説明

芳香族アミン誘導体及びそれを用いた有機エレクトロルミネッセンス素子

【課題】寿命が長く、高発光効率な有機エレクトロルミネッセンス素子及びそれを実現する芳香族アミン誘導体を提供する。
【解決手段】シリル基を有する縮合多環式炭化水素基に結合した一般式[I]で表わされる芳香族アミン誘導体、並びに有機薄膜層の少なくとも1層が、前記芳香族アミン誘導体を単独又は混合物の成分として含有する有機エレクトロルミネッセンス素子である。


(Xは、C10〜50の縮合多環式炭化水素基、A〜Aは、C5〜50のアリール基、C1〜50のアルキル基等である。Rは、置換もしくは無置換のC3〜20シリル基であり、Rは、H、C1〜50のアルキル基、C5〜50のアリール基等である。aは0〜3、bは1〜4、cは0〜4の整数である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は芳香族アミン誘導体及びそれを用いた有機エレクトロルミネッセンス素子に関し、特に、寿命が長く、高発光効率な有機エレクトロルミネッセンス素子及びそれを実現する芳香族アミン誘導体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機EL素子は、電界を印加することより、陽極より注入された正孔と陰極より注入された電子の再結合エネルギーにより蛍光性物質が発光する原理を利用した自発光素子である。イーストマン・コダック社のC.W.Tangらによる積層型素子による低電圧駆動有機EL素子の報告(C.W.Tang,S.A.Vanslyke,アプライドフィジックスレターズ(Applied Physics Letters),51巻、913頁、1987年等)がなされて以来、有機材料を構成材料とする有機EL素子に関する研究が盛んに行われている。
Tangらは、トリス(8−キノリノラト)アルミニウムを発光層に、トリフェニルジアミン誘導体を正孔輸送層に用いた積層構造を採用している。積層構造の利点としては、発光層への正孔の注入効率を高めることができ、陰極に注入された電子をブロックして再結合により生成する励起子の生成効率を高めることができ、発光層内で生成した励起子を閉じこめることができる等が挙げられる。この例のように有機EL素子の素子構造としては、正孔輸送(注入)層、電子輸送発光層の2層型、または正孔輸送(注入)層、発光層、電子輸送(注入)層の3層型構造等がよく知られている。こうした積層型構造素子では注入された正孔と電子の再結合効率を高めるために、素子構造や形成方法に種々の工夫がなされている。
有機EL素子に用いる発光材料としては、トリス(8−キノリノラト)アルミニウム錯体等のキレート錯体、クマリン錯体、テトラフェニルブタジエン誘導体、ビススチリルアリーレン誘導体、オキサジアゾール誘導体等の発光材料が知られており、それらは青色から赤色までの可視領域の発光が得られることが報告されており、カラー表示素子の実現が期待されている(例えば、特許文献1〜3等)が、その発光効率や寿命が実用可能なレベルにまで到達せず不十分であった。
青色有機発光材料として、ジスチリル化合物を用い、これにスチリルアミンなどを添加したものを用いた長寿命の青色有機EL素子が提案されている(特許文献4)。しかしながら、この素子は、寿命が十分ではなく、さらなる改良が求められていた。また、モノもしくはビスアントラセン化合物とジスチリル化合物を有機発光媒体層として用いた技術が開示されている(特許文献5)。しかしながら、これらの技術においては、スチリル化合物の共役構造により発光スペクトルが長波長化して色純度を悪化させていた。
緑色有機発光材料として、特許文献6には、アミノアントラセン誘導体を用いた素子が開示されている。しかしながら、この材料においては、ガラス転移温度が低く、これを用いた有機EL素子の耐熱性が低く、長寿命かつ高効率発光が得られていない。
【0003】
【特許文献1】特開平8−239655号公報
【特許文献2】特開平7−138561号公報
【特許文献3】特開平3−200289号公報
【特許文献4】国際公開WO94/006157号公報
【特許文献5】特開2001−284050号公報
【特許文献6】特開2001−207167号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、前記の課題を解決するためになされたもので、寿命が長く、高発光効率な有機EL素子及びそれを実現する芳香族アミン誘導体を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、前記の好ましい性質を有する芳香族アミン誘導体及びそれを用いた有機EL素子を開発すべく鋭意研究を重ねた結果、シリル基を有する縮合多環式炭化水素基を中心骨格とする下記一般式(I)で表される芳香族アミン誘導体を利用することによりその目的を達成し得ることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて完成したものである。
【0006】
すなわち、本発明は、下記一般式(I)で表される芳香族アミン誘導体を提供するものである。
【化1】

【0007】
{式中、Xは、核炭素数10〜50の置換もしくは無置換の縮合多環式炭化水素基である。
1〜A4は、それぞれ独立に、置換もしくは無置換の核炭素数5〜50のアリール基、置換もしくは無置換の炭素数1〜50のアルキル基、置換もしくは無置換の核炭素数3〜50のシクロアルキル基、置換もしくは無置換の核炭素数6〜50のアラルキル基、又は置換もしくは無置換の核炭素数5〜50の複素環基である。
1は、置換もしくは無置換の炭素数3〜20のシリル基である。
2は、水素原子、置換もしくは無置換の炭素数1〜50のアルキル基、置換もしくは無置換の核炭素数5〜50のアリール基、置換もしくは無置換の核炭素数6〜50のアラルキル基、置換もしくは無置換の核炭素数3〜50のシクロアルキル基、置換もしくは無置換の炭素数1〜50のアルコキシル基、置換もしくは無置換の核炭素数5〜50のアリールオキシ基、置換もしくは無置換の核炭素数5〜50のアリールアミノ基、置換もしくは無置換の炭素数1〜20のアルキルアミノ基、又は置換もしくは無置換の核炭素数5〜50の複素環基である。
aは0〜3の整数、bは1〜4の整数、cは、0〜4の整数であり、a,b,cが2以上の場合、それぞれの( )内は同一でも異なっていてもよい。}
【0008】
また、本発明は、陰極と陽極間に少なくとも発光層を含む一層又は複数層からなる有機薄膜層が挟持されている有機EL素子において、該有機薄膜層の少なくとも1層が、前記芳香族アミン誘導体を単独又は混合物の成分として含有する有機EL素子を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の芳香族アミン誘導体を用いた有機EL素子は、低い印加電圧で実用上十分な発光輝度が得られ、発光効率が高く、長時間使用しても劣化しづらく寿命が長い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の芳香族アミン誘導体は、下記一般式(I)で表される化合物である。
【化2】

