説明

芳香族カチオン性ペプチドおよびその使用

本開示では、芳香族カチオン性ペプチド組成物およびそれを用いて疾患を予防または処置する方法を提供する。方法は、芳香族カチオン性ペプチドを必要としている被検体にその有効量を投与することを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2010年1月25日に出願された米国仮出願第61/298,062号の優先権を主張するものであり、内容全体が参照により援用される。
【0002】
技術分野
本技術は、一般的に、芳香族カチオン性ペプチド組成物と、それを用いて疾患を予防または処置する方法とに関する。
【発明の概要】
【0003】
一態様において、本技術は芳香族カチオン性ペプチドまたはその薬学的に許容される塩を提供する。一部の実施形態では、ペプチドは以下か、;
D−Arg−Dmt−Lys−Trp−NH2
D−Arg−Trp−Lys−Trp−NH2
D−Arg−Dmt−Lys−Phe−Met−NH2
H−D−Arg−Dmt−Lys(NαMe)−Phe−NH2
H−D− Arg−Dmt−Lys−Phe(NMe)−NH2
H−D−Arg−Dmt−Lys(NαMe)−Phe(NMe)−NH2
H−D−Arg(NαMe)−Dmt(NMe)−Lys(NαMe)−Phe(NMe)−NH2
D−Arg−Dmt−Lys−Phe−Lys−Trp−NH2
D−Arg−Dmt−Lys−Dmt−Lys−Trp−NH2
D−Arg−Dmt−Lys−Phe−Lys−Met−NH2
D−Arg−Dmt−Lys−Dmt−Lys−Met−NH2
H−D−Arg−Dmt−Lys−Phe−Sar−Gly−Cys−NH2
H−D−Arg−Ψ[CH2−NH]Dmt−Lys−Phe−NH2
H−D−Arg−Dmt−Ψ[CH2−NH]Lys−Phe−NH2
H−D−Arg−Dmt−LysΨ[CH2−NH]Phe−NH2;および
H−D−Arg−Dmt−Ψ[CH2−NH]Lys−Ψ[CH2−NH]Phe−NH2
からなる群から選択される。
【0004】
一部の実施形態では、「Dmt」は2’,6’−ジメチルチロシン(2’,6’−Dmt)または3’,5’−ジメチルチロシン(3’,5’−Dmt)のことを意味する。
【0005】
別の態様において、本開示は、芳香族カチオン性ペプチドおよびその薬学的に許容される担体を含む医薬組成物を提供する。
【0006】
別の態様において、本開示は、酸化的損傷の削減が必要とされる哺乳動物の該酸化的損傷を削減する方法であって、有効量の1つ以上の芳香族カチオン性ペプチドを哺乳動物に投与することを含む方法を提供する。
別の態様において、本開示は、ミトコンドリア透過性遷移(MPT)の数を減らす、またはミトコンドリア透過性遷移を妨げることを必要とする哺乳動物のミトコンドリア透過性遷移を妨げる方法であって、有効量の1つ以上の芳香族カチオン性ペプチドを哺乳動物に投与することを含む方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】図1は、D−Arg−Dmt−Lys−Phe−NH2がシトクロムc(cyt c)の削減率を高めることを示すグラフである。削減されたcyt cは、550nmでの吸収で測定した。ペプチドは、40μM NACで誘導されたcyt cの削減率を用量依存的に高めた。100μMのペプチド単独では効果がなかった。
【図2】図2は、D−Arg−Dmt−Lys−Phe−NH2による処置によって、虚血再灌流(IR)傷害20分後、単離腎臓ミトコンドリアにおける状態3呼吸が高まったことを示すグラフである(p<0.01)。
【図3】図3は、D−Arg−Dmt−Lys−Phe−NH2による処置によって、虚血再灌流(IR)傷害1時間後、ラット腎臓のATP含有量が高まったことを示すグラフである(p<0.05)。
【図4】図4は、H−Phe−D−Arg−Phe−Lys−Cys−NH2によって、虚血再灌流(IR)後のラット腎臓の酸化還元状態が維持されることを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
当然のことながら、本発明を十分に理解してもらうために、本発明の特定の態様、様式、実施形態、変形例、および特徴があらゆるレベルで詳細に後述されている。本願明細書で使用される特定の用語の定義を下記に示す。別段に定義されなければ、本願明細書で使用されるすべての技術および科学用語は一般的に、本発明が属する技術分野における当事者によって共通して理解されるものと同じ意味を有する。
【0009】
本願明細書および添付の特許請求の範囲で使用される場合、別段に明確に指示されないかぎり、単数形は複数の指示対象を含む。例えば、「細胞」への言及は2つ以上の細胞の組み合わせなどを含む。
【0010】
本願明細書で使用される場合、被検体に対する作用物質、薬物、またはペプチドの「投与」には、被検体にその目的とする機能を果たすための化合物を導入または供給する経路を含む。投与は、経口、鼻腔内、非経口(静脈、筋肉内、腹腔内、または皮下)、または局所を含む適切な経路によって行うことができる。投与には、自己投与および他者による投与を含む。
【0011】
本願明細書で使用される場合、用語「アミノ酸」には天然アミノ酸および合成アミノ酸のほかに、天然アミノ酸に似た方法で機能するアミノ酸類似体およびアミノ酸模倣体も含まれる。天然アミノ酸は、遺伝情報によってコードされるもののほかに、後修飾を受けるアミノ酸、例えばヒドロキシプロリン、γ−カルボキシグルタミン酸塩、およびO−ホスホセリンもある。アミノ酸類似体は、ホモセリン、ノルロイシン、メチオニンスルホキシド、メチオニンメチルスルホニウムなどの天然アミノ酸と同じ基本化学構造、すなわち水素、カルボキシル基、アミノ基、およびR基に結合するα−炭素を有する化合物を意味する。当該類似体は、修飾R基(ノルロイシンなど)または修飾ペプチド主鎖を有するが、天然アミノ酸と同じ基本化学構造を維持する。アミノ酸模倣体は、アミノ酸の全体化学構造と違う構造を有するが、天然アミノ酸に似た方法で機能する化合物を意味する。本明細書中では、アミノ酸は一般に知られている3文字の記号、またはIUPAC−IUB生化学命名法委員会によって推奨される1文字の記号で言及できる。
【0012】
本願明細書で使用される場合、用語「有効量」は、期待される治療および/または予防効果を達成するのに十分な量を意味する。治療または予防用途の文脈では、被検体に投与される組成物の量は、疾患の種類および重症度と、全体的な健康、年齢、性別、体重、および薬物耐性などの個体の特性とによって、決まる。これは、疾患の段階、重症度、および種類によっても決まる。当事者は、これらおよび他の要因に応じて適切な用量を決定することができる。組成物は、1つ以上の追加治療化合物と併用投与することもできる。
【0013】
「単離」または「精製」されたポリペプチドまたはペプチドには、化学物質が抽出される細胞または組織源由来の細胞物質または他の混入ポリペプチドが実質的にない、あるいは化学合成されるときの化学的前駆体または他の化学薬品が実質的にない。例えば、単離された芳香族カチオン性ペプチドには、化学物質の診断上または治療上の使用を妨げる物質がないことになる。当該妨害物質としては、酵素、ホルモン、ならびに他のタンパク性および非タンパク性溶質が挙げられる。
【0014】
本願明細書で使用される場合、用語「ポリペプチド」、「ペプチド」、および「タンパク質」は、本願明細書では区別しないで、ペプチド結合または修飾ペプチド結合、すなわちペプチドイソスターでお互いに結合した2つ以上のアミノ酸を含む重合体を意味する。ポリペプチドは、一般的にペプチド、グリコペプチド、またはオリゴマーと呼ばれる短鎖と、一般的にタンパク質と呼ばれる長鎖との両方を意味する。ポリペプチドは、20種類の遺伝子コードアミノ酸以外のアミノ酸を含むものであってもよい。ポリペプチドは、翻訳後プロセッシングなどの自然過程で、または当技術分野で公知の化学的修飾技術で修飾されたアミノ酸配列を含む。
【0015】
本願明細書で使用される場合、用語「処置する」または「処置」あるいは「緩和」は、治療的処置と予防方法または予防対策との両方を意味し、目的は標的とされる症状または疾患を防止または抑制する(減少させる)ことである。また、当然のことながら、述べられるような症状の処置または予防のさまざまな様式は「実質的」を意味することを目的としており、それには処置または予防の全体だけでなく全体以下を含み、一部の生物学的または医学的に関連性のある結果が達成される。
【0016】
本願明細書で使用される場合、疾患または症状の「予防」または「予防する」は、統計上の被検体において、未処置対照検体と比較して、処置被検体での疾患または症状の発生を減少させる化合物、あるいは未処置対照検体と比較して、疾患または症状の1つ以上の症候の発病を遅らせる、または重症度を低下させる化合物を意味する。
【0017】
本技術は、特定の芳香族カチオン性ペプチドの投与による疾患の処置または予防に関する。
【0018】
芳香族カチオン性ペプチドは水溶性、かつ高極性である。これらの特性にも関わらず、ペプチドは細胞膜を簡単に浸透できる。芳香族カチオン性ペプチドは典型的に、ペプチド結合によって共有結合された最小3個のアミノ酸または最小4個のアミノ酸を含む。芳香族カチオン性ペプチドに存在するアミノ酸の最大数は、ペプチド結合によって共有結合された約20個のアミノ酸である。好適には、アミノ酸の最大数は約12個、約9個、または約6個である。
【0019】
