説明

色素増感太陽電池用色素及び色素増感太陽電池

【解決手段】下記一般式(A)で表される化学構造を有する色素増感太陽電池用色素。


(式中、Xはπ共役系の1価の有機基を表す。Yは置換もしくは非置換のチオフェン環、フラン環、ピロール環、又はこれらが縮環した複素環を有する2価の有機基を表す。M1及びM2は、それぞれ独立に水素原子、置換もしくは非置換の炭素数1〜20のアルキル基、置換もしくは非置換の炭素数6〜20のアリール基、オルガノシリル基、又は陽イオンを表す。nは1〜10の整数を表す。)
【効果】本発明の色素増感太陽電池用色素は、吸着末端官能基としてホスホン酸基を有しているため、半導体電極への吸着能力に優れ、従来の色素と比較して短絡電流や光電変換効率の経時的な低下を抑制でき、色素増感太陽電池の性能を大幅に高めることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、色素増感太陽電池用色素及びこの色素を用いた色素増感太陽電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年直面しているエネルギー問題や地球環境問題を解決するために、従来の化石燃料に代替し得るエネルギーに関して多様な研究が進められている。
中でも、太陽光エネルギーを利用する太陽電池は、資源が無限であるのみならず、環境調和型デバイスであるため大きな注目を集めている。
特に、色素増感太陽電池は、使用する材料が安価であること、製造プロセスに真空装置を用いなくても済むこと等の利点から、グレッツェルらにより提案されて以来、実用化に向けた研究が盛んに行われている。
【0003】
この色素増感太陽電池では、多孔質状の金属酸化物からなる半導体電極に色素を吸着させた、光吸収作用を有する半導体電極が用いられている。
太陽電池の光電変換効率は、太陽光の吸収によって発生した電子量に比例することから、変換効率を向上させるためには半導体電極上の色素吸着量を大きくする必要がある。
このため、色素増感太陽電池用の色素には、金属酸化物に対する高い親和性や密着性を有することが求められる。
【0004】
グレッツェルらによる色素増感太陽電池には、光増感剤として貴金属であるルテニウムを含む錯体が用いられており、資源的制約が問題となることが指摘されていた。このような背景の中、貴金属を含まない有機色素型の光増感剤の研究開発が行われており、このような有機色素としては、フェニルキサンテン系色素、フタロシアニン系色素、クマリン系色素、シアニン系色素、ポルフィリン系色素、アゾ系色素等が知られている(特許文献1:特開2004−14137号公報、特許文献2:特開2003−152208号公報、非特許文献1: Angew. Chem. Int. Ed., vol. 48, pp. 2474−2499, 2009)。また、カルバゾール環に、チオフェン環等を電子伝達性連結基として、シアノ基等の電子求引基を有するビニルカルボン酸吸着末端官能基を結合させた色素を用いることで、開放電圧が向上し、光電変換効率が向上することが報告されている(特許文献3:国際公開第2007/119525号パンフレット)。
【0005】
しかし、半導体電極へ色素を吸着させる際の吸着末端官能基にカルボン酸を用いた場合、吸着能力が低いため色素が電極から離脱することによる短絡電流及び光電変換効率の低下が問題であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−14137号公報
【特許文献2】特開2003−152208号公報
【特許文献3】国際公開第2007/119525号パンフレット
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Angew. Chem. Int. Ed., vol. 48, pp. 2474−2499, 2009
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、吸着能力が高く、短絡電流及び光電変換効率の経時的な低下が起こり難い色素増感太陽電池用色素及び色素増感太陽電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、下記一般式(A)で表されるホスホン酸基を有する有機色素を用いることで、半導体電極への吸着能力が向上し、従来の色素と比較して短絡電流の経時的な低下を抑制でき、色素増感太陽電池の性能を大幅に高めることができることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
即ち、本発明は、
1.下記一般式(A)で表される化学構造を有する色素増感太陽電池用色素、
【化1】

