説明

芳香族アミンの製造方法

【課題】本発明の課題は、除去すべき酸性化合物に対して使用される塩基の最小限のモル過剰量でもって実施でき、有機相及び水相の分離の間の相反転の危険性無しに安定な操作が保証され、固形物の堆積、汚れ及び/又は蒸留の間の急な粘度上昇といった問題が回避されるように、フェノール性ヒドロキシル基を有する化合物の分離を塩基を用いた処理により可能にする芳香族アミンの製造及び精製のための方法を提供することである。
【解決手段】前記課題は、a) 芳香族アミンを触媒の存在下で相応する芳香族ニトロ化合物の水素化により調整し、この水素化において形成された水を相分離により分離し、粗製芳香族アミンを生じ、かつb) 工程a)から得られるこの粗製芳香族アミンを手順b)(i)〜b)(iii)により精製する芳香族アミンの製造方法により解決された。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香族アミンを相応する芳香族ニトロ化合物の水素化及び引き続く精製により製造する方法に関する。芳香族アミンはここでは、少なくとも1のアミノ基を芳香族環に有する化合物を意味すると理解され、これは所望の場合には置換又は他の芳香族環と縮合していることができる。
【背景技術】
【0002】
これらの芳香族アミンは有利には、特定のアミンを最初に、可能な限り濃縮された、可能な限り少量の塩基水溶液と混合する手順により精製され、このため有利にはこの段階では明らかに可視可能な相分離はまだ存在しない。このようにした後で初めて、この有機相及び水相を意図的に過剰の水を添加することにより脱混合する。この有機相(上部又は底部)の位置は有利には、適当な物理的境界条件を選択することにより特に調整される。
【0003】
本発明による方法においては、芳香族アミンは技術水準から公知の技術的プロセスにより調整できる。このような方法は、例えばEP−A−1935871からのトルイレンジアミンについて公知であり、ここではこのニトロ化合物の水素化は100〜200℃の、有利には120〜180℃の、特に有利には125〜170℃の、特にとりわけ有利には130〜160℃の温度で、触媒の存在下で、5〜100bar、有利には8〜50bar、特に有利には10〜35barの絶対圧で実施される。
【0004】
原則的に、使用されるニトロ芳香族は工業において慣用に使用される任意のものであることができる。芳香族モノアミン及び/又はジアミンを使用すること、特に有利にはニトロベンゼン、ニトロトルエン及びジニトロトルエンを使用することが有利である。
【0005】
使用される反応装置は、例えばWO−A−96/11052中に説明されるスラリー相反応器であることができる。他の適した反応器は、例えばEP−A−0236935又はUS−A−6350911中に説明されている。幾つかの同一の反応装置又は異なる適した反応装置の組み合わせを使用することも勿論可能である。
【0006】
使用される触媒は、芳香族ニトロ化合物の触媒的水素化のために既知の任意の水素化触媒であることができる。特に適した触媒は、元素の周期表の第8亜族の金属又はこの混合物であり、これは例えば支持体、例えば炭素又はマグネシウム、アルミニウム及び/又はケイ素の酸化物上に設けることができる。ラネー鉄、コバルト及び/又はニッケル、特にニッケル含有触媒、例えばラネーニッケル触媒、及びパラジウム又は白金含有触媒であって支持体上のものを使用することが有利であり、この製造及び芳香族ニトロ化合物、例えばニトロベンゼン、ニトロトルエン、ジニトロトルエン、塩素化ニトロ芳香族等の水素化のための触媒としての使用は公知であり、既に様々な時記載されている(例えばEP−A−0223035、EP−B−1066111、EP−A−1512459)。上記文献中で説明されている方法は、特に、ジニトロトルエンの水素化のために重要である。
【0007】
芳香族アミンは経済的な価格でかつ大量に入手可能であるべきである重要な中間体であり、したがって極めて大きい容量のプラントが例えばアニリンの製造のために建造されるべきである。アニリンは、例えば、メチレンジフェニルジイソシアナート(MDI)の製造における重要な中間体であり、通常はニトロベンゼンの触媒的水素化により大規模で製造され、これは例えばDE−A−2201528、DE−A−3414714、US3136818、EP−B−0696573、EP−B−0696574及びEP−A−1882681中で説明される通りである。原則的に、アニリンの場合には、アニリンは、工業で慣用される任意のニトロベンゼンの水素化プロセスに由来することもできる。有利には、ニトロベンゼンの水素化は、固定した、不均一系の支持された触媒、例えば酸化アルミニウム又は炭素支持体上のPd上で気相中で、固定層反応器中で、2〜50barの絶対圧及び250〜500℃の温度範囲で、断熱条件下で、ガス返送操作において、すなわち、水素化の間に反応しなかった水素の返送と共に実施される(EP−A−0696573及びEP−A−0696574を参照のこと)。
