説明

色素化合物及びこれを用いた色素増感太陽電池、並びに色素溶液

【課題】色素増感太陽電池の製造コストを低減させ、光電変換効率を向上させるため、色素増感太陽電池の電池効率を向上できる新規な色素分子を提供する。
【解決手段】下記式(I)で表される構造を有する色素化合物またはその塩、及び前記色素化合物またはその塩を用いて作製した色素増感太陽電池。


式中、R1及びR2は、それぞれ独立に、水素原子、C1〜C12アルキル基、C1〜C12アルコキシ基またはハロゲンであり、D1及びD2は、それぞれ独立に、C1〜C12アルキル基であり、または、D1とD2は隣接する窒素原子と共に複素環を形成してもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、色素化合物及びこれを用いて作製した光電素子、特に色素増感太陽電池(Dye−Sensitized Solar Cell、DSSC)に適用される色素化合物及び色素増感太陽電池に関する。
【背景技術】
【0002】
人類の文明が発展するにつれて、世界中が深刻なエネルギー危機及び環境汚染などの問題に直面することになった。太陽エネルギーを直接電力に変換することができる太陽電池は、全世界のエネルギー危機の解決と環境汚染の低減を達成する重要な手段の一つとなっている。太陽電池の中でも、色素増感太陽電池は、製造コストが低く、大面積の製造が可能であり、可撓性と光透過性を有して、建築物に使用することが可能であるなどの優れた特性を有するため、極めて有望な新型の太陽電池となってきている。
【0003】
近年、Gratzelらによって一連の色素増感太陽電池に関連する文献(例えばO'Regan, B.; Gratzel, M. Nature 1991, 353, 737)が発表され、色素増感太陽電池が実用性を有することが明らかになっている。一般的に、色素増感太陽電池の構造にはアノード/カソード電極、ナノサイズの二酸化チタン、色素及び電解質が含まれ、その内、色素は電池効率に大きな影響を与える要素である。
【0004】
ルテニウム錯体は、現在知られているものの中では光電変換効率が比較的に高い光増感色素であるが、そのコストは高く、大量使用した後、供給不足の問題に直面することとなる。有機増感色素は、高いモル吸収係数を有すること及び分子設計の自由度が大きいことなどの優れた点があるため、異なる色の色素増感太陽電池を製造でき、色素増感太陽電池の応用の幅を広げ、物品によって異なる色の色素増感太陽電池を合わせることができる。最近、クマリン(Coumarin)(Hara, K.; Sayama, K.; Arakawa, H.; Ohga, Y.; Shinpo, A.; Sug, S.Chem. Commun. 2001, 569)、インドリン(Indoline)(Horiuchi, T.; Miura, H.; Sumioka, K.; Uchida, S. J. Am. Chem. Soc. 2004, 126, 12218)、およびメロシアニン(Merocyanine)(Otaka, H.; Kira, M.; Yano, K.; Ito, S.; Mitekura, H.; Kawata, T.; Matsui, F. J. Photochem. Photobiol. A: Chem. 2004, 164, 67)などの色素誘導体が既に色素増感太陽電池の製造に用いられている。
【0005】
また、米国特許公開第2010/0122729A1号公報には、より優れた光電変換効率を備えたフルオレニル基を有する色素化合物が開示されている。しかし、通常、有機光増感色素の合成工程は複雑であり、工程条件のコントロールが難しい。このような状況に鑑み、日本特許第4442105号公報によって、吸光能を有するスペーサー(spacer)の構造を簡略化して、一定の光電変換効率を維持する他の色素化合物が提供されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許公開第2010/0122729A1号公報
【特許文献2】特許第4442105号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Hara, K.; Sayama, K.; Arakawa, H.; Ohga, Y.; Shinpo, A.; Sug, S.Chem. Commun. 2001, 569
【非特許文献2】Horiuchi, T.; Miura, H.; Sumioka, K.; Uchida, S. J. Am. Chem. Soc. 2004, 126, 12218
【非特許文献3】Otaka, H.; Kira, M.; Yano, K.; Ito, S.; Mitekura, H.; Kawata, T.; Matsui, F. J. Photochem. Photobiol. A: Chem. 2004, 164, 67
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
色素増感太陽電池における色素が、電池効率に大きな影響を与えるため、色素増感太陽電池の電池効率を向上できる色素分子を探すことは、色素増感太陽電池の効率を改善する重要な方法の一つである。また、その色素化合物の合成方法とその色素化合物の構造を簡略化することにより、色素増感太陽電池の製造コストを低減させ、光電変換効率を向上させることは、早期解決が望まれる課題となっている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、下記式(I)で表される構造を有する色素化合物またはその塩である、色素増感太陽電池に適用される新規な色素化合物を提供する。
【0010】
【化1】

【0011】
及びRは、それぞれ独立に、水素原子、C〜C12アルキル基、C〜C12アルコキシ(alkoxy)基またはハロゲンであり、且つ、
及びDは、それぞれ独立に、C〜C12アルキル基であり、または、DとDは隣接する窒素原子と共に
【0012】
【化2】

を形成する。
【0013】
一つの具体的な実施例において、前記色素化合物におけるR及びRはいずれもブチル基であり、D及びDはいずれもブチル基である。
【0014】
また、一つの具体的な実施例において、前記色素化合物におけるR及びRはそれぞれ独立にC〜C12アルキル基であり、DとDは隣接する窒素原子と共に
【0015】
【化3】

