説明

船舶制御システム、船舶推進システムおよび船舶

【課題】通信バスを流れている通信データ量を効率的に利用でき、かつ、簡潔な構成で拡張機器の接続も可能にする。
【解決手段】船尾に一列に配列した3基の船外機3R,3C,3Lはそれぞれ船外機ECU20を有している。操船席には、ステアリング装置6、リモコン7および操作パネル8、ならびにこれらが接続されたリモコンECU60が備えられている。リモコンECU60と船外機ECU20との間は、CAN70で接続されている。CAN70は、リモコンECU60の第1ポートP1と船外機ECU20とに接続された第1通信バス71と、リモコンECU60の第2ポートP2と船外機ECU20とに接続された第2通信バス72とを有している。リモコンECU60は、第1通信バス71に操船制御情報を送出し、第2通信バス72にバックアップ情報を出力する。拡張機器80,90に関する情報(補助情報)は、第2通信バス72を通って伝送される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、船舶用推進機を備えた船舶のための船舶制御システム、ならびにこのような船舶制御システムを備えた船舶推進システムおよび船舶に関する。
【背景技術】
【0002】
船舶の船尾に取り付けられる船外機は、船舶用推進機の一例である。船外機は、エンジンと、プロペラと、シフト機構とを備えている。シフト機構は、エンジンとプロペラとの間の動力伝達経路に設けられる。シフト機構は、複数のシフト位置を有している。複数のシフト位置とは、前進位置、中立位置および後退位置である。前進位置は、エンジンによって駆動されるドライブシャフトの回転をプロペラシャフトに伝達し、プロペラシャフトを前進回転させるシフト位置である。後退位置は、ドライブシャフトの回転をプロペラシャフトに伝達し、プロペラシャフトを後退回転させるシフト位置である。中立位置は、ドライブシャフトの回転をプロペラシャフトに伝達しない、すなわち、動力伝達経路を遮断するシフト位置である。
【0003】
船外機には、船体に対する船外機の向き(操舵角)を変更するための操舵機構が付設される。操舵角を調節することによって、船舶の進行方向を調節できる。操舵機構は、電動アクチュエータや油圧アクチュエータ等の操舵アクチュエータを備えたパワーステアリング装置により構成される場合もある。
船外機を備えた船舶の操船は、エンジン出力の調節、シフト位置の選択、および操舵角の調節を含む。エンジン出力の調節およびシフト位置の選択は、操船席に備えられるリモコンレバーの操作によって行われる。操舵角の調節は、操船席に備えられるステアリングハンドルの操作によって行われる。
【0004】
リモコンレバーの操作を船外機に対して電気的に伝達するドライブ・バイ・ワイヤ(drive-by-wire, DBW)システムが採用される場合がある。この場合、リモコンユニットには、リモコンレバーの操作を検出するポジションセンサと、このポジションセンサの出力信号を処理する電子制御ユニット(以下「リモコンECU」という。)とが備えられる。リモコンECUは、スロットル開度指令(エンジン回転速度指令)およびシフト位置指令を出力する。船外機には、リモコンECUからの指令を処理する電子制御ユニット(以下「船外機ECU」という。)が備えられる。船外機ECUは、スロットル開度指令に応じてエンジンのスロットル開度を制御し、シフト位置指令に応じてシフト機構のシフト位置を制御する。
【0005】
同様に、ステアリングハンドルの操作を操舵機構に伝達するステア・バイ・ワイヤ(Steer-By-Wire, SBW)システムが採用される場合がある。この場合、ステアリングハンドルの回転位置を検出する操作角センサと、この操作角センサの出力信号を処理する電子制御ユニット(以下「ステアリングECU」という。)とが備えられる。また、操舵機構には、動力源としての操舵アクチュエータが備えられる。ステアリングECUは、操舵角指令を出力する。この操舵角指令は、船外機ECUに送られる。船外機ECUは、操舵角指令に基づいて、操舵アクチュエータを制御する。
【0006】
リモコンECUと船外機ECUとの間は、通信バスによって接続される。ステアリングECUが備えられる場合には、このステアリングECUも前記通信バスに接続される。この通信バスを介してリモコンECUと船外機ECUとの間、およびステアリングECUと船外機ECUとの間の通信が行われる。
船舶には、複数の操船席が設けられる場合がある。たとえば、主操船席を1階に配置し、副操船席を2階に配置する船舶構造が採用される場合がある。また、主操船席を船体中央に配置し、第1副操船席を船首近くに配置し、第2副操船席を船尾近くに配置する構造が採用される場合もある。このように複数の操船席が設けられる場合には、各操船席にリモコンECUおよびステアリングECUが備えられ、それらの全てが前記通信バスに接続される。
【0007】
一方、船外機の数も一つとは限らない。船尾に2基以上の船外機が並べて取り付けられる多基掛けの構成が採用される場合もある。この場合、船外機のそれぞれに対してリモコンECUが設けられ、各船外機ECUに対して、対応するリモコンECUが通信バスを介して接続される。つまり、船外機の数だけ通信バスが設けられる。
通信バスに断線等の故障が生じると、リモコンECUまたはステアリングECUからの操船制御情報(スロットル開度指令、シフト位置指令、操舵角指令等)を船外機ECUに与えることができない。そこで、特許文献1では、通信バスを二重系としている。すなわち、リモコンECUと船外機ECUとの間が2つの通信バスで接続されている。これにより、一方の通信バスに故障が生じたときでも、他方の通信バスを介してECU間通信を行える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−91014号公報
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0009】
複数の船外機に対してそれぞれ通信バスを設ける前述の構成は、部品点数が多くなる。このため、船舶制御システムを構築するための配線作業が繁雑であり、それに応じて、作業時間も長い。また、配線作業が複雑になると、配線作業者の配線ミスを招き易く、配線ミスによる機能損失を招き易い。それにより、また配線作業のやり直し等が発生し、作業の効率が悪くなる。
【0010】
そこで、複数の船外機に対する通信バスを共通化することが考えられる。この場合、通信バスの容量は、想定される最大通信量に基づいて定めておく必要がある。船外機の数および操船席の数は、ユーザの要望に応じてボートビルダが任意に定めるので、想定される任意のシステム構成に対応可能である必要があるからである。たとえば、船外機の最大数が5基、操船席の最大数が3個であるとすれば、5個の船外機ECUと3個の操船席にそれぞれ備えられるECUとの間での操船制御情報の通信が支障なく行えるように、通信バスの容量を設計しなければならない。一般に、バス負荷がバス容量の40%程度以上となると、応答性能の低下が生じる可能性が増えることが知られている。したがって、最大通信量がバス容量の40%に達しないように、バス容量を設計することが好ましい。また、通信バスの故障に備えて、通信バスを二重系としておくことが好ましいから、特許文献1の構成に従うとすれば、前述のような想定最大通信量に対応できる容量の通信バスを一対設ける必要がある。
【0011】
しかし、通信バスに故障が生じていないときには、一方の通信バスによる通信で充分であるから、他方の通信バスは同容量の通信データ量を通信しているにもかかわらず、実質的に他方の通信バスを流れている通信データは利用されていない。したがって、通信バス全体を流れている通信データ量を効率的に利用できていない。
一方、特許文献1に示されているように、船舶の機能を拡張するために、さまざまな拡張機器が追加される場合がある。拡張機器の例としては、計器盤(ゲージ)を挙げることができる。このような拡張機器のなかには、リモコンECUや船外機ECUとの間で情報通信を行って、その機能を発揮しているものがある。このような拡張機器を操船制御情報の伝送のための通信バスに接続するとすれば、全体の通信データ量が増加するため通信バスのバス容量をさらに増やさなければならない。
【0012】
特許文献1には、前述のような通信バスとは別に、情報系バスを設けて、この情報系バスに拡張機器を接続する構成が開示されている。この構成を採用すれば、拡張機器の接続に備えて通信バスの容量を増やす必要はなくなる。しかし、通信バスの他に、情報バスを設けることで、全体のバス本数が多くなる。したがって、通信システムの構成が複雑になるから、それに応じて、通信システムの構築に要する手数および時間が増大する。また、拡張機器を使用するために必要なデータを船外機ECUとの通信バスから情報系バスに転送するという処理(ゲートウェイ処理)をリモコンECUで行う必要がある。そのため、リモコンECUの処理負荷が上がり、その他の付加機能を持った処理を織り込む余地が減少する。
【0013】
このように、操船制御情報伝送の応答性および故障時のバックアップを考慮してバス設計を行うと、通信バスを流れている通信データ量を効率的に利用できないという問題がある。また、拡張機器の接続のために情報系バスを追加すると、システム構成が複雑化し、システム構築に要する手数および時間が増大するという問題がある。
そこで、この発明の目的は、通信バスを流れている通信データ量を効率的に利用でき、かつ、簡潔な構成で拡張機器の接続も可能な船舶制御システムを提供することである。
【0014】
また、この発明の他の目的は、そのような船舶制御システムを備えた船舶用推進システムを提供することである。
この発明のさらに他の目的は、そのような船舶制御システムを備えた船舶を提供することである。
上記の目的を達成するための請求項1記載の発明は、船舶推進機を備えた船舶のための船舶制御システムであって、前記船舶推進機の始動情報を含む操船制御情報を出力する主出力部と、前記船舶推進機の始動情報を含むバックアップ情報を出力する副出力部とを含むコントロールユニットと、前記船舶推進機および前記コントロールユニットに接続され、前記主出力部から出力される操船制御情報を前記船舶推進機へと伝送する第1通信バスと、前記船舶推進機および前記コントロールユニットに接続され、前記副出力部から出力されるバックアップ情報を前記船舶推進機へと伝送する第2通信バスと、前記第2通信バスに備えられ、前記船舶推進機および前記コントロールユニットの少なくともいずれか一つとの間で前記第2通信バスを介して前記操船制御情報以外の補助情報に関する通信を実行する拡張機器を接続可能な拡張機器接続部とを含む、船舶制御システムである。
【0015】
コントロールユニットは、主出力部から第1通信バスへと操船制御情報を出力する。この操船制御情報に応じて船舶推進機が作動する。操船制御情報は始動情報を含む。始動情報は、具体的には、船舶推進機を始動させるための始動指令を含む。一方、コントロールユニットは、副出力部から第2通信バスへとバックアップ情報を出力する。このバックアップ情報は、始動情報を含む。したがって、第1通信バスに故障(断線等)が生じたときでも、船舶推進機は、第2通信バスからの始動情報に基づいて、始動することができる。したがって、少なくとも、船舶推進機の始動に関しては、コントロールユニットと船舶推進機との間の通信が二重系となっている。
【0016】
第2通信バスには、拡張機器を接続可能な拡張機器接続部が設けられている。したがって、拡張機器を第2通信バスに接続することができる。これにより、拡張機器は、第2通信バスを介してコントロールユニットや船舶推進機との間で必要な通信を行うことができる。
第1通信バスには拡張機器接続部は設けられておらず、したがって、拡張機器による通信によって第1通信バスの通信負荷を増大することはない。よって、第1通信バスのバス容量は、コントロールユニットと船舶推進機との間の通信において想定される最大通信量に基づいて定めておけば十分である。
【0017】
第1通信バスに故障が生じていないときは、コントロールユニットから船舶推進機へと操船制御情報を充分な通信速度で送信できるから、船舶推進機を優れた応答性で制御できる。これにより、良好な操船性能を確保できる。また、第1通信バスに故障が生じていないときであっても、第2通信バスは拡張機器に関する通信等に有効に利用される。したがって、通信バスを流れている通信データおよび通信経路を効率的に利用することができる。
【0018】
第1通信バスに故障が生じると、船舶推進機は、第2通信バスを介して送られてくるバックアップ情報に従って作動する。バックアップ情報は、始動情報を含むので、船舶推進機を始動させることができる。これにより、船舶を航行させることができる。バックアップ情報は、第2通信バスに拡張機器が接続されているときには、拡張機器に関する通信のために、応答性が低くなるかもしれない。しかし、船舶を航行させるための最低限の機能は確保される。
【0019】
このようにして、通信バスを流れている全体の通信データ量の効率的な利用を図ることができる。しかも、拡張機器のための通信は、バックアップ情報の伝送に用いられる第2通信バスを介して行われるから、拡張機器のための専用のバスを設ける必要がない。これにより、通信システムの構成を簡潔にできるから、通信システムの構築に要する手数および時間を削減できる。また、拡張機器と船舶推進機とが同一バスに繋がれるため、お互いにデータを直接通信することができ、コントロールユニットにデータ転送処理を持たせる必要がない。したがって、コントロールユニットの処理、および通信データの経路が簡素化できる。
【0020】
なお、「船舶推進機」とは、船体に対して前進方向の推進力を与える主推進機を意味する。また、「拡張機器」とは、船舶推進機以外の機器をいう。拡張機器のなかには、コントロールユニットおよび船舶推進機の一方または両方と通信するものがある。また、船体に左右方向の推進力を与えるバウスラスタのような補助推進機も拡張機器の一例である。
前記第1通信バスには、拡張機器が接続されず、拡張機器は、専ら第2通信バスに接続されるようになっていることが好ましい。それにより、拡張機器を後付けする際、基本的な操船機能に使われる第1通信バスに手を加えることがない。そのため、配線作業ミスによる、基本操船機能への影響を防止することができる。また、作業者にとっては、拡張機器を繋げる通信バス(配線)が1箇所に統一されているため、配線作業が分かり易くなる。
【0021】
請求項2記載の発明は、前記副出力部は、前記主出力部が出力する前記操船制御情報よりも単位時間当たりの情報量が少ない前記バックアップ情報を出力する、請求項1記載の船舶制御システムである。この構成により、第2通信バスの容量をさほど多くすることなく、バックアップ情報および拡張機器のための情報を第2通信バスを介して伝送できる。
具体的には、請求項3に記載されているように、前記副出力部は、前記主出力部が前記操船制御情報を出力する通信周期よりも長い通信周期で、前記バックアップ情報を出力してもよい。
【0022】
請求項4記載の発明は、前記船舶が複数の前記船舶推進機を備えており、各船舶推進機が前記第1通信バスおよび前記第2通信バスに接続されている、請求項1〜3のいずれか一項に記載の船舶制御システムである。
この構成により、複数の船舶推進機は、第1通信バスから操船制御情報を受信でき、第2通信バスからバックアップ情報を受信できる。これにより、第1通信バスに故障が生じたときでも、第2通信バスを介して伝送されるバックアップ情報に含まれる始動情報に基づいて、各船舶推進機を始動できる。バックアップ情報に含まれる始動情報に基づいて始動される船舶推進機は、複数の船舶推進機のうちの全部であってもよいし、それらの一部であってもよい。
【0023】
請求項5の発明は、前記副出力部は、前記複数の船舶推進機のうちの一部の船舶推進機に対してのみ、前記第2通信バスを介して前記バックアップ情報を送信する、請求項4記載の船舶制御システムである。
この構成では、副出力部は、一部の船舶推進機に対してのみバックアップ情報を出力するので、第2通信バスの通信負荷を軽減できる。これにより、第2通信バスのバス容量をあまり大きくしなくてもよくなる。第1通信バスに故障が生じたときでも、バックアップ情報に基づいて少なくとも一部の船舶推進機を始動できるので、船舶を航行させることができる。
【0024】
請求項6記載の発明は、前記船舶制御システムは、3以上の奇数基の前記船舶推進機が船体の左右方向に沿って一列に並んで取り付けられる船舶に用いられ、前記副出力部は、中央の1基の船舶推進機のための指令を前記バックアップ情報として出力する、請求項5記載の船舶制御システムである。
