自発光型表示装置
【課題】画面全体の明るさが瞬間的に変化する(フラッシュ)現象を防止または抑制する。
【解決手段】発光ダイオード(OLED)、駆動トランジスタMdおよび保持キャパシタCsを含む画素回路3(i,j)と、画素回路3(i,j)の駆動を行う駆動回路とを有する。駆動回路は、OLEDを発光可能とする前に駆動トランジスタMdに対し閾値電圧補正と移動度補正を行う期間において、OLEDの非発光状態から駆動トランジスタMdの予備の閾値電圧補正(空Vth補正)を行い、OLEDを逆バイアス状態にして保持キャパシタCsの保持電圧を初期化する補正準備を一定期間行ってから閾値電圧補正の本動作と移動度補正を行う。
【解決手段】発光ダイオード(OLED)、駆動トランジスタMdおよび保持キャパシタCsを含む画素回路3(i,j)と、画素回路3(i,j)の駆動を行う駆動回路とを有する。駆動回路は、OLEDを発光可能とする前に駆動トランジスタMdに対し閾値電圧補正と移動度補正を行う期間において、OLEDの非発光状態から駆動トランジスタMdの予備の閾値電圧補正(空Vth補正)を行い、OLEDを逆バイアス状態にして保持キャパシタCsの保持電圧を初期化する補正準備を一定期間行ってから閾値電圧補正の本動作と移動度補正を行う。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイアス電圧が印加されたときに自発光する発光ダイオードと、その駆動電流を制御する駆動トランジスタと、駆動トランジスタの制御ノードに結合する保持キャパシタとを、画素回路内に有する自発光型表示装置と、その駆動方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自発光型表示装置に用いられる電気光学素子として、有機エレクトロルミネッセンス(Organic Electro Luminescence)素子が知られている。有機エレクトロルミネッセンス素子は、一般に、OLED(Organic Light Emitting Diode)と称され、発光ダイオードの一種である。
【0003】
OLEDは、下部電極と上部電極との間に、有機正孔輸送層や有機発光層などとして機能する複数の有機薄膜を積層させている。OLEDは、有機薄膜に電界をかけると発光する現象を利用した電気光学素子であり、OLEDを流れる電流値を制御することで発色の階調を得ている。そのため、OLEDを電気光学素子として用いる表示装置は、OLEDの電流量を制御するための駆動トランジスタと、駆動トランジスタの制御電圧を保持するキャパシタとを含む画素回路が画素ごとに設けられている。
【0004】
画素回路は様々なものが提案され、主なものでは4トランジスタ(4T)・1キャパシタ(1C)型、4T・2C型、5T・1C型、3T・1C型などが知られている。
これらは何れもTFT(Thin Film Transistor)から形成されるトランジスタの特性バラツキに起因する画質低下を防止するものであり、データ電圧が一定ならば画素回路内部で駆動電流が一定となるように制御し、これによって画面全体のユニフォミティ(輝度の均一性)を向上させることを目的とする。とくに画素回路内でOLEDを電源に接続するときに、入力する映像信号のデータ電位に応じて電流量を制御する駆動トランジスタの特性バラツキが、直接的にOLEDの発光輝度に影響を与える。
【0005】
駆動トランジスタの特性バラツキで最大のものは閾値電圧のバラツキである。このため、駆動トランジスタの閾値電圧バラツキに因る影響が駆動電流からキャンセルされるように、駆動トランジスタのゲートソース間電圧を補正する必要がある。以下、この補正を「閾値電圧補正または閾値補正」という。
さらに、閾値電圧補正を行うことを前提に、駆動トランジスタの電流駆動能力から閾値バラツキ起因成分等を減じた駆動能力成分(一般には、移動度と称されている)の影響がキャンセルされるように上記ゲートソース間電圧を補正すると、より一層高いユニフォミティが得られる。以下、この駆動能力成分の補正を「移動度補正」という。
駆動トランジスタの閾値電圧や移動度の補正については、例えば、特許文献1に詳しく説明されている。
【特許文献1】特開2006−215213号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1に記載されているように、画素回路の構成によっては、閾値電圧や移動度の補正時に発光ダイオード(有機EL素子)を非発光とするため、当該発光ダイオードを逆バイアスした状態で上記補正を行う場合がある。この場合、表示画面が切り替わる際に、時として、画面全体の明るさが瞬間的に変化する現象が生じる。この現象は、瞬間的に画面が明るく光るような場合が特に目立つことから、以下、「フラッシュ現象」と称する。
本発明は、この画面全体の明るさが瞬間的に変化する(フラッシュ)現象を防止または抑制することができる自発光型表示装置と、その駆動方法に関する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一形態(第1形態)に関わる自発光型表示装置は、発光ダイオード、前記発光ダイオードの駆動電流経路に接続される駆動トランジスタ、および、前記駆動トランジスタの制御ノードに結合する保持キャパシタを含む画素回路と、当該画素回路の駆動を行う駆動回路とを有する。
前記駆動回路は、前記発光ダイオードを発光可能とする前に前記駆動トランジスタに対し閾値電圧補正と移動度補正を行う期間において、前記発光ダイオードの非発光状態から前記駆動トランジスタの予備の閾値電圧補正(空Vth補正)を行い、前記発光ダイオードを逆バイアス状態にして前記保持キャパシタの保持電圧を初期化する補正準備を一定期間行ってから閾値電圧補正の本動作と前記移動度補正を行う。
【0008】
本発明の他の形態(第2形態)に関わる自発光型表示装置は、上記第1形態の特徴に加えて、次の特徴を有する。
すなわち、第2形態の自発光型表示装置は、複数の前記画素回路が行列状に配置される画素アレイを有し、前記複数の画素回路のそれぞれが、前記制御ノードに対し、データ電位をサンプリングして入力するサンプリングトランジスタを含み、前記駆動回路は、前記サンプリングトランジスタをオフさせた状態で、前記駆動トランジスタの、前記発光ダイオードが接続された側と反対側のノードの電源電圧接続を解除することにより前記発光ダイオードを逆バイアス状態に設定し、前記空Vth補正の後に前記補正準備を行ってから前記閾値電圧補正の本動作と前記移動度の補正を行い、前記補正準備では、前記電源電圧接続の解除期間を、前記画素アレイ内の画素行ごとに決められた全ての画面表示期間内で一定とする。
【0009】
本発明の他の形態(第3形態)に関わる自発光型表示装置は、上記第2形態の特徴に加えて、次の特徴を有する。
すなわち、第3形態の自発光型表示装置において、前記駆動回路は、直前の他の前記画面表示期間における発光終了を、前記逆バイアス状態の設定の開始により変更可能に制御する。
【0010】
本発明の他の形態(第4形態)に関わる自発光型表示装置は、上記第1形態の特徴に加えて、次の特徴を有する。
すなわち、第4形態の自発光型表示装置は、前記画素回路が、前記非発光状態の設定と、前記駆動トランジスタの閾値電圧の等価電圧を前記保持キャパシタに保持させる閾値電圧補正(前記空Vth補正)とを行い、前記補正準備と、閾値電圧補正の本動作と、データ電位を前記制御ノードに書き込んで前記駆動トランジスタの駆動能力に応じて前記保持キャパシタの保持電圧を調整する移動度補正とを、一定の期間内に前記発光ダイオードの逆バイアス状態で行い、前記データ電位に応じて、前記発光ダイオードを発光可能な状態に順バイアスする。
【0011】
本発明の他の形態(第5〜第6形態)に関わる自発光型表示装置は、特に詳細は記述しないが、上記第1〜第4形態を、具体的な信号線や制御線のレベル制御で示すものである。
【0012】
本発明の他の形態(第7形態)に関わる自発光型表示装置の駆動方法は、発光ダイオード、前記発光ダイオードの駆動電流経路に接続される駆動トランジスタ、および、前記駆動トランジスタの制御ノードに結合する保持キャパシタを含む画素回路を備える自発光型表示装置の駆動方法であって、前記発光ダイオードの非発光状態を設定する非発光設定ステップと、前記駆動トランジスタの予備の閾値電圧電補正を行う空Vth補正ステップと、前記発光ダイオードを逆バイアス状態にして前記保持キャパシタの保持電圧を初期化する補正準備ステップと、前記駆動トランジスタの閾値電圧補正を行う本動作の閾値電圧補正ステップと、前記画素回路にデータ電圧を書き込んで前記駆動トランジスタの移動度補正を行う移動度補正ステップと、前記書き込んだデータ電圧に応じて、前記発光ダイオードを発光可能な状態に順バイアスする発光設定ステップと、を含む。
【0013】
本発明の他の形態(第8形態)に関わる自発光型表示装置の駆動方法は、上記第7形態の特徴に加え、次の特徴を有する。
すなわち、第8形態の自発光型表示装置の駆動方法は、前記空Vth補正ステップ、前記補正準備ステップ、前記本動作の閾値電圧補正ステップ、前記移動度補正ステップ、前記発光設定ステップ、および、前記非発光設定ステップを、この順で、前記画素回路が行列状に配置された画素アレイ内の画素行ごとに決められた行表示期間に対応して実行する。
【0014】
本発明の他の形態(第9形態)に関わる自発光型表示装置の駆動方法は、上記第7形態の特徴に加え、次の特徴を有する。
すなわち、第9形態の自発光型表示装置の駆動方法は、前記補正準備ステップ、前記本動作の閾値電圧補正ステップ、前記移動度補正ステップ、前記発光設定ステップ、前記空Vth補正ステップ、および、前記非発光設定ステップを、この順で、前記画素回路が行列状に配置された画素アレイ内の画素行ごとに決められた行表示期間に対応して実行する。
【0015】
本発明の他の形態(第10形態)に関わる自発光型表示装置の駆動方法は、上記第7形態の特徴に加え、次の特徴を有する。
すなわち、第10形態の自発光型表示装置の駆動方法は、前記補正準備ステップでは、前記逆バイアス状態の設定期間を、全ての前記画面表示期間内で一定とする。
【0016】
ところで、本発明者等は、前述した「フラッシュ現象」の原因を解析した結果、この現象は、発光ダイオード(有機EL素子等)の逆バイアス期間の長短に関係していることを見出している。
有機EL素子の逆バイアスについて、上記特許文献1には、5T・1C型の画素回路において、有機発光ダイオードOLED(有機EL素子)を逆バイアスした状態で閾値電圧補正を行う制御が記載されている(上記特許文献1の第1および第2実施形態参照、例えば第1実施形態における段落[0046]等の記載参照)。特許文献1では、1つの画素に対する駆動のみに着目した説明をしているため記載されていないが、実際の有機ELディスプレイにおいては、有機EL素子の逆バイアスは、1フィールド前の画面表示期間(1F)における発光終点から開始され、補正期間を経て次の発光時に解消される。そのため、逆バイアスの長さ(始点)が、有機EL素子の発光許可期間の長さに依存し、時として変化する。
【0017】
有機EL素子は、流れる電流量が極端に大きくなると経時変化により、その特性が低下する。この特性の低下は、前述した閾値電圧や移動度の補正である程度補償(補正)されるが、極端な特性低下は完全に補正できないため、特性低下は最初から小さいほうが望ましい。このため、発光輝度を上げる制御を行う場合、駆動電流量を上げるのではなく発光許可期間を長くする制御(パルスのデューティ比制御)を行うことがある。
また、電流周囲の環境が明るいときは全体の発光輝度を上げて画面を見やすくするために、上記補正の限界を考慮して発光許可期間を長くする制御を行うことがある。さらに、低消費電力化の要請から輝度を下げるが、このとき駆動電流量を下げるのではなく発光時間を短くして対処する場合がある。
【0018】
画面の明るさを、平均的な画素の発光輝度を上下して変化させる場合、その画面の切り替え時に「フラッシュ現象」が観測されることから、逆バイアス期間の長短に依存して、フラッシュ現象の出方が変わってくる。この観点から、本発明者らは、発光ダイオード(有機EL素子等)を逆バイアスするときに、発光ダイオードの等価容量値が時間的に変化し、これが補正の精度に影響を与えるため、輝度が画面全体で変化しているという結論を得ている。
なお、発光ダイオードの非発光設定(発光している場合は発光停止)は、上述のように逆バイアス状態の設定によって行われることが一般的であるが、逆バイアス状態にしなくとも、例えばバイアスゼロでも非発光設定は可能である。
【0019】
よって、本発明の上述した第1〜第10形態では、発光ダイオードの非発光設定(発光している場合は発光停止、例えば逆バイアス状態設定)の動作と、補正準備のために行う逆バイアス状態設定との間に、発光ダイオードの非発光状態から駆動トランジスタの予備の閾値電圧補正(空Vth補正)を行い、この空Vth補正から後の逆バイアス設定期間(一般には補正準備期間)を一定としている。空Vth補正は、その後に行う閾値電圧補正の本動作と制御自体は似ており、保持キャパシタに閾値電圧を保持させる動作である。しかし、空Vth補正の後に保持キャパシタの保持電圧初期化(補正準備)が行われるため、空Vth補正で行った閾値電圧補正は無効となる(本動作の閾値電圧補正に寄与しない)。空Vth補正は初期化で行われる逆バイアス設定の始点を決める作用があり、これにより再度の初期化が一定期間だけ行われる。
【0020】
保持電圧の初期化期間、即ち逆バイアス設定期間を一定期間とするには、たとえば、駆動トランジスタに対する電源電圧接続の解除期間を一定とするという、より具体的な制御手法が採用できる(第2形態)。また、保持電圧の初期化と、閾値電圧補正の本動作と、移動度補正とを、一定の期間内に発光ダイオードを逆バイアスした状態で行う場合(第4形態)、閾値電圧補正の本動作と、移動度補正の動作は、それぞれ一定の期間に決められるとするならば、保持電圧の初期化における逆バイアス設定期間も一定となる。
【0021】
なお、第4形態のような場合、空Vth補正期間の最中も発光ダイオードが逆バイアスされることがあるが、空Vth補正時に発光ダイオードの一方電極に対し電荷の移動があるため、それまでの発光ダイオードが受けていた逆バイアスのための強い電気的なストレスが一旦緩和され、発光ダイオードの等価容量値もほぼリセットされる。このため、移動度補正の精度に関係する電気的ストレスに起因した発光ダイオードの等価容量値変化は、実質上、空Vth補正の終了後から再び開始されることになり、この電気的ストレスを受ける期間が一定なため、補正精度が向上する。
【0022】
複数の画素回路が画素アレイ内で行列状に配置され、その画素行ごとに画面表示期間が決められている場合、駆動回路によって、直前の他の画面表示期間における発光終了を、非発光設定の開始により変更可能に制御してよい(第3形態参照)。この形態では、他の画面表示期間の発光終了から非発光設定が開始されるが、非発光設定を逆バイアス設定により行う場合、逆バイアス状態の設定期間が、上記発光終了をどの時点にするかによって変動する。しかし、他の形態と同様、空Vth補正期間が存在し、その後に改めて(若しくは初めて)逆バイアス設定を行うため、閾値電圧補正の本動作や移動度補正精度に関係する実効的な逆バイアス設定期間が一定となる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、閾値電圧や移動度の補正に関係する直前の実効的な逆バイアス設定期間を一定にできることから、同じデータ電圧が入力されているならば、画素の発光強度はほぼ一定となり、結果として、いわゆるフラッシュ現象を有効に防止または抑制可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態を、2T・1C型の画素回路を有する有機ELディスプレイを例として、図面を参照して説明する。
【0025】
<全体構成>
図1に、本発明の実施形態に関わる有機ELディスプレイの主要構成を示す。
図解する有機ELディスプレイ1は、複数の画素回路(PXLC)3(i,j)がマトリクス状に配置されている画素アレイ2と、画素アレイ2を駆動する垂直駆動回路(Vスキャナ)4および水平駆動回路(Hセレクタ:HSEL)5とを含む。
Vスキャナ4は、画素回路3の構成により複数設けられている。ここではVスキャナ4が、水平画素ライン駆動回路(Drive Scan)41と、書き込み信号走査回路(Write Scan)42とを含んで構成されている。Vスキャナ4およびHセレクタ5は「駆動回路」の一部であり、「駆動回路」は、Vスキャナ4とHセレクタ5の他に、これらにクロック信号を与える回路や制御回路(CPU等)など、不図示の回路も含む。
【0026】
図1に示す画素回路の符号「3(i,j)」は、当該画素回路が垂直方向(縦方向)のアドレスi(i=1,2)と、水平方向(横方向)のアドレスj(j=1,2,3)を持つことを意味する。これらのアドレスiとjは最大値をそれぞれ「n」と「m」とする1以上の整数をとる。ここでは図の簡略化のためn=2、m=3の場合を示す。
このアドレス表記は、以後の説明や図面において画素回路の素子、信号や信号線ならびに電圧等についても同様に適用する。
【0027】
画素回路3(1,1)、3(2,1)が垂直方向の映像信号線DTL(1)に接続されている。同様に、画素回路3(1,2)、3(2,2)が垂直方向の映像信号線DTL(2)に接続され、画素回路3(1,3)、3(2,3)が垂直方向の映像信号線DTL(3)に接続されている。映像信号線DTL(1)〜DTL(3)は、Hセレクタ5によって駆動される。
第1行の画素回路3(1,1)、3(1,2)および3(1,3)が書込走査線WSL(1)に接続されている。同様に、第2行の画素回路3(2,1)、3(2,2)および3(2,3)が書込走査線WSL(2)に接続されている。書込走査線WSL(1),WSL(2)は、水平画素ライン駆動回路41によって駆動される。
また、第1行の画素回路3(1,1)、3(1,2)および3(1,3)が電源走査線DSL(1)に接続されている。同様に、第2行の画素回路3(2,1)、3(2,2)および3(2,3)が電源走査線DSL(2)に接続されている。電源走査線DSL(1),DSL(2)は、書き込み信号走査回路42によって駆動される。
【0028】
映像信号線DTL(1)〜DTL(3)を含むm本の映像信号線の何れか1本を、以下、符号「DTL(j)」により表記する。同様に、書込走査線WSL(1),WSL(2)を含むn本の書込走査線の何れか1本を符号「WSL(i)」により表記し、電源走査線DSL(1),DSL(2)を含むn本の電源走査線の何れか1本を符号「DSL(i)」により表記する。
映像信号線DTL(j)に対し、表示画素行(表示ラインともいう)を単位として一斉に映像信号が排出される線順次駆動、あるいは、同一行の映像信号線DTL(j)に順次、映像信号が排出される点順次駆動があるが、本実施形態では、そのどの駆動法でもよい。
【0029】
<画素回路>
図2に、画素回路3(i,j)の一構成例を示す。
図解する画素回路3(i,j)は、有機発光ダイオードOLEDを制御する回路である。画素回路は、有機発光ダイオードOLEDの他に、NMOSタイプのTFTからなる駆動トランジスタMdおよびサンプリングトランジスタMsと、1つの保持キャパシタCsとを有する。
【0030】
有機発光ダイオードOLEDは、特に図示しないが、例えば上面発光型の場合、透明ガラス等からなる基板に形成されたTFT構造の上にアノード電極を最初に形成し、その上に、正孔輸送層、発光層、電子輸送層、電子注入層等を順次堆積させて有機多層膜を構成する積層体を形成し、この積層体の上に透明電極材料からなるカソード電極を形成した構造を有する。アノード電極が正側の電源に接続され、カソード電極が負側の電源に接続される。