を形成する。例えば、R及びRはいずれもブチル基であり、DとDは隣接する窒素原子と共に
【0016】
【化4】

を形成する。あるいは、R及びRはいずれもエチル基であり、DとDは隣接する窒素原子と共に
【0017】
【化5】

を形成する。
【0018】
上記式(I)で表される色素化合物の具体的な例としては、
【0019】
【化6】

【0020】
【化7】

【0021】
【化8】

が挙げられる。
【0022】
本発明において、化合物分子は、遊離酸の形で表されるが、その実際の形は塩類であってもよく、さらに、アルカリ金属塩または第四級アンモニウム塩であってもよい。
【0023】
また、上記色素化合物は色素増感太陽電池に使用される色素化合物である。
【0024】
本発明は、合成工程が少なく、工程をコントロールしやすく、合成コストが低く、合成方法が簡単である色素化合物を提供する。
【0025】
また、本発明は、より高い光電変換効率を有する色素増感太陽電池を提供する。その色素増感太陽電池は本発明の色素化合物を含有する。本発明の色素増感太陽電池は、本発明の色素化合物を含有する光電アノード(photoanode)、カソード(cathode)、及び光電アノードとカソードとの間にある電解質層(electrolyte layer)を含む。
【0026】
本発明の色素増感太陽電池において、光電アノードは、透明基板、透明導電膜、多孔質半導体膜、及び色素化合物を含む。その内、色素化合物は上述した色素化合物である。
【0027】
本発明の色素増感太陽電池において、光電アノードにおける透明基板の材質は特に制限がなく、透明な基材であればいずれも使用可能である。好ましくは、透明基板の材質は、色素増感太陽電池の外から侵入した水分もしくは気体に対する優れた遮断性、耐溶剤性、耐候性などを有する透明基材である。透明基板の具体的な例としては、石英、ガラスなどの透明無機基板、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリカーボネート(PC)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリイミド(PI)などの透明プラスチック基板が挙げられるが、それらに限定されない。また、透明基板の厚さは特に制限がなく、光透過率、色素増感太陽電池の特性の要求に応じて自由に選ぶことができる。好ましくは、透明基板の材質はガラスである。
【0028】
また、本発明の色素増感太陽電池において、透明導電膜の材料は、酸化インジウムスズ(ITO)、フッ素をドープした酸化スズ(FTO)、酸化亜鉛−酸化ガリウム(ZnO−Ga2O3)、酸化亜鉛−酸化アルミニウム(ZnO−Al2O3)、又はスズを基材とした酸化物材料であっても良い。
【0029】
さらに、本発明の色素増感太陽電池において、多孔質半導体膜は、半導体微粒子を用いて作製されたものである。適宜な半導体微粒子には、シリコン、二酸化チタン、二酸化スズ、酸化亜鉛、三酸化タングステン、五酸化ニオブ(Nb2O5)、三酸化チタンストロンチウム(SrTiO3)及びその組み合わせの一種または複数種であってもよい。好ましい半導体微粒子は二酸化チタンである。半導体微粒子の平均粒径は5nm〜500nmであり、好ましくは10nm〜50nmである。多孔質半導体膜の厚さは5μm〜25μmである。
【0030】
また、色素増感太陽電池におけるカソードの材料としては、特に制限がなく、伝導性を有するいずれの材料であってもよい。あるいは、光電アノードに対向する基材表面に伝導層さえ形成されていれば、カソード材料は絶縁材料であっても良い。カソードとしては電気化学的に安定な物質を使用することができ、カソード材料に適用される非制限的な例としては白金、金、炭素、及びその類似物が含まれる。
【0031】
また、色素増感太陽電池における電解質層としては、特に制限がなく、電子及び/または正孔伝導性を有するいずれの材料であってもよい。
【0032】
一方、さらに、本発明は、(A)含有量が0.01重量%〜1重量%である本発明の色素化合物、(B)含有量が99.99重量%〜99重量%である、アセトニトリル、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ジメチルホルムアミド及びN−メチルピロリドンからなる群から選ばれる一つである有機溶剤、を含む色素溶液を提供する。
【発明の効果】
【0033】
本発明の色素化合物は、色素増感太陽電池に適用できるとともに、色素増感太陽電池の光電効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の式(I−1)で表される色素化合物のNMRスペクトルを示す図である。
【図2】本発明の式(I−2)で表される色素化合物のNMRスペクトルを示す図である。
【図3】本発明の式(I−3)で表される色素化合物のNMRスペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、例を挙げて、本発明を実施するための形態を説明する。本技術分野に習熟した者は、本明細書に記載された内容によって本発明の他の優れた点や効果を理解することができる。本発明は、他の異なる具体的な実施例によって施行又は応用することもでき、本明細書における各項の詳しい内容も、異なる観点と応用に基づいて、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、各種の修正と変更を施すことができる。
【0036】
本発明の色素化合物は、例えばスキーム1〜スキーム3の方法により合成することができる。一つの具体的な実施例において、本発明の式(I−1)で表される色素化合物は、スキーム1により合成することができる。
【0037】
【化9】

(i)カリウム t−ブトキシド、炭酸カリウム、ジメチルホルムアミド、ジオキサン
(ii)ブチルリチウム、テトラヒドロフラン、ジメチルホルムアミド
(iii)シアノ酢酸、ピペリジン、アセトニトリル
【0038】
スキーム1で示されるように、まず、7−ブロモ−9H−フルオレン−2−イルアミン(7−Bromo−9H−fluoren−2−ylamine)とヨウ化n−ブチル(n−Butyl iodide)とを反応させ、(7−ブロモ−9,9−ジ−n−ブチル−9H−フルオレン−2−イル)−ジ−n−ブチルアミン((7−Bromo−9,9−di−n−butyl−9H−fluoren−2−yl)−di−n−butylamine)を合成する。次いで、(7−ブロモ−9,9−ジ−n−ブチル−9H−フルオレン−2−イル)−ジ−n−ブチルアミンとジメチルホルムアミド(N,N−Dimethylformamide)とのホルミル化反応(formylation)によって、9,9−ジ−n−ブチル−7−(ジ−n−ブチルアミノ)−9H−フルオレン−2−カルバルデヒド(9,9−di−n−butyl−7−(di−n−butylamino)−9H−fluorene−2−carbaldehyde)を合成する。最後に、アセトニトリル(Acetonitrile)の存在下、ピペリジン(Piperidine)を触媒として、9,9−ジ−n−ブチル−7−(ジ−n−ブチルアミノ)−9H−フルオレン−2−カルバルデヒドとシアノ酢酸(Cyanoacetic acid)とを反応させ、式(I−1)で表される構造を有する2−シアノ−3−(9,9−ジ−n−ブチル−7−(ジ−n−ブチルアミノ)−9H−フルオレン−2−イル)−アクリル酸(2−Cyano−3−(9,9−di−n−butyl−7−(di−n−butylamino)−9H−fluoren−2−yl) acrylic acid)を得る。
【0039】
【化10】

