船底部基準ターゲット
【課題】 積載される液体貨物の荷揚げ作業を行なう際にストリッピング作業開始の適時を判断するために、より正確に液体貨物の液面位を測定することができるようにする。
【解決手段】 船底に設置される液体タンク内の液位を測定するために、液体タンク上部に設置した電波式液面計から液体タンクの底部に向けて発射される電波を反射する船底部基準ターゲットにおいて、電波を電波式液面計に向けて反射する電波反射部、電波を底部に向けて透過させる電波透過部、底部から所定の高さを保って固定するための固定部を有する船底部基準ターゲットによる。
【解決手段】 船底に設置される液体タンク内の液位を測定するために、液体タンク上部に設置した電波式液面計から液体タンクの底部に向けて発射される電波を反射する船底部基準ターゲットにおいて、電波を電波式液面計に向けて反射する電波反射部、電波を底部に向けて透過させる電波透過部、底部から所定の高さを保って固定するための固定部を有する船底部基準ターゲットによる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶に積載される液体貨物の荷揚げ作業を行なう際にストリッピング作業開始の適時を判断するために、より正確に液体貨物の液面位を測定することができる電波式液面計用の船底部基準ターゲットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
タンカーなど液体貨物運搬船は、液体貨物の荷揚げに使用するために、液体貨物の液位に応じて切り換える複数の異なる方式のポンプを備えている。荷揚げ開始時(例えば、満載時)から所定の液位までは、渦巻き式ポンプやサブマージドポンプ、スクリューポンプなどを用いる。これらのポンプは、液位が下がると吸引力が不足して十分な排出(陸地側の貯蔵タンクに向けての排出)を行なうことができなくなるので、ある程度まで液体貨物の荷揚げが進んだ段階で、吐出側の弁を絞ったり、ポンプの回転数を落としたりしながら、流量とポンプの吸引力のバランスをとりつつ作業を行なう。さらに液位が下がると、これらのメインポンプを用いた荷揚げは困難となるので、往復動式ポンプや真空ポンプなどのストリッピングポンプを用いた荷揚げ作業に切り換える。ストリッピングポンプを用いた荷揚げ作業を一般に「ストリッピング作業(浚渫作業)」と呼ぶ。
【0003】
積載している液体貨物は、運搬目的地において全て荷揚げすることが必要である。上記のストリッピング作業が効果的に行なわれない場合、残置される液体貨物の量が多くなる。荷揚げ作業後は、次の液体貨物を積載するために清掃する必要があるため、残置される液体貨物の量が多くなると、清掃によって海上へ排出される液体貨物の量が増えることになる。国際海洋汚染防止条約では、船舶からの油や有害液体物質の排出を厳しく規制しており、上記のようなタンククリーニングによる積荷の海中への排出を抑止するため、ストリッピング作業によって積荷の残留物を最低にすることが求められている。このように、ストリッピング作業は、荷主から依頼された積載量を完全に荷揚げするためにも、また、条約の規制を遵守するためにも非常に重要な作業である。
【0004】
ストリッピング作業を効果的に行なうためには、その開始時期が非常に重要である。上記のように、ストリッピング作業の開始時期は液体貨物の残量によって決定されるので、荷揚げ作業中の液面位の測定精度をより正確することが必要となる。
【0005】
貯蔵タンクに積載している液体貨物の液面位を測定する液面計は、さまざまな方式のものがある。ここでは電波によって液面位を測定する電波式液面計を例として説明する。図9に従来から知られている電波式液面計を貯蔵タンクに設置した例を示す。図9において、電波式液面計100は、船体内の縦置隔壁と横置隔壁と船底によって形成される貯蔵タンク20の甲板上に設置されており、液体貨物30に向けて電波50を発射し、液面40によって反射して戻る電波を検出することで、液位を測定している。
【0006】
また、図9において、電波式液面計100から発射された電波50や、液面40や貯蔵タンク20の底面にて反射されて電波式液面計100に戻ってくる電波51を直線で示している。また、液面40や貯蔵タンクの底面も直線で示し、平面として表わしている。しかし、実際の電波は、図に示したような直線的に伝搬や反射をするものではなく、また、液面40や貯蔵タンク20の底面も直線的に示すことができる鏡面の如き平面ではない。
【0007】
一般に、電波式液面計100から発射された電波は、下方向の数度(概ね10度前後)の範囲内を放射状に伝搬する電波が、その範囲より外側に伝搬する電波に比べてエネルギーが強くなるように設計されている。実際の電波式液面計においても、このエネルギーが強い電波の反射を検出することで、液位を測定している。従って、その「エネルギーが強い電波」が、液面や貯蔵タンクの底面に向けて略直線的に伝搬し、反射面が鏡面の如き状態であって、反射した電波も略直線的に、その発射源である電波式液面計100に戻ってくるような伝搬モデルを用いて、液面位測定のモデルの説明をしても、特段の疑義が生じるものではない。
【0008】
すなわち、他の方向に伝搬した電波、例えば、貯蔵タンク20の壁面で反射した電波や、液面40が細波によって変化しているときは、全く予期せぬ方向で反射を繰り返して電波式液面計100に戻ってくるが、このような電波は、信号処理回路で濾過し、除去できる。従って、液面位の測定に与える影響は小さいそれらの電波を示すことなく、測定に直接的に働く電波のみを直線的に表わし、また液面や底面を鏡面の如く平面で表わることで、電波式液面計100を用いた液面位の測定について説明をする。
【0009】
図9に示すように、貯蔵タンク20には、アレージスタンド36を設け、測定の基準となるアレージ基準点35が設定されている。アレージ基準点35から貯蔵タンクの底部までの距離である最大基準アレージ31は、船舶の新造時に造船所で予め測定する。
【0010】
液面40の位置(レベル33)は、電波式液面計100から発射された電波50が液面40によって反射して戻るまでの距離と、アンテナオフセット34から実測アレージ32を算出し、予め測定されている最大基準アレージ31から実測アレージ32を差し引くことで求めることができる。このレベル33を元に液体貨物33の積載量を換算する換算表を予め用意することで、電波式液面計100を用いた液体貨物33の現在の積載量を知ることができる。
【0011】
