説明

芯鞘複合繊維からなる捲縮糸およびそれを用いた織物

【課題】従来の偏芯型複合繊維では達成できなかった、耐熱性および耐摩耗性を改善させることを課題とし、生分解性の脂肪族ポリエステルを主成分とする複合繊維で構成された織物およびその製造方法を提供する。
【解決手段】芯部Aを形成する熱可塑性重合体が融点200℃以下の脂肪族ポリエステルであり、鞘部Bを形成する熱可塑性重合体が融点200℃以上の結晶性ポリエステルである芯鞘複合繊維からなる捲縮糸であって、該鞘部の偏厚率γが下記の式(1)を満足することを特徴とする捲縮糸。(1) γ=b/a=1〜3 (b:外円と内円の最大幅a:外円と内円の最小幅)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脂肪族ポリエステルの捲縮糸、それからなる織物およびその製造方法である。
【0002】
さらに詳しくは、該脂肪族ポリエステルが芯に用いられた芯鞘型断面繊維の捲縮糸から構成され、耐熱性、耐摩耗性とストレッチ性および防風性に優れた織物およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0003】
近年、自然環境の中で分解できる繊維素材の開発が切望されている。その中、ポリ乳酸を代表とする脂肪族ポリエステルを中心に生分解性繊維の開発が進められてきた。
【0004】
しかしながら、汎用衣料用繊維として脂肪族ポリエステル、特にポリ乳酸を用いて織物にする場合、ポリエステルやナイロン繊維と比較すると、いくつかの欠点を有している。この中に大きなものとして、耐熱性や耐摩耗性が低いことが指摘されている。これらの欠点を補うため、汎用ポリマーとの複合紡糸が提案されている。また、目的は異なるものの、特許文献1には、ポリトリメチレンテレフタレート成分とポリ乳酸成分との偏心芯鞘型の複合繊維が記載されている。これは芯を形成するポリ乳酸を、鞘を形成する高融点のポリトリメチレンテレフタレートが被覆した偏心芯鞘型複合形態をとるため、結果的には従来のポリ乳酸繊維よりは耐熱性に優れたものとなっている。しかしながら、芯、鞘各成分の収縮率差を利用したスパイラル捲縮糸であるためシワ・シボが出やすく寸法安定性が悪いといった欠点があるばかりでなく、偏心構造により部分的に薄皮となる部分で複合界面が剥離しやすく、そのため被膜強度が弱く、十分な耐熱性及び耐摩耗性の織物を得ることは出来ていない。
【特許文献1】特開2003−82530号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記従来の生分解性の脂肪族ポリエステルを成分とする偏芯型の複合繊維では達成できなかった、耐熱性および耐摩耗性をを有し、さらにストレッチ性、嵩高性を有する織物を得ることを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記本発明の課題は、以下の構成を採用することによって達成することができる。すなわち、
(1)芯部Aを形成する熱可塑性重合体が融点200℃以下の脂肪族ポリエステルであり、鞘部Bを形成する熱可塑性重合体が融点200℃以上の結晶性ポリエステルである芯鞘複合繊維からなる捲縮糸であって、該鞘部の偏厚率γが下記の式(I)を満足することを特徴とする捲縮糸。
【0007】
(I)γ=b/a=1〜3 (b:外円と内円の最大幅
a:外円と内円の最小幅)
(2)芯部Aを形成する脂肪族ポリエステルがポリ乳酸であることを特徴とする前記(1)に記載の捲縮糸。
(3)鞘部Bを形成する結晶性ポリエステルがポリトリメチレンテレフタレートであることを特徴とする前記(1)または(2)記載の捲縮糸。
(4)仮撚加工により伸縮復元率(CR2)および伸長弾性率が下記の式(II)、(III)を同時に満足することを特徴とする請求項1〜3のいずれか記載の捲縮糸。
【0008】
(II)5≦伸縮復元率(CR2)≦20
(III)10%伸長時の伸長弾性率 ≧80%
(5)トータル繊度が33〜170dtexであることを特徴とする請求項1〜5に記載の捲縮糸。
(6)前記(1)〜(4)のいずれかに記載の捲縮糸をタテ糸および/またはヨコ糸に用いた織物。
(7)タテ糸とヨコ糸の総カバーファクター率(C・F)が1700〜3000で、ストレッチ率が5〜30%であり、摩擦堅牢度が3級以上のあり(JIS規格)、かつ通気度が1.0cc/cm・S未満であることを特徴とする請求項6に記載の織物。
(8)芯部Aを形成する熱可塑性樹脂が融点200℃以下の脂肪族ポリエステルおよび鞘部Bを形成する熱可塑性樹脂が融点200℃以上の結晶性ポリエステルからなり、該鞘部の偏厚率γが下記の式Iを満足する芯鞘複合繊維に仮撚加工を施して、伸縮復元率(CR2)および伸長弾性率が下記の式II、IIIを同時に満足する捲縮糸とし、該捲縮糸をタテ糸および/またはヨコ糸に使用して製織することを特徴とする織物の製造方法。
【0009】
(I)γ=b/a=1〜3(b:外円と内円の最大幅
a:外円と内円の最小幅)
(II)5≦伸縮復元率(CR2)≦20
(III)10%伸長時の伸長弾性率 ≧80%
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、捲縮糸の耐熱性、耐摩耗性が改善されることで、製品にした場合優れた耐熱性、耐摩耗性および嵩高性を与えることを可能とし、さらに整経、製織などの製布での工程通過性に優れて、高密度織物にしても布帛にストレッチ性を付与することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の捲縮糸および織物を実施するための最良の形態について、詳細に説明する。
