説明

芯物質を100%の効率で封入させるための表層、芯物質層および裏層の三層構造から成る徐放性ミリ、マイクロカプセル

【課題】芯物質の初期放出をなくし、かつ100%の封入率でもって芯物質を封入できる非球状の徐放性のマイクロ、ミリカプセルを提供すること。
【解決手段】
最初に(a) 表層を形成し、次いで(b)芯物質層、(c)裏層の順に形成することにより得られる三層構造を有する非球状のマイクロ、ミリカプセルとすることにより、芯物質の初期放出をなくし、かつ理論上100%の効率でもって芯物質を封入できる徐放性のマイクロ、ミリカプセルが提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
芯物質の徐放性を達成するためにマイクロカプセルが発明され、種々の製造法を用いて広範囲な分野において製品化されている(非特許文献1から10、特許文献1から17)。また、医薬品の分野においては、薬物の長期間にわたる徐放性を達成するために、生分解性ポリマーを用いるマイクロカプセルが利用されている(非特許文献7)。これら従来のマイクロカプセルの壁物質はマイクロカプセルの中心に対してどこを切ってもほぼ均一で、かつ球状もしくは球状に近い形状を持っている。しかし、製造過程におけるマイクロカプセルへの芯物質の封入率(保持率)が100%に達しないという欠点がある。薬物の封入率を改善するために様々な方法が考案されているが、100%の封入率は達成されていない。また、得られる薬物含有マイクロカプセルの粒子径は不均一であるために、整粒操作を行わなければならず、収率の低下の一因ともなっている。本特許は芯物質の封入率を100%とすることを目的として発明された、(1)表層、(2)芯物質層および(3)裏層の三層から成る徐放性マイクロ、ミリカプセルである。芯物質の封入率を100%とするために、先ず表層膜形成用物質を吐出して表層を作成した後、芯物質の溶液・懸濁液・乳濁液・溶融液などを表層上に小さめの面積で吐出する。乾燥あるいは硬化後、裏層形成用物質を表層とほぼ等しい面積で吐出して表層と裏層との間に芯物質層を包み込んで封入することにより目的とするマイクロ、ミリカプセルを得る。
【背景技術】
【0002】
薬物を始めとして化粧品原料、香料、農薬、染料などを芯物質とする徐放性製品を製造するには、ポリマー、油脂などを用いてマイクロカプセルとする方法が広く一般に用いられている。製造法としては、界面重合法、相分離法、スプレードライ法など数多くの方法が発明されてきている。これらの方法で製造されるマイクロカプセルにおける壁物質はマイクロカプセルの中心に対してどこを切ってもほぼ均一で球状もしくは球状に近い形状を持つマイクロカプセルである。しかし、いずれの方法を用いても、薬物など芯物質のマイクロカプセル内への封入率は100%を達成することは困難である。さらに、得られるマイクロカプセルの粒子径は不均一であるために、整粒操作を行わなければならず、収率の低下の一因ともなっている。このようなことから、芯物質の封入率の向上が今日におけるマイクロカプセル研究の一大テーマとなっている。特に、遺伝子組換え蛋白薬の代表であるエリスロポエチン、G-CSF、ヒト成長ホルモン、インスリン、デスモプレッシン、酢酸リュープロレリン、酢酸ゴセレリン、グレリン、インターロイキン類、ホルモン類、などのような高価な原薬を用いる場合には、低い封入率が工業化の際の大きな問題となっている。
【0003】
【非特許文献1】小石眞純、江藤 桂、日暮久乃 著、“造る+使う マイクロカプセル”、工業調査会、2005年
【非特許文献2】近藤 保、小石眞純 著、“マイクロカプセルーその製法・性質・応用”、三共出版、1987年
【非特許文献3】"Microencapsulation”, Edith Mathiowitz, Mark R. Kreitz and Lisa Brannon-Peppas, in Encyclopedia of Controlled Drug Delivery Vol. 2. by Edith Mathiowitz, John Wiley & Sons, Inc., USA, pp. 493-546, 1999.
【非特許文献4】”Microencapsulation for gene delivery”, Eric Kai Huang and Young Shik Jong, in Encyclopedia of Controlled Drug Delivery Vol. 2. by Edith Mathiowitz, John Wiley & Sons, Inc., USA, pp. 546-553, 1999.
