説明

色素増感太陽電池用電解液及びそれを備えた色素増感太陽電池

【課題】本発明の目的は、ヨウ化ピロリジニウム塩を含有した電気化学的安定性に優れる色素増感太陽電池用電解液を提供すること、並びに、該色素増感太陽電池用電解液を備えた変換効率に優れる色素増感太陽電池を提供すること。
【解決手段】三ヨウ化物アニオンとヨウ化物アニオンとを含有する酸化還元対と、イオン性を有しない有機溶媒と、一般式(1)で表されるヨウ化ピロリジニウム塩を含有することを特徴とする色素増感太陽電池用電解液とそれを備えた色素増感太陽電池。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、色素増感太陽電池用電解液及びそれを備えた色素増感太陽電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体層に可視光域を吸収させる増感色素を担持させた色素増感太陽電池が検討されている。この色素増感太陽電池は、使用する材料が安価であること、比較的シンプルなプロセスで製造できること等の利点があることに加え、最近では変換効率が11%を超えるセルも報告されており、その実用化が期待されている。
【0003】
色素増感太陽電池は、多くの場合酸化還元対として三ヨウ化物アニオン(I)とヨウ化物アニオン(I)を有機溶媒に溶解させた電解液を用いているが、上述のような高い変換効率は主にアセトニトリルを溶媒とした電解液を用いた場合にしか得られていない。しかしながら、アセトニトリルは揮発性が高く、室温でも容易に揮発してしまうため、例え周辺温度が上昇しにくい室内用途であっても用いることはできない。したがって、実用化のためには、より揮発性が低く、沸点が高い溶媒を用いる必要がある。
【0004】
室温で液状を呈するイオン液体は低揮発・高沸点を有するものが多く、イオン液体を媒体として酸化還元対を溶解させたイオン液体電解液が検討されている。
第4級アンモニウム塩類、イミダゾリウム塩類、ピリジニウム塩類、ピロリジニウム塩等のオニウム塩は、カチオン及びアニオン種の組合せによっては室温で液状を呈するイオン液体となることは一般的に知られており、色素増感太陽電池も含めて電解液を使用する多くのデバイスへの使用が検討されている(例えば特許文献1〜7)。
しかしながら、イオン液体は有機溶媒に比べて大幅に粘度が高いため、イオン液体を溶媒として用いた電解液を色素増感太陽電池に用いても高い変換効率を得ることが困難である欠点がある。
【0005】
また、オニウムカチオンとヨウ化物アニオンからなるイオン液体も知られている(例えば特許文献8、9)。これらの文献で用いられているヨウ化イミダゾリウム化合物は室温で液状を示すイオン液体である。イオン液体であるため揮発性は低い上、ヨウ化物塩であるためヨウ素を溶解させれば電解液として使用できる。また、このようなイオン液体のヨウ化物を非ヨウ化物のイオン液体と混合して使用することも開示されている。
しかしながら、ヨウ化物のイオン液体であっても上述の他のイオン液体同様、粘度が高いことに加えて、ヨウ素アニオンの濃度が高いため漏れ電流が大きくなり、実用的な高い変換効率を得ることが困難である欠点がある。
【0006】
ところで、イオン液体のヨウ化物塩を有機溶媒に溶解させて電解液とする方法が開示されている(例えば特許文献10、11)。ヨウ化物塩からなるイオン液体を用いることで、有機溶媒の難揮発化による電池性能の安定化を期待したものである。
しかしながら、難揮発化の程度は、塩自体が室温で液状であるか否かとは本質的に無関係であり、また、混合する有機溶媒との親和性についても塩が室温で液状であるか否かとは、必ずしも高い変換効率と電気化学的安定性を両立できない問題がある。
また、特許文献11ではヨウ化物アニオン以外のアニオンを有するイオン液体を電解質として共存させているが、酸化還元対としてキャリアの輸送に寄与しない電解質を余分に混合することは電解液の粘度を上昇させ、返って変換効率を低下させてしまう問題がある。
【0007】
一般的によく知られているように、電解液の電気伝導度は、電解質、すなわちヨウ化物塩の濃度、電解質の解離度及び電解質イオンの移動度に支配されるため、溶媒とヨウ化物塩との組合せにより太陽電池の変換効率は異なってくる。
従来は、ヨウ化物塩がイオン液体であるかどうかにのみ注目し、ヨウ化物塩の構造が有機溶媒への溶解性に及ぼす影響や、太陽電池特性との関係性は評価されていない。したがって、ヨウ化物塩がイオン液体か否かに係わらず、有機溶媒に合わせてヨウ化物の構造を最適化、すなわち、ヨウ化物アニオンと塩を構成するカチオンの分子構造を最適化する必要がある。
【0008】
また、ヨウ化物塩がイオン液体であるからといって必ずしも優れた電気化学的安定性が得られるわけではない。室温で液状を示し、かつ低揮発性であることと、ヨウ化物塩の電気化学的安定性とは別の特性である。
非特許文献1で開示されているように、ヨウ化イミダゾリウム塩は比較的良好な変換効率が得られるものの、電気化学的安定性は不十分であるという課題もある。
【0009】
したがって、電気化学的安定性に優れる色素増感太陽電池用電解液とそれを備えた変換効率に優れる色素増感太陽電池が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2005−200359号公報
