説明

自立型保水壁

【課題】壁体の周辺空気の温度を効果的に低下させ、暑熱の緩和効果を向上させることができる自立型保水壁を提供することを課題とする。
【解決手段】自立型保水壁1であって、保水性を有する複数の保水体30を並べて形成した壁体20と、各保水体30を支持する枠体10と、壁体10に水を供給する給水手段40と、を備え、隣り合う保水体30,30の間に隙間が形成されており、枠体10を自立させている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、道路脇や建物周辺に設置する自立型保水壁に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、都市部の気温が周辺部に比較して高くなる所謂「ヒートアイランド現象」が問題になっている。その原因の一つとして、建物や舗装体などの蓄熱作用が挙げられている。そこで、保水性を有する壁体に水を供給し、壁体からの水分蒸発に伴う気化熱によって、壁面の温度を低下させる外壁構造がある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8−42013号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記した従来の外壁構造では、壁面の温度を低下させることはできるが、壁体の周辺空気の温度上昇を抑制する効果が低いため、暑熱の緩和効果が低いという問題がある。
【0005】
本発明は、前記した問題を解決し、壁体の周辺空気の温度を効果的に低下させ、暑熱の緩和効果を向上させることができる自立型保水壁を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するため、本発明は、自立型保水壁であって、保水性を有する複数の保水体を並べて形成した壁体と、前記各保水体を支持する枠体と、前記壁体に水を供給する給水手段と、を備え、隣り合う前記保水体の間に隙間が形成されており、前記枠体は自立していることを特徴としている。
【0007】
この構成では、保水体に水を供給して湿潤にすると、保水体からの水分蒸発に伴う気化熱によって、保水体の温度を低下させることができる。
また、壁体は自立させた枠体に支持されており、壁体の表裏面が塞がれていないため、隣り合う保水体の間の隙間を通じて空気が流通することになる。そして、隙間を流通する空気は、保水体の表面に接触することで温度が低下するため、壁体の周辺空気の温度を効果的に低下させることができる。
【0008】
また、本発明の自立型保水壁は、自立した壁であるため、道路の境界壁などの区画壁として用いることで、歩道の暑熱を緩和することができる。また、既存建物の周辺に配置することで、既存建物の外壁の温度上昇を抑制し、屋内の冷房効率を高めて、省エネルギー化を達成することができる。このように、本発明の自立型保水壁は、設置の自由度が高いため、都市部の気温上昇を抑制するのに有効である。
【0009】
また、前記枠体に複数の前記壁体を設け、隣り合う前記壁体の壁面が対峙するように、前記各壁体を並設した場合には、隣り合う保水体の間の隙間を通過する空気が、保水体の表面に接触する面積が大きくなるため、壁体の周辺空気の冷却効果を高めることができる。
【0010】
前記した自立型保水壁において、前記枠体は、前記保水体の上下に配置される上板材および下板材を備え、前記上板材および前記下板材には、複数の通水孔が所定間隔を空けて配置され、前記上板材の前記各通水孔を通じて前記保水体に水が供給されるとともに、前記保水体から前記下板材の前記各通水孔を通じて水が流下するように構成してもよい。
この構成では、保水体に対して、複数の通水孔から水が供給されるため、保水体全体を均一に湿潤にすることができる。
【0011】
前記した自立型保水壁において、前記枠体の上部に前記給水手段を設けるとともに、前記枠体の下部には、前記壁体から流下した水を排水する排水手段を設け、前記排水手段には、前記給水手段に接続された排水管を設けることで、排水手段から排水された水を、排水管を通じて給水手段に供給して再利用することもできる。
【0012】
なお、保水体の表面に酸化チタンなどの光触媒を塗装した場合には、光触媒の親水作用によって保水体をセルフクリーニングするとともに、光触媒の酸化作用によって空気中の有害物質を分解することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の自立型保水壁では、壁体の周辺空気の温度が効果的に低下するため、暑熱の緩和効果を向上させることができる。さらに、自立型保水壁は設置の自由度が高いため、都市部の気温上昇を抑制するのに有効である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本実施形態の自立型保水壁を示した斜視図である。