【0011】
一般式(I)において、Xは、核炭素数10〜50(好ましくは、核炭素数10〜30)の置換もしくは無置換の縮合多環式炭化水素基である。
1〜A4は、それぞれ独立に、置換もしくは無置換の核炭素数5〜50(好ましくは、核炭素数5〜20)のアリール基、置換もしくは無置換の炭素数1〜50(好ましくは、炭素数1〜20)のアルキル基、置換もしくは無置換の核炭素数3〜50(好ましくは、核炭素数3〜12)のシクロアルキル基、置換もしくは無置換の核炭素数6〜50(好ましくは、核炭素数6〜20)のアラルキル基、又は置換もしくは無置換の核炭素数5〜50(好ましくは、核炭素数5〜20)の複素環基である。
1は、置換もしくは無置換の炭素数3〜20(好ましくは、炭素数3〜12)のシリル基である。
2は、水素原子、置換もしくは無置換の炭素数1〜50(好ましくは、炭素数1〜20)のアルキル基、置換もしくは無置換の核炭素数5〜50(好ましくは、核炭素数5〜20)のアリール基、置換もしくは無置換の核炭素数6〜50(好ましくは、核炭素数6〜20)のアラルキル基、置換もしくは無置換の核炭素数3〜50(好ましくは、核炭素数5〜12)のシクロアルキル基、置換もしくは無置換の炭素数1〜50(好ましくは、炭素数1〜6)のアルコキシル基、置換もしくは無置換の核炭素数5〜50(好ましくは、核炭素数5〜18)のアリールオキシ基、置換もしくは無置換の核炭素数5〜50(好ましくは、核炭素数5〜18)のアリールアミノ基、置換もしくは無置換の炭素数1〜20(好ましくは、炭素数1〜6)のアルキルアミノ基、又は置換もしくは無置換の核炭素数5〜50(好ましくは、核炭素数5〜20)の複素環基である。
【0012】
Xの置換もしくは無置換の縮合多環式炭化水素基としては、ナフタレン、フェナントレン、フルオランテン、アントラセン、ピレン、ペリレン、コロネン、クリセン、ピセン、ジフェニルアントラセン、フルオレン、トリフェニレン、ルビセン、ベンゾアントラセン、フェニルアントラセン、ビスアントラセン、ジアントラセニルベンゼン、又はジベンゾアントラセン等の残基が挙げられる。
【0013】
1〜A4及びR2の置換もしくは無置換のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ステアリル基、トリクロロメチル基、トリフルオロメチル基等が挙げられる。
1〜A4及びR2の置換もしくは無置換のアリール基としては、例えば、フェニル基、2−メチルフェニル基、3−メチルフェニル基、4−メチルフェニル基、4−エチルフェニル基、ビフェニル基、4−メチルビフェニル基、4−エチルビフェニル基、4−シクロヘキシルビフェニル基、ターフェニル基、3,5−ジクロロフェニル基、ナフチル基、5−メチルナフチル基、アントリル基、ピレニル基等が挙げられる。
1〜A4及びR2の置換もしくは無置換のシクロアルキル基としては、例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。
【0014】
1〜A4及びR2の置換もしくは無置換のアラルキル基としては、例えば、ベンジル基、α,α−メチルフェニルベンジル基、トリフェニルメチル基、1−フェニルエチル基、2−フェニルエチル基、1−フェニルイソプロピル基、2−フェニルイソプロピル基、フェニル−t−ブチル基、α−ナフチルメチル基、1−α−ナフチルエチル基、2−α−ナフチルエチル基、1−α−ナフチルイソプロピル基、2−α−ナフチルイソプロピル基、β−ナフチルメチル基、1−β−ナフチルエチル基、2−β−ナフチルエチル基、1−β−ナフチルイソプロピル基、2−β−ナフチルイソプロピル基、α−フェノキシベンジル基、α−ベンジルオキシベンジル基、α,α−ジトリフルオロメチルベンジル基、1−ピロリルメチル基、2−(1−ピロリル)エチル基、p−メチルベンジル基、m−メチルベンジル基、o−メチルベンジル基、p−クロロベンジル基、m−クロロベンジル基、o−クロロベンジル基、p−ブロモベンジル基、m−ブロモベンジル基、o−ブロモベンジル基、p−ヨードベンジル基、m−ヨードベンジル基、o−ヨードベンジル基、p−ヒドロキシベンジル基、m−ヒドロキシベンジル基、o−ヒドロキシベンジル基、p−アミノベンジル基、m−アミノベンジル基、o−アミノベンジル基、p−ニトロベンジル基、m−ニトロベンジル基、o−ニトロベンジル基、p−シアノベンジル基、m−シアノベンジル基、o−シアノベンジル基、1−ヒドロキシ−2−フェニルイソプロピル基、1−クロロ−2−フェニルイソプロピル基等が挙げられる。
1〜A4及びR2の置換もしくは無置換の複素環基としては、例えば、ピリジニル基、ピラジニル基、ピリミジニル基、ピリダジニル基、トリアジニル基、インドリニル基、キノリニル基、アクリジニル基、ピロリジニル基、ジオキサニル基、ピペリジニル基、モルフォリジニル基、ピペラジニル基、トリアチニル基、カルバゾリル基、フラニル基、チオフェニル基、オキサゾリル基、オキサジアゾリル基、ベンゾオキサゾリル基、チアゾリル基、チアジアゾリル基、ベンゾチアゾリル基、トリアゾリル基、イミダゾリル基、ベンゾイミダゾリル基、プラニル基等が挙げられる。
【0015】
1の置換もしくは無置換のシリル基としては、例えば、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、t−ブチルジメチルシリル基、ビニルジメチルシリル基、プロピルジメチルシリル基、トリフェニルシリル基等が挙げられる。
2の置換もしくは無置換のアルコキシル基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、s−ブトキシ基、t−ブトキシ基、各種ペンチルオキシ基、各種ヘキシルオキシ基等が挙げられる。
2の置換もしくは無置換のアリールオキシ基としては、例えば、フェノキシ基、トリルオキシ基、ナフチルオキシ基等が挙げられる。
2の置換もしくは無置換のアリールアミノ基としては、例えば、ジフェニルアミノ基、ジトリルアミノ基、ジナフチルアミノ基、ナフチルフェニルアミノ基等が挙げられる。
2の置換もしくは無置換のアルキルアミノ基としては、例えば、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジヘキシルアミノ基等が挙げられる。
【0016】
一般式(I)において、aは0〜3(好ましくは0〜2)の整数、bは1〜4(好ましくは1〜2)の整数、cは、0〜4(好ましくは0〜2)の整数である。a,b及び/又はcが2以上の場合、それぞれの( )内は同一でも異なっていてもよい。
【0017】
本発明の一般式(I)で表される芳香族アミン誘導体は、下記一般式(II)で表される構造であると好ましい。
【化3】