本発明において、捲縮糸は、融点200℃以下の脂肪族ポリエステルが芯部Aを形成し、その廻りに鞘部Bとして融点200℃以上の結晶性ポリエステルで覆われた芯鞘型複合繊維であることが重要である。
【0012】
芯鞘型複合繊維の断面形状は丸断面、またいずれの異型断面でもよく、その中でも図2(a)〜(c)に示した丸、楕円、三角断面であることが好ましい、さらに丸断面であることがより好ましい。なお、芯部の断面形状は、芯部が露出しにくいという点から、丸、楕円などの丸みのある形状が好ましく、丸が最も好ましい。本発明の芯鞘型の捲縮糸において、後述する測定方法に基づく鞘部の偏厚率γが芯糸の被覆状況を表す計測値であり、その偏厚率γが下記式(1)を満たすことが重要である。
(1) γ=b/a=1〜3 (b:外円と内円の最大幅
a:外円と内円の最小幅)
ここで、図2に示されるように、外円とは芯鞘型複合繊維の外郭線であり、内円とは芯部分と鞘部分の境界線である。外円と内円の最大幅bとは鞘部の最も厚みが大きな部分(厚皮)の厚みであり、外円と内円の最小幅aとは鞘部の最も厚みが小さな部分(薄皮)の厚みと言い換えることもできる。すなわち、芯部と鞘部が同中心の完全円形であれば偏厚率γは1となる。
【0013】
背景技術に述べたように、特許文献1に記載された偏芯型複合繊維はポリ乳酸100%の繊維より耐熱性および耐摩耗性に優れているが、偏心構造により鞘部が部分的に薄皮および厚皮となる部分が出ており、そのため、仮撚加工すると部分的に不均一な捲縮が発現する。そして、布帛にした際に、シワ・シボが出やすく寸法安定性が悪いといった欠点がある。または、偏心構造により、薄皮部分の被膜強度が弱く、摩擦を受ける際に、鞘部分の破れが生じ、染まっていない芯部分が出てきて、布帛が白く見られるという白化現象も発生するということから、十分な耐熱性および耐摩耗性のある織物が得られず、実用性に乏しいと言える。
【0014】
本発明における芯鞘型複合繊維では、偏厚率γが1〜3であることが必要である。この範囲であれば、芯糸の廻りに充分な皮膜があり、上記したシワ・シボのような欠点を改善できて、芯部分および鞘部分の剥離により発生した白化現象も抑えることができる。そして、実用性に適用する高い耐熱性と耐摩耗性が得られる。さらに好ましくは、偏厚率γが1に近づくほど、すなわち、同心になる方がより高い耐熱性と耐摩耗性が得られる。一方、偏厚率γが3を超えると、部分的に充分な厚さの皮膜(鞘部)が得られず、できた織物製品には、目的である高い耐熱性と耐摩耗性が得られず、実用性に乏しい。芯鞘型複合繊維のより好ましい偏厚率は、1〜2である。
【0015】
芯鞘型複合繊維の芯部Aを形成する融点200℃以下の脂肪族ポリエステルとは、脂肪族アルキル鎖がエステル結合で連結された熱可塑性重合体のうち融点が200℃以下のものをいい、例えばポリ乳酸、ポリヒドロキシブチレート、ポリブチレンサクシネート、ポリグリコール酸、ポリカプロラクトン等が挙げられる。このうち、前記したように耐熱性、耐摩耗性及び製造コストの面からポリ乳酸が好ましい。
【0016】
また、脂肪族ポリエステルの性質を損なわない範囲で、主成分以外の成分を共重合していてもよい。ポリ乳酸を用いる場合、バイオマス利用、生分解性の観点から、ポリ乳酸中の乳酸モノマー比率は50重量%以上とすることが好ましい。乳酸モノマーは好ましくは75重量%以上、より好ましくは96重量%以上である。また、ポリ乳酸以外の熱可塑性重合体をブレンドしたりしてもよい。
脂肪族ポリエステルには、さらに改質剤として、粒子、難燃剤、帯電防止剤、抗酸化剤や紫外線吸収剤等の添加物を含有していてもよい。また、分子量は繊維を形成するに十分な分子量があればよいが、例えばポリ乳酸の場合、分子量は、重量平均分子量で5万〜35万であると、力学特性と成形性のバランスがよく好ましく、10万〜25万であると、より好ましい。
【0017】
本発明に用いるポリ乳酸の製造方法は、公知の方法を用いることができ、特に限定されない。具体的には、特開平6−65360号公報に開示されている方法が挙げられる。すなわち、乳酸を有機溶媒及び触媒の存在下、そのまま脱水縮合する直接脱水縮合法である。また、特開平7−173266号公報に開示されている少なくとも2種類のホモポリマーを重合触媒の存在下、共重合並びにエステル交換反応させる方法である。さらには、米国特許第2,703,316号明細書に開示されている方法がある。すなわち、乳酸を一旦脱水し、環状二量体とした後に、開環重合する間接重合法である。
ポリ乳酸の融点が特開平6−65360号公報に述べられた通りに低いことから、繊維材料としてはアイロンでの温度制限や布帛加工工程での融着が問題視されている。しかし、それ以外にもポリ乳酸繊維の耐熱性の悪さから、例えばTg以上の温度環境下で使用する場合の寸法変化が大きいこと、サイジング工程などで布帛が伸びてしまうなど、融点以下の温度においても、軟化が早期に始まってしまうことも大きな問題であった。
【0018】
また、ポリ乳酸は耐摩耗性が悪く、摩擦体との摩擦によって容易に削れるという問題がある。このため、摩擦を前提とする衣料用途や資材用途等への事業展開に制約が生じている。ポリ乳酸100%で作られた布帛では、染色に対する摩擦堅牢度(学振型摩擦試験)は1級と非常に悪く、これは汎用の合成繊維であるPETやナイロン(4級以上)とは比較にならない程低いレベルであると言える。
【0019】
このような耐熱性および耐摩耗性を改善するため、本発明ではポリ乳酸を芯部とし、その廻りに結晶性ポリエステルの鞘部で覆うという構成を有する。
【0020】
