説明

色変換フィルター基板およびそれを用いた多色発光デバイス

【課題】色変換フィルター内のマトリクス中での蛍光色素の安定性を向上させるとともに、画質の低下を引き起こすダークエリア、ダークスポットの発生を低減できる色変換フィルター基板の提供。
【解決手段】透明な支持基板と、少なくとも2種のフィルターを独立して配列したカラーフィルターと、少なくとも1種の色変換フィルターとを含み、前記少なくとも1種の色変換フィルターは、マトリクス内に、第1ナノポーラスシリカと第2ナノポーラスシリカとが分散されており、前記第1ナノポーラスシリカには、ある波長の光を吸収し、吸収した波長と異なる波長を含む光を出力する色素が担持されており、前記第2ナノポーラスシリカには、前記色素が担持されていないこと特徴とする色変換フィルター基板。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は多色表示を可能とする色変換フィルター基板および色変換フィルター基板を用いた多色発光デバイスに関する。該色変換フィルター基板を用いた多色発光デバイスは、イメージセンサー、パーソナルコンピューター、ワードプロセッサー、テレビ、オーディオ、ビデオ、カーナビゲーション、電話機、携帯端末ならびに産業用計測器等の表示などに使用することが可能である。
【背景技術】
【0002】
電界発光素子を用いたフルカラーディスプレイの作製方式としては、電界をかけることにより赤・青・緑にそれぞれ発光する素子を配列する「3色発光方式」、および、白色の発光を、カラーフィルターでカットし、赤・青・緑を表現する「カラーフィルター方式」、さらに、近紫外光、青色光、青緑色光または白色光を吸収し、波長分布変換を行って可視光域の光を発光する色変換色素をフィルターに用いる「色変換方式」が提案されている。
【0003】
なかでも、色変換方式は高い色再現性・効率を実現でき、また、3色発光方式と異なり、電界発光素子は単色でよいことから大画面化の難易度が低いことが言われており、次世代ディスプレイの候補として有望視されている。
【0004】
ディスプレイとして必要な要件としては、高い色再現性・効率に加え、高い安定性が挙げられる。しかしながら、特許文献1に記載されているように、有機蛍光色素を高分子樹脂へ分散させた色変換フィルターにおいては、色素を励起する波長の光照射に伴い、蛍光輝度が低下することが知られている。これは、励起状態にある色素が蛍光を発し、基底状態へと変化するのではなく、高分子樹脂成分と反応し、機能を失活することが原因と推定される。
【0005】
特許文献2では、ローダミン色素へ立体障害基を導入し、耐光性の向上を達成している。しかしながら、立体障害基を導入した色素においても、樹脂との反応を完全に防止することはできない。このため、大画面TVのように、数万時間の耐久性を要求される用途に対し、十分な耐久性を有する色変換フィルターが実現できていないのが現状である。
【0006】
特許文献3では、色素を有機または無機の微粒子に含ませて有機バインダー樹脂(マトリクス)に分散させる構成が開示されている。この構成によれば、蛍光色素間の会合が少なく、濃度消光が低減され、安定した蛍光変換能を有するとともに、耐熱性および耐光性が改善される。しかしながら、有機微粒子を使用した場合は、有機微粒子とマトリクスである有機バインダー樹脂との反応を十分防止することができず、数万時間の要求耐久性は実現できていない。また、酸化チタン、酸化ケイ素(シリカ)、酸化アルミニウムなどの無機微粒子を使用した場合には、有機バインダー樹脂に色素が溶け出すなど、色素を効率よく微粒子に担持させることが困難であった。
【0007】
特許文献4では、シリカ系無機多孔質体の細孔内に、無機系緑色蛍光体である酸化亜鉛微粒子を内包する構成が記載されている。しかしながら、本文献においては、無機蛍光体にEL用色変換フィルターの赤色蛍光体として有用なものは開示されていない。特に、この赤色蛍光体は、濃度消光に伴う失活が特に起こり易いため、その開発は重要である。また、これまでに、例えば、シリカ系無機多孔質体の細孔内に内包できる赤色蛍光体は報告されていない。
【0008】
また、上記無機蛍光体は一般に酸化物系または窒化物系の材料を焼成して、径数ミクロンの粒子とすることから、その粒径が大き過ぎて塗膜が困難である。このため、無機蛍光体は、有機EL用色変換フィルターには容易に適用できない。特許文献4では、酸化亜鉛をそのままシリカ系無機多孔質体に導入できず、イオンの形で一旦導入し、それを大気中で焼結している。これは酸化亜鉛に特有の方法であり、有機EL用色変換フィルターには適用できない製法である。
【0009】
さらに、色変換フィルターにおいては、通常、塗膜はスピンコートなどのウェットプロセスにより形成される。このため、色変換フィルターにはある量の水分が内在している。この水分が有機発光体に到達して、有機発光体中のダークエリア、ダークスポットの発生の原因となることに鑑み、色変換フィルターと有機発光体との間に、SiOxなどのガスバリア膜を適用することが検討されている。しかしながら、このような構成によっても、色変換フィルターに内在する水分の上記影響を完全に排除することはできず、100時間以上の長時間にわたって水分を封じ込めるまでには至っていない。
【0010】
一方、特許文献5および特許文献6には、孔径(細孔直径)1〜10nm、比表面積300〜1000m/gのシリカゲルを吸湿剤として用いることが開示されている。しかしながら、このシリカゲルの利用目的は、周囲の雰囲気中の湿度調節である。
【0011】
【特許文献1】特許第2795932号公報
【特許文献2】特開2000−44824号公報
【特許文献3】特開2000−212554号公報
【特許文献4】特開2003−201473号公報
【特許文献5】特開2003−201113号公報
【特許文献6】特開平09−071410号公報
【特許文献7】特開平06−024867号公報
【特許文献8】特開平06−034812号公報
【特許文献9】特開平07−225314号公報
【特許文献10】特開平09−031333号公報