図10に電波式液面計100の機能ブロック図を示す。図10において、電波式液面計100は、アンテナ部101、無線部102、電源部103、制御部104,端子部105を有してなる。アンテナ部101は液体貨物に向けて測定用の電波を発射し、液面40によって反射して戻る電波を受信する。無線部102は発信する電波の起振器であって、無線制御部104aからの信号に基づき起振してその電波をアンテナ101から発信し、対象物で反射して戻ってきた電波を受信して発信電波と比較し、その結果を無線制御部104aに送る処理を行なう。電源部103は、電波式液面計100が所定の動作をするために必要となる電源を供給する。制御部104は、無線制御部104a、信号処理部104b、通信部104cからなる。無線制御部104aは、電波の発信方式や周波数計画に基づいて、無線部102への起振と電波の受発信の指示をする。信号処理部104bはCPUであって、無線制御部104aから送られてきた信号を処理して、発信電波と受信電波の周波数や時間の差を距離に変換する演算を行なう。信号処理部104bの演算結果による液面までの距離と、図示しない記憶部に予め記憶されている換算データを用いて、液体貨物30の積載量を算定する。算定結果は、通信部104を介して端子部105に出力される。端子部105は、表示装置などの各種機器や、ポンプを制御する機器への接続をおこなう接続端子であって、この接続端子を経由して各種機器と電波式液面計100を接続するように構成されている。
【0012】
図9に戻る。電波式液面計100から発射された電波は、液面40によって全てが反射するのではなく、一部は液面を透過して液体貨物30中を伝搬し、貯蔵タンク20の底部や側面部によって反射する。特に底部によって反射した電波51が、液面方向に戻って、液面40によって反射する電波50より強くなると、信号処理部104bが液面位と判断し、誤った情報を伝えることになる。液体貨物30の積載量が多く、液位が高いときには、液面40を透過した電波51は減衰して、液面まで戻るエネルギーは小さくなるため、測定誤差が生じるほど電波51は強くないが、液面40が下がると(液体貨物30の積載量が減ると)、電波51の減衰が小さいため、より大きなエネルギーのまま液面を通過して戻ってくるので、液面で反射される電波50より優先されてしまう。
【0013】
上記のような貯蔵タンクの底部から反射する電波51のスペクトラムが測定用の電波のそれより大きくなり、測定誤差が生じることを防止するために、貯蔵タンクの底部から所定の高さに設置する底部反射器が知られている(特許文献1を参照)。
【0014】
【特許文献1】特表2006−515068号公報
【0015】
上記の底部反射器は、貨物液体の液位がこの底部反射器の設置位置よりも高い場合には、第一の反射係数を有し、液位が低ければ第二の反射係数を有する反射構造体であって、第一の反射係数が第二の反射係数よりも実質的に小さくなる構造を有している。これを用いることによって、貨物液体の液位が低くなった状態でも正確な液位を検出することができるようになる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
しかしながら、上記の底部反射器を用いても、荷揚げ作業のときにストリッピング作業への切り換えを適時に行なうための、液体貨物残量を正確に算出するはできない。一般に液体貨物運搬船は複数の貯蔵タンクを備えており、それぞれの貯蔵タンクにおいて、上記のような液面計を用いた液位の測定が行なわれる。しかし、特に荷揚げ作業時のように、液位が逐次変化することによって、貯蔵タンク内の液体貨物の重量や喫水状態、または周囲に存在する他の貯蔵タンクの積載状態によって、貯蔵タンクの底部が逐次変形する。よって、貯蔵タンク20主寸法が変化するから液体貨物の残量を正確に算出することはできないからである。
【0017】
この荷揚げ作業時における貯蔵タンク20の変形について、図11を用いて説明する。図11(a)は複数の貯蔵タンク20を備える船体1に液体貨物30が積載されている状態である。船体1は、向かって右側が船首方向、左側が船尾方向である。船体1が備える貯蔵タンク20は、船体内部を縦置隔壁と横置隔壁によって区切ることで形成されている。すべての貯蔵タンク20に液体貨物30が満載状態のとき、船舶又は上甲板がほぼ海面3(喫水線)と平行となるように設計されている。また、船底は一重(単底)か二重(二重底)のいずれかの構造であるが、いずれの場合にも、以下の説明は同じである。
【0018】
図11(b)に示すように、運搬目的地における荷揚げ作業は、初期に荷揚げされるタンクでは、まだ喫水が深い間に、液体貨物30の積載量が少なくなってくるので、貯蔵タンク20内部における下向きの圧力が下がり、外部からかかる海水の圧力の方が大きくなり船底2が上方向に変形する(凹む)。
【0019】
さらに荷揚げ作業が進み、作業後期に荷揚げされるタンクでは、喫水が浅くなっており、船底2が海面3に近づいてくるので、船尾寄りの貯蔵タンク20につきに荷揚げ作業を行なうときは、船底2が海面3に近づき、液体貨物30が積載されている部分の船底2が、液体貨物30の圧力によって下向きに変形する(凸む)。すでに説明したとおり、荷揚げ作業時の液体貨物30の液面位置を正確に把握することは、非常に重要である。しかし、上記のように、船底2が変形すると、電波式液面計100が液面位置の算定の基準となる最大基準アレージが変化することになるので、液体貨物30の残り積載量を正確に把握することは困難であった。
【0020】
上記のような船底2の変形を考慮して電波式液面計の測定結果を補正するためには、船底との関係で基準となるものが必要となる。そこで、上記特許文献1記載の底部反射器をその「基準点」として用いたとしても、液体貨物30中においては電波51を反射しないので基準点としての作用は発揮せず、液体貨物30の液位が下がって空気中に出て電波51を反射してもその時期ではすでにストリッピング作業への切り換え適時を逃すことになる。従って、液体貨物30中にあっても、電波51を反射してその位置を測定することができ、かつ、一定量の電波51を透過させて底部からの反射が起きるようにすることができる基準となる構造物が求められる。
【0021】
そこで、本発明は、上記の課題を鑑みてなされたもので、船体に備える液体貯蔵タンクから荷揚げ作業を行なう際に使用するポンプの切り換えタイミングを適格に把握するために、貯蔵タンクの底部が変形した場合であっても、正確に液位を測定することができる船底部基準ターゲットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明は、船底に設置される液体タンク内の液位を測定するために、液体タンク上部に設置した電波式液面計から液体タンクの底部に向けて発射される電波を反射する船底部基準ターゲットにおいて、上記電波を上記電波式液面計に向けて反射する電波反射部、上記電波を上記底部に向けて透過させる電波透過部、上記底部から所定の高さを保って固定するための固定部を有することを主な特徴とする。
【0023】
また、本発明の船底部基準ターゲットは錘形であって、上記電波反射部は錘形の内側錐面であり、上記電波透過部は上記錘面の一部に形成された空隙部であり、頂点部が上記底部に向けて設置されていることを特徴とする。この船底部基準ターゲットは、円錐形であってもよいし、多角錘形であってもよく、これら錘形における頂点の内角が直角であってもよい。
【0024】
また、本発明において、上記の船底部基準ターゲットは球冠形でもよく、この場合、上記電波反射部はこの球冠形の内側曲面であり、上記電波透過部はこの球冠形の曲面の一部に形成された空隙部であり、曲率中心部の外側曲面部が上記底部に向けて設置されていることを特徴とする。
【0025】