一般式(II)中、X、A1〜A4、R1、R2、b及びcは前記一般式(I)におけるものと同じである。
【0018】
また、本発明の一般式(I)で表される芳香族アミン誘導体は、下記一般式(III)で表される構造であると好ましい。
【化4】

【0019】
一般式(III)中、X、R1、R2、a、b及びcは、いずれも前記一般式(I)におけるものと同じである。
5〜A8は、それぞれ独立に、水素原子、置換もしくは無置換の炭素数1〜50(好ましくは、炭素数1〜20)のアルキル基、置換もしくは無置換の核炭素数5〜50(好ましくは、核炭素数5〜20)のアリール基、置換もしくは無置換の核炭素数6〜50(好ましくは、核炭素数6〜20)のアラルキル基、置換もしくは無置換の核炭素数3〜50(好ましくは、核炭素数5〜12)のシクロアルキル基、置換もしくは無置換の炭素数1〜50(好ましくは、炭素数1〜6)のアルコキシル基、置換もしくは無置換の核炭素数5〜50(好ましくは、核炭素数5〜18)のアリールオキシ基、置換もしくは無置換の核炭素数5〜50(好ましくは、核炭素数5〜18)のアリールアミノ基、置換もしくは無置換の炭素数1〜20(好ましくは、炭素数1〜6)のアルキルアミノ基、置換もしくは無置換の炭素数3〜20(好ましくは、炭素数3〜12)のシリル基、又は置換もしくは無置換の核炭素数5〜50(好ましくは、核炭素数5〜20)の複素環基である。
【0020】
一般式(III)におけるA5〜A8の置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、置換もしくは無置換のアラルキル基、置換もしくは無置換のシクロアルキル基、置換もしくは無置換のアルコキシル基、置換もしくは無置換のアリールオキシ基、置換もしくは無置換のアリールアミノ基、置換もしくは無置換のアルキルアミノ基、置換もしくは無置換のシリル基、及び置換もしくは無置換の複素環基の例としては、一般式(I)又は(II)におけるA1〜A4、R1及びR2の例と同様のものが挙げられる。
【0021】
前記一般式(III)において、d,e,f及びgはそれぞれ0〜5(好ましくは、0〜3)の整数であり、d,e,f及び/又はgが2以上の場合、複数のA5〜A8はそれぞれ同一でも異なっていてもよく、互いに結合して飽和もしくは不飽和の環を形成してもよい。
この環としては、例えば、シクロブタン、シクロペンタン、シクロヘキサン、アダマンタン、ノルボルナン等の炭素数4〜12のシクロアルカン、シクロブテン、シクロペンテン、シクロヘキセン、シクロヘプテン、シクロオクテン等の炭素数4〜12のシクロアルケン、シクロヘキサジエン、シクロヘプタジエン、シクロオクタジエン等の炭素数6〜12のシクロアルカジエン、ベンゼン、ナフタレン、フェナントレン、アントラセン、ピレン、クリセン、アセナフチレン等の炭素数6〜50の芳香族環などが挙げられる。
【0022】
本発明の一般式(1)で表される芳香族アミン誘導体の具体例を以下に示すが、これら例示化合物に限定されるものではない。
【0023】
【化5】

【0024】
【化6】

【0025】
【化7】

【0026】
本発明の一般式(I)、(II)及び(III)のいずれかで表される芳香族アミン誘導体は、発光中心である縮合多環式炭化水素構造に、シリル基を有していることにより、化合物同士の会合が防止されるため、寿命が長くなる。また、縮合多環式炭化水素骨格にさらにかさ高い置換基を結合させることでアミン構造との立体反発が大きくなるため、さらに寿命が向上している。
また、本発明の芳香族アミン誘導体は、固体状態で強い蛍光性を持ち、電場発光性にも優れ、蛍光量子効率が0.3以上である。さらに、金属電極又は有機薄膜層からの優れた正孔注入性及び正孔輸送性、金属電極又は有機薄膜層からの優れた電子注入性及び電子輸送性を持ち合わせているので、有機EL素子用発光材料、特にドーピング材料として有効に用いられ、さらに他の正孔注入・輸送材料、電子注入・輸送材料又はドーピング材料を使用してもさしつかえない。
【0027】
本発明の有機EL素子は、陽極と陰極間に一層又は複数層の有機薄膜層を形成した素子である。一層型の場合、陽極と陰極との間に発光層を設けている。発光層は、発光材料を含有し、それに加えて陽極から注入した正孔、又は陰極から注入した電子を発光材料まで輸送させるために、正孔注入材料又は電子注入材料を含有しても良い。本発明の芳香族アミン誘導体は、高い発光特性を持ち、優れた正孔注入性、正孔輸送特性及び電子注入性、電子輸送特性を有しているので、発光材料又はドーピング材料として発光層に使用することができる。
本発明の有機EL素子においては、発光層が、本発明の芳香族アミン誘導体を単独又は混合物の成分として含有すると好ましい。含有量としては通常0.1〜20重量%であり、1〜10重量%含有するとさらに好ましい。また、本発明の芳香族アミン誘導体は、極めて高い蛍光量子効率、高い正孔輸送能力及び電子輸送能力を併せ持ち、均一な薄膜を形成することができるので、この芳香族アミン誘導体のみで発光層を形成することも可能である。
また、本発明の有機EL素子は、陰極と陽極間に少なくとも発光層を含む二層以上からなる有機薄膜層が挟持されている有機EL素子において、陽極と発光層との間に本発明の芳香族アミン誘導体を含有する有機層を有しても好ましい。この有機層としては、正孔注入層、正孔輸送層等が挙げられる。
【0028】
さらに、本発明の芳香族アミン誘導体をドーピング材料として含有する場合、ホスト材料として下記一般式(3)のアントラセン誘導体、(4)のアントラセン誘導体及び(5)のピレン誘導体から選ばれる少なくとも一種を含有すると好ましい。
【0029】
【化8】

