説明

色調整方法、色調整装置、映像通信システム及び色調整プログラム

【課題】複数拠点を有する映像通信システムにおいて、各拠点から取得した映像の色を正確且つなんら違和感なく自然に表示する。
【解決手段】色調整装置2は複数の他拠点S2〜Snと通信可能な自拠点S1に具備された映像出力機器から出力される映像の色情報の調整を行う。色調整装置2において色変換データ生成部24は自拠点S1における色調整対象である映像出力機器の入出力特性と他拠点S2〜Snの映像出力機器の入出力特性とから決定したマスター映像出力機器の入出力特性に基づき自拠点S1の映像出力機器の色変換を行うためのパラメータを色変換データとして生成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は映像入出力機器を有する複数の拠点からなる映像通信システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
テレビ会議システムは、コーデック装置、カメラ等の映像入力機器、映像出力機器、音声機器(マイク、スピーカー)、多地点接続装置(MCU)から構成される(非特許文献1)。コーデック装置は、撮影された映像や音声を符号化して通信相手に送信し、また、通信相手から送られて来た符号化された映像と音声のデータを復号して、映像出力機器での表示やスピーカーでの再生を行う。MCUは、3地点以上の拠点間の通信を行う際に通信制御を行うもので、通信を行う拠点の一つに置かれる場合や、センタに設置され、通信事業者からサービスとして機能を提供される場合がある。カメラは、コーデック装置と一体になっている場合もあるが、PCを用いたテレビ会議システムなどでは、カメラを別に用意して設置する。また、映像出力機器には通常、テレビやPCのモニタが用いられる。そのため、テレビ会議システムとしては映像入出力機器の仕様を管理していない。
【0003】
MCUは通信制御を行う機能しかもたないので、テレビ会議に接続される機器の表示・撮影に関する仕様の管理や調整は行わない。また、コーデック装置は映像の符号化と復号を行う際に、それに接続された他拠点の映像入出力機器の特性を知ることはないから、拠点間の色の調整は不可能である。
【0004】
一方、映像入出力機器間の色合わせの技術としては、ICC(International Color Consortium)にて規定されたフォーマットにしたがって色補正する手法が知られている(非特許文献2)。これは、映像出力機器や映像入力機器の入出力特性を記述したファイル(ICCプロファイルと呼ばれている)を事前に作成しておくことにより、映像出力時にこれらプロファイルを用いて入力と出力の色を合わせる仕組みである。
【0005】
入出力特性は図5に示されたように各映像入出力機器51〜54が扱う色空間(RGB、CMYK等)に対して、測色値(XYZ三刺激値やCIELAB、CIELUV等の均等色空間)を共通的な色空間として、これら2種類の色空間の関係が記述されたものである。ICCプロファイルを用いた色合わせにおいては、各機器51〜54で扱う色情報を共通的な色空間を介して変換を行うことで機器に依存しない色表現を行う。
【0006】
以下、機器の入出力特性に関して簡単に説明する。図6は、物体60を含む、ある照明61の下でのシーンを映像入力機器62で画像として取得し、これを映像出力機器63で出力するまでの構成を示したものである。一般に、映像入力機器62の場合、図7(a)の特性図に示すように、映像入力機器62への入力、すなわち、物体60からの反射光(物理量)に対して得られる画素値(RGB値)は上に凸の曲線で表される特性をもつ。また、図7(b)に示すように、モニタのような映像出力機器63の場合は逆に、画素値に対して表示される色の物理量(輝度)の関係は下に凸の曲線のような特性をもつ。通常、このような入出力特性はγ特性と言われ、式(1)に示すように表される。
(output)=α・(input)γ+β…(1)
上式において(input)は映像入力機器62での物理量、映像出力機器63での画素値に相当し、(output)は映像入力機器62の画素値、映像出力機器63の物理量に対応する。また、α、βは係数であり、指数γによって入出力特性が大きく変わる。このような機器固有の入力と出力の関係をプロファイルとして記述したものがICCプロファイルであり、上記式(1)のように関数で表現する場合や、LUT(Look Up Table)の形式で記述する場合もある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】VTVジャパン株式会社、“テレビ会議・TV会議システム 多地点接続装置のMCU.info”、[online]、2008年2月、[2009年3月30日検索]、インターネット<URL:http://www.h323.jp/index.html>