芳香族カチオン性ペプチドのアミノ酸は任意のアミノ酸であってもよい。本願明細書で使用される場合、「アミノ酸」は、少なくとも1つのアミノ基および少なくとも1つのカルボキシル基を含む有機分子を言及するために使用される。典型的に、少なくとも1つのアミノ基はカルボキシル基に対してα位に位置する。アミノ酸は天然のものであってもよい。例えば、天然アミノ酸としては、哺乳動物のタンパク質中で通常見られる20種類の最も一般的な左旋性(L)アミノ酸、すなわち、アラニン(Ala)、アルギニン(Arg)、アスパラギン(Asn)、アスパラギン酸(Asp)、システイン(Cys)、グルタミン(Gln)、グルタミン酸(Glu)、グリシン(Gly)、ヒスチジン(His)、イソロイシン(Ile)、ロイシン(Leu)、リジン(Lys)、メチオニン(Met)、フェニルアラニン(Phe)、プロリン(Pro)、セリン(Ser)、スレオニン(Thr)、トリプトファン(Trp)、チロシン(Tyr)、およびバリン(Val)が挙げられる。他の天然アミノ酸としては、例えば、タンパク質合成と関係がない代謝過程で合成されるアミノ酸が挙げられる。例えば、アミノ酸オルニチンおよびシトルリンは、尿素生成中の哺乳動物の代謝で合成される。天然アミノ酸の別の例としては、ヒドロキシプロリン(Hyp)が挙げられる。
【0020】
ペプチドは任意に1つ以上の非天然アミノ酸を含む。任意選択で、ペプチドは天然に発生するアミノ酸を有しない。非天然アミノ酸は左旋性(L−)、右旋性(D−)、またはそれらの混合物であってもよい。非天然アミノ酸は、生物の通常の代謝過程では一般的に合成されず、かつタンパク質中には天然に生じないアミノ酸である。さらに、非天然アミノ酸は、一般的なプロテアーゼによっても認識されることはない。非天然アミノ酸は、ペプチドの任意の位置に存在できる。例えば、非天然アミノ酸は、N末端、C末端、またはN末端とC末端との間の位置に存在できる。
【0021】
例えば、非天然アミノ酸は、天然アミノ酸では見られないアルキル基、アリール基、またはアルキルアリール基を含むものであってもよい。非天然アルキルアミノ酸のいくつかの例としては、α−アミノ酪酸、β−アミノ酪酸、γ−アミノ酪酸、δ−アミノ吉草酸、およびε−アミノカプロン酸が挙げられる。非天然アリールアミノ酸のいくつかの例としては、オルト−、メタ−、およびパラ−アミノ安息香酸が挙げられる。非天然アルキルアリールアミノ酸のいくつかの例としては、オルト−、メタ−、およびパラ−アミノフェニル酢酸、ならびにγ−フェニル−β−アミノ酪酸が挙げられる。非天然アミノ酸としては、天然アミノ酸の誘導体が挙げられる。天然アミノ酸の誘導体としては、例えば、天然アミノ酸に1つ以上の化学基を付加したものを挙げることが可能である。
【0022】
例えば、1つ以上の化学基を、フェニルアラニンまたはチロシン残基の芳香環の2位、3位、4位、5位、または6位の位置、あるいはトリプトファン残基のベンゾ環の4位、5位、6位、または7位の位置の1つ以上に付加できる。この基は、芳香環に付加できる任意の化学基であってもよい。この基のいくつかの例としては、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、またはt−ブチルなどの分岐または非分岐の炭素数1〜4のアルキル、炭素数1〜4のアルキルオキシ(すなわち、アルコキシ)、アミノ、炭素数1〜4のアルキルアミノ、および炭素数1〜4のジアルキルアミノ(例えば、メチルアミノ、ジメチルアミノ)、ニトロ、ヒドロキシル、ハロ(すなわち、フルオロ、クロロ、ブロモ、またはヨード)が挙げられる。天然アミノ酸の非天然誘導体のいくつかの具体例として、ノルバリン(Nva)およびノルロイシン(Nle)が挙げられる。
【0023】
ペプチド中のアミノ酸の修飾の別の例としては、ペプチドのアスパラギン酸またはグルタミン酸残基のカルボキシル基の誘導体化がある。誘導体化の一例は、アンモニアによる、あるいはメチルアミン、エチルアミン、ジメチルアミン、またはジエチルアミンなどの第1級または第2級アミンによるアミド化である。誘導体化の別の例としては、例えば、メチルまたはエチルアルコールによるエステル化が挙げられる。別の前記修飾としては、リジン、アルギニン、またはヒスチジン残基のアミノ基の誘導体化が挙げられる。例えば、前記アミノ基をアクリル化できる。いくつかの適切なアクリル基としては、例えば、アセチルまたはプロピオニル基などの上述の炭素数1〜4のアルキル基のいずれかを含むベンゾイル基またはアルカノイル基が挙げられる。
【0024】
非天然アミノ酸は、好適には一般的なプロテアーゼに耐性を示すか、または無反応である。プロテアーゼに耐性がある、または無反応である非天然アミノ酸の例としては、上述の天然L−アミノ酸のいずれかの右旋性(D−)形態のほか、L−および/またはD−非天然アミノ酸も挙げられる。D−アミノ酸は通常、タンパク質中では生じないが、細胞の通常のリボソームタンパク質合成装置以外によって合成される特定のペプチド抗生物質中で見つかる。本願明細書で使用される場合、D−アミノ酸は非天然アミノ酸と考えられる。
【0025】
プロテアーゼ感受性を最低限に抑えるため、ペプチドは、アミノ酸が天然に発生するか発生しないかに関係なく、5個未満、4個未満、3個未満、または2個未満が隣接する、一般的なプロテアーゼによって認識されるL−アミノ酸を有する必要がある。一実施形態では、ペプチドはD−アミノ酸のみを含み、L−アミノ酸は含まない。ペプチドがアミノ酸のプロテアーゼ感受性配列を含む場合、好適にはアミノ酸の少なくとも1つは非天然D−アミノ酸であり、それによって、プロテアーゼ耐性を授与する。プロテアーゼ感受性配列の例としては、エンドペプチターゼおよびトリプシンなどの一般的なプロテアーゼによって簡単に切断される2つ以上の隣接塩基性アミノ酸が挙げられる。塩基性アミノ酸の例としては、アルギニン、リジン、およびヒスチジンが挙げられる。
【0026】
芳香族カチオン性ペプチドは、ペプチド中のアミノ酸残基の総数と比較して、生理学的pHで最小数の正味正電荷を有する必要がある。生理学的pHでの正味正電荷の最小数は以下(pm)と呼ばれる。以下、ペプチド中のアミノ酸残基の総数を(r)とする。以下で述べられる正味正電荷の最小数はすべて生理学的pHでの値である。本願明細書で使用される場合の用語「生理学的pH」は哺乳動物の体の組織および臓器の細胞中の通常pHを意味する。例えば、ヒトの生理学的pHは通常約7.4であるが、哺乳動物の通常の生理学的pHは約7.0〜約7.8の間のいずれかのpHである場合がある。
【0027】
本願明細書で使用される場合の「正味電荷」は、ペプチド中に存在するアミノ酸によって帯びている正電荷の数と負電荷の数との差し引きの数を意味する。本明細書では、当然のことながら正味電荷は生理学的pHで測定される。生理学的pHで正の電荷を帯びた天然アミノ酸としては、L−リジン、L−アルギニン、およびL−ヒスチジンが挙げられる。生理学的pHで負の電荷を帯びた天然アミノ酸としては、L−アスパラギン酸およびL−グルタミン酸が挙げられる。
【0028】
典型的に、ペプチドは正に電荷を帯びたN末端アミノ基と、負の電荷を帯びたC末端カルボキシル基とを有する。電荷は、生理学的pHでお互いに打ち消し合う。正味電荷の計算の例として、ペプチドTyr−Arg−Phe−Lys−Glu−His−Trp−D−Argは1の負の電荷を帯びたアミノ酸(すなわち、Glu)および4の正の電荷を帯びたアミノ酸(すなわち、2のArg残基、1のLys、および1のHis)を有する。そのため、上記ペプチドは3の正味正電荷を有する。
【0029】
一実施形態では、芳香族カチオン性ペプチドは、3pmがr+1以下の最大数である生理学的pHでの正味正電荷の最小数(pm)とアミノ酸残基の総数(r)との関係を有する。本実施形態では、正味正電荷の最小数(pm)とアミノ酸残基の総数(r)との関係は、以下のとおりである。
【表1】

【0030】
別の実施形態では、芳香族カチオン性ペプチドは、2pmがr+1以下の最大数である正味正電荷の最小数(pm)とアミノ酸残基の総数(r)との関係を有する。本実施形態では、正味正電荷の最小数(pm)とアミノ酸残基の総数(r)との関係は、以下のとおりである。
【表2】

【0031】
一実施形態では、正味正電荷の最小数(pm)とアミノ酸残基の総数(r)とは等しい。別の実施形態では、ペプチドは3個または4個のアミノ酸残基と最小1の正味正電荷とを有し、好適には最小2の正味正電荷を有し、さらに好適には最小3の正味正電荷を有する。
【0032】
また、芳香族カチオン性ペプチドは、正味正電荷の総数(pt)と比較して最小数の芳香族基を有することも重要である。最小数の芳香族基は以下(a)と呼ばれる。芳香族基を有する天然アミノ酸としては、アミノ酸ヒスチジン、トリプトファン、チロシン、およびフェニルアラニンが挙げられる。例えば、ヘキサペプチドLys−Gln−Tyr−D−Arg−Phe−Trpは2の正味正電荷(リジンとアルギニン残基による寄与)と3個の芳香族基(チロシン、フェニルアラニン、およびトリプトファン残基による寄与)を有する。
【0033】
また、芳香族カチオン性ペプチドは、ptが1で、aもおそらく1である場合を除き、3aがpt+1以下の最大数である、生理学的pH(pt)における芳香族基の最小数(a)と正味正電荷の総数(pt)との関係を有する必要がある。本実施形態では、芳香族基の最小数(a)と正味正電荷の総数(pt)との関係は以下のとおりである。
【表3】

【0034】
別の実施形態では、芳香族カチオン性ペプチドは、2aがpt+1以下の最大数である、芳香族基の最小数(a)と生理学的pHでの正味正電荷の総数(pt)との関係を有する。本実施形態では、芳香族アミノ酸残基の最小数(a)と正味正電荷の総数(pt)との関係は以下のとおりである。

【0035】
別の実施形態では、芳香族基の最小数(a)と正味正電荷の総数(pt)は等しい。
【0036】