【特許文献2】特開2006−196390号公報
【特許文献3】特開2006−190618号公報
【特許文献4】特開2005−259821号公報
【特許文献5】特開2006−210259号公報
【特許文献6】特開2008−251537号公報
【特許文献7】特開2010−113987号公報
【特許文献8】特開2003−31270号公報
【特許文献9】特開2002−289268号公報
【特許文献10】特開2006−4823号公報
【特許文献11】WO2006/109769号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】平成15年度(独)新エネルギー・産業技術総合開発機構 受託研究(委託業務)成果報告書 7.3.3項 電解質組成検討
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の課題は、ヨウ化ピロリジニウム塩を含有した電気化学的安定性に優れる色素増感太陽電池用電解液を提供すること、並びに、該色素増感太陽電池用電解液を備えた変換効率に優れる色素増感太陽電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、本願発明の色素増感太陽電池用電解液とそれを備えた色素増感太陽電池が上記課題を解決できることを見出した。
【0014】
すなわち、本発明は、以下の通りである。
【0015】
[1]三ヨウ化物アニオンとヨウ化物アニオンとを含有する酸化還元対と、イオン性を有しない有機溶媒と、下記一般式(1)で表されるヨウ化ピロリジニウム塩を含有することを特徴とする色素増感太陽電池用電解液である。
【0016】
【化1】

(一般式(1)中、R及びRはそれぞれ同一でも異なってもよい炭素数1〜4のアルキル基を表す。)
【0017】
[2]ヨウ化ピロリジニウム塩が、ヨウ化N−エチル−N−メチルピロリジニウム又はヨウ化N,N−ジメチルピロリジニウムであることを特徴とする[1]に記載の色素増感太陽電池用電解液である。
【0018】
[3]イオン性を有しない有機溶媒が、ニトリル類、ラクトン類、環状カーボネート類、鎖状スルホン類、環状スルホン類からなる群より選ばれる1種を含むことを特徴とする[1]又は[2]に記載の色素増感太陽電池用電解液である。
【0019】
[4]導電層上に多孔質の金属酸化物半導体層を形成し、該金属酸化物半導体層に光増感作用を有する色素を吸着させてなる光電極と、前記光電極に対向配置される対極、及び前記光電極と対極間に形成され、酸化還元対を含む電解質層とを有する色素増感太陽電池であって、
前記電解質層が[1]から[3]のいずれかに記載の色素増感太陽電池用電解液を含んでなることを特徴とする色素増感太陽電池である。
【発明の効果】
【0020】
本願発明によれば、一般式(1)で表されるヨウ化ピロリジニウム塩を用いることで、電気化学的安定性に優れた色素増感太陽電池用電解液が得られ、該色素増感太陽電池用電解液を備えることで、変換効率に優れた色素増感太陽電池を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を実施するための形態について適宜、図面を参照しながら、詳細に説明する。
【0022】
図1は、本発明の色素増感太陽電池の一例を表す断面模式図である。その色素増感太陽電池において、透明基体1とその上に形成された透明導電膜2からなる電極基体3の表面に、多孔質金属酸化物半導体層4が形成され、さらに該多孔質金属酸化物半導体層4の表面には増感色素層5が吸着されることで光電極6が形成されている。そして、本発明の電解液からなる電解質層10を介して、導電性基体7の表面に、酸化還元対の酸化体を還元体に還元するための触媒層8が担持された対極9が対向配置されている。
【0023】
以下、本発明の色素増感太陽電池用電解液及び色素増感太陽電池の各構成材料について、好適な形態を説明する。
【0024】
<電解質層>
電解質層10は、本発明の色素増感太陽電池用電解液を含有する電解質層である。前記色素増感太陽電池用電解液は、三ヨウ化物アニオン(I)とヨウ化物アニオン(I)とを含有する酸化還元対、ヨウ化ピロリジニウム塩、イオン性を有さない有機溶媒を含有しているものである。
【0025】
本発明で用いるヨウ化ピロリジニウム塩は下記一般式(1)で表されるものである。
【0026】
【化2】

【0027】
上記一般式(1)中、R及びRはそれぞれ同一でも異なってもよい、炭素数1〜4のアルキル基である。
炭素数が4を超えると、分子サイズが大きくなり移動度が低下し、変換効率が下がるため好ましくない。炭素数を1〜4にすることで高い変換効率を得ることができる。
また、RとRが環を形成しないことが望ましく挙げられる。RとRで6員環以上の大きさの環を形成すると移動度が低下するため望ましくなく、5員環、即ちビピリロリジニウム塩では、溶媒への溶解度が低下するため望ましくない。また、4員環では耐熱性が低いため望ましくない。
さらに、ヨウ化ピロリジニウム塩におけるR及びRの少なくとも一つがメチル基であり、かつ、RとRの炭素数の合計が2〜5であることが望ましい。