【非特許文献2】日本色彩学会編,「新編 色彩科学ハンドブック」,第2版,東京大学出版会,1998年6月,pp.1137−1151
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上述の映像通信システムには、以下の課題がある。
【0009】
従来の映像通信システムは、制御機能においては、多地点の通信接続制御を行うことはできるが、地点間の機器の仕様に関する制御を行うことはできない。また、コーデック装置は、映像の符号化と復号を行い、符号化された映像データの送受信は行うが、符号化時と復号時の色の決定にその機器の仕様や表示環境を考慮することはない。上で述べた通り、映像の入出力全体で色の調整を行うには、映像入力機器と映像出力機器両方の色の特性情報が必要であり、他の拠点の映像入出力機器の色の特性情報を持たない従来の映像通信システムでは、異なる映像通信拠点間のモニタなどの映像出力機器での色が正しくないという問題が発生する。
【0010】
また、従来のICCプロファイルを用いた色補正では、図6に示すようなローカルな系、もしくは1対1の系を対象として、所定の入出力機器間で色を正しく表示することを目的としてきた。しかしながら、複数拠点にまたがる映像通信システムにおいては、1拠点のモニタに複数拠点からの映像を同時に表示する場合が想定される。
【0011】
図8に示された事例では、3拠点(S1〜S3)からの映像を1種類のモニタ80上に表示したものであり、各拠点(S1〜S3)からの映像は入出力機器(モニタ80)の特性(ICCプロファイル等)によって、その拠点での色と同一の色が再現されている。映像としては正しい色を表示しているが、複数拠点にまたがるTV会議等の映像通信システムを想定した場合、同室感の実現や資料の共有等を行う場合にはある一定の環境に合わせた表示を行う必要がある。従来の色補正では、上述のように複数拠点間での統一的な色合わせに関しては考慮されていない。
【0012】
以上のように従来の複数拠点を有する映像通信システムにおいては、モニタなどの映像出力機器に表示される色が拠点間で異なり、また、表示される色が不正確であったり、不自然であったりという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0013】
そこで、本発明は、自拠点及び他拠点の映像出力機器の入出力特性、またはさらに映像入力機器の入出力特性、照明光の色情報から決定したマスター映像出力機器の入出力特性に基づき映像出力機器の色変換を行うためのパラメータを色変換データとして生成する。
【0014】
本発明の色調整方法の態様としては、複数の他拠点と通信可能な自拠点に具備された映像出力機器から出力される映像の色情報の調整を行う色調整方法であって、前記自拠点の色変換データ生成手段が、前記自拠点における色調整対象の映像出力機器の入出力特性と各他拠点から得られた全ての色調整対象である映像出力機器の入出力特性とから決定したマスター映像出力機器の入出力特性に基づき自拠点の映像出力機器の色変換を行うためのパラメータを色変換データとして生成するステップを有する。
【0015】
本発明の色調整装置の態様としては、複数の他拠点と通信可能な自拠点に具備された映像出力機器から出力される映像の色情報の調整を行う色調整装置であって、前記自拠点における色調整対象の映像出力機器の入出力特性と各他拠点から得られた全ての色調整対象である映像出力機器の入出力特性とから決定したマスター映像出力機器の入出力特性に基づき自拠点の映像出力機器の色変換を行うためのパラメータを色変換データとして生成する色変換データ生成手段を備える。
【0016】
本発明の映像通信システムの態様としては、互いに通信可能な複数の拠点に具備された映像入力機器が入力した映像または映像出力機器から出力された映像を前記各拠点の映像出力機器に表示させる映像通信システムにおいて、前記各拠点は前記映像出力機器から出力される色情報の調整を行う色調整装置を備え、前記色調整装置は、その自拠点における色調整対象である映像出力機器の入出力特性と各他拠点から得られた全ての色調整対象の映像出力機器の入出力特性とから決定したマスター映像出力機器の入出力特性に基づき自拠点の映像出力機器の色変換を行うためのパラメータを色変換データとして生成する色変換データ生成手段を備える。
【0017】
尚、本発明は前記色調整装置に係る色変換データ生成手段としてコンピュータを機能させるプログラムの態様とすることもできる。
【発明の効果】
【0018】