【0031】
有機発光ダイオードOLEDのアノードとカソードの電極間に所定の電界が得られるバイアス電圧を印加すると、注入された電子と正孔が発光層において再結合する際に有機多層膜が自発光する。有機発光ダイオードOLEDは、有機多層膜を構成する有機材料を適宜選択することで赤(R),緑(G),青(B)の各色での発光が可能であることから、この有機材料を、例えば各行の画素にR,G,Bの発光が可能に配列することで、カラー表示が可能となる。あるいは、白色発光の有機材料を用いて、フィルタの色でR,G,Bの区別を行ってもよい。R,G,Bの他にW(ホワイト)を加えた4色構成でもよい。
【0032】
駆動トランジスタMdは、有機発光ダイオードOLEDに流す電流量を制御して表示階調を規定する電流制御手段として機能する。
駆動トランジスタMdのドレインが、電源電圧VDDの供給を制御する電源走査線DSL(i)に接続され、ソースが有機発光ダイオードOLEDのアノードに接続されている。
【0033】
サンプリングトランジスタMsは、画素階調を決めるデータ電位Vsigの供給線(映像信号線DTL(j))と駆動トランジスタMdのゲート(制御ノードNDc)との間に接続されている。サンプリングトランジスタMsのソースとドレインの一方が駆動トランジスタMdのゲート(制御ノードNDc)に接続され、もう片方が映像信号線DTL(j)に接続されている。映像信号線DTL(j)に、Hセレクタ5(図1参照)からデータ電位Vsigを持つデータパルスが所定の間隔で供給される。サンプリングトランジスタMsは、データ電位の供給期間(データパルスの持続時間(duration time))の適正なタイミングで、当該画素回路で表示すべきレベルのデータをサンプリングする。これは、サンプリングすべき所望のデータ電位Vsigを持つデータパルスの前部または後部における、レベルが不安定な遷移期間の表示映像に与える影響を排除するためである。
【0034】
駆動トランジスタMdのゲートとソース(有機発光ダイオードOLEDのアノード)との間に、保持キャパシタCsが接続されている。保持キャパシタCsの役割については、後述の動作説明で明らかにする。
【0035】
図2では、水平画素ライン駆動回路41により、低電位Vcc_Lを基準とした高電位Vcc_Hの波高値が電源電圧VDDとなる電源駆動パルスDS(i)が駆動トランジスタMdのドレインに供給され、駆動トランジスタMdの補正時や有機発光ダイオードOLEDが実際に発光する時の電源供給が行われる。
また、書き込み信号走査回路42により、比較的短い持続時間の書込駆動パルスWS(i)がサンプリングトランジスタMsのゲートに供給され、サンプリング制御が行われる。
なお、電源供給の制御は、駆動トランジスタMdのドレインと電源電圧VDDの供給線との間にトランジスタをもう1つ挿入し、そのゲートを水平画素ライン駆動回路41により制御する構成であってもよい(後述の変形例参照)。
【0036】
図2では有機発光ダイオードOLEDのアノードが駆動トランジスタMdを介して正側の電源から電源電圧VDDの供給を受け、有機発光ダイオードOLEDのカソードがカソード電位Vcathを供給する所定の電圧線(負側の電源線)に接続されている。
【0037】
通常、画素回路内の全てのトランジスタはTFTで形成されている。TFTのチャネルが形成される薄膜半導体層は、多結晶シリコン(ポリシリコン)または非晶質シリコン(アモルファスシリコン)等の半導体材料からなる。ポリシリコンTFTは移動度を高くとれるが特性ばらつきが大きいため、表示装置の大画面化に適さない。よって、大画面を有する表示装置では、一般に、アモルファスシリコンTFTが用いられる。ただし、アモルファスシリコンTFTではPチャネル型TFTが形成し難いため、上述した画素回路3(i,j)のように、すべてのTFTをNチャネル型とすることが望ましい。
【0038】
ここで、以上の画素回路3(i,j)は、本実施形態で適用可能な画素回路の一例、即ち2トランジスタ(2T)・1キャパシタ(1C)型の基本構成例である。よって、本実施形態で用いることができる画素回路は、上記画素回路3(i,j)を基本構成として、さらにトランジスタやキャパシタを付加した画素回路であってもよい(後述の変形例参照)。また、基本構成において、保持キャパシタCsを電源電圧VDDの供給線と駆動トランジスタMdのゲートとの間に接続するものもある。
具体的に、本実施形態で採用可能な2T・1C型以外の画素回路として、後述する変形例で幾つかを簡単に述べるが、例えば、4T・1C型、4T・2C型、5T・1C型、3T・1C型などであってもよい。
【0039】
図2の構成を基本とする画素回路では、閾値電圧補正時や移動度補正時に有機発光ダイオードOLEDを逆バイアスすると、詳細は後述するが、有機発光ダイオードOLEDの逆バイアス時の等価容量値が保持キャパシタCsの値より十分大きくできるため、有機発光ダイオードOLEDのアノードが電位的にほぼ固定され、補正精度が向上する。このため、逆バイアス状態で補正を行うことが望ましい。
カソード電位Vcathを接地せずに、カソードを所定の電圧線に接続しているのは、逆バイアスを行うためである。有機発光ダイオードOLEDを逆バイアスするには、例えば、電源駆動パルスDS(i)の基準電位(低電位Vcc_L)より、カソード電位Vcathを小さくする。
【0040】
<表示制御>
図2の回路におけるデータ書き込み時の動作を、閾値電圧と移動度の補正動作と併せて説明する。これらの一連の動作を「表示制御」という。
最初に、補正対象となる駆動トランジスタと有機発光ダイオードOLEDの特性について説明する。
【0041】
図2に示す駆動トランジスタMdの制御ノードNDcには、保持キャパシタCsが結合されている。映像信号線DTL(j)を伝送するデータパルスの有効電位であるデータ電位VsigがサンプリングトランジスタMsでサンプリングされ、これにより得られた電位が制御ノードNDcに印加され、保持キャパシタCsで保持される。駆動トランジスタMdのゲートに所定の電位が印加された時、そのドレイン電流Idsは、印加電位に応じた値を持つゲートソース間電圧Vgsに応じて決まる。
ここで駆動トランジスタMdのソース電位Vsを、上記データパルスの基準電位(データ基準電位Vo)に初期化してから、サンプリングを行うとする。サンプリング後のデータ電位Vsig、より正確には、データ基準電位Voとデータ電位Vsigとの電位差で規定されるデータ電圧Vinの大きさに応じたドレイン電流Idsが駆動トランジスタMdに流れ、これがほぼ有機発光ダイオードOLEDの駆動電流Idとなる。
よって、駆動トランジスタMdのソース電位Vsがデータ基準電位Voで初期化されている場合、有機発光ダイオードOLEDがデータ電位Vsigに応じた輝度で発光する。
【0042】
図3に、有機発光ダイオードOLEDのI−V特性のグラフと、駆動トランジスタMdのドレイン電流Ids(OLEDの駆動電流Idにほぼ相当)の一般式を示す。
有機発光ダイオードOLEDは、よく知られているように、経時変化によりI−V特性が図3のように変化する。このとき、図2の画素回路では、駆動トランジスタMdが一定のドレイン電流Idsを流そうとしても、図3に示すグラフから分かるように有機発光ダイオードOLEDの印加電圧が大きくなるため、有機発光ダイオードOLEDのソース電位Vsが上昇する。このとき駆動トランジスタMdのゲートはフローティング状態であるため、ほぼ一定のゲートソース間電圧Vgsが維持されるように、ソース電位と共にゲート電位も上昇し、ドレイン電流Idsはほぼ一定に保たれ、このことが有機発光ダイオードOLEDの発光輝度を変化させないように作用する。
【0043】
しかしながら、画素回路ごとに駆動トランジスタMdの閾値電圧Vth、移動度μが異なっているため、図3の式に応じて、ドレイン電流Idsにバラツキが生じ、表示画面内で与えられているデータ電位Vsigが同じ2つの画素であっても、当該2つの画素間で発光輝度が異なる。
【0044】
なお、図3の式において、符号“Ids”は、飽和領域で動作する駆動トランジスタMdのドレインとソース間に流れる電流を表す。また、当該駆動トランジスタMdにおいて、“Vth”が閾値電圧を、“μ”が移動度を、“W”が実効チャネル幅(実効ゲート幅)を、“L”が実効チャネル長(実効ゲート長)を、それぞれ表す。また、“Cox”が当該駆動トランジスタMdの単位ゲート容量、即ち単位面積当たりのゲート酸化膜容量と、ソースやドレインとゲート間のフリンジング容量との総和を表す。
【0045】
Nチャネル型の駆動トランジスタMdを有する画素回路は、駆動能力が高く製造プロセスを簡略化できる利点があるが、閾値電圧Vthや移動度μのばらつきを抑えるため、それらの補正動作を、発光可能なバイアス設定に先立って行う必要がある。
【0046】
図4(A)〜図4(E)は、表示制御における各種信号や電圧の波形を示すタイミングチャートである。ここでの表示制御では行単位でデータ書き込みを順次行うものとする。図4では、第1行の画素回路3(1,j)が書き込み対象の行(表示ライン)であり、第1行の表示ラインに対し、フィールドF(1)において表示制御を行う場合を示している。なお、図4では、それより前のフィールドF(0)の制御については、その一部(発光停止の制御)を示している。
【0047】
図4(A)は、映像信号Ssigの波形図である。図4(B)は、書込対象の表示ラインに供給される書込駆動パルスWSの波形図である。図4(C)は、書込対象の表示ラインに供給される電源駆動パルスDSの波形図である。図4(D)は、書込対象の表示ラインに属する1つの画素回路3(1,j)における駆動トランジスタMdのゲート電位Vg(制御ノードNDcの電位)の波形図である。図4(E)は、書込対象の表示ラインに属する1つの画素回路3(1,j)における駆動トランジスタMdのソース電位Vs(有機発光ダイオードOLEDのアノード電位)の波形図である。
【0048】
[期間の定義]
図4(A)の上部に記載しているように、1フィールド(または1フレーム)前画面の発光許可期間(LM(0))の後に時系列の順で、前画面の発光停止期間(LM−STOP)、「空Vth補正」を行う空Vth補正期間(VTC0)、「補正準備」を行う初期化期間(INT)、「閾値電圧補正の本動作正」を行う閾値電圧補正期間(VTC)、書込み&移動度補正期間(W&μ)を経て、当該第1行の画素回路3(1,j)の発光許可期間(LM(1))に処理が推移する。
【0049】
[駆動パルスの概略]
図4では、波形図の適当な箇所に時間表示を、符号“T0C,T0D,T10,T11,…,T19,T1A,T1B,…,T1D“により示している。時間“T0C,T0D”がフィールドF(0)に対応し、時間“T10〜T1D”がフィールドF(1)に対応する。
【0050】
書込駆動パルスWSは、図4(B)に示すように、“L”レベルで非アクティブ、“H”レベルでアクティブの所定数のサンプリングパルスSP0〜SPeを含む。サンプリングパルスSP0とSP1の出現周期は一定であるが、サンプリングパルスSP1とSPeの間にサンプリングパルスは出現しない。3つのサンプリングパルスのうち、サンプリングパルスSP1のみ、その後に書き込みパルスWPが重畳されている。このように、サンプリングパルスSP0〜SPeと書き込みパルスWPから書込駆動パルスWSが構成される。
【0051】
m本(数百〜千数百本)の映像信号線DTL(j)(図1および図2参照)に供給される映像信号Ssigは、線順次表示ではm本の映像信号線DTL(j)に同時に供給される。そして、映像信号Ssigをサンプリング後に得られるデータ電圧を反映した信号振幅Vinは、図4(A)に示すように、データ基準電位Voを基準とした映像信号パルスPPの波高値に相当する。以下、信号振幅Vinをデータ電圧Vinと呼ぶ。
図4(A)に2つ示す映像信号パルスPP(2),PP(1)うち、第1行にとって重要な映像信号パルスは、書き込みパルスWPと時間的に重なる映像信号パルスPP(1)である。映像信号パルスPP(1)のデータ基準電位Voからの波高値が、図4に示す表示制御で表示させたい(書き込みたい)階調値、即ちデータ電圧Vinに該当する。この階調値(=Vin)は、第1行の各画素で同じ場合(単色表示の場合)もあるが、通常、表示画素行の階調値に応じて変化している。
【0052】
図4は、主として、第1行内における1つの画素についての動作を説明するためのものであるが、同一行の他の画素では、この表示階調値が異なることがある以外、制御自体は、図示の画素駆動制御と時間をずらして並列に実行される。
【0053】
駆動トランジスタMdのドレイン(図2参照)に供給される電源駆動パルスDSの電位は、図4(C)に示すように、時間T0Cから空Vth補正期間(VTC0)の開始(時間T10)まで非アクティブの“L”レベル、すなわち低電位Vcc_Lで保持され、空Vth補正期間(VTC0)の開始とほぼ同時に(時間T10)、アクティブの“H”レベル、すなわち高電位Vcc_Hに推移する。高電位Vcc_Hの保持は空Vth補正期間(VTC0)の終了(時間T13)で終了し、そこから始まる初期化期間(INT、時間T13〜T16)は、電源駆動パルスDSの電位が再び低電位Vcc_Lに戻される。電源駆動パルスDSの電位は、時間T16で高電位Vcc_Hに戻された後は、発光許可期間(LM(1))が終了するまで続く。
【0054】
本実施形態の表示制御の特徴は、空Vth補正期間(VTC0)が存在することである。本実施形態において、このことを別の観点で言うと、電源駆動パルスDSの電位が共に低電位Vcc_Lである発光停止期間(LM−STOP)と初期化期間(INT)を、その2つの期間の間に空Vth補正期間(VTC0)を挿入することにより時間的に分離することである。
【0055】
最後のサンプリングパルスSPeは、発光停止期間(LM−STOP)の低電位Vcc_Lの保持期間中に“L”レベルから“H”レベルに推移する。また、サンプリングパルスSP1は、初期化期間(INT)の低電位Vcc_Lの保持期間中に“L”レベルから“H”レベルに推移し、初期化期間(INT)が終了して電源駆動パルスDSの電位が高電位Vcc_Hで保持されている期間途中で“H”レベルから“L”レベルに推移する。
【0056】
なお、第2行(の画素回路3(2,j))、第3行(の画素回路3(3,j))については、特に図示しないが、例えば、1水平期間ずつ各パルス(書込駆動パルスWSと電源駆動パルスDS)が順次遅れて印加される。
よって、ある行に対して「閾値電圧補正」と「書込み&移動度補正」とを行っている期間に、それより前の行に対しては「空Vth補正」や「初期化」が実行されることから、「閾値電圧補正」と「書込み&移動度補正」に限ってみると行単位でシームレスな処理が実行される。よって、無駄な期間は発生しない。
【0057】
つぎに、以上のパルス制御の下における、図4(D)および図4(E)に示す駆動トランジスタMdのソースやゲートの電位変化と、それに伴う動作を、図4(A)に示す期間ごとに説明する。
なお、ここでは図5(A)〜図8(B)に示す第1行の画素回路3(1,j)の動作説明図、ならびに、図2等を適宜参照する。
【0058】
[前画面の発光許可期間(LM(0))]
第1行の画素回路3(1,j)について、時間T0C以前のフィールドF(0)(以下、前画面ともいう)における発光許可期間(LM(0))では、図4(B)に示すように書込駆動パルスWSが“L”レベルであるため、サンプリングトランジスタMsがオフしている。このとき図4(C)に示すように、電源駆動パルスDSが高電位Vcc_Hの印加状態にある。
【0059】
図5(A)に示すように、前画面のデータ書き込み動作によって駆動トランジスタMdのゲートにデータ電圧Vin0が入力され保持されている。このときデータ電圧Vin0に応じて、有機発光ダイオードOLEDが発光状態にあるとする。駆動トランジスタMdは飽和領域で動作するように設定されているため、有機発光ダイオードOLEDに流れる駆動電流Id(=Ids)は、保持キャパシタCsに保持されている駆動トランジスタMdのゲートソース間電圧Vgsに応じて、前述した図3に示す式から算出される値をとる。
【0060】
[発光停止期間(LM−STOP)]
図4において時間T0Cで発光停止処理が開始される。
時間T0Cになると、水平画素ライン駆動回路41(図2参照)が、図4(C)に示すように、電源駆動パルスDSを高電位Vcc_Hから低電位Vcc_Lに切り替える。駆動トランジスタMdは、今までドレインとして機能していたノードの電位が低電位Vcc_Lにまで急激に落とされ、ソースとドレインの電位が逆転するため、今までドレインであったノードをソースとし、今までソースであったノードをドレインとして、当該ドレインの電荷(ただし、図の表記ではソース電位Vsのままとする)を引き抜くディスチャージ動作が行われる。
したがって、図5(B)に示すように、今までとは逆向きのドレイン電流Idsが駆動トランジスタMdに流れる。
【0061】
発光停止期間(LM−STOP)が開始すると、図4(E)に示すように、時間T0Cを境に駆動トランジスタMdのソース(現実の動作上はドレイン)が急激に放電され、ソース電位Vsが低電位Vcc_Lの近くまで低下する。サンプリングトランジスタMsのゲートはフローティング状態であるため、ソース電位Vsの低下に伴ってゲート電位Vgも低下する。
このとき、低電位Vcc_Lが有機発光ダイオードOLEDの発光閾値電圧Vth_oled.とカソード電位Vcathの和よりも小さいとき、つまり“Vcc_L<Vth_oled.+Vcath”であれば有機発光ダイオードOLEDは消光する。
【0062】
次に、書き込み信号走査回路42(図2参照)が、図4(B)に示すように、時間T0Dにて書込走査線WSL(1)の電位を“L”レベルから“H”レベルに遷移させて発生するサンプリングパルスSP0を、サンプリングトランジスタMsのゲートに与える。
時間T0Dまでには、映像信号Ssigの電位がデータ基準電位Voに切り替えられている。したがって、サンプリングトランジスタMsは、映像信号Ssigのデータ基準電位Voをサンプリングして、サンプリング後のデータ基準電位Voを駆動トランジスタMdのゲートに伝達する。
このサンプリング動作によって、図4(D)および図4(E)に示すように、ゲート電位Vgの値がデータ基準電位Voに収束し、それに伴ってソース電位Vsの値は低電位Vcc_Lに収束する。
ここでデータ基準電位Voは、電源駆動パルスDSの高電位Vcc_Hより低く、低電位Vcc_Lより高い所定の電位である。
【0063】
このサンプリング動作は、後述する初期化と同じ動作であるが、本実施形態では必ずしも初期化する必要はなく、次の空Vth補正の動作が開始できる程度の電位低下であればよい。
初期化の場合、駆動トランジスタMdのゲートソース間電圧Vgsが駆動トランジスタMdの閾値電圧Vth以上となるように電源駆動パルスDSの低電位Vcc_Lを設定している。具体的には、図5(C)に示すように、ゲート電位Vgがデータ基準電位Voになると、これに連動してソース電位Vsが電源駆動パルスDSの低電位Vcc_Lとなるため、保持キャパシタCsの保持電圧が低下し、“Vo−Vcc_L”となる。この保持電圧“Vo−Vcc_L”はゲートソース間電圧Vgsそのものであり、ゲートソース間電圧Vgsが駆動トランジスタMdの閾値電圧Vthよりも大きくないと、その後に閾値電圧補正動作を行なうことができないために、“Vo−Vcc_L>Vth”とするように電位関係が決められている。
【0064】
図4(B)に示す最後のサンプリングパルスSPeは、時間T0Dから十分な時間が経過した時間にて終了し、サンプリングトランジスタMsが一旦オフする。
