説明

航空機用障害物検知方法とそのシステム

【課題】本発明は、比較的低速で低高度を飛行する航空機が、飛行中前方に現れる障害物の近接を、アクティブな手段や一般的な光学的方法によらないで、パッシブな手段により簡便にかつ軽量な検出要素によって検知するセンサを得ようとするものである。
【解決手段】本発明の航空機用障害物検知システムは、狭帯域の共振特性を有するビームアンテナと、該ビームアンテナの共振状態変化をモニターする手段とを航空機に搭載し、前記モニター手段によって共振状態変化をモニターし、飛行中の航空機前方にある金属製構造物の近接を検知するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は航空機の飛行中における前方障害物の検知技術に関する。
【背景技術】
【0002】
ヘリコプターや飛行船及び無人航空機など、比較的低速で低高度を飛行する航空機は、一般の航空機とは異なり、ある高さを持つ送電線、鉄塔などの人工物が飛行経路上に出現する場合があり、これらとの接触による墜落事故が発生している。
このような飛行中前方に現れる障害物の近接を検知し、その危険を察知するために必要な障害物検知技術は、単に目視や光学的検知にとどまらず、いろいろな原理による方法が試みられている。
【0003】
特許文献1には視界の悪い状態でも安全に低空飛行ができるようにすることを目的とした「ディジタルマップシステム、航空機の障害物検出方法」が提示されている。この発明は、メモリに、航路の各座標データAに於ける地表面の高さを示す地形データa及び地表に存在する物体の高さを示す地上物体データbを格納しておく。飛行中は、計測手段で計測された自機の高度Bと、現在位置Aから進行方向Cへ予め定められた距離だけ進んだ位置に於ける地形データaL及び地上物体データbLとをCPUで比較し、aL+Δ≧B又はbL+Δ’≧B(Δ、Δ’は飛行高さの余裕限界を示す一定値)の少なくとも一方が満たされると警報を表示装置へ出力するというものである。このシステムはメモリに、航路の各座標データAに於ける地表面の高さを示す地形データa及び地表に存在する物体の高さを示す地上物体データbを格納しておくことが必須であり、航空機が飛行する可能性がある領域についてこの情報を準備しておかなければならない。この様な情報は一般の地図情報と異なり汎用流通しているものではないので、独自に作成するか、高価な情報を購入して入手しなければならないため、大きな負担となる。
【0004】
現在広く研究され、一部で実用化が成されているのは、ミリ波やレーザーを投射して、物体からの反射を検知するレーダー式のセンサである。この種の技術としては特許文献2「航空機搭載用障害物探知装置」が公知となっている。この発明は、航空機搭載用障害物探知装置の探知する情報の信頼性を高めることを目的としたもので、図5に示すように搭載母機の機体外部に装着するアンテナ/走査部40と、機体内部に収納する光発生部43、光電変換部44との間では、送信用および受信用の光ファイバ48a,48bでそれぞれ光の伝送を行う。光発生部43を含まないので、アンテナ/走査部40を小型化することができ、有効で信頼性の高い障害物探知を行うことができる位置に装着することができる。EMIノイズの影響を受けやすい光電変換部44は、機体内部に収納し、充分な遮蔽を行うことができるので、耐EMIノイズ性を向上させ、信頼性の高い障害物探知を行うことができる。警戒範囲についても、飛行状況に応じて走査状態を変化させ、信頼性を高めることができる。しかし、このようなセンサは、非常に高度な技術と開発要素が多く、また搭載機雛の形状、重量が大きく、ある程度の電源も必要なため実用化されてもその価格は高価となってしまう問題がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、比較的低速で低高度を飛行する航空機が、飛行中前方に現れる障害物の近接を、レーダー等のアクティブな手段や一般的な光学的方法によらないで、パッシブな手段により簡便にかつ軽量な検出要素によって検知するセンサを得ようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、ビームアンテナの共振状態が、アンテナ前方に近接する送電線、鉄塔、鉄筋建造物等など金属製構造物により影響を受けることを利用したものである。本来通常のアンテナは、なるべく周囲の影響による特性変化を少なくする様に設計されるものであるが、逆に影響を受けやすく設計することも可能である。ビームアンテナの共振状態によって金属製構造物の影響を検出し、その存在の検知に用いようとするものである。このように本発明の手段は、通常のアンテナの動作形態からは考えられない使い方であり、本来アンテナの使用上避けなければならない現象を逆に利用しようというものである。