【0028】
上記一般式(1)の具体例としては、例えば、ヨウ化N,N−ジメチルピロリジニウム、ヨウ化N,N−ジエチルピロリジニウム、ヨウ化N,N−ジプロピルピロリジニウム、ヨウ化N,N−ジブチルピロリジニウム、ヨウ化N−エチル−N−メチルピロリジニウム、ヨウ化N−プロピル−N−メチルピロリジニウム、ヨウ化N−ブチル−N−メチルピロリジニウム、ヨウ化N−プロピル−N−エチルピロリジニウム、ヨウ化N−ブチル−N−エチルピロリジニウム、ヨウ化N−ブチル−N−プロピルピロリジニウムが挙げられる。
これらの中でも特に、ヨウ化N−エチル−N−メチルピロリジニウム又はヨウ化N,N−ジメチルピロリジニウムが好ましく挙げられる。理由としては、分子サイズが小さく、かつ、有機溶媒における溶解性に優れているため、移動度が大きくなり、その結果、色素増感太陽電池の変換効率が高くなると考えられる。
【0029】
上記ヨウ化ピロリジニウム塩は室温で液体ではなく、固体であるため、合成時の高純度精製工程が容易であるとともに、電解液調製時のハンドリング性に優れている。また、光電極及び色素等により影響度は異なるが、電解液中に水分が多く含まれると太陽電池としての耐久性が下がるため、電解液に溶解させる前のヨウ化物塩も十分に脱水されていることが望ましい。上記ヨウ化ピロリジニウム塩は100℃以上の融点を有し、脱水するのに十分な高い温度で加熱乾燥させても溶融することがないため、十分に水分を除去することができる。
【0030】
ヨウ化ピロリジニウム塩の濃度は、其々用いる溶媒、光電極及び色素等により最適な濃度が異なるため、特には限定されないが、ヨウ素濃度よりも高いことが望ましく、具体的には10mmol/L〜5mol/L、より望ましくは100mmol/L〜2mol/Lである。
【0031】
色素増感太陽電池用電解液にヨウ化ピロリジニウム塩以外の支持電解質を加えてもよい。支持電解質としては、酸化還元対におけるヨウ素濃度よりも多く添加した分のヨウ化物塩が支持電解質として機能するため、必ずしも改めて他の電解質を添加する必要はないが、変換効率等の電気特性が向上する等、必要に応じて他の電解質、例えばリチウム塩やグアジニウム塩、チオシアネート塩等を添加しても構わない。
【0032】
色素増感太陽電池用電解液における三ヨウ化物アニオン(I)とヨウ化物アニオン(I)とを含有する酸化還元対の濃度は、其々用いる有機溶媒、光電極及び色素等により最適な濃度が異なるため、特には限定されないが、1mmol/L〜5mol/L、より望ましくは10mmol/L〜1mol/L程度である。
【0033】
上記イオン性を有さない有機溶媒としては、例えば、アセトニトリルやメトキシアセトニトリル、メトキシプロピオニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル類、炭酸エチレン、炭酸プロピレン等の環状カーボネート類、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル等の鎖状カーボネート類、γ−ブチロラクトン等のラクトン類、ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン等のアミド類、エチレングリコールジアルキルエーテル、プロピレングリコールジアルキルエーテル等のエーテル類、エチレングリコールモノアルキルエーテル、プロピレングリコールモノアルキルエーテル等のアルコール類、エチレングリコール、プロピレングリコール等の多価アルコール類、ジメチルスルホキシド、また、スルホラン、メチルスルホラン等の環状スルホン類、エチルメチルスルホンやエチルイソプロピルスルホン、エチルイソブチルスルホン等の鎖状スルホン類等が挙げられる。
【0034】
また、低揮発・高沸点である有機溶媒が好ましく挙げられ、具体的には、有機溶媒の沸点が、150℃以上が好ましく、200℃以上がより好ましく挙げられる。上記イオン性を有しない有機溶媒の中で、前記沸点を満たす有機溶媒としては、メトキシプロピオニトリル、炭酸プロピレン、γ−ブチロラクトン、エチルイソプロピルスルホン、エチルイソブチルスルホン等が挙げられる。これらは、単独でも複数を混合して使用しても構わない。
また、単独では室温で固体であっても、他の有機溶媒や酸化還元対と混合することで凝固点降下を起こし、使用範囲温度で液状であれば、単独では固体であっても構わない。
【0035】
また、ポリアクリロニトリル、ポリフッ化ビニリデン等のポリマーを有機溶媒中に添加したり、エチレン性不飽和基を有した多官能性モノマーを有機溶媒中で重合させる等の方法で、これらの有機溶媒をゲル化することで、電解質層10をゲル電解質として形成しても構わない。有機溶媒をゲル化させるためのポリマーはイオン性を有していても構わないが、電解質の移動を妨げる場合にはイオン性を有さないことが望ましい。
【0036】
また、ポリマーではなく、粒子を添加させてチクソトロピー性を持たせることで、セル内で固体状・ペースト性状・ゲル性状を持たせても構わない。このような粒子の材料としては、特には限定されず公知の材料を使用することができる。例えば、酸化インジウム、酸化スズと酸化インジウムの混合体(以下、「ITO」と略記する。)、シリカ等の無機酸化物、ケッチェンブラックやカーボンブラック、カーボンナノチューブ等のカーボン材料、また、カオリナイトやモンモリロナイト等の層状無機化合物、すなわち粘土鉱物でも構わない。