その後、時間T10でフィールドF(1)に対する処理が開始される。
【0065】
[空Vth補正期間(VTC0)]
時間T10では図4(B)に示すように最初のサンプリングパルスSP0が立ち上がっており、サンプリングトランジスタMsがオンしている。この状態で、時間T10にて電源駆動パルスDSの電位が低電位Vcc_Lから高電位Vcc_Hに切り替わり、空Vth補正期間(VTC0)が開始する。
【0066】
空Vth補正期間(VTC0)の開始時(時間T10)の直前において、オン状態のサンプリングトランジスタMsがデータ基準電位Voをサンプリングしている状態であるため、図6(A)に示すように、駆動トランジスタMdのゲート電位Vgは、一定のデータ基準電位Voで電気的に固定された状態にある。
この状態で時間T10にて、電源駆動パルスDSの電位が低電位Vcc_Lから高電位Vcc_Hに遷移すると、駆動トランジスタMdのソースとドレイン間に“電源駆動パルスDSの波高値に相当する電圧が印加される。そのため、駆動トランジスタMdに電源からドレイン電流Idsが流れるようになる。
【0067】
ドレイン電流Idsによって駆動トランジスタMdのソースが充電され、図4(E)に示すようにソース電位Vsが上昇するため、それまで“Vo−Vcc_L”の値をとっていた駆動トランジスタMdのゲートソース間電圧Vgs(保持キャパシタCsの保持電圧)は、徐々に小さくなっていく(図6(A)参照)。
ゲートソース間電圧Vgsの低下速度が速い場合、図4(E)に示すように、空Vth補正期間(VTC0)内にソース電位Vsの上昇が飽和する。この飽和は駆動トランジスタMdがソース電位上昇によりカットオフするために起こる。よって、ゲートソース間電圧Vgs(保持キャパシタCsの保持電圧)は、駆動トランジスタMdの閾値電圧Vthとほぼ等しい値に収束する。
【0068】
なお、図6(A)の動作では、駆動トランジスタMdを流れるドレイン電流Idsが保持キャパシタCsの一方電極を充電する以外に、有機発光ダイオードOLEDの容量Coled.を充電する。このとき、有機発光ダイオードOLEDの容量Coled.が保持キャパシタCsより十分大きいという前提では、ドレイン電流Idsの殆どが保持キャパシタCsの充電に使用され、その場合、ゲートソース間電圧Vgsの収束点が閾値電圧Vthにほぼ等しい値をとる。
上記正確な閾値電圧補正を保証するには、容量Coled.を十分大きくする意図で有機発光ダイオードOLEDを逆バイアスすることが望ましいが、ここでは正確な閾値電圧補正は不要なので、有機発光ダイオードOLEDを逆バイアスすることは必須ではない。ただし、有機発光ダイオードOLEDを確実に消灯するようにカソード電位Vcathが決められている。
【0069】
空Vth補正期間(VTC0)は時間T13で終了するが、その前の時間T11で書込駆動パルスWSが非アクティブにされサンプリングパルスSP0が終了している。これにより、図6(B)に示すように、サンプリングトランジスタMsがオフし、駆動トランジスタMdのゲートがフローティング状態となる。このときのゲート電位Vgはデータ基準電位Voを維持している。
サンプリングパルスSP0が時間T11で終了し、次のサンプリングパルスSP1が印加されるまでの間(時間T11〜T15)に、2行目のデータ書き込み等に必要な映像信号パルスPP(2)の通過を待つ必要がある。
【0070】
[初期化期間(INT)]
本実施形態では、サンプリングトランジスタMsをオフした状態で電源駆動パルスDSの電位を高電位Vcc_Hから低電位Vcc_Lに切り替え、これにより初期化期間(INT)が開始する。
初期化では、図7(A)に示すように電源駆動パルスDSの電位が低電位Vcc_Lとなるため、発光停止期間(LM−STOP)の放電と同様、駆動トランジスタMdのソースとドレインが入れ替わり、駆動トランジスタMdがオンして、ソース(実際にはドレイン)の電荷が放電され、ソース電位Vsが低電位Vcc_L付近まで急速に低下する。
【0071】
ソース電位Vsの低下に伴って、フローティング状態のゲートの電位(Vg)も低下する。このとき、ソース電位Vsの低下量がそのままゲート電位Vgの低下量とはならず、所定の容量結合比に応じて、ソース電位Vsの低下量の一部がゲート電位Vgの低下量となる。そのため、保持キャパシタCsの保持電圧は、元の閾値電圧相当量より若干大きくなる。
【0072】
次に、書き込み信号走査回路42(図2参照)が、図4(B)に示すように、時間T15にて書込駆動パルスWSを“L”レベルから“H”レベルに遷移させてサンプリングパルスSP1を、サンプリングトランジスタMsのゲートに与える。
時間T15より前の時間T14で、映像信号パルスPP(2)の印加が終了し、映像信号Ssigの電位がデータ基準電位Voに切り替えられている。したがって、時間T15でオンするサンプリングトランジスタMsは、映像信号Ssigのデータ基準電位Voをサンプリングして、サンプリング後のデータ基準電位Voを駆動トランジスタMdのゲートに伝達する。
このサンプリング動作によって、図4(D)に示すようにゲート電位Vgが上昇してデータ基準電位Voに収束する。これに伴ってソース電位Vsも一旦上昇するが、駆動トランジスタMdが引き続きオンするため、ソース電位Vsは低下に転じ、初期化期間(INT)が終了する時間T16までにはソース電位Vsが低電位Vcc_Lにまで低下して、駆動トランジスタMdはオフする。
【0073】
以上の初期化動作において、発光停止期間(LM−STOP)の放電時と同様、データ基準電位Voは、電源駆動パルスDSの高電位Vcc_Hより低く、低電位Vcc_Lより高い所定の電位である。また、その後に閾値電圧補正動作を行なうことができるように、“Vo−Vcc_L>Vth”とするように電位関係が決められている。
初期化動作では有機発光ダイオードOLEDを逆バイアスするようにカソード電位Vcathが、低電位Vcc_Lより高い所定の電位に予め制御されている。
【0074】
[閾値電圧補正期間(VTC)]
その後、時間T16で電源駆動パルスDSの電位が低電位Vcc_Lから高電位Vcc_Hに切り替わると、閾値電圧補正期間(VTC)、即ち閾値電圧補正の本動作が開始する。閾値電圧補正期間(VTC)の動作自体は、空Vth補正期間(VTC0)についての図6(A)および図6(B)と同じである。
【0075】
時間T16の時点で図4(B)に示すように2つ目のサンプリングパルスSP1が既に立ち上がっており、サンプリングトランジスタMsがオンしている。このため、図6(A)と同様に、駆動トランジスタMdのゲート電位Vgは、一定のデータ基準電位Voで電気的に固定された状態にある。
この状態で時間T16にて、電源駆動パルスDSの電位が低電位Vcc_Lから高電位Vcc_Hに遷移すると、駆動トランジスタMdのソースとドレイン間に“電源駆動パルスDSの波高値に相当する電圧が印加される。そのため、駆動トランジスタMdがオンし、ドレイン電流Idsが流れる。
【0076】
ドレイン電流Idsによって駆動トランジスタMdのソースが充電され、図4(E)に示すようにソース電位Vsが上昇するため、それまで“Vo−Vcc_L”の値をとっていた駆動トランジスタMdのゲートソース間電圧Vgs(保持キャパシタCsの保持電圧)は、徐々に小さくなっていく(図6(A)参照)。
ゲートソース間電圧Vgsの低下速度が速い場合、図4(E)に示すように、空Vth補正期間(VTC0)内にソース電位Vsの上昇が飽和する。この飽和は駆動トランジスタMdがソース電位上昇によりカットオフするために起こる。よって、ゲートソース間電圧Vgs(保持キャパシタCsの保持電圧)は、駆動トランジスタMdの閾値電圧Vthとほぼ等しい値に収束する。
【0077】
なお、図6(A)の動作では、駆動トランジスタMdを流れるドレイン電流Idsが保持キャパシタCsの一方電極を充電する以外に、有機発光ダイオードOLEDの容量Coled.を充電する。このとき、有機発光ダイオードOLEDの容量Coled.が保持キャパシタCsより十分大きいという前提では、ドレイン電流Idsの殆どが保持キャパシタCsの充電に使用され、その場合、ゲートソース間電圧Vgsの収束点が閾値電圧Vthにほぼ等しい値をとる。
上記正確な閾値電圧補正を保証するために、閾値電圧補正期間(VTC)では、有機発光ダイオードOLEDが逆バイアスされた状態で閾値電圧補正を行う。逆バイアス状態では有機発光ダイオードOLEDの消灯が維持される。
【0078】
閾値電圧補正期間(VTC)は時間T19で終了するが、その前の時間T17で書込駆動パルスWSが非アクティブにされサンプリングパルスSP1が終了している。これにより、図6(B)と同様に、サンプリングトランジスタMsがオフし、駆動トランジスタMdのゲートがフローティング状態となる。このときのゲート電位Vgはデータ基準電位Voを維持している。
サンプリングパルスSP1が時間T17で終了し、時間T19までの時間T18にて映像信号パルスPP(1)を印加する、即ち映像信号Ssigの電位をデータ電位Vsigに遷移させる必要がある。これは、時間T19のデータサンプリング時にデータ電位Vsigが安定な所定レベルとなって、データ電圧Vinを正しく書き込むために、データ電位Vsigの安定化を待つためである。よって時間T18〜T19の長さは、データ電位安定化に十分な時間に設定されている。
【0079】
[閾値電圧補正の効果]
ここで仮に、駆動トランジスタのゲートソース間電圧が“Vin”だけ大きくなったとすると、ゲートソース間電圧は“Vin+Vth”となる。また、閾値電圧Vthが大きい駆動トランジスタと、これが小さい駆動トランジスタを考える。
前者の閾値電圧Vthが大きい駆動トランジスタは、閾値電圧Vthが大きい分だけゲートソース間電圧が大きく、逆に閾値電圧Vthが小さい駆動トランジスタは、閾値電圧Vthが小さいためゲートソース間電圧が小さくなる。よって、閾値電圧Vthに関していえば、閾値電圧補正動作により、そのバラツキをキャンセルして、同じデータ電圧Vinなら同じドレイン電流Idsを駆動トランジスタに流すことができる。
【0080】
なお、閾値電圧補正期間(VTC)においては、ドレイン電流Idsが専ら保持キャパシタCsの一方電極側、有機発光ダイオードOLEDの容量Coled.の一方電極側に流入することにのみ消費され、有機発光ダイオードOLEDがオンしないようにする必要がある。有機発光ダイオードOLEDのアノード電圧を“Voled.”、その発光閾値電圧を“Vth_oled.”、そのカソード電位を“Vcath”と表記すると、有機発光ダイオードOLEDをオフ状態に維持する条件は、“Voled.≦Vcath+Vth_oled.”が常に成り立つことである。
【0081】
ここで有機発光ダイオードOLEDのカソード電位Vcathを低電位Vcc_L(例えば接地電圧GND)で一定とした場合、発光閾値電圧Vth_oled.が非常に大きいときは、この式を常に成立させることも可能である。しかし、発光閾値電圧Vth_oled.は有機発光ダイオードOLEDの作製条件で決まり、また、低電圧で効率的な発光のためには発光閾値電圧Vth_oled.を余り大きくできない。よって、本実施形態では、閾値電圧補正期間(VTC)が終了するまでは、カソード電位Vcathを低電位Vcc_Lより大きく設定することによって、有機発光ダイオードOLEDを逆バイアスさせておく。
【0082】
逆バイアスのためのカソード電位Vcathは、図4に示す期間中ずっと一定のままである。ただし、空Vth補正によって逆バイアスが解除される値に、カソード電位Vcathの一定電位が設定される。したがって、閾値電圧補正時よりソース電位Vsが高くなる時間T19より後に、逆バイアスが解除され、この状態で移動度補正や発光のための処理が行われ、その後の発光停止処理で再び有機発光ダイオードOLEDが逆バイアス状態となる。
【0083】
[書込み&移動度補正期間(W&μ)]
時間T19から、書込み&移動度補正期間(W&μ)が開始する。このときの状態は図6(B)と同じであり、サンプリングトランジスタMsがオフ、駆動トランジスタMdがカットオフしている。駆動トランジスタMdのゲートがデータ基準電位Voで保持され、ソース電位Vsが“Vo−Vth”、ゲートソース間電圧Vgs(保持キャパシタCsの保持電圧)が“Vth”となっている。
【0084】
図4(B)に示すように、映像信号パルスPP(1)を印加中の時間T19で、書き込みパルスWPがサンプリングトランジスタMsのゲートに供給される。すると、図8(A)に示すように、サンプリングトランジスタMsがオンし、映像信号線DTL(j)のデータ電位Vsig(=Vin+Vo)のうち、ゲート電位Vg(=Vo)との差分、すなわちデータ電圧Vinが、駆動トランジスタMdのゲートに入力される。この結果、ゲート電位Vgが“Vo+Vin”となる。
ゲート電位Vgがデータ電圧Vinだけ上昇すると、これに連動してソース電位Vsも上昇する。このとき、データ電圧Vinがそのままソース電位Vsに伝達される訳ではなく、容量結合比gに応じた比率の変化分ΔVs、すなわち“g*Vin”だけソース電位Vsが上昇する。このことを次式(1)に示す。
【0085】
[数1]
ΔVs=Vin(=Vsig−Vo)×Cs/(Cs+Coled.)…(1)
ここで保持キャパシタCsの容量値を同じ符号“Cs”により示す。符号“Coled.”は有機発光ダイオードOLEDの等価容量値である。
以上より、移動度補正を考慮しなければ、変化後のソース電位Vsは“Vo−Vth+g*Vin”となる。その結果、駆動トランジスタMdのゲートソース間電圧Vgsは、“(1−g)Vin+Vth”となる。
【0086】
ここで、移動度μによるバラツキについて説明する。
先に行った閾値電圧補正で、実は、ドレイン電流Idsを流すたびに移動度μによる誤差が含まれていたものの、閾値電圧Vthのバラツキが大きいため移動度μによる誤差成分を厳密に議論しなかった。このとき容量結合比gを用いずに、単に“上昇(up)”や“低下(down)”により表記して説明したのは、移動度のバラツキを説明することによる煩雑さを回避するためである。
一方、既に説明したことであるが、厳密に閾値電圧補正が行われた後は、そのとき保持キャパシタCsに閾値電圧Vthが保持されているため、その後、駆動トランジスタMdをオンさせると、閾値電圧Vthの大小によってドレイン電流Idsが変動しない。そのため、この閾値電圧補正後の駆動トランジスタMdの導通で、仮に、当該導通時の駆動電流Idによって保持キャパシタCsの保持電圧(ゲートソース間電圧Vgs)の値に変動が生じたとすると、その変動量ΔV(正または負の極性をとることが可能)は、駆動トランジスタMdの移動度μのバラツキ、より厳密には、半導体材料の物性パラメータである純粋な意味での移動度のほかに、トランジスタの構造上あるいは製造プロセス上で電流駆動力に影響を与える要因の総合的なバラツキを反映したものとなる。
【0087】
以上のことを踏まえた上で動作説明に戻ると、図8(A)において、サンプリングトランジスタMsがオンしてゲート電位Vgにデータ電圧Vinが加わったときに、駆動トランジスタMdは、そのデータ電圧Vin(階調値)に応じた大きさのドレイン電流Idsをソースとドレイン間に流そうとする。このときドレイン電流Idsが移動度μに応じてばらつき、その結果、ソース電位Vsは、“Vo−Vth+g*Vin”に上記移動度μによる変動量ΔVを加えた“Vo−Vth+g*Vin+ΔV”となる。
【0088】
このとき有機発光ダイオードOLEDを発光させないためには、“Vs(=Vo−Vth+g*Vin+ΔV)<Vth_oled.+Vcath”が満たされるように、データ電圧Vinや容量結合比g等に応じたカソード電位Vcathを予め設定するとよい。
この設定を予め行っていると、有機発光ダイオードOLEDは逆バイアスされ、ハイインピーダンス状態にあるため発光することはなく、また、ダイオード特性ではなく単純な容量特性を示すようになる。
【0089】
このとき“Vs(=Vo−Vth+g*Vin+ΔV)<Vth_oled.+Vcath”の式が満たされている限り、ソース電位Vsが、有機発光ダイオードOLEDの発光閾値電圧Vth_oled.とカソード電位Vcathとの和を越えないため、ドレイン電流Ids(駆動電流Id)は保持キャパシタCsの容量値(同じ符号Csで表記)と有機発光ダイオードOLEDの逆バイアス時等価容量の容量値(寄生容量と同じ符号Coled.で表記)と駆動トランジスタMdのゲートソース間に存在する寄生容量(Cgsと表記)とを加算した容量“C=Cs+Coled.+Cgs”を充電するために用いられる。これにより、駆動トランジスタMdのソース電位Vsは上昇していく。このとき、駆動トランジスタMdの閾値電圧補正動作は完了しているため、駆動トランジスタMdが流すドレイン電流Idsは移動度μを反映したものとなる。
【0090】
図4(D)および(E)で“(1−g)Vin+Vth−ΔV”の式により示しているように、保持キャパシタCsに保持されるゲートソース間電圧Vgsにおいては、ソース電位Vsに加わる変動量ΔVが閾値電圧補正後のゲートソース間電圧Vgs(=(1−g)Vin+Vth)から差し引かれることになるため、負帰還がかかるように当該変動量ΔVが保持キャパシタCsに保持される。よって、以下、変動量ΔVを「負帰還量」ともいう。
この負帰還量ΔVは、有機発光ダイオードOLEDに逆バイアスをかけた状態では、ΔV=t*Ids/(Coled.+Cs+Cgs)という式で表すことができる。この式から、変動量ΔVは、ドレイン電流Idsの変動に比例して変化するパラメータであることが分かる。
【0091】
上記負帰還量ΔVの式から、ソース電位Vsに付加される負帰還量ΔVは、ドレイン電流Idsの大きさ(この大きさは、データ電圧Vinの大きさ、即ち階調値と正の相関関係にある)と、ドレイン電流Idsが流れる時間、すなわち、図4(B)に示す、移動度補正に要する時間T19から時間T1Aまでの時間(t)に依存している。つまり、階調値が大きいほど、また、時間(t)を長くとるほど、負帰還量ΔVが大きくなる。
したがって、移動度補正の時間(t)は必ずしも一定である必要はなく、逆にドレイン電流Ids(階調値)に応じて調整することが好ましい場合がある。たとえば、白表示に近くドレイン電流Idsが大きい場合、移動度補正の時間(t)は短めにし、逆に、黒表示に近くなりドレイン電流Idsが小さくなると、移動度補正の時間(t)を長めに設定するとよい。この階調値に応じた移動度補正時間の自動調整は、その機能を図2に示す書き込み信号走査回路42等に予め設けることにより実現可能である。
【0092】
[発光許可期間(LM(1))]
時間T1Aで書込み&移動度補正期間(W&μ)が終了すると、発光許可期間(LM(1))が開始する。
時間T1Aで書き込みパルスWPが終了するためサンプリングトランジスタMsがオフし、駆動トランジスタMdのゲートが電気的にフローティング状態となる。
【0093】
ところで、発光許可期間(LM(1))より前の書込み&移動度補正期間(W&μ)においては、駆動トランジスタMdはデータ電圧Vinに応じたドレイン電流Idsを流そうとするが、実際に流せるとは限らない。その理由は、有機発光ダイオードOLEDに流れる電流値(Id)が駆動トランジスタMdに流れる電流値(Ids)に比べて非常に小さいなら、サンプリングトランジスタMsがオンしているため、駆動トランジスタMdのゲート電圧Vgが“Vofs+Vin”に固定され、そこから閾値電圧Vth分下がった電位(“Vofs+Vin−Vth”)にソース電位Vsが収束しようとするからである。よって、移動度補正の時間(t)を幾ら長くしてもソース電位Vsは上記収束点を超える電位にはなれない。移動度補正は、その収束までの速さの違いで移動度μの違いをモニタし、補正するものである。このため、最大輝度の白表示のデータ電圧Vinが入力された場合でも、上記収束になる前に移動度補正の時間(t)の終点が決められる。