芯鞘型複合繊維の鞘部Bを形成する熱可塑性重合体は、融点200℃以上の結晶性ポリエステルであることが必要である。結晶性ポリエステルとは、例えばジカルボン酸成分とグリコール成分からなるポリエステルであって、ジカルボン酸成分としてテレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸等の芳香族ジカルボン酸成分等を用いることができる。また、グリコール成分として、例えばエチレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,2−プロピレングリコール等を用いることができる。これらのグリコール成分は1種類でもよく、2種類以上併用してもよい。ただし、前記した様に結晶性ポリエステルの融点は200℃以上であることが必須であり、芯成分との複合紡糸を容易にするため融点は205〜260℃であることが好ましい。より好ましくは210〜240℃である。また、耐熱性の向上とともに耐摩耗性を向上させるためには、結晶性ポリエステルの中でもポリエチレンテレフタレート(以下、PETと記載)、ポリトリメチレンテレフタレート(以下、PTTと記載)、ポリブチレンテレフタレート(以下、PBTと記載)を用いることが好ましい。その中でも、芯部を形成する脂肪族ポリエステルとの界面剥離を生じにくく、繰り返し屈曲に対する耐久性に優れるという点で、PTTを用いることが最も好ましい。PTTは、柔軟性とともに繊維長手方向での伸長回復性に優れるため複合界面で歪みエネルギーを蓄えにくいという特性をもつ。さらに仮撚加工により高い伸縮性や嵩高性を付与することが容易であるとともに、低温染色が可能なため、一般に加水分解しやすい脂肪族ポリエステルにダメージを与えず染色が可能であるという利点を有する。
【0021】
なお、結晶性ポリエステルはホモポリマーでもよいが、前記ポリマーに柔軟性を付与するためにエラストマーをブレンドしたり、共重合ポリマーにすることも好ましい。さらには粒子、難燃剤、帯電防止剤、抗酸化剤や紫外線吸収剤等の添加物を含有していてもよい。
【0022】
本発明における芯鞘型複合繊維は、芯鞘複合比(重量比)において、芯部Aは80%以下であることで、高い耐熱性が得られる。芯部の脂肪族ポリエステルの比率と耐熱性には明確な相関関係がみられ、比率が少なければ耐熱性が向上する。一方、芯部Aの下限は特に限定されないが、脂肪族ポリエステルの特性を損なわないという点で50%以上が好ましい。
本発明の捲縮糸は、トータル繊度が33〜170dtexのマルチフィラメントとすることが好ましい。トータル繊度が33dtex未満であると織物とした場合に毛羽発生等の品質問題を起こしやすく、一方、トータル繊度が170dtexを超えると目的とするソフト感のある織物が得られない。より好ましいトータル繊度は、60〜120dtexである。
【0023】
本発明の捲縮糸は、単繊維繊度が1〜5dtexのマルチフィラメントとすることが好ましい。単繊維繊度が1dtex未満であると、単繊維1本1本の精度が低下するため品質問題を起こしやすく、一方、単繊維繊度5より大きくなると目的とするソフト感のある織物が得られない。より好ましいトータル繊度は、2〜4dtexである。
【0024】
さらに、本発明における芯鞘型複合繊維は、仮撚などの糸加工を施すのが好ましく用いられる。仮撚加工は公知の仮撚り加工方法を用いることができ、中でもベルトニップ型摩擦仮撚具を好ましく用いることができる。
【0025】
次に好ましい仮撚加工法を図1をもって説明する。図1の装置には必要に応じて各種ガイド、張力制御装置、流体処理装置、給油装置などを配置すればよい。
【0026】
第1ヒーター4の温度は90〜150℃の範囲であることが好ましい。第1ヒーターの温度が90℃以上であると、得られる捲縮糸を熱セットすることができ、下記の式(2)捲縮特性(CR2)、(3)伸長弾性率共に優れたものが得られる。一方、150℃以下にすることで、第1ヒーター上での糸の軟化や強度低下を起こすことなく、良好な力学特性及び品位の捲縮糸が得られる。第1ヒーター4の温度は、上記理由から100〜145℃がより好ましく、110〜140℃であれば更に好ましい。
【0027】
また、第1ヒーター4が非接触式であると、擦過抵抗による糸切れを抑制できるため、より好ましい。非接触ヒーターを第1ヒーター4に用いた場合は、ヒーター温度は150〜350℃であることが好ましい。第1ヒーター4の温度を150℃以上にすることで、本発明の捲縮糸の捲縮特性(CR2)と伸長弾性率を同時に満足することができる。一方350℃以下にすることで、糸切れせずに安定して仮撚加工を行うことができる。よって、非接触式の場合ヒーター温度は160〜330℃がより好ましく、170〜300℃であればさらに好ましい。
【0028】
また、仮撚加工での供給ローラー2と延伸ローラー7の速度比、すなわち加工倍率は、1.1〜1.8倍であることが好ましい。加工倍率が1.1倍以上であると、仮撚加工における加撚張力(T1)を高め、第1ヒーター4内での糸条に高い撚数を与えるため、捲縮特性(CR2)に優れた捲縮糸となる。また、加工倍率を1.8倍以下にすることで、安定した仮撚加工を施すことが可能となり、毛羽の少ない品位に優れた捲縮糸を得ることができる。加工倍率はより好ましくは1.15〜1.7倍、更に好ましくは1.2〜1.6倍である。
【0029】
また、高次工程において低い熱収縮率(SW)が要求される用途においては、前記した様に第2ヒーター8を設けることが必要となる。このとき、第2ヒーター8の温度は80〜140℃であることが好ましい。
【0030】
