説明

芯鞘型ポリエステル複合繊維

【課題】耐久性に優れ、かつ抗菌性および消臭性を有する芯鞘型ポリエステル複合繊維及びポリエステル布帛を提供する。
【解決手段】芯部がポリエステルA、鞘部がポリエステルBで構成され抗菌・消臭機能を有する芯鞘型ポリエステル複合繊維であり、ポリエステルBの全酸成分に対し、特定の化合物が共重合されていること、TgAとTgBがTgA≧TgB−3℃を満足すること、単糸繊度が5.0dtex以下で、強度が1.0cN/dtex以上であること、芯部の面積SAと鞘部の面積SBとの比が95:5〜50:50の範囲にあること、繊維化後に酸性化処理を施されたものであること、mpAとmpBがmpA≧mpBを満足し、且つηA≧1.1ηBであること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗菌性および消臭性を有する芯鞘型ポリエステル複合繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、抗菌性を有するポリエステル布帛としては、無機系抗菌剤を繊維中に練り込んだ抗菌性ポリエステル繊維で布帛を構成したもの、後加工により無機系抗菌剤を布帛に付与したもの、後加工により天然系抗菌剤を布帛に付与したものなど、種々のものが提案されている(例えば、特許文献1、特許文献2、特許文献3参照)。
【0003】
しかしながら、無機系抗菌剤を繊維中に練り込んだものでは繊維の色調が悪くなるという問題があった。また、銀イオンや亜鉛イオンなどを含む無機系抗菌剤やキトサンなどを含む天然系抗菌剤を後加工により布帛に付与したものでは耐久性の問題があった。さらには、銀イオンや亜鉛イオンなどを含む無機系抗菌剤を使用する場合には、環境上の問題もあった。
【0004】
また、特に近年、織編物の風合い、肌触り、外観等に関する要求がますます高まってきており、単糸繊度が2.0dtex以下の、細繊度のポリエステル仮撚加工糸を用いて柔らかな風合を有する布帛が製造されているが、上述のような抗菌剤を繊維中に練りこんだものは細繊度化が困難で、毛羽等、品質面の問題があり、これまで、スポーツ衣料、ユニフォーム、防塵衣、等の用途、あるいは、肌に直接触れることの多いブラウスやシャツなどの用途において、充分な抗菌性、消臭性と柔らかな風合を両立する布帛は皆無に等しいといっても過言ではないのが現状であった。
【0005】
このような現状に対し、本出願人は特許文献4、5において、芯鞘型の複合繊維の鞘部に特定のスルホン酸化合物を含むポリエステルを用い、それを酸性化処理することにより抗菌性と消臭性を有しながら耐久性にも優れる繊維を提案しているが、酸性化処理後に芯部と鞘部の剥離が起こり、強度保持が十分でなく品位にも劣るものとなるという欠点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平3−241068号公報
【特許文献2】特開2004−190197号公報
【特許文献3】国際公開第97/42824号パンフレット
【特許文献4】特願2010−152891号公報
【特許文献5】特願2010−153940号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記の背景に鑑みなされたものであり、その目的は、実用に十分な強度を有し、耐久性に優れ、かつ抗菌性および消臭性を有する芯鞘型ポリエステル複合繊維およびポリエステル布帛を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は上記の課題を達成するため鋭意検討した結果、抗菌剤を用いなくても特定のスルホン酸化合物を含むポリエステル繊維を酸性化処理することにより耐久性よく優れた抗菌性および消臭性を有するポリエステル布帛が得られることを見出し、さらに鋭意検討を重ねることにより本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明によれば、芯部がポリエステルA、鞘部がポリエステルBで構成される芯鞘型複合繊維であって、下記要件を満足する抗菌・消臭機能を有する芯鞘型ポリエステル複合繊維、が提供される。
(1)ポリエステルBを構成する全酸成分に対して、下記一般式(1)で表されるエステル形成性スルホン酸の金属塩化合物、及び/又は下記一般式(2)で表されるエステル形成性スルホン酸ホスホニウム塩化合物が合計0.1〜10モル%共重合されていること。
