説明

船舶用推進装置およびそれを備えた船舶

【課題】低速航行時の操船性能に優れた船舶用推進装置を提供する。
【解決手段】リバースゲート28L,28Rは、噴射ユニット29L,29Rの噴射口全体を覆う全閉位置と、噴射口を全く覆わない全開位置との間で開度変更可能に構成されている。リバースゲート28L,28Rは、さらに、噴射口の一部だけを覆う第1部分閉塞位置と、噴射口の一部だけを覆い前記第1部分閉塞位置よりも前記全開位置に近い第2部分閉塞位置とを有している。レバー43L,43Rは、最大出力前進位置から最大出力後進位置に向かって順に設定されたゲート全開位置、前進開始位置、ニュートラル位置および後進開始位置を有する。レバー位置保持ユニット55は、レバー43L,43Rを前進開始位置、ニュートラル位置および後進開始位置でそれぞれ保持する。レバー43L,43Rが前進開始位置にあるとき、リバースゲート28L,28Rは、第2部分閉塞位置に配置される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、水を噴射して推進力を発生するジェット噴射ユニットを備えた船舶用推進装置、およびこのような船舶用推進装置を備えた船舶に関する。
【背景技術】
【0002】
ジェット噴射ユニットを備えた船舶に係る一つの先行技術は、下記特許文献1に記載されている。この船舶は、パーソナルウォータークラフト(PWC)と呼ばれるカテゴリに属する。この船舶は、船体(hull)と、ステアリングアッセンブリ(steering assembly)と、エンジン(engine)と、ジェットポンプ(jet pump:ジェット噴射ユニット)と、舵管部(tubular rudder)と、リバースゲート(reverse gate)とを含む。ジェットポンプは、船体の後方に向けて水を噴射するノズル(nozzle)を有している。舵管部は、リバースゲートに対して、左右に回動可能に取り付けられている。舵管部は、ノズルから噴射される水を方向付けるように構成されている。ステアリングアッセンブリが操船者によって操作されると、この操作に連動して、舵管部が左右に回動する。
【0003】
リバースゲートは、ノズルに固定されたフランジ(flanges)に対して、上下に回動可能に取り付けられている。リバースゲートは、前進位置(forward position, full-up position)と、後進位置(reverse position, full-down position)との間で回動可能に構成されている。後進位置は、舵管部の後方に位置し、リバースゲートが舵管部の開口全体を覆う全閉位置である。後進位置に配置されたリバースゲートは、舵管部の開口全体を覆い、ノズルから舵管部を通って噴射された水を前方へと反転させる。これにより、後進方向の推進力が船体に与えられる。前進位置は、後進位置よりも上に位置し、リバースゲートが舵管部の開口を全く覆わない全開位置である。前進位置に配置されたリバースゲートは、ジェットノズルから噴射された水を遮らないから、前進方向の推進力が船体に与えられる。リバースゲートは、前進位置と後進位置との間の中立位置(neutral position)に配置することができる。中立位置では、前進方向の推進力と後進方向の推進力とがほぼ均衡するから、船体の位置を保持できる。
【0004】
ステアリングアッセンブリには、スロットルコントロールのための右レバーと、ブレーキコントロールのための左レバーとが取り付けられている。左レバーを操作せずに右レバーを操作すると、リバースゲートは前進位置に配置される。右レバーを操作せずに左レバーを操作すると、リバースゲートは後進位置に配置される。左右のレバーの両方を操作すると、リバースゲートは中立位置に配置される。エンジンのスロットル開度は、左右のレバーに結合されたスロットルケーブルによって、レバー操作に機械的に連動する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許明細書第5755601号
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
特許文献1には、リバースゲートを中立位置と全閉位置との間の部分閉塞位置に配置することについての記載がある。特許文献1に明確な記載はないけれども、リバースゲートを部分閉塞位置に配置したとき、船体を低速で移動させることができると考えられる。ただしその場合、後進方向の推進力が前進方向の推進力に勝ると考えられるので、船体を前進させることはできない。したがって、船体を低速で前進させる目的は達せられない。しかも、この状態で船体を操舵するには、操船者は、右レバーおよび左レバーを同時に操作し、かつ、ステアリングアッセンブリを左右に操作する必要がある。すなわち、操船者は、スロットル開度、リバースゲートの位置およびステアリング角度の3つの要素に関する操作を同時に行う必要があるから、操作が煩雑になる。
【0007】
この発明は、とくに低速航行時の操船性能に優れた船舶用推進装置およびそれを備えた船舶を提供する。
第1の発明に係る船舶用推進装置は、吸気通路を開閉するスロットルバルブを有するエンジンと、前記エンジンにより駆動され、水を船体の後方へ噴射する噴射口を有し、前記噴射口から噴射される水の方向を左右に変更可能なジェット噴射ユニットと、リバースゲートとを含む。リバースゲートは、前記ジェット噴射ユニットの噴射方向から前記噴射口を見たときに、前記噴射口の全体を覆う全閉位置と、前記噴射口を全く覆わない全開位置との間で開度変更可能に構成されている。リバースゲートは、前記全閉位置において前記噴射口から噴射される水を船体の前方へと導くように構成されている。リバースゲートは、さらに、前記全閉位置と前記全開位置との間に、前記噴射口の一部だけを覆う第1部分閉塞位置と、前記噴射口の一部だけを覆い前記第1部分閉塞位置よりも前記全開位置に近い第2部分閉塞位置とを有している。船舶用推進装置は、さらに、前記ジェット噴射ユニットが噴射する水の方向を左右に変更するために操作者によって操作されるステアリングホイールと、前記エンジンのスロットルバルブの開度および前記リバースゲートの開度を設定するために操作者によって操作されるように構成されたレバーとを含む。このレバーは、最大出力前進位置と最大出力後進位置との間に、前記最大出力前進位置から前記最大出力後進位置に向かって順に設定されたゲート全開位置、前進開始位置、ニュートラル位置および後進開始位置を有する。船舶用推進装置は、さらに、前記レバーを前記前進開始位置、ニュートラル位置および後進開始位置でそれぞれ保持するレバー位置保持手段と、前記レバーに接続され、前記レバーの操作に連動して前記スロットルバルブの開度を操作するスロットル開度操作装置と、前記レバーに接続され、前記レバーの操作に連動して、前記リバースゲートの位置を操作するゲート位置操作装置とを含む。前記スロットル開度操作装置は、前記レバーが前記ゲート全開位置と前記最大出力前進位置との間にあるときには、前記レバーの前記ゲート全開位置からの操作量に追従して前記スロットルバルブの開度を大きくし、前記レバーが前記後進開始位置と前記最大出力後進位置との間にあるときには前記レバーの前記後進開始位置からの操作量に追従して前記スロットルバルブの開度を大きくし、前記レバーが前記後進開始位置と前記ゲート全開位置との間にあるときには前記スロットルバルブの開度を所定の第1開度で一定とするように構成されている。前記ゲート位置操作装置は、前記レバーが前記ゲート全開位置と前記最大出力前進位置との間にあるときには前記リバースゲートを前記全開位置に位置させ、前記レバーが前記後進開始位置と前記最大出力後進位置との間にあるときには前記リバースゲートを前記全閉位置に位置させ、前記レバーが前記後進開始位置と前記ニュートラル位置との間にあるときには前記後進開始位置からの前記レバーの操作量に追従して前記リバースゲートを前記全閉位置から前記第1部分閉塞位置まで連続的に変位させ、前記レバーが前記ニュートラル位置と前記前進開始位置との間にあるときには前記リバースゲートを前記ニュートラル位置からの前記レバーの操作量に追従して前記第1部分閉塞位置から前記第2部分閉塞位置まで連続的に変位させ、前記レバーが前記前進開始位置と前記ゲート全開位置との間にあるときには前記リバースゲートを前記前進開始位置からの前記レバーの操作量に追従して前記第2部分閉塞位置から前記全開位置まで連続的に変位させるように構成されている。
【0008】
リバースゲートが全開位置にあるとき、噴射口から噴射される水は専ら船体の後方に向かう。したがって、前進方向の推進力が船体に与えられる。リバースゲートが全閉位置にあるとき、噴射口から噴射された水の大部分はリバースゲートによって反転され、船体の前方に向かう。したがって、後進方向の推進力が船体に与えられる。リバースゲートが第1部分閉塞位置または第2部分閉塞位置にあるとき、噴射口から噴射される水の一部は船体の後方に向かい、別の一部は船体の前方に向かう。したがって、船体に対して、前進方向および後進方向の推進力が与えられる。第2部分閉塞位置は第1部分閉塞位置よりも全開位置に近い。そのため、リバースゲートが第2部分閉塞位置にあるときには、リバースゲートが第1部分閉塞位置にあるときよりも、前進方向の推進力が大きくなる。
【0009】
高速航行時は、ジェット噴射ユニットは高速に水流を噴射する。したがって、ステアリングホイールの操作に応じて水流の方向が左右に変化すると、船体は容易に旋回する。これに対して、低速航行時は、ジェット噴射ユニットが噴射する水流は低速である。そのため、水流の方向が左右に変化しても、大きな転舵力が得られない。したがって、船体の慣性による旋回の影響が大きくなる。
【0010】
ジェット噴射ユニットを備えた船舶(水ジェット推進艇)の一例であるパーソナルウォータークラフトは、船体が小さいため、慣性による船体挙動を比較的容易に押さえ込むことができる。しかし、水ジェット推進艇の他の例であるジェットボートは、船体が比較的大きい。そのため、低速航行時における船体の慣性は、船体の操舵に大きな影響を与える。
【0011】
たとえば、慣性により旋回している船体を直進させようとする場合を考える。この場合、船体を旋回させるためにステアリングホイールを操作しても、水流が低速であると、慣性による船体の旋回が押さえ込まれるまでに、長い時間を要する。そして、慣性による旋回が押さえ込まれた後に、ステアリングホイール操作に対応した船体挙動が始まる。同時に、船体は、ステアリングホイールの操作方向に向けて、慣性による旋回を始める。この慣性による旋回を止めるために、操船者は、ステアリングホイールを逆方向へと操作する。熟練した操船者は、船体の慣性による旋回が停止する前後の適切なタイミングで逆方向へのステアリングホイール操作を開始する。これにより、船体をほぼ直進させることができる。このように、低速航行時におけるジェットボートの操船は、慣性に支配される船体旋回の制御に帰着するから、必ずしも容易ではない。
【0012】
本願発明者は、リバースゲートを前述のような第2部分閉塞位置に配置すると、低速航行時であっても優れた操縦性能が得られることを発見した。すなわち、リバースゲートが第2部分閉塞位置にあると、後進方向の推進力によって船体に適度な制動力を与えながら、船体を前進させることができる。これにより、慣性による船体の旋回を速やかに打ち消すことができる。そのため、ステアリングホイールの操作によって水の噴射方向が左右に変更されると、その操作に応じた船体挙動が速やかに達成される。つまり、ステアリングホイール操作に対する応答性が良くなるので、優れた操縦性能が得られる。