捲縮糸の沸水収縮率(SW)は、第2ヒーター8の温度設定と、後述するオーバーフィード率(以下、OF率2と記載)とにより制御することが可能であるが、第2ヒーター温度が80℃未満ではその効果は小さい。また、140℃以下にすることで、糸切れなく安定して加工することができる。また、同時に第2ヒーターの温度とOF率2の最適化により残留トルクを低く抑えることが可能となる。第2ヒーターの温度は90〜130℃であることがより好ましく、95℃〜120℃であればさらに好ましい。
【0031】
また、下式より求まる前記OF率2は、10〜30%であることが好ましい。
【0032】
OF率2(%)=(V2−V3)/V2×100
V2:フィードローラー7の周速度
V3:巻取ローラ9の周速度
OF率2が10%以上であれば得られる捲縮糸の熱収縮率(SW)を低下させ、寸法安定性を向上させることができるとともに、残留トルクを低下させ、さらには巻き取られた捲縮糸の遅延回復率を低下させることが可能となる。一方、OF率2が30%以下であれば、ヒーターとの接触による糸切れや単繊維間融着を防止し、糸条の走行安定性を向上させることができる。OF率2は12〜25%であればより好ましく、15〜20%であれば更に好ましい。
【0033】
また、施撚体6の周速度(D)と、フィードローラー7の速度(Y)の比(以下、D/Yと記載)は1.1〜2.0の範囲とすることが好ましい。D/Yを1.1以上にすることで、加撚張力と解撚張力のバランスがよく、毛羽、糸切れの無い仮撚加工を行うことができる。またD/Yを2.0以下にすることで、施撚体6の表面摩耗が抑制され、数百時間に及ぶ連続運転においても糸長手方向の斑がなく、糸の削れや、毛羽、糸切れのない仮撚加工が可能となる。D/Yはより好ましくは1.15〜1.8であり、さらに好ましくは1.2〜1.7である。
【0034】
本発明の捲縮糸の製造方法において、デリベリローラー7のオーバーフィード率(以下、OF率2と記載)はOF率1の設定により適宜最適化する必要がある。第2ヒーターを用いず、弛緩熱処理を行わない場合はOF率2は高く設定することが必要であり、概ね10〜35%が好ましい。また、第2ヒーターを用い、弛緩熱処理を行った場合は、OF率2は0〜25%が好ましい。OF率2は、デリベリローラー26とチーズ29との間で糸条が弛むことなく、安定して巻き取ることができればよく、糸条張力が0.02〜0.10cN/dtexになる様に巻き取ることで、巻き取り糸の遅延回復率を低下させ、巻き締まりによる繊維物性の内外層差を低減できる。さらに、サドルやバルジを抑え、良好な巻き姿のパッケージが得られる。
【0035】
上記方法にて得られた捲縮糸は、高次工程での工程通過性、例えば織編用に供する場合には繊維と糸道ガイド、編み針等との擦過をできるだけ抑制するため、追油を行うことが好ましい。適用する油剤としては、繊維−金属間摩擦係数の低減効果の高い平滑剤を含有した油剤を用いることが好ましい。例えば脂肪酸エステル、多価アルコールエステル、エーテルエステル、シリコーン、鉱物油等が好ましい。
【0036】
上記方法にて得られた捲縮糸の伸縮復元率(CR2)および伸長弾性率が下記の式(2)、(3)を同時に満足する捲縮糸になるものである。
(2) 5≦伸縮復元率(CR2)≦20
(3) 10%伸長時の伸長弾性率 ≧80%
本発明における芯鞘型複合繊維の鞘部にはPTTを用いることが好ましいが、PTTにはメチレン基の主鎖が伸び縮みするという特性を持つため、繊維長手方向での伸縮回復性に優れる。従来のPETの捲縮糸は、織物にした際に緊密に拘束されるため、本来の伸縮性を発現できなくなる。その拘束された状態で捲縮糸の伸縮性を測る方法が、本発明で取り上げた伸縮復元率(CR2)である。
【0037】
本発明の捲縮糸は後述する測定方法に基づく伸縮復元率(CR2)が5〜20%であることが好ましい。伸縮復元率(CR2)が5%以上の仮撚加工糸にすることで、織物にしたときに高い嵩高性およびストレッチ性の持つ製品にすることができる。一方、伸縮復元率(CR2)が20%を越えると、織物にした時に風合いが粗硬化するとともに、表面品位が悪化する傾向にある。したがって、織物にしたときに高品位の布帛表面をとしつつ、加工糸としての嵩高性やストレッチ性を付与するためには、伸縮復元率(CR2)は10〜15%が好ましい。なお、本発明における伸縮復元率(CR2)とは、後述する測定方法で測定した値を言う。
【0038】
また、本発明においては、捲縮糸の優れる伸縮回復性を評価するのに10%伸長時の伸長弾性率を取り上げた。後述する測定方法に基づく伸長弾性率が、10%伸長時の伸長弾性率が80%以上であることが好ましく、さらに20%伸長時の伸長弾性率が70%以上、30%伸長時の伸長弾性率が60%以上であることが好ましい。この範囲とすることで、織物にした際に、糸同士が緊密に拘束されても実用性の高いストレッチ性を付与することができる。なお、本発明における伸長弾性率とは、後述する測定方法で測定した値を言う。
【0039】
次に、本発明の捲縮糸を用いた織物について説明する。
【0040】
本発明の織物は、本発明の捲縮糸をタテ糸および/またはヨコ糸に用いて製織した織物であるが、防風性に優れた織物とするために、織物組織としては織り交錯点の拘束力の大きい平系織物(1/1平や片マット等)が望ましい。また、本発明の捲縮糸を採用することによって、織物とした際、タテ糸とヨコ糸が交差した織物交錯点とその隣の交錯点との間に生じる隙間を小さくする効果が向上し、防風性および撥水性が向上する。
【0041】
次に、本発明の織物では、本発明の目的とする防風性に優れた織物を得るために、織物を構成するタテ糸とヨコ糸の総カバー率が1700以上3000以下で、かつ織物の通気度が1.0cc/cm・s未満とすることが好ましい。総カバー率及び通気度は、織物の糸密度、例えば、タテ密度を120〜180本/2.54cm、ヨコ密度を100〜160本/2.54cmとすることによって達成できる。