【0008】
芳香族アミンの製造においては、水及び有機副生成物もまたこの標的生成物の他に形成される。これらの有機副生成物は、芳香族アミンが使用される前に分離される必要がある。その沸点が調整されるべきアニリンの沸点に極めて類似する副生成物の分離は特に問題があり、というのはこの蒸留コストがかなりのものであるからである。アニリン(b.p.=184℃)の調整の場合には、フェノール(b.p.=182℃)の分離は、特に、蒸留工業において大きな要求をし、これは多数の分離段及び高い還流比を有する長い蒸留塔の使用に反映され、相応して高い投資及びエネルギーコストを伴う。フェノール性ヒドロキシル基を有する化合物、すなわち、少なくとも1のヒドロキシル基を芳香族環に有する化合物は、芳香族アミンの後処理(working-up)において一般的に問題を生じることがある。アニリンの場合には様々なアミノフェノールが、特に、上記したフェノールに加えて言及されてよい。
【0009】
芳香族アミンの精製はしたがって、些細な問題でなく、工業的に極めて重要である。より最近では、フェノール性ヒドロキシル基を有する化合物に関連する前記の問題に関して試みられている。この試みられた解決策は、フェノール性ヒドロキシル基を有する化合物を相応する塩へと適した塩基との反応により変換することからなる;非揮発性化合物としてこれらの塩は、より容易に分離されることができる。
【0010】
このようにして、JP−A−49−035341は、精製すべきアミン、すなわちアニリンを固形のアルカリ金属水酸化物と固定層において接触させ、この後初めて蒸留に移るか、又は、蒸留を固形のアルカリ金属水酸化物の存在下で、蒸留すべきアニリンの量に対して0.1〜3質量%の割合で実施する方法を説明する。この方法は、アミノフェノールのような問題のある成分の分離を簡単にする。しかしながら、この方法の欠点は、除去すべき酸性の二次的成分との関連で高モル過剰量の固形アルカリ金属水酸化物の使用であり、このアルカリ性化合物を正確に計量供給できないという事実である。これは一方では(過剰計量供給)腐食問題、沈殿及び高粘性の底部相を蒸留塔中で生じる可能性があり、他方では(過少計量供給)問題のある成分の不完全な除去を生じる可能性がある。
【0011】
US−A−2005080294は、芳香族アミンからのフェノール性ヒドロキシル基を有する化合物(フェノール性化合物と呼称される)の分離のための方法を記載し、その際、蒸留前に、塩基を精製すべきアミンに、フェノール性化合物に対して1:1〜4:1のモル比で場合によりポリオールの存在下で添加する。US−A−2005080294は、フェノール性化合物と塩基との反応において形成される塩になにが起こるかを明示しない。実施例6においては単に、過剰量の固形KOHがポリエチレングリコール(PEG)の添加により溶解化されることを言及するだけであり、しかしながらUS−A−2005080294はこの作用に関連してどのような結果が生じるかを言及しない。US−A−2005080294は、フェノール性化合物自体の塩について如何なる示唆も与えない。
【0012】
しかしながら、塩は、過剰塩基を意味するのみでなくフェノール性ヒドロキシル基を有する化合物の塩をも意味するが、一般的には芳香族アミン中にほとんど溶解せず、したがってこれらが溶解限度を超えて蒸留塔中で、蒸留塔の底部中で、及び/又は蒸発器中で蓄積し、次いで沈殿するという極めて大きな危険が存在する。このような固形堆積物は、プロセスを停止することが必要となる程にまで蒸留プロセスに多大に干渉することができ、これは、連続的な大規模な生産においてかなりの困難及び生産のロスさえも生じることがある。しかしながら、US−A−2005080294は、このプロセスの信頼性及び操作時間の問題について言及しない。US−A−2005080294は、このフェノール性ヒドロキシル基を有する化合物と塩基との反応の間に形成される塩の存在が、固形物の堆積、汚れ及び/又は蒸留の間の急な粘度上昇を生じることがあることについても当業者に教示しない。US−A−2005080294は、蒸留技術についての詳細を全く説明せず、したがって高い確率で生じるこれらの問題をどのようにして解決すべきかを当業者に教示しない。US−A−2005080294は、過剰の固形KOHを溶解化するためのPEGの選択的な添加を教示するだけである。しかしながら、このようなPEGの蒸留への添加は経済的に不利であり、というのは芳香族アミン(特にアニリン)の製造において使用される高容量のためである。
