説明

色素増感型太陽電池用電極

【課題】本発明は、十分な量の色素を吸着し、なおかつ金属酸化物層内での高い電化輸送効率を得ることができる色素増感型太陽電池用電極を提供する。
【解決手段】透明導電層を有する透明基材および透明導電層のうえに積層された多孔質半導体層からなり、多孔質半導体層は、平均繊維径50〜1000nmかつ繊維長/繊維径5以上の繊維状金属酸化物を多孔質半導体層全重量の10重量%以上含有し、平均粒径2〜500nmの金属酸化物微粒子を多孔質半導体層全重量の15重量%以上含有し、さらに、多孔質半導体層は、X線回折における結晶相の強度比(ルチル相/アナターゼ相)が0.0〜0.25であり、アナターゼ相の結晶子サイズが10〜300nmであることを特徴とする、色素増感型太陽電池用電極。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、色素増感型太陽電池用電極に関する。
【背景技術】
【0002】
色素増感型太陽電池は、色素増感半導体微粒子を用いた光電変換素子が提案されて以来(「ネイチャー(Nature)」 第353巻、第737〜740ページ、(1991年))、シリコン系太陽電池に替る新たな太陽電池として注目されている。色素増感太陽電池の効率を向上させるために、電極となる金属酸化物層の開発がなされている。例えば金属酸化物層に十分に色素を吸着させ、なおかつ金属酸化物内での電荷移送効率を向上させることで、効率の向上の検討がなされている。
【0003】
他方、金属酸化物を製造する方法としてエレクトロスピニング法がある。この方法においては、ポリマー等の焼失成分を含む酸化物前駆体を高いアスペクト比で基材上に吐出したのちに高温で熱処理することで金属酸化物を得る。
【0004】
【特許文献1】特開2002−50413号公報
【特許文献2】特開2001−93590号公報
【特許文献3】特開2001−358348号公報
【特許文献4】特開2003−105658号公報
【特許文献5】特開2002−249966号公報
【特許文献6】US2005/0109385
【非特許文献1】ダン リら著、ナノレター、2004年、p933〜938
【非特許文献2】ダン ヨン キムら著、ナノテクノロジー、2004年、p1861〜1865
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、十分な量の色素を吸着し、なおかつ金属酸化物層内での高い電化輸送効率を得ることができる色素増感型太陽電池用電極を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち本発明は、透明導電層を有する透明基材および透明導電層のうえに積層された多孔質半導体層からなり、多孔質半導体層は、平均繊維径50〜1000nmかつ繊維長/繊維径5以上の繊維状金属酸化物を多孔質半導体層全重量の10重量%以上含有し、平均粒径2〜500nmの金属酸化物微粒子を多孔質半導体層全重量の15重量%以上含有し、さらに、多孔質半導体層は、X線回折における結晶相の強度比(ルチル相/アナターゼ相)が0.0〜0.25であり、アナターゼ相の結晶子サイズが10〜300nmであることを特徴とする、色素増感型太陽電池用電極である。
【発明の効果】
【0007】
本発明は、十分な量の色素を吸着し、なおかつ金属酸化物層内での高い電化輸送効率を得ることができる色素増感型太陽電池用電極を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明を詳細に説明する。
[透明基材]
透明基材としては、耐熱性のある透明基材を用いる。透明基材は、色素増感型太陽電池が十分に光を取り入れ発電するために高い光線透過率を備える基材であることが望ましく、好ましくは450〜700nmの光線透過率が60%以上、さらに好ましくは70%以上の基材を用いる。例えば、ガラス、耐熱性のプラスチックフィルムを用いる。
【0009】
