説明

艶消しフィルム、これを用いた内装材及び艶消しフィルムの製造方法

【課題】樹脂組成物の製膜性と得られるフィルムの低光沢性とを維持し、かつ、このフィルムを用いた壁紙等の内装材の施工性を向上することができる艶消しフィルム、これを用いた内装材、及びこのような艶消しフィルムの製造方法の提供を目的とする。
【解決手段】本発明は、エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)、酸変性ポリオレフィン(B)及び熱可塑性エラストマー(C)を含有する樹脂組成物から成形され、上記エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)100質量部に対する酸変性ポリオレフィン(B)及び熱可塑性エラストマー(C)の合計含有量が5質量部以上100質量部以下であり、上記熱可塑性エラストマー(C)のメルトインデックスが2g/10分以上18g/10分以下である艶消しフィルムである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エチレン−ビニルアルコール共重合体を含む艶消しフィルム、これを用いた内装材、及びこの艶消しフィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エチレン−ビニルアルコール共重合体(以下、「EVOH」ともいう。)が耐薬品性、耐汚染性、可塑剤のブリード防止性等に優れていることを利用し、塩化ビニル製の壁紙等の表面にはEVOHフィルムが貼られて使用されている。このようにEVOHフィルムを壁紙の表面に用いる場合、EVOHフィルムの光沢度が高いため、EVOHフィルム表面の艶消し(低光沢度化)が要求される。このEVOHフィルム表面の艶消し方法としてはサンドブラスト法、化学薬品による表面処理法、粉末無機物質をブレンドする方法等が知られているが、これらの方法はコスト高あるいは製膜性が悪くなる等の不都合を有する。また、EVOH自体の柔軟性が高くないため、このEVOHフィルムを表面に使用した壁紙等は、特に冬場など低温環境における施工性が高いものではなく、例えば、折り曲げた際に表面に折り目がつく場合や、壁の角部への貼り付けにおいて、壁と密着せずに浮く部分が生じる場合を招来するおそれがある。
【0003】
そこで、光沢性を抑えた艶消しフィルムとして、EVOHにカルボン酸変性ポリエチレン樹脂を含有したフィルムが開発されている(例えば、特開昭64−74252号公報、特開平1−166951号公報等参照)。このカルボン酸変性ポリエチレン樹脂を含有するEVOHフィルムは、EVOHマトリックス中にカルボン酸変性ポリエチレン樹脂が分散して存在することで、表面に凹凸が形成され、光沢性の抑制を実現するものである。
【0004】
しかしながら、このカルボン酸変性ポリエチレン樹脂を含有したEVOHフィルムを表面に使用した壁紙は、低光沢性は実現されているものの、上述の施工性の不都合の改善には至っていない。そこで、この施工性の低さを改善するために、柔軟性の低いEVOHの含有率を低減させるべく、EVOHに対してカルボン酸変性ポリエチレン樹脂の含有率を増加させることが考えられる。しかし、カルボン酸変性ポリエチレン樹脂の含有率を増加させると、フィルムの製膜性が顕著に低下してしまう。つまり、カルボン酸変性ポリエチレン樹脂の含有率が高いEVOH樹脂組成物によれば、要求される薄さのフィルムを得るべく高い引き取り速度で製膜しようとするとフィルムに穴が空くことが多くなり、樹脂組成物の製膜性が低下し、フィルムの生産性が低下することとなる。
【0005】
一方、EVOHを含む成形体の柔軟性を向上させるために、柔軟な樹脂として熱可塑性エラストマーをEVOHに含有させた複合樹脂も開発されている(特開2007−9171号公報参照)。しかし、この熱可塑性エラストマー含有EVOH樹脂からフィルムを成形すると、表面の凹凸が十分に形成されず、さらには壁紙を製造する際にフィルムを基材表面に熱ラミネート加工すると、フィルム表面の凹凸がさらに平滑化され、得られる壁紙の光沢度が高くなってしまうという不都合が存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭64−74252号公報
【特許文献2】特開平1−166951号公報
【特許文献3】特開2007−9171号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、これらの不都合に鑑みてなされたものであり、樹脂組成物の製膜性と得られるフィルムの低光沢性とを維持し、かつ、このフィルムを用いた壁紙等の内装材の施工性を向上させることができる艶消しフィルム、これを用いた内装材、及びこのような艶消しフィルムの製造方法の提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するためになされた発明は、
エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)、酸変性ポリオレフィン(B)及び熱可塑性エラストマー(C)を含有する樹脂組成物から成形され、
上記エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)100質量部に対する酸変性ポリオレフィン(B)及び熱可塑性エラストマー(C)の合計含有量が5質量部以上100質量部以下であり、
上記熱可塑性エラストマー(C)のメルトインデックスが2g/10分以上18g/10分以下である艶消しフィルムである。
【0009】
当該艶消しフィルムは、成形材料である樹脂組成物が、エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)に対し、酸変性ポリオレフィン(B)に加え、特定の流動性を有する熱可塑性エラストマー(C)を上記の量含有することで、エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)以外の樹脂の含有率を高めても、樹脂組成物のフィルムへの製膜性、ひいては生産性を維持することができる。また、当該艶消しフィルムは、このように熱可塑性エラストマー(C)を含有することで、柔軟性を向上させることができ、その結果、このフィルムを壁紙等に用いた際の施工性を向上させることができる。さらに、当該艶消しフィルムは酸変性ポリオレフィン(B)と熱可塑性エラストマー(C)とを含有し、この二種類の樹脂がエチレン−ビニルアルコール共重合体(A)中に分散して島状に存在することとなるため、この島状に存在する二種類の樹脂によって表面の凹凸形成が容易になり、さらに熱ラミネート加工の際もこの凹凸の平滑化を抑制することができる。従って、当該艶消しフィルムによれば、樹脂組成物の製膜性とフィルムの低光沢性とを維持し、かつ、このフィルムを用いた壁紙等の施工性を向上させることができる。
【0010】
上記酸変性ポリオレフィン(B)に対する熱可塑性エラストマー(C)の質量比〔(C)/(B)〕としては1.5以上10以下が好ましい。当該艶消しフィルムは、酸変性ポリオレフィン(B)と熱可塑性エラストマー(C)との質量比を上記範囲とすることで、柔軟性と凹凸形成性とを共に向上させることができ、樹脂組成物の製膜性及びこのフィルムを用いた壁紙等の施工性と、フィルムの低光沢性とをより高めることができる。
【0011】
上記熱可塑性エラストマー(C)が酸変性熱可塑性エラストマーを含むとよい。当該艶消しフィルムによれば、熱可塑性エラストマー(C)が酸変性熱可塑性エラストマーを含むことで、樹脂組成物の平均酸価が高まり、樹脂組成物内での熱可塑性エラストマー(C)の分散性を高めることができ、その結果、樹脂組成物の製膜性及び凹凸形成性をさらに高めることができる。
【0012】
上記熱可塑性エラストマー(C)が酸変性エチレン−α−オレフィン共重合体とエチレン−α−オレフィン共重合体との混合物であることが好ましい。当該艶消しフィルムによれば、記熱可塑性エラストマー(C)が酸変性エチレン−α−オレフィン共重合体とエチレン−α−オレフィン共重合体との混合物であることで、所望する酸価への調整が容易となり、容易かつ効果的に熱可塑性エラストマー(C)の分散性を高めることができ、その結果、樹脂組成物の製膜性及び凹凸形成性をさらに高めることができる。
【0013】
上記酸変性エチレン−α−オレフィン共重合体がカルボン酸変性エチレン−ブテン共重合体であり、エチレン−α−オレフィン共重合体がエチレン−ブテン共重合体であることが好ましい。当該艶消しフィルムによれば、熱可塑性エラストマー(C)がカルボン酸変性エチレン−ブテン共重合体とエチレン−ブテン共重合体との混合物であることで、樹脂組成物内での熱可塑性エラストマー(C)の分散性を高めることができ、その結果、樹脂組成物の製膜性及び凹凸形成性をさらに高めることができる。