(式中、Xはπ共役系の1価の有機基を表す。Yは置換もしくは非置換のチオフェン環、フラン環、ピロール環、又はこれらが縮環した複素環を有する2価の有機基を表す。M1及びM2は、それぞれ独立に水素原子、置換もしくは非置換の炭素数1〜20のアルキル基、置換もしくは非置換の炭素数6〜20のアリール基、オルガノシリル基、又は陽イオンを表す。nは1〜10の整数を表す。)
2.Xがカルバゾール環を有する基である1の色素増感太陽電池用色素、
3.Yがチオフェン環を有する基である1又は2の色素増感太陽電池用色素、
4.1〜3のいずれかの色素増感太陽電池用色素を含むワニス、
5.1〜3のいずれかの色素増感太陽電池用色素を含む有機薄膜、
6.4のワニスから作製される有機薄膜、
7.光透過性を有する基板と、この基板に積層された透明導電膜と、この透明導電膜に積層された金属酸化物からなる多孔質半導体を有し、前記多孔質半導体の表面には1〜3のいずれかの色素増感太陽電池用色素が吸着されていることを特徴とする半導体電極、
8.4のワニスに多孔質半導体を有する基板を浸漬し、前記色素増感太陽電池用色素を前記多孔質半導体に吸着させてなる7の半導体電極、
9.7又は8の半導体電極と、対極と、これら半導体電極及び対極間に介在する電解質とを備えて構成される色素増感太陽電池
を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の色素増感太陽電池用色素は、吸着末端官能基としてホスホン酸基を有しているため、半導体電極への吸着能力に優れ、従来の色素と比較して短絡電流や光電変換効率の経時的な低下を抑制でき、色素増感太陽電池の性能を大幅に高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施例3及び比較例4、5において測定した太陽電池の光電変換効率の経時変化を示すグラフである。
【図2】実施例3及び比較例4、5において測定した太陽電池の短絡電流値の経時変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について更に詳しく説明する。
なお、本明細書中、「n−」はノルマルを、「i−」はイソを、「s−」はセカンダリーを、「t−」はターシャリーを、「c−」はシクロを、「o−」はオルトを、「m−」はメタを、「p−」はパラを意味する。
【0014】
本発明の色素増感太陽電池用色素は、下記一般式(A)で表される化学構造を有する化合物である。
【化2】

