説明

船舶用パワーステアリング装置

【課題】
油圧回路内の圧力が高くなることを防止できるとともに、取付作業が容易であり、更には、構成が簡素で安価な船舶用パワーステアリング装置を提供すること。
【解決手段】
操舵に応じた方向で且つ回転量に比例した液量の油を吐出する油圧ポンプ装置2と、油圧ポンプ装置2とともに油圧回路を構成するシリンダ部材3と、シリンダ部材3内を複数の油室に仕切るピストン部材4と、ピストン部材4に接続されるロッド部材5と、シリンダ部材3内に構成されるとともに各油室A,B内の油圧を夫々測定する油圧測定センサ装置6と、油圧測定センサ装置6の測定値に基づいた回転方向及び回転力で駆動する電動モータ装置8と、油圧ポンプ装置8の油吐出に伴う変更力を電気的かつ並列的にアシストするために、ロッド部材5と電動モータ装置8とを連結させて、電動モータ装置8の駆動力をロッド部材5に伝達可能とする伝達機構10とを備えていることを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶用パワーステアリング装置に関し、特に、操舵力をアシストすることができるアシスト機構付き船舶用パワーステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
船舶の後方には、推進装置及び舵装置が設けられている。そして、通常、船外機および船内外機においては、推進装置と舵装置とが一体に構成されており、他方、船内機においては、舵装置のみが向きを変更するように構成されている。そして、舵装置の向きは、操舵者の操舵(ハンドル操作)に応じて、変更するのである。
【0003】
ここで、通常、小型船舶においては、油圧またはプッシュプルワイヤによって、舵装置の向きを変更するようにされている。より具体的には、ハンドルが操作されると、そのハンドル操作に応じた方向および量の油がヘルムポンプ装置より吐出され、油路管を介してシリンダ部材へ送られる。これによりロッドが摺動して、リンクアーム部材を介して船外機の向きが変更されるのである。また、プッシュプルワイヤはハンドルの回転を軸方向の摺動に変換し、直接に舵の向きを動作せしめるものである。
【0004】
更に、近年において製造される船舶の中には、操舵力を軽減するためのパワーアシスト機構を有する操舵装置が装備されているものもある(下記、特許文献1参照)。
【0005】
この特許文献1記載の操舵装置においては、ハンドルに接続するポンプ装置の回転に対して発生する油圧回路からの液抵抗圧に対して、該液抵抗圧に応じた液吐出圧をヘルムポンプの吐出方向と同方向に発生させるようにしたポンプ手段を、完全密閉式閉回路からなる液圧回路の一部に直列に配置される構成とされている。そして、かかる構成を有する操舵装置によれば、ポンプ手段による補助によって舵輪の操舵抵抗を自動的に軽減することが可能となるのである。
【特許文献1】国際公開第WO01/019670号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、かかる特許文献1記載の従来技術においては、高負荷時には油圧回路内の圧力が高くなってリーク量が多くなる、又は、リリーフ弁が開放してしまう。これにより、ハンドルの中立位置がずれてしまうという不具合があった。
【0007】
また、既存の操舵装置に後付けして特許文献1記載の従来技術を構成する場合には、油圧回路の途中にアシスト用の油路を構成しなければならないため、配管、エア抜きなどの複雑な作業が必要となるという不具合があった。
【0008】
更には、高圧力に耐え得る油路を構成しなければならないし、アシスト用の油路を備えるため、構成が複雑、且つ高価となってしまうという不具合があった。
【0009】
本発明は、上記課題(不具合)を解決(解消)するために為されたものであって、油圧回路内の圧力が高くなることを防止できるとともに、取付作業が容易であり、更には、構成が簡素で安価な船舶用パワーステアリング装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
かかる目的を達成するために、特許請求の範囲に記載の船舶用パワーステアリング装置は、船外機その他の推進装置又は船内機の舵部の向きを変更するためのものであって、操舵に応じた方向で且つ回転量に比例した液量の油を吐出する油圧ポンプ装置と、該油圧ポンプ装置とともに油圧回路を構成するシリンダ部材と、該シリンダ部材内を複数の油室に仕切るピストン部材と、該ピストン部材に接続されるロッド部材と、前記シリンダ部材内に構成されるとともに前記各油室内の油圧を夫々測定する油圧測定センサ装置と、前記油圧測定センサ装置の測定値に基づいた回転方向及び回転力で駆動する電動モータ装置と、前記油圧ポンプ装置の油吐出に伴う推進装置又は舵部の向きの変更力を電気的かつ並列的にアシストするために、ロッド部材と電動モータ装置とを連結させて、前記電動モータ装置の駆動力を前記ロッド部材に伝達可能とする伝達機構とを備えていることを特徴としている。
