説明

自硬性鋳型造型用粘結剤組成物

【課題】鋳型の硬化速度及び鋳型強度が向上でき、粘結剤組成物の保存安定性が良好な自硬性鋳型造型用粘結剤組成物と、これを用いた鋳型の製造方法を提供する。
【解決手段】フラン樹脂とイオン化合物を含有し、前記イオン化合物が亜硫酸水素イオン、亜硫酸イオン、ピロ亜硫酸イオン、チオ硫酸イオン、チオン酸イオン及び亜ジチオン酸イオンからなる群から選ばれる1種以上の陰イオンを含有し、前記陰イオンの含有量が前記フラン樹脂有効分100重量部に対して0.006〜0.60重量部であり、かつ25℃でpHが6以下である自硬性鋳型造型用粘結剤組成物とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自硬性鋳型造型用粘結剤組成物と、これを用いた鋳型の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋳物を製造するための鋳型としては、自硬性鋳型、加熱硬化鋳型、ガス硬化鋳型などが知られている。最も多く使用されている自硬性鋳型は、ケイ砂等の耐火性粒子に、フラン樹脂等を含有する自硬性鋳型造型用粘結剤組成物と、リン酸、有機スルホン酸、硫酸等を含有する硬化剤とを添加し、これらを混練した後、得られた混練砂を木型等の原型に充填することで得られる。
【0003】
上記フラン樹脂としては、フルフリルアルコール、フルフリルアルコール縮合物、フルフリルアルコール・尿素ホルムアルデヒド樹脂、フルフリルアルコール・ホルムアルデヒド樹脂、フルフリルアルコール・フェノール・ホルムアルデヒド樹脂、その他公知の変性フラン樹脂等が用いられている。
【0004】
一方、特許文献1、2には粘結剤組成物の添加剤として亜硫酸塩やチオ硫酸塩等のイオン化合物の記載がある。
【0005】
特許文献1には、耐火性骨材と硬化性粘結剤を主要構成成分とし、硬化性粘結剤が1分子中にエチレン性不飽和基を2個以上有する多官能性アクリルアミド類を含んでなる鋳型材料は、低温速硬性、崩壊性、可使時間に優れており、特にアルミニウム合金などの低融点金属の鋳造用鋳型用材料として適していることが記載されている。前記硬化性粘結剤は、従来の粘結剤と異なる硬化機構を有する重合性有機化合物であり、レドックス系触媒として、亜硫酸水素ナトリウムのような亜硫酸塩やナフテン酸コバルト等の金属石鹸などが使用されることが記載されている。
【0006】
特許文献2には、酸によって常温で硬化しうる有機樹脂と、該有機樹脂の潜在性硬化剤よりなる酸硬化型樹脂組成物において、前記潜在性硬化剤が、オゾンによって三酸化硫黄を形成し得る硫黄化合物よりなる群から選ばれた少なくとも1種であることを特徴とする鋳型用組成物が記載されている。そして、潜在性硬化剤として亜硫酸塩類、亜硫酸水素塩類、ピロ亜硫酸塩類、次亜硫酸塩類、次亜硫酸塩類のアルデヒド付加物、チオ硫酸塩類等が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】WO90/02007号公報
【特許文献2】特開昭55-120445号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前記特許文献1に記載の鋳型材料では、レドックス系触媒が中性またはアルカリ性であるため、酸による脱水縮合反応により硬化するフラン樹脂系の粘結剤組成物では硬化反応が促進されない。また、前記特許文献2に記載の酸硬化型樹脂組成物では、オゾンを連続的に供給することにより三酸化硫黄を発生させるが、オゾンの連続供給が無い系では硬化性有機樹脂の硬化反応が促進されない。このように、従来の鋳型造型用粘結剤組成物は鋳型の硬化速度及び鋳型強度が十分満足されるものでなく、鋳型生産性の向上が望まれていた。
【0009】
本発明は、鋳型の硬化速度及び鋳型強度を向上させることができる保存安定性に優れた自硬性鋳型造型用粘結剤組成物と、これを用いた鋳型の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の自硬性鋳型造型用粘結剤組成物は、フラン樹脂とイオン化合物を含有し、前記イオン化合物が亜硫酸水素イオン、亜硫酸イオン、ピロ亜硫酸イオン、チオ硫酸イオン、チオン酸イオン及び亜ジチオン酸イオンからなる群から選ばれる1種以上の陰イオンを含有し、前記陰イオンの含有量が前記フラン樹脂100重量部に対して0.006〜0.60重量部であり、かつ25℃でpHが6以下である自硬性鋳型造型用粘結剤組成物である。
【0011】
本発明の鋳型の製造方法は、前記本発明の自硬性鋳型造型用粘結剤組成物、耐火性粒子及び硬化剤を含む混合物を硬化する工程を有する鋳型の製造方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の自硬性鋳型造型用粘結剤組成物によれば、鋳型の硬化速度及び鋳型強度を向上させることができるため、鋳型を安定的に生産することができ、鋳型の生産性が良好となる。また、本発明の自硬性鋳型造型用粘結剤組成物は、保存安定性が良好なものである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の自硬性鋳型造型用粘結剤組成物(以下、単に「粘結剤組成物」ともいう)は、フラン樹脂とイオン化合物を含有し、前記イオン化合物が亜硫酸水素イオン、亜硫酸イオン、ピロ亜硫酸イオン、チオ硫酸イオン、チオン酸イオン及び亜ジチオン酸イオンからなる群から選ばれる1種以上の陰イオンを含有し、前記陰イオンの含有量が前記フラン樹脂100重量部に対して0.006〜0.60重量部であり、かつ25℃でpHが6以下である自硬性鋳型造型用粘結剤組成物であり、鋳型の硬化速度と鋳型強度を向上させる効果を奏する。このような効果を奏する理由は定かではないが、以下の様に考えられる。
【0014】
本発明で用いられる亜硫酸水素イオン、亜硫酸イオン、ピロ亜硫酸イオン、チオ硫酸イオン、チオン酸イオン、亜ジチオン酸イオン等の陰イオンを含有するイオン化合物は、硫酸等の硬化剤が共存すると、硫酸等よりも低いpKaの酸が生じ、酸強度が高くなり、これにより硬化が促進すると考えられる。
【0015】
以下、本発明の粘結剤組成物について説明する。本発明の粘結剤組成物は、フラン樹脂とイオン化合物とを含有する。
【0016】
<イオン化合物>