カルボキシル基、特にC末端アミノ酸の末端カルボキシル基は、好適には、例えばC末端アミドを形成するアンモニアでアミド化される。あるいは、C末端アミノ酸の末端カルボキシル基は、第1級または第2級アミンによってアミド化してもよい。第1級または第2級アミンは、例えば、アルキルであってもよく、特に分岐または非分岐の炭素数1〜4のアルキルまたはアリールアミンであってもよい。それ故に、ペプチドのC末端のアミノ酸はアミド基、N−メチルアミド基、N−エチルアミド基、N,N−ジメチルアミド基、N,N−ジエチルアミド基、N−メチル−N−エチルアミド基、N−フェニルアミド基、またはN−フェニル−N−エチルアミド基に変換してもよい。また、芳香族カチオン性ペプチドのC末端では生じないアスパラギン、グルタミン、アスパラギン酸、およびグルタミン酸残基の遊離型のカルボキシレート基も、ペプチド内のどこで生じてもアミド化してもよい。これらの内部位置のアミド化は、上述のようにアンモニアまたは、第1級または第2級アミンのいずれかであってもよい。
【0037】
一実施形態では、芳香族カチオン性ペプチドは、2の正味正電荷および少なくとも1つの芳香族アミノ酸を有するトリペプチドである。特定の実施形態では、芳香族カチオン性ペプチドは、2の正味正電荷および2つの芳香族アミノ酸を有するトリペプチドである。
【0038】
芳香族カチオン性ペプチドの例としては以下のペプチドが挙げられるが、これに限定されるものではない。
D−Arg−Dmt−Lys−Trp−NH2
D−Arg−Trp−Lys−Trp−NH2
D−Arg−Dmt−Lys−Phe−Met−NH2
H−D−Arg−Dmt−Lys(NαMe)−Phe−NH2
H−D− Arg−Dmt−Lys−Phe(NMe)−NH2
H−D−Arg−Dmt−Lys(NαMe)−Phe(NMe)−NH2
H−D−Arg(NαMe)−Dmt(NMe)−Lys(NαMe)−Phe(NMe)−NH2
D−Arg−Dmt−Lys−Phe−Lys−Trp−NH2
D−Arg−Dmt−Lys−Dmt−Lys−Trp−NH2
D−Arg−Dmt−Lys−Phe−Lys−Met−NH2
D−Arg−Dmt−Lys−Dmt−Lys−Met−NH2
H−D−Arg−Dmt−Lys−Phe−Sar−Gly−Cys−NH2
H−D−Arg−Ψ[CH2−NH]Dmt−Lys−Phe−NH2
H−D−Arg−Dmt−Ψ[CH2−NH]Lys−Phe−NH2
H−D−Arg−Dmt−LysΨ[CH2−NH]Phe−NH2;および
H−D−Arg−Dmt−Ψ[CH2−NH]Lys−Ψ[CH2−NH]Phe−NH2
【0039】
一実施形態では、ペプチドはμオピオイド受容体作動薬活性(すなわち、それらはμオピオイド受容体を活性化させる)を有する。μオピオイド活性は、モルモット回腸を用いたバイオアッセイによってμオピオイド受容体に対する放射性リガンド結合で評価される(Schiller et al, EurJMed Chem, 35:895−901, 2000; Zhao et al., J Pharmacol Exp Ther, 307:947−954, 2003)。典型的に、μオピオイド受容体の活性化によって鎮痛効果を引き出す。場合によっては、μオピオイド受容体作動薬活性を有する芳香族カチオン性ペプチドが好適である。例えば、急性疾患または症状などの短期処置中に、μオピオイド受容体を活性化させる芳香族カチオン性ペプチドを使用することが有益である場合がある。当該急性疾患および症状が、中程度または重度の痛みに関連することがよくある。これらの場合では、ヒトの患者または他の哺乳動物の処置計画において、芳香族カチオン性ペプチドの鎮痛効果が有益な場合がある。しかし、臨床上の要求によって、μオピオイド受容体を活性化させない芳香族カチオン性ペプチドが鎮痛の有無を問わずに使用される場合もある。
【0040】
あるいは、他の例では、μオピオイド受容体作動薬活性を持たない芳香族カチオン性ペプチドが好適である。例えば、慢性疾患の病態または症状などの長期処置中に、μオピオイド受容体を活性化させる芳香族カチオン性ペプチドを使用することが禁忌である場合がある。これらの例では、芳香族カチオン性ペプチドの潜在的な副作用または中毒作用によって、ヒトの患者または他の哺乳動物の処置計画においてμオピオイド受容体を活性化させる芳香族カチオン性ペプチドの使用を妨げる場合がある。潜在的な副作用としては、鎮静状態、便秘、および呼吸抑制を挙げることが可能である。前記の例では、μオピオイド受容体を活性化させない芳香族カチオン性ペプチドが適切な処置法であってもよい。
【0041】
μオピオイド受容体作動薬活性を有するペプチドは典型的には、N末端(すなわち、アミノ酸位置1)にチロシン残基またはチロシン誘導体を有するペプチドである。チロシンの好適な誘導体として、2’−メチルチロシン(Mmt);2’,6’−ジメチルチロシン(2’6’−Dmt);3’,5’−ジメチルチロシン(3’5’Dmt);N,2’,6’−トリメチルチロシン(Tmt);および2’−ヒドロキシ−6’−メチルチロシン(Hmt)が挙げられる。
【0042】
μオピオイド受容体作動薬活性を持たないペプチドは、一般的にN末端(すなわち、アミノ酸位置1)にチロシン残基またはチロシンの誘導体を有さない。N末端のアミノ酸は、チロシン以外の天然または非天然アミノ酸であってもよい。一実施形態では、N末端のアミノ酸はフェニルアラニンまたはその誘導体である。フェニルアラニンの典型的な誘導体としては、2’−メチルフェニルアラニン(Mmp)、2’,6’−ジメチルフェニルアラニン(2’,6’−Dmp)、N,2’,6’−トリメチルフェニルアラニン(Tmp)、および2’−ヒドロキシ−6’−メチルフェニルアラニン(Hmp)が挙げられる。
【0043】
本願明細書に記載のペプチドとその誘導体は、機能的類似体をさらに含むことができる。類似体が規定されるペプチドと同じ機能を有する場合、ペプチドは機能的類似体と考えられる。例えば、類似体は、ペプチドの置換異性体になることがあり、1つ以上のアミノ酸が別のアミノ酸で置換される。ペプチドの好適な置換異性体としては、保存的アミノ酸置換が挙げられる。アミノ酸は、物理化学的性質によって以下のように分類できる。
(a)非極性アミノ酸:Ala(A) Ser(S) Thr(T) Pro(P) Gly(G) Cys(C)
(b)酸性アミノ酸:Asn(N) Asp(D) Glu(E) Gln(Q)
(c)塩基性アミノ酸:His(H) Arg(R) Lys(K)
(d)疎水性アミノ酸:Met(M) Leu(L) Ile(I) Val(V)
(e)芳香族アミノ酸:Phe(F) Tyr(Y) Trp(W) His(H)
【0044】
同じ分類内の別のアミノ酸によるペプチド中のアミノ酸の置換は保存的置換と呼ばれ、元のペプチドの物理的化学的性質を維持できる。その一方で、異なる群内の別のアミノ酸によるペプチド中のアミノ酸の置換は、元のペプチドの性質を変える可能性が一般的に高い。
【0045】
ペプチドは、当該技術分野で公知の方法のいずれかで合成できる。タンパク質を化学合成するための適切な方法としては、例えば、Solid Phase Peptide Synthesis、Second Edition、Pierce Chemical Company (1984)、およびMethods Enzymol. 289、Academic Press, Inc、New York (1997)でStuartとYoungによって説明されたものが挙げられる。
【0046】
芳香族カチオン性ペプチドの予防的および治療的使用
本願明細書で述べられる芳香族カチオン性ペプチドは、疾患の予防または処置に有用である。特に、本開示では、疾患のリスクがある(あるいは感染しやすい)被検体を処置するための予防および治療両方の方法を提供する。それ故に、本方法は、それを必要としている被検体に有効量の芳香族カチオン性ペプチドを投与することによって、被検体の疾患の予防および/または処置を提供する。
【0047】
酸化的損傷。上述のペプチドは、それを必要とする哺乳動物の酸化的損傷を減らすうえで有用である。酸化的損傷の削減を必要とする哺乳動物は、酸化的損傷に関連する疾患、症状を患っている、または処置を受けている哺乳動物である。酸化的損傷は典型的に、反応性酸素種(ROS)および/または反応性窒素種(RNS)などのフリーラジカルによって引き起こされる。ROSおよびRNSの例としては、ヒドロキシラジカル、スーパーオキシドアニオンラジカル、一酸化窒素、水素、次亜塩素酸(HOCl)およびペルオキシ亜硝酸塩が挙げられる。有効量の上記芳香族カチオン性ペプチドの投与後に哺乳動物、除去臓器、または細胞内の酸化的損傷の量が削減されると、酸化的損傷は「削減された」と見なされる。典型的に、ペプチドを用いた処置を受けていない対照被検体と比較して、酸化的損傷が少なくとも約10%、少なくとも約25%、少なくとも約50%、少なくとも約75%、または少なくとも約90%削減されると、酸化的損傷は削減されたと見なされる。
【0048】
一部の実施形態では、処置を受ける哺乳動物は、酸化的損傷に関連する疾患または症状を患う哺乳動物であってもよい。酸化的損傷は、哺乳動物のどの細胞、組織、または臓器にも起こる可能性がある。ヒトでは、酸化的損傷は多くの疾患に関与する。例としては、アテローム性動脈硬化症、パーキンソン病、心不全、心筋梗塞、アルツハイマー病、統合失調症、双極性障害、脆弱性X症候群、および慢性疲労症候群が挙げられる。
【0049】
一実施形態では、哺乳動物が酸化的損傷に関連する処置を受けていてもよい。例えば、哺乳動物は再灌流を受けていてもよい。再灌流とは、血流が低下している、または妨げられている臓器または組織への血流の復元を意味する。再灌流中に血流が復元すると、呼吸バーストおよびフリーラジカルの形成につながる。
【0050】
