説明

色素増感型太陽電池およびそれに用いるシール材

【課題】高分子樹脂材料からなる色素増感型太陽電池において、シール性が極めて高い色素増感型太陽電池を提供する。
【解決手段】透明導電電極層5付き対極側基板1と、透明導電電極層5′を有する作用極側基板1′の上記両電極層5,5′を内側にした状態で対向配設され、上記一対の基板間1,1′の空隙が、それら基板の内側面の周縁部に配設されたシール材4によりシールされ、シールされた空隙内に、電解質液6が封入された色素増感型太陽電池である。上記両基板1,1′が高分子樹脂材料からなり、上記基板1,1′と電極層5,5′との間に各々無機層2,2′,3,3′が配設され、かつ上記シール材4が、特定の水添エラストマー誘導体を必須成分とする光重合性組成物(A)の硬化体からなり、上記シール材4と接する無機層3,3′の部分が(メタ)アクリロキシアルキルシラン類シランカップリング剤で被覆されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一対の電極基板を対向して接着シールし、電解質液を封入してなる高分子樹脂製(プラスチックフィルム)基板型の色素増感型太陽電池に関し、シール材が耐電解質液性に富み、接着シール性が高く耐久性に優れている色素増感型太陽電池およびそれに用いるシール材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
色素が担持された酸化チタン(TiO2)等の多孔質半導体膜付き透明導電基板と対向電極基板との間に、レドックス系電解質液を封入した色素増感型太陽電池は、太陽光の変換効率が高いことから、次世代低価格太陽電池として有望視されている。
【0003】
しかし、ヨウ素やヨウ化リチウム等のレドックス系電解質液を、高分子樹脂製(プラスチックフィルム)基板に封入した場合、従来から使用されているエチレン−メタクリル酸共重合アイオノマー樹脂をシール材料として用いると、上記電解質液の液漏れや外界からの吸湿を防止することができないため、この種の色素増感型太陽電池は、耐久性に劣るという問題があった。そのため、電解質液層への水分や酸素等の侵入を抑制するために、ガスバリア層を形成することが提案されている(特許文献1,2参照)。
【0004】
しかしながら、上記電解質液の液漏れに対しての耐久性に富むシール方法やシール材に関しては充分に満足のいくような提案がなされているとは言い難いものであった。一方、シール材として、従来から液晶シール材料として知られているエポキシ樹脂系シール材料やウレタン樹脂系シール材料、さらには光硬化アクリル系シール材料が用いられているが、これらシール材料は、その極性構造に由来して電解質液による膨潤が生じ、それによって色素増感型太陽電池の構造に悪影響を及ぼすという問題があった。
【0005】
このようなことから、液状エポキシ樹脂やシリコーン樹脂を用い、上記電解質液を封止(シール)することが提案されている(特許文献3参照)。また、耐電解質液性に比較的優れるエラストマーを用いた色素増感型太陽電池用シール材として、シランカップリング剤を含有し、分子中に少なくとも1個のヒドロシリル化反応可能なアルケニル基を含有する、ポリイソプレン系重合体とオルガノハイドロジェンポリシロキサンとを、ヒドロシリル化触媒により重合してなるシール材が提案されている(特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−142086号公報
【特許文献2】特開2009−140828号公報
【特許文献3】特開2000−30767号公報
【特許文献4】特開2004−95248号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献3に記載の封止材料(シール材)は、長期にわたる封止の際に、電解質液により樹脂の膨潤や劣化等が生起し、シール材として充分な性能を有しているとは言い難い。また、上記特許文献4に記載のシール材を硬化するには、80〜150℃の加熱を必要とし、この加熱による電解質液の蒸発等によって、シール材の接着部分に剥離が生じ電解質液が液漏れしてしまうという問題が生じる。
【0008】
しかも、単に高分子樹脂製(プラスチックフィルム)の基板を用いた色素増感型太陽電池の構成では、これを屋外に設置した場合を想定したJIS規格C8938に準拠した環境試験・耐久性試験(温度サイクル試験A−1/−40℃⇔90℃×200サイクル、温湿度サイクル試験A−2/−40℃⇔85℃・85%RH×10サイクル、耐熱試験B−1/85℃×1000時間、耐湿性試験B−2/85℃・85%RH×1000時間)の中での温湿度負荷状態での耐久性においては充分満足のいくものではなかった。
【0009】
これは、高分子樹脂製(プラスチックフィルム)基板をそのまま用いた構成の色素増感型太陽電池では、シール材と高分子樹脂製基板との間の接着力が不充分であり、さらに高分子樹脂製基板表面に(メタ)アクリロキシアルキルシラン類シランカップリング剤処理を施したとしても、シール材と接する高分子樹脂製基板の高分子樹脂と上記(メタ)アクリロキシアルキルシラン類シランカップリング剤の相互作用が不充分であり、結果、高分子樹脂製基板に対するシール材の接着力が充分ではなかったことによると推測される。
【0010】
さらに、高分子樹脂製基板をそのまま用いた構成の色素増感型太陽電池では、高分子樹脂製基板の表面全体からの水分透湿を、プラスチックフィルム固有の透湿度以下では防ぐことができないため、長期の保管において電解質液が吸湿し、多孔質半導体層からの色素の脱離や電解質液の変質等を引き起し、その結果、変換効率が低下する等、色素増感型太陽電池の性能低下を招くこととなり、電池そのものの耐久性に関して充分とは言い難いものであった。
【0011】
本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、対極側基板および作用極側基板が双方とも高分子樹脂材料からなる色素増感型太陽電池において、そのシール材が、長期にわたる封止において膨潤や劣化を生じず、しかもそのシール性が極めて高い色素増感型太陽電池およびそれに用いるシール材の提供をその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の目的を達成するため、本発明は、一方が電極層付き対極側基板で、他方が透明導電電極層を有する作用極側基板が、上記電極層と上記透明導電電極層を内側にした状態で所定間隔を保って対向配設され、上記一対の基板間の空隙が、それら基板の内側面の周縁部にシール材を配設することによりシールされ、そのシールされた空隙内に、電解質液が封入されてなる色素増感型太陽電池であって、上記両基板が高分子樹脂材料からなり、上記対極側基板とその電極層との間、および、上記作用極側基板とその透明導電電極層との間にそれぞれ無機層が配設されており、かつ上記シール材が下記の(A)を光重合させた光重合性硬化体からなり、上記シール材と接する無機層の部分が(メタ)アクリロキシアルキルシラン類シランカップリング剤で被覆されている色素増感型太陽電池を第1の要旨とする。
(A)分子両末端の少なくとも一方に、1個以上の(メタ)アクリロイル基を有する水添エラストマー誘導体を必須成分とする光重合性組成物。
【0013】
そして、本発明は、上記色素増感型太陽電池において、対向配設された一対の基板の内側面の周縁部に配設されてなる色素増感型太陽電池用シール材であって、上記シール材が下記の(A)を光重合させた光重合性硬化体からなる色素増感型太陽電池用シール材を第2の要旨とする。
(A)分子両末端の少なくとも一方に、1個以上の(メタ)アクリロイル基を有する水添エラストマー誘導体を必須成分とする光重合性組成物。
【0014】
本発明者らは、基板が高分子樹脂材料からなる色素増感型太陽電池において、耐電解質液性および接着性に優れ、しかも高い耐久性を備えた封止を実施するため、研究を重ねた。その過程で、封止材として光重合性樹脂を有効成分とする光重合性樹脂組成物が有用であると想起し、さらに研究を重ねた。その結果、封止材として、光重合性樹脂組成物のなかでも特定のものが有効であること、さらに、その封止材だけでなく、それを用いて封止(シール)する高分子樹脂製基板の部分(接触する部分)において高分子樹脂製基板の表面に無機層を形成する(無機層にて被覆する)こと、およびその封止材が上記基板の無機層と接する部分を(メタ)アクリロキシアルキルシラン類シランカップリング剤にて被覆処理を施すことが、効果の発現のために必須であることを見いだすに至った。
【0015】
すなわち、色素増感型太陽電池の電極基板として、ガラス基板や金属基板のような電極基板ではなく、高分子樹脂材料からなる基板を用いた場合の色素増感型太陽電池の封止材について鋭意検討を行い、さらに研究を重ねた結果、高分子樹脂製基板表面に無機層を設けることにより、上記封止材および特殊表面被覆処理は、上記高分子樹脂材料からなる基板に対しても有用であることを突き止めたのである。
【発明の効果】
【0016】
このように、本発明は、対向電極側基板および作用極側基板が双方とも高分子樹脂材料(プラスチックフィルム等)からなる基板を用いた色素増感型太陽電池において、分子両末端の少なくとも一方に、1個以上の(メタ)アクリロイル基を有する水添エラストマー誘導体を必須成分とする光重合性組成物(A)を光重合させた光重合性硬化体をシール材とし、かつ上記シール材と接する両基板表面には無機層が設けられ、さらに上記シール材と接する無機層部分が(メタ)アクリロキシアルキルシラン類シランカップリング剤で被覆されている。すなわち、本発明では、シール材が光重合性硬化体からなるため加熱硬化が不要となり、加熱による電解質液の蒸発に伴うシール部の剥離が生じない。また、シール材としての上記光重合性硬化体は、特殊な光重合性組成物(A)からなるものであり、長期にわたる封止の際にも、電解質液による膨潤や劣化が生じない。そのうえ、両基板表面に設けられた無機層に対する上記特定のシランカップリング剤の作用と相まって、高い接着力を発揮し、高度な耐久性を発現する。
【0017】
そして、上記シランカップリング剤は、(メタ)アクリロキシアルキルシラン類シランカップリング剤であり、その使用により、高分子樹脂製基板の表面被覆処理層である無機層に光重合が可能な(メタ)アクリロイル基が存在することになり、これが光重合性組成物(A)中の(メタ)アクリロイル基とともに光重合の際、同時に反応し、強固な接着性を発現する。
【0018】
また、上記無機層はガスバリア性を発揮することから、長期の保管であっても高分子樹脂製基板面の全域からの吸湿を防止することが可能となり、水分による不具合が生じ難く耐久性に優れ高い信頼性を備えた色素増感型太陽電池を得ることが可能となる。
【0019】
上記無機層が2層以上の積層構造であると、また無機層が珪素を含む特定の材料からなる層であると、より一層優れたガスバリア性を発揮するとともに上記(メタ)アクリロキシアルキルシラン類シランカップリング剤との反応性に富み、上記シランカップリング剤が有効に固定されることとなる。
