説明

芯鞘型ポリエステル複合繊維及び織編物

【課題】熱処理後の繊維の強度低下、収縮が小さく、得られる織編物等の寸法安定性が良好となり、また、得られる製品を高温雰囲気下で使用しても接着強力の低下や変形が少なく、種々の用途に使用することが可能となる芯鞘型ポリエステル複合繊維及びこの繊維を少なくとも一部に用いた織編物を提供する。
【解決手段】アルキレンテレフタレート単位を主体とする融点220℃以上のポリエステルAと融点がポリエステルAより30℃以上低いポリエステルBからなり、ポリエステルAを芯部にポリエステルBを鞘部に配した芯鞘型複合繊維であって、芯部と鞘部の質量比率(芯:鞘)が40:60〜80:20であり、下記式に示す乾熱処理後の強度保持率が60%以上、収縮率が20%以下である芯鞘型ポリエステル複合繊維。強度保持率(%)=(G/M)×100 収縮率(%)={(MS−GS)/MS}×100

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、融点の低いポリエステルを鞘部に配した芯鞘型の複合繊維であって、熱処理により鞘成分が溶融することによって、織編物等の繊維構造体を得る際に好適に使用することができる芯鞘型ポリエステル複合繊維に関するものであり、また、本発明の複合繊維を少なくとも一部に用いた織編物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル系熱接着性複合繊維としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)を芯成分とし、イソフタル酸成分を共重合したPET系共重合体を鞘成分とした繊維が数多く提案されており、また広く使用されている(例えば、特許文献1)。
【0003】
しかしながら、このPET系共重合体は非晶性であり、明確な結晶融点を示さないため、ガラス転移点以上の温度で軟化が始まる。したがって、繊維製造時に十分な熱処理を施すことも困難となる。
【0004】
このような繊維に鞘成分を溶融させるために熱処理を施すと、繊維が収縮し、得られる製品の寸法安定性が悪くなったり、また、得られる製品をフィルターとして高温雰囲気下で使用すると、接着強力が低下して変形するという問題があった。
【0005】
また、特許文献2では、高融点モノフィラメントと低融点モノフィラメントとが組み合わされ、かつ低融点モノフィラメントの表面が露出している融着糸が記載されている。この融着糸は、芯鞘繊維等の高価な繊維を使用することなく、効果的に布帛の目崩れを防止することを目的とするものである。しかしながら、この融着糸を使用すると、得られる布帛の厚みや目付けが増加し、薄いフィルター用途には適さないものであり、用途も限定され、またコストアップにもなるものであった。
【特許文献1】特許第3459952号公報
【特許文献2】特開2004-149964号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記の問題点を解決し、熱処理後の繊維の強度低下、収縮が小さく、得られる織編物等の寸法安定性が良好となり、また、得られる製品を高温雰囲気下で使用しても接着強力の低下や変形が少なく、種々の用途に使用することが可能となる芯鞘型ポリエステル複合繊維及びこの繊維を少なくとも一部に用いた織編物を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は上記課題を解決するために検討した結果、本発明に達した。
すなわち、本発明は、アルキレンテレフタレート単位を主体とする融点220℃以上のポリエステルAと融点がポリエステルAより30℃以上低いポリエステルBからなり、ポリエステルAを芯部にポリエステルBを鞘部に配した芯鞘型複合繊維であって、芯部と鞘部の質量比率(芯:鞘)が40:60〜80:20であり、下記式に示す乾熱処理後の強度保持率が60%以上、収縮率が20%以下であることを特徴とする芯鞘型ポリエステル複合繊維を要旨とするものである。
強度保持率(%)=(G/M)×100
G:乾熱処理後の強度(cN/dtex)、M:乾熱処理前の強度(cN/dtex)
収縮率(%)={(MS−GS)/MS}×100
GS:乾熱処理後の長さ(cm)、MS:乾熱処理前の長さ(cm)
【発明の効果】
【0008】