【図2】本実施形態の自立型保水壁を示した側断面図である。
【図3】本実施形態の自立型保水壁を示した正面図である。
【図4】他の実施形態の自立型保水壁を示した図で、枠体に二つの壁体を設けた構成の側断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の実施形態について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。
本実施形態では、道路の境界壁として、歩道脇に立設される自立型保水壁を例として説明する。
【0016】
自立型保水壁1は、図1に示すように、複数の保水体30を上下左右に並べて形成した壁体20と、各保水体30を支持する枠体10と、壁体20に水を供給する給水手段40と、壁体20から流下した水を排水する排水手段50と、を備えている。
【0017】
枠体10は、図3に示すように、地面に自立して設置される部材であり、複数の支柱11と、各支柱11に支持された複数の横枠12と、を備えている。
なお、支柱11および横枠12は、ステンレス鋼材などの防錆に優れた材料によって形成することが好ましい。
【0018】
支柱11は、地面に対して鉛直に立設されており、複数の支柱11が左右方向(自立型保水壁1の横幅方向)に所定の間隔を空けて配置されている。
支柱11の下端部は、地盤内に埋設されており、直方体の基礎ブロック11aが形成されている。
各支柱11の上端部には、水平な板状の屋根部材13が取り付けられている。この屋根部材13は、各支柱11よりも表側に突出している(図2参照)。
【0019】
横枠12は、図3に示すように、後記する保水体30を保持するものであり、上下に平行して水平に配置された上板材14および下板材15によって構成されている。上板材14と下板材15との間には、後記する保水体30が配置される。したがって、両板材14,15の上下の間隔は、保水体30の高さに対応して設定されている。
【0020】
複数の横枠12は、図2に示すように、各支柱11の表側に上下に並べた状態で取り付けられている。上側に配置された横枠12の下板材15と、下側に配置された横枠12の上板材14とは、所定の間隔(例えば、3cm程度)を空けて配置されている。
【0021】
上板材14の下面には、左右方向に延ばされた二本の保持枠16,16が取り付けられている。両保持枠16,16は、表裏方向(自立型保水壁1の厚さ方向)に所定の間隔を空けて平行に取り付けられている(図3参照)。
保持枠16は、断面がL字形状の部材であり、一辺は上板材14の下面に取り付けられ、他辺は下面に対して垂直に立ち上げられている。両保持枠16,16は、互いの隅部が向き合うように対峙している。
また、下板材15の上面にも、上板材14の保持枠16,16と同様に、二本の保持枠16,16が取り付けられており、上側に配置された保持枠16,16と、下側に配置された保持枠16,16とは上下に対峙している。
上下四本の保持枠16の間は、後記する保水体30が配置される開放空間となっている。そして、各保持枠16の隅部が保水体30の表裏の上下角部に嵌り合うように、各保持枠16の間隔が設定されている。
【0022】
上板材14および下板材15には、後記する保水体30の取り付け位置に対応させて、通水孔14a,15aが貫通している。通水孔14a,15aは、例えば、直径が5mm程度の孔であり、一枚の保水体30に対して複数の通水孔14a,15a(本実施形態では三つ)が均等間隔に配置されている(図3参照)。
また、上下の横枠12,12の間には、下板材15の通水孔15aと上板材14の通水孔14aとを連通させる連通管17が設けられている。
【0023】
給水手段40は、最上部の上板材14の上面に設けられている。この給水手段40は、左右方向に延ばされた給水樋41と、給水樋41の上方に先端開口部が配置された給水管42と、を備えており、給水樋41は屋根部材13の直下に配置されている。
【0024】
給水樋41には、上面が開口した貯水空間が形成されており、この貯水空間には、図示しない給水装置から給水管42を通じて水が供給される。また、給水樋41の底部には、上板材14の通水孔14aに連通する給水孔41aが貫通している。
なお、給水管42に水を供給する給水装置の構成は限定されるものではなく、例えば、上水を給水管42に供給してもよいし、タンクに貯留させた雨水を給水管42に供給してもよい。
また、給水手段40の他の構成としては、給水管42を設けることなく、給水樋41のみを設け、給水樋41に雨水などの水が直接供給されるように構成してもよい。
【0025】
排水手段50は、最下部の下板材15の直下に設けられている。この排水手段50は、左右方向に延ばされた排水樋51と、排水樋51の側面に接続された排水管52と、を備えており、排水樋51は地面に設置されている。