【0094】
発光許可期間(LM(1))が開始して駆動トランジスタMdのゲートがフローティングとなると、そのソース電位Vsは、さらに上昇可能となる。よって、駆動トランジスタMdは、入力されたデータ電圧Vinに応じた駆動電流Idを流すように動作する。
その結果、ソース電位Vs(有機発光ダイオードOLEDのアノード電位)が上昇し、図8(B)に示すように、ドレイン電流Idsが駆動電流Idとして有機発光ダイオードOLEDに流れ始めるため、有機発光ダイオードOLEDが実際に発光を開始する。発光が開始して暫くすると、駆動トランジスタMdは、入力されたデータ電圧Vinに応じたドレイン電流Idsで飽和し、ドレイン電流Ids(=Id)が一定となると、有機発光ダイオードOLEDがデータ電圧Vinに応じた輝度の発光状態となる。
【0095】
発光許可期間(LM(1))の開始から輝度が一定となるまでの間に有機発光ダイオードOLEDのアノード電位の上昇は、駆動トランジスタMdのソース電位Vsの上昇に他ならず、これを、有機発光ダイオードOLEDのアノード電圧Voled.の上昇量という意味で“ΔVoled.”とする。駆動トランジスタMdのソース電位Vsは、“Vo−Vth+g*Vin+ΔV+ΔVoled.”となる(図4(E)参照)。
一方、ゲート電位Vgは、ゲートがフローティング状態であるため、図4(D)に示すように、ソース電位Vsに連動して、その上昇量ΔVoled.と同じだけ上昇し、ドレイン電流Idsの飽和に伴ってソース電位Vsが飽和すると、ゲート電位Vgも飽和する。
その結果、ゲートソース間電圧Vgs(保持キャパシタCsの保持電圧)について、移動度補正時の値(“(1−g)Vin+Vth−ΔV”)が、発光許可期間(LM(1))中も維持される。
【0096】
発光許可期間(LM(1))においては、駆動トランジスタMdが定電流源として動作することから、有機発光ダイオードOLEDのI−V特性が経時変化し、これに伴って駆動トランジスタMdのソース電位Vsが変化することがある。
しかしながら、有機発光ダイオードOLEDのI−V特性が経時変化の有無に関係なく、保持キャパシタCsの保持電圧が(“(1−g)Vin+Vth−ΔV”)に保たれる。そして、保持キャパシタCsの保持電圧は、駆動トランジスタMdの閾値電圧Vthを補正する成分(+Vth)と、移動度μによる変動を補正する成分(−ΔV)とを含むことから、閾値電圧Vthや移動度μが、異なる画素間でばらついても駆動トランジスタMdのドレイン電流Ids、つまり、有機発光ダイオードOLEDの駆動電流Idが一定に保たれる。
【0097】
具体的には、駆動トランジスタMdは、閾値電圧Vthが大きいほど、上記保持電圧の閾値電圧補正成分(+Vth)によってソース電位Vsを下げて、ドレイン電流Ids(駆動電流Id)をより流すようにソースドレイン間電圧を大きくする。このため閾値電圧Vthの変動があってもドレイン電流Idsは一定となる。
また、駆動トランジスタMdは、移動度μが小さくて上記変動量ΔVが小さい場合は、保持キャパシタCsの保持電圧の移動度補正成分(−ΔV)によって当該保持電圧の低下量も小さくなるため、相対的に、大きなソースドレイン間電圧が確保され、その結果、ドレイン電流Ids(駆動電流Id)をより流すように動作する。このため移動度μの変動があってもドレイン電流Idsは一定となる。
【0098】
図9は、閾値電圧と移動度の補正を行っていない初期状態((A))、閾値電圧補正のみ行った状態((B))、閾値電圧と移動度の補正を行った状態((C))における、データ電位Vsigの大きさとドレイン電流Idsとの関係(駆動トランジスタMdの入出力特性)の変化を模式的に示す。
図9から、大きく乖離していた画素Aと画素Bの特性カーブが、まず閾値電圧補正で大きく近づき、つぎに移動度補正を行うとほとんど同じとみなせる程度まで近づくことが分かる。
【0099】
以上より、画素間で駆動トランジスタMdの閾値電圧Vthや移動度μがばらついても、さらに、駆動トランジスタMdの特性が経時変化しても、データ電圧Vinが同じである限り、有機発光ダイオードOLEDの発光輝度も一定に保たれる。
【0100】
つぎに、本実施形態で空Vth補正を行うことによる効果を、空Vth補正を行わない場合を比較例として説明する。
【0101】
<比較例>
図10(A)〜図10(E)は、比較例の発光制御における各種信号や電圧の波形を示すタイミングチャートである。図10において、図4と重複するパルス、時間(タイミング)、電位変化等は全て同じ符号を付して表している。よって、同じ符号に関する限り、今までの説明は当該比較例においても適用される。以下、図10の制御が図4の制御と異なる点のみ説明する。
【0102】
図10を図4と比較すると明らかなように、図10に示す制御では、図4に示す制御における空Vth補正期間(VTC0)と、これに続く初期化期間(INT)を省略し、フィールドF(1)の処理の開始と同時に、時間T10から閾値補正期間(VTC)を始めている。図4における時間T10ではサンプリングパルスSP0が活性レベルであったが、図10では、前述した[閾値補正期間(VTC)]の説明をそのまま適用するため時間T10ではサンプリングパルスSP1が活性レベルであるとする。前述した[閾値補正期間(VTC)]の説明は、“時間16”を“時間T10”に読み替えた上で、当該比較例でも重複適用される。
【0103】
図10に示す制御においては、フィールドF(0)の発光停止期間(LM−STOP)の処理が、図4における初期化期間(INT)の処理に代わるものである。よって、閾値電圧補正の本動作(閾値補正期間(VTC)の処理)の直前に行う補正準備(初期化)は、発光停止期間(LM−STOP)で行われる。
【0104】
ところが、発光停止期間(LM−STOP)は有機ELディスプレイ1を搭載したシステム(機器)の仕様により、その長さが変更される場合があり、そのことが原因となって、次に説明する、いわゆる“フラッシュ現象”が生じる。
【0105】
図11は、フラッシュ現象の原因を説明するための図である。
図11(A)には、図10(C)に約1フィールド(1F)分だけ示していた電源駆動パルスDSの波形を、4フィールド(4F)に亘って示している。
先に説明した図10において、発光許可期間(LM(0),LM(1))に比べて閾値補正期間(VTC)、書込み&移動度補正期間(W&μ)は時間的に僅かである。このため、図11(A)では閾値補正期間(VTC)と書込み&移動度補正期間(W&μ)の図示を省略し、1F期間の最初から発光許可期間(LM)が始まっている。ここで発光許可期間(LM)は電源駆動パルスDSの電位が高電位Vcc_Hをとる期間であり、その後の低電位Vcc_Lの期間は、図10に示す発光停止期間(LM−STOP)に相当する。
【0106】
図11(B)に、図11(A)と同期したタイミングで変化する発光強度Lを模式的に示している。ここではデータ電圧Vinが同じ画素行を4F期間連続表示した場合を示している。
図1(A)に示すように、最初の2F期間は、発光停止期間(LM−STOP)が比較的短いのに対し、その後の2F期間は発光停止期間(LM−STOP)が比較的長くなっている。この制御は、有機ELディスプレイ1を搭載するシステム(機器)において、例えば機器を屋外から屋内に移動させたこと等に対応して機器内のCPU等(不図示)が、周辺環境が暗くなったと判断し、見易さ向上のために表示の明るさを全体的に下げる場合がある。同じような処理は、低消費電力モードへの移行によって行われることもある。一方、有機発光ダイオードOLEDの長寿命化を意図して駆動電流を常に一定とする制御をCPU等が行う場合がある。例えば、データ電圧Vinが大きいときは駆動電流が上がり過ぎることを阻止するため駆動電流は一定で発光許可期間(LM)を長くすることにより上記データ電圧Vinに応じた発光輝度の確保を行う。その逆の場合、即ち図示のように駆動電流は大きい値で一定のまま発光許可期間(LM)を短くすることにより、データ電圧Vinの低下に対応して所定の発光輝度を得る場合がある。
【0107】
有機発光ダイオードOLEDに逆バイアスがかかる期間を決めるのは発光停止期間(LM−STOP)の長さである。よって、図示のように発光許可期間(LM)の長さが表示途中で切り替わると、それに伴って有機発光ダイオードOLEDに実際に逆バイアスがかかる期間が変化する。
【0108】
有機発光ダイオードOLEDは、逆バイアスを印加して図5(A)等に示す容量Coled.の値が安定するまでに時間がかかる。この時間は1F期間に比べて長く、ゆっくりと容量値が変化することが原因で、逆バイアス期間が長いほど容量Coled.の値が大きくなる。このため、前述した式(1)から、容量Coled.の値が大きいほどソース電位Vsの変化分ΔVsが小さくなり、駆動トランジスタMdのゲートソース間電圧Vgsが、同じデータ電圧Vinを入力していた時間的に前の他のフィールドよりも大きくなる。このゲートソース間電圧Vgsがフィールド間で大きくなると、図11(C)に示すように、次のフィールドの表示から発光強度Lが“ΔL”だけ増大し、表示面全体が一瞬のうちに明るくなる“フラッシュ現象”が発生する。
これとは逆に、発光停止期間(LM−STOP)が急に短くなると、逆バイアス期間が小さくなり、上記と逆の理由からゲートソース間電圧Vgsが急に小さくなるため、発光強度Lが下がって表示画面が一瞬のうちに暗くなる現象(フラッシュ現象の一種)が発生する。
【0109】
上記フラッシュ現象を防止するために、本実施形態に関わる図4に示す表示制御では、システムの要求で長さが変動することがある発光停止期間(LM−STOP)の直後に空Vth補正期間(VTC0)を設け、その後の補正準備のために設けられている初期化期間(INT)を一定としている。
閾値補正期間(VTC)においては、駆動トランジスタMdのソースが上昇するため、発光停止期間(LM−STOP)でかかっていた逆バイアスが一旦解除され、その後に初期化期間(INT)が始まると同時に新たに逆バイアスが有機発光ダイオードOLEDに印加される。したがって、発光強度Lに影響する逆バイアス期間は常に一定となり、上述したフラッシュ現象が有効に防止される。
【0110】
本実施形態における変形例を述べる。
【0111】
<変形例1>
図4の表示制御では、空Vth補正期間(VTC0)を1画面(1フィールド)の最初に行ったが、空Vth補正期間は、これに限定されない。例えば、発光許可期間(LM)の直後に空Vth補正を行ってもよい。
図12は、発光許可期間の後に空Vth補正を行う場合の説明図である。
図12の表示制御では、発光許可期間(LM(0))の後に発光停止期間(LM−STOP)を行い、その直後に空Vth補正期間(VTC0)を行っている。その後、非発光状態が続いてから次のフィールドF(1)が開始する。このためフィールドF(1)の最初に、一定期間の逆バイアス状態で行う初期化期間(INT)が行われ、その後、閾値補正期間(VTC)、書込み&移動度補正期間(W&μ)、発光許可期間(LM(1))が続く。
図12に示す変形例1は、発光停止期間(LM−STOP)、空Vth補正期間(VTC0)、初期化期間(INT)、閾値補正期間(VTC)、書込み&移動度補正期間(W&μ)、発光許可期間(LM)の順番としては前述した図4の場合と同様である。
【0112】
<変形例2>
画素回路は図2に示すものに限定されない。
図2の画素回路ではデータ基準電位Voは映像信号Ssigのサンプリングにより与えられるが、データ基準電位Voを、別のトランジスタを介して駆動トランジスタMdのソースやゲートに与えることもできる。
図2の画素回路ではキャパシタは保持キャパシタCsのみであるが、他の保持キャパシタを、例えば駆動トランジスタMdのドレインとゲート間にもう1つ設けてもよい。
【0113】
<変形例3>
画素回路が有機発光ダイオードOLEDの発光と非発光を制御する駆動方法には、画素回路内のトランジスタを走査線により制御する方法と、電源電圧の供給線を駆動回路によりAC駆動する方法(電源AC駆動方法)とがある。
図2の画素回路は、後者の電源AC駆動方法の一例であるが、この方法において有機発光ダイオードOLEDのカソード側をAC駆動して駆動電流を流す、流さないを制御してもよい。
一方、前者の発光制御を走査線により制御する方法では、駆動トランジスタMdのドレイン側、または、ソースと有機発光ダイオードOLEDとの間に、他のトランジスタを挿入し、そのゲートを電源駆動制御の走査線で駆動する。
【0114】
<変形例4>
図4に示す表示制御は、閾値補正期間(VTC)を1回の補正で行っていたが、複数回の連続した(初期化を間に挟まないとの意味)処理によって閾値補正を行ってもよい。
その場合、初期化を間に挟まないことから、電源駆動パルスDSの電位を最初の閾値補正時に低電位Vcc_Lから高電位Vcc_Hに上げた後は、発光停止まで高電位Vcc_Hが維持される。この点で、連続した処理による閾値補正動作は、空Vth補正と閾値補正の本動作の間に電源駆動パルスDSの電位を低電位Vcc_Lに一時的に下げる、図4に示す本実施形態の動作と根本的に異なる。
【0115】
<変形例5>
図4に示す表示制御では空Vth補正動作は1回であるが、ソース充電速度が遅いため1回の空Vth補正では逆バイアス解除がばらつきも含めて十分でない場合、上記変形例3の「連続した処理による閾値補正動作」と同様に、電源駆動パルスDSの電位を高電位Vcc_Hとしたままで空Vth補正を連続して複数回行ってもよい。
【0116】
本実施形態によれば、フィールドごとに発光許可期間を変更しても、逆バイアス印加期間の長短が原因で非発光許可期間(発光停止期間)中に生じていた有機発光ダイオードのバイアス変動の影響を受けることなく、同じデータ電圧が入力されたのであればフィールドごとの輝度が同じになるため、いわゆるフラッシュ現象を有効に防止できるという利益が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0117】
【図1】本発明の実施形態に関わる有機ELディスプレイの主要構成例を示すブロック図である。
【図2】本発明の実施形態に関わる画素回路の基本構成を含むブロック図である。
【図3】有機発光ダイオードの特性を示すグラフと式を示す図である。
【図4】本発明の実施形態に関わる表示制御における各種信号や電圧の波形を示すタイミングチャートである。
【図5】発光停止期間までの動作説明図である。
【図6】空Vth補正終了前までの動作説明図である。
【図7】初期化期間までの動作説明図である。
【図8】発光許可期間までの動作説明図である。
【図9】補正効果の説明図である。
【図10】本発明の実施形態に対する比較例に関わり、表示制御における各種信号や電圧の波形を示すタイミングチャートである。
【図11】比較例で生じるフラッシュ現象を説明するための信号波形と発光強度の変化を示すタイミングチャートである。
【図12】本発明の実施形態の変形例1に関わり、表示制御における各種信号や電圧の波形を示すタイミングチャートである。
【符号の説明】
【0118】
1…有機ELディスプレイ、2…画素アレイ、3…画素回路、4…Vスキャナ、5…Hセレクタ、41…水平画素ライン駆動回路、42…書き込み信号走査回路、OLED…有機発光ダイオード、Md…駆動トランジスタ、Ms…サンプリングトランジスタ、Cs…保持キャパシタ、NDc…制御ノード、DSL…電源走査線、DS…電源駆動パルス、DTL…映像信号線、WSL…書込走査線、WS…書込駆動パルス、Vsig,Vin…データ電位、Vo…データ基準電位
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイアス電圧が印加されたときに自発光する発光ダイオードと、その駆動電流を制御する駆動トランジスタと、駆動トランジスタの制御ノードに結合する保持キャパシタとを、画素回路内に有する自発光型表示装置と、その駆動方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自発光型表示装置に用いられる電気光学素子として、有機エレクトロルミネッセンス(Organic Electro Luminescence)素子が知られている。有機エレクトロルミネッセンス素子は、一般に、OLED(Organic Light Emitting Diode)と称され、発光ダイオードの一種である。
【0003】
OLEDは、下部電極と上部電極との間に、有機正孔輸送層や有機発光層などとして機能する複数の有機薄膜を積層させている。OLEDは、有機薄膜に電界をかけると発光する現象を利用した電気光学素子であり、OLEDを流れる電流値を制御することで発色の階調を得ている。そのため、OLEDを電気光学素子として用いる表示装置は、OLEDの電流量を制御するための駆動トランジスタと、駆動トランジスタの制御電圧を保持するキャパシタとを含む画素回路が画素ごとに設けられている。
【0004】
画素回路は様々なものが提案され、主なものでは4トランジスタ(4T)・1キャパシタ(1C)型、4T・2C型、5T・1C型、3T・1C型などが知られている。
これらは何れもTFT(Thin Film Transistor)から形成されるトランジスタの特性バラツキに起因する画質低下を防止するものであり、データ電圧が一定ならば画素回路内部で駆動電流が一定となるように制御し、これによって画面全体のユニフォミティ(輝度の均一性)を向上させることを目的とする。とくに画素回路内でOLEDを電源に接続するときに、入力する映像信号のデータ電位に応じて電流量を制御する駆動トランジスタの特性バラツキが、直接的にOLEDの発光輝度に影響を与える。
【0005】
駆動トランジスタの特性バラツキで最大のものは閾値電圧のバラツキである。このため、駆動トランジスタの閾値電圧バラツキに因る影響が駆動電流からキャンセルされるように、駆動トランジスタのゲートソース間電圧を補正する必要がある。以下、この補正を「閾値電圧補正または閾値補正」という。
さらに、閾値電圧補正を行うことを前提に、駆動トランジスタの電流駆動能力から閾値バラツキ起因成分等を減じた駆動能力成分(一般には、移動度と称されている)の影響がキャンセルされるように上記ゲートソース間電圧を補正すると、より一層高いユニフォミティが得られる。以下、この駆動能力成分の補正を「移動度補正」という。
駆動トランジスタの閾値電圧や移動度の補正については、例えば、特許文献1に詳しく説明されている。
【特許文献1】特開2006−215213号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1に記載されているように、画素回路の構成によっては、閾値電圧や移動度の補正時に発光ダイオード(有機EL素子)を非発光とするため、当該発光ダイオードを逆バイアスした状態で上記補正を行う場合がある。この場合、表示画面が切り替わる際に、時として、画面全体の明るさが瞬間的に変化する現象が生じる。この現象は、瞬間的に画面が明るく光るような場合が特に目立つことから、以下、「フラッシュ現象」と称する。
本発明は、この画面全体の明るさが瞬間的に変化する(フラッシュ)現象を防止または抑制することができる自発光型表示装置と、その駆動方法に関する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一形態(第1形態)に関わる自発光型表示装置は、発光ダイオード、前記発光ダイオードの駆動電流経路に接続される駆動トランジスタ、および、前記駆動トランジスタの制御ノードに結合する保持キャパシタを含む画素回路と、当該画素回路の駆動を行う駆動回路とを有する。