本発明の芯鞘型ポリエステル複合繊維は、熱処理後の強度保持率が高く、かつ繊維の収縮が小さいため、得られる織編物等は、寸法安定性が良好となり、高温雰囲気下で使用しても接着強力の低下や変形が少なく、種々の用途に使用することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の芯鞘型ポリエステル複合繊維は、アルキレンテレフタレート単位を主体とする融点220℃以上のポリエステルAと融点がポリエステルAより30℃以上低いポリエステルBからなり、ポリエステルAを芯部にポリエステルBを鞘部に配した芯鞘型複合繊維である。
【0010】
まず、ポリエステルAについて説明する。ポリアルキレンテレフタレートとしては、PETやポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)が挙げられ、これらを単独、あるいはブレンド、または共重合して用いることができる。
【0011】
また、このようなポリエステルAには、本発明の効果を損なわない範囲であれば、共重合成分として、イソフタル酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、無水フタル酸、ナフタレンギカルボン酸、トリメリット酸、ピロメリット酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン2酸、4−ヒドロキシ安息香酸、e−カプロラクトン、燐酸等の酸成分、グリセリン、ジエチレングリコール、1,4−ブタンジオール、トリメチルプロパン、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ネオペンチルグリコール、ペンタエリスリトール、2,2−ビス{4−(β−ヒドロキシ)フェニル}プロパンのエチレンオキシド付加体等を共重合していてもよい。
【0012】
そして、融点は220℃以上であり、中でも220〜280℃とすることが好ましい。ポリエステルAの融点が220℃未満になると、複合繊維の乾熱処理後の強度保持率が低くなり、また安定して製糸することが困難となる。さらには、複合繊維を用いて織編物等の繊維構造物を得、この繊維構造物を高温下で用いると、寸法安定性が低下する。
【0013】
さらに、本発明の効果を損なわない範囲であれば、ポリエステルA中に酸化防止剤、艶消し剤、着色剤、滑剤、結晶核剤等の添加剤を含有してもよい。
【0014】
次に、ポリエステルBは、融点がポリエステルAより30℃以上低いものであり、中でも融点130℃〜200℃の結晶性を有する共重合ポリエステルであることが好ましい。
【0015】
ポリエステルAとの融点の差が30℃未満であると、ポリエステルBを熱融着させる際の熱処理温度を高温とする必要があり、ポリエステルAの劣化も生じやすくなるため好ましくない。
【0016】
そして、ポリエステルBとしては、テレフタル酸成分、エチレングリコール成分を含有し、1,4−ブタンジオール成分、脂肪族ラクトン成分及びアジピン酸成分の少なくとも一成分を共重合した共重合ポリエステルであることが好ましい。特にテレフタル酸成分、脂肪族ラクトン成分、エチレングリコール成分及び1,4−ブタンジオール成分からなる共重合ポリエステルは、比較的結晶化速度が速く、紡糸時や熱接着加工後の冷却の面からも好ましい。なお、脂肪族ラクトン成分としては、炭素数4〜11のラクトンが好ましく、特に好ましいラクトンとしては、ε−カプロラクトン(ε−CL)が挙げられる。
【0017】
また、ポリエステルB中にもその効果を損なわない範囲であれば、酸化防止剤、艶消し剤、着色剤、滑剤、結晶核剤の添加剤を含有していてもよい。
【0018】
このようなポリエステルBは結晶性を有しているので、繊維の製造工程においても十分な熱処理を施すことができ、乾熱処理後の強度保持率や収縮率が上記範囲内となる本発明のポリエステル複合繊維とすることができる。
【0019】
本発明のポリエステル複合繊維の芯部と鞘部の質量比率(芯:鞘)は40:60〜80:20である。芯部の比率が乾熱処理後の強度保持性に大きく影響するため、上記の範囲とするものであり、中でも芯:鞘が50:50〜80:20とすることが好ましい。
芯部の比率が40%未満になると、乾熱処理後の強度保持率が低いものとなり、一方、80%を超えると、熱接着性に乏しいものになる。
【0020】
次に、本発明のポリエステル複合繊維は、乾熱処理後の強度保持率が60%以上であり、中でも70%以上であることが好ましい。
【0021】