【0037】
色素増感太陽電池用電解液には、添加剤として、t−ブチルピリジン、N−メチルベンズイミダゾール、ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン等を添加することができる。
【0038】
<透明基体>
電極基体3を構成する透明基体1は、可視光を透過するものが使用でき、透明なガラスが好適に利用できる。また、ガラス表面を加工して入射光を散乱させるようにしたもの、半透明なすりガラス状のものも使用できる。また、ガラスに限らず、光を透過するものであればプラスチック板やプラスチックフィルム等も使用できる。
【0039】
透明基体1の厚さは、太陽電池の形状や使用条件により異なるため特に限定はされないが、例えばガラスやプラスチック等を用いた場合では、使用時の耐久性を考慮して1mm〜1cm程度であり、フレキシブル性が必要とされ、プラスチックフィルムなどを使用した場合は、25μm〜1mm程度である。また、必要に応じて耐候性を高めるハードコート等の処理を用いても構わない。
【0040】
<透明導電膜>
透明導電膜2としては、可視光を透過して、かつ導電性を有するものが使用でき、このような材料としては、例えば金属酸化物が挙げられる。特に限定はされないが、例えばフッ素をドープした酸化スズ(以下、「FTO」と略記する。)や、酸化インジウム、ITO、アンチモンをドープした酸化スズ(以下、「ATO」と略記する。)、酸化亜鉛等が好適に用いることができる。
【0041】
また、分散させるなどの処理により可視光が透過すれば、不透明な導電性材料を用いることもできる。このような材料としては炭素材料や金属が挙げられる。炭素材料としては、特に限定はされないが、例えば黒鉛(グラファイト)、カーボンブラック、グラッシーカーボン、カーボンナノチューブやフラーレン等が挙げられる。また、金属としては、特に限定はされないが、例えば白金、金、銀、銅、アルミニウム、ニッケル、コバルト、クロム、鉄、モリブデン、チタン又はそれらの合金等が挙げられる。
【0042】
ここで、本願発明では電解液中に含まれる酸化還元対として三ヨウ化物アニオン(I)とヨウ化物アニオン(I)を用いるため、透明導電膜に使用する導電性材料はヨウ素電解液に対する耐蝕性が高いことが望ましい。したがって、特に金属酸化物、中でもFTOやITOが特に好適である。
【0043】
透明導電膜2としては、上記の導電性材料のうち少なくとも1種類以上からなるものを、透明基体1の表面に設けて形成することができる。あるいは透明基体1を構成する材料の中へ上記導電性材料を組み込んで、透明基体と透明導電膜を一体化して電極基体1とすることも可能である。
【0044】
透明基体1上に透明導電膜2を形成する方法として、金属酸化物を形成する場合は、ゾルゲル法や、スパッタやCVD等の気相法、分散ペーストのコーティング等がある。また、不透明な導電性材料を使用する場合は、粉体等を、透明なバインダー等とともに固着させる方法が挙げられる。
【0045】
透明基体と透明導電膜を一体化させるには、透明基体の成形時に導電性のフィラーとして上記導電膜材料を混合させるなどがある。
【0046】
透明導電膜2の厚さは、用いる材料により導電性が異なるため特には限定されないが、一般的に使用されるFTO被膜付ガラスでは、0.01μm〜5μmであり、好ましくは0.1μm〜1μmである。また、必要とされる導電性は、使用する電極の面積により異なり、大面積電極ほど低抵抗であることが求められるが、一般的に100Ω/□以下、好ましくは10Ω/□以下、より好ましくは5Ω/□以下である。100Ω/□を超えると太陽電池の内部抵抗が上がるため好ましくない。
【0047】
透明基体及び透明導電膜から構成される電極基体3、又は透明基体と透明導電膜とを一体化した電極基体3の厚さは、上記のように太陽電池の形状や使用条件により異なるため特に限定はされないが、一般的に1μm〜1cm程度である。
【0048】
<多孔質金属酸化物半導体>
多孔質金属酸化物半導体4としては、特に限定はされないが、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化スズ等が挙げられ、特に二酸化チタン、さらにはアナターゼ型二酸化チタンが好適である。
【0049】
このような多孔質金属酸化物半導体は、特に限定されず既知の方法で透明導電膜2上に設けることができる。例えば、ゾルゲル法や、分散体ペーストの塗布、また、電析や電着させる方法がある。さらに、電気抵抗値を下げるため、金属酸化物の粒界は少ないことが望ましく、塗布した金属酸化物を焼結させることが望ましい。焼結条件は用いる金属酸化物半導体の種類や形成方法、基板の耐熱温度により異なるため、適宜変更して構わないが、二酸化チタンを用いた場合、450〜550℃で焼結させることが望ましい。
【0050】
