説明

船舶

【課題】無荷時にもバラスト水の使用を不要にした大型の排水量型船舶を提供する。
【解決手段】船尾部船底および船首部船底の形状は、それぞれ、最大船幅と略同一の寸法Wの船幅方向辺S11,S21および該船幅方向辺の船尾側および船首側にそれぞれ位置する二等辺S12,S13;S22,S23から構成される二等辺三角形で近似される略二等辺三角形状をなす。左舷側推進器2Lと複数の右舷側推進器2Rは、いずれもエンジンにより駆動される推進軸21とそれに付された推進翼22とを備え、推進翼22が無荷喫水線より下に位置する。船尾部において船尾部船底の左右両側の二等辺S12,S13の部分からそれぞれ後方に上方へと斜めに立ち上がる左右両舷側の船尾部傾斜外板14L,14Rが備えられており、これら船尾部傾斜外板から後方にそれぞれ左舷側推進器2Lの推進軸21と右舷側推進器2Rの推進軸21とが延出している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶に関するものであり、特に無荷航行時のバラスト水の使用を不要にした構造を有する貨物船等の比較的大型の排水量型船舶に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、比較的大型の排水量型船舶における推進器としてはスクリュー型のものが使用されており、スクリュー型推進器の推進効率は低速に回転させるほど高いことが知られている。このため、推進効率を高く維持すべく、一般にスクリュー型推進器の推進翼(プロペラ)としては、できるだけ直径の大きなものが使用されている。そのため、無荷航行又は軽荷航行の際には、推進翼の少なくとも一部が水面上に位置するようになり、良好な推進効率が得られない。このため、無荷航行又は軽荷航行の際には、バラスト水を搭載することで推進翼の全体を水中に位置させて、良好な推進による航行を確保するようにしている。
【0003】
ところで、近年、船舶とくに貨物船の無荷航行又は軽荷航行の際に使用されるバラスト水の船外への排出による海洋汚染の拡大が、問題となっている。
【0004】
このような海洋汚染を防止するためには、バラストタンク内のバラスト水に対して適切な処理を施した上で、船外に排出することが義務づけられるようになっている。この処理のためにはかなりの規模の設備が必要であり設備費用がかさむと共に、処理時の費用も必要となる。また、このような設備のための船内スペースが必要であることから、積み荷スペースが減少するという技術的課題が発生する。
【0005】
そこで、処理すべきバラスト水の量を低減させるために、複数の推進器を使用し、各推進器を多翼型にすることで、軽荷航行時に必要となるバラスト水量を低減するようにした船舶が、特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−253710号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかるに、特許文献1に記載の船舶は、無荷航行又は軽荷航行の際にバラスト水を不要にするまでには至っていない。
【0008】
本発明の1つの目的は、以上のような技術的課題に鑑みて、比較的大型の排水量型船舶において、無荷時にもバラスト水の使用を不要にした船舶を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、以上の如き目的を達成するものとして、
複数のスクリュー型推進器を備えた排水量型の船舶であって、
船尾部船底の形状は、最大船幅と略同一の寸法の船幅方向辺および該船幅方向辺の船尾側に位置する二等辺から構成される二等辺三角形で近似される略二等辺三角形状をなしており、
船首部船底の形状は、前記最大船幅と略同一の寸法の船幅方向辺および該船幅方向辺の船首側に位置する二等辺から構成される二等辺三角形で近似される略二等辺三角形状をなしており、
前記複数のスクリュー型推進器は、複数の左舷側推進器と複数の右舷側推進器とからなり、いずれもエンジンとそれにより駆動される推進軸と該推進軸に付された推進翼とを備えており、該推進翼が無荷喫水線より下に位置する程度の大きさであり、