本発明のイオン化合物は、亜硫酸水素イオン、亜硫酸イオン、ピロ亜硫酸イオン、チオ硫酸イオン、チオン酸イオン及び亜ジチオン酸イオンからなる群から選ばれる1種以上の陰イオンを含有するイオン化合物である。
【0017】
本発明の陰イオンを含有するイオン化合物は、陽イオンとの塩の形で粘結剤組成物に添加されることが好ましい。亜硫酸水素イオン化合物として亜硫酸の酸性塩、亜硫酸イオン化合物として亜硫酸の塩、ピロ亜硫酸イオン化合物としてピロ亜硫酸の塩、チオ硫酸イオン化合物としてチオ硫酸の塩、チオン酸イオン化合物としてテトラチオン酸の塩、亜ジチオン酸イオン化合物として亜ジチオン酸の塩を用いることができる。鋳型の硬化速度向上と鋳型強度向上の観点から、陰イオンとしては、チオ硫酸イオン、亜硫酸水素イオン及び亜硫酸イオンが好ましく、チオ硫酸イオン及び亜硫酸水素イオンがより好ましく、チオ硫酸イオンが更に好ましい。
【0018】
イオン化合物として塩を用いる場合、イオン化合物中の陽イオンとして金属塩が挙げられる。金属塩としては1価や2価及び3価以上の金属を挙げることができる。粘結剤組成物の保存安定性を向上させる観点から、2価以下の金属が好ましく、1価の金属が更に好ましい。
【0019】
本発明のイオン化合物中の陽イオンは、鋳型の硬化速度向上及び鋳型強度向上の観点から、周期律表第1族、2族及び12族の元素よりなる群から選ばれる1種以上の元素からなる陽イオン(金属イオン)が好ましく、周期律表第1族及び2族の元素よりなる群から選ばれる1種以上の元素からなる陽イオンがより好ましく、周期律表第1族の元素よりなる群から選ばれる1種以上の元素からなる陽イオンが更に好ましい。同様の観点から、周期律表第1族ではNaイオン及びKイオンが好ましく、Naイオンがより好ましい。同様の観点から、周期律表第2族ではMgイオン及びCaイオンが好ましく、周期律表第12族ではZnイオンが好ましい。周期律表第1族、2族及び12族の元素の中で、同様の観点から、Naイオン、Kイオン、Mgイオン、Caイオン及びZnイオンが好ましく、Naイオン及びKイオンがより好ましく、Naイオンが更に好ましい。
【0020】
亜硫酸水素イオン(HSO-)の塩の具体例としては、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸水素カリウム、亜硫酸水素リチウム、亜硫酸水素マグネシウム、亜硫酸水素カルシウム、亜硫酸水素亜鉛等が挙げられる。
【0021】
亜硫酸イオン(SO--)の塩の具体例としては、亜硫酸ナトリウム(無水物又は7水和物)、亜硫酸カリウム、亜硫酸リチウム、亜硫酸マグネシウム(6水和物)、亜硫酸カルシウム(1/2水和物)、亜硫酸亜鉛(2水和物)、亜硫酸バリウム、亜硫酸ビスマス、亜硫酸銀等が挙げられる。
【0022】
ピロ亜硫酸イオン(S--)の塩の具体例としては、ピロ亜硫酸ナトリウム、ピロ亜硫酸カリウム、ピロ亜硫酸マグネシウム、ピロ亜硫酸カルシウム、ピロ亜硫酸亜鉛等が挙げられる。
【0023】
チオ硫酸イオン(S--)の塩の具体例としてはチオ硫酸ナトリウム(無水物又は5水和物)、チオ硫酸カリウム、チオ硫酸バリウム(1水和物)、チオ硫酸マグネシウム(6水和物)、チオ硫酸カルシウム、チオ硫酸亜鉛等が挙げられる。
【0024】
チオン酸イオン(S--)の塩の具体例としては、テトラチオン酸ナトリウム(2水和物)テトラチオン酸カリウム、テトラチオン酸マグネシウム、テトラチオン酸カルシウム、テトラチオン酸亜鉛等が挙げられる。
【0025】
亜ジチオン酸イオン(S--)の塩の具体例としては、亜ジチオン酸ナトリウム、亜ジチオン酸カリウム、亜ジチチオン酸マグネシウム、亜ジチオン酸カルシウム、亜ジチオン酸亜鉛等が挙げられる。
【0026】
これらのイオン化合物の中で、鋳型の硬化速度向上と鋳型強度向上の観点から亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸水素カリウム、亜硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、チオ硫酸カリウム、チオ硫酸マグネシウム、チオ硫酸カルシウム、テトラチオン酸ナトリウム及び亜ジチオン酸ナトリウムが好ましく、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸水素カリウム、亜硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、チオ硫酸カリウム、チオ硫酸マグネシウム及びチオ硫酸カルシウムがより好ましく、チオ硫酸ナトリウム、チオ硫酸カリウム、チオ硫酸マグネシウムおよびチオ硫酸カルシウムが更に好ましく、チオ硫酸ナトリウムがより更に好ましい。
【0027】
イオン化合物中の陰イオンの含有量の測定に関して、亜硫酸水素イオン、亜硫酸イオン、ピロ亜硫酸イオン、チオ硫酸イオン、チオン酸イオン及び亜ジチオン酸イオンの定量分析はイオンクロマト分析法や元素分析で確認できる。またこれらの塩のアルカリ金属等はICP発光分析法で定性及び定量分析ができる。
【0028】
イオン化合物の混合の方法は、フラン樹脂とイオン化合物、他の成分を混合する方法、予め、イオン化合物を含有させたフラン樹脂と他の成分を混合させる方法等が挙げられる。イオン化合物を予めフラン樹脂に含有させる方法としては、合成反応前に原料モノマーにイオン化合物を混合して合成する方法、合成反応中にイオン化合物を混合する方法、合成後にイオン化合物を混合する方法が挙げられる。また、該陰イオンを含有する酸、即ち亜硫酸、チオ硫酸、亜ジチオン酸等を混合した後、中和してイオン化合物を粘結剤組成物中やフラン樹脂中で生成させても構わない。添加量の誤差を少なくする観点から、粘結剤組成物を製造する際に混合することが好ましい。また、製造の容易性の観点から、イオン化合物を溶媒に溶かして、溶液にした後混合することが好ましい。溶媒は溶解性の観点から水が好ましい。
【0029】