【化1】

(式中、Aは芳香族基、又は脂肪族基、Xはエステル形成官能基、XはXと同一、もしくは異なるエステル形成官能基、又は水素原子、Mは金属、mは正の整数を示す)
【化2】

(式中、Aは芳香族基、又は脂肪族基、Xはエステル形成官能基、XはXと同一、もしくは異なるエステル形成官能基、又は水素原子、R、R、R及びRはアルキル基及びアリール基よりなる群から選ばれた同一又は異なる基、nは正の整数を示す)
(2)ポリエステルAのガラス転移温度(TgA)がポリエステルBのガラス転移温度(TgB)が次式を満足すること。TgA≧TgB−3℃
(3)該芯鞘型複合繊維の単糸繊度が5.0dtex以下であること、
(4)該芯鞘型複合繊維の強度が1.0cN/dtex以上であること、
(5)芯部の面積SAと鞘部の面積SBとの比SA:SBが95:5〜50:50の範囲にあること、
(6)繊維化後に酸性化処理を施されたものであること。
(7)芯部を構成するポリエステルAの融点(mpA)と鞘部を構成するポリエステルBの融点(mpB)がmpA≧mpBを満足するものであり、且つポリエステルAの溶融粘度が鞘部を構成するポリエステルBの溶融粘度より少なくとも1.1倍以上であること。
【0010】
好ましくは、エステル形成性スルホン酸の金属塩化合物が、5−ナトリウムスルホイソフタル酸であり、繊維強度が2.0cN/dtex以上、抗菌性が、JIS L1902 菌液吸収法(供試菌:黄色ブドウ球菌)で測定した静菌活性値で2.2以上、消臭性が65%以上であるポリエステル複合繊維が提供される。さらに、本発明の別の発明の形態として、これらの芯鞘型ポリエステル複合繊維を含む布帛および該複合繊維を含む繊維製品が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、抗菌剤を使用しなくても抗菌性および消臭性に優れ、且つ耐久性にも優れたポリエステル繊維及び該繊維を含む布帛ならびに繊維製品が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下本発明の実施形態について詳細に説明する。本発明の芯鞘型ポリエステル複合繊維の芯成分を構成するポリエステルAは、ポリエチレンテレフタレートまたはポリブチレンテレフタレートまたはポリトリメチレンテレフタレートが好ましい。
【0013】
すなわち、テレフタル酸を主たる二官能性カルボン酸成分とし、エチレングリコール、トリメチレンテレングリコール、テトラメチレングリコールなどを主たるグリコール成分とするポリアルキレンテレフタレート系ポリエステルが好ましい。特許第4202361号公報に記載されたポリブチレンテレフタレートをハードセグメントとしポリオキシエチレングリコールをソフトセグメントとするポリエーテルエステルや、ポリブチレンテレフタレートをハードセグメントとし、ポリ(オキシテトラメチレン)グリコールをソフトセグメントとするポリエーテルエステルでもよい。
【0014】
さらには、かかるポリエステルとしては、マテリアルリサイクルまたはケミカルリサイクルされたポリエステルや、特開2004−270097号公報や特開2004−211268号公報に記載されているような、特定のリン化合物およびチタン化合物を含む触媒を用いて得られたポリエステル、ポリ乳酸やステレオコンプレックスポリ乳酸などの脂肪族ポリエステルでもよい。また、テレフタル酸成分の一部を他の二官能性カルボン酸成分で置換えたポリエステルであってもよく、及び/又はグリコール成分の一部を他のジオール化合物で置換えたポリエステルであってもよい。
【0015】
ここで、使用されるテレフタル酸以外の二官能性カルボン酸としては、例えばイソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、β−ヒドロキシエトキシ安息香酸、p−オキシ安息香酸、アジピン酸、セバシン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸の如き芳香族、脂肪族、脂環族の二官能性カルボン酸をあげることができる。
【0016】
