説明

色変換フィルタの形成方法

【課題】色変換層形成時の下地となるカラーフィルタ層および側壁となるバンクの濡れ性を制御する工程を簡便にし、バンクの高さの増大を伴うことなしに、低コストで高精細なパターンを有する色変換層を形成するための方法の提供。
【解決手段】透明基板上に複数種のカラーフィルタ層を形成する工程と;異種のカラーフィルタ層の境界部分にバンクを形成する工程と;複数種のカラーフィルタ層の少なくとも1つの上面にUV光を照射して、該上面に凹凸を形成する工程と;凹凸を形成したカラーフィルタ層の上に、インクジェット法を用いて色変換層を形成する工程とを含むことを特徴とする色変換フィルタの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、色変換フィルタの形成方法に関する。特に、高精度なパターンを有する色変換層を含む色変換フィルタの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL素子を用いて多色発光を実現する方法の1つとして、色変換方式がある。色変換方式は、有機EL素子の発光を吸収して波長分布変換を行って異なる波長分布を有する光を放射する色変換膜を、有機EL素子の前面に配設して多色を実現する方法である。そのような色変換層として、高分子樹脂中に蛍光色素を分散させた構成が提案されている(特許文献1参照)。色変換方式は、用いる有機EL素子が1種(単色)であるために製造が容易であり、大画面ディスプレイへの展開が積極的に検討されている。
【0003】
さらに、色変換方式は、特定の波長域の光を透過させるカラーフィルターをさらに組み合わせることによって、良好な色再現性が得られるなどの有利な特徴を有する。しかしながら、提案されている色変換層によって十分な効率を得るためには、色変換層の膜厚を10μm程度とする必要がある。加えて、色変換層の上面に有機EL素子を形成するためには、色変換層上面の凹凸を平坦にする技術、および色変換層から生じる水分を遮断する技術などの特殊な技術を必要とする。これらの点は、ディスプレイのコストアップをもたらす。
【0004】
また、樹脂分散型色変換層の問題点を解決する方策として、蒸着法、スパッタ法などのドライプロセスを用いて色変換層を形成する方法が提案されている(特許文献2および3参照)。この方法においては、水分発生の問題がなく、高効率であり、かつ膜厚1μm以下の色変換層を形成できるものの、高精細(たとえば150ppi以上)なパターニングが困難であるという問題点を有する。
【0005】
上記の問題点に対処するために、構成材料を含むインクを調製し、インクジェット法を用いて、パターン化された色変換層を形成する方法が提案されている(特許文献4〜7参照)。インクジェット法により高精細のパターンを形成する際には、微量の液滴を精密に吐出させる必要性があり、インクの増粘の原因となる固形分含有量をあまり大きくすることはできない。したがって、必要な膜厚を得るための液滴の体積が必然的に大きくなる。液滴の体積増大に対する解決策として、基板にバンクを形成する方法が提案されている(特許文献8参照)。
【0006】
高精細度のパターンを形成するためには、バンクの形状だけではなく、バンク表面の濡れ性を制御することが重要である。具体的には、バンク表面がインクに対して撥液性を有し、かつ下地となる面がインクに対して親液性を有する状態に制御することが必要である。表面の濡れ性を制御する方法としては、プラズマ処理などの表面処理を行う方法が知られている(特許文献8参照)。また、深さ方向に組成比が変化するレジスト材料膜をドライエッチングを用いてパターニングを行うバンクの形成方法が提案されている(特許文献9参照)。
【0007】
【特許文献1】特開平8−286033号公報
【特許文献2】特開2002−75643号公報
【特許文献3】特開2003−217859号公報
【特許文献4】特開2004−253179号公報
【特許文献5】特開2006−73450号公報
【特許文献6】特開2006−32010号公報
【特許文献7】特開2003−229261号公報
【特許文献8】国際公開第99/48339号パンフレット
【特許文献9】特開2000−162882号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