【0013】
EP−A−1845079は、蒸留前又は間のアルカリ金属水酸化物の水溶液の添加によるアニリンの精製のための方法を説明し、その際、固形物の堆積、汚れ及び/又は蒸留の間の急な粘度上昇による問題は、この蒸留の底部相を部分的に搬出し、これを水又は希釈したアルカリ金属水酸化物溶液で洗浄し、この洗浄された有機相を蒸留に返送することにより防止される。ここでの欠点は、付加的なプロセスが信頼できる操作を維持するために必要とされることである。
【0014】
EP−A−2028176は、このプロセス水の分離後に得られる粗製アミンをアルカリ金属水酸化物水溶液で処理し、この生じるプロセス生成物を蒸留する、芳香族アミンの精製のための方法を記載する。この蒸留塔の底部は、部分的に又は完全に搬出され、この一部は、直列に又は並列に連結された2つの蒸発器(E1)及び(E2)により蒸発される。これは、蒸留塔の底部中で装置及びエネルギーに関する最小限の支出でもって有用アミンの最大の枯渇を達成するといわれる。
【0015】
従来言及されている全てのプロセスにおいては芳香族アミンは塩基の存在下で蒸留される。この手順において、固形物の堆積、汚れ及び/又は蒸留の間の急な粘度上昇による問題は、実験室的及び/又はコストをかけた手段により防止されるべきである。
【0016】
蒸留の間のアニリンからのフェノール性ヒドロキシル基を有する化合物の除去のための代替策として、JP−A−08−295654は希釈したアルカリ金属水酸化物水溶液での抽出を説明する。実施例1〜5においてのみ説明されている有利な一実施態様において、これは、フェノール含有アニリンとアルカリ金属水酸化物溶液との混合後に得られる水相が0.1〜0.7質量%の濃度でアルカリ金属水酸化物を含有し、かつ、相分離後に得られる有機相が蒸留される手順により為される。大抵のフェノールは抽出工程においてアルカリ金属フェナートとして水相に移され、これにより精製すべきアニリンから相分離において分離される。実施例1〜5においては、ニトロベンゼン水素化の生成物を直接的に、すなわち、プロセス水の事前分離なしに水酸化ナトリウム水溶液で処理し、かつ、NaOH対フェノールのモル比は少なくとも69:1である(実施例2)。低濃度≦0.7質量%への限定により、相分離が改善されるということになっている。この方法の欠点は、NaOHの高い消費及びアルカリ金属フェナートを含有する極めて大量の流出物の産生であり、これはアルカリ金属水酸化物溶液の低濃度の結果である。
【0017】
EP−A−1845080は、>0.7質量%の濃度を有するアルカリ金属水酸化物水溶液での抽出によるアニリンの精製のための方法を説明し、その際この濃度及び温度は、引き続く相分離においてこの水相が底部相を常に形成するように適合される。これは安定な操作を保証し、というのは相反転のための問題は生じないからである。すなわち、このプロセスは比較的低濃度のアルカリ金属水酸化物溶液(実施例において、アルカリ金属水酸化物溶液の質量に対して0.8〜2.5質量%)及び比較的高いモル過剰のアルカリ金属水酸化物(少なくとも12.52:1、実施例において)でもって実施される。実施例においては、この抽出における有機性画分対水性画分との質量比はたった0.5又はそれ未満である。
【0018】
JP−A−2007217405は、水相中のアルカリ金属水酸化物の濃度が0.1〜0.7質量%になるようにフェノール含有アニリンを少なくとも2回アルカリ金属水酸化物水溶液と接触させる方法を説明する。これは、最初に水、次いで比較的濃縮した(25%)の水性NaOH溶液を、相分離後に得られる粗製アニリンに添加することにより達成される(実施例を参考のこと)。実施例において使用される、フェノールに対するアルカリ金属水酸化物のモル過剰量は、常に、両者の抽出工程に対する全体として示され、これは少なくとも10.6である。これは実施例3から取り出すことができ、ここで522ppmのフェノール含量(フェノールの0.966molに相当する)を有する粗製アニリン174gを精製し、2×0.82gの25%NaOH溶液(全体でNaOH10.25mmolに相当する)を添加する。したがって、このプロセスにおいても、比較的大量のモル過剰のアルカリ金属水酸化物が必要とされ、この全ての不利な点は既にJP−A−08−295654中で言及されている。