また、上記グリコール以外のジオール化合物としては例えばシクロヘキサン−1,4−メタノール、ネオペンチルグリコール、ビスフェノールA、ビスフェノールSの如き脂肪族、脂環族、芳香族のジオール化合物及びポリオキシアルキレングリコール等をあげることができる。
【0017】
さらに、ポリエステルが実質的に線状である範囲でトリメリット酸、ピロメリット酸のごときポリカルボン酸、グリセリン、トリメチロ−ルプロパン、ペンタエリスリトールのごときポリオールなどを使用することができる。
【0018】
かかるポリエステルは任意の方法によって合成される。代表的なポリエステルであるポリエチレンテレフタレート(PET)の場合、通常、テレフタル酸とエチレングリコールとを直接エステル化反応させるか、テレフタル酸ジメチルの如きテレフタル酸の低級アルキルエステルとエチレングリコールとをエステル交換反応させるか又はテレフタル酸とエチレンオキサイドとを反応させるかしてテレフタル酸のグリコールエステル及び/又はその低重合体を生成させる第一段階の反応と、第一段階の反応生成物を減圧下加熱して所望の重合度になるまで重縮合反応させる第二段階の反応によって製造される。
【0019】
鞘成分を構成するポリエステルBとしては、エステル形成性スルホン酸金属塩化合物及びエステル形成性スルホン酸ホスホニウム塩が鞘成分ポリエステルB全酸成分に対して合計0.1〜10モル%共重合されていることが必要である。かかるエステル形成性スルホン酸金属塩化合物としては、下記一般式(1)で表わされるものが好ましいものとしてあげることができる。
【0020】
【化3】

[式中Aは芳香族基又は脂肪族基を示し、好ましくは炭素数6〜15の芳香族炭化水素基または炭素数10以下の脂肪族炭化水素基である。特に好ましいAは、炭素数6〜12の芳香族炭化水素基、とりわけベンゼン環である。Xはエステル形成性官能基を示し、XはXと同一若しくは異なってエステル形成性官能基又は水素原子を示し、なかでもエステル形成性官能基であることが好ましい。Mはアルカリ金属またはアルカリ土類金属であり、mは正の整数である。なかでもMがアルカリ金属(例えばリチウム、ナトリウムまたはカリウム)であり、かつmが1であるものが好ましい]
【0021】
上記一般式(1)で表わされるエステル形成性スルホン酸金属塩化合物の好ましい具体例としては、3,5−ジカルボメトキシベンゼンスルホン酸ナトリウム、3,5−ジカルボメトキシベンゼンスルホン酸カリウム、3,5−ジカルボメトキシベンゼンスルホン酸リチウム、3,5−ジカルボキシベンゼンスルホン酸ナトリウム、3,5−ジカルボキシベンゼンスルホン酸カリウム、3,5−ジカルボキシベンゼンスルホン酸リチウム、3,5−ジ(β−ヒドロキシエトキシカルボニル)ベンゼンスルホン酸ナトリウム、3,5−ジ(β−ヒドロキシエトキシカルボニル)ベンゼンスルホン酸カリウム、3,5−ジ(β−ヒドロキシエトキシカルボニル)ベンゼンスルホン酸リチウム、2,6−ジカルボメトキシナフタレン−4−スルホン酸ナトウリム、2,6−ジカルボメトキシナフタレン−4−スルホン酸カリウム、2,6−ジカルボメトキシナフタレン−4−スルホン酸リチウム、2,6−ジカルボキシナフタレン−4−スルホン酸ナトリウム、2,6−ジカルボメトキシスフタレン−1−スルホン酸ナトリウム、2,6−ジカルボメトキシナフタレン−3−スルホン酸ナトリウム、2,6−ジカルボメトキシナフタレン−4,8−ジスルホン酸ナトリウム、2,6−ジカルボキシナフタレン−4,8−ジスルホン酸ナトリウム、2,5−ビス(ヒドロエトキシ)ベンゼンスルホン酸ナトリウム、α−ナトリウムスルホコハク酸などをあげることができる。上記エステル形成性スルホン酸金属塩化合物は1種のみを単独で用いても、2種以上併用してもよい。
【0022】
またエステル形成性スルホン酸ホスホニウム塩化合物としては下記一般式(2)で表されるものが好ましいものとしてあげることができる。
【0023】
【化4】

(式中、Aは芳香族基、又は脂肪族基、Xはエステル形成官能基、XはXと同一、もしくは異なるエステル形成官能基、又は水素原子、R、R、R及びRはアルキル基及びアリール基よりなる群から選ばれた同一又は異なる基、nは正の整数を示す)
【0024】