(式中、Xはπ共役系の1価の有機基を表す。Yは置換もしくは非置換のチオフェン環、フラン環、ピロール環、又はこれらが縮環した複素環を有する2価の有機基を表す。M1及びM2は、それぞれ独立に水素原子、置換もしくは非置換の炭素数1〜20のアルキル基、置換もしくは非置換の炭素数6〜20のアリール基、オルガノシリル基、又は陽イオンを表す。nは1〜10の整数を表す。)
【0015】
上記式(A)中、Xはπ共役系の1価の有機基を表す。上記π共役系の1価の有機基としては、例えば、カルバゾール環、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、ピレン環、アズレン環、フルオレン環、ベンゾフラン環、ベンゾチオフェン環、ジベンゾフラン環、ジベンゾチオフェン環、キサンテン環、チオキサンテン環、インデン環、アクリダン環、アクリジン環、ピリジン環、ピリミジン環、ピラジン環、インドール環、イソインドール環、イミダゾール環、ベンゾイミダゾール環、オキサゾール環、チアゾール環、ベンゾ[a]カルバゾール環、ベンゾ[b]カルバゾール環を有する基等が挙げられる。特に、カルバゾール環を有する基であることが好ましい。また、上記環に含まれる炭素原子又は窒素原子に結合した水素原子の一部又は全部が、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、アミノ基、炭素数1〜20の1価炭化水素基等で置換されていてもよい。ここで、ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。
【0016】
上記Xとして具体的には、フェニル基、o−クロロフェニル基、m−クロロフェニル基、p−クロロフェニル基、o−フルオロフェニル基、p−フルオロフェニル基、o−メトキシフェニル基、p−メトキシフェニル基、p−ニトロフェニル基、p−シアノフェニル基、α−ナフチル基、β−ナフチル基、o−ビフェニリル基、m−ビフェニリル基、p−ビフェニリル基、1−アントリル基、2−アントリル基、9−アントリル基、1−フェナントリル基、2−フェナントリル基、3−フェナントリル基、4−フェナントリル基、9−フェナントリル基、2−フルオレニル基、3−フルオレニル基、ベンゾチエニル基、2−ベンゾフラニル基、3−ベンゾフラニル基、2−ジベンゾチエニル基、3−ジベンゾチエニル基、2−ジベンゾフラニル基、3−ジベンゾフラニル基、2−カルバゾリル基、N−メチル−2−カルバゾリル基、N−エチル−2−カルバゾリル基、3−カルバゾリル基、N−メチル−3−カルバゾリル基、N−エチル−3−カルバゾリル基、キサンテニル基、チオキサンテニル基、インドリル基、イソインドリル基、ベンゾイミダゾリル基等が挙げられる。これらの中でも、2−カルバゾリル基、N−メチル−2−カルバゾリル基、N−エチル−2−カルバゾリル基、3−カルバゾリル基、N−メチル−3−カルバゾリル基、N−エチル−3−カルバゾリル基等が好ましい。
【0017】
また、上記式(A)中、Yは置換又は非置換のチオフェン環、フラン環、ピロール環、又はこれらが縮環した複素環を有する2価の有機基を表す。特にチオフェン環を有する基であることが好ましい。また、Y中の炭素原子又は窒素原子に結合した水素原子の一部又は全部が水酸基、又は1価炭化水素基で置換されていてもよい。上記1価炭化水素基としては、炭素数1〜20、好ましくは炭素数1〜10の直鎖状、分岐状又は環状のアルキル基、炭素数1〜20、好ましくは炭素数1〜10の直鎖状、分岐状又は環状のアルコキシ基、又は炭素数6〜20、好ましくは炭素数6〜14の置換又は非置換のアリール基等が好ましい。特に好ましくは、炭素数1〜20の直鎖状、分岐状又は環状のアルキル基である。
【0018】
上記アルキル基として具体的にはメチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、c−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、c−ブチル基、n−ペンチル基、1−メチル−n−ブチル基、2−メチル−n−ブチル基、3−メチル−n−ブチル基、1,1−ジメチル−n−プロピル基、c−ペンチル基、2−メチル−c−ブチル基、n−ヘキシル基、1−メチル−n−ペンチル基、2−メチル−n−ペンチル基、1,1−ジメチル−n−ブチル基、1−エチル−n−ブチル基、1,1,2−トリメチル−n−プロピル基、c−ヘキシル基、1−メチル−c−ペンチル基、1−エチル−c−ブチル基、1,2−ジメチル−c−ブチル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、n−ノニル基、n−デシル基、n−ウンデシル基、n−ドデシル基、n−トリデシル基、n−テトラデシル基、n−ペンタデシル基、n−ヘキサデシル基、n−ヘプタデシル基、n−オクタデシル基、n−ノナデシル基、n−エイコシル基等が挙げられる。
【0019】
上記アルコキシ基として具体的には、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、i−プロポキシ基、c−プロポキシ基、n−ブトキシ基、i−ブトキシ基、s−ブトキシ基、t−ブトキシ基、c−ブトキシ基、n−ペンチルオキシ基、1−メチル−n−ブトキシ基、2−メチル−n−ブトキシ基、3−メチル−n−ブトキシ基、1,1−ジメチル−n−プロポキシ基、c−ペンチルオキシ基、2−メチル−c−ブトキシ基、n−ヘキシルオキシ基、1−メチル−n−ペンチルオキシ基、2−メチル−n−ペンチルオキシ基、1,1−ジメチル−n−ブトキシ基、1−エチル−n−ブトキシ基、1,1,2−トリメチル−n−プロポキシ基、c−ヘキシルオキシ基、1−メチル−c−ペンチルオキシ基、1−エチル−c−ブトキシ基、1,2−ジメチル−c−ブトキシ基、n−ヘプチルオキシ基、n−オクチルオキシ基、n−ノニルオキシ基、n−デシルオキシ基、n−ウンデシルオキシ基、n−ドデシルオキシ基、n−トリデシルオキシ基、n−テトラデシルオキシ基、n−ペンタデシルオキシ基、n−ヘキサデシルオキシ基、n−ヘプタデシルオキシ基、n−オクタデシルオキシ基、n−ノナデシルオキシ基、n−エイコシルオキシ基等が挙げられる。
【0020】
また、Y中の炭素原子に結合したアルコキシ基同士、又はアルコキシ基と水酸基とが結合して、Y中の炭素原子とともに環を形成してもよい。その場合、Y中の炭素原子に結合する置換基は、メチレンジオキシ基、1,2−エチレンジオキシ基等の炭素数1〜20のアルキレンジオキシ基である。
【0021】
上記アリール基として具体的には、フェニル基、o−クロロフェニル基、m−クロロフェニル基、p−クロロフェニル基、o−フルオロフェニル基、p−フルオロフェニル基、o−メトキシフェニル基、p−メトキシフェニル基、p−ニトロフェニル基、p−シアノフェニル基、α−ナフチル基、β−ナフチル基、o−ビフェニリル基、m−ビフェニリル基、p−ビフェニリル基、1−アントリル基、2−アントリル基、9−アントリル基、1−フェナントリル基、2−フェナントリル基、3−フェナントリル基、4−フェナントリル基、9−フェナントリル基等が挙げられる。
【0022】
上記Yとして具体的には、下記式で表される基等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【化3】

