説明

臭化グリコピロニウムの結晶化および精製

臭化グリコピロニウム結晶の製造法は、溶媒中でグリコピロニウム塩基と臭化メチルとを反応させること(ここで、生成物のジアステレオマー比に関し(R,R)および(S,S)ジアステレオマーよりも(R,S)および(S,R)ジアステレオマーの方が多くなるように前記溶媒が選択される)、および1以上の制御された結晶化工程により所望のジアステレオマーを分離することを含む。この方法からは、分布の狭い粒径を有する生成物が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は抗ムスカリン様作用薬である臭化グリコピロニウムの結晶化および精製の方法に関する。
【背景技術】
【0002】
臭化グリコピロニウム(米国薬局方:グリコピロレート)は2つの可能なジアステレオマーのラセミ化合物のうちの高い方の融点(193.2℃〜194.5℃)をもつ化合物、すなわちエリトロ型ラセミ化合物である。臭化グリコピロニウムはN−メチルピロリジン−3−オール(NMP)およびヒドロキシシクロペンチルマンデル酸メチル(MCPM)を用いて、US−A−2956062に開示された方法で下記のようにして製造される。
【化1】

【0003】
メチルエチルケトン(MEK;ステージ3)中のメチル化反応で得られる一次生成物は2対の可能なジアステレオマーの約50:50の混合物として単離される。所望の薬物、すなわち対をなす(R,S)および(S,R)ジアステレオマーのラセミ混合物を得るために、粗生成物をメタノールとMEKの混合物で再結晶化することにより(R,R)および(S,S)の対が取り除かれる。
【0004】
この確立されている製造工程では、薬剤物質の粒子径の制御は行われていない。粒径が大きくかつばらついていると薬剤物質は次の微粒化で物理的に不安定になる。そのような材料は吸入に適した薬剤に製剤することは難しい。
【0005】
さらに、融点の制御を別にすれば、米国薬局方は活性な医薬成分中の(R,R)および(S,S)のジアステレオマー対の量を決定することについては述べていない。
【0006】
市販のMCPMは高濃度の不純物を含んでいることがある。これらの不純物はステージ2で競合反応を起こし、グリコピロニウム塩基中、そして最終塩中に高濃度の不純物として残る。
【0007】
発明の概要
本発明は新規な結晶化工程(スキーム1のステージ3)を用いる臭化グリコピロニウムの製造に関する。高純度であることに加えて、溶媒、例えば式RCORまたはRCOOR(ここで、RおよびRはそれぞれ炭素数1から8のアルキルである)で表される溶媒により、均一で微細な粒径に制御される。さらに、好ましくは、この工程は最終結晶化工程を低冷却速度でおこなうことを含む。この方法で得られた臭化グリコピロニウムの粒径により、吸入デリバリーに最適化された薬剤に製剤するのに適した物理的に安定な微粒化薬剤物質が保証される。
【0008】
本発明の好ましい一実施形態においては、アセトン中でメチル化を行うことにより、ジアステレオマー対の比に関して所望の(R,S)と(S,R)の対が60:40で多くなることを確実にする。これにより、(R,R)と(S,S)の対を除くために必要な再結晶化工程の数を減らすことができる。
【0009】
発明の説明
本明細書に提示する情報に基づいて、当業者は本発明の使用に好適な溶媒を容易に決定することができる。例としてアセトンが挙げられるが、好適と考えられる他の溶媒としては、たとえば、酢酸エチルのような酢酸エステル類やメチルイソブチルケトン(MEK)のような他のケトン類が挙げられる。上記式中のRおよびRは好ましくはC1−4アルキルであり、Rは好ましくはメチルである。アセトンより炭素数の多いケトンが再結晶化には好ましい。
【0010】
MEKと比べて、アセトン中でメチル化を行うと不純物は効率的に除去される。MEK/メタノールからの連続再結晶化によりこれらの不純物はジアステレオマーの(R,R)と(S,S)の対と一緒に工程的に取り除かれる。
【0011】
メチル化反応と次の精製工程における生成物である臭化グリコピロニウムの全収率は典型的には20〜30%である。行った再結晶化によって(R,R)/(S,S)対が0.2%以下という好ましい仕様に適合しない場合は、さらに再結晶化工程を加えることができる。
【0012】
次の実施例(上記した3段階工程のステージ3)は本発明を説明するものである。「冷」は0〜10℃の温度を意味する。
【0013】
ステージ3: アセトン中でのメチル化反応
粗グリコピロニウム塩基(13.0kg;42.8mol)のアセトン(130L)溶液を臭化メチルガス(4.5kg;47.4mol)で、温度を−5℃と5℃の間に保ちながら30分間処理する。次いで、混合物を15℃と25℃の間に加温し、この温度に2時間保って臭化グリコピロニウムの完全な結晶化を確実にする。生成物を遠心ろ過し、冷アセトン(40−60L)で洗浄し、回収する(15kg)。
【0014】
ステージ3.1: 1次再結晶化
この物質(15kg)をメタノール(13.0L)とMEK(90L)との混合物に還流下で溶解する。MEK(135L)をさらに加えて、75〜85℃で30分間還流する。次いで、混合物を−10℃と0℃の間に30℃/時の速度で冷却して精製生成物の制御された結晶化を行った後、遠心ろ過し、冷MEK(30〜50L)で洗浄し、回収する(7kg)。この1次結晶化で得られた生成物の純度は典型的には99%以上であり、ジアステレオマー純度は典型的には94〜95%(HPLCによる)である。
【0015】
ステージ3.2: 2次再結晶化
この物質(7kg)をメタノール(10.2L)とMEK(45L)との混合物に還流下で溶解する。MEK(65L)をさらに加えて、75〜85℃で30分間還流する。次いで、混合物を−10℃と0℃の間に30℃/時の速度で冷却して精製生成物の制御された結晶化を行った後、遠心ろ過し、冷MEK(20〜30L)で洗浄し、回収する(5.3kg)。この再結晶化で得られた生成物の純度は典型的には99.9%以上であり、ジアステレオマー純度は典型的には99.5%以上(HPLCによる)である。
【0016】
ステージ3.3: 3次結晶化
この物質(5.3kg)をメタノール(4.2L)とMEK(33)との混合物に還流下で溶解する。MEK(47L)をさらに加えて、75〜85℃で30分間還流する。次いで、混合物を−10℃と0℃の間に30℃/時の速度で冷却して精製生成物の制御された結晶化を行った後、ろ過し、冷MEK(20L)で洗浄し、オーブンで乾燥させる。この薬剤物質は白色微結晶固体(4.9kg)である。この1次再結晶化からの生成物の純度は典型的には99.95%以上であり、ジアステレオマー純度は典型的には99.8%以上(HPLCによる)である。
【0017】
分析方法
この方法はWaters社のAlliance 2695型HPLC装置にPDA 996検出器、カラムオーブン、およびWaters社のEmpowerデータシステムを備えたもの、あるいは同等物を使用する。
【0018】
カラム: Astec Cyclobond I 2000;
250mm×4.6mm(内径)
温度: 15℃
注入量: 20μL
検出: UV(230nm)
稼働時間: 20分
移動相: 1.0M酢酸トリエチルアンモニウム緩衝溶液(5.0ml)に
アセトニトリル(750ml)とHPLC水(245ml)を
混合したもの
流速: 1.0ml/分
グラジエント:定組成
(R,S)/(S,R)臭化グリコピロニウム(薬剤物質)および(R,R)/(S,S)不純物についての保持時間(run times)ならびに相対応答時間は次の通り。
【表1】

