船体のUEP低減方法及び装置
【課題】船体の周囲に発生するUEPを低減し、船舶の航行の安全性を高めることが可能な、船体のUEP低減方法及び装置を提供する。
【解決手段】海水40に浮いている船舶11の内部に、海水よりも導電率の小さい液体を収容したタンク70を備える。そして、タンク70内の液体を海水中に噴出可能な射出装置10が船底に艤装されている。射出装置10から海水よりも導電率の小さい液体を船体金属周辺の海水に対して噴出する。すると、海水よりも導電率の小さい液体が海水40と混ざり合い、船体金属周辺では海水よりも導電率の小さい媒体41となる。船体電圧は不変なので、アノード付近30から発生し、カソード付近31に流入する腐食電流20が小さくなる。その結果、腐食電流20によるUEP及び腐食電流磁界21を低減できる。
【解決手段】海水40に浮いている船舶11の内部に、海水よりも導電率の小さい液体を収容したタンク70を備える。そして、タンク70内の液体を海水中に噴出可能な射出装置10が船底に艤装されている。射出装置10から海水よりも導電率の小さい液体を船体金属周辺の海水に対して噴出する。すると、海水よりも導電率の小さい液体が海水40と混ざり合い、船体金属周辺では海水よりも導電率の小さい媒体41となる。船体電圧は不変なので、アノード付近30から発生し、カソード付近31に流入する腐食電流20が小さくなる。その結果、腐食電流20によるUEP及び腐食電流磁界21を低減できる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、本発明は、水上艦艇や潜水艦等の船体の周囲に発生するUEP(Underwater Electric Potential)を低減する、船体のUEP低減方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電解溶液中にイオン化傾向の異なる2つの金属が存在すると、当該2つの金属間に電位差が生じ、水中電界が発生する。これを船舶について見ると、船体(例えば鋼)とプロペラ(例えば銅)とが海水中(すなわち電解溶液中)に存在するため、船体とプロペラとの間に電位差が生じ、水中電界が発生する。この電位差又は水中電界を一般にUEPという。
【0003】
イオン化傾向の大きい船体の金属は陽イオンとなって海水中に溶け出すため、船体の金属は腐食する。この腐食を防止するための対策として、流電陽極方式又は外部電源方式といったカソード(陰極)防食が従来から知られている。流電陽極方式は、船体の金属(例えば鋼)よりも卑となる金属(イオン化傾向の大きな金属、例えば亜鉛)を犠牲陽極として船体に装着することにより、船体の腐食を防止する方式である。外部電源方式は、船底に取り付けた不溶性陽極(例えば白金陽極)から強制的に電流を流し、船体電位を一定に保つことにより、船体の腐食を防止する方式である。いずれの方式でも、海水中に腐食電流又は防食電流が流れ、UEPが発生する。
【0004】
下記特許文献1は、UEPの低減を目的とし、「複数の犠牲陽極のうちの少なくとも1つの犠牲陽極に対して少なくとも1つの陰極を近接して配置してなる」UEPの低減法を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−76495号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
UEPに感応する機雷が設置されていたりUEPに感応する魚雷による攻撃を受ける可能性のある危険海域を船舶が通過するとき、船体の周囲に発生するUEPが大きいと触雷を回避するのが難しく、航行の安全性が低いという問題がある。上記特許文献1の方法は、UEPの低減に一定の効果はあるとしても、十分な効果を得るのが難しく、改善の余地がある。
【0007】
本発明はこうした状況を認識してなされたものであり、その目的は、特許文献1の方法とは別のアプローチで船体の周囲に発生するUEPを低減し、船舶の航行の安全性を高めることが可能な、船体のUEP低減方法及び装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のある態様は、船体のUEP低減方法である。この方法は、
船体のUEPを低減する方法であって、UEP発生源となっている船体金属周辺の海水に対して、海水よりも導電率の小さい液体又は海水中のイオンを低減する物質を船体から噴き出すことを特徴としている。
【0009】
本発明の別の態様は、船体のUEP低減装置である。この装置は、
船体のUEPを低減する装置であって、海水よりも導電率の小さい液体又は海水中のイオンを低減する物質を船体から海水中に噴出可能な射出部を備える。
【0010】