【特許文献11】特開昭60−145903号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上述したように、ウェットプロセスで塗膜した色変換フィルターには、ある量の水分が内在しており、この水分が色素を担持したシリカ粒子内に吸着すると、該色素の蛍光強度が低下する。また、この水分が有機発光体に到達すると、上述したように、有機発光体中のダークエリア、ダークスポットの発生の原因となる。これらの問題については十分に解決されていないのが現状である。
【0013】
本発明の課題は、特定範囲の平均孔径を有するシリカ微粒子に有機系蛍光体、特に、ローダミン系などの赤色蛍光体を担持して、色素の安定化向上を図った色変換フィルター基板において、色素が担持されたシリカ粒子内への水分の影響を抑止した色変換フィルター基板を提供することにある。また、本発明の課題は、該基板を用いることにより、上記水分の有機発光体への到達を抑止することにより、画質の低下を引き起こすダークエリア、ダークスポットの発生を低減した多色発光デバイスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、色変換フィルター内のマトリクス中の蛍光色素の安定性向上を目的として、マトリクスに、特定範囲の平均孔径、即ち、色素を好適に担持可能な平均孔径を有するナノポーラスシリカを分散させることを見出した。
【0015】
次に、本発明者らは、上記のような知見の下、色素を担持したナノポーラスシリカへの水分の吸着を抑止してマトリクス中の蛍光色素の安定性をさらに向上させることのできる色変換フィルター基板を得ること、および、色変換フィルター内で発生した水分の有機発光体への到達を抑止して画質の低下を引き起こすダークエリア、ダークスポットの発生を低減できる多色発光デバイスを得ることを目的として、鋭意検討を重ねた。その結果、ナノポーラスシリカの特徴の1つである中空内壁の表面積は、シリカ粒子を粉砕して粒子径を所定範囲とすることを考慮した場合に細孔が比較的作り易い平均孔径が3nm以下の場合であっても、1500m/g以上と十分広く、表面積が数百m/gであるシリカゲルなどの他の材料よりも水分吸着能は桁違いに大きいという知見を得た。このため、上記した色素を担持するナノポーラスシリカとは別異の(例えば、平均孔径が3nm以下の)ナノポーラスシリカを色変換フィルターのマトリクス内に分散させることにより、色素を担持したナノポーラスシリカへの水分の影響を抑止することができる色変換フィルター基板、および、有機発光体への水分の影響を抑止することができる多色発光デバイスが得られるとの結論に達した。
【0016】
それによれば、本発明の課題は、透明な支持基板と、それぞれ異なる波長域の光を透過する、少なくとも2種のフィルターを独立して配列したカラーフィルターと、ある波長の光を吸収し、吸収波長と異なる波長を含む光を出力する、少なくとも1種の色変換フィルターとを含む色変換フィルター基板であって、前記少なくとも1種の色変換フィルターは、マトリクス内に、平均孔径3〜10nmの細孔を有する第1ナノポーラスシリカと、前記第1ナノポーラスシリカとは別異の第2ナノポーラスシリカとが分散されており、前記第1ナノポーラスシリカには、ある波長の光を吸収し、吸収した波長と異なる波長を含む光を出力する色素が担持されており、前記第2ナノポーラスシリカには、前記色素が担持されていないこと特徴とする色変換フィルター基とすることによって、解決される。
【0017】
このような色変換フィルター基板においては、前記第2ナノポーラスシリカの平均孔径が3nm以下であること、また、前記マトリクスがシロキサン結合を有するストレート型または樹脂変性型のシリコーンポリマーであること、さらに、前記色素が、少なくとも1種のローダミン染料であることが望ましい。即ち、ローダミン系のような赤色蛍光体を用いた場合には、色変換フィルターの耐光性を低下させる主要因である、励起状態の色素とマトリクスとの反応を高い確率で抑止し、耐久性を向上させることができる。
【0018】
また、本発明の課題は、前記色変換フィルター基板上に、少なくとも、第1電極、有機発光体および第2電極が順次積層され、前記有機発光体が有機発光層を含むことを特徴とする多色発光デバイスとすること、また、前記色変換フィルター基板上と、持基板上に少なくとも第1電極、有機発光体および第2電極が順次積層されている有機発光素子とを貼り合わせて形成され、前記有機発光体が有機発光層を含むことを特徴とする多色発光デバイスとすることによって、解決される。このような多色発光デバイスは、高精細で超寿命を実現することができる。
【0019】
このような多色発光デバイスにおいては、前記色変換フィルター基板の最上層に保護層を具えるとともに、前記保護層上にガスバリア層を具え、前記保護層はシリカからなることが望ましく、該保護層が平均孔径3nm以下のナノポーラスシリカを含むことがさらに望ましい。
【発明の効果】
【0020】
以上によれば、色素担持用のナノポーラスシリカと水分吸着用のナノポーラスシリカを用いることにより、光の照射に伴う蛍光強度の低下を抑制する色変換フィルター基板を提供することができる。加えて、本発明の色変換フィルター基板を用いることにより、特に、上記水分吸着用のナノポーラスシリカの働きによって、画質の低下を引き起こすダークエリア、ダークスポットの発生を低減できる、駆動耐久性に優れた多色発光デバイスを提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
図1は本発明の色変換フィルター基板の一実施例の断面概略図であり、3色のうち、2色を色変換フィルターを通じて出力する際の例である。図1に示す色変換フィルター基板は、透明な支持基板1上に、赤色カラーフィルター2、緑色カラーフィルター4および青色変換フィルター6が別個独立に形成されており、赤色カラーフィルター2および緑色カラーフィルター4上には、それぞれ対応する色の、赤色変換フィルター3および緑色変換フィルター5が形成されている。さらに、これらの構成要素1〜6上には、該構成要素2〜6を取り囲むように保護層7が形成されている。
【0022】