【0014】
上記酸変性ポリオレフィン(B)のメルトインデックスとしては0.01g/10分以上10g/10分以下が好ましい。当該艶消しフィルムによれば、酸変性ポリオレフィン(B)のメルトインデックスを比較的小さい上記範囲の値とすることで、製膜の際に、樹脂組成物中に分散された酸変性ポリオレフィン(B)によって効果的に表面に凹凸を形成することができ、熱ラミネート加工の際の凹凸の平滑化を更に抑制することができる。
【0015】
上記酸変性ポリオレフィン(B)が酸変性ポリエチレンであることが好ましい。当該艶消しフィルムによれば、上記酸変性ポリオレフィンを酸変性ポリエチレンとすることで樹脂組成物中の酸変性ポリオレフィンの分散性を高めることができ、その結果、樹脂組成物の製膜性及び凹凸形成性をさらに高めることができる。
【0016】
上記酸変性ポリエチレンがカルボン酸変性高密度ポリエチレンであるとよい。当該艶消しフィルムによれば、上記酸変性ポリオレフィン(B)をカルボン酸変性高密度ポリエチレンとすることで、樹脂組成物の製膜性及び凹凸形成性をさらに維持又は向上させることができる。
【0017】
上記エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)のメルトインデックスとしては0.1g/10分以上30g/10分以下が好ましい。当該艶消しフィルムによれば、エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)のメルトインデックスを比較的大きい上記範囲の値とすることで、樹脂組成物の製膜性を維持することができることに加え、製膜の際に、樹脂組成物中に分散された酸変性ポリエチレン(B)及び熱可塑性エラストマー(C)によって更に効果的に表面に凹凸を形成することができる。
【0018】
上記エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)のメルトインデックスから、熱可塑性エラストマー(C)のメルトインデックスを減じた値としては5g/10分以上が好ましい。当該艶消しフィルムによれば、熱可塑性エラストマー(C)とエチレン−ビニルアルコール共重合体(A)とのメルトインデックス差を上記のように大きくすることで、製膜の際に分散して存在する熱可塑性エラストマー(C)により、光沢性の低減に十分な大きさの凹凸を容易に表面に形成することができる。
【0019】
上記エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)のエチレン単位含有量としては35モル%以上60モル%以下が好ましい。当該艶消しフィルムによれば、エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)のエチレン単位含有量を上記のように高くすることで、柔軟性が高まり、このフィルムを壁紙等に使用した際の施工性を更に高めることができる。
【0020】
上記エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)のケン化度としては90モル%以上が好ましい。当該艶消しフィルムによれば、エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)のケン化度を90モル%以上とすることで、樹脂組成物の製膜性及びこのフィルムを壁紙等の表面に使用した際の施工性を更に高めることができる。
【0021】
上記樹脂組成物全体の質量平均酸価としては、0.1mgKOH/g以上1.5mgKOH/g以下が好ましい。当該艶消しフィルムによれば、樹脂組成物の平均酸価を上記の範囲とすることで、樹脂組成物の製膜性を更に高めることができるとともに、各成分の均一分散性を向上させることで凹凸形成性をさらに向上させ、その結果、艶消しフィルムの光沢度をさらに低減させることができる。
【0022】
当該艶消しフィルムの5℃における貯蔵弾性率としては1.6GPa以下が好ましい。当該艶消しフィルムによれば、特に冬場等の低温環境における柔軟性の低下を抑制することができ、壁紙等に用いた際の施工性を更に高めることができる。
【0023】
当該艶消しフィルムの凹凸度としては8μm以上が好ましい。当該艶消しフィルムによれば、上記の凹凸度を備えることで、光沢性を効果的に抑えることができる。
【0024】
当該艶消しフィルムを形成する上記樹脂組成物が、滑剤(D)をさらに含有することが好ましい。上記樹脂組成物に滑剤(D)を含有することで、溶融成形の際の樹脂組成物と押出機内面との摩擦を低減させることができる。従って、当該艶消しフィルムによれば、溶融成形の際のダイリップ部等に固着するメヤニ(樹脂組成物のカス)の発生を抑制することができ、生産性を高めることができる。
【0025】
上記滑剤(D)としては、高級飽和脂肪酸誘導体であることが好ましい。当該艶消しフィルムによれば、高級飽和脂肪酸骨格を有する滑剤(D)によって、押出成形時における樹脂組成物とダイリップ部等との摩擦を好適な範囲に低減させることができる。従って、当該艶消しフィルムによれば、メヤニの発生をより効率的に抑制することができる。
【0026】
上記課題を解決するためになされた別の発明は、基材と、この基材の表面に熱ラミネートにより積層される上記艶消しフィルムとを備える内装材である。当該内装材によれば、光沢性を抑えることができ、かつ、フィルムの柔軟性が高いため、施工性を高めることができる。
【0027】
当該内装材の表面の光沢度としては20%以下が好ましい。このように当該内装材は、表面に艶消しフィルムを備えるため、表面の光沢度を20%以下に抑えることで、表面光沢性の低い内装材として好適に用いることができる。
【0028】
本発明の艶消しフィルムの製造方法は、エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)、酸変性ポリオレフィン(B)及び熱可塑性エラストマー(C)を混合して樹脂組成物を得る工程と、上記樹脂組成物を成形する工程とを有し、上記エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)100質量部に対する酸変性ポリオレフィン(B)及び熱可塑性エラストマー(C)の合計含有量が5質量部以上100質量部以下であり、上記熱可塑性エラストマー(C)のメルトインデックスが2g/10分以上18g/10分以下である艶消しフィルムの製造方法である。当該製造方法は、製膜性に優れ、また、低光沢性及び優れた施工性を有する艶消しフィルムを得ることができる。
【0029】
ここで、「メルトインデックス」とは、JIS−K7210に準拠し、温度210℃、荷重2160gで測定される値である。「凹凸度」とは、測定される最大厚みと、質量及び密度から算出された理論厚みとの差である。「貯蔵弾性率」とは、JIS−K7244−4に準拠して測定される値である。「光沢度」とは、JIS−Z8741に準拠し、角度60度で測定される値である。「酸価」とは、後述の実施例に記載した方法で測定される値である。高級飽和脂肪酸誘導体における「高級」とは、炭素数6以上をいう。
【発明の効果】
【0030】
以上説明したように、当該艶消しフィルムによれば、製膜材料である樹脂組成物の高い製膜性により、生産性に優れ、また、表面に適度な凹凸を有することで低光沢性を発揮することができる。さらに、当該艶消しフィルムは、特に低温環境においても柔軟性が高いため、このフィルムを用いた壁紙等の施工性を向上させることができる。当該内装材によれば、表面の光沢を抑えることができ、また、施工性を高めることができる。また、当該艶消しフィルムの製造方法によれば、上述の性能を有する艶消しフィルムを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の実施形態を艶消しフィルム、この艶消しフィルムの製造方法及び内装材の順に詳述する。
【0032】
本発明の艶消しフィルムはエチレン−ビニルアルコール共重合体(A)、酸変性ポリオレフィン(B)及び熱可塑性エラストマー(C)を含有する樹脂組成物から成形される。なお、この樹脂組成物は好適な成分として滑剤(D)をさらに含有することが好ましく、その他の成分が含有されていてもよい。
【0033】