【0007】
本発明の航空機用障害物検知方法は、航空機に狭帯域の共振特性を有するアンテナを搭載し、該アンテナの共振状態変化をモニターすることにより、飛行中の航空機前方にある金属製構造物の近接を検知することを特徴とする。
本発明の航空機用障害物検知システムは、狭帯域の共振特性を有するビームアンテナと、該ビームアンテナの共振状態変化をモニターする手段とを航空機に搭載し、前記モニター手段によって飛行中の航空機前方にある金属製構造物の近接を検知するようにした。
そして、その共振状態変化をモニターする手段は高周波ブリッジ回路と障害物近接信号のレベル検知器とを備えたものとした。
更に、障害物近接信号のレベル検知器が閾値を越えたときに航空機の進行方向を変更する指令信号を出力する機能を備えるようにした。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、航空機に軽量な超短波または極超短波のビームアンテナを装着し、その共振状態の変化を検出する回路を備えることで、航空機が金属製障害物の近接を検知することが可能になる。このアンテナ及び検出回路は非常に軽量小型で、かつ駆動電力が小さいことから、小型の航空機への搭載が可能となる。
特に近年その利用が広く検討されている無人航空機では、自動制御により一定の飛行経路を飛行するが、無人であるために目視による障害物回避はできないため、何らかの障害物検知が必須となる。またレーダーなどは形状や重量が大きく、また消費電力も大きいため無人機への搭載は問題が多い。これより本発明の検知センサでは、小型・軽量なため搭載容量や重量に制限がある無人航空機には最適と考えられる。
また本発明は基本技術的として一般的なアンテナ技術として知られていた物理現象を、上記のような使用目的のもとで異なる設計にして応用するものであるから、従来のアンテナ関連技術を容易に適用することができるメリットもある。
【0009】
本発明の航空機用障害物検知システムは、共振状態変化をモニターする手段として高周波ブリッジ回路と障害物近接信号のレベル検知器とを備え、障害物近接信号のレベル検知器が閾値を越えたときに航空機の進行方向を変更する指令信号を出力する機能を備えるようにしたことにより、無人航空機においては障害物回避の機能を備えた自動航行システムに対して有効に寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】ビームアンテナの共振特性を示したものである。
【図2】アンテナの共振状態の変化を電気的に検出する高周波ブリッジの回路を示したものである。
【図3】航空機にアンテナを装着する概略図と障害物検知システムの構成図である。
【図4】障害物の近接により、障害物近接信号の出力が変化する様子を示したものである。
【図5】従来の航空機搭載用障害物探知装置を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の基本思想は、ビームアンテナの共振状態が、アンテナ前方に近接する送電線、鉄塔、鉄筋建造物等など金属製構造物により影響を受けることを利用したものである。通常のアンテナは、なるべく周囲の影響による特性変化を少なくする様に設計されるものであるが、逆に影響を受けやすく設計することも可能であって、本来アンテナの使用上避けなければならない現象を逆に利用して、障害物検知用のセンサとしようというものである。
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
本発明を実施するには、図1のAに示すような一般的な共振特性を示すアンテナではなく、図1のBに示すような狭帯域の共振特性を有するアンテナを設計して使用する。図1のBのようなシャープな共振特性を持たせるためには、多素子八木アンテナなどのビームアンテナにおいて、エレメント間隔を狭めることによって実現でき、またアンテナ全体は小さくなる。このことは、小型の航空機に搭載しようという本発明の用途に有利な方向となる。なお本発明のような目的に適したアンテナの周波数帯は、航空機への装着を考えると超短波及び極超短波帯になる。
【0012】
