説明

色変換方法、印刷方法および色変換装置

【課題】色域の表面を効率的に平滑化する技術の提供。
【解決手段】第1の画像機器の色域と明度が低下するにつれて表面の平滑度が低下する第2の画像機器の色域との対応関係に基づいて、第1の画像機器にて使用される第1画像データを第2の画像機器にて使用される第2画像データに変換するにあたり、機器非依存色空間内で前記第2の画像機器の色域が前記第1の画像機器の色域よりも広い対象領域における前記対応関係は、前記第2の画像機器の色域の表面を平滑化して得られた色域内の色に前記第1の画像機器の色域内の色を対応付けることによって規定されている構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異なる画像機器間で共通の画像データを取り扱う際の色変換技術に関する。
【背景技術】
【0002】
デジタルカメラや印刷装置などの画像機器で利用される画像データは一般に機器依存色空間で色を指定する。そこで、異なる画像機器で共通の画像を扱う際には、予め第1の画像機器で扱う第1画像データと第2の画像機器で扱う第2画像データとの対応関係を機器非依存色空間内で特定することになる。すなわち、第1画像データが示す色を機器非依存色空間内の色彩値で表現することによって第1の画像機器の色域を定義し、第2画像データが示す色を機器非依存色空間内の色彩値で表現することによって第2の画像機器の色域を定義する。そして、機器非依存色空間内で色域マッピングを行うことによって第1画像データと第2画像データとの対応関係を規定する。
【0003】
このような色域マッピング技術において、画像機器が印刷装置である場合など、画像機器での出力色を測色することによって色彩値を特定して当該画像機器の色域が決められている場合、測色対象の数が作業可能な範囲の個数として予め決められた個数であることや測色誤差等に起因して色域の表面が滑らかな形状とならず、凹凸が発生する。このような凹凸は色変換精度を低下させ、色変換後の画像において本来存在すべきではない擬似輪郭等を発生させる。そこで、従来、色域の表面において大きな凹凸が発生している部分を平滑化する技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−253264号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の技術においては、色域の表面において大きな凹凸が発生している部分を平滑化することが開示されている。しかし、実際の色域の表面は全ての部分で凹凸が発生しており、特許文献1においてはどの程度の凹凸が存在する場合に大きな凹凸と見るべきであるのか何ら開示されていない。従って、実際には色域のどの部分を平滑化すべきであるのか特定されない。また、色域の表面の全てにおいて平滑化を行ったとしても平滑化の効果が得られる部分と得られない部分とが発生し得るため、非効率である。
本発明は前記課題にかんがみてなされたもので、色域の表面を効率的に平滑化する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するため、本発明においては、第1の画像機器の色域と明度が低下するにつれて表面の平滑度が低下する第2の画像機器の色域との対応関係に基づいて色変換を行う構成において、機器非依存色空間内で第2の画像機器の色域が第1の画像機器の色域よりも広い対象領域における対応関係が、第2の画像機器の色域の表面を平滑化して得られた色域内の色に第1の画像機器の色域内の色を対応付けることによって規定されている構成とする。すなわち、機器非依存色空間内で第2の画像機器の色域が第1の画像機器の色域よりも広い対象領域を特定する対象領域特定工程と、対象領域において第2の画像機器の色域の表面を平滑化する平滑化工程と、対象領域においては平滑化後の色域内の色に第1の画像機器の色域内の色を対応付け、対象領域以外の領域においては平滑化が行われていない色域内の色に第1の画像機器の色域内の色を対応付けて対応関係を規定する対応関係規定工程と、対応関係に基づいて第1の画像機器にて使用される第1画像データを第2の画像機器にて使用される第2画像データに変換する色変換工程とを含む色変換処理を行う構成とする。
【0007】
画像機器の色域は、有限個の色彩値を機器非依存色空間内にプロットすることによって最外郭に位置する色彩値に接する表面をもつ立体として表現される。このような色域の表現において、第2の画像機器の色域は、明度が低下するにつれて表面の平滑度が低下する。すなわち、明度が低下するにつれて表面の凹凸の程度が増加する。色域の表面は画像機器で表現可能な色と表現不可能な色との境界に相当するが、表現可能な色と表現不可能な色との間における実際の境界は、有限個の色彩値によって表現される色域の表面よりも滑らかである。従って、有限個の色彩値によって表現される色域の表面の平滑度が低下すると、有限個の色彩値によって表現される色域と実際の色域との乖離が大きくなり、色変換精度の低下要因となる。
【0008】
そして、第2の画像機器の色域は、明度が低下するにつれて表面の平滑度が低下するため、明度が低下するにつれて色変換精度が低下する傾向にある。しかし、色域の表面の平滑度が低下することによる色変換精度の低下の影響は、全ての色で顕在化するわけではない。第1画像データを第2画像データに変換するために第1の画像機器の色域と第2の画像機器の色域とを対応づける色域マッピングにおいては、第1の画像機器の色域の方が第2の画像機器の色域よりも広い領域において第1の画像機器の色域内の色を第2の画像機器の色域内に圧縮して色を対応づける(このような領域を圧縮領域と呼ぶ)。また、第2の画像機器の色域のほうが第1の画像機器の色域よりも広い領域において第1の画像機器の色域内の色を第2の画像機器の色域内に拡張して色を対応づける(このような領域を拡張領域と呼ぶ)。
【0009】
以上の圧縮領域と拡張領域とを比較すると、拡張領域においては圧縮領域よりも第1の画像機器の色域内の色同士の距離が機器非依存色空間内で引き延ばされることになるため、圧縮あるいは拡張後に対応づけられる第2画像機器内の色が不正確であると、その影響が顕著に現れ、特に色域表面における凹凸の影響を顕著に受けてしまう。従って、拡張領域においては圧縮領域よりも色変換精度の低下の影響が大きく現れる。そこで、機器非依存色空間内で第2の画像機器の色域が第1の画像機器の色域よりも広い拡張領域を対象領域とし、当該対象領域で第2の画像機器の色域の表面を平滑化して色域の対応関係を規定する。この結果、色域表面における凹凸の影響を顕著に受ける対象領域で当該凹凸の影響が現れないように色域の対応関係を規定することができ、また、色域表面における凹凸の影響が小さい領域に無用な平滑化を行うことなく色域の対応関係を規定することができる。従って、色域の表面を効率的に平滑化し、効率的に色変換精度の低下を抑制することが可能である。