【0030】
(一般式(3)中、X1及びX2は、それぞれ独立に、水素原子、置換もしくは無置換の炭素数1〜50のアルキル基、置換もしくは無置換の核炭素数5〜50のアリール基、置換もしくは無置換の核炭素数6〜50のアラルキル基、置換もしくは無置換の核炭素数3〜50のシクロアルキル基、置換もしくは無置換の炭素数1〜50のアルコキシル基、置換もしくは無置換の核炭素数5〜50のアリールオキシ基、置換もしくは無置換の核炭素数5〜50のアリールアミノ基、置換もしくは無置換の炭素数1〜20のアルキルアミノ基、置換もしくは無置換の核炭素数5〜50の複素環基、又はハロゲン原子であり、e、fは、それぞれ独立に0〜4の整数である。e、fが2以上の場合、X1、X2は、それぞれ同一でも異なっていてもよい。
Ar1及びAr2は、それぞれ独立に、置換もしくは無置換の核炭素数5〜50のアリール基、置換もしくは無置換の核炭素数5〜50の複素環基であり、Ar1及びAr2の少なくとも一方は、置換もしくは無置換の核炭素数10〜50の縮合環含有アリール基である。
mは1〜3の整数である。mが2以上の場合は、[ ]内の基は、同じでも異なっていてもよい。)
前記X1及びX2並びにAr1及びAr2の各基の具体例や置換基は、前記一般式(I)で説明したものと同様の例が挙げられる。
【0031】
【化9】

【0032】
(一般式(4)中、X1〜X3は、それぞれ独立に、水素原子、置換もしくは無置換の炭素数1〜50のアルキル基、置換もしくは無置換の核炭素数5〜50のアリール基、置換もしくは無置換の核炭素数6〜50のアラルキル基、置換もしくは無置換の核炭素数3〜50のシクロアルキル基、置換もしくは無置換の炭素数1〜50のアルコキシル基、置換もしくは無置換の核炭素数5〜50のアリールオキシ基、置換もしくは無置換の核炭素数5〜50のアリールアミノ基、置換もしくは無置換の炭素数1〜20のアルキルアミノ基、置換もしくは無置換の核炭素数5〜50の複素環基、又はハロゲン原子であり、e、f及びgは、それぞれ独立に0〜4の整数である。e、f、gが2以上の場合、X1、X2、X3は、それぞれ同一でも異なっていてもよい。
Ar1は、置換もしくは無置換の核炭素数10〜50の縮合環含有アリール基であり、Ar3は、置換もしくは無置換の核炭素数5〜50のアリール基である。
nは1〜3の整数である。nが2以上の場合は、[ ]内の基は、同じでも異なっていてもよい。)
前記X1〜X3並びにAr1及びAr3の各基の具体例や置換基は、前記一般式(1)で説明したものと同様の例が挙げられる。
【0033】
一般式(3)及び(4)のアントラセン誘導体の具体例を以下に示すが、これら例示化合物に限定されるものではない。
【0034】
【化10】

【0035】
【化11】

【0036】
【化12】

【0037】
【化13】

【0038】
【化14】

【0039】
【化15】

【0040】
(一般式(5)中、Ar5及びAr6は、それぞれ独立に、置換もしくは無置換の核炭素数6〜50のアリール基である。
1及びL2は、それぞれ独立に、置換もしくは無置換のフェニレン基、置換もしくは無置換のナフタレニレン基、置換もしくは無置換のフルオレニレン基又は置換もしくは無置換のジベンゾシロリレン基である。
sは0〜2の整数、pは1〜4の整数、qは0〜2の整数、rは0〜4の整数である。
また、L1又はAr5は、ピレンの1〜5位のいずれかに結合し、L2又はAr6は、ピレンの6〜10位のいずれかに結合する。
ただし、p+rが偶数の時、Ar5,Ar6,L1,L2は下記(1) 又は(2) を満たす。
(1) Ar5≠Ar6及び/又はL1≠L2(ここで≠は、異なる構造の基であることを示す。)
(2) Ar5=Ar6かつL1=L2の時
(2-1) s≠q及び/又はp≠r、又は
(2-2) s=qかつp=rの時、
(2-2-1) L1及びL2、又はピレンが、それぞれAr5及びAr6上の異なる結合位置に結合しているか、
(2-2-2) L1及びL2、又はピレンが、Ar5及びAr6上の同じ結合位置で結合している場合、L1及びL2又はAr5及びAr6のピレンにおける置換位置が1位と6位、又は2位と7位である場合はない。)
前記Ar5及びAr6並びにL1及びL2の各基の具体例や置換基は、前記一般式(1)で説明したものと同様の例が挙げられる。
【0041】
一般式(5)のピレン誘導体の具体例を以下に示すが、これら例示化合物に限定されるものではない。
【0042】
【化16】