また、図2は本発明の色変換フィルター基板の一実施例の断面概略図であり、1色のみ色変換フィルターを通じて出力する際の例である。図2に示す色変換フィルター基板は、透明な支持基板1上に、赤色カラーフィルター2、緑色カラーフィルター4および青色変換フィルター6が別個独立に形成されており、赤色カラーフィルター2上には対応する色の、赤色変換フィルター3が形成されている。さらに、これらの構成要素1〜4,6上には、該構成要素2〜4,6を取り囲むように保護層7が形成されている。
【0023】
さらに、図3,4は図1に示す色変換フィルター基板を用いた多色発光デバイスの一実施例の断面概略図である。
【0024】
図3に示す多色発光デバイスは、図1に示す色変換フィルター基板の保護層7上に、第1電極8、有機発光体9および第2電極10を順次積層したものである。有機発光体9は、保護層7上に形成されるとともに、第1電極8を取り囲むように形成されている。これに対し、図4に示す多色発光デバイスは、図1に示す色変換フィルター基板と、別個の支持基板11上に、第1電極12、有機発光体13、第2電極14を順次積層した有機発光素子とを、保護層7と第2電極14とを対向させた状態で貼り合わせたものである。有機発光体13は、支持基板11上に形成されるとともに、第1電極12を取り囲むように形成されている。
以下、各構成要素について実施形態を説明する。
【0025】
[透明な支持基板1]
図1および図2において、透明な支持基板1は可視光透過率に優れ、また、色変換フィルター基板および多色発光デバイスの形成プロセスにおいて、色変換フィルター基板あるいは多色発光デバイスの性能低下を引き起こさないものであればよく、例としてはガラス基板、各種プラスチック基板、または各種フィルム等が挙げられる。
【0026】
[カラーフィルター2,4,6]
本発明の色変換フィルター基板では、異なる波長域の光を透過させる少なくとも2種類のカラーフィルターが、それぞれ独立して配置される。図1および図2では、3種のカラーフィルター2,4,6を示し、それらは、互いに異なる波長域の光を透過させるカラーフィルターである。例えば、カラーフィルター2は赤色領域の光を透過するものとし、カラーフィルター4は緑色領域の光を透過するものとし、カラーフィルター6は青色領域の光を透過するものとすることができる。各色のカラーフィルター2,4,6は、有機発光体から発せられた光または後述の色変換フィルターにおいて異なる波長に変換された光の色純度を向上させるための層である。カラーフィルターは液晶ディスプレイをはじめとした、ディスプレイ用途のものが適用でき、一般的には顔料を高分子バインダー中へ分散したものである。
【0027】
[色変換フィルター3,5]
本発明の色変換フィルター基板においては、少なくとも1種の色変換フィルターを含む。本発明における色変換フィルターでは、ある波長域の光を吸収し、吸収した波長と異なる波長の発光を行う物質(蛍光色素のようなもの)を第1ナノポーラスシリカに担持した状態でマトリクス中に分散させている。また、本発明の色変換フィルターでは、上記第1ナノポーラスシリカとは別異の第2ナノポーラスシリカを水分吸着用の物質としてマトリクス中に分散させている。本発明においては、色変換フィルターのマトリクスは、ストレート型シリコーンポリマー、もしくはシリコーンポリマーと有機高分子樹脂のハイブリッド材料(樹脂変性型シリコーンポリマー)であることが望ましい。
【0028】
色変換フィルター3と色変換フィルター5は、それぞれ、入射する光の一部を吸収し、異なる波長の光を発光する機能を有するものであり、例えば、色変換フィルター3を、青から青緑色を吸収して赤色光を放出する赤色変換フィルターとし、色変換フィルター5を、青から青緑色を吸収して緑色光を放出する緑色変換フィルターとすることができる。
【0029】
色変換フィルターはカラーフィルター上に積層することが望ましい(例えば、図1における赤色カラーフィルター2上に赤色変換フィルター3を積層する)。また、青から青緑色光を発する発光部と組み合わせてフルカラー表示を行うことが所望されている場合、図1に示すように赤色カラーフィルター2上の赤色変換フィルター3、および緑色カラーフィルター4上の緑色変換フィルター5の両方を用いることが望ましい。あるいはまた、青緑色光を発する発光部と組み合わせてフルカラー表示を行うことが所望され、該発光部が十分な量の緑色成分を含む場合には、図2に示すように、赤色カラーフィルター2上に赤色変換フィルター3を配設するのみとし、緑色変換フィルターを用いない構成としてもよい。
【0030】
(色変換色素)
有機発光体から発せられる青色から青緑色領域の光を吸収して、赤色領域の蛍光を発する蛍光色素としては、例えばローダミンB、ローダミン6G、ローダミン3B、ローダミン101、ローダミン110、スルホローダミン、ベーシックバイオレット11、ベーシックレッド2などのローダミン系色素、シアニン系色素、1−エチル−2−〔4−(p−ジメチルアミノフェニル)−1,3−ブタジエニル〕−ピリジニウム−パークロレート(ピリジン1)などのピリジン系色素、あるいはオキサジン系色素などが挙げられる。さらに、各種染料(直接染料、酸性染料、塩基性染料、分散染料など)も蛍光性があれば使用することができる。
【0031】
また、有機発光体から発せられる青色ないし青緑色領域の光を吸収して、緑色領域の蛍光を発する蛍光色素としては、例えば3−(2’−ベンゾチアゾリル)−7−ジエチルアミノクマリン(クマリン6)、3−(2’−ベンゾイミダゾリル)−7−ジエチルアミノクマリン(クマリン7)、3−(2’−N−メチルベンゾイミダゾリル)−7−ジエチルアミノクマリン(クマリン30)、2,3,5,6−1H,4H−テトラヒドロ−8−トリフルオロメチルキノリジン(9,9a,1−gh)クマリン(クマリン153)などのクマリン系色素、あるいはクマリン色素系染料であるベーシックイエロー51、さらにはソルベントイエロー11、ソルベントイエロー116などのナフタルイミド系色素などが挙げられる。さらに、各種染料(直接染料、酸性染料、塩基性染料、分散染料など)も蛍光性があれば使用することができる。
【0032】
(ナノポーラスシリカ)
ナノポーラスシリカとは、例えば、特許文献7に開示されている、ナノポーラスシリカを使用することができる。当該耐熱性層状ナノポーラスシリカは、結晶性層状ケイ酸塩の板状のシート層が複数積層し、隣接する上記シート層の層間がシロキサン結合による結合点において縮幅し、該結合点の間においては拡幅して微孔を形成しているハニカム状多孔構造の層状ナノポーラスシリカである。