また、本発明において、上記の船底部基準ターゲットは放物面形でもよく、この場合、上記電波反射部はこの放物面形の内面であり、上記電波透過部はこの放物面形の一部に形成された空隙部であり、頂点部が上記底部に向けて設置されていることを特徴とする。
【0026】
本発明において、船底部基準ターゲットが有する電波透過部は、上記の各形状において錘面や曲面等に形成する多点穿孔であってもよい。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、荷揚げ作業によって貯蔵タンク底部の変形が生じても、基準点と底部との位置関係は変らないので、正確な液面位の測定結果をえることができ、ストリッピング作業への移行時期をより適格に把握することで、その後のタンククリーニングで排出される残置液体量を軽減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、図面を参照しながら、本発明にかかる船底部基準ターゲットの実施形態について説明をする。以下の説明において電波式液面計から発射した電波を直線で表わし、液面や貯蔵タンクの底面を平面で表わしているが、すでに述べたように実際の電波は、直線的に伝搬するものではなく、また、液面や底面は平面ではない。しかし、電波を直線状に表わしても、本発明に係る船底部基準ターゲットの機能と効果は損なわれないので、電波、液面、底面は全て直線で表わしている。
【0029】
図1は、貯蔵タンク20に船底部基準ターゲット10を設置した例を示す断面図である。図1に示すように、船底部基準ターゲット10は、貯蔵タンク20の底部に所定の高さをもって据え付けられる構造物であって、電波式液面計100の真下に位置するよう配置される。電波式液面計100から発射された電波50は液面40において反射して、電波式液面計100に戻る。この電波50を受信して液面位を測定し、液体貨物30の積載量を算出する。電波の一部は液面40を透過して、液体貨物30内を伝搬する。液体貨物30内を伝搬する電波を符号51,52で示す。
【0030】
船底部基準ターゲット10は、当該貯蔵タンク20を具備する船舶の竣工時に、甲板上に設置された基準点から貯蔵タンク20のタンク底面までの距離を実測して最大基準アレージを設定する時点で、当該貯蔵タンク20のタンク底面から所定の高さ(例えば1メートル)に設置して、この船底部基準ターゲット10の基準となるアレージを実測しておく。電波51は、船底部基準ターゲット10に設けた電波透過部を透過し、貯蔵タンク20のタンク底面で反射して液面方向に戻る。電波52は、船底部基準ターゲット10の電波反射部によって、基準となるアレージで反射して液面方向に戻る。このように、船底部基準ターゲット10は、電波を電波式液面計に向けて反射する電波反射部と、電波をタンク底面に向けて透過させる電波透過部とを有することを特徴とする。貯蔵タンク20のタンク底面からの所定の高さに電波反射体を固定し、また、タンク底面にて反射する電波を得るために一部の電波を透過させることで、荷揚げ作業時に貯蔵タンク20が変形した場合であっても液面に対して基準となる面を得ることができる。
【0031】
次に、上記船底部基準ターゲット10の形状の例について図2を用いて説明する。ここで説明する船底部基準ターゲット10は、外観形状が円錐形のものであって、開口部分と平行な線に沿って切断されることにより頂点部分に空隙部が形成されている。空隙部は電波51が透過することができ、かつ、液体貨物30や、貯蔵タンク20内部の洗浄に用いる洗浄液が溜まらないようにするものであるので、頂点部分を切断することによってのみ形成されるものではなく、例えば、錘面の一部に穴を設けることによっても形成することができる。
【0032】
図2において、船底部基準ターゲット10は、液面方向に向く開口部分が円錐形の底面部分であり、頂部側を貯蔵タンク20の底面側に向けて固定されるものである。図2(a)は船底部基準ターゲット10の側面図である。図2(a)に示すように船底部基準ターゲット10は、錘面によって形成され、電波52(図1)を反射する電波反射部11と、錘面の頂部側に設けた上記空隙からなる電波51を透過させる電波透過部12と、貯蔵タンク底面から所定の高さをもって電波反射部11を固定する固定部13を備えている。図2(b)は、船底部基準ターゲット10の上面図である。電波透過部12は、円形で表わされているが、電波反射部11が所定の高度で電波52を反射することができ、また、電波51を透過して貯蔵タンク底面によって反射したものが、液面に戻ることが出来れば、形状はこれに限ることはない。電波透過部12が形成されているため、上記「頂部」とは、仮想的な頂点である。
【0033】
図3は船底部基準ターゲット10の透過断面図である。船底部基準ターゲット10の中心位置は、二点鎖線で図示している。電波52は電波反射部11の錘面(点A)に当たって、反対側の錘面(点B)から電波式液面計100方向に反射している。船底部基準ターゲット10を形成する円錐形の頂点角は90度である。この頂点Oを通る垂線と、AからBに向かう電波52の伝搬路の交点をCとすると、電波52が衝突する点Aと、反対側の錘面の点Bとの関係は、頂点Oによって対称であって、ABの長さは2倍のCOに相当する(AB=2(CO))。すなわち、電波透過部12の有無に関係なく電波52が頂点Oで反射したことと同等の距離を伝搬して電波式液面計100に向けて反射することになる。
【0034】
従って、貯蔵タンク底面から頂点Oまでの長さを、船底部基準ターゲット10のレベル(船底基準14)とすることで、貯蔵タンク20の底面が変形した場合であっても、船底部基準ターゲット10と貯蔵タンク20の底面との位置関係は変らないので、船底部基準ターゲット10から反射される電波52と、船底部基準ターゲット10の電波透過部12を透過して貯蔵タンク底面によって反射される電波51、または船底部基準ターゲットの周辺を通過して貯蔵タンク20の底面によって反射される電波51を検出し、それぞれの位置を測定することで、より正確に液面位の測定が可能となる。
【0035】
上記のように、船底部基準ターゲット10を用いることで、液体貨物30の荷揚げ作業時に、液体貨物30の残り積載残量を正確に把握して、ストリッピング作業開始の適時を判断することができるようになる。なお、液面40を透過して液体貨物30内を伝搬する電波のうち,船底部基準ターゲットから反射して戻る電波52が、貯蔵タンク底面から反射する電波よりも、そのエネルギーがやや小さくなるように、船底部基準ターゲット10を構成し、貯蔵タンク20の底部認識の絶対性は維持しておくことが望ましい。
【0036】
上に説明した船底部基準ターゲット10は、円錐形状に限ることなく、他の形状のものであってもよい。以下、船底部基準ターゲット10の別の実施形態について図4乃至図8を用いて説明をする。なお、以下の説明において固定部の図示は省略している。図4は、外観が平面である船底部基準ターゲットの例である。船底部基準ターゲット10aは、所定の厚みを有する円形の板であって、その中心部が空隙になっており、円周部分が電波反射部11a、空隙部分が電波透過部12aを形成している。電波反射部11aによって反射される電波52は、入射方向に向けて反射される。