また、増感色素をより多く吸着させるために、当該半導体層は多孔質になっていることが望ましく、具体的には比表面積が10〜200m/gであることが望ましい。また、増感色素の吸光量を増加させるため、使用する酸化物の粒径に幅を持たせて光を散乱させることが望ましい。前記半導体層の厚さは、用いる酸化物及びその性状により最適値が異なるため特には限定されないが、0.1μm〜50μm、好ましくは5〜30μmである。
【0051】
<増感色素>
増感色素層5としては、太陽光により励起されて前記金属酸化物半導体層4に電子注入できるものであればよく、一般的に色素増感太陽電池に用いられている色素を用いることができるが、変換効率を向上させるためには、その吸収スペクトルが太陽光スペクトルと広波長域で重なっていて、耐光性が高いことが望ましい。
増感色素は、特に限定はされないが、ルテニウム錯体、特にルテニウムポリピリジン系錯体が望ましく、さらに望ましいのは、Ru(L)(L’)(X)2で表されるルテニウム錯体が望ましい。ここでLは4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジン、もしくはその4級アンモニウム塩及びカルボキシル基が導入されたポリピリジン系配位子であり、L’はLと同一、もしくは4,4’−置換2,2’−ビピリジンであり、L’の4,4’位の置換基は、長鎖アルキル基、アルキル置換ビニルチエニル基、アルキル又はアルコキシ置換スチリル基、チエニル基誘導体などが挙げられる。また、XはSCN、Cl、CNである。例えば、ビス(4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジン)ジイソチオシアネートルテニウム錯体等が挙げられる。
【0052】
他の色素としては、ルテニウム以外の金属錯体色素、例えば鉄錯体、銅錯体等が挙げられる。さらに、シアン系色素、ポルフィリン系色素、ポリエン系色素、クマリン系色素、シアニン系色素、スクアリリウム系色素、スチリル系色素、エオシン系色素等の有機色素が挙げられ、具体的には三菱製紙株式会社製色素(商品名:D149色素)等が挙げられる。これらの色素には、該金属酸化物半導体層への電子注入効率を向上させるため、該金属酸化物半導体層との結合基を有していることが望ましい。該結合基としては、特に限定はされないが、カルボキシル基、スルホニル基等が望ましい。
【0053】
増感色素を前記多孔質金属酸化物半導体層4に吸着させる方法は、特には限定されるものではなく、例としては、室温条件、大気圧下において、色素を溶解させた溶液中に、透明導電膜2上に形成させた金属酸化物半導体層4を浸漬する方法が挙げられる。浸漬時間は、使用する半導体、色素、溶媒の種類、色素の濃度により、半導体層に均一に色素の単分子膜が形成されるよう、適宜調整することが望ましい。なお、吸着を効果的に行なうには加熱下での浸漬を行なえばよい。
【0054】
増感色素は多孔質金属酸化物半導体層の表面上で会合しないことが望ましい。色素単独で吸着させると会合が起きる場合には、必要に応じて、共吸着剤を吸着させても構わない。このような吸着剤としては、用いる色素により最適な種類や濃度が変わるため特には限定されないが、例えばデオキシコール酸等の有機カルボン酸が挙げられる。共吸着剤を吸着させる方法としては、特には限定されないが、増感色素を溶解させる溶媒に、増感色素とともに共吸着剤を溶解させてから金属酸化物半導体層を浸漬させることで、色素の吸着工程と同時に共吸着剤を吸着させることができる。
【0055】
増感色素を溶解するために用いる溶媒の例としては、エタノール等のアルコール類、アセトニトリル等の窒素化合物、アセトン等のケトン類、ジエチルエーテル等のエーテル類、クロロホルム等のハロゲン化脂肪族炭化水素、ヘキサン等の脂肪族炭化水素、ベンゼン等の芳香族炭化水素、酢酸エチル等のエステル類などが挙げられる。溶液中の色素濃度は、使用する色素及び溶媒の種類により適宜調整することが望ましい。例えば、5×10−5mol/L以上の濃度が望ましい。
【0056】
<対極−導電性基体>
太陽電池の内部抵抗を小さくするため対極の導電性基体7は電気伝導度が高いことが望ましい。また、上記のように本発明では電解質中に酸化還元対として三ヨウ化物アニオン(I)とヨウ化物アニオン(I)を用いているため、該導電性基体にはヨウ素電解液に対する耐蝕性が高いことが望ましい。
【0057】
このような導電性基体の材質としては、具体的には、表面に酸化皮膜を形成し耐蝕性が良好なクロム、ニッケルや、チタン、タンタル、ニオブ、及びそれらの合金であるステンレスや、表面に酸化皮膜を形成して耐蝕性を高めたアルミニウム等が挙げられる。
【0058】
また、他の好適な材料としては、導電性金属酸化物が挙げられる。特に限定はされないが、例えばITOやFTO、ATO、また、酸化亜鉛や酸化チタン等が好適に用いることができる。中でもFTO、ITOを好適に用いることができる。
【0059】
上記導電性基体には、耐久性やハンドリング性を高めること等を目的として支持体を兼備することができる。例えば、透明性を求める場合にはガラスや透明なプラスチック樹脂板を用いることができる。また、軽量性を求める場合にはプラスチック樹脂板、フレキシブル性を求める場合にはプラスチック樹脂フィルム等を用いることができる。また、強度を高める場合には、金属板等を用いることもできる。
【0060】
