説明

臭低減方法、臭低減効果のある組成物ならびに臭を低減した粉末組成物

【課題】飲食物などに使用したとき、本来の飲食物などの味に対する影響が少なく、呈味が良好でありながら、酢酸臭またはチアミン臭を低減する方法、臭低減効果のある組成物、ならびに臭を低減した粉末組成物を提供する。
【解決手段】マルチトールまたはキシリトールを160〜260℃の範囲の任意の温度に到達するまで加熱することによって得られるマルチトール加熱物またはキシリトール加熱物を有効成分として用いることにより、酢酸臭またはチアミン臭を低減し、臭低減効果のある組成物を得、更に臭を低減した粉末組成物を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マルチトールまたはキシリトールを160〜260℃の範囲の任意の温度まで加熱することによって得られるマルチトール加熱物またはキシリトール加熱物を有効成分として用いる酢酸臭またはチアミン臭の低減方法、該マルチトール加熱物またはキシリトール加熱物を有効成分とする少量でも酢酸臭またはチアミン臭低減効果のある組成物、ならびに該マルチトール加熱物またはキシリトール加熱物を水溶液とし、酢酸ナトリウム粉末またはチアミン粉末に添加混合して得られる、酢酸臭またはチアミン臭を低減した粉末組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
チアミンはビタミンB1として知られ、栄養強化を目的として各種食品に添加されている。一方、酢酸ナトリウムやチアミンの一種であるチアミンラウリル硫酸塩は抗菌活性を有する安全性の高い物質としても知られており、これらの物質はその顕著な抗菌活性から、食品の日持ち向上効果を期待して弁当、惣菜などに用いられている。
【0003】
しかしながら、チアミンラウリル硫酸塩や酢酸ナトリウムはビタミンB1臭と呼ばれる特有の嫌な臭いや、酢酸臭と呼ばれる刺激的で好ましくない臭いがあるので、食品に添加する際に量的な制約を強く受けたり、用いる食品の種類についても制約を受けたりするなどの課題がある。
【0004】
このようなチアミン、酢酸ナトリウムの課題を解決しようとして、さまざまな方法が提案されている。
【0005】
例えば、特開2007−31413号公報には、ビタミンB1(チアミン)と脂肪酸またはその塩もしくはエステルとを粉末状態で混合してビタミン製剤を得る方法が紹介されている。
【0006】
しかし、この方法は、チアミンに対して10重量%から300重量%の脂肪酸誘導体を粉末状態で混合するものであり、チアミンの量に比べて添加する脂肪酸誘導体の量が多く、効果的な方法とは言えない。
【0007】
また、特開2001−521号公報、特開2004−2241号公報には、消臭成分としてパラチノース加熱物やそれに含まれる特定の成分が紹介されている。これらの公報にはパラチノース加熱物はチオール、アンモニアをはじめ各種臭い成分に対する消臭効果を持つことが紹介されており、チアミンに関しても実施例の記載がある。
【0008】
しかし、チアミン塩酸塩の使用量が0.01%であるのに対しパラチノース加熱物の使用量は0.2%であり、チアミンの臭いを消すにはチアミン塩酸塩の20倍もの多量のパラチノース加熱物が必要であるとされている。さらに、パラチノースは加熱によって着色するので、薄い色が要求される製品には使用できないなど、用途によっては使用に不都合が生じる。
【0009】
一方、酢酸ナトリウムの酢酸臭を低減するための試みも行われており、たとえばベタイン(トリメチルグリシン)を用いる報告(特開2001−346559号公報)がある。この報告によれば酢酸ナトリウム、酢酸、食酢、粉末酢酸から選ばれた1もしくは2以上からなる食品用制菌料と、ベタインとを含む食品用制菌組成物が紹介されている。すなわち、紹介されている方法は、酢酸系の制菌剤の組成としてベタインを加えることにより、酢酸臭を低減でき、酢酸系制菌剤の大量使用が可能であるとの内容である。
【0010】
しかしながら、ベタインの添加量が酢酸の20〜70重量%であり、この方法でも酢酸臭の低減のためには多量のベタインの添加を必要としている。
【0011】