【0010】
第1および第2の画像機器は、画像データを使用して所定の画像を扱う機器であれば良く例えば、ディスプレイ,印刷装置,スキャナー,デジタルカメラ等が画像機器に相当する画像機器を採用可能である。むろん、機器が別体でなくてもよく、例えば、第1の画像機器としてのスキャナーと第2の画像機器としての印刷装置とが一体になった複合機が本発明の実施形態となっても良い。
【0011】
第1の画像機器の色域は任意の状態で表現されていればよいが、第2の画像機器の色域は明度が低下するにつれて表面の平滑度が低下するように表現された状態である。ここで、平滑度は、明度変化に対する色域表面の凹凸の変化を評価可能な指標であれば良く、凹凸の程度が大きくなるほど当該平滑度が大きくなるように定義されていればよい。従って、例えば、隣接する色彩値間の変化を示す指標や明度変化に伴う彩度変化の標準偏差や分散等によって平滑度を評価してもよいし、第2の画像機器の色域の表面を構成する色彩値と第2の画像機器の色域の表面を平滑化して得られた色域の表面との色差の逆数によって評価してもよく、種々の構成を採用可能である。
【0012】
前記色域の対応関係は、第1の画像機器の色域と第2の画像機器の色域とを対応づける際に利用されていれば良い。従って、予め当該対応関係を利用して第1画像データと第2画像データとの対応関係を規定した色変換テーブルを作成しておき、当該色変換テーブルを参照して色変換を行う構成であっても良いし、色変換を行う際に、第1画像データを機器非依存色空間内のデータに対応づけ、当該データを上述の対応関係に基づいて変換し、変換結果から第2画像データを特定する処理を行っても良い。
【0013】
さらに、平滑化は、色域の表面の凹凸を抑制することができればよく、例えば、明度変化に対応する彩度変化を抑制するように色彩値を補正する構成を採用可能である。補正後の色彩値を取得するための構成としては種々の構成を採用可能であり、色域の表面に内接する面を定義する構成や色域の断面上で明度を変数とした近似関数を定義する構成など、種々の構成を採用可能である。
【0014】
上述の対象領域は、拡張領域に含まれていればよいが、色変換精度の低下がより顕在化する領域を対象領域とするための構成を採用しても良い。例えば、第2の画像機器がシアンとマゼンタとイエローの着色剤を印刷可能な印刷装置である場合において、対象領域に含まれる色がシアンの着色剤を利用して印刷される色であるように構成してもよい。すなわち、全色域において色域表面における凹凸の影響を評価した結果、シアンおよびシアン周辺のグリーン、ブルーを含む色相領域の色で、色変換精度の低下が顕在化することが判明した。
【0015】
そこで、シアンの着色剤を利用する、シアン、グリーン、ブルーを含む色相領域の色が含まれる領域を対象領域とすることで、色変換精度の低下が顕在化しやすい色において当該色変換精度の低下を防止することができる。なお、シアンとマゼンタとイエローの着色剤を印刷可能な印刷装置においては、むろん、他の色の着色剤を印刷可能であっても良い。また、濃度の異なる2種類のシアンの着色剤、例えば、シアンの着色剤とライトシアンの着色剤とが印刷可能な場合、双方がシアンの着色剤に含まれる。
【0016】
さらに、第2の画像機器の色域が第2の画像機器による複数の出力色を示す複数の色彩値によって表現される構成において、色彩値の明度が低下するほど機器非依存色空間内での複数の色彩値の密度が増加する領域を対象領域とする構成を採用しても良い。すなわち、色彩値の密度が相対的に大きい領域は、色彩値の密度が小さい領域と比較して色域の表面の形状を示す情報量が多くなるため正確に色域の表面の形状を表現できることが期待される。しかし、明度が低下するにつれて第2の画像機器の色域の表面の平滑度が低下し、かつ、明度が低下するにつれて色彩値の密度の増加する領域を想定すると、当該領域では隣接する色彩値間での変化が激しく、色域の表面の凹凸の空間周波数が大きい状態となる。そして、当該色域の表面の凹凸の空間周波数が大きい領域は、色変換精度の低下が顕在化する領域である。そこで、明度が低下するにつれて第2の画像機器の色域の表面の平滑度が低下し、かつ、明度が低下するにつれて色彩値の密度の増加する領域を対象領域とすれば、色変換精度の低下が顕在化しやすい色において当該色変換精度の低下を防止することができる。
【0017】
さらに、機器非依存色空間内での複数の色彩値の密度が基準の密度よりも大きい領域を対象領域とする構成を採用しても良い。すなわち、色彩値の密度が基準の密度よりも大きいことに伴って色変換精度の低下が顕在化する領域で第2の画像機器の色域の表面を平滑化する構成とする。この結果、色変換精度の低下が顕在化しやすい色において、確実に、当該色変換精度の低下を防止することができる。なお、基準の密度は、当該基準の密度よりも色彩値の密度が大きいことにより、平滑化をすることなく色域マッピングをすると色変換精度の低下が顕在化するような密度として定義されていればよい。具体的には、平滑化をすることなく色域マッピングを行った場合の色彩値の密度と色変換精度の低下の程度とを測定し、色変換精度の低下が許容されない色彩値の密度を特定してもよいし、色彩値の密度の平均値を基準の密度としても良く、種々の構成を採用可能である。
【0018】
さらに、平滑度が基準の平滑度よりも小さい領域を対象領域とする構成を採用しても良い。すなわち、平滑度が低下するほど色変換精度が低下する傾向にあるため、第2の画像機器の色域のほうが第1の画像機器の色域よりも広い拡張領域を対象領域としつつも、さらに、平滑度によって対象領域を限定することにより、より効率的に平滑化を実行することが可能になる。なお、基準の平滑度は、当該基準の平滑度よりも平滑度が小さいことにより、平滑化をすることなく色域マッピングをすると色変換精度の低下が顕在化するような平滑度として定義されていればよい。具体的には、平滑化をすることなく色域マッピングを行った場合の平滑度と色変換精度の低下の程度とを測定し、色変換精度の低下が許容されない平滑度を特定してもよいし、平滑度の平均値を基準の平滑度としても良く、種々の構成を採用可能である。