【0037】
図5は、外観が多角錘形である船底部基準ターゲットの例である。図5(a)は、外観形状が三角錐であって、錘面の内側が電波反射部11bであって、頂部側に形成した空隙部分が電波透過部12bを形成する。図5(b)は、外観形状が多角錘形であって、錘面の内側が電波反射部11cであって、頂部側に形成した空隙部分が電波透過部12cを形成する。
【0038】
図6は、外観が球冠形である船底部基準ターゲットの例であって、図6(a)は斜視図、図6(b)は貯蔵タンク20の底部に設置された状態を示す図である。船底部基準ターゲット10dは、電波反射部11dが球冠形状の内側曲面であり、電波透過部12dが球冠形状の曲率中心部分に形成した空隙である。図6(b)に示すように、図示しない貯蔵タンクの底部に設置された船底部基準ターゲット10dの電波反射部11dに当たった電波52は入射方向に反射される。この電波52によって船底部基準ターゲット10の位置を測定することができる。
【0039】
図7は、外観が放物面形である船底部基準ターゲットの例であって、図7(a)は斜視図、図7(b)は貯蔵タンクの底部に設置された状態を示す図である。船底部基準ターゲット10eは、電波反射部11eが放物面形の内側面であり、電波透過部12dが放物面の頂部側に形成した空隙である。図7(b)に示すように、図示しない貯蔵タンクの底部に設置された船底部基準ターゲット10eの電波反射部11eに当たった電波52は入射方向に反射される。この反射波によって船底部基準ターゲット10eの位置を測定することができる。
【0040】
図8は、外観が擬部分放物面形である船底部基準ターゲットの例であって、図8(a)は斜視図、図8(b)は貯蔵タンクの底部に設置された状態を示す図である。船底部基準ターゲット10fは、中心部分に空隙を形成した円形の平板を、周囲からナックル状に打ち凹ませることで、外側の形状が擬似的な放物面となっている擬部分放物面形であって、電波反射部11fは階段状の内側側面であり、電波透過部12fは中心部に形成した空隙である。図8(b)に示すように、図示しない貯蔵タンクの底部に設置された船底部基準ターゲット10fの電波反射部11fに当たった電波52は入射方向に反射されるので、この反射波によって船底部基準ターゲット10dの位置を測定することができる。
【0041】
以上説明をした船底部基準ターゲットは、平板を種々の形状に加工したものを例にしているが、これに限ることはなく、パンチングメタルやエクスパンドメタルを用いて上記の形状を形成してもよい。そのほか、特許請求の範囲に記載した技術的範囲を逸脱しない範囲内で自由に設計変更することができる。
【0042】
また、本発明に係る船底部基準ターゲットが有する電波透過部は、各形状を形成する側面部の一部を切除して形成することができる他、上記のように穿孔部分を備えた材質を用いることで、この穿孔部分を電波透過部とすることもできる。
【0043】
また、本発明に係る船底部基準ターゲットは、所定の大きさ(面積)を有する平板であってもよい。このような、平板による船底部基準ターゲットは、平面の一部に穿孔部を設けることで電波透過部を形成し、その他の部分によって電波反射部を形成することで、上記の船底部基準ターゲットと同様の効果を奏することが出来る。
【0044】
また、平板形状の船底部基準ターゲットは、平面の一部に穿孔部を設けることなく、上記において説明したとおり、この船底部基準ターゲットから反射して戻る電波52が、タンク底面から反射して戻る電波51よりも、エネルギーが小さくなればいいので、この条件を満たす寸法をもって形成すればよく、所定条件を満たす寸法において形成する平板形状の船底部基準ターゲットによっても、上記において説明をした他の形状を有する船底部基準ターゲットと同様の効果を奏することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明に係る船底部基準ターゲットを貯蔵タンク内に設置した例を示す断面図である。
【図2】上記船底部基準ターゲットの外形が円錐である例を示す断面図である。
【図3】上記船底部基準ターゲットの設置態様を示す透過断面図である。
【図4】上記船底部基準ターゲットの外形が円形平板である例を示す図である。
【図5】上記船底部基準ターゲットの外形が多角錘形である例を示す断面図である。
【図6】上記船底部基準ターゲットの外形が球冠形である例を示す断面図である。
【図7】上記船底部基準ターゲットの外形が放物面形である例を示す断面図である。
【図8】上記船底部基準ターゲットの外形が擬部分放物面形である例を示す断面図である。
【図9】貯蔵タンクに電波式液面計を設置した従来例を示す断面図である。
【図10】従来の電波式液面計の機能ブロック図である。
【図11】荷揚げ作業時の変化とタンク部船底の変形を示す船舶のイメージ断面図である。
【符号の説明】
【0046】
10 船底部基準ターゲット
11 電波反射部
12 電波透過部
13 固定部
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶に積載される液体貨物の荷揚げ作業を行なう際にストリッピング作業開始の適時を判断するために、より正確に液体貨物の液面位を測定することができる電波式液面計用の船底部基準ターゲットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
タンカーなど液体貨物運搬船は、液体貨物の荷揚げに使用するために、液体貨物の液位に応じて切り換える複数の異なる方式のポンプを備えている。荷揚げ開始時(例えば、満載時)から所定の液位までは、渦巻き式ポンプやサブマージドポンプ、スクリューポンプなどを用いる。これらのポンプは、液位が下がると吸引力が不足して十分な排出(陸地側の貯蔵タンクに向けての排出)を行なうことができなくなるので、ある程度まで液体貨物の荷揚げが進んだ段階で、吐出側の弁を絞ったり、ポンプの回転数を落としたりしながら、流量とポンプの吸引力のバランスをとりつつ作業を行なう。さらに液位が下がると、これらのメインポンプを用いた荷揚げは困難となるので、往復動式ポンプや真空ポンプなどのストリッピングポンプを用いた荷揚げ作業に切り換える。ストリッピングポンプを用いた荷揚げ作業を一般に「ストリッピング作業(浚渫作業)」と呼ぶ。
【0003】
積載している液体貨物は、運搬目的地において全て荷揚げすることが必要である。上記のストリッピング作業が効果的に行なわれない場合、残置される液体貨物の量が多くなる。荷揚げ作業後は、次の液体貨物を積載するために清掃する必要があるため、残置される液体貨物の量が多くなると、清掃によって海上へ排出される液体貨物の量が増えることになる。国際海洋汚染防止条約では、船舶からの油や有害液体物質の排出を厳しく規制しており、上記のようなタンククリーニングによる積荷の海中への排出を抑止するため、ストリッピング作業によって積荷の残留物を最低にすることが求められている。このように、ストリッピング作業は、荷主から依頼された積載量を完全に荷揚げするためにも、また、条約の規制を遵守するためにも非常に重要な作業である。