なお、以上の構成要素の任意の組合せ、本発明の表現を方法やシステムなどの間で変換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、船体の周囲に発生するUEPを低減し、船舶の航行の安全性を高めることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施の形態に係るUEP低減装置の構成例1を示す模式図。
【図2】本発明の実施の形態に係るUEP低減装置の構成例2を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しながら本発明の好適な実施の形態を詳述する。なお、各図面に示される同一または同等の構成要素、部材等には同一の符号を付し、適宜重複した説明は省略する。また、実施の形態は発明を限定するものではなく例示であり、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。
【0014】
まず、本実施の形態の前提となる関係式について説明する。下記式1は、オームの法則を示す。
電圧(V) = 電流(I)×抵抗(R) …式1
【0015】
下記式2は、導電率と抵抗率の関係を示す。式2に示すとおり、導電率は抵抗率の逆数となっている。
導電率(σ) = 1/抵抗率(ρ) …式2
【0016】
下記式3は、媒体の抵抗率と媒体の抵抗の関係を示す。
抵抗(R) ∝ 抵抗率(ρ) …式3
【0017】
下記式4は、上記式1〜3から導き出される関係式である。式4に示すように、船体周辺の海水中に流れる腐食電流は、付近の媒体の導電率と比例関係にある(船体電圧は定数とみなせる)。
腐食電流(Ic) = 船体電圧(Vs)/ 付近の媒体の抵抗(Rw)
∝ 船体電圧(Vs)× 付近の媒体の導電率(σw) …式4
【0018】
以上のことから、本発明者は、UEP発生源となっている船体金属周辺の海水の導電率を小さくすれば船体のUEPを低減できるという新たな知見を得た。以下、本実施の形態について具体的に説明する。
【0019】
(構成例1)
図1は、本発明の実施の形態に係るUEP低減装置の構成例1を示す模式図である。この装置は、海水40に浮いている船舶11の内部に、海水よりも導電率の小さい液体を収容したタンク70を備える。そして、タンク70内の液体を海水中に噴出可能な射出装置10が船底に艤装されている。海水よりも導電率の小さい液体は、例えば淡水(純水や水道水)である。
【0020】
船底下には犠牲陽極としての保護亜鉛12が取り付けられており、保護亜鉛12から腐食電流20がカソード(例えばプロペラ)に向かって流れている。そこで、船底に艤装した射出装置10から海水よりも導電率の小さい液体を船体金属周辺の海水に対して噴出する。すると、海水よりも導電率の小さい液体が海水40と混ざり合い、船体金属周辺では海水よりも導電率の小さい媒体41となる。船体電圧は不変なので、アノード付近30から発生し、カソード付近31に流入する腐食電流20が小さくなる。その結果、腐食電流20によるUEP及び腐食電流磁界21を低減できる。したがって、UEPに感応する機雷等の設置された危険海域を船舶11が触雷せずに安全に通過可能となることが期待される。
【0021】
なお、海水よりも導電率の小さい液体をタンク70内に収容しておくことに替えて、例えば淡水化装置(イオン交換樹脂を利用した純水器等)を船体内に設け、海水を汲み上げて淡水を作り出し、射出装置10から噴出してもよい。また、海水よりも導電率の小さい液体を噴出することに替えて、海水中のイオンを低減する物質(例えばイオン交換樹脂)を射出装置10から噴出してもよい。
【0022】
(構成例2)
図2は、本発明の実施の形態に係るUEP低減装置の構成例2を示す模式図である。本構成例は、図1に示した構成例1と比較して、防食方法として外部電源方式を採用している点で相違する。すなわち、電極13(不溶性陽極)から防食電流22がカソード(例えばプロペラ)に向かって流れている。そこで、船底に艤装した射出装置10から海水よりも導電率の小さい液体を噴出する。その結果、図1に示した構成例1と同様に、UEP及び防食電流磁界23を低減できる。
【0023】
以上、実施の形態を例に本発明を説明したが、実施の形態の各構成要素や各処理プロセスには請求項に記載の範囲で種々の変形が可能であることは当業者に理解されるところである。
【符号の説明】
【0024】
10 射出装置
11 船舶
12 保護亜鉛
13 電極
20 腐食電流
22 防食電流
23 防食電流磁界
30 アノード付近
31 カソード付近
40 海水
41 媒体
70 タンク
【技術分野】
【0001】
