説明

船舶用推進制御装置および船舶

【課題】転舵ユニットのエネルギー効率に貢献でき、かつ、乗員の違和感を低減できる船舶用推進制御装置および船舶を提供する。
【解決手段】
船体ECU20は、船外機11L,11Rおよび転舵ユニット12L,12Rを制御する。ジョスティックユニット10は、中立位置から傾倒可能なレバー7と、中立位置から回動可能なノブ8とを備えている。操船者は、ジョイスティックユニット10の操作により、船舶1の進行方向および回頭を指示することができる。船体ECU20は、ジョイスティックユニット10の出力信号に応じて、船外機11L,11Rの出力および転舵ユニット12L,12Rの転舵角を制御する。船体ECU20は、船外機11L,11Rからの推進力を停止するとき、転舵ユニット12L,12Rの転舵角を保持するように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、推進ユニットおよび転舵ユニット(steering unit)を制御するための船舶用推進制御装置、ならびにこのような船舶用推進制御装置を備えた船舶に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ジョイスティックの操作に応じて推進ユニットおよび転舵ユニットを制御する制御装置が開示されている。ジョイスティックは、中立位置から傾倒操作可能なレバーを備えている。レバーの操作方向に応じて推進力の方向が制御され、レバーの傾倒量に応じて推進力の大きさが制御される。ジョイスティックは、たとえば、レバーに対して中立位置への復元力を与えるばねを備えている。操船者がレバーに加える操作力を弱めると、ばねの復元力によって、レバーは中立位置に戻される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−155764号公報
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
離岸時および着岸時には、操船者は、船舶の進行方向および姿勢を頻繁に変更するための操作を行う。その他、風や潮の流れに抗して船舶の方位を保持したり、船舶の位置を保持したりするときにも、同様な操作が必要になる。
このような場合、ジョイスティックの操作によって、推進ユニットの推進力および転舵ユニットの転舵角が頻繁に変化することになる。とくに、ジョイスティックによる操船では、レバーを短時間だけ傾倒させて中立位置へと戻す操作が繰り返し行われる。このような繰り返し操作に応答して、転舵ユニットの転舵角が頻繁に変化することになる。より詳細に説明すると、船舶の姿勢を微修正したい場合、操船者は、レバーを一方向に短時間だけ傾倒する操作を繰り返し実行する。それに応じて、転舵角は、当該操作方向に対応する値と、中立値(たとえば零)との間で頻繁に変化することになる。
【0005】
たとえば、推進ユニットの一例である船外機は、それ自体が船体に対して左右に回動する舵部材(steering member)としても機能する。この場合、転舵ユニットは、船外機を左右に回動させることになる。したがって、船外機は、右または左に転舵された位置と、中立位置との間で頻繁に回動されることになる。
このように頻繁な転舵動作は、エネルギー効率を低下させるおそれがあり、かつ、乗員(操船者および同乗者)に違和感を与えるおそれもある。
【0006】
そこで、この発明の目的は、転舵ユニットのエネルギー効率に貢献でき、かつ、乗員の違和感を低減できる船舶用推進制御装置および船舶を提供することである。
この発明は、推進ユニットおよび転舵ユニットを制御する船舶用推進制御装置を提供する。この船舶用推進制御装置は、中立位置から傾倒可能なレバーを備え、船舶の進行方向および回頭を指示するために操船者によって操作されるように構成されたジョイスティックユニットと、前記ジョイスティックユニットの出力信号に応じて前記推進ユニットの出力および前記転舵ユニットの転舵角を制御する制御ユニットとを含む。前記制御ユニットは、前記推進ユニットの出力を停止するとき、前記転舵ユニットの転舵角を保持するように構成されている。
【0007】
推進ユニットの出力が停止されているときは、転舵角の変化は船体の姿勢変化に寄与しない。そこで、制御ユニットは、推進ユニットの出力が停止されるときは、転舵ユニットの転舵角を変化することなく、従前の値に保持する。これにより、ジョイスティックユニットのレバー操作が頻繁に繰り返されるときであっても、無意味な転舵角変化を少なくすることができる。その結果、転舵ユニットのエネルギー消費を少なくすることができるので、エネルギー効率に寄与することができ、かつ、乗員の違和感を低減できる。
【0008】
この発明の一実施形態において、前記船舶用推進制御装置は、船舶の左右に配置される左推進ユニットおよび右推進ユニット、ならびに前記左推進ユニットおよび右推進ユニットにそれぞれ対応した左転舵ユニットおよび右転舵ユニットを制御するように構成されている。この場合に、前記制御ユニットは、前記左右の推進ユニットが発生する推進力の作用線がV字形または倒立V字形を形成するように前記左右の転舵ユニットの転舵角を制御するように構成されていてもよい。そして、前記制御ユニットは、前記左右の推進ユニットの出力を停止するときに前記左右の転舵ユニットの転舵角を保持することにより、前記作用線がV字形または倒立V字形を形成する状態を保持するように構成されていることが好ましい。
【0009】
「作用線」とは、平面視において、推進力の作用点を通り、かつ推進力の方向に沿う直線である。「V字形」および倒立V字形(換言すればΛ字形)とは、平面視において作用線が形作る形状である。より具体的には、一対の作用線は、それらの交点が推進ユニットよりも後方に位置する場合に、V字形を形成する。すなわち、左右の推進ユニットの推進力作用点と前記交点とによって、V字形が形成される。また、一対の作用線は、それらの交点が推進ユニットよりも前方に位置する場合に、倒立V字形を形成する。すなわち、左右の推進ユニットの推進力作用点と前記交点とによって、倒立V字形が形成される。
【0010】
たとえば、一対の作用線が倒立V字形を形成するとき、それらがいずれも船体の回転中心を通る状態に転舵角を制御できる。この場合、左右の推進ユニットが発生する推進力は、船体に実質的な回頭モーメントを与えない。したがって、船体の方位を変化させずに船体の位置を変更する平行移動が可能になる。より具体的には、ジョイスティックユニットのレバーを左右いずれかに傾倒させることによって、左方向または右方向に船舶を平行移動させることができる。むろん、左右の推進ユニットが発生する推進力を調整することによって、斜め左右前方および斜め左右後方への平行移動も可能である。
【0011】
離着岸時などには、操船者は、船舶を少しずつ平行移動させるために、レバーを中立位置から短時間だけ傾倒させる操作を繰り返し行うかもしれない。このような場合に、レバーが中立位置に戻され、したがって、推進ユニットからの出力が停止されるとき、左右の推進ユニットの転舵角はそのまま保持され、たとえば、作用線が倒立V字形を形成している状態が保持される。つまり、転舵角が、中立値と、作用線が倒立V字形を形成する値との間で頻繁に変化することがない。中立値とは、たとえば、船体の前後方向、すなわち船体中心線に平行な方向に推進力が作用するときの転舵角値である。
【0012】
一方、一対の作用線がV字形を形成するとき、左右の推進ユニットが発生する推進力は、いずれも、船体に回頭モーメントを与える。左右の推進ユニットが船体に与える回頭モーメントが逆方向であれば、それらは、少なくとも部分的に相殺する。したがって、船体を前進または後進させたり、左右に旋回させたりすることができる。また、左右の推進ユニットが船体に与える回頭モーメントが同方向であれば、たとえば、船体の位置を実質的に変化させることなく船体を回頭させることができる。
【0013】
離着岸時などには、操船者は、船舶を少しずつ回頭させるために、短時間だけ回頭指示を与えるためのジョイスティック操作を繰り返すかもしれない。このような場合に、回頭指示が中断され、したがって、推進ユニットからの出力が停止されるとき、左右の推進ユニットの転舵角はそのまま保持され、たとえば、作用線がV字形を形成している状態が保持される。つまり、転舵角が、中立値と、作用線がV字形を形成する値との間で頻繁に変化することがない。
【0014】
このようにして、転舵角の無意味な変化が少なくなるので、転舵ユニットのエネルギー効率に貢献することができ、かつ、乗員の違和感を低減できる。
この発明の一実施形態において、前記船舶用推進制御装置は、船舶の左右に配置される左推進ユニットおよび右推進ユニット、ならびに前記左推進ユニットおよび右推進ユニットにそれぞれ対応した左転舵ユニットおよび右転舵ユニットを制御するように構成されている。そして、前記レバーは、中立位置から前後左右に傾倒可能に構成されている。また、
前記制御ユニットは、前記左右の推進ユニットが発生する推進力の作用線がV字形または倒立V字形を形成するように前記左右の転舵ユニットの転舵角を制御するように構成されている。この場合に、前記制御ユニットは、前記レバーの左右方向傾倒量が所定値以下(たとえば零または所定の不感帯範囲)となったときに、前記左右の転舵ユニットの転舵角を保持することにより、前記左右の推進ユニットの作用線がV字形または倒立V字形を形成する状態を保持するように構成されていることが好ましい。
【0015】
この構成では、レバーが中立位置またはその付近に戻され、したがって、もはや推進ユニットからの推進力を発生すべきでなくなると、左右の転舵ユニットの転舵角が保持される。これにより、左右の推進ユニットの作用線がV字形または倒立V字形を形成する状態に保持される。よって、無用な転舵角変化が少なくなるので、エネルギー効率に貢献でき、乗員の違和感を低減できる。
【0016】
この発明の一実施形態においては、前記ジョイスティックユニットは、中立位置から回動操作可能に構成された回動操作部をさらに含む。この場合に、前記制御ユニットは、前記回動操作部の操作に応じて、船体に回頭モーメントを与えるように、前記推進ユニットの出力および前記転舵ユニットの転舵角を制御するように構成されていることが好ましい。
【0017】
前記回動操作部は、前記レバーの軸線まわりに回動操作可能に構成されていてもよい。より具体的には、前記回動操作部は、レバーの先端に設けられたノブであってもよい。このノブは、レバーとともに回動するものであってもよいし、レバーに対して相対的に回動するものであってもよい。むろん、回動操作部は、レバーとは別に設けられていてもよい。
【0018】
たとえば、回頭ハンドルが中立位置に戻され、推進ユニットの推進力の発生を要しなくなる場合がある。このような場合に、転舵ユニットの転舵角が保持される。たとえば、前述のように、左右の推進ユニットが備えられ、船体を回頭させるためにそれらの推進力の作用線が倒立V字形を形成するように転舵角が制御される場合がある。この場合に、回動操作部が中立位置に戻されたときに、左右の転舵ユニットの転舵角を保持し、一対の作用線が倒立V字形を形成する状態を保持することができる。
【0019】
前記制御ユニットは、前記レバーの前後方向傾倒に応じて前記推進ユニットの出力を制御し、前記回動操作部の操作に応じて前記転舵ユニットの転舵角を制御するように構成されていてもよい。この場合に、前記制御ユニットは、前記レバーおよび前記回動操作部がそれぞれの中立位置に戻されたときに、前記推進ユニットの出力を停止させ、さらに、前記転舵ユニットの転舵角を保持するように構成されていることが好ましい。
【0020】
この構成では、レバーの前後方向傾倒に応じて推進力が調整され、回動操作部の回動に応じて転舵角が制御される。したがって、レバーおよび回動操作部がそれぞれの中立位置にあれば、推進ユニットの出力が停止される。このときに、転舵ユニットの転舵角が保持される。すなわち、転舵角は、回動操作部の操作によって調整された状態に保持されることになる。回動操作部等の操作から実際に転舵角が変化するまでには、一定の応答時間が必要である。この応答時間内にレバーおよび回動操作部がそれぞれの中立位置に戻されたときに、転舵角変化が無効化される。
【0021】
前記制御ユニットは、前記転舵ユニットの転舵角を、中立値を含む中立範囲、中立範囲の一方側の第1範囲、および中立範囲の他方側の第2範囲のうちのいずれかの転舵角範囲に属する転舵角に制御するように構成されていてもよい。この場合に、前記制御ユニットは、さらに、前記レバーが中立位置にある状態で、前記回動操作部が中立位置から回動されたときは、転舵角範囲を変更することなく、前記回動操作部の操作に応じて前記転舵ユニットの転舵角を制御するように構成されていることが好ましい。この構成により、レバーが中立位置にあるときの転舵角変化が抑制されるので、転舵角変化をより一層少なくすることができる。これにより、エネルギー効率にさらに貢献でき、かつ、乗員の違和感をさらに低減できる。
【0022】
中立値とは、前述のとおり、推進力の作用線が船体の前後方向(船体中心線に平行な方向)に沿うときの操舵角値である。中立範囲とは、中立値のみを含む範囲であってもよいし、中立値を含む左右一定角度範囲であってもよい。
前記推進ユニットは、互いに正反対の第1方向と第2方向とに推進力の方向を切り換えることができるように構成されていてもよい。より具体的には、推進ユニットは、前進方向と後進方向とに推進力の切換が可能であってもよい。この場合に、前記制御ユニットは、前記レバーが中立位置にある場合において前記回動操作部が操作されたとき、前記転舵ユニットの転舵角が中立値を含む中立範囲に属しなければ、前記推進ユニットの推進力の方向を前記回動操作部の操作に応じて前記第1方向または第2方向に制御するように構成されていることが好ましい。
【0023】
転舵角が中立範囲に属しないときには、推進ユニットから第1方向の推進力を発生させれば、船体に一方向の回頭モーメントを与えることができる。また、推進ユニットから第2方向の推進力を発生させれば、船体に他方向の回頭モーメントを与えることができる。したがって、転舵角変化を最小限にとどめながら、船体にいずれの方向の回頭モーメントをも与えることができる。これにより、転舵ユニットのエネルギー効率に貢献でき、転舵角の頻繁な変化に起因する乗員の違和感を低減できる。
【0024】
この発明の一実施形態に係る船舶用推進制御装置は、前記制御ユニットの制御モードを、通常操船モードと、ジョイスティック操船モードとに切り換えるモード切換ユニットをさらに含む。この場合に、前記制御ユニットは、通常操船モードにおいては、船舶に備えられるリモコンレバーの操作に応じて前記推進ユニットの出力を制御し、前記船舶に備えられるステアリングハンドルの操作に応じて前記転舵ユニットの転舵角を制御するように構成されていることが好ましい。また、前記制御ユニットは、前記ジョイスティック操船モードにおいては、前記ジョイスティックユニットの操作に応じて前記推進ユニットの出力および前記転舵ユニットの転舵角を制御し、かつ、前記推進ユニットの出力を停止するときに、前記転舵ユニットの転舵角を保持するように構成されていることが好ましい。
【0025】