前記船尾部において前記船尾部船底の左右両側の二等辺の部分からそれぞれ後方に上方へと斜めに立ち上がる左右両舷側の船尾部傾斜外板が備えられており、該左右両舷側の船尾部傾斜外板から後方にそれぞれ前記左舷側推進器の推進軸と前記右舷側推進器の推進軸とが延出していることを特徴とする船舶、
が提供される。
【0010】
本発明の一態様においては、前記船首部には、前記船舶の中心線上において、前記無荷喫水線より下に位置する部分を含み前方へと突出する前側スケグが設けられている。本発明の一態様においては、前記船尾部には、前記船舶の中心線上において、前記無荷喫水線より下に位置する部分を含み後方へと突出する後側スケグが設けられており、該後側スケグに舵が取り付けられている。本発明の一態様においては、前記左舷側推進器の推進軸および前記右舷側推進器の推進軸のうちの少なくとも1つには増速機を介して軸発電機が結合されており、前記増速機と前記軸発電機との間にクラッチが介在している。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、複数のスクリュー型推進器の推進翼が無荷喫水線より下に位置するので、無荷航行時にもバラスト水の使用は不要である。このため、バラスト水処理設備が不要であり、その分、積み荷のためのスペースを大きくとることができる。また、船尾部船底および船首部船底はいずれも略二等辺三角形状をなしており、とくに船尾部の左右両側の傾斜外面から後方にそれぞれ複数の左舷側推進器の推進軸と複数の右舷側推進器の推進軸とが延出しているので、航行安定性が良好である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明による船舶の一実施形態を示す模式的側面図である。
【図2】図1の実施形態の船舶の模式的底面図である。
【図3】図1の実施形態の船舶の船尾部を示す模式的斜視図である。
【図4】図1の実施形態の船舶の船首部を示す模式的斜視図である。
【図5】図1の実施形態の船舶の船尾部を示す模式的背面図である。
【図6】図1の実施形態の船舶の船首部を示す模式的正面図である。
【図7】図1の実施形態の船舶の軸発電部を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照しながら説明する。
【0014】
図1は本発明による船舶の一実施形態を示す模式的側面図であり、図2は本実施形態の船舶の模式的底面図であり、図3は本実施形態の船舶の船尾部を示す模式的斜視図であり、図4は本実施形態の船舶の船首部を示す模式的斜視図であり、図5は本実施形態の船舶の船尾部を示す模式的背面図であり、図6は本実施形態の船舶の船首部を示す模式的正面図である。
【0015】
本実施形態の船舶は、複数のスクリュー型推進器2を備えた排水量型の貨物船である。この船舶は、図2に示されるように、船尾部(図において左側)および船首部(図において右側)において、船底12の幅Wが最大船幅と略同一に形成されている。ここで、「略同一」とは、船底幅Wが最大船幅の70%以上であることを意味するものとする。船底幅Wは、好ましくは最大船幅の75%以上であり、更に好ましくは80%以上であり、特に好ましくは85%以上である。船底幅Wを、できるだけ最大船幅に近づけることで、積み荷スペースをより大きくとることが可能になる。
【0016】
図2に示されるように、船尾部船底の形状は、最大船幅と略同一の寸法の船幅方向辺S11および該船幅方向辺の船尾側に位置する2つの等辺S12,S13から構成される二等辺三角形で近似される略二等辺三角形状をなしている。また、船首部船底の形状は、最大船幅と略同一の寸法の船幅方向辺S21および該船幅方向辺の船首側に位置する二等辺S22,S23から構成される二等辺三角形で近似される略二等辺三角形状をなしている。
【0017】
複数の推進器2は、複数の左舷側推進器2Lと複数の右舷側推進器2Rとからなり、いずれも推進軸21およびそれに付された推進翼22を備えている。推進翼22は、船底12より上に位置し且つ無荷喫水線より下に位置する程度の大きさである。図1および図2に示されるように、複数の推進軸21は、同等の高さに位置しており、全体として雁行して配置されている。