また、請求項7記載の発明は、前記船舶制御システムは、4以上の偶数基の前記船舶推進機が船体の左右方向に沿って一列に並んで取り付けられる船舶に用いられ、前記副出力部は、中央の2基の船舶推進機のための指令を前記バックアップ情報として出力する、請求項5記載の船舶制御システムである。
【0025】
「中央」とは、この場合、複数の船舶推進機の並び順の中央を意味する。一般に、複数の船舶推進機を船体の左右方向に沿って一列に並べて取り付けるときは、複数の船舶推進機の並び順の中央は、船体の左右方向の中央に整合している。船舶推進機として船外機を用いる場合には、複数の船外機は、船尾に左右方向に一列に並べて取り付けられる。
これらの構成によれば、第1通信バスに故障が生じたときには、中央の1基または2基の船舶推進機を作動させることにより、船舶を航行させることができる。しかも、バックアップ情報は、全ての船舶推進機のための指令を含まないので、その情報量が少ない。したがって、第2通信バスを大容量に設計しておくことなく、バックアップ情報の伝送と拡張機器のための通信とに当該第2通信バスを共用できる。
【0026】
第1通信バスが正常なときに有効となる操船制御情報(主出力部の出力)は、全ての船舶推進機のための指令を含んでいてもよい。
第1通信バスに故障が生じたとき、中央の1基または2基以外の船舶推進機も作動させることとしてもよい。ただし、この場合でも、バックアップ情報に含まれるのは、中央の1基または2基の船舶推進機のため指令であるから、その他の船舶推進機は、当該中央の船舶推進機に対する指令に応じて作動することになる。
【0027】
請求項8記載の発明は、前記船舶制御システムは、3基以上の前記船舶推進機が船体の左右方向に沿って一列に並んで取り付けられる船舶に用いられ、前記副出力部は、最左舷の船舶推進機のための左舷指令と、最右舷の船舶推進機のための右舷指令とを前記バックアップ情報として出力する、請求項5記載の船舶制御システムである。
この構成では、最左舷および最右舷の船舶推進機のための指令がバックアップ情報として出力される。これにより、第1通信バスに故障が生じたときでも、少なくとも、最左舷および最右舷の船舶推進機を作動させることにより、船舶を航行させることができる。また、複数の船舶推進機を搭載した船の場合、離岸や着岸時に、左右どちらかの船舶推進機を前進に、反対側の船舶推進機を後退に操作することで、船をその場で回頭するように船を操船する場合がある。本手段を用いた場合、第1通信バスに故障が生じても、そのような操船方法を可能にできる。しかも、バックアップ情報は、全ての船舶推進機のための指令を含まないので、その情報量が少ない。したがって、第2通信バスを大容量に設計しておくことなく、バックアップ情報の伝送と拡張機器のための通信とに当該第2通信バスを共用できる。
【0028】
第1通信バスが正常なときに有効となる操船制御情報(主出力部の出力)は、全ての船舶推進機のための指令を含んでいてもよい。
第1通信バスに故障が生じたとき、最左舷および最右舷以外の船舶推進機も作動させることとしてもよい。ただし、この場合でも、バックアップ情報に含まれるのは、最左舷および最右舷の船舶推進機のため指令であるから、その他の船舶推進機は、当該最左舷および/または最右舷の船舶推進機に対する指令に応じて作動することになる。
【0029】
請求項9記載の発明は、前記船舶推進機の基数が3であり、前記第1通信バスに故障が生じた場合に、中央の船舶推進機は、前記左舷指令および前記右舷指令に基づいて動作する、請求項8記載の船舶制御システムである。
この構成により、第1通信バスに故障が生じたときでも、最左舷および最右舷の船舶推進機だけでなく、中央の船舶推進機をも作動させることができる。これにより、第1通信バスが正常なときに近い航行状態を維持できる。しかも、中央の船舶推進機のための指令をバックアップ情報に含ませるわけではないので、バックアップ情報の情報量は増えない。よって、第2通信バスのバス負荷が増大しないから、第2通信バスを介するバックアップ情報および拡張機器のための情報の通信に支障が生じることはない。
【0030】
請求項10記載の発明は、前記船舶推進機の基数が4であり、前記第1通信バスに故障が生じた場合に、中央よりも左側の船舶推進機は前記左舷指令に基づいて動作し、中央よりも右側の船舶推進機は前記右舷指令に基づいて動作する、請求項8記載の制御システムである。
この構成により、第1通信バスに故障が生じたときでも、最左舷および最右舷の船舶推進機だけでなく、4基すべての船舶推進機を作動させることができる。これにより、第1通信バスが正常なときに近い航行状態を維持できる。しかも、中央寄りの2基の船舶推進機のための指令をバックアップ情報に含ませるわけではないので、バックアップ情報の情報量は増えない。よって、第2通信バスのバス負荷が増大しないから、第2通信バスを介するバックアップ情報および拡張機器のための情報の通信に支障が生じることはない。
【0031】
請求項11記載の発明は、前記船舶制御システムは、5基の前記船舶推進機が船体の左右方向に沿って一列に並んで取り付けられる船舶に用いられ、前記副出力部は、最左舷の船舶推進機のための左舷指令と、最右舷の船舶推進機のための右舷指令と、中央の船舶推進機のための中央指令とを前記バックアップ情報として出力する、請求項5記載の船舶制御システムである。
【0032】
この構成により、副出力部は、3基の船舶推進機のための指令をバックアップ情報として出力するので、主出力部よりも少ない情報量の指令を第2通信バスに送出する。これにより、第2通信バスのバス負荷を軽減できるから、第2通信バスを大容量に設計しておかなくても、当該第2通信バスをバックアップ情報と拡張機器のための情報の通信とに共用できる。また、第1通信バスに故障が生じたときには、バックアップ情報に基づいて、少なくとも最左舷、最右舷および中央の船舶推進機を作動させることができる。これにより、船舶を航行させることができる。
【0033】
請求項12記載の発明は、前記第1通信バスに故障が生じた場合に、中央よりも左側の船舶推進機は前記左舷指令に基づいて動作し、中央よりも右側の船舶推進機は前記右舷指令に基づいて動作し、中央の船舶推進機は前記中央指令に基づいて動作する、請求項11記載の船舶制御システムである。この構成により、第1通信バスに故障が生じたときでも、5基すべての船舶推進機を作動させることができる。これにより、第1通信バスが正常なときに近い航行状態を維持できる。
【0034】
請求項13記載の発明は、前記主出力部は、前記複数の船舶推進機のうちの一部の船舶推進機のための操船制御情報を出力し、前記副出力部は、前記操船制御情報の対象となっている船舶推進機以外の船舶推進機への指令を前記バックアップ情報として出力する、請求項5記載の船舶制御システムである。
この構成によれば、主出力部が出力する操船制御情報と、副出力部が出力するバックアップ情報との両方により、全ての船舶推進機のための指令が生成されることになる。第2通信バスに故障が生じたときには、複数の船舶推進機のうちの一部の船舶推進機のための指令のみが出力される。また、第1通信バスに故障が生じたときには、残りの船舶推進機のための指令のみが出力される。よって、第1および第2通信バスのいずれか一方に故障が生じると、一部の船舶推進機のみの作動が可能となる。ただし、当該一部の船舶推進機以外の船舶推進機については、当該一部の船舶推進機のための指令に従って作動させることもできる。このようにすれば、より多くの(たとえば全部の)船舶推進機を作動させることができる。
【0035】
請求項14記載の発明は、前記複数の船舶推進機の基数が3以上であり、前記主出力部は、最左舷の船舶推進機のための最左舷指令と、最右舷の船舶推進機のための最右舷指令とを含む操船制御情報を出力する、請求項13記載の船舶制御システムである。
つまり、主出力部は最左舷指令および最右舷指令を出力し、副出力部は中央船舶推進機のための中央指令を出力する。つまり、操船制御情報の対象は最左舷船舶推進機および最右舷船舶推進機のみである。また、バックアップ情報の対象は、中央船舶推進機のみである。中央船舶推進機とは、この場合、船舶推進機の基数が奇数のときは中央の1基、船舶推進機の基数が偶数のときは中央の2基の船舶推進機を指す。
【0036】
第1通信バスに故障が生じたときには、中央指令に従って中央船外機を作動させればよい。また、第2通信バスに故障が生じたときには、最左舷指令および最右舷指令にそれぞれ従って最左舷船舶推進機および最右舷船舶推進機を作動させればよい。むろん、中央よりも左側の船舶推進機を最左舷指令に従って作動させ、中央よりも右側の船舶推進機を最右舷指令に従って作動させてもよい。
【0037】
請求項15記載の発明は、前記船舶は、1つの主操船席と、1つ以上の副操船席とを有しており、複数の前記コントロールユニットが、複数の前記操船席にそれぞれ設けられ、前記複数のコントロールユニットに前記第1通信バスおよび前記第2通信バスが接続されている、請求項1〜14のいずれか一項に記載の船舶制御システムである。この構成によれば、複数の操船席に設けられたコントロールユニットに第1および第2通信バスが接続されているので、いずれの操船席からも船舶推進機を制御できる。
【0038】
請求項16記載の発明は、前記主操船席のコントロールユニットが前記第2通信バスに前記バックアップ情報を出力し、前記副操船席のコントロールユニットは前記バックアップ情報を出力しない、請求項15記載の船舶制御システムである。
この構成によれば、副操船席のコントロールユニットは、バックアップ情報を出力しないので、バックアップ情報の通信負荷を軽減できる。主操船席のコントロールユニットからはバックアップ情報が出力されるので、第1通信バスに故障が生じたときでも、主操船席からの操船を行うことができる。これにより、船舶を航行させることができる。
【0039】
請求項17記載の発明は、前記第1通信バスに故障が生じた場合に、前記副操船席で操船が行われているときには、船舶を停止させるように前記船舶推進機を制御し、操船席を当該副操船席から前記主操船席に切り換える手段をさらに含む、請求項15または16記載の船舶制御システムである。
副操船席のコントロールユニットはバックアップ情報を送出しないので、副操船席で操船しているときに第1通信バスに故障が生じると、操船を継続できなくなる。そこで、船舶を停止させ、さらに、操船席を主操船席に切り換える。これにより、主操船席のコントロールユニットが出力するバックアップ情報に基づいて、少なくとも一つの船舶推進機を作動させることができるから、船舶を航行させることができる。
【0040】
請求項18記載の発明は、船舶推進機と、前記船舶推進機の始動情報を含む操船制御情報を出力する主出力部と、前記船舶推進機の始動情報を含むバックアップ情報を出力する副出力部とを含むコントロールユニットと、前記船舶推進機および前記コントロールユニットに接続され、前記主出力部から出力される操船制御情報を前記船舶推進機へと伝送する第1通信バスと、前記船舶推進機および前記コントロールユニットに接続され、前記副出力部から出力されるバックアップ情報を前記船舶推進機へと伝送する第2通信バスと、前記第2通信バスに接続され、前記船舶推進機および前記コントロールユニットの少なくともいずれか一つとの間で前記第2通信バスを介して前記操船制御情報以外の補助情報に関する通信を実行する拡張機器とを含む、船舶推進システムである。
【0041】
請求項19記載の発明は、船体と、前記船体に取り付けられた船舶推進機と、前記船舶推進機の始動情報を含む操船制御情報を出力する主出力部と、前記船舶推進機の始動情報を含むバックアップ情報を出力する副出力部とを含むコントロールユニットと、前記船舶推進機および前記コントロールユニットに接続され、前記主出力部から出力される操船制御情報を前記船舶推進機へと伝送する第1通信バスと、前記船舶推進機および前記コントロールユニットに接続され、前記副出力部から出力されるバックアップ情報を前記船舶推進機へと伝送する第2通信バスと、前記第2通信バスに接続され、前記船舶推進機および前記コントロールユニットの少なくともいずれか一つとの間で前記第2通信バスを介して前記操船制御情報以外の補助情報に関する通信を実行する拡張機器とを含む、船舶である。
【0042】
これらの船舶推進システムおよび船舶の発明に関しても、船舶制御システムについての発明と同様の変形が可能である。
前記船舶推進機は、船外機(アウトボードモータ)、船内外機(スターンドライブ。インボードモータ・アウトボードドライブ)、船内機(インボードモータ)、ウォータージェットドライブのいずれの形態であってもよい。船外機は、原動機(エンジンまたは電動モータ)および推進力発生部材(プロペラ)を含む推進ユニットを船外に有し、さらに、推進ユニット全体を船体に対して水平方向に回動させる操舵機構が付設されたものである。船内外機は、原動機が船内に配置され、推進力発生部材および舵切り機構を含むドライブユニットが船外に配置されたものである。船内機は、原動機およびドライブユニットがいずれも船体に内蔵され、ドライブユニットからプロペラシャフトが船外に延び出た形態を有する。この場合、操舵機構は別途設けられる。ウォータージェットドライブは、船底から吸い込んだ水をポンプで加速し、船尾の噴射ノズルから噴射することで推進力を得るものである。この場合、操舵機構は、噴射ノズルと、この噴射ノズルから吐出される水流方向を水平面に沿って回動させる機構とで構成される。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】図1は、この発明の第1の実施形態に係る船舶の構成を説明するための斜視図である。
【図2】船外機の構成例を説明するための図である。
【図3】船舶制御システムの電気的構成を説明するための図である。
【図4】第1の実施形態において適用可能な第1の制御例を説明するための図解的なブロック図である。
【図5】第1の実施形態において適用可能な第2の制御例を説明するための図解的なブロック図である。
【図6】第1の実施形態において適用可能な第3の制御例を説明するためのフローチャートである。
【図7】第1の実施形態において適用可能な第4の制御例を説明するための図解的なブロック図である。
【図8】この発明の第2の実施形態に係る船舶の構成を示す図解的な平面図である。
【図9】第2の実施形態において適用可能な制御例を説明するための図解的なブロック図である。
【図10】図9の制御例において、各船外機で実行される処理を示すフローチャートである。
【図11】第2の実施形態において適用可能な他の制御例を説明するための図解的なブロック図である。
【図12】この発明の第3の実施形態に係る船舶の構成を示す図解的な平面図である。
【図13】第3の実施形態において適用可能な制御例を説明するための図解的なブロック図である。
【図14】図13の制御例において、各船外機で実行される処理を示すフローチャートである。
【図15】第3の実施形態において適用可能な他の制御例を説明するための図解的なブロック図である。
【図16】この発明の第4の実施形態に係る船舶の構成を説明するための斜視図である。
【図17】第4実施形態の船舶の電気的構成を説明するためのブロック図である。
【図18】第4実施形態においてリモコンECUが実行する処理を説明するためのフローチャートである。
【図19】この発明の第5の実施形態を説明するための図解的なブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0044】
以下では、この発明の実施の形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。
[1.第1の実施形態]
図1は、この発明の第1の実施形態に係る船舶制御システムが適用される船舶の構成を説明するための斜視図である。船舶1は、船体2と、船舶推進機としての船外機3とを備えている。船外機3は、複数個(この実施形態では3基)備えられている。これらの船外機3は、船体2の船尾に沿って(すなわち、船体2の左右方向に沿って)一列に並べて取り付けられている。3基の船外機を区別するときには、右舷に配置されたものを「右舷船外機3R」、中央に配置されたものを「中央船外機3C」、左舷に配置されたものを「左舷船外機3L」ということにする。これらの船外機3は、それぞれエンジン(内燃機関)を備えており、このエンジンの駆動力によって回転されるプロペラ(スクリュー)によって推進力を発生する。
【0045】
船体2の前方部(船首側)には、操船席5が設けられている。操船席5には、ステアリング装置6と、リモコン7と、操作パネル8と、ゲージ9とが備えられている。
