説明

色素増感型太陽電池用ゲル型電解質及びこれを含む色素増感型太陽電池

【課題】色素増感型太陽電池用ゲル型電解質及びこれを含む色素増感型太陽電池を提供する。
【解決手段】高分子ヨウ素錯体とヨウ化物とから生成される酸化還元対、無機ナノ粒子、高沸点有機溶媒を含む色素増感型太陽電池用ゲル型電解質;これを含む色素増感型太陽電池である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、色素増感型太陽電池用ゲル型電解質及びこれを含む色素増感型太陽電池に関する。
【背景技術】
【0002】
色素増感型太陽電池は、可視光線を吸収し、電子・正孔対を生成することができる感光性染料分子と、生成された電子を伝達する酸化チタンからなる酸化物半導体電極とを利用した光電気化学的太陽電池であり、染料分子が吸着された半導体酸化物ナノ粒子層を含む光負極、白金触媒を含んだ対向電極、及び酸化還元イオン対を含んだ電解質を具備する。
前記構成要素のうち電解質は、太陽電池の光電効率と耐久性とを左右する核心要素である。
【0003】
従来、色素増感型太陽電池では、低粘度揮発性有機溶媒を利用する液体電解質を主に使用する(例えば特許文献1)。液体電解質は、イオン伝導度特性にすぐれ、光電変換効率は優秀であるが、液漏れ及び揮発によって、太陽電池の耐久性が低下しうる。従って、揮発及び液漏れを防止するために、沸点の高い高粘度溶媒を使用しなければならない。
【0004】
沸点の高い高粘度溶媒を使用した電解質の場合、イオン伝導度が低く、イオンの含有量を高めなければならない。ところが、イオンの含有量を増加すると、イオン伝導度は増加するものの、ヨウ素の光吸収により暗電流が増加して開放電圧が低くなり、また、金属電極の腐食速度を速めて太陽電池の安定性を損なうという問題があり、改善の余地が多い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−311336号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、イオン伝導度特性にすぐれ、安定性が改善された色素増感型太陽電池用ゲル型電解質及びこれを含む色素増感型太陽電池を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一側面によって、高分子ヨウ素錯体とヨウ化物とから生成される酸化還元対;無機ナノ粒子;高沸点有機溶媒;を含む色素増感型太陽電池用ゲル型電解質が提供される。
本発明の他の一側面によって、第1電極、前記第1電極の一面に形成された光吸収層、前記第1電極に形成された前記光吸収層に対向して配される第2電極、前記光吸収層と第2電極との間の空間に埋め込まれ、前述のゲル型電解質を含む色素増感型太陽電池が提供される。
【発明の効果】
【0008】
低いヨウ素濃度でも、イオン伝導度がすぐれるだけでなく、金属電極腐食速度が低下された色素増感型太陽電池用電解質が提供される。
前記電解質を利用すれば、光電変換効率が向上した色素増感型太陽電池を製作することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の一実施態様による色素増感型太陽電池の構造を示した断面図である。
【図2】実施例1、比較例1及び比較例3による電解質において、ヨウ素濃度による光電変換効率を評価して示したグラフである。
【図3】実施例1、比較例1及び比較例3による電解質において、ヨウ素濃度によるインピーダンス変化を評価して示したグラフである。
【図4】実施例1及び比較例2による電解質において、銀グリッド腐食によるグリッド抵抗変化を評価して示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付された図面を参照しつつ、本発明の望ましい実施例について詳細に説明する。
高分子ヨウ素錯体とヨウ化物とから生成される酸化還元対;無機ナノ粒子;高沸点有機溶媒;を含む色素増感型太陽電池用ゲル型電解質が提供される。
【0011】
前記高分子ヨウ素錯体で高分子は、ヨウ素と錯体を形成することができるものであるならば、いずれも使用可能である。例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルピリジン、ポリアミド、多糖類、及びそれらの混合物が挙げられる。
前記高分子ヨウ素錯体は、一態様として、下記化学式(1)で表示されるポリビニルピロリドン−ヨウ素錯体を挙げることができる。
【化1】

前記化学式(1)で、nは、5ないし1,000の数であり、mは、5ないし10,000の数である。
【0012】