インクジェット法を用いて色変換層を形成することの利点は、インクの利用効率が非常に高く、それによって色変換層の形成コストを抑制することができる点にある。しかしながら、高精細なパターンを得るためには、濡れ性の制御が必要である。たとえば、特許文献8に記載の方法では、(a)異なる濡れ性を有する2種の材料を用いてバンクを形成する複雑な工程、(b)複数のガスを使用し、かつそれらのガスの混合比を制御したプラズマ処理(フッ素プラズマ/酸素プラズマ)を行う工程などが開示されている。
【0009】
また、深さ方向に組成比が変化するレジスト材料膜をドライエッチングを用いてパターニングを行う特許文献9に記載の方法においても、濡れ性を制御するためにフッ素プラズマ処理を実施している。それゆえに、この方法においても工程の複雑化およびコストの増大は避けられない。
【0010】
また、バンクの高さを大きくすることによって、高精細度のパターンを形成することが可能となる。しかしながら、バンクの高さの増大は、色変換フィルタと独立して制御可能な複数の発光部を有する発光素子基板との貼り合わせの際のギャップ長を長くし、クロストークの発生により色純度の低下を招くために好ましくない。
【0011】
したがって、本発明が解決しようとする課題は、色変換層形成時の下地となるカラーフィルタ層および側壁となるバンクの濡れ性を制御する工程を簡便にし、バンクの高さの増大を伴うことなしに、低コストで高精細なパターンを有する色変換層を形成するための方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の色変換フィルタの製造方法は:(a)透明基板上に複数種のカラーフィルタ層を形成する工程と;(b)異種のカラーフィルタ層の境界部分に、バンクを形成する工程と;(c)前記複数種のカラーフィルタ層の少なくとも1種の上面にUV光を照射して、該上面に凹凸を形成する工程と;(d)前記凹凸を形成したカラーフィルタ層の上に、インクジェット法を用いて、特定の波長の光を吸収し、吸収した波長と異なる波長を含む光を出力する色変換層を形成する工程とを含むことを特徴とする。工程(c)において用いるUV光は、185〜350nmの範囲内の波長および100W/m以上の照射強度を有してもよい。また、工程(c)を、100〜150℃の温度において実施することができる。さらに、工程(c)において凹凸を形成されるカラーフィルタ層が、着色層とUV吸収層との積層構造を有し、該着色層は、該UV吸収層と該透明基板との間に位置し、凹凸は該UV吸収層の上面に形成されてもよい。
【発明の効果】
【0013】
以上のような構成をとることによって、バンクの高さを大きくすることおよび混色の発生なしに、インクジェット法による色変換層の形成を行うことができる。したがって、本発明の製造方法は、高精細度のパターンを有する色変換フィルタを低コストで提供することが可能とする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
図1に本発明の製造方法の第1の態様で形成された色変換フィルタを示す。図1の色変換フィルタは、透明基板10の上に、ブラックマトリクス20、赤色(R)、緑色(G)および青色(B)の3種のカラーフィルタ層30(R,G,B)、異種のカラーフィルタ層30の境界に設けられたバンク40、および赤色および緑色カラーフィルタ層30(R,G)の上に設けられた赤色および緑色の2種の色変換層50(R,G)を有し、赤色および緑色カラーフィルタ層30(R,G)の上部表面には、凹凸35(R,G)が形成されている。
【0015】
最初に、任意選択的工程であるが、透明基板10上にブラックマトリクス20を形成する。ブラックマトリクス20は、塗布法(スピンコートなど)を用いて透明基板10全面に形成した後に、フォトリソグラフ法などを用いてパターニングしてもよいし、あるいはスクリーン印刷法などを用いてパターン状に形成してもよい。ブラックマトリクス20は、第1の方向に延びる複数のストライプ形状部分から構成されても良い。あるいはまた、ブラックマトリクス20は、第1の方向および第2の方向(第1の方向と直交する方向)に延びるストライプ形状部分から構成される、複数の開口部を有する格子状の形状を有する一体の層であってもよい。ブラックマトリクス20の開口部がサブピクセルを形成する位置となる。