ステアリング装置6は、操船者によって回転操作されるステアリングハンドル6aを備えている。このステアリングハンドル6aの操作は、後述の操作角センサ(図1では図示略)によって検出されるようになっている。
【0046】
リモコン7は、左右2本のレバー7L,7Rを備えている。これらのレバー7L,7Rは、それぞれ前後に傾倒可能である。レバー7L,7Rの操作位置がそれぞれ後述のポジションセンサ(図1では図示略)によって検出されるようになっている。この検出された操作位置に応じて船外機3の動作が制御される。レバー7L,7Rを所定の中立位置から所定量以上前方に傾倒させることによって、船外機3のシフト位置が前進位置となり、当該船外機3から前進方向の推進力が発生される。レバー7L,7Rを前記中立位置から所定量以上後方に傾倒させることによって、船外機3のシフト位置が後退位置となり、当該船外機3から後退方向の推進力が発生される。レバー7L,7Rが前記中立位置にあれば、船外機3のシフト位置が中立位置となり、船外機3は推進力を発生しない。また、レバー7L,7Rの傾倒量に応じて、船外機3の出力、すなわち、船外機3に備えられたエンジンの目標エンジン回転速度(目標スロットル開度に相当する)を変化させることができる。
【0047】
目標エンジン回転速度は、前記所定量の傾倒位置(前進シフトイン位置)まではアイドル回転速度とされる。前進シフトイン位置を超えて前方にレバー7L,7Rを傾倒させると、レバー傾倒量が大きいほど大きくなるように目標エンジン回転速度が定められる。また、目標エンジン回転速度は、前記所定量の傾倒位置(後退シフトイン位置)まではアイドル回転速度とされる。後退シフトイン位置を超えて後方にレバー7L,7Rを傾倒させると、レバー傾倒量が大きいほど大きくなるように目標エンジン回転速度が定められる。
【0048】
右舷船外機3Rのシフト位置およびエンジン回転速度は、右側のレバー7Rの操作位置に従う。左舷船外機3Lのシフト位置およびエンジン回転速度は、左側のレバー7Lの操作位置に従う。中央船外機3Cのシフト位置およびエンジン回転速度は、左右のレバー7L,7Rの操作位置に従う。具体的には、左右のレバー7L,7Rの操作位置に対応するシフト位置が一致していれば、当該シフト位置が中央船外機3Cの目標シフト位置とされる。この場合、中央船外機3Cの目標エンジン回転速度は、左右の船外機3L,3Rの目標エンジン回転速度の平均値とされてもよい。左右のレバー左右のレバー7L,7Rの操作位置に対応するシフト位置が不一致であれば、中央船外機3Cの目標シフト位置は中立位置とされる。この場合、中央船外機3Cの目標エンジン回転速度は、アイドル回転速度とすればよい。
【0049】
操作パネル8は、3個の船外機3R,3C,3Lにそれぞれ対応した3個のキースイッチ4R,4C,4L(以下総称するときには「キースイッチ4」という。)を備えている。
キースイッチ4R,4C,4Lは、船外機3R,3C,3Lの電源をそれぞれ投入/遮断するために操作されるスイッチである。キースイッチ4R,4C,4Lは、それぞれに対応するキーをキーシリンダに挿入することによって、オフ位置、オン位置および始動位置との間で操作することができる。オフ位置は、対応する船外機3への電源供給を遮断するための操作位置である。オン位置は、対応する船外機3に電源を投入するための操作位置である。始動位置は、対応する船外機3のエンジンを始動させるための操作位置である。
【0050】
ゲージ9は、3基の船外機3に対応して3個備えられている。これらを区別するときには、右舷船外機3Rに対応するものを「右舷ゲージ9R」といい、中央船外機3Cに対応するものを「中央ゲージ9C」といい、左舷船外機3Lに対応するものを「左舷ゲージ9L」という。これらのゲージ9は、対応する船外機3の状態を表示する。より具体的には、対応する船外機3の電源のオン/オフ、エンジン回転速度その他予め定められた情報を表示する。
【0051】
操船席5には、さらに、イモビライザ10(受信機)が備えられている。イモビライザ10は、船舶1の使用者によって携帯されるキーユニット11からの信号を受信し、正当使用者のみに船舶1の通常の使用を許容する装置である。キーユニット11は、ロックボタン12およびアンロックボタン13を備えている。ロックボタン12は、イモビライザ10をロック状態に設定するために操作されるボタンである。このロックボタン12の操作によって、ロック信号がキーユニット11から送出される。イモビライザ10がロック状態に設定されると、船舶1の通常の使用が禁止される状態となる。アンロックボタン13は、ロック状態を解除して、イモビライザ10をアンロック状態に設定し、船舶1の通常の使用を開始するために操作されるボタンである。このアンロックボタン13の操作によって、アンロック信号がキーユニット11から送出される。キーユニット11は、ロック信号およびアンロック信号とともに、使用者認証コードを送出する。
【0052】
イモビライザ10は、キーユニット11からの使用者認証コードを受信して使用者認証処理を実行する。すなわち、イモビライザ10は、予め登録されている照合元データとの一致/不一致を確認する。使用者認証処理に成功すると、イモビライザ10は、キーユニット11からのロック信号およびアンロック信号を受け付ける。使用者認証処理に失敗すると、イモビライザ10は、当該キーユニット11からのロック信号およびアンロック信号に対して無応答となる。
【0053】
図2は、3つの船外機3の共通の構成例を説明するための図である。船外機3は、推進ユニット30と、この推進ユニット30を船体2に取り付ける取り付け機構31とを有している。取り付け機構31は、船体2の後尾板に着脱自在に固定されるクランプブラケット32と、このクランプブラケット32に水平回動軸としてのチルト軸33を中心に回動自在に結合されたスイベルブラケット34とを備えている。推進ユニット30は、スイベルブラケット34に、操舵軸35まわりに回動自在に取り付けられている。これにより、推進ユニット30を操舵軸35まわりに回動させることによって、操舵角(船体2の中心線に対して推進力の方向がなす方位角)を変化させることができる。また、スイベルブラケット34をチルト軸33まわりに回動させることによって、推進ユニット30のトリム角を変化させることができる。トリム角は、船体2に対する船外機3の取り付け角に対応する。
【0054】
推進ユニット30のハウジングは、エンジンカバー(トップカウリング)36とアッパケース37とロアケース38とで構成されている。エンジンカバー36内には、駆動源となるエンジン39がそのクランク軸の軸線が上下方向となるように設置されている。エンジン39のクランク軸下端に連結される動力伝達用のドライブシャフト41は、上下方向にアッパケース37内を通ってロアケース38内にまで延びている。
【0055】
ロアケース38の下部後側には、推進力発生部材としてのプロペラ40が回転自在に装着されている。ロアケース38内には、プロペラ40の回転軸であるプロペラシャフト42が水平方向に通されている。このプロペラシャフト42には、ドライブシャフト41の回転が、クラッチ機構としてのシフト機構43を介して伝達されるようになっている。
シフト機構43は、ドライブシャフト41の下端に固定されたベベルギヤからなる駆動ギヤ43aと、プロペラシャフト42上に回動自在に配置されたベベルギヤからなる前進ギヤ43bと、同じくプロペラシャフト42上に回動自在に配置されたベベルギヤからなる後退ギヤ43cと、前進ギヤ43bおよび後退ギヤ43cの間に配置されたドッグクラッチ43dとを有している。
【0056】
前進ギヤ43bは前方側から駆動ギヤ43aに噛合しており、後退ギヤ43cは後方側から駆動ギヤ43aに噛合している。そのため、前進ギヤ43bおよび後退ギヤ43cは互いに反対方向に回転されることになる。
一方、ドッグクラッチ43dは、プロペラシャフト42にスプライン結合されている。すなわち、ドッグクラッチ43dは、プロペラシャフト42に対してその軸方向に摺動自在であるけれども、プロペラシャフト42に対する相対回動はできず、このプロペラシャフト42とともに回転する。
【0057】
ドッグクラッチ43dは、ドライブシャフト41と平行に上下方向に延びるシフトロッド44の軸周りの回動によって、プロペラシャフト42上で摺動される。これにより、ドッグクラッチ43dは、前進ギヤ43bと結合した前進位置と、後退ギヤ43cと結合した後退位置と、前進ギヤ43bおよび後退ギヤ43cのいずれとも結合されない中立位置(ニュートラル位置)とのいずれかのシフト位置に制御される。
【0058】
ドッグクラッチ43dが前進位置にあるとき、前進ギヤ43bの回転がドッグクラッチ43dを介してプロペラシャフト42に伝達される。これにより、プロペラ40は、一方向(前進方向)に回転し、船体2を前進させる方向の推進力を発生する。一方、ドッグクラッチ43dが後退位置にあるとき、後退ギヤ43cの回転がドッグクラッチ43dを介してプロペラシャフト42に伝達される。後退ギヤ43cは、前進ギヤ43bとは反対方向に回転するため、プロペラ40は、反対方向(後進方向)に回転し、船体2を後退させる方向の推進力を発生する。ドッグクラッチ43dが中立位置にあるとき、ドライブシャフト41の回転はプロペラシャフト42に伝達されない。すなわち、エンジン39とプロペラ40との間の駆動力伝達経路が遮断されるので、いずれの方向の推進力も生じない。
【0059】
エンジン39に関連して、このエンジン39を始動させるためのスタータモータ45が配置されている。スタータモータ45は、船外機ECU(電子制御ユニット)20によって制御される。また、エンジン39のスロットルバルブ46を作動させてスロットル開度を変化させ、エンジン39の吸入空気量を変化させるためのスロットルアクチュエータ51が備えられている。このスロットルアクチュエータ51は、電動モータからなっていてもよい。このスロットルアクチュエータ51の動作は、船外機ECU20によって制御される。エンジン39には、さらに、クランク軸の回転を検出することによってエンジン39の回転速度を検出するためのエンジン回転速度検出部48が備えられている。
【0060】
また、シフトロッド44に関連して、ドッグクラッチ43dのシフト位置を変化させるためのシフトアクチュエータ52(クラッチ作動装置)が設けられている。このシフトアクチュエータ52は、たとえば、電動モータからなり、船外機ECU20によって動作制御される。シフトアクチュエータ52に関連して、シフト機構43のシフト位置を検出するシフト位置センサ49が設けられている。
【0061】
さらに、推進ユニット30に固定された操舵ロッド47には、ハンドル装置6(図1参照)の操作に応じて駆動される操舵機構53が結合されている。この操舵機構53によって、推進ユニット30が操舵軸35まわりに回動され、それによって舵取り操作を行うことができる。操舵機構53は、操舵アクチュエータ53Aを有している。この操舵アクチュエータ53Aは、船外機ECU20によって制御される。操舵アクチュエータ53Aは電動モータで構成されていてもよいし、油圧アクチュエータであってもよい。
【0062】
また、クランプブラケット32とスイベルブラケット34との間には、たとえば液圧シリンダを含み、船外機ECU20によって制御されるチルトトリムアクチュエータ54が設けられている。このチルトトリムアクチュエータ54は、チルト軸33まわりにスイベルブラケット34を回動させることにより、推進ユニット30をチルト軸33まわりに回動させる。
【0063】
図3は、船舶1に備えられた船舶制御システムの電気的構成を説明するための図である。
リモコン7は、アナログ信号線61を介して、リモコンECU(電子制御ユニット)60に接続されている。より具体的には、リモコン7は、左右のリモコンレバー7L,7Rの操作位置を検出するポジションセンサ62L,62Rを備えている。これらのポジションセンサ62L,62Rの出力信号が、リモコンECU60に入力されるようになっている。また、リモコンECU60には、操作パネル8からの信号が入力されるようになっている。さらに、リモコンECU60には、ステアリング装置6が接続されている。具体的には、ステアリングハンドル6aの操作角を検出する操作角センサ63の出力信号がリモコンECU60に入力されるようになっている。リモコンECU60には、さらに、必要に応じて、ジョイスティック64、パワー・チルト・トリムスイッチ(PTTSW)65等のその他の操作装置が接続されてもよい。リモコンECU60は、マイクロコンピュータを内蔵しており、入力信号に応じて、船外機3R,3C,3Lを制御するための制御指令を生成する。
【0064】
一方、船外機3R,3C,3Lは、それぞれ船外機ECU20を備えている。船外機ECU20には、エンジンユニット50(より具体的には、インジェクタ55および点火コイル56)、シフトアクチュエータ52、スロットルアクチュエータ51、チルトトリムアクチュエータ54、スタータモータ45、および操舵アクチュエータ53Aが制御対象として接続されている。これらの制御対象を、以下では「アクチュエータ類」という場合がある。
【0065】
船外機ECU20は、マイクロコンピュータを内蔵しており、リモコンECU60から与えられる指令に従って、前記アクチュエータ類を制御する。なお、図3には、中央船外機3Cに対応する船外機ECU20によって制御されるアクチュエータ類(制御対象)のみを図示してある。むろん、右舷船外機3Rおよび左舷船外機3Lに備えられた同様のアクチュエータ類は、対応する船外機ECU20によってそれぞれ制御される。
【0066】
リモコンECU60と船外機3R,3C,3Lの船外機ECU20とは、船舶1内に構築されたCAN(コントロールエリアネットワーク)70を介して通信する。CAN70は、CANケーブルで形成された第1通信バス71および第2通信バス72を備えている。第1通信バス71は、専ら、リモコンECU60と船外機ECU20との通信に用いられる。第2通信バス72は、リモコンECU60と船外機ECU20との通信に用いられるほか、船舶1の機能を拡張するための拡張機器のための情報(以下「補助情報」という。)の通信のために用いられる。
【0067】
リモコンECU60は、第1通信バス71および第2通信バス72に接続されている。より具体的には、リモコンECU60は、主出力部としての第1ポートP1(入出力部)と、副出力部としての第2ポートP2(入出力部)とを有している。第1ポートP1に第1通信バス71が接続されており、第2ポートP2に第2通信バス72が接続されている。
【0068】
第1および第2通信バス71,72は、全ての船外機3R,3C,3Lに接続されている。すなわち、第1および第2通信バス71,72は、全船外機3R,3C,3Lの船外機ECU20にそれぞれ接続されている。したがって、各船外機3R,3C,3Lの船外機ECU20は、第1通信バス71および第2通信バス72を介して、リモコンECU60と通信を行うことができる。
【0069】
リモコンECU60は、通信先の船外機ECU20を指定して制御指令を出力する。指定された船外機ECU20は、その制御指令を受け取り、当該制御指令に従ってアクチュエータ類を制御する。ただし、船外機ECU20は、他の船外機の船外機ECU20を宛先として送出された制御指令を取り込んで、アクチュエータ類の制御に用いることもできる。
【0070】
リモコンECU60は、第1ポートP1および第2ポートP2に船外機3の制御のための制御指令を送出する。以下では、リモコンECU60が第1ポートP1に送出する制御指令を「操船制御情報」といい、リモコンECU60が第2ポートP2に送出する制御指令を「バックアップ情報」という。操船制御情報は、始動情報、目標エンジン回転速度、目標シフト位置および目標操舵角を含む。操船制御情報は、その他、チルト指令およびトリム指令を含んでいてもよい。バックアップ情報は、始動情報、目標エンジン回転速度、目標シフト位置および目標操舵角を含む。バックアップ情報は、さらに、チルト指令およびトリム指令を含んでいてもよい。始動情報は、船外機3のエンジンを始動させるための始動指令を含む。
【0071】