通常操船モードでは、ステアリングハンドルおよびリモコンレバーの操作によって、推進ユニットの出力および転舵ユニットの操舵角を調整できる。たとえば、左右一対の推進ユニットおよびそれらに対応する左右一対の転舵ユニットが備えられている場合に、通常操船モードでは、左右一対の転舵ユニットの転舵角は互いに実質的に等しい値に制御されてもよい。つまり、左右一対の推進ユニットの推進力の作用線は、互いにほぼ平行な状態とされてもよい。したがって、ステアリングハンドルの操作によって、一対の作用線が互いにほぼ平行な状態を保持しつつ、左右の転舵ユニットの転舵角が同期して変化することになる。したがって、通常操船モードは、外洋などでの操船に適している。推進力の調整は、ステアリングハンドルとは別に設けられたリモコンレバーの操作によって行われる。
【0026】
一方、ジョイスティック操船モードでは、ジョイスティックユニットの操作によって、船舶の挙動を精密に制御することができる。たとえば、船舶には、左右一対の推進ユニットおよびそれらに対応する左右一対の転舵ユニットが備えられてもよい。この場合に、ジョイスティック操船モードでは、左右の推進ユニットの推進力の作用線がV字形または倒立V字形を形成するように、左右一対の転舵ユニットの転舵角が制御されてもよい。
【0027】
この発明の一実施形態では、前記船舶用推進制御装置は、船体の方位を保持するために操船者によって操作される方位保持指示ユニットと、船体の方位を検出する方位検出ユニットとをさらに含む。この場合に、前記制御ユニットは、前記方位保持指示ユニットが操作されたときの船体の方位を保持するように、前記方位検出ユニットの出力に基づいて、前記推進ユニットの出力および前記転舵ユニットの転舵角を制御するように構成されていることが好ましい。これにより、方位保持指示ユニットを操作すれば、船体の方位が自動的に保持される。よって、一定の方位に向けながら船体を移動させて行う流し釣りや、船体を一定の方位に向けて定速航走させるトローリングの際の操船が容易になる。
【0028】
前記推進ユニットは、互いに正反対の第1方向と第2方向とに推進力の方向を切り換えることができるように構成されていてもよい。この場合に、前記制御ユニットは、前記転舵ユニットの転舵角が中立値を含む中立範囲に属しないときに、前記転舵角は変えずに、前記推進ユニットの推進力の方向および大きさを制御することにより、船体の方位を保持するように構成されていることが好ましい。これにより、転舵角を変化させることなく、船体に一方向または他方向の回頭モーメントを適切に与えることによって、船体の方位が保持される。その結果、少ない転舵角変化で、船体の方位を一定に保持できるから、エネルギー効率に貢献でき、かつ、乗員の違和感低減に貢献できる。
【0029】
この発明の一実施形態に係る船舶用推進制御装置は、船体の方位を検出する方位検出ユニットをさらに含む。この場合に、前記制御ユニットは、所定の指示入力が与えられたとき(たとえば、船体前後方向に沿う後進指示が入力されたとき)に、その入力時の船体の方位を保持するように、前記方位検出ユニットの出力に基づいて、前記推進ユニットの出力および前記転舵ユニットの転舵角を制御するように構成されていることが好ましい。この構成により、所定の指示入力に応答して、船体の方位を保持するための制御が実行される。たとえば、推進ユニットが、プロペラの回転によって推進力を発生するように構成されている場合に、プロペラの回転に起因する横力(lateral force。いわゆるジャイロ効果による横力)を補償する制御を実行することができる。より具体的には、たとえば、船体を後方に直進させるための指示入力に応答して、船体の方位を保持する制御が実行されてもよい。これにより、ジャイロ効果による横力等が補償され、操船者の意図に従う後進を実現できる。
【0030】
この発明の一実施形態に係る船舶用推進制御装置は、船体の位置および方位を保持するために操船者によって操作される定点保持指示ユニットと、船体の位置を検出する位置検出ユニットと、船体の方位を検出する方位検出ユニットとをさらに含む。この場合に、前記制御ユニットは、前記定点保持指示ユニットが操作されたときの船体の位置および方位を保持するように、前記位置検出ユニットおよび方位検出ユニットの出力に基づいて、前記推進ユニットの出力および前記転舵ユニットの転舵角を制御するように構成されていることが好ましい。
【0031】
この構成により、定点保持指示ユニットを操作することによって、船体の位置および船体の方位を保持するように、推進力および転舵角が制御される。これにより、複雑な操作を要することなく、船体を定点に保持することができる。船体の定点保持は、釣りのポイントで船体を保持する場合のほか、カイトフィッシングにおいても利用できる。カイトフィッシングとは、船舶から凧を飛ばし、凧糸から水中へと釣り糸を垂らして行う釣りの手法である。通常のカイトフィッシングでは、船体の移動を防ぐために、シーアンカーと呼ばれるパラシュートが水中に投入される。上記のような定点保持制御を実行すれば、シーアンカーを用いることなく船舶を定点に保持して、カイトフィッシングを行うことができる。
【0032】
この発明の一実施形態に係る船舶用推進制御装置は、所定の船体挙動に対応する推進力(必要に応じてさらに転舵角)を設定するためのキャリブレーション操作ユニットをさらに含む。この場合に、前記制御ユニットは、前記キャリブレーション操作ユニットの操作に応答して、前記所定の船体挙動と推進力(必要に応じてさらに転舵角)とが対応するように、ジョイスティックの出力信号と推進力(必要に応じてさらに転舵角)との関係特性を更新するように構成されていることが好ましい。
【0033】
たとえば、前記制御ユニットは、キャリブレーション操作ユニットの操作から所定時間経過後までの推進力(さらに必要に応じて転舵角)の平均値に基づいて前記関係特性を更新するように構成されていてもよい。また、前記制御ユニットは、前記キャリブレーション操作ユニットが操作されたときの推進力(さらに必要に応じて転舵角)に基づいて前記関係特性を更新するように構成されていてもよい。さらに、前記制御ユニットは、前記キャリブレーション操作ユニットが操作された時点から所定時間だけ前までの期間における推進力(さらに必要に応じて転舵角)に基づいて前記関係特性を更新するように構成されていてもよい。
【0034】
前記キャリブレーション操作ユニットは、船体の横移動(前記所定の船体挙動の一例)に対する前記関係特性を更新するために操作される横移動キャリブレーション操作ユニットを含んでいてもよい。また、前記キャリブレーション操作ユニットは、船体のその場回頭(前記所定の船体挙動の一例)に対する前記関係特性を更新するために操作される回頭キャリブレーション操作ユニットを含んでいてもよい。
【0035】
船体の横移動を指示するためのジョイスティック操作は、たとえば、前記レバーを左方向または右方向に傾倒させる操作であってもよい。この場合、このようなジョイスティック操作に対して、前記関係特性が関連付けられる。したがって、キャリブレーションを実行しておけば、レバーを左方向または右方向に傾倒させる操作を行うことで、船体を横移動させることができる。キャリブレーションの実行前には、たとえば、レバーの左方向または右方向への傾倒により、船体の回頭が生じたり、船体が斜め方向に移動したりすることがあり得る。そこで、キャリブレーションを実行することで、レバーの左右への傾倒操作に応じた船舶の横移動を容易に行わせることができるようになる。
【0036】
船体のその場回頭を指示するためのジョイスティック操作は、たとえば、レバーを中立位置に保持した状態で前記回動操作部を回動する操作であってもよい。このようなジョイスティック操作に対して、前記関係特性が関連付けられる。したがって、キャリブレーションを実行しておけば、レバーを中立位置に保持して回動操作部を回動することで、船体を最小回転半径で回頭させることができる。キャリブレーションの実行前には、たとえば、同様のジョイスティック操作によって、船体が大きく移動しながら回頭し、回転半径が大きくなってしまう場合があり得る。そこで、キャリブレーションを実行することで、前記ジョイスティック操作によって、確実に、最初回転半径での回頭が可能になる。
【0037】
この発明の一実施形態は、船体と、船体に備えられた推進ユニットおよび転舵ユニットと、前記推進ユニットおよび転舵ユニットを制御する、前述のような特徴を有する船舶用推進制御装置とを含む、船舶を提供する。
なお、船舶は、クルーザ、釣り船、ウォータージェット、水上滑走艇(watercraft)のような比較的小型のものであってもよい。
【0038】
推進ユニットは、船外機(アウトボードモータ)、船内外機(スターンドライブ。インボードモータ・アウトボードドライブ)、船内機(インボードモータ)、ウォータージェットドライブのいずれの形態を有していてもよい。船外機は、原動機(エンジンまたは電動モータ)および推進力発生部材(プロペラ)を含む推進ユニットを船外に有する。この場合、転舵ユニットは、船外機全体を船体に対して水平方向に回動させるように構成される。船内外機は、原動機が船内に配置され、推進力発生部材を含むドライブユニットが船外に配置されたものである。この場合、転舵ユニットはドライブユニットを船体に対して左右に回動させるように構成される。船内機は、原動機およびドライブユニットがいずれも船体に内蔵され、ドライブユニットからプロペラシャフトが船外に延び出た形態を有する。この場合、転舵ユニットは、原動機およびドライブユニットとは別に設けられた舵ユニットを船体に対して左右に回動させるように構成される。ウォータージェットドライブは、船底から吸い込んだ水をジェットポンプで加速し、船尾の噴射ノズルから噴射することで推進力を得るものである。この場合、転舵ユニットは、噴射ノズルから噴射された水流を変更させるデフレクタを左右に回動させるように構成される。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】この発明の一実施形態に係る船舶の構成を説明するための概念図である。
【図2】船外機の構成を説明するための図解的な断面図である。
【図3】図3Aはジョイスティックユニットの構成を拡大して示す図解的な側面図であり、図3Bはその平面図である。
【図4】ジョイスティック操船モードにおける船体の挙動および船外機の姿勢を示す動作説明図である。
【図5】ジョイスティック操船モードにおいて船体ECUが実行する処理の一部を示すフローチャートである。
【図6】本願発明者によるジョイスティック操船モードでの実験結果を示す図である。
【図7】本願発明者によるジョイスティック操船モードでの実験結果を示す図である。
【図8】この発明の第2の実施形態に係る船舶の構成を説明するための概念図である。
【図9】第2の実施形態のジョイスティック操船モードにおける船体の挙動および船外機の姿勢を示す動作説明図である。
【図10】第2の実施形態のジョイスティック操船モードにおいて船体ECUが実行する処理の一部を示すフローチャートである。
【図11】この発明の第3の実施形態に係る船舶の構成を説明するための概念図である。
【図12】第3の実施形態において、方位保持ボタンの操作に応答して船体ECUが実行する処理の内容を説明するためのフローチャートである。
【図13】この発明の第4の実施形態に係る船舶に備えられた船体ECUによる処理の一例を示すフローチャートである。
【図14】この発明の第5の実施形態に係る船舶の構成を示す概念図である。
【図15】定点保持ボタンの操作に応答して船体ECUが実行する制御処理の内容を説明するためのフローチャートである。
【図16】この発明の第6の実施形態に係る船舶の構成を説明するための概念図である。
【図17】横移動キャリブレーションの流れを説明するためのフローチャートである。
【図18】横移動キャリブレーションの実施例を示す。
【図19】横移動キャリブレーションにおける補正角度の時間変化を示す。
【図20】回頭キャリブレーションの流れを説明するためのフローチャートである。
【図21】回頭キャリブレーションの実施例を示す。
【図22】右まわり回頭操作を実際に行ったときの船体の航跡例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下では、この発明の実施の形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。
第1の実施形態
図1は、この発明の一実施形態に係る船舶1の構成を説明するための概念図である。この船舶1は、クルーザやボートのような比較的小型の船舶である。この船舶1の船体2には、一対の船外機11L,11Rが一対の転舵ユニット12L,12Rをそれぞれ介して取り付けられている。
【0041】
船外機11L,11Rは、船体2の船尾(トランサム)3に取り付けられている。この一対の船外機11L,11Rは、船体2の船尾3および船首4を通る中心線5に対して、左右対称な位置に取り付けられている。すなわち、一方の船外機11Lは、船体2の左舷後部に取り付けられており、他方の船外機11Rは、船体2の右舷後部に取り付けられている。そこで、以下では、これらの船外機を区別するときには、それぞれ、「左船外機11L」、「右船外機11R」という。
【0042】
転舵ユニット12L,12Rは、左船外機11Lおよび右船外機11Rをそれぞれ左右に転舵させるように構成されている。そこで、以下では、これらの転舵ユニットを区別するときには、それぞれ「左転舵ユニット12L」、「右転舵ユニット12R」という。転舵ユニット12L,12Rが、船外機11L,11Rを左右に転舵させることによって、船外機11L,11Rが発生する推進力の方向が変化する。この推進力の作用点を通り、当該推進力の方向に沿う線を「作用線」ということにし、「作用線」が船体中心線5に対してなす角を転舵ユニット12L,12Rの「転舵角」などということにする。作用線71L,71Rが船体中心線5に平行なとき、転舵角は零(中立値)をとる。そして、作用線71L,71Rの前方側が船体中心線5に平行な状態よりも、左に位置しているときの転舵角を正の値で表し、作用線71L,71Rの前方側が船体中心線5と平行な状態よりも右に位置しているときの転舵角を負の値で表すことにする。船外機11L,11Rが発生する推進力が船体2に作用する作用点は、たとえば、船外機11L,11Rが左右に回動するときの回動中心(後述の転舵軸35。図2参照)である。
【0043】
左船外機11Lおよび右船外機11Rには、それぞれ、電子制御ユニット13L,13R(以下、「左船外機ECU13L」、「右船外機ECU13R」という。)が内蔵されている。さらに、左転舵ユニット12Lおよび右転舵ユニット12Rには、それぞれ、電子制御ユニット14L,14R(以下、「左転舵ECU14L」、「右転舵ECU14R」という。)が備えられている。
【0044】
船体2の操船席には、操船のための操作台6が設けられている。操作台6には、ジョイスティックユニット10と、ステアリングホイール15と、リモコンレバーユニット16とが備えられている。ジョイスティックユニット10は、レバー7を備えている。レバー7の頭部には、レバー7の軸線まわりに回動操作することができるノブ8が設けられている。レバー7は、前後左右の自由な方向に傾倒させることができるように構成されている。前後方向の傾倒量および左右方向の傾倒量は、それぞれセンサ(ポテンショメータその他の位置センサ)によって検出される。ノブ8の回動操作量は、別のセンサ(ポテンショメータその他の位置センサ)によって検出される。
【0045】
レバー7の傾倒量およびノブ8の回動操作量を表す信号は、船体ECU20に入力されるようになっている。