本発明に係るイオン化合物において、陰イオンの含有量が、鋳型の硬化速度向上及び鋳型強度向上の観点から、フラン樹脂100重量部に対して0.006重量部以上含有し、0.009重量部以上が好ましく、0.02重量部以上がより好ましく、0.03重量部以上が更に好ましい。また、粘結剤組成物の保存安定性の観点から、フラン樹脂100重量部に対して0.60重量部以下である。更に、鋳型の硬化速度及び鋳型強度向上の観点から、フラン樹脂100重量部に対して0.60重量部以下であり、0.50重量部以下が好ましく、0.20重量部以下がより好ましく、0.10重量部以下が更に好ましい。これらの観点を総合するとフラン樹脂100重量部に対する本発明のイオン化合物の配合含有量は、0.006〜0.60重量部であり、0.009重量部〜0.50重量部であることが好ましく、0.02〜0.20重量部であることがより好ましく、0.03〜0.10重量部であることが更に好ましい。尚、フラン樹脂は、水分を除いたフラン樹脂(フラン樹脂有効分)を基準にする。
【0030】
本発明に係るイオン化合物において、粘結剤組成物中の陰イオンの含有量は、鋳型の硬化速度向上及び鋳型強度向上の観点から、好ましくは0.006重量%以上含有し、0.008重量%以上がより好ましく、0.03重量%以上が更に好ましく、0.05重量%以上がより更に好ましい。また、粘結剤組成物の保存安定性の観点から、好ましくは0.54重量%以下である。更に、鋳型の硬化速度及び鋳型強度向上の観点から、0.50重量%以下がより好ましく、0.40重量%以下が更に好ましく、0.20重量%以下がより更に好ましい。これらの観点を総合すると粘結剤組成物中の本発明の陰イオンの含有量は、好ましくは0.006〜0.54重量%であり、0.008〜0.50重量%であることがより好ましく、0.03〜0.40重量%であることが更に好ましく、0.05〜0.20重量%であることがより更に好ましい。
粘結剤組成物中の本発明のイオン化合物の含有量は、粘結剤組成物の保存安定性と鋳型の硬化速度及び鋳型強度の向上の観点から、0.005〜2.0重量%が好ましく、0.01〜1.0重量%がより好ましい。
【0031】
<フラン樹脂>
フラン樹脂としては、従来公知の樹脂が使用でき、例えばフルフリルアルコール、フルフリルアルコール縮合物、フルフリルアルコールとアルデヒド類の縮合物及びフルフリルアルコールとアルデヒド類と尿素の縮合物よりなる群から選ばれる1種からなるものや、これらの群から選ばれる2種以上の混合物からなるものが使用できる。また、前記群から選ばれる2種以上の共縮合物からなるものや、前記群から選ばれる1種以上と前記共縮合物との混合物からなるものも使用できる。また、フェノール類とアルデヒド類の縮合物、メラミンとアルデヒド類の縮合物、及び尿素とアルデヒド類の縮合物よりなる群から選ばれる1種からなるものを含んでもよく、更に上記フラン樹脂をこれらと共縮合したものも使用できる。
【0032】
前記アルデヒド類としては、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、グリオキザール、グルタルアルデヒド、フルフラール、テレフタルアルデヒド等が挙げられ、これらのうち1種以上を使用できる。鋳型強度向上の観点からは、ホルムアルデヒドを用いるのが好ましく、造型時のホルムアルデヒド発生量低減の観点からは、フルフラールやテレフタルアルデヒドを用いるのが好ましい。
【0033】
前記フェノール類としては、フェノール、クレゾール、レゾルシン、ビスフェノールA、ビスフェノールC、ビスフェノールE、ビスフェノールFなどが挙げられ、これらのうちの1種以上を使用できる。
【0034】
フラン樹脂のpHは25℃で、鋳型強度向上の観点から、7未満が好ましく、6以下がより好ましく、5.5以下が更に好ましく、5以下がより更に好ましく、保存安定性の観点から、1.9以上が好ましく、2.5以上がより好ましく、3以上が更に好ましい。これらの観点を総合すると、フラン樹脂のpHは25℃で、1.9〜6が好ましく、2.5〜5.5がより好ましく、3〜5が更に好ましい。酸性のフラン樹脂は、酸性触媒を用いて合成したものが好ましい。
【0035】
本発明に用いるフラン樹脂の合成の際に用いる酸性触媒として、鋳型の硬化速度向上と鋳型強度向上の観点から、pKa5.0以下の酸性触媒を用いることが好ましい。
【0036】
前記酸性触媒としては、硫酸(pKa:1.99)、リン酸(pKa:2.1)等の無機酸や、ベンゼンスルホン酸(pKa:−2.5)、パラトルエンスルホン酸(pKa:−2.8)、キシレンスルホン酸(pKa:−2.6)メタンスルホン酸(pKa:−2.0)等のスルホン酸、酒石酸(pKa:3.95)、クエン酸(pKa:2.87)、リンゴ酸(pKa:3.24)、グリコール酸(pKa:3.63)、乳酸(pKa:3.66)、安息香酸(pKa:4.20)、蟻酸(pKa:3.55)等の有機カルボン酸が使用できる。鋳型の硬化速度向上と鋳型強度向上の観点から、安息香酸及び蟻酸が好ましい。これら酸性触媒は、鋳型の硬化速度向上と鋳型強度向上の観点と製造時における安全性の観点から、pKa1.9〜5.0が好ましく、pKa3.0〜4.5がより好ましい。
【0037】
得られたフラン樹脂は、酸性のまま使用してもよいが、必要に応じて中和してもよい。フラン樹脂の中和を行った後、再び酸性にする場合には、グリコール酸や安息香酸などのカルボン酸を、所定のpHになるように添加してもよい。
【0038】
フラン樹脂を製造する際、モノマーと酸性触媒のモル比は、鋳型の強度向上、及び製造時間短縮の観点から、全モノマー:酸性触媒=1:0.0001〜1:1.0が好ましく、1:0.0005〜1:0.1がより好ましく、1:0.001〜1:0.05が更に好ましい。
【0039】
前記モノマーとしてはフルフリルアルコール、尿素、前記アルデヒド類、前記フェノール類が用いられ、これらのモル比率は適宜調整することができる。
【0040】
フルフリルアルコールとアルデヒド類と尿素の縮合物を製造する場合には、鋳型強度向上の観点から、フルフリルアルコール1モルに対して、アルデヒド類を0.05〜3モル、尿素を0.03〜1.5モル使用することが好ましい。同様の観点から、アルデヒド類としてはホルムアルデヒドが好ましい。
【0041】
フラン樹脂中の窒素含有量は、鋳型強度向上の観点から、0.8〜6.0重量%が好ましく、1.8〜5.0重量%がより好ましく、2.0〜4.0重量%が更に好ましい。
【0042】
フラン樹脂中の遊離のフルフリルアルコールは、取り扱い上の容易さの観点から、水分を含んだ組成物基準で、20〜98重量%が好ましく、20〜95重量%がより好ましく、20〜80重量%が更に好ましく、30〜75重量%がより更に好ましく、後記する水分含量が10〜20重量%の場合には、35〜85重量%が更に好ましく、35〜65重量%がより更に好ましい。