マルチトールはさまざまな食品に利用されており、マルチトールを加熱して得られる食品としては、キャンディー、クッキーなどがあり、例えば、マルチトールを使用したキャンディーの製造方法については特許第2961566号公報に記載されている。その記載によれば、水素化澱粉加水分解物を固形分で250g、マルチトール粉末を固形分で750gとり、水を加えて固形分濃度70%に調節した後、穏やかに攪拌しながら約180℃まで40分かけて加熱した後、放冷し、成形するものである。
【0012】
キシリトールもマルチトール同様さまざまな食品に用いられており、例えばキシリトールを使用したキャンディーの製造方法については特許第3911289号公報に記載されている。その記載によれば、デキストリン還元物を固形分で300g、キシリトール粉末を固形分で700gとり、水を加えて固形分濃度70%に調節した後、穏やかに攪拌しながら約180℃まで加熱した後、放冷し、成形するものである。
【0013】
しかしながら、当該特許公報においてはキャンディーを製造する方法としてのみ開示されており、本発明において見出された酢酸臭やチアミン臭の低減効果は知られていない。
【特許文献1】特開2007−31413号公報
【特許文献2】特開2001−521号公報
【特許文献3】特開2004−2241号公報
【特許文献4】特開2001−346559号公報
【特許文献5】特許第2961566号公報
【特許文献6】特許第3911289号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
それ故に、本発明は、飲食物などに使用したときに、飲食物などの本来の味に対する影響が少なく、呈味が良好でありながら、たとえ使用量が少なくても酢酸臭またはチアミン臭を低減する方法、臭い低減効果のある組成物および粉末組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは上記課題を解決するため鋭意検討を行った結果、マルチトールまたはキシリトールを160〜260℃の範囲の任意の温度まで加熱することによってマルチトール加熱物またはキシリトール加熱物を得、このマルチトール加熱物またはキシリトール加熱物に顕著な酢酸ナトリウムまたはチアミンの臭い低減効果があることを見出した。
【0016】
つぎに、酢酸ナトリウムの酢酸臭や、チアミン塩やチアミン誘導体の臭いを顕著に低減する効果を有するマルチトール加熱物またはキシリトール加熱物を有効成分とする組成物を得ることに成功し、有効成分が少量であっても強力な消臭効果を発揮することを発見した。
【0017】
さらに、マルチトール加熱物またはキシリトール加熱物を水溶液とし、酢酸ナトリウム粉末またはチアミン粉末に添加混合して得られる、酢酸臭またはチアミン臭が低減した粉末組成物を得ることによって、本発明を完成するに至った。
【0018】
すなわち本発明の課題を解決する手段は下記のとおりである。
第一に、マルチトールを160〜260℃の範囲の任意の温度まで加熱することによって得られるマルチトール加熱物を有効成分として用いる酢酸臭またはチアミン臭の低減方法である。
第二に、マルチトールを160〜260℃の範囲の任意の温度まで加熱することによって得られるマルチトール加熱物を有効成分とする酢酸臭またはチアミン臭低減効果のある組成物である。
第三に、マルチトールを160〜260℃の範囲の任意の温度まで加熱することによって得られるマルチトール加熱物を水溶液とし、酢酸ナトリウム粉末またはチアミン粉末に添加混合して得られる酢酸臭またはチアミン臭を低減した粉末組成物である。
第四に、マルチトールを加熱する温度が180〜240℃であることを特徴とする、上記第一から第三の何れか一つに記載の臭の低減方法または組成物である。
第五に、マルチトールを加熱する温度が220〜240℃であることを特徴とする、上記第一から第三の何れか一つに記載の臭の低減方法または組成物である。
第六に、マルチトール加熱物の水溶液の濃度が0.5〜40重量%であることを特徴とする、上記第三から第五の何れか一つに記載の組成物である。
第七に、マルチトール加熱物の水溶液の濃度が1〜40重量%であることを特徴とする、上記第六に記載の組成物である。
第八に、マルチトール加熱物の水溶液の濃度が2〜40重量%であることを特徴とする、上記第六に記載の組成物である。