(iv)カリウム t−ブトキシド、テトラヒドロフラン
(v)炭酸カリウム、ジメチルホルムアミド
【0040】
スキーム2で示されるように、まず、7−ブロモ−9H−フルオレン−2−イルアミン(7−Bromo−9H−fluoren−2−ylamine)とヨウ化n−ブチル(n−Butyl iodide)とを反応させ、7−ブロモ−9,9−ジ−n−ブチル−9H−フルオレン−2−イルアミン(7−bromo−9,9−di−n−butyl−9H−fluoren−2−ylamine)を合成する。次いで、7−ブロモ−9,9−ジ−n−ブチル−9H−フルオレン−2−イルアミンと1,5−ジヨードペンタン(1,5−diiodopentane)との環化反応(cyclization)によって、1−(7−ブロモ−9,9−ジ−n−ブチル−9H−フルオレン−2−イル)ピペリジン(1−(7−bromo−9,9−di−n−butyl−9H−fluoren−2−yl)piperidine)を合成し、さらに、1−(7−ブロモ−9,9−ジ−n−ブチル−9H−フルオレン−2−イル)ピペリジンとジメチルホルムアミド(N,N−Dimethylformamide)とのホルミル化反応(formylation)によって、9,9−ジ−n−ブチル−7−(ピペリジン−1−イル)−9H−フルオレン−2−カルバルデヒド(9,9−di−n−butyl−7−(piperidin−1−yl)−9H−fluorene−2−carbaldehyde)を合成する。
【0041】
最後に、アセトニトリルの存在下、ピペリジンを触媒として、9,9−ジ−n−ブチル−7−(ピペリジン−1−イル)−9H−フルオレン−2−カルバルデヒドとシアノ酢酸とを反応させ、式(I−2)で表される構造を有する2−シアノ−3−(9,9−ジ−n−ブチル−7−(ピペリジン−1−イル)−9H−フルオレン−2−イル)−アクリル酸(2−cyano−3−(9,9−di−n−butyl−7−(piperidin−1−yl)−9H−fluoren−2−yl) acrylic acid)を得る。
【0042】
【化11】