【0019】
さらに、本発明のように、拡張領域において第2の画像機器の色域の表面を平滑化する手法は、装置やプログラムとしても適用可能である。また、以上のような装置、プログラム、方法は、単独の装置として実現される場合もあれば、複合的な機能を有する装置において共有の部品を利用して実現される場合もあり、各種の態様を含むものである。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施形態にかかる色変換装置のブロック図である。
【図2】色変換テーブル作成処理のフローチャートである。
【図3】(3A)はスキャナーの色域を特定する様子を示す図、(3B)は印刷装置の色域を特定する様子を示す図である。
【図4】(4A)は色域を模式的に示す図、(4B)は色域の平滑化を示す図である。
【図5】(5A)は色域を模式的に示す図、(5B)は拡張領域の色域マッピングを示す図、(5C)は拡張領域の色域マッピングの変換前後の色の関係を示す図である。
【図6】(6A)は圧縮領域の色域マッピングを示す図、(6B)は圧縮領域の色域マッピングの変換前後の色の関係を示す図、(6C)は色彩値の密度の明度依存性を示す図である。
【図7】(7A)は色域表面の凹凸を示す図、(7B)は凹凸の大きさを色彩値と平滑化後の表面との距離で示す図である。
【図8】(8A)は色域表面の平滑化、(8B)は色域マッピングの補正を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
ここでは、下記の順序に従って本発明の実施の形態について説明する。
(1−1)色変換装置の構成:
(1−2)色変換テーブル作成処理:
(2)他の実施形態:
【0022】
(1−1)色変換装置の構成:
図1は、本発明にかかる色変換装置として機能する印刷装置10の構成を示すブロック図である。印刷装置10は、RAM,CPU等を備える制御部20とROM30とを備えており、ROM30に記録された印刷制御プログラム21を制御部20で実行して印刷を実行することができる。すなわち、制御部20は、印刷ヘッド41、駆動電圧生成部42、キャリッジドライバー43、モータードライバー44等からなる印刷機構によって印刷媒体上にインクを印刷することが可能である。
【0023】
本実施形態にかかる印刷装置10は、CMYK(C:シアン、M:マゼンタ、Y:イエロー、K:ブラック)のインクを印刷ヘッド41から吐出することが可能なインクジェットプリンターである。すなわち、印刷装置10は、印刷媒体の搬送経路に沿って設置された図示しない搬送ローラーを備えており、当該搬送ローラーに接続された図示しないモーターの回転駆動力によって搬送ローラーを回転させ、印刷媒体を印刷ヘッド41と図示しないプラテンの間の印刷領域に搬送し、さらに、印刷後の印刷媒体を搬送して印刷装置10から排出させることが可能である。モータードライバー44は、当該モーターに対して印加する電圧を生成する回路を備えており、制御部20が出力する制御信号に応じて、制御部20が指示したタイミングおよび回転駆動力でモーターを回転させるための電圧を生成し、モーターに対して印加する。
【0024】
印刷ヘッド41には、複数のノズルが形成されており、各ノズルからインク滴を吐出することができる。本実施形態においては、複数のノズルが一方向に並ぶノズル列が印刷ヘッド41に複数列形成されている。各ノズルは図示しないインクタンクに連結されたインク室の開口部であり、インク室の壁面はピエゾ素子の伸縮に応じて移動可能に構成されている。当該ピエゾ素子が伸縮すると、インク室の壁面の変動に連動してインク室の容積が変動し、インク室内のインクがノズルから吐出される。
【0025】
複数のノズルに対応する複数のピエゾ素子には、駆動電圧生成部42が接続されている。当該駆動電圧生成部42は、所定の波形の周期的な電圧を生成する回路を備えており、当該電圧がピエゾ素子に印加されることにより、当該ピエゾ素子が駆動してインク滴を吐出する。制御部20は、制御信号を出力することにより、駆動電圧生成部42が生成した電圧波形を選択して任意のノズルのピエゾ素子に対して印加させることができる。
【0026】
さらに、本実施形態において印刷ヘッド41は、図示しないキャリッジによって所定方向に往復動可能に構成されている。すなわち、キャリッジは、キャリッジドライバー43の制御によって、所定方向に印刷ヘッド41を移動させることが可能である。また、所定方向に対して垂直な方向に移動可能な範囲の端部まで印刷ヘッド41が達した場合、制御部20は、モータードライバー44に対して制御信号を出力し、印刷ヘッド41の移動方向に対して垂直な方向に印刷媒体を単位距離だけ搬送する。
【0027】
さらに、制御部20は、所定方向に印刷ヘッド41が単位距離だけ移動する度に、駆動電圧生成部42に対して制御信号を出力して所定の電圧波形を選択してピエゾ素子に当該電圧波形を印加してノズルからインクを吐出させる。この結果、制御部20は、印刷媒体にインクを記録して画像を印刷することができる。本明細書においては、所定方向に印刷ヘッド41を移動させる動作を主走査と呼ぶ。また、主走査の方向に垂直な方向に印刷媒体を搬送する動作を副走査と呼ぶ。
【0028】
また、制御部20は、記憶媒体I/F部40に挿入される記憶媒体から各種の入力画像機器(例えば、デジタルカメラやスキャナー)で作成した画像データを取得することが可能である。そして、制御部20は、印刷制御プログラム21の処理により、当該画像データに基づいて色変換処理を含む所定の処理を行って、インク色毎かつ画素毎に記録するインク量を特定し、当該インク量のインクを印刷ヘッド41から吐出させることによって印刷を実行することができる。
【0029】
具体的には、印刷制御プログラム21は、画像データ取得部21aと色変換処理部21bとハーフトーン処理部21cと並べ替え処理部21dとを備えている。印刷制御プログラム21による印刷制御処理は、利用者が図示しないユーザーインターフェースを利用して記憶媒体I/F部40に挿入される記憶媒体に記憶された画像を印刷対象として指定し、印刷実行の指示を行うことによって開始される。
【0030】