【0013】
ジェットボートのような慣性質量の大きな船舶において低速航行時に優れた操縦性能を実現するための他の解決策として、スケグを設けることが考えられるかもしれない。しかし、充分な効果を得るためには、大きなスケグが必要であるから、船体が高速で水面上を滑走するときに大きな滑走抵抗が生じる。つまり、高速航行時のエネルギー効率が犠牲となる。別の解決策として、ジェット噴射ユニットの後方にラダーを設けることが考えられるかもしれない。しかし、ラダーを船尾に設けると、船尾からの乗り降り(水中から船体へのアクセス、および船体から水中へのアクセス)ができなくなるから、利便性が損なわれる。また、水ジェット推進艇においては、スケグやラダーは船底からの突起物となることから、様々な不具合が予想される。水ジェット推進艇は、露出したプロペラが船尾に配置されていないから、船尾から乗り降りできることが一つの大きな魅力となっている。したがって、船尾からの乗降が制限されれば、水ジェット推進艇の利便性および商品価値が減少してしまう。
【0014】
本願発明では、このような問題がなく、リバースゲートを第2部分閉塞位置に配置することで、高速滑走性や利便性を犠牲にすることなく、低速航行時の優れた操縦性能(ステアリング応答性)が実現される。
さらに、この発明では、スロットルバルブの開度およびリバースゲートの開度を設定するためのレバーの位置が、レバー位置保持手段によって、前進開始位置、ニュートラル位置および後進開始位置でそれぞれ保持されるようになっている。したがって、操船者は、レバー位置保持手段によってそれらのいずれかの位置にレバーを保持させておき、ステアリングホイールを操作することができる。つまり、レバーとステアリングホイールとを同時に操作する必要がない。
【0015】
ゲート位置操作装置は、レバーが前進開始位置に配置されると、リバースゲートを第2部分閉塞位置に配置する。このとき、スロットル開度操作装置は、スロットルバルブの開度を第1開度とする。第2部分閉塞位置では、船体に対して慣性力を打ち消すための制動力(後進方向の推進力)を与えつつ、同時に船体に対して前進方向の推進力を与えることができる。これにより、船体を低速で前進航行させながら、ステアリングホイール操作に対する優れた応答を得ることができるので、優れた操縦性能を実現できる。しかも、レバー位置保持手段によってレバーを前進開始位置に保持させておくことができるから、操船者は、ステアリングホイールの操作に専念することができる。したがって、操船が煩雑になることもない。
【0016】
第2の発明に係る船舶用推進機は、吸気通路を開閉するスロットルバルブを有するエンジンと、前記エンジンにより駆動され、水を船体の後方へ噴射する噴射口を有し、前記噴射口から噴射される水の方向を左右に変更可能なジェット噴射ユニットと、リバースゲートとを含む。リバースゲートは、前記ジェット噴射ユニットの噴射方向から前記噴射口を見たときに、前記噴射口の全体を覆う全閉位置と、前記噴射口を全く覆わない全開位置との間で開度変更可能に構成されている。さらに、リバースゲートは、前記全閉位置において前記噴射口から噴射される水を船体の前方へと導くように構成されている。前記船舶用推進機は、さらに、前記ジェット噴射ユニットが噴射する水の方向を左右に変更するために操作者によって操作されるステアリングホイールと、前記エンジンのスロットルバルブの開度および前記リバースゲートの開度を設定するために操作者によって操作されるように構成されたレバーとを含む。このレバーは、最大出力前進位置と最大出力後進位置との間に、前記最大出力前進位置から前記最大出力後進位置に向かって順に設定されたゲート全開位置、前進開始位置、ニュートラル位置および後進開始位置を有する。さらに、前記船舶用推進機は、前記レバーを前記前進開始位置、ニュートラル位置および後進開始位置でそれぞれ保持するレバー位置保持手段と、スロットル開度操作手段とを含む。スロットル開度操作手段は、前記レバーが前記ゲート全開位置と前記最大出力前進位置との間にあるときには、前記レバーの前記ゲート全開位置からの操作量に追従して前記スロットルバルブの開度を大きくし、前記レバーが前記後進開始位置と前記最大出力後進位置との間にあるときには前記レバーの前記後進開始位置からの操作量に追従して前記スロットルバルブの開度を大きくし、前記レバーが前記後進開始位置と前記前進開始位置との間にあるときには前記スロットルバルブの開度を所定の第1開度で一定とし、前記レバーが前記前進開始位置と前記ゲート全開位置との間にあるときには前記スロットルバルブの開度を前記第1開度以上とするように構成されている。また、前記船舶用推進機は、さらに、リバースゲート保持手段を含む。リバースゲート保持手段は、前記レバーが前記ゲート全開位置から前記最大出力前進位置までの範囲にあるときには前記リバースゲートを前記全開位置に保持し、前記レバーが前記後進開始位置から前記最大出力後進位置までの範囲にあるときには前記リバースゲートを前記全閉位置に保持し、前記レバーが前記ニュートラル位置にあるときには前記リバースゲートを前記噴射口の一部だけを覆う第1部分閉塞位置に保持し、前記レバーが前記前進開始位置にあるときには前記リバースゲートを前記噴射口の一部だけを覆い前記第1部分閉塞位置よりも前記全開位置に近い第2部分閉塞位置に保持するように構成されている。
【0017】
この構成では、レバー位置が前進開始位置に保持されているとき、リバースゲートは第2部分閉塞位置に保持される。これにより、低速航行時において、ステアリングホイール操作に対する優れた応答を得ることができ、かつ、操船も容易になる。
前記第2の発明において、前記スロットル開度操作手段は、前記レバーが前記前進開始位置から前記ゲート全開位置までの範囲に位置しているときに、前記スロットルバルブを前記第1開度に制御するように構成されていてもよい。
【0018】
また、前記第2の発明において、前記スロットル開度操作手段は、前記レバーが前記前進開始位置から前記ゲート全開位置までの範囲に位置しているときに、前記スロットルバルブを前記第1開度よりも大きな所定の第2開度に保持するように構成されていてもよい。この場合、前進開始位置において、エンジン出力を大きくすることができるから、前進方向の推進力が得やすくなる。これにより、低速航行時に一層優れた操縦性能を実現できる。
【0019】
前記第2の発明において、前記スロットル開度操作手段は、前記第1開度を操作者により変更可能な第1開度変更手段を含むことが好ましい。これにより、レバーを前進開始位置などに設定して低速前進航行するときの出力を調整できる。
前記第2の発明において、前記船舶用推進装置は、前記レバーの位置を検出するレバー位置検出手段と、前記リバースゲートを作動させるアクチュエータとをさらに含んでいてもよい。この場合に、前記リバースゲート保持手段が、前記レバー位置検出手段によって検出される前記レバーの位置に応じて前記アクチュエータを制御するアクチュエータ制御手段を含むことが好ましい。
【0020】
また、この発明は、船体と、前記船体に装備され、前述のような特徴を有する船舶用推進装置とを含む、船舶を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】この発明の一実施形態に係る水ジェット推進艇の概略構成を示す平面図である。
【図2】前記水ジェット推進艇の左側面図である。
【図3】前記水ジェット推進艇の底面図である。
【図4】前記水ジェット推進艇に備えられた左右のジェット推進機の近傍を船体の後方から視た部分背面図である。
【図5】前記水ジェット推進艇の後部を船体の下方から視た斜視図である。
【図6】図6は左側ジェット推進機の構成を示す縦断面図であり、左側から視た断面を示す。図6Aは左側ジェット推進機に備えられたデフレクタの縦断面図である。図6Bは図6AのVIB-VIB線断面図である。
【図7】図7は右側ジェット推進機の構成を示す縦断面図であり、左側から視た断面を示す。図7Aは右側ジェット推進機に備えられたデフレクタの縦断面図である。図7Bは図7AのVIIB−VIIB線断面図である。
【図8】前記水ジェット推進艇の進行方向の変更および出力の制御に関する構成を図解的に示す概念図である。
【図9】スロットル開度およびリバースゲートの開度(ゲート開度)を設定するためのレバーの操作位置を説明するための右側面図である。
【図10】前記レバーの操作位置とスロットル開度およびゲート開度との関係の一例を示す図である。
【図11】図11A〜図11Dは、リバースバケットの位置を説明するための図である。
【図12】発明者による低速航行時の操縦性能を比較した実験結果を示す図である。
【図13A】前記レバーを有するリモコンユニットの船体後方から見た縦断面図である。
【図13B】前記リモコンユニットの左側半分の内部構成を示す右側面図であり、前記レバーがニュートラル位置にあるときの状態を示す。
【図13C】前記リモコンユニットの左側半分の内部構成を示す右側面図であり、前記レバーが前進開始位置にあるときの状態を示す。
【図13D】前記リモコンユニットの左側半分の内部構成を示す右側面図であり、前記レバーがバケット全開位置にあるときの状態を示す。
【図13E】前記リモコンユニットの左側半分の内部構成を示す右側面図であり、前記レバーが最大出力前進位置にあるときの状態を示す。
【図13F】前記リモコンユニットの左側半分の内部構成を示す右側面図であり、前記レバーが後進開始位置にあるときの状態を示す。
【図13G】前記リモコンユニットの左側半分の内部構成を示す右側面図であり、前記レバーが最大出力後進位置にあるときの状態を示す。
【図14】この発明の第2の実施形態に係る水ジェット推進艇の進行方向の変更および出力の制御に関する構成を図解的に示す概念図である。
【図15】この発明の第3の実施形態に係る水ジェット推進艇の進行方向の変更および出力の制御に関する構成を図解的に示す概念図である。
【図16】前記第3の実施形態におけるスロットル開度およびゲート開度の制御特性を示す図である。
【図17】この発明の第4の実施形態に係る水ジェット推進艇の進行方向の変更および出力の制御に関する構成を図解的に示す概念図である。
【図18】前記第4の実施形態におけるスロットル開度およびゲート開度の制御特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下では、この発明の実施の形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。
図1は、この発明の一実施形態に係る水ジェット推進艇1(船舶の一例)の概略構成を示す平面図である。ただし、船体の一部を破断して船体内部の構成の一部が示されている。また、図2は、水ジェット推進艇1の左側面図であり、水上に浮かんだ静止状態を示している。
【0023】
水ジェット推進艇1は、湖や海などの水上を航行するために使用される船舶である。この実施形態の水ジェット推進艇1は、ジェットボートまたはスポーツボートと呼ばれるタイプの船舶であり、比較的大きな船体2を有している。水ジェット推進艇1は、船体2と、この船体2に取り付けられ、船体中心線A1を挟んで左右に配置された左右一対のジェット推進機3L,3Rとを備えている。船体中心線A1は、平面視において、船首と船尾中央とを通る直線である。
【0024】