船体ECU20は、マイクロコンピュータを含む電子制御ユニット(ECU)である。船体ECU20は、船体2内に配置されたLAN(ローカル・エリア・ネットワーク。以下「船内LAN」という。)25を介して、ECU13L,13R,14L,14Rとの間で通信を行う。たとえば、船体ECU20は、船外機ECU13L,13Rから、船外機11L,11Rに備えられたエンジンの回転速度を取得する。そして、船体ECU20は、船外機ECU13L,13Rに対して、目標シフト位置(前進、ニュートラル、後進)、および目標エンジン回転速度を表すデータを与える。また、船体ECU20は、船内LAN25を介して、転舵ECU14L,14Rに対して目標転舵角を与える。転舵ECU14L,14Rは、転舵ユニット12L,12Rに備えられた転舵アクチュエータ53(図2参照)を制御することによって、目標転舵角に応じて、船外機11L,11Rを左右方向に回動させる。
【0046】
船体ECU20は、通常操船モードおよびジョイスティック操船モードを含む複数の制御モードに従う制御動作を行う。通常操船モードとジョイスティック操船モードとを切り換えるために、モード切換スイッチ19が操作台6に備えられている。
通常操船モードでは、船体ECU20は、ステアリングホイール15およびリモコンレバーユニット16の操作に応じて、船外機11L,11Rの出力および転舵ユニット12L,12Rの動作を制御する。
【0047】
より具体的には、船体ECU20は、ステアリングホイール15の操作角に応じて転舵ユニット12L,12Rのための目標転舵角を設定する。この場合、左右の転舵ユニット12L,12Rの目標転舵角は共通の値に設定される。したがって、左右の船外機11L,11Rは、互いに平行な方向に推進力を発生する。ステアリングホイール15の操作角を検出するために、操作角センサ21が備えられている。この操作角センサ21の出力信号が船体ECU20に入力されるようになっている。
【0048】
船体ECU20は、さらに、リモコンレバーユニット16の操作に応じて、船外機11L,11Rの出力を制御する。リモコンレバーユニット16は、左船外機11Lに対応し左レバー16Lと、右船外機11Rに対応した右レバー16Rとを有している。レバー16L,16Rは、前後方向に傾倒可能に構成されている。傾倒範囲は、所定の中立範囲と、中立範囲の前方の前進範囲と、中立範囲の後方の後進範囲とを含む。レバー16L,16Rが中立範囲に位置しているときは、対応する船外機11L,11Rは推進力を発生しないように、船体ECU20によって制御される。より具体的には、対応する船外機11L,11Rの目標シフト位置がニュートラル位置に設定される。レバー16L,16Rが前進範囲に位置しているときは、対応する船外機11L,11Rは、前進方向の推進力を船体2に与えるように、船体ECU20によって制御される。より具体的には、対応する船外機11L,11Rの目標シフト位置が前進位置に設定される。レバー16L,16Rが後進範囲に位置しているときは、対応する船外機11L,11Rは、後進方向の推進力を船体2に与えるように、船体ECU20によって制御される。より具体的には、対応する船外機11L,11Rの目標シフト位置が後進位置に設定される。前進範囲および後進範囲においては、中立位置(たとえば中立範囲の中央位置)からのレバー傾倒量が大きいほど大きな推進力が発生するように、船体ECU20によって船外機11L,11Rが制御される。より具体的には、目標エンジン回転速度が大きく設定される。レバー16R,16Lの操作位置は、レバー位置センサ22L,22Rによって検出される。これらのレバー位置センサ22L,22Rの出力信号は、船体ECU20に与えられる。
【0049】
ジョイスティック操船モードは、ジョイスティックユニット10の操作に応答して転舵ユニット12L,12Rの転舵角および船外機11L,11Rの出力が制御される制御モードである。ジョイスティック操船モードでは、船体ECU20は、レバー7の傾倒方向に船体2を移動させ、ノブ8の回動操作量に応じた角速度で船体2を回頭させる。すなわち、このような船体挙動を達成するように、船体ECU20は、船外機11L,11Rの目標シフト位置および目標エンジン回転速度を設定し、転舵ユニット12L,12Rの目標転舵角を設定する。
【0050】
ジョイスティック操船モードでは、一般に、左右の船外機11,12が発生する推進力の方向は非平行となる。より具体的には、ジョイスティック操船モードにおいては、船外機11L,11Rは、それらの後端部が互いに接近してV字形を形成するか、またはそれらの後端部が互いに離隔して倒立V字形を形成するように、転舵ユニット12L,12Rの転舵角が設定される。船外機11L,11RがV字形を形成するとき、それらの作用線71L,71RもV字形を形成する。このとき、それらの作用線は、船外機11,11Rの後方で交差する。船外機11L,11Rが倒立V字形を形成するとき、それらの作用線71L,71Rも倒立V字形を形成する。このとき、それらの作用線71L,71Rは、船外機11L,11Rの前方で交差する。
【0051】
図2は、船外機11L,11Rの共通の構成を説明するための図解的な断面図である。船外機11L,11Rは、推進ユニット30と、この推進ユニット30を船体2に取り付ける取り付け機構31とを有している。取り付け機構31は、船体2の後尾板に着脱自在に固定されるクランプブラケット32と、このクランプブラケット32に水平回動軸としてのチルト軸33を中心に回動自在に結合されたスイベルブラケット34とを備えている。推進ユニット30は、スイベルブラケット34に、転舵軸35まわりに回動自在に取り付けられている。これにより、推進ユニット30を転舵軸35まわりに回動させることによって、転舵角(船体2の中心線に対して推進力の方向がなす方位角)を変化させることができる。また、スイベルブラケット34をチルト軸33まわりに回動させることによって、推進ユニット30のトリム角を変化させることができる。トリム角は、船体2に対する船外機11L,11Rの取り付け角に対応する。
【0052】
推進ユニット30のハウジングは、トップカウリング36とアッパケース37とロアケース38とで構成されている。トップカウリング36内には、駆動源となるエンジン39がそのクランク軸の軸線が上下方向となるように設置されている。エンジン39のクランク軸下端に連結される動力伝達用のドライブシャフト41は、上下方向にアッパケース37内を通ってロアケース38内にまで延びている。
【0053】
ロアケース38の下部後側には、推進力発生部材となるプロペラ40が回転自在に装着されている。ロアケース38内には、プロペラ40の回転軸であるプロペラシャフト42が水平方向に通されている。このプロペラシャフト42には、ドライブシャフト41の回転が、クラッチ機構としてのシフト機構43を介して伝達されるようになっている。
シフト機構43は、駆動ギヤ43aと、前進ギヤ43bと、後進ギヤ43cと、ドッグクラッチ43dとを有している。駆動ギヤ43aは、ドライブシャフト41の下端に固定されたベベルギヤからなる。前進ギヤ43bは、プロペラシャフト42上に回動自在に配置されたベベルギヤからなる。後進ギヤ43cは、同じくプロペラシャフト42上に回動自在に配置されたベベルギヤからなる。ドッグクラッチ43dは、前進ギヤ43bおよび後進ギヤ43cの間に配置されている。
【0054】
前進ギヤ43bは前方側から駆動ギヤ43aに噛合しており、後進ギヤ43cは後方側から駆動ギヤ43aに噛合している。そのため、前進ギヤ43bおよび後進ギヤ43cは互いに反対方向に回転されることになる。
一方、ドッグクラッチ43dは、プロペラシャフト42にスプライン結合されている。すなわち、ドッグクラッチ43dは、プロペラシャフト42に対してその軸方向に摺動自在であるけれども、プロペラシャフト42に対する相対回動はできず、このプロペラシャフト42とともに回転する。
【0055】
ドッグクラッチ43dは、ドライブシャフト41と平行に上下方向に延びるシフトロッド44の軸周りの回動によって、プロペラシャフト42上で摺動される。これにより、ドッグクラッチ43dは、前進ギヤ43bと結合した前進位置と、後進ギヤ43cと結合した後進位置と、前進ギヤ43bおよび後進ギヤ43cのいずれとも結合されないニュートラル位置とのいずれかのシフト位置に制御される。
【0056】
ドッグクラッチ43dが前進位置にあるとき、前進ギヤ43bの回転がドッグクラッチ43dを介してプロペラシャフト42に伝達される。これにより、プロペラ40は、一方向(前進方向)に回転し、船体2を前進させる方向の推進力を発生する。一方、ドッグクラッチ43dが後進位置にあるとき、後進ギヤ43cの回転がドッグクラッチ43dを介してプロペラシャフト42に伝達される。後進ギヤ43cは、前進ギヤ43bとは反対方向に回転するため、プロペラ40は、反対方向(後進方向)に回転し、船体2を後進させる方向の推進力を発生する。ドッグクラッチ43dがニュートラル位置にあるとき、ドライブシャフト41の回転はプロペラシャフト42に伝達されない。すなわち、エンジン39とプロペラ40との間の駆動力伝達経路が遮断されるので、いずれの方向の推進力も生じない。
【0057】
エンジン39に関連して、このエンジン39を始動させるためのスタータモータ45が配置されている。スタータモータ45は、船外機ECU13L,13Rによって制御される。また、エンジン39のスロットルバルブ46を作動させてスロットル開度を変化させ、エンジン39の吸入空気量を変化させるためのスロットルアクチュエータ51が備えられている。このスロットルアクチュエータ51は、電動モータからなっていてもよい。このスロットルアクチュエータ51の動作は、船外機ECU13L,13Rによって制御される。エンジン39には、さらに、クランク軸の回転を検出することによってエンジン39の回転速度を検出するためのエンジン回転検出部48が備えられている。
【0058】
また、シフトロッド44に関連して、ドッグクラッチ43dのシフト位置を変化させるためのシフトアクチュエータ52(クラッチ作動装置)が設けられている。このシフトアクチュエータ52は、たとえば、電動モータからなり、船外機ECU13L,13Rによって動作制御される。
さらに、推進ユニット30に固定された転舵ロッド47には、転舵ECU14L,14Rによって制御される転舵アクチュエータ53が結合されている。左転舵ECU14Lと左船外機11Lに対応した転舵アクチュエータ53とにより、左転舵ユニット12Lが構成されている。同様に、右転舵ECU14Rと右船外機11Rに対応した転舵アクチュエータ53とにより、右転舵ユニット12Rが構成されている。
【0059】
転舵アクチュエータ53は、たとえば、DCサーボモータおよび減速器を含む構成とすることができる。また、転舵アクチュエータ53は、たとえば、電動ポンプによって駆動される油圧シリンダを有していてもよい。転舵アクチュエータ53を駆動することによって、推進ユニット30を転舵軸35まわりに回動させることができ、舵取り操作を行うことができる。転舵ユニット12L,12Rには、転舵角を検出するための転舵角センサ49が備えられている。転舵角センサ49は、たとえば、ポテンショメータからなる。転舵角センサ49の出力信号は、転舵ECU14L,14Rに入力されるようになっている。
【0060】
また、クランプブラケット32とスイベルブラケット34との間には、たとえば液圧シリンダを含み、船外機ECU13L,13Rによって制御されるトリムアクチュエータ(チルトトリムアクチュエータ)54が設けられている。このトリムアクチュエータ54は、チルト軸33まわりにスイベルブラケット34を回動させることにより、推進ユニット30をチルト軸33まわりに回動させる。これらは、推進ユニット30のトリム角を変化させるためのトリム機構56を構成している。トリム角は、トリム角センサ55によって検出されるようになっている。トリム角センサ55の出力信号は船外機ECU13L,13Rに入力される。
【0061】
図3Aはジョイスティックユニット10の構成を拡大して示す図解的な側面図であり、図3Bはその平面図である。図3Aの紙面の表面から裏面に向かう方向、図3Bの紙面の下方から上方に向かう方向が、船舶1の前進方向+Xに対応する。この前進方向+Xを基準として、後進方向−X、右方向+Y、左方向−Yが各図に示されている。
レバー7は、操作台6から突設されており、任意の方向へ傾倒自在である。このレバー7の遊端部に略球体状のノブ8が取り付けられている。
【0062】
レバー7の中立位置は、操作台6の表面に対して直立した位置である。レバー7には、中立位置に向かう復元力を与えるばね(図示せず)が結合されている。操船者が、レバー7を所望の方向に向けて中立位置から傾倒させると、船体ECU20が、レバー7の傾倒位置(傾倒方向および傾倒量)に基づいて船外機11L,11Rにおける推進力およびその方向を制御する。したがって、操船者は、レバー7を操作することにより、船舶1の進行速度および進行方向を制御することができる。操船者がレバー7に加える操作力を弱めると、ばねの復元力によって、レバー7は中立位置に戻される。
【0063】
前後方向X(+X,−X)におけるレバー7の傾倒量Lは、操作台6に備えられた第1位置センサ61によって検出され、船体ECU20に与えられる。同様に、左右方向Y(+Y,−Y)におけるレバー7の傾倒量Lは、操作台6に備えられた第2位置センサ62によって検出され、船体ECU20に与えられる。
さらに、ノブ8の回動操作位置(回動操作方向および回動操作量)Lを検出するための第3位置センサ63が操作台6に備えられており、その出力信号が船体ECU20に与えられるようになっている。第1〜第3位置センサ61〜63は、それぞれ、ポテンショメータで構成することができる。ノブ8には、中立位置に向かう復元力を与えるばね(図示せず)が結合されている。操船者が、操船者がノブ8に加える操作力を弱めると、ばねの復元力によって、ノブ8は中立位置に戻される。
【0064】
図4は、ジョイスティック操船モードにおける船体2の挙動および船外機11L,11Rの姿勢を示す動作説明図である。ジョイスティックユニット(J/S)10のレバー傾倒位置は、円内に示した三角形シンボル「▲」で表してある。十字線の交点が中立位置である。また、ノブ8の回動操作位置(回動角)は三角形シンボル「▲」の向きで表してある。中立位置は、図4の紙面における上向き(紙面に平行な方向)である。
【0065】
まず、図4に示す動作例A1,A2(停止)を説明する。ジョイスティックユニット(J/S)10のレバー7およびノブ8がそれぞれの中立位置にあるとき、左右の船外機11L,11Rは、平面視においてV字形をなす第1姿勢パターン、または平面視において倒立V字形をなす第2姿勢パターンをとる。すなわち、このような姿勢パターンとなるように、左右の転舵ユニット12L,12Rが制御される。ただし、船外機11L,11Rのシフト位置はいずれもニュートラル位置に制御され、したがって、いずれの船外機11L,11Rも推進力を発生しない。よって、船体2は停止状態に保持される。停止状態とは、この場合、船体2に推進力が作用していない状態を意味する。したがって、船体2の位置は、潮流や風の影響によって変化し得る。
【0066】