【0042】
タテ糸とヨコ糸の総カバー率は、織物を構成するタテ糸とヨコ糸の緻密さを表したファクターであり、総カバー率が1700に満たなければ防風性と撥水性が十分でなく、一方、総カバー率が3000を超える織物は、工業生産上安定して得られない領域であり好ましくない。また、さらに好ましい総カバー率の範囲は2000以上3000以下である。なお、ここで言う総カバー率は、次式により算出されるものである。
総カバー率=タテ糸のカバー率+ヨコ糸のカバー率
タテ糸のカバー率=タテ糸密度(本/2.54cm)×(タテ糸繊度(dtex))1/2
ヨコ糸のカバー率=ヨコ糸密度(本/2.54cm)×(ヨコ糸繊度(dtex))1/2
また、通気度は、本発明の目的とする防風性および撥水性の性能を表す計測値であり、本発明の織物の通気度は好ましくは1.0cc/cm・s未満であり、さらに好ましくは0.8cc/cm・s未満である。かかる通気度は、高密度織物を衣料として使用したときの機能性を発揮するために必要な特性である。この通気度は、織物を作成する際に通常「カレンダー」加工と呼ばれる高温高圧プレスを掛けると比較的容易に得られる。また、ポリウレタン系の樹脂を織物表面に薄く皮膜コーティングさせる方法等を通気度を小さくする手段として採用することが出来る。
【0043】
ここでの通気度は、防風性や撥水性の性能を表すものであるが、2次的な性能としては、織物が緻密であることから、生地そのままあるいは軽い撥水加工等を施すことで花粉などの粉体や粒体がつきにくくさらに落ちやすいため、花粉症等のアレルギー対策衣類等にも利用が可能である。
【0044】
本発明の捲縮糸からなる織物は、捲縮糸にPTTを用いた場合には、メチレン基の主鎖が伸び縮みするというPTT特有の伸縮弾性特性により、高密度織物にしても布帛に高いストレット性を付与することが出来る。すなわち、従来のPETの捲縮糸にも上記の伸縮伸長率を持つことが可能だが、織物にした際に、緊密に拘束されたら、元の伸縮性を発現できなくなるが、本発明では、このような芯鞘構造をもつ捲縮糸を織物にすることにより、普段得にくい高いストレッチ性を持たせることができる。なお、本発明における織物のストレッチ性とは、後述する測定方法で測定した値を言う。
【0045】
また、本発明の捲縮糸からなる織物は、JISで決められた各種染色堅牢度試験において実用レベルを満たすことができる。例えば、織物を一般衣料用途に用いる場合は洗濯に対する染色堅牢度(JIS−L0844)や紫外線カーボンアーク灯光に対する染色堅牢度(JIS−L0842)において3級以上が要求されるが、本発明の織物はこれらの値を満足するものである。
【0046】
また、本発明の目的である耐摩耗性については、摩擦に対する染色堅牢度試験(JIS−L0849)の摩擦試験機II形(学振形)において、乾燥、湿潤ともに3級以上であることが好ましく、乾燥、湿潤ともに4級以上であることがより好ましいが、本発明の織物はこれらの値をも満足するものである。なお、ポリ乳酸100%からなる織物について染色堅牢度試験を実施すると、洗濯や耐光試験では3級をクリアするものの、摩擦に対する染色堅牢度は乾燥、湿潤ともに1級と極めて悪いものとなる。
【0047】
また、ポリ乳酸で問題となっている高温力学特性についても、鞘部にPTTを付与したことにより、本発明の捲縮糸には加熱下でも強度特性に優れる。なお、本発明においては、90℃加熱下での強度は0.8cN/dtex以上が好ましく、1cN/dtexがより好ましい。ちなみに、ポリ乳酸100%使いの繊維の90℃加熱下の強度は高々0.3cN/dtexである。
【0048】
さらに、織物を仕上げする際に、カレンダー工程が必要不可欠である、所用温度は140℃以上である。ポリ乳酸100%の織物では耐熱性は高々120℃程度であり、それを越えると繊維が軟化して扁平化し、「あたり」と呼ばれる光沢斑が発生する。さらに温度を140℃にすると、部分融解により穴があいたり、粗硬感の強い布帛となってしまい、もはや実用性のないものとなってしまう。そのため、ポリ乳酸繊維100%使いでは実用性のある織物ができない。それに対し、本発明の捲縮糸からなる織物は、160℃以上の耐熱性を有し、仕上げ際のカレンダー工程にしても繊維の軟化、変形が起こらない。
次に、本発明の織物の製造方法について説明する。
本発明の織物に使われている芯鞘型複合繊維を製造するためには、基本的には公知の溶融複合紡糸装置を用いて製造することができる。
【0049】
まず、前記したポリマーの中から芯部Aを形成する融点200℃以下の脂肪族ポリエステルと鞘部Bを形成する融点200℃以上の結晶性ポリエステルを選択する。例えば、芯部Aに光学純度97%のポリL乳酸(融点:170℃)、鞘部BにPTT(融点:228℃)を用いる。これらの重合体を個別に溶融計量し、脂肪族ポリエステルBを繊維表面に配するような複合紡糸口金の装置から繊維を紡出し、冷却した後、油剤を付与して巻き取る。偏心率γは複合紡糸口金の形状によって適宜設定を行い、偏心率γが1〜3となるようにする。
【0050】
上記の溶融紡糸には、巻取速度1000〜2000m/分の低速度紡糸、巻取速度2000〜5000m/分の高速紡糸、巻取速度5000m/分以上の超高速紡糸が可能であり、紡糸と延伸を連続して行う、いわゆるスピンドロー方式も好ましく適用できる。
得られた芯鞘型複合繊維は偏厚率γが高いと、芯部のポリマーと鞘部のポリマーとの熱収縮率の差に起因して、熱処理を行った場合に鞘部の厚い部分が内側になった捲縮形態を有する。