始動指令は、キースイッチ4が始動位置まで操作されたときに出力される。この始動指令に応答して、船外機ECU20は、スタータモータ45を駆動するとともに、インジェクタ55の制御(燃料噴射制御)および点火コイル56の制御(点火制御)を開始する。目標エンジン回転速度は、船外機3のエンジン39の回転速度の目標値である。この目標エンジン回転速度に従って、船外機ECU20は、スロットルアクチュエータ51を制御する。目標シフト位置は、シフト機構43のシフト位置に関する指令値である。この目標シフト位置に従って、船外機ECU20は、シフトアクチュエータ52を制御する。目標操舵角は、船外機3の船体2に対する方位角の目標値である。通常は、ステアリングハンドル6aの操作角に応じた目標操舵角が生成される。この目標操舵角に従って、船外機ECU20は、操舵アクチュエータ53Aを制御する。チルト指令およびトリム指令は、パワー・チルト・トリムスイッチ65の操作に応答して生成される。チルト指令は、プロペラ40を船外機3を水面上に持ち上げさせたり、水中に浸漬させたりするための指令である。トリム指令は、船体2に対する船外機3の俯角/仰角を変化させるための指令である。船外機ECU20は、チルト指令およびトリム指令に従って、チルトトリムアクチュエータ54を制御する。
【0072】
第2通信バス72には、拡張機器が接続可能な1つ以上の拡張機器接続部72aが備えられている。拡張機器接続部72aは、第2通信バス72から分岐した補助通信バスであってもよい。図3の例では、複数の拡張機器80が第2通信バス72に接続されている。これらの拡張機器80は、第2通信バス72を介してリモコンECU60および船外機ECU20の一方または両方との間で補助情報を授受することができる。これらの拡張機器80としては、高機能ゲージ81、障害物センサ82、イモビライザ(受信機)10、トライデューサ(船速・水深・水温センサ)83、方位センサ84、風向・風速計85、トリムタブ・バウスラスタ・コントローラ86、サービスツール87、バウスラスタ88、単機能ゲージ9R,9C,9Lを例示することができる。バウスラスタ88は、トリムタブ・バウスラスタ・コントローラ86によって制御されるようになっている。バウスラスタは、船体の左右方向への推進力を発生する補助推進機である。このような補助推進機も拡張機器の一例である。
【0073】
また、通信プロトコルが異なる拡張機器(サードパーティ製の機器)90は、ゲートウェイ(G/W)95を介して第2通信バス72に接続できるようになっている。すなわち、拡張機器90は、ゲートウェイ95および第2通信バス72を介してリモコンECU60および船外機ECU20の一方または両方との間で補助情報を授受することができる。これらの拡張機器90としては、魚群探知機91、GPS受信機92、ゲージ93を例示できる。
【0074】
たとえば、ゲージ9R,9C,9L,93は、船外機ECU20からエンジン回転速度情報を受信して、表示するものであってもよい。サービスツール87は、たとえば、メンテナンスのための所定のツール(コンピュータプログラム)をインストールしたパーソナルコンピュータであってもよい。拡張機器80,90には、情報を送信するだけのもの、情報を受信するだけのもの、および情報を送信および受信するものがある。接続すべき拡張機器の選択は、使用者に委ねられる。使用者の選択に応じて、ボートビルダが必要な拡張機器を第2通信バス72に接続することになる。
【0075】
船外機ECU20は、第1通信バス71の故障(主として断線)を検出するための故障検出機能を有していてもよい。船外機ECU20は、第1通信バス71に故障が生じていない正常時と、第1通信バス71に故障が生じた故障時とで、異なる動作を実行するように予めプログラムされていてもよい。
[1−1.第1の制御例]
図4は、この実施形態において適用可能な第1の制御例を説明するための図解的なブロック図である。リモコンECU60は、所定の第1周期で第1ポートP1に操船制御情報を送出し、所定の第2周期で第2ポートP2にバックアップ情報を送出する。第2周期は第1周期よりも長く設定されている。したがって、第1通信バス71に第1周期で操船制御情報が送出され、第2通信バス72には、第1周期よりも長い第2周期でバックアップ情報が送出される。したがって、第2通信バス72に送出されるバックアップ情報の単位時間当たりの情報量は、第1通信バス71に送出される操船制御情報の単位時間当たりの情報量よりも少ない。その分、第2通信バス72の通信負荷が軽減されている。ただし、第2通信バス72には、拡張機器80,90が接続されているので、これらの拡張機器80,90に関連した補助情報が第2通信バス72を介して伝送されることになる。
【0076】
各船外機3の船外機ECU20は、第1通信バス71の故障の有無を監視している。第1通信バス71に故障が生じていない正常時には、各船外機ECU20は、第1通信バス71を介して送られてくる操船制御情報に基づいて、アクチュエータ類(制御対象)を制御する。一方、第1通信バス71に故障が生じていると判断されると、船外機ECU20は、第2通信バス72を介して送られてくるバックアップ情報に従ってアクチュエータ類を制御する。こうして、第1通信バス71に故障が生じたときでも、船外機ECU20は、第2通信バス72を介してリモコンECU60からの制御指令を受け取ることができる。
【0077】
第2通信バス72を介して与えられる制御指令は、前記第2周期毎に更新されることになるから、正常時に比較すると、制御の応答性が悪くなる。しかし、リモコンECU60による船外機3の制御が可能な状態であるから、船外機3を運転させて、船舶1を航行させることができる。
第1通信バス71は、専ら操船制御情報の伝送を担う。そのため、接続可能な最大数のリモコンECU60(操船席の数)および最大数の船外機ECU20(船外機3の数)を想定した最大通信容量に適応できるバス容量に設計しておけば足りる。すなわち、拡張機器80,90のための補助情報の伝送を想定したバス容量設計を行う必要がない。
【0078】
一方、第2通信バス72は、バックアップ情報の伝送を担ううえに、拡張機器80,90のための補助情報の伝送を担う。しかし、バックアップ情報の送出周期は長いため、バックアップ情報の伝送のための通信負荷は抑えられている。そのため、大容量の通信を想定して設計する必要がない。
このようにして、第1および第2通信バス71,72の通信データ量を効率的に利用できるので、第1および第2通信バス71,72ともに必要最小限のバス容量とすることができる。また、第2通信バス72を介して伝送されるバックアップ情報の情報量を抑制しているので、拡張機器80,90のための専用通信バスを設ける必要がなく、第2通信バス72を補助情報の伝送のために共用できる。これにより、CAN70の構成を簡潔にすることができるから、この船舶制御システムを艤装する際の手数および時間を削減できる。
【0079】
第1の制御例においては、各船外機3の船外機ECU20は、第1通信バス71の故障の有無を監視しないようにしてもよい。第1通信バス71に故障が生じていない正常時には、各船外機ECU20は、第1通信バスと第2通信バスのいずれの通信バスからも情報を取得できる状態である。このとき、各船外機ECU20は、実質的に送信周期が短い第1通信バス71を介して送られてくる操船制御情報に基づいて、アクチュエータ類(制御対象)を制御する。一方、第1通信バス71に故障が生じている場合は、各船外機ECU20は、第2通信バスからの情報のみを取得できる状態である。このとき、船外機ECU20は、第2通信バス72を介して送られてくるバックアップ情報に従ってアクチュエータ類を制御する。こうして、故障検知をしなくても、第1通信バス71に故障が生じたときには、船外機ECU20は、第2通信バス72を介してリモコンECU60からの制御指令を受け取ることができる。
【0080】
[1−2.第2の制御例]
図5は、この実施形態において適用可能な第2の制御例を説明するための図解的なブロック図である。リモコンECU60は、第1ポートP1に操船制御情報を送出し、第2ポートP2にバックアップ情報を送出する。操船制御情報およびバックアップ情報の送出周期は等しくてもよいし、バックアップ情報の送出周期を操船制御情報の送出周期よりも長くしてもよい。
【0081】
各船外機3の船外機ECU20は、第1通信バス71の故障の有無を監視している。第1通信バス71に故障が生じていない正常時には、各船外機ECU20は、第1通信バス71を介して送られてくる操船制御情報に基づいて、アクチュエータ類を制御する。一方、第1通信バス71に故障が生じていると判断されると、船外機ECU20は、第2通信バス72を介して送られてくるバックアップ情報に従ってアクチュエータ類を制御する。
【0082】
操船制御情報は、全ての船外機3R,3C,3Lのための制御指令を含む。これに対して、バックアップ情報は、一部の船外機3のための制御指令のみを含む。したがって、バックアップ情報の単位時間当たりの情報量は、操船制御情報の単位時間当たりの情報量よりも少ない。
より具体的には、バックアップ情報は、中央船外機3Cに対する制御指令だけを含んでいてもよい。したがって、第1通信バス71に故障が生じたときには、左舷船外機3Lおよび右舷船外機3Rの運転が停止し、中央船外機3Cのみが運転可能となる。これにより、通常時よりも制限された態様ではあるけれども、船舶1を航行させることができる。
【0083】
また、バックアップ情報は、中央船外機3Cに対する制御指令を含まず、左舷船外機3Lおよび右舷船外機3Rの制御指令のみを含んでいてもよい。この場合、第1通信バス71に故障が生じたときには、中央船外機3Cの運転が停止し、左舷船外機3Lおよび右舷船外機3Rのみが運転可能となる。これにより、通常時よりも制限された態様ではあるけれども、船舶1を航行させることができる。
【0084】
このようにして、第1制御例の場合と同様の効果を実現できる。
なお、第1通信バス71に故障が生じたときに、バックアップ情報に制御指令が含まれていない船外機は、運転を停止する代わりに、アイドル回転速度でエンジンを運転することとしてもよい。この場合、シフト位置は中立位置に制御することが好ましい。
[1−3.第3の制御例]
図6は、この実施形態において適用可能な第3の制御例を説明するためのフローチャートであり、各船外機3の船外機ECU20で実行される処理が示されている。この制御例の説明において、前述の図5を再び参照する。この制御例においては、リモコンECU60は、第1ポートP1に操船制御情報を送出し、第2ポートP2にバックアップ情報を送出する。操船制御情報およびバックアップ情報の送出周期は等しくてもよいし、バックアップ情報の送出周期を操船制御情報の送出周期よりも長くしてもよい。この制御例においては、バックアップ情報は、右舷船外機3Rのための制御指令と、左舷船外機3Lのための制御指令とを含み、中央船外機3Cのための制御指令は含まない。 各船外機3の船外機ECU20は、第1通信バス71の故障の有無を監視している(ステップS1)。第1通信バス71に故障が生じていない正常時には(ステップS1:NO)、各船外機ECU20は、第1通信バス71を介して送られてくる操船制御情報に基づいて、アクチュエータ類を制御する(ステップS2)。一方、第1通信バス71に故障が生じていると判断されると(ステップS1:YES)、船外機ECU20は、当該船外機3の位置を判断する(ステップS3)。すなわち、船外機ECU20は、対応する船外機3(自機)が右舷船外機3R、中央船外機3Cおよび左舷船外機3Lのうちのどれであるのかを表す船外機識別データを内部のメモリ(図示せず)に保持している。船外機ECU20は、その船外機識別データを読み出すことにより、自機の位置を判断する。自機が右舷船外機3Rである場合には、船外機ECU20は、第2通信バス72を介して送られてくるバックアップ情報に含まれる右舷船外機用制御指令(右舷指令)に基づいて、当該右舷船外機3Rのアクチュエータ類を制御する(ステップS4)。また、自機が左舷船外機3Lである場合には、船外機ECU20は、第2通信バス72を介して送られてくるバックアップ情報に含まれる左舷船外機用制御指令(左舷指令)に基づいて、当該左舷船外機3Lのアクチュエータ類を制御する(ステップS5)。
【0085】
一方、自機が中央船外機3Cである場合には、船外機ECU20は、第2通信バス72を介して送られてくるバックアップ情報に含まれる右舷指令および左舷指令に基づいて、当該中央船外機3Cのアクチュエータ類を制御する(ステップS6)。
右舷指令および左舷指令に基づく中央船外機3Cの制御の一例は、次のとおりである。右舷指令および左舷指令に含まれている目標シフト位置がいずれも前進位置である場合、中央船外機3Cの目標シフト位置を前進位置とする。右舷指令および左舷指令に含まれている目標シフト位置がいずれも後退位置である場合、中央船外機3Cの目標シフト位置を後退位置とする。右舷指令および左舷指令に含まれている目標シフト位置がいずれも中立位置である場合、中央船外機3Cの目標シフト位置を中立位置とする。右舷指令および左舷指令に含まれている目標シフト位置が不一致の場合には、中央船外機3Cの目標シフト位置を中立位置とする。中央船外機3Cの目標シフト位置を中立位置とする場合には、中央船外機3Cの目標エンジン回転速度はアイドル回転速度とする。中央船外機3Cの目標シフト位置を前進位置または後退位置とするときには、中央船外機3Cの目標エンジン回転速度は、右舷指令および左舷指令に含まれている目標エンジン回転速度の平均値とする。中央船外機3Cの目標操舵角は、0度とする。すなわち、左右のいずれにも偏角が生じていない中立姿勢に中央船外機3Cが保持される。
【0086】
このようにして、右舷指令および左舷指令に基づいて中央船外機3Cを制御できる。これにより、第1通信バス71に故障が生じている場合であっても、全ての船外機3の運転を継続して、船舶1を航行させることができる。
[1−4.第4の制御例]
図7は、この実施形態において適用可能な第4の制御例を説明するための図解的なブロック図である。リモコンECU60は、第1ポートP1に操船制御情報を送出し、第2ポートP2にバックアップ情報を送出する。操船制御情報およびバックアップ情報の送出周期は異なっていてもよいけれども、等しい方が好ましい。
【0087】
この制御例では、操船制御情報は、右舷船外機3Rのための制御指令(右舷指令)と、左舷船外機3Lのための制御指令(左舷指令)とを含み、中央船外機3Cのための制御指令(中央指令)を含まない。これに対して、バックアップ情報は、中央船外機3Cのための制御指令(中央指令)を含み、右舷指令および左舷指令のいずれも含まない。したがって、バックアップ情報の単位時間当たりの情報量は、操船制御情報の単位時間当たりの情報量よりも少ない。
【0088】
右舷船外機3Rおよび左舷船外機3Lの船外機ECU20は、それぞれ、第1通信バス71の故障の有無を監視している。第1通信バス71に故障が生じていない正常時には、右舷船外機3Rおよび左舷船外機3Lの船外機ECU20は、操船制御情報に含まれる右舷指令および左舷指令にそれぞれ従ってアクチュエータ類を制御する。また、中央船外機3Cは、第2通信バス72を介して送られてくるバックアップ情報に含まれる中央指令に従ってアクチュエータ類を制御する。
【0089】
一方、第1通信バス71に故障が生じていると判断されると、右舷船外機3Rおよび左舷船外機3Lの船外機ECU20は、アクチュエータ類の制御を停止する。この場合、右舷船外機3Rおよび左舷船外機3Lのエンジンは、停止状態とされてもよいし、アイドル回転状態とされてもよい。シフト位置は、中立位置に制御され、操舵角は零に制御される。この場合でも、中央船外機3Cは、バックアップ情報に含まれる中央指令に従って制御されるから、船舶1の航行が可能である。
【0090】
このようにして、通常時には、第1通信バス71と第2通信バス72とで補完し合うことにより、全船外機3を制御できる。そして、第1通信バス71の故障時には、第2通信バス72を介して伝送されるバックアップ情報中の中央指令によって、中央船外機3Cを運転させることができる。
第2通信バス72に故障が生じれば、第1通信バス71を介して伝送される右舷指令および左舷指令によって、左右の船外機3R,3Lを運転させることができるから、やはり船舶1を航行させることができる。この場合、中央船外機3Cのエンジンは、停止状態とされてもよいし、アイドル回転状態とされてもよい。シフト位置は中立位置に制御され、操舵角は零に制御される。
【0091】
[2.第2の実施形態]
図8は、この発明の第2の実施形態に係る船舶の構成を示す図解的な平面図である。この実施形態では、船体2の船尾に4基の船外機3が船体2の左右方向に沿って一列に配列されている。4つの船外機3を区別するために、最右舷に配置された船外機3を「最右舷船外機3R」といい、最左舷に配置された船外機3を「最左舷船外機3L」という。さらに、中央の2基の船外機3のうち、右舷側の船外機3を「中央右船外機3CR」といい、左舷側の船外機3を「中央左船外機3CL」ということにする。