したがって、以上の発明によれば、複数拠点を有する映像通信システムにおいて、各拠点から取得した映像の色を正確且つなんら違和感なく自然に表示できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】発明の実施形態に係る色調整装置とこれを有する映像通信システムの概略構成図。
【図2】発明の実施形態に係るメディアシステムの概略構成図。
【図3】発明の実施形態に係る色調整装置による色変換データ生成の過程を説明したフローチャート。
【図4】(a)発明の実施形態に係る拠点による映像入出力機器の入出力特性ファイルを他拠点への送信を説明したフローチャート,(b)発明の実施形態に係る色調整装置の制御部による色変換データ生成の制御を説明したフローチャート,(c)発明の実施形態に係るメディアシステムの動作を説明したフローチャート。
【図5】従来の色管理システムの概要図。
【図6】映像入出力系の一例。
【図7】(a)映像入力機器における反射光(物理量)と画素値(RGB値)との関係を示した特性図,(b)映像出力機器における画素値(RGB値)と反射光(物理量)との関係を示した特性図。
【図8】従来の色合わせシステムの技術的課題の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。尚、本発明はこの実施形態によって限定されるものではない。
【0021】
本発明の実施形態に係る映像通信システム1は図1に示されたようにネットワーク4を介して互いに通信可能な複数の拠点Si(i=1,2,3,…,n)から構成される。
【0022】
拠点Si(i=1,2,3,…,n)は色調整装置2とメディアシステム3とを備えている。
【0023】
色調整装置2は図1に示されたようにデータベース21と制御部22と通信部23と色変換データ生成部24とを備えている。
【0024】
メディアシステム3は図2に示すように従来のテレビ会議システムやテレビ電話システムと同様の構成となっている。メディアシステム3は、映像入力機器31、映像出力機器32及び音声機器33と、送受信されるメディアデータを処理するコーデック装置34、通信制御を行う多地点接続装置(以下、接続装置)35からなる。映像入力機器31としては、例えば、カメラ、書画カメラ、スキャナなどが挙げられ、映像出力機器32はモニタ、プロジェクタとスクリーン、プリンタなどが例示される。
【0025】
拠点S1の色調整装置2はネットワーク4を介して他の拠点(例えばSi(i=2,3,…,n))と通信して当該他の拠点に係る映像入力機器、映像出力機器の色の調整を行う。
【0026】
映像通信システム1全体を構成する複数の拠点S1,S2,S3,…間で映像通信を行う際には、まず、個々の拠点(S1,S2,S3,…の一つ)にあるメディアシステム3の接続装置35において、各拠点が互いに通信を行うために必要なアドレスを入手する。色調整装置2は接続装置35からの情報に基づいて機器の入出力特性に関わるデータの通信を対地と行い、色変換データを生成して、メディアシステム3に送信する。メディアシステム3は色調整装置2から受信した色変換データをコーデック装置34に設定し、映像通信を開始する。
【0027】
色調整装置2において、データベース21は自拠点(例えば拠点S1)のメディアシステム3で使用される映像入力機器31並びに映像出力機器32の入出力特性ファイル及び照明36の照明光の色情報ファイルを格納している。データベース21の管理項目は以下の通りで、型式番号などの機器の識別子と対応させて管理する。
(1)映像入力機器31の入出力特性
(2)映像出力機器32の入出力特性
(3)照明36の照明光の色情報
(1)および(2)の入出力特性は、各機器の製造メーカからICCプロファイルとして提供される場合が多いが、市販のツールを用いて測定・作成することもできる。また、(3)の情報は事前に測色機器によって測定されたデータや、照明36のメーカから提供されるデータを用いればよい。
【0028】
制御部22は色調整装置2の各コンポーネント(機能手段21,23,24)を制御して図3に示されたフローチャートの過程S1〜S4を介してメディアシステム3に供する色変換データの生成を実行させる。制御部22は同じ拠点(例えば拠点S1)内の図2に示されたメディアシステム3のコーデック装置34、接続装置35と通信可能に接続されている。また、制御部22は通信部23を介してネットワーク4を通じて映像通信システム1内の他の拠点(拠点S2〜Sn)とデータの交換が可能となっている。
【0029】
通信部23はメディアシステム3の接続装置35から得られる接続先の情報に基づいて、制御部22の指定する通信相手(例えば拠点S2〜Sn)の色調整装置2と通信し、映像入出力機器の入出力特性と照明光の色情報の送受信を行う。