【0011】
かかる構成を有する船舶用パワーステアリング装置によれば、油圧ポンプ装置により、操舵に応じた方向で且つ回転量に比例した液量の油が吐出されると、シリンダ部材内の操舵に応じた回転方向の油室内に油が流入して、ピストン部材及び該ピストン部材に接続するロッド部材が摺動する。これにより、船外機その他の推進装置又は船内機の舵部の向きが変更される。
【0012】
他方、各油室内の油圧は油圧測定センサ装置により測定され、その測定結果に基づいた回転方向及び回転力により電動モータ装置が駆動される。そして、該駆動力が、伝達機構を介して、推進装置又は舵装置に連結するロッド部材に伝達される。よって、前記油圧ポンプ装置の油吐出に伴う推進装置又は舵部の向きの変更力が電気的かつ並列的にアシストされる。
【発明の効果】
【0013】
特許請求の範囲に記載の船舶用パワーステアリング装置によれば、油圧ポンプ装置の油吐出に伴う推進装置又は舵部の向きの変更力を電気的かつ並列的にアシストすることが可能となり、油圧回路内の圧力が高くなることを防止できるとともに、取付作業が容易であり、更には、構成が簡素で安価なアシスト機構付き船舶用パワーステアリング装置を提供することができるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、添付図面を参照して、本発明の好適な実施の形態の例(実施例)について説明する。勿論、下記実施例は、本発明の好ましい実施例を示すに過ぎず、本発明の技術的範囲は、かかる実施例に何ら限定されるものではない。
【0015】
(第1実施例)
図1は、本発明の第1の実施例(第1実施例)である、アシスト機構付き船舶用パワーステアリング装置(以下、単に「船舶用パワーステアリング装置」という。)1の概略図である。図1に示すように、アシスト機構付き船舶用パワーステアリング装置1は、ヘルプポンプ装置2と、油路管12,13と、シリンダ部材3と、ピストン部材4と、ロッド部材5と、油圧測定センサ装置6と、ECU7と、電動モータ装置8と、減速機9を含む伝達機構10と、アシスト機構16とによって構成されている。
【0016】
図2は、かかる船舶用パワーステアリング装置1を備える船舶14を示す図である。船舶14には、かかる船舶用パワーステアリング装置1に加え、ハンドル部材11と、船外機15とを備えている。勿論、本発明は、舵部(図示せず)と一緒に向きを変える船外機15の場合にのみ適用可能なものでなく、船内機(図示せず)と別体に配設された舵装置(図示せず)のみの向きを変更する場合にも適用可能であることはいうまでもない。
【0017】
ヘルムポンプ装置2は、操舵者による操舵に応じた方向および液量(より具体的には、ハンドル部材11の操作(即ち、回転方向)に応じた方向に、且つ、回転量に比例した液量)に油を吐出するものであって、特許請求の範囲に記載の油圧ポンプ装置の一例である。
【0018】
シリンダ部材3は、ヘルムポンプ装置2とともに油圧回路を構成するためのものであり、シリンダ部材3には、油路管12及び油路管13が接続されており、この油路管12はヘルムポンプ装置2の一方の吐出口2aへ、油路管13はヘルムポンプ装置2の他方の吐出口2bへ接続されている(ここで、油路管12,13は、ゴム性のホース状のものであっても、非可撓性の樹脂性や金属性のパイプ状のものであっても良い)。また、シリンダ部材3の内部には、ピストン部材4およびロッド部材5の一部が収容されている。ピストン部材4は、シリンダ部材3の内部を複数の油室(本実施例においては、油室A及び油室Bの二つの油室)とに区分するものである。なお、油室Aには油路管12が接続されており、油室Bには油路管13が接続されている。
【0019】
ロッド部材5は、ピストン部材4の両側に接続状に固着されるとともに、ロッド部材5の両端部は、シリンダ部材3より突出しており、そのうち一端部には、リンクアーム部材17を取付けるための取付穴5bが形成されている。リンクアーム部材17は、ロッド部材5と推進装置の一種である船外機15とを連結するものであり、このリンクアーム部材17により、ロッド部材5の摺動方向に応じて船外機15の向きが変更されるのである。
【0020】