粘結剤組成物中のフルフリルアルコールの含有量は、鋳型強度向上の観点から、20重量%以上が好ましく、45重量%以上がより好ましく、60重量%以上が更に好ましく、70重量%以上がより更に好ましい。粘結剤組成物中のフルフリルアルコールの含有量は、引火性を低減する観点から、98重量%以下が好ましく、95重量%以下がより好ましく、90重量%以下が更に好ましい。また、粘結剤組成物中のフルフリルアルコールの含有量は、鋳型強度向上の観点と引火性を低減する観点から、20〜98重量%が好ましく、45〜95重量%がより好ましく、60〜90重量%が更に好ましく、70〜90重量%がより更に好ましい。
【0043】
フラン樹脂は、混練砂の流動性を損なわない観点から、粘度が25℃で、5.5〜50mPa・sであるのが好ましい。
【0044】
フルフリルアルコールとアルデヒド類の縮合物などの各種縮合物を合成する場合、水溶液状の原料を使用したり縮合水が生成したりするため、縮合物は、通常、水分との混合物の形態で得られるが、このような縮合物をフラン樹脂に使用するにあたり、合成過程に由来するこれらの水分をあえて除去する必要はない。即ち、フラン樹脂は、製造上の利便性と取り扱い上の容易さの観点から水分を含有してもよい。フラン樹脂の水分含有量は、鋳型の硬化速度向上の観点から、30重量%以下が好ましく、25重量%以下がより好ましく、20重量%以下が更に好ましい。フラン樹脂に引火性を生じさせず、フラン樹脂を危険物に該当させない観点から、3.0重量%以上が好ましく、6.0重量%超がより好ましく、10重量%以上が更に好ましい。これらの観点を総合すると、フラン樹脂の水分含有量は3.0〜30重量%が好ましく、6.0超〜30重量%がより好ましく、6.0超〜25重量%が更に好ましく、10〜20重量%がより更に好ましい。尚、本発明においては、他の化合物とフラン樹脂との重量関係を述べる場合には、水分を除いたフラン樹脂(フラン樹脂有効分)を基準にしている。
【0045】
粘結剤組成物中のフラン樹脂(フラン樹脂有効分)の含有量は、鋳型強度を充分発現する観点から、50重量%以上が好ましく、55重量%以上がより好ましく、60重量%以上が更に好ましく、70重量%以上がより更に好ましい。粘結剤組成物中のフラン樹脂(フラン樹脂有効分)の含有量は、引火性を低減する観点から、99重量%以下が好ましく、95重量%以下がより好ましく、90重量%以下が更に好ましい。また、粘結剤組成物中のフラン樹脂(フラン樹脂有効分)の含有量は、鋳型強度を充分発現する観点と引火性を低減する観点から、好ましくは50〜99重量%であり、より好ましくは55〜95重量%であり、更に好ましくは60〜90重量%であり、より更に好ましくは70〜90重量%である。
【0046】
本発明の粘結剤組成物は、更に、硬化促進剤や水やその他添加剤を含有しても良い。
【0047】
<硬化促進剤>
本発明の粘結剤組成物中には、鋳型の割れを防ぐ観点、及び最終的な鋳型強度を向上させる観点から、硬化促進剤が含まれていてもよい。硬化促進剤としては、最終的な鋳型強度を向上させる観点から、下記一般式(1)で表される化合物(以下、硬化促進剤(1)という)、フェノール誘導体、及び芳香族ジアルデヒドからなる群より選ばれる1種以上が好ましい。
【化1】


〔式中、X1及びX2は、それぞれ水素原子、CH3又はC25の何れかを表す。〕
【0048】
硬化促進剤(1)としては、2,5−ビスヒドロキシメチルフラン、2,5−ビスメトキシメチルフラン、2,5−ビスエトキシメチルフラン、2−ヒドロキシメチル−5−メトキシメチルフラン、2−ヒドロキシメチル−5−エトキシメチルフラン、2−メトキシメチル−5−エトキシメチルフランが挙げられる。なかでも、最終的な鋳型強度を向上させる観点から、2,5−ビスヒドロキシメチルフランを使用するのが好ましい。粘結剤組成物中の硬化促進剤(1)の含有量は、硬化促進剤(1)のフラン樹脂への溶解性の観点、及び最終的な鋳型強度を向上させる観点から、0.5〜53重量%であることが好ましく、1.8〜50重量%であることがより好ましく、2.5〜40重量%であることが更に好ましく、3.0〜30重量%であることが更により好ましい。
【0049】
フェノール誘導体としては、レゾルシン、クレゾール、ヒドロキノン、フロログルシノール、メチレンビスフェノール等が挙げられる。なかでも、最終的な鋳型強度を向上させる観点から、レゾルシンが好ましい。粘結剤組成物中の上記フェノール誘導体の含有量は、フェノール誘導体のフラン樹脂への溶解性の観点及び、最終的な鋳型強度を向上させる観点から、1〜25重量%であることが好ましく、2〜15重量%であることがより好ましく、3〜10重量%であることが更に好ましい。なかでも、レゾルシンを用いる場合は、粘結剤組成物中のレゾルシンの含有量は、レゾルシンのフラン樹脂への溶解性の観点、及び最終的な鋳型強度を向上させる観点から、1〜10重量%であることが好ましく、2〜7重量%であることがより好ましく、3〜6重量%であることが更に好ましい。
【0050】
芳香族ジアルデヒドとしては、テレフタルアルデヒド、フタルアルデヒド及びイソフタルアルデヒド等、並びにそれらの誘導体等が挙げられる。それらの誘導体とは、基本骨格としての2つのホルミル基を有する芳香族化合物の芳香環にアルキル基等の置換基を有する化合物等を意味する。鋳型の割れを防ぐ観点から、テレフタルアルデヒド及びテレフタルアルデヒドの誘導体が好ましく、テレフタルアルデヒドがより好ましい。粘結剤組成物中の芳香族ジアルデヒドの含有量は、芳香族ジアルデヒドをフラン樹脂に十分に溶解させる観点、及び芳香族ジアルデヒド自体の臭気を抑制する観点から、好ましくは0.1〜15重量%であり、より好ましくは0.5〜10重量%であり、更に好ましくは1〜5重量%である。
【0051】
<水分>