【0030】
色変換データ生成部24は、各機器の入出力特性に基づいてターゲットとする映像出力機器の特性に合わせて表示する際の色変換データを生成する。
【0031】
具体的には、色変換データ生成部24は、自拠点(例えばS1)の映像出力機器32の入出力特性と他拠点(例えばS2〜Sn)の映像出力機器32の入出力特性とから決定したマスター映像出力機器の入出力特性に基づき自拠点の映像出力機器32の色変換を行うためのパラメータを色変換データとして生成する(後述の[事例1])。
【0032】
さらに、色変換データ生成部24は、自拠点(例えばS1)の照明36の色情報と前記他拠点(例えばS2〜Sn)の照明の色情報とから決定したマスター照明の色情報を自拠点の映像出力機器32の色変換を行うためのパラメータを生成するための演算に供する(後述の[事例2])。
【0033】
また、色変換データ生成部24は、自拠点(例えばS1)または前記複数の他拠点(例えばS2〜Sn)のいずれかの映像入力機器31の入出力特性を取得し、この特性と自拠点の映像出力機器32の入出力特性とに基づき当該映像出力機器32から出力される映像入力機器31で取得された映像の色変換を行うためのパラメータを色変換データとして生成する(後述の[事例3])。
【0034】
さらに、色変換データ生成部24は、自拠点(例えばS1)または前記複数の他拠点(例えばS2〜Sn)のいずれかの映像入力機器31の入出力特性及び映像入力機器31による映像取得時の照明光の情報を取得し、これらの情報と、予め自拠点または前記複数の他拠点間の合意によって設定された色変換後の照明光の色の情報とを、前記映像入力機器で取得された映像の色変換を行うためのパラメータを生成するための演算に供する(後述の[事例4])。
【0035】
図3を参照しながら色調整装置2による色変換データ生成の過程(S1〜S4)について説明する。以下に説明される事例では拠点S1が自拠点、拠点S2〜Snが他拠点となっている。尚、ここでは、色合わせの対象とする映像入出力機器は事前に決定されているものとする。
【0036】
S1:色調整装置2の制御部22は自拠点S1の映像入出力機器37(映像入力機器31,映像出力機器32)の入出力特性ファイルを他拠点S2〜Snに送信する。
【0037】
より具体的には、図4(a)に示した手順(S101,S102)に従って、映像通信を行う他の拠点S2〜Snに対して入出力特性と色の情報を送信する。
【0038】
S101で、データベース21から自拠点S1のメディアシステム3に係る映像入出力機器37(映像入力機器31,映像出力機器32)の入出力特性ファイル、照明光の色情報を引き出し、これを通信部23からネットワーク4を介して各対地(他拠点S2〜Sn)に送信する。
【0039】
S102で、全ての対地(他拠点S2〜Sn)に対する送信が終了するまでS101のステップの実行を繰り返す。
【0040】
S2:制御部22は、他拠点(S2〜Sn)との表示環境の調整を行い、自拠点S1での表示環境を決定する。つまり、複数拠点(S1〜Sn)間での映像通信を行うにあたって、最終的な表示環境を他拠点(S2〜Sn)間と合わせるためのマスター映像入出力機器(以下、マスターと称する)を他拠点との間で決定する。
【0041】
マスターである映像出力機器Mtargetの決定方法とその入出力特性PMtargetの取得方法の具体例について説明する。ここでは3種類のマスターの映像出力機器の決定法を例として示す。実際には、どの方法でマスターを決定するかは事前に決まっているものとする。
【0042】
[例1]基準とする標準映像出力機器をマスターとし、その入出力特性ファイルをデータベース21に予め格納しておく。マスターは、拠点(S1〜Sn)間にある映像出力機器32の中から標準的な入出力特性に最も近いものを選択しても構わないし、理想的な入出力特性をもつ映像出力機器を仮定しても構わない。
【0043】
[例2]映像通信の主催者(例えばS1)の映像出力機器32をマスターとし、主催者は自拠点S1の映像出力機器32の入出力特性を他拠点(S2〜Sn)に送信する。
【0044】
[例3]参加拠点(S1〜Sn)の映像出力機器32の中から最も色再現範囲の狭い映像出力機器をマスターとする。
【0045】
本手順では映像出力機器32がモニタである場合を例にとって説明する。自拠点(S1)におけるモニタMkの入出力特性PMk並びにS301で取得した他拠点(S2〜Sn)おけるモニタMkの入出力特性PMkの中身を解析し、RGB値の中で最高値をとる値が対応する物理量を比較し、最も値の小さい物理量を持つモニタの入出力特性を色再現範囲が狭いと判定する。