当該印刷制御処理において、制御部20は、画像データ取得部21aの処理により、印刷対象として指定された画像を示すRGB画像データ(R:レッド、G:グリーン、B:ブルー)を記憶媒体I/F部40に挿入された記憶媒体から取得し、印刷解像度に合致した画素数となるように画素数の調整を行う。なお、ここでは、スキャナー50(第1の画像機器)にてスキャンされた画像を示すRGB画像データ(第1画像データ)を記憶した記憶媒体40aを予め用意し、記憶媒体I/F部40に挿入された記憶媒体40aから上述のRGB画像データを取得する場合の例を説明する。なお、本例において、RGB画像データは、RGB色空間を利用して各画素の色を特定するデータである。
【0031】
次に、制御部20は、色変換処理部21bの処理により、RGB画像データを印刷装置10(第2の画像機器)で使用するCMYK画像データ(第2画像データ)に変換する。本実施形態において、印刷装置10は、CMYK各色のインクを利用して印刷を実行することが可能であるため、CMYK色空間を利用して各画素の色を示すCMYK画像データで画像を表現する。ここで、RGB画像データの表色系であるRGB色空間とCMYK画像データの表色系であるCMYK色空間とは双方とも機器依存色空間であるため、両者の変換を行うため、本実施形態においては予め色変換テーブル30aが作成されている。すなわち、色変換テーブル30aは、複数の代表点についてRGB各色の階調値の組み合わせとCMYK各色の階調値の組み合わせを対応づけたデータであり、制御部20は、色変換処理部21bの処理により、補間演算を実行することで、任意のRGB画像データをCMYK画像データとを対応づけることができる。
【0032】
(1−2)色変換テーブル作成処理:
色変換テーブル30aは、スキャナー50の色域と印刷装置10の色域との対応関係を機器非依存色空間(例えば、CIELAB等)で規定し、当該対応関係に従ってRGB画像データとCMYK画像データとを対応づけることによって作成される。図2は、当該色変換テーブル30aの作成処理を示すフローチャートである。当該処理は多数の演算処理を含むためコンピューターで実行されることが好ましく、ここではコンピューターが図2に示す色変換テーブル作成処理を実行することによって色変換テーブル30aを作成する例について説明する。
【0033】
本実施形態においてスキャナー50の色域はスキャナー50にてスキャンされた画像を示すRGB画像データで表現可能な複数の色に対応する複数の色彩値によって表現され、印刷装置10の色域は印刷装置10による複数の出力色を示す複数の色彩値によって表現される。すなわち、複数の色彩値(L***値等)が機器非依存色空間内でプロットされると、その最も外側に位置する色彩値が構成する多角形を連結することによって構成される立体が色域として認識される。
【0034】
そこで、図2に示す色変換テーブルの作成処理においては、まず、スキャナー50の色域が取得される(ステップS100)。本実施形態においては、RGB画像データの各色成分において階調数を所定数に均等に分割することで得られる階調値を組み合わせることによってサンプル色を特定する。本実施形態においては、256階調のRGB色成分を16個に分割して得られる階調値である0,15,,,239,255のそれぞれから任意の3個を抽出してRGBそれぞれの階調値とすることで作成される163個のRGB画像データをサンプル色とする。そして、163個のRGB階調値からなるサンプル色のそれぞれについて機器非依存色空間内での色彩値を特定する。
【0035】
具体的には、図3Aに示すように、色彩値が既知のパッチPtsをスキャナー50でスキャンし、パッチ毎のRGB画像データを特定する。各パッチの色彩値は既知であるため、パッチ毎のRGB画像データと色彩値を対応づければ、RGB画像データと色彩値との対応関係をパッチの数と同数だけ特定することができる。そこで、当該対応関係に基づいて補間演算を実行することにより、サンプル色のRGB画像データに対応する色彩値を特定することができる。なお、RGB画像データに対応する色彩値を特定するための構成は一例であり、他の構成、例えば、RGB画像データのRGB階調値がsRGB色空間の階調値であるとみなした場合の色彩値を特定する構成であってもよい。
【0036】
サンプル色のそれぞれについて機器非依存色空間内での色彩値が特定されると、機器非依存色空間内でスキャナー50の色域が特定される。すなわち、複数の色彩値が機器非依存色空間内でプロットされた状態において、その最も外側に位置する色彩値が構成する多角形を連結することによって構成される立体が色域として認識される。図3A,図4Aにおいては、このようにして表現された色域G1を破線によって模式的に示している。なお、図3A,図4Aにおいては、縦軸を明度、横軸を彩度としたグラフによって機器非依存色空間において明度に平行な方向に色域を切断した場合の断面が示されている。
【0037】
次に、印刷装置10の色域が取得される(ステップS105)。本実施形態においては、CMYK画像データの各色成分において階調数を所定数に均等に分割することで得られる階調値を組み合わせることによってサンプル色を特定する。例えば、256階調のCMYK色成分を16個に分割して得られる階調値である0,15,,,239,255のそれぞれから任意の4個を抽出してCMYKそれぞれの階調値とすることで作成される164個のCMYK画像データをサンプル色とする。そして、164個のCMYK階調値からなるサンプル色のそれぞれについて印刷装置10でパッチを印刷するとともに、パッチを測色することによって機器非依存色空間内での色彩値を特定する。具体的には、図3Bに示すように、印刷装置10にサンプル色のCMYK画像データを入力してサンプル色毎のパッチPtpを印刷し、印刷されたパッチを測色することによってパッチ毎の色彩値を特定する。この結果、サンプル色のCMYK画像データに対応する色彩値を特定することができる。
【0038】
サンプル色のそれぞれについて機器非依存色空間内での色彩値が特定されると、機器非依存色空間内で印刷装置10の色域が特定される。すなわち、複数の色彩値が機器非依存色空間内でプロットされた状態において、その最も外側に位置する色彩値が構成する多角形を連結することによって構成される立体が色域として認識される。図3B,図4Aにおいては、このようにして表現された色域G2を実線によって模式的に示している。
【0039】
図4Aに示すように、スキャナー50の色域G1と印刷装置10の色域G2とは、重複する部分もあるが、一方の色域のみに含まれる領域もある。そして、印刷装置10によって印刷を行う場合、印刷装置10の色域G2内に含まれる色しか出力することができないため、スキャナー50の色域G1と印刷装置10の色域G2との対応関係を色域マッピングで規定することになる。