【0019】
抽出による塩基処理を使用する芳香族アミンの精製のための前述の全ての方法において、大規模生産のために経済的に利用できる唯一の塩基は、経済的価格で大量に入手可能なものである。したがって実際には、アルカリ金属水酸化物、特に水酸化ナトリウムの水溶液がほぼ常に選択される。技術水準によれば、塩基が比較的高希釈した水溶液の形で添加されるか、精製すべき塩基が添加される前に水で処理されるか、又は、プロセス水は分離されず、このため塩基の濃度はこの生じるプロセス生成物の水性画分中で少ないのみであり、かつ有機画分対水性画分の質量比は比較的小さい。例えば、JP−A−2007217405中の実施例3の最初の抽出工程における有機画分対水性画分の質量比はたった2.6であり(粗製アニリン174g対水67g及びNaOH溶液0.82g)、但しこの計算は使用される粗製アニリンが数パーセントの水を含有できるとの事実を考慮せず、この結果実際の数値はことによるとより一層小さい。水性塩基含有画分の、粗製芳香族アミンを有する生じるプロセス生成物中での乏しい混合性のために、この手順の結果は、酸性不純物と塩基粒子との反応が相界面で生じ、したがって極めて大量のモル過剰量の塩基の使用が必要であるということである。
【0020】
反応性の観点からの理想的な塩基は、芳香族アミンとの良好な混合性を有する有機塩基であろう。これは、化学量論量で使用でき、形成される塩は次いで容易に分離できる。しかしながら、この方法は大規模生産において経済的に利用可能でなく、説明した問題に対する他の解決策が探索されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0021】
【特許文献1】EP−A−1935871
【特許文献2】WO−A−96/11052
【特許文献3】EP−A−0236935
【特許文献4】US−A−6350911
【特許文献5】EP−A−0223035
【特許文献6】EP−B−1066111
【特許文献7】EP−A−1512459
【特許文献8】DE−A−2201528
【特許文献9】DE−A−3414714
【特許文献10】US3136818
【特許文献11】EP−B−0696573
【特許文献12】EP−B−0696574
【特許文献13】EP−A−1882681
【特許文献14】EP−A−0696573
【特許文献15】EP−A−0696574
【特許文献16】JP−A−49−035341
【特許文献17】US−A−2005080294
【特許文献18】EP−A−1845079
【特許文献19】EP−A−2028176
【特許文献20】JP−A−08−295654
【特許文献21】EP−A−1845080
【特許文献22】JP−A−2007217405
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
したがって、本発明の課題は、
−除去すべき酸性化合物に対して、使用される塩基の最小限のモル過剰量でもって実施でき、
−有機相及び水相の分離の間の相反転の危険性無しに安定な操作が保証され、
−固形物の堆積、汚れ及び/又は蒸留の間の急な粘度上昇といった問題が回避されるように、
フェノール性ヒドロキシル基を有する化合物の分離を塩基を用いた処理により可能にする芳香族アミンの製造及び精製のための方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明は、
a) 芳香族アミンを、触媒の存在下で相応する芳香族ニトロ化合物の水素化により調整し、かつ、この水素化において形成された水(プロセス水)を相分離により分離し、粗製芳香族アミンを生じ、かつ
b) 工程a)から得られるこの粗製芳香族アミンを次の手順b)(i)〜b)(iii)により精製し、その際、
b)(i) 工程a)から得られるこの粗製芳香族アミンを少なくとも1種の塩基水溶液と混合し、その際この塩基水溶液の使用量及びこの塩基濃度は、プロセス工程b)における芳香族アミンに添加される全ての塩基の合計と工程a)から得られる芳香族アミン中に含有されるフェノール性ヒドロキシル基のモル比が10以下であり、有利には1〜10であり、かつ有機構成成分と水との質量比が10を上回るように選択され、
b)(ii) 工程b)(i)から得られる混合物を水と混合し、工程b)(i)から得られる混合物と工程b)(ii)において添加される水との質量比が0.05〜20の範囲内、有利には0.1〜10の範囲内、特に有利には0.2〜5の範囲内にあり、