支持体の配置方法は特には限定されないが、導電性基体7の表面には対極の作用部分として触媒層8が形成されるため、支持体は該触媒層が担持されない部分、特に導電性基体の裏面に配置することが好ましい。また、支持体表面に導電性材料の粉末やフィラーを埋め込む等の方法で担持することにより、導電性基体と支持体を一体化することもできる。
【0061】
支持体の厚さは、対極の形状や使用条件により異なるため特に限定はされないが、例えばガラスやプラスチック等を用いた場合では、実使用時の耐久性を考慮して1mm〜1cm程度であり、フレキシブル性が必要とされ、プラスチックフィルム等を使用した場合は、25μm〜1mm程度である。また、必要に応じて耐候性を高めるハードコートなどの処理や、フィルム添付処理を用いても構わない。また、金属材料を支持体にした場合には、10μm〜1cm程度である。
【0062】
導電性基体の形態や厚みについては、電極として用いる際の形状や使用条件、また、用いる材料により導電性が異なるため特には限定されず、任意の形態を選択することができる。例えば、上記支持体を用いることで実用上の強度が保持される場合、電極として使用する上で必要な電導度が確保できていれば、100nm程度の厚みでも構わない。また、支持体を用いず、導電性基体のみにて強度を確保する場合は、1mm程度以上の厚さが好ましい。
【0063】
また、必要とされる導電性は、使用する電極の面積により異なり、大面積電極ほど低抵抗であることが求められるが、一般的に100Ω/□以下、好ましくは5Ω/□以下、より好ましくは1Ω/□以下である。100Ω/□を超えると太陽電池の内部抵抗が増大するため、好ましくない。
【0064】
<触媒>
導電性基体7の表面に担持された触媒8は、電解質層10中に含まれる酸化還元対、本発明では、三ヨウ化物アニオン(I)をヨウ化物アニオン(I)に還元することができれば特に限定はされず、既知の物質が使用できるが、例えば、遷移金属、導電性高分子材料、又は炭素材料等を好適に用いることができる。
その形状は、用いる触媒の種類により異なるため特には限定されない。上述の触媒材料のうち少なくとも1種類以上からなる触媒材料を、導電性基体7の表面に設けて形成することができる。あるいは導電性基体7を構成する材料の中へ上記触媒材料を組み込むことも可能である。
【0065】
触媒となる遷移金属としては、白金やパラジウム、ルテニウム、ロジウム等が好適に利用でき、また、それらを合金としても構わない。それらの中でも特に白金、もしくは白金合金が好適である。遷移金属の導電性基体上への担持方法としては既知の方法により作製できる。例えば、スパッタや蒸着、電析により直接形成する方法や、塩化白金酸等の前駆体を熱分解する方法等を用いることができる。
【0066】
導電性高分子のモノマーとして、ピロール、アニリン、チオフェン、及びそれらの誘導体の中から、少なくとも1種類以上のモノマーを重合してなる導電性高分子を触媒として使用することができる。さらに、導電性高分子の種類としては、ヨウ素酸化還元対の酸化体である三ヨウ化物アニオン(I)を還元する触媒能が高い種類が望ましく、特に、ポリアニリンやポリ(エチレンジオキシチオフェン)であることが望ましい。このとき、導電性高分子は未ドープ状態でも構わないが、導電性を向上させるため、ドーパントを添加することができる。導電性高分子の導電性基体の担持方法としては、既知の方法を用いることができる。例えば、前記導電性基体を、前記モノマーを含有する溶液中に浸漬して電気化学的に重合する方法や、Fe(III)イオンや過硫酸アンモニウム等の酸化剤と前記モノマーを含む溶液とを、該導電性基体上で反応させる化学重合法、導電性高分子を溶融状態もしくは溶解させた溶液から成膜する方法、また、導電性高分子の粒体をペースト状、もしくはエマルジョン状、もしくは高分子溶液及びバインダーを含む混合物形態に処理した後に、該導電性基体上へスクリーン印刷、スプレー塗布、刷毛塗り等により形成させる方法が挙げられる。
【0067】
また、炭素材料としては特に制限されず、酸化還元対の酸化体である三ヨウ化物アニオン(I)を還元する触媒能を有する、従来公知の炭素材料を使用することができるが、中でもカーボンナノチューブやカーボンブラック、活性炭等が望ましい。炭素材料の導電性基体への担持方法としては、フッ素系のバインダー等を用いたペーストを塗布・乾燥する方法等、既知の方法を用いることができる。
【0068】
以上に説明したように、各構成要素材料を準備した後、従来公知の方法で、光電極と対極を、本発明の電解液を含む電解質層を介して対向させるように組み上げ、色素増感太陽電池を完成させる。
【実施例】
【0069】
以下、本発明を実施例に基づいて、より詳細に説明するが、本発明はこれらによりなんら限定されるものではない。
【0070】
<ヨウ化物塩>
実施例に用いるヨウ化物塩の加熱乾燥特性と電解液における電気化学的安定性の評価結果を実施した。
【0071】
(加熱乾燥特性の評価)
ヨウ化物塩を真空下100℃で16時間乾燥させた際の加熱乾燥特性を評価した。なお、0.1%未満まで乾燥できた場合には○、0.1%以上の水分が残って場合には×として評価した。評価結果を表1に示す。
【0072】
(電気化学的安定性の評価)
