説明

船舶廃油の処理装置

【課題】廃油の水蒸気除去効率が改善され、廃油ファンに結露の心配がなく、結果的に水蒸気による腐蝕の心配がなく、また、廃油焼却炉において失火の危険がない船舶廃油の処理装置を提供する。
【解決手段】船舶機関室で発生する燃料油の残留や潤滑油の残留に水分等の混じった混合物である廃油が蓄えられる廃油タンク101,102と、該廃油タンク内に装備され、前記廃油タンク内の廃油を100〜120℃程度に加熱する加熱管103,104と、外気を取り込み、取り込まれた空気を前記廃油タンクに張り込むブロアーまたはファン3と、前記廃油タンクから水蒸気または水分を含む空気を船外に排出する空気抜き管106と、前記廃油タンクから廃油を廃油焼却炉に導く廃油管105と、からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶の機関室で発生する燃料油及び潤滑油の水分等の混じった混合物(以下、「廃油」という。)の処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の船舶の廃油処理技術としては、例えば、特開平8-10509号公報に開示のものが知られている。同特開平8-10509号公報に開示のものは、発明名称「船舶廃油の処理方法」に係り、「エマルジョン化した廃油を含む各種の船舶廃油を一括処理でき、自動化可能なコンパクトにまとめた連続装置を設計することのできる船舶廃油の処理方法を提供すること」を目的として(同公報明細書段落番号0010参照)、「(イ)廃油を直接および/または間接加熱により加熱する廃油加熱工程。(ロ)加熱廃油にマイクロ波または超音波を照射してエマルジョンを分解するエマルジョン分解工程。(ハ)エマルジョン分解後の廃油を、油相、水相およびスラッジ相の3相に分離する3相分離工程。」によって(同公報特許請求の範囲請求項1の記載参照)、「油分を燃焼可能な回収油として効率よく分離回収でき、・・・自動化が可能であり、また各貯槽の容量を大幅に低減できるのでコンパクトな装置として設計でき、・・船舶搭載に適したコンパクトな廃油の処理装置を設計可能な、船舶廃油の処理方法を提供」等の効果を奏する(同公報明細書段落番号0026参照)。
【0003】
しかしながら、特開平8-10509号公報に開示のものは、「加熱廃油にマイクロ波または超音波を照射してエマルジョン分解」を必要とする等、大きな装置となりがちである。
そこで、船舶で発生する廃油を詳細に検討してみると、廃油には、状況に応じて「水分多いもの」や「少ないもの」が発生するが、廃油の水分率を40%以下に調整すれば、極めて効率よく廃油焼却炉で燃焼して焼却処理することが可能であり、簡易な設備によって廃油処理が可能となることが知り得た。すなわち、廃油に水分が多いと、例え、焼却処理をしようとしても、燃焼効率も悪く、多量なCOの発生の原因ともなり、また、ひいては廃油焼却炉の失火の原因となる。さらに、水蒸気をを含む空気をファン等で吸引するとすれば、ファン周囲に結露が発生し、そこに海水塩素等が反応してファン等の腐食・破壊が将来する。
【0004】
図2は、船舶に設置される従来の船舶廃油処理装置の概略を示す図である。図2において、符号101、102は、船舶に布設される廃油タンクであり、それぞれの廃油タンク101、102には、船舶機関室で発生する燃料油の残留油や潤滑油の残留油に水分等の混じった混合物である廃油(S)が蓄えられる。また、符号103,104は、各タンク101、102内に配置される加熱管、105は、廃油管、106,107は、空気抜き管、108は、廃油ファン、109、110は、吸気管、(S)は、廃油、(F)は、水分または水蒸気を含む空気である。
【0005】
図2に示されるように、船舶機関室には、上記廃油タンク101、102が少なくとも一対で布設され、廃油(S)の発生状況に応じて、それぞれの廃油タンク101、102に廃油(S)が貯蔵されていた。そして、該廃油タンク101、102には、蒸気式の加熱管103、104が装備され、廃油(S)の温度を100℃〜120℃程度に加熱し、廃油(S)内から含有する水分を蒸発させ、発生した水蒸気(水分)を含んだ空気(F)を前記空気抜き管106、107に前記廃油ファン108を介して、該廃油ファン108の吸引力で煙突(図示外)から水分を含んだ空気(F)を船外に排出していた。すなわち、従来の船舶廃油の処理装置は、前記廃油タンク101、102の前記空気抜き管106、107に前記廃油ファン108を装備して、タンク101、102内の水蒸気を含んだ空気(F)吸引することによって、蒸発を促進させタンク101、102内の水分を除去していた。
【0006】