油圧測定センサ装置6は、油室A及び油室Bの油圧を測定するものであって、油室シリンダ部材3と油路管12との接続箇所付近に設けられた油圧測定センサ装置6aと、シリンダ部材3と油路管13との接続箇所付近に設けられた油圧測定センサ装置6bとによって構成されている。油圧測定センサ装置6a及び6bのうちの何れの油圧測定センサ装置6の測定値が増加したかによって(又は、油圧測定センサ装置6の測定値が減少したかによって)、ヘルムポンプ装置2の油の吐出方向(ハンドル部材11の回転方向、ひいては、ロッド部材5の摺動方向)を検知することができるとともに、他方、油圧測定センサ装置6の測定値によってヘルムポンプ装置2の油の吐出量状況(具体的には、ハンドル部材11の回転力)を検知することができる。
【0021】
ECU7は、油圧測定センサ装置6a,6bの測定結果に基づいた回転方向および回転力で電動モータ装置8を駆動制御するものである。より具体的には、油圧測定センサ装置6a,6bの何れのセンサの測定値が増加したか又は減少したかによって電動モータ装置8の回転方向(電動モータ装置8に流れる電流の方向)を制御するとともに、油圧測定センサ装置6の測定値によって電動モータ装置8の回転力(電動モータ装置8に流れる電流値)を制御するのである。
【0022】
電動モータ装置8は、ECU7からの信号に応じて、回転駆動するものであり、減速機9は、電動モータ装置8に連結して回転力を減速するものである。減速機9の出力軸9aにはピニオン部9bが形成されており、このピニオン部9bがロッド部材5に形成されたラック部5aに噛合することによって、電動モータ装置8とロッド部材5とを連結している。そして、この減速機9(その出力軸9a、及びピニオン部9bを含む)およびラック部5bのピニオン部9bによって、伝達機構10が構成されるのである。更に、油圧測定センサ部材6、ECU7、電動モータ装置8、及び、伝達機構10により、アシスト機構16が構成される。
【0023】
そして、上記のように構成された船舶用パワーステアリング装置1によれば、ヘルムポンプ装置2の油吐出に伴う船外機15の向きの変更力が並列的且つ電気的にアシストすることが可能となり、油圧回路内(具体的には、ヘルムポンプ装置2、油路管12,13及びシリンダ部材2等、並びに、それらの接続部)の圧力が高くなることを防止でき、油圧回路からの油のリーク量を極めて少なくしたり、リリーフ弁(図示せず)が開放したりすることを防止できる。ひいては、ハンドル部材11の中立位置がずれてしまうことを防止できる。また、構成が簡素で安価とすること(シール機構の簡素化の実現、汎用部品の高使用率化の実現)ができ、電気的にアシストするため、従来から存在する油路回路に極力手を加えることなく、アシスト機構16を取付けることが可能となるので、アシスト機構16の取付作業(組付作業)が煩雑となってしまうことを防止できるのである。
【0024】
以下、図1及び図2を参照して、船舶用パワーステアリング装置1の動作について説明する。ハンドル部材11が操作されると、ヘルムポンプ部材2により、その操作に応じた方向および量の油が吐出される。油は油路管12又は油路管13を通って、シリンダ部材3内の対応する油室A又は油室Bへ流入する。その後、油室A又は油室Bに流れ込んだ油によりピストン部材4が押圧されて摺動し、それに伴い、ピストン部材4に接続されているロッド部材5も同方向へ摺動する。ロッド部材5が摺動すると、ロッド部材5に接続されているリンクアーム部材17により船外機15の向きが変更される。
【0025】
他方、シリンダ部材3の内部、より具体的には油室Aおよび油室Bに夫々配設された油圧測定センサ装置6a,6bにより、その測定値がECU7に出力されると、電動モータ装置8に流す電流の向き及びその値を演算し、電動モータ装置8に流れる電流を制御する。この際における電流の制御は、PWM制御によって実行され、フィードバック電流を検出することにより補正も行っている。電動モータ装置8の回転駆動力は、減速機9の出力軸9a及びロッド部材5のラック部5aを介して、ロッド部材5に、油圧によるロッド部材5の摺動をアシストする方向に伝達される。これにより、操舵力が軽減される。
【0026】
(第2実施例)
次に、図3を参照して、第1実施例の船舶用パワーステアリング装置1の変形例(第2実施例)について説明する。第2実施例の船舶用パワーステアリング装置20を説明するに当たっては、第1実施例と同一の部分には同一の符号を付してその説明を省略し、異なる部分を重点に説明する。
【0027】
第2実施例の船舶用パワーステアリング装置20は、ヘルムポンプ装置2と、油路管12,13と、シリンダ部材3と、ピストン部材4と、ロッド部材21と、油圧測定センサ装置6と、ECU7と、電動モータ装置8と、減速機9と、伝達機構10と、アシスト機構16とによって構成されている。すなわち、ロッド部材21の構成を異にする点に構成上の特徴を有する。