本発明の粘結剤組成物中には、さらに水分が含まれてもよい。フラン樹脂は前記したように水分を含有してもよいので、本発明の粘結剤組成物もこれに由来する水分を含有してもよい。この観点からは、粘結剤組成物中の水分含有量は、3.0重量%以上が好ましい。また、粘結剤組成物を取扱いやすい粘度に調整する目的などで、水分をさらに添加してもよい。ただし、水分が過剰になると、フラン樹脂の硬化反応が阻害されるおそれがあるため、粘結剤組成物中の水分含有量は30.0重量%以下であることが好ましく、25.0重量%以下であることがより好ましく、20.0重量%以下であることが更に好ましい。粘結剤組成物に引火性を生じさせず、粘結剤組成物を危険物に該当させない観点から、6.0重量%超が好ましく、10重量%以上が好ましく、15重量%以上が好ましく、20重量%以上が更に好ましい。これらの観点を総合すると、粘結剤組成物中の水分含有量は3.0重量%以上30.0重量%以下が好ましく、6.0重量%を超えて30.0重量%以下がより好ましく、6.0重量%を超えて25.0重量%以下が更に好ましく、10.0〜25.0重量%がより更に好ましく、10.0〜20.0重量%がより更に好ましい。鋳型強度を向上させる観点から、3〜15重量%が好ましく、3〜10重量%がより好ましい。
【0052】
<その他の添加剤>
また、本発明の粘結剤組成物中には、鋳型強度を向上させる観点から、さらにシランカップリング剤等の添加剤が含まれていてもよい。シランカップリング剤としては、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノシランや、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン等のエポキシシラン、ウレイドシラン、メルカプトシラン、スルフィドシラン、メタクリロキシシラン、アクリロキシシランなどが用いられる。好ましくは、アミノシラン、エポキシシラン、ウレイドシランである。シランカップリング剤の粘結剤組成物中の含有量は、鋳型強度を向上させる観点から、0.01〜0.5重量%であることが好ましく、0.05〜0.3重量%であることがより好ましい。
【0053】
粘結剤組成物中の窒素含有量は、鋳型強度向上の観点から、0.6〜5.0重量%が好ましく、1.5〜4.2重量%がより好ましく、1.6〜3.4重量%が更に好ましい。
【0054】
粘結剤組成物のpHは25℃で、鋳型強度向上の観点から、6以下であり、5.8以下が好ましく、5.6以下がより好ましく、保存安定性の観点から、2以上が好ましく、3以上がより好ましく、4以上が更に好ましい。これらの観点を総合すると、フラン樹脂のpHは25℃で、2〜6が好ましく、3〜5.8より好ましく、4〜5.6が更に好ましい。粘結剤組成物のpHは、硫酸等の無機酸又はグリコール酸や安息香酸等のカルボン酸や水酸化ナトリウム等のアルカリを用いて、所定のpHに調整することができる。なお、本発明の粘結剤組成物又はフラン樹脂のpHは、粘結剤組成物又はフラン樹脂に対して、水を重量比50/50で混合攪拌したものを、25℃ において測定した値である。
【0055】
本発明の粘結剤組成物は、自硬性鋳型造型用粘結剤組成物、耐火性粒子及び酸性の硬化剤を混合し自硬性鋳型造型用組成物を得る工程、該混合物を硬化させる工程を有する鋳型の製造方法に好適である。即ち、本発明の鋳型の製造方法は、自硬性鋳型造型用粘結剤組成物として上記本発明の粘結剤組成物を使用する鋳型の製造方法である。
【0056】
本発明の鋳型の製造方法では、従来の鋳型の製造方法のプロセスをそのまま利用して鋳型を製造することができる。例えば、上記本発明の粘結剤組成物と、この粘結剤組成物を硬化させる硬化剤とを耐火性粒子に加え、これらをバッチミキサーや連続ミキサーなどで混練することによって、上記混合物(混練砂)を得ることができる。本発明の鋳型の製造方法では、鋳型強度向上の観点から、上記硬化剤を耐火性粒子に添加した後、本発明の粘結剤組成物を添加することが好ましい。
【0057】
耐火性粒子としては、ケイ砂、クロマイト砂、ジルコン砂、オリビン砂、アルミナ砂、ムライト砂、合成ムライト砂等の従来公知のものを使用でき、また、使用済みの耐火性粒子を回収したものや再生処理した再生砂なども使用できる。
【0058】
硬化剤に含有される化合物としては、キシレンスルホン酸(特に、m−キシレンスルホン酸)やトルエンスルホン酸(特に、p−トルエンスルホン酸)、メタンスルホン酸等のスルホン酸系化合物、リン酸、酸性リン酸エステル等のリン酸系化合物、硫酸等を含む酸性水溶液など、従来公知のものを1種以上使用できる。更に、硬化剤中にアルコール類、エーテルアルコール類及びエステル類よりなる群から選ばれる1種以上の溶剤や、カルボン酸類を含有させることができる。これらのなかでも、最終的な鋳型強度の向上を図る観点から、アルコール類、エーテルアルコール類が好ましく、エーテルアルコール類がより好ましい。また、上記溶剤やカルボン酸類を含有させると、硬化剤中の水分量が低減されるため、最終的な鋳型強度が更に向上する。前記溶剤や前記カルボン酸類の硬化剤中の含有量は、最終的な鋳型強度向上の観点から、5〜50重量%であることが好ましく、10〜40重量%であることがより好ましい。また、硬化剤の粘度を低減させる観点からは、硬化剤にメタノールやエタノールを含有させることが好ましい。
【0059】
鋳型強度の向上を図る観点から、前記アルコール類としては、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、ベンジルアルコールが好ましく、エーテルアルコール類としては、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、ジエチレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテルが好ましく、エステル類としては、酢酸ブチル、安息香酸ブチル、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテートが好ましい。カルボン酸類としては、最終的な鋳型強度向上及び臭気低減の観点から、水酸基を持つカルボン酸が好ましく、乳酸、クエン酸、リンゴ酸がより好ましい。
【0060】
混練砂における耐火性粒子と粘結剤組成物と硬化剤との比率は適宜設定できるが、耐火性粒子100重量部に対して、粘結剤組成物が0.5〜1.5重量部で、硬化剤が0.07〜1重量部の範囲が好ましい。このような比率であると、十分な強度の鋳型が得られやすい。更に、硬化剤の添加量は、鋳型に含まれる水分量を極力少なくする観点と、ミキサーでの混合効率の観点から、粘結剤組成物中のフラン樹脂100重量部に対して10〜40重量部であることが好ましく、15〜35重量部であることがより好ましい。
【0061】