【0040】
すなわち、機器非依存色空間内で印刷装置10の色域がスキャナー50の色域よりも広い領域において、スキャナー50の色域の表面が印刷装置10の色域の表面と一致するように、スキャナー50の色域内の各色について彩度が増加する方向に拡張する彩度拡張処理を行う。また、機器非依存色空間内でスキャナー50の色域が印刷装置10の色域よりも広い領域において、スキャナー50の色域の表面が印刷装置10の色域の表面と一致するように、スキャナー50の色域内の各色について所定の圧縮中心に向けて圧縮する圧縮処理を行う。この結果、スキャナー50の色域内の各色について彩度拡張処理あるいは圧縮処理を行った後の色域と印刷装置10の色域とが一致するため、彩度拡張処理および圧縮処理前のRGB画像データとCMYK画像データとが一致するとみなすことで対応関係を規定する。
【0041】
以上のような色域マッピングを行えば、スキャナー50の色域と印刷装置10の色域との対応関係を規定することができる。しかし、色域は、上述のように163個や164個など、所定数の色彩値で表現され、当該色彩値の数が充分に多数ではないために、色変換精度の低下要因となる凹凸が色域表面に発生し得る。すなわち、色域の表現に際してRGB画像データとCMYK画像データとにおいて各色成分の全階調値を組み合わせて色彩値を特定しようとすると、2563個や2564個の色彩値になるなど機器非依存色空間内で色域を特定する作業を行うために非現実的な数となるため、実際には予め決められた上述の所定数の色彩値で色域が表現される。そして、当該所定数の色彩値で色域が表現されることに伴って、色域の表面には凹凸が発生し、特に本実施形態の印刷装置10の色域を所定数の色彩値で表現した場合、CMYK色成分の階調域を均等に分割して得られる階調値を組み合わせることによってサンプル色を選定することに起因して、色彩値の明度が低下するにつれて色域の表面の平滑度が低下する。
【0042】
図4Bは、図4Aに示す色域G2の表面上の一点鎖線で示す部分Pを拡大して示す図であり、当該同図4Bにおいては、黒丸で印刷装置10の色域G2の表面を構成する色彩値を示している。このように、色彩値を機器非依存色空間にプロットすると、黒丸を結ぶ実線の直線が色域G2の表面として認識される。そして、本実施形態においては、図4Bに示すように、色域G2の表面に彩度方向への凹凸が見られる。
【0043】
ここで、黒丸で示す色彩値を印刷するための元のデータであるCMYK画像データは、パッチの印刷と測色の作業を実際の実行可能な範囲の数となるようにCMYK色成分の階調域を均等に分割して得られる階調値を組み合わせることによって選定されている。しかし、CMYKの着色剤を印刷媒体に印刷した場合、階調値の増加に伴って明度が線形的に変化するわけではなく、インク量が多く低明度の色においては階調値の増加に伴う明度の変化が徐々に小さくなる。従って、階調域を均等に分割して得られる階調値を組み合わせて選定したサンプル色でパッチを印刷すると、低明度の色が多く印刷されることになる。
【0044】
この結果、色域を構成する色彩値の密度は低明度域で高明度域よりも多くなるが、サンプル色の数は印刷装置10で表現可能な色の総数と比較して極めて少ない数であるため、図4Bに示すように色域G2の表面に凹凸が発生することは避けられない。ここで、印刷装置10の色域G2の表面を平滑化して得られた色域の表面Fと印刷装置10の色域G2の表面を構成する色彩値(黒丸)との色差の逆数によって平滑度を定義すると、色域G2においては、明度が低下するほど表面の平滑度が低下することとなる。例えば、図4Bにおいて、印刷装置10の色域G2の表面を構成する色彩値(黒丸)のうち、色域G2の表面上で凹部を形成する色彩値に接する包絡線(一点鎖線)が印刷装置10の色域G2の表面を平滑化して得られた色域の表面Fであるとみなす。さらに、表面Fと当該表面F上にない色彩値(色域G2の表面上で凸部を形成する色彩値)との色差(D1〜D4)を特定すれば、当該色差の逆数が平滑度であるとみなすことができる。なお、ここでは、色域G2の表面の平滑度を説明するために色域G2の表面を平滑化した場合を想定して説明を行ったが、実際に平滑化を行う対象は後述する対象領域である。
【0045】
図4Bに示す色域G2の表面においては、色差が明度の低下に従って大きくなるため、その逆数である平滑度は明度の低下に従って低下することになる。このように、色域G2において明度が低下するほど表面の平滑度が低下すると、色域G2においては明度が低下するほど色変換精度の低下要因が増大することとなる。しかし、色域の表面の平滑度が低下することによる色変換精度の低下の影響は、全ての色で顕在化するわけではない。そして、上述の圧縮処理が行われる圧縮領域と彩度拡張処理が行われる拡張領域とを比較すると、拡張領域においては圧縮領域よりもスキャナー50の色域内の色同士の距離が機器非依存色空間内で引き延ばされることになるため、拡張領域においては圧縮領域よりも色変換精度の低下の影響が大きく現れる。さらに、出願人の解析によると、シアンの着色剤を利用する、シアン、グリーン、ブルーを含む色相領域の色で、色変換精度の低下が顕在化することが判明した。
【0046】
そこで、本実施形態においては、以上のような色域マッピングにおいて、シアンの着色剤を利用する、シアン、グリーン、ブルーを含む色相領域であり、彩度拡張処理が行われる拡張領域を対象領域として印刷装置10の色域表面の平滑化を行う(ステップS110)。本実施形態においては、まず、シアンの着色剤を利用して印刷された色が含まれる領域を特定する。図5Aは、スキャナー50の色域G1の表面あるいは稜線を破線、印刷装置10の色域G2の表面あるいは稜線を実線によって模式的に示している。なお、図5Aにおいては縦軸をL***空間のa*軸、横軸をb*軸とし、色域G1および色域G2をL*軸に沿って高明度側から眺めた状態を示している。図5AはL***空間での色域の様子を示しているため、原点がホワイトであり、色相角90°付近に存在する実線あるいは破線で示す稜線がイエロー稜線Y1、Y2、色相角320°〜360°付近に存在する実線あるいは破線で示す稜線がマゼンタ稜線M1、M2、色相角220°付近に存在する実線あるいは破線で示す稜線がシアン稜線C1、C2である。そして、本実施形態においては、一点鎖線の直線に囲まれた一点鎖線の太い矢印で示す領域Rcがシアンの着色剤が利用されて印刷が行われる色相領域である。そこで、ステップS110においては、まず、機器非依存色空間内で、シアンの着色剤が利用されて印刷が行われる色相領域Rcが特定される。