前記高分子ヨウ素錯体は、前記化学式(1)に示されているように、ヨウ素は、高分子に拘束されて自由拡散が困難である。従って、保護膜の微細気孔を介したヨウ素の金属電極腐食反応が大きく抑制され、従って、前記電解質は、ヨウ素を含む一般的な電解質を使用する場合と比較して、金属電極の腐食が顕著に抑制される。
【0013】
前記高分子ヨウ素錯体は、無機ナノ粒子100重量部を基準として、40ないし400重量部である。高分子ヨウ素錯体の含有量が前記範囲であるとき、電解質の酸化・還元能にすぐれる。
【0014】
前記高分子ヨウ素錯体において、前記高分子の反復単位とヨウ素との混合モル比は、20:1ないし1:1であり、例えば、10:1ないし5:1である。
前記高分子の反復単位とヨウ素との混合モル比が前記範囲であるとき、酸化・還元反応が円滑に進められる。
【0015】
前記高分子ヨウ素錯体で、ヨウ素含有量は、0.01−0.10mol/L、例えば、0.03−0.06mol/Lである。ヨウ素含有量が前記範囲であるとき、電子再結合反応が円滑になされうる。
【0016】
前記ヨウ化物としては、ヨウ化リチウム(LiI)、ヨウ化ブロム(LiBr)、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化カリウム、ヨウ化マグネシウム、ヨウ化銅、ヨウ化ケイ素、ヨウ化マンガン、ヨウ化バリウム、ヨウ化モリブデン、ヨウ化カルシウム、ヨウ化鉄、ヨウ化セシウム、ヨウ化亜鉛、ヨウ化水銀、ヨウ化アンモニウム、ヨウ化メチル、ヨウ化メチレン、ヨウ化エチル、ヨウ化エチレン、ヨウ化イソプロピル、ヨウ化イソブチル、ヨウ化ベンジル、ヨウ化ベンゾイル、ヨウ化アリル、ヨウ化イミダゾリウム(imidazolium iodide)、ヨウ化ピリジニウム(pyridinium iodide)及びヨウ化ピロリジウム(pyrrolidinium iodide)からなる群から選択された一つ以上を使用する。
【0017】
前記高分子ヨウ素錯体及びヨウ化物から生成された酸化還元対は、高分子ヨウ素錯体の陽イオンとヨウ素イオン(I/I)とを含む。
【0018】
前記酸化還元対は、無機ナノ粒子100重量部を基準にして、40ないし400重量部である。酸化還元対が前記範囲であるとき、電解質のイオン伝導度特性にすぐれる。
【0019】
前記無機ナノ粒子は、粒子表面にイオンを整列させ、高粘度状態でも交換メカニズムによって、イオンを早く移動させ、イオン伝導度の改善によって、最適ヨウ素濃度を下げることが可能である。従って、前記高分子ヨウ素錯体と共に電解質に付加され、低いヨウ素濃度でも、電解質のイオン伝導度にすぐれる。
前記無機ナノ粒子は、例えば、チタニア、シリカ及び酸化インジウムスズ(ITO)からなる群から選択される。
【0020】
前記無機ナノ粒子の平均粒径は、5ないし200nm、例えば10ないし50nmである。無機ナノ粒子の平均粒径が前記範囲であるとき、電解質のイオン伝導度にすぐれる。
前記無機ナノ粒子の含有量は、電解質総重量100重量部を基準として、1ないし20重量部、例えば5−10重量部である。無機ナノ粒子の含有量が前記範囲であるとき、電解質のイオン伝導度特性にすぐれる。
【0021】
前記電解質は、高沸点有機溶媒を含む。
前記高沸点有機溶媒は、沸点が120℃以上である有機溶媒であり、例えば、3−メトキシプロピオンニトリル、N−メチルピロリドン(NMP)、1−アルキル(R)−3−メチルイミダゾリウムテトラシアノボレート(1-alkyl-3-methylimidazolium tetracyanoborate)、1−アルキル(R)−3−メチルイミダゾリウムジシアンアミド(1-alkyl-3-methylimidazolium dicyanamide)、1−アルキル(R)−3−メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミドからなる群から選択された一つ以上である。
前記アルキル(R)は、C−C20アルキル基、またはC−C20アルケニル基を意味し、具体的な例として、メチル基、エチル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、プロピル基、ジメチル基、アリル基などがある。
【0022】
前記高沸点有機溶媒は、具体的には、3−メトキシプロピオンニトリル、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムテトラシアノボレート、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムジシアノアミド、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムトリフルオロメタンスルホネート、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムメチルスルフェート、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート、及びそれらの混合物を挙げることができる。