前記駆動回路は、前記発光ダイオードを発光可能とする前に前記駆動トランジスタに対し閾値電圧補正と移動度補正を行う期間において、前記発光ダイオードの非発光状態から前記駆動トランジスタの予備の閾値電圧補正(空Vth補正)を行い、前記発光ダイオードを逆バイアス状態にして前記保持キャパシタの保持電圧を初期化する補正準備を一定期間行ってから閾値電圧補正の本動作と前記移動度補正を行う。
【0008】
本発明の他の形態(第2形態)に関わる自発光型表示装置は、上記第1形態の特徴に加えて、次の特徴を有する。
すなわち、第2形態の自発光型表示装置は、複数の前記画素回路が行列状に配置される画素アレイを有し、前記複数の画素回路のそれぞれが、前記制御ノードに対し、データ電位をサンプリングして入力するサンプリングトランジスタを含み、前記駆動回路は、前記サンプリングトランジスタをオフさせた状態で、前記駆動トランジスタの、前記発光ダイオードが接続された側と反対側のノードの電源電圧接続を解除することにより前記発光ダイオードを逆バイアス状態に設定し、前記空Vth補正の後に前記補正準備を行ってから前記閾値電圧補正の本動作と前記移動度の補正を行い、前記補正準備では、前記電源電圧接続の解除期間を、前記画素アレイ内の画素行ごとに決められた全ての画面表示期間内で一定とする。
【0009】
本発明の他の形態(第3形態)に関わる自発光型表示装置は、上記第2形態の特徴に加えて、次の特徴を有する。
すなわち、第3形態の自発光型表示装置において、前記駆動回路は、直前の他の前記画面表示期間における発光終了を、前記逆バイアス状態の設定の開始により変更可能に制御する。
【0010】
本発明の他の形態(第4形態)に関わる自発光型表示装置は、上記第1形態の特徴に加えて、次の特徴を有する。
すなわち、第4形態の自発光型表示装置は、前記画素回路が、前記非発光状態の設定と、前記駆動トランジスタの閾値電圧の等価電圧を前記保持キャパシタに保持させる閾値電圧補正(前記空Vth補正)とを行い、前記補正準備と、閾値電圧補正の本動作と、データ電位を前記制御ノードに書き込んで前記駆動トランジスタの駆動能力に応じて前記保持キャパシタの保持電圧を調整する移動度補正とを、一定の期間内に前記発光ダイオードの逆バイアス状態で行い、前記データ電位に応じて、前記発光ダイオードを発光可能な状態に順バイアスする。
【0011】
本発明の他の形態(第5〜第6形態)に関わる自発光型表示装置は、特に詳細は記述しないが、上記第1〜第4形態を、具体的な信号線や制御線のレベル制御で示すものである。
【0012】
本発明の他の形態(第7形態)に関わる自発光型表示装置の駆動方法は、発光ダイオード、前記発光ダイオードの駆動電流経路に接続される駆動トランジスタ、および、前記駆動トランジスタの制御ノードに結合する保持キャパシタを含む画素回路を備える自発光型表示装置の駆動方法であって、前記発光ダイオードの非発光状態を設定する非発光設定ステップと、前記駆動トランジスタの予備の閾値電圧電補正を行う空Vth補正ステップと、前記発光ダイオードを逆バイアス状態にして前記保持キャパシタの保持電圧を初期化する補正準備ステップと、前記駆動トランジスタの閾値電圧補正を行う本動作の閾値電圧補正ステップと、前記画素回路にデータ電圧を書き込んで前記駆動トランジスタの移動度補正を行う移動度補正ステップと、前記書き込んだデータ電圧に応じて、前記発光ダイオードを発光可能な状態に順バイアスする発光設定ステップと、を含む。
【0013】
本発明の他の形態(第8形態)に関わる自発光型表示装置の駆動方法は、上記第7形態の特徴に加え、次の特徴を有する。
すなわち、第8形態の自発光型表示装置の駆動方法は、前記空Vth補正ステップ、前記補正準備ステップ、前記本動作の閾値電圧補正ステップ、前記移動度補正ステップ、前記発光設定ステップ、および、前記非発光設定ステップを、この順で、前記画素回路が行列状に配置された画素アレイ内の画素行ごとに決められた行表示期間に対応して実行する。
【0014】
本発明の他の形態(第9形態)に関わる自発光型表示装置の駆動方法は、上記第7形態の特徴に加え、次の特徴を有する。
すなわち、第9形態の自発光型表示装置の駆動方法は、前記補正準備ステップ、前記本動作の閾値電圧補正ステップ、前記移動度補正ステップ、前記発光設定ステップ、前記空Vth補正ステップ、および、前記非発光設定ステップを、この順で、前記画素回路が行列状に配置された画素アレイ内の画素行ごとに決められた行表示期間に対応して実行する。
【0015】
本発明の他の形態(第10形態)に関わる自発光型表示装置の駆動方法は、上記第7形態の特徴に加え、次の特徴を有する。
すなわち、第10形態の自発光型表示装置の駆動方法は、前記補正準備ステップでは、前記逆バイアス状態の設定期間を、全ての前記画面表示期間内で一定とする。
【0016】
ところで、本発明者等は、前述した「フラッシュ現象」の原因を解析した結果、この現象は、発光ダイオード(有機EL素子等)の逆バイアス期間の長短に関係していることを見出している。
有機EL素子の逆バイアスについて、上記特許文献1には、5T・1C型の画素回路において、有機発光ダイオードOLED(有機EL素子)を逆バイアスした状態で閾値電圧補正を行う制御が記載されている(上記特許文献1の第1および第2実施形態参照、例えば第1実施形態における段落[0046]等の記載参照)。特許文献1では、1つの画素に対する駆動のみに着目した説明をしているため記載されていないが、実際の有機ELディスプレイにおいては、有機EL素子の逆バイアスは、1フィールド前の画面表示期間(1F)における発光終点から開始され、補正期間を経て次の発光時に解消される。そのため、逆バイアスの長さ(始点)が、有機EL素子の発光許可期間の長さに依存し、時として変化する。
【0017】
有機EL素子は、流れる電流量が極端に大きくなると経時変化により、その特性が低下する。この特性の低下は、前述した閾値電圧や移動度の補正である程度補償(補正)されるが、極端な特性低下は完全に補正できないため、特性低下は最初から小さいほうが望ましい。このため、発光輝度を上げる制御を行う場合、駆動電流量を上げるのではなく発光許可期間を長くする制御(パルスのデューティ比制御)を行うことがある。
また、電流周囲の環境が明るいときは全体の発光輝度を上げて画面を見やすくするために、上記補正の限界を考慮して発光許可期間を長くする制御を行うことがある。さらに、低消費電力化の要請から輝度を下げるが、このとき駆動電流量を下げるのではなく発光時間を短くして対処する場合がある。
【0018】
画面の明るさを、平均的な画素の発光輝度を上下して変化させる場合、その画面の切り替え時に「フラッシュ現象」が観測されることから、逆バイアス期間の長短に依存して、フラッシュ現象の出方が変わってくる。この観点から、本発明者らは、発光ダイオード(有機EL素子等)を逆バイアスするときに、発光ダイオードの等価容量値が時間的に変化し、これが補正の精度に影響を与えるため、輝度が画面全体で変化しているという結論を得ている。
なお、発光ダイオードの非発光設定(発光している場合は発光停止)は、上述のように逆バイアス状態の設定によって行われることが一般的であるが、逆バイアス状態にしなくとも、例えばバイアスゼロでも非発光設定は可能である。
【0019】
よって、本発明の上述した第1〜第10形態では、発光ダイオードの非発光設定(発光している場合は発光停止、例えば逆バイアス状態設定)の動作と、補正準備のために行う逆バイアス状態設定との間に、発光ダイオードの非発光状態から駆動トランジスタの予備の閾値電圧補正(空Vth補正)を行い、この空Vth補正から後の逆バイアス設定期間(一般には補正準備期間)を一定としている。空Vth補正は、その後に行う閾値電圧補正の本動作と制御自体は似ており、保持キャパシタに閾値電圧を保持させる動作である。しかし、空Vth補正の後に保持キャパシタの保持電圧初期化(補正準備)が行われるため、空Vth補正で行った閾値電圧補正は無効となる(本動作の閾値電圧補正に寄与しない)。空Vth補正は初期化で行われる逆バイアス設定の始点を決める作用があり、これにより再度の初期化が一定期間だけ行われる。
【0020】
保持電圧の初期化期間、即ち逆バイアス設定期間を一定期間とするには、たとえば、駆動トランジスタに対する電源電圧接続の解除期間を一定とするという、より具体的な制御手法が採用できる(第2形態)。また、保持電圧の初期化と、閾値電圧補正の本動作と、移動度補正とを、一定の期間内に発光ダイオードを逆バイアスした状態で行う場合(第4形態)、閾値電圧補正の本動作と、移動度補正の動作は、それぞれ一定の期間に決められるとするならば、保持電圧の初期化における逆バイアス設定期間も一定となる。
【0021】
なお、第4形態のような場合、空Vth補正期間の最中も発光ダイオードが逆バイアスされることがあるが、空Vth補正時に発光ダイオードの一方電極に対し電荷の移動があるため、それまでの発光ダイオードが受けていた逆バイアスのための強い電気的なストレスが一旦緩和され、発光ダイオードの等価容量値もほぼリセットされる。このため、移動度補正の精度に関係する電気的ストレスに起因した発光ダイオードの等価容量値変化は、実質上、空Vth補正の終了後から再び開始されることになり、この電気的ストレスを受ける期間が一定なため、補正精度が向上する。
【0022】
複数の画素回路が画素アレイ内で行列状に配置され、その画素行ごとに画面表示期間が決められている場合、駆動回路によって、直前の他の画面表示期間における発光終了を、非発光設定の開始により変更可能に制御してよい(第3形態参照)。この形態では、他の画面表示期間の発光終了から非発光設定が開始されるが、非発光設定を逆バイアス設定により行う場合、逆バイアス状態の設定期間が、上記発光終了をどの時点にするかによって変動する。しかし、他の形態と同様、空Vth補正期間が存在し、その後に改めて(若しくは初めて)逆バイアス設定を行うため、閾値電圧補正の本動作や移動度補正精度に関係する実効的な逆バイアス設定期間が一定となる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、閾値電圧や移動度の補正に関係する直前の実効的な逆バイアス設定期間を一定にできることから、同じデータ電圧が入力されているならば、画素の発光強度はほぼ一定となり、結果として、いわゆるフラッシュ現象を有効に防止または抑制可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態を、2T・1C型の画素回路を有する有機ELディスプレイを例として、図面を参照して説明する。
【0025】
<全体構成>
図1に、本発明の実施形態に関わる有機ELディスプレイの主要構成を示す。
図解する有機ELディスプレイ1は、複数の画素回路(PXLC)3(i,j)がマトリクス状に配置されている画素アレイ2と、画素アレイ2を駆動する垂直駆動回路(Vスキャナ)4および水平駆動回路(Hセレクタ:HSEL)5とを含む。
Vスキャナ4は、画素回路3の構成により複数設けられている。ここではVスキャナ4が、水平画素ライン駆動回路(Drive Scan)41と、書き込み信号走査回路(Write Scan)42とを含んで構成されている。Vスキャナ4およびHセレクタ5は「駆動回路」の一部であり、「駆動回路」は、Vスキャナ4とHセレクタ5の他に、これらにクロック信号を与える回路や制御回路(CPU等)など、不図示の回路も含む。
【0026】
図1に示す画素回路の符号「3(i,j)」は、当該画素回路が垂直方向(縦方向)のアドレスi(i=1,2)と、水平方向(横方向)のアドレスj(j=1,2,3)を持つことを意味する。これらのアドレスiとjは最大値をそれぞれ「n」と「m」とする1以上の整数をとる。ここでは図の簡略化のためn=2、m=3の場合を示す。
このアドレス表記は、以後の説明や図面において画素回路の素子、信号や信号線ならびに電圧等についても同様に適用する。
【0027】
画素回路3(1,1)、3(2,1)が垂直方向の映像信号線DTL(1)に接続されている。同様に、画素回路3(1,2)、3(2,2)が垂直方向の映像信号線DTL(2)に接続され、画素回路3(1,3)、3(2,3)が垂直方向の映像信号線DTL(3)に接続されている。映像信号線DTL(1)〜DTL(3)は、Hセレクタ5によって駆動される。
第1行の画素回路3(1,1)、3(1,2)および3(1,3)が書込走査線WSL(1)に接続されている。同様に、第2行の画素回路3(2,1)、3(2,2)および3(2,3)が書込走査線WSL(2)に接続されている。書込走査線WSL(1),WSL(2)は、水平画素ライン駆動回路41によって駆動される。
また、第1行の画素回路3(1,1)、3(1,2)および3(1,3)が電源走査線DSL(1)に接続されている。同様に、第2行の画素回路3(2,1)、3(2,2)および3(2,3)が電源走査線DSL(2)に接続されている。電源走査線DSL(1),DSL(2)は、書き込み信号走査回路42によって駆動される。
【0028】
映像信号線DTL(1)〜DTL(3)を含むm本の映像信号線の何れか1本を、以下、符号「DTL(j)」により表記する。同様に、書込走査線WSL(1),WSL(2)を含むn本の書込走査線の何れか1本を符号「WSL(i)」により表記し、電源走査線DSL(1),DSL(2)を含むn本の電源走査線の何れか1本を符号「DSL(i)」により表記する。
映像信号線DTL(j)に対し、表示画素行(表示ラインともいう)を単位として一斉に映像信号が排出される線順次駆動、あるいは、同一行の映像信号線DTL(j)に順次、映像信号が排出される点順次駆動があるが、本実施形態では、そのどの駆動法でもよい。
【0029】
<画素回路>
図2に、画素回路3(i,j)の一構成例を示す。
図解する画素回路3(i,j)は、有機発光ダイオードOLEDを制御する回路である。画素回路は、有機発光ダイオードOLEDの他に、NMOSタイプのTFTからなる駆動トランジスタMdおよびサンプリングトランジスタMsと、1つの保持キャパシタCsとを有する。
【0030】
有機発光ダイオードOLEDは、特に図示しないが、例えば上面発光型の場合、透明ガラス等からなる基板に形成されたTFT構造の上にアノード電極を最初に形成し、その上に、正孔輸送層、発光層、電子輸送層、電子注入層等を順次堆積させて有機多層膜を構成する積層体を形成し、この積層体の上に透明電極材料からなるカソード電極を形成した構造を有する。アノード電極が正側の電源に接続され、カソード電極が負側の電源に接続される。
【0031】
有機発光ダイオードOLEDのアノードとカソードの電極間に所定の電界が得られるバイアス電圧を印加すると、注入された電子と正孔が発光層において再結合する際に有機多層膜が自発光する。有機発光ダイオードOLEDは、有機多層膜を構成する有機材料を適宜選択することで赤(R),緑(G),青(B)の各色での発光が可能であることから、この有機材料を、例えば各行の画素にR,G,Bの発光が可能に配列することで、カラー表示が可能となる。あるいは、白色発光の有機材料を用いて、フィルタの色でR,G,Bの区別を行ってもよい。R,G,Bの他にW(ホワイト)を加えた4色構成でもよい。
【0032】
駆動トランジスタMdは、有機発光ダイオードOLEDに流す電流量を制御して表示階調を規定する電流制御手段として機能する。
駆動トランジスタMdのドレインが、電源電圧VDDの供給を制御する電源走査線DSL(i)に接続され、ソースが有機発光ダイオードOLEDのアノードに接続されている。
【0033】
サンプリングトランジスタMsは、画素階調を決めるデータ電位Vsigの供給線(映像信号線DTL(j))と駆動トランジスタMdのゲート(制御ノードNDc)との間に接続されている。サンプリングトランジスタMsのソースとドレインの一方が駆動トランジスタMdのゲート(制御ノードNDc)に接続され、もう片方が映像信号線DTL(j)に接続されている。映像信号線DTL(j)に、Hセレクタ5(図1参照)からデータ電位Vsigを持つデータパルスが所定の間隔で供給される。サンプリングトランジスタMsは、データ電位の供給期間(データパルスの持続時間(duration time))の適正なタイミングで、当該画素回路で表示すべきレベルのデータをサンプリングする。これは、サンプリングすべき所望のデータ電位Vsigを持つデータパルスの前部または後部における、レベルが不安定な遷移期間の表示映像に与える影響を排除するためである。
【0034】
駆動トランジスタMdのゲートとソース(有機発光ダイオードOLEDのアノード)との間に、保持キャパシタCsが接続されている。保持キャパシタCsの役割については、後述の動作説明で明らかにする。
【0035】
図2では、水平画素ライン駆動回路41により、低電位Vcc_Lを基準とした高電位Vcc_Hの波高値が電源電圧VDDとなる電源駆動パルスDS(i)が駆動トランジスタMdのドレインに供給され、駆動トランジスタMdの補正時や有機発光ダイオードOLEDが実際に発光する時の電源供給が行われる。
また、書き込み信号走査回路42により、比較的短い持続時間の書込駆動パルスWS(i)がサンプリングトランジスタMsのゲートに供給され、サンプリング制御が行われる。
なお、電源供給の制御は、駆動トランジスタMdのドレインと電源電圧VDDの供給線との間にトランジスタをもう1つ挿入し、そのゲートを水平画素ライン駆動回路41により制御する構成であってもよい(後述の変形例参照)。
【0036】
図2では有機発光ダイオードOLEDのアノードが駆動トランジスタMdを介して正側の電源から電源電圧VDDの供給を受け、有機発光ダイオードOLEDのカソードがカソード電位Vcathを供給する所定の電圧線(負側の電源線)に接続されている。
【0037】
通常、画素回路内の全てのトランジスタはTFTで形成されている。TFTのチャネルが形成される薄膜半導体層は、多結晶シリコン(ポリシリコン)または非晶質シリコン(アモルファスシリコン)等の半導体材料からなる。ポリシリコンTFTは移動度を高くとれるが特性ばらつきが大きいため、表示装置の大画面化に適さない。よって、大画面を有する表示装置では、一般に、アモルファスシリコンTFTが用いられる。ただし、アモルファスシリコンTFTではPチャネル型TFTが形成し難いため、上述した画素回路3(i,j)のように、すべてのTFTをNチャネル型とすることが望ましい。
【0038】
ここで、以上の画素回路3(i,j)は、本実施形態で適用可能な画素回路の一例、即ち2トランジスタ(2T)・1キャパシタ(1C)型の基本構成例である。よって、本実施形態で用いることができる画素回路は、上記画素回路3(i,j)を基本構成として、さらにトランジスタやキャパシタを付加した画素回路であってもよい(後述の変形例参照)。また、基本構成において、保持キャパシタCsを電源電圧VDDの供給線と駆動トランジスタMdのゲートとの間に接続するものもある。
具体的に、本実施形態で採用可能な2T・1C型以外の画素回路として、後述する変形例で幾つかを簡単に述べるが、例えば、4T・1C型、4T・2C型、5T・1C型、3T・1C型などであってもよい。
【0039】
図2の構成を基本とする画素回路では、閾値電圧補正時や移動度補正時に有機発光ダイオードOLEDを逆バイアスすると、詳細は後述するが、有機発光ダイオードOLEDの逆バイアス時の等価容量値が保持キャパシタCsの値より十分大きくできるため、有機発光ダイオードOLEDのアノードが電位的にほぼ固定され、補正精度が向上する。このため、逆バイアス状態で補正を行うことが望ましい。
カソード電位Vcathを接地せずに、カソードを所定の電圧線に接続しているのは、逆バイアスを行うためである。有機発光ダイオードOLEDを逆バイアスするには、例えば、電源駆動パルスDS(i)の基準電位(低電位Vcc_L)より、カソード電位Vcathを小さくする。