【0051】
この様にして製造した本発明の捲縮糸で織物を製織するにあたっては、レピア織機、ウォーター織機、エアジェット織機等の公知の製織機を使用して公知の製織方法によって製織することができる。
このようにして製造した本発明の捲縮糸で編み物にも適用する。編み物では通常の丸編、経編いずれでも前記捲縮糸の効果が発揮できる。
【0052】
また染色するにあたっては、高密度化させるためリラックス精練工程として、ソフサーリラックスまたは液流リラックス法を用いることが好ましい。
【0053】
本発明の織物は、実用性に優れる耐熱性、耐摩耗性を持ち、さらに防風性や撥水性を活かしたスポーツウエアやカジュアルウエア、また高密度を活かしたダウンジャケットや中綿ジャケット等の表地または裏地などに好適に用いられた。
【実施例】
【0054】
以下、本発明を実施例を用いて詳細に説明する。なお、実施例中の各特性値は次の方法で求めた。
【0055】
A.偏厚率γ
γ=b/a=1〜3 (b:外円と内円の最大幅
a:外円と内円の最小幅)
捲縮糸を包埋材で固定して、切片を切り出し、脱包埋後、断面を光学顕微鏡で拡大して写真撮影し、同一倍率で撮影したスケールを用いて図2のようにモノフィラメント断面においてbとaの距離を計測し、1回のγを求める。そして、同様に無作為に10回計測し、その平均値γを求める。なお、γは小数点以下1桁まで求めた。
【0056】
B.伸縮復元率(CR2)
捲縮糸をカセ取りし、初荷重0.0018cN/dtex(2mgf/d)をかけ、90℃水中で20分間処理し、24時間風乾した。次に、室温の水中で(25℃)同重量の初荷重をかけ、2分間後のカセ長L1を測定した。次に、室温の水中で(25℃)上記初荷重0.0018cN/dtexを除き、0.09cN/dtex(0.1gf/d)相当の荷重に交換し、2分後のかせ長L0を測定した。そして下式によりCR2値を計算した。
【0057】
CR2(%)=[(L0−L1)/L0]×100(%)
C.伸長弾性率
JIS L1018(A法)に準じて測定した。
【0058】
D.伸縮復元率(CR)
CR(%)=[(L2−L3)/L2]×100(%)
L3:カセを荷重フリーの状態で90℃水中で20分間処理し、24時間風乾した後、水中で初荷重0.0018cN/dtex下でのカセ長。
【0059】
L2:水中で上記初荷重0.0018cN/dtexを除き0.09cN/dtex(0.1gf/d)相当の荷重に交換し、2分後に測定したカセ長。
【0060】
E.沸騰水収縮率(SW)
沸騰水収縮率(%)=[(L4−L5)/L4]×100(%)
L4:試料をカセ取りし、初荷重0.09cN/dtex下で測定した原長。
【0061】
L5:L4を測定したカセを荷重フリーの状態で沸騰水中で20分間処理し、24時間風乾した後、荷重0.09cN/dtex下でのカセ長。
【0062】
F.伸縮伸長率
JIS L1090の合成繊維フィラメントかさ高加工糸試験方法(1998年)、5.7項C法(簡便法)に従い、以下に示す式にて伸縮伸長率および伸縮弾性率を定義した。
【0063】
伸縮伸長率(%)=[(L7−L6)/L6]×100%
伸縮弾性率(%)=[(L7−L8)/(L7−L6)]×100%
L6:繊維カセに0.0018cN/dtex荷重を吊した状態で90℃熱水処理を20分間行い、1昼夜風乾した後のカセ長。
【0064】
L7:L06測定後、L6測定荷重を取り除いて0.09cN/dtex荷重を吊して30秒後のカセ長。
【0065】
L8:L7測定後、L7測定荷重を取り除いて2分間放置し、再び0.0018cN/dtex荷重を吊して30秒後のカセ長。
【0066】
G.残留トルク
捲縮糸に解舒撚り及び撚り戻りが発生しないように、セラミック製の棒ガイドを支点にV字に折り曲げ、その総試料長が1mとなるように、両上端を0.059cN/dtexの荷重下にて固定する。棒ガイドの試料部分に0.003cN/dtexの微荷重を掛け、棒ガイドから試料を取り外し、懸垂状態のまま自己旋回させる。旋回が停止したら検撚機にて検撚を行い、旋回数を測定した。試験回数を5回とし、その平均値を2倍することで試料1m当たりの残留トルクを求めた。
【0067】
H.染色堅牢度試験
得られた染色布を洗濯に対する染色堅牢度JIS L0844(1998年)及びカーボンアーク灯光に対する染色堅牢度試験JIS L0842(1998年)に準じて級判定を行った。
【0068】
I.摩擦に対する染色堅牢度試験
得られた染色布をJIS L0849(1998年)に準じて摩擦試験機II形(学振形)を用いて処理し、乾燥試験、湿潤試験それぞれについて5段階で級判定を行った。
【0069】
J.アイロン耐熱性試験
およそ84dtexの試料を経糸及び緯糸として織密度110×90本/2.54cmで平織物に製織し、140℃テンターで生機セット、次いで精練を行い織物を得た。この織物を分散染料DianixBlack BG−FS200 1%owf濃度で110℃×60分間染色後、グランアップINA−5 2g/リットル(三洋化成製)及び炭酸ナトリウム0.5g/リットルの濃度で80℃×20分ソーピング処理し、130℃で仕上げセットした。
【0070】
得られた染色布について、三洋電機(株)社製のスチームアイロンA−1Fを用い、アイロン表面温度が所定の温度に達したら布帛にアイロン自重(面圧約8g/cm)で10秒間プレスし、プレス後の外観変化を評価した。
【0071】
「変化なし」が「○○」、「若干のアタリ有」が「○」、「明確なアタリ有」が「△」、「繊維間で部分的に融着が発生」が「×」、「溶融による穴あき」が「××」とした。
【0072】