【0047】
さらに、当該色相領域Rc内に含まれる拡張領域を特定する。本実施形態においては、すなわち、色相領域Rc内において、明度軸を含む色域G1および色域G2の断面を複数の色相角について特定し、各色相角の断面において色域G1の表面が色域G2の表面よりも明度軸に近い拡張領域を特定して対象領域とする。そして、当該対象領域内の色域G2の表面上で凹部を形成する色彩値を特定し、特定された色彩値に接する包絡線を特定することによって色域G2の表面を平滑化する。例えば、図4Bに示す色域の断面が対象領域である場合、当該色域G2の表面が平滑化されて包絡線が特定され、平滑化された表面Fが特定される。なお、本実施形態において、対象領域以外の領域については平滑化が行われない。例えば、図4Aに示す右側の領域がシアン領域Rcである場合、当該シアン領域Rcの拡張領域は対象領域となって平滑化が行われ、左側の非シアン領域においては拡張領域であっても平滑化が行われない。
【0048】
平滑化が行われると、次に、拡張領域にて彩度拡張処理が実施される(ステップS115)。すなわち、対象領域においては平滑化された表面Fを色域マッピングの対象とし、対象領域以外の領域においては色域G2の表面を色域マッピングの対象とする。そして、色域マッピングの対象とされた表面が、スキャナー50の色域G1よりも広い(明度軸から遠い)部分を抽出し、スキャナー50の色域の表面が色域マッピング対象の表面(表面Fあるいは色域G2の表面)と一致し、かつ、スキャナー50の色の彩度が大きくなるように線形的にスキャナー50の色域を変化させる。例えば、図5Bにおいては、左下から右上に向かう直線で構成されるハッチングによって拡張領域Exを示しており、拡張領域Exのそれぞれにおいてスキャナー50の色域G1の表面上の色が印刷装置10の色域G2の表面上の色に一致するように彩度拡張処理が行われる。例えば、図5Cにおいて実線で示すような関係で変換前の彩度C*0を彩度C*1に変換する。なお、図5Cにおいては、横軸に変換前の彩度C*0、縦軸に変換後の彩度C*1を示しており、彩度拡張を行わない場合の変換前後の関係を一点鎖線で示し、彩度拡張を行う場合の変換前後の関係を実線で示している。当該図5Cに示す実線は、スキャナー50の色域G1の表面上の色C11と印刷装置10の色域G2の表面上の色C12とを結ぶ直線上の色についての変換前後の関係を示している。すなわち、当該直線上の色において、スキャナー50の色域G1の表面上の色C11は図5Bに示すように印刷装置10の色域G2の表面上の色C12に一致し、色C11よりも内側の色は、各色の彩度に(色C12の彩度C*12/色C11の彩度C*11)を乗じた彩度となるように対応付けが行われる。
【0049】
彩度拡張処理が実施されると、次に、圧縮領域にて圧縮処理が実施される(ステップS120)。すなわち、印刷装置10の色域G2の表面がスキャナー50の色域G1よりも狭い(明度軸に近い)部分を抽出する。そして、スキャナー50の色域G1の表面が色域マッピング対象の表面(色域G2の表面)と一致し、かつ、スキャナー50の色がマッピングターゲット点に近づくように線形的にスキャナー50の色域を変化させる。例えば、図6Aにおいては、右下から左上に向かう直線で構成されるハッチングによって圧縮領域Cmpを示しており、圧縮領域Cmpのそれぞれにおいてスキャナー50の色域G1の表面上の色が印刷装置10の色域G2の表面上の色に一致するように、スキャナー50の色域G1の表面上の色がマッピングターゲット点Tに向けて圧縮される。例えば、図6Bにおいて実線で示すような関係で変換前の色とマッピングターゲット点Tとの距離(色差)ΔE0が、変換後の色とマッピングターゲット点Tとの距離(色差)ΔE1に変換されるように色を変換する。なお、図6Bにおいては、横軸に変換前の距離ΔE0、縦軸に変換後の距離ΔE1を示しており、圧縮処理を行わない場合の変換前後の関係を一点鎖線で示し、圧縮処理を行う場合の変換前後の関係を実線で示している。当該図6Bに示す実線は、スキャナー50の色域G1の表面上の色C21と印刷装置10の色域G2の表面上の色C22とを結ぶ直線上の色についての変換前後の関係を示している。すなわち、当該直線上の色において、スキャナー50の色域G1の表面上の色C21は図6Aに示すように印刷装置10の色域G2の表面上の色C22に一致し、色C21よりも内側の色は、圧縮後の各色とマッピングターゲット点Tとの距離が、圧縮前の各色とマッピングターゲット点Tとの距離に(色C22と点Tとの距離ΔE12/色C21と点Tとの距離ΔE11)を乗じた距離となるように対応付けが行われる。
【0050】
以上の処理によれば、印刷装置10の色域G2の表面における凹凸の影響を顕著に受ける対象領域で当該凹凸の影響が現れないように色域の対応関係を規定することができ、また、色域表面における凹凸の影響が小さい領域に無用な平滑化を行うことなく色域の対応関係を規定することができる。従って、色域の表面を効率的に平滑化することができる。
【0051】
以上のようにして色域の対応関係を規定すると、次に、得られた対応関係に基づいてRGB画像データとCMYK画像データとを対応づけた色変換テーブル30aが取得される(ステップS125)。すなわち、任意のRGB画像データに対応する色彩値は、補間演算によって特定することが可能であり、ステップS115,S120にて特定された対応関係を参照すれば、色域G1内の任意の色彩値に対応する色域G2内の色彩値を特定することができる。そこで、以上の関係を利用して、RGB画像データとCMYK画像データとが対応づけられることによって色変換テーブル30aが作成される。この結果、制御部20が、当該色変換テーブル30aを参照して、RGB画像データをCMYK画像データに変換することにより、色変換精度の低下が抑制された状態で変換を行うことが可能である。すなわち、予め作成された色変換テーブル30aを参照して色変換処理を行うことにより、対象領域については印刷装置10の色域G2の表面を平滑化し、対象領域以外の領域については印刷装置10の色域G2の表面を平滑化していない状態で色域マッピングを行った結果規定された対応関係に基づいて色変換を実行することになる。従って、対象領域特定工程、平滑化工程、対応関係規定工程は色変換工程が開示される前に予め実行されていればよく、色変換工程の前の工程までを印刷装置10の出荷前に実行して色変換テーブル30aを作成し、色変換工程を印刷装置10にて実行する構成で本発明の一実施形態を構成することが可能である。