【非特許文献5】”Peptide and protein drug delivery”, OluFunmi, L. Johnson and Mark A. Tracy, in Encyclopedia of Controlled Drug Delivery Vol. 2. by Edith Mathiowitz, John Wiley & Sons, Inc., USA, pp. 816-833, 1999.
【非特許文献6】近藤 保、“膜学的にみたマイクロカプセルの特性”、膜、16, 169-177, 1991
【非特許文献7】小川泰亮、“持続的に効果を発揮する前立腺がん治療剤の開発”、現代化学、2005年1月号、63-66.
【非特許文献8】Jo-Anne Lutjens, “欧州発医薬品ディベロッパー デビオファーム社について“、ファームテクジャパン、20, 469-475, 2004.
【非特許文献9】Patrick Couvreur, Gillian Barratt, Elias Fattal, Philippe Legrand and Christine Vauthier, “Nanocapsule technology: A review”, Critical Reviews in Therapeutic Drug Carrier Systems, 19, 99-134, 2002.
【非特許文献10】P. Legrand, G. Barratt, V. Mosqueira, H. Fessi and J. P. Devissaguet, “Polymeric nanocapsules as drug delivery systems: A review”, S. T. P. Pharma Sciences, 9, 411-418, 1999.
【特許文献1】公開特許資料集“マイクロカプセル及びその製造方法(A)公開特許平成5年版 38件”、テーアールエス(株),2006.
【特許文献2】公開特許資料集“マイクロカプセル及びその製造方法(B)公開特許平成6年版 35件”、テーアールエス(株),2006.
【特許文献3】公開特許資料集“マイクロカプセル及びその製造方法(C)公開特許平成7年版 32件”、テーアールエス(株),2006.
【特許文献4】公開特許資料集“マイクロカプセル及びその製造方法(D)公開特許平成8〜9年版 47件”、テーアールエス(株),2006.
【特許文献5】公開特許資料集“マイクロカプセル及びその製造方法(E)公開特許平成10〜11年版 31件”、テーアールエス(株),2006.
【特許文献6】公開特許資料集“マイクロカプセル及びその製造方法(F)国際特許平成8年版 24件”、テーアールエス(株),2006.
【特許文献7】公開特許資料集“マイクロカプセル及びその製造方法(G)国際特許平成9年版 26件”、テーアールエス(株),2006.
【特許文献8】公開特許資料集“マイクロカプセル及びその製造方法(H)国際特許平成10年版 13件”、テーアールエス(株),2006.
【特許文献9】公開特許資料集“マイクロカプセル及びその製造方法(I)国際特許平成11年版 21件”、テーアールエス(株),2006.
【特許文献10】公開特許資料集“マイクロカプセル及びその製造方法(J)国際特許平成12年版 38件”、テーアールエス(株),2006.
【特許文献11】公開特許資料集“マイクロカプセル及びその製造方法(B)公開特許平成12〜13年 47件”、テーアールエス(株),2006.
【特許文献12】公開特許資料集“マイクロカプセル及びその製造方法(D)公開特許平成14〜15年 44件”、テーアールエス(株),2006.
【特許文献13】公開特許資料集“マイクロカプセル及びその製造方法(E)国際特許平成15年版 67件”、テーアールエス(株),2006.
【特許文献14】公開特許資料集“マイクロカプセル及びその製造方法(C)公開特許平成16年版 41件”、テーアールエス(株),2006.
【特許文献15】公開特許資料集“マイクロカプセル及びその製造方法(D)公開特許平成17年版 35件”、テーアールエス(株),2006.
【特許文献16】公開特許資料集“マイクロカプセル及びその製造方法(K)国際特許平成13年版 22件”、テーアールエス(株)DATA No.TRS-1900,2006.
【特許文献17】公開特許資料集“マイクロカプセル及びその製造方法(L)国際特許平成14年版 21件”、テーアールエス(株)DATA No.TRS-1900,2006.