【0023】
【化4】

【0024】
【化5】

(式中、nは上記の通り。)
【0025】
上記式(A)中、M1及びM2は、それぞれ独立に水素原子、置換もしくは非置換の炭素数1〜20、好ましくは炭素数1〜10のアルキル基、置換もしくは非置換の炭素数6〜20、好ましくは炭素数6〜14のアリール基、オルガノシリル基、又は陽イオンを表す。
【0026】
上記アルキル基及びアリール基として具体的には、Y中の炭素原子に結合してもよいアルキル基及びアリール基として例示したものと同じ基が挙げられる。
オルガノシリル基としては、例えば、少なくとも1つの炭素数1〜20のアルキル基又はアリール基を有するシリル基が挙げられ、その具体例としては、メチルシリル基、ジメチルシリル基、トリメチルシリル基、エチルシリル基、ジエチルシリル基、トリエチルシリル基、n−プロピルシリル基、i−プロピルシリル基、ジ−n−プロピルシリル基、トリ−n−プロピルシリル基、ジ−i−プロピルシリル基、トリ−i−プロピルシリル基、n−ブチルシリル基、i−ブチルシリル基、s−ブチルシリル基、t−ブチルシリル基、ジ−n−ブチルシリル基、ジ−i−ブチルシリル基、ジ−s−ブチルシリル基、ジ−t−ブチルシリル基、トリ−n−ブチルシリル基、トリ−i−ブチルシリル基、トリ−s−ブチルシリル基、トリ−t−ブチルシリル基、トリフェニルシリル基等が挙げられる。
【0027】
上記陽イオンとしては、ホスホン酸と塩を形成する陽イオンであれば特に限定はされないが、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム等の金属イオンや、テトラブチルアンモニウム、ピリジニウム、イミダゾリウム等の4級アンモニウムイオン等が挙げられる。
これらのうち、M1及びM2として好ましくは、水素原子、又はメチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基等のアルキル基である。
また、上記式(A)中、nは1〜10の整数、好ましくは2〜6の整数を表す。
【0028】
上記式(A)で表される化合物として、具体的には、下記式で表される化合物等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。なお、下記式中、Meはメチル基、Etはエチル基を表す。
【化6】