本発明の自硬性鋳型造型用組成物は、前記自硬性鋳型造型用粘結剤組成物、前記耐火性粒子及び前記酸性の硬化剤を含有する。本発明の自硬性鋳型造型用組成物は、好ましくは、前記耐火性粒子100重量部に対して、前記自硬性鋳型造型用粘結剤組成物0.5〜1.5重量部及び前記硬化剤0.07〜1重量部を含有する。なお、耐火性粒子、酸性の硬化剤等の好ましい態様は前述の通りである。
【0062】
本発明の自硬性鋳型造型用粘結剤組成物は、鋳型製造に好適に使用される。
【0063】
本発明の組成物は、
<1>フラン樹脂とイオン化合物を含有し、前記イオン化合物が亜硫酸水素イオン、亜硫酸イオン、ピロ亜硫酸イオン、チオ硫酸イオン、チオン酸イオン及び亜ジチオン酸イオンからなる群から選ばれる1種以上の陰イオンを含有し、前記陰イオンの含有量が前記フラン樹脂有効分100重量部に対して0.006〜0.60重量部であり、かつ25℃でpHが6以下である自硬性鋳型造型用粘結剤組成物である。
【0064】
本発明は、さらに以下の組成物又は製造方法、或いは用途が好ましい。
<2>前記イオン化合物中の陽イオンが、周期律表第1、2及び12族の元素よりなる群から選ばれる1種以上の元素からなる金属イオンであり、好ましくは周期律表第1族及び2族の元素よりなる群から選ばれる1種以上の元素からなる金属イオンであり、より好ましくは周期律表第1族の元素よりなる群から選ばれる1種以上の元素からなる金属イオンである前記<1>の自硬性鋳型造型用粘結剤組成物。
<3>前記イオン化合物中の陰イオンが、チオ硫酸イオン、亜硫酸水素イオン及び亜硫酸イオンからなる群から選ばれる1種以上、好ましくはチオ硫酸イオン及び亜硫酸水素イオンからなる群から選ばれる1種以上、より好ましくはチオ硫酸イオンである前記<1>又は<2>の自硬性鋳型造型用粘結剤組成物。
<4>前記イオン化合物の陽イオンが、Naイオン、Kイオン、Mgイオン、Caイオン及びZnイオンからなる群から選ばれる1種以上であり、好ましくはNaイオン、Kイオンであり、より好ましくはNaイオンである前記<1>〜<3>のいずれかの自硬性鋳型造型用粘結剤組成物。
<5>前記イオン化合物が、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸水素カリウム、亜硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、チオ硫酸カリウム、チオ硫酸マグネシウム、チオ硫酸カルシウム、テトラチオン酸ナトリウム及び亜ジチオン酸ナトリウムからなる群から選ばれる1種以上であり、好ましくは亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸水素カリウム、亜硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、チオ硫酸カリウム、チオ硫酸マグネシウム及びチオ硫酸カルシウムからなる群から選ばれる1種以上であり、より好ましくは、チオ硫酸ナトリウム、チオ硫酸カリウム、チオ硫酸マグネシウム及びチオ硫酸カルシウムからなる群から選ばれる1種以上である前記<1>〜<4>のいずれかの自硬性鋳型造型用粘結剤組成物。
<6>前記陰イオンの含有量が前記フラン樹脂有効分100重量部に対して、0.009重量部以上であり、好ましくは0.02重量部以上であり、より好ましくは0.03重量部以上であり、また、0.50重量部以下であり、好ましくは0.20重量部以下であり、より好ましくは0.10重量部以下である前記<1>〜<5>のいずれかの自硬性鋳型造型用粘結剤組成物。
<7>前記イオン化合物の陰イオンの含有量が、粘結剤組成物中0.006重量%以上であり、好ましくは0.008重量%以上であり、より好ましくは0.03重量%以上であり、更に好ましくは0.05重量%以上であり、また、0.54重量%以下であり、好ましくは0.50重量%以下であり、より好ましくは0.40重量%以下であり、更に好ましくは0.20重量%以下である前記<1>〜<6>のいずれかの自硬性鋳型造型用粘結剤組成物。
<8>前記イオン化合物の含有量が、粘結剤組成物中0.005重量%以上であり、好ましくは0.01重量%以上であり、また、2.0重量%以下であり、好ましくは1.0重量%以下である前記<1>〜<7>のいずれかの自硬性鋳型造型用粘結剤組成物。
<9>前記フラン樹脂のpHが25℃で7未満であり、好ましくは6以下であり、より好ましくは5.5以下であり、更に好ましくは5以下であり、また、1.9以上であり、好ましくは2.5以上であり、より好ましくは3以上である前記<1>〜<8>のいずれかの自硬性鋳型造型用粘結剤組成物。
<10>前記フラン樹脂が、pKa5.0以下であり、好ましくはpKa1.9〜5.0であり、より好ましくはpKa3.0〜4.5である酸性触媒を用いて合成されたものである前記<1>〜<9>のいずれかの自硬性鋳型造型用粘結剤組成物。
<11>前記酸性触媒が、硫酸、リン酸、ベンゼンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸、キシレンスルホン酸、メタンスルホン酸、酒石酸、クエン酸、リンゴ酸、グリコール酸、乳酸、安息香酸及び蟻酸からなる群から選ばれる1種以上であり、好ましくは安息香酸及び蟻酸からなる群から選ばれる1種以上である前記<1>〜<10>のいずれかの自硬性鋳型造型用粘結剤組成物。
<12>前記フラン樹脂中の遊離フルフリルアルコールの含有量が、20〜98重量%であり、好ましくは20〜95重量%であり、より好ましくは20〜80重量%であり、更に好ましくは30〜75重量%、より更に好ましくは35〜65重量%である前記<1>〜<11>のいずれかの自硬性鋳型造型用粘結剤組成物。
<13>粘結剤組成物中のフルフリルアルコール含有量が、20重量%以上であり、好ましくは45重量%以上であり、より好ましくは60重量%以上であり、更に好ましくは70重量%以上であり、また、98重量%以下であり、好ましくは95重量%以下であり、より好ましくは90重量%以下である前記<1>〜<12>のいずれかの自硬性鋳型造型用粘結剤組成物。
<14>前記フラン樹脂中の水分含有量が30重量%以下であり、好ましくは25重量%以下であり、より好ましくは20重量%以下であり、また、フラン樹脂中の水分含有量が3.0重量%以上であり、好ましくは6.0重量%超であり、より好ましくは10重量%以上である前記<1>〜<13>のいずれかの自硬性粘結剤組成物中鋳型造型用粘結剤組成物。