【0052】
印刷装置10が備える制御部20が、色変換処理部21bの処理によって色変換テーブル30aを参照した色変換処理を実行すると、次に、制御部20は、ハーフトーン処理部21cの処理によって、ハーフトーン処理を実行する。すなわち、制御部20は、CMYK画像データが示す各画素のCMYK階調値に基づいて、画素毎にインク滴の吐出の有無を示すデータを生成する。
【0053】
次に、制御部20は、並べ替え処理部21dの処理により、ハーフトーン処理後のデータを並べ替える並べ替え処理を行う。すなわち、制御部20は、各画素を印刷対象となる順序に従って並べ替える。そして、制御部20は、並べ替え後の順序でハーフトーン処理後のデータを駆動電圧生成部42に転送し、当該データの印刷に同期してキャリッジを駆動させるためのデータをキャリッジドライバー43に転送し、当該データの印刷に同期して印刷媒体を搬送するためのデータをモータードライバー44に転送する。この結果、印刷ヘッド41の各ノズルからハーフトーン処理後のデータに応じたインク滴が吐出され、キャリッジによる主走査および搬送ローラーによる副走査が行われ、印刷媒体上に画像が印刷される。以上の処理によれば、色変換精度の低下が抑制された状態で画像を印刷することが可能である。
【0054】
(2)他の実施形態:
以上の実施形態は本発明を実施するための一例であり、拡張領域において第2の画像機器の色域の表面を平滑化する限りにおいて、他にも種々の実施形態を採用可能である。例えば、上述の印刷装置10の色域G2の平滑度は、単調に低下する構成の他、段階的に低下する構成でも良い。また、明度の低下に伴って傾向として低下する構成であっても良い。例えば、微小な明度低下に伴って平滑度が増大することがあるとしても、所定単位以上の明度低下を考えた場合に平滑度が低下すればよい。
【0055】
さらに、色彩値の明度が低下するほど機器非依存色空間内での複数の色彩値の密度が増加する領域を対象領域として色域G2の表面を平滑化しても良い。すなわち、色彩値の密度が相対的に大きい領域は、色彩値の密度が小さい領域と比較して色域の表面の形状を示す情報量が多くなるため正確に色域の表面の形状を表現できることが期待される。しかし、明度が低下するにつれて印刷装置10の色域G2の表面の平滑度が低下し、かつ、明度が低下するにつれて色彩値の密度の増加する領域を想定すると、当該領域では隣接する色彩値間での変化が激しく、色域の表面の凹凸の空間周波数が大きい状態となる。そして、当該色域の表面の凹凸の空間周波数が大きい領域は、色変換精度の低下が顕在化する領域である。
【0056】
例えば、図4Bに示す例においては、縦方向の破線矢印で示す単位明度範囲のそれぞれについて当該単位明度範囲に含まれる色彩値の数を示しており、色彩値の数が明度低下に伴って2個、3個、4個と増加している。図6Cは、図4Bに示すような明度軸に垂直な断面に沿った印刷装置10の色域G2の表面上の色彩値の変化を示す図であり、横軸を明度、縦軸を密度(個/単位明度範囲)とし、単位明度範囲毎の色彩値の個数を棒グラフで示している。図6Cに示すように、単位明度範囲に含まれる色彩値の数が明度低下に伴って増加する領域は、明度変化に伴って色変換精度が低下する。そこで、明度が低下するにつれて印刷装置10の色域G2の表面の平滑度が低下し、かつ、明度が低下するにつれて色彩値の密度の増加する領域を対象領域とすれば、色変換精度の低下が顕在化しやすい色において当該色変換精度の低下を防止することができる。例えば、図6Cに示す明度L*1よりも明度が大きい場合には、明度が低下するにつれて色彩値の密度が減少するが、明度L*1よりも明度が小さい場合には、明度が低下するにつれて色彩値の密度が増加する。そこで、明度L*1よりも明度が小さく、かつ、明度が低下するにつれて印刷装置10の色域G2の表面の平滑度が低下する領域を対象領域とすればよい。
【0057】
さらに、機器非依存色空間内での複数の色彩値の密度が基準の密度よりも大きい領域を対象領域とする構成を採用しても良い。例えば、図4Bに示す例において、単位明度範囲の色彩値の数が3個以上の場合に、その領域を対象領域として平滑化を行う構成等を採用可能である。この場合、図6Cに示すような印刷装置10の色域G2の表面上の色彩値では、明度L*2よりも明度が小さい領域において単位明度範囲の色彩値の数が3個以上となる。そこで、明度L*2よりも明度が小さく、かつ、明度が低下するにつれて印刷装置10の色域G2の表面の平滑度が低下する領域を対象領域とすればよい。すなわち、基準の密度よりも色彩値の密度が大きいことにより、平滑化をすることなく色域マッピングをすると色変換精度の低下が顕在化するような密度として当該基準の密度を定義すれば、色変換精度の低下が顕在化しやすい色において、確実に、当該色変換精度の低下を防止することができる。
【0058】
さらに、印刷装置10の色域G2の表面の平滑度が基準の平滑度よりも小さい領域を対象領域とする構成を採用しても良い。例えば、図4Aに示す例において、色域G2の表面の色彩値の彩度方向に平行な凹凸の大きさが基準の大きさを超えるか否かを、明度軸を含む域G2の断面において明度軸に沿って明度が低下する方向に判定していき、色彩値の彩度方向に平行な凹凸の大きさが基準の大きさを超えた場合に、その明度以下の領域を対象領域とする構成等を採用可能である。図7Aは、図4Bと同様の色彩値の配置において、色域G2の表面の色彩値の彩度方向に平行な凹凸の大きさをΔ1〜Δ4で示した図である。このように、包絡線として特定された表面F上に存在しない色彩値と包絡線との距離(色差)を彩度方向に特定すれば、平滑度に相当する凹凸の大きさを評価することができる。図7Bは、図7Aに示すような明度軸に垂直な断面に沿った印刷装置10の色域G2の表面における色彩値の凹凸の明度変化を示す図であり、横軸を明度、縦軸を表面F上に存在しない色彩値と包絡線との距離とし、明度毎の距離を棒グラフで示している。
【0059】
また、図7Bにおいては、色域G2の表面の色彩値の彩度方向に平行な凹凸に関する基準の大きさに相当する距離をΔthで示している。従って、凹凸に関する基準の大きさがΔthより大きくなる明度、すなわち、図7Bにおいて明度L*3以下の明度領域を対象領域とする。なお、凹凸に関する基準の大きさに対応する基準の平滑度は、当該基準の平滑度よりも平滑度が小さいことにより、平滑化をすることなく色域マッピングをすると色変換精度の低下が顕在化するような平滑度として定義されていればよい。この構成によれば、色変換精度の低下が顕在化しやすい色において、確実に、当該色変換精度の低下を防止することができる。