船体2は、前後方向FBに長く延び、かつ左右方向LRに所定の幅を有している。なお、以下では、船体2の前後方向FBを単に「前後方向FB」という。また、船体2の左右方向LRを単に「左右方向LR」という。また、水ジェット推進艇1が水上に正常姿勢で静止しているときの船体2の上下方向を単に「上下方向UD」という。さらに、単に「左右」、「前後」、または「上下」というときは、船体2の左右方向、前後方向または上下方向を意味している。
【0025】
船体2は、デッキ4と、ハル5とを備えている。ハル5は、デッキ4の下方に配置されている。ハル5の底面5a(船底)には、前後に延びる稜線5bが形成されている。ハル5は、平面視において、稜線5bを対称軸として左右に略対称な形状を有している。稜線5bは平面視において船体中心線A1と一致する。
デッキ4の床面は、前後方向FBおよび左右方向LRと略平行である。デッキ4には、前方から後方に向かって、順に、前シート6、左右一対の中央シート10、および後シート11が配置されている。前シート6と中央シート10との間には、風防7が配置されている。一対の中央シート10のうちの一方は、操船者のためのシート(操船席)である。この操船席の前方にステアリングホイール8が配置されている。また、操船席の側方にリモコンユニット9が配置されている。さらに、操船席の近傍には、低速前進航行時の出力を変更するために操船者によって操作されるように構成された出力変更操作部15が設けられている。出力変更操作部15は、ステアリングホイール8またはリモコンユニット9の近傍に設けられていてもよい。
【0026】
ステアリングホイール8は、船体2の向きを変えるために操船者によって操作される操作部材である。ステアリングホイール8の操作によって、左右一対のジェット推進機3L,3Rが水を噴射する方向を左右に変更することができる。
リモコンユニット9は、操船者によって操作される別の操作部材である。操船者は、リモコンユニット9を操作することによって、左右一対のジェット推進機3L,3Rに駆動力を与えるエンジン13L,13Rの出力を調整でき、かつ、船体2の進行方向を前進と後進とで切り替えることができる。すなわち、リモコンユニット9は、前進/後進を切り換えるための操作部材と、エンジン出力調整のためのアクセル操作部材との両方の機能を有している。
【0027】
出力変更操作部15は、操船者によって操作されるさらに別の操作部材である。操船者は、出力変更操作部15を操作することによって、エンジン13L,13Rのアイドリング時のスロットル開度(アイドリング開度。全閉開度)を変更することができる。出力変更操作部15は、第1開度としてのアイドリング開度を変更するために操作者によって操作されるように構成された第1開度変更手段の一例である。
【0028】
ハル5には、左右一対のエンジン13L,13Rと、左右一対のエンジンECU(Electronic control unit)14L,14Rと、左右一対のジェット推進機3L,3Rとが取り付けられている。
左右一対のエンジン13L,13Rは、ハル5内の船尾寄りの位置に取り付けられ、平面視において船体中心線A1を挟んで左右に配置されている。エンジン13L,13Rは、たとえば、それぞれ多気筒の4サイクル内燃機関である。左側エンジン13Lは、左側ジェット推進機3Lに駆動力を与える駆動源である。右側エンジン13Rは、右側ジェット推進機3Rに駆動力を与える駆動源である。ジェット推進機3L,3Rは、エンジン13L,13Rからの駆動力を得ることによって、船底から水を吸い込んで噴射する。これにより、船体2に推進力が与えられる。左側のエンジンECU14Lは、左側のエンジン13Lを制御する。右側のエンジンECU14Rは、右側のエンジン13Rを制御する。
【0029】
図3は、水ジェット推進艇1の底面図である。図4は、左右のジェット推進機3L,3Rの近傍を船体2の後方から視た部分背面図である。さらに、図5は、水ジェット推進艇1の後部を船体2の下方から視た斜視図である。
ハル5の底面5aの後端側には、左右一対の傾斜面16L,16Rが左右対称に形成されている。左側傾斜面16Lは、稜線5bから左上方に向かって傾斜している。右側傾斜面16Rは、稜線5bから右上方に向かって傾斜している。したがって、船体2の底面5aは、中央(稜線5b)から側方に向かうに従って高くなるV型形状の船底を形成している。
【0030】
左側のジェット推進機3Lは、稜線5bよりも左上に配置されており、右側のジェット推進機3Rは、稜線5bよりも右上に配置されている。
ハル5の後端の上方には、デッキ4の後部4aが後方に張り出している。ハル5の底部の後端には、左右一対の凹部18L,18Rが左右対称に形成されている。左右の凹部18L,18Rは、左側ジェット推進機3Lの一部および右側ジェット推進機3Rの一部をそれぞれ収容するように形成されている。
【0031】
左側凹部18Lは、稜線5bの左側に形成されている。左側凹部18Lは、前後に延びており、ハル5の底面5aの後端部からハル5の後面5cにかけて形成され、後面5cにおいて後方に開放している。左側凹部18Lの天井面は、後方ほど、高くなる傾斜面となっている。同様に、右側凹部18Rは、稜線5bの右側に形成されている。右側凹部18Rは、前後に延びており、ハル5の底面5aの後端部からハル5の後面5cにかけて形成され、後面5cにおいて後方に開放している。右側凹部18Rの天井面は、後方ほど高くなる傾斜面となっている。
【0032】
図6は、左側ジェット推進機3Lの構成を示す縦断面図であり、左側から視た断面を示す。凹部18Lの後端部には、下方からプレート部材19Lが取り付けられている。プレート部材19Lは、凹部18Lの後端部を下方から塞いでいる。これら凹部18Lとプレート部材19Lとにより、インテークダクト20Lが形成されている。
インテークダクト20Lの前端には、ハル5の底面5aに開口したインテーク21Lが形成されている。インテークダクト20Lは、インテーク21Lから吸い込まれた水を噴射ノズル26Lへと案内する。インテーク21Lの後方に、ジェット推進機3Lが配置されている。インテーク21Lおよびジェット推進機3Lは、前後方向FBに沿って並んでいる。
【0033】
ジェット推進機3Lは、噴射ユニット29Lと、デフレクタ27Lと、リバースゲート28Lとを含む。噴射ユニット29Lは、船体2の船底から吸水して船体2の後方に向けて水を噴射するジェット噴射ユニットである。この噴射ユニット29Lは、ハウジング23Lと、インペラ24Lと、静翼25Lと、噴射ノズル26Lとを含んでいる。インペラ24Lおよび静翼25Lは、ハウジング23L内に配置されている。
【0034】
ハウジング23Lは、筒状に形成されている。ハウジング23Lの前端には、環状フランジ30Lが設けられている。環状フランジ30Lは、環状のトランサムプレート39Lを挟んでハル5のトランサム面31Lに対向している。環状フランジ30Lは、ボルトその他の締結具(図示せず)を用いて、トランサム面31Lに固定されている。インテークダクト20Lは、トランサム面31Lで開口している。ハウジング23L内の空間は、インテークダクト20L内の空間に連なっている。
【0035】
インペラ24Lは、インテークダクト20Lから水を吸って噴射ノズル26Lへと送り出す。インペラ24Lは、その回転軸線C1Lのまわりに放射状に配置された複数の羽根を備えている。インペラ24Lは、ドライブシャフト32Lの中間部に固定されている。
ドライブシャフト32Lは、前後に延びており、エンジン13Lの出力をインペラ24Lに伝達する。ドライブシャフト32Lは、ハウジング23Lおよびインテークダクト20L内に配置されている。
【0036】
ドライブシャフト32Lの前端部は、カップリング33Lを介して、エンジン13Lのクランク軸34Lに動力伝達可能に連結されている。ドライブシャフト32Lの後端部は、ハウジング23L内に配置された内筒36Lを通っている。ドライブシャフト32Lの後端部は、内筒36Lの前後に配置された一対の軸受35L,35Lを介して内筒36Lに回転可能に支持されている。ドライブシャフト32Lの前端部は、ハル5に固定された軸受け37Lによって、回転可能に支持されている。
【0037】
静翼25Lは、インペラ24Lの回転によって生じた水流を整える整流翼である。静翼25Lは、インペラ24Lの後方に配置されている。静翼25Lは、ハウジング23L内に固定された複数の羽根を含んでいる。各羽根の外周部は、ハウジング23Lに固定されており、内周部は、内筒36Lに固定されている。
噴射ノズル26Lは、インペラ24Lの回転により生じた水流が通過する筒状部材であり、ハウジング23Lの後端部に固定されている。噴射ノズル26Lの軸方向中間部は、円錐台形状に形成されており、後方ほど内径が小さくなっている。噴射ノズル26Lの後端部は、内径が略一定の円筒状に形成されている。この構成により、噴射ノズル26Lは、インペラ24Lによって生成された水流を加速して後方へと噴射する。
【0038】
デフレクタ27Lは、噴射ノズル26Lの後方に配置されており、噴射ノズル26Lから噴射される水の噴射方向を変えるように構成されている。デフレクタ27Lは、中空状に形成されており、噴射ノズル26Lから噴射された水を船体2の後方または前方に向けて噴射する。デフレクタ27Lは、後方に向けて開口した前進噴射口52Lと、前方に向けて開口した後進噴射口53Lとを有している。前進噴射口52Lは、たとえば、円筒状に形成されている。図6Aの縦断面図に示すように、前進噴射口52L内の水流路と後進噴射口53L内の水流路とは、互いに繋がっている。さらに、図6B(図6AのVIB−VIB線断面図)に示すように、後進噴射口53Lは、たとえば、断面矩形の管形状に構成されている。すなわち、後進噴射口53Lは、左右一対の側壁53a,53bと、これらを結合する一対の結合壁53c,53dとを含む。たとえば、側壁53a,53bおよび結合壁53c,53dの内面は、後進噴射口53L内の水流方向に対して実質的に平行な平面である。
【0039】
デフレクタ27Lは、ボルト57Lを介して噴射ノズル26Lに支持されている。ボルト57Lは、上下方向UDに延びる左右回動軸線D1Lに沿って、噴射ノズル26Lの上方および下方に配置されている。したがって、デフレクタ27Lは、噴射ノズル26Lに対して、左右回動軸線D1Lまわりに左右に回動可能となっている。これにより、デフレクタ27Lは、水流方向を左右に変えることができる。
【0040】
リバースゲート28Lは、水ジェット推進艇1を後進させるときに、デフレクタ27Lの前進噴射口52Lを塞ぐように構成されている。リバースゲート28Lは、デフレクタ27Lに隣接して配置されている。
より具体的には、リバースゲート28Lは、ボルト65Lを介してデフレクタ27Lに支持されている。ボルト65Lは、左右方向LRに延びる上下回動軸線E1Lに沿って、デフレクタ27Lの左方および右方に配置されている(図6では、左側のボルト65Lのみ図示)。リバースゲート28Lは、デフレクタ27Lに対して上下回動軸線E1Lまわりに上下に回動可能である。リバースゲート28Lは、デフレクタ27Lとともに左右に回動可能である。
【0041】