(vi)カリウム t−ブトキシド、テトラヒドロフラン
(v)炭酸カリウム、ジメチルホルムアミド
【0043】
スキーム3で示されるように、まず、7−ブロモ−9H−フルオレン−2−イルアミン(7−Bromo−9H−fluoren−2−ylamine)とヨードエタン(Iodoethane)とを反応させ、7−ブロモ−9,9−ジエチル−9H−フルオレン−2−イルアミン(7−bromo−9,9−diethyl−9H−fluoren−2−ylamine)を合成する。次いで、7−ブロモ−9,9−ジエチル−9H−フルオレン−2−イルアミンと1,5−ジヨードペンタン(1,5−diiodopentane)との環化反応(cyclization)によって、1−(7−ブロモ−9,9−ジエチル−9H−フルオレン−2−イル)ピペリジン(1−(7−bromo−9,9−diethyl−9H−fluoren−2−yl)piperidine)を合成する。さらに、1−(7−ブロモ−9,9−ジエチル−9H−フルオレン−2−イル)ピペリジンとジメチルホルムアミドとのホルミル化反応によって、9,9−ジエチル−7−(ピペリジン−1−イル)−9H−フルオレン−2−カルバルデヒド(9,9−diethyl−7−(piperidin−1−yl)−9H−fluorene−2−carbaldehyde)を合成する。
【0044】
最後に、アセトニトリルの存在下、ピペリジンを触媒として、9,9−ジエチル−7−(ピペリジン−1−イル)−9H−フルオレン−2−カルバルデヒドとシアノ酢酸とを反応させ、式(I−3)で表される構造を有する2−シアノ−3−(9,9−ジエチル−7−(ピペリジン−1−イル)−9H−フルオレン−2−イル)アクリル酸(2−cyano−3−(9,9−diethyl−7−(piperidin−1−yl)−9H−fluoren−2−yl) acrylic acid)を得る。
【0045】
本発明の色素増感太陽電池の製造方法としては、特に制限がなく、一般的な公知の方法で製造することができる。
【0046】
透明基板の材質は特に制限がなく、透明な基材であればいずれも使用可能である。好ましくは、透明基板の材質は、色素増感太陽電池の外から侵入した水分もしくは気体に対する優れた遮断性、耐溶剤性、耐候性などを有する透明基材であり、具体的な例としては、石英、ガラスなどの透明無機基板、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリカーボネート(PC)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリイミド(PI)などの透明プラスチック基板が挙げられるが、それらに限定されない。また、透明基板の厚さは特に制限がなく、光透過率、色素増感太陽電池の特性の要求に応じて自由に選ぶことができる。一つの具体的な実施例において、透明基板としてはガラス基板を使用する。
【0047】
透明導電膜の材料は、酸化インジウムスズ(ITO)、フッ素をドープした酸化スズ(FTO)、酸化亜鉛−酸化ガリウム(ZnO−Ga2O3)、酸化亜鉛−酸化アルミニウム(ZnO−Al2O3)、又はスズを基材とした酸化物材料から選択できる。一つの具体的な実施例において、透明導電膜としてはフッ素をドープした酸化スズ(FTO)を使用する。
【0048】
多孔質半導体膜は、半導体微粒子を用いて作製されたものである。適宜な半導体微粒子としては、シリコン、二酸化チタン、二酸化スズ、酸化亜鉛、三酸化タングステン、五酸化ニオブ(Nb2O5)、三酸化チタンストロンチウム(SrTiO3)及びその組み合わせがある。まず、半導体微粒子をペースト状物に調製し、次いで、ドクターブレード、スクリーン印刷、スピンコート、スプレーなど又は一般的な湿式塗布法を使用して、そのペースト状物を透明な導電基板に塗布する。また、適切な膜厚を得るために、一回又は複数回の塗布を行ってもよい。半導体膜層は単層であっても良く、複数層であっても良く、複数層とはそれぞれの層に異なる粒径の半導体微粒子を使用したものである。例えば、塗布厚さが5μm〜20μmになるように粒径が5nm〜50nmである半導体微粒子を塗布した後、塗布厚さが3μm〜5μmになるように粒径が200nm〜400nmである半導体微粒子を塗布することができる。続いて、50℃〜100℃で乾燥した後、400℃〜500℃で30分間焼成することにより、複数層の半導体膜層を作製することができる。
【0049】
色素化合物は適切な溶剤に溶かして色素溶液を調製することができる。適切な溶剤としては、アセトニトリル、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン又はこれらの混合物があるが、それらに限定されない。ここで、半導体膜が塗布された透明基板を色素溶液に浸漬し、色素溶液中の色素を半導体膜に十分に吸着させて、吸着を完了した後、取り出して、乾燥することにより、色素増感太陽電池の光電アノードを作製することができる。
【0050】
カソード材料としては、特に制限がなく、伝導性を有するいずれの材料であってもよい。あるいは、光電アノードに対向する基材表面に伝導層さえ形成されていれば、カソード材料は絶縁材料であっても良い。カソードとしては電気化学的に安定な物質を使用することができ、カソード材料に適用される非制限的な例としては白金、金、炭素、及びその類似物がある。
【0051】
電解質層としては、特に制限がなく、電子及び/または正孔伝導性を有するいずれの材料であってもよい。液体電解質は、ヨウ素を含むアセトニトリル溶液、ヨウ素を含むN−メチルピロリドン溶液、またはヨウ素を含む3−メトキシプロピオニトリル溶液であっても良い。一つの具体的な実施例において、液体電解質はヨウ素を含むアセトニトリル溶液である。
【0052】
本発明の色素増感太陽電池の具体的な製造方法の一つは下記の通りである。
まず、粒径が20nm〜30nmである酸化チタン微粒子を含むペースト状物を、一回又は複数回のスクリーン印刷により、フッ素をドープした酸化スズ(FTO)で被覆されたガラス板に塗布した後、450℃で30分間焼成する。
【0053】
色素化合物をアセトニトリル(acetonitrile)とt−ブタノール(t−butanol)の混合液(1:1 v/v)に溶かして、色素溶液を調製する。続いて、上記多孔質酸化チタン膜を含有するガラス板を色素溶液に浸漬し、色素溶液中の色素を吸着させた後、取り出して乾燥することにより、光電アノード(photoanode)を得ることができる。
【0054】
別途、フッ素をドープした酸化スズ(FTO)で被覆されたガラス板に、電解質を注入するための直径が0.75mmである注入口を開ける。続いて、フッ素をドープした酸化スズ(FTO)で被覆されたガラス板に、塩化白金酸(H2PtCl6)溶液を塗布し、400℃に加熱して15分間処理することにより、カソード(cathode)を得ることができる。
【0055】
そして厚さ60μmの熱可塑性ポリマー膜を光電アノードとカソードとの間に配置し、120℃〜140℃でこの二つの電極に圧力をかけることにより、この二つの電極を接着させる。
【0056】
電解液(0.03MのI2/0.3MのLiI/0.5Mのt−ブチルピリジンのアセトニトリル溶液)を注入し、さらに熱可塑性ポリマー膜で注入口を封止することにより、本発明の色素増感太陽電池を得ることができる。
【実施例】
【0057】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明の権利範囲はこれらに限定されるものではない。その中、化合物分子は遊離酸の形で表されるが、その実際の形は塩類であってもよく、さらに、アルカリ金属塩または第四級アンモニウム塩であってもよい。なお、特に指定しない限り、温度は摂氏温度であり、「部」及び「%」は重量基準である。重量部と体積部との関係は、キログラム(kg)とリットル(L)との関係の通りである。
【0058】
次いで、上記のスキーム1〜スキーム3を参考にして、本発明の色素化合物の製造方法を詳しく説明する。
【0059】
実施例1
2−シアノ−3−(9,9−ジ−n−ブチル−7−ジ−n−ブチルアミノ−9H−フルオレン−2−イル)−アクリル酸(I−1)の合成
7−ブロモ−9H−フルオレン−2−イルアミン0.52部、ヨウ化n−ブチル2.21部、カリウム t−ブトキシド(potassium tert−butoxide)0.67部及び炭酸カリウム0.83部を、無水ジメチルホルムアミド(N,N−Dimethylformamide)10部と1,4−ジオキサン(1,4−dioxane)10部に加えて、窒素ガス雰囲気中で上記の反応混合物を攪拌混合し、この反応混合物を95℃に加熱して24時間反応させた。反応混合物を冷却した後、水で反応をクエンチし、エチルエーテルで生成物を抽出した後、無水硫酸マグネシウムで水を除去し、溶剤を抽出除去した残留物(粗生成物、crude product)に対して、ジクロロメタン/ヘキサンを展開溶媒としてシリカゲルカラムクロマトグラフィーによる精製を行うことにより、薄黄色液体である(7−ブロモ−9,9−ジ−n−ブチル−9H−フルオレン−2−イル)−ジ−n−ブチルアミン((7−bromo−9,9−di−n−butyl−9H−fluoren−2−yl)−di−n−butylamine)を収率83%で得た。
【0060】
(7−ブロモ−9,9−ジ−n−ブチル−9H−フルオレン−2−イル)−ジ−n−ブチルアミン0.5部を窒素ガス雰囲気中でシールし、テトラヒドロフラン(tetrahydrofuran)を加えて(7−ブロモ−9,9−ジ−n−ブチル−9H−フルオレン−2−イル)−ジ−n−ブチルアミンを溶解して、−80℃に温度を下げ、徐々にブチルリチウム(butyllithium)0.2部を滴下した。滴下終了後、ジメチルホルムアミド(N,N−Dimethylformamide)0.16部を添加し、ジクロロメタンで生成物を抽出し、さらに無水硫酸マグネシウムで水を除去し、溶剤を抽出除去した残留物(粗生成物、crude product)に対して、ジクロロメタン/ヘキサンを展開溶媒としてシリカゲルカラムクロマトグラフィーによる精製を行うことにより、黄色固体である9,9−ジ−n−ブチル−7−(ジ−n−ブチルアミノ)−9H−フルオレン−2−カルバルデヒド(9,9−di−n−butyl−7−(di−n−butylamino)−9H−fluorene−2−carbaldehyde)を収率50%で得た。
【0061】
9,9−ジ−n−ブチル−7−(ジ−n−ブチルアミノ)−9H−フルオレン−2−カルバルデヒド0.18部、シアノ酢酸(cyanoacetic acid)0.05部及びピペリジン(piperidine)0.017部をアセトニトリル(acetonitrile)10部に加えて、窒素ガス雰囲気中で上記の反応混合物を攪拌混合し、この反応混合物を90℃に加熱して6時間反応させた。反応混合物を室温に冷却した後、ろ過して固体を取り出し、水、エチルエーテル及びアセトニトリルで順次洗浄することにより暗赤色固体を得た。最後に、この固体生成物に対して、ジクロロメタン/メタノール(dichloromethane/methanol)を展開溶媒としてシリカゲルカラムクロマトグラフィーによる精製を行うことにより、暗赤色固体である本実施例の化合物を収率73%で得た。この化合物のNMRスペクトルを図1に示す。
【0062】
実施例2