【0020】
そして、光重合性組成物(A)が層状珪酸塩および絶縁性球状無機質充填剤の少なくとも一方を含有すると、シール材の透湿度が低減し、長期にわたる封止においても大気中からの吸湿量が少なく、耐久性に一層優れるようになり、さらに、チクソトロピー性が増加し、シール幅の寸法精度が向上するようになる。
【0021】
また、上記シランカップリング剤として、3−(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシランを用いると、シール材に対する接着性が一層優れるようになる。
【0022】
そして、上記水添エラストマー誘導体の主鎖として、水添ポリブタジエンまたは水添イソプレンからなるものを用いると、主鎖の非極性構造により、電解質液に対する耐久性がより一層優れるようになる。
【0023】
さらに、水添エラストマー誘導体が、ポリイソシアネートを連結基として水添ポリブタジエンポリオールまたは水添ポリイソプレンポリオールと、ヒドロキシ(メタ)アクリレート化合物類とを、反応させてなる水添ポリブタジエン誘導体または水添ポリイソプレン誘導体であると、シール材および被覆保護材等の接着性により一層優れるようになり、耐久性に優れるようになる。
【0024】
また、水添エラストマー誘導体が、水添ポリブタジエンポリオールまたは水添ポリイソプレンポリオールと、(メタ)アクリロイル基含有イソシアネート化合物類とを、反応させてなる水添ポリブタジエン誘導体または水添ポリイソプレン誘導体であると、上記と同様、シール材および被覆保護材等の接着性により一層優れるようになり、耐久性に優れるようになる。
【0025】
そして、光重合性組成物(A)として、水添エラストマー誘導体に加えて、ポリ(メタ)アクリレート化合物類を用いると、シール材の架橋密度が高まり、耐久性に一層優れるようになり、また、光重合開始剤を用いると、紫外線(UV)硬化性に優れるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の色素増感型太陽電池の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
つぎに、本発明を実施するための形態について詳しく説明する。
【0028】
本発明の色素増感型太陽電池は、つぎに示すような技術的特徴を有する。すなわち、一対の電極層付き基板と、シール材と、上記一対の基板とシール材により形成された閉塞空間に封入されている電解質液とを備えた色素増感型太陽電池において、上記一対の基板が高分子樹脂材料からなり、また、上記各基板とその電極層との間にそれぞれ無機層が配設されており、かつ上記シール材が、分子両末端の少なくとも一方に、1個以上の(メタ)アクリロイル基を有する水添エラストマー誘導体を必須成分とする光重合性組成物(A)を光重合させた光重合性硬化体からなり、上記シール材と接する無機層部分が(メタ)アクリロキシアルキルシラン類シランカップリング剤で被覆されているという構成に、本発明の最大の特徴がある。なお、本発明において、(メタ)アクリロイル基とは、下記に示すアクリロイル基およびそれに対応するメタクリロイル基を意味する。
【0029】
【化1】

【0030】
本発明の色素増感型太陽電池について説明する。
【0031】
《色素増感型太陽電池》
本発明の色素増感型太陽電池は、通常、図1に例示される構造を備えている。すなわち、本発明の色素増感型太陽電池は、対極側透明導電電極層5を備えた対極側基板1と、作用極側透明導電電極層5′を備えた作用極側基板1′が、それら基板1,1′の各透明導電電極層5,5′面を内側にした状態で所定間隔を保って配設され、上記基板1,1′間の空隙が、それら基板1,1′の内側面の周縁部に、特殊な光重合性組成物(A)からなるシール材4(メインシール)を配設することによりシールされ、そのシールされた空隙内に、電解質液6が封入されている。また、上記対極側基板1とその透明導電電極層5との間、および、上記作用極側基板1′とその透明導電電極層5′との間には、それぞれ2層構造の各無機層2,2′、3,3′が積層形成され配設されている。そして、シール材4と接する基板1,1'の部分、すなわち、各基板1,1′とその透明導電電極層5,5′との間に設けられた2層構造の各無機層2,2′、3,3′のうち、透明導電電極層5,5′が設けられた無機層3,3′とシール材4が接する部分には、本発明で用いる特定のシランカップリング剤〔(メタ)アクリロキシアルキルシラン類シランカップリング剤〕からなる被覆膜4′が形成されている。
【0032】
そして、色素増感型太陽電池は、通常、図1に例示するように、上記作用極側基板1′の透明導電電極層5′上に、酸化チタン膜等の多孔質半導体膜7が形成されており、この多孔質半導体膜7に増感色素(図示せず)が吸着し担持している。
【0033】
つぎに、この図1の色素増感型太陽電池にもとづき本発明の色素増感型太陽電池を説明するが、本発明はこの図1に限定されるものではない。以下、色素増感型太陽電池の各構成について項を分けて説明する。
【0034】
〈対極側基板1および作用極側基板1′〉
上記対極側基板1および作用極側基板1′は、いずれも高分子樹脂材料を用いて形成されたものであり、少なくとも作用極側基板1′が透明であればよい。そして、上記透明とは、通常、可視光線透過率80%を超えるもののことをいう。本発明における可視光線透過率は、市販されている一般的な可視光線透過率測定器で測定することができる。
【0035】
そして、上記両基板1,1′としては、例えば、透明高分子フィルム等を用いることができる。上記高分子樹脂材料としては、具体的には、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエステル、ナイロン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリ塩化ビニル、シリコーン樹脂、ポリイミド等があげられる。
〈対極側基板1の透明導電電極層5〉
上記対極側基板1に設けられる透明導電電極層5形成材料としては、例えば、錫ドープ酸化インジウム(ITO),フッ素ドープ酸化インジウム(FTO)、酸化インジウム亜鉛(IZO)、酸化インジウム−ガリウム亜鉛(IGZO)、酸化亜鉛等の透明導電電極材料、金、白金、炭素、導電性ポリマー等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。
【0036】
〈作用極側基板1′の透明導電電極層5′〉
上記作用極側基板1′に設けられる透明導電電極層5′形成材料としては、例えば、錫ドープ酸化インジウム(ITO),フッ素ドープ酸化インジウム(FTO)、酸化インジウム亜鉛(IZO)、酸化インジウム−ガリウム亜鉛(IGZO)、酸化亜鉛等の透明導電電極材料等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。好ましくは、内部電気抵抗が小さい、シート抵抗が10〜30Ω/□以下の低抵抗ITOや低抵抗FTOが用いられる。
【0037】
〈無機層2,2′、3,3′〉
上記対極側基板1とその透明導電電極層5との間、および、上記作用極側基板1′とその透明導電電極層5′との間には、それぞれ2層構造の各無機層2,2′,3,3′が積層形成されている。このような無機層はガスバリア作用を奏するものであり、図1に示すように少なくとも2層構造の多層構造であることが好ましい。
【0038】
上記無機層2,2′,3,3′としては、Si、Al、In、Sn、Zn、Ti、Nb、CeおよびZrからなる群から選ばれた少なくとも一つの元素の酸化物、窒化物、酸化窒化物、酸化炭化物、窒化炭化物および酸化窒化炭化物の少なくとも一つの化合物から形成された透明無機層であることが好ましく、より好ましくは酸化珪素層、酸化窒化珪素層、酸化炭化珪素層、酸化炭化窒化珪素層および窒化珪素層からなる群から選ばれた少なくとも一つの透明無機層が形成されていることであり、それ以外の層が形成されていてもよい。また、上記酸化珪素層、酸化窒化珪素層、酸化炭化珪素層、酸化炭化窒化珪素層および窒化珪素層からなる群から選ばれた少なくとも一つの透明無機層は、その表面に水酸基を含有していてもよい。特に好ましくは、対向配設される対極側基板1と作用極側基板1′にそれぞれ積層形成された無機層のうち最表面層となる無機層〔図1では、無機層(電極層側)3,3′〕が酸化珪素層であることであり、上記酸化珪素層が、被覆処理される上記(メタ)アクリロキシアルキルシラン類シランカップリング剤との反応に富み、上記無機層にこのシランカップリング剤が有効に固定されることとなる。また、基板1,1′側に形成される無機層〔図1では、無機層(基板側)2,2′〕は、酸化炭化窒化珪素層であることが好ましい。
【0039】
このように透明無機層からなる構成とすることにより、シール材4と接する無機層3,3′部分が一様に(メタ)アクリロキシアルキルシラン類シランカップリング剤によって被覆処理されるため、両基板1,1′に対してシール材4が高い接着力を発揮し、高度な耐久性を発現する。具体的には、主にガラス基板を想定したJIS規格C8938の環境試験・耐久性試験(温度サイクル試験A−1/−40℃⇔90℃×200サイクル、温湿度サイクル試験A−2/−40℃⇔85℃・85%RH×10サイクル、耐熱試験B−1/85℃×1000時間、耐湿性試験B−2/85℃・85%RH×1000時間)の中での温湿度負荷状態での耐久性においても、充分な耐久性を示すことができるようになる。
【0040】
このような無機層の総厚み、例えば図1に示す構成の2層構造の無機層の各総厚み(無機層2+無機層3の総厚み、無機層2′+無機層3′の総厚み)は、10〜1000μmであることが好ましく、より好ましくは無機層の柔軟性の向上という観点から、50〜500μmである。すなわち、厚みが薄過ぎると、充分なガスバリア性を発揮することが困難であり、逆に厚みが厚過ぎると、クラックが生じやすくなりガスバリア性が低下する傾向がみられるからである。
【0041】
図1に示すように、無機層がそれぞれ2層構造をとる場合、シール材4と接し、その表面が(メタ)アクリロキシアルキルシラン類シランカップリング剤によって被覆処理される無機層3,3′は、ガスバリア性を必要としないことから、できるだけ薄層であることが好ましく、その厚みはそれぞれ5〜100nmであることが好ましく、より好ましくは20〜50nmである。一方、基板1,1′側に位置する無機層2,2′は、ガスバリア性を発現するという点から、その厚みはそれぞれ10〜1000nmであることが好ましく、上述の柔軟性の向上という観点から、50〜500μmであることがより好ましい。すなわち、厚みが薄過ぎると、充分なガスバリア性を発揮することが困難であり、逆に厚みが厚過ぎると、クラックが生じやすくなりガスバリア性が低下する傾向がみられるからである。
【0042】