【0004】
ストリッピング作業を効果的に行なうためには、その開始時期が非常に重要である。上記のように、ストリッピング作業の開始時期は液体貨物の残量によって決定されるので、荷揚げ作業中の液面位の測定精度をより正確することが必要となる。
【0005】
貯蔵タンクに積載している液体貨物の液面位を測定する液面計は、さまざまな方式のものがある。ここでは電波によって液面位を測定する電波式液面計を例として説明する。図9に従来から知られている電波式液面計を貯蔵タンクに設置した例を示す。図9において、電波式液面計100は、船体内の縦置隔壁と横置隔壁と船底によって形成される貯蔵タンク20の甲板上に設置されており、液体貨物30に向けて電波50を発射し、液面40によって反射して戻る電波を検出することで、液位を測定している。
【0006】
また、図9において、電波式液面計100から発射された電波50や、液面40や貯蔵タンク20の底面にて反射されて電波式液面計100に戻ってくる電波51を直線で示している。また、液面40や貯蔵タンクの底面も直線で示し、平面として表わしている。しかし、実際の電波は、図に示したような直線的に伝搬や反射をするものではなく、また、液面40や貯蔵タンク20の底面も直線的に示すことができる鏡面の如き平面ではない。
【0007】
一般に、電波式液面計100から発射された電波は、下方向の数度(概ね10度前後)の範囲内を放射状に伝搬する電波が、その範囲より外側に伝搬する電波に比べてエネルギーが強くなるように設計されている。実際の電波式液面計においても、このエネルギーが強い電波の反射を検出することで、液位を測定している。従って、その「エネルギーが強い電波」が、液面や貯蔵タンクの底面に向けて略直線的に伝搬し、反射面が鏡面の如き状態であって、反射した電波も略直線的に、その発射源である電波式液面計100に戻ってくるような伝搬モデルを用いて、液面位測定のモデルの説明をしても、特段の疑義が生じるものではない。
【0008】
すなわち、他の方向に伝搬した電波、例えば、貯蔵タンク20の壁面で反射した電波や、液面40が細波によって変化しているときは、全く予期せぬ方向で反射を繰り返して電波式液面計100に戻ってくるが、このような電波は、信号処理回路で濾過し、除去できる。従って、液面位の測定に与える影響は小さいそれらの電波を示すことなく、測定に直接的に働く電波のみを直線的に表わし、また液面や底面を鏡面の如く平面で表わることで、電波式液面計100を用いた液面位の測定について説明をする。
【0009】
図9に示すように、貯蔵タンク20には、アレージスタンド36を設け、測定の基準となるアレージ基準点35が設定されている。アレージ基準点35から貯蔵タンクの底部までの距離である最大基準アレージ31は、船舶の新造時に造船所で予め測定する。
【0010】
液面40の位置(レベル33)は、電波式液面計100から発射された電波50が液面40によって反射して戻るまでの距離と、アンテナオフセット34から実測アレージ32を算出し、予め測定されている最大基準アレージ31から実測アレージ32を差し引くことで求めることができる。このレベル33を元に液体貨物33の積載量を換算する換算表を予め用意することで、電波式液面計100を用いた液体貨物33の現在の積載量を知ることができる。
【0011】
図10に電波式液面計100の機能ブロック図を示す。図10において、電波式液面計100は、アンテナ部101、無線部102、電源部103、制御部104,端子部105を有してなる。アンテナ部101は液体貨物に向けて測定用の電波を発射し、液面40によって反射して戻る電波を受信する。無線部102は発信する電波の起振器であって、無線制御部104aからの信号に基づき起振してその電波をアンテナ101から発信し、対象物で反射して戻ってきた電波を受信して発信電波と比較し、その結果を無線制御部104aに送る処理を行なう。電源部103は、電波式液面計100が所定の動作をするために必要となる電源を供給する。制御部104は、無線制御部104a、信号処理部104b、通信部104cからなる。無線制御部104aは、電波の発信方式や周波数計画に基づいて、無線部102への起振と電波の受発信の指示をする。信号処理部104bはCPUであって、無線制御部104aから送られてきた信号を処理して、発信電波と受信電波の周波数や時間の差を距離に変換する演算を行なう。信号処理部104bの演算結果による液面までの距離と、図示しない記憶部に予め記憶されている換算データを用いて、液体貨物30の積載量を算定する。算定結果は、通信部104を介して端子部105に出力される。端子部105は、表示装置などの各種機器や、ポンプを制御する機器への接続をおこなう接続端子であって、この接続端子を経由して各種機器と電波式液面計100を接続するように構成されている。
【0012】
図9に戻る。電波式液面計100から発射された電波は、液面40によって全てが反射するのではなく、一部は液面を透過して液体貨物30中を伝搬し、貯蔵タンク20の底部や側面部によって反射する。特に底部によって反射した電波51が、液面方向に戻って、液面40によって反射する電波50より強くなると、信号処理部104bが液面位と判断し、誤った情報を伝えることになる。液体貨物30の積載量が多く、液位が高いときには、液面40を透過した電波51は減衰して、液面まで戻るエネルギーは小さくなるため、測定誤差が生じるほど電波51は強くないが、液面40が下がると(液体貨物30の積載量が減ると)、電波51の減衰が小さいため、より大きなエネルギーのまま液面を通過して戻ってくるので、液面で反射される電波50より優先されてしまう。
【0013】
上記のような貯蔵タンクの底部から反射する電波51のスペクトラムが測定用の電波のそれより大きくなり、測定誤差が生じることを防止するために、貯蔵タンクの底部から所定の高さに設置する底部反射器が知られている(特許文献1を参照)。
【0014】
【特許文献1】特表2006−515068号公報
【0015】
上記の底部反射器は、貨物液体の液位がこの底部反射器の設置位置よりも高い場合には、第一の反射係数を有し、液位が低ければ第二の反射係数を有する反射構造体であって、第一の反射係数が第二の反射係数よりも実質的に小さくなる構造を有している。これを用いることによって、貨物液体の液位が低くなった状態でも正確な液位を検出することができるようになる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
しかしながら、上記の底部反射器を用いても、荷揚げ作業のときにストリッピング作業への切り換えを適時に行なうための、液体貨物残量を正確に算出するはできない。一般に液体貨物運搬船は複数の貯蔵タンクを備えており、それぞれの貯蔵タンクにおいて、上記のような液面計を用いた液位の測定が行なわれる。しかし、特に荷揚げ作業時のように、液位が逐次変化することによって、貯蔵タンク内の液体貨物の重量や喫水状態、または周囲に存在する他の貯蔵タンクの積載状態によって、貯蔵タンクの底部が逐次変形する。よって、貯蔵タンク20主寸法が変化するから液体貨物の残量を正確に算出することはできないからである。