【0043】
【化17】

【0044】
本発明において、有機薄膜層が複数層型の有機EL素子としては、(陽極/正孔注入層/発光層/陰極)、(陽極/発光層/電子注入層/陰極)、(陽極/正孔注入層/発光層/電子注入層/陰極)等の構成で積層したものが挙げられる。
前記複数層には、必要に応じて、本発明の芳香族アミン誘導体に加えてさらなる公知の発光材料、ドーピング材料、正孔注入材料や電子注入材料を使用することもできる。有機EL素子は、前記有機薄膜層を複数層構造にすることにより、クエンチングによる輝度や寿命の低下を防ぐことができる。必要があれば、発光材料、ドーピング材料、正孔注入材料や電子注入材料を組み合わせて使用することができる。また、ドーピング材料により、発光輝度や発光効率の向上、赤色や青色の発光を得ることもできる。また、正孔注入層、発光層、電子注入層は、それぞれ二層以上の層構成により形成されても良い。その際には、正孔注入層の場合、電極から正孔を注入する層を正孔注入層、正孔注入層から正孔を受け取り発光層まで正孔を輸送する層を正孔輸送層と呼ぶ。同様に、電子注入層の場合、電極から電子を注入する層を電子注入層、電子注入層から電子を受け取り発光層まで電子を輸送する層を電子輸送層と呼ぶ。これらの各層は、材料のエネルギー準位、耐熱性、有機層又は金属電極との密着性等の各要因により選択されて使用される。
【0045】
本発明の芳香族アミン誘導体と共に発光層に使用できる上記一般式(3)〜(5)以外のホスト材料又はドーピング材料としては、例えば、ナフタレン、フェナントレン、ルブレン、アントラセン、テトラセン、ピレン、ペリレン、クリセン、デカシクレン、コロネン、テトラフェニルシクロペンタジエン、ペンタフェニルシクロペンタジエン、フルオレン、スピロフルオレン、9,10−ジフェニルアントラセン、9,10−ビス(フェニルエチニル) アントラセン、1,4−ビス(9’−エチニルアントラセニル) ベンゼン等の縮合多環芳香族化合物及びそれらの誘導体、トリス(8−キノリノラート) アルミニウム、ビス−(2−メチル−8−キノリノラート) −4−(フェニルフェノリナート) アルミニウム等の有機金属錯体、トリアリールアミン誘導体、スチリルアミン誘導体、スチルベン誘導体、クマリン誘導体、ピラン誘導体、オキサゾン誘導体、ベンゾチアゾール誘導体、ベンゾオキサゾール誘導体、ベンゾイミダゾール誘導体、ピラジン誘導体、ケイ皮酸エステル誘導体、ジケトピロロピロール誘導体、アクリドン誘導体、キナクリドン誘導体等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0046】
正孔注入材料としては、正孔を輸送する能力を持ち、陽極からの正孔注入効果、発光層又は発光材料に対して優れた正孔注入効果を有し、発光層で生成した励起子の電子注入層又は電子注入材料への移動を防止し、かつ薄膜形成能力の優れた化合物が好ましい。具体的には、フタロシアニン誘導体、ナフタロシアニン誘導体、ポルフィリン誘導体、オキサゾール、オキサジアゾール、トリアゾール、イミダゾール、イミダゾロン、イミダゾールチオン、ピラゾリン、ピラゾロン、テトラヒドロイミダゾール、オキサゾール、オキサジアゾール、ヒドラゾン、アシルヒドラゾン、ポリアリールアルカン、スチルベン、ブタジエン、ベンジジン型トリフェニルアミン、スチリルアミン型トリフェニルアミン、ジアミン型トリフェニルアミン等と、それらの誘導体、及びポリビニルカルバゾール、ポリシラン、導電性高分子等の高分子材料が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0047】
本発明の有機EL素子において使用できる正孔注入材料の中で、さらに効果的な正孔注入材料は、芳香族三級アミン誘導体及びフタロシアニン誘導体である。
芳香族三級アミン誘導体としては、例えば、トリフェニルアミン、トリトリルアミン、トリルジフェニルアミン、N,N’−ジフェニル−N,N’−(3−メチルフェニル)−1,1’−ビフェニル−4,4’−ジアミン、N,N,N’,N’−(4−メチルフェニル)−1,1’−フェニル−4,4’−ジアミン、N,N,N’,N’−(4−メチルフェニル)−1,1’−ビフェニル−4,4’−ジアミン、N,N’−ジフェニル−N,N’−ジナフチル−1,1’−ビフェニル−4,4’−ジアミン、N,N’−(メチルフェニル)−N,N’−(4−n−ブチルフェニル)−フェナントレン−9,10−ジアミン、N,N−ビス(4−ジ−4−トリルアミノフェニル)−4−フェニル−シクロヘキサン等、又はこれらの芳香族三級アミン骨格を有したオリゴマーもしくはポリマーであるが、これらに限定されるものではない。
【0048】
フタロシアニン(Pc)誘導体としては、例えば、H2Pc、CuPc、CoPc、NiPc、ZnPc、PdPc、FePc、MnPc、ClAlPc、ClGaPc、ClInPc、ClSnPc、Cl2SiPc、(HO)AlPc、(HO)GaPc、VOPc、TiOPc、MoOPc、GaPc−O−GaPc等のフタロシアニン誘導体及びナフタロシアニン誘導体があるが、これらに限定されるものではない。
また、本発明の有機EL素子は、発光層と陽極との間に、これらの芳香族三級アミン誘導体及び/又はフタロシアニン誘導体を含有する層、例えば、前記正孔輸送層又は正孔注入層を形成してなると好ましい。
【0049】
電子注入材料としては、電子を輸送する能力を持ち、陰極からの電子注入効果、発光層又は発光材料に対して優れた電子注入効果を有し、発光層で生成した励起子の正孔注入層への移動を防止し、かつ薄膜形成能力の優れた化合物が好ましい。具体的には、フルオレノン、アントラキノジメタン、ジフェノキノン、チオピランジオキシド、オキサゾール、オキサジアゾール、トリアゾール、イミダゾール、ペリレンテトラカルボン酸、フレオレニリデンメタン、アントラキノジメタン、アントロン等とそれらの誘導体が挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、正孔注入材料に電子受容物質を、電子注入材料に電子供与性物質を添加することにより増感させることもできる。
【0050】
本発明の有機EL素子において、さらに効果的な電子注入材料は、金属錯体化合物及び含窒素五員環誘導体である。
前記金属錯体化合物としては、例えば、8−ヒドロキシキノリナートリチウム、ビス(8−ヒドロキシキノリナート)亜鉛、ビス(8−ヒドロキシキノリナート)銅、ビス(8−ヒドロキシキノリナート)マンガン、トリス(8−ヒドロキシキノリナート)アルミニウム、トリス(2−メチル−8−ヒドロキシキノリナート)アルミニウム、トリス(8−ヒドロキシキノリナート)ガリウム、ビス(10−ヒドロキシベンゾ[h]キノリナート)ベリリウム、ビス(10−ヒドロキシベンゾ[h]キノリナート)亜鉛、ビス(2−メチル−8−キノリナート)クロロガリウム、ビス(2−メチル−8−キノリナート)(o−クレゾラート)ガリウム、ビス(2−メチル−8−キノリナート)(1−ナフトラート)アルミニウム、ビス(2−メチル−8−キノリナート)(2−ナフトラート)ガリウム等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0051】
前記含窒素五員環誘導体としては、例えば、オキサゾール、チアゾール、オキサジアゾール、チアジアゾール、トリアゾール誘導体が好ましい。具体的には、2,5−ビス(1−フェニル)−1,3,4−オキサゾール、ジメチルPOPOP、2,5−ビス(1−フェニル)−1,3,4−チアゾール、2,5−ビス(1−フェニル)−1,3,4−オキサジアゾール、2−(4’−t−ブチルフェニル)−5−(4”−ビフェニル) 1,3,4−オキサジアゾール、2,5−ビス(1−ナフチル)−1,3,4−オキサジアゾール、1,4−ビス[2−(5−フェニルオキサジアゾリル) ]ベンゼン、1,4−ビス[2−(5−フェニルオキサジアゾリル) −4−t−ブチルベンゼン]、2−(4’−t−ブチルフェニル)−5−(4”−ビフェニル) −1,3,4−チアジアゾール、2,5−ビス(1−ナフチル)−1,3,4−チアジアゾール、1,4−ビス[2−(5−フェニルチアジアゾリル) ]ベンゼン、2−(4’−t−ブチルフェニル)−5−(4”−ビフェニル) −1,3,4−トリアゾール、2,5−ビス(1−ナフチル)−1,3,4−トリアゾール、1,4−ビス[2−(5−フェニルトリアゾリル) ]ベンゼン等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0052】
本発明の有機EL素子においては、発光層中に、一般式(I)から選ばれる少なくとも一種の芳香族アミン誘導体の他に、発光材料、ドーピング材料、正孔注入材料及び電子注入材料の少なくとも1種が同一層に含有されてもよい。また、本発明により得られた有機EL素子の、温度、湿度、雰囲気等に対する安定性の向上のために、素子の表面に保護層を設けたり、シリコンオイル、樹脂等により素子全体を保護することも可能である。
【0053】
本発明の有機EL素子の陽極に使用される導電性材料としては、4eVより大きな仕事関数を持つものが適しており、炭素、アルミニウム、バナジウム、鉄、コバルト、ニッケル、タングステン、銀、金、白金、パラジウム等及びそれらの合金、ITO基板、NESA基板に使用される酸化スズ、酸化インジウム等の酸化金属、さらにはポリチオフェンやポリピロール等の有機導電性樹脂が用いられる。陰極に使用される導電性物質としては、4eVより小さな仕事関数を持つものが適しており、マグネシウム、カルシウム、錫、鉛、チタニウム、イットリウム、リチウム、ルテニウム、マンガン、アルミニウム、フッ化リチウム等及びそれらの合金が用いられるが、これらに限定されるものではない。合金としては、マグネシウム/銀、マグネシウム/インジウム、リチウム/アルミニウム等が代表例として挙げられるが、これらに限定されるものではない。合金の比率は、蒸着源の温度、雰囲気、真空度等により制御され、適切な比率に選択される。陽極及び陰極は、必要があれば二層以上の層構成により形成されていても良い。
【0054】