上記エステル形成性スルホン酸ホスホニウム塩化合物の好ましい具体例としては、3,5―ジカルボキシベンゼンスルホン酸テトラブチルホスホニウム塩、3,5―ジカルボキシベンゼンスルホン酸エチルトリブチルホスホニウム塩、3,5―ジカルボキシベンゼン整理番号:P42460 特願2009−241464 提出日:平成21年10月20日 7スルホン酸ベンジルトリブチルホスホニウム塩、3,5―ジカルボキシベンゼンスルホン酸フェニルトリブチルホスホニウム塩、3,5―ジカルボキシベンゼンスルホン酸テトラフェニルホスホニウム塩、3,5―ジカルボキシベンゼンスルホン酸ブチルトリフェニルホスホニウム塩、3,5―ジカルボキシベンゼンスルホン酸ベンジルトリフェニルホスホニウム塩、3,5―ジカルボキシベンゼンスルホン酸テトラブチルホスホニウム塩、3,5―ジカルボキシベンゼンスルホン酸エチルトリブチルホスホニウム塩、3,5―ジカルボキシベンゼンスルホン酸ベンジルトリブチルホスホニウム塩、3,5―ジカルボキシベンゼンスルホン酸フェニルトリブチルホスホニウム塩、3,5―ジカルボキシベンゼンスルホン酸テトラフェニルホスホニウム塩、3,5―ジカルボキシベンゼンスルホン酸エチルトリフェニルホスホニウム塩、3,5―ジカルボキシベンゼンスルホン酸ブチルトリフェニルホスホニウム塩、3,5―ジカルボキシベンゼンスルホン酸ベンジルトリフェニルホスホニウム塩、3―カルボキシベンゼンスルホン酸テトラブチルホスホニウム塩、3―カルボキシベンゼンスルホン酸テトラフェニルホスホニウム塩、3―カルボメトキシベンゼンスルホン酸テトラブチルホスホニウム塩、3―カルボメトキシベンゼンスルホン酸テトラフェニルホスホニウム塩、3,5―ジ(β―ヒドロキシエトキシカルボニル)ベンゼンスルホン酸テトラブチルホスホニウム塩、3,5―ジ(β―ヒドロキシエトキシカルボニル)ベンゼンスルホン酸テトラフェニルホスホニウム塩、3―(β―ヒドロキシ整理番号:T42985 特願2010−153940 提出日:平成22年7月6日 5エトキシカルボニル)ベンゼンスルホン酸テトラブチルホスホニウム塩、3―(β―ヒドロキシエトキシカルボニル)ベンゼンスルホン酸テトラフェニルホスホニウム塩、4―ヒドロキシエトキシベンゼンスルホン酸テトラブチルホスホニウム塩、2,6―ジカルボキシナフタレン―4―スルホン酸テトラブチルホスホニウム塩、α―テトラブチルホスホニウムスルホコハク酸等をあげることができる。上記エステル形成性スルホン酸ホスホニウム塩は1種のみを単独で用いても、2種以上併用してもよい。
【0025】
ここでエステル形成性スルホン酸金属塩化合物及びエステル形成性スルホン酸ホスホニウム塩の合計共重合率が0.1モル%未満であれば抗菌性、消臭性が低下し、10モル%を超える場合は繊維強度が低下し好ましくない。
【0026】
鞘成分ポリエステルB中には、本発明の目的を損なわない範囲内で必要に応じて、微細孔形成剤、カチオン染料可染剤、着色防止剤、熱安定剤、蛍光増白剤、艶消し剤、着色剤、吸湿剤、無機微粒子が1種または2種以上含まれていてもよい。
【0027】
上記エステル形成性スルホン酸金属塩化合物及びエステル形成性スルホン酸ホスホニウム塩をポリエステルに共重合するには、前述したポリエステルの合成が完了する以前の任意の段階で、好ましくは第2段階の反応の初期以前の任意の段階で添加すればよい。2種以上併用する場合、それぞれの添加時期は任意でよく、両者を別々に添加しても、予め混合して同時に添加してもよい。また、前記ポリエステルは特開2009−161693号公報に記載されているような常圧カチオン可染性ポリエステルであってもよい。
【0028】
本発明の芯鞘型ポリエステル複合繊維は上記の芯成分ポリエステルAと鞘成分ポリエステルBをチップ化し公知の芯鞘複合紡糸装置を用いて製造することができる。
ここで、ポリエステルAのガラス転移温度(TgA)は、ポリエステルBのガラス転移温度(TgB)に対し次式を満足することが必要である。ガラス転移温度はDSC(示差走査熱量測定)法による測定方法(昇温速度=20℃/分)で求めることができる。
TgA≧TgB−3℃
【0029】
ここでポリエステルAのガラス転移温度(TgA)とポリエステルBのガラス転移温度(TgB)が上記式を満足しない場合は紡糸時に芯鞘の配向度差が顕著となり、後述する酸性化処理における鞘部の劣化が著しく起こる他、芯部の配向度が下がり、結果として芯部と鞘部の剥離を引き起こすこととなる。芯部と鞘部の剥離が起こると布帛とした際に、外観の斑の原因となり、著しく品位が低下する。さらには本発明の複合繊維の強度を担う芯部の配向度が低いと、酸性化処理後の繊維物性も劣るものとなる。