耐熱性のプラスチックフィルムとしては、耐熱性のプラスチックをフィルム状に成型したものを用いる。本発明における耐熱性のプラスチックフィルムは、エレクトロスピニング法において捕集基板として用いることのできる耐熱性を備えたプラスチックフィルムであり、例えば、ポリエステル、ポリエーテルエーテルケトン、芳香族ポリアミド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミドのフィルムを例示することができる。これらのフィルムにおいて、プラスチックは単独で用いてもよいし、併用してもよい。また耐熱性を上げるために、無機フィラーを添加してもよく、無機層を積層してもよい。
【0010】
本発明では、透明導電層を設けた透明基材の透明導電層のうえに直接金属酸化物前躯体を吐出しそのまま焼成して多孔質半導体層を形成するので、高い耐熱性が必要であり、透明基材としてガラスを用いることが好ましい。他方、透明基材として耐熱性のプラスチックフィルムを用いる場合には、ポリイミド、芳香族ポリアミドのフィルムを用いることが好ましい。
【0011】
透明基材の厚みは、例えば10μm〜10mm、好ましくは50μm〜5mmである。10μm未満であるとハンドリングが難しくなり好ましくない。10mm超えると基材の重量が重くなり、また光線透過率が低下するため好ましくない。
【0012】
[透明導電層]
透明導電層の導電材料としては、導電性金属酸化物や金属、炭素材料の薄膜が挙げられる。金属酸化物として例えば、フッ素ドープ酸化スズ、インジウム−スズ複合酸化物(ITO)、インジウム−亜鉛複合酸化物、ZnO:Al、ZnO:F、CdSnOを例示することができる。金属の薄膜として例えば、白金、金、銀、銅、アルミニウムを例示することができる。透明導電層は1種を用いてもよく、2種以上を用いて積層したり、複合化させてもよい。就中、ITOおよびインジウム−亜鉛複合酸化物は、光線透過率が高く低抵抗であるため特に好ましい。
【0013】
透明導電層の表面抵抗は、好ましくは100Ω/□以下、さらに好ましくは40Ω/□以下である。100Ω/□を超えると太陽電池の内部抵抗が上がり、十分に電流が流れないため好ましくない。
【0014】
[多孔質半導体層]
本発明における多孔質半導体層は、繊維径50〜1000nmかつ繊維長/繊維径5以上の繊維状金属酸化物を多孔質半導体層全重量の10重量%以上含有し、平均粒径2〜500nmの金属酸化物微粒子を多孔質半導体層全重量の15重量%以上含有する。透明基材上での多孔質半導体層の堆積量は、電化輸送効率を上げなおかつ十分な発電性を得るために、例えば1〜50g/m、好ましくは2〜30g/mである。
【0015】
[繊維状金属酸化物]
本発明においては、繊維状金属酸化物として、平均繊維径50〜1000nm、繊維長/繊維径が5以上の繊維状金属酸化物、好ましくは平均繊維径50〜500nm、繊維長/繊維径が5以上の繊維状金属酸化物を用いる。平均繊維径が50nm未満であると繊維が折れやすく、目的とする多孔構造を維持することが困難になる。他方、1000nmを超えると比表面積が低下する。繊維長/繊維径が5未満であると目的とする多孔構造を形成することが困難になる。繊維長に上限は無く、また繊維長/繊維径に上限は無く、これらはどのように大きな値でもよい。
【0016】
この繊維状金属酸化物の含有量は、多孔質半導体層全重量の10重量%以上、好ましくは10〜85重量%である。10重量%未満であると多孔性が維持されず、色素を十分に吸着しにくくなり、さらに電解質との接触面積が減り発電効率が低下する。他方、85重量%を超えると比表面積が低下し色素の吸着量が低下する。
【0017】
繊維状金属酸化物は、エレクトロスピニング法を用いて繊維状にする方法を用いて製造することができる。すなわち、この方法により繊維状金属酸化物を透明基材のうえに堆積して、その後焼成することにより、形状を繊維状に維持したままで結晶相をコントロールすることができる。
【0018】
本発明では、金属酸化物前駆体およびこれとの錯体を形成する化合物の混合物と、溶媒と、高アスペクト比形成性の溶質とから成る溶液を、エレクトロスピニング法にて捕集基板上に吐出して堆積および焼成させる。捕集基盤として、透明導電層を備える透明基材を用いることで、繊維状金属酸化物の多孔質半導体層を透明基材の透明導電層のうえに備えた、太陽電池用電極を形成することができる。