<15>前記フラン樹脂(フラン樹脂有効分)の含有量が、50重量%以上であり、好ましくは55重量%以上であり、より好ましくは60重量%以上であり、更に好ましくは70重量%以上であり、また、99重量%以下であり、好ましくは95重量%以下であり、より好ましくは90重量%以下である前記<1>〜<14>のいずれかの自硬性鋳型造型用粘結剤組成物。
<16>粘結剤組成物中の水分含有量が、30.0重量%以下であり、好ましくは25.0重量%以下であり、より好ましくは20.0重量%以下であり、また、6.0重量%超であり、好ましくは10重量%以上であり、より好ましくは15重量%以上であり、更に好ましくは20重量%以上である前記<1>〜<15>のいずれかの自硬性鋳型造型用粘結剤組成物。
<17>粘結剤組成物のpHが25℃で5.8以下であり、好ましくは5.6以下であり、また、2以上であり、好ましくは3以上であり、より好ましくは4以上である前記<1>〜<16>のいずれかの自硬性鋳型造型用粘結剤組成物。
<18>粘結剤組成物が更に2,5−ビスヒドロキシメチルフラン、2,5−ビスメトキシメチルフラン、2,5−ビスエトキシメチルフラン、2−ヒドロキシメチル−5−メトキシメチルフラン、2−ヒドロキシメチル−5−エトキシメチルフラン及び2−メトキシメチル−5−エトキシメチルフランからなる群から選ばれる1種以上を含有し、好ましくは2,5−ビスヒドロキシメチルフランを含有する使用する前記<1>〜<17>のいずれかの自硬性鋳型造型用粘結剤組成物。
<19>前記<1>〜<18>のいずれか1項記載の自硬性鋳型造型用粘結剤組成物、耐火性粒子及び酸性の硬化剤を含有する自硬性鋳型造型用組成物であり、好ましくは耐火性粒子100重量部に対して、前記自硬性鋳型造型用粘結剤組成物0.5〜1.5重量部及び前記硬化剤0.07〜1重量部を含有する自硬性鋳型造型用組成物。
<20>前記<1>〜<18>のいずれかの自硬性鋳型造型用粘結剤組成物を鋳型製造に使用する用途。
<21>前記<1>〜<18>のいずれかの自硬性鋳型造型用粘結剤組成物、耐火性粒子及び酸性の硬化剤を混合し自硬性鋳型造型用組成物を得る工程、該混合物を硬化する工程を有する鋳型の製造方法。
【実施例】
【0065】
以下、本発明を具体的に示す実施例等について説明する。
【0066】
(実施例1〜26及び比較例1〜17)
フラン樹脂Aとイオン化合物を用いて、表1〜4に示す組成を混合し、粘結剤組成物を調製した後、下記調製方法により混練砂を調製し、得られた混練砂について、下記評価方法により1時間後と24時間後の鋳型強度を評価した。結果を表1〜4に示す。なお、表1〜4に示す組成の粘結剤組成物に含まれるフラン樹脂Aは、安息香酸(pKa:4.20)を酸性触媒として用いて得られた樹脂であり、合成する際のモノマーと酸性触媒のモル比は、全モノマー:酸性触媒=1:0.01であった。モノマーとしてフルフリルアルコール、ホルムアルデヒド及び尿素が用いられ、フルフリルアルコール/ホルムアルデヒド/尿素のモル比は2.5/3.6/1であった。実施例1〜26及び比較例1〜17において、シランカップリング剤〔N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン〕を粘結剤組成物中に0.1重量%となるように添加した。尚、比較例1において、pH調整剤として48%苛性ソーダを粘結剤組成物中に1.4重量%となるように添加した。粘結剤組成物又はフラン樹脂のpHは、粘結剤組成物又はフラン樹脂に対して、水を重量比50/50で混合攪拌したものを、25℃ において測定した値である。
【0067】
なおフラン樹脂Aの性状は下記の通りである。
<フラン樹脂Aの性状>
遊離フルフリルアルコール=60重量%
フルフリルアルコール・尿素ホルムアルデヒド樹脂=24.0重量%
窒素含有量=2.5重量%
水分含有量=16重量%
pH=4.5(25℃)
粘度=38mPa・s/at25℃(測定条件:B型粘度計 ローターNo3 60rpm)
【0068】
(実施例27〜34及び比較例18〜22)
フラン樹脂B・C・Dと本願のイオン化合物、2,5−ビス(ヒドロキシメチル)フラン、シランカップリング剤〔N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン〕を用いて、表5〜7に示す組成の粘結剤組成物を調製した後、実施例1と同様、混練砂を得、1時間後と24時間後の鋳型強度を測定した。結果を表5〜7に示す。なお、表5〜7に示す組成の粘結剤組成物に含まれるフラン樹脂B・C・Dは、下記に示すフラン樹脂Uを、下記に示す比率でフルフリルアルコールと水とを混合して得られた樹脂である。ホルムアルデヒドと尿素を水酸化ナトリウムを塩基性触媒として、水中で反応させた。ホルムアルデヒドと尿素の合計モル量と塩基性触媒のモル量の比は1:0.0002であった。さらにフルフリルアルコールを加え、蟻酸(pKa:3.55)によりpHを4.5に調整し、反応させた後、内温が150℃になるまで加熱し、常圧で濃縮を行い、フラン樹脂U(尿素ホルムアルデヒド変性フラン樹脂)を得た。合成する際のモノマーと酸性触媒のモル比は、全モノマー:酸性触媒=1:0.0036であった。モノマーとしてフルフリルアルコール、ホルムアルデヒド及び尿素が用いられ、フルフリルアルコール/ホルムアルデヒド/尿素のモル比は2.6/2.1/1であった。
フラン樹脂U30.7gとフルフリルアルコール52.3g、水17.0gを配合し、フラン樹脂Bを得た。同様にフラン樹脂U44.9g、フルフリルアルコール28.5g、水26.6gを配合し、フラン樹脂Cを得た。更に、フラン樹脂U9.7g、フルフリルアルコール87.3g、水3.0gを配合し、フラン樹脂Dを得た。
尚、実施例29、実施例30及び比較例18において、pHを調整剤として48%苛性ソーダにて、pHを表5に示したpHになるように調整した。粘結剤組成物又はフラン樹脂のpHは、粘結剤組成物又はフラン樹脂に対して、水を重量比50/50で混合攪拌したものを、25℃ において測定した値である。
【0069】
なおフラン樹脂B、C、Dの性状は下記の通りである。
<フラン樹脂Bの性状>
遊離フルフリルアルコール=63.4重量%
フルフリルアルコール・尿素ホルムアルデヒド樹脂=18.8重量%
