説明

色処方を製造するための学習方法

i)適した較正スケールを用いて、着色系に含まれる成分ごとの作用マトリクスを作成する工程、ii)目標色調の光学的材料パラメータを測定する工程、ii)適した初期処方を選択する工程、iii)前記初期処方と前記目標色調との間の色差を測定する工程、v)第一の調整される色処方を、前記作用マトリクスの考慮下で計算する工程、vi)許容可能な残留色差に達するまで前記工程iv)及びv)を繰り返す工程を包含する、目標色調に合わせられる着色色調の色処方計算のための学習方法であって、その際、前記作用マトリクスを、実行中の処理において常に色調関連情報により更新する方法が、これまで公知の色調処方計算方法を、必要とされる調色工程の数の減少に関してのみならず、残留色差の最小化に関しても改善する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少ない工程で固定の色基準値に合わせられ得る色処方を製造するための学習方法に関する。
【0002】
殊に自動車産業における塗料バッチの製造の際に、色処方において規定された成分の量の秤量によって作り上げられる色調を、予め規定された目標色調に対して可能な限り僅かなずれで作り出すことは重要な課題である。処方成分は、有色性、例えば彩色顔料又は効果顔料であっても、非有色性、例えばバインダー、添加剤及び溶剤と解されるものであってもよい。バッチの調色(Toenung)の際の目的は、処理の経済性の意味において、可能な限り少ない調色工程で、該バッチの色調を目標色調に合わせることである。この調整は、処方に含まれる有色成分の量のごく僅かな変化並びに場合により更なる有色の調色添加剤の低い濃度での添加によって行われる。調整工程は、バッチの色調と目標色調との間で許容可能な残留色差に達した時に初めて完了する。
【0003】
上記の調色プロセスは、以前は主として視感により実施されていたが、今日では計器による制御が標準的に使用される。これには、なかでも分光測光器の使用が含まれ、該測光器を用いて種々の照明角度及び観察角度下で電磁スペクトルの可視領域中の反射スペクトルが記録される。そのような反射スペクトルと、光源及びそのつど3つの標準スペクトル分布関数の1つとを組み合わせて、色軌跡、すなわち色空間内の色調の位置を示す色座標系がもたらされる。その際、標準規格として、いわゆるCIELab座標L*、a*及びb*の色空間が構築される。次いで色差dL*、da*及びdb*が、それぞれ測定された2つの色調の座標L*、a*及びb*に関しての2つの色位置の差から出される。
【0004】
ドイツ国公開公報DE19720887A1から、着色剤系の基礎を成している各々の顔料のための較正スケールの作成に基づく、効果付与表面コーティングの領域中での色処方計算方法が公知である。引き続き実験により、関連する反射率を測定することが記載される。この方法で、各々の彩色顔料及び各々の効果顔料について散乱係数、吸収係数又は位相関数と言った相応する光学的材料パラメータが得られ、それらはコンピュータシミュレーションによる所定の効果色調のための処方の計算測定に組み込まれる。従って光学的材料パラメータは、それぞれのバインダー系で分散して存在するような顔料の特性を表す。それらは波長に依存しており、且つ所望の各波長のために突きとめられなければならない。計算される処方の品質は、殊に混合塗料系の全成分の標準化及び施与パラメータの定常性に強く依存する。この背景から、光学的材料パラメータは、それらの測定の煩雑性及びコストに基づき、バインダー系におけるそれぞれの顔料について一度だけ測定されることが認められる。
【0005】
塗料又はインキの色調を合わせるための更なる一計算方法は、ヨーロッパ公開公報EP0828144A2から公知である。この方法においては、まず目標色調のために変角度分光測色計を用いて反射率が測定され、且つ該反射率から、関連する三刺激値及び/又はそれらから導き出されるベクトルがCIELab色空間内で計算される。引き続き、処方データバンクから反射スペクトル又はそれから導き出される色技術上の次元値を手がかりにして、それらの反射特性において目標色調の反射特性に最も類似する処方もしくは色調が同定される。同様に、純粋に計算して作成された作用マトリクス(Wirkungsmatrix)を用いて、目標色調とデータバンク色調との間の残留色調差が、関数最小化のための演算アルゴリズムによってL2標準の意味における副次的条件を考慮して最小化され、且つ修正された処方が作成される。その際、該作用マトリクスは色調調整の品質のための決定要因である。DE19720887A1の方法について大まかに上で既に述べたように、それは処方の基礎を成している顔料の反射パラメータの、実験的に突きとめられる較正スケールによって作成され、且つ同様に処方データバンク中に保存される。それゆえ作用マトリクスは、反射空間又は色空間内での個々の処方の彩色作用を角度に依存して、顔料濃度を変化させる場合に記述する。