一実施形態では、哺乳動物が、低酸素症または虚血のために血流が低下または妨げられている場合がある。例えば、低酸素症または虚血中の血液供給の停止または深刻な減少は、血栓塞栓症、冠動脈アテローム性動脈硬化症、または末梢血管疾患のためである可能性がある。多くの臓器および組織が、虚血または低酸素症の対象となる。当該臓器の例としては、脳、心臓、腎臓、腸、および前立腺が挙げられる。影響を受ける組織は典型的に、心筋、骨格筋、または平滑筋などの筋肉である。例えば、心筋の虚血または低酸素症は一般に、心臓動脈および毛細血管血液供給による心臓組織への酸素供給の減少または停止につながるアテローム性動脈硬化性または血栓性閉塞によって引き起こされる。当該心虚血または低酸素症が、影響を受ける心筋の痛みおよび壊死を引き起こし、最終的に心不全につながる場合がある。
【0051】
神経変性疾患または症状に関連する酸化的損傷の削減においても、この方法を使用できる。神経変性疾患は、中枢神経系および末梢神経系のどの細胞、組織、または臓器にも影響を与える可能性がある。当該細胞、組織、および臓器の例としては、脳、脊髄、ニューロン、神経節、シュワン細胞、星状膠細胞、オリゴデンドロサイト、およびミクログリアが挙げられる。神経変性症状は、脳卒中、外傷性脳損傷または脊髄損傷などの急性疾患であってもよい。別の実施形態では、神経変性疾患または症状が慢性神経変性症状であってもよい。慢性神経変性症状では、例えばフリーラジカルがタンパク質に対する損傷を引き起こす可能性がある。当該タンパク質の例は、アミロイドβ−タンパク質である。フリーラジカルによる損傷に関連する慢性神経変性症状の例としては、パーキンソン病、アルツハイマー病、ハンチントン病、および筋萎縮性側索硬化症(ルー・ゲーリック病としても公知)が挙げられる。
【0052】
処置できる他の症状としては、子癇前症、糖尿病、ならびに黄斑変性症、しわなどの加齢に関連する症候および症状が挙げられる。
【0053】
ミトコンドリア透過性遷移。上述のペプチドは、ミトコンドリア透過性遷移(MPT)に関連する疾患または症状の処置に有用である。当該疾患および症状としては、虚血および/または組織または臓器の再灌流、低酸素症、および多くの神経変性疾患のいずれかが挙げられるが、これに限定するものではない。MPTの抑制または防止を必要とする哺乳動物は、これらの疾患または症状を患う哺乳動物である。
【0054】
芳香族カチオン性ペプチドを主体とした治療法の生物学的効果の測定。さまざまな実施形態で、特定の芳香族カチオン性ペプチドを主体とした治療法の効果、およびその投与が処置として行われるかどうかを測定するため、適切なインビトロまたはインビボ試験が行われる。さまざまな実施形態では、特定の芳香族カチオン性ペプチドを主体とした治療法が疾患の予防または処置に必要な効果を与えるかを測定するために、典型的な動物モデルを用いてインビトロ試験を行うことができる。治療用の化合物は、ヒト被験者で試験する前に、ラット、マウス、ニワトリ、ブタ、ウシ、サル、ウサギなどの適切な動物モデル系で試験できる。同様に、インビボ試験の場合、ヒト被験者に投与する前に、当該技術分野で公知の動物モデル系のいずれかを使用できる。
【0055】
予防方法。一態様において、本発明では、症状の発病または進行を防ぐ芳香族カチオン性ペプチドを被検体に投与することで、被検体の疾患を予防する方法を提供する。予防的用途では、芳香族カチオン性ペプチドの医薬組成物たは薬剤が、疾患または症状が疑われる、あるいはリスクがある被検体に、疾患の生化学的、組織学的、および/または行動的な症候、その合併症、ならびに当該疾病の進行における中期病理学的表現型を含む、疾患のリスクを排除または減らす、重症度を低下させる、または発生を遅らせるために十分な量で投与される。予防的芳香族カチオン薬の投与は、疾患または傷害が予防されるように、あるいはその進行が遅らされるように、異常の症候特性の兆候の前に行うことができる。適した化合物は、上記で述べられるスクリーニング試験に基づいて決定できる。
【0056】
治療方法。本技術の別の態様としては、治療目的のために被検体の疾患を処置する方法を含む。治療用途では、組成物または薬剤は、当該疾患の疑いがある、または既に罹患している被検体に、その合併症および当該疾病の進行における中期病理学的表現型を含む当該疾患の症候を処置する、または少なくとも部分的に進行を阻むのに十分な量で投与される。
【0057】
投与の様式および有効薬量
ペプチドに細胞、臓器、または組織を接触させるための当業者に公知の方法を、適用してもよい。好適な方法としては、インビトロ、エクスビボ、またはインビボの方法が挙げられる。インビボ法として、典型的には上述のような芳香族カチオン性ペプチドの動物への、好適にはヒトへの投与が挙げられる。治療のためにインビボで使用される場合、芳香族カチオン性ペプチドは有効量(すなわち、目標とする治療効果を有する量)で被検体に投与される。投与量と投薬計画は、被検体の傷害の程度、その治療指数などの使用される特定の芳香族カチオン性ペプチドの特性、被検体、および被検体の病歴によって決まる。
【0058】
有効量は、医師および臨床医によく知られている方法によって前臨床試験および臨床試験中に決定されることがある。本発明の方法に有用であるペプチドの有効量を、医薬品を投与するための多くの公知の方法で必要とする哺乳動物に投与できる。ペプチドを全身投与または局所投与できる。
【0059】
ペプチドを、薬学的に許容される塩として処方することができる。用語「薬学的に許容される塩」は、哺乳動物などの患者に投与することが許される塩基または酸から調製される塩を意味する(例えば、所定の投与計画に対して許容される哺乳動物の安全性を有する塩)。しかし、患者への投与用ではない中間化合物の塩などは、薬学的に許容される塩である必要はないことになっている。薬学的に許容される塩を、薬学的に許容される無機塩基または有機塩基と、薬学的に許容される無機酸または有機酸とから誘導することが可能である。さらに、ペプチドが、アミン、ピリジン、またはイミダゾールなどの塩基性部分と、カルボン酸またはテトラゾールなどの酸性部分との両方を含む場合、両性イオンが形成される場合があり、本願明細書で使用される用語「塩」の範囲内に含まれる。薬学的に許容される無機塩基から生じる塩としては、アンモニア、カルシウム、銅、第二鉄、第一鉄、リチウム、マグネシウム、第二マンガン、第一マンガン、カリウム、ナトリウム、および亜鉛の塩などが挙げられる。薬学的に許容される有機塩基から生じる塩としては、アルギニン、ベタイン、カフェイン、コリン、N,N’−ジベンジルエチレンジアミン、ジエチルアミン、2−ジエチルアミノエタノール、2−ジメチルアミノエタノール、エタノールアミン、エチレンジアミン、N−エチルモルフォリン、N−エチルピペリジン、グルカミン、グルコサミン、ヒスチジン、ヒドラバミン、イソプロピルアミン、リジン、メチルグルカミン、モルフォリン、ピペリジン、ピペラジン、ポリアミン樹脂、プロカイン、プリン類、テオブロミン、トリエチルアミン、トリメチルアミン、トリプロピルアミン、トロメタミンなどの置換アミン、環状アミン、天然アミンなどを含む第一、第二、および第三アミンの塩が挙げられる。薬学的に許容される無機酸から生じる塩としては、ホウ酸、炭酸、ハロゲン化水素酸(臭化水素酸、塩酸、フッ化水素酸、またはヨウ化水素酸)、硝酸、リン酸、スルファミン酸、および硫酸の塩が挙げられる。薬学的に許容される有機酸から生じる塩としては、脂肪族ヒドロキシ酸(例えば、クエン酸、グルコン酸、グリコール酸、乳酸、ラクトビオン酸、リンゴ酸、および酒石酸)、脂肪族モノカルボン酸(例えば、酢酸、酪酸、プロピオン酸、およびトリフルオロ酢酸)、アミノ酸(例えば、アスパラギン酸およびグルタミン酸)、芳香族カルボン酸(例えば、安息香酸、p−クロロ安息香酸、ジフェニル酢酸、ゲンチシン酸、馬尿酸、およびトリフェニル酢酸)、芳香族ヒドロキシ酸(例えば、o−ヒドロキシ安息香酸、p−ヒドロキシ安息香酸、l−ヒドロキシナフタレン−2−カルボン酸、および3−ヒドロキシナフタレン−2−カルボン酸)、アスコルビン酸、ジカルボン酸(例えば、フマル酸、マレイン酸、シュウ酸、およびコハク酸)、グルクロン酸、マンデル酸、粘液酸、ニコチン酸、オロチン酸、パモン酸、パントテン酸、スルホン酸(例えば、ベンゼンスルホン酸、カンファースルホン酸、エジシル酸、エタンスルホン酸、イセチオン酸、メタンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、ナフタレン−1,5−ジスルホン酸、ナフタレン−2,6−ジスルホン酸、およびp−トルエンスルホン酸)、ならびにキシナフォン酸などの塩が挙げられる。
【0060】
本願明細書で述べられる芳香族カチオン性ペプチドは、本願明細書で述べられる障害の処置または予防のために単独または併用で被検体に投与するための医薬組成物に組み込むことができる。当該化合物として典型的には、活性薬剤および薬学的に許容される担体が挙げられる。本願明細書で使用される場合、用語「薬学的に許容される担体」としては、投薬に適合した生理食塩水、溶剤、分散媒質、コーティング剤、抗菌および抗真菌剤、等張および吸収遅延剤、ならびにその他のものが挙げられる。補助的な活性化合物も、組成物に組み込むことができる。
【0061】
医薬組成物は、典型的には、その意図とした投与経路に適合するように製剤化される。投与経路の例としては、非経口(例えば、静脈内、皮内、副腔内、または皮下)、経口、吸入、経皮(局所)、眼内、イオン泳動的、および経粘膜投与が挙げられる。非経口、皮内、または皮下投与に使用される溶液または懸濁液は以下の成分を含むことができる。すなわち、注射用水、生理食塩水溶液、固定油、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、または他の合成溶剤などの無菌希釈剤;ベンジルアルコールまたはメタルパラベンなどの抗菌剤;アスコルビン酸または亜硫酸水素ナトリウムなどの酸化防止剤;エチレンジアミン四酢酸などのキレート剤;酢酸塩、クエン酸塩、またはリン酸塩などの緩衝液;および塩化ナトリウムまたはデキストロースなどの張性の調整用薬剤。pHは、酸および塩、例えば塩酸および水酸化ナトリウムによって、調整することができる。非経口調製品を、ガラス製またはプラスチック製のアンプル、使い捨て注射器、または複数回投与用バイアルに封入できる。患者または処置を行っている医師の都合上、投薬製剤は、処置単位(例えば、7日間の処置)に必要なすべての機器(例えば、薬物のバイアル、希釈液のバイアル、注射器、および針)を含むキットで提供してもよい。
