説明

芝生面の養生敷設材

【課題】太陽光が遮断されても芝生の黄化や枯れを低減することにより、撤去後に早期回復を可能とした芝生の養生敷設材を提供する。
【解決手段】裏面側に複数のセル6、6…を区画するように起立したリブ7、7…が格子状に配設され、光透過性部材により構成された養生敷設材本体2の裏面側に、前記芝生面に光を照射するための発光器具3、3…を多数設置する。前記発光器具3、3…としては、赤色光を主成分とする光質の発光ダイオードを使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大型陸上競技場やサッカースタジアムなどの、芝生面を養生するための養生敷設材に関する。
【背景技術】
【0002】
陸上競技場や、サッカー、ラグビーの競技場など、芝生フィールドを備えた競技スタジアムは、競技以外の用途として、大規模なコンサートなどのイベント会場としても使用され、前記芝生フィールド部にステージや客席などを設けることがある。
【0003】
このような競技スタジアムでのイベント開催時には、通常、前記芝生フィールド部に、芝生を痛めずに養生が可能なように養生敷設材が敷設され、その上に前記ステージや客席が設けられる。前記養生敷設材としては、下記特許文献1に記載されるものが多く使用されている。この養生敷設材は、一人以上の人間を前記運動場の一部分の上方に支持することのできる表面にして、養生敷設材に覆われた植物に空気を送るための複数の孔を有し、該孔が、全ての形式の履物が橋絡する寸法とされた表面と、該養生敷材を運動場に位置付けするための位置付け手段にして、表面と運動場との間に自由空間を創出する形状を有し、下方に伸延する部材と、該下方に伸延する部材から横断方向に伸延し、該下方に伸延する部材に加わる負荷を分散させ得る脚部とを含む位置付け手段と、を含み、前記養生敷設材が、該敷設材により覆われる部分の植物が成長できるようにするために光を通す部材により構成されているものである。
【特許文献1】特許第3071821号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1記載の発明では、光透過性の養生敷設材を用いることにより、覆われる部分の植物が成長できるように図っているが、養生敷設材の上にステージやゴムシートなどが設けられる部分では、太陽光が完全に遮断され、芝生の光合成ができなくなるため、芝生の日照不足による黄化や枯れの問題が生じていた。この対策としては、専らイベント開催直前に養生敷設材を敷設し太陽光が遮断される期間をできる限り短くするようにしているが、養生敷設材の設置および撤去作業は、人手による作業であるため短期間に莫大な人工を要するなどの問題があった。
【0005】
そこで本発明の主たる課題は、太陽光が遮断されても芝生の黄化や枯れを低減することにより、撤去後に早期回復を可能とするとともに、養生敷設材の敷設または撤去の作業が十分な時間的余裕を持って行うことができるようになる等の利点を備えた芝生面の養生敷設材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するために請求項1に係る本発明として、芝生面を覆う養生敷設材の裏面側に、前記芝生面に光を照射するための発光器具を多数設置したことを特徴とする芝生面の養生敷設材が提供される。
【0007】
上記請求項1記載の本発明においては、養生敷設材の裏面側に設置された発光器具により芝生に光を投射することにより、太陽光が遮断されても、芝生の生育を維持することができ、芝生の黄化や枯れを低減することが可能となる。さらに、芝生の生育を維持することができるので、従来の養生敷設材のようにイベント開催直前または直後に短期間で敷設または撤去の作業を行う必要がなくなり、十分な時間的余裕を持って作業を行うことが可能となる。
【0008】
請求項2に係る本発明として、前記発光器具として発光ダイオードを使用している請求項1記載の芝生面の養生敷設材が提供される。
【0009】
上記請求項2記載の発明においては、前記発光器具として発光ダイオードを使用するものである。発光ダイオードであれば、サイズが小さくて済み、養生敷設材の裏面側の狭空間に容易に設置することが可能となる。また、芝生養生時に芝生への熱影響を低減することができる。
【0010】
請求項3に係る本発明として、前記発光ダイオードは、赤色光を主成分とする光質であることを特徴とする請求項2記載の芝生面の養生敷設材が提供される。
【0011】
上記請求項3記載の本発明においては、前記発光器具として、特に赤色光の発光ダイオードを使用することにより、芝生の育成維持の効果がより高度に発揮されるようになる。
【0012】
請求項4に係る本発明として、前記養生敷設材は、裏面側に複数のセルを区画するように起立したリブが格子状に設置され、前記セルの大部分又は全部に前記発光器具が配設された請求項1〜3記載の芝生面の養生敷設材が提供される。
【0013】
上記請求項4記載の発明では、養生敷設材は、裏面側に複数のセルを区画するように起立したリブが格子状に設置され、前記セルの大部分又は全部に前記発光器具を設置するものである。基本的に各セルに対して発光器具を配設することにより、セル毎に均質な光を照射することが可能となり、芝生の黄化や枯れを低減することができるようになる。