当該艶消しフィルムは、EVOH(A)に対し、酸変性ポリオレフィン(B)に加え、熱可塑性エラストマー(C)を含有する樹脂組成物から成形されることで、EVOH(A)以外の樹脂の含有率を高めても、樹脂組成物のフィルムへの製膜性を維持することができるため、その結果、生産性を維持することができる。また、当該艶消しフィルムは、このように熱可塑性エラストマー(C)を含有することで、柔軟性を向上させることができるため、このフィルムを壁紙等に用いた際の施工性を向上させることができる。さらには当該艶消しフィルムは、酸変性ポリオレフィン(B)と熱可塑性エラストマー(C)とを含有することで、この二種類の樹脂がEVOH(A)中に島状に分散して海島構造として存在することとなり、これらの二種類の樹脂によって表面の凹凸形成を容易にし、さらに熱ラミネート加工の際もこの凹凸の平滑化を抑制することができる。従って、当該艶消しフィルムによれば、樹脂組成物の製膜性とフィルムの低光沢性とを維持し、かつ、このフィルムを用いた壁紙等の施工性を向上させることができる。
【0034】
当該樹脂組成物において、エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)100質量部に対する酸変性ポリオレフィン(B)及び熱可塑性エラストマー(C)の合計含有量の下限としては5質量部とされており、20質量部が好ましく、30質量部がさらに好ましく、40質量部が特に好ましく、45質量部がさらに特に好ましい。一方、このエチレン−ビニルアルコール共重合体(A)100質量部に対する酸変性ポリオレフィン(B)及び熱可塑性エラストマー(C)の合計含有量の上限としては、100質量部とされており、80質量部が好ましく、60質量部がさらに好ましく、55質量部が特に好ましい。当該樹脂組成物によれば、EVOH(A)以外の酸変性ポリオレフィン(B)及び熱可塑性エラストマー(C)を上記範囲で含有していることで、EVOHの柔軟性の低さを改善することができる。すなわち、当該樹脂組成物から成形される艶消しフィルムによれば、柔軟性が向上し、この艶消しフィルムを用いた壁紙等の施工性を向上させることができる。(B)及び(C)成分の合計含有量が上記下限より小さいとこの柔軟性が十分に向上しない。逆に(B)及び(C)成分の合計含有量が上記上限を超えると、(B)及び(C)成分が(A)成分のEVOH中に均一に分散して島状に存在することが困難になり、表面に均一な凹凸が形成されにくくなったり、製膜性が低下したりする。
【0035】
<エチレンービニルアルコール共重合体(A)>
エチレンービニルアルコール共重合体(A)は、主構造単位として、エチレン単位及びビニルアルコール単位を有する。なお、このEVOHとしては、エチレン単位及びビニルアルコール単位以外に、他の構造単位を1種又は複数種含んでいてもよい。
【0036】
このEVOHは、通常、エチレンとビニルエステルとを重合し、得られるエチレン−ビニルエステル共重合体をケン化して得られる。
【0037】
EVOHのエチレン単位含有量(すなわち、EVOH中の単量体単位の総数に対するエチレン単位の数の割合)の下限としては、35モル%が好ましく、40モル%がさらに好ましい。一方、EVOHのエチレン単位含有量の上限としては、60モル%が好ましく、55モル%がさらに好ましく、50モル%が特に好ましい。EVOHのエチレン単位含有量が上記下限より小さいと、樹脂組成物の製膜性が低下するおそれや、当該艶消しフィルムの柔軟性が低下し、壁紙等に用いた際の施工性が低下するおそれや、さらにはフィルムの耐水性、耐熱水性等の性能が低下するおそれがある。逆に、EVOHのエチレン単位含有量が上記上限を超えると、当該艶消しフィルムの強度が低下するおそれや、可塑剤を含む樹脂に積層して壁紙などに使用する場合に、可塑剤のブリード防止性能が低下するおそれがある。
【0038】
EVOHのケン化度(すなわち、EVOH中のビニルアルコール単位及びビニルエステル単位の総数に対するビニルアルコール単位の数の割合)の下限としては、90モル%が好ましく、95モル%がより好ましく、99モル%が特に好ましい。一方、EVOHのケン化度の上限としては99.99モル%が好ましい。EVOHのケン化度が上記下限より小さいと、樹脂組成物の製膜性が低下するおそれや、可塑剤を含む樹脂に積層して壁紙などに使用する場合に、可塑剤のブリード防止性能が低下するおそれがある。逆に、EVOHのケン化度が上記上限を超えると、EVOHの製造コストが増加する反面、製膜性、凹凸形成性、柔軟性等の上昇もそれほど期待できない。
【0039】
EVOHのメルトインデックスの下限としては、0.1g/10分が好ましく、0.5g/10分がさらに好ましく、1g/10分が特に好ましく、5g/10分がさらに特に好ましく、6g/10分がさらに好ましく、8g/10分がさらに特に好ましく、10g/10分がさらに特に好ましい。一方、EVOHのメルトインデックスの上限としては30g/10分が好ましく、25g/10分がさらに好ましく、20g/10分が特に好ましく、15g/10分がさらに特に好ましい。当該艶消しフィルムによればEVOHのメルトインデックスを比較的大きい上記範囲の値とすることで、樹脂組成物の製膜性を維持することができることに加え、製膜の際に、樹脂組成物中に分散された酸変性ポリエチレン(B)及び熱可塑性エラストマー(C)によって更に効果的に表面に凹凸を形成することができる。EVOHのメルトインデックスが上記下限より小さいと、薄いフィルムの成形が困難になり樹脂組成物の製膜性が低下するとともに、(B)及び(C)成分との溶融粘度の差を付けにくくなるため、表面への凹凸形成性が低下する。逆に、EVOHのメルトインデックスが上記上限を超えると、フィルムの耐薬品性や、壁紙等として用いた際の可塑剤のブリード防止性等が低下するおそれがある。
【0040】
次に、EVOHの製造方法を具体的に説明する。エチレンとビニルエステルとの共重合方法としては、特に限定されず、例えば溶液重合、懸濁重合、乳化重合、バルク重合のいずれであってもよい。また、連続式、回分式のいずれであってもよい。
【0041】
重合に用いられるビニルエステルとしては、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニルなどの脂肪酸ビニルなどを好適に用いることができる。
【0042】
上記重合において、共重合成分として、上記成分以外にも共重合し得る単量体、例えば上記以外のアルケン;アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、イタコン酸等の不飽和酸又はその無水物、塩、又はモノ若しくはジアルキルエステル等;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のニトリル;アクリルアミド、メタクリルアミド等のアミド;ビニルスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸等のオレフィンスルホン酸又はその塩;アルキルビニルエーテル類、ビニルケトン、N−ビニルピロリドン、塩化ビニル、塩化ビニリデンなどを少量共重合させることもできる。また、共重合成分として、ビニルシラン化合物を0.0002モル%以上0.2モル%以下含有することができる。ここで、ビニルシラン化合物としては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリ(β−メトキシ−エトキシ)シラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルメトキシシランなどが挙げられる。この中で、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシランが好適に用いられる。
【0043】
重合に用いられる溶媒としては、エチレン、ビニルエステル及びエチレン−ビニルエステル共重合体を溶解し得る有機溶剤であれば特に限定されない。そのような溶媒として、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、n−ブタノール、tert−ブタノール等のアルコール;ジメチルスルホキシドなどを用いることができる。その中で、反応後の除去分離が容易である点で、メタノールが特に好ましい。
【0044】
重合に用いられる触媒としては、例えば2,2−アゾビスイソブチロニトリル、2,2−アゾビス−(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2−アゾビス−(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2−アゾビス−(2−シクロプロピルプロピオニトリル)等のアゾニトリル系開始剤;イソブチリルパーオキサイド、クミルパーオキシネオデカノエイト、ジイソプロピルパーオキシカーボネート、ジ−n−プロピルパーオキシジカーボネート、t−ブチルパーオキシネオデカノエイト、ラウロイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド等の有機過酸化物系開始剤などを用いることができる。