【0062】
注射用に適した医薬組成物には、無菌注射剤または分散剤を準備なしで調製できるように、無菌水溶液(水溶性の場合)または分散剤および無菌粉末を含めてもよい。静脈内投与の場合、適切な担体としては、生理食塩水、静菌性水、Cremophor EL(商標)(BASF,Parsippany,N.J.)またはリン酸緩衝生理食塩水(PBS)が挙げられる。すべての場合で、非経口投与用組成物は無菌であり、容易に注射可能な流動性が存在するような程度の液体である必要がある。製造および保存の条件の下で安定していて、細菌および菌類などの微生物の汚染作用に対して保護する必要がある。
【0063】
芳香族カチオン性ペプチド組成物は担体を含むことができ、その担体は、例えば水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、および液体ポリエチレングリコールなど)、ならびにそれらの適切な混合物を含む溶剤または分散剤にしてもよい。例えば、レシチンなどのコーティングを用いる、分散液の場合には目的とする粒径を維持する、および界面活性剤を用いることで、適切な流動性を維持できる。微生物の作用の防止は、例えばパラベン、クロロブタノール、フェノール、アスコルビン酸、チオメルサールなどのさまざまな抗菌剤および抗真菌剤によって達成できる。酸化を防止するために、グルタミンおよび他の酸化防止剤を誘導できる。多くの場合、例えば糖類、マンニトール、ソルビトールなどのポリアルコール類、または塩化ナトリウムの等張剤を、組成物に含むことが好適な場合がある。注射組成物の持続的吸収は、例えばモノステアリン酸アルミニウムまたはゼラチンなどの吸収を遅らせる化学物質を組成物に含むことによって行うことができる。
【0064】
無菌注射剤は、上記で列挙された成分の1つまたは組み合わせとともに、適切な溶剤に活性化合物を必要量で組み込み、必要な場合には、その後に濾過滅菌することで調製できる。一般的に、分散剤は、無菌賦形剤に活性化化合物を組み込むことで調製され、これには、塩基性分散媒や上記で列挙されたその他の必要な成分を含む。無菌注射剤調製用の無菌粉末の場合、調製の典型的な方法としては真空乾燥や凍結乾燥が挙げられ、これらによって、それについての事前に無菌濾過した溶液から、活性成分の粉末に加えて、追加の必要な成分を獲得することができる。
【0065】
経口組成物としては一般的に、不活性希釈剤または可食性担体が挙げられる。経口治療的投与の目的ために、活性化合物を賦形剤に組み込むことができ、そして錠剤、トローチ、またはゼラチンカプセルなどのカプセルの剤形で使用できる。洗口液として使用される液体担体を用いて、経口組成物を調製することもできる。薬学的に適合する結合剤、および/または補助物質を、組成物の一部として含有することができる。錠剤、丸薬、カプセル、トローチなどは、以下の成分または同様の性質の化合物のいずれかを含有できる。すなわち、微結晶性セルロース、ガムトラガカント、またはゼラチンなどの結合剤;澱粉またはラクトースなどの賦形剤、アルギン酸、プリモジェル、またはコーンスターチなどの分解剤;ステアリン酸マグネシウムまたはステロートなどの滑剤;コロイド状二酸化ケイ素;ショ糖またはサッカリンなどの甘味剤;あるいはペパーミント、サリチル酸メチル、またはオレンジ香料などの香料添加剤。
【0066】
吸入による投与の場合、例えば二酸化炭素などのガスなどの適切な推進剤を含む加圧容器またはディスペンサー、または噴霧器からのエアゾールスプレーの剤形で化合物を送達できる。当該方法には、米国特許第6,468,798号で述べられた方法を含む。
【0067】
本願明細書で述べられるような治療化合物の全身投与は、経粘膜的または経皮的方法によって行うこともできる。経粘膜的または経皮的投与の場合、浸透される障壁に適合している浸透剤が製剤中に使用される。浸透剤は一般的に当該技術分野で公知であり、例えば、経粘膜的投与の場合には、洗浄剤、胆汁塩、およびフシジン酸誘導体を含む。経粘膜的投与は、鼻腔用スプレーの使用を通じて達成できる。経皮的投与の場合、活性化合物は、一般的に当該技術分野で公知なように軟膏、ゲル、またはクリームに製剤化される。一実施形態では、経皮的投与がイオンフォレシス法によって行ってもよい。
【0068】
治療用タンパク質またはペプチドは、担体系で製剤化できる。担体はコロイド系であってもよい。コロイド系は、リポソーム、リン脂質二重層賦形剤にすることができる。一実施形態では、治療用ペプチドは、ペプチドの完全性を維持しながらリポソームでカプセル化される。当業者は十分理解しているように、リポソームを調製する方法にはさまざまなものがある(次の参考文献を参照:Lichtenberg et al., Methods Biochem. Anal., 33:337−462 (1988); Anselem et al., Liposome Technology, CRC Press (1993))。リポソーム製剤はクリアランスを遅らせ、細胞取り込みを増加させることができる(以下のReddy, Ann.による文献を参照、Pharmacother.,34(7−8):915−923(2000))。活性剤は、可溶性、不溶性、透過性、非透過性、生分解性、または胃保持型高分子またはリポソームを含むが、これに限定されるものではない薬学的に許容される成分から調製される粒子内に投入することもできる。当該粒子としては、ナノ粒子、生分解性ナノ粒子、微小粒子、生分解性微小粒子、ナノ球体、生分解性ナノ球体、微小球体、生分解性微小球体、カプセル、エマルジョン、リポソーム、ミセル、およびウイルスベクター系が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0069】
担体は、例えば生分解性、生体適合性高分子マトリックスなどの高分子にすることもできる。一実施形態では、治療用ペプチドは、タンパク質の完全性を維持しながら高分子マトリックスでカプセル化できる。高分子は、ポリペプチド、タンパク質、または多糖類などの天然高分子、またはポリα−ヒドロキシ酸などの合成高分子である。例としては、例えばコラーゲン、フィブロネクチン、エラスチン、酢酸セルロース、ニトロセルロース、多糖類、フィブリン、ゼラチン、およびそれらの組み合わせなどから作られる担体が挙げられる。一実施形態では、高分子がポリ乳酸(PLA)または乳酸/グリコール酸共重合体(PGLA)である。高分子マトリックスは、微小球体およびナノ球体を含むさまざまな形態または大きさに調製および単離することができる。高分子製剤は治療効果の持続期間が長くなる可能性がある(次の参考文献を参照:Reddy, Ann. Pharmacother.,34(7−8):915−923(2000))。臨床試験では、ヒト成長ホルモン(hGH)用高分子製剤が使用されてきた(次の参考文献を参照:Kozarich and Rich, Chemical Biology,2:548−552(1998))。
【0070】
高分子微小球体徐放性製剤の例は、PCT公報第WO99/15154号(Tracy等)、米国特許第5,674,534号および第5,716,644号(両方とも、Zale等)、およびPCT公報第WO96/40073(Zale等)、およびPCT公報第WO00/38651号(Shah等)で述べられている。米国特許第5,674,534号および第5,716,644号およびPCT公報第WO96/40073号では、塩との凝集に対して安定化させたエリスロポエチンの粒子を含む高分子マトリックスを説明している。
【0071】
一部の実施形態では、治療化合物は、担体とともに調製され、該担体は、体内からの急速な排出に対して治療化合物を保護するもので、例えば、インプラントおよびマイクロカプセル化送達系等の放出制御製剤である。エチレン酢酸ビニル、ポリ無水物、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルトエステル、およびポリ乳酸などの生分解性、生体適合性高分子を使用できる。当該製剤は、公知の技術を用いて調製できる。物質は、Alza CorporationおよびNova Pharmaceuticals, Inc.などからも市販で入手できる。薬学的に許容される担体として、リポソーム懸濁液(細胞特異的抗原に対するモノクローナル抗体を持つ特定の細胞に標的とされたリポソームを含む)を使用できる。これらは、例えば、米国特許第4,522,811号で述べられているように当業者に公知の方法に従って調製できる。
【0072】
治療化合物は、細胞内送達を高めるように製剤化することもできる。例えば、リポソーム送達系が公知であり、例えば次の参考文献を参照:Chonn and Cullis,"Recent Advances in Liposome Drug Delivery Systems", Current Opinion in Biotechnology 6:698−708(1995); Weiner,"Liposomes for Protein Delivery: Selecting Manufacture and Development Processes", Immunomethods, 4(3):201−9(1994); and Gregoriadis,"Engineering Liposomes for Drug Delivery: Progress and Problems", Trends Biotechnol., 13(12):527−37(1995).Mizguchi等著『Cancer Lett』,100:63−69(1996)では、インビボおよびインビトロの両方で細胞にタンパク質を送達するために融合性リポソームを使用することを説明している。