【0014】
請求項5に係る本発明として、前記養生敷設材は光透過性部材により構成してある請求項1〜4いずれかに記載の芝生面の養生敷設材が提供される。
【0015】
上記請求項5記載の発明では、養生敷設材を光透過性部材により構成することにより、イベント時の照明効果として利用することができる。
【0016】
請求項6に係る本発明として、前記養生敷設材は光透過性部材により構成され、芝生面に多数敷設された状態で前記発光器具群の内、一部の発光器具群による透過光によって前記養生敷設材の表面側に誘導目印を表示してある請求項1〜4いずれかに記載の芝生面の養生敷設材が提供される。
【0017】
上記請求項6記載の発明は、養生敷設材の裏面側に多数設置された発光器具の内の一部を夜間イベント時の誘導目印の表示光として利用するものである。
【発明の効果】
【0018】
以上詳説のとおり本発明によれば、太陽光が遮断されても芝生の黄化や枯れを低減することにより、撤去後に早期回復を可能とするとともに、養生敷設材の敷設または撤去の作業が十分な時間的余裕を持って行うことができるようになる等の利点を有するものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳述する。
【0020】
図1は本発明に係る養生敷設材1、1…の設置状態を示す競技場平面図である。図2は本発明に係る養生敷設材1を示す、(A)は平面図、(B)は右側面図、(C)は正面図である。図3は養生敷設材1の底面図、図4は図3のIV−IV線断面図、図5は図3のV拡大図である。
【0021】
例えば芝生フィールド部Fを有する競技スタジアムにおいて大規模なコンサートなどのイベントを開催する際、前記芝生フィールド部Fのほぼ全面又はイベント使用部分の全面に亘って敷設される養生敷設材の内、一般部分(客席SE部分等)には養生敷設材を敷設し、特にステージSTやゴムマットが敷かれるなど太陽光が完全に遮断される部分に対して、本発明に係る養生敷設材1が好適に使用される。なお、芝生養生面の全面に対して、本発明に係る養生敷設材1を敷設することも可能であるが、多数の発光器具を備えることにより養生敷設材1枚当たりの単価が高くなるため、現実的には一般的に使用されている養生敷設材との併用が望ましい。
【0022】
前記養生敷設材1は、図3〜図5に示されるように、芝生面を覆う養生敷設材本体2の裏面側に、前記芝生面に光を照射するために多数の発光器具3、3…及び所要数の電源ユニット4、4…を備えたもので、芝生に当たる太陽光が遮断または減少されても、前記発光器具3で光を照射することにより、芝生の生育を維持しようとするものである。
【0023】
前記養生敷設材本体2は、光透過性樹脂からなる約1m×1m程度の大きさの方形成形版であり、設置状態で芝生との間に空間が形成されるようになっている。図示の例では、表面板5の裏面に、複数のセル6、6…を形成するように縦方向及び横方向に格子状に起立したリブ7、7…が設置され、設置状態で芝生との間にセル状の空間が多数形成されるようになっている。また、これらリブ7、7…の交点部には、芝生フィールド部Fに荷重を分散させるように、円形の脚板8、8…が所定箇所に設けられている。前記表面板5は、太陽光を透過できるように透光性の素材とすることが好ましいが、場合によっては非透光性のものでもよい。
【0024】
一方、前記表面板5の上面には多数の小溝が形成され、スリップ止めが成されている。また、特に夏季には養生敷設材の内部が高温多湿となり、芝生の生育に悪影響を与えるため、図2に示されるように、セル6、6…内に外気を侵入させるため、リブ7の一部を切り欠いて通気路7a、7a…が形成されている。この通気路7a、7a…により、外気が養生敷設材1の内部を通り抜けることができ、温度、湿度の安定化が図れるようになる。
【0025】
前述の各セル6、6…の大部分には、発光器具3、3…が設けられ、残りのセル6、6…には前記発光器具3,3…へ電源を供給するための電源ユニット4,4…が配設されている。前記電源ユニット4は、一つの電源ユニット4で所定数量の発光器具3,3…へ電源を供給できるようになっている。前記発光器具3は、養生敷設材1を芝生フィールド部Fへ設置したとき、遮断または減少された太陽光の代わりとして、芝生の生育維持を図るために光を照射するものである。前述のように複数のセル6…に区切って、各セルに発光器具3を配設することにより、セル毎に均質な光を照射することが可能となり、芝生の黄化や枯れを低減することができるようになる。
【0026】
前記発光器具3には、白熱電球、蛍光灯、発光ダイオード(以下「LED」という)など種々の発光体を使用できるが、芝生への熱影響、セル6内の温度上昇の防止、ランニングコストの低減、光色の種類などの観点から、LEDを使用することが好ましい。さらに、植物の生長に対する光の作用が、光色(光の波長)に影響し、特に赤色光(約600〜700nmの波長)が、植物の光合成作用に最も有効な波長域であることが分かっているため、発光器具3としては赤色光LEDを好適に使用することができる。また、実験の結果、同一条件において、赤色LEDの照度は、白色LEDの照度よりも明るくできるため、赤色LEDを使用することにより、消費電力が低減できる効果もある。