上記無機層2,2′,3,3′は、圧力1Pa以下のような公知の真空雰囲気下での蒸着法、スパッタ法、化学気相堆積法(CVD法)等により形成することができる。上記方法により高分子樹脂材料からなる両基板1,1′上においても緻密な層を形成することができ、より高いガスバリア性を発現することができる。すなわち、上記蒸着法では、金属材料あるいは無機材料を、抵抗加熱や電子ビームを用いて蒸発させることにより薄膜を形成することができる。さらに、酸素や窒素のガス雰囲気下とすることにより薄膜を形成することもできる。また、イオンビーム、プラズマビーム(プラズマアシスト蒸着)をアシストとして用いることにより非常に緻密で透明な層を形成することが可能となる。上記スパッタ法では、金属材料あるいは無機材料をターゲットとしてアルゴンのような希ガス雰囲気下において高電圧を印加することによりターゲット粒子をスパッタして薄膜を形成することができる。上記CVD法では、有機金属等の原料ガスを真空下に導入することにより薄膜を形成することができる。特にプラズマを発生させた雰囲気に原料ガスを導入することにより緻密な薄膜を形成することが可能となる。
【0043】
特に、図1に示すように、無機層が各基板1,1′に対してそれぞれ2層構造をとり、シール材4と接し、その表面が(メタ)アクリロキシアルキルシラン類シランカップリング剤によって被覆処理される無機層3,3′としては、前述の真空雰囲気下での蒸着法、スパッタ法、化学気相堆積法(CVD法)により形成され、酸素ガス雰囲気とすることにより酸化物薄膜を形成するという方法にて成膜されることが好ましい。
【0044】
また、図1に示すように、2層構造のうち、基板1,1′側に位置する無機層2,2′は、水蒸気や酸素、窒素等のガスに対してバリア性を発現し、酸化珪素層、酸化窒化珪素層、酸化炭化珪素層、酸化炭化窒化珪素層および窒化珪素層からなる群から選ばれた少なくとも一つの層を含むことが好ましい。なお、上記酸化珪素層、酸化窒化珪素層、酸化炭化珪素層、酸化炭化窒化珪素層、窒化珪素層は、それぞれ酸化珪素層、酸化窒化珪素層、酸化炭化珪素層、酸化炭化窒化珪素層、窒化珪素層単独で形成されていてもよいし、それ以外の成分を含有していてもよい。
【0045】
なお、本発明において、ガスバリア性とは、防湿性をも含む概念である。具体的に例示すると、100〜120μmの2軸延伸PENフィルムの一方の面に厚み200nmの酸化窒化珪素層を成膜した場合において、酸化窒化珪素層の水分透過量が0.05g/m2以下となる極めてバリア性が高いことをいう。
【0046】
〈多孔質半導体層7〉
つぎに、上記作用極側基板1′上に形成される多孔質半導体層7としては、例えば、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化錫、酸化インジウム、酸化ジルコニウム、酸化珪素、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化セシウム、酸化ビスマス、酸化マンガン、酸化イットリウム、酸化タングステン、酸化タンタル、酸化ニオブ、酸化ランタン等の多孔質金属酸化物半導体があげられる。中でも、高い変換効率を示す構成である点から、アナターゼ型酸化チタンや酸化亜鉛が好ましい。
【0047】
上記多孔質半導体層7は、例えば、粒子径50〜200nmの酸化チタン粒子を公知の分散媒に分散したゾル溶液を、上記作用極側基板1′の透明導電電極層5′の上にバーコート等にて塗工し、用いる高分子樹脂材料(作用極側基板1′)に対してダメージを起こさない低温下にて乾燥・焼成することにより成膜して多孔質半導体層7を形成することができる。具体的には、高分子樹脂材料としてPENを用いた場合には、100〜120℃程度の温度にて成膜することが好ましい。
【0048】
上記多孔質半導体層7の厚みは、5〜50μmであることが好ましく、より好ましくは10〜30μmである。
【0049】
〈増感色素〉
また、上記多孔質半導体層7に吸着し担持される増感色素としては、例えば、光吸収後に多孔質半導体層7にキャリア注入できるものであればよい。好ましくは、ルテニウム錯体(N3色素、N719色素、N907色素等)やアクリジン系色素、アゾ系色素、インジゴ系色素、キノン系色素、クマリン系色素、メロシアニン色素、フェニルキサンテン系色素等があげられる。中でも、高い変換効率を示す構成であるという点から、ルテニウム錯体が好ましい。
【0050】
〈電解質液6〉
さらに、上記両基板1,1′間の空隙に封入される電解質液6は、電解質を含有する液体のことであり、電解質と液体媒体とからなる。上記電解質としては、種々の電解質が用いられるが、好ましくは、ヨウ素と、ヨウ化リチウム、ヨウ化カリウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化カルシウム等のヨウ化物との組み合わせたものを用いることが好ましい。また、上記液体溶媒としては、例えば、アセトニトリル、プロピオニトリル、n−ブチロニトリル、3−メトキシプロピオニトリル、メトキシアセトニトリル、バレロニトリル、グルタルニトリル、プロピレンカーボネート、γ−ブチロラクトン、種々のイオン液体等があげられる。さらに、ナノ粒子を添加したり、各種架橋したアクリレートを混合したゲル電解質や各種添加剤を用いてもよい。中でも、高い変換効率を示す構成であるという点から、ニトリル系溶媒を用いた電解質液が好ましく用いられる。
【0051】
〈被覆膜4′〉
上記両基板1,1′上に設けられた無機層3,3′とシール材4との接触部分には、先に述べた(メタ)アクリロキシアルキルシラン類シランカップリング剤の塗布等による被覆膜4′が形成されている。この(メタ)アクリロキシアルキルシラン類シランカップリング剤としては、例えば、アクリロキシアルキルシラン、メタクリロキシアルキルシラン等があげられる。好適には、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランがあげられ、より好適には、光重合反応性が高い3−アクリロキシプロピルトリメトキシシランがあげられる。これら(メタ)アクリロキシアルキルシラン類シランカップリング剤は、単独でもしくは2種以上併せて用いられる。
【0052】
〈シール材4〉
上記両基板1,1′上に設けられた無機層3,3′の間に介装されるシール材4は、前記光重合性組成物(A)を光重合させた光重合性硬化体からなる。この光重合性組成物(A)は、水添エラストマー誘導体を必須成分とするものである。その水添エラストマー誘導体は、分子両末端の少なくとも一方に、1個以上の(メタ)アクリロイル基を有していればよく、その水添エラストマー誘導体の主鎖が、水添ポリブタジエンまたは水添ポリイソプレンからなることが好ましい。
【0053】
この水添エラストマー誘導体の主鎖となる水添ポリブタジエンとしては、例えば、水添1,4−ポリブタジエン、水添1,2−ポリブタジエン、水添1,4−ポリブタジエンと水添1,2−ポリブタジエンとの共重合体等があげられる。また、水添ポリイソプレンとしては、例えば、水添1,4−ポリイソプレン、水添1,2−ポリイソプレン、水添1,4−ポリイソプレンと水添1,2−ポリイソプレンとの共重合体等があげられる。
【0054】
上記水添エラストマー誘導体として、さらに好ましくは、ポリイソシアネートを連結基として、水添ポリブタジエンポリオールまたは水添ポリイソプレンポリオールと、ヒドロキシ(メタ)アクリレート化合物類とを、反応させて得られる水添ポリブタジエン誘導体(a1成分)または水添ポリイソプレン誘導体(a2成分)がある。また、水添ポリブタジエンポリオールまたは水添ポリイソプレンポリオールと、(メタ)アクリロイル基含有イソシアネート化合物類とを、反応させて得られる水添ポリブタジエン誘導体(a3成分)または水添ポリイソプレン誘導体(a4成分)もある。
【0055】
ここで、ポリイソシアネートを連結基として、水添ポリブタジエンポリオールまたは水添ポリイソプレンポリオールと、ヒドロキシ(メタ)アクリレート化合物類とを、反応させて得られる水添ポリブタジエン誘導体(a1成分)または水添ポリイソプレン誘導体(a2成分)の合成に用いる各成分について述べる。
【0056】
上記水添ポリブタジエンポリオールまたは水添ポリイソプレンポリオールとしては、両末端に水酸基等の反応性官能基を有するテレキリックポリマーであることが好ましく、例えば、両末端に水酸基を有する水添ポリブタジエンまたは水添ポリイソプレン等があげられる。
【0057】
上記水添ポリブタジエンポリオールとしては、好適には数平均分子量が500〜5000の液状水添ポリブタジエンポリオールがあげられ、上記水添ポリイソプレンポリオールとしては、好適には数平均分子量が500〜130000の液状水添ポリイソプレンポリオールがあげられる。
【0058】
上記連結基として作用するポリイソシアネートとしては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート、ノルボルネンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。なかでもヘキサメチレンジイソシアネート、ノルボルネンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート等の飽和ジイソシアネートが好適に用いられる。
【0059】
また、上記ヒドロキシ(メタ)アクリレート化合物類としては、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリロイルホスフェート、4−ブチルヒドロキシ(メタ)アクリレート、2−(メタ)アクリロイロキシエチル−2−ヒドロキシプロピルフタレート等の単官能ヒドロキシ(メタ)アクリレート化合物類、グリセリンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート等の2官能ヒドロキシ(メタ)アクリレート化合物類、2−ヒドロキシ−1,3−ジ(メタ)アクリロキシプロパン〔グリセリンジ(メタ)アクリレート〕、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート等の多管能ヒドロキシ(メタ)アクリレート化合物類が用いられ、好適には架橋密度を向上できる2官能以上の多官能ヒドロキシ(メタ)アクリレート化合物類が用いられる。本発明において、(メタ)アクリレートとは、アクリレートおよびそれに対応するメタクリレートを意味する。
【0060】
上記合成時における、水添ポリブタジエンポリオールまたは水添ポリイソプレンポリオール、ポリイソシアネート、ヒドロキシ(メタ)アクリレート化合物類の配合割合は、つぎの通りである。
【0061】
上記ポリイソシアネートは、水添ポリブタジエンポリオールまたは水添ポリイソプレンポリオールの水酸基当量(水酸基1個当たりの平均分子量)の1当量に対して、2〜10当量の割合で配合することが好ましく、より好ましくは4〜8当量の範囲である。すなわち、当量割合が少な過ぎると、直鎖状高分子量ポリマーが生成しやすくなる傾向があり、当量割合が多過ぎると、多量の未反応のイソシアネート基が残存しやすくなる傾向がみられるからである。
【0062】