【0073】
治療薬の用量、毒性、および治療効果は、細胞培養または実験動物での標準的製薬手順で、例えば、LD50(個体群の50%で死に至る用量)およびED50(個体群の50%で治療効果がある用量)を決定することで決定できる。毒性と治療効果の用量比が治療指数であり、LD50/ED50の比で表すことができる。高い治療指数を示す化合物が望ましい。中毒性副作用を示す化合物を使用されることがある一方、非感染細胞に対する損傷の可能性を最小限に抑えるために、当該化合物の標的を罹患組織の部位にするように、送達系の設計には注意する必要がある。これによって、副作用を減らすことになる。
【0074】
細胞培養試験および動物試験から得られるデータは、ヒト用の幅広い用量の製剤化で使用できる。当該化合物の用量は、好適には、毒性をあまり示さない、または毒性のないED50を含む幅広い血中濃度内に入る。用量は、採用される剤形および利用される投与経路に応じてこの範囲内で変えてもよい。方法で使用されるあらゆる化合物に対して、細胞培養試験から最初に治療有効量を推定できる。用量は、細胞培養で決定されるように、IC50(すなわち、症候の最大半量の抑制を達成する試験化合物の濃度)を含む循環血漿濃度範囲を達成する動物モデルで公式化できる。当該情報は、ヒトに有用な用量をより正確に決定するために使用できる。血漿中の濃度を、例えば、高性能液体クロマトグラフィーで測定してもよい。
【0075】
典型的には、治療または予防の効果を達成するのに十分な、有効量の芳香族カチオン性ペプチドは、約0.000001mg/体重1kg/日〜約10,000mg/体重1kg/日の範囲に及ぶ。好適には、用量範囲は約0.0001mg/体重1kg/日〜約100mg/体重1kg/日である。例えば、用量は毎日、2日毎、または3日毎に1mg/体重1kgまたは10mg/体重1kg、または毎週、2週間毎、または3週間毎に1〜10mg/体重1kgの範囲であってもよい。一実施形態では、ペプチドの単回投与は0.1〜10,000μg/体重1kgの範囲に及ぶ。一実施形態では、担体中の芳香族カチオン性ペプチドの濃度は0.2〜2000μg/(送達される製剤1mL)の範囲に及ぶ。処置投薬計画では、日に1回または週に1回の投与を必要とする。治療用途では、疾患の進行が抑制されるか停止されまで、好適には、被検体が疾患の症候の部分的または全体的な改善を示すまで、相対的に短い間隔で相対的に高い用量が必要になることがよくある。その後、患者に予防投薬計画を施すことができる。
【0076】
一部の実施形態では、芳香族カチオン性ペプチドの治療的有効量を、10-12〜10-6モル、例えば約10-7モルの標的組織でのペプチドの濃度として定義することが可能である。この濃度が0.01〜100mg/kgの全身用量または体表面積で同等の用量で送達されるものであってもよい。標的組織で治療濃度を維持するように、用量のスケジュールが最適化されることになり、最も好適には、毎日または毎週1回投与であるが、連続投与(例えば、静脈注入または経皮的投与)を含む。
【0077】
一部の実施形態では、芳香族カチオン性ペプチドの用量は約0.001〜約0.5mg/kg/hであり、好適には、約0.01〜約0.1mg/kg/hである。一実施形態では、用量は約0.01〜約1.0mg/kg/hであり、好適には、約0.1〜約0.5mg/kg/hである。一実施形態では、用量は約0.5〜約10mg/kg/hであり、好適には、約0.5〜約2mg/kg/hである。
【0078】
当業者は十分理解することであるが、疾患または障害の重症度、被検体の全体的な健康および/または年齢、および他の疾患の存在を含むが、これに限定されるものではない、特定の要因が効果的に処置するために必要な用量やタイミングに影響を及ぼすことがある。さらに、本願明細書に記載される治療組成物を治療有効量用いた被検体の処置としては、単回処置または一連の処置が挙げられる。
【0079】
本方法に従って処置される哺乳動物は、例えば、羊、牛、および馬などの家畜;犬および猫などの愛玩動物;ラット、マウス、およびウサギなどの実験動物を含む任意の哺乳動物であってもよい。好適な実施形態では、哺乳動物がヒトである。
【実施例】
【0080】
本発明は以下の実施例でさらに説明されるが、これによって制限するものと解釈してはならない。
【0081】
ミトコンドリアを標的としたカタラーゼの過剰発現(mCAT)によって、マウスの加齢の向上と寿命を延ばすことが示されてきた。これらの例によって、ミトコンドリア酸化ストレスを減らし、ミトコンドリア機能を保護できる「新薬の開発につながるような」化合物を特定する。ミトコンドリアが細胞内反応性酸素種(ROS)の主要な源であるので、ミトコンドリアDNA、電子伝達系(ETC)のタンパク質、およびミトコンドリア脂質膜に対する酸化的損傷を制限するために、抗酸化物質をミトコンドリアに供給する必要がある。我々は、ミトコンドリア内膜(IMM)内で、選択的に標準化、かつ濃縮する合成芳香族カチオン性テトラペプチドのファミリーを発見した。これらのペプチドの一部は、一電子酸化を受け、ミトコンドリア標的抗酸化剤として振る舞うことができる酸化還元活性アミノ酸を含む。特に、ペプチドD−Arg−2’,6’−Dmt−Tyr−Lys−Phe−NH2は、細胞および動物実験でミトコンドリアROSを減らし、ミトコンドリア機能を保護する。最新の研究では、このペプチドが、ミトコンドリアカタラーゼ過剰発現で観察されるものに匹敵するミトコンドリア酸化ストレスに対する保護を与えることができることが分かっている。ラジカルスカベンジングが、酸化ストレスを減らすために最もよく用いられる手法であるが、電子リークを減らすための電子伝達の促進、およびミトコンドリア還元電位の向上を含む、使用できる他の可能性のある機構がある。
【0082】
豊富な状況証拠から、酸化ストレスは、正常な加齢と、心血管疾患、糖尿病、神経変性疾患、癌を含む主要疾患とがもたらす多くの結果の一因になることが示されている。酸化ストレスは一般的に、参加促進物質と抗酸化物質の不均衡として定義される。しかし、酸化的組織損傷の増加を立証する科学的証拠にもかかわらず、抗酸化剤を用いた大規模な臨床研究では、これらの疾患における著しい健康効果は実証されていない。理由の1つは、酸化促進物質を生成する部位に抗酸化物質が到達できないことによるためかもしれない。
【0083】
ミトコンドリア電子伝達系(ETC)は、ROSの主要な細胞内産生物であり、ミトコンドリア自体は、酸化ストレスに対して最も脆弱である。そのため、ミトコンドリア機能を保護することが、ミトコンドリア酸化ストレスによって引き起こされる細胞死を防ぐための必須条件になる。ペルオキシソームを標的とするカタラーゼ(pCAT)ではなく、ミトコンドリアを標的としたカタラーゼ(mCAT)を過剰発現させる利点によって、加齢の有害作用に耐えるためにミトコンドリア標的抗酸化剤が必要になるという概念実証を示した。しかし、IMMに対する化学的抗酸化物質の適切な送達は、課題として残っている。
【0084】
1つのペプチド類似体、D−Arg−2’,6’−Dmt−Tyr−Lys−Phe−NH2は、チロシン残留物が酸化還元活性であり、一電子酸化に耐えることができるため、本質的な抗酸化能力を有する。我々は、このペプチドがH22、ヒドロキシラジカル、およびペルオキシ亜硝酸塩を中和し、脂質過酸化反応を抑制できることを示した。ペプチドは、虚血再灌流傷害、神経変性疾患、およびメタボリックシンドロームの動物モデルで著しい効能を実証した。
【0085】
ミトコンドリア標的ペプチドの設計では、次の作用様式の1つ以上を組み込み、強化する。すなわち、(i)過剰なROSのスカベンジング、(ii)電子伝達を促進することによるROS産生の削減、または(iii)ミトコンドリア還元能の増加である。ペプチド分子の利点は、ミトコンドリア標的化に必要な芳香族カチオン性モチーフを維持しながら、酸化還元中心として機能する、電子伝達を促進する、またはスルフヒドリル基を増やすことが可能な天然または非天然アミノ酸を組み込むことができることである。提案される設計戦略は、既知の電子化学で裏付けされ、化学、生物化学、細胞培養、および動物実験で確認されることになる。ミトコンドリアROS産生および酸化還元調節、仮定の分子作用様式のテストおよび検証のための新たな類似体を選抜するために、最先端の物理、化学、および分子生物学手法が使用される。ミトコンドリア、細胞、および組織のモデルで評価するための様々なプロジェクトに対して、最も有望な類似体が提供される。提案される研究によって、現場の他の取り組みと大幅に異なるミトコンドリア標的抗酸化剤の設計に対する新規の統合的手法を示す。
【0086】
〔実施例1〕
芳香族カチオン性ペプチドの合成
固相ペプチド合成を使用する。また、すべてのアミノ酸誘導体は、市販されている。ペプチドの会合完了後、ペプチドを通常の方法で樹脂から切断する。未処理のペプチドを、分取逆相クロマトグラフィーによって精製する。ペプチドの構造同一性はFAB質量分析法によって確認し、それらの純度を3つの異なる系で分析用逆相HPLCおよび薄層クロマトグラフィーで評価する。98%超の純度が達成される。概して、樹脂5gを用いた合成によって約2.0〜2.3の高純度ペプチドが生じる。
【0087】
〔実施例2〕
投与計画の決定