【0030】
また、ポリエステルAの融点(mpA)とポリエステルBの融点(mpB)がmpA≧mpBを満足し、且つポリエステルAの溶融粘度ηAはポリエステルBの溶融粘度ηBの1.1倍以上であることが必要である。ポリエステルA、Bの融点はガラス転移温度と同様にDSC法により求めることができる。溶融粘度はフローテスターなど公知の方法で測定可能であり、紡糸時の温度における剪断速度2000s−1での溶融液の温度を指す。ポリエステルAの融点とポリエステルBの融点が上記式を満足しない場合は、芯鞘複合繊維の紡糸時に鞘部が先に固化し、芯部の配向が下がり酸性化処理時の芯部と鞘部の剥離の原因となり、酸性化処理後の繊維物性も劣るものとなる。また、ポリエステルAの溶融粘度ηAがポリエステルBの溶融粘度ηBの1.1倍未満の場合も同様である。
【0031】
本発明の芯鞘型ポリエステル複合繊維の繊維形態は特に限定されないが、繊維の表面積を大きくして優れた抗菌性や消臭性を得る上で短繊維(紡績糸)よりも長繊維(マルチフィラメント糸)であることが好ましい。
また単繊維の断面形状は特に限定されないが、三角、扁平、くびれ付扁平等、異型断面のほうが、単繊維の表面積が大きくなり好ましい。
【0032】
また本発明の芯鞘型ポリエステル複合繊維の芯成分と鞘成分の繊維軸に直交する断面における面積比は芯成分面積SA:鞘成分面積SB=95:5〜50:50であることが必要である。芯成分が50未満の場合繊維強度が低下し好ましくない。また鞘成分が5未満の場合は抗菌性が低下し好ましくない。
【0033】
また、本発明の芯鞘型ポリエステル複合繊維には、通常の空気加工、仮撚捲縮加工、撚糸が施されていてもさしつかえない。特に、ポリエステル繊維の嵩を高めて繊維の表面積を大きくして優れた抗菌性や消臭性を得る上で、仮撚捲縮加工を施すことは好ましいことである。その際、仮撚捲縮加工糸の捲縮率としては1%以上であることが好ましい。
【0034】
また、本発明の芯鞘型ポリエステル複合繊維の総繊度、単繊維繊度、フィラメント数としては、繊維の表面積を大きくして優れた抗菌性や消臭性を得る上で、総繊度10〜200dtex、単繊維繊度2.0dtex以下(より好ましくは0.0001〜1.5dtex)、フィラメント数30〜50000本(より好ましくは30〜200本)であることが好ましい。
【0035】
本発明の芯鞘型ポリエステル複合繊維は、繊維化後に酸性化処理することが必要であるが、酸性化処理をしない場合は抗菌性、消臭性が発現しないものとなる。酸性化処理を施す条件としては、例えば、酢酸などによりpHが5.0以下(好ましくは2.0〜5.0)に調製された浴中に温度70℃以上(好ましくは80〜130℃、特に好ましくは90〜130℃)、時間20〜40分間で浸漬するとよい。エステル形成性スルホン酸金属塩化合物のイオン部がプロトン化され、ポリエステルが酸性化する。酸性化処理の方法としては効率のよい方法として布帛化後に酸性化処理することが好ましい。その際に使用する設備としては、公知の液流染色機を用いるとよい。
【0036】
本発明の芯鞘型ポリエステル複合繊維は耐久性が高い為単独で用いても良く、他の繊維と共に用いて布帛することもできる。その際本発明の芯鞘型ポリエステル複合繊維の含まれる量は布帛全重量に対して10%以上であることが好ましい。他の繊維としては公知のポリエステル繊維、ナイロン、天然繊維等を用いることができる。本発明の芯鞘型ポリエステル複合繊維の含む量が10%未満であると抗菌性、消臭性は得られず好ましくない。布帛の目付としては、優れた抗菌性や消臭性を得る上で大きいほうがよく、50g/m以上(より好ましくは100〜250g/m)であることが好ましい。
【0037】
また、布帛の組織は特に限定されず、織物でもよいし編物でもよいし不織布でもよい。例えば、織物の織組織では、平織、斜文織、朱子織等の三原組織、変化組織、変化斜文織等の変化組織、たて二重織、よこ二重織等の片二重組織、たてビロード、タオル、ベロア等のたてパイル織、別珍、よこビロード、ベルベット、コール天等のよこパイル織などが例示される。なお、これらの織組織を有する織物は、レピア織機やエアージェット織機など通常の織機を用いて通常の方法により製織することができる。層数も特に限定されず単層でもよいし2層以上の多層構造を有する織物でもよい。