K.通気度
JIS L1096(A法)に準じて測定した。
【0073】
L.強度および伸度
JIS L1013の化学繊維フィラメント糸試験方法(1998年)に準じて測定した。なお、つかみ間隔は200mm、引張速度は200mm/分として荷重−伸長曲線を求めた。次に破断時の荷重値を初期繊度で割り、それを強度とし、破断時の伸びを初期試料長で割り、伸度として強度および伸度を求めた。なお、測定時の温度は室温下(25℃)で実施した。
【0074】
M.ストレッチ性
JIS L1096(A法)に準じて測定した。
なお、実施例における評価は、以下の方法で行った。
【0075】
N.シワ・シボ欠点判定
実施例、比較例に記載の方法で得た織物のシワ・シボ欠点を、見た目により官能評価した。この際、比較例2の織物の欠点および風合いの状態を標準(下記×印)として、以下の基準で4段階評価を行い、10人のパネラーの評価結果を平均して判定した。
○○:シワ・シボ欠点が完全に見られない。
○ :シワ・シボ欠点が若干見られるが、風合いに影響がない。
△ :シワ・シボ欠点が見られ、若干風合いに影響がある。
× :シワ・シボ欠点が見られ、生地表面が乱れる。
【0076】
O.白化現象判定
実施例、比較例に記載の方法で得た織物の白化現象を、見た目により官能評価した。この際、比較例2の織物の現象および風合いの状態を標準(下記×印)として、以下の基準で3段階評価を行い、10人のパネラーの評価結果を平均して判定した。
○:白化現象が完全に見られない。
△:白化現象が若干見られるが、風合いに影響がない。
×:白化現象が見られ、風合いに影響がある。
【0077】
実施例1
重量平均分子量16.5万、融点170℃、残留ラクチド量0.085重量%のポリL乳酸(光学純度97%L乳酸)に相溶化剤として(株)日清紡製ポリカルボジイミド“カルボジライト”HMV−8CAを1重量%添加、混合して芯部Aとし、平均2次粒子径が0.4μmの酸化チタンを0.3重量%含有した極限粘度[η]0.92のPTT(融点228℃)を鞘部として、紡糸温度250℃で、吐口孔直径0.25mm/孔深度0.75mmの同心円の芯鞘型複合用口金を用いて複合複合機にて芯鞘複合比(重量比)70/30で吐出し、さらに引き取り速度3000m/minで巻き取り、105dtex−36fの芯鞘複合構造の未延伸糸を得た。
【0078】
さらに、該未延伸糸を図1に示すベルトニップに備えた延伸同時仮撚機を用いて、加工速度400m/分、加工倍率1.4倍、第1ヒーター温度120℃、D/Y比1.3で延伸仮撚し、引き続き第2ヒーター温度110℃、リセット率24%にて弛緩熱処理し、デリベリローラー出口のOF率を15%として84デシテックス、36フィラメントの捲縮糸を巻き取った。糸掛け性、工程通過性は良好であり、糸切れは発生しなかった。
【0079】
また、得られた捲縮糸の特性について評価した結果を表1に示す。捲縮特性を示す伸縮復元率(CR2)は15%、伸長回復性を示す伸長弾性率は90%であり(10%伸長時)、力学特性、捲縮特性ともに良好な仮撚加工糸(捲縮糸)が得られた。得られた糸の断面形状は図2に示す円形状であり、偏厚率γは1.1である。
【0080】
また、仮撚加工糸の強度は2.5cN/dtex、また、伸縮復元率(CR)は30%、伸縮伸長率50%、残留トルクは75T/mであり、極めて優れた力学特性を示すと共に、高い嵩高性、伸縮性、形態安定性を有していた。
【0081】
さらに、該仮撚加工糸をタテ糸およびヨコ糸に用い、タテ糸密度120(本/2.54cm)、ヨコ糸密度89(本/2.54cm)の平織物を製織し、続いて98℃の温水でリラックス、140℃で中間セット、湿熱110℃で染色、乾熱140℃で仕上げセットを行った。得られた織物は、タテ糸密度135(本/2.54cm)、ヨコ糸密度94(本/2.54cm)であり、通気度は1.0cc/cm・sと防風性が高く、かつアイロン耐熱性は200℃でも表面変化がなく、極めて良好な耐熱性を示し、摩擦に対する染色堅牢度試験においても乾燥、湿潤ともに4級を有し、耐熱性および耐摩耗性とも極めて優れた特性を有するものであった。このときのタテ糸のカバー率は1237であり、ヨコ糸のカバー率は861であり、総カバー率は2100であった。得られた織物特性について評価した結果を表1に示す。
【0082】
前記のごとく、実施例1は捲縮糸の力学的特性、及び布帛の耐熱性、耐摩耗性ともに十分実用に耐える特性を示しており、また、シワ・シボおよび白化現象の官能評価でもこういった従来技術で出てきた欠点の改善も確認できたため、衣料用途に好適に用いられることを判明した。
【0083】
実施例2
芯鞘複合比率を80/20にし、偏厚率γを1.2にした以外た以外は実施例1と同様の方法で評価した。鞘の複合比率が20%の実施例2では、アイロン耐熱性は180℃まで変化がなく、摩擦に対する染色堅牢度は乾燥3級、湿潤4級と十分実用に耐えうる耐熱性および耐摩耗性を示した。しかし、糸の捲縮特性を示す伸縮復元率(CR2)は11%であり、伸長回復性を示す伸長弾性率は83%であり(10%伸長時)、若干実施例1より少ないため、織物にした際のストレッチ性も20%であり、実施例1より少ないが、また良いストレッチ性とも言える。
【0084】
実施例3
口金を偏心芯鞘型(芯、鞘ともに丸断面)にし、偏厚率γを2.0にした以外は実施例1と同様の方法で評価した。糸の捲縮特性を示す伸縮復元率(CR2)および伸長回復性を示す伸長弾性率は実施例2とほとんど同様である。また、布帛にしても、アイロン耐熱性および摩擦に対する染色堅牢度は実施例2と同様であり、十分実用に適する高い耐熱性および耐摩耗性を示した。
【0085】
実施例4