本発明の有機EL素子では、効率良く発光させるために、少なくとも一方の面は素子の発光波長領域において充分透明にすることが望ましい。また、基板も透明であることが望ましい。透明電極は、上記の導電性材料を使用して、蒸着やスパッタリング等の方法で所定の透光性が確保するように設定する。発光面の電極は、光透過率を10%以上にすることが望ましい。基板は、機械的、熱的強度を有し、透明性を有するものであれば限定されるものではないが、ガラス基板及び透明性樹脂フィルムがある。透明性樹脂フィルムとしては、ポリエチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−ビニルアルコール共重合体、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリメチルメタアクリレート、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ナイロン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリサルホン、ポリエーテルサルフォン、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、ポリビニルフルオライド、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリビニリデンフルオライド、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリウレタン、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリイミド、ポリプロピレン等が挙げられる。
【0055】
本発明に係わる有機EL素子の各層の形成は、真空蒸着、スパッタリング、プラズマ、イオンプレーティング等の乾式成膜法やスピンコーティング、ディッピング、フローコーティング等の湿式成膜法のいずれの方法を適用することができる。膜厚は特に限定されるものではないが、適切な膜厚に設定する必要がある。膜厚が厚すぎると、一定の光出力を得るために大きな印加電圧が必要になり効率が悪くなる。膜厚が薄すぎるとピンホール等が発生して、電界を印加しても充分な発光輝度が得られない。通常の膜厚は5nm〜10μmの範囲が適しているが、10nm〜0.2μmの範囲がさらに好ましい。
【0056】
湿式成膜法の場合、各層を形成する材料を、エタノール、クロロホルム、テトラヒドロフラン、ジオキサン等の適切な溶媒に溶解又は分散させて薄膜を形成するが、その溶媒はいずれであっても良い。また、いずれの有機薄膜層においても、成膜性向上、膜のピンホール防止等のため適切な樹脂や添加剤を使用しても良い。使用の可能な樹脂としては、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリエステル、ポリアミド、ポリウレタン、ポリスルフォン、ポリメチルメタクリレート、ポリメチルアクリレート、セルロース等の絶縁性樹脂及びそれらの共重合体、ポリ−N−ビニルカルバゾール、ポリシラン等の光導電性樹脂、ポリチオフェン、ポリピロール等の導電性樹脂を挙げられる。また、添加剤としては、酸化防止剤、紫外線吸収剤、可塑剤等を挙げられる。
【0057】
本発明の有機EL素子は、壁掛けテレビのフラットパネルディスプレイ等の平面発光体、複写機、プリンター、液晶ディスプレイのバックライト又は計器類等の光源、表示板、標識灯等に利用できる。また、本発明の材料は、有機EL素子だけでなく、電子写真感光体、光電変換素子、太陽電池、イメージセンサー等の分野においても使用できる。
【実施例】
【0058】
次に、実施例を用いて本発明をさらに詳しく説明する。
【0059】
合成実施例(化合物(D−3−2)の合成)
(1)2,6−ビス(トリメチルシリル)アントラセンの合成
アルゴン気流下冷却管付き1L3口フラスコ中に、2,6−ジブロモアントラセン 2.8g(8.3mmol)、乾燥THF 200mL、乾燥トルエン 200mLを加えた後、−30℃に冷却した。続いて、n−ブチルリチウム 12mL(19.1mmol,1.58M ヘキサン溶液)をゆっくりと加えた。続いて、−70℃にて、トリメチルシリルクロリド 2.4mL(19.1mmol,d=0.85)を加えた後、室温で1時間攪拌した。反応終了後、水 100mLを加え、有機層を分液した。硫酸ナトリウムで乾燥後、溶媒を留去し、メタノール 100mLにて洗浄し、淡黄色粉末 1.7gを得た。(収率57%)
【0060】
(2)9,10−ジブロモ−2,6−ビス(トリメチルシリル)アントラセンの合成
アルゴン気流下冷却管付き1Lナスフラスコ中に、2,6−ビス(トリメチルシリル)アントラセン 1.7g(5.6mmol)、N−ブロモスクシンイミド 2.5g(11.3mmol)、乾燥DMF 300mLを加えた後、室温にて5時間攪拌した。反応終了後、水 300mLを加え、析出した結晶を濾取し、水 50mL、メタノール 100mLにて洗浄した後、カラムクロマトグラフィー(シリカゲル,展開溶媒:ヘキサン)で精製し、淡黄色粉末 1.2gを得た。(収率46%)
【0061】
(3)化合物(D−3−2)の合成
アルゴン気流下冷却管付き300mL三口フラスコ中に、9,10−ジブロモ−2,6−ビス(トリメチルシリル)アントラセン 1.2g(2.5mmol)、4−メチル−4’−イソプロピルジフェニルアミン 1.4g(6.2mmol)、酢酸パラジウム 0.01g(1.5mol%)、トリ−t−ブチルホスフィン 0.02g(3mol%)、ナトリウムt−ブトキシド 0.6g(6.2mmol)、乾燥トルエン 50mLを加えた後、100℃にて一晩加熱攪拌した。反応終了後、析出した結晶を濾取し、トルエン 50mL、メタノール 100mLにて洗浄し、淡黄色粉末 1.7gを得た。このものは、1H−NMRスペクトル(図1)及びFD−MS(フィールドディソープションマススペクトル)の測定により、化合物(D−3−2)と同定した(収率90%)。また、得られた化合物についてトルエン溶液中で測定した最大吸収波長は484nm、最大蛍光波長は533nmであった。
【0062】
実施例1
25×75×1.1mmサイズのガラス基板上に、膜厚130nmのインジウムスズ酸化物からなる透明電極を設けた。このガラス基板に紫外線及びオゾンを照射して洗浄したのち、真空蒸着装置にこの基板を設置した。
まず、正孔注入層として、N’,N’’−ビス[4−(ジフェニルアミノ)フェニル]−N’,N’’−ジフェニルビフェニル−4,4’−ジアミンを 60nmの厚さに蒸着したのち、その上に正孔輸送層として、N,N,N’,N’−テトラキス(4−ビフェニル)−4,4’−ベンジジンを20nmの厚さに蒸着した。次いで、ホスト材料として10,10’−ビス[1,1’,4’,1’’]テルフェニル−2−イル−9,9’−ビアントラセニル、ドーピング材料として上記 化合物 (D−1−5)とを、重量比40:2で同時蒸着し、厚さ40nmの発光層を形成した。
次に、電子注入層として、トリス(8−キノリノラト)アルミニウムを20nmの厚さに蒸着した。次に弗化リチウムを1nmの厚さに蒸着し、次いでアルミニウムを150nmの厚さに蒸着した。このアルミニウム/弗化リチウムは陰極として働く。このようにして有機EL素子を作製した。
次にこの素子に通電試験を行ったところ、電圧6.5V、電流密度10mA/cm2にて、発光効率9cd/A、910cd/m2の青色発光[CIE(0.14、0.21)発光極大波長:470nm]が得られた。初期輝度500cd/m2で直流の連続通電試験を行ったところ、半減寿命は20,000時間以上であり、十分実用領域にあった。
【0063】
実施例2
実施例1において、ドーピング材料として化合物(D−1−5)のかわりに化合物(D−3−1)を用いて、有機EL素子を作製した。
この素子に通電試験を行ったところ、電圧6.5V、電流密度10mA/cm2にて、発光効率14cd/A、1400cd/m2の緑色発光(発光極大波長:540nm)が得られた。初期輝度1,000cd/m2で直流の連続通電試験を行ったところ、半減寿命は20,00時間以上であり、十分実用領域にあった。
【0064】
実施例3
実施例1において、ドーピング材料として化合物(D−1−5)のかわりに化合物(D−3−2)を用い、ホスト:ドーパントの重量比40:3で同時蒸着し、有機EL素子を作製した。
この素子に通電試験を行ったところ、電圧6.5V、電流密度10mA/cm2にて、発光効率16cd/A、1600cd/m2の緑色発光(発光極大波長:545nm)が得られた。初期輝度1000cd/m2で直流の連続通電試験を行ったところ、半減寿命は20,000時間以上であり、十分実用領域にあった。
【0065】
比較例1
実施例1において、ドーピング材料として化合物(D−1−5)のかわりに、3,8−ジメチル−1,6−ビス(3−メチルジフェニルアミノ)ピレン化合物を用いて、有機EL素子を作製した。
この素子に通電試験を行ったところ、電圧6.5V、電流密度10mA/cm2にて、発光効率8cd/A、805cd/m2の青色発光[発光極大波長:465nm]が得られたが、CIE色度座標は(0.17、0.25)であった。即ち、化合物同士の分子会合により発光スペクトルが長波長方向にブロード化して色純度を悪化させていた。
【0066】
比較例2
実施例3において、化合物(D−3−2)のかわりに、9,10−ジフェニルアミノ−アントラセンを用いて、有機EL素子を作製した。
この素子に通電試験を行ったところ、電圧6.5V、電流密度10mA/cm2にて、発光効率10.3cd/A、1030cd/m2の緑色発光(発光極大波長:514nm)が得られた。初期輝度1000cd/m2で直流の連続通電試験を行ったところ、半減寿命は10,000時間であった。即ち、アントラセン骨格に置換基を有しない場合、化合物同士の分子会合のため、半減寿命が短くなるものと考えられる。
【0067】
以上実施例及び比較例の結果から、ピレンやアントラセン等の縮合多環式炭化水素基にシリル基が結合することによって、化合物同士の会合を妨げられ、この芳香族アミン誘導体を用いるEL素子は半減寿命が長くなることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0068】
以上詳細に説明したように、本発明の芳香族アミン誘導体を用いた有機EL素子は、低い印加電圧で実用上十分な発光輝度が得られ、発光効率が高く、長時間使用しても劣化しづらく寿命が長いものと期待される。このため、壁掛テレビの平面発光体やディスプレイのバックライト等の光源として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】合成実施例1、(3)で得られた化合物(D−3−2)の1H−NMRの測定結果を示すチャートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で表わされる芳香族アミン誘導体。
【化1】