第1姿勢パターンでは、船外機11L,11Rが推進力を発生するとすれば、それらの推進力の方向にそれぞれ沿う作用線71L,71Rは、船外機11L,11Rの後方で交差するV字形を形成する。したがって、左転舵ユニット12Lの転舵角は正の値となり、右転舵ユニット12Rの転舵角は負の値となる。また、第2姿勢パターンでは、船外機11L,11Rが推進力を発生するとすれば、それらの推進力の方向にそれぞれ沿う作用線71L,71Rは、船外機11L,11Rの前方で交差する倒立V字形を形成する。したがって、左転舵ユニット12Lの転舵角は負の値となり、右転舵ユニット12Rの転舵角は正の値となる。
【0067】
次に、図4に示す動作例A3,A4(前進/後進)を説明する。ジョイスティックユニット10のレバー7が前進範囲または後進範囲に傾倒されており、左右方向には実質的に傾倒されていないときも同様に、船外機11L,11Rが前記第1姿勢パターン(V字形)または第2姿勢パターン(倒立V字形)をとるように左右の転舵ユニット12L,12Rが制御される。船外機11Lおよび11Rのシフト位置は、レバー7が前進範囲にあればいずれも前進位置に制御され、レバー7が後進範囲にあればいずれも後進位置に制御される。また、船外機11L,11Rのエンジン回転速度は、レバー7の中立位置からの傾倒量に応じた値に制御される。これにより、レバー7の前後方向への傾倒に応じて、船体2に前進方向または後進方向の推進力を与えることができる。
【0068】
次に、図4に示す動作例A5(回頭・旋回)を説明する。ジョイスティックユニット10のレバー7が中立位置にあって、ノブ8がその中立位置から左右に回動されているとき、船外機11L,11Rが前記第1姿勢パターン(V字形)をとるように左右の転舵ユニット12L,12Rが制御される。第1姿勢パターン(V字形)では、船外機11L,11Rの作用線71L,71Rは、いずれも船体2の回転中心70を通っていない。そのため、船外機11L,11Rの推進力は、船体2に対してその回転中心70まわりのモーメント(回頭モーメント)を与える。ノブ8が中立位置よりも左に回動された状態では、左船外機11Lのシフト位置は後進位置に制御され、右船外機11Rのシフト位置は前進位置に制御される。これにより、船体2に対して左まわり方向(反時計回り方向)の回頭モーメントが与えられる。一方、ノブ8が中立位置よりも右に回動された状態では、左船外機11Lのシフト位置は前進位置に制御され、右船外機11Rのシフト位置は後進位置に制御される。これにより、船体2に対して右まわり(時計回り方向)の回頭モーメントが与えられる。ノブ8の中立位置からの回動操作量が多いほど、船外機11L,11Rのエンジン回転速度が大きくなり、したがって、推進力が大きくなるように制御される。これにより、船体2に与えられる回頭モーメントが大きくなるので、回頭速度が速くなる。
【0069】
次に、図4に示す動作例A6(回頭・旋回)を説明する。動作例A6は、ジョイスティックユニット10のレバー7が左右方向には実質的に傾倒されずに前進範囲または後進範囲にあり、かつ、ノブ8が中立位置から左右に回動されているときの動作を示す。この場合、左右の船外機11L,11Rが前記第1姿勢パターン(V字形)をとるように左右の転舵ユニット12L,12Rが制御される。このとき、左右の船外機11L,11Rのエンジン回転速度(推進力)は、船体2が前進または後進しながら左または右に回頭するように制御される。すなわち、ノブ8が中立位置よりも左に回動されているとき、レバー7が前進範囲にあれば船体2は左に回頭しながら前進(前進左旋回)し、レバー7が後進範囲にあれば船体2は右に回頭しながら左後方に進む(後進左旋回)。一方、ノブ8が中立位置から右に回動されているとき、レバー7が前進範囲にあれば船体2は右に回頭しながら前進(前進右旋回)し、レバー7が後進範囲にあれば船体は左に回頭しながら右後方に進む(後進右旋回)。
【0070】
次に、図4に示す動作例A7,A8,A9(平行移動、斜め旋回)を説明する。ジョイスティックユニット10のノブ8が中立位置にあって、レバー7がいずれかの方向に傾倒されているときは、左右の船外機11L,11Rが前記第2姿勢パターン(倒立V字形)をとるように左右の転舵ユニット12L,12Rが制御される。このとき、船体2がレバー7の傾倒方向に平行移動するように左右の船外機11L,11Rのエンジン回転速度が制御される。たとえば、レバー7が前後には実質的に傾倒されず、左右方向に傾倒されていれば、それに応じて船体2が左方向または右方向に平行移動する(動作例A7)。具体的には、レバー7が左方向に傾倒されたとき、左船外機11Lのシフト位置が後進位置に制御され、右船外機11Rのシフト位置が前進位置に制御される。そして、左右の船外機11L,11Rが略等しい推進力を発生するようにそれぞれのエンジン回転速度が制御される。その結果、左右の船外機11L,11Rが発生する推進力ベクトルを合成した合成ベクトルは、船体中心線5に直交する左方向を向く。しかも、左右の船外機11L,11Rが発生する推進力の作用線71L,71Rは、いずれも船体の回転中心70を通っているため、船体2には実質的に回頭モーメントが作用しない。これにより、船体2は実質的に回頭することなく左に移動することになる。同様に、レバー7が右方向に傾倒されたときは、左船外機11Lのシフト位置が前進位置に制御され、右船外機11Rのシフト位置が後進位置に制御される。そして、左右の船外機11L,11Rが略等しい推進力を発生するように左右の船外機11L,11Rのエンジン回転速度が制御される。その結果、左右の船外機11L,11Rが発生する推進力ベクトルを合成した合成ベクトルは、船体中心線5に直交する右方向を向く。これにより、船体2は実質的に回頭することなく右に移動することになる。
【0071】
ジョイスティックユニット10のレバー7が斜め左前方に傾倒されたときは、船体2が斜め左前方に平行移動するように左右の船外機11L,11Rの推進力が制御される(動作例A8)。すなわち、左右の船外機11L,11Rが発生する推進力のベクトルを合成した合成ベクトルが斜め左前方を向くように、左右の船外機11L,11Rのシフト位置およびエンジン回転速度が制御される。たとえば、左右の船外機11L,11Rのシフト位置がそれぞれ後進位置および前進位置に制御される。そして、左船外機11Lの推進力が右船外機11Rの推進力よりも小さくなるように、左右の船外機11L,11Rのエンジン回転速度が制御される。これにより、推進力の合成ベクトルは左前方を向くので、船体2が左前方に平行移動する。
【0072】
ジョイスティックユニット10のレバー7が斜め左後方に傾倒されたときは、船体2が斜め左後方に平行移動するように左右の船外機11L,11Rの推進力が制御される(動作例A8)。すなわち、左右の船外機11L,11Rが発生する推進力のベクトルを合成した合成ベクトルが斜め左後方を向くように、左右の船外機11L,11Rのシフト位置およびエンジン回転速度が制御される。たとえば、左右の船外機11L,11Rのシフト位置がそれぞれ後進位置および前進位置に制御される。そして、左船外機11Lの推進力が右船外機11Rの推進力よりも大きくなるように、左右の船外機11L,11Rのエンジン回転速度が制御される。これにより、推進力の合成ベクトルは左後方を向くので、船体2が左後方に平行移動する。
【0073】
ジョイスティックユニット10のレバー7が斜め右前方に傾倒されたときは、船体2が斜め右前方に平行移動するように左右の船外機11L,11Rの推進力が制御される(動作例A8)。すなわち、左右の船外機11L,11Rが発生する推進力のベクトルを合成した合成ベクトルが斜め右前方を向くように、左右の船外機11L,11Rのシフト位置およびエンジン回転速度が制御される。たとえば、左右の船外機11L,11Rのシフト位置がそれぞれ前進位置および後進位置に制御される。そして、左船外機11Lの推進力が右船外機11Rの推進力よりも大きくなるように、左右の船外機11L,11Rのエンジン回転速度が制御される。これにより、推進力の合成ベクトルは右前方を向くので、船体2が右前方に平行移動する。
【0074】
ジョイスティックユニット10のレバー7が斜め右後方に傾倒されたときは、船体2が斜め右後方に平行移動するように左右の船外機11L,11Rの推進力が制御される(動作例A8)。すなわち、左右の船外機11L,11Rが発生する推進力のベクトルを合成した合成ベクトルが斜め右後方を向くように、左右の船外機11L,11Rのシフト位置およびエンジン回転速度が制御される。たとえば、左右の船外機11L,11Rのシフト位置がそれぞれ前進位置および後進位置に制御される。そして、左船外機11Lの推進力が右船外機11Rの推進力よりも小さくなるように、左右の船外機11L,11Rのエンジン回転速度が制御される。これにより、推進力の合成ベクトルは右後方を向くので、船体2が右後方に平行移動する。
【0075】
このような平行移動のためのレバー操作に加えて、ノブ8の回動操作を加えると、船体2がレバー7の傾倒方向に移動しながらノブ8の回動操作に応じて回頭するように、左右の船外機および左右の転舵ユニット12L,12Rが制御される(動作例A9)。このとき、左右の船外機11L,11Rが発生する推進力の作用線71L,71Rの少なくとも一方が船体の回転中心70から外れるように、転舵ユニット12L,12Rが制御される。これにより、船外機11L,11Rが発生する推進力によって、船体2に回頭モーメントが与えられる。
【0076】
たとえば、作用線71L,71Rが船体2の回転中心70を通るときの左右の転舵ユニット12L,12Rの転舵角をθL0,θR0(θL0<0、θR0>0)とする。このとき、左転舵ユニット12Lの転舵角θがθ=θL0±Δθ(θΔ>0)とされるか、右転舵ユニット12Rの転舵角θがθ=θR0±θΔ(Δ>0)とされるか、またはそれらの両方がθ=θL0±Δθ、θ=θR0±θΔとされる。より具体的には、船外機11L,11Rのシフト位置が前進位置のとき、θ=θL0−Δθおよび/またはθ=θR0−Δθとすれば、船体2に対して左まわりのモーメントを与えることができる。船外機11L,11Rのシフト位置が後進位置のとき、同様に転舵角を設定すれば、船体2に対して右まわりのモーメントを与えることができる。また、船外機11L,11Rのシフト位置が前進位置のとき、θ=θL0+Δθおよび/またはθ=θR0+Δθとすれば、船体2に対して右まわりのモーメントを与えることができる。船外機11L,11Rのシフト位置が後進位置のとき、同様に転舵角を設定すれば、船体2に対して左まわりのモーメントを与えることができる。
【0077】
図5は、ジョイスティック操船モードにおいて船体ECU20が実行する処理の一部を示すフローチャートであり、左右の転舵ユニット12L,12Rの目標転舵角を設定するための処理が示されている。船体ECU20は、ジョイスティックユニット10の出力を取り込み、左右方向の入力の有無を判断する(ステップS1)。レバー7が斜め方向に傾倒されている場合には、その左右方向成分の有無が判断される。たとえば、船体ECU20は、中立位置から左右に所定幅の不感帯を設定していてもよい。すなわち、船体ECU20は、左右方向の不感帯を超えて左または右にレバー7が傾倒されているときに、左右方向の入力があると判断するようにプログラムされていてもよい。
【0078】
左右方向の入力があるときには(ステップS1:YES)、船体ECU20は、さらに、ノブ8の回動操作入力の有無を判断する(ステップS2)。たとえば、船体ECU20は、中立位置からの左右回動操作に対して所定の不感帯を設定していてもよい。すなわち、船体ECU20は、その不感帯を超えて左右方向への回動操作がされたときに、回動操作入力があると判断するようプログラムされていてもよい。
【0079】
船体ECU20は、ノブ8の回動操作入力があると判断すると(ステップS2:YES)、図4において説明した動作例A9に従って、転舵ユニット12L,12Rおよび船外機11L,11Rを制御する(ステップS3)。すなわち、船体ECU20は、船外機11L,11Rの推進力の作用線71L,71Rが倒立V字形を形成するように転舵ユニット12L,12Rの目標転舵角を設定する。このとき、ノブ8の回動操作量に応じた回頭モーメントが発生するように、作用線71L,71Rの少なくとも一方が回転中心70から逸れるように目標転舵角が設定される。すなわち、θ=θL0±Δθ、またはθ=θR0±θΔとされる。
【0080】
船体ECU20は、このように設定された目標転舵角を、当該船体ECU20に備えられたメモリ20Mに書き込む(ステップS4)。船体ECU20は、さらに、設定された目標転舵角を船内LAN25を介して転舵ECU14L,14Rに与える(ステップS5)。これにより、転舵ユニット12L,12Rの転舵角が前記設定された目標転舵角に制御される。
【0081】
ノブ8の回動操作入力がないと判断されると(ステップS2:NO)、船体ECU20は、図4に示した第2姿勢パターン(倒立V字形姿勢)に従って、転舵ユニット12L,12Rおよび船外機11L,11Rを制御する(ステップS6)。すなわち、船体ECU20は、船外機11L,11Rの推進力の作用線71L,71Rが倒立V字形を形成し、かつ、それらが回転中心70を通るように転舵ユニット12L,12Rの目標転舵角を設定する。その後、船体ECU20は、前述のステップS4,S5の処理を実行する。これにより、左右の転舵ユニット12L,12Rの転舵角θ,θは、θ=θL0、θ=θR0へと導かれる。この状態で、船外機11L,11Rの推進力(エンジン回転速度)が制御されることによって、船体2の平行移動(図4の動作例A7,A8)が達成される。
【0082】
レバー7の左右方向への操作がされていないと判断されると(ステップS1:NO)、船体ECU20は、さらに、ノブ8の回動操作入力の有無を判断する(ステップS7)。この判断の詳細は、ステップS2における判断と同様である。
船体ECU20は、ノブ8の回動操作入力があると判断すると(ステップS7:YES)、図4に示した第1姿勢パターン(V字形姿勢)に従って、転舵ユニット12L,12Rおよび船外機11L,11Rを制御する(ステップS8)。すなわち、船体ECU20は、船外機11L,11Rの推進力の作用線71L,71RがV字形を形成するように転舵ユニット12L,12Rの目標転舵角を設定する。その後、船体ECU20は、前述のステップS4,S5の処理を実行する。これにより、左右の転舵ユニット12L,12Rの転舵角θ,θは、たとえば、θ=θL1、θ=θR1(θL1>0、θR1<0。たとえばθR1=−θL1)へと導かれる。この状態で、船外機11L,11Rのシフト位置および推進力(エンジン回転速度)が制御されることによって、船体2のその場回頭(図4の動作例A5)または旋回(図4の動作例A6)が達成される。
【0083】
ノブ8の回動操作入力がないと判断されると(ステップS7:NO)、船体ECU20は、前回の制御サイクルで記憶された目標転舵角(ステップS4)をそのまま保持する(ステップS9)。つまり、レバー7が中立位置にあるか、前後方向に関してのみ傾倒されていて、ノブ8が中立位置にある場合には、転舵ユニット12L,12Rの転舵角が変化されない。その状態で、レバー7の前後方向の傾倒状態に応じて、船体ECU20は、船外機11L,11Rの目標シフト位置および目標エンジン回転速度を設定し、それらを船外機ECU13L,13Rに与える。これにより、船体2は、停止状態、前進状態または後進状態(図4の動作例A1,A2,A3,A4)となる。
【0084】