【0017】
この荷揚げ作業時における貯蔵タンク20の変形について、図11を用いて説明する。図11(a)は複数の貯蔵タンク20を備える船体1に液体貨物30が積載されている状態である。船体1は、向かって右側が船首方向、左側が船尾方向である。船体1が備える貯蔵タンク20は、船体内部を縦置隔壁と横置隔壁によって区切ることで形成されている。すべての貯蔵タンク20に液体貨物30が満載状態のとき、船舶又は上甲板がほぼ海面3(喫水線)と平行となるように設計されている。また、船底は一重(単底)か二重(二重底)のいずれかの構造であるが、いずれの場合にも、以下の説明は同じである。
【0018】
図11(b)に示すように、運搬目的地における荷揚げ作業は、初期に荷揚げされるタンクでは、まだ喫水が深い間に、液体貨物30の積載量が少なくなってくるので、貯蔵タンク20内部における下向きの圧力が下がり、外部からかかる海水の圧力の方が大きくなり船底2が上方向に変形する(凹む)。
【0019】
さらに荷揚げ作業が進み、作業後期に荷揚げされるタンクでは、喫水が浅くなっており、船底2が海面3に近づいてくるので、船尾寄りの貯蔵タンク20につきに荷揚げ作業を行なうときは、船底2が海面3に近づき、液体貨物30が積載されている部分の船底2が、液体貨物30の圧力によって下向きに変形する(凸む)。すでに説明したとおり、荷揚げ作業時の液体貨物30の液面位置を正確に把握することは、非常に重要である。しかし、上記のように、船底2が変形すると、電波式液面計100が液面位置の算定の基準となる最大基準アレージが変化することになるので、液体貨物30の残り積載量を正確に把握することは困難であった。
【0020】
上記のような船底2の変形を考慮して電波式液面計の測定結果を補正するためには、船底との関係で基準となるものが必要となる。そこで、上記特許文献1記載の底部反射器をその「基準点」として用いたとしても、液体貨物30中においては電波51を反射しないので基準点としての作用は発揮せず、液体貨物30の液位が下がって空気中に出て電波51を反射してもその時期ではすでにストリッピング作業への切り換え適時を逃すことになる。従って、液体貨物30中にあっても、電波51を反射してその位置を測定することができ、かつ、一定量の電波51を透過させて底部からの反射が起きるようにすることができる基準となる構造物が求められる。
【0021】
そこで、本発明は、上記の課題を鑑みてなされたもので、船体に備える液体貯蔵タンクから荷揚げ作業を行なう際に使用するポンプの切り換えタイミングを適格に把握するために、貯蔵タンクの底部が変形した場合であっても、正確に液位を測定することができる船底部基準ターゲットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明は、船底に設置される液体タンク内の液位を測定するために、液体タンク上部に設置した電波式液面計から液体タンクの底部に向けて発射される電波を反射する船底部基準ターゲットにおいて、上記電波を上記電波式液面計に向けて反射する電波反射部、上記電波を上記底部に向けて透過させる電波透過部、上記底部から所定の高さを保って固定するための固定部を有することを主な特徴とする。
【0023】
また、本発明の船底部基準ターゲットは錘形であって、上記電波反射部は錘形の内側錐面であり、上記電波透過部は上記錘面の一部に形成された空隙部であり、頂点部が上記底部に向けて設置されていることを特徴とする。この船底部基準ターゲットは、円錐形であってもよいし、多角錘形であってもよく、これら錘形における頂点の内角が直角であってもよい。
【0024】
また、本発明において、上記の船底部基準ターゲットは球冠形でもよく、この場合、上記電波反射部はこの球冠形の内側曲面であり、上記電波透過部はこの球冠形の曲面の一部に形成された空隙部であり、曲率中心部の外側曲面部が上記底部に向けて設置されていることを特徴とする。
【0025】
また、本発明において、上記の船底部基準ターゲットは放物面形でもよく、この場合、上記電波反射部はこの放物面形の内面であり、上記電波透過部はこの放物面形の一部に形成された空隙部であり、頂点部が上記底部に向けて設置されていることを特徴とする。
【0026】
本発明において、船底部基準ターゲットが有する電波透過部は、上記の各形状において錘面や曲面等に形成する多点穿孔であってもよい。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、荷揚げ作業によって貯蔵タンク底部の変形が生じても、基準点と底部との位置関係は変らないので、正確な液面位の測定結果をえることができ、ストリッピング作業への移行時期をより適格に把握することで、その後のタンククリーニングで排出される残置液体量を軽減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、図面を参照しながら、本発明にかかる船底部基準ターゲットの実施形態について説明をする。以下の説明において電波式液面計から発射した電波を直線で表わし、液面や貯蔵タンクの底面を平面で表わしているが、すでに述べたように実際の電波は、直線的に伝搬するものではなく、また、液面や底面は平面ではない。しかし、電波を直線状に表わしても、本発明に係る船底部基準ターゲットの機能と効果は損なわれないので、電波、液面、底面は全て直線で表わしている。
【0029】
図1は、貯蔵タンク20に船底部基準ターゲット10を設置した例を示す断面図である。図1に示すように、船底部基準ターゲット10は、貯蔵タンク20の底部に所定の高さをもって据え付けられる構造物であって、電波式液面計100の真下に位置するよう配置される。電波式液面計100から発射された電波50は液面40において反射して、電波式液面計100に戻る。この電波50を受信して液面位を測定し、液体貨物30の積載量を算出する。電波の一部は液面40を透過して、液体貨物30内を伝搬する。液体貨物30内を伝搬する電波を符号51,52で示す。
【0030】
船底部基準ターゲット10は、当該貯蔵タンク20を具備する船舶の竣工時に、甲板上に設置された基準点から貯蔵タンク20のタンク底面までの距離を実測して最大基準アレージを設定する時点で、当該貯蔵タンク20のタンク底面から所定の高さ(例えば1メートル)に設置して、この船底部基準ターゲット10の基準となるアレージを実測しておく。電波51は、船底部基準ターゲット10に設けた電波透過部を透過し、貯蔵タンク20のタンク底面で反射して液面方向に戻る。電波52は、船底部基準ターゲット10の電波反射部によって、基準となるアレージで反射して液面方向に戻る。このように、船底部基準ターゲット10は、電波を電波式液面計に向けて反射する電波反射部と、電波をタンク底面に向けて透過させる電波透過部とを有することを特徴とする。貯蔵タンク20のタンク底面からの所定の高さに電波反射体を固定し、また、タンク底面にて反射する電波を得るために一部の電波を透過させることで、荷揚げ作業時に貯蔵タンク20が変形した場合であっても液面に対して基準となる面を得ることができる。