実施例4では芯成分として実施例1と同様のポリ乳酸、鞘成分として5−ナトリウムスルホイソフタル産4.5モル%共重合した極限粘度[η]が0.56のポリエチレンテレフタレートを用い、実施例1と同様な口金紡糸温度250℃で、吐口孔直径0.25mm/孔深度0.75mmの同心円の芯鞘型複合用口金を用いて複合複合機にて芯鞘複合比(重量比)70/30で吐出し、さらに引き取り速度3000m/minで巻き取り、105dtex−36fの芯鞘複合構造の未延伸糸を得た、得られた延伸糸を実施例1と同様な方法で製織、加工を行い織物を得た。物性と織物について評価した結果を表1に示す。実用に適する高い耐熱性および耐摩耗性を示したが、糸の捲縮特性を示す伸縮復元率(CR2)は4%であり、伸長回復性を示す伸長弾性率も50%(10%伸長時)であるため、織物にした際のストレッチ性が9%であり、実施例1〜3と比べるとストレッチ性は劣るものであった。
【0086】
比較例1
口金を偏芯型(芯、鞘ともに丸断面)にし、偏厚率γを4.0にした以外は実施例1と同様の方法で評価した。比較例1では紡糸性、延伸性ともに良好であり、また、強度も良好であるが、捲縮特性は実施例1対比もほぼ変化ないため、織物にした際のストレッチ性も20%に達している。しかし、アイロン耐熱性は160℃まで変化なく、180℃で部分的に融着が発生し、粗硬感の強い風合いになることが確認できた。そして、摩擦に対する染色堅牢度は乾燥3級、湿潤3級であり、また、シワ・シボおよび白化現象の官能評価ではこういった欠点が確認されたため、実用性に若干乏しいものであることを判明した。
【0087】
比較例2
口金を偏芯型(芯、鞘ともに丸断面)にし、偏厚率γを6.0にした以外は実施例1と同様の方法で評価した。得られた糸の断面形状は図2に示す形状である。比較例2では強度等は良好なものの、アイロン耐熱性試験では160℃で部分的に融着が発生し粗硬感の強い風合いになるとともに、180℃では溶融して穴が開いてしまった。また、摩擦に対する染色堅牢度は乾燥、湿潤ともに2級であり、実用性に乏しいものであった。
【0088】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】本発明で用いる延伸同時仮撚加工機の一実施態様を示した模式図である。
【図2】(a)〜(c)は、本発明の芯鞘複合繊維の一実施態様の断面形状を示す図である。
【符号の説明】
【0090】
1 :未延伸糸パッケージ
2 :フィードローラー
3 :糸ガイド
4 :第1ヒーター
5 :冷却プレート
6 :摩擦仮撚型ベルトユニット
7 :フィードローラー
8 :第2ヒーター
9 :デリベリローラー
10:巻き取りローラー
11:延伸仮撚加工糸パッケージ
12:鞘成分
13:芯成分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯部Aを形成する熱可塑性重合体が融点200℃以下の脂肪族ポリエステルであり、鞘部Bを形成する熱可塑性重合体が融点200℃以上の結晶性ポリエステルである芯鞘複合繊維からなる捲縮糸であって、該鞘部の偏厚率γが下記の式(1)を満足することを特徴とする捲縮糸。
(1) γ=b/a=1〜3 (b:外円と内円の最大幅
a:外円と内円の最小幅)
【請求項2】
芯部Aを形成する脂肪族ポリエステルがポリ乳酸であることを特徴とする請求項1記載の捲縮糸。
【請求項3】
鞘部Bを形成する結晶性ポリエステルがポリトリメチレンテレフタレートであることを特徴とする請求項1または2記載の捲縮糸。
【請求項4】
仮撚加工により伸縮復元率(CR2)および伸長弾性率が下記の式(2)、(3)を同時に満足することを特徴とする請求項1〜3のいずれか記載の捲縮糸。
(2) 5≦伸縮復元率(CR2)≦20
(3) 10%伸長時の伸長弾性率 ≧80%
【請求項5】
トータル繊度が33〜170dtexであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の捲縮糸。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の捲縮糸をタテ糸および/またはヨコ糸に用いた織物。
【請求項7】
タテ糸とヨコ糸の総カバーファクター率(C・F)が1700〜3000で、ストレッチ率が5〜30%であり、摩擦堅牢度が3級以上のあり(JIS規格)、かつ通気度が1.0cc/cm・S未満であることを特徴とする請求項6に記載の織物。
【請求項8】
芯部Aを形成する熱可塑性樹脂が融点200℃以下の脂肪族ポリエステルおよび鞘部Bを形成する熱可塑性樹脂が融点200℃以上の結晶性ポリエステルからなり、該鞘部の偏厚率γが下記の式(1)を満足する芯鞘複合繊維に仮撚加工を施して、伸縮復元率(CR2)および伸長弾性率が下記の式(2)、(3)を同時に満足する捲縮糸とし、該捲縮糸をタテ糸および/またはヨコ糸に使用して製織することを特徴とする織物の製造方法。
(1) γ=b/a=1〜3(b:外円と内円の最大幅
a:外円と内円の最小幅)
(2) 5≦伸縮復元率(CR2) ≦20
(3) 10%伸長時の伸長弾性率 ≧80%

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−348411(P2006−348411A)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−174831(P2005−174831)
【出願日】平成17年6月15日(2005.6.15)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】