電気化学的安定性の評価方法は、プロピレンカーボネートに、各ヨウ化物塩を0.50mol/Lの濃度で溶解させ、作用極を、面積を1cmに規定したFTOガラス、対極を白金線、参照極をAg/Ag+電極として、掃引速度5mV/secでリニアスイープボルタンメトリーを行ない、電位窓測定を実施した。評価結果を表1に示す。
【0073】
【表1】

【0074】
本願発明に用いるヨウ化ピロリジニウム塩は脱水乾燥操作において、容易に乾燥が可能であったのに対し、ヨウ化N−メチル−N−メトキシエチルピロリジニウム及びヨウ化1−メチル−3−プロピルイミダゾリウムは室温で液状を呈するイオン液体であるため、操作性が悪く、乾燥も不十分であった。さらに、ヨウ化1,2−ジメチル−3−プロピルイミダゾリウムでは、乾燥途中で溶融されるため脱水は不完全なうえ、冷却後には再度固化してしまい取り出し操作が著しく困難である問題があった。
【0075】
また、ヨウ化1−メチル−3−プロピルイミダゾリウム又はヨウ化1,2−ジメチル−3−プロピルイミダゾリウムよりも、本願発明に用いるヨウ化ピロリジニウム塩の方が高い電圧まで還元分解されずに安定であることがわかった。この原因として、電気化学的な安定性は、オニウム塩の主構造により決定されており、ピロリジニウム塩とイミダゾリウム塩を比較すると、イミダゾリウム塩の方が不安定であることが考えられる。
【0076】
以上より、本願発明に用いるヨウ化ピロリジニウム塩は、電気化学的安定性が高い上、固体として得られるため、水分の除去が容易であることが判った。
【0077】
(色素増感太陽電池用電解液1〜16)
以下の表2、3に、有機溶媒をそれぞれエチルイソプロピルスルホン、メトキシプロピオニトリルとして、ヨウ素濃度0.05mol/L、各ヨウ化物塩濃度0.7mol/L調製時における、ヨウ化物塩の溶解性評価結果を示す。なお、室温で完全に溶解した場合を○、飽和して完全には溶解しなかった場合に×とした。
【0078】
【表2】

【0079】
【表3】

【0080】
表3より、低揮発・高沸点のイオン性を有しない有機溶媒であるエチルイソプロピルスルホン又はメトキシプロピオニトリルを用いた場合、電解液(7)、(8)及び(17)では、ヨウ化物塩が完全に溶解しないことが判った。これより、非環状4級アンモニウムやスピロ−N,N’−ビピロリジニウムでは、必要な溶解度が得られないことが判る。
【0081】
(実施例1〜4及び比較例1、2)
<多孔質金属酸化物半導体層の形成>
透明導電膜付きの透明基体としてFTOガラス(日本板ガラス製25mm×50mm)を用い、その表面に酸化チタンペースト(日揮触媒化成工業株式会社製チタニアペースト PST-18NR)をスクリーン印刷し、100℃で1時間乾燥後、大気雰囲気下550℃で60分間焼成してそのまま室温となるまで放置し、15μm前後の厚さの多孔質酸化チタン層を形成させた。さらに、前記多孔質酸化チタン層の上に、酸化チタンペースト(日揮触媒化成工業株式会社製チタニアペースト PST-400C)をスクリーン印刷で重ね塗りした後、同様に焼成を行なって、20μm前後の厚さとした多孔質金属酸化物半導体層を完成させ、多孔質酸化チタン半導体電極とした。
【0082】
<増感色素の吸着>
増感色素として、一般にN719dyeと呼ばれるビス(4−カルボキシ−4’−テトラブチルアンモニウムカルボキシ−2,2’−ビピリジン)ジイソチオシアネートルテニウム錯体(Solaronix社製)を使用した。70℃にした前記多孔質酸化チタン半導体電極を、色素濃度0.5mmol/Lのアセトニトリル・t−ブチルアルコール(1:1)混合溶液中に浸漬し、遮光下48時間ゆっくりと浸透させた。その後脱水アセトニトリルにて余分な色素を洗浄してから風乾することで、太陽電池の光電極として完成させた。
【0083】
<対極>
対極として、アンカー層として、スパッタ法によりガラス基板上にTi(膜厚50nm)を成膜したのち、該Ti層上にスパッタ法によりPt(膜厚150nm)を成膜させた白金対極(ジオマテック製)を使用した。
【0084】
<電解液>
実施例1〜4では、それぞれ電解液(1)〜(4)を用い、比較例1、2では、それぞれ電解液(5)、(6)を用いた。
【0085】
<太陽電池セルの組み立て>
前記のように作製した光電極と、電気ドリルで0.6mmφの電解液注入孔を2個設けた対極を対向するよう設置し、両電極間に、スペーサーとして厚み50μmのPFA樹脂シートと、スペーサーの外周に熱可塑性シート(タマポリ製アイオノマー樹脂 HM−52、膜厚50μm)を重ならないように挟み、熱圧着する事により両電極を接着した。次に、前記のように作製した電解液を電解液注入孔から毛管現象にて両電極間に含浸させ、電解液注入孔上に可塑性シートを挟んで1mm厚のガラス板を置き、再度加熱圧着することで封止を実施し、太陽電池素子を作製した。
【0086】
<太陽電池セルの光電変換特性の測定>
上記の太陽電池セルについて、5mm角の窓をつけた光照射面積規定用マスクを装着させた上で、分光計器製ソーラシュミレータを用い、光量100mW/cm2、AM1.5の条件で光源の照射強度を調整した擬似太陽光を照射しながら、エーディーシー製直流電圧電流発生装置を用いて開放電圧(以下、「Voc」と略記する。)、短絡電流密度(以下、「Jsc」と略記する。)、形状因子(以下、「FF」と略記する。)、及び光電変換効率を評価した。評価結果を表4に併せて示す。