【0045】
重合温度としては、好ましくは20〜90℃であり、より好ましくは40〜70℃である。重合時間としては、好ましくは2〜15時間であり、より好ましくは3〜11時間である。重合率は、仕込みのビニルエステルに対して好ましくは10〜90質量%であり、より好ましくは30〜80%である。重合後の溶液中の樹脂分は、好ましくは5〜85%であり、より好ましくは20〜70%である。
【0046】
所定時間の重合後又は所定の重合率に達した後、必要に応じて重合禁止剤を添加し、未反応のエチレンガスを蒸発除去した後、未反応のビニルエステルを除去する。未反応のビニルエステルを除去する方法としては、例えば、ラシヒリングを充填した塔の上部から上記共重合体溶液を一定速度で連続的に供給し、塔下部よりメタノール等の有機溶剤蒸気を吹き込み、塔頂部よりメタノール等の有機溶剤と未反応ビニルエステルの混合蒸気を留出させ、塔底部より未反応のビニルエステルを除去した共重合体溶液を取り出す方法などが採用される。
【0047】
次に、上記共重合体溶液にアルカリ触媒を添加し、上記共重合体をケン化する。ケン化方法は、連続式、回分式のいずれも可能である。このアルカリ触媒としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アルカリ金属アルコラートなどが用いられる。
【0048】
ケン化の条件としては、例えば回分式の場合、共重合体溶液濃度が10〜50%、反応温度が30〜65℃、触媒使用量がビニルエステル構造単位1モル当たり0.02〜1.0モル、ケン化時間が1〜6時間である。
【0049】
ケン化反応後のEVOHは、アルカリ触媒、酢酸ナトリウムや酢酸カリウムなどの副生塩類、その他不純物を含有するため、これらを必要に応じて中和、洗浄することにより除去することが好ましい。ここで、ケン化反応後のEVOHを、イオン交換水等の金属イオン、塩化物イオン等をほとんど含まない水で洗浄する際、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム等を一部残存させてもよい。
【0050】
<酸変性ポリオレフィン(B)>
酸変性ポリオレフィン(B)は、カルボキシル基又はその無水物基、スルホン酸基等の酸性基を有するポリオレフィンをいう。この酸変性ポリオレフィン(B)としては、ポリオレフィンに、(無水)イタコン酸、(無水)マレイン酸等のα,β−不飽和カルボン酸及び/又はその無水物をグラフト重合又は付加させたカルボン酸変性ポリオレフィン等があげられる。上記カルボン酸変性ポリオレフィンを得るためのポリオレフィンは、エチレン又は炭素数が3以上のα−オレフィンを主成分としたモノマーを重合して得られる単独重合体であるポリα−オレフィンが好ましい。このポリα−オレフィンとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ1−ブテンが好ましく、中でもポリエチレンが最も好ましい。なお、このポリα−オレフィンは、本発明の目的及び効果を妨げない限りにおいて、オレフィン系単量体等の他のモノマーを微量の構成成分として含んでいてもよい。
【0051】
この酸変性ポリオレフィンとしては、上述の通り酸変性ポリエチレンが好ましく、高密度ポリエチレンをカルボン酸で変性させたカルボン酸変性高密度ポリエチレンであることがより好ましい。(B)成分としてカルボン酸変性高密度ポリエチレンを用いることで、当該樹脂組成物における海島構造をとりやすくなり、加えて、所望する下記の好適なメルトインデックスに調整しやすくなる。従ってカルボン酸変性高密度ポリエチレンを(B)成分として含有する艶消しフィルムによれば、樹脂組成物の製膜性を向上させ、また、凹凸形成性を向上させることができる。さらには、艶消しフィルムは、耐薬品性、可塑剤のブリード防止性を高めることができる。
【0052】
この酸変性ポリオレフィン(B)としては、エラスティックな性質を有さない、すなわち常温でゴム状弾性を有さないプラストマーであることが好ましい。このように(B)成分としてエラスティックな性質を有さない酸変性ポリオレフィンを用いることで、製膜の際に効率的に表面に十分な大きさの凹凸を形成することができ、加えて、熱ラミネート加工の際にも、この凹凸の平滑化をさらに抑制することができる。
【0053】
上記酸変性ポリオレフィンの酸価の下限としては、0.5mgKOH/gが好ましく、1mgKOH/gがさらに好ましく、1.5mgKOH/gが特に好ましい。一方この酸価の上限としては、5mgKOH/gが好ましく、4mgKOH/gがさらに好ましく、3mgKOH/gが特に好ましい。酸変性ポリオレフィンの酸価が上記下限より小さいとEVOHとの混合に際して分散性が悪くなり、フィルムの艶消し機能が十分に発揮されない。逆に、この酸価が上記上限を超えると、樹脂組成物の溶融粘度が高くなり、製膜性が低下するおそれがある。
【0054】
酸変性ポリオレフィン(B)のメルトインデックスの下限としては、0.01g/10分が好ましく、0.1g/10分がさらに好ましく、0.3g/10分が特に好ましい。一方、酸変性ポリオレフィン(B)のメルトインデックスの上限としては、10g/10分が好ましく、5g/10分がさらに好ましく、2g/10分が特に好ましい。酸変性ポリオレフィン(B)のメルトインデックスを比較的小さい上記範囲の値とすることで、製膜の際に、樹脂組成物中に分散された酸変性ポリスチレン(B)により効果的に表面に凹凸を形成することができ、熱ラミネート加工の際の凹凸の平滑化を更に抑制することができる。酸変性ポリオレフィン(B)のメルトインデックスが上記下限より小さいと、樹脂組成物中に均一に酸変性ポリオレフィン(B)が分散されにくくなり、製膜性が低下するおそれがある。逆に、このメルトインデックスが上記上限を超えると、フィルム表面の凹凸形成性が低下し、又、熱ラミネート加工の際の凹凸の平坦化の抑制作用が低下し、その結果、光沢性が低減されないおそれがある。
【0055】
当該酸変性ポリオレフィン(B)の製造方法としては、特に限定されず、公知の方法を用いることができる。例えば、オレフィンと不飽和カルボン酸をモノマーとして公知の方法で共重合させる、又はポリオレフィンにα,β−不飽和カルボン酸を公知の方法で側鎖に導入させることにより、酸変性ポリオレフィン(B)を得ることができる。
【0056】
<熱可塑性エラストマー(C)>
熱可塑性エラストマーとは、加熱することにより流動性を有し、常温ではゴム状弾性を有する樹脂である。なお、本発明において、酸変性ポリオレフィン(B)は、上記条件を満たす場合も熱可塑性エラストマーには含まれない。
【0057】
熱可塑性エラストマー(C)のメルトインデックスの下限としては、2g/10分とされており、3g/10分が好ましく、3.5g/10分がさらに好ましい。一方、熱可塑性エラストマー(C)のメルトインデックスの上限としては、18g/10分とされており、10g/10分が好ましく、6g/10分がさらに好ましく、5g/10分が特に好ましく、4.5g/10分がさらに特に好ましい。当該艶消しフィルムは、上記範囲のメルトインデックスを有する熱可塑性エラストマー(C)を含有することで、柔軟性が向上し、この結果、このフィルムを壁紙等に用いた際の施工性を向上させることができる。熱可塑性エラストマー(C)のメルトインデックスが上記下限より小さいと、樹脂組成物の製膜性が不十分なものとなり、薄いフィルムの製膜が困難となる。逆にこのメルトインデックスが上記上限を超えると凹凸形成性が低下し、低光沢性が達成されない場合がある。
【0058】
エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)のメルトインデックスから、熱可塑性エラストマー(C)のメルトインデックスを減じた値としては5g/10分以上が好ましく、7g/10分以上がさらに好ましく、7.5g/10分以上が特に好ましい。なお、このときのエチレン−ビニルアルコール共重合体(A)のメルトインデックスは5g/10分以上である。このように当該樹脂組成物において、EVOH(A)のメルトインデックスに対して、一定以上の低さのメルトインデックスの値を有する熱可塑性エラストマー(C)を含有させることで、製膜の際に熱可塑性エラストマー(C)によって、十分な大きさの凹凸を容易に形成することができ、得られる艶消しフィルムの更なる低光沢度化が実現できる。一方、上記エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)のメルトインデックスから、熱可塑性エラストマー(C)のメルトインデックスを減じた値の上限としては、特に限定されないが、生産性や材料の入手可能性等を考慮して、20g/10分が好ましい。なお、熱可塑性エラストマー(C)が複数の熱可塑性エラストマーの混合物である場合はこの熱可塑性エラストマー(C)のメルトインデックスとは、各熱可塑性エラストマーのメルトインデックスの質量平均とする。