【0040】
<表示制御>
図2の回路におけるデータ書き込み時の動作を、閾値電圧と移動度の補正動作と併せて説明する。これらの一連の動作を「表示制御」という。
最初に、補正対象となる駆動トランジスタと有機発光ダイオードOLEDの特性について説明する。
【0041】
図2に示す駆動トランジスタMdの制御ノードNDcには、保持キャパシタCsが結合されている。映像信号線DTL(j)を伝送するデータパルスの有効電位であるデータ電位VsigがサンプリングトランジスタMsでサンプリングされ、これにより得られた電位が制御ノードNDcに印加され、保持キャパシタCsで保持される。駆動トランジスタMdのゲートに所定の電位が印加された時、そのドレイン電流Idsは、印加電位に応じた値を持つゲートソース間電圧Vgsに応じて決まる。
ここで駆動トランジスタMdのソース電位Vsを、上記データパルスの基準電位(データ基準電位Vo)に初期化してから、サンプリングを行うとする。サンプリング後のデータ電位Vsig、より正確には、データ基準電位Voとデータ電位Vsigとの電位差で規定されるデータ電圧Vinの大きさに応じたドレイン電流Idsが駆動トランジスタMdに流れ、これがほぼ有機発光ダイオードOLEDの駆動電流Idとなる。
よって、駆動トランジスタMdのソース電位Vsがデータ基準電位Voで初期化されている場合、有機発光ダイオードOLEDがデータ電位Vsigに応じた輝度で発光する。
【0042】
図3に、有機発光ダイオードOLEDのI−V特性のグラフと、駆動トランジスタMdのドレイン電流Ids(OLEDの駆動電流Idにほぼ相当)の一般式を示す。
有機発光ダイオードOLEDは、よく知られているように、経時変化によりI−V特性が図3のように変化する。このとき、図2の画素回路では、駆動トランジスタMdが一定のドレイン電流Idsを流そうとしても、図3に示すグラフから分かるように有機発光ダイオードOLEDの印加電圧が大きくなるため、有機発光ダイオードOLEDのソース電位Vsが上昇する。このとき駆動トランジスタMdのゲートはフローティング状態であるため、ほぼ一定のゲートソース間電圧Vgsが維持されるように、ソース電位と共にゲート電位も上昇し、ドレイン電流Idsはほぼ一定に保たれ、このことが有機発光ダイオードOLEDの発光輝度を変化させないように作用する。
【0043】
しかしながら、画素回路ごとに駆動トランジスタMdの閾値電圧Vth、移動度μが異なっているため、図3の式に応じて、ドレイン電流Idsにバラツキが生じ、表示画面内で与えられているデータ電位Vsigが同じ2つの画素であっても、当該2つの画素間で発光輝度が異なる。
【0044】
なお、図3の式において、符号“Ids”は、飽和領域で動作する駆動トランジスタMdのドレインとソース間に流れる電流を表す。また、当該駆動トランジスタMdにおいて、“Vth”が閾値電圧を、“μ”が移動度を、“W”が実効チャネル幅(実効ゲート幅)を、“L”が実効チャネル長(実効ゲート長)を、それぞれ表す。また、“Cox”が当該駆動トランジスタMdの単位ゲート容量、即ち単位面積当たりのゲート酸化膜容量と、ソースやドレインとゲート間のフリンジング容量との総和を表す。
【0045】
Nチャネル型の駆動トランジスタMdを有する画素回路は、駆動能力が高く製造プロセスを簡略化できる利点があるが、閾値電圧Vthや移動度μのばらつきを抑えるため、それらの補正動作を、発光可能なバイアス設定に先立って行う必要がある。
【0046】
図4(A)〜図4(E)は、表示制御における各種信号や電圧の波形を示すタイミングチャートである。ここでの表示制御では行単位でデータ書き込みを順次行うものとする。図4では、第1行の画素回路3(1,j)が書き込み対象の行(表示ライン)であり、第1行の表示ラインに対し、フィールドF(1)において表示制御を行う場合を示している。なお、図4では、それより前のフィールドF(0)の制御については、その一部(発光停止の制御)を示している。
【0047】
図4(A)は、映像信号Ssigの波形図である。図4(B)は、書込対象の表示ラインに供給される書込駆動パルスWSの波形図である。図4(C)は、書込対象の表示ラインに供給される電源駆動パルスDSの波形図である。図4(D)は、書込対象の表示ラインに属する1つの画素回路3(1,j)における駆動トランジスタMdのゲート電位Vg(制御ノードNDcの電位)の波形図である。図4(E)は、書込対象の表示ラインに属する1つの画素回路3(1,j)における駆動トランジスタMdのソース電位Vs(有機発光ダイオードOLEDのアノード電位)の波形図である。
【0048】
[期間の定義]
図4(A)の上部に記載しているように、1フィールド(または1フレーム)前画面の発光許可期間(LM(0))の後に時系列の順で、前画面の発光停止期間(LM−STOP)、「空Vth補正」を行う空Vth補正期間(VTC0)、「補正準備」を行う初期化期間(INT)、「閾値電圧補正の本動作正」を行う閾値電圧補正期間(VTC)、書込み&移動度補正期間(W&μ)を経て、当該第1行の画素回路3(1,j)の発光許可期間(LM(1))に処理が推移する。
【0049】
[駆動パルスの概略]
図4では、波形図の適当な箇所に時間表示を、符号“T0C,T0D,T10,T11,…,T19,T1A,T1B,…,T1D“により示している。時間“T0C,T0D”がフィールドF(0)に対応し、時間“T10〜T1D”がフィールドF(1)に対応する。
【0050】
書込駆動パルスWSは、図4(B)に示すように、“L”レベルで非アクティブ、“H”レベルでアクティブの所定数のサンプリングパルスSP0〜SPeを含む。サンプリングパルスSP0とSP1の出現周期は一定であるが、サンプリングパルスSP1とSPeの間にサンプリングパルスは出現しない。3つのサンプリングパルスのうち、サンプリングパルスSP1のみ、その後に書き込みパルスWPが重畳されている。このように、サンプリングパルスSP0〜SPeと書き込みパルスWPから書込駆動パルスWSが構成される。
【0051】
m本(数百〜千数百本)の映像信号線DTL(j)(図1および図2参照)に供給される映像信号Ssigは、線順次表示ではm本の映像信号線DTL(j)に同時に供給される。そして、映像信号Ssigをサンプリング後に得られるデータ電圧を反映した信号振幅Vinは、図4(A)に示すように、データ基準電位Voを基準とした映像信号パルスPPの波高値に相当する。以下、信号振幅Vinをデータ電圧Vinと呼ぶ。
図4(A)に2つ示す映像信号パルスPP(2),PP(1)うち、第1行にとって重要な映像信号パルスは、書き込みパルスWPと時間的に重なる映像信号パルスPP(1)である。映像信号パルスPP(1)のデータ基準電位Voからの波高値が、図4に示す表示制御で表示させたい(書き込みたい)階調値、即ちデータ電圧Vinに該当する。この階調値(=Vin)は、第1行の各画素で同じ場合(単色表示の場合)もあるが、通常、表示画素行の階調値に応じて変化している。
【0052】
図4は、主として、第1行内における1つの画素についての動作を説明するためのものであるが、同一行の他の画素では、この表示階調値が異なることがある以外、制御自体は、図示の画素駆動制御と時間をずらして並列に実行される。
【0053】
駆動トランジスタMdのドレイン(図2参照)に供給される電源駆動パルスDSの電位は、図4(C)に示すように、時間T0Cから空Vth補正期間(VTC0)の開始(時間T10)まで非アクティブの“L”レベル、すなわち低電位Vcc_Lで保持され、空Vth補正期間(VTC0)の開始とほぼ同時に(時間T10)、アクティブの“H”レベル、すなわち高電位Vcc_Hに推移する。高電位Vcc_Hの保持は空Vth補正期間(VTC0)の終了(時間T13)で終了し、そこから始まる初期化期間(INT、時間T13〜T16)は、電源駆動パルスDSの電位が再び低電位Vcc_Lに戻される。電源駆動パルスDSの電位は、時間T16で高電位Vcc_Hに戻された後は、発光許可期間(LM(1))が終了するまで続く。
【0054】
本実施形態の表示制御の特徴は、空Vth補正期間(VTC0)が存在することである。本実施形態において、このことを別の観点で言うと、電源駆動パルスDSの電位が共に低電位Vcc_Lである発光停止期間(LM−STOP)と初期化期間(INT)を、その2つの期間の間に空Vth補正期間(VTC0)を挿入することにより時間的に分離することである。
【0055】
最後のサンプリングパルスSPeは、発光停止期間(LM−STOP)の低電位Vcc_Lの保持期間中に“L”レベルから“H”レベルに推移する。また、サンプリングパルスSP1は、初期化期間(INT)の低電位Vcc_Lの保持期間中に“L”レベルから“H”レベルに推移し、初期化期間(INT)が終了して電源駆動パルスDSの電位が高電位Vcc_Hで保持されている期間途中で“H”レベルから“L”レベルに推移する。
【0056】
なお、第2行(の画素回路3(2,j))、第3行(の画素回路3(3,j))については、特に図示しないが、例えば、1水平期間ずつ各パルス(書込駆動パルスWSと電源駆動パルスDS)が順次遅れて印加される。
よって、ある行に対して「閾値電圧補正」と「書込み&移動度補正」とを行っている期間に、それより前の行に対しては「空Vth補正」や「初期化」が実行されることから、「閾値電圧補正」と「書込み&移動度補正」に限ってみると行単位でシームレスな処理が実行される。よって、無駄な期間は発生しない。
【0057】
つぎに、以上のパルス制御の下における、図4(D)および図4(E)に示す駆動トランジスタMdのソースやゲートの電位変化と、それに伴う動作を、図4(A)に示す期間ごとに説明する。
なお、ここでは図5(A)〜図8(B)に示す第1行の画素回路3(1,j)の動作説明図、ならびに、図2等を適宜参照する。
【0058】
[前画面の発光許可期間(LM(0))]
第1行の画素回路3(1,j)について、時間T0C以前のフィールドF(0)(以下、前画面ともいう)における発光許可期間(LM(0))では、図4(B)に示すように書込駆動パルスWSが“L”レベルであるため、サンプリングトランジスタMsがオフしている。このとき図4(C)に示すように、電源駆動パルスDSが高電位Vcc_Hの印加状態にある。
【0059】
図5(A)に示すように、前画面のデータ書き込み動作によって駆動トランジスタMdのゲートにデータ電圧Vin0が入力され保持されている。このときデータ電圧Vin0に応じて、有機発光ダイオードOLEDが発光状態にあるとする。駆動トランジスタMdは飽和領域で動作するように設定されているため、有機発光ダイオードOLEDに流れる駆動電流Id(=Ids)は、保持キャパシタCsに保持されている駆動トランジスタMdのゲートソース間電圧Vgsに応じて、前述した図3に示す式から算出される値をとる。
【0060】
[発光停止期間(LM−STOP)]
図4において時間T0Cで発光停止処理が開始される。
時間T0Cになると、水平画素ライン駆動回路41(図2参照)が、図4(C)に示すように、電源駆動パルスDSを高電位Vcc_Hから低電位Vcc_Lに切り替える。駆動トランジスタMdは、今までドレインとして機能していたノードの電位が低電位Vcc_Lにまで急激に落とされ、ソースとドレインの電位が逆転するため、今までドレインであったノードをソースとし、今までソースであったノードをドレインとして、当該ドレインの電荷(ただし、図の表記ではソース電位Vsのままとする)を引き抜くディスチャージ動作が行われる。
したがって、図5(B)に示すように、今までとは逆向きのドレイン電流Idsが駆動トランジスタMdに流れる。
【0061】
発光停止期間(LM−STOP)が開始すると、図4(E)に示すように、時間T0Cを境に駆動トランジスタMdのソース(現実の動作上はドレイン)が急激に放電され、ソース電位Vsが低電位Vcc_Lの近くまで低下する。サンプリングトランジスタMsのゲートはフローティング状態であるため、ソース電位Vsの低下に伴ってゲート電位Vgも低下する。
このとき、低電位Vcc_Lが有機発光ダイオードOLEDの発光閾値電圧Vth_oled.とカソード電位Vcathの和よりも小さいとき、つまり“Vcc_L<Vth_oled.+Vcath”であれば有機発光ダイオードOLEDは消光する。
【0062】
次に、書き込み信号走査回路42(図2参照)が、図4(B)に示すように、時間T0Dにて書込走査線WSL(1)の電位を“L”レベルから“H”レベルに遷移させて発生するサンプリングパルスSP0を、サンプリングトランジスタMsのゲートに与える。
時間T0Dまでには、映像信号Ssigの電位がデータ基準電位Voに切り替えられている。したがって、サンプリングトランジスタMsは、映像信号Ssigのデータ基準電位Voをサンプリングして、サンプリング後のデータ基準電位Voを駆動トランジスタMdのゲートに伝達する。
このサンプリング動作によって、図4(D)および図4(E)に示すように、ゲート電位Vgの値がデータ基準電位Voに収束し、それに伴ってソース電位Vsの値は低電位Vcc_Lに収束する。
ここでデータ基準電位Voは、電源駆動パルスDSの高電位Vcc_Hより低く、低電位Vcc_Lより高い所定の電位である。
【0063】
このサンプリング動作は、後述する初期化と同じ動作であるが、本実施形態では必ずしも初期化する必要はなく、次の空Vth補正の動作が開始できる程度の電位低下であればよい。
初期化の場合、駆動トランジスタMdのゲートソース間電圧Vgsが駆動トランジスタMdの閾値電圧Vth以上となるように電源駆動パルスDSの低電位Vcc_Lを設定している。具体的には、図5(C)に示すように、ゲート電位Vgがデータ基準電位Voになると、これに連動してソース電位Vsが電源駆動パルスDSの低電位Vcc_Lとなるため、保持キャパシタCsの保持電圧が低下し、“Vo−Vcc_L”となる。この保持電圧“Vo−Vcc_L”はゲートソース間電圧Vgsそのものであり、ゲートソース間電圧Vgsが駆動トランジスタMdの閾値電圧Vthよりも大きくないと、その後に閾値電圧補正動作を行なうことができないために、“Vo−Vcc_L>Vth”とするように電位関係が決められている。
【0064】
図4(B)に示す最後のサンプリングパルスSPeは、時間T0Dから十分な時間が経過した時間にて終了し、サンプリングトランジスタMsが一旦オフする。
その後、時間T10でフィールドF(1)に対する処理が開始される。
【0065】
[空Vth補正期間(VTC0)]
時間T10では図4(B)に示すように最初のサンプリングパルスSP0が立ち上がっており、サンプリングトランジスタMsがオンしている。この状態で、時間T10にて電源駆動パルスDSの電位が低電位Vcc_Lから高電位Vcc_Hに切り替わり、空Vth補正期間(VTC0)が開始する。
【0066】
空Vth補正期間(VTC0)の開始時(時間T10)の直前において、オン状態のサンプリングトランジスタMsがデータ基準電位Voをサンプリングしている状態であるため、図6(A)に示すように、駆動トランジスタMdのゲート電位Vgは、一定のデータ基準電位Voで電気的に固定された状態にある。
この状態で時間T10にて、電源駆動パルスDSの電位が低電位Vcc_Lから高電位Vcc_Hに遷移すると、駆動トランジスタMdのソースとドレイン間に“電源駆動パルスDSの波高値に相当する電圧が印加される。そのため、駆動トランジスタMdに電源からドレイン電流Idsが流れるようになる。
【0067】
ドレイン電流Idsによって駆動トランジスタMdのソースが充電され、図4(E)に示すようにソース電位Vsが上昇するため、それまで“Vo−Vcc_L”の値をとっていた駆動トランジスタMdのゲートソース間電圧Vgs(保持キャパシタCsの保持電圧)は、徐々に小さくなっていく(図6(A)参照)。
ゲートソース間電圧Vgsの低下速度が速い場合、図4(E)に示すように、空Vth補正期間(VTC0)内にソース電位Vsの上昇が飽和する。この飽和は駆動トランジスタMdがソース電位上昇によりカットオフするために起こる。よって、ゲートソース間電圧Vgs(保持キャパシタCsの保持電圧)は、駆動トランジスタMdの閾値電圧Vthとほぼ等しい値に収束する。
【0068】
なお、図6(A)の動作では、駆動トランジスタMdを流れるドレイン電流Idsが保持キャパシタCsの一方電極を充電する以外に、有機発光ダイオードOLEDの容量Coled.を充電する。このとき、有機発光ダイオードOLEDの容量Coled.が保持キャパシタCsより十分大きいという前提では、ドレイン電流Idsの殆どが保持キャパシタCsの充電に使用され、その場合、ゲートソース間電圧Vgsの収束点が閾値電圧Vthにほぼ等しい値をとる。
上記正確な閾値電圧補正を保証するには、容量Coled.を十分大きくする意図で有機発光ダイオードOLEDを逆バイアスすることが望ましいが、ここでは正確な閾値電圧補正は不要なので、有機発光ダイオードOLEDを逆バイアスすることは必須ではない。ただし、有機発光ダイオードOLEDを確実に消灯するようにカソード電位Vcathが決められている。
【0069】
空Vth補正期間(VTC0)は時間T13で終了するが、その前の時間T11で書込駆動パルスWSが非アクティブにされサンプリングパルスSP0が終了している。これにより、図6(B)に示すように、サンプリングトランジスタMsがオフし、駆動トランジスタMdのゲートがフローティング状態となる。このときのゲート電位Vgはデータ基準電位Voを維持している。
サンプリングパルスSP0が時間T11で終了し、次のサンプリングパルスSP1が印加されるまでの間(時間T11〜T15)に、2行目のデータ書き込み等に必要な映像信号パルスPP(2)の通過を待つ必要がある。
【0070】
[初期化期間(INT)]
本実施形態では、サンプリングトランジスタMsをオフした状態で電源駆動パルスDSの電位を高電位Vcc_Hから低電位Vcc_Lに切り替え、これにより初期化期間(INT)が開始する。
初期化では、図7(A)に示すように電源駆動パルスDSの電位が低電位Vcc_Lとなるため、発光停止期間(LM−STOP)の放電と同様、駆動トランジスタMdのソースとドレインが入れ替わり、駆動トランジスタMdがオンして、ソース(実際にはドレイン)の電荷が放電され、ソース電位Vsが低電位Vcc_L付近まで急速に低下する。
【0071】
ソース電位Vsの低下に伴って、フローティング状態のゲートの電位(Vg)も低下する。このとき、ソース電位Vsの低下量がそのままゲート電位Vgの低下量とはならず、所定の容量結合比に応じて、ソース電位Vsの低下量の一部がゲート電位Vgの低下量となる。そのため、保持キャパシタCsの保持電圧は、元の閾値電圧相当量より若干大きくなる。
【0072】
次に、書き込み信号走査回路42(図2参照)が、図4(B)に示すように、時間T15にて書込駆動パルスWSを“L”レベルから“H”レベルに遷移させてサンプリングパルスSP1を、サンプリングトランジスタMsのゲートに与える。
時間T15より前の時間T14で、映像信号パルスPP(2)の印加が終了し、映像信号Ssigの電位がデータ基準電位Voに切り替えられている。したがって、時間T15でオンするサンプリングトランジスタMsは、映像信号Ssigのデータ基準電位Voをサンプリングして、サンプリング後のデータ基準電位Voを駆動トランジスタMdのゲートに伝達する。
このサンプリング動作によって、図4(D)に示すようにゲート電位Vgが上昇してデータ基準電位Voに収束する。これに伴ってソース電位Vsも一旦上昇するが、駆動トランジスタMdが引き続きオンするため、ソース電位Vsは低下に転じ、初期化期間(INT)が終了する時間T16までにはソース電位Vsが低電位Vcc_Lにまで低下して、駆動トランジスタMdはオフする。