また、上記ヒドロキシ(メタ)アクリレート化合物類は、上記ポリイソシアネートのイソシアネート当量(イソシアネート基1個当たりの分子量)の1当量に対して、1〜2当量に設定することが好ましく、より好ましくは1.1〜1.3当量の範囲である。すなわち、当量割合が少な過ぎると、イソシアネート基が残存する傾向があり、当量割合が多過ぎると、多量のヒドロキシ(メタ)アクリレート化合物類が残存しやすくなる傾向がみられるからである。
【0063】
前記水添ポリブタジエン誘導体(a1成分)または水添ポリイソプレン誘導体(a2成分)の合成は、例えば、つぎのようにして行われる。すなわち、水添ポリブタジエンポリオールまたは水添ポリイソプレンポリオールとポリイソシアネートとを、チタン,スズ等の金属やジブチル錫ラウレート等の有機金属塩等の触媒下において反応させる。そして、上記水添ポリブタジエンポリオールまたは水添ポリイソプレンポリオールの水酸基とイソシアネート基との反応が充分に行われ終了した後、ヒドロキシ(メタ)アクリレート化合物類を加えて残余のイソシアネート基を反応させることで水添エラストマー誘導体が得られる。生成する水添エラストマー誘導体が、高粘調や半固体状な場合は、30〜80℃に加温したり、または、トルエンやキシレン等の溶媒を反応系に加えたりする。これにより反応が円滑になり、合成が一層容易になる。
【0064】
上記の合成反応の進行度合いは、例えば、赤外吸収スペクトルにおいて、反応の進行とともに、イソシアネート基由来の特性吸収帯(2260cm-1近傍)が減少することから、このイソシアネート基由来の特性吸収帯を測定することにより確認することができる。また、合成反応の終点は、イソシアネート基由来の特性吸収帯が消失することで確認することができる。
【0065】
そして、反応終了後、アセトニトリル等の溶剤で可溶分を洗浄,除去し、その後エバポレーター等で溶剤除去等の公知の方法により、本発明の、分子両末端の少なくとも一方に、1個以上の(メタ)アクリロイル基を有する水添エラストマー誘導体が得られる。
【0066】
他方、水添ポリブタジエンポリオールまたは水添ポリイソプレンポリオールと、(メタ)アクリロイル基含有イソシアネート化合物類とを、反応させてなる水添ポリブタジエン誘導体(a3成分)または水添ポリイソプレン誘導体(a4成分)の合成に用いる各成分について述べる。
【0067】
上記水添ポリブタジエンポリオールまたは水添ポリイソプレンポリオールとしては、両末端に水酸基等の反応性官能基を有するテレキリックポリマーであることが好ましく、例えば、両末端に水酸基を有する水添ポリブタジエンまたは水添ポリイソプレン等があげられる。
【0068】
水添ポリブタジエンポリオールとしては、好適には数平均分子量が500〜5000の液状水添ポリブタジエンポリオールがあげられ、水添ポリイソプレンポリオールとしては、好適には数平均分子量が500〜130000の液状水添ポリイソプレンポリオールがあげられる。
【0069】
上記(メタ)アクリロイル基含有イソシアネート化合物類としては、例えば、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルイソシアネート、1,1−ビス(アクリロイルオキシメチル)エチルイソシアネート等があげられる。
【0070】
上記合成時における、水添ポリブタジエンポリオールまたは水添ポリイソプレンポリオール、(メタ)アクリロイル基含有イソシアネート化合物類の配合割合は、つぎの通りである。
【0071】
上記(メタ)アクリロイル基含有イソシアネート化合物類は、水添ポリブタジエンポリオールまたは水添ポリイソプレンポリオールの水酸基当量(水酸基1個当たりの平均分子量)の1当量に対して、1〜3当量の割合で配合することが好ましく、より好ましくは1.2〜2当量の範囲である。すなわち、当量割合が少な過ぎると、未反応の水酸基が残存しやすくなる傾向がみられ、当量割合が多過ぎると、未反応のイソシアネート基が残存しやすくなる傾向がみられるからである。
【0072】
ここで、前記水添ポリブタジエン誘導体(a3成分)または水添ポリイソプレン誘導体(a4成分)の合成は、例えば、つぎのようにして行われる。すなわち、水添ポリブタジエンポリオールまたは水添ポリイソプレンポリオールと、(メタ)アクリロイル基含有イソシアネート化合物類とを、チタン,スズ等の金属やジブチル錫ラウレート等の有機金属塩等の触媒下において反応させることにより行われる。上記水添ポリブタジエンポリオールまたは水添ポリイソプレンポリオールの水酸基と、(メタ)アクリロイル基含有イソシアネート化合物類のイソシアネート基とを、反応させることで水添エラストマー誘導体が得られる。生成する水添エラストマー誘導体が、高粘調や半固体状な場合は、30〜80℃に加温したり、または、トルエンやキシレン等の溶媒を反応系に加えたりする。これにより反応が円滑になり、合成が一層容易になる。
【0073】
上記の合成反応の進行度合いは、例えば、赤外吸収スペクトルにおいて、反応の進行とともに、イソシアネート基由来の特性吸収帯(2260cm-1近傍)が減少することから、このイソシアネート基由来の特性吸収帯を測定することにより確認することができる。また、合成反応の終点は、イソシアネート基由来の特性吸収帯が消失することで確認することができる。
【0074】
そして、反応終了後、アセトニトリル等の溶剤で可溶分を洗浄,除去し、その後エバポレーター等で溶剤除去等の公知の方法により、本発明の、分子両末端の少なくとも一方に、1個以上の(メタ)アクリロイル基を有する水添エラストマー誘導体が得られる。
【0075】
このような、上記水添エラストマー誘導体の含有量は、本発明における光重合性組成物(A)全体に対して、1〜99重量%の範囲に設定することが好ましく、より好ましくは10〜90重量%の範囲である。
【0076】
本発明において、シール材4に用いる光重合性組成物(A)は、先に述べた各種の水添エラストマー誘導体を必須成分とするものであり、層状珪酸塩,絶縁性球状無機質充填剤を必要に応じて任意成分として含有させることができる。これらは単独でもしくは併せて用いられる。
【0077】
上記層状珪酸塩は、層間に交換性陽イオンを有する珪酸塩鉱物を意味し、天然物であっても合成物であってもよい。上記層状珪酸塩としては、特に限定されるものではないが、例えば、モンモリロナイト、サポナイト、ヘクトライト、バイデライト、スティブンサイトおよびノントロライト等のスメクタイト系粘土鉱物、膨潤性マイカ、バーミキュライト、ハロイサイト等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。なかでも、層間のNaイオンを陽イオンでイオン交換した有機溶媒との親和性に優れる有機化処理した膨潤性マイカおよび親油性スメクタイトの少なくとも一方が好適に用いられる。
【0078】
上記層状珪酸塩の形状としては、例えば、平均長さが0.005〜10μm、厚みが0.001〜5μmの結晶粒子であることが好ましく、そのアスペクト比は、10〜500であることが好ましい。
【0079】
上記層状珪酸塩は、層間にNaイオン等の金属カチオンが配位した構造を有する層状粘土鉱物であり、このNaイオンを、塩化ジメチルジステアリルアンモニウム,塩化アミノラウリン酸,第4級アンモニウム塩,第4級ホスホニウム塩等でイオン交換した有機化処理層状珪酸塩が好ましく用いられる。このようなNaイオンをイオン交換した上記有機化処理層状珪酸塩は、樹脂との親和性が高まることにより、3本ロールやボールミル等の高剪断分散機によって、樹脂中へ容易に分散するようになる。
【0080】
また、上記絶縁性球状無機質充填剤は、例えば、シリカ粉末、アルミナ粉末、酸化チタン粉末、炭酸カルシウム粉末、珪酸カルシウム粉末等の絶縁性球状無機質充填剤があげられ、これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。なかでも、水添エラストマー誘導体への分散性において、充填剤表面を疎水性から親水性まで任意に設計が可能であり、樹脂成分との親和性を向上しやすいという点から、上記シリカ粉末を用いることが好ましく、特に好ましくは溶融球状シリカ粉末を用いることである。
【0081】
上記絶縁性球状無機質充填剤は、平均粒子径が0.01〜1μmであり、最大粒子径が10μm以下のものが好ましく、より好ましくは平均粒子径が0.05〜1μmであり、最大粒子径が1μm以下である。すなわち、平均粒子径が小さ過ぎると、比表面積が大きくなりすぎて、硬化体の透湿度の低減効果が不充分であり、平均粒子径が大き過ぎると、シール材4の紫外線透明性が損なわれ、光硬化性が損なわれる傾向がみられるからである。また、最大粒子径においても大き過ぎると、同様に紫外線透明性が損なわれ、光硬化性が損なわれる傾向がみられる。
【0082】
上記平均粒子径や最大粒子径は、例えばレーザー回折散乱式粒度分布測定器を用いて測定することができる。そして、上記平均粒子径や最大粒子径は、母集団から任意に抽出される試料を用い、上記測定装置を利用して導出される値である。
【0083】
また、上記層状珪酸塩の中でも有機化処理された層状珪酸塩と、絶縁性球状無機質充填剤とは、その表面を化学的に修飾することが好ましい。これにより、水添エラストマー誘導体等の樹脂成分との親和性がより向上し、未硬化溶液の粘度低下や層状珪酸塩,絶縁性球状無機質充填剤の分散性向上に寄与するからである。
【0084】
このような化学修飾に用いられる化合物としては、有機化処理層状珪酸塩および絶縁性球状無機質充填剤の表面に存在する水酸基やカルボキシル基等の官能基と反応できるものであれば、特に限定されるものではないが、より好ましくはシランカップリング剤,シリル化剤などの反応性シラン化合物、チタネート化合物、イソシアネート化合物等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。
【0085】
上記化学修飾に用いられる化合物は、有機溶媒中での表面処理方法など従来公知の無機質充填剤の表面処理方法と同様の方法で用いられる。
【0086】
上記シランカップリング剤としては、例えば、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、p−スチリルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−トリエトキシシリル−N−(1,3−ジメチル−ブチリデン)プロピルアミン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−(ビニルベンジル)−2−アミノエチル−3−アミノプロピルトリメトキシシランの塩酸塩、3−ウレイドプロピルトリメトキシシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン等があげられ、これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。
【0087】