【0019】
[金属酸化物微粒子]
本発明においては、多孔質半導体層に配合されて含有される金属酸化物微粒子は、その平均粒径が2〜500nm、好ましくは3〜200nm、さらに好ましくは5〜150nmのものである。金属酸化物微粒子の平均粒径が2nm未満であると凝集性が著しく高く取り扱いが困難であるため好ましくない。500nmを超えると金属酸化物の比表面積が低下して色素の吸着量が低下し光電効率の向上が困難であるため好ましくない。金属酸化物微粒子の含有量は、多孔質半導体層全重量の15重量%以上、好ましくは15〜90重量%である。15重量%未満であると、比表面積が低下し実質的な色素の吸着量が低下する。なお、90重量%を超えると緻密化し、色素の吸着工程で色素の分散液との接触が不十分になり色素の吸着が低下し、さらに電解質との接触が得られなくなるため好ましくない。
【0020】
[結晶相]
本発明において多孔質半導体層は、結晶相の強度比(ルチル相/アナターゼ相)、すなわちX線回折におけるルチル相とアナターゼ相の積分強度比(ルチル相/アナターゼ相)が0.0〜0.25である。X線回折における結晶相の強度比(ルチル相/アナターゼ相)が0.25を超えると金属酸化物内への電子の注入効率が低下する。
【0021】
本発明において多孔質半導体層のアナターゼ相の結晶子サイズは10〜300nmである。アナターゼ相の結晶子サイズが10nm未満であると結晶界面が増え、電子トラップが形成される可能性が高くなり、300nmを超えると実質的な比表面積が低下し色素の吸着量が低下する。
これらの特性を示す結晶相は、エレクトロスピニング法により多孔質半導体層を形成することによって得ることができる。
【0022】
[製造方法]
エレクトロスピニング法により多孔質半導体層を形成方法を、金属酸化物として最も好ましい酸化チタンを用いる場合を例にして説明する。
【0023】
金属酸化物前駆体としては、例えば、チタンテトラメトキシド、チタンテトラエトキシド、チタンテトラノルマルプロポキシド、チタンテトライソプロポキシド、チタンテトラノルマルブトキシド、チタンテトラターシャリーブトキシドを用いることができるが、入手のしやすさより、チタンテトライソプロポキシド、チタンテトラノルマルブトキシドが好ましい。
【0024】
金属酸化物前駆体との錯体を形成する化合物としては、例えば、カルボン酸、アミド、エステル、ケトン、ホスフィン、エーテル、アルコール、チオールなどの配位性の化合物を用いることができる。好ましくは、アセチルアセトン、酢酸、テトラヒドロフランを用いる。金属酸化物前駆体との錯体を形成する化合物の添加量は、金属酸化物前駆体に対して、例えば0.5等量以上、好ましくは1〜10等量である。
【0025】
溶媒としては、例えばヘキサン等の脂肪族炭化水素;トルエン、テトラリンといった芳香族炭化水素;n−ブタノール、エチレングリコールといったアルコール;テトラヒドロフラン、ジオキサンといったエーテル;ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、n−メチルアミノピリジン、水を用いることができるが、各溶質への親和性の点でN,N−ジメチルホルムアミド、水が好ましい。溶媒は単独で用いてもまた複数組み合わせて用いてもよい。溶媒の量としては、金属酸化物前駆体の重量に対して、好ましくは0.5〜30倍量、さらに好ましくは0.5〜20倍量である。
【0026】
高アスペクト比形成性の溶質としては、取り扱いの点や焼成によって除去される必要があることから有機高分子を用いることが好ましい。