この方法の検出限界は0.03%、定量限界は0.1%である。上記の工程によれば、(R,R)/(S,S)対を0.2%以下しか含まない薬剤物質を再生することができる。
【0019】
HPLC法を開発し、薬剤物質バッチ中の不純物濃度を0.2%未満に制御するための製造工程のチェックおよび試験方法を提供することができるようになった。この仕様を満足するために必要な結晶化の効率によって、他のあらゆる不純物を除かれる。不純物を含むMCPMに由来する不純物は再結晶化工程で容易に取り除くことができる。
【表2】

【表3】

【表4】

この実施例により、本精製手順は有効であることが確認され、低品質MCPMでさえも良品質の薬剤物質に加工することが可能であることが証明される。これらの不純物の除去は明らかに、制御された再結晶化の結果によるものである。制御されない結晶化からは不均一な粒径分布を有し不純物を含む生成物が得られる。イメージングによって示されるように、制御された冷却速度を用いることにより高水準の純度が達成されるだけでなく粒径分布の制御と均一な形態学的傾向も得られることが分かったが、これは驚くべきことであった。この生成物を次に微粒化することで、吸入デリバリーに最適化された薬剤への製剤に好適で物理的に安定な薬剤物質が提供された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
臭化グリコピロニウム結晶の製造方法であって、
溶媒中でグリコピロニウム塩基と臭化メチルを反応させること(ここで、生成物のジアステレオマー比に関し(R,R)および(S,S)ジアステレオマーよりも(R,S)および(S,R)ジアステレオマーの方が多くなるように前記溶媒が選択される)、および
1以上の制御された結晶化工程により所望のジアステレオマーを分離すること
を含む製造方法。
【請求項2】
反応溶媒と結晶化に使用される溶媒がそれぞれ式RCORまたはRCOOR(ここでRおよびRは独立にC1−8アルキルである)で表される同一または異なる化合物を含む請求項1に記載の方法。
【請求項3】
反応溶媒がアセトンである請求項2に記載の方法。
【請求項4】
結晶化溶媒がメチルエチルケトンまたはメチルイソブチルケトンを含む請求項2または3に記載の方法。
【請求項5】
結晶化溶媒がメチルエチルケトンとメタノールとの混合物である請求項4に記載の方法。
【請求項6】
生成物(R,S)/(S,R)のジアステレオマー純度が99.8%より高い、先行するいずれかの請求項に記載の方法。
【請求項7】
生成物の粒径が100μm未満である、先行するいずれかの請求項に記載の方法。
【請求項8】
前記粒径が50μm未満である請求項7に記載の方法。
【請求項9】
ジアステレオマー比が少なくとも60:40で(R,S)/(S,R)対が多い、先行するいずれかの請求項に記載の方法。
【請求項10】
先行するいずれかの請求項に記載の方法で得られ、分布の狭い粒径を有する臭化グリコピロニウム結晶。

【公表番号】特表2008−531674(P2008−531674A)
【公表日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−557594(P2007−557594)
【出願日】平成18年3月3日(2006.3.3)
【国際出願番号】PCT/GB2006/000770
【国際公開番号】WO2006/092617
【国際公開日】平成18年9月8日(2006.9.8)
【出願人】(507303376)ソーセイ アールアンドディ リミテッド (16)
【Fターム(参考)】