【0031】
次に、上記船底部基準ターゲット10の形状の例について図2を用いて説明する。ここで説明する船底部基準ターゲット10は、外観形状が円錐形のものであって、開口部分と平行な線に沿って切断されることにより頂点部分に空隙部が形成されている。空隙部は電波51が透過することができ、かつ、液体貨物30や、貯蔵タンク20内部の洗浄に用いる洗浄液が溜まらないようにするものであるので、頂点部分を切断することによってのみ形成されるものではなく、例えば、錘面の一部に穴を設けることによっても形成することができる。
【0032】
図2において、船底部基準ターゲット10は、液面方向に向く開口部分が円錐形の底面部分であり、頂部側を貯蔵タンク20の底面側に向けて固定されるものである。図2(a)は船底部基準ターゲット10の側面図である。図2(a)に示すように船底部基準ターゲット10は、錘面によって形成され、電波52(図1)を反射する電波反射部11と、錘面の頂部側に設けた上記空隙からなる電波51を透過させる電波透過部12と、貯蔵タンク底面から所定の高さをもって電波反射部11を固定する固定部13を備えている。図2(b)は、船底部基準ターゲット10の上面図である。電波透過部12は、円形で表わされているが、電波反射部11が所定の高度で電波52を反射することができ、また、電波51を透過して貯蔵タンク底面によって反射したものが、液面に戻ることが出来れば、形状はこれに限ることはない。電波透過部12が形成されているため、上記「頂部」とは、仮想的な頂点である。
【0033】
図3は船底部基準ターゲット10の透過断面図である。船底部基準ターゲット10の中心位置は、二点鎖線で図示している。電波52は電波反射部11の錘面(点A)に当たって、反対側の錘面(点B)から電波式液面計100方向に反射している。船底部基準ターゲット10を形成する円錐形の頂点角は90度である。この頂点Oを通る垂線と、AからBに向かう電波52の伝搬路の交点をCとすると、電波52が衝突する点Aと、反対側の錘面の点Bとの関係は、頂点Oによって対称であって、ABの長さは2倍のCOに相当する(AB=2(CO))。すなわち、電波透過部12の有無に関係なく電波52が頂点Oで反射したことと同等の距離を伝搬して電波式液面計100に向けて反射することになる。
【0034】
従って、貯蔵タンク底面から頂点Oまでの長さを、船底部基準ターゲット10のレベル(船底基準14)とすることで、貯蔵タンク20の底面が変形した場合であっても、船底部基準ターゲット10と貯蔵タンク20の底面との位置関係は変らないので、船底部基準ターゲット10から反射される電波52と、船底部基準ターゲット10の電波透過部12を透過して貯蔵タンク底面によって反射される電波51、または船底部基準ターゲットの周辺を通過して貯蔵タンク20の底面によって反射される電波51を検出し、それぞれの位置を測定することで、より正確に液面位の測定が可能となる。
【0035】
上記のように、船底部基準ターゲット10を用いることで、液体貨物30の荷揚げ作業時に、液体貨物30の残り積載残量を正確に把握して、ストリッピング作業開始の適時を判断することができるようになる。なお、液面40を透過して液体貨物30内を伝搬する電波のうち,船底部基準ターゲットから反射して戻る電波52が、貯蔵タンク底面から反射する電波よりも、そのエネルギーがやや小さくなるように、船底部基準ターゲット10を構成し、貯蔵タンク20の底部認識の絶対性は維持しておくことが望ましい。
【0036】
上に説明した船底部基準ターゲット10は、円錐形状に限ることなく、他の形状のものであってもよい。以下、船底部基準ターゲット10の別の実施形態について図4乃至図8を用いて説明をする。なお、以下の説明において固定部の図示は省略している。図4は、外観が平面である船底部基準ターゲットの例である。船底部基準ターゲット10aは、所定の厚みを有する円形の板であって、その中心部が空隙になっており、円周部分が電波反射部11a、空隙部分が電波透過部12aを形成している。電波反射部11aによって反射される電波52は、入射方向に向けて反射される。
【0037】
図5は、外観が多角錘形である船底部基準ターゲットの例である。図5(a)は、外観形状が三角錐であって、錘面の内側が電波反射部11bであって、頂部側に形成した空隙部分が電波透過部12bを形成する。図5(b)は、外観形状が多角錘形であって、錘面の内側が電波反射部11cであって、頂部側に形成した空隙部分が電波透過部12cを形成する。
【0038】
図6は、外観が球冠形である船底部基準ターゲットの例であって、図6(a)は斜視図、図6(b)は貯蔵タンク20の底部に設置された状態を示す図である。船底部基準ターゲット10dは、電波反射部11dが球冠形状の内側曲面であり、電波透過部12dが球冠形状の曲率中心部分に形成した空隙である。図6(b)に示すように、図示しない貯蔵タンクの底部に設置された船底部基準ターゲット10dの電波反射部11dに当たった電波52は入射方向に反射される。この電波52によって船底部基準ターゲット10の位置を測定することができる。
【0039】
図7は、外観が放物面形である船底部基準ターゲットの例であって、図7(a)は斜視図、図7(b)は貯蔵タンクの底部に設置された状態を示す図である。船底部基準ターゲット10eは、電波反射部11eが放物面形の内側面であり、電波透過部12dが放物面の頂部側に形成した空隙である。図7(b)に示すように、図示しない貯蔵タンクの底部に設置された船底部基準ターゲット10eの電波反射部11eに当たった電波52は入射方向に反射される。この反射波によって船底部基準ターゲット10eの位置を測定することができる。
【0040】
図8は、外観が擬部分放物面形である船底部基準ターゲットの例であって、図8(a)は斜視図、図8(b)は貯蔵タンクの底部に設置された状態を示す図である。船底部基準ターゲット10fは、中心部分に空隙を形成した円形の平板を、周囲からナックル状に打ち凹ませることで、外側の形状が擬似的な放物面となっている擬部分放物面形であって、電波反射部11fは階段状の内側側面であり、電波透過部12fは中心部に形成した空隙である。図8(b)に示すように、図示しない貯蔵タンクの底部に設置された船底部基準ターゲット10fの電波反射部11fに当たった電波52は入射方向に反射されるので、この反射波によって船底部基準ターゲット10dの位置を測定することができる。
【0041】
以上説明をした船底部基準ターゲットは、平板を種々の形状に加工したものを例にしているが、これに限ることはなく、パンチングメタルやエクスパンドメタルを用いて上記の形状を形成してもよい。そのほか、特許請求の範囲に記載した技術的範囲を逸脱しない範囲内で自由に設計変更することができる。
【0042】
また、本発明に係る船底部基準ターゲットが有する電波透過部は、各形状を形成する側面部の一部を切除して形成することができる他、上記のように穿孔部分を備えた材質を用いることで、この穿孔部分を電波透過部とすることもできる。
【0043】