例えば、ポリエチレンオキシド、ポリビニルアルコール、ポリビニルエステル、ポリビニルエーテル、ポリビニルピリジン、ポリアクリルアミド、エーテルセルロース、ペクチン、澱粉、ポリ塩化ビニル、ポリアクリロニトリル、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリ乳酸−ポリグリコール酸共重合体、ポリカプロラクトン、ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンサクシネート、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリヘキサメチレンカーボネート、ポリアリレート、ポリビニルイソシアネート、ポリブチルイソシアネート、ポリメチルメタクリレート、ポリエチルメタクリレート、ポリノルマルプロピルメタクリレート、ポリノルマルブチルメタクリレート、ポリメチルアクリレート、ポリエチルアクリレート、ポリブチルアクリレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリパラフェニレンテレフタラミド、ポリパラフェニレンテレフタラミド−3,4′―オキシジフェニレンテレフタラミド共重合体、ポリメタフェニレンイソフタラミド、セルロースジアセテート、セルローストリアセテート、メチルセルロース、プロピルセルロース、ベンジルセルロース、フィブロイン、天然ゴム、ポリビニルアセテート、ポリビニルメチルエーテル、ポリビニルエチルエーテル、ポリビニルノルマルプロピルエーテル、ポリビニルイソプロピルエーテル、ポリビニルノルマルブチルエーテル、ポリビニルイソブチルエーテル、ポリビニルターシャリーブチルエーテル、ポリビニリデンクロリド、ポリ(N−ビニルピロリドン)、ポリ(N−ビニルカルバゾル)、ポリ(4−ビニルピリジン)、ポリビニルメチルケトン、ポリメチルイソプロペニルケトン、ポリプロピレンオキシド、ポリシクロペンテンオキシド、ポリスチレンサルホン、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン610、ナイロン612、並びにこれらの共重合体を例示することができる。中でも溶媒に対する溶解性の点から、ポリアクリロニトリル、ポリエチレンオキシド、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセテート、ポリ(N−ビニルピロリドン)、ポリ乳酸、ポリ塩化ビニル、セルローストリアセテートが好ましい。
【0027】
有機高分子の好ましい分子量は種類ごとに異なるが、分子量が低い場合には、有機高分子の添加量が大きくなり、焼成によって発生する気体が多くなり、金属酸化物の構造に欠陥が発生する可能性が高くなる。好ましい分子量としては、例えばポリエチレンオキシドのうちポリエチレングリコールの場合、好ましくは100,000〜8,000,000、より好ましくは100,000〜600,000である。
【0028】
高アスペクト比形成性の溶質の添加量は、高アスペクト比の形成される濃度範囲で可能な限り少ないことが金属酸化物の緻密性向上の点から好ましく、金属酸化物前駆体の重量に対して好ましくは0.1〜200重量%、さらに好ましくは1〜150重量%である。
【0029】
繊維状金属酸化物を製造するエレクトロスピニング法自体は公知の方法であり、高アスペクト比形成性の基質を溶解させた溶液を電極間で形成された静電場中に吐出し、溶液を電極に向けて曳糸し、形成される高アスペクト比形成物を捕集基板上に累積的に堆積することによって繊維状金属酸化物を得る方法である。
【0030】
この方法で得られる繊維状金属酸化物は、高アスペクト比形成性の基質を溶解させた溶媒が留去して積層体となっている状態のみならず、前記溶媒が吐出物に含まれている状態においても高アスペクト比の繊維状の状態を維持している。
【0031】
通常、エレクトロスピニングは室温で行われるが、溶媒の揮発が不十分な場合など、必要に応じて紡糸雰囲気の温度を制御したり、捕集基板の温度を制御してもよい。
繊維状金属酸化物が基板上の一箇所に集中して積層されるなど、均一性が低い場合には、基板を揺動かしたり、回転させたりしてもよい。
【0032】