【0018】
船尾部において、船尾部船底の左右両側の二等辺S12,S13の部分からそれぞれ後方に上方へと斜めに立ち上がる左右両舷側の船尾部傾斜外板14L,14Rが備えられている。左右両舷側の船尾部傾斜外板14L,14Rから後方にそれぞれ複数の左舷側推進器2Lの推進軸と複数の右舷側推進器2Rの推進軸とが延出している。本実施形態では、3つの左舷側推進器2Lと3つの右舷側推進器2Rとが設けられており、都合6つのスクリュー型推進器2が配置されていることになる。左舷側推進器2Lと右舷側推進器2Rとは、推進軸21が互いに逆向きにまたは同一の向きに回転する。
【0019】
船首部においては、船首部船底の左右両側の二等辺S22,S23の部分からそれぞれ前方に上方へと斜めに立ち上がる左右両舷側の船首部傾斜外板15L,15Rが備えられている。
【0020】
複数のスクリュー型推進器2の推進軸21は、略同一の深さに位置して船幅方向に適宜の間隔をもって配列されている。全ての推進軸21の配列の船幅方向の幅(配列幅)は、最大船幅の60%以上であるのが好ましく、65%以上であるのが更に好ましく、70%以上であるのが特に好ましい。推進軸21の配列幅をできるだけ大きくすることで、推進効率及び操船性をより高めることができる。
【0021】
本実施形態によれば、スクリュー型推進器2の推進翼22が無荷喫水線より下に位置するので、満載航行時はもちろん、軽荷航行時や無荷航行時にも、バラスト水の使用は不要である。このため、バラスト水処理設備が不要であり、その分、積み荷のためのスペースを大きくとることができる。また、本実施形態によれば、船尾部の船底幅Wが最大船幅と略同一に形成されているので、この点からも積み荷のためのスペースを大きくとることができる。また、本実施形態によれば、船尾部船底および船首部船底はいずれも略二等辺三角形状をなしており、とくに船尾部の左右両側の傾斜外面から後方にそれぞれ複数の左舷側推進器の推進軸と複数の右舷側推進器の推進軸とが延出しているので、航行安定性が良好である。
【0022】
各スクリュー型推進器2は、機関室に設けられた不図示の制御装置により、推進軸の回転方向および回転数を制御される。左舷側推進器2Lと右舷側推進器2Rとで推進軸回転数の組合せを互いに異なるように制御することで、船舶の進行方向の変更を行うようにすることが可能である。かくして、舵による進行方向変更動作に重畳させて、左舷側推進器2Lと右舷側推進器2Rとで推進軸21の回転方向および回転数の組合せによっても進行方向変更動作を行うことが可能になる。これは、左舷側推進器2Lと右舷側推進器2Rとが、船幅方向に大きく広がって配列されていることに基づく。
【0023】
船首部には、船舶の中心線上において、無荷喫水線より下に位置する部分を含み前方へと突出する前側スケグ16が設けられている。また、船尾部には、船舶の中心線上において、無荷喫水線より下に位置する部分を含み後方へと突出する後側スケグ17が設けられている。後側スケグ17には、舵18が取り付けられている。これらのスケグ16,17を設けることにより、操船性を更に一層高めることができる。
【0024】
図7に示されるように、本実施形態の船舶には、軸発電部が備えられている。即ち、推進器2のエンジン20の出力は推進軸21を介して推進翼22に伝達されるが、他方で推進軸21には増速機24を介して軸発電機25が結合されている。増速機24と軸発電機25との間には、クラッチ26が介在している。尚、増速機24より推進翼22の側において、推進軸21の中途にもクラッチ27が介在している。クラッチ26,27をON/OFFさせることで、船舶の航行推進力発生および発電のそれぞれを、たとえば以下のようにして適宜行わせることができる。即ち、通常航行時には、クラッチ27はON状態とされ航行推進力が発生せしめられ、クラッチ26はOFF状態とされ発電はなされない。低速航行時においては、クラッチ26,27の双方をON状態とし、エンジン出力の一部を用いて低速航行推進力を発生させるとともにエンジン出力の他の一部を用いて発電を行うことができる。停泊中においては、クラッチ27はOFF状態とされ、その際にクラッチ26をON状態とすることで、エンジン出力を用いて発電を行うことができる。