【0028】
ロッド部材21は、上下に並列に配設された上方ロッド部材21aおよび下方ロッド部材21b、ならびに両ロッド部材を連結する連結ロッド部材21cによって構成されている。なお、連結ロッド部材21cは、特許請求の範囲を構成する連結部材に相当するものであって、リンクアーム部材17を取付けるための取付穴21dは、連結ロッド部材21cの中央部に形成されている。
【0029】
そして、伝達機構10を含むアシスト機構16は、上方ロッド部材21a及び下方ロッド部材21bの両ロッド部材のうち何れか一方のロッド部材(本実施例においては、上方ロッド部材21a)側に配設され、シリンダ部材3およびピストン部材4は、他方のロッド部材(本実施例においては、下方ロッド部材21b)側に配設されるのである。なお、本実施例においては、ラック部5aが、上方ロッド部材21aに形成されている。
【0030】
以上のように構成された第2実施例の船舶用パワーステアリング装置20によれば、油圧回路による船外機15の方向変更機構と、電気回路によるアシスト機構16とを上下に配置することによって装置をコンパクトとすることができる。ひいては、船舶14内が狭くなってしまうことを防止できる。
【0031】
以上、実施例に基づき本発明を説明したが、上記実施例は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変形が可能であることはいうまでもなく、本発明の技術的範囲には、これらの改良変形も含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の第1実施例のアシスト機構付き船舶用パワーステアリング装置の概略図である。
【図2】上記船舶用パワーステアリング装置を備える船舶の概略図である。
【図3】第2実施例のアシスト機構付き船舶用パワーステアリング装置の概略図である。
【符号の説明】
【0033】
1,20 アシスト機構付き船舶用パワーステアリング装置
2 ヘルプポンプ装置
2a (ヘルムポンプ装置)の一方の吐出口
2b (ヘルムポンプ装置)の他方の吐出口
3 シリンダ部材
4 ピストン部材
5,21 ロッド部材
5a ラック部
6,6a,6b 油圧測定センサ装置
7 ECU
8 電動モータ装置
9 減速機
9a 出力軸
9b ピニオン部
10 伝達機構
11 ハンドル部材
12,13 油路管
14 船舶
15 船外機
16 アシスト機構
17 リンクアーム部材
A,B (シリンダ部材内に形成される)油室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
船外機その他の推進装置又は船内機の舵部の向きを変更するための船舶用パワーステアリング装置において、
操舵に応じた方向で且つ回転量に比例した液量の油を吐出する油圧ポンプ装置と、
該油圧ポンプ装置とともに油圧回路を構成するシリンダ部材と、
該シリンダ部材内を複数の油室に仕切るピストン部材と、
該ピストン部材に接続されるロッド部材と、
前記シリンダ部材内に構成されるとともに前記各油室内の油圧を夫々測定する油圧測定センサ装置と、
前記油圧測定センサ装置の測定値に基づいた回転方向及び回転力で駆動する電動モータ装置と、
前記油圧ポンプ装置の油吐出に伴う推進装置又は舵部の向きの変更力を電気的かつ並列的にアシストするために、ロッド部材と電動モータ装置とを連結させて、前記電動モータ装置の駆動力を前記ロッド部材に伝達可能とする伝達機構とを備えていることを特徴とするアシスト機構付き船舶用パワーステアリング装置。
【請求項2】
ロッド部材は、上下に並列に配設された上方ロッド部材および下方ロッド部材、ならびに両ロッド部材を連結する連結部材によって構成されており、
伝達機構は、前記両ロッド部材のうち何れか一方のロッド部材側に配設され、
前記シリンダ部材およびピストン部材は、他方のロッド部材側に配設されていることを特徴とする請求項1記載のアシスト機構付き船舶用パワーステアリング装置。
【請求項3】
伝達機構は、電動モータ装置に連結される減速機を備えており、
該減速機の出力軸には、ピニオン部が形成される一方、ロッド部材には、ラック部が形成されており、
前記伝達機構は、減速機の出力軸のピニオン部が前記ロッド部材のラック部材に噛合することによって連結させることを特徴とする請求項1又は2に記載の船舶用パワーステアリング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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