次に、繊維状金属酸化物を焼成する。焼成には、一般的な電気炉を用いることができるが、必要に応じて炉内の気体を置換可能な電気炉を用いてもよい。焼成温度は、十分な結晶成長および制御できる条件をとり、例えば、金属酸化物で酸化チタンである場合、アナターゼ型の結晶成長とルチル型の結晶転位を抑制するために、好ましくは200〜1000℃、さらに好ましくは300〜900℃で焼成するとよい。焼成時間は、結晶転位を効果的に制御するために、好ましくは0.1〜40時間、さらに好ましくは0.5〜15時間である。このようにして得られる繊維状金属酸化物は、平均繊維径50〜1000nm、繊維長/繊維径が5以上の繊維状金属酸化物、好ましくは平均繊維径50〜500nm、繊維長/繊維径が5以上の繊維状金属酸化物であり、繊維長は、例えば100μm以上、BET比表面積は、例えば0.1〜200m/gである。
【0033】
多孔質半導体層には、金属酸化物微粒子が配合されるが、この金属酸化物微粒子の添加は、吐出堆積された繊維状金属酸化物を透明基材上で焼成する前に行ってもよく、焼成する際に行ってもよく、焼成後に行ってもよい。好ましくは焼成前に行う。
【0034】
金属酸化物微粒子の添加方法としては、金属酸化物微粒子を含む分散液を繊維状金属酸化物中に含浸させたのち焼成する方法、金属酸化物微粒子を含む分散液を例えばスプレー法やバーコーターを用いて透明導電層もしくは繊維状金属酸化物上または繊維状金属酸化物上と透明導電層上の両方に塗布したのち焼成する方法、繊維状金属酸化物と金属酸化物微粒子を熱圧着する方法、繊維状金属酸化物と金属酸化物微粒子を例えばオートクレーブで処理し結着させる方法、繊維状金属酸化物と金属酸化物前駆体の存在下で水熱合成することにより微粒子を形成させる方法、繊維状金属酸化物と金属酸化物前駆体の存在下で電子ビームやUV処理することにより微粒子を形成させる方法、繊維状金属酸化物にスパッタ等で金属酸化物微粒子を結着させる方法を用いることができる。
【0035】
就中、焼成前の繊維状金属酸化物に金属酸化物微粒子を含む分散液を繊維状金属酸化物中に含浸させたのち焼成させる方法、金属酸化物微粒子を含む分散液を例えばスプレー法やバーコーターを用いて透明導電層もしくは繊維状金属酸化物上または繊維状金属酸化物上と透明導電層上の両方に塗布したのち焼成する方法が、繊維状金属酸化物と金属酸化物微粒子の密着性が増すため好ましい。
【0036】
金属酸化物微粒子を含む分散液には、繊維状金属酸化物と金属酸化物微粒子との密着性をさらに増す目的でバインダーを添加してもよい。バインダーとしては、例えば金属酸化物前駆体を用いることができる。具体的には例えば、チタンテトラメトキシド、チタンテトラエトキシド、チタンテトラノルマルプロポキシド、チタンテトライソプロポキシド、チタンテトラノルマルブトキシド、チタンテトラターシャリーブトキシド、チタン水酸化物を用いることができる。これらは単体で用いてもよく、複数を組み合わせて使用してもよい。金属酸化物微粒子を含む分散液にバインダーを添加した場合、形成される多孔質半導体層には、バインダーに由来する成分が含有されることになる。この場合、多孔質半導体に含有されるバインダーに由来する成分の量は、多孔質半導体層全重量の例えば0.1〜30重量%である。
【実施例】
【0037】
次に、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。なお、評価は、以下の方法で実施した。
【0038】
(1)繊維状金属酸化物の平均繊維径および繊維長/繊維径
多孔質半導体層の繊維状金属酸化物を走査型電子顕微鏡(株式会社日立製作所製S−2400)により撮影(倍率2000倍)して得た写真図から無作為に20箇所を選んで繊維径を測定し、その平均を算出して平均繊維径とした。また、繊維径と同様に十分に繊維長が確認できる倍率で撮影して得た写真図から無作為に20箇所を選んで繊維長を測定し、その平均を算出して繊維長として、繊維長/繊維径を算出した。
【0039】
(2)金属酸化物微粒子の平均粒径
多孔質半導体層の繊維状金属酸化物を走査型電子顕微鏡(株式会社日立製作所製S−2400)により撮影(倍率2000倍)して得た写真図から、金属酸化物微粒子を無作為に20個選んで粒径を測定し、その平均を算出して平均粒径とした。
【0040】
(3)BET比表面積
繊維状金属酸化物および金属酸化物微粒子の比表面積を、窒素ガスを用いたBET法により測定した。
【0041】
(4)X線回折における結晶相の強度比(ルチル相/アナターゼ相)