【0006】
ちょうど今記載した方法に基づき、目標処方を突きとめるための演算プログラムを、オリジナルに合わせられた色調のために更に改善し、且つ改良するために広範な試験が実施されていた。オリジナルに向けられなければならない色処方の製造法のこの観点を表しているのは、刊行物WO2006/052556A2及びWO2006/052561A2の中で記載されている、個々の工程をRGB色空間内での色再現によってモニタ上で利用者のために追認可能にすることに基づく、調整プロセスの光学的な実施である。このように昔から確立されている視感による調整と、個々の顔料及び/又は処方の成分を変化させることによる影響のシミュレーションを可能にするコンピュータ援用及び測定器援用による調整とが結び付けられる。
【0007】
しかしながら、これまで公知の全ての方法の場合に欠点なのは、それらが原料及び供給材料における変動又は種々の製造法及び施与法による色調差を検出することが可能ではない点である。本発明により、そのような変動は、処方が、前もって測定された較正スケールに相当するにも関わらず、目標色調に向けて作り出される色調の新たな調整が必要とされるぐらいの大きさであってもよい。工業的な大量生産においてこれは、実際に完成した製品の必要な修正又は更なる調整による時間的な遅延のいずれかによって著しいコストにつながり得る。
【0008】
それゆえ本発明の課題は、原料及び供給材料の変動並びに処理変動の影響も考慮し、且つそれにより目標色調に対する残留色差を、必要な調色工程の数を同時に減少させながら最小にする色処方計算方法を提供することである。
【0009】
意想外にも、以下の工程
i)適した較正スケール(Eichstaffeln)を用いて、着色系(Faerbesystem)に含まれる成分ごとの作用マトリクスを作成する工程、
ii)目標色調の光学的材料パラメータを測定する工程、
iii)適した初期処方を選択する工程、
iv)前記初期処方と前記目標色調との間の色差を測定する工程、
v)前記作用マトリクスの考慮下での第一の調整される色処方を計算する工程、
vi)許容可能な残留色差に達するまで前記工程iv)及びv)を繰り返す工程
を包含する、目標色調に調整される着色色調の色処方計算方法であって、その際、前記作用マトリクスを、実行中の処理において常に色調関連情報により更新する方法が、これまで公知の方法の改善を、必要とされる調色工程の数の減少によってみならず、残留色差の最小化によっても改善することが示される。
【0010】
以下で、どのように着色系における第一の作成された作用マトリクスが個別的に突きとめられるかが詳細に説明される。作用マトリクスを作成するための前提は、着色系の全成分の光学的材料パラメータが知られていることである。
【0011】
光学的材料パラメータは、L2標準の意味における放射伝達方程式を、各々の顔料のために実験的に測定された反射率又は放射輝度率に調整することによって突きとめられる。
【0012】
単色顔料の場合においては、公知の放射伝達方程式のSchuster/Kubelka/Munkの近似で完全に十分である。この2つのフラックス近似の範囲内で、例えば不透明な塗料層の反射率と、この層内に含まれる顔料の散乱特性及び吸収特性との簡単な関係が導き出され得る。顔料特有の及び波長に依存した散乱係数及び吸収係数の材料パラメータは、較正スケールを介して当業者に公知の方法で実験的に測定され得る。
【0013】
効果色調の記述のために、公知の放射伝達方程式のSchuster−/Kubelka−/−Munkの近似の代わりに、当業者に公知の他の放射伝達方程式が使用されなければならない。散乱係数及び吸収係数に加えて、付加的に位相関数が突きとめられなければならない。反射面積の測定技術的な検出のために、対称又は非対称の測定幾何学的配置を有する固定式の又は携帯式の変角度分光測色計が使用され得る。覆われるべき観察角の領域は、そのつど使用される放射伝達方程式の近似に従う。照明モジュールを備えた装置のみならず観察モジュールを備えた装置も使用され得る。
【0014】
色の作用マトリクスを突きとめるために、所定の処方における処方成分(N個の顔料)の量がその設定濃度付近で僅かに変化され、且つ関連する色の作用が、反射空間内又はCIELab空間内で角度に依存して(Mの角度)光学的材料パラメータによって計算される。言い換えれば、その材料パラメータが公知である処方成分の濃度変化の結果は、色空間内又は反射空間内での結果として計算され得る。