【0029】
【化7】

【0030】
【化8】

【0031】
【化9】

【0032】
【化10】

【0033】
【化11】

【0034】
【化12】

【0035】
【化13】

【0036】
【化14】

【0037】
【化15】

【0038】
【化16】

【0039】
【化17】

【0040】
【化18】

【0041】
【化19】

【0042】
【化20】

【0043】
本発明の色素増感太陽電池用色素として用いられる上記式(A)で表される化合物の合成方法は、特に限定されず、公知の方法を用いて合成することができる。
例えば、上記式(A)中のXがカルバゾール環を有する基であって、Yがチオフェン環を有する基である化合物を合成する場合は、以下の方法によって合成できる。
【0044】
市販のカルバゾールをN−ハロスクシンイミド等のハロゲン化試薬でハロゲン化して得られたハロゲン化カルバゾールと、チオフェン環を有するホウ酸エステル化合物とを、カップリング反応によって結合させる。
更にチオフェン環を導入する場合は、反応生成物を上記と同様にハロゲン化試薬で処理してチオフェン環にハロゲン原子を導入し、その後、チオフェン環を有するホウ酸エステル化合物をカップリング反応によって結合させる。
最後に、反応生成物を上記と同様にハロゲン化試薬で処理してチオフェン環にハロゲン原子を導入し、次いでリン酸又はリン酸エステルを反応させることで、目的の化合物が得られる。
なお、カップリング法としては、特に限定されるものでなく、例えば、ビアリールカップリング、Stilleカップリング、Suzukiカップリング、Ullmannカップリング、Heck反応、薗頭カップリング、Grignard反応等を用いることができる。
【0045】
本発明の色素増感太陽電池用色素は、半導体電極として好適に使用できる。上記半導体電極の構成として好ましくは、光透過性を有する基板と、この基板に積層された透明導電膜と、この透明導電膜に積層された金属酸化物からなる多孔質半導体とを有するものであって、上記多孔質半導体の表面には本発明の色素増感太陽電池用色素が吸着されているものである。
【0046】
上記光透過性を有する基板としては、光透過性を有し、導電層の基板となり得るものであれば、特に制限はなく、ガラス基板、透明ポリマーフィルム、これらの積層体等を用いることができる。上記透明ポリマーフィルムの材料としては、トリアセチルセルロース(TAC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、シンジオタクチックポリスチレン(SPS)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリカーボネート(PC)、ポリアリレート、ポリスルフォン、ポリエステルスルフォン(PES)、ポリイミド(PI)、ポリエーテルイミド(PEI)、環状ポリオレフィン、ブロム化フェノキシ樹脂等を用いることができる。
【0047】
上記透明導電膜を構成する材料としては、例えば、白金、金、銀、銅、亜鉛、チタン、アルミニウム、インジウム、これらの合金等の金属、インジウム−スズ複合酸化物、フッ素又はアンチモンをドープした酸化スズ等の導電性金属酸化物等を用いることができるが、特に、フッ素又はアンチモンをドープした二酸化スズ、インジウム−スズ酸化物を用いることが好ましい。この透明導電層は、上記透明基体の表面に塗布又は蒸着することで形成できる。
【0048】
上記透明導電膜に積層される金属酸化物としては、TiO2、SnO2、Fe23、WO3、ZnO、Nb25等が挙げられる。
【0049】
本発明の色素増感太陽電池用色素を上記多孔質半導体の表面に吸着させる方法としては、上記色素を含む溶液(ワニス)を調製し、この中に多孔質半導体を有する基板を浸漬させる方法、上記色素を含む溶液(ワニス)を、多孔質半導体を有する基板に塗布する方法等を用いることができる。
上記色素を含む溶液(ワニス)を調製する際の溶媒は、色素の溶解能を有するものであれば特に限定はなく、メタノール、エタノール、ジメチルスルホキシド(DMSO)、クロロホルム等が挙げられる。
また、上記色素は、1種単独でも2種以上を併用して用いてもよい。
【0050】
更に、本発明の半導体電極では、本発明の色素増感太陽電池用色素に加え、金属錯体色素、メチン色素、ポルフィリン系色素、フタロシアニン系色素等の公知の色素を併用してもよい。
これらの中でも、高い光学活性を有し、半導体への吸着性及び耐久性に優れているということから、ルテニウム−ビピリジン錯体等、中でも、シス−ジ(チオシアナト)−N,N’−ビス(2,2’−ビピリジル−4,4’−ジカルボン酸)ルテニウム(II)及びそのテトラブチルアンモニウム塩等が好適である。
【0051】
溶液(ワニス)中の総色素濃度は、特に限定されるものではないが、0.01〜10mmol/L程度とすることができる。
色素の全吸着量は、例えば、半導体の単位表面積(1m2)あたり、0.01〜100mmol程度とすることができる。
【0052】
本発明の色素増感太陽電池は、上記半導体電極と、対極と、これら半導体電極及び対極間に介在する電解質とを備えて構成されるものである。
対極としては、色素増感太陽電池の正極として作用するものであれば、特に限定はなく、例えば、ガラス基板やプラスチックフィルム等に、白金、金、銀、銅、アルミニウム、及びマグネシウムから選ばれる少なくとも1種の金属を塗布又は蒸着させた電極等が挙げられる。
【0053】
電解質としては、例えば、LiI,NaI,KI,CsI,CaI2等の金属ヨウ化物、4級ピリジニウム又はイミダゾリウム化合物のヨウ素塩、テトラアルキルアンモニウム化合物のヨウ素塩等の電解質塩と、これから生じるI-と酸化還元対を形成し得るヨウ素と、有機溶媒とを含むものが挙げられる。
上記有機溶媒としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート類、ジオキサン、ジエチルエーテル、エチレングリコールジアルキルエーテル、プロピレングリコールジアルキルエーテル、ポリエチレングリコールジアルキルエーテル、ポリプロピレングリコールジアルキルエーテル等のエーテル類、メタノール、エタノール、エチレングリコールモノアルキルエーテル、プロピレングリコールモノアルキルエーテル、ポリエチレングリコールモノアルキルエーテル、ポリプロピレングリコールモノアルキルエーテル、エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、グリセリン等のアルコール類、アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル類等が挙げられる。
【0054】
また、本発明の色素増感太陽電池には、保護層や反射防止層等の機能層を適宜な位置に設けてもよい。
以上説明した本発明の色素増感太陽電池は、従来技術のそれと比較して短絡電流や光電変換効率の経時的な低下が抑えられた高性能なものである。
【実施例】
【0055】
以下、実施例及び比較例を挙げて、本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。なお、出発原料として用いた化合物(a)及び(b)の構造式を下記に示す。下記化合物(a)及び(b)は文献等にその記載があり、例えば特許文献3を参考に合成することができる。
【0056】
【化21】