【0038】
また、優れた抗菌性や消臭性を得る上で、経糸のカバーファクターおよび緯糸のカバーファクターがいずれも500〜5000(さらに好ましくは、500〜2500)であることが好ましい。なお、本発明でいうカバーファクターCFは下記の式により表されるものである。
経糸カバーファクターCFp=(DWp/1.1)1/2×MWp
緯糸カバーファクターCFf=(DWf/1.1)1/2×MWf
[DWpは経糸総繊度(dtex)、MWpは経糸織密度(本/2.54cm)、DWfは緯糸総繊度(dtex)、MWfは緯糸織密度(本/2.54cm)である。]
【0039】
また、編物の種類では、よこ編物であってもよいし、たて編物であってもよい。よこ編組織としては、平編、ゴム編、両面編、パール編、タック編、浮き編、片畔編、レース編、添え毛編等が好ましく例示され、たて編組織としては、シングルデンビー編、シングルアトラス編、ダブルコード編、ハーフトリコット編、裏毛編、ジャガード編等が好ましく例示される。なお、製編は、丸編機、横編機、トリコット編機、ラッシェル編機等など通常の編機を用いて通常の方法により製編することができる。層数も特に限定されず単層でもよいし2層以上の多層構造を有する編物でもよい。
【0040】
布帛を2層以上の多層構造織編物として、各層を構成する繊維の単繊維繊度を異ならせたり、密度を異ならせることにより、毛細管現象による吸水性を高めることも好ましいことである。また、布帛を多層構造とし、使用の際に肌側(裏側)に位置する層に本発明の芯鞘型ポリエステル複合繊維を配することは好ましいことである。
【0041】
また、かかる布帛には、前記酸性化処理の前及び/又は後の工程において、常法の染色加工、精練、リラックス、プレセット、ファイナルセットなどの各種加工を施してもよい。
さらには、起毛加工、撥水加工、カレンダー加工、紫外線遮蔽あるいは制電剤、抗菌剤、消臭剤、防虫剤、蓄光剤、再帰反射剤、マイナスイオン発生剤等の機能を付与する各種加工を付加適用してもよい。
【0042】
なかでも、前記酸性化処理の後の工程において、布帛に親水加工(吸汗加工)を施すと、さらに優れた抗菌性および消臭性および防汚性が得られ好ましい。親水加工としては、PEGジアクリレートおよびその誘導体やポリエチレンテレフタレート−ポリエチレングリコール共重合体などの親水化剤を染色時に同浴加工などにより、布帛重量に対して0.25〜0.50重量%付着させることが好ましい。
【0043】
かくして得られた本発明の芯鞘型ポリエステル複合繊維を含む布帛は、耐久性よく優れた抗菌性および消臭性および防汚性を有する。そのメカニズムはまだ十分には解明されていないが、ポリエステル布帛が酸性化されることにより、菌の生育が抑制されまた臭い成分の発生が抑制されるのではないかと推定している。
【0044】
かくして得られた布帛において、酸性化処理を施した後の布帛に含まれる本発明の芯鞘型ポリエステル複合繊維の引張強さは1.0cN/dtex以上、好ましくは2.0cN/dtex以上であることがスポーツ用として用いる場合望ましい。
【0045】
かかる布帛は、布帛のpHが7.0未満であるので、耐久性よく優れた抗菌性および消臭性を有する。その際、ポリエステル布帛の抗菌性としては、JIS L1902 菌液吸収法(供試菌:黄色ブドウ球菌)で測定した静菌活性値で2.2以上であることが好ましい。
【0046】
また、ポリエステル布帛の消臭性としては65%以上であることが好ましい。消臭性は、初期濃度100ppmのアンモニアを含む空気3Lが入ったテドラーバッグに、10cm×10cmの正方形の試料を入れ、2時間後のテドラーバッグ内の悪臭成分濃度をガステックス社製検知管にて測定し、減少量から臭気吸着率を求める。
【0047】
さらに、本発明の芯鞘型ポリエステル複合繊維を含む繊維製品としては、前記の布帛を用いてなる、スポーツウェア、アウトドアウェア、レインコート、傘地、紳士衣服、婦人衣服、作業衣、防護服、人工皮革、履物、鞄、カーテン、防水シート、テント、カーシートの群より選ばれるいずれかの繊維製品や衛生用品としても有用である。かかる繊維製品は、前記の布帛を用いているので、耐久性よく優れた抗菌性および消臭性および防汚性を有している。
【実施例】
【0048】