【0059】
この熱可塑性エラストマー(C)としては、上述の熱可塑性エラストマーの定義を満たせば特に限定されず、ウレタン系、ポリアミド系、ポリエステル系、ポリオレフィン系などの熱可塑性エラストマーが挙げられ、樹脂組成物の製膜性、凹凸形成性等の点からポリオレフィン系の熱可塑性エラストマーが好ましい。
【0060】
ポリオレフィン系の熱可塑性エラストマーとしては、エチレン、プロピレン、1−ブテン、2−ブテン、iso−ブテン、1,3−ブタジエン等のオレフィン系単量体の重合体又は2種以上のオレフィン系単量体の共重合体、オレフィン系単量体と他の単量体との共重合体及びそれらの変性物が挙げられる。これらのオレフィン系単量体の重合体としては1,2−ポリブタジエン等が挙げられ、共重合体の例としてはエチレン−プロピレン共重合体、エチレン−ブテン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体等が挙げられる。これらの変性物の例としては、エチレン−メタクリル酸共重合体のイオン架橋物、塩素化ポリエチレン等が挙げられる。これらの熱可塑性エラストマーは、単独又は2種以上を混合して用いることができる。
【0061】
熱可塑性エラストマー(C)は、酸変性熱可塑性エラストマーを含むとよい。酸変性熱可塑性エラストマーとは、カルボキシル基又はその無水物基やスルホン酸基等の酸性基を有する熱可塑性エラストマーをいう。この酸変性熱可塑性エラストマーとしては、例えば(無水)イタコン酸、(無水)マレイン酸等のα,β−不飽和カルボン酸等により酸変性された酸変性熱可塑性エラストマーが挙げられる。このように酸変性熱可塑性エラストマーを用いることで、樹脂組成物内での熱可塑性エラストマー(C)の分散性を高めることができ、また、所望する好適なメルトインデックスに調整しやすくなる。従って、このような熱可塑性エラストマー(C)を有する艶消しフィルムは、樹脂組成物の製膜性及び凹凸形成性がさらに高まり、更なる低光沢度化が達成できる。また、酸変性熱可塑性エラストマーを含むことで、EVOH(A)と熱可塑性エラストマー(C)との相溶性が向上するため、溶融成形の際(C)成分が完全に分離することを抑制し、押出成形時における(C)成分がダイリップ部等に固着して生じるメヤニの発生を低減させることができる。なお、押出成形の際のメヤニ発生を低減させること等のために、熱可塑性エラストマー(C)において酸変性熱可塑性エラストマーのみを用いることもできる。
【0062】
この熱可塑性エラストマー(C)としては、酸変性エチレン−α−オレフィン共重合体と、エチレン−α−オレフィン共重合体との混合物が好ましく、具体的には、カルボン酸変性エチレン−ブテン共重合体と、エチレン−ブテン共重合体との混合物が好ましい。このカルボン酸変性エチレン−ブテン共重合体としては、無水マレイン酸変性エチレン−ブテン共重合体が特に好ましい。このような熱可塑性エラストマーを用いることで、熱可塑性エラストマー(C)のメルトインデックスや、樹脂組成物全体の平均の酸価を容易かつ好適に調整することができ、樹脂組成物の製膜性、凹凸形成性及び壁紙等として用いる際の施工性を向上させることができる。なお、ここでα−オレフィンとは、炭素数が3以上のα−オレフィンをいう。
【0063】
この酸変性熱可塑性エラストマーの酸価の下限としては1mgKOH/gが好ましく、2mgKOH/gがさらに好ましく、4mgKOH/gが特に好ましい。一方、この酸価の上限としては20mgKOH/gが好ましく、15mgKOH/gがさらに好ましく、10mgKOH/gが特に好ましい。酸変性熱可塑性エラストマーの酸価が上記下限より小さいとEVOHとの混合に際して分散性が悪くなり、フィルムの艶消し機能が十分に発揮されない。逆に、この酸価が上記上限を超えると、樹脂組成物の溶融粘度が高くなり、製膜性が低下するおそれがある。
【0064】
熱可塑性エラストマー(C)の酸変性ポリオレフィン(B)に対する質量比〔(C)/(B)〕の下限としては、1.5が好ましく、2がさらに好ましい。一方、この質量比〔(C)/(B)〕の上限としては、10が好ましく、8がさらに好ましく、7が特に好ましい。この質量比〔(C)/(B)〕が上記下限より小さいと、艶消しフィルムの柔軟性の向上が現れにくく、このフィルムを用いた壁紙等の施工性が向上しないおそれがある。逆にこの質量比〔(C)/(B)〕が上記上限を超えると、フィルム表面の凹凸が十分に形成されず、さらにはこのフィルムを用いて壁紙等を製造する際の熱ラミネートにおいて表面の凹凸が平坦化されやすく、得られる壁紙等の光沢度が低減できないおそれがある。
【0065】
上記熱可塑性エラストマー(C)の製造方法としては、特に限定されず、公知の方法を用いることができる。例えば、エチレン−ブテン共重合体は、エチレンとブテンをモノマーとして公知の方法で共重合させることで得ることができる。また、カルボン酸変性エチレン−ブテン共重合体は、例えば、エチレンとブテンと不飽和カルボン酸をモノマーとして公知の方法で共重合させる、又はエチレン−ブテン共重合体に無水マレイン酸等の不飽和カルボン酸を公知の方法で側鎖に導入させることで得ることができる。
【0066】
<滑剤(D)>
滑剤(D)は、樹脂組成物に含有されることで、溶融成形の際の押出機内面と樹脂組成物との摩擦を低減させることができる。従って、滑剤(D)が含有された樹脂組成物からえられる艶消しフィルムによれば、溶融成形の際のダイリップ部等に(C)成分等が固着すること等によって生じるメヤニ(樹脂組成物のカス)の発生を抑制することができ、その結果、生産性を高めることができる。
【0067】
滑剤(D)の含有量としては、特に限定されないが、EVOH(A)、酸変性ポリオレフィン(B)及び熱可塑性エラストマー(C)の総量100質量部に対して、0.001質量部以上5質量部以下が好ましく、0.01質量部以上1質量部以下がより好ましく、0.03質量部以上0.3質量部以下がさらに好ましい。滑剤(D)の含有量が上記下限より小さいと、樹脂組成物の摩擦低下能を十分に発揮することができず、メヤニの発生抑制が達成されないおそれがある。逆に、滑剤(D)の含有量が上記上限を超えると、樹脂組成物と成型器内面との摩擦が低下しすぎるため、押し出しによるフィルム成形が困難になるおそれがある。
【0068】
この滑剤(D)としては、一般的に滑剤として使用されるものであれば特に限定されるものではなく、例えば、高級脂肪酸アミド、高級脂肪酸金属塩、高級脂肪酸エステル、低分子量ポリオレフィン(例えば分子量500〜10,000程度の低分子量ポリエチレン、低分子量ポリプロピレン等)等を挙げることができる。
【0069】
高級脂肪酸アミドとしては、ステアリン酸アミド、パルミチン酸アミド、ラウリン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、メチレンビスステアリン酸アミド等の高級飽和脂肪酸アミド、オレイン酸アミド、エルカ酸アミド等の高級不飽和脂肪酸アミドなどを挙げることができる。
【0070】
高級脂肪酸金属塩としては、ステアリン酸、パルミチン酸、ラウリン酸、モンタン酸、ベヘン酸等の高級飽和脂肪酸や、オレイン酸、エルカ酸等の高級不飽和脂肪酸のカルシウム塩や亜鉛塩を挙げることができる。
【0071】
高級脂肪酸エステルとしては、ラウリン酸エチル、ミリスチン酸イソプロピル等の高級不飽和脂肪酸エステル、オレイン酸エチル、エルカ酸エチル等の高級不飽和脂肪酸エステル等を挙げることができる。
【0072】
これらの滑剤(D)の中でも高級飽和脂肪酸誘導体(高級飽和脂肪酸アミド、高級飽和脂肪酸金属塩、高級飽和脂肪酸エステル等)が好ましい。このような高級飽和脂肪酸骨格を有する滑剤(D)は、押出成形時における樹脂組成物とのダイリップ部等との摩擦を好適な範囲に低減させることができる。従って、当該艶消しフィルムによれば、メヤニの発生をより効率的に抑制することを可能とする。なお、滑剤(D)として高級飽和脂肪酸骨格を有するものが上記作用を奏する理由は定かではないが、このような滑剤は熱による変性が生じにくいこと、EVOH(A)及び熱可塑性エラストマー(C)双方との親和性に優れ、その結果熱可塑性エラストマー(C)の樹脂組成物中の溶解性を高め、(C)成分の完全分離を防止する効果があることなどが考えられる。
【0073】