また、本発明に係る船底部基準ターゲットは、所定の大きさ(面積)を有する平板であってもよい。このような、平板による船底部基準ターゲットは、平面の一部に穿孔部を設けることで電波透過部を形成し、その他の部分によって電波反射部を形成することで、上記の船底部基準ターゲットと同様の効果を奏することが出来る。
【0044】
また、平板形状の船底部基準ターゲットは、平面の一部に穿孔部を設けることなく、上記において説明したとおり、この船底部基準ターゲットから反射して戻る電波52が、タンク底面から反射して戻る電波51よりも、エネルギーが小さくなればいいので、この条件を満たす寸法をもって形成すればよく、所定条件を満たす寸法において形成する平板形状の船底部基準ターゲットによっても、上記において説明をした他の形状を有する船底部基準ターゲットと同様の効果を奏することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明に係る船底部基準ターゲットを貯蔵タンク内に設置した例を示す断面図である。
【図2】上記船底部基準ターゲットの外形が円錐である例を示す断面図である。
【図3】上記船底部基準ターゲットの設置態様を示す透過断面図である。
【図4】上記船底部基準ターゲットの外形が円形平板である例を示す図である。
【図5】上記船底部基準ターゲットの外形が多角錘形である例を示す断面図である。
【図6】上記船底部基準ターゲットの外形が球冠形である例を示す断面図である。
【図7】上記船底部基準ターゲットの外形が放物面形である例を示す断面図である。
【図8】上記船底部基準ターゲットの外形が擬部分放物面形である例を示す断面図である。
【図9】貯蔵タンクに電波式液面計を設置した従来例を示す断面図である。
【図10】従来の電波式液面計の機能ブロック図である。
【図11】荷揚げ作業時の変化とタンク部船底の変形を示す船舶のイメージ断面図である。
【符号の説明】
【0046】
10 船底部基準ターゲット
11 電波反射部
12 電波透過部
13 固定部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
船底に設置される液体タンク内の液位を測定するために、液体タンク上部に設置した電波式液面計から液体タンクの底部に向けて発射される電波を反射する船底部基準ターゲットにおいて、
上記電波を上記電波式液面計に向けて反射する電波反射部、
上記電波を上記底部に向けて透過させる電波透過部、
上記底部から所定の高さを保って固定するための固定部を有する船底部基準ターゲット。
【請求項2】
上記船底部基準ターゲットは、錘形であって、
上記電波反射部は、錘形の内側錐面であり、
上記電波透過部は、上記錘面の一部に形成された空隙部であり、
錘形の頂点部が、上記底部に向けて設置されていることを特徴とする請求項1記載の船底部基準ターゲット。
【請求項3】
上記空隙部は、上記錘形の頂点部に形成されていることを特徴とする請求項2記載の船底部基準ターゲット。
【請求項4】
上記錘形は円錐形であることを特徴とする請求項3に記載の船底部基準ターゲット。
【請求項5】
上記錘形は多角錘形であることを特徴とする請求項3記載の船底部基準ターゲット。
【請求項6】
上記錘形の頂点の内角が直角であることを特徴とする請求項2乃至5のいずれかに記載の船底部基準ターゲット。
【請求項7】
上記船底部基準ターゲットは、球冠形であって、
上記電波反射部は、この球冠形の内側曲面であり、
上記電波透過部は、この球冠形の曲面の一部に形成された空隙部であり、
曲率中心部の外側曲面部が、上記底部に向けて設置されていることを特徴とする請求項1記載の船底部基準ターゲット。
【請求項8】
上記空隙部は、上記球冠形の曲率中心部に形成されていることを特徴とする請求項7記載の船底部基準ターゲット。
【請求項9】
上記船底部基準ターゲットは、放物面形であって、
上記電波反射部は、この放物面形の内面であり、
上記電波透過部は、この放物面形の一部に形成された空隙部であり、
頂点部が、上記底部に向けて設置されていることを特徴とする請求項1記載の船底部基準ターゲット。
【請求項10】
上記空隙部は、上記放物面形の頂点部に形成されていることを特徴とする請求項9記載の船底部基準ターゲット。
【請求項1】
船底に設置される液体タンク内の液位を測定するために、液体タンク上部に設置した電波式液面計から液体タンクの底部に向けて発射される電波を反射する船底部基準ターゲットにおいて、
上記電波を上記電波式液面計に向けて反射する電波反射部、
上記電波を上記底部に向けて透過させる電波透過部、
上記底部から所定の高さを保って固定するための固定部を有する船底部基準ターゲット。
【請求項2】
上記船底部基準ターゲットは、錘形であって、
上記電波反射部は、錘形の内側錐面であり、
上記電波透過部は、上記錘面の一部に形成された空隙部であり、
錘形の頂点部が、上記底部に向けて設置されていることを特徴とする請求項1記載の船底部基準ターゲット。
【請求項3】
上記空隙部は、上記錘形の頂点部に形成されていることを特徴とする請求項2記載の船底部基準ターゲット。
【請求項4】
上記錘形は円錐形であることを特徴とする請求項3に記載の船底部基準ターゲット。
【請求項5】
上記錘形は多角錘形であることを特徴とする請求項3記載の船底部基準ターゲット。
【請求項6】
上記錘形の頂点の内角が直角であることを特徴とする請求項2乃至5のいずれかに記載の船底部基準ターゲット。
【請求項7】
上記船底部基準ターゲットは、球冠形であって、
上記電波反射部は、この球冠形の内側曲面であり、
上記電波透過部は、この球冠形の曲面の一部に形成された空隙部であり、
曲率中心部の外側曲面部が、上記底部に向けて設置されていることを特徴とする請求項1記載の船底部基準ターゲット。
【請求項8】
上記空隙部は、上記球冠形の曲率中心部に形成されていることを特徴とする請求項7記載の船底部基準ターゲット。
【請求項9】
上記船底部基準ターゲットは、放物面形であって、
上記電波反射部は、この放物面形の内面であり、
上記電波透過部は、この放物面形の一部に形成された空隙部であり、
頂点部が、上記底部に向けて設置されていることを特徴とする請求項1記載の船底部基準ターゲット。
【請求項10】
上記空隙部は、上記放物面形の頂点部に形成されていることを特徴とする請求項9記載の船底部基準ターゲット。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2009−192330(P2009−192330A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−32317(P2008−32317)
【出願日】平成20年2月13日(2008.2.13)
【出願人】(391014631)ムサシノ機器株式会社 (14)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年2月13日(2008.2.13)
【出願人】(391014631)ムサシノ機器株式会社 (14)
【Fターム(参考)】
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