【0057】
[実施例1]化合物(1)の合成
上記構造式(a)で表される化合物257mg、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)28mg、亜リン酸ジエチル74mg、トリエチルアミン56mg、トルエン1.84gを反応容器に入れ、反応容器内を窒素で置換して溶液を90℃で加熱攪拌した。反応終了後にろ過を行い、ろ液を減圧下で留去し粗生成物を得た。その粗生成物を展開溶媒としてヘキサン/酢酸エチル(100/0(v/v)から70/30(v/v)へグラジエント)を用いたカラムクロマトグラフィーによって精製し、下記構造式(1)で表される化合物を得た。収率は32%であった。
【0058】
【化22】

化合物(1)の1H−NMRデータ(300MHz、CDCl3):δ 8.16(d,1H,J=1.4Hz),8.11(d,1H,J=7.8Hz),7.57−7.42(m,5H),7.28−7.23(m,1H),7.10(s,1H),4.41(q,2H,J=7.3Hz),4.24−4.10(m,4H),2.82(t,2H,J=7.8Hz),2.71(t,2H,J=7.8Hz),1.68−1.58(m,4H),1.48(t,3H,J=7.2Hz),1.37(t,6H,J=7.1Hz),1.34−1.26(m,18H),0.91−0.82(m,6H)
【0059】
[実施例2]化合物(2)の合成
上記化合物(1)89mgにトリフルオロ酢酸20g、トルエン5g、水2gを加え、100℃で加熱攪拌した。反応終了後にジクロロメタン−水による分液を行い、硫酸ナトリウムで乾燥後、溶媒を留去し、下記構造式(2)で表される化合物を得た。収率は81%であった。
【0060】
【化23】

化合物(2)の1H−NMRデータ(300MHz、CDCl3):δ 8.18−8.08(m,2H),7.59−7.42(m,5H),7.26−7.14(m,1H),7.15−6.93(m,1H),4.41−4.38(m,2H),2.81−2.69(m,4H),1.70−1.66(m,4H),1.50−1.26(m,15H),0.90−0.83(m,6H)
【0061】
[比較例1]化合物(3)の合成
N,N'−ジメチルホルムアミド1.5mLを氷冷し、そこにオキシ塩化リン0.2mLを加え1時間攪拌した。これを溶液Aとした。これとは別途上記構造式(b)で表される化合物256mg、ジメチルホルムアミド7.4mLを入れた反応容器を準備し、そこに溶液Aを滴下した。反応容器を70℃で加熱攪拌し、反応を進行させた。反応終了後、酢酸ナトリウム水溶液−酢酸エチルで分液を行い、更に食塩水で洗浄した。その後硫酸ナトリウムで水分を除去し、溶媒を留去することで粗生成物を得た。この粗生成物を展開溶媒としてヘキサン/酢酸エチル(100/0(v/v)から70/30(v/v)へグラジエント)を用いたカラムクロマトグラフィーによって精製し、下記構造式(3)で表される化合物を得た。収率は64%であった。
【0062】
【化24】