窒素含有量=2.6重量%
水分含有量=17.8重量%
pH=4.5(25℃)
粘度=9.9mPa・s/at25℃(測定条件:B型粘度計 ローターNo3 60rpm)
【0070】
<フラン樹脂Cの性状>
遊離フルフリルアルコール=44.7重量%
フルフリルアルコール・尿素ホルムアルデヒド樹脂=27.5重量%
窒素含有量=3.8重量%
水分含有量=27.8重量%
pH=4.6(25℃)
粘度=14.1mPa・s/at25℃(測定条件:B型粘度計 ローターNo3 60rpm)
【0071】
<フラン樹脂Dの性状>
遊離フルフリルアルコール=90.8重量%
フルフリルアルコール・尿素ホルムアルデヒド樹脂=5.9重量%
窒素含有量=0.8重量%
水分含有量=3.3重量%
pH=4.5(25℃)
粘度=6.5mPa・s/at25℃(測定条件:B型粘度計 ローターNo3 60rpm)
【0072】
<混練砂の調製方法>
25℃、55%RHの雰囲気下で、フリーマントル新砂(山川産業(株)製)2000重量部に対し、キシレンスルホン酸/硫酸系硬化剤〔花王クエーカー社製 カオーライトナー硬化剤 US−3と、花王クエーカー社製 カオーライトナー硬化剤 C−21との混合物(重量比はUS−3/C−21=12/28)の55.4重量%水溶液〕8.0重量部を添加し、次いであらかじめ調製した上記粘結剤組成物20.0重量部を添加し、これらを混合して混練砂を得た。
【0073】
<1時間後と24時間後の鋳型強度の評価方法>
25℃、55%RHの雰囲気下で、前記混錬直後の混錬砂を直径50mm、高さ50mmの円柱形状のテストピース枠に充填した。次いで、25℃、55%RHの雰囲気下で放置し、充填してから1時間後に圧縮強度を測定し、「1時間後の鋳型強度」とした。続いて5時間経過した時に抜型を行い、更に、25℃、55%RHの雰囲気下で抜型後19時間放置した後、圧縮強度を測定し、「24時間後の鋳型強度」とした。尚、JIS Z 2604−1976に準拠された方法で圧縮強度を測定した。
【0074】
<35℃における2ヶ月後の添加剤の溶解性>
表2〜4に示す粘結剤組成物の添加剤の溶解性を確認するため、透明な容器に移し替えて、35℃で2ヶ月放置した。それぞれの添加剤の溶解性を確認した結果を表2〜4に示す。
【0075】
【表1】

表1に示すように、実施例1〜14は比較例1〜8に対して、1時間後及び24時間後の鋳型強度が高いことから鋳型生産性が改善されることが明白である。
【0076】
【表2】

表2に示すように、実施例15、16、1、17、18は、比較例9、10、11に対して、1時間後及び24時間後の鋳型強度が高いことから鋳型生産性が改善されることが明白である。実施例15、16、1、17、18は、イオン化合物の溶解性も問題ないことが明白である。一方、比較例10、11はイオン化合物が一部不溶であった。
【0077】
【表3】

表3に示すように、実施例19、20、9、21、22は、比較例12、13、14に対して、1時間後及び24時間後の鋳型強度が高いことから鋳型生産性が改善されることが明白である。実施例19、20、9、21、22は、イオン化合物の溶解性も問題ないことが明白である。一方、比較例13、14はイオン化合物が一部不溶であった。
【0078】
【表4】

表4に示すように、実施例23、24、3、25、26は、比較例15、16、17に対して、1時間後及び24時間後の鋳型強度が高いことから鋳型生産性が改善されることが明白である。実施例23、24、3、25、26は、イオン化合物の溶解性も問題ないことが明白である。一方、比較例16、17はイオン化合物が一部不溶であった。
【0079】
【表5】

表5に示すように、実施例27〜30は比較例18〜20に対して、1時間後及び24時間後の鋳型強度が高いことから鋳型生産性が改善されることが明白である。
【0080】
【表6】

表6に示すように、実施例31、32は比較例21に対して、1時間後及び24時間後の鋳型強度が高いことから鋳型生産性が改善されることが明白である。
【0081】
【表7】

表7に示すように、実施例33、34は比較例22に対して、1時間後及び24時間後の鋳型強度が高いことから鋳型生産性が改善されることが明白である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
フラン樹脂とイオン化合物を含有し、前記イオン化合物が亜硫酸水素イオン、亜硫酸イオン、ピロ亜硫酸イオン、チオ硫酸イオン、チオン酸イオン及び亜ジチオン酸イオンからなる群から選ばれる1種以上の陰イオンを含有し、前記陰イオンの含有量が前記フラン樹脂有効分100重量部に対して0.006〜0.60重量部であり、かつ25℃でpHが6以下である自硬性鋳型造型用粘結剤組成物。
【請求項2】
前記イオン化合物中の陽イオンが、周期律表第1、2及び12族の元素よりなる群から選ばれる金属イオンである請求項1記載の自硬性鋳型造型用粘結剤組成物。
【請求項3】
前記イオン化合物中の陰イオンが、チオ硫酸イオン、亜硫酸水素イオン及び亜硫酸イオンからなる群から選ばれる1種以上である請求項1又は2記載の自硬性鋳型造型用粘結剤組成物。
【請求項4】
粘結剤組成物中の水分含有量が3.0重量%以上30重量%以下である請求項1〜3の何れか1項記載の自硬性鋳型造型用粘結剤組成物。
【請求項5】
粘結剤組成物中の陰イオンの含有量が、0.006重量%以上0.54重量%以下である請求項1〜4の何れか1項記載の自硬性鋳型造型用粘結剤組成物。
【請求項6】
前記フラン樹脂のpHが25℃で7未満である請求項1〜5の何れか1項記載の自硬性鋳型造型用粘結剤組成物。
【請求項7】
前記フラン樹脂が、pKa5.0以下の酸性触媒を用いて合成されたものである請求項1〜6の何れか1項記載の自硬性鋳型造型用粘結剤組成物。
【請求項8】
請求項1〜7の何れか1項記載の自硬性鋳型造型用粘結剤組成物、耐火性粒子及び酸性の硬化剤を混合し混合物を得る工程、該混合物を硬化する工程を有する鋳型の製造方法。

【公開番号】特開2013−63466(P2013−63466A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−190042(P2012−190042)
【出願日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】