ここで「高級飽和脂肪酸誘導体」とは炭素数6以上の飽和脂肪酸誘導体をいうが、炭素数10以上の飽和脂肪酸誘導体がさらに好ましい。一方、炭素数の上限として、炭素数30以下の高級飽和脂肪酸誘導体が好ましく、炭素数25以下の高級飽和脂肪酸誘導体がさらに好ましい。炭素数を上記範囲とすることによって、(C)成分の分散性と溶解性とを好ましい範囲で両立させることができると考えられる。
【0074】
上記高級飽和脂肪酸誘導体の中でも、メヤニ発生の抑制効果や取扱い容易性等の観点から、エチレンビスステアリン酸アミド並びに炭素数17〜28の高級飽和脂肪酸のカルシウム塩及び亜鉛塩が滑剤(D)として特に好適に用いられる。
【0075】
なお、滑剤(D)の添加の際の形態としては、特に限定されず、例えば、粉末状、溶液状、分散液状などいずれであってもよい。
【0076】
<その他の添加剤>
本発明の艶消しフィルムを形成する樹脂組成物は、上記成分の他、本発明の目的が阻害されない範囲で他の添加剤を含有されてもよい。このような添加剤の例としては抗菌剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤などを挙げることができる。
【0077】
上記抗菌剤は艶消しフィルム表面を微生物による汚染から保護し、耐汚染性を向上させるものである。当該抗菌剤としては、公知のものを用いることができるが、艶消しフィルムを壁紙等に使用する場合、その使用期間中に一定の抗菌性能を維持させるために、銀原子、銅原子及び亜鉛原子のいずれかを抗菌成分として保有する無機系抗菌剤が好ましい。なかでも、銀イオンを抗菌成分として有する抗菌剤が、抗菌性の強さ及び安全性の点から最も好ましい。このような抗菌剤としては、銀イオンをヒドロキシアパタイト、チタン酸カリウム、水溶性ガラス、酸化チタン、ゼオライト等に担持させたものが挙げられる。この中でも、EVOH(A)との相溶性に優れ、優れた抗菌性を示すことから、銀担持酸化チタンや、銀担持ゼオライトが特に好ましい。当該抗菌剤の含有量としては特に限定されないが、艶消しフィルムの総質量に対して0.01質量%以上10質量%以下の範囲が適当である。
【0078】
<樹脂組成物>
本発明の艶消しフィルムを形成する樹脂組成物は、この樹脂組成物全体の質量平均酸価を調整し、酸変性ポリオレフィン(B)及び熱可塑性エラストマー(C)のEVOH(A)中での均一分散性を向上させることで凹凸形成性をさらに向上させ、その結果、艶消しフィルムの光沢度をさらに低減させることができる。この質量平均酸価の下限としては0.1mgKOH/gが好ましく、0.3mgKOH/gがさらに好ましく、0.5mgKOH/gが特に好ましい。一方、この平均酸価の上限としては、1.5mgKOH/gが好ましく、1.3mgKOH/gがさらに好ましく、1mgKOH/gが特に好ましい。平均酸価が上記下限より小さいと、酸変性ポリオレフィン(B)及び熱可塑性エラストマー(C)の均一分散性が不十分で、凹凸形成性が低下し、その結果、低光沢度化がされにくくなる。逆に、この平均酸価が上記上限を超えると、製膜の際に凹凸が粗くなるおそれや製膜性が低下するおそれがある。
【0079】
<艶消しフィルム>
本発明の艶消しフィルムは、単層又は多層構造のいずれでもよい。当該艶消しフィルムの厚み(最大厚み)としては、特に限定されないが、下限としては10μmが好ましく、12μmがさらに好ましい。また、この上限としては、50μmが好ましく、40μmがさらに好ましく、30μmが特に好ましい。厚みが上記下限より小さい場合の製膜は困難な場合がある。逆に、厚みが上記上限を超えると、壁紙等に使用した際の施工性が低下するおそれがある。
【0080】
なお、この艶消しフィルムの厚み(最大厚み:L1)は、20cm×20cmのフィルムをサンプリングし、5cmの間隔で3×3の計9箇所において厚さ測定器にて最大厚みを測定した値の平均値とする。
【0081】
本発明の艶消しフィルムの凹凸度の下限としては、8μmが好ましく、9μmがさらに好ましく、10μmが特に好ましい。一方、この凹凸度の上限としては、特に限定されないが、20μmが好ましく、15μmがさらに好ましい。当該艶消しフィルムの凹凸度が上記下限より小さいと、光沢度が高くなり、艶消しフィルムとしての機能が不十分なものとなる。一方、この凹凸度が上記上限を超えると、フィルムに穴が空きやすくなり、製膜性が低下し、施工性も低下することとなる。
【0082】
なお、この凹凸度は、測定された最大厚み(L1)と、質量及び密度から算出された理論厚み(L2)との差であり、以下の方法で求めることができる。上記20cm×20cmのサンプリングフィルムの質量を測定し、また、このサンプリングフィルムの密度をトルエン、四塩化炭素混合溶液を使用し、浮力法にて密度を測定する。この質量と、密度からフィルムの理論厚み(L2)を算出する。凹凸度は、この差((L1)−(L2))として算出した値である。
【0083】
本発明の艶消しフィルムの5℃における貯蔵弾性率としては、1.6GPa以下が好ましく、1.4GPa以下がさらに好ましく、1.35GPa以下が特に好ましい。当該艶消しフィルムは、このような5℃における低い貯蔵弾性率を有することによって、特に冬場等低温環境における柔軟性の低下を抑制することができ、壁紙等に用いた際の施工性を更に高めることができる。一方、この5℃における貯蔵弾性率の下限としては、製膜性などの生産性の面から0.6GPa以上が好ましく、1GPa以上がさらに好ましい。
【0084】
本発明の艶消しフィルムのヘイズ(全ヘイズ)としては、60%以上が好ましく、70%以上がさらに好ましく、74%以上が特に好ましい。当該艶消しフィルムは、このように高いヘイズ値を備えることで、効果的な低光沢性が達成できる。なお、このヘイズの上限としては、特に限定されないが、例えば、現実的な生産性などの面から、90%以下が好ましい。
【0085】
本発明の艶消しフィルムの内部ヘイズとしては、15%以上が好ましく、20%以上がさらに好ましく、25%以上が特に好ましい。この艶消しフィルムの内部構造に由来するヘイズ(内部ヘイズ)は熱ラミネート加工において、影響をほとんど受けにくい。したがって、このように高い内部ヘイズを有する当該艶消しフィルムによれば、熱ラミネート加工によって壁紙等表面に使用した際にも、光沢度を低減することができる。一方、この内部ヘイズの上限としては特に限定されないが、現実的な生産性などの面から、例えば50%以下が好ましい。なお、この「内部ヘイズ」値は、当該艶消しフィルムの両面にシリコンオイルを厚み約2μm塗布し、表面の微細凹凸を埋めて平滑にした後に測定したヘイズ値である。
【0086】
本発明の艶消しフィルムの光沢度としては、15%以下が好ましく、10%以下がさらに好ましく、8%以下が特に好ましい。当該艶消しフィルムは、このように低い光沢度を有しているため、壁紙等の内装材として好適に用いることができる。一方、本発明の艶消しフィルムの光沢度の下限としては、特に限定されないが、現実的な生産性などの面から3%以上が好ましい。
【0087】
<艶消しフィルムの製造方法>
当該艶消しフィルムは、上記各成分を混合して樹脂組成物を得る工程と、上記樹脂組成物を成形(製膜)する工程とを有する製造方法で得ることができる。
【0088】
この各樹脂等成分の混合(ブレンド)方法としては、公知の方法を用いることができ、例えば、単軸又は二軸スクリュー押出機による溶融ブレンドなどの方法が挙げられる。このブレンドされた樹脂組成物は、そのまま製膜してもよいが、一度ペレット化した後、製膜することが好ましい。ペレット化せずにそのまま製膜した場合、樹脂組成物における(B)及び(C)成分の分散性が悪く、目的とする艶消しフィルムが得られないおそれがある。
【0089】
本発明の艶消しフィルムは、上記ブレンドされた樹脂組成物を、通常のTダイ法等の溶融押出成形法によって製膜され、得ることができる。当該艶消しフィルムは、溶融樹脂が押し出された際に、各樹脂成分のメルトインデックスの差異によって、分散して存在しメルトインデックスが比較的小さい(B)及び(C)成分が表面に浮き出て、表面に微細な凹凸を形成することができる。当該フィルムの成形においては、延伸されていても無延伸であってもよい。通常、艶消しフィルムは無延伸で製膜されるが、無延伸である場合も、押し出される際の各樹脂成分の流動性の差異により、上述のように、フィルム表面に微細な凹凸が形成される。
【0090】
なお、Tダイ法により当該フィルムを得る場合においては、押し出された溶融樹脂を急冷することが好ましい。徐冷した場合は、表面の凹凸が十分に形成されず、光沢度が大きくなるおそれがある。ここで急冷とは、ダイのエアギャップをできるだけ小さくし、かつエアスリット又は静電印加によりキャストロールで急速に冷却することをいう。