第九に、キシリトールを180〜240℃の範囲の任意の温度まで加熱することによって得られるキシリトール加熱物を有効成分として用いる酢酸臭またはチアミン臭の低減方法である。
第十に、キシリトールを180〜240℃の範囲の任意の温度まで加熱することによって得られるキシリトール加熱物を有効成分とする酢酸臭またはチアミン臭低減効果のある組成物である。
第十一に、キシリトールを180〜240℃の範囲の任意の温度まで加熱することによって得られるキシリトール加熱物を水溶液とし、酢酸ナトリウム粉末またはチアミン粉末に添加混合して得られる酢酸臭またはチアミン臭を低減した粉末組成物である。
第十二に、キシリトールを加熱する温度が220〜240℃であることを特徴とする、上記第九から第十一の何れか一つに記載の臭の低減方法または組成物である。
第十三に、キシリトール加熱物の水溶液の濃度が0.5〜40重量%であることを特徴とする、上記第十一または第十二に記載の組成物である。
第十四に、キシリトール加熱物の水溶液の濃度が1〜40重量%であることを特徴とする、上記第十三に記載の組成物である。
第十五に、キシリトール加熱物の水溶液の濃度が2〜40重量%であることを特徴とする、上記第十三に記載の組成物である。
【0019】
本発明のマルチトール加熱物の原料はマルチトールであるが、そのマルチトールは、澱粉を加水分解してマルトースを調製し、さらにこれを接触還元することにより得られる。
【0020】
本発明の好ましい実施態様では、マルチトール加熱物を製造する原料のマルチトールは市販の結晶マルチトール製品、マルチトール含蜜結晶製品、液状マルチトール製品など、いずれも有利に採用できるが、取り扱いの容易さ、流通、保存時の安定性の高さなどから、高純度結晶マルチトール製品またはマルチトール含蜜結晶製品が最も好ましく、市販製品の例として、レシス(登録商標、三菱商事フードテック株式会社製結晶マルチトール製品)、アマルティーMR(登録商標、三菱商事フードテック株式会社製マルチトール含蜜結晶製品)が挙げられる。
【0021】
また、液状の製品として、アマルティーシロップ(登録商標、三菱商事フードテック株式会社製液状マルチトール製品)が挙げられる。液状の製品を加熱原料として用いた場合は攪拌操作により均一に加熱できるので、加熱のむらが起こりにくいなどの利点がある。
【0022】
本発明の好ましい実施態様では、マルチトール加熱物を製造する際、マルチトールにほぼ均一に熱がかかれば加熱方法に格別の制限は無い。加熱の強さや時間に関しても格別の制限は無いが、極端に強い加熱をした場合、長時間加熱した場合は被加熱物が着色、こげ臭を発生する場合があるので好ましくない。
【0023】
また、加熱時の圧力についても減圧下、大気圧下、高圧下のいずれにおいても実施可能であるが、設備が単純になるなどの理由から、大気圧下で加熱するのが簡便である。
【0024】
マルチトールを加熱する際の到達温度は好ましくは160℃から260℃、さらに好ましくは180℃から240℃、最も好ましくは220℃から240℃の間の任意の温度である。
【0025】
加熱の後、冷却する必要があるが、冷却の方法も任意の方法を取ることが可能である。冷却方法としては放冷が最も簡便であるが、特に放冷である必要は無く、強制的に急冷してもかまわない。
【0026】
加熱時の到達温度が160℃以下の場合は臭い低減効果が低いので実用性が低く、260℃を超えると熱分解により着色することがあり、さらに本発明の目的に適さない物質が生成することもあるので、使用できる用途が限られることがある。
【0027】
このようにして得られたマルチトール加熱物は、室温では外観が無色透明ないし、ごく薄い琥珀色のガラス状固体であり、マルチトールと同様な甘味を有し、マルチトールと同様な水あめ様のごく弱い臭いを有する。加熱時の到達温度が260℃の場合は、若干黄色味を帯びた透明な物質となり、加熱水あめ様の臭い、および微かな苦味を呈するが、用いる食品の味や臭いを損なうものではなく、酢酸臭またはチアミン臭を低減する効果を持つ。
【0028】
また、以下の表1のように、高速液体クロマトグラフを用いた分析によれば、加熱時の到達温度が180℃を超えると、加熱による生成物由来と思われるピークが観察され、加熱時の到達温度が240℃までは,温度の上昇に伴いそのピークの比例的増大がみとめられた。