しかしながら、このような従来の船舶廃油の処理装置にあっては、前記空気抜き管106、107の途中に前記廃油ファン108を装備していたために、上述するように、引き抜き空気中に多量に含まれる水蒸気によって、前記廃油ファン108の周囲に結露して水分が溜まり、これに海水の塩素分や燃焼排ガスの硫化物等と反応して前記廃油ファン108が腐蝕を起こしたりする原因となっていた。
【0007】
また、水蒸気が多量に含まれる廃油が廃油焼却炉に送られても、水蒸気が多量に含まれるために、燃焼効率が悪く、時としては、廃油焼却炉の失火原因ともなっていた。これは、上述したように、廃油からの水蒸気の除去は、単に空気抜き管106、107で空気を吸引するだけで行わしめていたので、廃油からの水蒸気除去が充分ではないことに起因するものであった。
【0008】
さらに、前記空気抜き管106、107の途中に装備される前記廃油ファン108は、前述したように、廃油に含有される水蒸気により廃油ファンが汚れ、腐食などにより、故障を発生しやすく、また、廃油ファン108の吸引側で負圧を発生させる作動原理のものであるため、廃油タンク101、102の空気引き抜きという面においても、吸引性能が充分発揮できているとは言い難いものがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平08−010509
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで、上記の課題を解決するために、本発明は、廃油の水蒸気除去効率が改善され、廃油ファンに結露の心配がなく、結果的に水蒸気による腐蝕の心配がなく、また、廃油焼却炉において失火の危険がない船舶廃油の処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するために、本願請求項1に係る発明は、船舶廃油の処理装置において、船舶機関室で発生する燃料油の残留や潤滑油の残留に水分等の混じった混合物である廃油が蓄えられる廃油タンクと、該廃油タンク内に装備され、前記廃油タンク内の廃油を100〜120℃程度に加熱する加熱管と、外気を取り込み、取り込まれた空気を前記廃油タンクに張り込むブロアーまたはファンと、前記廃油タンクから水蒸気または水分を含む空気を船外に排出する空気抜き管と、前記廃油タンクから廃油を廃油焼却炉に導く廃油管と、からなることを特徴とする。
また、本願請求項2に係る発明は、船舶廃油の処理装置において、船舶機関室で発生する燃料油の残留や潤滑油の残留に水分等の混じった混合物である廃油が蓄えられる廃油タンクと、該廃油タンク内に装備され、前記廃油タンク内の廃油を100〜120℃程度に加熱する加熱管と、外気を取り込み、取り込まれた空気を100℃〜120℃程度に加熱する空気加熱管器と、前記空気加熱管器で加熱された空気を前記廃油タンクに張り込むブロアーまたはファンと、前記廃油タンクから水蒸気または水分を含む空気を船外に排出する空気抜き管と、前記廃油タンクから廃油を廃油焼却炉に導く廃油管と、からなることを特徴とする。
さらに、本願請求項3に係る発明は、前記請求項2に係る船舶廃油の処理装置において、前記廃油管または廃油タンクには、廃油の含水率を計測する含水計及びバルブが設けられ、前記含水計の出力に応じて、前記ブロアーまたはファンの回転数および/または前記バルブの開閉を制御する制御盤が設けられたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、上記の構成からなるので、次のような効果を有する。
(1)廃油の水蒸気除去効率が改善される。
(2)廃油ファンに結露の心配がなくなる。
(3)廃油ファンに汚れ付着が軽減される。
(4)水蒸気による腐蝕の心配がなくなる。
(5)廃油焼却炉において失火の危険がない
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、本発明に係る実施例のうち、実施例1に係る船舶廃油の処理装置の概略を示す図である。
【図2】図2は、従来の船舶廃油処理装置の概略を示す図である。
【図3】図3は、本発明に係る実施例のうち、実施例2に係る船舶廃油の処理装置の概略を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明を実施するための形態である船舶廃油の処理装置の一実施例を図面に基づいて詳細に説明する。
【実施例1】
【0015】
図1は、本発明に係る実施例のうち、実施例1に係る船舶廃油の処理装置の概略を示す図であり、従来の船舶廃油処理装置の概略を示す図2に相当するものである。
図1において、符号1は、本実施例1に係る船舶廃油の処理装置であり、2は、空気加熱管器、3は、ファンまたはブロアー、4は、吐出管である。また、従来の船舶廃油処理装置の概略を示した図2において示した同一の部材は同一の符号で示し、その詳しい説明は省略する。