【0015】
そして作用マトリクスの情報内容は、即座に又は後になった任意の各時点で、参照処方を、該参照処方から逸れる目標点に調色することに利用され得る。この目標点は、使用される近似の適用範囲を超える程度に参照点から離れているべきではない。
【0016】
基本的に、当業者には"色調関連情報"との用語は、既に上記説明の通り、無彩色の色調についてはdL*、da*及びdb*及び彩色の色調についてはdL*、dC*及びdH*の色調変化と理解される。無彩色の色調についてはdL*、da*及びdb*及び彩色の色調についてはdL*、dC*及びdH*で表現されるそのような色調変化は、バッチの製造処理において多様な形で発生し得る。その際、いくつかの本質的な影響因子は、
−色調、例えば粒度分布及び表面性質及び顔料の層厚に影響を及ぼす、殊にペースト製造のために使用される顔料の原料変動、
−例えば顔料ペーストの中間生成物製造のための原料の秤量の際の変動及び、その際に生じる処理変動、
−バッチ製造のための中間生成物を秤量する際の変動及び、その際に生じる処理変動及び
−バッチの塗装に際しての施与パラメータ、例えばホーン空気、アトマイザー空気、流出速度、ベルト速度、高圧及びベル回転数及び他の環境パラメータ、例えば温度、湿度、下降流速度又はUV線
である。
【0017】
上記パラメータの変動及びバッチの色挙動に対するそれらの影響の初めからの記述は、多様な影響に基づき、且つ相関性の複雑性に基づき実際関連し得ない。そのうえ、しばしば十分には正確でないこれらのデータの検出は、そのような純粋に理論的なアプローチを妨げる。この理由から、実際には現象論的アプローチが、バッチ製造処理において無彩色の色調についてはdL*、da*及びdb*及び彩色の色調についてはdL*、dC*及びdH*の色調変化の測定のために使用される。そのため実際に有利には、色調変化は、使用される中間生成物の濃度の関数として記述することができる。次いで色調変化は、較差:dL*/dci、da*/dc、db*/dci及びdL*/dci、dC*/dci、dH*/dciとして表され得る。同じように、色調変化は上記処理パラメータに依存して検出され得る。
【0018】
"色調関連情報"との用語はこれ以降、全ての情報及び測定値と理解され、それらは継続する処理においてそのつどの量変化又はバッチ変化によって引き起こされる色調変化を包含する。従って色調変化の依存性の全体は、そこから作成されるべき作用マトリクスの較差の形でこの概念にまとめられる。
【0019】
これらの情報はまた、この発明の意味において、存在する処理に加えて収集され得る。しかし、それらは有利に既に存在する試験処理から取得され得る。例えばそのような情報は、継続的なルーチング品質制御において得られる。特に有利に色関連情報は、実験室試験、品質検査、導入検査又は運転中サンプルから得られる。
【0020】
"着色系"との用語はこれ以降、少なくとも2つの異なる顔料及び/又はバインダーの構成と理解される。有利に着色系は、基本色調又は顔料ペーストと呼称され得る多数の異なる彩色顔料又は効果顔料を含有する組成を包含する。
【0021】
顔料として、本発明により吸収顔料のみならず効果顔料又はいわゆる擬似顔料が使用され得る。顔料成分の構成の数及び選択は、その際、いかなる制限もなされていない。それらはそのつどの要求に任意に調整され得る。例えば、そのような着色系の基礎を成しているのは標準化された混合塗料系の顔料成分であってよい。
【0022】
効果顔料は、薄板状構造を示し、且つ表面被覆に特別な装飾効果を付与しない全ての顔料と理解される。効果顔料は、例えば自動車塗装及び工業用塗装又はインキ製造及び着色剤製造において通常使用可能な効果付与顔料である。このような顔料のための例は、純粋な金属顔料、例えばアルミニウム顔料、鉄顔料又は銅顔料、干渉顔料、例えば二酸化チタン被覆マイカ、酸化鉄被覆マイカ、混合酸化物被覆マイカ、金属酸化物被覆アルミニウム又は液晶顔料である。
【0023】
色付与吸収顔料は、例えば慣例の、塗料化学において使用可能な有機又は無機の吸収顔料である。有機吸収顔料のための例は、アゾ顔料、フタロシアニン顔料、キナクリドン顔料、及びピロロピロール顔料である。無機吸収顔料のための例は、酸化鉄顔料又は酸化鉛顔料、二酸化チタン及びカーボンブラックである。
【0024】
いわゆる擬似顔料のための例は、効果顔料に関して位相に影響を及ぼすが、しかし他の点では彩色作用を及ぼさない物質である。有利に、それらは公知の充填剤の群から選択される。
【0025】