上記シリル化剤としては、例えば、メチルトリクロロシラン、メチルジクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、トリメチルクロロシラン、フェニルトリクロロシラン、ジフェニルジクロロシラン、トリフロロプロピルトリクロロシラン、ヘキサメチルジシラザン等があげられ、これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。
【0088】
上記チタネート化合物としては、例えば、テトライソプロピルチタネート、テトラ−n−ブチルチタネートなどのテトラアルキルチタネート化合物やその低分子量縮合物等があげられ、これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。
【0089】
上記イソシアネート化合物としては、例えば、2−イソシアネートエチルメタクリレート、2−イソシアネートエチルアクリレート、1,1−ビス(アクリロキシメチル)エチルイソシアネート等の(メタ)アクリロキシイソシアネート化合物等があげられ、これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。
【0090】
上記光重合性組成物(A)中の層状珪酸塩の配合量は、シール材4全体の合計に対して0.1〜20重量%であることが好ましく、より好ましくは1〜10重量%である。すなわち、配合量が少な過ぎると、シール材4の透湿度の低下が不充分であり、多過ぎると、未硬化シール材4の液粘度が極度に高くなり、塗工に支障をきたす傾向がみられるからである。
【0091】
また、上記光重合性組成物(A)中の絶縁性球状無機質充填剤の配合量は、シール材4全体の合計に対して30〜70重量%であることが好ましく、より好ましくは40〜60重量%である。すなわち、配合量が少な過ぎると、シール材4の透湿度の低下が不充分である傾向がみられ、配合量が多過ぎると、未硬化シール材4の液粘度が極度に高くなり、塗工に支障をきたす傾向がみられるからである。
【0092】
この光重合性組成物(A)には、必要に応じて、ポリ(メタ)アクリレート化合物類(b成分)および光重合開始剤(c成分)を任意成分として含有させることができる。
【0093】
上記ポリ(メタ)アクリレート化合物類(b成分)は、本発明の光重合性組成物(A)中の水添エラストマー誘導体に対し、成分配合時には希釈剤として、硬化時には架橋剤として作用する。このポリ(メタ)アクリレート化合物類として、例えば、多官能(メタ)アクリレートがあげられる。
【0094】
この多官能(メタ)アクリレートとしては、例えば、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジ(メタ)アクリレート、1,10−デカンジオールジ(メタ)アクリレート、1,12−ドデカンジオールジ(メタ)アクリレート、1,12−オクタデカンジオールジ(メタ)アクリレート、2−n−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ノルボルネンジ(メタ)アクリレート、ジメチロールジシクロペンタンジ(メタ)アクリレート(トリシクロデカンジメタノールジアクリレート)等の2官能(メタ)アクリレート類、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート等の3官能(メタ)アクリレート類、およびその他ポリ(メタ)アクリレート化合物があげられ、単独でもしくは2種以上併せて用いられる。好適には水添エラストマー誘導体との相溶性が良好な点で、ジメチロールジシクロペンタンジアクリレート(トリシクロデカンジメタノールジアクリレート)が賞用される。
【0095】
なお、本発明においては、色素増感型太陽電池のシール構成による接着性を低下させない範囲で、ポリ(メタ)アクリレート化合物類(b成分)として、上記多官能(メタ)アクリレートとともに単官能(メタ)アクリレートを併用してもよい。
【0096】
この単官能(メタ)アクリレートとしては、例えば、イソブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、スチリル(メタ)アクリレート、イソボニル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート等の単官能(メタ)アクリレート類があげられ、それぞれ単独でもしくは2種以上併せて用いられる。
【0097】
また、上記ポリ(メタ)アクリレート化合物類(b成分)の配合量は、本発明における光重合性組成物(A)全体に対して、1〜99重量%の範囲に設定することが好ましく、より好ましくは10〜90重量%の範囲である。
【0098】
上記光重合開始剤(c成分)としては、各種光ラジカル発生剤が用いられる。例えば、2,2−ジメトキ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン、2−メチル−1−(4−メチルチオフェニル)−2−モルフォリノプロパン−1−オン、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルホスフィンオキサイド等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。
【0099】
上記光重合開始剤(c成分)の含有量は、本発明における光重合性組成物(A)全体に対して、0.1〜30重量%の範囲に設定することが好ましく、より好ましくは0.5〜20重量%の範囲である。すなわち、含有量が少な過ぎると、重合度が不充分となる傾向があり、含有量が多過ぎると、分解残渣が多くなり、シール材4の耐久性が低下する傾向がみられるからである。
【0100】
本発明においてシール材4に用いる光重合性組成物(A)には、上記各成分以外にその用途に応じて、他の添加剤である、酸化防止剤、消泡剤、界面活性剤、着色剤、無機質充填剤、有機質充填剤、各種スペーサー、溶剤等を必要に応じ、適宜に配合することができる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。
【0101】
このようにして得られる光重合性組成物(A)は、例えば、UVランプ等により紫外線を照射した後、必要に応じて所定の温度でのポストキュアーを行うことにより硬化させ、シール材4とされる。
【0102】
〈色素増感型太陽電池の製法〉
つぎに、上記各材料から構成される色素増感型太陽電池の製法について述べる。すなわち、前記図1に示した色素増感型太陽電池は、例えば、つぎのようにして作製することができる。
【0103】
まず、2層構造の無機層2′,3′および透明導電電極層5′、さらに増感色素が担持された多孔質半導体層7が積層形成された作用極側基板1′を準備し、シール材4と接するこの基板1′の無機層3′部分に、(メタ)アクリロキシアルキルシラン類シランカップリング剤を用いて表面被覆処理をする。この表面被覆処理は、例えば、メタノールやエタノール等の有機溶媒に、上記(メタ)アクリロキシアルキルシラン類シランカップリング剤を0.01〜5.0重量%の範囲で溶解させて、上記シール材4と接する無機層3′部分に塗布等し、60〜150℃の範囲で加熱することにより行われる。これにより、塗布した部分が被覆膜4′を形成する。
【0104】
他方、上記作用極側基板1′と対向配設される、2層構造の無機層2,3および透明導電電極層5が積層形成された対極側基板1において、シール材4と接するこの基板1の無機層3部分にも、上記と同様に、(メタ)アクリロキシアルキルシラン類シランカップリング剤を塗布して表面被覆処理し被覆膜4′を形成する。
【0105】
そして、予め作製された上記光重合性組成物(A)を、基板1および1′の少なくとも一方の所定部分に塗布し、シール材4の未硬化物を形成する。そして、増感色素が担持された多孔質半導体層7および透明導電電極層5が対峙するよう内側にした状態で、基板1および1′をシール材4により貼り合せ、例えば、直径0.2mm程度のニードルを挿入しながら高圧水銀灯等の紫外線照射装置を用いて、例えば、照射強度0.5〜10000mW/cm2、照射時間0.5〜600秒間の条件で、紫外線照射(窒素雰囲気中であることが好ましい)して硬化させ、メインシールを行う。
【0106】
そして、上記ニードルからシリンジにより電解質液6を注入し、さらに、注入後ニードルを引き抜き、ニードル口を前記と同様にしてシール材4化させて封口(エンドシール)を行う。このようにして、図1に示す色素増感型太陽電池が得られる。
【0107】
上記図1の色素増感型太陽電池の大きさに関して、電解質液6層、シール材4等は、目的および用途により、適宜、適当な厚み(基板1,1′間)および幅に設定して用いることができ、通常、シール幅が1〜5mm程度、厚みが50〜500μmであることが好ましい。
【0108】
なお、基板1,1′は、作用極側基板1′が透明であれば対極側基板1が不透明または半透明であってもよい。
【0109】
また、本発明の色素増感型太陽電池においては、上記基板1,1′の少なくとも一方の基板の内側面(電解質液6側面)となる透明導電電極層5,5′に集電電極(図示せず)が形成されていてもよい。
【0110】
例えば、上記集電電極を形成することにより、導電電極面の電気抵抗が小さくなり、光電変換効率が向上するようになる。上記集電電極の形成材料としては、例えば、導電性を有する金属や金属酸化物、炭素材料や導電性高分子等が好適に用いられる。上記金属としては、例えば、白金、金、銀、ルテニウム、銅、アルミニウム、ニッケル、コバルト、クロム、鉄、モリブデン、チタン、タンタル、およびこれらの合金等があげられる。上記炭素材料としては、例えば、黒鉛(グラファイト)、カーボンブラック、グラッシーカーボン、カーボンナノチューブ、フラーレン等があげられる。また、FTO、ITO、酸化インジウム、酸化亜鉛等の金属酸化物を用いた場合には、透明または半透明であるため増感色素層への入射光量を増加させることができるため、好適に用いられる。
【0111】
また、上記集電電極は、幅10〜3000μm、厚み1〜100μmの形状であることが好ましい。
【0112】
そして、この集電電極の分布配設としては、基板1,1′の透明導電電極層5,5′面の少なくとも一方に、例えば、縞状、格子状、放射格子状、網目状等に分布配設されることがあげられ、好ましくは格子状に配設されることである。
【実施例】
【0113】
つぎに、実施例について、比較例と併せて説明する。ただし、本発明は、これら実施例に限定されるものではない。
【0114】
まず、実施例に先立ち、下記に示す各成分の材料を準備ないし合成した。
【0115】
〔(メタ)アクリロキシアルキルシラン類シランカップリング剤〕
(メタ)アクリロキシアルキルシラン類シランカップリング剤として、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランを準備した。
【0116】
〔エラストマー誘導体の合成〕
a.水添エラストマー誘導体aの合成