つまり、この実施形態では、船体2を回頭させる必要がなく、また、船体2を左右方向に移動させる必要もないときには、目標転舵角が従前の値に保持される(図4の動作例A1〜A4)。すなわち、船外機11L,11Rから推進力を発生すべきでないとき(目標シフト位置をニュートラル位置とすべきとき)には、目標転舵角が従前の値に保持されることになる(図4の動作例A1,A2)。さらに、船外機11L,11Rから推進力を発生すべきときであっても、左右方向への推進力または回頭モーメント発生のための推進力が不要であれば、目標転舵角が従前の値に保持される(図4の動作例A3,A4)。こうして、転舵ユニット12L,12Rの作動機会および作動量を少なくすることができるので、転舵アクチュエータ53による消費エネルギーを少なくすることができる。しかも、船外機11L,11Rの転舵機会および転舵量が少なくなるので、乗員(操船者および同乗者)に与える違和感を少なくできる。レバー7やノブ8の操作から実際に転舵角が変化するまでには、一定の応答時間が必要である。この応答時間内にレバー7による左右方向入力がなく、かつノブ8が中立位置に位置する状態となると、転舵角変化が無効化される。
【0085】
図6Aおよび図6B、ならびに図7Aおよび図7Bは、本願発明者によるジョイスティック操船モードでの実験結果を示す図である。図6Aおよび図7Aは、それぞれ比較例および実施例(前記実施形態の構成を有するもの)における実験時の船体2の航跡を示す。いずれにおいても、船体2は、後進した後に停止し、左まわりにその場回頭し、その後、前進して左旋回して停止し、さらに、後進した後に左横移動して停止している。すなわち、船体2がこのような挙動を示すように、操船者は、レバー7およびノブ8を操作した。操船者は、船体2の挙動を目視しながら船体2の姿勢を詳細に制御するために、レバー7およびノブ8を各中立位置から操作し、かつそれらを中立位置に戻す操作を頻繁に繰り返した。
【0086】
図6Bは比較例における実験結果を示し、図7Bは実施例における実験結果を示す。より具体的には、図6Bおよび図7Bは、図6Aおよび図7Aに示す航跡をそれぞれ描くように操船したときの転舵角の時間変化を示している。なお、比較例は、先行技術ではなく、本願発明の完成に至る過程で本願発明者によって開発された構成例である。
比較例では、レバー7が中立位置に戻されると、転舵ユニット12L,12Rの目標転舵角を中立値(たとえば零)とするように船体ECU20がプログラムされている。さらに、この比較例において、船体ECU20は、レバー7が前後方向に関してのみ傾倒されたときは、船外機11L,11Rが第2姿勢パターン(倒立V字形)となるように転舵ユニット12L,12Rを制御するようにプログラムされている。回頭時、旋回時および平行移動時の動作については、前記実施形態と同様(図4参照)となるように、船体ECU20がプログラムされている。したがって、比較例では、レバー7およびノブ8が中立位置に戻されるたびに、船外機11L,11Rが中立姿勢(転舵角零の姿勢)に戻される。そして、レバー7が左右方向に傾倒されるか、またはノブ8が左右に回動されると、船外機11L,11Rは倒立V字形またはV字形の姿勢へと転舵される。
【0087】
図6Bおよび図7Bの比較から明らかなとおり、比較例では船外機11L,11Rが頻繁に転舵されているのに対して、実施例では船外機11L,11Rの転舵が少なくなっている。具体的には、ジョイスティックユニット10の操作に応答して転舵アクチュエータ53が作動した回数は、比較例では38回、実施例では5回である。したがって、転舵アクチュエータ53の作動回数は、比較例に比較して13.2%に低減されている。船外機11L,11Rの転舵総量(転舵した角度の総和)は、比較例では約550度、実施例では約200度である。したがって、実施例では、転舵総量が、比較例に比較して36.2%に低減されている。よって、実施例においては、転舵アクチュエータ53の作動機会および作動量が著しく低減され、省エネルギーに貢献できることが分かる。
【0088】
離着岸時などには、操船者は、船舶1を少しずつ平行移動(図4の動作例A7,A8)させるために、レバー7を中立位置から短時間だけ傾倒させる操作を繰り返し行うかもしれない。このような場合に、レバー7が中立位置に戻されるとき、左右の船外機11L,11Rの転舵角はそのまま保持され、作用線71L,71Rが倒立V字形を形成している状態が保持される。つまり、転舵角が、中立値と、作用線71L,71Rが倒立V字形を形成する値との間で頻繁に変化することがない。また、離着岸時などにおいて、操船者は、船舶1を少しずつ回頭させるために、ノブ8を短時間だけ回動する操作を繰り返すかもしれない(図4の動作例A5)。このような場合に、ノブ8が中立位置に戻され、したがって、船外機11L,11Rからの推進力が停止されるとき、左右の船外機11L,11Rの転舵角はそのまま保持され、作用線71L,71RがV字形を形成している状態が保持される。つまり、転舵角が、中立値と、作用線71L,71RがV字形を形成する値との間で頻繁に変化することがない。
【0089】
このようにして、転舵角の無意味な変化が少なくなるので、転舵ユニット12L,12Rのエネルギー効率に貢献することができ、かつ、乗員の違和感を低減できる。
第2の実施形態
図8は、この発明の第2の実施形態に係る船舶の構成を説明するための概念図である。図8において、図1に示された各部と同等の部分は、同一参照符号で示す。この実施形態に係る船舶1は、一機の船外機11を船尾に備えた一機掛けの船外機艇である。船外機11は、たとえば、船体2の中心線5上で船尾3に取り付けられている。船外機11の構成は、第1の実施形態における船外機11L,11Rの構成と同様である。また、船外機11に対応して、転舵ユニット12が備えられている。転舵ユニット12は、船外機11を船体2に対して左右に回動させるように構成されている。転舵ユニット12の具体的な構成は、第1の実施形態における転舵ユニット12L,12Rと同様である。
【0090】
リモコンレバーユニット16は、一機の船外機11に対応した一つのレバー160を備えている。このレバー160を中立位置から前方または後方に傾倒させることによって、船外機11のシフト位置およびエンジン回転速度を制御することができる。
船体ECU20は、一機の船外機11およびこれに対応した一つの転舵ユニット12の動作を制御する。第1の実施形態と同様に、船体ECU20は、通常操船モードおよびジョイスティック操船モードを含む複数の制御モードに従う制御動作を行う。通常操船モードとジョイスティック操船モードとの切り換えは、操船者によって操作されるモード切換スイッチ19に応答して行われる。
【0091】
通常操船モードでは、船体ECU20は、ステアリングホイール15およびリモコンレバーユニット16の操作に応じて、船外機11の出力および転舵ユニット12の動作を制御する。具体的には、船体ECU20は、ステアリングホイール15の操作角に応じて転舵ユニット12のための目標転舵角を設定する。船体ECU20は、さらに、リモコンレバーユニット16の操作に応じて、船外機11の出力を制御する。リモコンレバーユニット16の操作に対応した制御の詳細は、第1の実施形態の場合と同様である。
【0092】
ジョイスティック操船モードは、ジョイスティックユニット10の操作に応答して転舵ユニット12の転舵角および船外機11の出力が制御される制御モードである。ただし、この実施形態では、レバー7の操作は、前後方向の傾倒のみが有効であり、左右方向へのレバー7の傾倒は制御に加味されないように船体ECU20がプログラムされている。ジョイスティック操船モードでは、レバー7の傾倒方向(前方または後方)に船体2が移動し、ノブ8の回動操作量に応じた角速度で船体2が回頭する。このような船体挙動を達成するように、船体ECU20が、船外機11の目標シフト位置および目標エンジン回転速度を設定し、転舵ユニット12の目標転舵角を設定する。
【0093】
図9は、ジョイスティック操船モードにおける船体2の挙動および船外機11の姿勢を示す動作説明図であり、図4と同様な図示がなされている。この実施形態では、ジョイスティック操船モードにおいて、転舵ユニット12の転舵角θは、3つの転舵角グループ(転舵角範囲)に分類される。第1転舵角グループN(中立範囲)は、θ=θ(たとえば、θ=0。中立値)を満たす転舵角である。第2転舵角グループLは、θLmax≦θ<0を満たす転舵角群(第1転舵角範囲)である。第3転舵角グループRは、0<θ≦θRmaxを満たす転舵角群(第2転舵角範囲)である。θLmaxは、船外機11の後端部を左側に最大限に振ったときの転舵角(左最大転舵角)である。θRmaxは、船外機11の後端部を右側に最大限に振ったときの転舵角(右最大転舵角)である。たとえば、|θLmax|=|θRmax|である。
【0094】
たとえば、転舵角θが第1転舵角グループN(θ=θ)に属するとき、船外機11は、その推進力の作用線71が船体中心線5に平行な中立姿勢となる(動作例B1,B4)。したがって、その状態で船外機11のシフト位置が前進位置に制御されれば船体2は船体中心線5に沿って前進する(動作例B4)。また、船外機11のシフト位置が後進位置に制御されれば船体2は船体中心線5に沿って後進する(動作例B4)。
【0095】
転舵角θが第2転舵角グループL(θLmax≦θ<0)に属するとき、船外機11は、その作用線71が船体2の回転中心70よりも右に向けられた姿勢となる(動作例B3,B6,B8,B10)。したがって、船外機11のシフト位置が前進位置に制御されれば、船体2は前進左旋回(前進しながら左まわり回頭)することになる(動作例B10)。また、船外機11のシフト位置が後進位置に制御されれば、船体2は後進左旋回(後進しながら右まわり回頭して、左後方へ進行)することになる(動作例B10)。とくに、θ=θLmaxのとき、船外機11のシフト位置が前進位置に制御されると、船体2は、ほとんど位置を変えることなく、より小さな回転半径で回転中心70まわりに左回頭することになる(動作例B8)。また、船外機11のシフト位置が後進位置に制御されれば、船体2は、ほとんど位置を変えることなく、より小さな回転半径で回転中心70まわりに右回頭することになる(動作例B6)。
【0096】
転舵角θが第3転舵角グループR(0<θ≦θRmax)に属するとき、船外機11は、その作用線71が船体2の回転中心70よりも左に向けられた姿勢となる(動作例B2,B5,B7,B9)。したがって、船外機11のシフト位置が前進位置に制御されれば、船体2は前進右旋回(前進しながら右まわり回頭)することになる(動作例B9)。また、船外機11のシフト位置が後進位置に制御されれば、船体2は後進右旋回(後進しながら左まわり回頭して、右後方へ進行)することになる(動作例B9)。とくに、θ=θRmaxのとき、船外機11のシフト位置が前進位置に制御されると、船体2は、ほとんど位置を変えることなく、より小さな回転半径で回転中心70まわりに右回頭することになる(動作例B5)。また、船外機11のシフト位置が後進位置に制御されれば、船体2は、ほとんど位置を変えることなく、より小さな回転半径で回転中心70まわりに左回頭することになる(動作例B7)。
【0097】
ジョイスティックユニット10のレバー7およびノブ8がそれぞれの中立位置にあるとき(動作例B1,B2,B3)、転舵ユニット12の転舵角θは、第1転舵角グループN、第2転舵角グループLおよび第3転舵角グループRのいずれかに属する値となる。換言すれば、レバー7およびノブ8がそれぞれの中立位置にあるときは、任意の転舵角が許容される。船体ECU20は、レバー7およびノブ8がそれぞれの中立位置となる直前における船外機11の姿勢を保持するように、転舵ユニット12の目標転舵角を設定する。さらに、船体ECU20は、船外機11の目標シフト位置をニュートラル位置に設定する。ジョイスティック操船モードにおける転舵角θの初期値は、θ=θである。したがって、ジョイスティック操船モードに切り換えられた直後における転舵角グループは、第1転舵角グループNである。船体ECU20は、現在の転舵角グループを表す情報をそのメモリ20Mに書き込むようにプログラムされている。
【0098】
ジョイスティックユニット10のレバー7が前進範囲または後進範囲に傾倒されており、ノブ8がその中立位置にあるときは(動作例B4)、船体ECU20は、転舵ユニット12の目標転舵角を零に設定する。これにより、転舵ユニット12の転舵角は、θ=θに導かれる。また、船体ECU20は、レバー7の前後方向傾倒量に応じて、船外機11の目標シフト位置および目標エンジン回転速度を設定する。すなわち、船体ECU20は、レバー7が前進範囲に傾倒されていれば目標シフト位置を前進位置とし、レバー7が後進範囲に傾倒されていれば目標シフト位置を後進位置に設定する。船体ECU20は、さらに、中立位置からの傾倒量に応じて、目標エンジン回転速度を設定する。
【0099】
ジョイスティックユニット10のレバー7が中立位置(少なくとも前後方向に関する中立位置)にあって、ノブ8がその中立位置から左右に回動されているときの動作は、動作例B5〜B8に示すとおりである。すなわち、船体ECU20は、θ=θLmaxまたはθ=θRmaxとなるように、転舵ユニット12の目標転舵角を設定する。いずれの転舵角が選択されるかは、その直前に選択されている転舵角グループによる。すなわち、直前の転舵角グループが第2転舵角グループLであれば、θ=θLmaxとされ、直前の転舵角グループが第3転舵角グループRであれば、θ=θRmaxとされる。これにより、転舵角変化量が最小限に抑制される。直前の転舵角グループが第1転舵角グループNのときには、転舵角θは、左最大転舵角θLmaxおよび右最大転舵角θRmaxのいずれに制御されてもよい。いずれを選択するかは、予め定めておけばよい。
【0100】
ジョイスティックユニット10のレバー7が前進範囲または後進範囲にあり、かつ、ノブ8が中立位置から左右に回動されているときの動作は、動作例B9,B10に示すとおりである。すなわち、船体ECU20は、転舵角θが第2転舵角グループLまたは第3転舵角グループRとなるように、転舵ユニット12の目標転舵角を設定する。レバー7が前進範囲にあれば、船体ECU20は、目標シフト位置を前進位置とし、レバー7が後進範囲にあれば、船体ECU20は、目標シフト位置を後進位置とする。
【0101】
より具体的に説明すると、レバー7が前進範囲にあり、ノブ8が中立位置から左方向に回動されているときは(動作例B10)、転舵角θが第2舵角グループLに制御される。その結果、船外機11は、船体2を前進左旋回させるように推進力を発生する。また、レバー7が後進範囲にあり、ノブ8が中立位置から左方向に回動されているときにも(動作例B10)、同様に、転舵角θが第2舵角グループLに制御される。その結果、船外機11は、船体2を後進左旋回(後進しながら右まわりに回頭して左後方へ進行)する。これらの場合、転舵角θは、ノブ8の中立位置からの回動量に応じて、θLmax≦θ<0の範囲で可変設定される。
【0102】
一方、レバー7が前進範囲にあり、ノブ8が中立位置から右方向に回動されているときは(動作例B9)、転舵角θが第3舵角グループRに制御される。その結果、船外機11は、船体2を前進右旋回させるように推進力を発生する。また、レバー7が後進範囲にあり、ノブ8が中立位置から右方向に回動されているときにも(動作例B9)、同様に、転舵角θが第3舵角グループRに制御される。その結果、船外機11は、船体2を後進右旋回(後進しながら左まわりに回頭して右後方へ進行)する。これらの場合、転舵角θは、ノブ8の中立位置からの回動量に応じて、0≦θ≦θRmaxの範囲で可変設定される。