化合物(3)の1H−NMRデータ(300MHz、CDCl3):δ 9.83(s,1H),8.17(d,1H,J=1.7Hz),8.12(d,1H,J=7.8Hz),7.60(s,1H),7.58−7.43(m,4H),7.29−7.24(m,1H),7.22(s,1H),4.41(q,2H,J=7.2Hz),2.86(t,2H,J=7.8Hz),2.72(t,2H,J=7.8Hz),1.71−1.67(m,4H),1.46(t,3H,J=7.2Hz),1.36−1.26(m,12H),0.92−0.82(m,6H)
【0063】
[比較例2]化合物(4)の合成
上記化合物(3)27mg、亜塩素酸ナトリウム21mg、2−メチル−2−ブテン47mg、水2.6g、アセトニトリル6.0g、ジクロロメタン2.1gを反応容器に準備し、0℃で2時間反応後、室温に戻して攪拌した。反応終了後に希塩酸−ジクロロメタンで分液し、有機層を水と食塩水で洗浄した。有機層は硫酸ナトリウムで水分を除去し、溶媒を留去して粗生成物を得た。これを展開溶媒としてヘキサン/酢酸エチル及びクロロホルム/メタノール(ヘキサン/酢酸エチル1/1(v/v)で展開の後、クロロホルム/メタノール5/1(v/v))を用いた分取薄層クロマトグラフィーによって精製し、下記構造式(4)で表される化合物を得た。収率は28%であった。
【0064】
【化25】

化合物(4)の1H−NMRデータ(300MHz、CDCl3):δ 8.17(s,1H),8.12(d,1H,J=7.7Hz),7.71(s,1H),7.58−7.43(m,4H),7.28−7.25(m,1H),7.17(s,1H),4.41(q,2H,J=7.2Hz),2.84(t,2H,J=7.8Hz),2.72(t,2H,J=7.8Hz),2.06(s,br,1H),1.69(q,4H,J=7.4Hz),1.48(t,3H,J=7.2Hz),1.34−1.26(m,12H),0.92−0.82(m,6H)
【0065】
[比較例3]化合物(5)の合成
上記化合物(3)154mg、シアノ酢酸72mg、ピペリジン1.1g、アセトニトリル4.1gを反応容器に準備し、110℃で加熱攪拌した。反応終了後に希塩酸−クロロホルムで分液し、有機層を水と食塩水で洗浄した。有機層は硫酸ナトリウムで水分を除去し、溶媒を留去して粗生成物を得た。これを展開溶媒としてクロロホルム/メタノール(5/1(v/v))を用いた分取薄層クロマトグラフィーによって精製し、下記構造式(5)で表される化合物を得た。収率は60%であった。
【0066】
【化26】

化合物(5)の1H−NMRデータ(300MHz、CDCl3):δ 8.23(s,1H),8.01(d,1H,J=1.4Hz),7.94(d,1H,J=7.8Hz),7.45−7.23(m,4H),7.16(2H,dd,J=14.8,8.0Hz),7.09(s,1H),4.20(q,2H,J=7.2Hz),3.75(s,br,1H),2.65−2.54(m,4H),1.65−1.48(m,4H),1.35−1.19(m,15H),0.77(m,6H)
【0067】
[実施例3、比較例4,5]
(1)有機色素吸着酸化チタン薄層電極の作製
フッ素ドープ酸化スズが表面に塗布されたガラス基板に、市販の酸化チタンペースト(Solaronix社製)をスクリーン印刷法により塗布後、空気中500℃で30分焼成することにより、酸化チタン薄膜電極を得た。この電極を上記実施例2及び比較例2、3で得られた化合物のジクロロメタン溶液(濃度:約0.1mM)に浸漬し、室温で20時間程度放置することにより、各種化合物が吸着された酸化チタン薄膜電極を得た。
【0068】
(2)太陽電池の作製
上記作製した電極と、対極として白金をスパッタしたガラス電極とを、ポリエチレンフィルムスペーサー(厚み30μm)をはさんで重ね合わせた。その隙間に0.025mol/Lのヨウ素、0.5mol/Lのt−ブチルピリジン、0.1mol/Lのヨウ化リチウム、及び0.6mol/Lのヨウ化1,2−ジメチル−3−プロピルイミダゾリウムを含むアセトニトリル溶液を注入し、2枚の電極をクリップで止め太陽電池セルを作製した。
【0069】
各種測定には市販の装置を利用可能であり、今回はAM1.5をシミュレートする分光計器(株)のソーラーシミュレーター、IV測定システム、及び分光感度測定装置を用いて、上記実施例3、比較例4、5で作製した光電気化学太陽電池の光電変換特性を測定した。
【0070】
表1にその結果を示すが、実施例3で作製した電池の光電変換効率及び短絡電流値は比較例のそれには及ばなかった。これは各化合物の吸光係数の違いが変換効率に影響しているためだと考えられた。
【0071】
【表1】