【0060】
さらに、拡張領域においてのみ色域G2の表面を平滑化する構成としても良い。上述の圧縮処理が行われる圧縮領域と彩度拡張処理が行われる拡張領域とを比較すると、拡張領域においては圧縮領域よりもスキャナーの色域内の色同士の距離が機器非依存色空間内で引き延ばされることになるため、拡張領域においては圧縮領域よりも色変換精度の低下の影響が大きく現れるからである。
【0061】
さらに、平滑化は、色彩値の包絡線を特定する構成の他にも種々の構成を採用可能である。図8Aは、図4Bと同様の色彩値の配置において、色彩値と平滑化した後の表面F1との差分が最小になるように当該表面F1を特定する例を示しており、当該表面F1を平滑化後の色域G2の表面とみなしても良い。そして、平滑化後の色域G2の表面F1を色域マッピング対象とする。但し、平滑化後の色域G2の表面F1上の色であって、平滑化前の色域G2の表面よりも外側にマッピングされる色彩値は色域G2の外部となり得るため、色域G2の内部に含まれるように再マッピングする。
【0062】
例えば、図8Bにおいては、平滑化後の色域G2の表面F1を色域マッピング対象として色域マッピングを行った場合の色を白丸および黒丸によって示している。同図8Bに示すように、色域マッピングによると、平滑化前の色域G2の外部にマッピングされる色Vout(白丸)と色域G2の内部にマッピングされる色Vin(黒丸)とが発生するが、平滑化前の色域G2の外部にマッピングされる色Voutについては、破線の矢印で示すように、マッピング後の色を色域G2の表面の色に補正する。この構成によれば、平滑化した表面F1あるいは平滑化した表面F1に近い色に色域マッピングをすることができ、かつ、色域G2内の色にマッピングをすることができる。この構成においても、色変換精度の低下が顕在化しやすい色において色変換精度の低下を防止することができる。
【符号の説明】
【0063】
10…印刷装置、20…制御部、21…印刷制御プログラム、21a…画像データ取得部、21b…色変換処理部、21c…ハーフトーン処理部、21d…処理部、30…ROM、30a…色変換テーブル、40…記憶媒体I/F部、40a…記憶媒体、41…印刷ヘッド、42…駆動電圧生成部、43…キャリッジドライバー、44…モータードライバー、50…スキャナー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の画像機器の色域と明度が低下するにつれて表面の平滑度が低下する第2の画像機器の色域との対応関係に基づいて、前記第1の画像機器にて使用される第1画像データを前記第2の画像機器にて使用される第2画像データに変換する色変換方法であって、
機器非依存色空間内で前記第2の画像機器の色域が前記第1の画像機器の色域よりも広い対象領域を特定する対象領域特定工程と、
前記対象領域において前記第2の画像機器の色域の表面を平滑化する平滑化工程と、
前記対象領域においては平滑化後の前記色域内の色に前記第1の画像機器の色域内の色を対応付け、前記対象領域以外の領域においては平滑化が行われていない前記色域内の色に前記第1の画像機器の色域内の色を対応付けて前記対応関係を規定する対応関係規定工程と、
前記対応関係に基づいて前記第1の画像機器にて使用される第1画像データを前記第2の画像機器にて使用される第2画像データに変換する色変換工程と、
を含むことを特徴とする色変換方法。
【請求項2】
前記第2の画像機器はシアンとマゼンタとイエローの着色剤を印刷可能な印刷装置であり、
前記対象領域特定工程では、前記シアンの着色剤を利用して印刷される色が存在する領域を前記対象領域とする、
ことを特徴とする請求項1に記載の色変換方法。
【請求項3】
前記第2の画像機器の色域は前記第2の画像機器による複数の出力色を示す複数の色彩値によって表現され、
前記対象領域特定工程では、前記色彩値の明度が低下するほど前記機器非依存色空間内での前記複数の色彩値の密度が増加する領域を前記対象領域とする、
ことを特徴とする請求項1または請求項2のいずれかに記載の色変換方法。
【請求項4】
前記第2の画像機器の色域は前記第2の画像機器による複数の出力色を示す複数の色彩値によって表現され、
前記対象領域特定工程では、前記機器非依存色空間内での前記複数の色彩値の密度が基準の密度よりも大きい領域を前記対象領域とする、
ことを特徴とする請求項1または請求項2のいずれかに記載の色変換方法。
【請求項5】
前記対象領域特定工程では、前記平滑度が基準の平滑度よりも小さい領域を前記対象領域とする、
ことを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれかに記載の色変換方法。
【請求項6】
請求項1〜請求項5のいずれかに記載の色変換方法で変換された第2画像データに基づいて印刷装置に印刷を実行させることを特徴とする印刷方法。
【請求項7】
第1の画像機器の色域と明度が低下するにつれて表面の平滑度が低下する第2の画像機器の色域との対応関係に基づいて、前記第1の画像機器にて使用される第1画像データを前記第2の画像機器にて使用される第2画像データに変換する色変換装置であって、
機器非依存色空間内で前記第2の画像機器の色域が前記第1の画像機器の色域よりも広い対象領域を特定する対象領域特定手段と、
前記対象領域において前記第2の画像機器の色域の表面を平滑化する平滑化手段と、
前記対象領域においては平滑化後の前記色域内の色に前記第1の画像機器の色域内の色を対応付け、前記対象領域以外の領域においては平滑化が行われていない前記色域内の色に前記第1の画像機器の色域内の色を対応付けて前記対応関係を規定する対応関係規定手段と、
前記対応関係に基づいて前記第1の画像機器にて使用される第1画像データを前記第2の画像機器にて使用される第2画像データに変換する色変換手段と、
を備えることを特徴とする色変換装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−186749(P2012−186749A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−49927(P2011−49927)
【出願日】平成23年3月8日(2011.3.8)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】