【0103】
図10は、ジョイスティック操船モードにおいて船体ECU20が実行する処理の一部を示すフローチャートであり、主として転舵ユニット12の目標転舵角を設定するための処理が示されている。船体ECU20は、ジョイスティックユニット10の出力を取り込み、前後方向の入力の有無を判断する(ステップS11)。レバー7が斜め方向に傾倒されている場合には、その前後方向成分の有無が判断される。すなわち、船体ECU20は、前進範囲または後進範囲までレバー7が傾倒されているときに、前後方向の入力があると判断するようにプログラムされている。
【0104】
前後方向の入力があるときには、船体ECU20は、さらに、ノブ8の回動操作入力の有無を判断する(ステップS12)。この判断は、第1の実施形態の場合と同様に行われてもよい(図5のステップS2参照)。
船体ECU20は、ノブ8の回動操作入力があると判断すると(ステップS12:YES)、図9において説明した動作例B9,B10に従って制御動作を実行する。すなわち、船体ECU20は、動作例B9,B10のような船体挙動を達成するように、転舵ユニット12のための目標転舵角、ならびに船外機11のための目標シフト位置および目標エンジン回転速度を設定する。具体的には、ノブ8の回動操作量および回動操作方向に応じた目標転舵角が設定される(ステップS13)。これにより、船体2を前進または後進させながら、ノブ8の回動操作量に応じた回頭速度で右または左に旋回させることができる。船体ECU20は、さらに、目標転舵角が、第1転舵角グループN、第2転舵角グループLおよび第3転舵角グループRのいずれに属するかを判断する(ステップS14)。そして、その判断に従い、当該転舵角グループを表す転舵角グループ情報をメモリ20Mに書き込む(ステップS15)。さらに、船体ECU20は、設定された目標転舵角をメモリ20Mに書き込む(ステップS16)。そして、船体ECU20は、設定された目標転舵角を、船内LAN25を介して転舵ECU14に与える(ステップS17)。これにより、転舵ユニット12の転舵角が前記設定された目標転舵角に制御される。
【0105】
ノブ8の回動操作入力がないと判断されると(ステップS12:NO)、船体ECU20は、目標転舵角を中立値θに設定する(ステップS18)。さらに、船体ECU20は、第1舵角グループNを表す情報をメモリ20Mに書き込む(ステップS14,S15)。その後は、ステップS16からの処理が行われる。これにより、転舵ユニット12の転舵角θは、θ=θ(=0)へと導かれる。この状態で、船外機11の推進力(エンジン回転速度)が制御されることによって、船体2が前方または後方に移動する。
【0106】
レバー7が前後方向に操作されていないと判断されると(ステップS11:NO)、船体ECU20は、さらに、ノブ8の回動操作入力の有無を判断する(ステップS20)。この判断は、ステップS12における判断と同様である。
船体ECU20は、ノブ8の回動操作入力があると判断すると(ステップS20:YES)、メモリ20Mを参照して、現在の転舵角グループが第1転舵角グループN(中立範囲)かどうかを判断する(ステップS21)。現在の転舵角グループが第1転舵角グループNであれば(ステップS21:YES)、ノブ8の回頭方向に応じて、目標転舵角を左最大転舵角θLmaxまたは右最大転舵角θRmaxに設定する(ステップS22)。具体的には、ノブ8が中立位置から左へ回動されたときは、目標転舵角が左最大転舵角θLmaxに設定される。また、ノブ8が中立位置から右へ回動されたときは、目標転舵角が右最大転舵角θRmaxに設定される。この場合、船体ECU20は、目標シフト位置を前進位置に設定する。この後、船体ECU20は、ステップS14からの処理を実行する。
【0107】
ステップS21において、現在の転舵角グループが第1転舵角グループN(中立範囲)でないと判断されると、船体ECU20は、当該転舵角グループを保持するように、目標転舵角を設定する(ステップS26)。つまり、転舵角グループは変更されない。
すなわち、現在の転舵角グループが第2転舵角グループLであるときは、船体ECU20は、目標転舵角を左最大転舵角θLmaxに設定する。この場合、船体ECU20は、ノブ8の中立位置からの回動方向に応じて、船外機11の目標シフト位置を前進位置または後進位置に設定する。具体的には、ノブ8が中立位置から左方向に回動されているときは、船体ECU20は、目標シフト位置を前進位置に設定する。これにより、船体2には左まわりのモーメントが与えられる。また、ノブ8が中立位置から右方向に回動されているときは、船体ECU20は、目標シフト位置を後進位置に設定する。これにより、船体2には右まわり方向のモーメントが与えられる。
【0108】
一方、現在の転舵角グループが第3転舵角グループRであるときは、船体ECU20は、目標転舵角を右最大転舵角θRmaxに設定する。この場合、船体ECU20は、ノブ8の中立位置からの回動方向に応じて、船外機11の目標シフト位置を前進位置または後進位置に設定する。具体的には、ノブ8が中立位置から左方向に回動されているときは、船体ECU20は、目標シフト位置を後進位置に設定する。これにより、船体2には左まわりのモーメントが与えられる。また、ノブ8が中立位置から右方向に回動されているときは、船体ECU20は、目標シフト位置を前進位置に設定する。これにより、船体2には右まわり方向のモーメントが与えられる。
【0109】
ノブ8の回動操作入力がないと判断されると(ステップS20:NO)、船体ECU20は、前回の制御サイクルで設定されて記憶された目標転舵角(ステップS16)をそのまま保持する(ステップS24)。むろん、転舵角グループは変更されない。つまり、レバー7が少なくとも前後方向に関して中立位置にあり、ノブ8も中立位置(不感帯範囲)にあるときには、転舵ユニット12の転舵角が変化されない。このとき、船体ECU20は、目標シフト位置をニュートラル位置とし、目標エンジン回転速度をアイドル回転速度とする。これにより、船体2は、船外機11からの推進力を受けない停止状態となる。
【0110】
つまり、この実施形態では、船外機11から推進力を発生すべきでないとき、すなわち、目標シフト位置をニュートラル位置とすべきときには、目標転舵角が従前の値に保持されることになる。また、この実施形態では、レバー7からの前後方向入力がないときには、前制御サイクルにおける転舵角グループが保持される。これにより、転舵アクチュエータ53の作動機会および作動量が最小限度となる。その結果、転舵アクチュエータ53の作動に要するエネルギー消費を少なくすることができる。
【0111】
第3の実施形態
図11は、この発明の第3の実施形態に係る船舶の構成を説明するための概念図である。図11において、図8に示された各部と同等の部分は同一参照符号で示す。この実施形態では、図8に示された構成に加えて、方位保持ボタン80が操作台6に備えられており、さらに、方位センサ18の出力信号が船体ECU20に入力されている。方位センサ18は、船体2の向き(方位)を検出するセンサであり、たとえば、ジャイロセンサを含んでいてもよい。
【0112】
方位保持ボタン80が操作されると、船体ECU20は、船体2の方位を保持する制御動作を実行するようにプログラムされている。方位センサ18は、船体2の方位を検出するように構成されている。船体2の方位とは、船体中心線5に沿って、船尾から船首に向かう方向をいう。船体2の方位保持は、たとえば、船体2の方位を保持しつつ潮流とともに船体2を移動させながら釣りを行う場合(流し釣り)、船体2の方位を保持しつつ低速で船体2を航走させる場合(トローリング)などの際に望まれる船体挙動である。
【0113】
図12は、方位保持ボタン80の操作に応答して船体ECU20が実行する処理の内容を説明するためのフローチャートである。方位保持ボタン80が操作されると、船体ECU20は、そのときに方位センサ18が検出している方位を目標方位に設定する(ステップS31)。たとえば、船体ECU20は、当該設定時の目標方位値を基準値(たとえば零)に設定し、その後の方位センサ18の出力を基準値からの相対方位値として用いるようにプログラムされていてもよい。
【0114】
さらに、船体ECU20は、方位センサ18が検出している方位(船体2の現在の方位)と、目標方位とを比較する(ステップS32)。たとえば、船体ECU20は、現在方位値と目標方位値との偏差(方位偏差=現在方位値−目標方位値)の大きさが所定値以上かどうかを判断する。
方位偏差の大きさが所定値以上であるときは、船体ECU20は、転舵ユニット12の転舵角が中立範囲内の値かどうかを判断する(ステップS33)。中立範囲とは、中立値のみを含む範囲であってもよいし、中立値を含む所定の微小転舵角範囲であってもよい。転舵ユニット12の転舵角が中立範囲内の値であるときは、船体ECU20は、転舵ユニット12の目標転舵角を零以外の所定値に設定する(ステップS34)。この所定値は、船体2の方位が目標方位よりも右を向いているときには負の値とされ、船体2の方位が目標方位よりも左を向いているときには正の値とされてもよい。転舵角が中立範囲内の値でなければ(ステップS33:NO)、船体ECU20は、目標転舵角を現在値に保持する(ステップS35)。こうして目標転舵角が定まると、船体ECU20は、目標転舵角の符号(方向)と、方位偏差の符号(方向)とに基づいて、船外機11の目標シフト位置を設定する(ステップS36)。
【0115】
方位偏差の符号は、たとえば、現在方位が目標方位よりも右まわり(時計回り)方向に偏倚した方位であるときに正、左まわり(反時計回り)方向に偏倚した方位であるときに負となる。また、目標転舵角が正のとき、船外機11の推進力の作用線71は、回転中心の左側を通る。そこで、船外機11のシフト位置を前進位置とすれば船体2に右まわり方向のモーメントを与えることができ、船外機11のシフト位置を後進位置とすれば船体2に左まわり方向のモーメントを与えることができる。一方、目標転舵角が負のとき、船外機11の推進力の作用線71は、回転中心の右側を通る。そこで、船外機11のシフト位置を前進位置とすれば船体2に左まわり方向のモーメントを与えることができ、船外機11のシフト位置を後進位置とすれば船体2に右まわり方向のモーメントを与えることができる。
【0116】
したがって、方位偏差の符号が正のとき、目標転舵角が正であれば目標シフト位置が後進位置に設定され、目標転舵角が負であれば目標シフト位置が前進位置に設定される。方位偏差の符号が負のとき、目標転舵角が正であれば目標シフト位置が前進位置に設定され、目標転舵角が負であれば目標シフト位置が後進位置に設定される。
船体ECU20は、さらに、方位偏差の大きさ(絶対値)に応じて、目標エンジン回転速度(目標推進力)を設定する(ステップS37)。すなわち、方位偏差が大きいほど目標エンジン回転速度が大きく設定される。
【0117】
こうして設定された目標転舵角は船内LAN25を介して転舵ECU14に与えられ、目標シフト位置および目標エンジン回転速度は船内LAN25を介して船外機ECU13に与えられる(ステップS38)。
船体ECU20は、また、方位保持ボタン80による方位保持指令が解除されたかどうかを判断する(ステップS39)。方位保持指令が解除されていないときは、ステップS32からの処理が繰り返される。方位保持指令が解除されると、方位保持制御を終了する。たとえば、船体ECU20は、方位保持ボタン80の2回目の操作入力を、方位保持解除指令と解釈するようにプログラムされていてもよい。また、船体ECU20は、方位保持制御中にジョイスティックユニット10からの入力があったときに、これを方位保持解除指令と解釈するようにプログラムされていてもよい。
【0118】
ステップS32において、方位偏差の大きさが所定値未満のときは、目標シフト位置がニュートラル位置に設定され(ステップS40)、目標エンジン回転速度はアイドル回転速度に設定され(ステップS41)、目標転舵角は現在値に保持される(ステップS42)。その後、ステップS38からの処理が行われる。
このように、この実施形態によれば、転舵角が中立範囲の値でないときは、目標転舵角を変更することなく、船外機11の推進力の方向および大きさの制御によって、船体2の方位が保持される。これにより、転舵アクチュエータ53の作動機会および作動時間を少なくすることができるので、省エネルギーに貢献できる。
【0119】
なお、ステップS33における判断は、転舵ユニット12の転舵角を用いる代わりに、そのときの目標転舵角を用いて行ってもよい。
第4の実施形態
図13は、この発明の第4の実施形態に係る船舶に備えられた船体ECU20による処理の一例を示すフローチャートである。第4の実施形態の説明では、前述の図11を再度、参照する。ただし、この実施形態では、方位保持ボタン80は、必ずしも備えられている必要はない。
【0120】
この実施形態では、ジョイスティック操船モードにおいて、船体2の後進(船体中心線5に沿って後方へ進行)が指示されると、船体ECU20は、船体2の方位を保持するように、転舵ユニット12および船外機11を制御する。すなわち、船体2の後進が指示されると、船体ECU20は、そのときに方位センサ18が検出している方位を目標方位に設定する(ステップS51)。さらに、船体ECU20は、方位センサ18が検出している方位(船体2の現在の方位)と、目標方位とを比較する(ステップS52)。たとえば、船体ECU20は、現在方位値と目標方位値との偏差(方位偏差=現在方位値−目標方位値)の大きさが所定値以上かどうかを判断する。
【0121】
方位偏差の大きさが所定値以上であるときは、船体ECU20は、その方位偏差の符号(方向)および大きさに対応した回頭モーメントが船体2に与えられるように、目標転舵角を設定する(ステップS53)。後進指示が入力されているので、目標シフト位置は後進位置とされる(ステップS54)。したがって、方位偏差の符号が正であれば、船体2に左まわりの回頭モーメントを与えるために、目標転舵角は正の値とされる。逆に、方位偏差の符号が負であれば、船体2に右まわりの回頭モーメントを与えるために、目標転舵角は負の値とされる。目標転舵角の大きさ(絶対値)は、方位偏差の大きさに応じて設定される。船体ECU20は、レバー7の後方への傾倒量に応じた目標エンジン回転速度(目標推進力)を設定する(ステップS55)。
【0122】
船体ECU20は、前記設定した目標転舵角を、船内LAN25を介して転舵ECU14に与える(ステップS56)。また、目標シフト位置(後進位置)および目標エンジン回転速度を船内LAN25を介して船外機ECU13に与える(ステップS56)。
船体ECU20は、また、ジョイスティックユニット10の出力を監視し、後進指示がが解除されたかどうかを判断する(ステップS57)。後進指示が解除されていないときは、ステップS52からの処理が繰り返される。後進指示が解除されると、方位保持制御を終了する。
【0123】
ステップS52において、方位偏差の大きさが所定値未満のときは、目標転舵角は現在値に保持される(ステップS58)。その後、ステップS54からの処理が行われる。
このように、この実施形態によれば、ジョイスティックユニット10によって後進指示が与えられると、船体ECU20は、船体2の方位を保持するために転舵角を制御する。これにより、船体2を真っ直ぐに後進させることができる。
【0124】