【0023】
前記高沸点有機溶媒の含有量は、無機ナノ粒子100重量部を基準として、1,000ないし1,600重量部である。高沸点有機溶媒の含有量が前記範囲であるとき、電解質のイオン伝導度特性にすぐれる。
【0024】
前記電解質は、粘度調節用高分子をさらに含みうる。かような粘度調節用高分子が電解質に付加されれば、電解質の粘度を調節しつつ、ヨウ化物を溶解する溶媒の役割を行うことができる。
前記粘度調節用高分子としては、酸化エチレン系高分子、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体からなる群から選択された一つ以上を使用する。
【0025】
前記粘度調節用高分子の重量平均分子量は、5,000ないし1,000,000g/mol、例えば100,000−500,000g/mol、他の例として約300,000g/molである。粘度調節用高分子の重量平均分子量が前記範囲であるとき、電解質の粘度が適切な範囲内で調節され、イオン伝導度特性にすぐれる。
【0026】
前記粘度調節用高分子の含有量は、無機ナノ粒子100重量部を基準として、20ないし200重量部である。粘度調節用高分子の含有量が前記範囲であるとき、電解質の粘度特性が適切な範囲内で制御され、イオン伝導度にすぐれる。
【0027】
前記電解質は、太陽電池の電流特性及び電圧特性を向上させる窒素含有添加剤をさらに含有することができる。窒素含有添加剤の総含有量は、無機ナノ粒子を含む電解質100重量部を基準として、100ないし300重量部である。
【0028】
窒素含有添加剤の例としては、4−ブチルピリジン、ピラゾール、イミダゾール、1,2,3−トリアゾール、1,2,4−トリアゾール、テトラゾール、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン、1,3,5−トリアジン、ピリジン;2−アミノキノリン、3−アミノキノリン、5−アミノキノリン、6−アミノキノリンのようなキノリン系化合物;アミン系化合物からなる群から選択されうる。
【0029】
前記電解質は、ヨウ素含有量が最小化されて、効率及び安定性が確保される。
【0030】
図1は、本発明の一具現例による色素増感型太陽電池の構造を示した断面図である。
図1を参照すると、本実施形態による太陽電池は、第1電極11と、光吸収層13及び染料15とを備える第1基板10;第2電極21を備える第2基板20;が互いに対置され、第1電極11と第2電極21との間に、電解質30が位置して構成される。第1基板10と第2基板20との外側に、別途のケース(図示せず)が配されうる。これについてさらに詳細に説明する。
【0031】
本実施形態で、第1電極11を支持する支持体の役割を行う第1基板10は、外部光の入射が可能なように透明に形成される。このために、第1基板10は、ガラスまたはプラスチックからなりうる。プラスチックの具体的な例としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリカーボネート(PC)、ポリプロピレン(PP)、ポリイミド(PI)、トリアセチルセルロース(TAC)などを挙げることができる。
【0032】
第1基板10に形成される第1電極11は、ITO、インジウム酸化物、スズ酸化物、亜鉛酸化物、硫黄酸化物、フッ素酸化物、ZnO−Ga、ZnO−Al及びそれら混合物のうちから選択された一つ以上の透明物質からなりうる。第1電極11は、前記透明物質の単一膜または積層膜からなりうる。
【0033】
第1電極11上には、光吸収層13が形成される。かような光吸収層13は、二酸化チタン粒子131を含み、適切な平均気孔サイズを有することによって、電解質30の移動を容易にしつつ、二酸化チタン粒子131のネッキング特性を向上させることができる。
光吸収層13は、10nmないし3,000nm厚、例えば10nmないし1,000nmでありうる。しかし、これに限定されるものではなく、前記厚みは、技術発展などによって変化しうることは言うまでもない。
【0034】
前記光吸収層13の表面には、外部光を吸収して励起電子を生成する染料15が吸着される。
【0035】
一方、第1基板10に対置される第2基板20は、第2電極21を支持する支持体の役割を行い、透明に形成されうる。前記第2基板20は、第1基板10のように、ガラスまたはプラスチックからなりうる。
【0036】
第2基板20に形成される第2電極21は、第1電極11と対置されるように形成され、透明電極21aと触媒電極21bとを含むことができる。