b)(iii) 次いで工程b)(ii)から得られる2相混合物を芳香族アミンを含有する有機相と水相に分離する
芳香族アミンの製造方法に関する。
【0024】
有利には、工程b)(iii)における相分離における温度及び圧力は、有機相が特定の予め設定した位置(上部又は底部)を相分離において採用するように選択される。
【0025】
工程b)(i)において必要とされる有機構成成分と水との質量比はつまり、10を上回り、有利には50を上回り、特に有利には100を上回り、特にとりわけ有利には150を上回り、これは全体として、抽出による精製プロセスの技術において従来慣用であったのに比較してより少ないモル過剰量の塩基を用いて作業することが可能であることを意味する。従来では、この質量比は10000の値を超えない。
【0026】
このための理由は、水相、すなわち、芳香族とほとんど混合しない相の割合が、従来技術に比較して顕著に減少されるため、この酸性不純物と塩基粒子との間での反応が著しく促進されることである。有利には、このプロセスのこの段階では、撹拌が停止した時に明らかに可視できる相分離は生じない。水の著しい量は、工程b)(ii)において、実際の酸−塩基反応の完了後にのみ添加され、水、ここに溶解された塩及び過剰量の塩基は、工程b)(iii)における引き続く相分離において分離される。
【0027】
工程a)で得られ、工程b)で使用される粗製芳香族アミンは、芳香族アミンの製造のために知られている工業的な方法のいずれに由来することもできる。特に適した芳香族アミンは、この相応するニトロ化合物の接触還元により得られるものである。このようなプロセスは、トルイレンジアミン及びアニリンを例示として上記の通り説明される。これらのプロセスにおいて得られるプロセス水は、当業者に公知の相分離により有機反応生成物から分離される。このようにして工程a)において得られる粗製アミンは有利にはまだなお残留水含量を有し、これは所定の物理的境界条件(特に温度及び圧力)下での粗製アミン中の水の溶解性に相当し、前記残留水含量は、粗製アミン(工程a)で得られる芳香族アミンに等しい)の質量に対して0.01〜20質量%であることができる。
【0028】
工程b)(iii)における相分離において有機相が上相又は底部相を形成するかどうかは、このプロセスの機能に関係しない。両方の状況は装置に応じて有利であることができる。例えば、製造プラントの所定の前提条件下で有機相が相分離における底部相であることが所望される場合には、この物理的境界条件、特にこの温度は相応して適合される。この唯一の重要な点は、相反転がこのプロセスの間に予期しない様式で生じないことである。これは、本発明によるプロセスを用いて容易に回避可能である。
【0029】
フェノール性ヒドロキシル基を有する化合物の含有量の減少させるべきレベルに依存して、工程b)(iii)から得られる、芳香族アミンを含有する有機相は、更なる塩基処理に付されることができ、すなわち、プロセス工程b)は更なる精製工程により延長される。
【0030】
この目的のために、
b)(iv) 工程b)(iii)から得られる、芳香族アミンを含有する有機相を少なくとも1種の塩基水溶液と混合し、この塩基水溶液の使用量及び塩基濃度は、プロセス工程b)における芳香族アミンに添加される全ての塩基の合計と工程a)から得られる芳香族アミン中に含有されるフェノール性ヒドロキシル基のモル比が10以下であり、有利には1〜10であり、かつ有機構成成分と水との質量比が10を上回るように選択され、
b)(v) 工程b)(iv)から得られる混合物を水と混合し、その際、工程b)(iv)から得られる混合物と工程b)(v)において添加される水との質量比が0.05〜20の範囲内、有利には0.1〜10の範囲内、特に有利には0.2〜5の範囲内にあり、かつ
b)(vi) 次いで工程b)(v)から得られる2相混合物を芳香族アミンを含有する有機相と水相に分離する。
【0031】
有利には、工程b)(iv)における相分離における温度及び圧力は、有機相が特定の予め設定した位置(上部又は底部)を相分離において採用するように選択される。
【0032】
原則的に、次いで更なる塩基処理が実施でき、但しこれは一般的には必要でない。
【0033】
必要とされる場合には、最後の残分の過剰塩基及びフェノール性ヒドロキシル基を有する化合物の塩を除去するために、工程b)(iii)又はb)(vi)における相分離後に得られる、芳香族アミンを含有する有機相は、水で一工程又は多工程プロセスにおいて洗浄されることができる。
【0034】