【特許文献18】高田寛治、特願2003-407352, ジェット吹き出し法およびスクリーン印刷法による三層構造を有する非対称マイクロカプセルの製造方法、平成15年12月5日出願
【特許文献19】高田寛治、不均一なミリ、マイクロカプセルの製造法および装置、特願2003-153939,平成15年5月30日出願
【特許文献20】高田寛治、Three-layered parenteral preparations. (2002年11月25日PCTにて日米欧に出願。国際出願番号PCT/JP01/04355
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとしている課題は、芯物質を理論上100%の効率で封入できる新規の徐放性マイクロ、ミリカプセルを考案することにある。従来のマイクロカプセルはほぼ球状の形状を有しており、壁物質はマイクロカプセルの中心に対してどこを切ってもほぼ均一で球状もしくは球状に近い形状を持っている。一方、本技術の発明者である高田は、新しい概念として、表層、薬物保持層および基底膜の三層構造を有するマイクロ、ミリカプセルを発明した(特許文献18〜20)。これらの発明は芯物質の徐放性に限定したミリ、マイクロカプセルに関するものではなかった。マイクロカプセルに関する膨大な数の特許が出されているが、芯物質を理論上100%の効率で封入でき、かつ初期放出burst現象をなくした徐放性マイクロカプセルの必要性が叫ばれている。しかし、従来の徐放性を目的とするマイクロカプセル(非特許文献1から10、特許文献1〜17)にはこのような三層構造から成るマイクロカプセルは概念として包含されていない。
【課題を解決するための手段】
【0005】
今回、発明者は、 課題を達成するために鋭意研究を重ねた結果、表層、芯物質層、裏層から成る三層構造を有するマイクロ、ミリカプセルとすることにより、芯物質を理論上100%の封入率でもって徐放性マイクロ、ミリカプセルとする発明を達成することができた。すなわち、成膜性ポリマーなどの物質を用いて先ず基盤上に吐出することにより表層を形成する。次いで、芯物質を表層の上に小さめの面積にて吐出して芯物質層を形成する。最後に裏層用物質を芯物質層の上から表層とほぼ等しい面積で吐出して芯物質層を表層と裏層の間に封入することにより、マイクロ、ミリカプセルとする。表層および裏層用の物質としては、広範囲の成膜性物質を用いることができる。芯物質が医薬品であり、徐放性注射剤を作る場合であれば、生分解性ポリマーであるポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリカプロラクトンおよびそれらのコポリマーなどが好んで用いられる。
【0006】
生分解性ポリマーであるポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリカプロラクトンおよびそれらのコポリマーなどをアセトン、塩化メチレンなどの有機溶媒に溶解した後、テトラフロロエチレン樹脂(登録商標テフロン)板、ガラス板などの基盤上に吐出することにより先ず放出制御用の表層膜を形成する。次いでインスリン、エリスロポエチンなど芯物質の薬液を表層膜上にひとまわり小さい面積で吐出する。乾燥後、生分解性ポリマー溶液を薬物層の上に表層膜と同じ面積で吐出することにより裏層膜を形成する。薬物層を表層膜と裏層膜とで包み込むことにより、三層構造を有する徐放性マイクロ、ミリカプセルとする。なお、テトラフロロエチレン樹脂板、ガラス板などの基盤上に予め水溶性ポリマーにて薄膜を形成しておき、その上に、水不溶性の表層用液、芯物質層形成用液、水不溶性裏層用液を順次吐出して三層構造を有するマイクロ、ミリカプセルを形成すれば、基盤を精製水などの中に浸すことにより容易にマイクロ、ミリカプセルを基盤から剥がすことができる。
【0007】
即ち、本発明によれば、 (a)表層、(b)芯物質層、及び(c)裏層 の三層構造から成る徐放性マイクロ、ミリカプセルが提供される。
本発明の徐放性マイクロ、ミリカプセルは、好ましくは、さらに(d)安定化剤を含む。
【0008】
好ましくは、生分解性ポリマーは、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリカプロラクトンおよびそれらのコポリマーである。なお、これらの生分解性ポリマーは一例であり、本発明において使用できる生分解性ポリマーはこれらに限定されるものではない。
【発明の効果】
【0009】