【0016】
透明基板10は、光透過性に富み、かつブラックマトリクス20、カラーフィルタ層30(R,G,B)、ならびに後述する色変換層40および有機EL素子の形成に用いられる条件(溶媒、温度等)に耐える材料を用いて形成される。さらに寸法安定性に優れた材料を用いることが好ましい。また、多色発光ディスプレイの性能低下を引き起こさない材料が好ましい。透明基板10の材料の例は、ガラス、各種プラスチック、各種フィルムなどを含む。
【0017】
ブラックマトリクス20は、可視光を遮断して、コントラストを向上させるための層である。ブラックマトリクス20は、通常のフラットパネルディスプレイ用の材料を用いて形成することができる。ブラックマトリクスの20の膜厚は、前述の機能を満たす限りにおいて、任意に設定することができる。
【0018】
次に、工程(a)において、それぞれ異なる波長域の光を透過する、RGBの3種のカラーフィルタ層30(R,G,B)を独立して形成する。カラーフィルタ層30は、可視光の特定波長域を透過させ、透過光を所望の色相とし、および透過光の色純度を向上させるための層である。カラーフィルタ層30は、フラットパネルディスプレイ用の市販の材料を用いて形成することができる。近年では、フォトレジスト中に顔料を分散させた、顔料分散型材料がよく用いられている。図1に示したように3種のカラーフィルタ層を用いる場合、400nm〜550nmの波長域の光を透過する青色カラーフィルタ層30B、500nm〜600nmの波長域の光を透過する緑色カラーフィルタ層30G、および600nm以上の波長域の光を透過する赤色カラーフィルタ層30Rを用いることが望ましい。3種のカラーフィルタ層30(R,G,B)のそれぞれは、第1の方向に延びる複数のストライプ形状部分から構成される。
【0019】
上述のカラーフィルタ層30のそれぞれは、塗布法(スピンコートなど)を用いて透明基板10全面に形成した後に、フォトリソグラフ法などを用いてパターニングを実施することによって形成してもよいし、あるいはスクリーン印刷法などを用いてパターン状に形成してもよい。
【0020】
次に、工程(b)において、異種のカラーフィルタ層30の境界となる部分にバンク40を形成する。本発明において、バンク40は、第1の方向に延びる複数のストライプ形状部分から構成される。インクジェット法により高精細度のパターンを形成する場合には、吐出体積を精密に制御しながら微量液滴を吐出する必要があることから、インクの増粘の原因となるインクの固形分含有量をあまり大きくすることができない。このことによって、必要な膜厚を得るために必要なインクの体積が必然的に大きくなる。バンク40は、インクが所望の領域以外に拡散するのを防止する点において有効である。
【0021】
バンク40は、後述する色変換層50を形成するためのインクに対して撥液性を有することが望ましい。バンク40は、光硬化型または光熱硬化型樹脂(たとえば、硬化性部位を含むアクリル樹脂など)を塗布し、フォトリソグラフィーによりパターニングを行うことによって形成することができる。あるいは、バンク40は、スクリーン印刷法などを用いて、所望の部位に熱可塑性樹脂(たとえば、アクリル樹脂など)または熱硬化性樹脂を付着させることによって形成することができる。
【0022】
あるいはまた、後述する工程(c)におけるUV光照射による劣化を防止することを目的として、SiO、AlO、TiO、TaO、ZnOなどの無機酸化物、SiNなどの無機窒化物、あるいはSiOなどの無機窒化酸化物を用いてバンク40を形成することができる。これら無機材料からなるバンク40は、蒸着法、スパッタ法などの当該技術において知られている任意の方法を用いて形成することができる。カラーフィルタ層30の上面全面に無機材料膜を堆積させた後に、たとえばフォトリソグラフィーなどによるパターニングを行って所望の形状のバンク40を形成してもよく、無機材料膜を堆積させる際に所望のパターンを与える開口部を有するマスクを用いて所望の形状のバンク40を形成してもよい。
【0023】