透明電極21aは、ITO、フルオロスズ酸化物、アンチモンスズ酸化物、亜鉛酸化物、スズ酸化物、ZnO−Ga、ZnO−Alなどの透明物質からなりうる。このとき、透明電極21aは、前記透明物質の単一膜または積層膜からなりうる。
【0037】
前記触媒電極21bは、酸化・還元対(redox couple)を活性化させる役割を行うものであり、触媒電極として、本発明の一態様による白金電極を使用する。
【0038】
前記第1基板10と第2基板20は、接着剤41によって接合され、第2基板20と第2電極21とを貫通するホール25aを介して電解質30が注入され、第1電極11と第2電極21との間に、本発明の一態様による電解質30で満たされる。かような電解質30は、光吸収層13の内部に均一に分散される。電解質30は、酸化還元によって、第2電極21から電子を受け、染料15に伝達する役割を行う。第2基板20及び第2電極21を貫通するホール25aは、接着剤42及びカバーガラス43によって密封される。
図1には示されていないが、前記第1電極11の上部そして前記光吸収層13の下部には、一般的な多孔質膜である金属酸化物膜がさらに形成されうる。
【0039】
ここで、前記光吸収層13は、光散乱電極の役割と、多量の染料吸着能とを示すことによって、既存の光散乱電極の短所を補完し、色素増感型太陽電池の効率を高めるのである。
【0040】
前記多孔質膜は、金属酸化物粒子から構成されて、二酸化チタン(titanium oxide)、亜鉛酸化物、スズ酸化物、ストロンチウム酸化物(strontium oxide)、インジウム酸化物(indium oxide)、イリジウム酸化物(iridium oxide)、ランタン酸化物(lanthan oxide)、バナジウム酸化物(vanadium oxide)、モリブデン酸化物(molybdenum oxide)、タングステン酸化物(tungsten oxide)、ニオブ酸化物(niobium oxide)、マグネシウム酸化物(magnesium oxide)、アルミニウム酸化物(aluminium oxide)、イットリウム酸化物(yttrium oxide)、スカンジウム酸化物(scandium oxide)、サマリウム酸化物(samarium oxide)、ガリウム酸化物(galluim oxide)、ストロンチウム二酸化チタン(strontium titanium oxide)などからなりうる。ここで、金属酸化物粒子は、一態様によれば、チタン酸化物であるTiO、スズ酸化物であるSnO、タングステン酸化物であるWO、亜鉛酸化物であるZnO、またはそれらの複合体からなりうる。
【0041】
以下、本発明の一態様による色素増感型太陽電池の製造方法について説明する。
まず、第1電極に、染料が吸着された多孔質膜を含む光吸収層を形成する。
別途、透明電極と触媒電極とホールとが形成された第2電極を準備し、この第2電極と、前記光吸収層の形成された第1電極とを接合する。
前記第2電極のホールを介して、電解質形成用組成物を注入し、色素増感型太陽電池を製作することができる。
【0042】
前記電解質形成用組成物は、高分子ヨウ素錯体、ヨウ化物、高沸点溶媒及び無機ナノ粒子を含有する。前記電解質形成用組成物には、粘度調節用高分子及び窒素含有添加剤のうちから選択された一つ以上をさらに付加することができる。
【0043】
本発明の他の一態様による色素増感型太陽電池は、下記方法によって製作可能である。
まず、第1電極に染料が吸着された多孔質膜を含む光吸収層を形成する。
前記光吸収層上に、高分子ヨウ素錯体、ヨウ化物、高沸点溶媒及び無機ナノ粒子を混合し、電解質形成用組成物を塗布してゲル型電解質を形成する。
前記電解質形成用組成物には、粘度調節用高分子及び窒素含有添加剤のうちから選択された一つ以上をさらに付加することができる。
前記ゲル型電解質の上部に、第2電極を位置させた後、第1電極と第2電極とを接合する段階を経て、色素増感型太陽電池が製造されうる。
【0044】
以下、望ましい実施例を挙げて説明するが、本発明がそれらに限定されるものではない。
<実施例1:電解質(PVP−I+TiO)の製造>
ポリビニルピロリドン(PVP)−I錯体(化学式(1)で、n=10、m=80)は、アルドリッチ(Aldrich)から購買し、及び、PVP反復単位とIとのモル比は、10:1であった。
電解質溶媒としては、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)を、精製なしに使用した。
NMPに、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムヨウ化物(BMImI)1.2M、PVP−I 0.045M(モル/L)及び4−tert−ブチルピリジン(TBP)0.5Mを溶解させた。