下記一般式(1)で示される両末端に水酸基を有する水添ポリブタジエン(数平均分子量:約1500、水酸基価:75KOHmg/g、ヨウ素価:10I2mg/100g、粘度30Pa・s/25℃)15g(0.01mol)、ノルボルネンジイソシアネート10.2g(0.05mol)、トルエン20gをそれぞれガラス製反応器にとり、窒素ガス気流下、50℃に加温した。その後、5重量%ジブチルチンラウレートの酢酸エチル溶液0.4gを加え、50℃で6時間反応させた。その後、ハイドロキノン0.001g、2−ヒドロキシ−1,3−ジメタクリロキシプロパン(グリセリンジメタクリレート)20.7g(0.09mol)を加え、60℃でさらに6時間反応させた。つぎに、反応物を過剰のアセトニトリル中に投入・撹拌して洗浄し、固液分離、その後減圧乾燥により目的の水添エラストマー誘導体aを得た。得られた反応物は、赤外吸収スペクトル(FT−IR:サーモエレクトロン社製、Nicolet IR200)のイソシアネート基由来の特性吸収帯(2260cm-1近傍)が消失し、また、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC:東ソー社製、HLC−8120)での標準ポリスチレン換算重量平均分子量(Mw)は、6150であった。
【0117】
【化2】

【0118】
b.水添エラストマー誘導体bの合成
上記水添エラストマー誘導体aの合成に用いた数平均分子量約1500の水添ポリブタジエンを、上記一般式(1)で示される両末端に水酸基を有する水添ポリブタジエン(数平均分子量:約3000、水酸基価:30KOHmg/g、ヨウ素価:10I2mg/100g、粘度80Pa・s/25℃)15g(0.005mol)に代えて用いた以外は、上記水添エラストマー誘導体aと同様に合成し、水添エラストマー誘導体bを得た。得られた反応物は、赤外吸収スペクトル(FT−IR)のイソシアネート基由来の特性吸収帯(2260cm-1近傍)が消失し、また、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)での標準ポリスチレン換算重量平均分子量(Mw)は、7500であった。
【0119】
c.水添エラストマー誘導体cの合成
上記水添エラストマー誘導体aの合成に用いた水添ポリブタジエンを、下記一般式(2)で示される両末端に水酸基を有する水添ポリイソプレン(数平均分子量:約28000、水酸基価:4KOHmg/g、ヨウ素価:40I2mg/100g、粘度1500Pa・s/25℃)280g(0.01mol)に代えて用いた以外は、上記水添エラストマー誘導体aと同様に合成し、水添エラストマー誘導体cを得た。得られた反応物は、赤外吸収スペクトル(FT−IR)のイソシアネート基由来の特性吸収帯(2260cm-1近傍)が消失し、また、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)での標準ポリスチレン換算重量平均分子量(Mw)は、28800であった。
【0120】
【化3】

【0121】
d.水添エラストマー誘導体dの合成
上記水添エラストマー誘導体aの合成に用いた数平均分子量約1500の水添ポリブタジエン15g(0.01mol)、(メタ)アクリロイル基含有イソシアネート化合物類である1,1−ビス(アクリロイルオキシメチル)エチルイソシアネート7g(0.03mol)、5重量%ジブチルチンラウレートの酢酸エチル溶液0.3gを加え、窒素ガス気流下、50℃で6時間反応させた。つぎに、反応物を過剰のアセトニトリル中に投入・撹拌して洗浄し、固液分離、その後減圧乾燥により目的の水添エラストマー誘導体dを得た。得られた反応物は、赤外吸収スペクトル(FT−IR)のイソシアネート基由来の特性吸収帯(2260cm-1近傍)が消失し、また、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)での標準ポリスチレン換算重量平均分子量(Mw)は、5020であった。
【0122】
e.水添エラストマー誘導体eの合成
上記水添エラストマー誘導体dの合成に用いた数平均分子量約1500の水添ポリブタジエンを、上記水添エラストマー誘導体bの合成に用いた数平均分子量約3000の水添ポリブタジエン30g(0.01mol)に代え、トルエン15gを用いた以外は、上記水添エラストマー誘導体dと同様に合成し、水添エラストマー誘導体eを得た。得られた反応物は、赤外吸収スペクトル(FT−IR)のイソシアネート基由来の特性吸収帯(2260cm-1近傍)が消失し、また、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)での標準ポリスチレン換算重量平均分子量(Mw)は、7290であった。
【0123】
f.水添エラストマー誘導体fの合成
上記水添エラストマー誘導体dの合成に用いた数平均分子量約1500の水添ポリブタジエンを、上記一般式(2)で示される両末端に水酸基を有する水添ポリイソプレン(数平均分子量:約28000、水酸基価:4KOHmg/g、ヨウ素価:40I2mg/100g、粘度1500Pa・s/25℃)280g(0.01mol)に代え、トルエン15gを用いた以外は、上記水添エラストマー誘導体dと同様に合成し、水添エラストマー誘導体fを得た。得られた反応物は、赤外吸収スペクトル(FT−IR)のイソシアネート基由来の特性吸収帯(2260cm-1近傍)が消失し、また、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)での標準ポリスチレン換算重量平均分子量(Mw)は、7290であった。
【0124】
g.不飽和エラストマー誘導体gの合成
上記水添エラストマー誘導体aの合成に用いた数平均分子量:約1500の水添ポリブタジエンを、下記一般式(3)で示される両末端に水酸基を有する不飽和ポリブタジエン(数平均分子量:約1500、水酸基価:70KOHmg/g、粘度90Pa・s/25℃)15g(0.01mol)に代えて用いた以外は、上記水添エラストマー誘導体aと同様に合成し、不飽和エラストマー誘導体gを得た。得られた反応物は、赤外吸収スペクトル(FT−IR)のイソシアネート基由来の特性吸収帯(2260cm-1近傍)が消失し、また、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)での標準ポリスチレン換算重量平均分子量(Mw)は、5900であった。
【0125】
【化4】

【0126】
h.不飽和エラストマー誘導体hの合成
上記水添エラストマー誘導体dの合成に用いた水添ポリブタジエンを、上記不飽和エラストマー誘導体gの合成に用いた上記一般式(3)で示される両末端に水酸基を有する不飽和ポリブタジエン15g(0.01mol)に代えて用いた以外は、上記水添エラストマー誘導体dと同様に合成し、不飽和エラストマー誘導体hを得た。得られた反応物は、赤外吸収スペクトル(FT−IR)のイソシアネート基由来の特性吸収帯(2260cm-1近傍)が消失し、また、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)での標準ポリスチレン換算重量平均分子量(Mw)は、4900であった。
【0127】
〔ポリ(メタ)アクリレート化合物類〕
ポリ(メタ)アクリレート化合物類として、ジメチロールジシクロペンタンジアクリレート(トリシクロデカンジメタノールジアクリレート)、1,6−ヘキサンジオールジアクリレートを準備した。
【0128】
〔光重合開始剤〕
光重合開始剤として、チバスペシャルティケミカルズ社製、イルガキュア651の光ラジカル重合開始剤を準備した。
【0129】
〔有機化処理した層状珪酸塩〕
(1)有機化処理した膨潤性マイカ
マイカ層間のNaイオンをテトラアルキルアンモニウム化合物で置換した。これにより、平均長さ:5μm、厚さ:0.1〜0.5μm、アスペクト比:20〜30、真比重:2.5の有機化処理した膨潤性マイカを得た。
【0130】
(2)有機化処理した合成スメクタイト
スメクタイト層間の交換性陽イオン(Na+、Mg2+、Li+等)をテトラアルキルアンモニウム化合物で置換した。これにより、長さ:0.1〜2μm、厚さ:0.001〜0.025μm、アスペクト比:80〜1000、真比重:2.7の有機化処理した合成スメクタイトを得た。
【0131】
〔有機化処理した絶縁性球状無機質充填剤〕
(1)有機化処理した球状シリカα
水冷冷却管のついたガラス製フラスコに、表面水酸基濃度が0.002mmol/g、比表面積28.6m2/gである平均粒子径0.1μm、最大粒子径2μmの球状合成シリカ20g、ヘキサメチレンジシラザン12.91g、ヘキサン100gを投入し、ヘキサンの沸点近傍(65〜69℃)で、2時間環流させた。その後、この球状合成シリカを、濾紙を用いて濾別し、40℃で6時間減圧乾燥させて有機化処理した球状シリカαを得た。得られた有機化処理した球状シリカαは、赤外吸収スペクトル(FT−IR)のメチル基由来の特性吸収帯(2960cm-1近傍)の吸収を確認した。
【0132】
(2)有機化処理した球状シリカβ
水冷冷却管のついたガラス製フラスコに、表面水酸基濃度が0.002mmol/g、比表面積28.6m2/gである平均粒子径0.1μm、最大粒子径2μmの球状合成シリカ20g、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン2.7g、メタノール100g、酢酸0.054gを投入し、室温近傍(22〜26℃)で12時間撹拌した。その後、この球状合成シリカを、濾紙を用いて濾別し、遮光下、60℃で12時間減圧乾燥させて有機化処理した球状シリカβを得た。得られた有機化処理した球状シリカβは、赤外吸収スペクトル(FT−IR)のアクリロイル基由来の特性吸収帯(1620cm-1近傍、1720cm-1近傍)の吸収を確認した。
【0133】
(3)有機化処理した球状シリカγ
水冷冷却管のついたガラス製フラスコに、表面水酸基濃度が0.002mmol/g、比表面積28.6m2/gである平均粒子径0.1μm、最大粒子径2μmの球状合成シリカ20g、2−イソシアネートエチルメタクリレート22.34g、トルエン100g、5重量%ジブチルチンラウレートの酢酸エチル溶液2.3gを加え、遮光下、50℃で6時間反応させた。その後、この球状合成シリカを、濾紙を用いて濾別し、遮光下、60℃で12時間減圧乾燥させて有機化処理した球状シリカγを得た。得られた有機化処理した球状シリカγは、赤外吸収スペクトル(FT−IR)のイソシアネート基由来の特性吸収帯(2260cm-1近傍)の消失とともに、アクリロイル基由来の特性吸収帯(1620cm-1近傍、1720cm-1近傍)の吸収を確認した。
【0134】
〔実施例1〕
下記の(I)〜(II)に示す材料を作製し、それらを(III)に示すように組み立てた。
【0135】
(I)作用極側基板および対極側基板の作製
(I-a)特定のシランカップリング剤で表面被覆処理してなる作用極側基板の作製