【0092】
各船外機3は、それぞれ船外機ECU20を備えている。操船席5には、一つのリモコンECU60が備えられている。リモコンECU60と4つの船外機ECU20とは、第1通信バス71および第2通信バス72で接続されている。リモコンECU60は第1通信バス71に操船制御情報を送出し、第2通信バス72にバックアップ情報を送出する。これらは、4つの船外機ECU20においてそれぞれ受信可能である。第2通信バス72に拡張機器80,90が接続可能であることなどは、前述の第1実施形態と同様である。
【0093】
[2−1.第1の制御例]
この実施形態において適用可能な第1の制御例は、前記第1の実施形態における第1の制御例(図4参照)と同様である。すなわち、リモコンECU60は、所定の第1周期で第1ポートP1に操船制御情報を送出し、所定の第2周期で第2ポートP2にバックアップ情報を送出する。第2周期は第1周期よりも長く設定されている。
【0094】
各船外機3の船外機ECU20は、第1通信バス71の故障の有無を監視している。第1通信バス71に故障が生じていない正常時には、各船外機ECU20は、第1通信バス71を介して送られてくる操船制御情報に基づいて、アクチュエータ類を制御する。一方、第1通信バス71に故障が生じていると判断されると、船外機ECU20は、第2通信バス72を介して送られてくるバックアップ情報に従ってアクチュエータ類を制御する。
【0095】
第1の制御例においては、各船外機3の船外機ECU20は、第1通信バス71の故障の有無を監視しないようにしてもよい。第1通信バス71に故障が生じていない正常時には、各船外機ECU20は、第1通信バスと第2通信バスのいずれの通信バスからも情報を取得できる状態である。このとき、各船外機ECU20は、実質的に送信周期が短い第1通信バス71を介して送られてくる操船制御情報に基づいて、アクチュエータ類(制御対象)を制御する。一方、第1通信バス71に故障が生じている場合は、各船外機ECU20は、第2通信バスからの情報のみを取得できる状態である。このとき、船外機ECU20は、第2通信バス72を介して送られてくるバックアップ情報に従ってアクチュエータ類を制御する。こうして、故障検知をしなくても、第1通信バス71に故障が生じたときには、船外機ECU20は、第2通信バス72を介してリモコンECU60からの制御指令を受け取ることができる。
【0096】
[2−2.第2の制御例]
この実施形態において適用可能な第2の制御例は、前述の第1の実施形態における第2の制御例(図5参照)と同様である。すなわち、リモコンECU60は、第1ポートP1に操船制御情報を送出し、第2ポートP2にバックアップ情報を送出する。操船制御情報およびバックアップ情報の送出周期は等しくてもよいし、バックアップ情報の送出周期を操船制御情報の送出周期よりも長くしてもよい。
【0097】
操船制御情報は、全ての船外機3のための制御指令を含む。これに対して、バックアップ情報は、一部の船外機3のための制御指令のみを含む。したがって、バックアップ情報の単位時間当たりの情報量は、操船制御情報の単位時間当たりの情報量よりも少ない。
より具体的には、バックアップ情報は、中央右船外機3CRおよび中央左船外機3CLに対する制御指令だけを含んでいてもよい。したがって、第1通信バス71に故障が生じたときには、最左舷船外機3Lおよび最右舷船外機3Rの運転が停止し、中央の2基の船外機3CR,3CLのみが運転可能となる。これにより、通常時よりも制限された態様ではあるけれども、船舶1を航行させることができる。最左舷船外機3Lおよび最右舷船外機3Rは、操舵角を零に制御することが好ましい。
【0098】
また、バックアップ情報は、中央の2基の船外機3CR,3CLに対する制御指令を含まず、最左舷船外機3Lおよび最右舷船外機3Rの制御指令のみを含んでいてもよい。この場合、第1通信バス71に故障が生じたときには、中央の2基の船外機3CR,3CLの運転が停止し、最左舷船外機3Lおよび最右舷船外機3Rのみが運転可能となる。これにより、通常時よりも制限された態様ではあるけれども、船舶1を航行させることができる。中央の2基の船外機3CR,3CLは、操舵角を零に制御することが好ましい。
【0099】
なお、第1通信バス71に故障が生じたときに、バックアップ情報に制御指令が含まれていない船外機は、運転を停止する代わりに、アイドル回転速度でエンジンを運転することとしてもよい。この場合、シフト位置は中立位置に制御することが好ましい。
[2−3.第3の制御例]
図9は、この実施形態において適用可能な第3の制御例を説明するための図解的なブロック図である。また、図10は、各船外機3の船外機ECU20で実行される処理を示すフローチャートである。この制御例においては、リモコンECU60は、第1ポートP1に操船制御情報を送出し、第2ポートP2にバックアップ情報を送出する。操船制御情報およびバックアップ情報の送出周期は等しくてもよいし、バックアップ情報の送出周期を操船制御情報の送出周期よりも長くしてもよい。この制御例においては、操船制御情報は、全ての船外機3のための制御指令を含む。これに対して、バックアップ情報は、最右舷船外機3Rのための制御指令(右舷指令)と、最左舷船外機3Lのための制御指令(左舷指令)とを含み、中央の2基の船外機3CR,3CLのための制御指令は含まない。
【0100】
各船外機3の船外機ECU20は、第1通信バス71の故障の有無を監視している(ステップS11)。第1通信バス71に故障が生じていない正常時には(ステップS11:NO)、各船外機ECU20は、第1通信バス71を介して送られてくる操船制御情報に基づいて、アクチュエータ類を制御する(ステップS12)。一方、第1通信バス71に故障が生じていると判断されると(ステップS11:YES)、船外機ECU20は、当該船外機3の位置を判断する(ステップS13)。すなわち、船外機ECU20は、対応する船外機3(自機)が最右舷船外機3R、最左舷船外機3L、中央右船外機3CRおよび中央左船外機3CLのうちのどれであるのかを表す船外機識別データを保持している。船外機ECU20は、その船外機識別データに基づいて、自機の位置を判断する。具体的には、中央よりも右舷側の船外機3CR,3Rのいずれかであるのか、または中央よりも左舷側の船外機3CL,3Lのいずれかであるのかを判断する。自機が右舷側の船外機3CRまたは3Rである場合には、船外機ECU20は、第2通信バス72を介して送られてくるバックアップ情報に含まれる右舷船外機用制御指令(右舷指令)に基づいて、当該船外機3CR,3Rのアクチュエータ類を制御する(ステップS14)。また、自機が左舷側の船外機3CLまたは3Lである場合には、船外機ECU20は、第2通信バス72を介して送られてくるバックアップ情報に含まれる左舷船外機用制御指令(左舷指令)に基づいて、当該左舷側の船外機3CL,3Lのアクチュエータ類を制御する(ステップS15)。
【0101】
このようにして、バックアップ情報に含まれる右舷指令および左舷指令に基づいて全ての船外機3を制御できる。これにより、第1通信バス71に故障が生じている場合であっても、全ての船外機3を運転して、船舶1を航行させることができる。
[2−4.第4の制御例]
図11は、この実施形態において適用可能な第4の制御例を説明するための図解的なブロック図である。リモコンECU60は、第1ポートP1に操船制御情報を送出し、第2ポートP2にバックアップ情報を送出する。操船制御情報およびバックアップ情報の送出周期は異なっていてもよいけれども、等しい方が好ましい。
【0102】
この制御例では、操船制御情報は、最右舷船外機3Rのための制御指令(最右舷指令)と、最左舷船外機3Lのための制御指令(最左舷指令)とを含み、中央の2基の船外機3CL,3CRのための制御指令(中央左指令および中央右指令)を含まない。これに対して、バックアップ情報は、中央左船外機3CLのための制御指令(中央左指令)および中央右船外機3CRのための制御指令(中央右指令)を含み、最左舷指令および最右舷指令のいずれも含まない。
【0103】
最右舷船外機3Rおよび最左舷船外機3Lの船外機ECU20は、それぞれ、第1通信バス71の故障の有無を監視している。第1通信バス71に故障が生じていない正常時には、最右舷船外機3Rおよび最左舷船外機3Lの船外機ECU20は、最右舷指令および最左舷指令にそれぞれ従ってアクチュエータ類を制御する。また、中央右船外機3CRの船外機ECU20は、第2通信バス72を介して送られてくるバックアップ情報に含まれる中央右指令に従ってアクチュエータ類を制御する。同様に、中央左船外機3CLの船外機ECU20は、第2通信バス72を介して送られてくるバックアップ情報に含まれる中央左指令に従ってアクチュエータ類を制御する。
【0104】
一方、第1通信バス71に故障が生じていると判断されると、最右舷船外機3Rおよび最左舷船外機3Lの船外機ECU20は、アクチュエータ類の制御を停止する。この場合、最右舷船外機3Lおよび左舷船外機3Rのエンジンは、停止状態とされてもよいし、アイドル回転状態とされてもよい。シフト位置は、中立位置に制御され、操舵角は零に制御される。この場合でも、中央右船外機3CRおよび中央左船外機3CLは、バックアップ情報に含まれる中央右指令および中央左指令にそれぞれ従って制御されるから、船舶1の航行が可能である。
【0105】
このようにして、通常時には、第1通信バス71と第2通信バス72とで補完し合うことにより、全船外機3を制御できる。そして、第1通信バス71の故障時には、第2通信バス72を介して伝送されるバックアップ情報中の中央左指令および中央右指令によって、中央の2基の船外機3CR,3CLを運転させることができる。この場合、第2通信バス72は、バックアップ情報だけでなく拡張機器80,90のための補助情報の伝送も担うため、制御の応答がやや遅れるおそれ場合がある。したがって、正常時に比較すると制限された運転状態となる。それでもなお、船舶1を航行させることは可能である。
【0106】
第2通信バス72に故障が生じれば、第1通信バス71を介して伝送される最右舷指令および最左舷指令によって、左右の船外機3L,3Rを運転させることができるから、やはり船舶1を航行させることができる。この場合、中央の2基の船外機3CL,3CRのエンジンは、停止状態とされてもよいし、アイドル回転状態とされてもよい。シフト位置は中立位置に制御され、操舵角は零に制御される。
【0107】
第1通信バス71の故障時において、最右舷船外機3Rおよび最左舷船外機3Lの運転を停止(またはアイドル状態)とする代わりに、バックアップ情報に含まれる制御指令を用いて運転を行うようにしてもよい。具体的には、最右舷船外機3Rの船外機ECU20は、第1通信バス71の故障時には、中央右指令に従ってアクチュエータ類の制御を行ってもよい。同様に、最左舷船外機3Lのための船外機ECU20は、第1通信バス71の故障時には、中央左指令に従ってアクチュエータ類の制御を行ってもよい。
【0108】
同様に、第2通信バス72の故障時において、中央右船外機3CRおよび中央左船外機3CLの運転を停止(またはアイドル状態)とする代わりに、操船制御情報に含まれる制御指令を用いて運転を行うようにしてもよい。具体的には、中央右船外機3CRの船外機ECU20は、第2通信バス72の故障時には、最右舷指令に従ってアクチュエータ類の制御を行ってもよい。同様に、中央左船外機3CLのための船外機ECU20は、第2通信バス72の故障時には、最左舷指令に従ってアクチュエータ類の制御を行ってもよい。
【0109】
また、第1通信バス71を通って伝送される操船制御情報を中央の2基の船外機3CR,3CLに割り当て、第2通信バス72を通って伝送されるバックアップ情報を最左舷および最右舷の船外機3L,3Rに割り当てるようにしてもよい。
[3.第3の実施形態]
図12は、この発明の第3の実施形態に係る船舶の構成を示す図解的な平面図である。この実施形態では、船体2の船尾に5基の船外機3が船体2の左右方向に沿って一列に配列されている。5つの船外機3を区別するために、最右舷に配置された船外機3を「最右舷船外機3R」といい、最左舷に配置された船外機3を「最左舷船外機3L」といい、中央の船外機3を「中央船外機3C」という。さらに、中央船外機3Cと最右舷船外機3Rとの間の船外機3を「中央右船外機3CR」といい、中央船外機3Cと最左舷船外機3Lとの間の船外機3を「中央左船外機3CL」ということにする。
【0110】
各船外機3は、それぞれ船外機ECU20を備えている。操船席5には、一つのリモコンECU60が備えられている。リモコンECU60と5つの船外機ECU20とは、第1通信バス71および第2通信バス72で接続されている。リモコンECU60は第1通信バス71に操船制御情報を送出し、第2通信バス72にバックアップ情報を送出する。これらは、5つの船外機ECU20においてそれぞれ受信可能である。第2通信バス72に拡張機器80,90が接続可能であることなどは、前述の第1実施形態と同様である。
【0111】
[3−1.第1の制御例]
この実施形態において適用可能な第1の制御例は、前記第1の実施形態における第1の制御例(図4参照)と同様である。すなわち、リモコンECU60は、所定の第1周期で第1ポートP1に操船制御情報を送出し、所定の第2周期で第2ポートP2にバックアップ情報を送出する。第2周期は第1周期よりも長く設定されている。
【0112】
各船外機3の船外機ECU20は、第1通信バス71の故障の有無を監視している。第1通信バス71に故障が生じていない正常時には、各船外機ECU20は、第1通信バス71を介して送られてくる操船制御情報に基づいて、アクチュエータ類を制御する。一方、第1通信バス71に故障が生じていると判断されると、船外機ECU20は、第2通信バス72を介して送られてくるバックアップ情報に従ってアクチュエータ類を制御する。
【0113】
第1の制御例においては、各船外機3の船外機ECU20は、第1通信バス71の故障の有無を監視しないようにしてもよい。第1通信バス71に故障が生じていない正常時には、各船外機ECU20は、第1通信バスと第2通信バスのいずれの通信バスからも情報を取得できる状態である。このとき、各船外機ECU20は、実質的に送信周期が短い第1通信バス71を介して送られてくる操船制御情報に基づいて、アクチュエータ類(制御対象)を制御する。一方、第1通信バス71に故障が生じている場合は、各船外機ECU20は、第2通信バスからの情報のみを取得できる状態である。このとき、船外機ECU20は、第2通信バス72を介して送られてくるバックアップ情報に従ってアクチュエータ類を制御する。こうして、故障検知をしなくても、第1通信バス71に故障が生じたときには、船外機ECU20は、第2通信バス72を介してリモコンECU60からの制御指令を受け取ることができる。
【0114】
[3−2.第2の制御例]
この実施形態において適用可能な第2の制御例は、前述の第1の実施形態における第2の制御例(図5参照)と同様である。すなわち、リモコンECU60は、第1ポートP1に操船制御情報を送出し、第2ポートP2にバックアップ情報を送出する。操船制御情報およびバックアップ情報の送出周期は等しくてもよいし、バックアップ情報の送出周期を操船制御情報の送出周期よりも長くしてもよい。
【0115】
操船制御情報は、全ての船外機3のための制御指令を含む。これに対して、バックアップ情報は、一部の船外機3のための制御指令のみを含む。したがって、バックアップ情報の単位時間当たりの情報量は、操船制御情報の単位時間当たりの情報量よりも少ない。
より具体的には、バックアップ情報は、中央船外機3C、最右舷船外機3Lおよび最左舷船外機3Lに対する制御指令だけを含んでいてもよい。したがって、第1通信バス71に故障が生じたときには、中央右船外機3CRおよび中央左船外機3CLの運転が停止し、中央船外機3C、最右舷船外機3Lおよび最左舷船外機3Lのみが運転可能となる。これにより、通常時よりも制限された態様ではあるけれども、船舶1を航行させることができる。中央右船外機3CRおよび中央左船外機3CLは、操舵角を零に制御することが好ましい。
【0116】
また、バックアップ情報は、中央船外機3C、最右舷船外機3Lおよび最左舷船外機3Lに対する制御指令を含まず、中央右船外機3CRおよび中央左船外機3CLの制御指令のみを含んでいてもよい。この場合、第1通信バス71に故障が生じたときには、中央船外機3C、最右舷船外機3Lおよび最左舷船外機3Lの運転が停止し、中央右船外機3CRおよび中央左船外機3CLのみが運転可能となる。これにより、通常時よりも制限された態様ではあるけれども、船舶1を航行させることができる。この場合、最右舷船外機3R、最左舷船外機3Lおよび中央船外機3Cは、操舵角を零に制御することが好ましい。