【0029】
【表1】

【0030】
加熱時到達温度が240℃を超えるとピークの増大の割合は鈍り、260℃を超えるとピークはほとんど増大せず、かつ水あめ様の臭いからこげ臭への変化もあること、220℃における加熱生成物の割合は240℃における場合の70%程度であることから、加熱時の到達温度は、160℃以上260℃以下が好ましく、180℃以上240℃以下がより好ましく、220℃以上240℃以下が最も好ましい。
【0031】
得られたマルチトール加熱物は、固体そのまま、または粉砕した粉末状、もしくは水に溶解した液体の形のいずれであっても、各種惣菜などの食品の酢酸臭またはチアミン臭を低減する効果があるので、どの形態で用いても良いが、粉末状または水に溶解した状態での臭い低減効果が顕著であり、また、臭い低減対象である酢酸ナトリウム粉末またはチアミン粉末と混合して使用することが、使用量も少なくて済むので最も好ましい。
【0032】
マルチトール加熱物は、酢酸ナトリウムやチアミン以外の物質と混合して液状、クリーム状、粉末状または固体の酢酸臭またはチアミン臭低減効果のある組成物を形成させることも可能である。
【0033】
マルチトール加熱物と組み合わせて使用する物質は、食品として使用可能で且つ、強い臭いなどによってマルチトール加熱物の目的とする効果を損なわないかぎり、自由に選択され得る。
【0034】
本願発明の好ましい実施態様では、前記のようにして得たマルチトール加熱物をチアミンまたは酢酸ナトリウムと併用することによって、チアミンや酢酸ナトリウムの持つ臭いを低減することができる。マルチトール加熱物の臭い低減効果はチアミン、酢酸ナトリウムに限定されるものではなく、他の化合物に対しても臭い低減効果を示す。
【0035】
本発明のキシリトール加熱物の原料はキシリトールであるが、キシリトールは、果実、野菜、穀類、キノコ及び微生物に存在する糖アルコールである。
【0036】
本発明の好ましい実施態様では、キシリトール加熱物を製造する原料のキシリトールは市販の結晶キシリトール製品が好ましく、市販製品の例として、キシリット(登録商標、三菱商事フードテック株式会社製結晶キシリトール製品)が挙げられる。
【0037】
本発明の好ましい実施態様では、キシリトール加熱物を製造する際、キシリトールにほぼ均一に熱がかかれば加熱方法に格別の制限は無い。加熱の強さや時間に関しても格別の制限は無いが、極端に強い加熱をした場合、長時間加熱した場合は被加熱物が着色、こげ臭を発生する場合があるので好ましくない。
【0038】
また、加熱時の圧力についても減圧下、大気圧下、高圧下のいずれにおいても実施可能であるが、設備が単純になるなどの理由から、大気圧下で加熱するのが簡便である。
【0039】
キシリトールを加熱する際の到達温度は好ましくは180℃から240℃、最も好ましくは220℃から240℃の間の任意の温度である。
【0040】
加熱の後、冷却する必要があるが、冷却の方法も任意の方法を取ることが可能である。冷却方法としては放冷が最も簡便であるが、特に放冷である必要は無く、強制的に急冷してもかまわない。
【0041】
加熱時の到達温度が180℃以下の場合は臭い低減効果が低いので実用性が低く、240℃を超えると熱分解により本発明の目的に適さない物質が生成することもあるので、使用できる用途が限られることがある。
【0042】
このようにして得られたキシリトール加熱物は、室温では外観が白色ないし、ごく薄い黄色の固体であり、キシリトールと同様な甘味を有し、キシリトールと同様な水あめ様のごく弱い臭いを有する。
【0043】
得られたキシリトール加熱物は、固体そのまま、または粉砕した粉末状、もしくは水に溶解した液体の形のいずれであっても、各種惣菜などの食品の酢酸臭またはチアミン臭を低減する効果があるので、どの形態で用いても良いが、粉末状または水に溶解した状態での臭い低減効果が顕著であり、また、臭い低減対象である酢酸ナトリウム粉末またはチアミン粉末と混合して使用することが、使用量も少なくて済むので最も好ましい。
【0044】
キシリトール加熱物は、酢酸ナトリウムやチアミン以外の物質と混合して液状、クリーム状、粉末状または固体の酢酸臭またはチアミン臭低減効果のある組成物を形成させることも可能である。
【0045】