【0033】
このナノポーラスシリカは、その孔径が数nm〜数10nmと微細であり、比表面積は1000m/g以上であるという特徴を有する。このような物質はメソ多孔体と呼ばれ、タンパク質などの大きな生体分子を収めるのに適当な大きさの細孔を有する。そのハニカムの壁の部分はシリカで形成されており、細孔は空洞である。このハニカム構造は、製造過程の途中で混在させている界面活性剤の自己組織化の性質により形成できるもので、界面活性剤の分子長を調整することで細孔の大きさを2nm〜10nm程度まで制御できる。
【0034】
特許文献7に記載の製法に従えば、水溶液中でハニカム構造を形成し得る界面活性剤を鋳型として、ハニカム構造のナノポーラスシリカを調製し、得られたナノポーラスシリカに含まれる界面活性剤を溶剤により除去する。このような製法により、最終的には界面活性剤は取り除かれ、シリカの壁だけが残る。
【0035】
このようなナノポーラスシリカについては、既にいくつかの酵素タンパク質、葉緑素などを細孔中に閉じ込めることにより、機能を保ったまま安定化できることが報告されている。しかしながら、ローダミン系色素を含む有機EL用色変換フィルターに応用した例はない。
【0036】
上記ナノポーラスシリカの細孔にローダミン系色素を担持する場合には、担持量は細孔の孔径に依存する。即ち、担持量は、平均孔径が3nm以上、好ましくは平均孔径が4nmから6nmである場合に大きい。平均孔径が3nm以上の場合には、例えば、平均孔径が1.5nmである場合の10倍の担持量が得られる。従って、ローダミン系色素を担持するナノポーラスシリカには、平均孔径が3nm以上のナノポーラスシリカを用いることが有利である。なお、上述したとおり、平均孔径が10nm以下の場合には、色素の担持態様を均一化することができるため、平均孔径の上限値は10nmとする。
【0037】
一方、本発明の最大の課題は、色変換フィルターに内在する水分の影響を抑止すること、つまり、色素が担持されたシリカ粒子内への該水分の到達を抑止して色素の安定化をさらに図ること、および、有機発光素子への該水分の到達を抑止して画質の低下を引き起こすダークエリア、ダークスポットの発生を低減することである。この課題を解決するため、本発明では、色変換フィルター内に水分吸着用のナノポーラスシリカを分散させる。具体的には、水分吸着用のナノポーラスシリカとして、平均孔径が3nm以下のものをマトリクスの全重量に対して10〜30重量%混入する。後述するように、シリカ粒子をマトリクスに導入する際には、シリカの粒径を200〜400nmとする。このような条件下では、シリカの平均孔径は、例えば3nm以下のような比較的小径とすることが好適である。
【0038】
以上に示すように、本発明では、ローダミン系色素等を担持するためのナノポーラスシリカとしては、平均孔径が3〜10nmのものを使用する一方、色変換フィルター内の水分を吸着するためのナノポーラスシリカとしては、例えば、平均孔径が3nm以下のものを使用する。このように異なる平均孔径のシリカを使用するにあたり、それらの平均孔径は、窒素吸着測定によって確認することができる。
【0039】
なお、ナノポーラスシリカは焼結体であるため、その粒径は数μm程度である。この粒径の焼結体をそのまま(後述する)マトリクスに分散させたのでは、粒径が大き過ぎるため、マトリクス中での分散が容易でなくなるだけでなく、色変換フィルターの塗膜形成が困難となる。しかしながら、色変換フィルターに用いる際に、ナノポーラスシリカをあまり細かく粉砕すると色素担持能力が低下する。従って、ナノポーラスシリカを実際に作製してマトリクスに分散させるに当たっては、色変換色素を担持させる前に焼結体を粉砕してその粒径を200〜400nmとする。
【0040】
(溶媒)
次に、平均孔径が3〜10nmのナノポーラスシリカにローダミン系色素を担持する際に使用する溶媒について説明する。発明者らは、ローダミン系色素を、色素溶解性溶媒を用いて、ナノポーラスシリカの細孔内に導入し、その内壁に吸着させることができ、特に、エタノール、t−ブタノール、アセトン、アセトニトリル、水と1−プロパノールの混合溶液などを用いた場合に、十分な担持量とそれによる優れた蛍光強度を達成することができるとの知見を得た。
【0041】
(マトリクス)
マトリクスとしては、種々のシリコーンポリマーおよびそれに代替可能なものであればいかなるものも使用することができる。特に、これらの中でも、ストレート型シリコーンポリマー、および変性樹脂型シリコーンポリマーを用いることが望ましいので、以下においては、これらについて述べる。
【0042】
ストレート型シリコーンポリマーとは、有効成分がシリコーンのみからなるもので、他のシリコーン製品と同様に(−Si−O−Si−)結合を主鎖とし、メチル基などのアルキル基またはフェニル基などの芳香族基を側鎖に持つ。硬化後は非常に架橋密度の高い、三次元架橋構造を形成し、固い皮膜を形成する等の利点を有する。
【0043】
ストレート型シリコーンポリマーは、下式(IV)に示すようなシラン誘導体を単量体として脱水縮重合させたもので、分岐状構造をとる。ここで、単量体(IV)中に、3官能単位体(n=1の場合)、4官能単位体(n=0の場合)を多く含むことによって、分岐状構造を発達させ、架橋密度を向上させることができる。
Si(OR)4−n (IV)
式中、Xはメチル基またはフェニル基を表し、Rは水素原子、アルキル基、アリール基、または置換基を有してもよいアリール基を表す。式(IV)の単量体にXおよびRが複数存在する場合、XとRは、それぞれ同一であっても、異なってもよい。n=0〜2の整数、好適にはn=1〜2が望ましい。一般的にnが小さくなれば、架橋部位が増え、硬度も増す。
【0044】
得られるストレート型シリコーンポリマーは、下式(I)、(II)および/または(III)の構成単位を含むポリマーである(式中、R〜Rは、それぞれアルキル基またはフェニル基である)。ストレート型シリコーンポリマーは、式(I)〜(III)の複数種類の構成単位を含んでいてもよい。
【0045】
【化1】

【0046】