2−シアノ−3−(9,9−ジ−n−ブチル−7−(ピペリジン−1−イル)−9H−フルオレン−2−イル)−アクリル酸(I−2)の合成
7−ブロモ−9H−フルオレン−2−イルアミン1.44部、ヨウ化n−ブチル5.52部、カリウム t−ブトキシド3.37部を無水テトラヒドロフラン50部に加えて、窒素ガス雰囲気中で上記の反応混合物を攪拌混合し、この反応混合物を50℃に加熱して18時間反応させた。反応混合物を冷却した後、水で反応をクエンチし、エチルエーテルで生成物を抽出した後、無水硫酸マグネシウムで水を除去し、溶剤を抽出除去した残留物(粗生成物)に対して、ジクロロメタン/ヘキサンを展開溶媒としてシリカゲルカラムクロマトグラフィーによる精製を行うことにより、黒色液体である7−ブロモ−9,9−ジ−n−ブチル−9H−フルオレン−2−イルアミン(7−bromo−9,9−di−n−butyl−9H−fluoren−2−ylamine)を収率76%で得た。
【0063】
7−ブロモ−9,9−ジ−n−ブチル−9H−フルオレン−2−イルアミン0.18部を窒素ガス雰囲気中でシールし、炭酸カリウム0.20部とともに無水ジメチルホルムアミド10部に加えて溶解した後、さらに1,5−ジヨードペンタン(1,5−diiodopentane)を添加し、上記の反応混合物を120℃に加熱して24時間反応させることにより環化反応(cyclization)を行った。反応混合物を冷却した後、水で反応をクエンチし、エチルエーテルで生成物を抽出した後、無水硫酸マグネシウムで水を除去し、溶剤を抽出除去した残留物(粗生成物)に対して、ジクロロメタン/ヘキサンを展開溶媒としてシリカゲルカラムクロマトグラフィーによる精製を行うことにより、黒色液体である1−(7−ブロモ−9,9−ジ−n−ブチル−9H−フルオレン−2−イル)ピペリジンを収率70%で得た。
【0064】
1−(7−ブロモ−9,9−ジ−n−ブチル−9H−フルオレン−2−イル)ピペリジン0.15部を窒素ガス雰囲気中でシールし、テトラヒドロフランを加えて1−(7−ブロモ−9,9−ジ−n−ブチル−9H−フルオレン−2−イル)ピペリジンを溶解して、−80℃に温度を下げ、徐々にブチルリチウム0.06部を滴下した。滴下終了後、ジメチルホルムアミド0.05部を添加し、ジクロロメタンで生成物を抽出し、さらに無水硫酸マグネシウムで水を除去し、溶剤を抽出除去した残留物(粗生成物)に対して、ジクロロメタン/ヘキサンを展開溶媒としてシリカゲルカラムクロマトグラフィーによる精製を行うことにより、黄色固体である9,9−ジ−n−ブチル−7−(ピペリジン−1−イル)−9H−フルオレン−2−カルバルデヒドを収率54%で得た。
【0065】
9,9−ジ−n−ブチル−7−(ピペリジン−1−イル)−9H−フルオレン−2−カルバルデヒド0.07部、シアノ酢酸0.02部及びピペリジン0.017部をアセトニトリル5部に加えて、窒素ガス雰囲気中で上記の反応混合物を攪拌混合し、この反応混合物を90℃に加熱して6時間反応させた。反応混合物を室温に冷却した後、ろ過して固体を取り出し、水、エチルエーテル及びアセトニトリルで順次洗浄することにより暗赤色固体を得た。最後に、この固体生成物に対して、ジクロロメタン/メタノールを展開溶媒としてシリカゲルカラムクロマトグラフィーによる精製を行うことにより、暗赤色固体である本実施例の化合物を収率73%で得た。この化合物のNMRスペクトルを図2に示す。
【0066】
実施例3
2−シアノ−3−(9,9−ジエチル−7−(ピペリジン−1−イル)−9H−フルオレン−2−イル)−アクリル酸(I−3)の合成
7−ブロモ−9H−フルオレン−2−イルアミン1.44部、ヨードエタン7.79部、カリウム t−ブトキシド3.37部を無水テトラヒドロフラン50部に加えて、窒素ガス雰囲気中で上記の反応混合物を攪拌混合し、この反応混合物を50℃に加熱して18時間反応させた。反応混合物を冷却した後、水で反応をクエンチし、エチルエーテルで生成物を抽出した後、無水硫酸マグネシウムで水を除去し、溶剤を抽出除去した残留物(粗生成物)に対して、ジクロロメタン/ヘキサンを展開溶媒としてシリカゲルカラムクロマトグラフィーによる精製を行うことにより、黒色液体である7−ブロモ−9,9−ジエチル−9H−フルオレン−2−イルアミンを収率70%で得た。
【0067】
7−ブロモ−9,9−ジエチル−9H−フルオレン−2−イルアミン0.31部を窒素ガス雰囲気中でシールし、炭酸カリウム0.13部とともに無水ジメチルホルムアミド10部に加えて溶解した後、1,5−ジヨードペンタン(1,5−diiodopentane)0.32部を添加し、上記の反応混合物を120℃に加熱して24時間反応させることにより環化反応を行った。反応混合物を冷却した後、水で反応をクエンチし、エチルエーテルで生成物を抽出した後、無水硫酸マグネシウムで水を除去し、溶剤を抽出除去した残留物(粗生成物)に対して、ジクロロメタン/ヘキサンを展開溶媒としてシリカゲルカラムクロマトグラフィーによる精製を行うことにより、薄黄褐色固体である1−(7−ブロモ−9,9−ジエチル−9H−フルオレン−2−イル)ピペリジンを収率65%で得た。
【0068】
1−(7−ブロモ−9,9−ジエチル−9H−フルオレン−2−イル)ピペリジン0.16部を窒素ガス雰囲気中でシールし、テトラヒドロフランを加えて1−(7−ブロモ−9,9−ジエチル−9H−フルオレン−2−イル)ピペリジンを溶解して、−80℃に温度を下げ、徐々にブチルリチウム0.07部を滴下した。滴下終了後、ジメチルホルムアミド0.05部を添加し、ジクロロメタンで生成物を抽出し、さらに無水硫酸マグネシウムで水を除去し、溶剤を抽出除去した残留物(粗生成物)に対して、ジクロロメタン/ヘキサンを展開溶媒としてシリカゲルカラムクロマトグラフィーによる精製を行うことにより、黄色固体である9,9−ジエチル−7−(ピペリジン−1−イル)−9H−フルオレン−2−カルバルデヒドを収率30%で得た。
【0069】
9,9−ジエチル−7−(ピペリジン−1−イル)−9H−フルオレン−2−カルバルデヒド0.09部、シアノ酢酸0.01部及びピペリジン0.017部をアセトニトリル5部に加えて、窒素ガス雰囲気中で上記の反応混合物を攪拌混合し、この反応混合物を90℃に加熱して6時間反応させた。反応混合物を室温に冷却した後、ろ過して固体を取り出し、水、エチルエーテル及びアセトニトリルで順次洗浄することにより暗赤色固体を得た。最後に、この固体生成物に対して、ジクロロメタン/メタノールを展開溶媒としてシリカゲルカラムクロマトグラフィーによる精製を行うことにより、暗赤色固体である本実施例の化合物を収率70%で得た。この化合物のNMRスペクトルを図3に示す。
【0070】
実施例4
色素増感太陽電池の製造
粒径が20nm〜30nmである酸化チタン微粒子を含むペースト状物を、スクリーン印刷により、フッ素をドープした酸化スズ(FTO)で被覆されたガラス板(厚さ4mm、抵抗10Ω/□)に、焼成された多孔質酸化チタン膜の厚さが10μm〜12μmになるように塗布し、450℃で30分間焼成した。
【0071】
実施例1の色素化合物をアセトニトリルとt−ブタノール(t−butanol)の混合液(1:1 v/v)に溶かして、色素化合物の濃度が0.5Mである色素溶液を調製した。続いて、上記多孔質酸化チタン膜を含有するガラス板を色素溶液に浸漬し、色素溶液中の色素を16時間〜24時間吸着させた後、取り出して乾燥することにより、光電アノードを得た。
【0072】
別途、フッ素をドープした酸化スズ(FTO)で被覆されたガラス板に、電解質を注入するための直径が0.75mmである注入口を開けた。続いて、フッ素をドープした酸化スズ(FTO)で被覆されたガラス板に塩化白金酸(H2PtCl6)溶液(1mLのエタノールに2mgの白金を含む)を塗布し、400℃に加熱して15分間処理することにより、カソードを得た。
【0073】
厚さ60μmの熱可塑性ポリマー膜を光電アノードとカソードとの間に配置し、120℃〜140℃でこの二つの電極に圧力をかけることにより、この二つの電極を接着させた。
【0074】
電解液(0.03MのI2/0.3MのLiI/0.5Mのt−ブチルピリジンのアセトニトリル溶液)を注入し、さらに熱可塑性ポリマー膜で注入口を封止することにより、本実施例の色素増感太陽電池を得た。
【0075】
比較例1
日本特許第4442105号の色素化合物の合成、及びその色素化合物からの色素増感太陽電池の製造
窒素ガス雰囲気中で、2,7−ジブロモ−9H−フルオレン1部、ヨウ化メチル1.06部、カリウム t−ブトキシド0.83部を無水テトラヒドロフラン10部に加えて、この反応混合物を攪拌混合し、25℃に加熱して18時間反応させた。反応混合物を冷却した後、水で反応をクエンチし、エチルエーテルで生成物を抽出した後、硫酸マグネシウムで水を除去し、溶剤を抽出除去した残留物に対して、ジクロロメタン/ヘキサンを展開溶媒としてシリカゲルカラムクロマトグラフィーによる精製を行うことにより、黄色固体である2,7−ジブロモ−9,9−ジメチル−9H−フルオレンを収率85%で得た。
【0076】
窒素ガス雰囲気中で、2,7−ジブロモ−9,9−ジメチル−9H−フルオレン1.2部、ジフェニルアミン(diphenylamine)0.32部、ナトリウム t−ブトキシド(sodium tert−butoxide)0.27部、Pd(dba)2 0.021部、dppf触媒0.021部をトルエン(toluene)5部に加えて攪拌混合し、この反応混合物を80℃に加熱して24時間反応させた。水で反応をクエンチした後、セライト(celite)でろ過し、溶剤を抽出除去した残留物に対して、ジクロロメタン/ヘキサンを展開溶媒としてシリカゲルカラムクロマトグラフィーによる精製を行うことにより、黄色固体である7−ブロモ−9,9−ジメチル−N,N−ジフェニル−9H−フルオレン−2−イルアミンを収率55%で得た。
【0077】
窒素ガス雰囲気中で、7−ブロモ−9,9−ジメチル−N,N−ジフェニル−9H−フルオレン−2−イルアミン0.35部をテトラヒドロフラン30部に加えて溶解した後、−80℃に温度を下げ、徐々にブチルリチウム1.05部を滴下した。滴下終了後、ジメチルホルムアミド0.7部を添加し、ジクロロメタンで生成物を抽出し、さらに硫酸マグネシウムで水を除去し、溶剤を抽出除去した残留物に対して、ジクロロメタン/ヘキサンを展開溶媒としてシリカゲルカラムクロマトグラフィーによる精製を行うことにより、黄色固体である7−(ジフェニルアミノ)−9,9−ジメチル−9H−フルオレン−2−カルバルデヒドを収率50%で得た。
【0078】
窒素ガス雰囲気中で、7−(ジフェニルアミノ)−9,9−ジメチル−9H−フルオレン−2−カルバルデヒド、シアノ酢酸0.05部及びピペリジン0.017部をアセトニトリル8部に加えて攪拌混合し、この反応混合物を90℃に加熱して6時間反応させた。反応混合物を室温に冷却した後、ろ過して固体を取り出し、水、エチルエーテル及びアセトニトリルで順次洗浄することにより暗赤色固体を得た。最後に、この固体生成物に対して、ジクロロメタン/メタノールを展開溶媒としてシリカゲルカラムクロマトグラフィーによる精製を行うことにより、暗赤色固体である式(II)で表される構造を有する化合物2−シアノ−3−(7−(ジフェニルアミノ)−9,9−ジメチル−9H−フルオレン−2−イル)−アクリル酸を収率50%で得た。
【0079】
【化12】