リバースゲート28Lは、全開位置と全閉位置との間で上下に回動可能である。全開位置とは、リバースゲート28Lが、デフレクタ27Lの前進噴射口52Lよりも上方に退避したときの位置である。この全開位置が図6に実線で示されている。全開位置では、前進噴射口52Lをその水流噴射方向下流側から見たときに、リバースゲート28Lは前進噴射口52Lを全く覆わない。一方、全閉位置は、リバースゲート28Lが、デフレクタ27Lの前進噴射口52Lに対向する位置である。この全閉位置が図6に二点鎖線で示されている。全閉位置では、前進噴射口52Lをその水流噴射方向下流側から見たときに、リバースゲート28Lは前進噴射口52Lの全体を覆う。全閉位置では、リバースゲート28Lが前進噴射口52Lを塞ぐので、後進噴射口53Lから前方に向けて水流が噴射される。つまり、リバースゲート28Lは、ジェット推進機3Lから後方に向かって噴射される水流の方向を前方に向けて折り返す。「前方」とは、船体2に後進方向の推進力を与えることができる方向である。すなわち、リバースゲート28Lが全閉位置にあるときの水流の噴射方向は、必ずしも船体2の中心線A1に平行である必要はなく、船体2の中心線A1に沿って前方に向かう成分を有する方向であればよい。
【0042】
この実施形態では、後進噴射口53Lは、前進噴射口52Lの後端部から下方に分岐している。この後進噴射口53Lは、斜め下左前方に向けられている。したがって、リバースゲート28Lが後進位置に配置されているとき、後進噴射口53Lから噴射される水流は、船体2の斜め下左前方に向かう。後進噴射口53Lは、斜め下前方(平面視において中心線A1に平行な方向)に向けられて、船体2の斜め下前方に向けて水流を噴射するように構成されていてもよい。
【0043】
図5に示すように、左側ジェット推進機3Lにおいて、噴射ノズル26Lよりも後方の部分は、左側凹部18Lの後方に突出しており、デッキ後部4aの下方に配置されている。
図7は、右側ジェット推進機3Rの構成を示す縦断面図であり、左側から視た断面を示す。図7Aには右側ジェット推進機のデフレクタ27Rの縦断面図を示し、図7Bにはデフレクタ27Rの横断面図(図7AのVIIB−VIIB線断面図)を示す。右側ジェット推進機3Rの構成は、左側ジェット推進機3Lの構成とほぼ同様である。そこで、図7、図7Aおよび図7Bにおいて、左側ジェット推進機3Lに関して既述の構成の対応部分を、同一番号の末尾にアルファベット「R」を付加した参照符号で示し、詳細な説明を省略する。なお、後進噴射口53Rは、斜め下右前方に向けられている。したがって、リバースゲート28Rが後進位置に配置されているとき、後進噴射口53Rから噴射される水流は、船体2の斜め下右前方に向かう。後進噴射口53Rは、斜め下前方(平面視において中心線A1に平行な方向)に向けられて、船体2の斜め下前方に向けて水流を噴射するように構成されていてもよい。
【0044】
図8は、水ジェット推進艇1の進行方向の変更および出力の制御に関する構成を図解的に示す概念図である。水ジェット推進艇1は、右側デフレクタ27Rおよび左側デフレクタ27Lを連動して左右に回動させる連動機構41を含んでいる。連動機構41は、ステアリングホイール8と、ステアリングケーブル42とを含む。
ステアリングホイール8には、ステアリングケーブル42の一端が接続されている。ステアリングケーブル42は、たとえばプッシュプル式のケーブルであり、ステアリングホイール8の回転操作によって押し引きされるように構成されている。ステアリングケーブル42の他端は、左側デフレクタ27Lおよび右側デフレクタ27Rに接続されている。
【0045】
ステアリングホイール8の回転力は、ステアリングケーブル42を介して左側デフレクタ27Lおよび右側デフレクタ27Rに伝達される。これにより、左側デフレクタ27Lおよび右側デフレクタ27Rが連動して左右に回動する。
リモコンユニット9は、左側レバー43Lと、右側レバー43Rとを含んでいる。レバー43L,43Rは、各下端を回動中心として前後方向に回動操作可能に構成されている。左側レバー43Lの回動操作位置は、左側アクセルポジションセンサ44Lによって検出される。同様に、右側レバー43Rの回動操作位置は、右側アクセルポジションセンサ44Rによって検出される。より具体的には、リモコンユニット9からは、左側レバー43Lおよび右側レバー43Rの操作にそれぞれ連動して変位するスロットル操作ケーブル46L,46Rが引き出されている。スロットル操作ケーブル46L,46Rは、たとえばプッシュプル式のケーブルであり、レバー43L,43Rの操作によって押し引きされるように構成されている。これらのスロットル操作ケーブル46L,46Rの変位が、アクセルポジションセンサ44L,44Rでそれぞれ検出される。アクセルポジションセンサ44L,44Rは、たとえば、ポテンショメータを含む。アクセルポジションセンサ44L,44Rは、左側エンジンECU14Lおよび右側エンジンECU14Rにそれぞれ電気的に接続されており、レバー43L,43Rの位置(より正確にはスロットル操作ケーブル46L,46Rの位置)に対応する信号をそれぞれ出力する。
【0046】
出力変更操作部15は、増加スイッチ151および減少スイッチ152を含む。出力変更操作部15は、左側エンジンECU14Lおよび右側エンジンECU14Rに電気的に接続されている。出力変更操作部15は、スイッチ151,152の操作を表す信号を左側エンジンECU14Lおよび右側エンジンECU14Rに入力するように構成されている。出力変更操作部15は、アイドリング時のエンジン出力を調整するために操作者によって操作される。増加スイッチ151が操作されると、エンジンECU14L,14Rは、アイドリング時のエンジン出力を増加させる。減少スイッチ152が操作されると、エンジンECU14L,14Rは、アイドリング時のエンジン出力を減少させる。より具体的には、エンジンECU14L,14Rは、スイッチ151,152の操作に応答して、アイドリング時のスロットル開度(アイドリング開度。全閉開度)を増減する。出力変更操作部15は、主として、低速前進航行時に操船者によって操作される。
【0047】
左側エンジン13Lは、吸気通路を開閉するスロットルバルブを作動させるように構成された左側スロットルアクチュエータ45Lを含む。左側エンジンECU14Lは、左側スロットルアクチュエータ45Lに電気的に接続されており、この左側スロットルアクチュエータ45Lの駆動を制御する。これにより、左側エンジン13Lのスロットルバルブの開度(スロットル開度)が制御され、その結果、左側エンジン13Lの出力が制御される。左側エンジン13Lのスロットル開度は、左側スロットルポジションセンサ47Lで検出され、この検出信号が左側エンジンECU14Lに入力される。
【0048】
同様に、右側エンジン13Rは、吸気通路を開閉するスロットルバルブを作動させるように構成された右側スロットルアクチュエータ45Rを含む。右側エンジンECU14Rは、右側スロットルアクチュエータ45Rに電気的に接続されており、この右側スロットルアクチュエータ45Rの駆動を制御する。これにより、右側エンジン13Rのスロットル開度が制御され、その結果、右側エンジン13Rの出力が制御される。右側エンジン13Rのスロットル開度は、右側スロットルポジションセンサ47Rで検出され、この検出信号が右側エンジンECU14Rに入力される。
【0049】
前記スロットル操作ケーブル46L,46R、アクセルポジションセンサ44L,44RおよびエンジンECU14L,14Rならびにリモコンユニット9内の関連する構成が、スロットル開度操作装置(スロットル開度操作手段)に含まれる。
エンジン13L,13Rには、それぞれ、エンジン回転速度センサ50L,50Rが備えられている。エンジン回転速度センサ50L,50Rは、たとえば、エンジン13L,13Rのクランク角を検出するクランク角センサであってもよい。これらのエンジン回転速度センサ50L,50Rの出力信号は、それぞれ左側エンジンECU14Lおよび右側エンジンECU14Rに入力される。エンジンECU14L,14Rは、エンジン回転速度センサ50L,50Rの出力信号に基づいて、エンジン13L,13Rを制御する。
【0050】
水ジェット推進艇1は、さらに、左側リバースゲート28Lおよび右側リバースゲート28Rを連動して全開位置と全閉位置との間で変位させるゲート連動機構48を備えている。
ゲート連動機構48は、ゲート操作ケーブル49R,49Lとを含んでいる。ゲート連動機構48およびそれに関連するリモコン9内の構成が、ゲート位置操作装置(リバースゲート保持手段)に含まれる。ゲート操作ケーブル49R,49Lは、たとえばプッシュプル式のケーブルであり、レバー43L,43Rの操作によってそれぞれ押し引きされるように構成されている。ゲート操作ケーブル49R,49Lの一端には、左側レバー43Lおよび右側レバー43Rの操作に応じた駆動力がそれぞれ与えられる。ゲート操作ケーブル49R,49Lの他端は、左側リバースゲート28Lおよび右側リバースゲート28Rにそれぞれ接続されている。図8では、全開位置の左側リバースゲート28Lおよび右側リバースゲート28Rを実線で示しており、全閉位置の左側リバースゲート28Lおよび右側リバースゲート28Rを二点鎖線で示している。
【0051】
図9は、レバー43L,43Rの操作位置を説明するための右側面図である。レバー43L,43Rは、それぞれ、最大出力前進位置WFと、最大出力後進位置WRとの間で傾倒操作可能に構成されている。最大出力前進位置WFとは、前進方向の推進力を最大にするための操作位置である。最大出力後進位置WRとは、後進方向の推進力を最大にするための操作位置である。最大出力前進位置WFと最大出力後進位置WRとの間に、ニュートラル位置NNが設定されている。さらに、ニュートラル位置NNと最大出力前進位置WFとの間に前進開始位置NFが設定されている。また、ニュートラル位置NNと最大出力後進位置WRとの間に後進開始位置Rが設定されている。
【0052】
レバー43L,43Rは、それぞれ、前進開始位置NF、ニュートラル位置NNおよび後進開始位置Rにおいて、位置保持されるように構成されている。具体的には、レバー43L,43Rをそれらの位置NF,NN,Rで保持するためのレバー位置保持ユニット55(レバー位置保持手段)がリモコンユニット9に備えられている。
図10は、レバー43L,43R(以下「レバー43」と総称する。)の操作位置と、リバースゲート28L,28R(以下「リバースゲート28」と総称する。)の位置およびスロットル開度との関係の特性例を示す図である。リバースゲート28は、全閉位置(ゲート開度0%)と全開位置(ゲート開度100%)との間で変位する。レバー43が最大出力後進位置WRと後進開始位置Rとの間の範囲に位置しているとき、リバースゲート28は全閉位置(ゲート開度0%)に保持される。レバー43が、前進開始位置NFと最大出力前進位置WFとの間に設定されたゲート全開位置Fに位置しているとき、リバースゲート28は全開位置(ゲート開度100%)となる。レバー43がゲート全開位置Fと最大出力前進位置WFとの間に位置しているとき、リバースゲート28は全開位置(ゲート開度100%)に保持される。レバー43が後進開始位置Rとゲート全開位置Fとの間に位置しているときには、リバースゲート28は、全開位置と全閉位置との間の中間的な開度位置に位置する。つまり、リバースゲート28は、レバー43の位置に応じた開度位置に位置することになる。より具体的には、リバースゲート28の全閉位置に対する全開位置側への変位量は、後進開始位置Rに対するレバー43のゲート全開位置F側への変位量に対応する。換言すれば、レバー43が後進開始位置Rとゲート全開位置Fとの間に位置しているときには、レバー43の位置に追従してリバースゲート28の位置が変化する。