【0073】
以上の初期化動作において、発光停止期間(LM−STOP)の放電時と同様、データ基準電位Voは、電源駆動パルスDSの高電位Vcc_Hより低く、低電位Vcc_Lより高い所定の電位である。また、その後に閾値電圧補正動作を行なうことができるように、“Vo−Vcc_L>Vth”とするように電位関係が決められている。
初期化動作では有機発光ダイオードOLEDを逆バイアスするようにカソード電位Vcathが、低電位Vcc_Lより高い所定の電位に予め制御されている。
【0074】
[閾値電圧補正期間(VTC)]
その後、時間T16で電源駆動パルスDSの電位が低電位Vcc_Lから高電位Vcc_Hに切り替わると、閾値電圧補正期間(VTC)、即ち閾値電圧補正の本動作が開始する。閾値電圧補正期間(VTC)の動作自体は、空Vth補正期間(VTC0)についての図6(A)および図6(B)と同じである。
【0075】
時間T16の時点で図4(B)に示すように2つ目のサンプリングパルスSP1が既に立ち上がっており、サンプリングトランジスタMsがオンしている。このため、図6(A)と同様に、駆動トランジスタMdのゲート電位Vgは、一定のデータ基準電位Voで電気的に固定された状態にある。
この状態で時間T16にて、電源駆動パルスDSの電位が低電位Vcc_Lから高電位Vcc_Hに遷移すると、駆動トランジスタMdのソースとドレイン間に“電源駆動パルスDSの波高値に相当する電圧が印加される。そのため、駆動トランジスタMdがオンし、ドレイン電流Idsが流れる。
【0076】
ドレイン電流Idsによって駆動トランジスタMdのソースが充電され、図4(E)に示すようにソース電位Vsが上昇するため、それまで“Vo−Vcc_L”の値をとっていた駆動トランジスタMdのゲートソース間電圧Vgs(保持キャパシタCsの保持電圧)は、徐々に小さくなっていく(図6(A)参照)。
ゲートソース間電圧Vgsの低下速度が速い場合、図4(E)に示すように、空Vth補正期間(VTC0)内にソース電位Vsの上昇が飽和する。この飽和は駆動トランジスタMdがソース電位上昇によりカットオフするために起こる。よって、ゲートソース間電圧Vgs(保持キャパシタCsの保持電圧)は、駆動トランジスタMdの閾値電圧Vthとほぼ等しい値に収束する。
【0077】
なお、図6(A)の動作では、駆動トランジスタMdを流れるドレイン電流Idsが保持キャパシタCsの一方電極を充電する以外に、有機発光ダイオードOLEDの容量Coled.を充電する。このとき、有機発光ダイオードOLEDの容量Coled.が保持キャパシタCsより十分大きいという前提では、ドレイン電流Idsの殆どが保持キャパシタCsの充電に使用され、その場合、ゲートソース間電圧Vgsの収束点が閾値電圧Vthにほぼ等しい値をとる。
上記正確な閾値電圧補正を保証するために、閾値電圧補正期間(VTC)では、有機発光ダイオードOLEDが逆バイアスされた状態で閾値電圧補正を行う。逆バイアス状態では有機発光ダイオードOLEDの消灯が維持される。
【0078】
閾値電圧補正期間(VTC)は時間T19で終了するが、その前の時間T17で書込駆動パルスWSが非アクティブにされサンプリングパルスSP1が終了している。これにより、図6(B)と同様に、サンプリングトランジスタMsがオフし、駆動トランジスタMdのゲートがフローティング状態となる。このときのゲート電位Vgはデータ基準電位Voを維持している。
サンプリングパルスSP1が時間T17で終了し、時間T19までの時間T18にて映像信号パルスPP(1)を印加する、即ち映像信号Ssigの電位をデータ電位Vsigに遷移させる必要がある。これは、時間T19のデータサンプリング時にデータ電位Vsigが安定な所定レベルとなって、データ電圧Vinを正しく書き込むために、データ電位Vsigの安定化を待つためである。よって時間T18〜T19の長さは、データ電位安定化に十分な時間に設定されている。
【0079】
[閾値電圧補正の効果]
ここで仮に、駆動トランジスタのゲートソース間電圧が“Vin”だけ大きくなったとすると、ゲートソース間電圧は“Vin+Vth”となる。また、閾値電圧Vthが大きい駆動トランジスタと、これが小さい駆動トランジスタを考える。
前者の閾値電圧Vthが大きい駆動トランジスタは、閾値電圧Vthが大きい分だけゲートソース間電圧が大きく、逆に閾値電圧Vthが小さい駆動トランジスタは、閾値電圧Vthが小さいためゲートソース間電圧が小さくなる。よって、閾値電圧Vthに関していえば、閾値電圧補正動作により、そのバラツキをキャンセルして、同じデータ電圧Vinなら同じドレイン電流Idsを駆動トランジスタに流すことができる。
【0080】
なお、閾値電圧補正期間(VTC)においては、ドレイン電流Idsが専ら保持キャパシタCsの一方電極側、有機発光ダイオードOLEDの容量Coled.の一方電極側に流入することにのみ消費され、有機発光ダイオードOLEDがオンしないようにする必要がある。有機発光ダイオードOLEDのアノード電圧を“Voled.”、その発光閾値電圧を“Vth_oled.”、そのカソード電位を“Vcath”と表記すると、有機発光ダイオードOLEDをオフ状態に維持する条件は、“Voled.≦Vcath+Vth_oled.”が常に成り立つことである。
【0081】
ここで有機発光ダイオードOLEDのカソード電位Vcathを低電位Vcc_L(例えば接地電圧GND)で一定とした場合、発光閾値電圧Vth_oled.が非常に大きいときは、この式を常に成立させることも可能である。しかし、発光閾値電圧Vth_oled.は有機発光ダイオードOLEDの作製条件で決まり、また、低電圧で効率的な発光のためには発光閾値電圧Vth_oled.を余り大きくできない。よって、本実施形態では、閾値電圧補正期間(VTC)が終了するまでは、カソード電位Vcathを低電位Vcc_Lより大きく設定することによって、有機発光ダイオードOLEDを逆バイアスさせておく。
【0082】
逆バイアスのためのカソード電位Vcathは、図4に示す期間中ずっと一定のままである。ただし、空Vth補正によって逆バイアスが解除される値に、カソード電位Vcathの一定電位が設定される。したがって、閾値電圧補正時よりソース電位Vsが高くなる時間T19より後に、逆バイアスが解除され、この状態で移動度補正や発光のための処理が行われ、その後の発光停止処理で再び有機発光ダイオードOLEDが逆バイアス状態となる。
【0083】
[書込み&移動度補正期間(W&μ)]
時間T19から、書込み&移動度補正期間(W&μ)が開始する。このときの状態は図6(B)と同じであり、サンプリングトランジスタMsがオフ、駆動トランジスタMdがカットオフしている。駆動トランジスタMdのゲートがデータ基準電位Voで保持され、ソース電位Vsが“Vo−Vth”、ゲートソース間電圧Vgs(保持キャパシタCsの保持電圧)が“Vth”となっている。
【0084】
図4(B)に示すように、映像信号パルスPP(1)を印加中の時間T19で、書き込みパルスWPがサンプリングトランジスタMsのゲートに供給される。すると、図8(A)に示すように、サンプリングトランジスタMsがオンし、映像信号線DTL(j)のデータ電位Vsig(=Vin+Vo)のうち、ゲート電位Vg(=Vo)との差分、すなわちデータ電圧Vinが、駆動トランジスタMdのゲートに入力される。この結果、ゲート電位Vgが“Vo+Vin”となる。
ゲート電位Vgがデータ電圧Vinだけ上昇すると、これに連動してソース電位Vsも上昇する。このとき、データ電圧Vinがそのままソース電位Vsに伝達される訳ではなく、容量結合比gに応じた比率の変化分ΔVs、すなわち“g*Vin”だけソース電位Vsが上昇する。このことを次式(1)に示す。
【0085】
[数1]
ΔVs=Vin(=Vsig−Vo)×Cs/(Cs+Coled.)…(1)
ここで保持キャパシタCsの容量値を同じ符号“Cs”により示す。符号“Coled.”は有機発光ダイオードOLEDの等価容量値である。
以上より、移動度補正を考慮しなければ、変化後のソース電位Vsは“Vo−Vth+g*Vin”となる。その結果、駆動トランジスタMdのゲートソース間電圧Vgsは、“(1−g)Vin+Vth”となる。
【0086】
ここで、移動度μによるバラツキについて説明する。
先に行った閾値電圧補正で、実は、ドレイン電流Idsを流すたびに移動度μによる誤差が含まれていたものの、閾値電圧Vthのバラツキが大きいため移動度μによる誤差成分を厳密に議論しなかった。このとき容量結合比gを用いずに、単に“上昇(up)”や“低下(down)”により表記して説明したのは、移動度のバラツキを説明することによる煩雑さを回避するためである。
一方、既に説明したことであるが、厳密に閾値電圧補正が行われた後は、そのとき保持キャパシタCsに閾値電圧Vthが保持されているため、その後、駆動トランジスタMdをオンさせると、閾値電圧Vthの大小によってドレイン電流Idsが変動しない。そのため、この閾値電圧補正後の駆動トランジスタMdの導通で、仮に、当該導通時の駆動電流Idによって保持キャパシタCsの保持電圧(ゲートソース間電圧Vgs)の値に変動が生じたとすると、その変動量ΔV(正または負の極性をとることが可能)は、駆動トランジスタMdの移動度μのバラツキ、より厳密には、半導体材料の物性パラメータである純粋な意味での移動度のほかに、トランジスタの構造上あるいは製造プロセス上で電流駆動力に影響を与える要因の総合的なバラツキを反映したものとなる。
【0087】
以上のことを踏まえた上で動作説明に戻ると、図8(A)において、サンプリングトランジスタMsがオンしてゲート電位Vgにデータ電圧Vinが加わったときに、駆動トランジスタMdは、そのデータ電圧Vin(階調値)に応じた大きさのドレイン電流Idsをソースとドレイン間に流そうとする。このときドレイン電流Idsが移動度μに応じてばらつき、その結果、ソース電位Vsは、“Vo−Vth+g*Vin”に上記移動度μによる変動量ΔVを加えた“Vo−Vth+g*Vin+ΔV”となる。
【0088】
このとき有機発光ダイオードOLEDを発光させないためには、“Vs(=Vo−Vth+g*Vin+ΔV)<Vth_oled.+Vcath”が満たされるように、データ電圧Vinや容量結合比g等に応じたカソード電位Vcathを予め設定するとよい。
この設定を予め行っていると、有機発光ダイオードOLEDは逆バイアスされ、ハイインピーダンス状態にあるため発光することはなく、また、ダイオード特性ではなく単純な容量特性を示すようになる。
【0089】
このとき“Vs(=Vo−Vth+g*Vin+ΔV)<Vth_oled.+Vcath”の式が満たされている限り、ソース電位Vsが、有機発光ダイオードOLEDの発光閾値電圧Vth_oled.とカソード電位Vcathとの和を越えないため、ドレイン電流Ids(駆動電流Id)は保持キャパシタCsの容量値(同じ符号Csで表記)と有機発光ダイオードOLEDの逆バイアス時等価容量の容量値(寄生容量と同じ符号Coled.で表記)と駆動トランジスタMdのゲートソース間に存在する寄生容量(Cgsと表記)とを加算した容量“C=Cs+Coled.+Cgs”を充電するために用いられる。これにより、駆動トランジスタMdのソース電位Vsは上昇していく。このとき、駆動トランジスタMdの閾値電圧補正動作は完了しているため、駆動トランジスタMdが流すドレイン電流Idsは移動度μを反映したものとなる。
【0090】
図4(D)および(E)で“(1−g)Vin+Vth−ΔV”の式により示しているように、保持キャパシタCsに保持されるゲートソース間電圧Vgsにおいては、ソース電位Vsに加わる変動量ΔVが閾値電圧補正後のゲートソース間電圧Vgs(=(1−g)Vin+Vth)から差し引かれることになるため、負帰還がかかるように当該変動量ΔVが保持キャパシタCsに保持される。よって、以下、変動量ΔVを「負帰還量」ともいう。
この負帰還量ΔVは、有機発光ダイオードOLEDに逆バイアスをかけた状態では、ΔV=t*Ids/(Coled.+Cs+Cgs)という式で表すことができる。この式から、変動量ΔVは、ドレイン電流Idsの変動に比例して変化するパラメータであることが分かる。
【0091】
上記負帰還量ΔVの式から、ソース電位Vsに付加される負帰還量ΔVは、ドレイン電流Idsの大きさ(この大きさは、データ電圧Vinの大きさ、即ち階調値と正の相関関係にある)と、ドレイン電流Idsが流れる時間、すなわち、図4(B)に示す、移動度補正に要する時間T19から時間T1Aまでの時間(t)に依存している。つまり、階調値が大きいほど、また、時間(t)を長くとるほど、負帰還量ΔVが大きくなる。
したがって、移動度補正の時間(t)は必ずしも一定である必要はなく、逆にドレイン電流Ids(階調値)に応じて調整することが好ましい場合がある。たとえば、白表示に近くドレイン電流Idsが大きい場合、移動度補正の時間(t)は短めにし、逆に、黒表示に近くなりドレイン電流Idsが小さくなると、移動度補正の時間(t)を長めに設定するとよい。この階調値に応じた移動度補正時間の自動調整は、その機能を図2に示す書き込み信号走査回路42等に予め設けることにより実現可能である。
【0092】
[発光許可期間(LM(1))]
時間T1Aで書込み&移動度補正期間(W&μ)が終了すると、発光許可期間(LM(1))が開始する。
時間T1Aで書き込みパルスWPが終了するためサンプリングトランジスタMsがオフし、駆動トランジスタMdのゲートが電気的にフローティング状態となる。
【0093】
ところで、発光許可期間(LM(1))より前の書込み&移動度補正期間(W&μ)においては、駆動トランジスタMdはデータ電圧Vinに応じたドレイン電流Idsを流そうとするが、実際に流せるとは限らない。その理由は、有機発光ダイオードOLEDに流れる電流値(Id)が駆動トランジスタMdに流れる電流値(Ids)に比べて非常に小さいなら、サンプリングトランジスタMsがオンしているため、駆動トランジスタMdのゲート電圧Vgが“Vofs+Vin”に固定され、そこから閾値電圧Vth分下がった電位(“Vofs+Vin−Vth”)にソース電位Vsが収束しようとするからである。よって、移動度補正の時間(t)を幾ら長くしてもソース電位Vsは上記収束点を超える電位にはなれない。移動度補正は、その収束までの速さの違いで移動度μの違いをモニタし、補正するものである。このため、最大輝度の白表示のデータ電圧Vinが入力された場合でも、上記収束になる前に移動度補正の時間(t)の終点が決められる。
【0094】
発光許可期間(LM(1))が開始して駆動トランジスタMdのゲートがフローティングとなると、そのソース電位Vsは、さらに上昇可能となる。よって、駆動トランジスタMdは、入力されたデータ電圧Vinに応じた駆動電流Idを流すように動作する。
その結果、ソース電位Vs(有機発光ダイオードOLEDのアノード電位)が上昇し、図8(B)に示すように、ドレイン電流Idsが駆動電流Idとして有機発光ダイオードOLEDに流れ始めるため、有機発光ダイオードOLEDが実際に発光を開始する。発光が開始して暫くすると、駆動トランジスタMdは、入力されたデータ電圧Vinに応じたドレイン電流Idsで飽和し、ドレイン電流Ids(=Id)が一定となると、有機発光ダイオードOLEDがデータ電圧Vinに応じた輝度の発光状態となる。
【0095】
発光許可期間(LM(1))の開始から輝度が一定となるまでの間に有機発光ダイオードOLEDのアノード電位の上昇は、駆動トランジスタMdのソース電位Vsの上昇に他ならず、これを、有機発光ダイオードOLEDのアノード電圧Voled.の上昇量という意味で“ΔVoled.”とする。駆動トランジスタMdのソース電位Vsは、“Vo−Vth+g*Vin+ΔV+ΔVoled.”となる(図4(E)参照)。
一方、ゲート電位Vgは、ゲートがフローティング状態であるため、図4(D)に示すように、ソース電位Vsに連動して、その上昇量ΔVoled.と同じだけ上昇し、ドレイン電流Idsの飽和に伴ってソース電位Vsが飽和すると、ゲート電位Vgも飽和する。
その結果、ゲートソース間電圧Vgs(保持キャパシタCsの保持電圧)について、移動度補正時の値(“(1−g)Vin+Vth−ΔV”)が、発光許可期間(LM(1))中も維持される。
【0096】
発光許可期間(LM(1))においては、駆動トランジスタMdが定電流源として動作することから、有機発光ダイオードOLEDのI−V特性が経時変化し、これに伴って駆動トランジスタMdのソース電位Vsが変化することがある。
しかしながら、有機発光ダイオードOLEDのI−V特性が経時変化の有無に関係なく、保持キャパシタCsの保持電圧が(“(1−g)Vin+Vth−ΔV”)に保たれる。そして、保持キャパシタCsの保持電圧は、駆動トランジスタMdの閾値電圧Vthを補正する成分(+Vth)と、移動度μによる変動を補正する成分(−ΔV)とを含むことから、閾値電圧Vthや移動度μが、異なる画素間でばらついても駆動トランジスタMdのドレイン電流Ids、つまり、有機発光ダイオードOLEDの駆動電流Idが一定に保たれる。
【0097】
具体的には、駆動トランジスタMdは、閾値電圧Vthが大きいほど、上記保持電圧の閾値電圧補正成分(+Vth)によってソース電位Vsを下げて、ドレイン電流Ids(駆動電流Id)をより流すようにソースドレイン間電圧を大きくする。このため閾値電圧Vthの変動があってもドレイン電流Idsは一定となる。
また、駆動トランジスタMdは、移動度μが小さくて上記変動量ΔVが小さい場合は、保持キャパシタCsの保持電圧の移動度補正成分(−ΔV)によって当該保持電圧の低下量も小さくなるため、相対的に、大きなソースドレイン間電圧が確保され、その結果、ドレイン電流Ids(駆動電流Id)をより流すように動作する。このため移動度μの変動があってもドレイン電流Idsは一定となる。
【0098】
図9は、閾値電圧と移動度の補正を行っていない初期状態((A))、閾値電圧補正のみ行った状態((B))、閾値電圧と移動度の補正を行った状態((C))における、データ電位Vsigの大きさとドレイン電流Idsとの関係(駆動トランジスタMdの入出力特性)の変化を模式的に示す。
図9から、大きく乖離していた画素Aと画素Bの特性カーブが、まず閾値電圧補正で大きく近づき、つぎに移動度補正を行うとほとんど同じとみなせる程度まで近づくことが分かる。
【0099】
以上より、画素間で駆動トランジスタMdの閾値電圧Vthや移動度μがばらついても、さらに、駆動トランジスタMdの特性が経時変化しても、データ電圧Vinが同じである限り、有機発光ダイオードOLEDの発光輝度も一定に保たれる。
【0100】
つぎに、本実施形態で空Vth補正を行うことによる効果を、空Vth補正を行わない場合を比較例として説明する。
【0101】
<比較例>
図10(A)〜図10(E)は、比較例の発光制御における各種信号や電圧の波形を示すタイミングチャートである。図10において、図4と重複するパルス、時間(タイミング)、電位変化等は全て同じ符号を付して表している。よって、同じ符号に関する限り、今までの説明は当該比較例においても適用される。以下、図10の制御が図4の制御と異なる点のみ説明する。
【0102】
図10を図4と比較すると明らかなように、図10に示す制御では、図4に示す制御における空Vth補正期間(VTC0)と、これに続く初期化期間(INT)を省略し、フィールドF(1)の処理の開始と同時に、時間T10から閾値補正期間(VTC)を始めている。図4における時間T10ではサンプリングパルスSP0が活性レベルであったが、図10では、前述した[閾値補正期間(VTC)]の説明をそのまま適用するため時間T10ではサンプリングパルスSP1が活性レベルであるとする。前述した[閾値補正期間(VTC)]の説明は、“時間16”を“時間T10”に読み替えた上で、当該比較例でも重複適用される。