{式中、Xは、置換もしくは無置換の核炭素数10〜50の縮合多環式炭化水素基である。
1〜A4は、それぞれ独立に、置換もしくは無置換の核炭素数5〜50のアリール基、置換もしくは無置換の炭素数1〜50のアルキル基、置換もしくは無置換の核炭素数3〜50のシクロアルキル基、置換もしくは無置換の核炭素数6〜50のアラルキル基、又は置換もしくは無置換の核炭素数5〜50の複素環基である。
1は、置換もしくは無置換の炭素数3〜20のシリル基である。
2は、水素原子、置換もしくは無置換の炭素数1〜50のアルキル基、置換もしくは無置換の核炭素数5〜50のアリール基、置換もしくは無置換の核炭素数6〜50のアラルキル基、置換もしくは無置換の核炭素数3〜50のシクロアルキル基、置換もしくは無置換の炭素数1〜50のアルコキシル基、置換もしくは無置換の核炭素数5〜50のアリールオキシ基、置換もしくは無置換の核炭素数5〜50のアリールアミノ基、置換もしくは無置換の炭素数1〜20のアルキルアミノ基、又は置換もしくは無置換の核炭素数5〜50の複素環基である。
aは0〜3の整数、bは1〜4の整数、cは0〜4の整数であり、a,b,cが2以上の場合、それぞれの( )内は同一でも異なっていてもよい。}
【請求項2】
下記一般式(II)で表わされる請求項1記載の芳香族アミン誘導体。
【化2】