【0053】
レバー43がニュートラル位置NNにあるとき、リバースゲート28は、第1部分閉塞位置に配置される。レバー43が前進開始位置NFにあるとき、リバースゲート28は、第2部分閉塞位置に配置される。第2部分閉塞位置は、第1部分閉塞位置よりも全開位置に近い。換言すれば、第2部分閉塞位置におけるリバースゲート28の開度(以下「ゲート開度」という。)は、第1部分閉塞位置におけるゲート開度よりも大きい。図10の例では、第1部分閉塞位置におけるゲート開度は約35%であり、第2部分閉塞位置におけるゲート開度は約70%程度である。ゲート開度とは、全閉位置を0%、全開位置を100%として、リバースゲート28の全回動角度範囲を100等分して表した指標である。
【0054】
第1部分閉塞位置は、前進方向の推進力と後進方向の推進力とがほぼ均衡し、船体の位置を保持できるように設定されている。第2部分閉塞位置は、前進方向の推進力が後進方向の推進力よりも大きくなるように設定されている。
リバースゲート28は、レバー43が後進開始位置Rとニュートラル位置NNとの間にあるときには、後進開始位置Rからのレバー43の操作量に追従して、全閉位置から第1部分閉塞位置まで連続的に変位する。また、リバースゲート28は、レバー43がニュートラル位置NNと前進開始位置NFとの間にあるときには、ニュートラル位置NNからのレバー43の操作量に追従して、第1部分閉塞位置から第2部分閉塞位置まで連続的に変位する。さらに、リバースゲート28は、レバー43が前進開始位置NFとゲート全開位置Fとの間にあるときには、前進開始位置NFからのレバー43の操作量に追従して、第2部分閉塞位置から全開位置まで連続的に変位する。
【0055】
スロットル開度は、アクセルポジションセンサ44L,44R(以下「アクセルポジションセンサ44」と総称する。)が検出するレバー43の位置に応じて、エンジンECU14L,14R(以下「エンジンECU14」と総称する。)によって制御される。ただし、この実施形態では、アクセルポジションセンサ44は、正確には、スロットル操作ケーブル46L,46Rの位置を検出するように構成されている。
【0056】
図10に示す特性線L1では、後進開始位置Rからゲート全開位置Fまでのレバー位置において、スロットル開度は所定の第1開度(たとえば0%。全閉。アイドリング開度)に保持される。そして、ゲート全開位置Fから最大出力前進位置WFまでの範囲では、レバー43のゲート全開位置Fからの変位量(操作量)に追従して大きくなるようにスロットル開度が設定される。さらに、レバー43が最大出力前進位置WFに位置するときにスロットル開度が上限値(100%。全開)とされる。また、後進開始位置Rから最大出力後進位置WRまでの範囲では、レバー43の後進開始位置Rからの変位量(操作量)に追従して大きくなるようにスロットル開度が設定される。そして、レバー43が最大出力後進位置WRに位置するときにスロットル開度が所定の後進上限値(たとえば約65%)とされる。
【0057】
図11A〜図11Dは、リバースゲート28の位置を説明するための図である。各図の左側にリバースゲート28の付近の断面図を示し、各図の右側にリバースゲート28およびデフレクタ27の背面図(船体2の後方から見た図)を示す。
図11Aは全閉位置(ゲート開度0%)を示す。リバースゲート28は、デフレクタ27L,27R(以下「デフレクタ27」と総称する。)の前進噴射口52L,52R(以下「前進噴射口52」と総称する。)を水流噴射方向下流側から見たときに、前進噴射口52の全体を覆っている。すなわち、ゲート開度は0%である。全閉位置は、リバースゲート28の最下方位置である。デフレクタ27は、後進噴射口53L,53R(以下「後進噴射口53」と総称する。)から船体2の前下方に向けて水流を噴射する。後方への水流はほとんど生じない。
【0058】
図11Bは第1部分閉塞位置(ゲート開度約35%)を示す。リバースゲート28は、水流噴射方向下流側から見たときに、前進噴射口52の一部だけを覆っている。この例では、前進噴射口52の開口面積の約65%(50%超)が覆われており、したがって、ゲート開度は、約35%(50%未満)である。第1部分閉塞位置は、全閉位置よりも上方の位置である。前進噴射口52においてリバースゲート28に覆われていない領域から、船体2の後方に向けて水流が噴射される。また、後進噴射口53から船体2の前下方に向けて水流が噴射される。船体2の前方へ向かう水流は、全閉位置のときよりも少ない。
【0059】
図11Cは第2部分閉塞位置(ゲート開度約70%)を示す。リバースゲート28は、水流噴射方向下流側から見たときに、前進噴射口52の一部だけを覆っている。この例では、前進噴射口52の開口面積の約30%(50%未満)が覆われており、したがって、ゲート開度は、約70%(50%超)である。第2部分閉塞位置は、第1部分閉塞位置よりも上方の位置である。したがって、リバースゲート28は、第1部分閉塞位置よりも少ない面積で前進噴射口52を覆っている。前進噴射口52においてリバースゲート28に覆われていない領域から、船体2の後方に向けて水流が噴射される。また、後進噴射口53から船体2の前下方に向けて水流が噴射される。船体2の後方へ向かう水流は、第1部分閉塞位置のときよりも多い。船体2の前方へ向かう水流は、第1部分閉塞位置のときよりも少ない。
【0060】
図11Dは全開位置(ゲート開度100%)を示す。リバースゲート28は、水流噴射方向下流側から見たときに、前進噴射口52を全く覆っていない。すなわち、ゲート開度は100%である。全開位置は、リバースゲート28の最上方位置であり、第2部分閉塞位置よりも高い位置である。デフレクタ27は、前進噴射口52から船体2の後方に向けて水流を噴射する。船体2の前方への水流はほとんど生じない。
【0061】
図12は、本件発明者による低速航行時の操縦性能を比較した実験結果を示す。曲線L10は比較例による実験結果を示し、曲線L11,12は前記実施形態に従う実施例による実験結果を示す。いずれも、船体を直進航行させるために操船者が行ったステアリング操作(操舵角)の時間変化を示す。縦軸は操舵角(STEERING ANGLE)、横軸は時間(TIME)である。操舵角は、舵角中点を0度とし、右側の操舵角を正値、左側の操舵角を負値で表してある。
【0062】
比較例(曲線L10)では、水流噴射方向下流側から見たときに、デフレクタ27の前進噴射口52をリバースゲート28で全く覆わず、ゲート開度を約100%とした(全開位置。図11D参照)。また、エンジン回転速度は1300rpmとした。実施例1(曲線L11)では、水流噴射方向下流側から見たときに、前進噴射口52の開口面積の約30%をリバースゲート28で覆い、ゲート開度を約70%とした(第2部分閉塞位置。図11C参照)。また、エンジン回転速度は1300rpmとした。実施例2(曲線L12)では、水流噴射方向下流側から見たときに、前進噴射口52の開口面積の約30%をリバースゲート28で覆い、ゲート開度を約70%とした(第2部分閉塞位置。図11C参照)。また、出力変更操作部15を操作して、エンジン回転速度を1600rpmとした。
【0063】
曲線L10,L11,L12の比較から、比較例よりも実施例1および実施例2の方が、操舵角変化が格段に少なくなっていることが分かる。すなわち、少ない操舵量(操舵周期および操舵角)で船体を直進航行させることができる。これは、ステアリングホイール操作に対する船体の応答が良好であるために、適切な操舵方向および操舵量が容易に把握できるからである。さらに、実施例1よりも実施例2の方が、操舵角変化が少なくなっている。実施例2では、エンジン回転速度が高いため、ステアリングホイール操作に対してより速やかな応答が得られるからである。
【0064】
リバースゲート28が第2部分閉塞位置にあると、後進方向の推進力によって船体2に適度な制動力を与えながら、船体2を前進させることができる。これにより、慣性による船体2の旋回を速やかに打ち消すことができる。そのため、ステアリングホイール8の操作によって水の噴射方向が左右に変更されると、その操作に応じた船体挙動が速やかに達成される。こうして、ステアリングホイール操作に対する優れた応答性が得られるので、優れた操縦性能を実現できる。しかも、大きなスケグやラダーを設ける必要がないから、船体2が高速で水面上を滑走するに大きな滑走抵抗が生じたり、船尾からの乗降性を犠牲にしたりすることがない。
【0065】
このように、この実施形態では、レバー43を前進開始位置に設定すると、リバースゲート28が第2部分閉塞位置に配置されるので、ステアリングホイール操作に対する船体挙動の応答が速くなる。こうして、低速航行時における優れた操縦性能を実現することができる。しかも、レバー43が前進開始位置NFで保持されるので、操船者は、レバー43を前進開始位置に設定した後は、ステアリングホイール操作に専念できる。したがって、煩雑な操作が必要ではないから、低速航行時の操船が容易になる。
【0066】
図13A〜図13Gは、リモコンユニット9の具体的な構造例を示す。図13Aは、リモコンユニット9の船体後方から見た縦断面図である。図13B〜図13Gは、リモコンユニット9の左側半分の内部構成を示す右側面図であり、それぞれレバー位置がニュートラル位置NN(図13B)、前進開始位置NF(図13C)、ゲート全開位置F(図13D)、最大出力前進位置WF(図13E)、後進開始位置R(図13F)、および最大出力後進位置WR(図13G)のときの状態を示す。
【0067】
リモコンユニット9は、一対のレバー43L,43Rと、一対のハウジング90L,90R(総称するときには「ハウジング90」という。)と、一対の機構部93L,93R(総称するときには「機構部93」という。)とを含む。ハウジング90L,90Rは、レバー43L,43Rにそれぞれ対応している。ハウジング90L,90R内に、機構部93L,93Rがそれぞれ収容されている。ハウジング90L,90Rおよびその内部の構造は、レバー43L,43Rに対応して左右対称に構成されている。ハウジング90L,90Rは、レバー43L,43Rとの結合部とは反対側の側面が互いに結合されて、リモコンユニット9を構成している。
【0068】
図13Aには、レバー43Lに関してのみ、ハウジング90L内の構成を示す。また、図13B〜図13Gには、ハウジング90Lの内部の構成を示す。レバー43Rに関する構成は、左右対称であるので、レバー43Lに関する構成を代表的に説明する。
ハウジング90は、一方向に開口を有する容器状のハウジング本体91と、その開口塞ぐ蓋体92とを含む。機構部93は、駆動軸95と、メインギヤ部材96と、ゲート駆動ギヤ部材97と、メイン駆動アーム98と、スロットル駆動カム部材99と、ギヤケース100とを含む。ただし、図13B〜図13Gでは、ギヤケース100の図示を省略してある。
【0069】
ギヤケース100は、ハウジング本体91に固定されている。駆動軸95は、ギヤケース100およびハウジング本体91を貫通している。ギヤケース100およびハウジング本体91の互いに対向する壁面に貫通孔が形成されており、この貫通孔に軸受け101が取り付けられている。駆動軸95は、軸受け101に支持されて、その中心軸線95aまわりに回転自在とされている。駆動軸95においてハウジング本体91の外側に位置する端部にレバー43の基端部が結合されている。したがって、レバー43は、駆動軸95を回動中心として回動自在に構成されている。