本発明は、本発明は、水上艦艇や潜水艦等の船体の周囲に発生するUEP(Underwater Electric Potential)を低減する、船体のUEP低減方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電解溶液中にイオン化傾向の異なる2つの金属が存在すると、当該2つの金属間に電位差が生じ、水中電界が発生する。これを船舶について見ると、船体(例えば鋼)とプロペラ(例えば銅)とが海水中(すなわち電解溶液中)に存在するため、船体とプロペラとの間に電位差が生じ、水中電界が発生する。この電位差又は水中電界を一般にUEPという。
【0003】
イオン化傾向の大きい船体の金属は陽イオンとなって海水中に溶け出すため、船体の金属は腐食する。この腐食を防止するための対策として、流電陽極方式又は外部電源方式といったカソード(陰極)防食が従来から知られている。流電陽極方式は、船体の金属(例えば鋼)よりも卑となる金属(イオン化傾向の大きな金属、例えば亜鉛)を犠牲陽極として船体に装着することにより、船体の腐食を防止する方式である。外部電源方式は、船底に取り付けた不溶性陽極(例えば白金陽極)から強制的に電流を流し、船体電位を一定に保つことにより、船体の腐食を防止する方式である。いずれの方式でも、海水中に腐食電流又は防食電流が流れ、UEPが発生する。
【0004】
下記特許文献1は、UEPの低減を目的とし、「複数の犠牲陽極のうちの少なくとも1つの犠牲陽極に対して少なくとも1つの陰極を近接して配置してなる」UEPの低減法を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−76495号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
UEPに感応する機雷が設置されていたりUEPに感応する魚雷による攻撃を受ける可能性のある危険海域を船舶が通過するとき、船体の周囲に発生するUEPが大きいと触雷を回避するのが難しく、航行の安全性が低いという問題がある。上記特許文献1の方法は、UEPの低減に一定の効果はあるとしても、十分な効果を得るのが難しく、改善の余地がある。
【0007】
本発明はこうした状況を認識してなされたものであり、その目的は、特許文献1の方法とは別のアプローチで船体の周囲に発生するUEPを低減し、船舶の航行の安全性を高めることが可能な、船体のUEP低減方法及び装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のある態様は、船体のUEP低減方法である。この方法は、
船体のUEPを低減する方法であって、UEP発生源となっている船体金属周辺の海水に対して、海水よりも導電率の小さい液体又は海水中のイオンを低減する物質を船体から噴き出すことを特徴としている。
【0009】
本発明の別の態様は、船体のUEP低減装置である。この装置は、
船体のUEPを低減する装置であって、海水よりも導電率の小さい液体又は海水中のイオンを低減する物質を船体から海水中に噴出可能な射出部を備える。
【0010】
なお、以上の構成要素の任意の組合せ、本発明の表現を方法やシステムなどの間で変換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、船体の周囲に発生するUEPを低減し、船舶の航行の安全性を高めることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施の形態に係るUEP低減装置の構成例1を示す模式図。
【図2】本発明の実施の形態に係るUEP低減装置の構成例2を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しながら本発明の好適な実施の形態を詳述する。なお、各図面に示される同一または同等の構成要素、部材等には同一の符号を付し、適宜重複した説明は省略する。また、実施の形態は発明を限定するものではなく例示であり、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。
【0014】
まず、本実施の形態の前提となる関係式について説明する。下記式1は、オームの法則を示す。
電圧(V) = 電流(I)×抵抗(R) …式1
【0015】
下記式2は、導電率と抵抗率の関係を示す。式2に示すとおり、導電率は抵抗率の逆数となっている。
導電率(σ) = 1/抵抗率(ρ) …式2
【0016】
下記式3は、媒体の抵抗率と媒体の抵抗の関係を示す。
抵抗(R) ∝ 抵抗率(ρ) …式3
【0017】
下記式4は、上記式1〜3から導き出される関係式である。式4に示すように、船体周辺の海水中に流れる腐食電流は、付近の媒体の導電率と比例関係にある(船体電圧は定数とみなせる)。
腐食電流(Ic) = 船体電圧(Vs)/ 付近の媒体の抵抗(Rw)
∝ 船体電圧(Vs)× 付近の媒体の導電率(σw) …式4
【0018】