説明したプロセス工程b)(ii)及びb)(v)においていずれかで使用される水は任意の所望の供給源に由来できる。したがって、脱イオン水、プラント水及びプロセス水が等しく適している。経済的理由から、プラント水を使用することが有利であり、プロセス水を使用することが特に有利である。プロセス水は、工程a)における芳香族アミンの調整において形成される水を意味すると理解される。相分離後に得られる形態で使用することも、又は、蒸留により又は他の手段により前もって更に精製することもできる。
【0035】
使用される塩基は有利には、アルカリ金属水酸化物、特に水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムである。原則的に、他の水溶性塩基化合物を使用することも考えられる。添加される水性塩基溶液の濃度及び量は、工程b)(i)又はb)(iv)において要求されるパラメーターが、有機画分及び水性画分の質量比に関して、及び、塩基のモル過剰に関して、維持されるように選択される。この目的のために、精製すべきアミン中のフェノール性ヒドロキシル基を有する化合物の濃度を決定することが必要である。これは、慣用の分析方法、特に有利にはガスクロマトグラフィによる有利に実施される。使用される塩基溶液は有利には可能な限り濃縮されているべきであり、その際、この最大の使用可能な濃度は、所定の条件下で水中の塩基の溶解限度によってのみ限定される。水中の水酸化ナトリウム溶液を使用することが有利であり、その際、水酸化ナトリウムの質量割合は、水酸化ナトリウム溶液の全質量に対して有利には少なくとも10%、特に有利には少なくとも20%、特にとりわけ有利には少なくとも30%である。市販されている32%の水酸化ナトリウム溶液を使用することが極めて有利である。
【0036】
水性塩基溶液の濃度に依存して、工程b)(i)又はb)(iv)における温度は有利には20〜160℃、特に有利には30℃〜100℃、特にとりわけ有利には50℃〜95℃である。この温度は有利には、工程b)(ii)及びb)(iii)又はb)(v)及びb)(vi)の間の、好適には最終洗浄工程の間のと同じ範囲である。
【0037】
相分離における有機相の特定の位置を達成するのに加えて、水性塩基溶液の濃度と抽出の間の温度との適当な組み合わせの選択は、特定のプロセスに関してプロセスエンジニアリング及び経済的尺度に依存する。したがって、一方ではこの温度を、芳香族アミンの水溶解性を制限するために最小限にすることが好ましくてよい。他方では、プロセスエンジニアリング期間において粗製アミンを高められた温度で反応後に凝縮し、次いで同じ温度で同様に抽出することが有利であってよい。温度を高めることにより工程b)(i)又はb)(iv)の十分な混合の効率を促進することも好ましくてよい。
【0038】
液相の混合のために当業者に知られている任意の方法及び装置が、芳香族アミン(工程b)(i)及びb)(iv))中に水相を混合するために使用でき、この例はスタチックミキサー、ノズル、混合ポンプ又はスターラーである。抽出による洗浄(工程b)(ii)及びb)(iii)又はb(v)及びb)(vi))のために、そして任意の他の必要な洗浄工程のために、当業者に知られている任意の抽出方法及び装置を使用でき、この例はミキサー−セトラー又は抽出塔である。この抽出による塩基処理は、並流又は向流で実施できる。好ましい一実施態様において、2段階ミキサー−セトラーが抽出による塩基処理のために向流において使用される。必要な分離時間と滞留時間とを短縮するために、分離器に、編地(knitted fabrics)、プレート又は充填体のような併合措置(coalescence aids)を設けることもできる。
【0039】
芳香族アミンの精製のための上述の全ての方法では、粗製アミン中に蒸留の間に存在する塩基は、問題、例えば固形物の堆積、汚れ及び/又は蒸留の間の急な粘度上昇を被る。必要な場合には、芳香族アミンもまた更に、抽出による塩基処理に加えて、本発明による方法において蒸留により精製される。この蒸留は、塩基処理の前又は後に実施できる(又は、適切な場合には最終洗浄後に)。しかしながら、固形物の堆積、汚れ及び/又は急な粘度上昇の上述の減少は、本発明による方法において困難性を提示せず、というのは、これらの問題の原因である過剰量の塩基及びフェノール性ヒドロキシル基を有する化合物が、本発明による方法における蒸留の間に存在せず、というのも蒸留が塩基処理の前に実施されるか、又は、この無機構成成分が工程b)(iii)又はb)(vi)において、及び/又は適当な場合には最終洗浄において、分離されるためである。
【0040】