キシリトール加熱物と組み合わせて使用する物質は、食品として使用可能で且つ、強い臭いなどによってキシリトール加熱物の目的とする効果を損なわないかぎり、自由に選択され得る。
【0046】
本願発明の好ましい実施態様では、前記のようにして得たキシリトール加熱物をチアミンまたは酢酸ナトリウムと併用することによって、チアミンや酢酸ナトリウムの持つ臭いを低減することができる。キシリトール加熱物の臭い低減効果はチアミン、酢酸ナトリウムに限定されるものではなく、他の化合物に対しても臭い低減効果を示す。
【0047】
本発明に用いるチアミンは、食品に添加できる品質のものであれば市販のものでよく、各種流通形態の中でも粉末品の取り扱いが容易なので、粉末が最も好ましい。
【0048】
また、チアミンの種類として、チアミン、チアミン塩酸塩、チアミン硝酸塩、ジベンゾイルチアミン、ジベンゾイルチアミン塩酸塩、チアミンセチル硫酸塩、チアミンチオシアン酸塩、チアミンナフタレン−1,5−ジスルフォン酸塩、チアミンラウリル硫酸塩などがあげられるが、それらの中でも酸性やアルカリ性の条件下においても比較的安定性が高いこと、チアミンに特有の好ましくない臭いや味が他のチアミン塩やチアミン誘導体に較べて弱いこと、またそれ自体は水に対する溶解性が室温で約0.02%程度とやや低いものの、マルチトールと組み合わせた場合に相乗的な抗菌活性が顕著に現われることから、チアミンラウリル硫酸塩が好ましい。
【0049】
本発明に用いる酢酸ナトリウムは、市販のものでよく、食品に添加できる品質のものであれば特に種類を問わないが、この後の工程においてマルチトール加熱物と混合する際に、効率よく混合できることから、粒度分布が150μmから1000μmの範囲の粉末が好ましい。
【0050】
本発明の好ましい実施態様では、マルチトール加熱物またはキシリトール加熱物とチアミン粉末または酢酸ナトリウム粉末を混合する際、マルチトール加熱物またはキシリトール加熱物を水溶液の状態にして粉末に対し2重量%の固形分に相当する量を添加する。
【0051】
この際、マルチトール加熱物溶液またはキシリトール加熱物の濃度は0.5重量%から40重量%、好ましくは1重量%から20重量%、さらに好ましくは2重量%から10重量%で実施するとよい。
【0052】
濃度が0.5重量%以下の場合、臭い低減に有効な添加量を添加しようとすると、水分が多くなりすぎて粉末が溶解したり、混合した後の粉末が取り扱いにくくなることが多い。
【0053】
また、マルチトール加熱物の濃度が40重量%以上の場合は溶液の粘度が高くなるため、容器の壁面に溶液が多量に付着して容易に流れない。そのため一定量のマルチトール加熱物またはキシリトール加熱物を計量したり、他の成分の粉末に添加することが困難であり、さらに添加後はダマが生成し、均一な混合ができないことがある。均一に混合されない場合、混合物の一部を使用するときにマルチトール加熱物またはキシリトール加熱物の濃度が添加時に設定した量と異なる場合があるため問題となる。
【0054】
溶液濃度が20重量%から40重量%の場合、他成分の粉末に溶液を添加した後にダマが生成することはあるが、溶液の濃度が40重量%を超える場合よりも溶液の粘度が低いため、粉末成分と液成分の攪拌操作中にダマは破砕され均一な混合が可能である。溶液濃度が10重量%から20重量%の場合は、溶液添加後にわずかにダマが生成するのみであるが、攪拌中に速やかに破砕される。溶液濃度が10重量%以下の場合は他の濃度の場合より効率よく混合が行われる。
【0055】
チアミン粉末または酢酸ナトリウム粉末へのマルチトール加熱物水溶液またはキシリトール加熱物水溶液の添加量は好ましくは2重量%程度で実施するが、粉末成分が溶解することなく、マルチトール加熱物水溶液またはキシリトール加熱物水溶液と併用する粉末を均一に混合できればマルチトール加熱物水溶液またはキシリトール加熱物水溶液の添加量を増減してもかまわない。
【0056】
マルチトール加熱物溶液またはキシリトール加熱物溶液を粉末成分に添加する際は、粉末成分であるチアミン粉末または酢酸ナトリウム粉末中にマルチトール加熱物溶液またはキシリトール加熱物溶液を均等に分散させるため、数回に分けて所定量まで添加を行うことが好ましい。
【0057】