〜Rがメチル基であるメチルシリコーン系ポリマーは、Xがメチル基である式(IV)の単量体から形成されるポリマーである。メチルシリコーン系ポリマーは、単量体(IV)中のSi−ORが加水分解されて得られるシラノール基Si−OHを多量に含むことができ、水−アルコールに親和性を有する。そのようなメチルシリコーン系ポリマーは、溶液中でシリカゾルまたはアルミナゾルを組み合わせることにより極めて硬い皮膜を形成し、ハードコート剤としてプラスチックの表面硬質化に使用されている。R〜Rがフェニル基であるフェニルシリコーン系ポリマーは、Xがフェニル基である式(IV)の単量体から形成されるポリマーであり、メチルシリコーン系ポリマーに比べて優れた皮膜強度を有する。
【0047】
上記のストレート型シリコーン樹脂の具体例としては、KP−85、KP−64、X−12−2206、X−12−2396、X−12−2397(信越化学工業株式会社製)、SH804、SH805、SH806A、SH840、SR2400(東レ・ダウ・コーニング・シリコーン株式会社製)などがあるが、これらに限定されるものではない。
【0048】
次に、樹脂変性型シリコーンポリマーについて述べる。一般的に、樹脂変性型シリコーンポリマーは、シリコーン架橋体と有機系樹脂とがブロック共重合またはグラフト共重合したもの、またはエーテル結合を介して重縮合したものである。より具体的には、−OH基、−COOH基、−O−(エポキシ)基等の反応性官能基を有する有機系樹脂と、様々な分子量を持ち、比較的多くのシラノール基、メトキシ基などのアルコキシ基を有するシリコーン樹脂との反応生成物である。有機系樹脂として、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、アルキド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂、ポリカーボネート樹脂などを用いることができる。
【0049】
樹脂変性型シリコーンポリマーは、シリコーン樹脂の持つすぐれた耐熱性、耐環境安定性に加えて、有機系樹脂の持つ柔軟性、密着性、耐水性、成膜性、電気絶縁性などの特性を併せ持つ有機−無機ハイブリッド材料として知られている。具体的には、イミド変性シリコーン樹脂(特許文献8参照)、シリコーン変性ポリエステル樹脂(特許文献9参照)などが提案されている。樹脂変性型シリコーンポリマーは、イオン性染料および非イオン性染料の両方に対して適合性を有するマトリクスとして有用である。但し、有機系樹脂は励起状態の色素と反応し、色素機能を失活させることから、その添加量は最低限に留めるべきである。具体的には、該ポリマーの全重量を基準とする固形分比率で5重量%〜30重量%程度が好ましい。
【0050】
樹脂変性型シリコーンポリマーの一例としては、アルコキシシリル基を有する単量体を用いて有機系樹脂を作製した後に、該アルコキシシリル基を前述の式(IV)の単量体と反応させることによって、樹脂変性型シリコーンポリマーを形成することもできる。ここで、該アルコキシシリル基は、1〜3個のアルコキシ基を有するものであってもよい。
【0051】
あるいはまた、一般的には、シランカップリング剤と称される、下式(V)で表される構造を有するシラン化合物を用いることで、有機と無機のハイブリッド化を簡便に行うこともできる。
Si(OR)4−n (V)
ここで、Yは、メルカプト基、アジド基、アミノ基、エポキシ基、アクリル基、メタクリル基、アクリロキシ基、メタクリロキシ基などの有機系樹脂と反応可能な置換基を有する有機基であり、Rは水素原子、アルキル基、アリール基、または置換基を有してもよいアリール基を表す。nは1〜3の整数を示し、好ましくは2〜3である。最初に有機系樹脂と式(V)のシラン化合物とをY上の置換基において反応させ、次に式(V)に由来するSi−OR基によってシリコーン樹脂と結合可能となる。
【0052】
これらの式(V)の構造を有するシラン化合物の一例として、例えば、SH6020、SZ6030、SH6040、SZ6075(東レ・ダウ・コーニング・シリコーン株式会社製)など、数社で製品化されているものを使用することもできるが、これらに限定されるものではない。
【0053】
上記の樹脂変性型シリコーンポリマーの具体例としては、SR2107、SR2115、SR2145(東レ・ダウ・コーニング・シリコーン株式会社製)などがあるが、これらに限定されるものではない。
【0054】
[保護層7]
保護層7は、その名の通りに色変換フィルターを保護する目的、および膜面の平滑化を目的に配設されるものである。保護層7は、光透過性に富む材料から形成され、かつ色変換フィルターを劣化させることのないプロセスを選択して配設する必要がある。また、保護層7の上面に無機ガスバリア膜または電極として用いられる透明導電膜等を形成する場合、保護層7には、さらにスパッタ耐性も要求されることとなる。
【0055】
前述の通り、保護層7は平滑化の目的も併せ持つため、一般的には塗布法で形成される。その際、適用可能な材料としては、光硬化性または光熱併用型硬化性樹脂を、光および/または熱処理して、ラジカル種またはイオン種を発生させて重合または架橋させ、不溶不融化させたものが一般的である。また、該光硬化性または光熱併用型硬化性樹脂は、硬化をする前は有機溶媒またはアルカリ溶液に可溶性であることが望ましい。
【0056】
具体的に光硬化性または光熱併用型硬化性樹脂とは、その硬化後に、例えば、以下の(1)〜(4)に示すものとなる樹脂である。
(1)アクロイル基またはメタクロイル基を複数有するアクリル系多官能モノマーおよびオリゴマーと、光または熱重合開始剤からなる組成物膜を光または熱処理して、光ラジカルまたは熱ラジカルを発生させて重合させたもの
(2)ポリビニル桂皮酸エステルと増感剤からなる組成物を光または熱処理により二量化させて架橋したもの
(3)鎖状または環状オレフィンとビスアジドからなる組成物膜を光または熱処理によりナイトレンを発生させ、オレフィンと架橋させたもの
(4)エポキシ基を有するモノマーと光酸発生剤からなる組成物膜を光または熱処理により、酸(カチオン)を発生させて重合させたもの
特に硬化後に(1)に示すものとなる光硬化性又は光熱併用型硬化性樹脂が高精細でパターニングが可能であり、耐溶剤性、耐熱性等の信頼性の面でも好ましい。