次に、工程(c)において、複数のカラーフィルタ層30の少なくとも1種にUV光を照射して、その上面に凹凸35を形成する。凹凸35が形成されるカラーフィルタ層30は、その上に色変換層50が形成される層である。図1においては、赤色カラーフィルタ層30Rおよび緑色カラーフィルタ層30Gの上に凹凸35(R,G)を形成した例を示した。青色カラーフィルタ層30Bの上に青色変換層(不図示)を設ける場合には、青色カラーフィルタ層30Bの上面にも凹凸が形成される。
【0024】
照射するUV光の波長は185〜350nmが好ましく、UV処理装置の光源としてDUV(メタルハイドライドランプ)(波長295〜310nm)、低圧水銀ランプ(185〜254nm)、金属蒸気封入キセノンランプ(ウシオ電機株式会社、Deep UVランプ、230〜320nm)、エキシマランプ(KrCl:222nm、XeCl:308nm)などを用いて、本工程のUV光照射を実施することが好ましい。より短い波長のUV光を選択することによって、UV光照射の時間を短縮することが可能となる。形成される凹凸のサイズは、用いるUV光の波長が短いほど小さくなる。たとえば、波長254nmのUV光を使用することによって、カラーフィルタ層30の表面にクラックを発生させ、約50nmの凹凸を形成することができる。本発明におけるUV光照射による凹凸35の形成は、ラビング処理などの機械的方法による凹凸形成に比較して、バンク40などの微細なパターンを破壊することなく実施できる点において有利である。また、エッチングなどの化学的方法による凹凸形成に比較しても、本発明の方法は工程数を少なくすることができ、製造コストの低減において有利である。
【0025】
UV光照射の際に、所望される部分に開口部を有するマスクを用いてもよい。たとえば、図1に示す色変換フィルタの製造の際には、赤色カラーフィルタ層30Rおよび緑色カラーフィルタ層30Gに相当する位置に開口部を有するマスクを用いて、青色カラーフィルタ層30Bおよびバンク40へのUV光を遮断してもよい。また、所定のカラーフィルタ層30全体にUV光を照射した場合、形成される凹凸に不均一が生じる可能性がある。そこで、所定のカラーフィルタ層30に相当する位置に微細パターン状の複数の開口部を有するマスクを用いて、凹凸を均一に形成することができる。
【0026】
照射するUV光は、照射するカラーフィルタ層30表面において100W/m以上の照射強度を有することが好ましい。さらに好ましくは、254nmの波長で150〜200W/mの照射照度を有することが望ましい。UV光照射を常温(10〜30℃)にて実施する場合、50〜60分間にわたってUV光を照射することによって、適切な凹凸を形成することができる。
【0027】
あるいはまた、UV光照射の際に、カラーフィルタ層30を形成した積層体を100〜150℃に加熱してもよい。積層体を前述の温度範囲に加熱することによって、5分以下、望ましくは15〜20分間にわたるUV光照射によって、適切な凹凸を形成することができる。
【0028】
次に、工程(d)において、インクジェット法を用いて、工程(c)において凹凸35を形成したカラーフィルタ層30の上に色変換層50を形成する。図1においては、赤色変換層50Rおよび緑色変換層50Gを形成する例を示した。必要に応じて、赤色変換層50Rのみを設けてもよい。この場合、緑色カラーフィルタ層30Gの上表面に凹凸35Gを設ける必要はない。あるいはまた、赤色変換層50Rおよび緑色変換層50Gに加えて、青色変換層(不図示)を設けてもよい。この場合、青色カラーフィルタ層30Bの上表面にも凹凸が設けられる。
【0029】
色変換層40を形成するためのインクは、少なくとも1種の色変換色素と、溶媒とを含む。本発明において用いることができる色変換色素は、Alq(トリス(8−キノリノラト)アルミニウム錯体)などのアルミキレート系色素;3−(2−ベンゾチアゾリル)−7−ジエチルアミノクマリン(クマリン6)、3−(2−ベンゾイミダゾリル)−7−ジエチルアミノクマリン(クマリン7)、クマリン135などのクマリン系色素;ソルベントイエロー43、ソルベントイエロー44のようなナフタルイミド系色素のような、低分子系有機蛍光色素を含む。あるいはまた、ポリフェニレン、ポリアリーレンおよびポリフルオレンに代表される高分子蛍光材料を、色変換色素として用いてもよい。
【0030】