乾熱処理後の強度が、乾熱処理前の強度の60%未満になると、得られた製品の強度も劣ることになるため、特にフィルター等の用途へ用いる場合、破れる原因となり、また、繰り返し使用する場合には、耐久性にも劣るものとなる。
【0022】
なお、乾熱処理は、温度をポリエステルBの融点+10℃に設定し、無荷重にて15分間、乾熱処理を行うことをいい、繊維の強度は、乾熱処理前と処理後において、JIS L−1013により、定速伸長形の試験機を用い、つかみ間隔25cmで測定するものである。
【0023】
さらに、本発明の芯鞘型ポリエステル複合繊維は、収縮率が20%以下であり、中でも15%以下であることが好ましい。
収縮率が20%を超えると、熱処理により得られる織編物等の製品が寸法安定性に劣るものとなり、また、熱処理により厚みが増加し、薄いシート状の製品を得ることが困難となる。
【0024】
なお、乾熱処理は、温度をポリエステルBの融点+10℃に設定し、無荷重にて15分間、乾熱処理を行うことをいい、糸長は、50mg/デシテックスの荷重をかけて処理前と処理後の繊維の各糸長を測定し、下記式にて算出するものである。
S:収縮率(%)={(MS−GS)/MS}×100
乾熱処理後の長さ(cm)GS、乾熱処理前の長さ(cm):MS
【0025】
本発明の芯鞘型ポリエステル複合繊維は、複合紡糸装置を用いて製造することができ、引取速度1000〜4500m/分で紡糸した後、延伸を施して得ることができる。また、延伸は紡糸した繊維を一旦捲き取った後に延伸機に供給するか、あるいは、紡糸に引き続き、延伸ローラを介して直接延伸を施してから捲き取ることもできる。
【0026】
また、本発明の芯鞘型ポリエステル複合繊維は、複数の単糸からなるマルチフィラメントであっても、1本の単糸からなるモノフィラメントのいずれであってもよい。
【0027】
そして、単糸繊度は1.0〜100デシテックスとすることが好ましく、用途に応じて適宜選定すればよい。
【0028】
さらに、本発明の複合繊維の断面形状は特に限定されるものではなく、通常の丸断面のほか、三角断面形状等の多角形断面形状、あるいは、断面の最外周の一部が突起を形成しているような異形断面形状のものでもよい。
【0029】
本発明の複合繊維は、用途に応じて他の繊維として、ポリエステル、ナイロン、アクリル等の合成繊維、ウール、コットン、レーヨン等の天然繊維や半合成繊維よりなる糸と、交撚、引き揃え、交絡した加工糸としてもよい。
【0030】
そして、本発明の織編物は、上記したような本発明の芯鞘型ポリエステル複合繊維を少なくとも一部に用いた織編物である。
【0031】
本発明の複合繊維のみを加工することなく用いても、上記のように他の繊維とともに加工糸として用いてもよい。
【0032】
本発明の織編物は、本発明の複合繊維で織編物とした後に鞘成分の融点以上の温度で熱処理を行い、本発明の複合繊維の鞘部を溶融させることが好ましい。これにより所望の硬さ、また接着強度及び優れた耐久性を有する織編物を得ることはでき、これら織編物は、フィルター、衣料、衣料芯地、クッション、インテリアカーテン、産業用資材等に用いることができる。
【0033】
そして、織物とする場合は、経糸又は緯糸のみに本発明の複合繊維を用いたものであっても、経糸、緯糸ともに本発明の複合繊維を用いたものであってもよいが、熱処理により得られる織物の寸法安定性を考慮すると、経糸、緯糸ともに本発明の複合繊維を用いたものとすることが好ましい。
【0034】
編物とする場合も、経糸又は挿入糸のみに本発明の複合繊維を用いたものであっても、経糸、挿入糸ともに本発明の複合繊維を用いたものであってもよいが、熱処理により得られる編物の寸法安定性を考慮すると、経糸、挿入糸ともに本発明の複合繊維を用いたものとすることが好ましい。
【0035】
次に、実施例により本発明を具体的に説明する。なお、実施例中の各種の値の測定及び評価は以下のように行った。
1.融点:パーキンエルマー社製DSC−2型(示差走査熱量計)を用いて、昇温速度 20℃/分で測定した。
2.極限粘度:フェノールと四塩化エタンとの等質量混合物を溶媒とし、濃度0.5g/dl、温度20℃で測定した。
3.強度保持率:前記した方法に従って測定、算出した。
4.収縮率:前記した方法に従って測定、算出した。
【0036】
実施例1