本発明の三層構造から成るマイクロ、ミリカプセルとすることにより、工業的に簡単な製造技術で、初期放出をなくし、理論上100%の効率で芯物質を封入した徐放性のマイクロ、ミリカプセルとすることが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本発明のマイクロ、ミリカプセルは、(a) 表層、(b)芯物質層、及び(c)裏層 の三層から成る徐放性マイクロ、ミリカプセルである。さらに場合によっては(d)安定化剤を含むことを特徴とする。芯物質が薬物である場合には、徐放性製剤として投与されるものである。以下、これらの各成分について説明する。
【0011】
成膜性を有するポリマーであればいずれも本発明に使用可能である。芯物質が薬物であり、徐放性注射剤を製造する場合には、生分解性ポリマーの利用が推奨される。生分解性ポリマーとしては、ポリ乳酸(poly(DL-lactide), poly(L-lactide),poly(DL-lactide-COOH)など)、ポリグリコール酸(poly(glycolide)など)、ポリカプロラクトン(poly(ε-caprolactone)),およびそれらのコポリマー(50/50 poly(DL-lactide-co-glycolide), 63/35 poly(DL-lactide-co-glycolide), 75/25 poly(DL-lactide-co-glycolide), 85/15 poly(DL-lactide-co-glycolide), 25/75 poly(DL-lactide-co-ε-caprolactone ), 75/25 poly(DL-lactide-co-ε-caprolactone ), 50/50 poly(DL-lactide-co-glycolide)-COOH) など)であるが、これらの生分解性ポリマーに限定されるものではない。
【0012】
表層と裏層の成膜性を向上させるために添加する可塑剤の添加量を表層と裏層で質的・量的に変動させることも可能である。また、シール性が保証されれば、異種のポリマーを組み合わせて、表層と裏層を作ることもできる。芯物質が薬物である場合には、薬物層は薬物のみに限定されるものではない。徐放性製剤の開発を目的として、蛋白薬、核酸薬のマイクロ、ミリカプセルを製造する場合には、安定化剤として蛋白分解酵素阻害剤や核酸分解酵素阻害剤を薬物とともに配合することができる。
【0013】
本発明を以下の実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。
【実施例1】
【0014】
ポリ-ε-カプロラクトンPCL(平均分子量70,000-100,000、和光純薬)212.5mgおよびポリエチレングリコールPEG400の37.5mgに酢酸エチルの2.5mlを加えて溶解する。フッ素樹脂粘着テープ(登録商標チューコーフロー粘着テープASF-110、中興化成工業社製)を貼ったガラス基盤上に10%ポリビニルアルコールPVA溶液を50マイクロメートルのクリアランスを有するアプリケーター(井元製作所製、京都市)を用いて伸展し、PVA薄膜を作る。さらに同じ規格のアプリケーターを用いて上記PCL液を伸展することによりPVA膜上に表膜を形成する。乾燥後、80 mg/ml の濃度となるように調製したモデル高分子薬であるFITCデキストラン(平均分子量20,000、Sigma社)水溶液の10マイクロリットルをマイクロシリンジにとり、約0.5cm間隔で0.25マイクロリットルづつ表膜上にスポットする。乾燥後、PCLの酢酸エチル濃厚液の少量をFITCデキストランのスポットを包み込むように覆うことにより裏膜を形成する。乾燥後、基盤から剥がし、約3mmの角状に切り出す。
【実施例2】
【0015】
ポリ-ε-カプロラクトンPCL(平均分子量70,000-100,000、和光純薬)200mgおよびポリエチレングリコールPEG400の50mgに酢酸エチルの2.5mlを加えて溶解する。フッ素樹脂粘着テープを貼ったガラス基盤上に10%ポリビニルアルコールPVA溶液を50マイクロメートルのクリアランスを有するアプリケーター(井元製作所製、京都市)を用いて伸展し、PVA薄膜を作る。さらに同じ規格のアプリケーターを用いて上記PCL液を伸展することによりPVA膜上に表膜を形成する。乾燥後、80 mg/ml の濃度となるように調製したFITCデキストラン(平均分子量20,000、Sigma社)水溶液の10マイクロリットルをマイクロシリンジにとり、約0.5cm間隔で0.25マイクロリットルずつ表膜上にスポットする。乾燥後、PCLの酢酸エチル濃厚液の少量をFITCデキストランのスポットを包み込むように覆うことにより基底膜を形成する。乾燥後、基盤から剥がし、約3mmの角状に切り出す。
【実施例3】
【0016】