必要に応じて、色変換色素として、2種以上の色素の混合物を用いてもよい。色素混合物の使用は、青色光から赤色光への変換時などのように波長シフト幅が広い場合に有効な手段である。色素混合物は、前述の色素同士の混合物であってもよい。あるいはまた、前述の色素と、下記の色素との混合物であってもよい。
(1) ジエチルキナクリドン(DEQ)などのキナクリドン誘導体;
(2) 4−ジシアノメチレン−2−メチル−6−(p−ジメチルアミノスチリル)−4H−ピラン(DCM−1)、DCM−2、およびDCJTBなどのシアニン色素;
(3) 4,4−ジフルオロ−1,3,5,7−テトラフェニル−4−ボラ−3a,4a−ジアザ−s−インダセン;
(4) ルモゲンFレッド;
(5) ナイルレッド;
(6) ローダミンB、ローダミン6Gなどのキサンテン系色素;および
(7) ピリジン1などのピリジン系色素。
【0031】
本発明における色変換層形成のためのインク用溶媒は、上記の色変換色素を溶解することができる任意の溶媒を用いることができる。たとえば、トルエンなどの非極性有機溶媒、あるいはクロロホルム、アルコール系、ケトン系などの極性有機溶媒を、インク用溶媒として用いることができる。インク用溶媒は、単一成分で構成されてもよい。あるいはまた、粘度、蒸気圧、溶解性、流動性および/または濡れ性の調整を目的として、複数の溶媒を混合して、インク用溶媒を調製してよい。
【0032】
本発明において、少なくとも1種の色変換色素を、溶媒中に混合することによってインクを作製することができる。水分および酸素の影響を排除するため、不活性ガス(たとえば、窒素またはアルゴンなどの希ガス)雰囲気下でインクを作製することが好ましい。インクを作製する前に、溶媒中の水分および酸素を除去するために、脱気処理、水分吸収剤による処理、酸素吸収剤による処理、蒸留などの当該技術において知られている任意の手段を用いて溶媒を前処理してもよい。
【0033】
作製したインクは、所望される解像度での塗布が可能であることを条件として、当該技術において知られている任意のインクジェット装置および方法を用いて、バンク40で異種のカラーフィルタ層30と分離され、上表面に凹凸35が設けられたカラーフィルタ層30上に付着される。インクジェット装置および方法は、サーマルインクジェット方式であっても、ピエゾインクジェット方式であってもよい。凹凸35の構造に起因するアンカー効果によって、凹凸35が設けられたカラーフィルタ層30の上面のインクに対する付着力が向上すると同時に、インクの表面張力が低下する。その結果として、インクに対する凹凸35が設けられたカラーフィルタ層30の上面の濡れ性が向上し、インクがより容易に広がるようになる。インクジェット方法を用いて付着されたインクは、バンク40によって必要部位以外に広がることを防止されると同時に、凹凸35の効果によってカラーフィルタ層30全体に均一に広がる。
【0034】
付着の後に、溶媒を蒸発させて除去し、少なくとも1種の色変換色素からなる色変換層50を形成する。色変換層50は、2つのバンク40に挟まれた領域で、第1の方向に延びるストライプ形状を有する。溶媒の除去は、前述の不活性ガス雰囲気下または真空中で、溶媒が蒸発する温度まで加熱することによって実施することができる。この際に、インク中の色変換色素の劣化または熱分解が発生しないように加熱温度を設定することが望ましい。
【0035】
最後に、任意選択的に、ブラックマトリクス20、カラーフィルタ層30、バンク40および色変換層50を覆うように、バリア層(不図示)を形成してもよい。バリア層は、水および/または酸素の介在によって劣化する材料を用いて色変換層50を形成した場合に、色変換層50の特性を維持するという点において有効である。
【0036】
バリア層は、電気絶縁性を有し、ガスおよび有機溶剤に対するバリア性を有し、かつ可視域における透明性に富む材料(400〜700nmの範囲で透過率50%以上)を使用して形成することができる。用いることができる材料は、たとえば、SiO、AlO、TiO、TaO、ZnOなどの無機酸化物、SiNなどの無機窒化物、およびSiNなどの無機酸化窒化物を含む。バリア層は、前述の材料の単一の層であってもよく、複数の層の積層体であってもよい。
【0037】