この下流の又は上流の蒸留工程は、当業者に知られている任意の変法の形態を取ることができ、かつ、種々の幅広い条件下で操作できる。このようにして蒸留は例えば1段階又は多段階のプレート塔又は充填塔中で、さもなければ分離された壁塔中で実施でき、その際低沸物及び高沸物の分離が様々な塔中で、又は、さもなければ側流としての芳香族アミンの搬出を伴う1の塔中で一緒に生じることができる。
【0041】
原則的に、本発明による方法は、任意の芳香族アミンに対して適用可能である。精製すべきアミンは、慣用的に芳香族アミンの製造のために工業において使用されている任意の方法に由来できる。本発明による方法は、アニリンの精製のために特に適している。技術水準から公知の方法を使用して、この精製したアニリンを次いでホルムアルデヒドと酸性触媒の存在下で反応させ、ジフェニルメタン系列のジアミン及びポリアミンを生じることができる。やはり技術水準から公知の方法を用いて、このジアミン及びポリアミンを次いで反応させ、有利にはホスゲンと反応させ、ジフェニルメタン系列の相応するジイソシアナート及びポリイソシアナートを生じることができる。
【0042】
本発明による方法において必要とされるような大きい有機画分対水性画分との比を用いる芳香族アミンの抽出による塩基処理の成功した実施は、技術水準によれば意外であり、というのは従来ではこれは抽出効率の減少及び分離時間の延長を生じるだろうと推測されていたからである(参照、例えばEP−A−1845080、[0013]、15〜17行)。
【実施例】
【0043】
以下説明する実施例は、KPGスターラーを取り付けた二重壁分離漏斗中で実施され、この装置は30℃の水をこの2つのガラス壁の間の空隙に導通させることにより温度調節されている。
【0044】
精製すべき材料は、1500ppm(カールフィッシャー法により決定)の水含有量及び998ppmのフェノール含有量(ガスクロマトグラフィにより決定)を有する粗製アニリンであり、これは酸化アルミニウム上のPd/V/Pb触媒に対するニトロベンゼンの水素化により得られたものであった(EP1882681Alの実施例3と同様)。
【0045】
実験室手順の簡易化の理由のためだけに、各相分離後に得られる有機相を分配し、この一部だけを次ぎの処理工程に移した:添加すべきNaOH溶液及び水の量を、それぞれの場合においてこの減少した量に適合させた。大規模適用においてこれらの有機相は有利には次の処理工程へとその全体において移されるものである。
【0046】
実施例1(本発明による、塩基処理後に添加された少量の水)
粗製アニリン(フェノール含有量998ppm)1000gを、32%のNaOH溶液5.00g(すなわち、有機構成成分対水の質量比は154である)で処理し、この生じる混合物を十分に3分間撹拌した(工程b(i))。水250gを次いで添加し、この生じる混合物を十分に3分間撹拌した(工程b)(ii))。この相が分離するまで放置した。この有機相は底部相を形成し、ここでは一時的な相反転を伴う問題は全く生じなかった。相分離(工程b)(iii))の後に有機相のフェノール含有量及びナトリウム含有量を決定した(それぞれガスクロマトグラフィ及び原子吸光分光により)。有機相800g(今では約4.6%の水を含有)を次の工程において32%のNaOH溶液4.00gで処理し、この生じる混合物を十分に3分間撹拌した(工程b)(iv))。水200gを次いで添加し、この生じる混合物を十分に3分間撹拌した(工程b)(v))。この相が分離するまで放置した。この有機相は底部相を形成し、ここでは一時的な相反転を伴う問題は全く生じなかった。相分離(工程b)(vi))後に有機相を説明した通り分析した。第2の相分離(工程b)(vi))後に得られた有機相600gを最後に更に水160gと共に3分間十分に撹拌し(洗浄)、相分離後に得られた有機相を説明した通り分析した。
【0047】
実施例2(本発明による、塩基処理後に添加された大量の水)
実施例1に説明した通りの基本的手順を実施したが、但し、水1000g(250gの代わりに)を工程b)(ii)において添加し、水800g(200gの代わりに)を工程b)(v)において添加した点で異なる。水640g(160gの代わりに)を最終洗浄において使用した。再度、一時的な相反転を伴う問題は全く観察されなかった。この有機相は常に相分離において底部相であった。相分離後に得られた有機相をそれぞれの場合において実施例1で説明した通りに分析した。
【0048】
以下の表はこの結果の比較的な概要を含む:
第1表実施例の結果の比較
【表1】

記号:
[a]:次工程での相分離後に得られる有機相の完全な更なる処理について計算