X線回折の積分強度比から結晶相の強度比(ルチル相/アナターゼ相)を算出した。すなわち、強度補正を行ったX線プロファイルにおいて、2θ=25.3°および27.4°付近に現れるアナターゼ型およびルチル型酸化チタンに由来するそれぞれの回折ピークについて、積分強度IA(アナターゼ型)およびIR(ルチル型)を見積り、下記式により、結晶相の強度比(ルチル相/アナターゼ相)を求めた。
ルチル相/アナターゼ相 = IR / IA
ここでIA、IRは、それぞれアナターゼ型結晶相(2θ=25.3°)、ルチル型結晶相(2θ=27.4°)の積分強度である。
【0042】
(5)アナターゼ相の結晶子サイズ
上記で得られたX線回折プロファイルを強度補正し、回折角2θについては内部標準のシリコンの111回折ピークで補正した。ここでシリコンの111回折ピークの半価幅は0.15°以下であった。補正したX線回折プロファイルについて25.3°付近に現れる回折ピークを用いて、下記のScherrerの式によって結晶子サイズを算出した。2θ=24〜30°の範囲における酸化チタン、ならびにシリコンの回折ピークは、Cu Kα1、Kα2線由来で分離しておらず、全てCu Kαとして取り扱った。
D=K×λ/βcosθ
D:結晶子サイズ;
λ:測定X線波長;
β:結晶子サイズによる回折線の拡がり;
θ:回折ピークのブラッグ角;
K:形状因子(Scherrer定数)
ここでβは光学系の拡がりを補正するため、25.3°付近に現れる酸化チタンの回折ピークの半値幅Bから内部標準のシリコン111回折ピークの半値幅bを差し引いたもの(β=B−b)を採用し、K=1、λ=0.15418nmとした。
【0043】
(6)固有粘度
固有粘度([η]dl/g)は、35℃のo−クロロフェノール溶液で測定した。
【0044】
(7)透明基材の厚み
マイクロメーター(アンリツ(株)製のK−402B型)を用いて、透明基材の縦方向および幅方向に各々10cm間隔で測定を行い、全部で300ヶ所の厚みを測定した。得られた300ヶ所の厚みの平均値を算出して透明基材の厚みとした。
【0045】
(8)表面抵抗値
4探針式表面抵抗率測定装置(三菱化学(株)製、ロレスタGP)を用いて任意の5点を測定し、その平均値を代表値として用いた。
【0046】
(9)I−V特性(光電流−電圧特性)
100mm大の色素増感型太陽電池を形成し、下記の方法で光発電効率を算出した。ぺクセルテクノロジーズ社製ソーラーシュミレーター(PEC−L10)を用い入射光強度が100mW/cmの模擬太陽光を、気温25℃、湿度50%の雰囲気で測定した。電流電圧測定装置(PECK 2400)を用いて、システムに印加するDC電圧を10mV/secの定速でスキャンし、素子の出力する光電流を計測することにより、光電流−電圧特性を測定し、光発電効率を算出した。
【0047】
[実施例1]
<多孔質半導体層の作成>
ポリアクリロニトリル(和光純薬工業株式会社製)1重量部、N,N−ジメチルホルムアミド(和光純薬工業株式会社製、特級)9重量部よりなる溶液に、チタンテトラノルマルブトキシド(和光純薬工業株式会社製、一級)1重量部とアセチルアセトン(和光純薬工業株式会社製、特級)1重量部よりなる溶液を混合し紡糸溶液を調製した。この紡糸溶液からエレクトロスピニング法による吐出装置を用いて、繊維状金属酸化物を透明導電層(FドープSnO:シート抵抗10Ω/□)を備えた透明なガラス基板(厚み1mm)の透明導電層のうえに吐出した。噴出ノズル1の内径は0.8mm、電圧は15kV、噴出ノズル1から電極4までの距離は15cmであった。用いたエレクトロスピニング法による吐出装置の詳細を図1に示す。得られた繊維状金属酸化物を、空気雰囲気下で電気炉を用いて600℃まで10時間で昇温し、その後600℃で2時間保持することにより焼成した。ガラス上の堆積量は8.2g/mであった。この繊維状金属酸化物を電子顕微鏡で観察したところ、平均繊維径は600nmであり、繊維長100μm以上であった。また、BET比表面積は73m/gであった。得られた繊維状金属酸化物のX線回折結果では、2θ=25.3°のみに鋭いピークが認められたことから、チタニアのアナターゼ型結晶が形成されていることが確認された。