【0057】
その他、ポリカーボネート(PC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエーテルサルホン、ポリビニルブチラール、ポリフェニレンエーテル、ポリアミド、ポリエーテルイミド、ノルボルネン系樹脂、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、イソブチレン無水マレイン酸共重合樹脂、環状オレフィン系等の熱可塑性樹脂;または、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、ビニルエステル樹脂、イミド系樹脂、ウレタン系樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂等の熱硬化性樹脂を用いて保護層7を形成することができる。あるいはまた、色変換フィルターのマトリクス樹脂にも適用している、ストレート型シリコーンポリマー、あるいはポリスチレン、ポリアクリロニトリル、ポリカーボネート等と3官能性あるいは4官能性のアルコキシシランとから形成される樹脂変性型シリコーンポリマー等も利用することができる。
【0058】
本発明の保護層としては、特に、ポリシラザンを用いて形成されるシリカ膜であることが好ましい。ポリシラザンは、Si、N、Hから構成されているが、大気中の水分と反応して、Si、Oから構成されるシリカ(SiO)へ変化する。
【0059】
これらポリシラザンは、例えば、特許文献10および11に記載されているようなものなどがあり、このようなポリシラザンを本発明におけるポリシラザンとして使用することができる。ポリシラザンは酸素存在下で分解し、窒素原子が酸素原子に置換してシリカが形成される。ポリシラザンから形成されるシリカは加水分解性シラン化合物から形成されるシリカに比較してより緻密である。例えば、ペルヒドロポリシラザンから形成されたシリカは、4官能性の加水分解性シラン化合物(例えば、テトラアルコキシシラン)から形成されたシリカに比較してより緻密であり、耐摩耗性等の表面特性において優れている。
【0060】
ポリシラザンには、実質的に有機基を含まないポリシラザン(ペルヒドロポリシラザン)、アルコキシ基などの加水分解性基がケイ素原子に結合したポリシラザン、ケイ素原子または窒素原子にアルキル基などの有機基が結合しているポリシラザンなどがある。このようなポリシラザンは、ケイ素原子に加水分解性基が結合している場合は、硬化の際の加水分解反応によって実質的に有機基を含まないシリカを形成する。特に、ペルヒドロポリシラザンはその焼成温度の低さおよび焼成後の硬化被膜の緻密さの点で好ましい。
【0061】
なお、保護層においても、色変換フィルターと同様に、画素中に含まれる水分吸着を目的として、例えば、平均孔径3nm以下の細孔を有するナノポーラスシリカを含ませることができる。保護層へのナノポーラスシリカの含有は、保護層の水分量の低下に効果があり、有機発光層におけるダークエリア、ダークスポットの発生をさらに低下することができる。
【0062】
以上のような、本発明の色変換フィルター基板によれば、色素担持用のナノポーラスシリカと水分吸着用のナノポーラスシリカを用いることにより、光の照射に伴う蛍光強度の低下を抑制することができる。
【0063】
以上は、図1および図2に示す色変換フィルター基板の構成要素についての説明であるが、以下に、これらの構成要素とともに用いられる、図3および図4に示す多色発光デバイスの構成要素について説明する。
【0064】
[ガスバリア層]
本発明の色変換フィルター基板を、有機発光体と組み合わせる場合、色変換フィルターから発生する水分から有機発光体を守る目的で、保護層上面にガスバリア層(図示せず)を積層してもよい。ガスバリア層には、透明且つピンホールのない緻密な膜が求められ、例えばSiO、SiN、SiN、AlO、TiO、TaO、ZnO等の無機酸化物または無機窒化物等が使用できる。該ガスバリア層の形成方法としては特に制約はなく、スパッタ法、CVD法、真空蒸着法、ディップ法等の慣用の手法を用いることができる。
【0065】
[支持基板11]
支持基板としては、ガラスやプラスチックなどからなる絶縁性基板、または、半導電性または導電性基板に絶縁性の薄膜を形成した基板を用いることができる。あるいはまた、ポリオレフィン、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂またはポリイミド樹脂などから形成される可撓性フィルムを支持基板11として使用することができる。
【0066】
[有機発光体9,13]
有機発光体は、図3,4に示すように、一対の電極(第1電極8,12および第2電極10,14)の間に挾持されるものである。有機発光体は、少なくとも有機発光層を含み、必要に応じて正孔注入層、正孔輸送層、電子輸送層および/または電子注入層を介在させた構造を有している。あるいはまた、正孔の注入および輸送の両方の機能を有する正孔注入輸送層、電子の注入および輸送の両方の機能を有する電子注入輸送層を用いてもよい。具体的には、有機発光体はその両側に配置される陽極および陰極とともに、下記のような層構造からなるものが採用される。
(1)陽極/有機発光層/陰極
(2)陽極/正孔注入層/有機発光層/陰極
(3)陽極/有機発光層/電子注入層/陰極
(4)陽極/正孔注入層/有機発光層/電子注入層/陰極
(5)陽極/正孔輸送層/有機発光層/電子注入層/陰極
(6)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/有機発光層/電子注入層/陰極
(7)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/有機発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極
上記の層構成において、陽極および陰極の少なくとも一方は、該有機発光層の発する光の波長域において透明であることが望ましく、および透明である電極を通して光を発して、前記色変換フィルターまたはカラーフィルターに光を入射させる。当該技術において、陽極を透明にすることが容易であることが知られており、本発明においても第1電極8,12を透明な陽極として、および第2電極10,14を陰極として用いることが望ましい。