このビームアンテナの共振特性を検出するため、図2に示すような高周波ブリッジ回路2を用いることとする。ここで高周波発信源2aは、アンテナ1の共振周波数に近い周波数発信器であるが、出力は数mWで十分であり、レーダー等に使用するような非常に大きな駆動電源を必要としない。アンテナ1は高周波発信源2aの固有周波数に対して共振するインピーダンスに調整される。すなわち、Z=R+1/jωC+jωLで表される複素インピーダンスのリアクタンス分を0とし、純抵抗分Rだけとなるようにする。そして、このアンテナ1を高周波ブリッジ回路2の1アームに接続し、他のアームにもインピーダンスZ,Z,Zなる純抵抗を接続する。またこの高周波ブリッジ回路2の出力信号は、高周波信号増幅器3或いは整流器を付加して直流電圧として出力するようにする。
【0013】
アンテナ1の近傍に送電線、鉄塔、ビルなどの金属製の人工物が存在すれば、アンテナの共振状態に影響を及ぼし、アンテナ1のインピーダンスZが純抵抗値Rだけでなくリアクタンス成分を持つようになる。これによって高周波ブリッジ回路2のバランスが崩れ、その出力端に高周波成分が出力される。これが金属製の人工物の検出信号となる。金属製の人工物が接近するに従い、その出力は大きくなる。この出力信号は必要に応じて増幅器3を介して増幅し、整流器を介して直流電圧信号に変換し電圧計等のメータで表示するものとする。無人航空機の場合には機内にメータの設置の必要はなく、当該検出値をコントロールセンターに送信したり、記録データとして蓄積する形態でよい。自動操縦システムを搭載した航空機においては、その出力が小さくなる方向に進路変更を行うための検出信号として当該出力信号を利用することができる。
【実施例1】
【0014】
本発明による障害物検出センサに適したアンテナ1を図3のAに示すように航空機の機首に装着し、航空機用障害物検知システム構成としては図3のBに示すように、アンテナ1のフィーダー線を機内に搭載した高周波ブリッジ回路2に接続し、その出力を高周波増幅器3で増幅し、更に整流器4を介して直流電圧値に変換する。アンテナ1の特性としてはインピーダンス値Zが50Ω、共振周波数が144MHzのものを用いた。このアンテナを実機に装着した場合、機体の影響を受け若干のリアクタンス成分を生じることになるので、これを消去するように調整を採る。この様にセットされた航空機用障害物検知システムからの出力信号を記録し、この変換された直流電圧値を金属製の人工物までの距離に対応させてディスプレイ上でグラフ表示させたものを図4に示す。このグラフは電力線がアンテナ1の前方にある場合、航空機が接近するにつれて本システムの出力が変化する様子を示したものである。
【産業上の利用可能性】
【0015】
本発明は、比較的低空を飛行する航空機や自動制御で目視外を飛行する無人航空機が、非常に簡単な装置により送電線、鉄塔など高い地上建造物に衝突することを回避できるなど、飛行安全性の確保に有効である。
【符号の説明】
【0016】
1 ビームアンテナ 2 高周波ブリッジ回路
3 高周波増幅器 4 整流器
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】特開平9−237400号公報 「ディジタルマップシステム、航空機の障害物検出方法」 平成9年9月9日公開
【特許文献2】特開平11−23711号公報 「航空機搭載用障害物探知装置」 平成11年1月29日公開

【特許請求の範囲】
【請求項1】
航空機に狭帯域の共振特性を有するアンテナを搭載し、該アンテナの共振状態変化をモニターすることにより、飛行中の航空機前方にある金属製構造物の近接を検知することを特徴とする航空機用障害物検知方法。
【請求項2】
狭帯域の共振特性を有するビームアンテナと、該ビームアンテナの共振状態変化をモニターする手段とを航空機に搭載し、前記モニター手段によって飛行中の航空機前方にある金属製構造物の近接を検知することを特徴とする航空機用障害物検知システム。
【請求項3】
共振状態変化をモニターする手段は高周波ブリッジ回路と障害物近接信号のレベル検知器とを備えたものである請求項2に記載の航空機用障害物検知システム。
【請求項4】
障害物近接信号のレベル検知器が閾値を越えたときに航空機の進行方向を変更する指令信号を出力する機能を備えたものである請求項3に記載の航空機用障害物検知システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−208546(P2010−208546A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−58124(P2009−58124)
【出願日】平成21年3月11日(2009.3.11)
【出願人】(503361400)独立行政法人 宇宙航空研究開発機構 (453)
【Fターム(参考)】