【0025】
また、以上のような航行推進力発生および発電の割合を、推進軸21ごとに変化させ、必要な航行推進力を得るのに十分な数および様式にて各推進翼22を回転させ、出力に余裕のある推進軸21に結合された発電機25により適宜発電を行うようにしてもよい。
【0026】
更に、全ての推進器の推進軸21に軸発電機25を結合してもよいが、左舷側推進器の推進軸および前記右舷側推進器の推進軸のうちの少なくとも1つに増速機24を介して軸発電機25を結合してもよい。この場合、軸発電機25を結合する推進軸は、左舷側と右舷側とで同数にすることができ、またそれらの配列は左舷側と右舷側とで対称的にすることができる。
【0027】
以上の実施形態では、推進軸21の船幅方向の配列形態は1列状であるが、本発明においては、スクリュー型推進器2の推進翼22が無荷喫水線より下に位置するという条件が満たされれば、推進軸21の船幅方向の配列形態を互いに隣接するもの同士の高さが異なるような千鳥調(ジグザク状)等としてもよい。
【0028】
また、以上の実施形態では、3つの左舷側推進器2Lと3つの右舷側推進器2Rとからなる都合6つのスクリュー型推進器2が備えられており、これにより上記本発明の効果を効果的に得ることができる。しかし、本発明においては、左舷側推進器2L及び右舷側推進器2Rの数及びスクリュー型推進器2の総数は、これに限定されない。但し、左舷側推進器2Lと右舷側推進器2Rとは同数設けられるのが好ましい。
【符号の説明】
【0029】
12 船底
14L,14R 船尾部傾斜外板
15L,15R 船首部傾斜外板
16 前側スケグ
17 後側スケグ
18 舵
2 スクリュー型推進器
2L 左舷側推進器
2R 右舷側推進器
20 エンジン
21 推進軸
22 推進翼
24 増速機
25 軸発電機
26,27 クラッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のスクリュー型推進器を備えた排水量型の船舶であって、
船尾部船底の形状は、最大船幅と略同一の寸法の船幅方向辺および該船幅方向辺の船尾側に位置する二等辺から構成される二等辺三角形で近似される略二等辺三角形状をなしており、
船首部船底の形状は、前記最大船幅と略同一の寸法の船幅方向辺および該船幅方向辺の船首側に位置する二等辺から構成される二等辺三角形で近似される略二等辺三角形状をなしており、
前記複数のスクリュー型推進器は、複数の左舷側推進器と複数の右舷側推進器とからなり、いずれもエンジンとそれにより駆動される推進軸と該推進軸に付された推進翼とを備えており、該推進翼が無荷喫水線より下に位置する程度の大きさであり、
前記船尾部において前記船尾部船底の左右両側の二等辺の部分からそれぞれ後方に上方へと斜めに立ち上がる左右両舷側の船尾部傾斜外板が備えられており、該左右両舷側の船尾部傾斜外板から後方にそれぞれ前記左舷側推進器の推進軸と前記右舷側推進器の推進軸とが延出していることを特徴とする船舶。
【請求項2】
前記船首部には、前記船舶の中心線上において、前記無荷喫水線より下に位置する部分を含み前方へと突出する前側スケグが設けられていることを特徴とする、請求項1に記載の船舶。
【請求項3】
前記船尾部には、前記船舶の中心線上において、前記無荷喫水線より下に位置する部分を含み後方へと突出する後側スケグが設けられており、該後側スケグに舵が取り付けられていることを特徴とする、請求項1または2に記載の船舶。
【請求項4】
前記左舷側推進器の推進軸および前記右舷側推進器の推進軸のうちの少なくとも1つには増速機を介して軸発電機が結合されており、前記増速機と前記軸発電機との間にクラッチが介在していることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の船舶。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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