最新の色調関連情報による作用マトリクスの本発明による更新によって、これまで公知の方法と比べて、原料及び供給材料における変動並びに製造処理及び施与処理による変動を検出し、且つ相応して考慮することを可能にする力学がもたらされる。この意味において、本発明による方法は学習的と呼称され得る。そのうえ、このように本方法の精度を強く高めることが初めて可能である。なぜなら、本方法の精度は作用マトリクスの品質に決定的に依存するからである。
【0026】
本発明の更なる一態様において、該作用マトリクスは、実験室試験、品質検査、導入検査(Eingangspruefungen)及び運転中サンプル(Betriebsproben)から得られる色調関連情報により拡張され得る。本方法のこの態様において、基本色調もしくは着色ペーストの仕上げ及び作成に際して最初に測定された作用マトリクスは後になって更なるパラメータによって拡張される。有利に作用マトリクスのこの拡張は、継続処理において、種々の量、施与法又はバッチに依存した色調変化の測定によって獲得される色調関連情報によって行われる。これらの情報から、最終的に作用マトリクスに取り入れられる、光学的材料パラメータにおける変化が測定され得る。
【0027】
本発明による方法は、例えば塗料及び印刷インキ又はポリマー分散液の調色のために使用され得る。
【0028】
本発明は、以下で図面を手がかりにして詳細に説明されるが、それに本発明は制限されるべきではない。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】古典的、静的な色合い調整と比べた本発明による学習較正(右側)の概略を示す図
【0030】
同じ参照混合物から出発して段階的な較正によって修正された色調が得られ、それは関連する色調標準に関して許容可能な残留色差に到達する。図面から読み取られるように、目標点に達するために、古典的な方法によれば新規の学習方法よりずっと多い調色工程が必要とされる。動的に更新される学習方法の特徴は、既に最初の調色工程において作用マトリクスの高い品質に基づき目標点への非常に大きな近似に成功するという事実に見られる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
目標色調に調整される着色色調の色処方計算方法であって、以下の工程
i)適した較正スケールを用いて、着色系に含まれる成分ごとの作用マトリクスを作成する工程、
ii)目標色調の光学的材料パラメータを測定する工程、
iii)適した初期処方を選択する工程、
iv)前記初期処方と前記目標色調との間の色差を測定する工程、
v)前記作用マトリクスの考慮下での第一の調整される色処方を計算する工程、
vi)許容可能な残留色差に達するまで前記工程iv)及びv)を繰り返す工程
を包含する色処方計算方法において、前記作用マトリクスを、実行中の処理において常に色調関連情報により更新することを特徴とする、目標色調に調整される着色色調の色処方計算方法。
【請求項2】
前記色調関連情報を、実験室試験、品質検査、導入検査及び運転中サンプルから得ることを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記作用マトリクスを、実験室試験、品質検査、導入検査及び運転中サンプルからの色調関連情報により拡張することを特徴とする、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
塗料及び印刷インキ又はポリマー分散液を調色するための、請求項1から3までのいずれか1項記載の方法の使用。

【図1】
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【公表番号】特表2010−536046(P2010−536046A)
【公表日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−520485(P2010−520485)
【出願日】平成20年8月13日(2008.8.13)
【国際出願番号】PCT/EP2008/006643
【国際公開番号】WO2009/021720
【国際公開日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【出願人】(390008981)ビーエーエスエフ コーティングス ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (155)
【氏名又は名称原語表記】BASF Coatings AG
【住所又は居所原語表記】Glasuritstrasse 1, D−48165 Muenster,Germany
【Fターム(参考)】