プロペラ40の回転によるジャイロ効果によって、船外機11は、プロペラ40が発生する推進力に直交する方向の横力を船体2に与える。この横力の影響は、とくに、船体2の後進時に顕著に現れる。そのため、船体2を真っ直ぐに後退させる操船は意外に難しい。具体的には、転舵角を零としても船体2を真っ直ぐ後退させることはできず、横力に抗するように転舵角を零以外の値とする必要がある。そこで、この実施形態では、船体2を後進させるときに、方位保持制御が行われる。これにより、後進時の操船が容易になる。
【0125】
第5の実施形態
図14は、この発明の第5の実施形態に係る船舶の構成を示す概念図である。図14に置いて、図1に示された各部と同等の部分は、同一参照符号で示す。第5の実施形態では、第1の実施形態において備えられている構成に加えて、定点保持ボタン81、位置検出装置17および方位センサ18が備えられている。定点保持ボタン81は、操作台6に備えられており、船体2の位置を一定の位置に保持するときに、操船者によって操作されるように構成されている。位置検出装置17は、船舶1の現在位置信号を生成するものであり、たとえば、GPS(Global Positioning System)衛星からの電波を受信して現在位置情報を生成するGPS受信機で構成することができる。定点保持ボタン81、位置検出装置17および方位センサ18の出力は、船体ECU20に与えられるようになっている。
【0126】
図15は、定点保持ボタン81の操作に応答して船体ECU20が実行する制御処理の内容を説明するためのフローチャートである。定点保持ボタン81が操作されると、船体ECU20は、そのときに位置検出装置17が検出している位置を目標位置に設定し(ステップS61、そのときに方位センサ18が検出している方位を目標方位に設定する(ステップS62)。
【0127】
さらに、船体ECU20は、位置検出装置17が検出している位置と目標位置とを比較する(ステップS63)。すなわち、船体ECU20は、現在位置と目標位置との距離が所定値以上かどうかを判断する。現在位置と目標位置との距離が所定値以上のときは、船体ECU20は、船体2を目標位置に向けて平行移動させるように、転舵ユニット12L,12Rおよび船外機11L,11Rを制御する(ステップS64)。このときの、具体的な制御内容は、第1の実施形態における図4の動作例A7,A8に対応する制御内容と同様である。現在位置と目標位置との距離が前記所定値未満のときは、このような位置補正制御は省かれる。
【0128】
さらに、船体ECU20は、方位センサ18が検出している方位(船体2の現在の方位)と、目標方位とを比較する(ステップS65)。すなわち、船体ECU20は、現在方位値と目標方位値との偏差(方位偏差=現在方位値−目標方位値)の大きさが所定値以上かどうかを判断する。方位偏差の大きさが所定値以上のときは、船体ECU20は、当該方位偏差を解消するように転舵ユニット12L,12Rおよび船外機11L,11Rを制御する(ステップS66)。方位偏差が正のときは、船体2の現在方位が目標方位よりも左まわり方向にずれている。そこで、船体ECU20は、船体2をその場で左まわりに回頭させるように、左右の転舵ユニット12L,12Rの目標転舵角を設定し、左右の船外機11L,11Rの目標シフト位置および目標エンジン回転速度を設定する。方位偏差が負の時は、船体2の現在方位が目標方位よりも右回り方向にずれている。そこで、船体ECU20は、船体2をその場で右まわりに回頭させるように、左右の転舵ユニット12L,12Rの目標転舵角を設定し、左右の船外機11L,11Rの目標シフト位置および目標エンジン回転速度を設定する。このような回頭制御の詳細は、第1の実施形態における図4の動作例A5に対応する制御内容と同様である。方位偏差が前記所定値未満のときは、このような方位補正制御は省かれる。
【0129】
船体ECU20は、また、定点保持ボタン81による定点保持指令が解除されたかどうかを判断する(ステップS67)。たとえば、船体ECU20は、定点保持ボタン81の2回目の操作入力を、定点保持解除指令と解釈するようにプログラムされていてもよい。また、船体ECU20は、定点保持制御中にジョイスティックユニット10からの入力があったときに、これを定点保持解除指令と解釈するようにプログラムされていてもよい。定点保持指令が解除されていないときは、ステップS63からの処理が繰り返される。定点保持指令が解除されると、定点保持制御を終了する。
【0130】
このように、この実施形態によれば、定点保持ボタン81を操作すれば、船舶1の位置を保持できる。したがって、潮流や風の影響で船舶1を一定位置に保持するための操船に熟練を要する状況であっても、定点保持ボタン81を操作することによって、その目的を容易に達することができる。
たとえば、操船者は、釣りのポイントで船体2の位置を固定したいときや、いわゆるカイトフィッシングを行うときに、定点保持ボタン81を操作する。この操作に応答して、船体ECU20は、船体2の位置および方位を保持するための制御を実行する。これにより、船舶1が自動的に定点に一定の方位で保持される。カイトフィッシングとは、船上で凧を飛ばし、凧糸から釣り糸を水中に垂らして行う釣りの方法である。通常は、カイトフィッシングを行うときに、船舶の移動を防ぐために、海中にシーアンカーと呼ばれるパラシュートが投入される。このようなシーアンカーを用いる代わりに、この実施形態における定点保持機能を用いることができる。よって、シーアンカーの投入やその回収の手間を省くことができる。
【0131】
なお、船体2の位置および方位を保持するために、第1の実施形態における図4の動作例A9に従う動作を行わせてもよい。すなわち、目標位置までの距離と方位偏差とに応じて、目標転舵角、目標シフト位置および目標エンジン回転速度を設定することにより、船体2の平行移動とその回頭とを同時に生じさせてもよい。
第6の実施形態
図16は、この発明の第6の実施形態に係る船舶の構成を説明するための概念図である。図16において、図1に示された各部と同等の部分は、同一参照符号で示す。この実施形態の船舶は、第1の実施形態において備えられている構成に加えて、横移動キャリブレーションボタン85、および回頭キャリブレーションボタン86が操作台6に備えられている。これらのボタン85,86からの信号は、船体ECU20に入力されるようになっている。
【0132】
横移動キャリブレーションボタン85は、ジョイスティック操船モードで船体2を左右に横移動(平行移動)させるときの船外機11L,11Rの推進力および転舵ユニット12L,12Rの転舵角を較正するために、操船者によって操作される。船体2を平行移動させるときには、前述のとおり、船外機11L,11Rの作用線71L,71Rがいずれも回転中心70を通る状態となるように左右の転舵ユニット12L,12Rの目標転舵角が設定される(図4の動作例A7参照)。この状態で左右の船外機11L,11Rが発生する推進力を等しくすれば(すなわち、エンジン回転速度を等しくすれば)、船体2は中心線5に直交する横方向に平行移動するはずである。しかし、実際には、左右の船外機11L,11Rの推進力の差などに起因して、前方または後方への船体2の移動が生じる。このような船体2の前後移動を少なくするための推進力較正および転舵角較正が、横移動キャリブレーションである。
【0133】
前述のとおり、船体2を横移動させるとき、左右の船外機11L,11Rの一方のシフト位置が前進位置に制御され、他方のシフト位置が後進位置に制御される。船外機11L,11Rおよび船体2の構造上、船体2を前進させる推進力(前進推進力)は、船体2を後進させる推進力(後進推進力)よりも、船体2の挙動に対する影響が大きい。すなわち、シフト位置が前進位置のときは、シフト位置が後進位置のときよりも、見かけ上の推進力が大きくなる。そこで、この実施形態では、左右への横移動のとき、後進推進力を発生する船外機は、ほぼ最大出力に制御される。そのため、後進出力を発生する船外機については推進力調整の余地が少ないので、横移動キャリブレーションに際しては前進推進力を発生する船外機の推進力が較正される。
【0134】
図17は、横移動キャリブレーションの流れを説明するためのフローチャートである。横移動キャリブレーションボタン85が操船者によって操作されると、船体ECU20は、横移動キャリブレーションのための制御を開始する。船体ECU20は、メモリ20Mを参照して、横移動のための目標転舵角および目標推進力を読み出す(ステップS71)。より具体的には、船体ECU20は、左右の転舵ユニット12L,12Rの横移動用目標転舵角θLm,θRmと、左右の船外機11L,11Rがそれぞれ発生すべき横移動用目標推進力FLm,FRmを読み出す。これらの目標値は、左横移動および右横移動のそれぞれに対応して、メモリ20Mに格納されている。つまり、左横移動および右横移動のためのジョイスティック入力にそれぞれ対応付けて、左右の転舵ユニット12L,12Rの目標転舵角および左右の船外機11L,11Rの目標推進力がメモリ20Mに格納されている。これがジョイスティックユニットの出力と目標値との関係特性の一例である。
【0135】
操船者は、ジョイスティックユニット10のレバー7を左または右に傾倒させて、船体2を横移動させる(ステップS72)。これに応じて、船体ECU20は、レバー7の傾倒方向に応じて、前述の左横移動または右横移動のための目標転舵角および目標推進力を適用する(ステップS73)。つまり、船体ECU20は、左右の転舵ユニット12L,12Rの転舵ECU14L,14Rに、対応する目標転舵角を与える。また、船体ECU20は、左右の船外機11L,11Rの目標推進力FLm,FRmに対応する目標シフト位置および目標エンジン回転速度を演算し、それらを、船外機ECU13L,13Rに与える。
【0136】
船体2が前後方向に移動するならば、操船者は、レバー7を前後にも傾倒させて、当該前後方向移動を補正する。レバー7の前後傾倒操作に応じて(ステップS74)、船体ECU20は、補正係数Kを演算する(ステップS75)。さらに、船体ECU20は、その補正係数Kを、前進方向の推進力を発生している船外機の目標推進力F(=FLmまたはFRm)に乗じて、当該目標推進力Fを補正する(ステップS76)。この補正された目標推進力F(=K・F)に対応する目標シフト位置および目標エンジン回転速度が、船体ECU20から、前進方向の推進力を発生している船外機に与えられる(ステップS77)。これにより、船体2の前後方向移動が修正される。
【0137】
また、船体2が回頭するならば、操船者は、ノブ8を操作して、当該回頭を抑制する(ステップS78)。ノブ8の回動操作に応じて、船体ECU20は、補正角度Δθを求める(ステップS79)。さらに、船体ECU20は、その補正角度Δθで左右の転舵ユニット12L,12Rの横移動用目標転舵角θLm,θRmを補正して、補正後の目標転舵角を求める(ステップS80)。たとえば、補正後の目標転舵角θ,θは補正前の目標転舵角θLm,θm0を用いると、θLm−Δθ、θRm+Δθと表すことができる。この補正後の目標転舵角θ,θが、船体ECU20から、左右の転舵ECU14L,14Rに与えられる(ステップS81)。これらの目標転舵角θL0,θR0は、左右対称な角度をなしており、したがって、前記補正によって、左右の船外機11L,11Rの推進力の作用線71L,71Rは、船体中心線5上で前後に移動されることになる。こうして、作用線71L,71Rの交点が、船体2の実際の回転中心へと導かれ、それにより、船体2の回頭が抑制される。
【0138】
その後は、ステップS74〜S81の処理が所定時間(たとえば、30秒)に渡って継続される(ステップS82)。
前記所定時間が経過すると、船体ECU20は、当該時間中における補正係数Kの時間平均値KAVおよび補正角度Δθの時間平均値ΔθAVを求める(ステップS83,S84)。むろん、これらの時間平均値は、ステップS74〜S81の処理中に随時計算が開始されていてもよい。こうして求められた補正係数Kの時間平均値KAVが、船体ECU20によって、前進方向の推進力を発生していた船外機の従前の横移動用目標推進力Fに乗じられ、新たな目標推進力F(=KAV×従前のF)が求められる(ステップS85)。同様に、補正角度Δθの時間平均値ΔθAVを用いて、船体ECU20は、従前の横移動用目標転舵角θLm,θRmを補正し、横移動のための新たな目標転舵角θLm(=従前のθLm+ΔθAV),θRm(=従前のθRm+ΔθAV)を求める(ステップS86)。船体ECU20は、新たな目標推進力F(FLmまたはFRm)および新たな目標転舵角をメモリ20Mに書き込む(ステップS87)。これにより、当該横移動(左横移動または右横移動)に対応した関係特性が更新される。
【0139】
図18は、横移動キャリブレーションの実施例を示す。線91は、ジョイスティックユニット10のレバー7の前後方向傾倒操作に対応した補正係数Kの時間変化を示す。線92は、補正係数Kの時間平均値KAVの時間変化を示す。キャリブレーションボタン85を操作してから、たとえば、30秒間における補正係数Kの時間平均値KAVが求められ、この時間平均値KAVで、前進推進力を発生する船外機の横移動用推進力が較正される。
【0140】
図19Aおよび図19Bは、横移動キャリブレーションにおける左転舵ユニット12Lの目標転舵角θの時間変化を示す。初期値となる横移動用目標転舵角θLmに対する目標転舵角θの偏差が補正角度Δθである。図19Aは、作用線71L,71Rの交点を回転中心70よりも後方に移動した例を示し、図19Bは作用線71L,71Rの交点を回転中心70よりも前方に移動した例を示す。船舶1の積み荷や乗員の数等に応じて、実際の回転中心は変動し得るので、設計上の回転中心70と現実の回転中心とは必ずしも一致しない。このような不一致の影響が、横移動キャリブレーションによって排除できる。
【0141】
一方、回頭キャリブレーションボタン86は、ジョイスティック操船モードで船体2を左まわりまたは右まわりに回頭(その場回頭)させるときの船外機11L,11Rの推進力を較正するために、操船者によって操作されるように構成されている。船体2をその場で回頭させるときには、前述のとおり、船外機11L,11Rは、それらの作用線71L,71Rが船外機11L,11Rの後方で交わるV字形の姿勢に制御される(図4の動作例A5)。この場合の左右の転舵ユニット12L,12Rの転舵角絶対値を大きくすれば、大きな回頭モーメントを船体2に与えることができる。V字形姿勢に制御された左右の船外機11L,11Rが発生する推進力を等しくすれば(すなわち、エンジン回転速度を等しくすれば)、船体2は回転中心70まわりに回頭するはずである。しかし、実際には、左右の船外機11L,11Rの推進力の差などに起因して、前後左右への船体2の移動が生じる。このような、船体2の移動を少なくするための推進力較正が回頭キャリブレーションである。
【0142】
前述のとおり、船体2をその場で回頭させるとき、左右の船外機11L,11Rの一方のシフト位置が前進位置に制御され、他方のシフト位置が後進位置に制御される。前進推進力が後進推進力よりも船体挙動に大きく影響するのは前述のとおりである。そこで、この実施形態では、船体2をその場で回頭させるとき、後進推進力を発生する船外機は、ほぼ最大出力に制御される。そのため、後進出力を発生する船外機については、推進力調整の余地が少ないので、回頭キャリブレーションに際しては、前進推進力を発生する船外機の推進力が較正される。