【0046】
例えば、画像の画素値がR(赤)、G(緑)、B(青)の3種類の色成分の組み合わせであり、それぞれが8ビットで表現されているものと仮定すると、画素値の最高値は、R成分で(255,0,0)G成分で(0,255,0)、B成分で(0,0,255)となる。各対象のモニタに対し、これら3色をモニタに出力した際の物理量の値を、入出力特性ファイルを用いて求め、最も値の小さい値をもつ色成分が多いモニタを色再現範囲が狭いと判定し、マスターのモニタとする。
【0047】
S3:制御部22は図4(b)のS301〜S304の手順で対地(拠点S2〜Sn)の映像を自拠点S1の映像入出力機器37に表示する際の色変換データの生成処理を制御する。
【0048】
S301で、通信部23を介して映像通信を行う全ての対地のシステムに対して該当の映像通信セッションで用いる映像入出力機器37の入出力特性と照明の色の情報を受信する。
【0049】
S302で、受信した対地(拠点S2〜Sn)の入出力特性に基づいて各拠点(S1〜Sn)の映像出力機器32について以下の処理を実行する。
【0050】
データベース21に格納された自拠点S1の映像出力機器32(例えばモニタ)の入出力特性と、S301で受信した対地(拠点S2〜Sn)の映像出力機器32(図2の事例ではモニタ、プリンタ、プロジェクタとスクリーン)の入出力特性とに基づき、自拠点S1側の映像出力機器32に作用させる色変換データの生成を色変換データ生成部24に実行させる。
【0051】
S302での色変換データ生成部24による映像入力機器31、映像出力機器32の特性およびこれらを用いた色合わせの原理について図7を参照しながら説明する。
【0052】
図6に示す構成では、照明61の光の下での物体60をカメラ62(映像入力機器)で撮像し、モニタ63(映像出力機器)に表示する例が示されている。この場合、カメラ62およびモニタ63の入出力特性(ICCプロファイル等)が事前に得られているとする。カメラ62の入出力特性は、物理量であるXYZ三刺激値とRGB値の対応関係として、以下のように関数fで表せる。ここで関数fは、例えば、3×3の行列とγ係数の組み合わせで表されるものとする。
【0053】
【数1】

【0054】
一方、モニタ63の入出力特性(ICCプロファイル等)も同様に、3×3の行列とγ係数の組み合わせから構成される以下のような関数gで表せる。
【0055】
【数2】

【0056】
カメラ62で撮像された画像がRGB空間上の値として表現されている場合、関数fの逆変換を用いて物理量(ここではXYZ三刺激値とする)を求めることができる。式(4)にこの変換を示す。式(4)により、画像中の任意の画素値(Rcam,Gcam,Bcam)から、カメラ62で撮像する前のシーンの情報(X,Y,Z)を求めることができる。
【0057】
【数3】

【0058】
モニタ63に表示される色、即ち物理量と、上記式(4)で得られるXYZ三刺激値が一致すれば、実際のシーンの色とモニタ63で表示される色とが一致していることになる。そこで、式(4)の結果にモニタ63の入出力特性、即ち、以下の関数gの逆関数を用いて、正しい色を出力するのに必要なRGB値を求める。
【0059】
【数4】

【0060】
式(6)に示すように、(Rcam,Gcam,Bcam)から(Rcam’,Gcam’,Bcam’)への変換、即ち、関数fとgの合成関数の逆変換を行うことによってカメラ62とモニタ63間の色合わせが実現される。
【0061】
【数5】

【0062】
S303では、S302で生成された色変換データをメディアシステム3に送信する。
【0063】
S304では、残り全ての色合わせの対象である映像出力機器についてS302,S303のステップを繰り返し実行させる。
【0064】
S4:メディアシステム3は図4(c)のS401、S402の手順で色調整装置2から色変換データを受信して映像出力機器32の表示を調整する。
【0065】
S401では、色調整装置2から色変換データを受信する。
【0066】
S402では、色調整装置2から受信した映像出力機器32の中の各映像出力機器(モニタ、プリンタ、プロジェクタとスクリーン)の色変換データがコーデック装置34に設定されると、コーデック装置34は対応する映像出力機器32の出力を前記設定された色変換データに基づき調整する。
【0067】
以上の映像通信システム1による映像出力機器の映像表示の色合わせの事例を示す。
【0068】