ペプチドは水に可溶であり、非経口で投与することが可能である(iv、sc、ip)。薬物動態研究から、吸収が非常に速く、sc投与後に完了することが分かった。そして、インビボ研究によって、大部分の適応に対して1日1回の投与を裏付ける。また、これらのペプチドは37℃で3ヶ月以上の間、溶液中で安定していることも究明した。このことによって、毎日注射しなくてよいように、4〜6週間、移植可能なミニ浸透圧Alzetポンプを用いてこれらのペプチドを供給することが可能になる。この投与経路の実現可能性を確認した。ラットおよびマウスでの芳香族カチオン性ペプチドの長期投与に関する我々の経験から、疾患モデルに応じて、有効量が0.00〜3mg/kg/dの範囲に及ぶことが明らかになった。毒性研究から、特定の芳香族カチオン性ペプチドの安全率は非常に広く、ラットで28日間、最高300mg/kg/dの用量では副作用が観察されないことが分かった。例えば次の参考文献を参照:Stuart and Young in Solid Phase Peptide Synthesis, Second Edition, Pierce Chemical Company (1984), and in Methods Enzymol., 289, Academic Press, Inc, New York (1997)。
【0088】
〔実施例3〕
経口で有効なペプチド類似体
化合物の経口バイオアベイラビリティを、水溶性、胃液、および腸液中での安定性と、腸上皮バリアにおける吸収とによって、決定する。ペプチドD−Arg−2’,6’−Dmt−Tyr−Lys−Phe−NH2は水溶性であり、耐酸性があり、胃の酵素に対して耐性があり、そして上皮バリアにおいて簡単に吸収できる。しかし、このペプチドの経口バイオアベイラビリティは腸液中での分解に限られている。本実施例では、パンクレアチン活性に耐えるだろう新規類似体を示す。
【0089】
酵素分解に対してペプチドを安定化させる1つの方法は、切断に耐えているペプチド結合でのL−アミノ酸をD−アミノ酸に置換することである。芳香族カチオン性ペプチドは、既存のD−Arg残基に加えて1つ以上のD−アミノ酸残基を含みながら調製される。酵素分解を防ぐ別の方法は、ペプチドの1つ以上のアミノ酸のアミノ基のN−メチル化である。これによって、ペプチダーゼによるペプチド結合の切断を防ぐことになる。例としては、H−D−Arg−Dmt−Lys(NαMe)−Phe−NH2; H−D−Arg−Dmt−Lys−Phe(NMe)−NH2; H−D−Arg−Dmt−Lys(NαMe)−Phe(NMe)−NH2; およびH−D−Arg(NαMe)−Dmt(NMe)−Lys(NαMe)−Phe(NMe)−NH2が挙げられる。Nα−メチル化類似体は低い水素結合能を有し、腸透過性を向上させることが期待できる。
【0090】
酵素分解に対してペプチドアミド結合(−CO−NH−)を安定させる別の方法は、還元されたアミド結合(Ψ[CH2−NH])に置換することである。これは、固相ペプチド合成における成長ペプチド鎖のBoc−アミノ酸−アルデヒドとN末端アミノ酸残基のアミノ基と間の還元的アルキル化反応によって達成できる。ペプチド結合が還元されることによって、水素結合能減少のために細胞透過性を向上させると予想される。例としては、H−D−Arg−Ψ[CH2−NH]Dmt−Lys−Phe−NH2、H−D−Arg−Dmt−Ψ[CH2−NH]Lys−Phe−NH2、H−D−Arg−Dmt−LysΨ[CH2−NH]Phe−NH2、H−D−Arg−Dmt−Ψ[CH2−NH]Lys−Ψ[CH2−NH]Phe−NH2、などが挙げられる。
【0091】
これらの新規類似体は、血漿、疑似胃液(SGF)、および疑似腸液(SIF)中における安定性について検査する。ペプシンを含むSGF(Cole−Palmer製)またはパンクレアチンを含むSIF(Cole−Palmer製)10mlに対して、規定量のペプチドを添加し、混合し、0、30、60、90、および120分間インキュベートする。試料は、固相抽出を行った後にHPLCで分析する。その後、SGFおよびSIFの両方で安定している新規類似体を、Caco−2単層における分布について、評価する。その結果、10-6cm/sを超えると測定される見掛け透過係数(良好な腸管吸収で予測可能)を持つ類似体は、細胞培養で測定されるミトコンドリア酸化ストレスを減少させる活性を有することになる。ミトコンドリアROSの定量は、超酸化物用のMitoSoxと、HyPer−mito(H22を感知するためのミトコンドリアを標的とした遺伝的に符号化された蛍光指示薬)とを用いて行う。ミトコンドリア酸化ストレス要因としては、t−ブチルヒドロペルオキシド、アンチマイシン、およびアンジオテンシンを挙げることができる。これらのすべての基準を満足する新規類似体は、その後、大規模合成を行うことができる。
【0092】
提案される方法によって、経口バイオアベイラビリティを有するだろう類似体を生成することが予想される。Caco−2モデルは、医薬品業界で腸吸収の優れた予測因子と見なされている。
【0093】
〔実施例5〕
電子スカベンジング能を向上させた新規ペプチド類似体
特定の天然アミノ酸は酸化還元活性であり、最も多用途なTyrとともにTyr、Trp、Cys、およびMetを含み、一電子酸化を受けることができる。Tyrは、H22およびヒドロキシルラジカルによる酸化を含む一電子酸化を受けることができる。チロシルラジカルはO2にはあまり反応しないが、結合してジチロシン二量体を形成する可能性がある。GSHによってチロシルラジカルのスカベンジングを行い、チロシルラジカル(GS−)と超酸化物を作り出すことができる。フェノキシルラジカルとの超酸化物の反応によって、元のフェノールの修復またはヒドロペルオキシドを形成する付加を生じる可能性がある。Tyeヒドロペルオキシドの生成は、特定の条件、特にTyrがN末端である場合または遊離アミンがすぐ近くにある場合に、有利である。既存のペプチドでは、2’,6’−Dmtを含むTyrまたは置換Tyrによって、スカベンジングが行われていた。TyrをPheに置換すると、スカベンジング活性を無効にする。
【0094】
酸化還元活性アミノ酸の数を増やすことで、ペプチドの電子スカベンジング能力を高めることができると我々は予想している。また、Tyrにメチル基を組み込むことで、Tyrと比較してスカベンジング活性をさらに高めることも分かった。さらに、Tyr、Trp、またはMetの代わりに、ミトコンドリア標的のために芳香族カチオン性ペプチドの設計に組み込むことができる。超酸化物はトリプトファンに反応して多数の異なる反応生成物を形成し、そしてメチオニンに反応してメチオニンスルホキシドを形成できる。新規ペプチド類似体の例としては、D−Arg−Dmt−Lys−Dmt−NH2; D−Arg−Dmt−Lys−Trp−NH2; D−Arg−Trp−Lys−Trp−NH2; D−Arg−Dmt−Lys−Phe−Met−NH2が挙げられる。H22、ヒドロキシルラジカル、超酸化物、ペルオキシ亜硝酸をスカベンジングするこれらの新規類似体の能力を、インビトロで測定し、その後、細胞培養で確認する。
【0095】
ペプチド類似体のスカベンジング能力は、酸化還元活性アミノ酸の数を増やすにつれて直線的に増加すると我々は予想している。ミトコンドリア標的電位を維持するために、芳香族カチオン性モチーフを維持することが重要である。細胞透過性を依然維持しながら、ペプチドの長さを6残留基に増やし、スカベンジング能力を3倍にすることが可能な場合がある。
【0096】
〔実施例6〕
電子伝達を促進する新規ペプチド類似体
ETCにおけるATP合成は、一連の酸化/還元作用として説明することができるETCのタンパク質複合体を介した電子の流れによって、駆動される。ETCを介して電子を迅速にシャンティングすることは、電子の漏れおよびフリーラジカル中間体の発生につながる短絡の防止にとって重要である。電子供与体と電子受容体の間の電子伝達(ET)の速度はその距離とともに急激に低下し、超交換ETは20Åに制限される。供与体と受容体の全体的な距離が一連の短い距離に分けられ、そのため、ETの段階が速くなる場合、多段階電子ホッピング過程において長距離ETを実現できる。ETCにおいて、長距離にわたる効率的なETは、FMN、FeSクラスター、およびヘムを含み、IMMに沿って戦略的に局在している捕因子によって支援される。Phe、Tyr、およびTrpなどの芳香族アミノ酸は、オーバーラッピングπクラウドを通じてヘムへの電子伝達を促進することもでき、これは特にcyt cに対して示された。適切な酸化電位を有するアミノ酸(Tyr、Trp、Cyc、Met)は、中間の男子担体として役に立つことによって、踏み石として作用することができる。さらに、Tyrのヒドロキシル基は電子を運ぶときに電子を失う可能性があり、Lysなどすぐ近くに塩基性基が存在すると、さらに効率的な電子共役型ETになる可能性がある。
【0097】
IMMのタンパク質複合体中に芳香族カチオン性ペプチドが分布することで、ETを促進する追加中継局としての機能を果たすことが可能になると仮定する。この仮設を支持して、単純なモデル系としてcyt c還元(吸光分光法によって監視される)の速度論を用いて、ペプチドD−Arg−2’,6’−Dmt−Lys−Phe−NH2がETを促進できるかを究明した。還元剤としてN−アセチルシステイン(NAC)を添加することで、550nm(A550)での吸光を時間依存的に増加させた(図1)。100μMの濃度でペプチド単独を添加してもcyt cを還元しなかったが、NAC誘導cyt c還元の速度を用量依存的に引き上げた。そのため、このペプチドは電子を供与しないが、電子伝達の速度を上げることが可能であることを示唆している。還元剤としてのGSHとペプチドH−Phe−D−Arg−Phe−Lys−NH2を用いて、同様の結果が得られた。