バリア層は、スパッタ法、CVD法、真空蒸着法などの当該技術において知られている任意の手法により形成することができる。バリア層形成の際の色変換層50へのダメージを回避するという点においては、100℃以下の低温で実施することができ、かつ成膜に用いる粒子のエネルギーが小さいCVD法を用いて、バリア層を形成することが望ましい。
【0038】
以上の説明においては、図1を参照して、3種のカラーフィルタ層30を用いた例を示した。しかしながら、異種のカラーフィルタ層の境界部分にバンクを形成すること、UV光照射によって、その上に色変換層を形成するカラーフィルタ層の上表面に凹凸を形成することを条件として、本発明の製造方法が、2種または4種以上のカラーフィルタ層を用いた色変換フィルタの製造に適用できることは明らかであろう。
【0039】
図2に本発明の製造方法の第2の態様で形成された色変換フィルタを示す。第2の態様においては、工程(c)において表面に凹凸を形成されるカラーフィルタ層30が、着色層31とUV吸収層32との積層構造を有し、着色層31が透明基板10とUV吸収層32との間に位置し、凹凸37はUV吸収層32の上面に形成される。図2においては、赤色カラーフィルタ層30Rおよび緑色カラーフィルタ層30Gが、着色層31とUV吸収層32との積層構造である例を示した。
【0040】
第2の態様において、着色層31は、第1の態様のカラーフィルタ層30と同様に、顔料分散型材料を含むフラットパネルディスプレイ用の市販の材料を用いて形成することができる。
【0041】
UV吸収層32は、UV吸収剤とマトリクス樹脂とを含む。用いることができるUV吸収剤は、ベンゾフェノンを含む。また、用いることができるマトリクス樹脂は、光硬化性樹脂または光熱併用硬化性樹脂の硬化物を含む。用いることができる光硬化性樹脂または光熱併用硬化性樹脂は、(1)アクロイル基やメタクロイル基を複数有するアクリル系多官能モノマーおよびオリゴマーと、光または熱重合開始剤とからなる組成物、(2)ボリビニル桂皮酸エステルと増感剤とからなる組成物、(3)鎖状または環状オレフィンとビスアジドとからなる組成物、および(4)エポキシ基を有するモノマーと酸発生剤とからなる組成物などを含む。
【0042】
第2の態様において、工程(a)は、着色層31およびUV吸収層32の積層体からなるカラーフィルタ層30について、基板全面に対する着色層用材料の塗布(スピンコートなど)、着色層31のパターニング、基板全面に対するUV吸収層用材料の塗布、およびUV吸収層32のパターニングをこの順に行うことによって実施することができる。あるいはまた、スクリーン印刷法などを用いて着色層31およびUV吸収層32のそれぞれをパターン状に形成してもよい。
【0043】
あるいはまた、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂などをUV吸収層32のマトリクス樹脂として用いてもよい。用いることができる熱可塑性樹脂は、ポリカーボネート(PC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエーテルサルホン、ポリビニルブチラール、ポリフェニレンエーテル、ポリアミド、ポリエーテルイミド、ノルボルネン系樹脂、メタクリル樹脂、イソブチレン無水マレイン酸共重合樹脂、環状オレフィン系樹脂などを含む。用いることができる熱硬化性樹脂は、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、ビニルエステル樹脂、イミド系樹脂、ウレタン系樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂などを含む。あるいはまた、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、ポリカーボネート等と3官能性、あるいは4官能性のアルコキシシランを含むポリマーハイブリッドなどをUV吸収層32のマトリクス樹脂として用いてもよい。これらのマトリクス樹脂を含むUV吸収層32を用いる場合、スクリーン印刷法などを用いてUV吸収層32をパターン状に形成することが望ましい。
【0044】
第2の態様におけるUV吸収層32は、可視領域の光に対して透明であることが望ましい。具体的には、400〜700nmの波長範囲全域において、50%以上の透過率を有することが望ましい。