【0016】
図1に示すように、船舶の機関室には、従来の船舶廃油の処理装置と同様に、廃油タンク101、102が少なくとも一対で布設され、廃油(S)の発生状況に応じて、それぞれの廃油タンク101、102に廃油(S)が貯蔵される。なお、従来の船舶廃油の処理装置の概略を示す図2においては、該廃油タンク101、102を密着した構造のものとして示したが、これは、船舶の船体構造に応じて自由に変更されるもので、本実施例1に係る船舶廃油の処理装置1が離れた構造の廃油タンク101、102に限定されるものではないことは当然である。そして、該廃油タンク101、102には、上述した従来の船舶廃油の処理装置と同様に、蒸気式の加熱管103、104が装備され、前記廃油タンク101、102内の廃油(S)の温度を120〜100℃程度に加熱し、該廃油タンク101、102内で廃油(S)内の水分を水蒸気として空気中に多量に排出させる一方、廃油(S)自体は含水量を軽減させ、燃焼効率の改善を図るようにした。
【0017】
一方、本実施例1に係る船舶廃油の処理装置1においては、従来から使用される吸引のためのファン108を設けることなく、前記空気吸引管109、110に前記ブロアー3を接続し、前記廃油タンク101、102に直接外気を張り込むようにする。
このようにすることにより、水蒸気/水分を含んだ空気は、結露の原因となる機器を通過することなく、直接船外に排出されることになるので、ファン108等の腐食や故障を低減することができる。
また、本実施例1に係る船舶廃油の処理装置1においては、前記ブロアー3の吐出側に前記空気加熱管器2を設けても良く、前記加熱管103、104によって加熱される100℃〜120℃程度の温度で取り込む空気を加熱し、加熱された空気を前記廃油タンク101、102に張込む。
【0018】
すなわち、本実施例1に係る船舶廃油の処理装置1においては、水蒸気/水分を含んだ空気の通過の間に機器を配置する替わりに、水蒸気/水分を含まない空気を前記廃油タンク101、102に送り込むことによって、機器の腐食や故障を回避せんとするものである。
また、本実施例1に係る船舶廃油の処理装置1においては、前記ブロアー3の吐出側に設けられる前記空気加熱管器2により、前記廃油タンク101、102内に張り込む空気の温度を高くすれば、空気湿度が低くなり、水蒸気含有量が同じでも多量の水分を空気内に含ませることができる。したがって、廃油タンク101、102に張り込む空気の温度を高くして、湿度を低くすることによって、前記加熱管103、104で発生する水蒸気が量を多くすると共に、空気に含まれる水分量も多くするようにして、前記廃油タンク101、102内の廃油(S)の含水量を低減させ、同時に、船外に排出される水分量を極力増大させるようにした。
【0019】
また、本実施例1に係る船舶廃油の処理装置1においては、前記ブロアー3(又はファン)の吐出側の吐出管4に背圧を発生させ、該吐出管4をそれぞれの廃油タンク101、102に接続する。前記ブロアー3で発生した加熱され加圧された空気は前記廃油タンク101、102に張込まれ、前記廃油タンク101、102内で発生した水蒸気を多量に含む空気は、前記空気抜き管106を介して煙突(図示外)から船外に排出されるようにして、低湿度の空気ではあるが、それが結露の原因となるファン等の機材に接する機会を軽減させた。
【0020】
すなわち、図1に示されるように、本実施例1に係る船舶廃油の処理装置は、(1)廃油タンク101、102外にブロアー3を設け、該ブロアー3の吐出側を前記廃油タンク101、102に繋ぎ、前記ブロアー3の背圧により、加熱された空気を前記廃油タンク101、102内に送り込み、該廃油タンク101、102からの水蒸気を含む空気を前記空気抜き管106を介して船外に排出するようにしたものである。
【0021】
また、(2)前記ブロアー3の吐出側に前記空気加熱管器2を設け、前記廃油タンク101、102に設けられた加熱管103、104でタンク101、102内の廃油(S)を加熱する加熱温度と略同温まで加熱された加熱空気を前記タンク101、102内に送り込むことにより、送り込まれた空気量だけ水蒸気を含む空気を前記空気抜き管106を介して船外に排出するようにしたので、廃油タンク101、102から排出される水蒸気を含む空気(F)の温度は下がらず、その結果、周囲に結露することもなく、極めて効率よく廃油内の水蒸気を船外に排出することができる。
【0022】