【0070】
ギヤケース100内において、駆動軸95にメインギヤ部材96が固定されている。したがって、メインギヤ部材96は、駆動軸95とともに回転する。メインギヤ部材96は、周方向の一部に駆動歯部105を有し、周方向の他の部分に複数(この実施形態では3個)の凹部106N,106F,106Rを有している。これらの凹部106N,106F,106Rは、メインギヤ部材96の回転中心(駆動軸95)に対して駆動歯部105とほぼ反対の位置において、互いに間隔を開けて配置されている。この実施形態では、凹部106Nと凹部106Rとの間の距離は、凹部106Nと凹部106Fとの間の距離より短い。ただし、凹部106Nと凹部106Rとの間の距離は、凹部106Nと凹部106Fとの間の距離と等しくてもよい。また、凹部106Nと凹部106Rとの間の距離は、凹部106Nと凹部106Fとの間の距離より長くてもよい。
【0071】
凹部106N,106F,106Rは、ハウジング本体91に取り付けられたクリック部材107と係合可能である。クリック部材107は、たとえば丸棒状に形成されている。クリック部材107には、ハウジング本体91に取り付けられたばね部材108によって、メインギヤ部材96の外周部に向かう弾性力が与えられている。したがって、クリック部材107は、凹部106N,106F,106Rが対向位置にあるときに、これらに弾性的に嵌り込み、メインギヤ部材96の回転角度位置を保持するように構成されている。凹部106N,106F,106Rを有するメインギヤ部材96、クリック部材107およびばね部材108は、レバー43の位置を保持するレバー位置保持ユニット55を構成している。
【0072】
ゲート駆動ギヤ部材97は、ギヤケース100に収容されている。ゲート駆動ギヤ部材97は、ハウジング本体91の内壁面に設けられた円筒状の軸受け部102に回転自在に支持されている。これにより、ゲート駆動ギヤ部材97は、駆動軸95に平行な回転軸線97aまわりに回転自在である。ゲート駆動ギヤ部材97は、駆動歯部105に噛み合う従動歯部111と、従動歯部111の両側に形成された一対の凹湾曲面112R,112Fとを有している。凹湾曲面112R,112Fは、メインギヤ部材96の外周面とほぼ等しい曲率を有している。ゲート駆動ギヤ部材97は、従動歯部111が駆動歯部105に噛み合っているとき、メインギヤ部材96の回転に従動して回転する。従動歯部111が駆動歯部105に噛み合っていないときには、凹湾曲面112R,112Fがメインギヤ部材96に対向する。このとき、メインギヤ部材96が回転してもゲート駆動ギヤ部材97は回転しない。
【0073】
ゲート駆動ギヤ部材97には、ゲート駆動アーム113が固定されている。ゲート駆動アーム113の基端部がゲート駆動ギヤ部材97に固定されている。したがって、ゲート駆動ギヤ部材97とともにゲート駆動アーム113が回動する。このとき、ゲート駆動アーム113の自由端は、回転軸線97aを中心とした円弧軌道に沿って移動する。ゲート駆動アーム113の自由端には、ゲート操作ケーブル49R,49L(図8参照。総称するときには「ゲート操作ケーブル49」という。)の一端部が結合されている。
【0074】
メイン駆動アーム98は、駆動軸95に固定されており、駆動軸95とともに回転するように構成されている。より具体的には、メイン駆動アーム98の基端部が駆動軸95に固定されている。メイン駆動アーム98が駆動軸95とともに回転すると、その自由端は、駆動軸95を中心とした円弧軌道に沿って移動する。メイン駆動アーム98の自由端には、ローラ115が取り付けられている。
【0075】
スロットル駆動カム部材99は、蓋体92の内壁面に平行な所定方向(図13Aの上下方向)に沿ってスライド自在に構成されている。スロットル駆動カム部材99においてメイン駆動アーム98に対向する表面には、カム溝116が形成されている。このカム溝116内に、メイン駆動アーム98のローラ115が配置されている。したがって、メイン駆動アーム98の回動に応じて、ローラ115はカム溝116内で移動する。カム溝116は、ほぼW字形に形成されており、上に凸の円弧部116aを中央に有し、その両側に斜め上外方に向かう直線部116b,116cを有している。円弧部116aの曲率は、ローラ115の軌跡が描く曲率にほぼ等しい。したがって、ローラ115が円弧部116a内を移動するときには、スロットル駆動カム部材99は上下動しない。ローラ115が直線部116b,116c内を移動すると、スロットル駆動カム部材99が上下動する。
【0076】
スロットル駆動カム部材99の下端部は、ピン117によって、スロットル駆動アーム118の中間部に結合されている。スロットル駆動アーム118の基端部は、固定軸119に回動自在に結合されている。固定軸119は、支持部材120を介してハウジング本体91に固定されている。したがって、スロットル駆動カム部材99が上下動すると、スロットル駆動アーム118は、固定軸119を中心に回動し、その自由端が円弧状の軌道に沿って移動する。スロットル駆動アーム118の自由端には、スロットル操作ケーブル46(図8参照)の一端部が結合されている。
【0077】
レバー43がニュートラル位置NNにあるときには、図13Bに示すように、クリック部材107がメインギヤ部材96の中央の凹部106Nに嵌り込む。このとき、メインギヤ部材96の駆動歯部105は、ゲート駆動ギヤ部材97に対向しており、その従動歯部111と噛み合っている。メインギヤ部材96の回動がクリック部材107によって規制され、かつ、駆動歯部105および従動歯部111が噛み合っているので、ゲート駆動ギヤ部材97の回動が規制される。これにより、リバースゲート28が第1部分閉塞位置に保持されることになる(図10および図11B参照)。一方、メイン駆動アーム98のローラ115はカム溝116の円弧部116a内に位置している。したがって、スロットル駆動カム部材99は、初期位置に保持される。よって、アクセルポジションセンサ44は、スロットル操作ケーブル46の初期位置を検出する。それに応じて、エンジンECU14は、スロットル開度を第1開度(アイドリング開度。全閉開度)に設定する(図10参照)。
【0078】
レバー43がニュートラル位置NNから前進開始位置NFに操作されると、メインギヤ部材96が回動し、図13Cに示すように、クリック部材107が凹部106Nから抜け出て凹部106Fに嵌り込む。メインギヤ部材96の回転は、駆動歯部105および従動歯部111によってバケット駆動ギヤ部材97に伝達され、このゲート駆動ギヤ部材97の回動を引き起こす。これにより、ゲート駆動アーム113が回動して、ゲート操作ケーブル49を引く。それに応じて、リバースゲート28は、第2部分閉塞位置(図11C参照)に向けて移動し、クリック部材107が凹部106Fに嵌り込むと、第2部分閉塞位置に達する(図10参照)。前進開始位置NFにおいても、メインギヤ部材96の駆動歯部105は、ゲート駆動ギヤ部材97に対向しており、その従動歯部111と噛み合っている。メインギヤ部材96の回動がクリック部材107によって規制され、かつ、駆動歯部105および従動歯部111が噛み合っているので、ゲート駆動ギヤ部材97の回動が規制される。これにより、リバースゲート28が第2部分閉塞位置(図11C参照)に保持されることになる。一方、レバー43がニュートラル位置NNから前進開始位置NFへと移動する過程で、メイン駆動アーム98のローラはカム溝116の円弧部116aを通る。そして、前進開始位置NFにおいても、ローラ115は円弧部116aに位置している。したがって、スロットル駆動カム部材99は、初期位置に保持される。よって、アクセルポジションセンサ44は、スロットル操作ケーブル46の初期位置を検出したままである。それに応じて、エンジンECU14は、スロットル開度を第1開度(アイドリング開度。全閉開度)に保持する(図10参照)。
【0079】
レバー43が前進開始位置NFからゲート全開位置Fまで操作されると、図13Dに示すように、メインギヤ部材96がさらに回動する。その過程で、クリック部材107は凹部106Fから抜け出る。ゲート全開位置Fでは、クリック部材107はいずれの凹部にも嵌り込んでいない。メインギヤ部材96の回転は、駆動歯部105および従動歯部111によってゲート駆動ギヤ部材97に伝達され、このゲート駆動ギヤ部材97の回動を引き起こす。これにより、ゲート駆動アーム113が回動して、ゲート操作ケーブル49を引く。それに応じて、リバースゲート28は、全開位置(図11D参照)に向けて移動し、レバー43がゲート全開位置Fに達した時点で全開位置に達する(図10参照)。ゲート全開位置Fにおいては、メインギヤ部材96の駆動歯部105は、ゲート駆動ギヤ部材97の方向から逸れており、その従動歯部111との噛み合いが外れている。すなわち、メインギヤ部材96の円弧状の外周部がゲート駆動ギヤ部材97の一方の凹湾曲面112Fに対向している。換言すれば、メインギヤ部材96が凹湾曲面112Fに嵌り込んでいる。これにより、ゲート駆動ギヤ部材97の回動が規制されるから、リバースゲート28が全開位置(図11D参照)に保持されることになる。一方、レバー43が前進開始位置NFからゲート全開位置Fへと移動する過程で、メイン駆動アーム98のローラ115はカム溝116の円弧部116aを通る。そして、ゲート全開位置Fにおいて、メイン駆動アーム98のローラ115は、カム溝116の円弧部116aの一端に位置している。したがって、スロットル駆動カム部材99は、初期位置に保持される。よって、アクセルポジションセンサ44は、スロットル操作ケーブル46の初期位置を検出する。それに応じて、エンジンECU14は、スロットル開度を第1開度(アイドリング開度。全閉開度)に保持する(図10参照)。
【0080】
レバー43がゲート全開位置Fからさらに最大出力前進位置WFに向けて操作されると、図13Eに示すように、メインギヤ部材96がさらに回動する。メインギヤ部材96の円弧状外周部はゲート駆動ギヤ部材97の凹湾曲面112F上を滑りながら移動する。したがって、ゲート駆動ギヤ部材97は回動しないから、リバースゲート28は全開位置に保持される(図10および図11D参照)。一方、メイン駆動アーム98のローラ115はカム溝116の円弧部116aを外れて一方の直線部116bを通って移動する。したがって、メイン駆動アーム98の回動に応じて、スロットル駆動カム部材99が下降し、スロットル操作ケーブル46を押し出す。このスロットル操作ケーブル46の変位量が、アクセルポジションセンサ44によって検出される。それに応じて、エンジンECU14は、スロットル開度を第1開度(アイドリング開度。全閉開度)よりも大きな値に設定する。より具体的には、スロットル操作ケーブル46の変位量に追従して、すなわち、レバー43の操作量に追従して大きくなるようにスロットル開度が設定される(図10参照)。
【0081】