得られた混合物にTiOを添加した後、遠心コンディショニングミキサ(centrifugal conditioning mixer)(Thinky mixer)を利用して混合(2,000rpm/30min)し、ゲル型電解質を製造した。前記TiOの含有量は、電解質総重量を基準として、約5重量%である。前記TiOは、平均粒径約20nmであり、使用前に500℃で30分間焼結後に使用した。
【0045】
<実施例2:電解質(PVP−I+TiO+PEO)の製造>
TiO添加時に、酸化ポリエチレン(PEO)(Mw=300,000g/mol)をともに付加することを除いては、実施例1と同じ方法によって実施し、電解質を製造した。
前記PEOの含有量は、電解質総重量を基準として、約9重量%である。
前記PEOの含有量は、無機ナノ粒子(TiO)100重量部を基準として、180重量部に該当する。
【0046】
<比較例1:電解質(I)の製造>
電解質の製造時、溶媒としては、NMPを精製なしに使用した。I添加量は、0.12Mに固定した。
NMPに、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムヨウ化物(BMImI)1.2M、I及び4−tert−ブチルピリジン(TBP)0.5Mを溶解させて電解質を製造した。
【0047】
<比較例2:電解質(I+TiO)の製造>
比較例1の電解質に、TiOを、電解質総重量を基準として、約5重量%をさらに付加及び混合し、遠心コンディショニングミキサ(Thinky mixer)を利用して混合(2,000rpm/30min)し、電解質を製造した。
前記TiOは、粒径約20nmであり、使用前に500℃で30分間焼結した後で使用した。
【0048】
<比較例3:電解質(PVP−I)の製造>
の代わりに、PVP−Iを付加したことを除いては、比較例1と同じ方法によって実施し、電解質を製造した。
【0049】
<評価例:評価セルの製造及び評価>
フッ素含有酸化スズ(FTO)基板(厚み:2.3mm)上に、TiOペースト(PST−18NR、日本・JGC C&C)を、スクリーン印刷を介して12μm厚に塗布し、500℃/30min条件で焼成し、次に、散乱粒子ペースト(400c、日本・JGC C&C)を同じ方法で印刷/焼成し(焼成後に約4μm)、光負極を製造した。
製造された光負極を、下記式で表される染料(N719)溶液(0.2mM/EtOH)に浸漬させ、24時間放置した。そして、対向電極は、フッ素ドープ酸化スズ(FTO)にPtを20分間スパッタリングして準備した。
【化2】

【0050】
ホットメルト・フィルム(hot melt film)(Suryln、DuPont、60μm)を、光負極と、ホールが形成された対向電極との間に挿入した後、ホットプレス(hot press)を利用して熱接着(130℃/15sec)した。前記実施例1及び2または比較例1〜3によって製造された電解質を、対向電極に形成されたホールを介して注入した。
【0051】
製造されたセルは、標準測定条件(AM1.5G、100mWcm−2)で、電流−電圧曲線を評価した。これ以外にも、インピーダンス分析機(impedance analyzer)を利用してイオン伝導度及びセル・インピーダンス測定を行い、Ag腐食評価(電極抵抗変化測定)を行った。
【0052】
また、前記過程によって製造されたセルの開放電圧、短絡電流密度、エネルギー変換効率及び曲線因子(FF:fill factor)の測定条件は、次の通りである。
(1)開放電圧(VOC)及び短絡電流密度(JSC
開放電圧と光電流密度は、Keithley SMU2400を利用して測定した。
(2)エネルギー変換効率(R、%)及び曲線因子(%)
エネルギー変換効率の測定は、1.5AM 100mW/cmのソーラーシミュレータ(solar simulator)(Xeランプ[300W、Oriel]、AM1.5フィルタ及びKeithley SMU2400によって構成)を利用し、曲線因子は、前記で得た変換効率及び下記数式1を利用して計算した。
【数1】

前記数式1で、Jは、変換効率曲線のY軸値であり、Vは、変換効率曲線のX軸値であり、Jsc及びVocは、各軸の切片値である。
【0053】
前記実施例1による電解質を利用した太陽電池と、比較例1及び比較例3による電解質を利用した太陽電池とを製造し、ソーラーシミュレータを利用して、標準測定条件で電流−電圧特性を評価した。その結果は、下記表1の通りである。下記表1の光電変換特性は、測定条件AM1.5G/100mWcm−2で評価されたものである。
【表1】

【0054】
表1から分かるように、実施例1の電解質を用いた太陽電池は、光電変換特性、効率のいずれの点においても、比較例1及び3に比べて、顕著に優れていた。
【0055】