[b]:塩基添加前に有機相中に既に存在する水含量を考慮。
【0049】
実施例は約1000ppmの極めて高いフェノール含量が少ないモル過剰量の塩基のみを用いて約97%減少できることを示す。最終洗浄は、工程b)(i)からの混合物又は工程b)(iv)からの混合物を処理する水の量が十分に大量である場合に省略できる(実施例2:有機相のナトリウム含有量は、最終洗浄なしでも既に<1ppmである)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a) 芳香族アミンを触媒の存在下で相応する芳香族ニトロ化合物の水素化により調整し、かつ、この水素化において形成された水を相分離により分離し、粗製芳香族アミンを生じ、かつ
b) 次いで、工程a)から得られるこの粗製芳香族アミンを次の手順b)(i)〜b)(iii)により精製し、その際、
b)(i) 工程a)から得られるこの粗製芳香族アミンを少なくとも1種の塩基水溶液と混合し、その際、この塩基水溶液の使用量及びこの塩基濃度は、プロセス工程b)における芳香族アミンに添加される全ての塩基の合計と工程a)から得られる芳香族アミン中に含有されるフェノール性ヒドロキシル基のモル比が10以下でありかつ有機構成成分と水との質量比が10を上回るように選択され、
b)(ii) 工程b)(i)から得られる混合物を水と混合し、その際、工程b)(i)から得られる混合物と工程b)(ii)において添加される水との質量比が0.05〜20の範囲内にあり、かつ
b)(iii) 次いで、工程b)(ii)から得られる2相混合物を芳香族アミンを含有する有機相と水相に分離する
芳香族アミンの製造方法。
【請求項2】
更に、
b)(iv) 工程b)(iii)から得られる、芳香族アミンを含有する有機相を、少なくとも1種の塩基水溶液と混合し、その際、この塩基水溶液の使用量及び塩基濃度は、プロセス工程b)における芳香族アミンに添加される全ての塩基の合計と工程a)から得られる芳香族アミン中に含有されるフェノール性ヒドロキシル基のモル比が10以下でありかつ有機構成成分と水との質量比が10を上回るように選択され、
b)(v) 工程b)(iv)から得られる混合物を水と混合し、その際、工程b)(iv)から得られる混合物と工程b)(v)において添加される水との質量比が0.05〜20の範囲内にあり、かつ
b)(vi) 次いで、工程b)(v)から得られる2相混合物を芳香族アミンを含有する有機相と水相に分離する
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程b)(iii)又は工程b)(vi)から得られる、芳香族アミンを含有する有機相を1工程又は多工程のプロセスにおいて水で洗浄する請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
工程b)(i)〜(iii)及び場合により更なる工程b)(iv)〜(vi)を、20℃〜160℃の温度で実施する請求項1又は2記載の方法。
【請求項5】
芳香族アミンがアニリンである請求項1又は2記載の方法。
【請求項6】
工程b)(ii)又は工程b)(v)において添加される水が工程a)における反応から得られる返送されたプロセス水である請求項1又は2記載の方法。
【請求項7】
使用される塩基がアルカリ金属水酸化物である請求項1又は2記載の方法。
【請求項8】
工程a)から得られる粗製芳香族アミンが、工程a)から得られる粗製芳香族アミンの質量に対して0.01〜20質量%の水含有量を有する請求項1又は2記載の方法。
【請求項9】
工程b)(iii)又は工程b)(vi)における相分離又は場合により1以上の更なる相分離後に得られる、芳香族アミンを含有する有機相を、更に蒸留により精製する請求項1又は2記載の方法。
【請求項10】
最初に工程a)から得られる粗製芳香族アミンを蒸留により精製し、次いでこの精製された芳香族アミンを工程b)において更に精製する請求項8記載の方法。

【公開番号】特開2011−1364(P2011−1364A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2010−136817(P2010−136817)
【出願日】平成22年6月16日(2010.6.16)
【出願人】(504213548)バイエル マテリアルサイエンス アクチエンゲゼルシャフト (54)
【氏名又は名称原語表記】Bayer MaterialScience AG
【住所又は居所原語表記】D−51368 Leverkusen, Germany
【Fターム(参考)】