レバー43がニュートラル位置NN(図13B)から後進開始位置Rに操作されると、メインギヤ部材96が回動し、図13Fに示すように、クリック部材107が凹部106Nから抜け出て凹部106Rに嵌り込む。メインギヤ部材96の回転は、駆動歯部105および従動歯部111によってゲート駆動ギヤ部材97に伝達され、このゲート駆動ギヤ部材97の回動を引き起こす。これにより、ゲート駆動アーム113が回動して、ゲート操作ケーブル49を押し出す。それに応じて、リバースゲート28は、全閉位置(図11A参照)に向けて移動し、クリック部材107が凹部106Rに嵌り込むと全閉位置に達する(図10参照)。後進開始位置Rにおいては、メインギヤ部材96の駆動歯部105は、ゲート駆動ギヤ部材97の方向から逸れており、その従動歯部111との噛み合いが外れている。すなわち、メインギヤ部材96の円弧状の外周部がゲート駆動ギヤ部材97の凹湾曲面112Rに対向している。換言すれば、メインギヤ部材96が凹湾曲面112Rに嵌り込んでいる。これにより、ゲート駆動ギヤ部材97の回動が規制されるから、リバースゲート28が全閉位置(図11A参照)に保持されることになる。一方、レバー43がニュートラル位置NNから後進開始位置Rへと移動する過程で、メイン駆動アーム98のローラ115はカム溝116の円弧部116aを通る。そして、後進開始位置Rにおいて、メイン駆動アーム98のローラ115は、カム溝116の円弧部116aの一端に位置している。したがって、スロットル駆動カム部材99は、初期位置に保持される。よって、アクセルポジションセンサ44は、スロットル操作ケーブル46の初期位置を検出する。それに応じて、エンジンECU14は、スロットル開度を第1開度(アイドリング開度。全閉開度)に保持する(図10参照)。
【0082】
レバー43が後進開始位置Rからさらに最大出力後進位置WRに向けて操作されると、図13Gに示すように、メインギヤ部材96がさらに回動する。メインギヤ部材96の円弧状外周部はゲート駆動ギヤ部材97の凹湾曲面112R上を滑りながら移動する。したがって、ゲート駆動ギヤ部材97は回動しないから、リバースゲート28は全閉位置に保持される(図10および図11A参照)。一方、メイン駆動アーム98のローラ115はカム溝116の円弧部116aを外れて一方の直線部116cを移動する。したがって、メイン駆動アーム98の回動に応じて、スロットル駆動カム部材99が下降し、スロットル操作ケーブル46を押し出す。このスロットル操作ケーブル46の変位量が、アクセルポジションセンサ44によって検出される。それに応じて、エンジンECU14は、スロットル開度を第1開度(アイドリング開度。全閉開度)よりも大きな値に設定する。より具体的には、スロットル操作ケーブル46の変位量に追従して、すなわち、レバー43の操作量に追従して大きくなるようにスロットル開度が設定される(図10参照)。
【0083】
このようにして、レバー43の操作に応じて、リバースゲート28を移動させ、かつ、スロットル開度を変更することができる。メインギヤ部材96の回動は、クリック部材107が凹部106N,106F,106Rに嵌ることによって規制され、これにより、リバースゲート28を第1部分閉塞位置、第2部分閉塞位置および全閉位置で保持することができる。また、メインギヤ部材96がゲート駆動ギヤ部材97の凹湾曲面112R,112Fに嵌ることによって、リバースゲート28を全閉位置および全開位置でそれぞれ保持することができる。
【0084】
図14は、この発明の第2の実施形態に係る水ジェット推進艇の進行方向の変更および出力の制御に関する構成を図解的に示す概念図である。図14において、前述の図8に示された各部に対応する部分は同一参照符号で示す。前述の第1の実施形態では、いわゆる電子制御スロットルシステムが採用されている。すなわち、リモコンユニット9のレバー操作をアクセルポジションセンサ44L,44Rで検出し、その検出結果に応じてスロットルアクチュエータ45L,45Rが制御されるようになっている。これに対して、第2の実施形態では、リモコンユニット9から引き出されたスロットル操作ケーブル46の操作力が、エンジン13L,13Rのスロットル弁ユニット130L,130Rにそれぞれ機械的伝達されるようになっている。この場合、たとえば、レバー43の操作に対するスロットル開度の変化は、図10の特性線L1に従う。
【0085】
図15は、この発明の第3の実施形態に係る水ジェット推進艇の進行方向の変更および出力の制御に関する構成を図解的に示す概念図である。図15において、前述の図8に示された各部に対応する部分は同一参照符号で示す。前述の第1の実施形態では、リモコンユニット9から引き出されたゲート操作ケーブル49L,49Rの操作力が、リバースゲート28に機械的に伝達されるようになっている。これに対して、第3の実施形態では、リバースゲート28を移動させるためのゲートアクチュエータ140L,140Rが備えられている。また、リモコンユニット9から引き出されたゲート操作ケーブル49L,49Rの変位を検出するための位置センサ143L,143R(レバー位置検出手段)が備えられている。位置センサ143L,143Rの出力信号は、エンジンECU14L,14Rに入力されている。位置センサ143L,143Rは、ポテンショメータを含んでいてもよい。
【0086】
ゲートアクチュエータ140L,140Rは、リバースゲート28L,28Rにそれぞれ結合された操作ケーブル145L,145Rを押し引きするように構成されている。ゲートアクチュエータ140L,140Rは、駆動源としての電動モータ141L,141Rと、電動モータ141L,141Rの回転力を操作ケーブル145L,145Rの押し引き操作力に変換する駆動力変換機構142L,142Rとを含む。駆動力変換機構142L,142Rは、ボールねじ機構を含んでいてもよく、油圧シリンダを含んでいてもよい。たとえば、油圧シリンダのオイルポンプを電動モータ141L,141Rによって駆動することにより、操作ケーブル145L,145Rを押し引きできる。
【0087】
エンジンECU14L,14Rは、図8の構成の場合と同様に、アクセルポジションセンサ44L,44Rの出力信号に基づいて、スロットルアクチュエータ45L,45Rの駆動を制御する。加えて、エンジンECU14L,14Rは、位置センサ143L,143Rの出力信号に基づいて、ゲートアクチュエータ140L,140Rの駆動も制御する。すなわち、エンジンECU14L,14Rは、アクチュエータ制御手段としての機能を有している。
【0088】
図16は、前記第3の実施形態における、エンジンECU14によるスロットル開度制御およびリバースゲート28の位置制御を説明するための制御特性図である。スロットル開度の制御特性(特性線L1)は、図8の構成の場合と同様である。
最大出力後進位置WRから最大出力前進位置WFに向かう方向にレバー43が操作されるとき、エンジンECU14は、特性線L21に従ってゲートアクチュエータ140L,140R(以下「ゲートアクチュエータ140」と総称する。)を制御する。すなわち、最大出力後進位置WRからニュートラル位置NNに到達する直前までは、リバースゲート28を全閉位置に保持するように、ゲートアクチュエータ140が制御される。レバー43がニュートラル位置NNに達すると、リバースゲート28を第1部分閉塞位置に移動させるように、ゲートアクチュエータ140が制御される。ニュートラル位置NNから前進開始位置NFに到達する直前までのレバー位置範囲では、リバースゲート28を第1部分閉塞位置に保持するように、ゲートアクチュエータ140が制御される。レバー43が前進開始位置NFに達すると、リバースゲート28を第2部分閉塞位置に移動させるように、ゲートアクチュエータ140が制御される。前進開始位置NFからゲート全開位置Fに到達する直前までのレバー位置範囲では、リバースゲート28を第2部分閉塞位置に保持するように、ゲートアクチュエータ140が制御される。レバー43がゲート全開位置Fに達すると、リバースゲート28を全開位置に移動させるように、ゲートアクチュエータ140が制御される。ゲート全開位置Fから最大出力前進位置WFまでのレバー位置範囲では、リバースゲート28を全開位置に保持するように、ゲートアクチュエータ140が制御される。
【0089】
一方、最大出力前進位置WFから最大出力後進位置WRに向かう方向にレバー43が操作されるときは、エンジンECU14Lは、特性線L22に従ってゲートアクチュエータ140を制御する。すなわち、最大出力前進位置WFから前進開始位置NFに到達する直前までは、リバースゲート28を全開位置に保持するように、ゲートアクチュエータ140が制御される。レバー43が前進開始位置NFに達すると、リバースゲート28を第2部分閉塞位置に移動させるように、ゲートアクチュエータ140が制御される。前進開始位置NFからニュートラル位置NNに到達する直前までのレバー位置範囲では、リバースゲート28を第2部分閉塞位置に保持するように、ゲートアクチュエータ140が制御される。レバー43がニュートラル位置NNに達すると、リバースゲート28を第1部分閉塞位置に移動させるように、ゲートアクチュエータ140が制御される。ニュートラル位置NNから後進開始位置Rに到達する直前までのレバー位置範囲では、リバースゲート28を第2部分閉塞位置に保持するように、ゲートアクチュエータ140が制御される。レバー43が後進開始位置Rに達すると、リバースゲート28を全閉位置に移動させるように、ゲートアクチュエータ140が制御される。後進開始位置Rから最大出力後進位置WRまでのレバー位置範囲では、リバースゲート28を全閉位置に保持するように、ゲートアクチュエータ140が制御される。
【0090】
ただし、リバースゲート28の位置制御は、図10に示す特性線L20に従って実行しても差し支えない。
この実施形態では、ゲートアクチュエータ140が、リバースゲート28の位置を保持するゲート位置保持手段としての機能を有している。
図17は、この発明の第4の実施形態に係る水ジェット推進艇の進行方向の変更および出力の制御に関する構成を図解的に示す概念図である。図17において、前述の図8に示された各部に対応する部分は同一参照符号で示す。図8に示す構成では、リモコンユニット9から引き出されたスロットル操作ケーブル46の変位がアクセルポジションセンサ44で検出されるようになっている。これに対して、第4の実施形態では、レバー43L,43Rの操作位置を直接的に検出するアクセルポジションセンサ150L,150Rが備えられている。したがって、アクセルポジションセンサ150L,150Rの出力信号は、最大出力後進位置WRから最大出力前進位置WFまでの範囲で連続的に(たとえばリニアに)変化する。アクセルポジションセンサ150L,150Rの出力信号が、それぞれ、エンジンECU14L,14Rに入力されている。エンジンECU14L,14Rは、アクセルポジションセンサ150L,150Rの出力信号に基づいて、スロットルアクチュエータ45L,45Rを制御するように構成されている。
【0091】
アクセルポジションセンサ150L,150R(以下総称するときには「アクセルポジションセンサ150」という。)は、リモコンユニット9に内蔵されていてもよい。より具体的には、アクセルポジションセンサ150L,150Rは、リモコンユニット9の駆動軸95の回動角を検出するものであってもよい。アクセルポジションセンサ150L,150Rは、ポテンショメータを含んでいてもよい。
【0092】
図18は、前記第4の実施形態における、エンジンECU14によるスロットル開度制御およびリバースゲート28の位置制御を説明するための制御特性図である。リバースゲート28の位置制御に関する特性(特性線L20)は、図8の構成の場合と同様である。