前記表1に示した、実施例1及び比較例1、3によって製造されたゲル型電解質を利用した太陽電池について、ソーラーシミュレータを利用して、標準測定条件で電流−電圧特性を測定し、効率特性結果を図2に示した。
【0056】
評価した結果、液体電解質に高分子を添加することによって、Vocが大きく増加した。これは、添加されたPEOが光負極のTiOナノ粒子の表面を覆い包むことによって、Iイオンとの直接的な接触を防止し、従って、電子再結合が減少した結果であると解釈することができる。また、高分子の添加によって、多少低下したJscは、ナノ粒子を電解質に添加することによって、大きく向上するということが分かる。これは、電解質の酸化還元対がナノ粒子によって形成された経路を介して移動することによって、イオン伝導特性が改善された結果であると思料される。
【0057】
図2を参照しつつ、各電解質別の最適ヨウ素濃度を確認することができる。
図2で実施例1の電解質は、比較例1及び3の場合と比較して、最適性能のために、相対的に低いヨウ素濃度を要求するということが分かる。これは、ナノ粒子添加によって、酸化還元対の移動特性が向上したためである。
【0058】
前記実施例1、比較例1及び比較例3によって製造された電解質を利用して製造された太陽電池のインピーダンスを測定し、その結果を図3に示した。図3を参照すれば、1sunで測定した結果を見れば、ヨウ素濃度が上昇するほど、低周波数領域での電解質拡散抵抗が大きく低下するということが分かる。また、図3から分かるように、実施例1の電解質は、比較例1及び比較例3の場合と比較して、電解質拡散抵抗が小さい。
【0059】
前記実施例1及び比較例3によって製造された電解質において、インピーダンス及び伝導度特性を調べて、下記表2に示した。
【表2】

【0060】
前記表2を参照すれば、電解質にTiOナノ充填剤を添加した場合、約2倍のイオン伝導度の向上を確認することができた。
【0061】
また、実施例1及び比較例2による電解質で、Agグリッド腐食速度を測定するために、Agグリッドセルに前記電解質を注入し、85℃で200時間抵抗変化測定を行い、その結果を図4に示した。図4から分かるように、実施例1の電解質は、比較例2の電解質に比べて、顕著に低い抵抗を示した。
【0062】
以上、本発明の望ましい製造例を参照しつつ説明したが、当該技術分野の当業者であるならば、特許請求の範囲に記載された本発明の思想及び領域から外れない範囲内で、本発明を多様に修正及び変更させることができるということを理解することができるであろう。
【符号の説明】
【0063】
10 第1基板
11 第1電極
13 光吸収層
131 金属酸化物粒子
15 染料
20 第2基板
21 第2電極
21a 透明電極
21b 触媒電極
25a ホール
30 電解質
41,42 接着剤
43 カバーガラス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子ヨウ素錯体とヨウ化物とから生成される酸化還元対と、
無機ナノ粒子と、
高沸点有機溶媒と、を含む色素増感型太陽電池用ゲル型電解質。
【請求項2】
前記高分子ヨウ素錯体の高分子が、
ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルピリジン、ポリアミド及び多糖類からなる群から選択された一つ以上であることを特徴とする請求項1に記載の色素増感型太陽電池用ゲル型電解質。
【請求項3】
前記高分子ヨウ素錯体が、
下記化学式(1)で表示されることを特徴とする請求項1又は2に記載の色素増感型太陽電池用ゲル型電解質:
【化1】

前記化学式(1)で、nは、5ないし1,000の数であり、mは、5ないし10,000の数である。
【請求項4】
前記無機ナノ粒子が、
チタニア、シリカ及び酸化インジウムスズからなる群から選択された一つ以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の色素増感型太陽電池用ゲル型電解質。
【請求項5】
前記高沸点有機溶媒が、
沸点が120℃以上である有機溶媒であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の色素増感型太陽電池用ゲル型電解質。
【請求項6】
前記高沸点有機溶媒が、
3−メトキシプロピオンニトリル、N−メチルピロリドン(NMP)、1−アルキル(R)−3−メチルイミダゾリウムテトラシアノボレート、1−アルキル(R)−3−メチルイミダゾリウムジシアンアミド、1−アルキル(R)−3−メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミドからなる群から選択された一つ以上であり、