以上のことから、本発明者は、UEP発生源となっている船体金属周辺の海水の導電率を小さくすれば船体のUEPを低減できるという新たな知見を得た。以下、本実施の形態について具体的に説明する。
【0019】
(構成例1)
図1は、本発明の実施の形態に係るUEP低減装置の構成例1を示す模式図である。この装置は、海水40に浮いている船舶11の内部に、海水よりも導電率の小さい液体を収容したタンク70を備える。そして、タンク70内の液体を海水中に噴出可能な射出装置10が船底に艤装されている。海水よりも導電率の小さい液体は、例えば淡水(純水や水道水)である。
【0020】
船底下には犠牲陽極としての保護亜鉛12が取り付けられており、保護亜鉛12から腐食電流20がカソード(例えばプロペラ)に向かって流れている。そこで、船底に艤装した射出装置10から海水よりも導電率の小さい液体を船体金属周辺の海水に対して噴出する。すると、海水よりも導電率の小さい液体が海水40と混ざり合い、船体金属周辺では海水よりも導電率の小さい媒体41となる。船体電圧は不変なので、アノード付近30から発生し、カソード付近31に流入する腐食電流20が小さくなる。その結果、腐食電流20によるUEP及び腐食電流磁界21を低減できる。したがって、UEPに感応する機雷等の設置された危険海域を船舶11が触雷せずに安全に通過可能となることが期待される。
【0021】
なお、海水よりも導電率の小さい液体をタンク70内に収容しておくことに替えて、例えば淡水化装置(イオン交換樹脂を利用した純水器等)を船体内に設け、海水を汲み上げて淡水を作り出し、射出装置10から噴出してもよい。また、海水よりも導電率の小さい液体を噴出することに替えて、海水中のイオンを低減する物質(例えばイオン交換樹脂)を射出装置10から噴出してもよい。
【0022】
(構成例2)
図2は、本発明の実施の形態に係るUEP低減装置の構成例2を示す模式図である。本構成例は、図1に示した構成例1と比較して、防食方法として外部電源方式を採用している点で相違する。すなわち、電極13(不溶性陽極)から防食電流22がカソード(例えばプロペラ)に向かって流れている。そこで、船底に艤装した射出装置10から海水よりも導電率の小さい液体を噴出する。その結果、図1に示した構成例1と同様に、UEP及び防食電流磁界23を低減できる。
【0023】
以上、実施の形態を例に本発明を説明したが、実施の形態の各構成要素や各処理プロセスには請求項に記載の範囲で種々の変形が可能であることは当業者に理解されるところである。
【符号の説明】
【0024】
10 射出装置
11 船舶
12 保護亜鉛
13 電極
20 腐食電流
22 防食電流
23 防食電流磁界
30 アノード付近
31 カソード付近
40 海水
41 媒体
70 タンク
【特許請求の範囲】
【請求項1】
船体のUEP(Underwater Electric Potential)を低減する方法であって、UEP発生源となっている船体金属周辺の海水に対して、海水よりも導電率の小さい液体又は海水中のイオンを低減する物質を船体から噴き出すことを特徴とする、船体のUEP低減方法。
【請求項2】
船体のUEP(Underwater Electric Potential)を低減する装置であって、海水よりも導電率の小さい液体又は海水中のイオンを低減する物質を船体から海水中に噴出可能な射出部を備える、船体のUEP低減装置。
【請求項1】
船体のUEP(Underwater Electric Potential)を低減する方法であって、UEP発生源となっている船体金属周辺の海水に対して、海水よりも導電率の小さい液体又は海水中のイオンを低減する物質を船体から噴き出すことを特徴とする、船体のUEP低減方法。
【請求項2】
船体のUEP(Underwater Electric Potential)を低減する装置であって、海水よりも導電率の小さい液体又は海水中のイオンを低減する物質を船体から海水中に噴出可能な射出部を備える、船体のUEP低減装置。
【図1】
【図2】
【図2】
【公開番号】特開2012−46063(P2012−46063A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−189608(P2010−189608)
【出願日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【出願人】(390014306)防衛省技術研究本部長 (169)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【出願人】(390014306)防衛省技術研究本部長 (169)
【Fターム(参考)】
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