【0117】
なお、第1通信バス71に故障が生じたときに、バックアップ情報に制御指令が含まれていない船外機は、運転を停止する代わりに、アイドル回転速度でエンジンを運転することとしてもよい。この場合、シフト位置は中立位置に制御することが好ましい。
[3−3.第3の制御例]
図13は、この実施形態において適用可能な第3の制御例を説明するための図解的なブロック図である。また、図14は、各船外機3の船外機ECU20で実行される処理を示すフローチャートである。この制御例においては、リモコンECU60は、第1ポートP1に操船制御情報を送出し、第2ポートP2にバックアップ情報を送出する。操船制御情報およびバックアップ情報の送出周期は等しくてもよいし、バックアップ情報の送出周期を操船制御情報の送出周期よりも長くしてもよい。この制御例においては、操船制御情報は、全ての船外機3のための制御指令を含む。これに対して、バックアップ情報は、中央船外機3Cのための制御指令(中央指令)と、最右舷船外機3Lのための制御指令(最右舷指令)と、最左舷船外機3Lに対する制御指令(最左舷指令)とを含む。バックアップ情報は、中央右船外機3CRのための制御指令(中央右指令)と、中央左船外機3CLのための制御指令(中央左指令)とは含まない。
【0118】
各船外機3の船外機ECU20は、第1通信バス71の故障の有無を監視している(ステップS21)。第1通信バス71に故障が生じていない正常時には(ステップS21:NO)、各船外機ECU20は、第1通信バス71を介して送られてくる操船制御情報に基づいて、アクチュエータ類を制御する(ステップS22)。一方、第1通信バス71に故障が生じていると判断されると(ステップS21:YES)、船外機ECU20は、当該船外機3の位置を判断する(ステップS23)。すなわち、船外機ECU20は、対応する船外機3(自機)が最右舷船外機3R、最左舷船外機3L、中央船外機3C、中央右船外機3CRおよび中央左船外機3CLのうちのどれであるのかを表す船外機識別データを保持している。船外機ECU20は、その船外機識別データに基づいて、自機の位置を判断する。具体的には、中央船外機3Cであるのか、中央よりも右舷側の船外機3CR,3Rのいずれかであるのか、または中央よりも左舷側の船外機3CL,3Lのいずれかであるのかを判断する。自機が右舷側の船外機3CRまたは3Rである場合には、船外機ECU20は、第2通信バス72を介して送られてくるバックアップ情報に含まれる最右舷船外機用制御指令(最右舷指令)に基づいて、当該船外機3CR,3Rのアクチュエータ類を制御する(ステップS24)。また、自機が左舷側の船外機3CLまたは3Lである場合には、船外機ECU20は、第2通信バス72を介して送られてくるバックアップ情報に含まれる最左舷船外機用制御指令(最左舷指令)に基づいて、当該左舷側の船外機3CL,3Lのアクチュエータ類を制御する(ステップS25)。さらに、自機が中央船外機3Cである場合には、船外機ECU20は、第2通信バス72を介して送られてくるバックアップ情報に含まれる中央船外機用制御指令(中央指令)に基づいて、当該中央船外機3Cのアクチュエータ類を制御する(ステップS26)。
【0119】
このようにして、バックアップ情報に含まれる最右舷指令、最左舷指令および中央指令に基づいて、全ての船外機3を制御できる。これにより、第1通信バス71に故障が生じている場合であっても、全ての船外機3を運転して、船舶1を航行させることができる。
[3−4.第4の制御例]
図15は、この実施形態において適用可能な第4の制御例を説明するための図解的なブロック図である。リモコンECU60は、第1ポートP1に操船制御情報を送出し、第2ポートP2にバックアップ情報を送出する。操船制御情報およびバックアップ情報の送出周期は異なっていてもよいけれども、等しい方が好ましい。
【0120】
この制御例では、操船制御情報は、最右舷船外機3Rのための制御指令(最右舷指令)と、最左舷船外機3Lのための制御指令(最左舷指令)と、中央船外機3Cのための制御指令(中央指令)とを含む。操船制御情報は、中央右船外機3CRおよび中央左船外機3CLのための制御指令(中央右指令および中央左指令)を含まない。これに対して、バックアップ情報は、中央左船外機3CLのための制御指令(中央左指令)および中央右船外機3CRのための制御指令(中央右指令)を含み、最左舷指令、最右舷指令および中央指令のいずれも含まない。
【0121】
最右舷船外機3R、最左舷船外機3Lおよび中央船外機Cの船外機ECU20は、それぞれ、第1通信バス71の故障の有無を監視している。第1通信バス71に故障が生じていない正常時には、最右舷船外機3R、最左舷船外機3Lおよび中央船外機3Cの船外機ECU20は、操船制御情報に含まれる最右舷指令、最左舷指令および中央指令にそれぞれ従ってアクチュエータ類)を制御する。また、中央右船外機3CRの船外機ECU20は、第2通信バス72を介して送られてくるバックアップ情報に含まれる中央右指令に従ってアクチュエータ類を制御する。同様に、中央左船外機3CLの船外機ECU20は、第2通信バス72を介して送られてくるバックアップ情報に含まれる中央左指令に従ってアクチュエータ類を制御する。
【0122】
一方、第1通信バス71に故障が生じていると判断されると、最右舷船外機3R、最左舷船外機3Lおよび中央船外機3Cの船外機ECU20は、アクチュエータ類の制御を停止する。この場合、最右舷船外機3L、左舷船外機3Rおよび中央船外機3Cのエンジンは、停止状態とされてもよいし、アイドル回転状態とされてもよい。シフト位置は、中立位置に制御され、操舵角は零に制御される。この場合でも、中央右船外機3CRおよび中央左船外機3CLは、バックアップ情報に含まれる中央右指令および中央左指令にそれぞれ従って制御されるから、船舶1の航行が可能である。
【0123】
このようにして、通常時には、第1通信バス71と第2通信バス72とで補完し合うことにより、全船外機3を制御できる。そして、第1通信バス71の故障時には、第2通信バス72を介して伝送されるバックアップ情報中の中央右指令および中央左指令によって、2基の船外機3CR,3CLを運転させることができる。この場合、第2通信バス72は、バックアップ情報だけでなく拡張機器80,90のための補助情報の伝送も担うため、制御の応答がやや遅れるおそれ場合がある。したがって、正常時に比較すると制限された運転状態となる。それでもなお、船舶1を航行させることは可能である。また、第2通信バス72は、2基分の船外機3の制御指令の伝送を担えばよいので、制御指令に関する通信負荷は第1通信バス71よりも低い。
【0124】
第2通信バス72に故障が生じれば、第1通信バス71を介して伝送される最右舷指令、最左舷指令および中央指令によって、最左舷および最右舷の船外機3L,3Rおよび中央船外機3Cを運転させることができるから、やはり船舶1を航行させることができる。この場合、他の2基の船外機3CL,3CRのエンジンは、停止状態とされてもよいし、アイドル回転状態とされてもよい。シフト位置は中立位置に制御され、操舵角は零に制御される。
【0125】
第1通信バス71の故障時において、最右舷船外機3Rおよび最左舷船外機3Lの運転を停止(またはアイドル状態)とする代わりに、バックアップ情報に含まれる制御指令を用いて運転を行うようにしてもよい。具体的には、最右舷船外機3Rの船外機ECU20は、第1通信バス71の故障時には、中央右指令に従ってアクチュエータ類の制御を行ってもよい。同様に、最左舷船外機3Lのための船外機ECU20は、第1通信バス71の故障時には、中央左指令に従ってアクチュエータ類の制御を行ってもよい。また、第1通信バス71の故障時に、中央船外機3Cの運転を停止(またはアイドル状態)とする代わりに、バックアップ情報に含まれる中央右指令および中央左指令に従ってアクチュエータ類の制御を行ってもよい。この場合の中央船外機3Cの制御は、第1実施形態の第3の制御例に倣って行えばよい。
【0126】
また、第2通信バス72の故障時において、中央右船外機3CRおよび中央左船外機3CLの運転を停止(またはアイドル状態)とする代わりに、操船制御情報に含まれる制御指令を用いて運転を行うようにしてもよい。具体的には、中央右船外機3CRの船外機ECU20は、第2通信バス72の故障時には、最右舷指令に従ってアクチュエータ類の制御を行ってもよい。同様に、中央左船外機3CLのための船外機ECU20は、第2通信バス72の故障時には、最左舷指令に従ってアクチュエータ類の制御を行ってもよい。
【0127】
また、第1通信バス71を通って伝送される操船制御情報を中央右船外機3CRおよび中央左船外機3CLに割り当て、第2通信バス72を通って伝送されるバックアップ情報を最左舷、最右舷および中央の船外機3L,3R,3Cに割り当てるようにしてもよい。
[4.第4の実施形態]
図16は、この発明の第4の実施形態に係る船舶制御システムが適用された船舶の構成を説明するための斜視図である。この図16において、前述の図1に示された各部の対応部分には同一参照符号を付すこととする。
【0128】
この船舶101は、船体102と、2基の船外機3とを有している。2基の船外機3は船体102の後尾(船尾)に取り付けられており、その取り付け構造は、第1の実施形態の場合と同様である。2基の船外機3は、船舶101の進行方向に向かって右側に配置された右舷船外機3Rと、左側に配置された左舷船外機3Lとを含む。
船体102には、2つの操船ステーション5M,5S(操船席)が備えられている。具体的には、船体102の中央に、メインステーション5M(主操船席)が配置され、その上方にサブステーション5S(副操船席)が配置されている。操船者は、これらの操船ステーション5M,5Sのいずれかにおいて、操船のための操作を行うことができる。
【0129】
メインステーション5Mには、メインステアリング装置6Mと、メインリモコン7Mと、メイン操作パネル8Mと、メインゲージ9Mと、メインステーション切換スイッチ15Mとが配置されている。同様に、サブステーション5Sには、サブステアリング装置6Sと、サブリモコン7Sと、サブ操作パネル8Sと、サブゲージ9Sと、サブステーション切換スイッチ15Sとが配置されている。イモビライザ10(受信機)は、たとえば、メインステーション5Mに配置されている。
【0130】
メインステアリング装置6Mおよびサブステアリング装置6Sの構成および機能は、第1の実施形態において説明したステアリング装置6と同様である。メインリモコン7Mおよびサブリモコン7Sの構成および機能は、第1の実施形態において説明したリモコン7と同様である。メイン操作パネル8Mおよびサブ操作パネル8Sの構成および機能は、第1の実施形態において説明した操作パネル8と同様であり、それぞれ、左右の船外機3L,3Rに対応した後述の2つのキースイッチ4L,4R(図17参照)を備えている。さらに、メインゲージ9Mおよびサブゲージ9Sの機能は、第1の実施形態において説明したゲージ9と同様である。
【0131】
メインステーション切換スイッチ15Mおよびサブステーション切換スイッチ15Sは、操船ステーションをメインステーション5Mとステーション5Sとの間で切り換えるためのスイッチである。より具体的には、メインステーション切換スイッチ15Mは、メインステーション5Mからの制御指令を優先させ、サブステーション5Sからの制御指令を無効化するために使用者によって操作されるスイッチである。同様に、サブステーション切換スイッチ15Sは、サブステーション5Sからの制御指令を優先させ、メインステーション5Mからの制御指令を無効化するために使用者によって操作されるスイッチである。
【0132】
図17は、船舶101の電気的構成を説明するためのブロック図である。この図17において、前述の図3に示された各部の対応部分には同一参照符号を付して示す。メインステーション5Mに対応してメインリモコンECU60Mが備えられており、サブステーション5Sに対応してサブリモコンECU60Sが備えられている。これらは、前述の第1の実施形態において説明したリモコンECU60と同様の構成を有している。すなわち、メインリモコン7Mおよびサブリモコン7Sは、アナログ信号線61M,61Sを介して、メインリモコンECU60MおよびサブリモコンECU60Sにそれぞれ接続されている。また、メインリモコンECU60およびサブリモコンECU60Sには、メイン操作パネル8Mおよびサブ操作パネル8Sからの信号がそれぞれ入力されるようになっている。さらに、メインリモコンECU60MおよびサブリモコンECU60Sには、メインステアリング装置6Mおよびサブステアリング装置6Sがそれぞれ接続されている。図示は省略するけれども、メインリモコンECU60Mには、さらに、必要に応じて、ジョイスティック、パワー・チルト・トリムスイッチ等のその他の操作装置が接続されてもよい。サブリモコンECU60Sにも、これらの操作装置が接続されていてもよい。メインリモコンECU60MおよびサブリモコンECU60Sは、それぞれ、マイクロコンピュータを内蔵しており、入力信号に応じて、船外機3L,3Rを制御するための制御指令を生成する。
【0133】
メインリモコンECU60MおよびサブリモコンECU60Sは、いずれも、CAN70を介して船外機3L,3Rの各船外機ECU20と通信する。CAN70の第1通信バス71は、リモコンECU60M,60Sと船外機ECU20との通信に用いられる。また、第1通信バス71は、この実施形態では、メインリモコンECU60MとサブリモコンECU60Sとの間の通信にも用いられる。第2通信バス72は、リモコンECU60M,60Sと船外機ECU20との通信に用いられるほか、船舶1の機能を拡張するための拡張機器80,90のための情報(補助情報)の通信のために用いられる。リモコンECU60M,60Sは、したがって、第2通信バス72を介することにより、全ての船外機ECU20および拡張機器との間で通信でき、かつ、リモコンECU60M,60Sの相互間で通信できる。
【0134】
メインリモコンECU60MおよびサブリモコンECU60Sは、それぞれ、第1通信バス71および第2通信バス72に接続されている。より具体的には、メインリモコンECU60Mは、主出力部としての第1ポートP1(入出力部)と、副出力部としての第2ポートP2(入出力部)とを有している。同様に、サブリモコンECU60Sは、主出力部としての第1ポートP1(入出力部)と、副出力部としての第2ポートP2(入出力部)とを有している。各第1ポートP1に第1通信バス71が接続されており、各第2ポートP2に第2通信バス72が接続されている。第1および第2通信バス71,72は、全ての船外機3L,3Rの船外機ECU20に接続されている。したがって、各船外機3L,3Rの船外機ECU20は、第1通信バス71および第2通信バス72を介して、メインリモコンECU60MおよびサブリモコンECU60Sと通信を行うことができる。
【0135】
メインリモコンECU60MおよびサブリモコンECU60Sは、通信先の船外機ECU20を指定して制御指令を出力する。指定された船外機ECU20は、その制御指令を受け取り、当該制御指令に従って制御対象(アクチュエータ類)を制御する。ただし、船外機ECU20は、他の船外機の船外機ECU20を宛先として送出された制御指令を取り込んで、アクチュエータ類の制御に用いることもできる。
【0136】
メインリモコンECU60Mは、第1ポートP1および第2ポートP2に、船外機3の制御のための制御指令を送出する。第1の実施形態の場合と同様に、メインリモコンECU60Mが第1ポートP1に送出する制御指令を「操船制御情報」といい、メインリモコンECU60Mが第2ポートP2に送出する制御指令を「バックアップ情報」という。一方、サブリモコンECU60Sは、船外機3の制御のための制御指令を、専ら、第1ポートP1に送出し、第2ポートP2には、船外機3の制御のための制御指令を送出しない。よって、バックアップ情報は、専ら、メインリモコンECU60Mから送出されることになる。
【0137】
メインリモコンECU60MおよびサブリモコンECU60Sは、第1通信バス71および第2通信バス72の故障(とくに断線故障)を検出する機能を有している。たとえばリモコンECU60M,60Sは、船外機ECU20に対して一定周期でパイロット信号を送出する。船外機ECU20は、パイロット信号に対する応答信号を返信する。リモコンECU60M,60Sは、パイロット信号を送出した後、一定時間内に船外機ECU20からの応答がない場合に、故障が生じていると判定することができる。また、船外機ECU20において通信バス71,72の故障検出を行い、その検出結果を、故障が生じていない通信バスを介してリモコンECU60M,60Sに通知するようにしてもよい。その他、通信バス71,72の信号レベルを監視する故障検出回路を設ける構成としてもよい。