ポリ-ε-カプロラクトンPCL(平均分子量70,000-100,000、和光純薬)187.5mgおよびポリエチレングリコールPEG400の62.5mgに酢酸エチルの2.5mlを加えて溶解する。実施例1と同様にフッ素樹脂粘着テープを貼ったガラス基盤上に10%ポリビニルアルコールPVA溶液を50マイクロメートルのクリアランスを有するアプリケーター(井元製作所製、京都市)を用いて伸展し、PVA薄膜を作る。さらに同じ規格のアプリケーターを用いて上記PCL液を伸展することによりPVA膜上に表膜を形成する。乾燥後、80 mg/ml の濃度となるように調製したFITCデキストラン(平均分子量20,000、Sigma社)水溶液を10マイクロリットルのマイクロシリンジにとり、約0.5cm間隔で0.25マイクロリットルずつ表膜上にスポットする。乾燥後、PCLの酢酸エチル濃厚液の少量をFITCデキストランのスポットを包み込むように覆うことにより裏膜を形成する。乾燥後、基盤から剥がし、約3mmの角状に切り出す。
【実施例4】
【0017】
ポリ-ε-カプロラクトンPCL(平均分子量70,000-100,000、和光純薬)175mgおよびポリエチレングリコールPEG400の75mgに酢酸エチルの2.5mlを加えて溶解する。実施例1と同様にフッ素樹脂粘着テープを貼ったガラス基盤上に10%ポリビニルアルコールPVA溶液を50マイクロメートルのクリアランスを有するアプリケーター(井元製作所製、京都市)を用いて伸展し、PVA薄膜を作る。さらに同じ規格のアプリケーターを用いて上記PCL液を伸展することによりPVA膜上に表膜を形成する。乾燥後、80 mg/ml の濃度となるように調製したFITCデキストラン(平均分子量20,000、Sigma社)水溶液を10マイクロリットルのマイクロシリンジにとり、約0.5cm間隔で0.25マイクロリットルずつ表膜上にスポットする。乾燥後、PCLの酢酸エチル濃厚液の少量をFITCデキストランのスポットを包み込むように覆うことにより裏膜を形成する。乾燥後、基盤から剥がし、約3mmの角状に切り出す。
評価
実施例1〜4で得た4種類の三層構造から成るカプセル1ヶを溶出液であるpH 7.4のリン酸バッファーの1.5mlを有するサンプルカップに入れ、37℃にてタイテック社製のローテーターRT-50を用いて毎分約10回転の速度で連続的に回転する。経時的に溶出液を入れ替え、得られる溶出液中のFITCデキストラン濃度を蛍光分光光度計を用いて測定することにより溶出試験を行った。その結果を示したのが下図である。PEG400を15%含有する表膜を有するカプセルからのFITCデキストランの放出速度(図中の×印)は遅く、約1ヶ月で10%の放出率しか示さなかった。PEG400の含有量を20%(図中の■印)、25%( 図中の◆印)と増加させるにつれてFITCデキストランの放出速度は上昇し、30%含有するカプセル(図中の▲印)では約1ヶ月で約70%の放出率を示した。

【実施例5】
【0018】
実施例1で調製した表膜用のPCL液の各酢酸エチル液をガラス製の1mlの注射器に充填する。フッ素樹脂粘着テープ(登録商標チューコーフロー粘着テープASF-110、中興化成工業社製)をはったガラス基盤上に実施例1と同様にPVA膜を形成する。注射器に、先を平らに加工した26Gの注射針をつけ、低温下で実施例1と同様の表膜用PCL(平均分子量70,000-100,000、和光純薬)液を吐出することにより直径約700マイクロメートルの表膜を形成する。室温に戻した後、実施例1と同様のFITCデキストラン水溶液を1mlのガラス製注射器に充填し、先を平らに加工した27Gの注射針をつけ、表膜上に吐出する。37℃で30分間放置して乾燥することにより芯物質層を形成する。PCLの237.5mg、クエン酸トリエチル12.5mgに酢酸エチル2.5mlを加えて溶解し、裏膜用濃厚液を作る。この液を表膜用溶液と同サイズの注射器および注射針を用いて低温下で芯物質であるFITCデキストランの上から吐出することにより裏膜を形成する。室温にて乾燥後、ガラス基盤から剥がすことにより三層構造を有するマイクロカプセルを得る。
【実施例6】
【0019】
フッ素樹脂粘着テープ(登録商標チューコーフロー粘着テープASF-110、中興化成工業社製)をはったガラス基盤上に50マイクロメートルのクリアランスを有するアプリケーター(井元製作所製)を用いて実施例1で用いたPVA濃厚液を伸展し、乾燥することにより表面コーティングを施す。PCL(平均分子量70,000-100,000、和光純薬)175mg、ポリーL-乳酸(平均分子量5,000、ナカライテスク)10mgおよびポリエチレングリコールPEG400の75mgに酢酸エチルの2.5mlを加えて溶解し、ガラス製の5mlの注射器に充填する。ガラス基盤上に、注射器を用いて表膜用ポリマー液を吐出することにより直径約3.0mm表膜を形成する。FITCデキストラン10mgを精製水15マイクロリットルにて溶解し、10マイクロリットルの注射器に充填する。FITCデキストランの0.25マイクロリットルを先に作成した表膜上に吐出する。37℃で30分間放置して乾燥することにより芯物質層を形成する。ポリ-ε-カプロラクトン237.5mg、PEG400の2.5mgに酢酸エチル2.5mlを加えて溶解し、裏膜用溶液を作る。この液を表膜用溶液と同サイズの注射器を用いて芯物質であるFITCデキストランの上から吐出することにより裏膜を形成する。乾燥後、基盤から剥がして三層構造を有するミリカプセルを得る。