{式中、X、A1〜A4、R1、R2、b及びcは、いずれも前記一般式(I)におけるものと同じである。}
【請求項3】
下記一般式(III)で表わされる請求項1記載の芳香族アミン誘導体。
【化3】

{式中、X、R1、R2、a、b及びcは、いずれも前記一般式(I)におけるものと同じである。
5〜A8は、それぞれ独立に、水素原子、置換もしくは無置換の炭素数1〜50のアルキル基、置換もしくは無置換の核炭素数5〜50のアリール基、置換もしくは無置換の核炭素数6〜50のアラルキル基、置換もしくは無置換の核炭素数3〜50のシクロアルキル基、置換もしくは無置換の炭素数1〜50のアルコキシル基、置換もしくは無置換の核炭素数5〜50のアリールオキシ基、置換もしくは無置換の核炭素数5〜50のアリールアミノ基、置換もしくは無置換の炭素数1〜20のアルキルアミノ基、置換もしくは無置換の炭素数3〜20のシリル基、又は置換もしくは無置換の核炭素数5〜50の複素環基である。
d,e,f及びgは、それぞれ0〜5の整数であり、d,e,f及び/又はgが2以上の場合、複数のA5〜A8はそれぞれ同一でも異なっていてもよく、互いに結合して飽和もしくは不飽和の環を形成してもよい。}
【請求項4】
前記一般式(I)、(II)又は(III)におけるXが、ナフタレン、フェナントレン、フルオランテン、アントラセン、ピレン、ペリレン、コロネン、クリセン、ピセン、ジフェニルアントラセン、フルオレン、トリフェニレン、ルビセン、ベンゾアントラセン、フェニルアントラセン、ビスアントラセン、ジアントラセニルベンゼン、又はジベンゾアントラセンの残基である請求項1〜3のいずれかに記載の芳香族アミン誘導体。
【請求項5】
有機エレクトロルミネッセンス素子用のドーピング材料である請求項1〜4のいずれかに記載の芳香族アミン誘導体。
【請求項6】
陰極と陽極間に少なくとも発光層を含む一層又は複数層からなる有機薄膜層が挟持されている有機エレクトロルミネッセンス素子において、該有機薄膜層の少なくとも1層が、請求項1〜4のいずれかに記載の芳香族アミン誘導体を単独又は混合物の成分として含有する有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項7】
前記発光層が、請求項1〜4のいずれかに記載の芳香族アミン誘導体を単独又は混合物の成分として含有する請求項6に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項8】
前記発光層が、請求項1〜4のいずれかに記載の芳香族アミン誘導体を0.1〜20重量%含有する請求項6又は7に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2007−137837(P2007−137837A)
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−335434(P2005−335434)
【出願日】平成17年11月21日(2005.11.21)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】