以下、実施例および比較例をあげて本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。各測定値は以下の方法で測定される値である。
【0049】
(1)繊維の引張強度・伸度
JIS L1070記載の方法に準拠して測定を行った。
【0050】
(2)ポリエステル布帛の目付
JIS L1096によりポリエステル布帛の目付(g/m)を測定した。
【0051】
(3)芯鞘面積比率、剥離比率
マルチフィラメントの50本の単糸について、500倍の繊維の断面写真から、各々芯及び鞘の面積をSA、SBとして測定し、その平均値から芯成分と鞘成分の面積比率(SA:SB)を芯鞘面積比率として求めた。また、芯部と鞘部の剥離が明確に見られる本数の割合を算出し、剥離比率として求めた。
【0052】
(4)抗菌性
ポリエステル布帛について、JIS L1902 菌液吸収法(供試菌:黄色ブドウ球菌)で静菌活性値および殺菌活性値を測定した。静菌活性値は2.2以上が合格(○)、2.2未満が不合格(×)とした。
【0053】
(5)消臭率
初期濃度100ppmのアンモニアを含む空気3Lが入ったテドラーバッグに、10cm×10cmの正方形の試料を入れ、2時間後のテドラーバッグ内の悪臭成分濃度をガステックス社製検知管にて測定し、下記式のように減少量から臭気吸着率を求めた。
臭気吸着率(%)=
(当初の悪臭成分濃度−2時間後の悪臭成分濃度)/(当初の悪臭成分濃度)×100
【0054】
[実施例1]
テレフタル酸ジメチル100重量部、5−ナトリウムスルホイソフタル酸ジメチル4.1重量部とテトラメチレングリコール90重量部の混合物に、酢酸マンガン0.03重量部、酢酸ナトリウム三水和物0.12重量部を添加し、140℃から240℃まで徐々に昇温しつつ、反応の結果生成するメタノールを系外に留出させながらエステル交換反応を行った。その後、正リン酸0.03重量部を添加し、エステル交換反応を終了させた。その後、反応生成物に三酸化アンチモン0.05重量部と5−スルホイソフタル酸テトラブチルホスホネート2.8重量部と水酸化テトラエチルアンモニウム0.3重量部とトリエチルアミン0.003重量部を添加して重合容器に移し、285℃まで昇温し、30Pa以下の高真空にて重縮合反応を行い、重合槽の攪拌機電力が所定電力に到達、もしくは所定時間を経過した段階で反応を終了させ、常法に従いチップ化した。ならびに、酸化チタン微粒子を0.3重量%含む、固有粘度0.84(35℃、オルソクロロフェノール中)のポリエチレンテレフタレートチップを常法により乾燥した後、該チップを紡糸設備にて各々常法で溶融し、スピンブロックを通して、おのおの複合繊維用スピンパックに導入した。該スピンパックに組み込まれた芯鞘型複合円形吐出孔を72個穿設した紡糸口金から吐出された糸条を、冷却風により冷却・固化し、紡糸油剤を付与しつつ一つの糸条として集束し、3000m/minの速度(ドラフト倍率:200)で引き取り、72フィラメントの芯/鞘の面積比率が70:30であるポリエステル芯鞘型複合未延伸糸を得た。該ポリエステル未延伸糸に、公知の仮撚延伸加工を施すことにより、総繊度84dtexのポリエステル仮撚加工糸を得た。次いで、28G丸編機を使用し、前記ポリエチレンテレフタレート仮撚加工糸を用いてスムース丸編地を編成した後、該編地を、酢酸によりpHが4.8に調製された浴中に温度130℃、時間30分間で浸漬することにより、酸性処理を施した。繊維の芯部と鞘部の剥離は見られず、次いで、該編地に、常法の染色仕上げ加工を施した。得られた編地において、目付は200g/mであり、表1に示すように、優れた抗菌性、消臭性を有し、且つ染色性が良好で、毛羽の少ない、良品質の布帛を得た。
該編地を用いてスポーツウェア(Tシャツ)を縫製して着用したところ、優れた抗菌性、消臭性を有していた。結果を表1に記す。
【0055】
[実施例2〜3、比較例1〜5]
実施例1においてスルホイソフタル酸化合物の添加量、およびポリエステル種を表1の示すように変更した事以外は実施例1と同様に繊維、編地を作成し、評価した。結果を表1に示す。
【0056】