混合操作は市販の攪拌混合機(例えば、ラボ用万能粉体処理装置メカノミル MM−20型 岡田精工株式会社製など)を用い、粉末に連続的にマルチトール加熱物溶液を添加して実施するが、併用する粉末が破砕されずにマルチトール加熱物溶液またはキシリトール加熱物溶液と混合できる条件であれば、どのような条件を採用してもかまわない。
【0058】
本発明の好ましい実施態様では、混合の工程が完了した後、必要に応じて50℃で、10分から2時間程度乾燥を行う。乾燥条件は、マルチトール、キシリトール、チアミン、酢酸ナトリウムに対して通常用いられる乾燥条件であればどのような条件を採用してもかまわない。
【0059】
本発明において製造されたチアミン粉末、酢酸ナトリウム粉末を含む粉末組成物は、チアミン、酢酸ナトリウムを使用する用途で広く利用が可能であり、たとえば日持ち向上用の製剤として利用が可能である。
【0060】
また、チアミン粉末、酢酸ナトリウム粉末以外の成分を含むマルチトール加熱物粉末組成物またはキシリトール加熱物粉末組成物に関しても、その成分を使用する用途で広く利用が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0061】
以下に、実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0062】
実施例及び比較例には以下のものを用いた。
マルチトール:結晶マルチトール[レシス(登録商標)、三菱商事フードテック株式会社製]、
キシリトール:結晶キシリトール[キシリット、三菱商事フードテック株式会社製]、
チアミン:チアミンラウリル硫酸塩[ビタゲン(登録商標)、田辺製薬株式会社製]、
酢酸ナトリウム:酢酸ナトリウム(無水)[日本合成化学工業株式会社製]
【実施例1】
【0063】
マルチトール加熱物の調製
【0064】
マルチトール粉末100gをアルミ鍋(直径20cm)に採り常圧にて直火で加熱して溶融した。表1および表2に示した所定の温度(160℃〜260℃)に到達した後、ただちに溶融した加熱物をバットに流し込んだ。放冷、固化後、バットから取り出し破砕してマルチトール加熱物を得た。
【実施例2】
【0065】
マルチトール加熱物の着色
【0066】
実施例1で調製したマルチトール加熱物の20%水溶液を調製し、光路1cmのセルを用い分光光度計(日本分光株式会社製、Ubest−55)で420nm及び720nmの吸光度を測定し、720nmにおける吸光度から420nmにおける吸光度を差し引き、着色度として評価した。
【0067】
また、実施例1で調製したマルチトール加熱物をそのままの状態で目視によって着色の程度を確認した。結果を表2に示す。
【0068】
【表2】

【実施例3】
【0069】
マルチトール加熱物とチアミン粉末の混合
【0070】
実施例1で調製したマルチトール加熱物をそれぞれ0.5、1、2、5、10、15、20、30、40重量%の水溶液とした。チアミン3gにマルチトール加熱物水溶液60mg(2重量%)をマイクロピペットで添加し、乳鉢で混合後50℃で、2時間、乾燥機(高杉製作所製、A−3型)で乾燥してマルチトール加熱物と混合されたチアミン粉末を得た。
【0071】
マルチトール加熱物水溶液の混合効率
【0072】
マルチトール加熱物水溶液の分散性を、混合の際に目視で評価を行った。30〜40重量%の溶液は、当該溶液をチアミンに添加した後にダマが生成するため、混合効率が悪かった。15〜20重量%の溶液は、30〜40重量%の溶液に比べダマの生成が少なく、混合効率が改善されていた。10重量%以下の溶液は良好に混合された。
【実施例4】
【0073】
マルチトール加熱物によるチアミン臭低減効果
【0074】
実施例3で調製したマルチトール加熱物と混合されたチアミン粉末に対し、マルチトール加熱物によるチアミン臭低減効果を官能検査によって評価した。
【0075】
官能検査はマルチトール加熱物と混合されたチアミン粉末とそのままのチアミン粉末を比較する形で実施した。訓練された10名の被験者により、チアミン臭の低減効果ありを2点、やや効果ありを1点、効果なしを0点として各試料について採点し、その合計点で7点以上のものにはチアミン臭低減効果があり、12点以上のものには顕著なチアミン臭低減効果があると評価した。結果を表3に示す。