【0138】
メインリモコンECU60MおよびサブリモコンECU60Sは、各リモコンECU60M,60Sが操船ステーション5M,5Sのいずれに対応しているのかを表すデータをそれぞれ保持している。さらに、メインリモコンECU60MおよびサブリモコンECU60Sは、操船ステーション5M,5Sのうちのいずれが有効化されているかを表す有効ステーションデータをそれぞれ保持している。リモコンECU60M,60Sは、有効ステーションデータに基づき、ステアリング装置6M,6S、リモコン7M,7Sその他の操作装置からの入力に応答するか否かを判断する。有効ステーションデータが、自ステーションの有効を示している場合に、リモコンECU60M,60Sは、操作装置からの入力に応答して、制御指令を出力する。
【0139】
[4−1.制御例]
メインステーション5Mが有効化されているときの動作は、たとえば、前述の第1の実施形態における第1の制御例に従う。すなわち、メインリモコンECU60Mは、所定の第1周期で第1ポートP1に操船制御情報を送出し、所定の第2周期で第2ポートP2にバックアップ情報を送出する。第2周期は第1周期よりも長く設定されている。したがって、第1通信バス71に第1周期で操船制御情報が送出され、第2通信バス72には、第1周期よりも長い第2周期でバックアップ情報が送出される。
【0140】
一方、サブステーション5Sが有効化されているとき、サブリモコンECU60Sは、前記第1周期で第1ポートP1に操船制御情報(制御指令)を送出する。前述のとおり、サブリモコンECU60Sは、第2ポートP2には制御指令を送出しない。もしも、第1通信バス71に故障が生じたときには、有効ステーションデータが書き換えられ、サブステーション5Sが無効化されて、メインステーション5Mが有効化される。
【0141】
各船外機3の船外機ECU20は、第1通信バス71の故障の有無を監視している。第1通信バス71に故障が生じていない正常時には、各船外機ECU20は、第1通信バス71を介して送られてくる操船制御情報に基づいて、アクチュエータ類(制御対象)を制御する。一方、第1通信バス71に故障が生じていると判断されると、船外機ECU20は、第2通信バス72を介して送られてくるバックアップ情報に従ってアクチュエータ類を制御する。こうして、第1通信バス71に故障が生じたときでも、船外機ECU20は、第2通信バス72を介してリモコンECU60からの制御指令を受け取ることができる。第2通信バス72を介して与えられる制御指令は、前記第2周期毎に更新されることになるから、正常時に比較すると、制御の応答性が悪くなる。しかし、リモコンECU60による船外機3の制御が可能な状態であるから、船外機3を運転させて、船舶1を航行させることができる。
【0142】
第1の制御例においては、各船外機3の船外機ECU20は、第1通信バス71の故障の有無を監視しないようにしてもよい。第1通信バス71に故障が生じていない正常時には、各船外機ECU20は、第1通信バスと第2通信バスのいずれの通信バスからも情報を取得できる状態である。このとき、各船外機ECU20は、実質的に送信周期が短い第1通信バス71を介して送られてくる操船制御情報に基づいて、アクチュエータ類(制御対象)を制御する。一方、第1通信バス71に故障が生じている場合は、各船外機ECU20は、第2通信バスからの情報のみを取得できる状態である。このとき、船外機ECU20は、第2通信バス72を介して送られてくるバックアップ情報に従ってアクチュエータ類を制御する。こうして、故障検知をしなくても、第1通信バス71に故障が生じたときには、船外機ECU20は、第2通信バス72を介してリモコンECU60からの制御指令を受け取ることができる。
【0143】
[4−2.リモコンECUの動作]
図18は、メインリモコンECU60MおよびサブリモコンECU60Sにおいてそれぞれ実行される処理を説明するためのフローチャートである。各リモコンECU60S,60Mは、第1通信バス71の故障の有無を監視している(ステップS31)。第1通信バス71に故障が生じていなければ、有効ステーションデータを参照して、自ステーションが有効かどうかを判断する(ステップS32)。自ステーションが有効なときは(ステップS32:YES)、当該リモコンECUは、第1ポートP1を介して第1通信バス71に制御指令(操船制御情報)を出力する(ステップS33)。さらに、自ステーションがメインステーション5Mかサブステーション5Sかが判断される(ステップS34。自ステーションがメインステーション5Mであれば、当該リモコンECUは、第2通信バス72にバックアップ情報を送出する(ステップS35)。ただし、バックアップ情報を送出する周期は、前述のとおり、操船制御情報の送出周期よりも長く設定されている。したがって、前回バックアップ情報を送出してから当該周期の時間が経過する前であれば、バックアップ情報は送出されない。自ステーションが無効であれば(ステップS32:NO)、当該リモコンECU60は操船制御情報およびバックアップ情報のいずれも出力しない。
【0144】
第1通信バス71に故障が生じると(ステップS31:YES)、各リモコンECU60M,60Sは、当該故障を報知する(ステップS36)。たとえば、ゲージ9M,9Sに故障表示を行ってもよい。また、故障を報知するためのインジケータやブザー等の報知装置を設け、この報知装置を作動させてもよい。
さらに、各リモコンECU60M,60Sは、自ステーションがメインステーション5Mかサブステーション5Sかを判断する(ステップS37)。自ステーションがメインステーション5Mであれば、メインリモコンECU60Mの処理は、最大出力を制限する処理に移る(ステップS36)。具体的には、目標エンジン回転速度の上限値が、通常値から制限値へと減少させられる。たとえば、メインリモコンECU60Mは、目標エンジン回転速度の上限値を6000rpm(通常値)から2000〜3000rpm(制限値)へと減少させる。バックアップ情報は比較的長い周期で出力されるので、制御の応答性が通常時よりも低くなる。そこで、この実施形態では、船外機3の出力を制限することで、応答性の低下に対処している。
【0145】
一方、自ステーションがサブステーション5Sであるときは(ステップS37)、サブリモコンECU60Sは、第1ポートP1に減速指令(停止指令)を出力する(ステップS39)。具体的には、サブリモコンECU60Sは、目標エンジン回転速度をアイドル回転速度に設定し、目標シフト位置を中立位置に設定した制御指令を生成する。この制御指令の出力は、船舶101の減速が完了し、船舶101が停止するまで継続される(ステップS40)。減速の完了は、たとえば、トライデューサ83からの船速信号に基づいて判断することができる。
【0146】
減速が完了すると(ステップS40:YES)、サブリモコンECU60Sは、メインリモコン7Mおよびサブリモコン7Sの各2つの操作レバー7L,7Rの操作位置がいずれも中立位置(N)かどうかを判断する(ステップS41)。メインリモコン7Sの操作位置情報は、メインリモコンECU60Mから、第1通信バス71または第2通信バス72を介して取得することができる。メインリモコン7Mおよびサブリモコン7Sの全てのレバーの操作位置が中立位置となるのを待って(ステップS41)、サブリモコンECU60Sは、有効な操船ステーションを、サブステーション5Sからメインステーション5Mに切り換える(ステップS42)。具体的には、サブリモコンECU60Sは、自己の有効ステーションデータを「メインステーション」に書き換える。さらに、サブリモコンECU60Sは、第2通信バス72を介して、メインリモコンECU60Mに対し、有効ステーションデータを「メインステーション」に書き換えるべきことを指令する。これにより、メインステーション5Mが有効化される。
【0147】
こうして制御主体がメインリモコンECU60Mに移ると、メインリモコンECU60Mは、船外機3の出力を制限する(ステップS38)。この制限された出力範囲で、以後の制御が実行されることになる。すなわち、メインリモコンECU60Mは、第2ポートP2から第2通信バス72に、前記制限された出力範囲で船外機3を運転するための制御指令を含むバックアップ情報を送出する(ステップS35)。
【0148】
このように、この実施形態によれば、バックアップ情報は専らメインリモコンECU60Mから第2通信バス72に送出され、サブリモコンECU60Sは第2通信バス72へのバックアップ情報の送出を行わない。したがって、第2通信バス72の通信容量を大幅に増やすことなく、複数の操船ステーションを設けることができる。
サブステーションを複数個設ける場合には、複数のサブステーションの構成は、前述のサブステーション5Sの構成と同様にすればよい。すなわち、いずれかのサブステーションが有効である場合に第1通信バス71に故障が生じれば、メインステーション5Mによる制御に自動的に切り換えられ、メインリモコンECU60Mが生成するバックアップ情報に従って船外機3が制御される。
【0149】
[4−3.他の制御例]
船外機3の数が1基の場合、および3基以上の場合にも同様の制御を行うことができる。
さらに、船外機3が複数基設けられている場合に、第1〜第3実施形態における各第2の制御例を適用することもできる。また、船外機3が3基設けられている場合には、第1実施形態における第3の制御例が適用されてもよい。さらに、船外機3が4基設けられている場合には、第2実施形態における第3の制御例が適用されてもよい。また、船外機3が5基設けられている場合には、第3実施形態における第3の制御例が適用されてもよい。いずれの場合にも、バックアップ情報はメインリモコンECU60Mのみが出力する。
【0150】
[5.第5の実施形態]
図19は、この発明の第5の実施形態を説明するための図解的なブロック図である。この実施形態の説明において、前述の図16および図17を再び参照する。ただし、図19には、船尾に3基の船外機3L,3C,3Rが左右方向に一列に配列されている場合を例示している。
【0151】
前述の第4実施形態では、サブステーション5SのサブリモコンECU60Sは、バックアップ情報を送出しない。これに対して、この第5の実施形態では、サブリモコンECU60Sは、第1ポートP1に操船制御情報を送出するとともに、第2ポートP2にバックアップ情報を送出する。すなわち、操船制御情報およびバックアップ情報の出力に関しては、サブリモコンECU60Sは、メインリモコンECU60Mと同じ働きを有している。したがって、第1通信バス71の故障時に操船ステーションをメインステーション5Mに自動切り替えする必要はない。
【0152】
したがって、この実施形態においては、メインリモコンECU60MおよびサブリモコンECU60Sは、いずれも、前述の第1〜第3実施形態におけるリモコンECU60と同様な制御動作を行わせることができる。以下、具体的に説明する。
[5−1.第1の制御例]
第1の制御例として、第1の実施形態の第1の制御例(図4参照)と同様の制御が可能である。すなわち、リモコンECU60M,60Sは、対応する操船ステーションが有効であるときに、所定の第1周期で第1ポートP1に操船制御情報を送出し、所定の第2周期で第2ポートP2にバックアップ情報を送出する。第2周期は第1周期よりも長く設定されている。
【0153】
各船外機3の船外機ECU20は、第1通信バス71の故障の有無を監視している。第1通信バス71に故障が生じていない正常時には、各船外機ECU20は、第1通信バス71を介して送られてくる操船制御情報に基づいて、アクチュエータ類を制御する。一方、第1通信バス71に故障が生じていると判断されると、船外機ECU20は、第2通信バス72を介して送られてくるバックアップ情報に従ってアクチュエータ類を制御する。
【0154】
第1の制御例においては、各船外機3の船外機ECU20は、第1通信バス71の故障の有無を監視しないようにしてもよい。第1通信バス71に故障が生じていない正常時には、各船外機ECU20は、第1通信バスと第2通信バスのいずれの通信バスからも情報を取得できる状態である。このとき、各船外機ECU20は、実質的に送信周期が短い第1通信バス71を介して送られてくる操船制御情報に基づいて、アクチュエータ類(制御対象)を制御する。一方、第1通信バス71に故障が生じている場合は、各船外機ECU20は、第2通信バスからの情報のみを取得できる状態である。このとき、船外機ECU20は、第2通信バス72を介して送られてくるバックアップ情報に従ってアクチュエータ類を制御する。こうして、故障検知をしなくても、第1通信バス71に故障が生じたときには、船外機ECU20は、第2通信バス72を介してリモコンECU60からの制御指令を受け取ることができる。
【0155】
[5−2.第2の制御例]
この実施形態において適用可能な第2の制御例は、前述の第1の実施形態における第1の制御例(図5参照)と同様である。すなわち、リモコンECU60M,60Sは、対応する操船ステーションが有効であるときに、第1ポートP1に操船制御情報を送出し、第2ポートP2にバックアップ情報を送出する。操船制御情報およびバックアップ情報の送出周期は等しくてもよいし、バックアップ情報の送出周期を操船制御情報の送出周期よりも長くしてもよい。
【0156】
操船制御情報は、全ての船外機3のための制御指令を含む。これに対して、バックアップ情報は、一部の船外機3のための制御指令のみを含む。したがって、バックアップ情報の単位時間当たりの情報量は、操船制御情報の単位時間当たりの情報量よりも少ない。
より具体的には、バックアップ情報は、中央船外機3Cに対する制御指令だけを含んでいてもよい。したがって、第1通信バス71に故障が生じたときには、左舷船外機3Lおよび右舷船外機3Rの運転が停止し、中央船外機3Cのみが運転可能となる。これにより、通常時よりも制限された態様ではあるけれども、船舶1を航行させることができる。左舷船外機3Lおよび右舷船外機3Rは、操舵角を零に制御することが好ましい。
【0157】
また、バックアップ情報は、中央船外機3Cに対する制御指令を含まず、左舷船外機3Lおよび右舷船外機3Rの制御指令のみを含んでいてもよい。この場合、第1通信バス71に故障が生じたときには、中央船外機3Cの運転が停止し、左舷船外機3Lおよび右舷船外機3Rのみが運転可能となる。これにより、通常時よりも制限された態様ではあるけれども、船舶1を航行させることができる。中央船外機3C,3Cは、操舵角を零に制御することが好ましい。なお、第1通信バス71に故障が生じたときに、バックアップ情報に制御指令が含まれていない船外機は、運転を停止する代わりに、アイドル回転速度でエンジンを運転することとしてもよい。この場合、シフト位置は中立位置に制御することが好ましい。
【0158】
さらに、第1通信バス71に故障が生じたときに、中央船外機3Cの船外機ECU20は、左舷指令および右舷指令に基づいて、アクチュエータ類の制御を行ってもよい。この場合の中央船外機3Cの制御は、第1の実施形態における第2の制御例の場合と同様にすればよい。これにより、第1通信バス71の故障時にも、3基全ての船外機3を作動させて、船舶101を航行させることができる。
【0159】
[5−3.第3の制御例]
この実施形態において適用可能な第3の制御例は、前述の第1の実施形態における第3の制御例(図6参照)と同様である。すなわち、リモコンECU60M,60Sは、対応する操船ステーションが有効であるときに、各第1ポートP1に操船制御情報を送出し、各第2ポートP2にバックアップ情報を送出する。操船制御情報およびバックアップ情報の送出周期は等しくてもよいし、バックアップ情報の送出周期を操船制御情報の送出周期よりも長くしてもよい。この制御例においては、バックアップ情報は、右舷船外機3Rのための制御指令と、左舷船外機3Lのための制御指令とを含み、中央船外機3Cのための制御指令は含まない。
【0160】