【0143】
図20は回頭キャリブレーションの流れを説明するためのフローチャートである。回頭キャリブレーションボタン86が操船者によって操作されると、船体ECU20は、回頭キャリブレーションのための制御を開始する。船体ECU20は、メモリ20Mを参照して、その場回頭のための目標転舵角θLm,θRmおよび目標推進力FLm,FRmを読み出す(ステップS91)。これらの目標値は、一般的には、横移動用の目標値とは異なる。これらの目標値は、左まわり回頭および右まわり回頭のそれぞれに対応して、メモリ20Mに格納されている。つまり、左まわり回頭および右まわり回頭のためのジョイスティック入力にそれぞれ対応付けて、左右の転舵ユニット12L,12Rの目標転舵角および船外機11L,11Rの目標推進力がメモリ20Mに格納されている。これがジョイスティックユニットの出力と目標値との関係特性の一例である。
【0144】
操船者は、ジョイスティックユニット10のノブ8を中立位置から左まわりまたは右まわりに回動して、船体2をその場回頭させる(ステップS92)。これに応じて、船体ECU20は、ノブ8の回動操作方向に応じて、前述の左まわり回頭または右のための目標転舵角および目標推進力を適用する(ステップS93)。つまり、船体ECU20は、左右の転舵ユニット12L,12Rの転舵ECU14L,14Rに、対応する目標転舵角を与える。また、船体ECU20は、左右の船外機11L,11Rの目標推進力F,Fに対応する目標シフト位置および目標エンジン回転速度を演算し、それらを、船外機ECU13L,13Rに与える。
【0145】
船体2が前後方向または左右方向に移動するならば、操船者は、レバー7を前後左右に傾倒させて、当該移動を補正する(ステップS94)。レバー7の傾倒操作に応じて、船体ECU20は、補正係数Kを演算する(ステップS95)。さらに、船体ECU20は、その補正係数Kを、F(=FLmまたはFRm)に乗じて、当該目標推進力Fを補正する(ステップS96)。この補正された目標推進力F(=K・F)に対応する目標シフト位置および目標エンジン回転速度が、船体ECU20から、前進方向の推進力を発生している船外機に与えられる(ステップS97)。これにより、船体2の移動が修正される。
【0146】
その後は、ステップS94〜S97の処理が所定時間(たとえば、180秒)に渡って継続される(ステップS98)。
前記所定時間が経過すると、船体ECU20は、当該時間中における補正係数Kの時間平均値KAVを求める(ステップS99)。この時間平均値KAVは、ステップS94〜S97の処理中に随時計算が開始されていてもよい。こうして求められた時間平均値KAVが、船体ECU20によって、前進方向の推進力を発生していた船外機の従前のその場回頭用目標推進力Fに乗じられ、新たな目標推進力F(=KAV×従前のF)が求められる(ステップS101)。船体ECU20は、新たな目標推進力Fをメモリ20Mに書き込む(ステップS102)。これにより、当該回頭(左まわり回頭または右まわり回頭)に対応した関係特性が更新される。
【0147】
図21は、回頭キャリブレーションの実施例を示す。具体的には、ジョイスティックユニット10のレバー7の前後左右方向への傾倒操作に応答して変化する補正係数Kの時間平均値KAVの時間変化を示す。回頭キャリブレーションボタン86が操作されてから、たとえば、180秒間における補正係数Kの時間平均値KAVが求められ、この時間平均値KAVを用いて、前進推進力を発生する船外機のその場回頭用推進力目標値が較正される。
【0148】
図22Aおよび図22Bは、後方右まわり回頭操作を実際に行ったときの船体2の航跡例を示す。後方右まわり回頭とは、船体2を後方に進ませながら、船体2の位置変動を最小限にして実質的にその場で回頭することをいう。図22Aは回頭キャリブレーション前の航跡を示し、図22Bは回頭キャリブレーション実行後の航跡を示す。回頭キャリブレーションによって、旋回半径が大幅に小さくなっていることが分かる。
【0149】
なお、この実施形態においては、キャリブレーションボタン85,86が操作されてから所定時間の中における補正係数等の平均値を求め、この平均値によって目標推進力や目標転舵角が較正されているけれども、別の較正方法を適用することもできる。たとえば、横移動キャリブレーションボタン85の操作に応答して横移動キャリブレーションが開始された後に、再度、横移動キャリブレーションボタン85が操作されたタイミングで適用されている補正係数等を用いて目標推進力および目標転舵角を較正してもよい。この場合、操船者は、船体2が意図通りの横移動をしているときに、横移動キャリブレーションボタン85の2回目の操作を行えばよい。また、2回目に横移動キャリブレーションボタン85が操作されたときに、その直前の所定時間(たとえば30秒間)における補正係数等の平均値を用いて、目標推進力および目標転舵角を較正してもよい。回頭キャリブレーションにおいても同様に、回頭キャリブレーションボタン86の操作に応答して回頭キャリブレーションが開始された後に、再度、回頭キャリブレーションボタン86が操作されたタイミングで適用されている補正係数を用いて目標推進力を較正してもよい。この場合、操船者は、船体2が意図通りの回頭をしているときに、回頭キャリブレーションボタン86の2回目の操作を行えばよい。また、2回目に回頭キャリブレーションボタン86が操作されたときに、その直前の所定時間(たとえば30秒間)における補正係数の平均値を用いて、目標推進力を較正してもよい。さらに、回頭キャリブレーションボタン86が操作されてから、船体2が所定回数だけ回転(たとえば2回転)するまでの補正係数の平均値を用いて目標推進力を較正してもよい。
【0150】
その他の実施形態
この発明は、前述の実施形態以外の様々な形態で実施することができる。たとえば、前述の実施形態では、2機掛けの船外機艇および3機掛けの船外機艇について説明したけれども、この発明は、3機以上の船外機を備えた船舶にも適用することができる。たとえば、第1の実施形態を3機掛けの船外機艇に適用する場合には、ジョイスティック操船モードにおいて、中央の船外機については、転舵角を中立値とし、シフト位置をニュートラル位置とすればよい。そして、左右の船外機およびそれられに対応する転舵ユニットに関して、第1の実施形態と同様の制御を実行すればよい。
【0151】
また、前述の実施形態では、推進ユニットとして、船外機を例示したけれども、この発明は、船内外機、船内機等のその他の形態の推進ユニットを用いた船舶にも同様に適用することができる。
さらに、前述の実施形態では、ジョイスティックユニット10に加えてステアリングホイール15およびリモコンレバーユニット16を備えた船舶を例示したけれども、この発明は、ジョイスティックユニット10だけを備えた船舶にも適用することができる。
【0152】
その他、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。
【符号の説明】
【0153】
1 船舶
2 船体
5 船体中心線
7 レバー
8 ノブ(回動操作部)
10 ジョイスティックユニット
11L 左船外機(推進ユニット)
11R 右船外機(推進ユニット)
12L 左転舵ユニット
12R 右転舵ユニット
15 ステアリングホイール(ステアリングハンドル)
16 リモコンレバーユニット
17 位置検出装置(位置検出ユニット)
18 方位センサ(方位検出ユニット)
19 モード切換スイッチ(モード切換ユニット)
20 船体ECU(制御ユニット)
20M メモリ
53 転舵アクチュエータ
70 回転中心
71L 作用線
71R 作用線
80 方位保持ボタン(方位保持指示ユニット)
81 定点保持ボタン
85 横移動キャリブレーションボタン(キャリブレーション操作ユニット)
86 回頭キャリブレーションボタン(キャリブレーション操作ユニット)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
推進ユニットおよび転舵ユニットを制御する船舶用推進制御装置であって、
中立位置から傾倒可能なレバーを備え、船舶の進行方向および回頭を指示するために操船者によって操作されるように構成されたジョイスティックユニットと、
前記ジョイスティックユニットの出力信号に応じて前記推進ユニットの出力および前記転舵ユニットの転舵角を制御する制御ユニットとを含み、
前記制御ユニットは、前記推進ユニットの出力を停止するとき、前記転舵ユニットの転舵角を保持するように構成されている、船舶用推進制御装置。
【請求項2】
前記船舶用推進制御装置は、船舶の左右に配置される左推進ユニットおよび右推進ユニット、ならびに前記左推進ユニットおよび右推進ユニットにそれぞれ対応した左転舵ユニットおよび右転舵ユニットを制御するように構成されており、
前記制御ユニットは、前記左右の推進ユニットが発生する推進力の作用線がV字形または倒立V字形を形成するように前記左右の転舵ユニットの転舵角を制御するように構成されており、
前記制御ユニットは、前記左右の推進ユニットの出力を停止するときに前記左右の転舵ユニットの転舵角を保持することにより、前記作用線がV字形または倒立V字形を形成する状態を保持するように構成されている、請求項1記載の船舶用推進制御装置。
【請求項3】
前記船舶用推進制御装置は、船舶の左右に配置される左推進ユニットおよび右推進ユニット、ならびに前記左推進ユニットおよび右推進ユニットにそれぞれ対応した左転舵ユニットおよび右転舵ユニットを制御するように構成されており、
前記レバーは、中立位置から前後左右に傾倒可能に構成されており、
前記制御ユニットは、前記左右の推進ユニットが発生する推進力の作用線がV字形または倒立V字形を形成するように前記左右の転舵ユニットの転舵角を制御するように構成されており、
前記制御ユニットは、前記レバーの左右方向傾倒量が所定値以下となったときに、前記左右の転舵ユニットの転舵角を保持することにより、前記左右の推進ユニットの作用線がV字形または倒立V字形を形成する状態を保持するように構成されている、請求項1記載の船舶用推進制御装置。
【請求項4】
前記ジョイスティックユニットは、中立位置から回動操作可能に構成された回動操作部をさらに含み、
前記制御ユニットは、前記回動操作部の操作に応じて、船体に回頭モーメントを与えるように、前記推進ユニットの出力および前記転舵ユニットの転舵角を制御するように構成されている、請求項1記載の船舶用推進制御装置。
【請求項5】
前記制御ユニットは、前記レバーの前後方向傾倒に応じて前記推進ユニットの出力を制御し、前記回動操作部の操作に応じて前記転舵ユニットの転舵角を制御するように構成されており、
前記制御ユニットは、前記レバーおよび前記回動操作部がそれぞれの中立位置に戻されたときに、前記推進ユニットの出力を停止させ、さらに、前記転舵ユニットの転舵角を保持するように構成されている、請求項4記載の船舶用推進制御装置。
【請求項6】
前記制御ユニットは、前記転舵ユニットの転舵角を、中立値を含む中立範囲、中立範囲の一方側の第1範囲、および中立範囲の他方側の第2範囲のうちのいずれかの転舵角範囲に属する転舵角に制御するように構成されており、
前記制御ユニットは、さらに、前記レバーが中立位置にある状態で、前記回動操作部が中立位置から回動されたときは、転舵角範囲を変更することなく、前記回動操作部の操作に応じて前記転舵ユニットの転舵角を制御するように構成されている、請求項5記載の船舶用推進制御装置。
【請求項7】
前記推進ユニットは、互いに正反対の第1方向と第2方向とに推進力の方向を切り換えることができるように構成されており、
前記制御ユニットは、前記レバーが中立位置にある場合において前記回動操作部が操作されたとき、前記転舵ユニットの転舵角が中立値を含む中立範囲に属しなければ、前記推進ユニットの推進力の方向を前記回動操作部の操作に応じて前記第1方向または第2方向に制御するように構成されている、請求項5または6記載の船舶用推進制御装置。
【請求項8】
前記制御ユニットの制御モードを、通常操船モードと、ジョイスティック操船モードとに切り換えるモード切換ユニットをさらに含み、
前記制御ユニットは、通常操船モードにおいては、船舶に備えられるリモコンレバーの操作に応じて前記推進ユニットの出力を制御し、前記船舶に備えられるステアリングハンドルの操作に応じて前記転舵ユニットの転舵角を制御するように構成されており、
前記制御ユニットは、前記ジョイスティック操船モードにおいては、前記ジョイスティックユニットの操作に応じて前記推進ユニットの出力および前記転舵ユニットの転舵角を制御し、かつ、前記推進ユニットの出力を停止するときに、前記転舵ユニットの転舵角を保持するように構成されている、請求項1〜7のいずれか一項に記載の船舶用推進制御装置。
【請求項9】
船体の方位を保持するために操船者によって操作される方位保持指示ユニットと、
船体の方位を検出する方位検出ユニットとをさらに含み、
前記制御ユニットは、前記方位保持指示ユニットが操作されたときの船体の方位を保持するように、前記方位検出ユニットの出力に基づいて、前記推進ユニットの出力および前記転舵ユニットの転舵角を制御するように構成されている、請求項1に記載の船舶用推進制御装置。
【請求項10】
前記推進ユニットは、互いに正反対の第1方向と第2方向とに推進力の方向を切り換えることができるように構成されており、
前記制御ユニットは、前記転舵ユニットの転舵角が中立値を含む中立範囲に属しないときに、前記転舵角は変えずに、前記推進ユニットの推進力の方向および大きさを制御することにより、船体の方位を保持するように構成されている、請求項9の船舶用推進制御装置。
【請求項11】
船体の方位を検出する方位検出ユニットをさらに含み、
前記制御ユニットは、所定の指示入力が与えられたときに、その入力時の船体の方位を保持するように、前記方位検出ユニットの出力に基づいて、前記推進ユニットの出力および前記転舵ユニットの転舵角を制御するように構成されている、請求項1に記載の船舶用推進制御装置。
【請求項12】
船体の位置および方位を保持するために操船者によって操作される定点保持指示ユニットと、
船体の位置を検出する位置検出ユニットと、
船体の方位を検出する方位検出ユニットとをさらに含み、
前記制御ユニットは、前記定点保持指示ユニットが操作されたときの船体の位置および方位を保持するように、前記位置検出ユニットおよび方位検出ユニットの出力に基づいて、前記推進ユニットの出力および前記転舵ユニットの転舵角を制御するように構成されている、請求項1に記載の船舶用推進制御装置。
【請求項13】
所定の船体挙動に対応する推進力および転舵角を設定するためのキャリブレーション操作ユニットをさらに含み、
前記制御ユニットは、前記キャリブレーション操作ユニットの操作に応答して、前記所定の船体挙動と推進力および転舵角とが対応するように、ジョイスティックの出力信号と推進力および転舵角との関係特性を更新するように構成されている、請求項1に記載の船舶用推進制御装置。
【請求項14】
船体と、
船体に備えられた推進ユニットおよび転舵ユニットと、
前記推進ユニットおよび転舵ユニットを制御する、請求項1〜13のいずれか一項に記載の船舶用推進制御装置とを含む、船舶。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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