【0045】
第2の態様において、その上に凹凸を形成しないカラーフィルタ層30に関する工程(a)、ならびに工程(b)〜(d)は、第1の態様と同様に実施することができる。ただし、工程(c)において、UV光を照射されたUV吸収層32にクラックが発生し、凹凸37が形成される点が第1の態様と異なる点である。
【実施例】
【0046】
<実施例1>
200mm×200mm×0.7mm厚の透明基板(コーニング社製1737ガラス)上に、カラーモザイクCK−7001(富士フィルム株式会社から入手可能)を塗布し、フォトリソグラフ法を用いて、複数の矩形状開口部を有するブラックマトリクスを形成した。露光積算光量は100〜160mJであり、200℃において30分間にわたるポストベークを行った。ブラックマトリクスは、1μmの膜厚を有した。矩形状開口部のそれぞれ(サブピクセルに相当する)は、縦方向300μm×横方向100μmを有し、隣接する矩形状開口部間の間隔は、縦方向30μmおよび横方向10μmであった。公称寸法2.8インチのQVGAパネル(360×240ピクセル(RGB))を作製した。
【0047】
次に、カラーモザイクCR−7001、CG−7001およびCB−7001(富士フィルム株式会社から入手可能)を塗布し、フォトリソグラフ法を用いて、縦方向に延びる複数のストライプ形状部分からなる赤色、緑色および青色カラーフィルタ層を形成した。露光積算光量は100〜160mJであり、200℃において30分間にわたるポストベークを行った。各カラーフィルタ層は、1μmの膜厚を有した。各カラーフィルタ層の複数のストライプ形状部分のそれぞれは、図1に示すようにストライプ形状部分の両側縁がブラックマトリクスに重畳して110μmの幅を有し、220μmの間隔で配置された。
【0048】
次に、光硬化性アクリル樹脂(V259PA/P5、新日鐵化学製)を塗布し、フォトリソグラフィー法によってパターニングを行い、異なる2種のカラーフィルタ層の境界となる部分、すなわち、赤色カラーフィルタ層/緑色カラーフィルタ層、緑色カラーフィルタ層/青色カラーフィルタ層、および青色カラーフィルタ層/赤色カラーフィルタ層の境界部分に、縦方向に延びる複数のストライプ形状部分からなるバンクを形成した、バンクを構成するストライプ形状部分のそれぞれは、20μmの幅、および3μmの高さを有した。
【0049】
次いで、バンクを形成したカラーフィルタをホットプレート上に載置し、カラーフィルタを100℃に加熱した。カラーフィルタ温度を維持できる環境において、紫外線ランプ(サムコ製:UV−300)を用い、10分間にわたってUV光を照射した。
【0050】
トルエン1000重量部、および第1色素であるクマリン6と第2色素であるDCM−2の混合物(モル比はクマリン6:DCM−2=48:2)50重量部を混合して、インクを調製した。調製したインクをインクジェット装置(ライトレックス製Litrex120L)に装填した。次いで、窒素雰囲気中で、インクの滴下および乾燥を反復して、赤色カラーフィルタ層の上に赤色変換層を形成した。1回のインクの滴下におけるインク付着量を、1サブピクセルあたり30〜60pLとした。乾燥は、窒素雰囲気を破ることなしに、積層体を真空乾燥炉中に移動させ、1.0×10−3Paの圧力の下で100℃に加熱することによって実施した。インクの滴下および乾燥を20回反復して、膜厚500nmの赤色変換層を形成した。
【0051】
次いで、真空を破ることなしに、赤色変換層を形成したカラーフィルタを、プラズマCVD装置内に移動させた。プラズマCVD法を用いて、膜厚1μmの窒化シリコン(SiN)を堆積させてバリア層を形成し、色変換フィルタを得た。ここで、モノシラン(SiH)、アンモニア(NH)および窒素(N)を原料ガスとして用いた。また、バリア層形成時のカラーフィルタの温度を100℃以下に維持した。
【0052】
<実施例2>
バンクを形成したカラーフィルタを100℃に加熱することなく、常温(25〜35℃)においてUV光の照射を実施したことを除いて、実施例1と同様に色変換フィルタを作製した。
【0053】
<実施例3>
バンクを形成したカラーフィルタを150℃に加熱してUV光の照射を実施したことを除いて、実施例1と同様に色変換フィルタを作製した。