以下に説明される事例に係る映像通信システム1に含まれる拠点は図1に例示されたようにS1,…,Snのn個となっている。拠点Si下にある映像入力機器はCij、映像出力機器はMijで表記し(但し、jは同一拠点内にある複数の映像入力機器ないし映像出力機器を区別するための識別子である。1種類しかない場合、省略する)、これらの入出力特性をそれぞれPCij、PMijで表記する。尚、以下の説明では入出力特性は、3×3の行列で表現することにする。拠点Si下の照明光Liは3×1の行列で表されるとする。
【0069】
[事例1:複数拠点間のモニタの色合わせ]
事例1では、複数拠点(S1〜Sn)における特性の異なるモニタから表示される同一の映像については、以下の過程によって、モニタの入出力特性を用いることで拠点間でのモニタの色合わせが実現する。n箇所の拠点Si(i=1,2,…,n)はモニタMi(i=1,2,…,n)を備えているとする。
【0070】
(過程1)拠点S1,S2,…,Snの間で、マスターとするモニタMtarget(上述したように、MtargetはM1〜Mnのどれか1つであっても構わないし、仮想的なモニタでも構わない)を交渉して決定する。
【0071】
(過程2)次に、マスターに決定されたモニタを有しない拠点は、マスターのモニタをもつ拠点からモニタMtargetの入出力特性PMtargetを取得する。
【0072】
(過程3)その後、モニタMtargetでの表示と各拠点のモニタMk(k=1,2,…,n)の表示を合せるために、各拠点(S1〜Sn)の色調整装置2は自拠点のモニタMkの入出力特性PMkをデータベース21から取得する。
ここで、PMtarget=PMk・Q
となるQを求め、これをMkに対応した色変換データとして求める。
【0073】
したがって、事例1によれば、別々の拠点に表示される同一シーンの色が互いに異なるという問題が解消される。また、各拠点内の出力機器で複数拠点からの映像を表示する際に色が合わないという問題が解決される。
【0074】
[事例2:観察される映像出力機器の色の色合わせ]
事例2では、複数拠点をまたがる映像通信において、各拠点における照明光の色が対地でのモニタ表示に影響を及ぼす場合では、以下の過程によって、モニタ間の色合わせが実現する。n箇所の拠点Si(i=1,2,…,n)において、照明光Li(i=1,2,…,n)下にモニタMi(i=1,2,…,n)が接続されているとする。
【0075】
(過程1)拠点S1,S2,…,Snの間で、マスターとするモニタMtarget(上述したようにMtargetはM1〜Mnのどれか1つであっても構わないし、仮想的なモニタでも構わない)とマスターとする照明光Ltargetを拠点間で交渉して決定する。ここで、マスターとする照明光Ltargetは、例えば、拠点の照明光Liの中で最も太陽光に近い光源を選択するとか、拠点の照明光Liの中で平均をとるとか、または、多数決で決めるという方法がある。さらには、会議の主催者の照明光に設定するとか、事前に決めておいた標準光(C光源やD65光源)にするという方法もある。
【0076】
(過程2)次に、マスターに決定されたモニタを有しない拠点は、マスターのモニタをもつ拠点からモニタMtargetの入出力特性ファイルとその照明光の色情報Ltargetを取得する。
【0077】
(過程3)照明光Ltargetの下でモニタMtargetからの反射される色を合せるために、色調整装置2は各拠点のモニタMk(k=1,2,…,n)の入出力特性と照明光の色情報Ltargetをデータベース21から取得する。ここで、
target・Pk=Ltarget・PMtarget・Q
となるQを求め、これをMkに対応した色変換データとして求める(S3のS302)。
【0078】
したがって、事例2によれば、他拠点からの映像を自拠点で表示した場合、他拠点と自拠点の照明光の色が異なることなく、自拠点の映像が他の拠点の映像とは何ら違和感なく自然に表示される。
【0079】
[事例3:カメラ撮影されたシーンを他拠点のモニタで正しく表示]
事例3では、以下の過程によって、映像通信において異なる入出力特性をもつモニタに、ある拠点内のカメラで撮影したシーンの映像を正しい色で表示させることができる。
【0080】
ある拠点Sk(k=1,2,…,nのどれか)でのカメラCk(k=1,2,…,nのどれか)で撮影した映像を各拠点(i=1,2,…,n)のモニタMi(i=1,2,…,n)で正しく表示させる場合の処理について説明する。以下の説明ではK番目の拠点SkにカメラCkが接続されていると仮定する。
【0081】
(過程1)拠点Si(i=1,2,…,n)は、カメラCk(k=1,2,,,,nのどれか1つ)の入出力特性PCk(k=1,2,…,nのどれか1つ)を取得する。
【0082】
(過程2)次に、各拠点Si(k=1,2,…,n)は、自拠点のモニタMi(i=1,2,…,n)の入出力特性をデータベース21から取得する。