【0080】
色素増感太陽電池の製造
実施例1の色素化合物の代わりに比較例1の式(II)で表される色素化合物を使用する以外は、実施例4と同様の工程で、本比較例の色素増感太陽電池を作製した。
【0081】
比較例2
米国特許第2010122729号の色素化合物の合成、及びその色素化合物からの色素増感太陽電池の製造
窒素ガス雰囲気中で、7−ブロモ−9H−フルオレン−2−イルアミン0.52部、ヨウ化n−ブチル2.21部、カリウム t−ブトキシド0.67部及び炭酸カリウム0.83部を、無水ジメチルホルムアミド10部と1,4−ジオキサン10部に加えて攪拌混合し、この反応混合物を95℃に加熱して24時間反応させた。反応混合物を冷却した後、水で反応をクエンチし、エチルエーテルで生成物を抽出した後、硫酸マグネシウムで水を除去し、溶剤を抽出除去した残留物に対して、ジクロロメタン/ヘキサンを展開溶媒としてシリカゲルカラムクロマトグラフィーによる精製を行うことにより、薄黄色液体である(7−ブロモ−9,9−ジ−n−ブチル−9H−フルオレン−2−イル)−ジ−n−ブチルアミン((7−bromo−9,9−di−n−butyl−9H−fluoren−2−yl)−di−n−butylamine)を収率83%で得た。
【0082】
窒素ガス雰囲気中で、(7−ブロモ−9,9−ジ−n−ブチル−9H−フルオレン−2−イル)−ジ−n−ブチルアミン0.49部、5−ホルミル−2−チオフェンボロン酸(5−formyl−2−thiopheneboronic acid)0.19部、炭酸カリウム0.41部、[1,1'−ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン]パラジウムジクロリド(PdCl2(dppf))0.16部をトルエン5部とメタノール(CH3OH)5部に加えて攪拌混合し、この反応混合物を60℃に加熱して18時間反応させた。水で反応をクエンチした後、エチルエーテルで生成物を抽出し、硫酸マグネシウムで水を除去し、溶剤を抽出除去した残留物に対して、ジクロロメタン/ヘキサンを展開溶媒としてシリカゲルカラムクロマトグラフィーによる精製を行うことにより、橙赤色固体である5−(9,9−ジ−n−ブチル−7−(ジ−n−ブチルアミノ)−9H−フルオレン−2−イル)−チオフェン−2−カルバルデヒド(5−(9,9−di−n−butyl−7−(di−n−butylamino)−9H−fluoren−2−yl)− thiophene−2−carbaldehyde)を収率61%で得た。
【0083】
窒素ガス雰囲気中で、5−(9,9−ジ−n−ブチル−7−(ジ−n−ブチルアミノ)−9H−フルオレン−2−イル)−チオフェン−2−カルバルデヒド0.23部、シアノ酢酸0.05部及びピペリジン0.017部をアセトニトリル10部に加えて攪拌混合し、この反応混合物を90℃に加熱して6時間反応させた。反応混合物を室温に冷却した後、ろ過して固体を取り出し、水、エチルエーテル及びアセトニトリルで順次洗浄することにより暗赤色固体を得た。最後に、この固体生成物に対して、ジクロロメタン/メタノールを展開溶媒としてシリカゲルカラムクロマトグラフィーによる精製を行うことにより、暗赤色固体である式(III)で表される構造を有する化合物2−シアノ−3−[5−(9,9−ジ−n−ブチル−7−(ジ−n−ブチルアミノ)−9H−フルオレン−2−イル)−チオフェン−2−イル]−アクリル酸(2−cyano−3−[5−(9,9−di−n−butyl−7−(di−n−butylamino)−9H−fluoren−2−yl)−thiophen−2−yl]−acrylic acid)を収率73%で得た。
【0084】
【化13】