【実施例7】
【0020】
フッ素樹脂粘着テープ(登録商標チューコーフロー粘着テープASF-110、中興化成工業社製)をはったガラス基盤上に、PCL(平均分子量70,000-100,000、和光純薬)212.6mgおよびポリエチレングリコールPEG400の37.5mgに酢酸エチルの2.5mlを加えて溶解し、ガラス製の2mlの注射器に充填する。ガラス基盤上に、注射器を用いて表膜用ポリマー液を吐出することにより直径約3.0mmの表膜を形成する。低分子ヘパリン15.63mgを秤量し、5マイクロリットルの精製水にて溶解する。得られる低分子ヘパリン液を10マイクロリットルの注射器に充填する。その0.5マイクロリットルを表膜上に吐出する。37℃で30分間放置して乾燥することにより芯物質層を形成する。ポリ-ε-カプロラクトン237.5mg、PEG400の2.5mgに酢酸エチル2.5mlを加えて溶解し、裏膜用溶液を作る。この液を表膜用溶液と同サイズの注射器を用いて芯物質である低分子ヘパリン層の上から吐出することにより裏膜を形成する。乾燥後、基盤から剥がして三層構造を有するミリカプセルを得る。
評価
実施例7で得た低分子ヘパリン含有ミリカプセリの4粒を体重350gのWistar系雄性ラットの腹腔内へエーテル麻酔下、投与した。頸静脈から投与前、および投与後1週間にわたり経時的に採血を行い、得られる血漿試料中の抗Xa活性を測定したところ、次のような測定値が得られた。
0 U/ml (投与前)、0.05 U/ml(1日目)、0.04 U/ml(3日目)、0.05 U/ml(5日目)、0.04 U/ml(7日目)。
以上の実験結果より、約1週間にわたる低分子へパリンの徐放性が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0021】
芯物質の徐放性を得るために数多くのマイクロカプセルの製品が販売されているが、製造時における芯物質の100%の封入率を達成した製品は皆無である。薬物を始めとする各種芯物質の理論上100%の封入率を達成できるマイクロ、ミリカプセルとして、表層・芯物質層・裏層の三層構造を有する徐放性マイクロ、ミリカプセルを発明した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
徐放性を付与する対象となる芯物質を100%の効率で封入させるために、(1)表層、(2)芯物質層および(3)裏層 の三層から成る徐放性マイクロ、ミリカプセル。
【請求項2】
マイクロ、ミリカプセルへの芯物質の封入率が理論上100%であることを特徴とする三層構造から成る非球状の徐放性マイクロ、ミリカプセル。
【請求項3】
表層および裏層を形成するための物質としては成膜性物質、成膜性ポリマー、生分解性ポリマーであるポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリカプロラクトンおよびそれらのコポリマー、である請求項1に記載のマイクロ、ミリカプセル。
【請求項4】
芯物質が薬物、化粧品原料、香料、農薬、染料である請求項1に記載のマイクロ、ミリカプセル。
【請求項5】
芯物質に(4)安定化剤を加えて得られる請求項1に記載のマイクロ、ミリカプセル。
【請求項6】
安定化剤が蛋白質、蛋白・核酸分解酵素阻害剤である、請求項1から3に記載のマイクロ、ミリカプセル。
【請求項7】
基盤上に水溶性ポリマーで薄膜を形成した後に、先ず表層用ポリマーを吐出して表層を形成し、次いで芯物質を小さめの面積で表層上に吐出する。乾燥後、裏層用ポリマーを表層とほぼ同じ面積で吐出し、表層と裏層の間に芯物質を封入することにより得られる非球状の三層構造を有する徐放性マイクロ、ミリカプセル。

【公開番号】特開2008−120734(P2008−120734A)
【公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−306506(P2006−306506)
【出願日】平成18年11月13日(2006.11.13)
【出願人】(502414389)株式会社バイオセレンタック (24)
【Fターム(参考)】