ここで、PMi・Q・PCk=I
となるQを求め、これを拠点Sk下のモニタMkに対応した色変換データとして求める。なお、上記Iは恒等写像を表す。
【0083】
[事例4:カメラ撮影されたシーンを他拠点のモニタで見やすく表示]
映像通信において異なる入出力特性をもつモニタに、ある拠点内のカメラで撮影したシーンの映像が撮影時の照明光の影響を受けている場合に、以下の過程によって、標準光等の環境下の映像に補正して表示させることができる。
【0084】
ある拠点Sk(k=1,2,…,nのどれか)において、照明光Lk(k=1,2,…,nのどれか)の下でカメラCk(k=1,2,…,nのどれか)によって撮影した映像を各拠点Si(i=1,2,…,n)の映像出力機器Mi(i=1,2,…,n)に標準光源Lstd下のシーンとして表示させる場合の処理について説明する。
【0085】
(過程1)各拠点Si(i=1,2,…,n)は、カメラCk(k=1,2,…,nのどれか1つ)の入出力特性PCk(k=1,2,…,nのどれか1つ)および映像取得時の照明光の情報Lkを取得する。
【0086】
(過程2)次に、各拠点Si(i=1,2,…,n)の合意の下、変換後の照明光の色の情報Lstdを設定する。Lstdは、D65やC光源等の標準的に用いられる光源の色であっても構わないし、また、仮想的な白色を設定しても構わない。
【0087】
(過程3)最後に、各拠点Si(i=1,2,…,n)は、自拠点のモニタMi(i=1,2,…,n)の入出力特性をデータベース21から取得する。ここで、
Mi・Q・(Lstd/Lk)・PCk=I
となるQを求め、これをSk下の映像出力機器Mkに対応した色変換データとして求める。ここで(Lstd/Lk)は、照明光の色の成分を要素毎に比をとったものである。なお、上記Iは恒等写像を表す。
【0088】
したがって、事例4によれば、ある拠点下でのカメラ撮影された実際のシーンの色が通信を通して他の拠点で表示された場合に実際と異なるという問題が解決される。
【0089】
[事例5:自拠点内の複数映像出力機器間の色合わせ]
上述の事例1〜4では、拠点Si(i=1,2,…,n)内に複数の映像出力機器がある場合についても同様に対応可能であるが、同拠点内のモニタの色再現能力に差がある場合は、これらを考慮する必要がある。事例5の場合では、同拠点内のモニタの色再現能力に差を考慮して、自拠点内でマスターを色再現範囲の小さいものとして設定し、他のモニタの色特性をあわせるようにすればよい。
【0090】
これらの事例1〜5は映像出力機器がモニタの場合であるが、他の映像出力機器例えばプリンタやスクリーンである場合でも適用できる。
【0091】
以上のように本発明に係る色調整装置2及びこれを備えた拠点Si(i=1,2,3,…,n)を有する映像通信システム1によれば、複数拠点間の映像通信において、自拠点から映像を表示する際の色に関し精密な調整を容易に行うことが可能になる。したがって、多地点の映像通信における複数遠隔地の映像の連続性を高めることができ、通信の臨場感を高めることができる。また、これにより、ネットワークで連携させたデジタルサイネージシステムにおいて、複数の表示装置に同時に同じ色の映像を表示させることもできる。
【0092】
以上説明した本発明に係る色調整装置2は、パーソナルコンピュータ(PC)であって、通常のコンピュータのハードウェアリソース、例えばCPU、ハードディスクドライブ、メモリ(RAM)、通信デバイス、ディスプレイ、マウス・キーボードなどの入出力機器を備えた態様としてもよい。色調整装置2に係るデータベース21は前記コンピュータの内部メモリやハードディスクドライブの外部メモリに更新可能に格納される。通信部23は前記通信デバイスによって実現すればよい。
【0093】
また、本発明は色調整装置2を構成する機能部21,22,24としてコンピュータを機能させるプログラムの態様とすることもできる。このプログラムは既知の記録媒体(例えば、CD−ROM、DVD−ROM、CD−R、CD−RW、DVD−R、DVD−RW、MO、HDD、Blu−ray Disk(登録商標)等)に格納してまたはネットワークを通じて提供できる。
【符号の説明】
【0094】
1…映像通信システム
2…色調整装置
21…データベース、24…色変換データ生成部(色変換データ生成手段)
3…メディアシステム
31…映像入力機器、32…映像出力機器、33…音声機器、34…コーデック装置、35…接続装置、36…照明、37…映像入出力機器
i(i=1,2,3,…,n)…拠点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の他拠点と通信可能な自拠点に具備された映像出力機器から出力される映像の色情報の調整を行う色調整方法であって、