【0103】
図10に示す制御においては、フィールドF(0)の発光停止期間(LM−STOP)の処理が、図4における初期化期間(INT)の処理に代わるものである。よって、閾値電圧補正の本動作(閾値補正期間(VTC)の処理)の直前に行う補正準備(初期化)は、発光停止期間(LM−STOP)で行われる。
【0104】
ところが、発光停止期間(LM−STOP)は有機ELディスプレイ1を搭載したシステム(機器)の仕様により、その長さが変更される場合があり、そのことが原因となって、次に説明する、いわゆる“フラッシュ現象”が生じる。
【0105】
図11は、フラッシュ現象の原因を説明するための図である。
図11(A)には、図10(C)に約1フィールド(1F)分だけ示していた電源駆動パルスDSの波形を、4フィールド(4F)に亘って示している。
先に説明した図10において、発光許可期間(LM(0),LM(1))に比べて閾値補正期間(VTC)、書込み&移動度補正期間(W&μ)は時間的に僅かである。このため、図11(A)では閾値補正期間(VTC)と書込み&移動度補正期間(W&μ)の図示を省略し、1F期間の最初から発光許可期間(LM)が始まっている。ここで発光許可期間(LM)は電源駆動パルスDSの電位が高電位Vcc_Hをとる期間であり、その後の低電位Vcc_Lの期間は、図10に示す発光停止期間(LM−STOP)に相当する。
【0106】
図11(B)に、図11(A)と同期したタイミングで変化する発光強度Lを模式的に示している。ここではデータ電圧Vinが同じ画素行を4F期間連続表示した場合を示している。
図1(A)に示すように、最初の2F期間は、発光停止期間(LM−STOP)が比較的短いのに対し、その後の2F期間は発光停止期間(LM−STOP)が比較的長くなっている。この制御は、有機ELディスプレイ1を搭載するシステム(機器)において、例えば機器を屋外から屋内に移動させたこと等に対応して機器内のCPU等(不図示)が、周辺環境が暗くなったと判断し、見易さ向上のために表示の明るさを全体的に下げる場合がある。同じような処理は、低消費電力モードへの移行によって行われることもある。一方、有機発光ダイオードOLEDの長寿命化を意図して駆動電流を常に一定とする制御をCPU等が行う場合がある。例えば、データ電圧Vinが大きいときは駆動電流が上がり過ぎることを阻止するため駆動電流は一定で発光許可期間(LM)を長くすることにより上記データ電圧Vinに応じた発光輝度の確保を行う。その逆の場合、即ち図示のように駆動電流は大きい値で一定のまま発光許可期間(LM)を短くすることにより、データ電圧Vinの低下に対応して所定の発光輝度を得る場合がある。
【0107】
有機発光ダイオードOLEDに逆バイアスがかかる期間を決めるのは発光停止期間(LM−STOP)の長さである。よって、図示のように発光許可期間(LM)の長さが表示途中で切り替わると、それに伴って有機発光ダイオードOLEDに実際に逆バイアスがかかる期間が変化する。
【0108】
有機発光ダイオードOLEDは、逆バイアスを印加して図5(A)等に示す容量Coled.の値が安定するまでに時間がかかる。この時間は1F期間に比べて長く、ゆっくりと容量値が変化することが原因で、逆バイアス期間が長いほど容量Coled.の値が大きくなる。このため、前述した式(1)から、容量Coled.の値が大きいほどソース電位Vsの変化分ΔVsが小さくなり、駆動トランジスタMdのゲートソース間電圧Vgsが、同じデータ電圧Vinを入力していた時間的に前の他のフィールドよりも大きくなる。このゲートソース間電圧Vgsがフィールド間で大きくなると、図11(C)に示すように、次のフィールドの表示から発光強度Lが“ΔL”だけ増大し、表示面全体が一瞬のうちに明るくなる“フラッシュ現象”が発生する。
これとは逆に、発光停止期間(LM−STOP)が急に短くなると、逆バイアス期間が小さくなり、上記と逆の理由からゲートソース間電圧Vgsが急に小さくなるため、発光強度Lが下がって表示画面が一瞬のうちに暗くなる現象(フラッシュ現象の一種)が発生する。
【0109】
上記フラッシュ現象を防止するために、本実施形態に関わる図4に示す表示制御では、システムの要求で長さが変動することがある発光停止期間(LM−STOP)の直後に空Vth補正期間(VTC0)を設け、その後の補正準備のために設けられている初期化期間(INT)を一定としている。
閾値補正期間(VTC)においては、駆動トランジスタMdのソースが上昇するため、発光停止期間(LM−STOP)でかかっていた逆バイアスが一旦解除され、その後に初期化期間(INT)が始まると同時に新たに逆バイアスが有機発光ダイオードOLEDに印加される。したがって、発光強度Lに影響する逆バイアス期間は常に一定となり、上述したフラッシュ現象が有効に防止される。
【0110】
本実施形態における変形例を述べる。
【0111】
<変形例1>
図4の表示制御では、空Vth補正期間(VTC0)を1画面(1フィールド)の最初に行ったが、空Vth補正期間は、これに限定されない。例えば、発光許可期間(LM)の直後に空Vth補正を行ってもよい。
図12は、発光許可期間の後に空Vth補正を行う場合の説明図である。
図12の表示制御では、発光許可期間(LM(0))の後に発光停止期間(LM−STOP)を行い、その直後に空Vth補正期間(VTC0)を行っている。その後、非発光状態が続いてから次のフィールドF(1)が開始する。このためフィールドF(1)の最初に、一定期間の逆バイアス状態で行う初期化期間(INT)が行われ、その後、閾値補正期間(VTC)、書込み&移動度補正期間(W&μ)、発光許可期間(LM(1))が続く。
図12に示す変形例1は、発光停止期間(LM−STOP)、空Vth補正期間(VTC0)、初期化期間(INT)、閾値補正期間(VTC)、書込み&移動度補正期間(W&μ)、発光許可期間(LM)の順番としては前述した図4の場合と同様である。
【0112】
<変形例2>
画素回路は図2に示すものに限定されない。
図2の画素回路ではデータ基準電位Voは映像信号Ssigのサンプリングにより与えられるが、データ基準電位Voを、別のトランジスタを介して駆動トランジスタMdのソースやゲートに与えることもできる。
図2の画素回路ではキャパシタは保持キャパシタCsのみであるが、他の保持キャパシタを、例えば駆動トランジスタMdのドレインとゲート間にもう1つ設けてもよい。
【0113】
<変形例3>
画素回路が有機発光ダイオードOLEDの発光と非発光を制御する駆動方法には、画素回路内のトランジスタを走査線により制御する方法と、電源電圧の供給線を駆動回路によりAC駆動する方法(電源AC駆動方法)とがある。
図2の画素回路は、後者の電源AC駆動方法の一例であるが、この方法において有機発光ダイオードOLEDのカソード側をAC駆動して駆動電流を流す、流さないを制御してもよい。
一方、前者の発光制御を走査線により制御する方法では、駆動トランジスタMdのドレイン側、または、ソースと有機発光ダイオードOLEDとの間に、他のトランジスタを挿入し、そのゲートを電源駆動制御の走査線で駆動する。
【0114】
<変形例4>
図4に示す表示制御は、閾値補正期間(VTC)を1回の補正で行っていたが、複数回の連続した(初期化を間に挟まないとの意味)処理によって閾値補正を行ってもよい。
その場合、初期化を間に挟まないことから、電源駆動パルスDSの電位を最初の閾値補正時に低電位Vcc_Lから高電位Vcc_Hに上げた後は、発光停止まで高電位Vcc_Hが維持される。この点で、連続した処理による閾値補正動作は、空Vth補正と閾値補正の本動作の間に電源駆動パルスDSの電位を低電位Vcc_Lに一時的に下げる、図4に示す本実施形態の動作と根本的に異なる。
【0115】
<変形例5>
図4に示す表示制御では空Vth補正動作は1回であるが、ソース充電速度が遅いため1回の空Vth補正では逆バイアス解除がばらつきも含めて十分でない場合、上記変形例3の「連続した処理による閾値補正動作」と同様に、電源駆動パルスDSの電位を高電位Vcc_Hとしたままで空Vth補正を連続して複数回行ってもよい。
【0116】
本実施形態によれば、フィールドごとに発光許可期間を変更しても、逆バイアス印加期間の長短が原因で非発光許可期間(発光停止期間)中に生じていた有機発光ダイオードのバイアス変動の影響を受けることなく、同じデータ電圧が入力されたのであればフィールドごとの輝度が同じになるため、いわゆるフラッシュ現象を有効に防止できるという利益が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0117】
【図1】本発明の実施形態に関わる有機ELディスプレイの主要構成例を示すブロック図である。
【図2】本発明の実施形態に関わる画素回路の基本構成を含むブロック図である。
【図3】有機発光ダイオードの特性を示すグラフと式を示す図である。
【図4】本発明の実施形態に関わる表示制御における各種信号や電圧の波形を示すタイミングチャートである。
【図5】発光停止期間までの動作説明図である。
【図6】空Vth補正終了前までの動作説明図である。
【図7】初期化期間までの動作説明図である。
【図8】発光許可期間までの動作説明図である。
【図9】補正効果の説明図である。
【図10】本発明の実施形態に対する比較例に関わり、表示制御における各種信号や電圧の波形を示すタイミングチャートである。
【図11】比較例で生じるフラッシュ現象を説明するための信号波形と発光強度の変化を示すタイミングチャートである。
【図12】本発明の実施形態の変形例1に関わり、表示制御における各種信号や電圧の波形を示すタイミングチャートである。
【符号の説明】
【0118】
1…有機ELディスプレイ、2…画素アレイ、3…画素回路、4…Vスキャナ、5…Hセレクタ、41…水平画素ライン駆動回路、42…書き込み信号走査回路、OLED…有機発光ダイオード、Md…駆動トランジスタ、Ms…サンプリングトランジスタ、Cs…保持キャパシタ、NDc…制御ノード、DSL…電源走査線、DS…電源駆動パルス、DTL…映像信号線、WSL…書込走査線、WS…書込駆動パルス、Vsig,Vin…データ電位、Vo…データ基準電位
【特許請求の範囲】
【請求項1】
発光ダイオードと、駆動トランジスタと、保持キャパシタと、書込みトランジスタとを含む画素回路と、
該画素回路を駆動する駆動回路と、
を有し、
画素回路において、
書込みトランジスタは、その制御ノードに接続された書込走査線からの制御信号に応じて、保持キャパシタへの電圧の書込みを制御し、
駆動トランジスタは、その制御ノードに接続された保持キャパシタの保持電圧に応じて、前記発光ダイオードの駆動電流を制御し、
駆動回路は、
発光ダイオードを逆バイアス状態に設定して発光が停止している状態にしてから、
駆動トランジスタを介した電流を保持キャパシタに流すことで、駆動トランジスタの制御ノードと接続ノードの電位差を駆動トランジスタの閾値電圧に近づける動作を行い、該逆バイアス状態の設定を解除し、
駆動トランジスタの制御ノードを映像信号に応じたデータ電位に設定し、発光ダイオードへの電流供給を開始して、該データ電位に応じた輝度で前記発光ダイオードを発光させる、
自発光型表示装置。
【請求項2】
駆動回路は、
駆動トランジスタの制御ノードを映像信号に応じたデータ電位に設定するのに先立って、
発光ダイオードを一定期間だけ逆バイアス状態に設定し、保持キャパシタの保持電圧を前記閾値電圧より大きい初期値に設定したのち、
映像信号に応じた発光ダイオードへの駆動電流の、駆動トランジスタの閾値に対する依存性を補正する補正動作を少なくとも一回行う、
請求項1記載の自発光型表示装置。
【請求項3】
前記駆動回路は、
発光ダイオードを逆バイアス状態に設定し、サンプリングトランジスタを導通して、初期化信号が保持キャパシタに書き込まれた状態で、該逆バイアス状態の設定を解除する動作を開始する、
請求項1または請求項2記載の自発光型表示装置。
【請求項4】
駆動回路は、
データ電位を保持容量の一端に印加した状態で、駆動トランジスタを介した電流を保持キャパシタに流す動作を所定期間行うことで、
映像信号に応じた発光ダイオードへの駆動電流の、駆動トランジスタの駆動能力に対する依存性を補正する補正動作を行う、
請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の自発光型表示装置。
【請求項5】
駆動回路によって駆動される複数の画素回路が、行列状に配置される画素アレイを有し、
駆動回路は、
書込みトランジスタをオフさせた状態で、駆動トランジスタの電源電圧接続を解除することにより発光ダイオードを逆バイアス状態に設定し、
該電源電圧接続の解除期間は、前記画素アレイ内の画素行ごとに決められた全ての行表示期間内で一定となるように設定する、
請求項1に記載の自発光型表示装置。
【請求項6】
発光期間制御部をさらに備え、
前記駆動回路は、発光許可期間の終了時に発光ダイオードを逆バイアス状態に設定することで、発光停止とするタイミングを制御し、もって該発光期間制御部の設定に応じて発光許可と発光停止の期間長の比率を制御する、
請求項1乃至5の何れか一項に記載の自発光型表示装置。
【請求項7】
発光期間制御部は、周囲の明るさに応じて駆動回路が定める発光許可と発光停止の期間長の比率を制御する、
請求項6に記載の自発光型表示装置。
【請求項8】
複数の画素回路が行列状に配置される画素アレイと、
該画素アレイ内で複数の画素回路を列方向の並びごとに共通接続する複数の映像信号線と、
該画素アレイ内で複数の画素回路を行方向の並びごとに共通接続し、前記駆動回路で発生する電源駆動パルスを伝送する電源走査線と、
前記画素アレイ内で複数の前記画素回路を行方向の並びごとに共通接続し、前記駆動回路で発生する書込駆動パルスを伝送する書込走査線と、
を備え、
各々の画素回路内において、
駆動トランジスタを介した発光ダイオードへの駆動電流の供給が、電源走査線の電位に応じて制御され、
駆動トランジスタに接続された発光ダイオードと、駆動トランジスタの制御ノードとの間に保持キャパシタが接続され、
映像信号線から保持キャパシタへの電流経路間に、書込走査線により制御される書込みトランジスタが接続されている、
請求項1に記載の自発光型表示装置。
【請求項9】
発光ダイオードは有機EL発光素子である、請求項1乃至8の何れか一項に記載の自発光型表示装置。
【請求項1】
発光ダイオードと、駆動トランジスタと、保持キャパシタと、書込みトランジスタとを含む画素回路と、
該画素回路を駆動する駆動回路と、
を有し、
画素回路において、
書込みトランジスタは、その制御ノードに接続された書込走査線からの制御信号に応じて、保持キャパシタへの電圧の書込みを制御し、
駆動トランジスタは、その制御ノードに接続された保持キャパシタの保持電圧に応じて、前記発光ダイオードの駆動電流を制御し、
駆動回路は、
発光ダイオードを逆バイアス状態に設定して発光が停止している状態にしてから、
駆動トランジスタを介した電流を保持キャパシタに流すことで、駆動トランジスタの制御ノードと接続ノードの電位差を駆動トランジスタの閾値電圧に近づける動作を行い、該逆バイアス状態の設定を解除し、
駆動トランジスタの制御ノードを映像信号に応じたデータ電位に設定し、発光ダイオードへの電流供給を開始して、該データ電位に応じた輝度で前記発光ダイオードを発光させる、
自発光型表示装置。
【請求項2】
駆動回路は、
駆動トランジスタの制御ノードを映像信号に応じたデータ電位に設定するのに先立って、
発光ダイオードを一定期間だけ逆バイアス状態に設定し、保持キャパシタの保持電圧を前記閾値電圧より大きい初期値に設定したのち、
映像信号に応じた発光ダイオードへの駆動電流の、駆動トランジスタの閾値に対する依存性を補正する補正動作を少なくとも一回行う、
請求項1記載の自発光型表示装置。
【請求項3】
前記駆動回路は、
発光ダイオードを逆バイアス状態に設定し、サンプリングトランジスタを導通して、初期化信号が保持キャパシタに書き込まれた状態で、該逆バイアス状態の設定を解除する動作を開始する、
請求項1または請求項2記載の自発光型表示装置。
【請求項4】
駆動回路は、
データ電位を保持容量の一端に印加した状態で、駆動トランジスタを介した電流を保持キャパシタに流す動作を所定期間行うことで、
映像信号に応じた発光ダイオードへの駆動電流の、駆動トランジスタの駆動能力に対する依存性を補正する補正動作を行う、
請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の自発光型表示装置。
【請求項5】
駆動回路によって駆動される複数の画素回路が、行列状に配置される画素アレイを有し、
駆動回路は、
書込みトランジスタをオフさせた状態で、駆動トランジスタの電源電圧接続を解除することにより発光ダイオードを逆バイアス状態に設定し、
該電源電圧接続の解除期間は、前記画素アレイ内の画素行ごとに決められた全ての行表示期間内で一定となるように設定する、
請求項1に記載の自発光型表示装置。
【請求項6】
発光期間制御部をさらに備え、
前記駆動回路は、発光許可期間の終了時に発光ダイオードを逆バイアス状態に設定することで、発光停止とするタイミングを制御し、もって該発光期間制御部の設定に応じて発光許可と発光停止の期間長の比率を制御する、
請求項1乃至5の何れか一項に記載の自発光型表示装置。
【請求項7】
発光期間制御部は、周囲の明るさに応じて駆動回路が定める発光許可と発光停止の期間長の比率を制御する、
請求項6に記載の自発光型表示装置。
【請求項8】
複数の画素回路が行列状に配置される画素アレイと、
該画素アレイ内で複数の画素回路を列方向の並びごとに共通接続する複数の映像信号線と、
該画素アレイ内で複数の画素回路を行方向の並びごとに共通接続し、前記駆動回路で発生する電源駆動パルスを伝送する電源走査線と、
前記画素アレイ内で複数の前記画素回路を行方向の並びごとに共通接続し、前記駆動回路で発生する書込駆動パルスを伝送する書込走査線と、
を備え、
各々の画素回路内において、
駆動トランジスタを介した発光ダイオードへの駆動電流の供給が、電源走査線の電位に応じて制御され、
駆動トランジスタに接続された発光ダイオードと、駆動トランジスタの制御ノードとの間に保持キャパシタが接続され、
映像信号線から保持キャパシタへの電流経路間に、書込走査線により制御される書込みトランジスタが接続されている、
請求項1に記載の自発光型表示装置。
【請求項9】
発光ダイオードは有機EL発光素子である、請求項1乃至8の何れか一項に記載の自発光型表示装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2013−57947(P2013−57947A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−228229(P2012−228229)
【出願日】平成24年10月15日(2012.10.15)
【分割の表示】特願2007−329845(P2007−329845)の分割
【原出願日】平成19年12月21日(2007.12.21)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年10月15日(2012.10.15)
【分割の表示】特願2007−329845(P2007−329845)の分割
【原出願日】平成19年12月21日(2007.12.21)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]