すなわち、本実施例1に係る船舶廃油の処理装置1は、廃油タンク101、102内に張り込む空気(F)の温度を高くすることによって、該廃油タンク101、102内の空気の湿度を低くして、当該空気内に廃油(S)から水蒸気の発生率を高め、廃油(S)自体の含水量を低くするようにして、廃油(S)を燃焼焼却する際の燃焼効率を高めるようにした。また、前記廃油タンク101、102の外側に装備された前記ファン3の吐出側より吐出管4のパイプを介して前記廃油タンク101、102の側壁上側に加熱された空気を送り込み、送り込まれた加熱された空気は前記廃油タンク101、102内の水蒸気または水分を多量に含んだ空気(F)と一諸にタンク上面の空気抜き管106より船外に排出されることとなるので、水分の船外に排出する点で効率がよいこととなる。
【0023】
さらに、本実施例1に係る船舶廃油の処理装置1は、上記のような構成としたので、廃油(S)から発生する水蒸気または水分を多量に含む加熱された空気(F)はファン等を通過することがないので、ファン本体に水滴が溜まることやその結果水滴と反応して腐蝕をすることがなくなる。また、本実施例1に係る船舶廃油の処理装置1によれば、廃油タンク101、102の上側側壁に設けた通気口(図示外)よりの強制的に風を興し、その風の流れによって、水蒸気分を効果的に船外に排出させることができる。
【実施例2】
【0024】
図3は、本発明に係る実施例のうち、実施例2に係る船舶廃油の処理装置の概略を示す図である。
本実施例2においては、前記廃油タンク101、102から廃油(S)を廃油焼却炉(図示外)に導く廃油管105に含水計5及びバルブ6を配置し、廃油焼却炉に導かれる廃油(S)の含水率を常時計測できるようにしておく。そして、上記含水計5からの出力信号によって、前記ブロアー3の回転数と前記バルブ6の開閉を制御できる制御盤を設けるようにしておく。
【0025】
なお、前記含水計5及びバルブ6は、前記廃油管105ではなく、前記廃油タンク内に、または、廃油タンクに直接設けるようにしても良いものである。
このようにすることによって、廃油焼却炉に導かれる廃油(S)は常時含水率40%以下に監視することによって、極めて効率よく廃油焼却が可能となり、また、前述の廃油焼却炉の失火の防止に完全を期することができる。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明は、船舶の機闘室で発生する水分と油分の混ざった廃油を船舶内に装備される廃油焼却炉にて焼却するために船舶廃油処理装置に用いる。
【符号の説明】
【0027】
1 船舶廃油の処理装置
1 符号
2 空気加熱管器
3 ブロアーまたはファン
3 該ブロアー
4 吐出管
5 含水計
6 バルブ
101、102 廃油タンク
103、104 加熱管
105 廃油管
106 空気抜き管
108 廃油ファン
(S) 廃油
(F) 水蒸気(水分含有空気)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
船舶機関室で発生する燃料油の残留や潤滑油の残留に水分等の混じった混合物である廃油が蓄えられる廃油タンクと、
該廃油タンク内に装備され、前記廃油タンク内の廃油を100〜120℃程度に加熱する加熱管と、
外気を取り込み、取り込まれた空気を前記廃油タンクに張り込むブロアーまたはファンと、
前記廃油タンクから水蒸気または水分を含む空気を船外に排出する空気抜き管と、
前記廃油タンクから廃油を廃油焼却炉に導く廃油管と、
からなることを特徴とする船舶廃油の処理装置。
【請求項2】
船舶機関室で発生する燃料油の残留や潤滑油の残留に水分等の混じった混合物である廃油が蓄えられる廃油タンクと、
該廃油タンク内に装備され、前記廃油タンク内の廃油を100〜120℃程度に加熱する加熱管と、
外気を取り込み、取り込まれた空気を100℃〜120℃程度に加熱する空気加熱管器と、
前記空気加熱管器で加熱された空気を前記廃油タンクに張り込むブロアーまたはファンと、
前記廃油タンクから水蒸気または水分を含む空気を船外に排出する空気抜き管と、
前記廃油タンクから廃油を廃油焼却炉に導く廃油管と、
からなることを特徴とする船舶廃油の処理装置。
【請求項3】
前記廃油管または廃油タンクには、廃油の含水率を計測する含水計及びバルブが設けられ、
前記含水計の出力に応じて、前記ブロアーまたはファンの回転数および/または前記バルブの開閉を制御する制御盤が設けられたことを特徴とする請求項2に記載の船舶廃油の処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−179791(P2010−179791A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−25544(P2009−25544)
【出願日】平成21年2月6日(2009.2.6)
【出願人】(000146814)株式会社新来島どっく (101)
【Fターム(参考)】