【0085】
色素増感太陽電池の製造
実施例1の色素化合物の代わりに比較例2の式(III)で表される色素化合物を使用する以外は、実施例4と同様の工程で、本比較例の色素増感太陽電池を作製した。
【0086】
光電効率試験
実施例1及び比較例1、2の色素増感太陽電池を、AM1.5の照明下で開放電圧(VOC)、短絡電流(JSC)、曲線因子(FF)、光電変換効率(η)を測定した。
【0087】
色素及び色素増感太陽電池の測定結果を、以下の表1に示す。
【0088】
【表1】

【0089】
表1の測定結果に示されるように、本発明の実施例の色素増感太陽電池は優れた光電特性を有する。
【0090】
上記のように、本発明は目的、手段及び効果、又はその技術面や研究開発設計面のいずれにおいても従来技術と大きく異なる特徴を示した。ただし、注意すべきは、上記の実施例は説明の便宜上例示的に述べたものに過ぎず、本発明を限定するものではない。本技術分野に習熟した者は、本発明の趣旨及び範囲から逸脱しない限り、各種変更と修正を施すことができることは勿論であって、本発明の主張する権利範囲は、特許請求の範囲で述べられるものを基準とすべきであり、上記の実施例に限定されるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明は、合成工程が少なく、工程をコントロールしやすく、合成コストが低く、合成方法が簡単である色素化合物、より高い光電変換効率を有する色素増感太陽電池等を提供することができるため、産業上有用に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)で表される構造を有する色素化合物またはその塩。
【化1】