【0026】
排水樋51には、上面が開口した貯水空間が形成されており、この貯水空間には、最下部の下板材15の通水孔15aから流下した水が供給される。また、排水樋51内に貯水された水は、排水管52を通じて外部に排水される。
なお、排水管52を給水手段40に接続し、排水樋51から排水された水を、必要に応じて給水手段40に供給して再利用してもよい。
【0027】
壁体20は、図1に示すように、各横枠12内に支持された複数の保水体30によって形成されている。
保水体30は、図3に示すように、正方形の板状に形成されている。この保水体30は、セラミックなどの多孔質材料によって形成された保水性を有する部材である。また、保水体30の表裏両面には、酸化チタンなどの光触媒31が塗装されている。なお、光触媒31は、保水体30の表面に焼成する場合もある。
保水体30は、図2に示すように、横枠12の上板材14と下板材15との間に配置されており、表裏の上下角部に四本の保持枠16がそれぞれ嵌り合うことで、横枠12内に保持されている。
【0028】
また、図3に示すように、横枠12内に配置された各保水体30は、左右方向に隙間(例えば3cm程度)を空けて配置されている。このようにして、各保水体30を横枠12内に配置したときには、図2に示すように、保水体30の上方および下方に通水孔14a,15aが配置されている。
また、上下の保水体30は、左右方向に同じ位置に配置され、上下に直線状に配置される。上下の横枠12,12の間には上下に隙間が形成されているため、上下に配置された保水体30,30は隙間を空けて配置されていることになる。
【0029】
各保水体30は、図3に示すように、各横枠12に保持されることで、左右横方向および上下方向に直線状に並設され、上下左右に隣り合う保水体30,30の間には隙間が形成されている。そして、上下左右に並べられた複数の保水体30によって壁体20が形成されている(図1参照)。
なお、左右に並べられた保水体30において、全ての隣り合う保水体30,30の間に必ずしも隙間が形成されている必要はない。また、全ての隣り合う保水体30,30の間の隙間が同じ大きさである必要もない。
【0030】
このように構成された自立型保水壁1では、図1に示すように、複数の保水体30からなる壁体20が枠体10に支持されており、この枠体10を歩道2の脇に自立させることで、歩道2の境界壁を構成している。
【0031】
以上のような本実施形態の自立型保水壁1は、以下のような作用効果を奏する。
図2に示す給水管42から給水樋41内に水が供給されると、給水樋41内に貯水された水が、給水孔41aおよび通水孔14aを通じて、最上部の保水体30に供給される。
保水体30では、毛細管現象によって水が内部に吸い込まれ、保水体30全体が湿潤となる。なお、一枚の保水体30に対して、均等間隔に配置された複数の通水孔14aから水が供給されるため、保水体30全体を均一に湿潤にすることができる(図3参照)。
さらに、保水体30の保水量を超えると、保水板30の下面から下板材15の通水孔15a、連通管17および上板材14の通水孔14aを通じて、下方の保水体30に水が供給される。
順次に下方の保水体30が湿潤になり、最下部の保水体30の保水量を超えると、保水体30から下板材15の通水孔15aを通じて、排水樋51内に水が流下する。このようにして、壁体20全体が湿潤になり、壁体20内に上方から下方に向けて水が流れている状態となる。
【0032】
保水体30が湿潤になると、保水体30からの水分蒸発に伴う気化熱によって、保水体30の温度が低下する。保水体30の表面温度が低下することで、保水体30からの放射熱が低減されるとともに、保水体30周辺の対流が促進される。
さらに、壁体20は自立させた枠体10に支持されており、壁体20の表裏が塞がれていないため、隣り合う保水体30,30の間の隙間を通じて空気が流通する。このとき、隙間を流通する空気は、保水体30の表面に接触して温度が低下する。
【0033】
したがって、自立型保水壁1では、壁体20の周辺空気の温度を効果的に低下させることができるため、歩道2における暑熱の緩和効果を高めることができる(例えば、体感温度が2〜3℃程度低下)。
【0034】
なお、自立型保水壁1周辺の気温が低下し、壁体20周辺の空気を冷却する必要がない場合には、給水樋41に貯水しなければよい。このように、自立型保水壁1の周辺環境に応じて、冷却効果を簡単に調節することができる。
【0035】
また、自立型保水壁1では、保水体30の表面に塗装或いは焼成された光触媒31の親水作用によって保水体30がセルフクリーニングされるとともに、光触媒31の酸化作用によって空気中の有害物質を分解することができる。