【0067】
上記各層の材料としては、公知のものが使用される。例えば、有機発光層として青色から青緑色の発光を得るためには、例えばベンゾチアゾール系、ベンゾイミダゾール系、ベンゾオキサゾール系などの蛍光増白剤、金属キレート化オキソニウム化合物、スチリルベンゼン系化合物、芳香族ジメチリディン系化合物などが好ましく使用される。
【0068】
第1電極8,12および第2電極10,14のパターンは、それぞれ平行なストライプ状をなし、該パターンが互いに交差するように形成されてもよい。その場合には、本発明の有機発光体はマトリクス駆動を行うことができ、すなわち、陽極の特定のストライプと、陰極の特定のストライプに電圧が印加された時に、それらのストライプが交差する部分において有機発光層9,13が発光する。従って、第1電極8,12および第2電極10,14の選択されたストライプに電圧を印加することによって、特定の色変換フィルターおよび/またはカラーフィルターが位置する部分のみを発光させることができる。
【0069】
また、第1電極8,12をストライプパターンを持たない一様な平面電極とし、および第2電極10,14を各画素に対応するようにパターニングしてもよい。その場合には、各画素に対応するスイッチング素子を設けて各画素に対応する第2電極10,14に1対1で接続して、いわゆるアクティブマトリクス駆動を行うことが可能になる。
【0070】
以上のような、本発明の多色発光デバイスによれば、特に、色変換フィルター内で発生した水分の有機発光体への到達を抑止して、画質の低下を引き起こすダークエリア、ダークスポットの発生を低減することができる。
【実施例】
【0071】
以下、本発明のパターニング法を適用した場合の1つの例を、図面に参照して説明する。以下に示す実施例1〜3および比較例1は、図1および図3に示す例に基づいて行われたものである。
【0072】
[実施例1]
(カラーフィルター)
支持基板1であるコーニング社製1737ガラス上に、富士フィルムエレクトロニクスマテリアルズ(株)製CR7001、CG7001、CB7001を用い、フォトリソグラフ法にて、それぞれが重ならないように、幅0.10mm、ピッチ0.33mmのストライプパターンを形成して、赤色カラーフィルター2、緑色カラーフィルター4、および青色カラーフィルター6を得た。各カラーフィルター2,4,6の膜厚は1.0μmであった。さらに、青色カラーフィルター6であるCB7001の上面にのみ、新日鐵化学製VPA100を用い、フォトリソグラフ法にて、厚み10μm、幅0.10mm、ピッチ0.33mmの透明なストライプパターンを形成した。これは、赤色・緑色の色変換フィルターが形成された際に、色ごとの膜厚差を生じないように形成するものである。
【0073】
(緑色変換フィルター)
蛍光色素としてクマリン6(0.7重量部)を溶剤のプロピレングリコールモノエチルアセテート(PGMEA)120重量部へ溶解させた。該溶液に対して100重量部の新日鐵化学製VPA100を加えて溶解させ、塗布液を得た。この塗布液を用い、フォトリソグラフ法にて、緑色カラーフィルター4の上面へ、幅0.1mm、ピッチ0.33mm、膜厚10μmのパターンを形成して、緑色変換フィルター5を得た。
【0074】
(赤色変換フィルター)
平均孔径1.5nmのポーラスシリコン(太陽化学株式会社製)および平均孔径4nmのポーラスシリコン(太陽化学株式会社製)をそれぞれ用意し、これらを予め粉砕して、粒径を200〜400nmの範囲とした。次いで、十分に脱気したt−ブタノールに、平均孔径1.5nmのポーラスシリコンおよび平均孔径4nmのポーラスシリコンを順次混入し、さらに、蛍光色素として、ローダミン6G(0.3重量部)およびベーシックバイオレット11(0.3重量部)を導入した。その結果、大部分の色素は平均孔径4nmのポーラスシリコンに担持させることができた。
【0075】
このようにして得られた、2種類のポーラスシリコン含有溶液を、100重量部の信越化学工業製シリコーンポリマーKP854に加えて溶解させ、塗布液を得た。この塗布液を用い、スクリーン印刷法により、赤色カラーフィルター2の上面に、幅0.1mm、ピッチ0.33mm、膜厚10μmのパターンを形成して、赤色変換フィルター3を得た。
【0076】
(保護層の形成)
クラリアント社のペルヒドロポリシラザンNP110を用い、スクリーン印刷法により、前記色変換フィルター3,5およびカラーフィルター6上面へ保護層7を形成した。保護層7の膜厚は5μmとした。
【0077】
(ガスバリア層の形成)
スパッタ法にて、0.5μmのSiOx膜からなるガスバリア層を得た。スパッタ装置はRF−プレーナマグネトロン、ターゲットはSiOを用いた。成膜時のスパッタガスはArを使用した。形成時の基板温度は80℃で行った。
【0078】
(有機発光体の作製)
上記のようにして製造したフィルター部の上に、第1電極8(陽極)/有機発光体9(正孔注入層/正孔輸送層/有機発光層/電子注入層の4層)/第2電極10(陰極)を順次形成して、多色発光デバイスを得た。詳細は以下のとおりである。
【0079】
まず、フィルター部の最外層をなすガスバリア層の上面にスパッタ法にて透明電極(ITO)を全面成膜した。ITO上にレジスト剤(OFRP−800」(商品名、東京応化製)を塗布した後、フォトリソグラフィー法にてパターニングを行い、それぞれの色の発光部(赤色、緑色、および青色)に位置する、幅0.094mm、ピッチ0.10mm、膜厚100nmのストライプパターンからなる第1電極8(陽極)を得た。
【0080】
次いで、第1電極8を形成した基板を抵抗加熱蒸着装置内に装着し、有機発光体を、真空を破らずに成膜した。有機発光体9は、正孔注入層、正孔輸送層、有機発光層、電子注入層の4層構成とした。成膜に際して真空槽内圧は1×10-4Paとした。正孔注入層は銅フタロシアニン(CuPc)を100nm積層した。正孔輸送層は4,4’−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ]ビフェニル(α−NPD)を20nm積層した。有機発光層は4,4’−ビス(2,2’−ジフェニルビニル)ビフェニル(DPVBi)を30nm積層した。電子注入層はトリス(8−ヒドロキシキノリナト)アルミニウム(Alq)を20nm積層した。