【0076】
【表3】

【0077】
表3の結果からマルチトール加熱物に関して、以下の範囲で効果が認められた。
【0078】
加熱処理温度に関しては、160℃〜260℃の範囲で効果が確認できた。180℃〜260℃の範囲ではいっそう効果が認められ、180℃〜240℃の範囲で最も効果的に臭い低減効果が認められた。
【0079】
添加量に関しては、0.01重量%〜0.8重量%(溶液濃度0.5重量%〜40重量%に相当)の範囲で効果が認められ、0.02重量%〜0.8重量%(溶液濃度1重量%〜40重量%に相当)の範囲でより一層効果が認められ、0.04重量%〜0.8重量%(溶液濃度2重量%〜40重量%に相当)の範囲で最も効果的に臭い低減効果が認められた。
【実施例5】
【0080】
マルチトール加熱物と酢酸ナトリウム粉末の混合
【0081】
実施例1で調製したマルチトール加熱物をそれぞれ2、10、40重量%の水溶液とした。酢酸ナトリウム粉末300gを万能混合機(ラボ用万能粉体処理装置メカノミル MM−20型 岡田精工株式会社製)に取り、500rpmで攪拌しながらマルチトール加熱物水溶液6gをピペットで添加し、混合後50℃で、10分間、乾燥機(高杉製作所製、A−3型)で乾燥してマルチトール加熱物と混合された酢酸ナトリウム粉末を得た。
【実施例6】
【0082】
マルチトール加熱物による酢酸臭低減効果
【0083】
実施例5で調製したマルチトール加熱物と混合した酢酸ナトリウム粉末に対して実施例4の方法でマルチトール加熱物による酢酸臭低減効果を官能検査によって評価したところ、良好な効果が認められた。結果は表4に示す。
【0084】
【表4】

【比較例1】
【0085】
パラチノース加熱物の着色
【0086】
実施例2に記載の方法でパラチノース加熱物、およびその20%水溶液の着色度を測定、評価した。結果は上記表2に示す。
【比較例2】
【0087】
未加熱のマルチトールとチアミン粉末の混合、未加熱のキシリトールとチアミン粉末の混合およびパラチノース加熱物とチアミン粉末の混合
【0088】
未加熱のマルチトールを5重量%の水溶液とした。チアミン3gにマルチトール水溶液60mg(2重量%)をマイクロピペットで添加し、乳鉢で混合後50℃で、2時間、乾燥機(高杉製作所製、A−3型)で乾燥して未加熱のマルチトールと混合されたチアミン粉末を得た。
【0089】
未加熱のキシリトールおよびパラチノース加熱物についても同様の方法で、混合されたチアミン粉末を得た。
【比較例3】
【0090】
未加熱のマルチトール、未加熱のキシリトールまたはパラチノース加熱物によるチアミン臭低減効果
【0091】
未加熱のマルチトール、未加熱のキシリトールまたはパラチノース加熱物によるチアミン臭低減効果を実施例4の官能検査によって評価した。0.1重量%添加(溶液濃度5重量%に相当)でパラチノース加熱物に顕著な臭い低減効果が認められたが、未加熱のマルチトール、未加熱のキシリトールに関しては顕著な効果は認められなかった。結果を表5に示す。
【0092】
【表5】

【比較例4】
【0093】
パラチノース加熱物と酢酸ナトリウム粉末の混合
【0094】
パラチノース加熱物を10重量%の水溶液とした。酢酸ナトリウム粉末50gにパラチノース加熱物水溶液1000mg(2重量%)をマイクロピペットで添加し、乳鉢で混合後50℃で、2時間、乾燥機(高杉製作所製、A−3型)で乾燥してパラチノース加熱物と混合された酢酸ナトリウム粉末を得た。
【比較例5】
【0095】
未加熱のマルチトール、未加熱のキシリトールまたはパラチノース加熱物による酢酸臭低減効果
【0096】
未加熱のマルチトール、未加熱のキシリトールまたはパラチノース加熱物による酢酸臭低減効果を実施例4の官能検査によって評価した。0.2重量%添加(溶液濃度10重量%に相当)でパラチノース加熱物に顕著な臭い低減効果が認められたが、未加熱のマルチトール、未加熱のキシリトールに関しては顕著な効果は認められなかった。結果を上記表4に示す。
【実施例7】
【0097】
キシリトール加熱物の調製
【0098】
キシリトール粉末100gをアルミ鍋(直径20cm)に採り常圧にて直火で加熱し、所定の温度(180℃〜240℃)に到達した後ただちに、溶融した加熱物をバットに流し込んだ。0.5重量%の結晶添加、放冷固化後、バットから取り出し破砕してキシリトール加熱物を得た。