「Voc」、「Jsc」、「FF」及び光電変換効率の各測定値については、より大きい値が太陽電池セルの性能として好ましいことを表す。
【0087】
【表4】

【0088】
実施例1〜4と比較例1の結果から、アルキル基が長くなるにつれてFFが低下し、ヘキシル基まで長くなると変換効率が大きく低下するのがわかる。これはアルキル鎖長が長くなると、分子サイズが大きくなることで、移動度が低下するためと考察している。
【0089】
また、比較例2で使用した、エーテル基を置換基として有するヨウ化N−メチル−N−メトキシエチルピロリジニウムは、室温で液状を示すヨウ化物塩のイオン液体である。比較例2ではこのイオン液体を有機溶媒に溶解させて、低粘度化して使用しているわけであるが、実施例4と比較した結果、置換基鎖を構成する原子数が同じで置換基鎖長がよく似た固体塩である、ヨウ化N−ブチル−N−メチルピロリジニウムよりも性能が大きく低いことがわかる。すなわち、イオン液体を用いれば固体塩を用いるよりも優れた変換効率が得られるわけではなく、低い変換効率しか得られないことが判る。
【0090】
<実施例5〜8、比較例3〜6>
実施例5〜8及び比較例3〜6は、表5に対応する電解液を用いて、実施例1と同様に太陽電池セルを作製し、評価した。表5に太陽電池セルの光電変換特性の評価結果を示す。
【0091】
【表5】

【0092】
実施例5〜8は、比較例5、6と比べ、優れた変換効率が得られることが判る。これより、ヨウ化イミダゾリウム塩よりもヨウ化ピロリジニウム塩を用いた色素増感太陽電池の方が、優れた変換効率が得られることが判る。
ここで、比較例5で使用したヨウ化1−メチル−3−プロピルイミダゾリウムは室温で液状を示すヨウ化物塩のイオン液体であるが、実施例5、6で使用した、固体であるヨウ化N,N−ジメチルピロリジニウム及びヨウ化N−ブチル−N−メチルピロリジニウムの方が優れていることが判る。すなわち、イオン液体を用いれば固体塩を用いるよりも必ずしも優れた変換効率が得られるわけではないことが判る。
ヨウ化ピロリジニウム塩に置換するアルキル基の炭素数が4までは優れた変換効率が得られるが、炭素数が6であるヨウ化N−ヘキシル−N−メチルピロリジニウム(比較例3)になると、変換効率が低くなることがわかる。また、比較例4より、ヨウ化ピロリジニウム塩に置換するアルキル基の炭素数が4でも、メトキシエチル基では変換効率が低くなることが判る。
【0093】
以上より、本願発明に用いるヨウ化ピロリジニウム塩は、電気化学的安定性が高い上、室温で固体であるために水分の除去が容易であるため、該ヨウ化ピロリジニウム塩を含有させた色素増感太陽電池用電解液を用いた色素増感太陽地は、高い変換効率を有することができる。
【図面の簡単な説明】
【0094】
【図1】本発明の導電性高分子電極の構成の一例を示す断面模式図である。
【符号の説明】
【0095】
1 透明基体
2 透明導電膜
3 電極基体
4 多孔質金属酸化物半導体層
5 増感色素層
6 光電極
7 導電性基体
8 触媒層
9 対極
10 電解質層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
三ヨウ化物アニオンとヨウ化物アニオンとを含有する酸化還元対と、イオン性を有しない有機溶媒と、下記一般式(1)で表されるヨウ化ピロリジニウム塩を含有することを特徴とする色素増感太陽電池用電解液。
【化1】

(一般式(1)中、R及びRはそれぞれ同一でも異なってもよい、炭素数1〜4のアルキル基を表す。)
【請求項2】
ヨウ化ピロリジニウム塩が、ヨウ化N−エチル−N−メチルピロリジニウム又はヨウ化N,N−ジメチルピロリジニウムであることを特徴とする請求項1に記載の色素増感太陽電池用電解液。
【請求項3】
イオン性を有しない有機溶媒が、ニトリル類、ラクトン類、環状カーボネート類、鎖状スルホン類、環状スルホン類からなる群より選ばれる1種を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の色素増感太陽電池用電解液。
【請求項4】
導電層上に多孔質の金属酸化物半導体層を形成し、該金属酸化物半導体層に光増感作用を有する色素を吸着させてなる光電極と、前記光電極に対向配置される対極、及び前記光電極と対極間に形成され、色素増感太陽電池用電解液を含む電解質層とを有する色素増感太陽電池であって、
前記電解質層が請求項1から3のいずれかに記載の色素増感太陽電池用電解液を含んでなることを特徴とする色素増感太陽電池。

【図1】
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【公開番号】特開2012−14908(P2012−14908A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−148839(P2010−148839)
【出願日】平成22年6月30日(2010.6.30)
【出願人】(000228349)日本カーリット株式会社 (269)
【Fターム(参考)】