【0027】
前記電源ユニット4は、防雨型とするのが望ましく、かつ養生敷設材1の設置や撤去作業時のハンドリング性を考慮し、養生敷設材1毎に電源を供給できるように必要数だけ設置するのが望ましい。
前記養生敷設材1を芝生面に敷設することにより芝生に太陽光が当たらなくても、発光器具3、3…で芝生に光を照射することにより、芝生の生育を維持することが可能となり、それに伴い芝生の黄化や枯れを抑制することができるようになる。さらに、芝生の黄化や枯れが起こりにくいため、従来の養生敷設材のようにイベント開催直前または直後に短期間で敷設または撤去の作業を行う必要がなくなり、十分な時間的余裕を持って作業を行うことが可能となる。
【0028】
〔他の形態例〕
(1)前記養生敷設材1は、少なくとも表面板5を光透過性とすることにより、イベント時の照明効果として利用することができる。
(2)前記養生敷設材1は、少なくとも表面板5を光透過性とし、芝生面に多数設置された状態で、前記発光器具群3,3…の内、一部の発光器具群による透過光によって前記養生敷設材1の表面側に誘導目印を表示することができる。前記誘導目印としては、例えば各ブロック毎に客席の間の通路部分に他から区別される彩色光で矢印形状の誘導表示、客席番号表示、避難通路の案内表示等を挙げることができる。
【実施例】
【0029】
本実施例では、陸上競技場において敷設実験を行い、発光器具3による光照射の効果を観察した。図6に示されるように、芝生面を4区画に区画割りし、区画Aには光透過性の養生敷設材1のみを設置し、区画Bには多数の白色LEDを取り付けた養生敷設材1を設置した後、その上面に遮光カバーを敷設し、区画Cには多数の赤色LEDを取り付けた養生敷設材1を設置した後、その上面に遮光カバーを敷設し、区画Dには養生敷設材1を設置した後、その上面に遮光カバーを敷設した。
【0030】
そして、3日間放置した後、養生敷設材を撤去直後の状態を図7に示し、それから3日経過後の状態を図8に示し、下表1にその時の性状をまとめた。
【表1】

【0031】
以上の結果より、本発明の養生敷設材1において、太陽光が完全に遮断された状態であっても、発光器具3、3…で光を照射することにより、芝生の生育が維持でき、撤去後に芝生の黄化をかなり抑制できることが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明に係る養生敷設材1、1…の設置状態を示す競技場平面図である。
【図2】本発明に係る養生敷設材1を示す、(A)は平面図、(B)は右側面図、(C)は正面図である。
【図3】養生敷設材1の底面図である。
【図4】図3のIV−IV線断面図である。
【図5】図3のV拡大図で、(A)は底面図、(B)は右断面図、(C)は下断面図である。
【図6】実施例における実験要領図である。
【図7】養生板の撤去時の状態を示す図(写真)である。
【図8】養生板の撤去3日後の状態を示す図(写真)である。
【符号の説明】
【0033】
1…養生敷設材、2…養生敷設材本体、3…発光器具、4…電源ユニット、5…表面板、6…セル、7…リブ、8…脚板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芝生面を覆う養生敷設材の裏面側に、前記芝生面に光を照射するための発光器具を多数設置したことを特徴とする芝生面の養生敷設材。
【請求項2】
前記発光器具として発光ダイオードを使用している請求項1記載の芝生面の養生敷設材。
【請求項3】
前記発光ダイオードは、赤色光を主成分とする光質であることを特徴とする請求項2記載の芝生面の養生敷設材。
【請求項4】
前記養生敷設材は、裏面側に複数のセルを区画するように起立したリブが格子状に設置され、前記セルの大部分又は全部に前記発光器具が配設された請求項1〜3記載の芝生面の養生敷設材。
【請求項5】
前記養生敷設材は光透過性部材により構成してある請求項1〜4いずれかに記載の芝生面の養生敷設材。
【請求項6】
前記養生敷設材は光透過性部材により構成され、芝生面に多数敷設された状態で前記発光器具群の内、一部の発光器具群による透過光によって前記養生敷設材の表面側に誘導目印を表示してある請求項1〜4いずれかに記載の芝生面の養生敷設材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−224545(P2007−224545A)
【公開日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−45110(P2006−45110)
【出願日】平成18年2月22日(2006.2.22)
【出願人】(000172813)佐藤工業株式会社 (73)
【出願人】(000101662)アルインコ株式会社 (218)
【出願人】(500325687)財団法人横浜市スポーツ振興事業団 (1)
【Fターム(参考)】