各船外機3の船外機ECU20は、第1通信バス71に故障が生じていない正常時には、第1通信バス71を介して送られてくる操船制御情報に基づいて、アクチュエータ類(制御対象)を制御する。一方、第1通信バス71に故障が生じると、船外機ECU20は、当該船外機3の位置に応じた制御動作を実行する。すなわち、船外機ECU20は、対応する船外機3(自機)が右舷船外機3Rである場合には、第2通信バス72を介して送られてくるバックアップ情報に含まれる右舷船外機用制御指令(右舷指令)に基づいて、当該右舷船外機3Rのアクチュエータ類を制御する。また、自機が左舷船外機3Lである場合には、船外機ECU20は、第2通信バス72を介して送られてくるバックアップ情報に含まれる左舷船外機用制御指令(左舷指令)に基づいて、当該左舷船外機3Lのアクチュエータ類を制御する。そして、自機が中央船外機3Cである場合には、船外機ECU20は、第2通信バス72を介して送られてくるバックアップ情報に含まれる右舷指令および左舷指令に基づいて、当該中央船外機3Cのアクチュエータ類を制御する(ステップS6)。右舷指令および左舷指令に基づく中央船外機3Cの制御は、第1実施形態の第3制御例の場合と同様に行えばよい。このようにして、第1通信バス71に故障が生じている場合であっても、全ての船外機3を運転して、船舶1を航行させることができる。
【0161】
[5−4.第4の制御例]
この実施形態において適用可能な第4の制御例は、前述の第1の実施形態における第4の制御例(図7参照)と同様である。すなわち、リモコンECU60M,60Sは、対応する操船ステーションが有効であるときに、各第1ポートP1に操船制御情報を送出し、各第2ポートP2にバックアップ情報を送出する。操船制御情報およびバックアップ情報の送出周期は異なっていてもよいけれども、等しい方が好ましい。
【0162】
この制御例では、操船制御情報は、右舷船外機3Rのための制御指令(右舷指令)と、左舷船外機3Lのための制御指令(左舷指令)とを含み、中央船外機3Cのための制御指令(中央指令)を含まない。これに対して、バックアップ情報は、中央船外機3Cのための制御指令(中央指令)を含み、右舷指令および左舷指令のいずれも含まない。したがって、バックアップ情報の単位時間当たりの情報量は、操船制御情報の単位時間当たりの情報量よりも少ない。
【0163】
右舷船外機3Rおよび左舷船外機3Lの船外機ECU20は、それぞれ、第1通信バス71の故障の有無を監視している。第1通信バス71に故障が生じていない正常時には、右舷船外機3Rおよび左舷船外機3Lの船外機ECU20は、右舷指令および左舷指令にそれぞれ従ってアクチュエータ類を制御する。また、中央船外機3Cは、第2通信バス72を介して送られてくるバックアップ情報に含まれる中央指令に従ってアクチュエータ類を制御する。
【0164】
一方、第1通信バス71に故障が生じていると判断されると、右舷船外機3Rおよび左舷船外機3Lの船外機ECU20は、アクチュエータ類の制御を停止する。この場合、右舷船外機3Rおよび左舷船外機3Lのエンジンは、停止状態とされてもよいし、アイドル回転状態とされてもよい。シフト位置は、中立位置に制御され、操舵角は零に制御される。この場合でも、中央船外機3Cは、バックアップ情報に含まれる中央指令に従って制御されるから、船舶1の航行が可能である。
【0165】
このようにして、通常時には、第1通信バス71と第2通信バス72とで補完し合うことにより、全船外機3を制御できる。そして、第1通信バス71の故障時には、第2通信バス72を介して伝送されるバックアップ情報中の中央指令によって、中央船外機3Cを運転させることができる。
第2通信バス72に故障が生じれば、第1通信バス71を介して伝送される右舷指令および左舷指令によって、左右の船外機3R,3Lを運転させることができるから、やはり船舶1を航行させることができる。この場合、中央船外機3Cのエンジンは、停止状態とされてもよいし、アイドル回転状態とされてもよい。シフト位置は中立位置に制御され、操舵角は零に制御される。
【0166】
5−5.異なる基数への応用
この実施形態は、船外機3の数が、1基の場合、2基の場合、および4基の場合についても適用できる。
船外機3の数が1基のときは、前記第1の制御例に従ってリモコンECU60M,60Sおよび船外機ECU20を動作させればよい。
【0167】
また、船外機3の数が2基の場合には、前記第1の制御例を適用できるほか、第2および第4の制御例を修正して適用することができる。第2の制御例を適用する場合は、操船制御情報は2基の船外機3のための制御指令を含み、一方、バックアップ情報は右舷または左舷の船外機3のための制御指令のみを含む。第4の制御例を適用する場合は、操船制御情報は2基の船外機3のうちの一方のみに対する制御指令を含み、バックアップ情報は2基の船外機3のうちの他方のみに対する制御指令を含む。
【0168】
船外機3の数が4基の場合には、前記第2の実施形態における第1〜第4の制御例を適用できる。また、船外機3の数が5基の場合には、前記第3の実施形態における第1〜第4の制御例を適用できる。
[6.その他の実施形態]
以上、この発明の5つの実施形態について説明したけれども、この発明はさらに他の形態で実施することができる。たとえば、前述の実施形態では、リモコンECU60,60M,60Sは、ステアリング装置6からの信号を処理する機能を有しているけれども、ステアリング装置6のためのコントロールユニット(ステアリングECU)をリモコンECU60とは別に設けてもよい。この場合、ステアリングECUの第1ポートに第1通信バス71を接続し、ステアリングECUの第2ポートに第2通信バス72を接続することが好ましい。そして、ステアリングECUは、第1通信バス71に操船制御情報を出力し、第2通信バス72にバックアップ情報を出力すればよい。この場合、操船制御情報およびバックアップ情報には、目標操舵角が制御指令として含まれることになる。
【0169】
また、出力制御および操舵制御の一方を、電気信号の伝達によって行うのではなく、操作力の機械的な伝達によって行ってもよい。具体的には、リモコンレバーと船外機との間をケーブルで結合し、リモコンレバーの操作が機械的に船外機に伝達されることにより、シフト位置の変更およびスロットル開度の変更が行われるようになっていてもよい。また、ステアリングハンドルと操舵機構との間をケーブルで結合し、ステアリングハンドルの操作が機械的に操舵機構に伝達されることにより、船外機の操舵角が変更されるようになっていてもよい。いずれの場合にも、電気信号の伝達によって行われる制御(出力制御または操舵制御)に関して、この発明を適用することができる。
【0170】
また、前述の第1〜第3の実施形態では、複数の船外機が備えられた場合について説明したけれども、第4および第5の実施形態に関連して説明したとおり、この発明は1基のみの船外機を備えた船舶にも適用可能である。むろん、操船ステーションは1つだけであってもよい。
さらに、前述の第4の実施形態に関連して、第1通信バス71の故障時において、船外機3の出力を制限することを説明したけれども、同様の制御は第1〜第3および第5の実施形態においても行うことが好ましい。これにより、第2通信バス72を介して伝送されるバックアップ情報に依存する場合に生じる応答性低下に対応できる。
【0171】
また、前述の実施形態では、制御指令として、始動指令、目標エンジン回転速度、目標シフト位置、および目標操舵角を例示したけれども、これらの組み合わせはむろん一例である。操船制御情報およびバックアップ情報に含まれる制御指令には、少なくとも始動指令が含まれている必要がある。始動指令が含まれていることによって、第1通信バス71の故障時においても、船外機3の始動が可能となるから、船舶を航行させることができる。
【0172】
さらに、前述の実施形態では、エンジン(内燃機関)を駆動源とした船外機3を例示したけれども、この発明は、電動モータを駆動源とする船外機にも適用できる。さらに、前述のとおり、船外機に限らず、船内機、船内外機、ウォータージェットドライブ等の他の形態の船舶推進機を備えた船舶に対してもこの発明を適用することができる。
その他、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。
【0173】
[7.用語の対応関係]
以下に、「課題を解決するための手段」の項に記載した用語と前述の実施形態における用語との対応関係を示す。
船舶推進機:船外機3,3R,3C,3L,3CR,3CL
コントロールユニット:リモコンECU60,60M,60S
主出力部:第1ポートP1
副出力部:第2ポートP2
第1通信バス:第1通信バス71
第2通信バス:第2通信バス72
拡張機器:拡張機器80,90
拡張機器接続部:拡張機器接続部72a
主操船席:メインステーション5M
副操船席:サブステーション5S
【符号の説明】
【0174】
1 船舶
2 船体
3 船外機
4 キースイッチ
5 操船席
6 ステアリング装置
7 リモコン
8 操作パネル
9 ゲージ
20 船外機ECU
50 エンジンユニット
51 スロットルアクチュエータ
52 シフトアクチュエータ
53A 操舵アクチュエータ
54 チルトトリムアクチュエータ
55 インジェクタ
56 点火コイル
60 リモコンECU
P1 第1ポート
P2 第2ポート
71 第1通信バス
72 第2通信バス
72a 拡張機器接続部
80 拡張機器
90 拡張機器
101 船舶
102 船体
5M メインステーション
5S サブステーション
6M メインステアリング装置
6S サブステアリング装置
7M メインリモコン
7S サブリモコン
8M メイン操作パネル
8S サブ操作パネル
9M メインゲージ
9S サブゲージ
15M メインステーション切換スイッチ
15S サブステーション切換スイッチ
60M メインリモコンECU
60S サブリモコンECU

【特許請求の範囲】
【請求項1】
船舶推進機を備えた船舶のための船舶制御システムであって、
前記船舶推進機の始動情報を含む操船制御情報を出力する主出力部と、前記船舶推進機の始動情報を含むバックアップ情報を出力する副出力部とを含むコントロールユニットと、
前記船舶推進機および前記コントロールユニットに接続され、前記主出力部から出力される操船制御情報を前記船舶推進機へと伝送する第1通信バスと、
前記船舶推進機および前記コントロールユニットに接続され、前記副出力部から出力されるバックアップ情報を前記船舶推進機へと伝送する第2通信バスと、
前記第2通信バスに備えられ、前記船舶推進機および前記コントロールユニットの少なくともいずれか一つとの間で前記第2通信バスを介して前記操船制御情報以外の補助情報に関する通信を実行する拡張機器を接続可能な拡張機器接続部とを含む、船舶制御システム。
【請求項2】
前記副出力部は、前記主出力部が出力する前記操船制御情報よりも単位時間当たりの情報量が少ない前記バックアップ情報を出力する、請求項1記載の船舶制御システム。
【請求項3】
前記副出力部は、前記主出力部が前記操船制御情報を出力する通信周期よりも長い通信周期で、前記バックアップ情報を出力する、請求項2記載の船舶制御システム。
【請求項4】
前記船舶が複数の前記船舶推進機を備えており、
各船舶推進機が前記第1通信バスおよび前記第2通信バスに接続されている、請求項1〜3のいずれか一項に記載の船舶制御システム。
【請求項5】
前記副出力部は、前記複数の船舶推進機のうちの一部の船舶推進機に対してのみ、前記第2通信バスを介して前記バックアップ情報を送信する、請求項4記載の船舶制御システム。
【請求項6】
前記船舶制御システムは、3以上の奇数基の前記船舶推進機が船体の左右方向に沿って一列に並んで取り付けられる船舶に用いられ、
前記副出力部は、中央の1基の船舶推進機のための指令を前記バックアップ情報として出力する、請求項5記載の船舶制御システム。
【請求項7】
前記船舶制御システムは、4以上の偶数基の前記船舶推進機が船体の左右方向に沿って一列に並んで取り付けられる船舶に用いられ、
前記副出力部は、中央の2基の船舶推進機のための指令を前記バックアップ情報として出力する、請求項5記載の船舶制御システム。
【請求項8】
前記船舶制御システムは、3基以上の前記船舶推進機が船体の左右方向に沿って一列に並んで取り付けられる船舶に用いられ、
前記副出力部は、最左舷の船舶推進機のための左舷指令と、最右舷の船舶推進機のための右舷指令とを前記バックアップ情報として出力する、請求項5記載の船舶制御システム。
【請求項9】
前記船舶推進機の基数が3であり、
前記第1通信バスに故障が生じた場合に、中央の船舶推進機は、前記左舷指令および前記右舷指令に基づいて動作する、請求項8記載の船舶制御システム。
【請求項10】
前記船舶推進機の基数が4であり、
前記第1通信バスに故障が生じた場合に、中央よりも左側の船舶推進機は前記左舷指令に基づいて動作し、中央よりも右側の船舶推進機は前記右舷指令に基づいて動作する、請求項8記載の制御システム。
【請求項11】
前記船舶制御システムは、5基の前記船舶推進機が船体の左右方向に沿って一列に並んで取り付けられる船舶に用いられ、
前記副出力部は、最左舷の船舶推進機のための左舷指令と、最右舷の船舶推進機のための右舷指令と、中央の船舶推進機のための中央指令とを前記バックアップ情報として出力する、請求項5記載の船舶制御システム。
【請求項12】
前記第1通信バスに故障が生じた場合に、中央よりも左側の船舶推進機は前記左舷指令に基づいて動作し、中央よりも右側の船舶推進機は前記右舷指令に基づいて動作し、中央の船舶推進機は前記中央指令に基づいて動作する、請求項11記載の船舶制御システム。
【請求項13】
前記主出力部は、前記複数の船舶推進機のうちの一部の船舶推進機のための操船制御情報を出力し、
前記副出力部は、前記操船制御情報の対象となっている船舶推進機以外の船舶推進機への指令を前記バックアップ情報として出力する、請求項5記載の船舶制御システム。
【請求項14】
前記複数の船舶推進機の基数が3以上であり、
前記主出力部は、最左舷の船舶推進機のための最左舷指令と、最右舷の船舶推進機のための最右舷指令とを含む操船制御情報を出力する、請求項13記載の船舶制御システム。
【請求項15】
前記船舶は、1つの主操船席と、1つ以上の副操船席とを有しており、
複数の前記コントロールユニットが、複数の前記操船席にそれぞれ設けられ、
前記複数のコントロールユニットに前記第1通信バスおよび前記第2通信バスが接続されている、請求項1〜14のいずれか一項に記載の船舶制御システム。
【請求項16】
前記主操船席のコントロールユニットが前記第2通信バスに前記バックアップ情報を出力し、前記副操船席のコントロールユニットは前記バックアップ情報を出力しない、請求項15記載の船舶制御システム。
【請求項17】
前記第1通信バスに故障が生じた場合に、前記副操船席で操船が行われているときには、船舶を停止させるように前記船舶推進機を制御し、操船席を当該副操船席から前記主操船席に切り換える手段をさらに含む、請求項15または16記載の船舶制御システム。
【請求項18】
船舶推進機と、
前記船舶推進機の始動情報を含む操船制御情報を出力する主出力部と、前記船舶推進機の始動情報を含むバックアップ情報を出力する副出力部とを含むコントロールユニットと、
前記船舶推進機および前記コントロールユニットに接続され、前記主出力部から出力される操船制御情報を前記船舶推進機へと伝送する第1通信バスと、
前記船舶推進機および前記コントロールユニットに接続され、前記副出力部から出力されるバックアップ情報を前記船舶推進機へと伝送する第2通信バスと、
前記第2通信バスに接続され、前記船舶推進機および前記コントロールユニットの少なくともいずれか一つとの間で前記第2通信バスを介して前記操船制御情報以外の補助情報に関する通信を実行する拡張機器とを含む、船舶推進システム。
【請求項19】
船体と、
前記船体に取り付けられた船舶推進機と、
前記船舶推進機の始動情報を含む操船制御情報を出力する主出力部と、前記船舶推進機の始動情報を含むバックアップ情報を出力する副出力部とを含むコントロールユニットと、
前記船舶推進機および前記コントロールユニットに接続され、前記主出力部から出力される操船制御情報を前記船舶推進機へと伝送する第1通信バスと、
前記船舶推進機および前記コントロールユニットに接続され、前記副出力部から出力されるバックアップ情報を前記船舶推進機へと伝送する第2通信バスと、
前記第2通信バスに接続され、前記船舶推進機および前記コントロールユニットの少なくともいずれか一つとの間で前記第2通信バスを介して前記操船制御情報以外の補助情報に関する通信を実行する拡張機器とを含む、船舶。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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