【0091】
<内装材>
本発明の内装材は、基材と、この基材の表面に熱ラミネートにより積層される上記の艶消しフィルムとを備えるものである。なお、内装材とは、建築物の内部の装飾に用いられる材料であり、壁紙、化粧板、装飾材などが挙げられる。これらの内装材のうち、本発明の艶消しフィルムの高い柔軟性を効果的に活用することができるものとして、壁紙が好適に用いられる。
【0092】
壁紙における基材としては、代表的には可塑剤含有軟質ポリ塩化ビニルフィルム又はシートがあげられる。上記の軟質ポリ塩化ビニルに含有される可塑剤としては、常温(20℃)で液状を示す可塑剤と、常温で固体である可塑剤とに大別することができる。前者については、例えばジブチルフタレート、ジ(2ーエチルヘキシル)フタレート、ジイソオクチルフタレート、ジデシルフタレート、ジノニルフタレート、ジラウリルフタレート、ブチルラウリルフタレート、ブチルベンジルフタレートなどのフタレート系可塑剤、トリクレジルホスフエート、トリブチルホスフエート、トリー2ーエチルヘキシルホスフエートなどのホスフエート系、塩素化パラフィンなどの含塩素系の可塑剤等が挙げられる。一方、後者については、例えば、ジシクロヘキシルフタレート、アルコールの炭素数13以上のフタル酸ジエステル等のフタレート系可塑剤などが挙げられる。
【0093】
当該可塑剤の添加量としては、基材全質量に対し、20質量%以上75質量%以下が好ましく、25質量%以上55質量%以下が好ましい。可塑剤の添加量が20質量%より小さいと基材の柔軟性が低下し、その結果、壁紙の施工性が低下する。一方、可塑剤の添加量が75質量%を超えると、基材の強度等の物理的特性の低下をきたし好ましくない。
【0094】
当該内装材は、上記のとおりの表面に凹凸が形成された艶消しフィルムを備えるため、熱ラミネートして形成しても、高い艶消し機能を有している。当該内装材の光沢度としては、20%以下が好ましく、15%以下がさらに好ましい。当該内装材は、このように低光沢度を有しているため、各用途の内装材として、好適に用いることができる。一方、当該内装材の光沢度の下限としては特に限定されないが、現実的な生産性等を考慮すると5%以上が好ましい。
【0095】
さらに当該内装材、特に壁紙は、低温環境においても柔軟性の高い艶消しフィルムを備えているため、折った際にも表面のフィルムに折り目がつきにくく、又、壁の角部への貼り付けにおいて壁と密着せずに浮く部分が生じにくいなど、高い施工性を有している。
【実施例】
【0096】
以下、実施例に基づいて本発明を詳述するが、この実施例の記載に基づいて本発明が限定的に解釈されるものではない。
【0097】
[実施例1]
(A)成分として、エチレン単位含有量が44モル%、ケン化度が99.97%、メルトインデックス(210℃、荷重2160g)が12g/10分、酸価が0mgKOH/gのEVOHペレット100質量部と、
(B)成分として、メルトインデックス(210℃、荷重2160g)が0.5g/10分、酸価が2.2mgKOH/gの無水マレイン酸変性高密度ポリエチレンペレット6質量部と、
(C)成分として、メルトインデックス(210℃、荷重2160g)が2.9g/10分、酸価が5.6mgKOH/gの無水マレイン酸変性エチレン−ブテン共重合体(C1−a)ペレット17質量部、及びメルトインデックス(210℃、荷重2160g)が5.1g/10分、酸価が0mgKOH/gのエチレン−ブテン共重合体(C2−a)ペレット26質量部とを計量し、タンブラー(容量120L)により、10分間運転し一括混合した。一括混合した原料を直径40mm、L/D=22、1軸フルフライト先端マドック付きスクリュー、ストランドダイ:3mmφ×2本取で、成形温度215℃、スクリュー回転数25rpm、吐出量8kg/hrの条件で押出し、ストランドを冷却水槽中で冷却しながらペレタイザーでカッティングし円柱形状のブレンドペレットを得た。なお、(C)成分の平均のメルトインデックスは4.2g/10分である。また、各樹脂の酸価は、以下の方法で算出したものである。このブレンドペレットをTダイ押出機(株式会社東洋精機製作所製20mm押出機D2020(D(mm)=20、L/D=20、圧縮比=2.0、スクリュー:フルフライト浅溝タイプ、ダイス:コートハンガー300mm幅ダイ、スクリーン:50/100/50Mesh))で、押出温度:供給部/圧縮部/計量部/ダイ=170/210/225/215℃、スクリュー回転数75rpm、吐出量1.9kg/hrの条件でフィルムに製膜した。この際、引き取り速度を調整し、製膜可能な最薄フィルムとして、製膜可能な最大の引き取り速度で製膜し、厚み(最大厚み)12.4μmの艶消しフィルムを得た。
【0098】
精秤した試料400mgにキシレン80mLを加え、130℃で加熱撹拌して均一な溶液とし、0.05M水酸化カリウムエタノール溶液で中和滴定した。中和までに要した0.05M水酸化カリウムエタノール溶液の量から、下記式(1)に従い各樹脂の酸価A(mgKOH/g)を算出した。
A=56.1×0.05×B×C/D ・・・(1)
A:酸価(KOHmg/g)
B:0.05M水酸化カリウムエタノール溶液の使用量(mL)
C:0.05M水酸化カリウムエタノール溶液の濃度補正値
D:試料質量(g)
【0099】
[実施例2〜5、比較例1〜7]
表1に記載されているとおりのペレットの種類及び量でブレンドした以外は、実施例1と同様にして、これらの実施例及び比較例に係る艶消しフィルムを得た。なお、表1中の無水マレイン酸変性エチレン−ブテン共重合体(C1−b)は、メルトインデックス(210℃、荷重2160g)が0.3g/10分、酸価が9.2mgKOH/gのものである。また、エチレン−ブテン共重合体(C2−b)は、メルトインデックス(210℃、荷重2160g)が23.7g/10分、酸価が0mgKOH/gのものである。
【0100】
<評価>
実施例1〜5及び比較例1〜4で得られた艶消しフィルムの各特性は、以下記載の方法に従って評価した。なお、比較例5〜7においては製膜することができなかった。これらの評価結果を、樹脂組成物の成分割合、物性等とともに表1に示す。
【0101】
(1)製膜可能な最薄フィルムの厚み
引き取り速度を調整し、製膜可能な最薄フィルムとして、製膜可能な最大の引き取り速度で製膜した際のフィルムを20cm×20cmのサイズでサンプリングした。このサンプリングフィルムの厚み(最大厚み)を、厚さ測定器(Saginomiya社製DIAL INDICATOR MODERU LCM−0101)で9箇所測定した値の平均値(L1)を算出した。
【0102】
(2)凹凸度
上記サンプリングフィルムの密度をトルエン四塩化炭素混合溶液を使用し、浮力法にて密度を測定し、この質量と、密度からフィルムの理論厚み(L2)を算出した。実測の厚みと理論厚みとの差((L1)−(L2))を算出し、凹凸度とした。
【0103】
(3)熱ラミネート後光沢度
有機溶剤系である大日本インキ化学株式会社製ディックシールLA−100ZとKP−90(硬化剤)とを100部対0.6部の質量比で混合したもの80質量部に、溶媒としてメチルエチルケトン20質量部加え接着剤を得た。これを10番のバーコーターを用いて上記の各最薄のフィルム上に塗布し、80℃の乾燥機で1分間乾燥した。ナンカイテクナート株式会社製非発泡塩化ビニル壁紙基材の塩化ビニル面上に、上記フィルムの接着剤塗布面を合わせ、さらにその上に東レ株式会社製二軸延伸ポリエステルフィルム(商品名ルミラーS105、厚み50μm)を重ね合わせた。次に、東京ラミックス株式会社製ラミネーターDX−350を用いて、温度120℃、速度2m/minの条件で熱ラミネートして、フィルム/塩化ビニル壁紙の内装材を得た。この内装材のフィルム表面の光沢度をJIS−Z8741に従い日本電色工業株式会社製グロスメーターVGS−300Aにて角度60度で測定した。
【0104】
(4)貯蔵弾性率
上記の各最薄の艶消しフィルムをMD方向(流れ方向)に20mm、TD方向(垂直方向)に5mmにカットした。このカットしたフィルムを、株式会社レオロジ製粘弾性測定解析装置「DVE−4レオスペクトラー」の引張りチャックに取り付けた。JIS−K7244−4に従い、測定モード引張り(t=1mm以下)、−120℃〜120℃、昇温速度3℃/分、基本周波数10Hz、歪み波形正弦波で温度に対するフィルムの動的粘弾性の変化を示すグラフを作成し、5℃の貯蔵弾性率(E’)を読みとった。
【0105】
(5)平均酸価
上記の方法で算出した各樹脂の酸価の質量平均を樹脂組成物の平均酸価とした。
【0106】
(6)光沢度