プラズマアシスト蒸着法にて、樹脂製基板〔ポリエチレンナフタレート(PEN)製、大きさ:76mm×52mm×厚み125μm〕上に、SiOCN層を形成した後、その表面を酸化してSiO2層を形成することにより2層構造の無機層を形成した。すなわち、結果的に、厚み約250nmのSiOCN層と、厚み約40nmのSiO2層からなる2層構造の無機層を形成した。つぎに、上記無機層(SiO2層)面にITO透明導電電極層を形成した後、この上面に、L−4,4′−ジカルボキシ−2,2′−ビピリジル(N3色素)を吸着・担持した多孔質酸化チタン半導体層を形成した。このようにして、増感色素を吸着・担持した多孔質半導体層が形成された作用極側基板を作製した。この作用極側基板において、シール材と接する部分〔無機層(SiO2層)〕に、準備した1重量%の3−アクリロキシプロピルトリメトキシシランのメタノール溶液を塗布し、100℃で10分間乾燥することにより、シランカップリング剤で表面被覆処理(被覆膜形成)した作用極側基板を作製した。
【0136】
(I-b)特定のシランカップリング剤で表面被覆処理してなる対極側基板の作製
また、上記作用極側基板と対向配設される対極側基板として、2層構造の無機層が形成されてなる樹脂製基板〔ポリエチレンナフタレート(PEN)製、大きさ:76mm×52mm×厚み125μm〕を準備した。すなわち、上記作用極側基板と同様にして、プラズマアシスト蒸着法にて、樹脂基板上に、SiOCN層を形成した後、その表面を酸化してSiO2層を形成することにより2層構造の無機層を形成した。すなわち、結果的に、厚み約250nmのSiOCN層と、厚み約40nmのSiO2層からなる2層構造の無機層を形成した。つぎに、上記無機層(SiO2層)面にITO透明導電電極層を形成することにより対極側基板を作製した。この対極側基板において、シール材と接する部分〔無機層(SiO2層)〕に、上記と同様、準備した1重量%の3−アクリロキシプロピルトリメトキシシランのメタノール溶液を塗布し、100℃で10分間乾燥することにより、シランカップリング剤で表面被覆処理(被覆膜形成)した対極側基板を作製した。
【0137】
(II)特定の光重合性組成物(A成分:シール材)の作製
水添エラストマー誘導体として、上記水添エラストマー誘導体aを3g、ジメチロールジシクロペンタンジアクリレート(トリシクロデカンジメタノールジアクリレート)を7g、および光ラジカル重合開始剤を0.5g配合して、光重合性組成物(A)を作製した。
【0138】
(III)色素増感型太陽電池の組み立て
シール材と接する作用極側基板の無機層(SiO2層)部分に、ディスペンサーを用いて上記シール材となる光重合性組成物(A)を幅5mm×厚み50μmで塗布した後、もう一方の基板(対極側基板)と、透明導電電極層面を内側にした状態で対向して貼り合せ、直径0.2mmのニードルを挿入しながら、窒素気流下、作用極側基板から紫外線照射(3000mJ/cm2)してメインシールを行った。そして、上記ニードルからシリンジにより電解質液(0.05mol/Lヨウ素、0.5mol/Lヨウ化リチウムの3−メトキシプロピオニトリル溶液)を注入し、さらに、注入後ニードルを引き抜き、ニードル口を上記シール材で再度封口し、上記と同様、窒素気流下、紫外線照射(3000mJ/cm2)してエンドシールを行ない、目的とする、図1に示すような高分子樹脂材料からなる基板(プラスチックフィルム)型色素増感型太陽電池を組み立てた。
【0139】
〔実施例2〕
シランカップリング剤として、シール材と接する作用極側基板の無機層(SiO2層)部分に、上記1重量%の3−アクリロキシプロピルトリメトキシシランのメタノール溶液に代えて、1重量%の3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランのメタノール溶液を塗布した。それ以外は、実施例1と同様にして、色素増感型太陽電池を組み立てた。
【0140】
〔実施例3〕
上記実施例1の光重合性組成物(A)に代えて、上記水添エラストマー誘導体aを7g、ジメチロールジシクロペンタンジアクリレート(トリシクロデカンジメタノールジアクリレート)を3g、および光ラジカル重合開始剤を0.5g配合した光重合性組成物(Aを用いた。それ以外は、実施例1と同様にして、色素増感型太陽電池を組み立てた。
【0141】
〔実施例4〕
実施例1の光重合性組成物(A)中の水添エラストマー誘導体aに代えて、水添エラストマー誘導体bを用いた。それ以外は、実施例1と同様にして、色素増感型太陽電池を組み立てた。
【0142】
〔実施例5〕
実施例1の光重合性組成物(A)に代えて、上記水添エラストマー誘導体aを5g、1,6−ヘキサンジオールジアクリレートを3g、および光ラジカル重合開始剤を0.5g配合した光重合性組成物(A)を用いた。それ以外は、実施例1と同様にして、色素増感型太陽電池を組み立てた。
【0143】
〔実施例6〕
実施例1の光重合性組成物(A)中の水添エラストマー誘導体aに代えて、水添エラストマー誘導体cを用いた。それ以外は、実施例1と同様にして、色素増感型太陽電池を組み立てた。
【0144】
〔実施例7〕
実施例1の光重合性組成物(A)中の水添エラストマー誘導体aに代えて、水添エラストマー誘導体dを用いた。それ以外は、実施例1と同様にして、色素増感型太陽電池を組み立てた。
【0145】
〔実施例8〕
実施例7で用いたシランカップリング剤に代えて、シール材と接する作用極側基板の無機層(SiO2層)部分に、1重量%の3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランのメタノール溶液を塗布した。それ以外は、実施例7と同様にして、色素増感型太陽電池を組み立てた。
【0146】
〔実施例9〕
実施例7で用いた光重合性組成物(A)に代えて、上記水添エラストマー誘導体dを7g、ジメチロールジシクロペンタンジアクリレート(トリシクロデカンジメタノールジアクリレート)を3g、および光ラジカル重合開始剤を0.5g配合した光重合性組成物(A)を用いた。それ以外は、実施例7と同様にして、色素増感型太陽電池を組み立てた。
【0147】
〔実施例10〕
実施例7で用いた光重合性組成物(A)中の水添エラストマー誘導体dに代えて、水添エラストマー誘導体eを用いた。それ以外は、実施例7と同様にして、色素増感型太陽電池を組み立てた。
【0148】
〔実施例11〕
実施例7で用いた光重合性組成物(A)に代えて、上記水添エラストマー誘導体dを7g、1,6−ヘキサンジオールジアクリレートを3g、および光ラジカル重合開始剤を0.5g配合した光重合性組成物(A)を用いた。それ以外は、実施例7と同様にして、色素増感型太陽電池を組み立てた。
【0149】
〔実施例12〕
実施例7で用いた光重合性組成物(A)中の水添エラストマー誘導体dに代えて、水添エラストマー誘導体fを用いた。それ以外は、実施例7と同様にして、色素増感型太陽電池を組み立てた。
【0150】
〔実施例13〕
実施例1で用いた光重合性組成物(A)に代えて、実施例1で用いた光重合性組成物(A)にさらに有機化処理した膨潤性マイカ1gを加え、3本ロールを用いて10回通し(ロールギャップ0.1μm)した光重合性組成物(A)を用いた。それ以外は、実施例1と同様にして、色素増感型太陽電池を組み立てた。
【0151】
〔実施例14〕
実施例1で用いた光重合性組成物(A)に代えて、実施例1で用いた光重合性組成物(A)にさらに有機化処理した合成スメクタイト15gを加え、3本ロールを用いて10回通し(ロールギャップ0.1μm)した光重合性組成物(A)を用いた。それ以外は、実施例1と同様にして、色素増感型太陽電池を組み立てた。
【0152】
〔実施例15〕
実施例1で用いた光重合性組成物(A)に代えて、実施例1で用いた光重合性組成物(A)にさらに有機化処理した球状シリカα10gを加え、3本ロールを用いて10回通し(ロールギャップ0.1μm)した光重合性組成物(A)を用いた。それ以外は、実施例1と同様にして、色素増感型太陽電池を組み立てた。
【0153】
〔実施例16〕
実施例1で用いた光重合性組成物(A)に代えて、実施例1で用いた光重合性組成物(A)にさらに有機化処理した球状シリカβ10gを加え、3本ロールを用いて10回通し(ロールギャップ0.1μm)した光重合性組成物(A)を用いた。それ以外は、実施例1と同様にして、色素増感型太陽電池を組み立てた。
【0154】
〔実施例17〕
実施例1で用いた光重合性組成物(A)に代えて、実施例1で用いた光重合性組成物(A)にさらに有機化処理した球状シリカγ10gを加え、3本ロールを用いて10回通し(ロールギャップ0.1μm)した光重合性組成物(A)を用いた。それ以外は、実施例1と同様にして、色素増感型太陽電池を組み立てた。
【0155】
〔比較例1〕
シール材と接する両基板の無機層(SiO2層)部分に、何ら表面被覆処理をしなかった。それ以外は実施例1と同様にして、色素増感型太陽電池を組み立てた。
【0156】
〔比較例2〕
実施例1で用いたシランカップリング剤に代えて、シール材と接する両基板の無機層(SiO2層)部分に、1重量%の3−グリシドキシプロピルトリメトキシシランのメタノール溶液を塗布した。それ以外は実施例1と同様にして、色素増感型太陽電池を組み立てた。
【0157】
〔比較例3〕
実施例1で用いた光重合性組成物(A)中の水添エラストマー誘導体aに代えて、不飽和エラストマー誘導体gを用いた。それ以外は実施例1と同様にして、色素増感型太陽電池を組み立てた。
【0158】
〔比較例4〕
シール材と接する両基板の無機層(SiO2層)部分に、何ら表面被覆処理をしなかった。それ以外は実施例7と同様にして、色素増感型太陽電池を組み立てた。
【0159】
〔比較例5〕
実施例7で用いたシランカップリング剤に代えて、シール材と接する両基板の無機層(SiO2層)部分に、1重量%の3−グリシドキシプロピルトリメトキシシランのメタノール溶液を塗布した。それ以外は実施例7と同様にして、色素増感型太陽電池を組み立てた。
【0160】
〔比較例6〕
実施例7で用いた光重合性組成物(A)中の水添エラストマー誘導体dに代えて、不飽和エラストマー誘導体hを用いた。それ以外は実施例7と同様にして、色素増感型太陽電池を組み立てた。
【0161】
このようにして得られた上記の各色素増感型太陽電池を用いて、80℃×85%RH(相対湿度)の恒温槽に500時間(約21日間)放置する試験を行った。そして、下記に示す方法にしたがって、液漏れ性および膨潤性の耐久性測定を行ない、その結果を後記の表1に示す。
【0162】
<液漏れ性>
組み立て直後における色素増感型太陽電池を上面から見た時の電解質液の充填面積に対する試験後の充填面積を、面積%として計測し、これを液漏れ性の指標とした。液漏れがない場合には、100面積%となり、この数値が小さくなる程、液漏れの度合いが大きいということである。これは、電解質液が液漏れすると、液漏れ分だけ空間ができ、この部分には上記電解質液がなく、試験前に比べ試験後の電解質液の面積が減少することから、このように測定したものである。
【0163】
<膨潤性>