【0048】
この繊維状金属酸化物に、5重量%までエタノール(和光純薬)に分散した酸化チタン微粒子の分散液(テイカ株式会社製光触媒用酸化チタンAMT−100(平均粒子径:6nm アナターゼ相))を8.0g/mとなるように塗布し、大気中200℃で5分間の熱処理を行って、多孔質半導体層を形成した。
【0049】
得られた多孔質半導体層のX線回折の結果では、2θ=25.3°のみに鋭いピークが認められたことから、アナターゼ型結晶が形成されていることが確認された。結晶子サイズは16nmであった。
このようにして、透明導電層を備えたガラスの上に多孔質半導体層を形成した色素増感型太陽電池用電極を得た。
【0050】
<色素増感型太陽電池の作成>
このようにして得た色素増感型太陽電池用電極に、ルテニウム錯体(Ru535bisTBA、Solaronix製)の300μMエタノール溶液中に24時間浸漬し、光作用電極表面にルテニウム錯体を吸着させた。
また、色素増感型太陽電池用電極の作成に用いたのと同様の、透明導電層が設けられたガラス基板の上に、スパッタリング法によりPt膜を堆積して対向電極を作成した。
【0051】
ルテニウム錯体を吸着させた上記の色素増感型太陽電池用電極と、この対向電極とを、熱圧着性のポリエチレンフィルム製フレーム型スペーサー(厚さ20μm)を介して重ね合わせ、スペーサー部を120℃に加熱し、両電極を圧着した。さらに、そのエッジ部をエポキシ樹脂接着剤でシールした。電解質溶液(0.5Mのヨウ化リチウムと0.05Mのヨウ素と0.5Mのtert−ブチルピリジンを含む3−メトキシプロピオニトリル溶液)を注入した後、エポキシ系接着剤でシールして色素増感型太陽電池を完成した。
【0052】
完成した色素増感型太陽電池のI−V特性の測定(有効面積100mm)を行った結果、開放電圧は0.65V、短絡電流密度は8.4mA/cm、曲線因子は0.65であり、その結果、光発電効率は3.5%であった。
[実施例2]
多孔質半導体層の形成方法を次のように変更した以外は実施例1と同様にして、色素増感型太陽電池用電極を作成した。
【0053】
<多孔質半導体の作成>
チタンテトラノルマルブトキシド(和光純薬工業株式会社製、一級)1重量部に、酢酸(和光純薬工業株式会社製、特級)1.3重量部を添加し均一な溶液を得た。この溶液にイオン交換水1重量部を攪拌しながら添加することにより溶液中にゲルが生成した。生成したゲルは、さらに攪拌を続けることにより解離し、透明な溶液を調製した。
【0054】
調製した溶液に、ポリエチレングリコール(和光純薬工業株式会社製、一級、平均分子量300,000〜500,000)0.016重量部混合し紡糸溶液を調製した。この紡糸溶液から図1に示す装置を用いて紡糸を行ったところ、電極4上に平面状に繊維状金属酸化物が得られた。噴出ノズル1の内径は0.4mm、電圧は15kV、噴出ノズル1から電極4までの距離は10cmであった。得られた繊維状金属酸化物を空気雰囲気下で電気炉を用いて600℃まで10時間で昇温し、その後600℃で2時間保持することにより焼成した。ガラス上の堆積量は4.1g/mであった。得られた繊維状金属酸化物の堆積物を電子顕微鏡で観察したところ、平均繊維径は300nmであった。繊維長100μm以下の繊維は観察されなかった。BET比表面積は0.35m/gであった。
【0055】
この繊維状金属酸化物に、5重量%までエタノール(和光純薬)で分散した酸化チタン
微粒子水散液(テイカ株式会社製光触媒用酸化チタンAMT−100 平均粒子径:6nm アナターゼ相)を12.0g/mとなるように塗布し、大気中180℃で5分間の熱処理を行って多孔質半導体層を形成した。
【0056】
得られた多孔質半導体層のX線回折の結果では、ルチル相/アナターゼ相は0.1であることが確認された。またアナターゼ相の結晶子サイズは160nmであった。
実施例1と同様の方法で色素増感型太陽電池を作成した。この色素増感型太陽電池について、I−V特性の測定(有効面積100mm)を行った結果、開放電圧は0.66V、短絡電流密度は8.0mA/cm、曲線因子は0.61であり、その結果、光発電効率は3.2%であった。