上記の各最薄の艶消しフィルムをJIS−Z8741に準拠し、日本電色工業株式会社製グロスメーターVGS−300Aにて角度60度で測定した。
【0107】
(7)内部ヘイズ・全ヘイズ
株式会社村上色彩技術研究所製HR−100型ヘイズメーターを使用し、JIS−D8741に準じて測定を行った。全ヘイズは、上記各最薄のフィルムの値、内部ヘイズは、上記各最薄のフィルム両面にシリコンオイルを厚み約2μmで塗布して測定した値である。
【0108】
【表1】

【0109】
表1に示されるように、実施例1〜5の艶消しフィルムは、16μm以下の厚みに製膜可能であり、光沢度が10%以下の低い光沢度を有し、また、熱ラミネート後の光沢度も20%以下と抑えられている。さらには、5℃における貯蔵弾性率も1.5GPa以下であり、低温環境における柔軟性にも優れている。
【0110】
一方、熱可塑性エラストマー(C)を含まない比較例1の艶消しフィルムは、低温における柔軟性が不十分である。酸変性ポリオレフィン(B)を含まない比較例2及びメルトインデックスの値が大きい熱可塑性エラストマー(C)を含む比較例3、4の艶消しフィルムは、凹凸度が低く、光沢度が高い。また、逆にメルトインデックスの値が小さい熱可塑性エラストマー(C)を含む比較例5、酸変性ポリオレフィン(B)が高含有の比較例6、並びに(B)及び(C)の含有量が高い比較例7の各艶消しフィルムは製膜することができなかった。
【0111】
[実施例6〜13]
次に、樹脂組成物に滑剤を含有させる効果を確認するために、以下の実施例を行った。実施例1における比からなる(A)〜(C)成分の各樹脂からなるもの(実施例6)と、実施例6の各樹脂にさらに表2の各滑剤(D)を(A)〜(C)成分の合計量100質量部に対して0.1質量部配合したもの(実施例7〜13)をそれぞれタンブラー(容量120L)により、10分間運転し、一括混合した。一括混合した原料(樹脂組成物)を直径40mm、L/D=22、1軸フルフライト先端マドック付きスクリュー、ストランドダイ:3mmφ×2本取で、成形温度215℃、スクリュー回転数25rpm、吐出量7.5kg/hrの条件で押し出し、ストランドを冷却水槽中で冷却しながらペレタイザーでカッティングし、円柱形状のブレンドペレットを得た。
【0112】
押出成形におけるメヤニの発生量を確認するため、押し出し開始後30分後の時点で、押出口に固着している樹脂組成物(メヤニ)を取り出し、その質量を測定した。その結果を表2に示す。なお、メヤニの発生量を確認するため、フィルム成形ではなく、吐出量が多くメヤニの発生しやすいストランドの押出成形において、メヤニの発生量を比較することとした。
【0113】
また、それぞれのブレンドペレットを用いて、上述の実施例1と同様の方法で艶消しフィルムを得た。これらの艶消しフィルムについて、上述の方法にて、光沢度及び熱ラミネート後光沢度を測定した。測定結果について、表2に示す。
【0114】
【表2】

【0115】
表2に示されるように、実施例7〜13においては、実施例6と比較してメヤニの発生量が低減されることがわかった。また、実施例7〜13の滑剤を含有した艶消しフィルムにおいても、十分な艶消し性能が発揮されることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0116】
以上のように、本発明の艶消しフィルムは、樹脂組成物の製膜性が優れ、低光沢度を有し、低温環境における柔軟性も高いため、壁紙等の内装材等に好適に用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)、酸変性ポリオレフィン(B)及び熱可塑性エラストマー(C)を含有する樹脂組成物から成形され、
上記エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)100質量部に対する酸変性ポリオレフィン(B)及び熱可塑性エラストマー(C)の合計含有量が5質量部以上100質量部以下であり、
上記熱可塑性エラストマー(C)のメルトインデックスが2g/10分以上18g/10分以下である艶消しフィルム。
【請求項2】
上記酸変性ポリオレフィン(B)に対する熱可塑性エラストマー(C)の質量比〔(C)/(B)〕が1.5以上10以下である請求項1に記載の艶消しフィルム。
【請求項3】
上記熱可塑性エラストマー(C)が酸変性熱可塑性エラストマーを含む請求項1又は請求項2に記載の艶消しフィルム。
【請求項4】
上記熱可塑性エラストマー(C)が酸変性エチレン−α−オレフィン共重合体とエチレン−α−オレフィン共重合体との混合物である請求項3に記載の艶消しフィルム。
【請求項5】
上記酸変性エチレン−α−オレフィン共重合体がカルボン酸変性エチレン−ブテン共重合体であり、エチレン−α−オレフィン共重合体がエチレン−ブテン共重合体である請求項4に記載の艶消しフィルム。
【請求項6】
上記酸変性ポリオレフィン(B)のメルトインデックスが0.01g/10分以上10g/10分以下である請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の艶消しフィルム。
【請求項7】
上記酸変性ポリオレフィン(B)が酸変性ポリエチレンである請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の艶消しフィルム。
【請求項8】
上記酸変性ポリエチレンがカルボン酸変性高密度ポリエチレンである請求項7に記載の艶消しフィルム。
【請求項9】
上記エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)のメルトインデックスが0.1g/10分以上30g/10分以下である請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の艶消しフィルム。
【請求項10】
上記エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)のメルトインデックスから、熱可塑性エラストマー(C)のメルトインデックスを減じた値が5g/10分以上である請求項1から請求項9のいずれか1項に記載の艶消しフィルム。
【請求項11】
上記エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)のエチレン単位含有量が、35モル%以上60モル%以下である請求項1から請求項10のいずれか1項に記載の艶消しフィルム。
【請求項12】
上記エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)のケン化度が90モル%以上である請求項1から請求項11のいずれか1項に記載の艶消しフィルム。
【請求項13】
上記樹脂組成物全体の質量平均酸価が0.1mgKOH/g以上1.5mgKOH/g以下である請求項1から12のいずれか1項に記載の艶消しフィルム。
【請求項14】
5℃における貯蔵弾性率が1.6GPa以下である請求項1から請求項13のいずれか1項に記載の艶消しフィルム。
【請求項15】
凹凸度が8μm以上である請求項1から請求項14のいずれか1項に記載の艶消しフィルム。
【請求項16】
上記樹脂組成物が、滑剤(D)をさらに含有する請求項1から請求項15のいずれか1項に記載の艶消しフィルム。
【請求項17】
上記滑剤(D)が高級飽和脂肪酸誘導体である請求項16に記載の艶消しフィルム。
【請求項18】
基材と、この基材の表面に熱ラミネートにより積層される請求項1から請求項17のいずれか1項に記載の艶消しフィルムとを備える内装材。
【請求項19】
表面の光沢度が20%以下である請求項18に記載の内装材。
【請求項20】
エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)、酸変性ポリオレフィン(B)及び熱可塑性エラストマー(C)を混合して樹脂組成物を得る工程と、上記樹脂組成物を成形する工程とを有し、
上記エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)100質量部に対する酸変性ポリオレフィン(B)及び熱可塑性エラストマー(C)の合計含有量が5質量部以上100質量部以下であり、
上記熱可塑性エラストマー(C)のメルトインデックスが2g/10分以上18g/10分以下である艶消しフィルムの製造方法。

【公開番号】特開2011−157539(P2011−157539A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−127564(P2010−127564)
【出願日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】