前記アルキル(R)は、C−C20アルキル基またはC−C20アルケニル基であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の色素増感型太陽電池用ゲル型電解質。
【請求項7】
粘度調節用高分子をさらに含むことを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の色素増感型太陽電池用ゲル型電解質。
【請求項8】
前記高分子ヨウ素錯体において、前記高分子の反復単位とヨウ素との混合モル比が、20:1ないし1:1であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の色素増感型太陽電池用ゲル型電解質。
【請求項9】
前記高分子ヨウ素錯体及びヨウ化物から生成された酸化還元対が、
高分子ヨウ素錯体の陽イオンと、ヨウ素イオン(I及び/又はI)とを含むことを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の色素増感型太陽電池用ゲル型電解質。
【請求項10】
前記酸化還元対の含有量が、
ナノ無機粒子100重量部を基準として、40ないし400重量部であることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の色素増感型太陽電池用ゲル型電解質。
【請求項11】
前記高沸点溶媒の含有量が、
ナノ無機粒子100重量部を基準として、1,000ないし1,600重量部であることを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載の色素増感型太陽電池用ゲル型電解質。
【請求項12】
前記粘度調節用高分子の含有量が、
ナノ無機粒子100重量部を基準として、20ないし200重量部であることを特徴とする請求項7〜11のいずれか1項に記載の色素増感型太陽電池用ゲル型電解質。
【請求項13】
前記粘度調節用高分子が、
酸化エチレン系高分子、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体からなる群から選択された一つ以上であることを特徴とする請求項7〜12のいずれか1項に記載の色素増感型太陽電池用ゲル型電解質。
【請求項14】
前記無機ナノ粒子の平均粒径が、5ないし200nmであることを特徴とする請求項1〜13のいずれか1項に記載の色素増感型太陽電池用ゲル型電解質。
【請求項15】
前記ヨウ化物が、
ヨウ化リチウム(LiI)、ヨウ化ブロム(LiBr)、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化カリウム、ヨウ化マグネシウム、ヨウ化銅、ヨウ化ケイ素、ヨウ化マンガン、ヨウ化バリウム、ヨウ化モリブデン、ヨウ化カルシウム、ヨウ化鉄、ヨウ化セシウム、ヨウ化亜鉛、ヨウ化水銀、ヨウ化アンモニウム、ヨウ化メチル、ヨウ化メチレン、ヨウ化エチル、ヨウ化エチレン、ヨウ化イソプロピル、ヨウ化イソブチル、ヨウ化ベンジル、ヨウ化ベンゾイル、ヨウ化アリル、ヨウ化イミダゾリウム、ヨウ化ピリジニウム及びヨウ化ピロリジウムからなる群から選択された一つ以上であることを特徴とする請求項1〜14のいずれか1項に記載の色素増感型太陽電池用ゲル型電解質。
【請求項16】
4−ブチルピリジン、ピラゾール、イミダゾール、1,2,3−トリアゾール、1,2,4−トリアゾール、テトラゾール、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン、1,3,5−トリアジン、ピリジン、2−アミノキノリン、3−アミノキノリン、5−アミノキノリン、6−アミノキノリンからなる群から選択された一つ以上の窒素含有添加剤をさらに含むことを特徴とする請求項1〜15のいずれか1項に記載の色素増感型太陽電池用ゲル型電解質。
【請求項17】
前記窒素含有添加剤の含有量が、
無機ナノ粒子100重量部を基準として、100ないし300重量部であることを特徴とする請求項16に記載の色素増感型太陽電池用ゲル型電解質。
【請求項18】
第1電極、前記第1電極の一面に形成された光吸収層、前記光吸収層の形成された第1電極に対向して配される第2電極、前記光吸収層と第2電極との間の空間に埋め込まれた、請求項1〜17のいずれか1項に記載のゲル型電解質と、を含む色素増感型太陽電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−114086(P2012−114086A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−247097(P2011−247097)
【出願日】平成23年11月11日(2011.11.11)
【出願人】(590002817)三星エスディアイ株式会社 (2,784)
【Fターム(参考)】