【実施例8】
【0099】
キシリトール加熱物の着色
【0100】
実施例2に記載の方法で実施例7で調製したキシリトール加熱物、およびその20%水溶液の着色度を測定、評価した。結果を表6に示す。
【0101】
【表6】

【実施例9】
【0102】
キシリトール加熱物とチアミン粉末の混合
【0103】
実施例7で調製した加熱到達温度240℃のキシリトール加熱物を所定の濃度(5重量%)の水溶液とした。チアミン3gにマルチトール加熱物水溶液60mg(2重量%)をマイクロピペットで添加し、乳鉢で混合後50℃で、2時間、乾燥機(高杉製作所製、A−3型)で乾燥してキシリトール加熱物と混合されたチアミン粉末を得た。
【実施例10】
【0104】
キシリトール加熱物によるチアミン臭低減効果
【0105】
実施例9で調製したキシリトール加熱物と混合されたチアミン粉末に対し、キシリトールによるチアミン臭低減効果を実施例4の官能検査によって評価した。キシリトール加熱物では加熱到達温度が240℃であり、0.1重量%添加(溶液濃度5重量%に相当)した場合に顕著な臭い低減効果が認められた。結果を表7に示す。
【0106】
【表7】

【実施例11】
【0107】
キシリトール加熱物と酢酸ナトリウム粉末の混合
【0108】
実施例7で調製した加熱到達温度が240℃のキシリトール加熱物を10重量%の水溶液とした。酢酸ナトリウム粉末50gにキシリトール加熱物水溶液1000mg(2重量%)をマイクロピペットで添加し、乳鉢で混合後50℃で、2時間、乾燥機(高杉製作所製、A−3型)で乾燥してキシリトール加熱物と混合された酢酸ナトリウム粉末を得た。
【実施例12】
【0109】
キシリトール加熱物による酢酸臭低減効果
【0110】
実施例11で調製したキシリトール加熱物と混合された酢酸ナトリウム粉末に対してキシリトール加熱物による酢酸臭低減効果を実施例4の官能検査によって評価したところ、良好な効果が認められた。結果を表8に示す。
【0111】
【表8】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
マルチトールを160〜260℃の範囲の任意の温度まで加熱することによって得られるマルチトール加熱物を有効成分として用いる酢酸臭またはチアミン臭の低減方法。
【請求項2】
マルチトールを160〜260℃の範囲の任意の温度まで加熱することによって得られるマルチトール加熱物を有効成分とする、酢酸臭またはチアミン臭低減効果のある組成物。
【請求項3】
マルチトールを160〜260℃の範囲の任意の温度まで加熱することによって得られるマルチトール加熱物を水溶液とし、酢酸ナトリウム粉末またはチアミン粉末に添加混合して得られる、酢酸臭またはチアミン臭を低減した粉末組成物。
【請求項4】
マルチトール加熱物の水溶液の濃度が0.5〜40重量%であることを特徴とする、請求項3に記載の粉末組成物。
【請求項5】
キシリトールを180〜240℃の範囲の任意の温度まで加熱することによって得られるキシリトール加熱物を有効成分として用いる酢酸臭またはチアミン臭の低減方法。
【請求項6】
キシリトールを180〜240℃の範囲の任意の温度まで加熱することによって得られるキシリトール加熱物を有効成分とする、酢酸臭またはチアミン臭低減効果のある組成物。
【請求項7】
キシリトールを180〜240℃の範囲の任意の温度まで加熱することによって得られるキシリトール加熱物を水溶液とし、酢酸ナトリウム粉末またはチアミン粉末に添加混合して得られる、酢酸臭またはチアミン臭を低減した粉末組成物。
【請求項8】
キシリトール加熱物の水溶液の濃度が0.5〜40重量%であることを特徴とする、請求項7に記載の粉末組成物。

【公開番号】特開2009−189287(P2009−189287A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−32588(P2008−32588)
【出願日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【出願人】(000223090)三菱商事フードテック株式会社 (25)
【Fターム(参考)】