【0036】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は前記実施形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜に変更が可能である。
前記実施形態では、図1に示すように、自立型保水壁1を道路の区画壁として利用しているが、その設置場所は限定されるものではない。
例えば、自立型保水壁1を既存建物の周辺に配置した場合には、既存建物の周辺空気の温度を低下させることで、既存建物の外壁の温度上昇を抑制することができる。これにより、建物内の冷房効率を高めることができ、省エネルギー化を達成することができる。
このように、本実施形態の自立型保水壁1は、設置の自由度が高いため、都市部において暑熱の緩和に有効な場所に設置することで、都市部の気温上昇を効果的に抑制することができる。
【0037】
また、図4に示した自立型保水壁1Aのように、枠体10の表裏両側に二つの壁体20,20を設け、各壁体20,20の壁面が対峙するように平行させて並設してもよい。
この構成では、隣り合う保水体30,30の間の隙間を通過する空気が、保水体30の表面に接触する面積を大きくすることができるため、壁体20の周辺空気の冷却効果を高めることができる。
なお、並設する壁体20の数は限定されるものではなく、冷却効果を考慮して適宜に増設することができる。
【0038】
また、保水体30の表側の面に高反射塗料や金属板などを用いて反射層を設け、保水体30の表側で日射を反射するように構成した場合には、保水体30の裏側における水分蒸発によって、保水体30が冷却され、保水体30の表側の面に低温の熱が貫流するため、壁体20の周辺空気の冷却効果を高めることができる。
【0039】
また、図1に示す保水体30の形状や大きさは限定されるものではなく、棒状や球状の保水体を並べて壁体を形成することもできる。
さらに、保水体30を上下左右に並べる枚数も限定されるものではなく、設置スペースや冷却効果などを考慮して適宜に設定することができる。
また、全ての上下左右に隣り合う保水体30の間に隙間が形成されている必要はなく、上下に隣り合う保水体30,30の間のみに隙間を形成してもよく、或いは、左右に隣り合う保水体30,30の間のみに隙間を形成してもよい。
【0040】
また、本実施形態では、左右方向に延ばされた上板材14および下板材15からなる横枠12に保水体30を保持させているが、枠体10の構成は限定されるものではなく、例えば、左右に平行して配置された二枚の板材からなる縦枠に保水体を保持させてもよい。
【符号の説明】
【0041】
1 自立型保水壁
2 歩道
10 枠体
11 支柱
12 横枠
14 上板材
15 下板材
16 保持枠
20 壁体
30 保水体
31 光触媒
40 給水手段
41 給水樋
42 給水管
50 排水手段
51 排水樋
52 排水管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
保水性を有する複数の保水体を並べて形成した壁体と、
前記各保水体を支持する枠体と、
前記壁体に水を供給する給水手段と、を備え、
隣り合う前記保水体の間に隙間が形成されており、
前記枠体は自立していることを特徴とする自立型保水壁。
【請求項2】
前記枠体は、前記保水体の上下に配置される上板材および下板材を備え、
前記上板材および前記下板材には、複数の通水孔が所定間隔を空けて配置されており、
前記上板材の前記各通水孔を通じて前記保水体に水が供給されるとともに、前記保水体から前記下板材の前記各通水孔を通じて水が流下することを特徴とする請求項1に記載の自立型保水壁。
【請求項3】
前記枠体の上部に前記給水手段が設けられるとともに、前記枠体の下部には、前記壁体から流下した水を排水する排水手段が設けられており、
前記排水手段には、前記給水手段に接続された排水管が設けられていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の自立型保水壁。
【請求項4】
前記枠体には、複数の前記壁体が設けられており、
前記各壁体は、隣り合う前記壁体の壁面が対峙するように並設されていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の自立型保水壁。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−162886(P2012−162886A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−22893(P2011−22893)
【出願日】平成23年2月4日(2011.2.4)
【出願人】(000206211)大成建設株式会社 (1,602)
【Fターム(参考)】