スロットル開度は、特性線L2に従って制御される。すなわち、後進開始位置Rから前進開始位置NFまでのレバー位置において、スロットル開度は所定の第1開度(たとえば0%。全閉。アイドリング開度)に保持される。また、前進開始位置NFからゲート全開位置Fまでのレバー位置では、スロットル開度は所定の第2開度(たとえば約5%)に保持される。第2開度は第1開度よりも大きい。ゲート全開位置Fから最大出力前進位置WFまでの範囲では、レバー43のゲート全開位置Fからの変位量(操作量)に追従して大きくなるようにスロットル開度が設定される。さらに、レバー43が最大出力前進位置WFに位置するときにスロットル開度が上限値(100%。全開)とされる。また、後進開始位置Rから最大出力後進位置WRまでの範囲では、レバー43の後進開始位置Rからの変位量(操作量)に追従して大きくなるようにスロットル開度が設定される。そして、レバー43が最大出力後進位置WRに位置するときにスロットル開度が所定の後進上限値(たとえば約65%)とされる。
【0093】
前述の図12に示した実験結果から理解されるとおり、リバースゲート28を第2部分閉塞位置に配置したときに、エンジン回転速度が高い方が優れた操縦性能を達成できる。そこで、この実施形態では、前進開始位置NFからゲート全開位置Fまでの範囲で、スロットル開度を第1開度よりも高い第2開度に設定して、エンジン出力を増大させている。
以上、この発明の4つの実施形態について説明したが、この発明は、さらに他の形態で実施することもできる。たとえば、リモコンユニット9のレバー操作を、エンジン13のスロットル弁ユニットに機械的に伝達し、かつリバースゲート28に機械的に伝達する構成としてもよい。
【0094】
さらに、図14および図17の構成を図15の構成に倣って変形し、リバースゲート28の位置制御をゲートアクチュエータによって行うこともできる。とくに、図17の構成にゲートアクチュエータを備えるときには、このゲートアクチュエータの制御は、アクセルポジションセンサ150の出力信号を用いて行うことができる。なぜなら、アクセルポジションセンサ150は、レバー43の位置を直接的に検出しているからである。この場合、アクセルポジションセンサ150をスロットル開度制御およびリバースゲート位置制御に兼用できる。この場合、アクセルポジションセンサ150は、ゲートアクチュエータの制御のためのレバー位置検出手段としての機能を有することになる。
【0095】
また、前述の実施形態では、2基のジェット推進機を備えた船舶を例示したけれども、1基または3基以上のジェット推進機が船舶に備えられてもよい。
その他、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。
【符号の説明】
【0096】
1 水ジェット推進艇
2 船体
3L 左側ジェット推進機
3R 右側ジェット推進機
8 ステアリングホイール
9 リモコンユニット
13L,13R エンジン
14L,14R エンジンECU
15 出力変更操作部
26L,26R 噴射ノズル
27L,27R デフレクタ
28L,28R リバースゲート
29L,29R 噴射ユニット
43L,43R レバー
44L,44R アクセルポジションセンサ
45L,45R スロットルアクチュエータ
46L,46R スロットル操作ケーブル
48 ゲート連動機構
49L,49R ゲート操作ケーブル
52L,52R 前進噴射口
53L,53R 後進噴射口
55 レバー位置保持ユニット
95 駆動軸
96 メインギヤ部材
97 ゲート駆動ギヤ部材
98 メイン駆動アーム
99 スロットル駆動カム部材
105 駆動歯部
106F,106N,106R 凹部
107 クリック部材
108 ばね部材
111 従動歯部
112F,112R 凹湾曲面
113 ゲート駆動アーム
118 スロットル駆動アーム
119 スロットル駆動アーム
130L,130R スロットル弁ユニット
140L,140R ゲートアクチュエータ
143L,143R 位置センサ
150L,150R アクセルポジションセンサ
WF 最大出力前進位置
F ゲート全開位置
NF 前進開始位置
NN ニュートラル位置
R 後進開始位置
WR 最大出力後進位置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸気通路を開閉するスロットルバルブを有するエンジンと、
前記エンジンにより駆動され、水を船体の後方へ噴射する噴射口を有し、前記噴射口から噴射される水の方向を左右に変更可能なジェット噴射ユニットと、
前記ジェット噴射ユニットの噴射方向から前記噴射口を見たときに、前記噴射口の全体を覆う全閉位置と、前記噴射口を全く覆わない全開位置との間で開度変更可能に構成され、前記全閉位置と前記全開位置との間に、前記噴射口の一部だけを覆う第1部分閉塞位置と、前記噴射口の一部だけを覆い前記第1部分閉塞位置よりも前記全開位置に近い第2部分閉塞位置とを有し、前記全閉位置において前記噴射口から噴射される水を船体の前方へと導くリバースゲートと、
前記ジェット噴射ユニットが噴射する水の方向を左右に変更するために操作者によって操作されるステアリングホイールと、
前記エンジンのスロットルバルブの開度および前記リバースゲートの開度を設定するために操作者によって操作されるように構成され、最大出力前進位置と最大出力後進位置との間に、前記最大出力前進位置から前記最大出力後進位置に向かって順に設定されたゲート全開位置、前進開始位置、ニュートラル位置および後進開始位置を有するレバーと、
前記レバーを前記前進開始位置、ニュートラル位置および後進開始位置でそれぞれ保持するレバー位置保持手段と、
前記レバーに接続され、前記レバーの操作に連動して前記スロットルバルブの開度を操作するスロットル開度操作装置と、
前記レバーに接続され、前記レバーの操作に連動して、前記リバースゲートの位置を操作するゲート位置操作装置とを含み、
前記スロットル開度操作装置は、前記レバーが前記ゲート全開位置と前記最大出力前進位置との間にあるときには、前記レバーの前記ゲート全開位置からの操作量に追従して前記スロットルバルブの開度を大きくし、前記レバーが前記後進開始位置と前記最大出力後進位置との間にあるときには前記レバーの前記後進開始位置からの操作量に追従して前記スロットルバルブの開度を大きくし、前記レバーが前記後進開始位置と前記ゲート全開位置との間にあるときには前記スロットルバルブの開度を所定の第1開度で一定とするように構成されており、
前記ゲート位置操作装置は、前記レバーが前記ゲート全開位置と前記最大出力前進位置との間にあるときには前記リバースゲートを前記全開位置に位置させ、前記レバーが前記後進開始位置と前記最大出力後進位置との間にあるときには前記リバースゲートを前記全閉位置に位置させ、前記レバーが前記後進開始位置と前記ニュートラル位置との間にあるときには前記後進開始位置からの前記レバーの操作量に追従して前記リバースゲートを前記全閉位置から前記第1部分閉塞位置まで連続的に変位させ、前記レバーが前記ニュートラル位置と前記前進開始位置との間にあるときには前記リバースゲートを前記ニュートラル位置からの前記レバーの操作量に追従して前記第1部分閉塞位置から前記第2部分閉塞位置まで連続的に変位させ、前記レバーが前記前進開始位置と前記ゲート全開位置との間にあるときには前記リバースゲートを前記前進開始位置からの前記レバーの操作量に追従して前記第2部分閉塞位置から前記全開位置まで連続的に変位させるように構成されている、船舶用推進装置。
【請求項2】
吸気通路を開閉するスロットルバルブを有するエンジンと、
前記エンジンにより駆動され、水を船体の後方へ噴射する噴射口を有し、前記噴射口から噴射される水の方向を左右に変更可能なジェット噴射ユニットと、
前記ジェット噴射ユニットの噴射方向から前記噴射口を見たときに、前記噴射口の全体を覆う全閉位置と、前記噴射口を全く覆わない全開位置との間で開度変更可能に構成され、前記全閉位置において前記噴射口から噴射される水を船体の前方へと導くリバースゲートと、
前記ジェット噴射ユニットが噴射する水の方向を左右に変更するために操作者によって操作されるステアリングホイールと、
前記エンジンのスロットルバルブの開度および前記リバースゲートの開度を設定するために操作者によって操作されるように構成され、最大出力前進位置と最大出力後進位置との間に、前記最大出力前進位置から前記最大出力後進位置に向かって順に設定されたゲート全開位置、前進開始位置、ニュートラル位置および後進開始位置を有するレバーと、
前記レバーを前記前進開始位置、ニュートラル位置および後進開始位置でそれぞれ保持するレバー位置保持手段と、
前記レバーが前記ゲート全開位置と前記最大出力前進位置との間にあるときには、前記レバーの前記ゲート全開位置からの操作量に追従して前記スロットルバルブの開度を大きくし、前記レバーが前記後進開始位置と前記最大出力後進位置との間にあるときには前記レバーの前記後進開始位置からの操作量に追従して前記スロットルバルブの開度を大きくし、前記レバーが前記後進開始位置と前記前進開始位置との間にあるときには前記スロットルバルブの開度を所定の第1開度で一定とし、前記レバーが前記前進開始位置と前記ゲート全開位置との間にあるときには前記スロットルバルブの開度を前記第1開度以上とするように構成される、スロットル開度操作手段と、
前記レバーが前記ゲート全開位置から前記最大出力前進位置までの範囲にあるときには前記リバースゲートを前記全開位置に保持し、前記レバーが前記後進開始位置から前記最大出力後進位置までの範囲にあるときには前記リバースゲートを前記全閉位置に保持し、前記レバーが前記ニュートラル位置にあるときには前記リバースゲートを前記噴射口の一部だけを覆う第1部分閉塞位置に保持し、前記レバーが前記前進開始位置にあるときには前記リバースゲートを前記噴射口の一部だけを覆い前記第1部分閉塞位置よりも前記全開位置に近い第2部分閉塞位置に保持する、リバースゲート保持手段とを含む、船舶用推進装置。
【請求項3】
前記スロットル開度操作手段は、前記レバーが前記前進開始位置から前記ゲート全開位置までの範囲に位置しているときに、前記スロットルバルブを前記第1開度に制御するように構成されている、請求項2記載の船舶用推進装置。
【請求項4】
前記スロットル開度操作手段は、前記レバーが前記前進開始位置から前記ゲート全開位置までの範囲に位置しているときに、前記スロットルバルブを前記第1開度よりも大きな所定の第2開度に保持するように構成されている、請求項2記載の船舶用推進装置。
【請求項5】
前記スロットル開度操作手段は、前記第1開度を操作者により変更可能な第1開度変更手段を含む、請求項2記載の船舶用推進装置。
【請求項6】
前記レバーの位置を検出するレバー位置検出手段と、
前記リバースゲートを作動させるアクチュエータとをさらに含み、
前記リバースゲート保持手段が、前記レバー位置検出手段によって検出される前記レバーの位置に応じて前記アクチュエータを制御するアクチュエータ制御手段を含む、請求項2〜5のいずれか一項に記載の船舶用推進装置。
【請求項7】
船体と、
前記船体に装備された、請求項1〜6のいずれか一項に記載の船舶用推進装置とを含む、船舶。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13A】
image rotate

【図13B】
image rotate

【図13C】
image rotate

【図13D】
image rotate

【図13E】
image rotate

【図13F】
image rotate

【図13G】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate