、後者から炭化物中の可燃分の総質量Cを算出し、これらA及びCを下記の式(2)に代入することにより可燃分残存率を求めるものである。
可燃分残存率(%) = C/A × 100 …(2)
【0019】
この第1の方法では、乾燥物総質量と炭化物総質量とをそれぞれ測定する必要があり、試験であれば問題ないが、操業中に精度良く測定するのは困難である。
【0020】
そこで、第2の方法として、炭化前後において灰分の質量が不変であるとの仮定に基づき、乾燥物及び炭化物の一部を自動的に又は手作業でサンプリングし、乾燥物サンプルの灰分b(%)及び可燃分a(%)、並びに炭化物サンプルの灰分y(%)及び可燃分x(%)をそれぞれ測定し、これら値を下記の式(3)に代入することにより可燃分残存率を算出することも提案する。
可燃分残存率(%) = (b×x)/(a×y) × 100 …(3)
【0021】
また、炭化物の単位可燃分質量あたりの発熱量は、同一原料及び同一炭化条件では実質的に一定の値となるものであり、例えば、炭化物の一部を自動的に又は手作業でサンプリングし、その炭化物サンプルに関して可燃分Dを測定するとともに、JIS M 8814「石炭類及びコークス類−ボンブ熱量計による総発熱量の測定方法及び真発熱量の計算方法」に準拠した発熱量測定装置を用いて発熱量Eを測定し、これらD及びEを下記の式(4)に代入することにより求めることができるものである。もちろん、他の方法で測定することもできる。
単位可燃分質量あたりの発熱量(kcal/kg) = E/D …(4)
【0022】
(H/Cの管理値の選定について)
原子数比H/Cの管理値、並びに炭化温度及び炭化時間の具体的な選定方法は適宜定めることができるが、例えば次の方法を好適に用いることができる。
有機性汚泥の一例として下水汚泥を乾燥し炭化させた固形燃料を化石燃料の代替とする場合、その燃料を得る過程での消費エネルギーを、CO2の排出量の観点から考えることが、環境問題を解決する上で必要である。すなわち、図5に示すように、下水汚泥の乾燥及び炭化に必要なエネルギーとして、電力及び化石燃料(たとえば灯油)を消費する。これらは電力消費に伴うCO2の排出量(1)及び化石燃料消費に伴うCO2の排出量(2)としてあらわすことができる。これに対し、下水汚泥の炭化物を代替燃料に使用すればその分がCO2の削減量(3)となる。つまり、CO2の排出量の削減の観点からは、(1)+(2)<(3)であることが望ましい。
【0023】
ここで、(1)及び(2)は、製造プロセスによって変化するが、図1のプロセスでは、図6の関係があることを知見した。図6は、乾燥に供する下水汚泥(脱水汚泥:脱水処理後の汚泥)の水分と、その下水汚泥の可燃分と、固形燃料における水素分と炭素分の原子数比H/Cとの関係を表したものであり、前記電力及び(化石)燃料の使用に伴うCO2排出量((1)+(2))に対して前記固形燃料を使用することによるCO2削減量(3)がバランスする(等しい)点を、原子数比H/Cごとプロットしたものである。かかる第1の相関を実験的にあるいは推計計算により、予め求める。なお、水分は、JIS M 8812「石炭類及びコークス類−工業分析方法」に準拠した方法により測定できる。
【0024】
そして、この第1の相関を利用することによって、処理対象たる現に乾燥に供する有機性汚泥の水分と、その有機性汚泥の可燃分とに基づき、CO2の排出量を考慮して(例えば上記(1)+(2)<(3)の関係を満足するように)、得ようとする固形燃料における水素分と炭素分の原子数比H/Cを選定することができる。
【0025】
この第1の相関に基づく選定範囲内において、又は第1の相関とは無関係に、固形燃料における水素分と炭素分の原子数比H/Cの管理値を、得ようとする固形燃料(炭化物)の特性に応じて適宜選定することができる。例えば、石炭火力発電所において石炭と混焼する場合、原子数比H/Cの管理値は0.8〜1.8であるのが望ましく、特に1.0〜1.6が好適であると知見している。石炭の原子数比H/Cは、産地によって異なるが、0.6〜1.0程度で、平均は0.8程度である。この点に関し、先行技術文献のものは、条件がかなり不明であるものの、原子数比H/Cは0.6以下ではないかと挙げられた各種の数値から推測される。この意味で、上記範囲の原子数比H/Cの値はかなり高いものである。
【0026】
図7は、H/Cと燃料比(固定炭素の揮発分に対する重量比)との相関グラフであり、H/Cの低下とともに燃料比が増大し、固形燃料としての燃焼性が悪化すると共に窒素酸化物の生成量も増加する。しかし、石炭火力発電所において石炭と混焼する場合には高い燃焼性が要求される。石炭の燃料比は、産地によってバラツキがあるが、1.0〜2.4程度(平均で約1.6程度)であり、石炭と同等以上の固形燃料とするには燃料比1.6以下、より望ましくは燃料比1.0以下とすることが必要である。
さらに、原子数比H/Cが高いと、高い黒色度が得られず、石炭の黒色度と大きく相違するものとなり、外観の点で不安感を与える難がある。
【0027】
また、炭化物を固形燃料とする場合、発熱量が高いほど望ましい。某都市下水処理場からの未消化下水汚泥について、炭化温度及び炭化時間を変えることにより、有機性汚泥中の水素分と炭素分の原子数比H/Cを種々に変えたものを得て、これらについて、発熱量を調べたところ、図8に示す結果を得た。この結果から、発熱量は原子数比H/Cに大きく依存し、原子数比H/Cがほぼ1.0以下において急激に低下し、原子数比H/Cが1.8までは発熱量の低下が少ない。よって、発熱量を重視する場合には、原子数比H/Cの管理値を1.0超1.8以下の範囲で選定するのが望ましい。
【0028】
さらにまた、炭化物を固形燃料とする場合、自然発火性の点で安定した品質を確保することは、安全のため極めて重要である。図9は、H/Cと発熱上昇速度の関係を示したものであり、H/Cが1.2〜1.6程度の領域において発熱上昇速度が低くなり、H/Cの低下に伴い増加することがわかる。そして、H/Cが0.7〜0.9程度の領域でピークを迎えた後、今度は減少に転じる。よって、自然発火性を抑えるためには原子数比H/Cの管理値を0.7〜0.9より可能な限り大きい範囲、好ましくは1.2以上で選定するのが望ましい。
【0029】
ただし、自然発火性と原子数比H/Cとの相関のみでは、絶対的な自然発火性を監視し管理することはできない。そこで、これを解決する方法として、炭化炉から排出される炭化物を、所定酸素濃度の気体を通気しながら、所定の温度条件下で所定時間保持した際の消費酸素量及び炭化物の温度上昇速度のうち少なくとも一方をそれぞれ測定し、この測定値が所定の安全基準値を超えたか否かに基づき自然発火性を推定する方法が提案される。
【0030】
使用気体の酸素濃度は10〜100%の範囲内とすることができ、利便性からも通常は空気(酸素濃度約21%)を使用するのが好ましい。使用気体の温度は常温〜500℃程度とすることができ、特に50〜150℃とするのが好ましい。また、保持時間は10分〜50時間程度とすることができ、特に30分〜24時間とするのが好ましい。さらに、所定の安全基準値は、予め試験を行うことにより定めることができ、例えば消費酸素量8%以下、もしくは温度上昇速度5℃/hr以下とすることができる。
【0031】
消費酸素量及び温度上昇速度の測定は、たとえば図12の装置を用いればよく、当該装置において、消費酸素量を測定する場合には、ガス吹込み口35から供給する気体の酸素濃度から、ガス抜き出し口36から排出される気体の酸素濃度を差し引いて求めるようにする。また、温度上昇速度を測定する場合には、温度計43にて測定される温度において、単位時間に上昇した温度から求めるようにする。
【0032】
図10は、消費酸素量と発熱上昇温度との関係を表したグラフであり、図11は、炭化物の温度上昇速度と発熱上昇温度との関係を表したグラフである。これらグラフに見られる相関は汚泥の種類が同一であれば現れるものである。発熱上昇温度は自然発火性の一つの指標となるものであり、数値が高い程自然発火性も高くなるものであるため、消費酸素量及び炭化物の温度上昇速度のうち少なくとも一方を測定し監視することで、炭化物の自然発火性を監視できるのである。
【0033】
そして、監視の結果、消費酸素量及び温度上昇速度の少なくとも一方の測定値が所定の安全基準値を超えたときには、測定値が安全基準値以下となるように原子数比H/Cの管理値を選定し直す、つまりより高い原子数比H/Cを新たな管理値とすることにより、後述する炭化条件を調節する。このようなフィードバック制御により、自然発火性の点で安定した品質を確保できるようになる。
なお、このことからも判るように、原子数比H/Cの管理値は固定とせずに、連続的又は段階的に変化させることが可能である。
【0034】
(炭化条件の選定について)
一方、炭化条件の選定に際しては、炭化に供する炭化時間と、炭化温度と、固形燃料における水素分と炭素分の原子数比H/Cとの第2の相関を予め求めておき、選定した原子数比H/Cの管理値に基づき、この第2の相関下で、炭化時間及び炭化温度を選定する。炭化炉では、この選定条件の下で炭化を行う。
【0035】
この第2の相関は、下水汚泥の可燃分への依存性は低く、かつ、乾燥汚泥の水分が10%以下の範囲内においては一義的に、炭化装置による炭化実験により求めることができるものである。水分が10%を超える場合は、水分蒸発に伴う炭化時間の遅れを補正する必要があるが、水分が30%までであれば、その変動幅は20%以内に収まることが知見されている。
【0036】
第2相関を利用して、炭化時間及び炭化温度を選定する際に、原子数比H/Cを定めたとき、その原子数比H/Cの図13の変化グラフにおいて、設備の放熱を考えると、炭化時間を短く設定した方が望ましい。しかし、炭化時間を短くするにしたがって、目的の原子数比H/Cを得ることが運転制御上困難となる。例えば、原子数比H/C1.4の固形燃料を得るために炭化温度を450℃に設定した場合、炭化時間が約1分遅れると原子数比H/C1.5となる。目的のH/Cを得るには、炭化時間として数十秒間の誤差範囲で制御することが必要となるが、このような運転は実質的に困難である。
しかし、本発明者らは、実質的に運転制御可能な炭化時間、炭化温度の設定に関し、以下のポイントが最適ポイントであることを知見した。
【0037】
第2相関において、目的の原子数比H/Cを得るにあたり、炭化温度θ℃と、当該原子数比H/Cカーブとの交点における炭化時間をT(θ)分としたとき、原子数比H/Cカーブに対して0.1ポイント異なる2つの隣接する原子数比H/Cカーブとの交点のうち、前記T(θ)に対してより近い炭化時間の差(たとえば図13において、炭化時間の差XとYがあるとき、X<YであるからXを基準とする。)をΔT(θ)とした場合、
ΔT(θ)/T(θ)≧0.2
となる炭化時間のポイントが最適炭化時間となる。
【0038】
(その他)
有機性汚泥のその他の例として、し尿汚泥や家畜糞尿汚泥等があるが、下水汚泥の場合と大きな相違はない。図6〜図7及び図13について、し尿汚泥と家畜糞尿汚泥のデータをそれぞれ▲マークと●マークにて示す。図6および図13では、水素分と炭素分の原子数比H/Cが1.0となるポイントを示しているが、下水汚泥のそれとほぼ同等の値を取る。図7についても、下水汚泥の場合と同等となる。
【産業上の利用可能性】
【0039】
得られる固形燃料は、石炭火力発電所において石炭と混焼する場合に特に有効であるが、固形燃料物を燃料とするボイラーへの適用も可能である。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】第1の設備例のフローシートである。
【図2】第2の設備例のフローシートである。
【図3】H/Cと可燃分残存率との相関グラフである。
【図4】H/Cと単位可燃分質量あたりの発熱量との相関グラフである。
【図5】CO2量に関する説明図である。
【図6】下水汚泥の水分と、可燃分と、固形燃料における水素分と炭素分の原子数比H/Cとの第1の相関図である。
【図7】H/Cと燃料比との相関グラフである。
【図8】H/Cと発熱量との相関グラフである。
【図9】H/Cと発熱上昇速度との相関グラフである。
【図10】消費酸素量と発熱上昇温度との相関グラフである。
【図11】温度上昇速度と発熱上昇温度との相関グラフである。
【図12】消費酸素量及び温度上昇速度の測定装置例を示す図である。
【図13】炭化時間と、炭化温度と、固形燃料における水素分と炭素分の原子数比H/Cとの第2の相関図である。
【符号の説明】
【0041】
1…脱水有機性汚泥、10…乾燥機、14…再燃炉、16…第1熱交換器、20…炭化炉、22…第1熱風炉、30…消費酸素量及び温度上昇速度の測定装置。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機性汚泥を炭化炉で炭化するに際し、炭化炉から排出される炭化物を、所定酸素濃度の気体を通気しながら、所定の温度条件下で所定時間保持するとともに、その際の消費酸素量及び炭化物の温度上昇速度のうち少なくとも一方を測定し、この測定値が所定の安全基準値を超えたか否かに基づき自然発火性を推定することを特徴とする自然発火性の簡易推定方法。
【請求項2】
有機性汚泥を炭化炉で炭化することにより、固形燃料としての炭化物を製造する方法において、
炭化炉から排出される炭化物を、所定酸素濃度の気体を通気しながら、所定の温度条件下で所定時間保持するとともに、その際の消費酸素量及び炭化物の温度上昇速度のうち少なくとも一方を測定し、この測定値が前記所定の安全基準値以下となるように前記炭化炉における炭化温度または炭化時間を調節する、
ことを特徴とする固形燃料の製造方法。
【請求項3】
有機性汚泥を炭化する炭化炉と、
前記炭化炉から排出される炭化物を抜き出す炭化物抜出装置と、
この炭化物抜出装置により抜き出された炭化物の全量もしくは一部が供給される炭化物供給口と、空気供給口と、空気抜き出し口と、前記炭化物の温度を測る温度測定装置及び前記空気抜き出し口から排出される空気の酸素濃度を計測する酸素濃度測定装置の少なくとも一方とを有する測定装置と、
を備えたことを特徴とする固形燃料の製造設備。
【請求項1】
有機性汚泥を炭化炉で炭化するに際し、炭化炉から排出される炭化物を、所定酸素濃度の気体を通気しながら、所定の温度条件下で所定時間保持するとともに、その際の消費酸素量及び炭化物の温度上昇速度のうち少なくとも一方を測定し、この測定値が所定の安全基準値を超えたか否かに基づき自然発火性を推定することを特徴とする自然発火性の簡易推定方法。
【請求項2】
有機性汚泥を炭化炉で炭化することにより、固形燃料としての炭化物を製造する方法において、
炭化炉から排出される炭化物を、所定酸素濃度の気体を通気しながら、所定の温度条件下で所定時間保持するとともに、その際の消費酸素量及び炭化物の温度上昇速度のうち少なくとも一方を測定し、この測定値が前記所定の安全基準値以下となるように前記炭化炉における炭化温度または炭化時間を調節する、
ことを特徴とする固形燃料の製造方法。
【請求項3】
有機性汚泥を炭化する炭化炉と、
前記炭化炉から排出される炭化物を抜き出す炭化物抜出装置と、
この炭化物抜出装置により抜き出された炭化物の全量もしくは一部が供給される炭化物供給口と、空気供給口と、空気抜き出し口と、前記炭化物の温度を測る温度測定装置及び前記空気抜き出し口から排出される空気の酸素濃度を計測する酸素濃度測定装置の少なくとも一方とを有する測定装置と、
を備えたことを特徴とする固形燃料の製造設備。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2010−155881(P2010−155881A)
【公開日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−333810(P2008−333810)
【出願日】平成20年12月26日(2008.12.26)
【出願人】(000217686)電源開発株式会社 (207)
【出願人】(507214083)メタウォーター株式会社 (277)
【出願人】(000165273)月島機械株式会社 (253)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年12月26日(2008.12.26)
【出願人】(000217686)電源開発株式会社 (207)
【出願人】(507214083)メタウォーター株式会社 (277)
【出願人】(000165273)月島機械株式会社 (253)
【Fターム(参考)】
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