組み立てた色素増感型太陽電池内にある電解質液(ヨウ素を含有させたもの)に接触するシール材について、電解質液がシール材に浸透すると、シール材の幅方向(基板と平行に内側から外側に向かう方向)に、ヨウ素の着色が生じることから、その幅方向への、ヨウ素による着色長さを測定し、その着色長さを電解質液によるシール材の膨潤性(電解質液が浸透する結果、膨潤する)の指標とした。この着色長さが短いほど、膨潤しないことを示す。ここで、シール材の幅は、最大で5mmであることから、ヨウ素による着色長さも最大で5mmとなる。
【0164】
【表1】

【0165】
上記結果から、実施例品は、液漏れ性の結果について、全て95面積%以上の充填面積を保っており、電解質液の液漏れはほとんどないといえる。また、膨潤性の結果についても、実施例9のみ1.8mmの着色長さとなっているものの、実用に耐えるものであった。また、他の実施例品は全て1.0mm以下であり、膨潤も少ないことから各実施例品において、優れたシール性を有する色素増感型太陽電池が得られたといえる。
【0166】
これに対して、比較例品は、液漏れ性の結果について、0〜15面積%の充填面積となっており、電解質液が液漏れしていることが明らかである。さらに、膨潤性の結果についても、比較例品は全て最大着色長さ(全幅)である5.0mmの着色長さとなり、大きな膨潤性を示す悪い結果となった。
【0167】
このような結果から、各実施例品は、例えば、両基板に形成された2層の無機層のうち、SiOCN層(図1の無機層2,2′)がガスバリア膜として機能し、もう一方の無機層であるSiO2層(図1の無機層3,3′)とシランカップリング剤とは反応性に富むため、基板、シール材等が耐電解質液性、接着性等の耐久性に優れていることも相俟って、液漏れ性および膨潤性ともに良好な結果が得られており、耐久性に優れたものであるといえる。したがって、上記構成を備えた実施例品である高分子樹脂材料製の色素増感型太陽電池は、長期保存および長期使用に耐え得る極めて優れたものである。
【産業上の利用可能性】
【0168】
本発明の色素増感型太陽電池は、シール材が特定の光重合性組成物からなる光重合性硬化体であるため、加熱硬化が不要となり、加熱による電解質液の蒸発に伴うシール部の剥離が生じず、長期にわたる封止の際にも、電解質液による膨潤や劣化が生じないものである。そのうえ、高分子樹脂材料からなる基板に対する上記特定のシランカップリング剤の作用と相俟って、高い接着力を発揮し、高度な耐久性を発現する。したがって、特に耐久性が要求される高分子樹脂型色素増感型太陽電池の分野において、高い信頼性を有するものとして広く適用することができる。
【符号の説明】
【0169】
1 対極側基板
1'作用極側基板
2,2′ 無機層(基板側)
3,3′ 無機層(電極層側)
4 シール材(メインシール)
4′被覆膜
5,5′ 透明導電電極層
6 電解質液
7 多孔質半導体層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方が電極層付き対極側基板で、他方が透明導電電極層を有する作用極側基板が、上記電極層と上記透明導電電極層を内側にした状態で所定間隔を保って対向配設され、上記一対の基板間の空隙が、それら基板の内側面の周縁部にシール材を配設することによりシールされ、そのシールされた空隙内に、電解質液が封入されてなる色素増感型太陽電池であって、上記両基板が高分子樹脂材料からなり、上記対極側基板とその電極層との間、および、上記作用極側基板とその透明導電電極層との間にそれぞれ無機層が配設されており、かつ上記シール材が下記の(A)を光重合させた光重合性硬化体からなり、上記シール材と接する無機層の部分が(メタ)アクリロキシアルキルシラン類シランカップリング剤で被覆されていることを特徴とする色素増感型太陽電池。
(A)分子両末端の少なくとも一方に、1個以上の(メタ)アクリロイル基を有する水添エラストマー誘導体を必須成分とする光重合性組成物。
【請求項2】
上記無機層が、Si、Al、In、Sn、Zn、Ti、Nb、CeおよびZrからなる群から選ばれた少なくとも一つの元素の酸化物、窒化物、酸化窒化物、酸化炭化物、窒化炭化物および酸化窒化炭化物の少なくとも一つの化合物から形成されてなる透明無機層である請求項1記載の色素増感型太陽電池。
【請求項3】
上記無機層が、2層以上の積層構造である請求項1または2記載の色素増感型太陽電池。
【請求項4】
上記無機層が、酸化珪素層、酸化窒化珪素層、酸化炭化珪素層、酸化炭化窒化珪素層および窒化珪素層からなる群から選ばれた少なくとも一つの無機層を含む請求項1〜3のいずれか一項に記載の色素増感型太陽電池。
【請求項5】
上記対極側基板に設けられた電極層が、透明導電層、または、白金、炭素、金および導電性ポリマーからなる群から選ばれた少なくとも一つからなる導電層を有する請求項1〜4のいずれか一項に記載の色素増感型太陽電池。
【請求項6】
上記(A)の光重合性組成物が、層状珪酸塩を含有する請求項1〜5のいずれか一項に記載の色素増感型太陽電池。
【請求項7】
上記(A)の光重合性組成物が、絶縁性球状無機質充填剤を含有する請求項1〜6のいずれか一項に記載の色素増感型太陽電池。
【請求項8】
上記(メタ)アクリロキシアルキルシラン類シランカップリング剤が、3−(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシランである請求項1〜7のいずれか一項に記載の色素増感型太陽電池。
【請求項9】
上記(A)の光重合性組成物中の水添エラストマー誘導体の主鎖が、水添ポリブタジエンからなる請求項1〜8のいずれか一項に記載の色素増感型太陽電池。
【請求項10】
上記(A)の光重合性組成物中の水添エラストマー誘導体の主鎖が、水添ポリイソプレンからなる請求項1〜8のいずれか一項に記載の色素増感型太陽電池。
【請求項11】
上記(A)の光重合性組成物中の水添エラストマー誘導体が、ポリイソシアネートを連結基として水添ポリブタジエンポリオールとヒドロキシ(メタ)アクリレート化合物類とを反応させてなる水添ポリブタジエン誘導体である請求項1〜9のいずれか一項に記載の色素増感型太陽電池。
【請求項12】
上記(A)の光重合性組成物中の水添エラストマー誘導体が、ポリイソシアネートを連結基として水添ポリイソプレンポリオールとヒドロキシ(メタ)アクリレート化合物類とを反応させてなる水添ポリイソプレン誘導体である請求項1〜8および請求項10のいずれか一項に記載の色素増感型太陽電池。
【請求項13】
上記(A)の光重合性組成物が、その組成物中の水添エラストマー誘導体として下記の(a1)成分を用い、これに下記の(b)〜(d)成分を含有させてなるものである請求項1〜9および請求項11のいずれか一項に記載の色素増感型太陽電池。
(a1)ポリイソシアネートを連結基として水添ポリブタジエンポリオールとヒドロキシ(メタ)アクリレート化合物類とを反応させてなる水添ポリブタジエン誘導体。
(b)ポリ(メタ)アクリレート化合物類。
(c)光重合開始剤。
(d)層状珪酸塩および絶縁性球状無機質充填剤の少なくとも一方。
【請求項14】
上記(A)の光重合性組成物が、その組成物中の水添エラストマー誘導体として下記の(a2)成分を用い、これに下記の(b)〜(d)成分を含有させてなるものである請求項1〜8、10および請求項12のいずれか一項に記載の色素増感型太陽電池。
(a2)ポリイソシアネートを連結基として水添ポリイソプレンポリオールとヒドロキシ(メタ)アクリレート化合物類とを反応させてなる水添ポリイソプレン誘導体。
(b)ポリ(メタ)アクリレート化合物類。
(c)光重合開始剤。
(d)層状珪酸塩および絶縁性球状無機質充填剤の少なくとも一方。
【請求項15】
上記(A)の光重合性組成物中の水添エラストマー誘導体が、水添ポリブタジエンポリオールと(メタ)アクリロイル基含有イソシアネート化合物類とを反応させてなる水添ポリブタジエン誘導体である請求項1〜9のいずれか一項に記載の色素増感型太陽電池。
【請求項16】
上記(A)の光重合性組成物中の水添エラストマー誘導体が、水添ポリイソプレンポリオールと(メタ)アクリロイル基含有イソシアネート化合物類とを反応させてなる水添ポリイソプレン誘導体である請求項1〜8および請求項10のいずれか一項に記載の色素増感型太陽電池。
【請求項17】
上記(A)の光重合性組成物が、その組成物中の水添エラストマー誘導体として下記の(a3)成分を用い、これに下記の(b)〜(d)成分を含有させてなるものである請求項1〜9および請求項15のいずれか一項に記載の色素増感型太陽電池。
(a3)水添ポリブタジエンポリオールと(メタ)アクリロイル基含有イソシアネート化合物類とを反応させてなる水添ポリブタジエン誘導体。
(b)ポリ(メタ)アクリレート化合物類。
(c)光重合開始剤。
(d)層状珪酸塩および絶縁性球状無機質充填剤の少なくとも一方。
【請求項18】
上記(A)の光重合性組成物が、その組成物中の水添エラストマー誘導体として下記の(a4)成分を用い、これに下記の(b)〜(d)成分を含有させてなるものである請求項1〜8、10および請求項16のいずれか一項に記載の色素増感型太陽電池。
(a4)水添ポリイソプレンポリオールと(メタ)アクリロイル基含有イソシアネート化合物類とを反応させてなる水添ポリイソプレン誘導体。
(b)ポリ(メタ)アクリレート化合物類。
(c)光重合開始剤。
(d)層状珪酸塩および絶縁性球状無機質充填剤の少なくとも一方。
【請求項19】
上記作用極側基板に設けられた透明導電電極層が、錫ドープ酸化インジウム(ITO)、フッ素ドープ酸化インジウム(FTO)、酸化インジウム亜鉛(IZO)、酸化インジウムガリウム亜鉛(IGZO)および酸化亜鉛からなる群から選ばれた少なくとも一つの化合物からなる透明導電電極層である請求項1〜18のいずれか一項に記載の色素増感型太陽電池。
【請求項20】
上記透明導電層が、錫ドープ酸化インジウム(ITO)、フッ素ドープ酸化インジウム(FTO)、酸化インジウム亜鉛(IZO)、酸化インジウムガリウム亜鉛(IGZO)および酸化亜鉛からなる群から選ばれた少なくとも一つの化合物からなる透明導電電極層である請求項5記載の色素増感型太陽電池。
【請求項21】
請求項1〜20のいずれか一項に記載の色素増感型太陽電池において、対向配設された一対の基板の内側面の周縁部に配設されてなる色素増感型太陽電池用シール材であって、上記シール材が下記の(A)を光重合させた光重合性硬化体からなることを特徴とする色素増感型太陽電池用シール材。
(A)分子両末端の少なくとも一方に、1個以上の(メタ)アクリロイル基を有する水添エラストマー誘導体を必須成分とする光重合性組成物。

【図1】
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【公開番号】特開2012−226855(P2012−226855A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−90846(P2011−90846)
【出願日】平成23年4月15日(2011.4.15)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】