ポリエステルAとして、融点が256℃、極限粘度0.64のPETを用い、ポリエステルBとして1,4−ブタンジオールを50mol%共重合したPET〔極限粘度0.78、Tm(融点)181℃、Tg(ガラス転移点)48℃〕を用い、ポリエステルAを芯部にポリマーBを鞘部とし、芯鞘質量比率(芯:鞘)=50:50となるようにして、通常の複合紡糸装置より紡糸温度280℃、紡糸速度3000m/分で溶融紡糸を行った。
未延伸糸を一旦巻き取り、延伸倍率1.85倍、熱処理温度150℃の条件で延伸し、28dtexのモノフィラメントの複合繊維を得た。
得られた複合繊維を経糸と緯糸に用い、ウォータージェットルームの織機を用いて97本/2.54cm×95本/2.54cmの平織物を得た。その後、平織物に公知の方法で精練、プレセット、染色を行った後に、190℃にて仕上げセットを行い、複合繊維の鞘部を溶融させて平織物(製品)を得た。
【0037】
実施例2〜3、比較例3〜4
芯鞘質量比率(芯:鞘)を表1に示す値に変更した以外は、実施例1と同様にして複合繊維を得た。
また、得られた複合繊維を用いて実施例1と同様にして平織物を得た。
【0038】
実施例4
鞘成分を構成するポリエステルBとして、脂肪族ラクトン成分を15mol%共重合したPET〔極限粘度0.74、Tm(融点)160℃、Tg(ガラス転移点)32℃〕を用い、延伸時の熱処理温度を140℃とした以外は、実施例1と同様にして複合繊維を得、また、得られた複合繊維を用いて実施例1と同様にして平織物を得た。
【0039】
比較例1
ポリエステルBとして、テレフタル酸と1,4−ブタンジオールからなるPBT〔極限粘度0.85、Tm(融点)228℃、Tg(ガラス転移点)25℃〕を用いた以外は、実施例1と同様にして複合繊維を得、また、得られた複合繊維を用いて実施例1と同様にして平織物を得た。
【0040】
比較例2
延伸時の延伸倍率を1.7倍、熱処理温度を120℃に変更した以外は実施例1と同様にして複合繊維を得、また、得られた複合繊維を用いて実施例1と同様にして平織物を得た。
【0041】
実施例1〜4、比較例1〜4で得られた複合繊維の評価結果を表1に示す。
【0042】
【表1】

【0043】
表1から明らかなように、実施例1〜4の複合繊維は、強度保持率、収縮率が本発明の範囲内であり、得られた織物は目ずれがなく寸法安定性に優れていた。
【0044】
一方、比較例1の複合繊維は、ポリエステルBの融点が高かったため、比較例2の複合繊維は延伸倍率や熱処理条件が適切でなかったため、乾熱処理後の強度保持率が低く、収縮率が高く、得られた平織物の寸法安定性にも劣るものであった。比較例3の複合繊維は、芯部の比率が低すぎたために、強度保持率が低いものとなった。比較例4の複合繊維は、鞘部の比率が低かったために、接着力が弱いものとなり、得られた織物は寸法安定性に劣るものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルキレンテレフタレート単位を主体とする融点220℃以上のポリエステルAと融点がポリエステルAより30℃以上低いポリエステルBからなり、ポリエステルAを芯部にポリエステルBを鞘部に配した芯鞘型複合繊維であって、芯部と鞘部の質量比率(芯:鞘)が40:60〜80:20であり、下記式に示す乾熱処理後の強度保持率が60%以上、収縮率が20%以下であることを特徴とする芯鞘型ポリエステル複合繊維。
強度保持率(%)=(G/M)×100
G:乾熱処理後の強度(cN/dtex)、M:乾熱処理前の強度(cN/dtex)
収縮率(%)={(MS−GS)/MS}×100
GS:乾熱処理後の長さ(cm)、MS:乾熱処理前の長さ(cm)
【請求項2】
鞘成分を構成するポリエステルBが、テレフタル酸成分、エチレングリコール成分を含有し、1,4−ブタンジオール成分、脂肪族ラクトン成分及びアジピン酸成分の少なくとも一成分を共重合した共重合ポリエステルである請求項1記載の芯鞘型ポリエステル複合繊維。
【請求項3】
請求項1、2いずれかに記載の芯鞘型ポリエステル複合繊維を少なくとも一部に用いた織編物。


【公開番号】特開2008−106394(P2008−106394A)
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−290123(P2006−290123)
【出願日】平成18年10月25日(2006.10.25)
【出願人】(399065497)ユニチカファイバー株式会社 (190)
【Fターム(参考)】