前記自拠点の色変換データ生成手段が、前記自拠点における色調整対象の映像出力機器の入出力特性と各他拠点から得られた全ての色調整対象である映像出力機器の入出力特性とから決定したマスター映像出力機器の入出力特性に基づき自拠点の映像出力機器の色変換を行うためのパラメータを色変換データとして生成するステップを有すること
を特徴とする色調整方法。
【請求項2】
前記色変換データ生成手段が、前記自拠点の照明の色情報と前記他拠点の照明の色情報とから決定したマスター照明の色情報を前記自拠点の映像出力機器の色変換を行うためのパラメータを生成するための演算に供するステップを
さらに有すること
を特徴とする請求項1に記載の色調整方法。
【請求項3】
前記色変換データ生成手段が、自拠点または前記複数の他拠点のいずれかの映像入力機器の入出力特性を取得し、この特性と自拠点の映像出力機器の入出力特性とに基づき当該映像出力機器から出力される前記映像入力機器で取得された映像の色変換を行うためのパラメータを色変換データとして生成するステップを
さらに有すること
を特徴とする請求項1または2に記載の色調整方法。
【請求項4】
前記色変換データ生成手段が、自拠点または前記複数の他拠点のいずれかの映像入力機器の入出力特性及び前記映像入力機器による映像取得時の照明光の情報を取得し、これらの情報と、予め自拠点または前記複数の他拠点間の合意によって設定された色変換後の照明光の色の情報とを、前記映像入力機器で取得された映像の色変換を行うためのパラメータを生成するための演算に供するステップを
さらに有すること
を特徴とする請求項3に記載の色調整方法。
【請求項5】
複数の他拠点と通信可能な自拠点に具備された映像出力機器から出力される映像の色情報の調整を行う色調整装置であって、
前記自拠点における色調整対象の映像出力機器の入出力特性と各他拠点から得られた全ての色調整対象である映像出力機器の入出力特性とから決定したマスター映像出力機器の入出力特性に基づき自拠点の映像出力機器の色変換を行うためのパラメータを色変換データとして生成する色変換データ生成手段を備えたこと
を特徴とする色調整装置。
【請求項6】
前記色変換データ生成手段は、前記自拠点の照明の色情報と前記他拠点の照明の色情報とから決定したマスター照明の色情報を前記自拠点の映像出力機器の色変換を行うためのパラメータを生成するための演算に供すること
を特徴とする請求項5に記載の色調整装置。
【請求項7】
前記色変換データ生成手段は、自拠点または前記複数の他拠点のいずれかの映像入力機器の入出力特性を取得し、この特性と自拠点の映像出力機器の入出力特性とに基づき当該映像出力機器から出力される前記映像入力機器で取得された映像の色変換を行うためのパラメータを色変換データとして生成すること
を特徴とする請求項5または6に記載の色調整装置。
【請求項8】
前記色変換データ生成手段は、自拠点または前記複数の他拠点のいずれかの映像入力機器の入出力特性及び前記映像入力機器による映像取得時の照明光の情報を取得し、これらの情報と、予め自拠点または前記複数の他拠点間の合意によって設定された色変換後の照明光の色の情報とを、前記映像入力機器で取得された映像の色変換を行うためのパラメータを生成するための演算に供すること
を特徴とする請求項7に記載の色調整装置。
【請求項9】
互いに通信可能な複数の拠点に具備された映像入力機器が入力した映像または映像出力機器から出力された映像を前記各拠点の映像出力機器に表示させる映像通信システムにおいて、
前記各拠点は前記映像出力機器から出力される色情報の調整を行う色調整装置を備え、
前記色調整装置は、その自拠点における色調整対象である映像出力機器の入出力特性と各他拠点から得られた全ての色調整対象の映像出力機器の入出力特性とから決定したマスター映像出力機器の入出力特性に基づき自拠点の映像出力機器の色変換を行うためのパラメータを色変換データとして生成する色変換データ生成手段を備えたこと
を特徴とする映像通信システム。
【請求項10】
請求項5から8のいずれか1項に記載の色調整装置を構成する各手段としてコンピュータを機能させることを特徴とする色調整プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−268065(P2010−268065A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−115769(P2009−115769)
【出願日】平成21年5月12日(2009.5.12)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】