【0081】
その後、真空を破ることなしに、第1電極8(ITO)のラインと直交する幅0.30mm、ピッチ0.33mmギャップのストライプパターンが得られるマスクを用いて、厚さ200nmのMg/Ag(10:1の重量比率)層を堆積させ、第2電極10(陰極)を形成した。
【0082】
こうして得られた有機発光体をグローブボックス内乾燥窒素雰囲気(酸素および水分濃度ともに10ppm以下)下において、封止ガラス(図示せず)とUV硬化接着剤を用いて封止し、多色発光デバイスを得た。
【0083】
[実施例2]
実施例1の赤色変換フィルター形成時において、色素担持用の溶媒を、t−ブタノールに代えて、水と1−プロパノールを1:8で混合した溶液とした以外は実施例1と同じ条件で多色発光デバイスを得た。
【0084】
[実施例3]
実施例1の保護層の形成において、ペルヒドロポリシラザン100重量部に、孔径1.5nmのポーラスシリコンを20重量部の割合で加えて溶解させ、塗布液を得たこと以外は、実施例1と同一の形成方法にて、多色発光デバイスを得た。
【0085】
[比較例1]
蛍光色素として、ローダミン6G(0.3重量部)、ベーシックバイオレット11(0.3重量部)を、100重量部の新日鐵化学製VPA100へ加えて溶解させたものを塗布液とし、フォトリソグラフ法で赤色変換フィルターを形成した以外は、実施例1と同一の形成方法にて多色発光デバイスを得た。
【0086】
[評価]
実施例1〜3および比較例1にて形成した多色発光デバイスを電流量一定にして駆動し、有機発光層の発光輝度100cd/m相当の光を1000時間(室温)照射した際の、ダークエリアおよびダークスポットの発生に起因する発光面積の低下率の、駆動時間依存性を評価した。
【0087】
本発明の色変換フィルター基板を用いた実施例1〜3の多色発光デバイスは、発光素子のダークエリア、ダークスポットの発生による発光面積の低下率が5%以下であった。これに対し、比較例1では、上記発光面積の低下率が50〜70%であった。従って、本発明の構成の色変換フィルターを用いれば、ダークエリアおよびダークスポットの発生による発光面積の低下率を大幅に抑制できることが判る。これは、色変換フィルター内の水分量の低下により、ダークエリア、ダークスポットの発生が効果的に抑制された結果である。
【0088】
以上によれば、色素を担持するナノポーラスシリカとは別異のナノポーラスシリカを別途色変換フィルターに含有させることで、画質の低下を引き起こすダークエリア、ダークスポットの発生を低減できる、駆動耐久性に優れた多色発光デバイスを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】本発明の色変換フィルター基板(1画素分)の1つの実施形態を示す断面図である。
【図2】本発明の色変換フィルター基板(1画素分)の1つの実施形態を示す断面図である。
【図3】本発明の多色発光デバイス(1画素分)の1つの実施形態を示す断面図である。
【図4】本発明の多色発光デバイス(1画素分)の1つの実施形態を示す断面図である。
【符号の説明】
【0090】
1 透明な支持基板
2 赤色カラーフィルター
3 赤色変換フィルター
4 緑色カラーフィルター
5 緑色変換フィルター
6 青色カラーフィルター
7 保護層
8,12 第1電極
9,13 有機発光体
10,14 第2電極
11 支持基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明な支持基板と、それぞれ異なる波長域の光を透過する、少なくとも2種のフィルターを独立して配列したカラーフィルターと、ある波長の光を吸収し、吸収波長と異なる波長を含む光を出力する、少なくとも1種の色変換フィルターとを含む色変換フィルター基板であって、
前記少なくとも1種の色変換フィルターは、マトリクス内に、平均孔径3〜10nmの細孔を有する第1ナノポーラスシリカと、前記第1ナノポーラスシリカとは別異の第2ナノポーラスシリカとが分散されており、前記第1ナノポーラスシリカには、ある波長の光を吸収し、吸収した波長と異なる波長を含む光を出力する色素が担持されており、前記第2ナノポーラスシリカには、前記色素が担持されていないことを特徴とする色変換フィルター基板。
【請求項2】
前記第2ナノポーラスシリカの平均孔径が3nm以下であることを特徴とする請求項1に記載の色変換フィルター基板。
【請求項3】
前記マトリクスが、シロキサン結合を有するストレート型または樹脂変性型のシリコーンポリマーであることを特徴とする請求項1または2に記載の色変換フィルター基板。
【請求項4】
前記色素が、少なくとも1種のローダミン染料であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の色変換フィルター基板。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の色変換フィルター基板上に、少なくとも、第1電極、有機発光体および第2電極が順次積層され、前記有機発光体が有機発光層を含むことを特徴とする多色発光デバイス。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれかに記載の色変換フィルター基板と、支持基板上に少なくとも第1電極、有機発光体および第2電極が順次積層されている有機発光素子とを貼り合わせて形成され、前記有機発光体が有機発光層を含むことを特徴とする多色発光デバイス。
【請求項7】
前記色変換フィルター基板の最上層に保護層を具えるとともに、前記保護層上にガスバリア層を具え、前記保護層はシリカからなることを特徴とする請求項5または6に記載の多色発光デバイス。
【請求項8】
前記保護層が、平均孔径3nm以下のナノポーラスシリカをさらに含むことを特徴とする請求項7に記載の多色発光デバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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