(式中、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、C〜C12アルキル基、C〜C12アルコキシ基またはハロゲンであり、
及びDは、それぞれ独立に、C〜C12アルキル基であり、または、DとDは隣接する窒素原子と共に
【化2】

を形成する。)
【請求項2】
及びRはいずれもブチル基であり、D及びDはいずれもブチル基である請求項1に記載の色素化合物またはその塩。
【請求項3】
及びRはそれぞれ独立にC〜C12アルキル基であり、DとDは隣接する窒素原子と共に
【化3】

を形成する請求項1に記載の色素化合物またはその塩。
【請求項4】
及びRはいずれもブチル基であり、DとDは隣接する窒素原子と共に
【化4】

を形成する請求項3に記載の色素化合物またはその塩。
【請求項5】
及びRはいずれもエチル基であり、DとDは隣接する窒素原子と共に
【化5】

を形成する請求項3に記載の色素化合物またはその塩。
【請求項6】
(a)下記式(I)で表される色素化合物またはその塩を含有する光電アノード、
【化6】

(式中、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、C〜C12アルキル基、C〜C12アルコキシ基またはハロゲンであり、
及びDは、それぞれ独立に、C〜C12アルキル基であり、または、DとDは隣接する窒素原子と共に
【化7】

を形成する。)
(b)カソード、及び
(c)光電アノードとカソードとの間にある電解質層
を含む色素増感太陽電池。
【請求項7】
前記式(I)で表される色素化合物またはその塩におけるR及びRはいずれもブチル基であり、D及びDはいずれもブチル基である請求項6に記載の色素増感太陽電池。
【請求項8】
前記式(I)で表される色素化合物またはその塩におけるR及びRはいずれもブチル基であり、DとDは隣接する窒素原子と共に
【化8】

を形成する請求項6に記載の色素増感太陽電池。
【請求項9】
前記式(I)で表される色素化合物またはその塩におけるR及びRはいずれもエチル基であり、DとDは隣接する窒素原子と共に
【化9】

を形成する請求項6に記載の色素増感太陽電池。
【請求項10】
(A)含有量が0.01重量%〜1重量%である請求項1〜5のいずれかに記載の色素化合物またはその塩、
(B)含有量が99.99重量%〜99重量%である、アセトニトリル、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ジメチルホルムアミド及びN−メチルピロリドンからなる群から選ばれる一つである有機溶剤、
を含む色素溶液。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−236997(P2012−236997A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−107621(P2012−107621)
【出願日】平成24年5月9日(2012.5.9)
【出願人】(510291909)エバーライト ユーエスエー,インコーポレイテッド (7)
【Fターム(参考)】