【0057】
[実施例3]
多孔質半導体層の形成方法を次のように変更した以外は実施例1と同様にして、色素増感型太陽電池用電極を作成した。
【0058】
<多孔質半導体の作成>
チタンテトラノルマルブトキシド(和光純薬工業株式会社製、一級)1重量部に、酢酸(和光純薬工業株式会社製、特級)1.3重量部を添加し均一な溶液を得た。この溶液にイオン交換水1重量部を攪拌しながら添加することにより溶液中にゲルが生成した。生成したゲルは、さらに攪拌を続けることにより解離し、透明な溶液を調製した。
【0059】
調製した溶液に、ポリエチレングリコール(和光純薬 工業株式会社製、一級、平均分子量300,000〜500,000)0.016重量部混合し紡糸溶液を調製した。この紡糸溶液から図1に示す装置を用いて紡糸を行ったところ、電極4上に平面状に繊維状金属酸化物が得られた。噴出ノズル1の内径は0.4mm、電圧は15kV、噴出ノズル1から電極4までの距離は10cmであった。堆積量は乾燥重量として20.7g/mであった。この堆積物上に5重量%までエタノール(和光純薬)で分散した酸化チタン微粒子の分散液(テイカ株式会社製光触媒用酸化チタンAMT−100(平均粒子径:6nm アナターゼ相)を12.0g/mとなるように塗布した。得られた繊維状金属酸化物の構造体を空気雰囲気下で電気炉を用いて600℃まで10時間で昇温し、その後600℃で2時間保持することにより焼成して多孔質半導体層を得た。ガラス上の堆積量は18.7g/mであった。この多孔質半導体層を電子顕微鏡で観察したところ、繊維状金属酸化物の平均繊維径は300nmであった。繊維長100μm以下の繊維は観察されなかった。
【0060】
得られた多孔質半導体層のX線回折の結果では、ルチル相/アナターゼ相は0.1であることが確認された。またアナターゼ相の結晶子サイズは165nmであった。
実施例1と同様の方法で色素増感型太陽電池を作成した。この色素増感型太陽電池について、I−V特性の測定(有効面積100mm)を行った結果、開放電圧は0.67V、短絡電流密度は6.5mA/cm、曲線因子は0.7であり、その結果、光発電効率は3.0%であった。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明の色素増感型太陽電池用電極は、色素増感型太陽電池の電極として好適に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】実施例で用いたエレクトロスピニング法による吐出装置である。
【符号の説明】
【0063】
1 溶液噴出ノズル
2 溶液
3 溶液保持槽
4 電極
5 高電圧発生器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明導電層を有する透明基材および透明導電層のうえに積層された多孔質半導体層からなり、多孔質半導体層は、平均繊維径50〜1000nmかつ繊維長/繊維径5以上の繊維状金属酸化物を多孔質半導体層全重量の10重量%以上含有し、平均粒径2〜500nmの金属酸化物微粒子を多孔質半導体層全重量の15重量%以上含有し、さらに、多孔質半導体層は、X線回折における結晶相の強度比(ルチル相/アナターゼ相)が0.0〜0.25であり、アナターゼ相の結晶子サイズが10〜300nmであることを特徴とする、色素増感型太陽電池用電極。

【図1】
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【公開番号】特開2008−186659(P2008−186659A)
【公開日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−17718(P2007−17718)
【出願日】平成19年1月29日(2007.1.29)
【出願人】(301020226)帝人デュポンフィルム株式会社 (517)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】