【0098】
予備研究からはさらに、D−Arg−2’,6’−Dmt−Lys−Phe−NH2がETを促進し、インビボでのATP合成を向上できるという我々の仮説が裏付けられている。我々は、ラットにおけるミトコンドリア再灌流の復元および虚血再灌流(IR)傷害後のATP合成に対するこのペプチドの効果を検討した。ラットに対して、45分間、腎動脈の両側性閉塞を行い、その後、20分間または1時間再灌流を行った。ラットは虚血前30分に生理食塩水またはペプチド(2.0mg/kg sc)を摂取し、再灌流時に再びこれらを摂取した(各群でn=4〜5)。結果は図2および図3に示されており、ペプチドが酸素消費量とATP合成を向上させたことを証明している。
【0099】
D−Arg−Dmt−Lys−Phe−Lys−Trp−NH2、D−Arg−Dmt−Lys−Dmt−Lys−Trp−NH2、D−Arg−Dmt−Lys−Phe−Lys−Met−NH2、D−Arg−Dmt−Lys−Dmt−Lys−Met−NH2などを含むヘキサペプチド類似体が調製される。これらの類似体はcyt c還元分析で評価され、透過性筋繊維および損傷を受けていない筋肉、透過性心筋細胞、ならびに心臓全体における電子束分析で確認される。これらのペプチドは、対照と比較して酸素消費量とATP合成とを向上させることが予想される。
【0100】
〔実施例7〕
ミトコンドリア還元電位を高めることが可能な新規ペプチド類似体
細胞の酸化還元環境は、その還元電位と還元能力とに依存する。酸化還元電位は細胞内ではっきりと区分され、ミトコンドリア区画内の酸化還元対は他の細胞区画内よりもよく還元され、酸化の影響をより受けやすい。グルタチオン(GSH)はミトコンドリア内にmMの濃度で存在し、主要な酸化還元対と見なされる。還元されたチオール基−SHは、タンパク質中のジスルフィドS−S基を還元し、機能を復元させることができる。GSH/GSSG対の酸化還元電位は、GSHとGSSGの量、およびGSHとGSSGの比率の2つの要因に依存する。GSHは細胞内で区分され、GSH/GSSGの比率は各区画内で独立して調整されるため、ミトコンドリアGSH(mGSH)は、ミトコンドリアストレスに対する主要な防御である。ミトコンドリアGSH酸化還元電位は加齢とともにより酸化寄りになる。これは主に、GSSG含有量中で増加し、GSH含有量中で減少することが原因である。
【0101】
芳香族カチオン性ペプチドは、ミトコンドリアへのCysの供給を指示するベクトルとして使用される。一部の芳香族カチオン性ペプチド中のCysの−SH基は、GSSGとのチオール−ジスルフィド交換反応で関与し、ミトコンドリアGSH/GSSG濃度を復元することが期待される。腎虚血再灌流(IR)傷害のラットモデルにSS−48(H−Phe−D−Arg−Phe−Lys−Cys−NH2)を用いて、予備結果が得られた。ラットに対して、45分間、腎動脈の両側性閉塞を行い、その後、1時間再灌流を行った。ラットは虚血前30分に生理食塩水またはSS−48(0.5mg/kg sc)を摂取し、再灌流時に再びこれらを摂取した(各群でn=4)。図4に示したように、SS−48はIR腎臓中の[GSH]/[GSSG]を維持できた。これらの結果は、Cysの細胞取り込みを高めるためにSS−48を使用できることを示唆している。C末端でのCysの直接添加よりも、スペーサー、サルコシン(Sar)、Sar−Gly、または7−アミノヘプタン酸を介してCysも導入する。これによって、より効率的なチオール/ジスルフィド交換のためのC末端における構造上の柔軟性をもたらす。以下はCys含有類似物の一部の例である:H−Phe−D−Arg−Phe−Lys−Gly−Cys−NH2、H−D−Arg−Dmt−Lys−Phe−Gly−Cys−NH2、H−Phe−D−Arg−Phe−Lys−Sar−Cys−NH2、およびH−D−Arg−Dmt−Lys−Phe−Sar−Gly−Cys−NH2。その後、これらの新規Cys含有類似体は、H22またはtBHPによって誘導される酸化ストレスの下、細胞培養においてGSH:GSSG比率を向上させる能力に関して調べられる。グルタチオン還元酵素リサイクル法を用いて、細胞質およびミトコンドリアの[GSH]および[GSSG]が測定される。心筋および骨格筋において、良好な類似体が確認される。
【0102】
均等物
本発明は、本願で述べられる特定の実施形態に関して限定されるものではなく、本発明の個別の態様のただ1つの説明となることを目的としている。当業者には明白なように、その精神及び範囲から逸脱することなく本発明の多くの変更及び変形を行うことができる。本願明細書に列挙される内容に加えて、本発明の範囲内の機能的に同等の方法及び機器は、前述の説明から当業者には明白である。変更及び変形は追加請求項の範囲に入れることを目的とする。本発明は、請求項が権利を与えられる同等物の全範囲とともに、添付された請求の範囲のみに関して限定される。当然のことながら、本発明が特定の方法、試薬、化合物、組成物、または生物系に限定されるものではなく、もちろん変わる可能性がある。また当然のことながら、本願明細書で使用される用語は、特定の実施形態を説明するためだけのものであり、限定するためのものではない。
【0103】
さらに、開示の特徴または態様がマーカッシュグループの観点から記述される場合、それによって、当業者はマーカッシュグループのメンバーの個々のメンバーまたはサブグルーブの観点からも開示が記述されることを認識する。
【0104】
当業者には明らかなように、ありとあらゆる目的のため、特に記載による説明の提供に関して、本願明細書で開示されるすべての範囲は、そのありとあらゆる考え得る部分的な範囲及び部分的な範囲の組み合わせを包含する。少なくとも同等半分、3分の1、4分の1、5分の1、10分の1などに分けられている同じ範囲を十分に説明及び可能にしているので、いずれの記載される範囲も簡単に認識できる。限定されない例として、本願明細書にて開示される各範囲は下部3分の1、中央3分の1、上部3分の1などに簡単に分けることができる。また、当業者には明らかなように、「最大」、「少なくとも」、「より大きい」、「より小さい」などのすべての言葉は列挙される数字を含み、その後に上述のように部分的な範囲に分けることができる範囲である。最後に、当業者には明らかなように、範囲には個々の数字を含む。したがって、例えば1〜3個の細胞を有する群は、1個、2個、または3個の細胞を有する群のことを言う。同様に、1〜5個の細胞を有する群は、1個、2個、3個、4個、または5個の細胞を有する群のことなどを言う。
【0105】
本願明細書で紹介または引用されるすべての特許、特許出願、仮出願、および特許公報は、すべての図および表を含み、本明細書の明示的指導と矛盾しない範囲で、その全体の内容が引用により援用される。
【0106】
他の実施形態は以下の特許請求の範囲で示される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族カチオン性ペプチドであって、
D−Arg−Dmt−Lys−Trp−NH2
D−Arg−Trp−Lys−Trp−NH2
D−Arg−Dmt−Lys−Phe−Met−NH2
H−D−Arg−Dmt−Lys(NαMe)−Phe−NH2
H−D− Arg−Dmt−Lys−Phe(NMe)−NH2
H−D−Arg−Dmt−Lys(NαMe)−Phe(NMe)−NH2
H−D−Arg(NαMe)−Dmt(NMe)−Lys(NαMe)−Phe(NMe)−NH2
D−Arg−Dmt−Lys−Phe−Lys−Trp−NH2
D−Arg−Dmt−Lys−Dmt−Lys−Trp−NH2
D−Arg−Dmt−Lys−Phe−Lys−Met−NH2
D−Arg−Dmt−Lys−Dmt−Lys−Met−NH2
H−D−Arg−Dmt−Lys−Phe−Sar−Gly−Cys−NH2
H−D−Arg−Ψ[CH2−NH]Dmt−Lys−Phe−NH2
H−D−Arg−Dmt−Ψ[CH2−NH]Lys−Phe−NH2
H−D−Arg−Dmt−LysΨ[CH2−NH]Phe−NH2;および
H−D−Arg−Dmt−Ψ[CH2−NH]Lys−Ψ[CH2−NH]Phe−NH2
からなる群から選択される、芳香族カチオン性ペプチド。
【請求項2】
請求項1の芳香族カチオン性ペプチドと、その薬学的に許容される塩とを含む、医薬組成物。
【請求項3】
薬学的に許容される担体をさらに含む、請求項2の医薬組成物。
【請求項4】
酸化的損傷の削減を必要とする哺乳動物で酸化的損傷を削減する方法であり、
有効量の1つ以上の請求項1の芳香族カチオン性ペプチドを前記哺乳動物に投与することを含む、方法。
【請求項5】
ミトコンドリア透過性遷移(MPT)の数を減らす、またはミトコンドリア透過性遷移を妨げることを必要とする哺乳動物で該ミトコンドリア透過性遷移を妨げる方法であって、
有効量の1つ以上の請求項1の芳香族カチオン性ペプチドを哺乳動物に投与することを含む、方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2013−518057(P2013−518057A)
【公表日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−550189(P2012−550189)
【出願日】平成23年1月24日(2011.1.24)
【国際出願番号】PCT/US2011/022247
【国際公開番号】WO2011/091357
【国際公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【出願人】(508298488)コーネル ユニヴァーシティー (8)
【出願人】(512166533)
【Fターム(参考)】