【0072】
(3)光電変換効率及び短絡電流値の経時変化測定
このため、経時変化を測定してその変化量を直接比較しても、初期値が大きく異なるため耐久性評価としては意味を成さない。そこで、表1に示す値をそれぞれ1となるような規格化を行い、その経時変化を測定することで各化合物の光化学電池としての耐久性を検討した。具体的には、前述の手順で作製した酸化チタン薄膜電極(化合物吸着済み)を電解液に浸しながら暗所で保存し、測定時にエタノールで洗浄・加圧空気による乾燥を行った後、太陽電池セルを作製し、上記と同様に測定を行うという手順で検討した。
【0073】
この結果を図1、図2に示す。14日経過時点で比較例である化合物(4)及び(5)を用いた太陽電池(比較例4、5)では光電変換効率が0.3以下に低下したのに対し、本発明である化合物(2)を用いた太陽電池(実施例3)では光電変換効率が0.4付近に留まっており、比較例である化合物(4)及び(5)を用いた太陽電池に対する優位性が明らかとなった。これは、図2からわかるように、短絡電流の変化率が光電変換効率の維持に大きく寄与しているためと考えられる。
即ち、本発明の素増感太陽電池用色素を用いれば、従来技術と比較して短絡電流の低下を抑えることが可能であることが明らかとなった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(A)で表される化学構造を有する色素増感太陽電池用色素。
【化1】

(式中、Xはπ共役系の1価の有機基を表す。Yは置換もしくは非置換のチオフェン環、フラン環、ピロール環、又はこれらが縮環した複素環を有する2価の有機基を表す。M1及びM2は、それぞれ独立に水素原子、置換もしくは非置換の炭素数1〜20のアルキル基、置換もしくは非置換の炭素数6〜20のアリール基、オルガノシリル基、又は陽イオンを表す。nは1〜10の整数を表す。)
【請求項2】
Xがカルバゾール環を有する基である請求項1記載の色素増感太陽電池用色素。
【請求項3】
Yがチオフェン環を有する基である請求項1又は2記載の色素増感太陽電池用色素。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項記載の色素増感太陽電池用色素を含むワニス。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか1項記載の色素増感太陽電池用色素を含む有機薄膜。
【請求項6】
請求項4記載のワニスから作製される有機薄膜。
【請求項7】
光透過性を有する基板と、この基板に積層された透明導電膜と、この透明導電膜に積層された金属酸化物からなる多孔質半導体を有し、前記多孔質半導体の表面には請求項1〜3のいずれか1項記載の色素増感太陽電池用色素が吸着されていることを特徴とする半導体電極。
【請求項8】
請求項4記載のワニスに多孔質半導体を有する基板を浸漬し、前記色素増感太陽電池用色素を前記多孔質半導体に吸着させてなる請求項7記載の半導体電極。
【請求項9】
請求項7又は8記載の半導体電極と、対極と、これら半導体電極及び対極間に介在する電解質とを備えて構成される色素増感太陽電池。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−174348(P2012−174348A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−32028(P2011−32028)
【出願日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【出願人】(000003986)日産化学工業株式会社 (510)
【Fターム(参考)】