表1に示す通り、本発明の範囲内である実施例1〜3は、良好な抗菌性、消臭性を示し、酸性化処理後の芯部と鞘部の剥離も殆どみられず、良好な繊維物性を示している。これに対し、芯部と鞘部のポリエステルのガラス転移温度が(TgA≧TgB−3℃)を満足しない比較例1は、抗菌性、消臭性は発現するものの鞘部の剥離がかなり多くみられ、品位が著しく低下したばかりでなく未配向の芯部の物性が顕著となり取り扱い性に劣るものとなった。比較例4は芯部と鞘部のガラス転移点が(TgA≧TgB−3℃)を満足するが芯部の鞘部に対する粘度比が低く、同様に鞘部の剥離が多く見られ品位に劣るものとなった。また、鞘部にエステル形成性スルホン酸化合物が共重合されていないものを用いた比較例2や、酸性化処理を施さない比較例5では抗菌性、消臭性は発現せず、本発明の範囲以上のエステル形成性スルホン酸化合物を共重合したポリエステルを用いた比較例3は、鞘部の劣化が激しく剥離が顕著となり、物性、品位に劣るものとなった。
【0057】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明の芯鞘型ポリエステル複合繊維は、抗菌剤を用いなくても特定のスルホン酸化合物を含むポリエステル繊維を酸性化処理することにより耐久性よく優れた抗菌性および消臭性を有するので、本発明の繊維を使用したポリエステル布帛はスポーツ衣料、ユニフォーム、防塵衣、等の用途、あるいは、肌に直接触れることの多いブラウスやシャツなどの用途に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯部がポリエステルA、鞘部がポリエステルBで構成される芯鞘型複合繊維であって、下記要件を満足することを特徴とする抗菌・消臭機能を有する芯鞘型ポリエステル複合繊維。
(1)ポリエステルBを構成する全酸成分に対して、下記一般式(1)で表されるエステル形成性スルホン酸の金属塩化合物、及び/又は下記一般式(2)で表されるエステル形成性スルホン酸ホスホニウム塩化合物が合計0.1〜10モル%共重合されていること。
【化1】

(式中、Aは芳香族基、又は脂肪族基、Xはエステル形成官能基、XはXと同一、もしくは異なるエステル形成官能基、又は水素原子、Mは金属、mは正の整数を示す)
【化2】

(式中、Aは芳香族基、又は脂肪族基、Xはエステル形成官能基、XはXと同一、もしくは異なるエステル形成官能基、又は水素原子、R、R、R及びRはアルキル基及びアリール基よりなる群から選ばれた同一又は異なる基、nは正の整数を示す)
(2)ポリエステルAのガラス転移温度(TgA)とポリエステルBのガラス転移温度(TgB)が次式を満足すること。TgA≧TgB−3℃
(3)該芯鞘型複合繊維の単糸繊度が5.0dtex以下であること。
(4)該芯鞘型複合繊維の強度が1.0cN/dtex以上であること。
(5)芯部の面積SAと鞘部の面積SBとの比SA:SBが95:5〜50:50の範囲にあること。
(6)繊維化後に酸性化処理を施されたものであること。
(7)芯部を構成するポリエステルAの融点(mpA)と鞘部を構成するポリエステルBの融点(mpB)がmpA≧mpBを満足するものであり、且つポリエステルAの溶融粘度が鞘部を構成するポリエステルBの溶融粘度より少なくとも1.1倍以上であること。
【請求項2】
エステル形成性スルホン酸の金属塩化合物が、5−ナトリウムスルホイソフタル酸である請求項1に記載の芯鞘型ポリエステル複合繊維。
【請求項3】
繊維強度が2.0cN/dtex以上である、請求項1〜2いずれかに記載の芯鞘型ポリエステル複合繊維。
【請求項4】
抗菌性が、JIS L1902 菌液吸収法(供試菌:黄色ブドウ球菌)で測定した静菌活性値で2.2以上である、請求項1〜3いずれかに記載の芯鞘型ポリエステル複合繊維。
【請求項5】
消臭性が65%以上である、請求項1〜4いずれかに記載の芯鞘型ポリエステル複合繊維。
【請求項6】
請求項1〜5いずれかに記載の芯鞘型ポリエステル複合繊維を含む布帛。
【請求項7】
請求項1〜6いずれかに記載の芯鞘型ポリエステル複合繊維を含む繊維製品。

【公開番号】特開2012−112055(P2012−112055A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−260087(P2010−260087)
【出願日】平成22年11月22日(2010.11.22)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】