【0054】
<比較例1>
UV照射を実施しなかったことを除いて実施例1の手順を繰り返して、色変換フィルタを作製した。
【0055】
<評価>
実施例1および2、ならびに比較例1の方法を用いて、12枚の色変換フィルタを作製した。赤色変換層を形成するためのインクが緑色または青色サブピクセルにあふれたことによる混色の発生を、光学顕微鏡を用いて検査した。緑色および青色サブピクセルの全数を基準とする混色の発生したサブピクセル数の比を、不良率として評価した。また、実施例1および2、ならびに比較例1の方法において、赤色変換層の形成直前の赤色カラーフィルタ層上面の凹凸(算術平均粗さRa)を、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて評価した(基準長10μm)。結果を第1表に示した。
【0056】
【表1】

【0057】
第1表に示すように、本願発明の方法に従ってUV照射を行って赤色カラーフィルタ層の上面に凹凸を形成した実施例1および2において、不良率を減少させることができた。これに対して、赤色カラーフィルタ層の上面凹凸が小さい比較例2においては、インクの滴下の際に、インクが所望されないサブピクセルにあふれて混色が発生することが分かる。バンクの高さを5μm以上にすることで不良の発生を防止することが可能であるが、独立して制御可能な複数の発光部を有する発光素子基板との貼り合わせの際にギャップ長が長くなり、クロストークの発生により色純度が低下してしまう。
【0058】
以上のように、本発明の製造方法を用いることによって、バンクの高さを大きくすることおよび混色の発生なしに、インクジェット法による色変換層の形成を行うことができた。すなわち、本発明の製造方法は、高精細度のパターンを有する色変換フィルタを低コストで提供することが可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の製造方法の第1の態様で形成された色変換フィルタを示す断面図である。
【図2】本発明の製造方法の第2の態様で形成された色変換フィルタを示す断面図である。
【符号の説明】
【0060】
10 透明基板
20 ブラックマトリクス
30(R,G,B) カラーフィルタ層
31(R,G) 着色層
32(R,G) UV吸収層
35,37(R,G) 凹凸
40 バンク
50(R,G) 色変換層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a) 透明基板上に複数種のカラーフィルタ層を形成する工程と、
(b) 異種のカラーフィルタ層の境界部分に、バンクを形成する工程と、
(c) 前記複数種のカラーフィルタ層の少なくとも1種の上面にUV光を照射して、該上面に凹凸を形成する工程と、
(d) 前記凹凸を形成したカラーフィルタ層の上に、インクジェット法を用いて、特定の波長の光を吸収し、吸収した波長と異なる波長を含む光を出力する色変換層を形成する工程と
を含むことを特徴とする色変換フィルタの製造方法。
【請求項2】
工程(c)において用いるUV光は、185〜350nmの範囲内の波長、および100W/m以上の照射強度を有することを特徴とする請求項1に記載の色変換フィルタの製造方法。
【請求項3】
工程(c)を、100〜150℃の温度において実施することを特徴とする請求項1または2に記載の色変換フィルタの製造方法。
【請求項4】
工程(c)において凹凸を形成されるカラーフィルタ層は、着色層とUV吸収層との積層構造を有し、該着色層は、該UV吸収層と該透明基板との間に位置し、凹凸は該UV吸収層の上面に形成されることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の色変換フィルタの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2009−266478(P2009−266478A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−112745(P2008−112745)
【出願日】平成20年4月23日(2008.4.23)
【出願人】(000005234)富士電機ホールディングス株式会社 (3,146)
【Fターム(参考)】