説明

芳香族カルボン酸の製造工程における酢酸回収方法

【課題】
芳香族カルボン酸の製造において副生される酢酸メチルを加水分解して酢酸として回収し、再使用する方法において、加水分解反応を促進する水の存在が、分解酢酸の回収に際しての脱水エネルギーを消費し、その低減が課題であるとともに、平衡反応である加水分解反応には未分解の酢酸メチルが残存するため、未分解酢酸メチルを循環し、副生酢酸メチルの全量を酢酸として回収する方法が課題となっていた。
【解決手段】
加水分解反応用に加えられる水として、芳香族カルボン酸製造過程で排出される酢酸含有水、例えば、高圧反応排ガス洗浄塔の洗浄排水を、使用して、加水分解プロセスからの酢酸の脱水のために新たにエネルギーを発生させない方法、ならびに未分解酢酸メチルを水による抽出蒸留法により、メタノールと分離して高い濃度の酢酸メチルとして回収して、加水分解反応に循環使用し、副生酢酸メチルの殆ど全量を酢酸として回収・再使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルキル芳香族炭化水素を酢酸溶媒中で液相酸化して芳香族カルボン酸を製造する製造工程において、溶媒酢酸の回収工程から分離・回収される副生酢酸メチルを加水分解して酢酸として回収及び循環する方法に関するもので、特に、副生酢酸メチルを酢酸として回収及び循環するに際しての効率的な方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アルキル芳香族炭化水素を酢酸溶媒中、触媒の存在下、分子状酸素含有ガスを導入し、液相酸化して芳香族カルボン酸を製造する方法において、溶媒として使用する酢酸が、酸化反応中の共酸化等により燃焼消失し、該カルボン酸の製造における損失量として換算され、その低減が課題になっている。
【0003】
その酢酸損失量の殆どは燃焼による炭酸ガス、一酸化炭素ガスとなって反応排ガスとともに排出されるが、一部副生酢酸メチルとなって溶媒中に残留される。
【0004】
そのため、副生酢酸メチルは酸化反応過程から排出される使用済み溶媒中に触媒、その他有機副生物、および副生水などとともに含有され、溶媒回収工程に移送、処理される。
溶媒酢酸の回収工程では、先ず第1蒸留塔で酢酸より重質な触媒金属ならびに有機副生物などは缶出液(物)として分離・除去したのち、頂部から留出する酢酸は多量に含有する副生水などとともに第2の蒸留塔に供給される。そして、第2の蒸留塔で脱水され、純度の高い酢酸(約95重量%)を缶出液として回収する方法が工業的に広く行われている。
【0005】
その第2の蒸留塔である脱水蒸留塔では、溶媒酢酸から水を分離する通常の二成分系蒸留分離法、あるいは、該脱水のための蒸留エネルギーのコスト低減などのため、水と共沸組成を形成する共沸剤(酢酸ブチル、酢酸イソブチルなどのエステル類)を加えて脱水蒸留を行う共沸蒸留法について知られているが、これら脱水蒸留法から分離された水には副生酢酸メチルが含有されることも知られている。
【0006】
そのため、該酢酸メチルをさらに水から分離・回収したのち、酸化反応帯域にリサイクルして酢酸メチルの生成そのものを抑制する方法(特公昭56−40243号公報(特許文献1))が提案され、また、水から回収された該酢酸メチルは水の存在下、イオン交換樹脂などの触媒を用いて加水分解を行い酢酸として回収する方法(特開昭54−100310号公報(特許文献2)及び特開昭59−53441号公報(特許文献3))など副生酢酸メチルを間接的、直接的に酢酸損失量の低減に資する方法が提案されている。
【0007】
その内、加水分解して酢酸として回収する加水分解法は、芳香族カルボン酸製造における酢酸損失の直接の低減法として工業的に魅力のある方法であるが、該加水分解生成物から酢酸を回収する蒸留において、加水分解用の多量の水を蒸留で分離・除去するのに多量のエネルギー負荷を必要とすること、また、該生成物中に存在する未分解の酢酸メチルと分解メタノールが共存した(酢酸メチルとメタノールは共沸混合物を形成)混合液が留出されるためなどにより、工業的に有効な酢酸の回収法には至っていなかった。
【0008】
一方、これらの課題に対し、特表平10−511675号公報(特許文献4)に加水分解反応と蒸留操作を一体とした反応蒸留法によって解決しようとの提案がなされているが、決定的な方法となっていない。
【0009】
即ち、該方法では酢酸メチルとメタノールとの分離が可能となったものの、生成物として酢酸とメタノールの混合水溶液が生成されるため、酢酸の回収にあたっては、従来法同様メタノールの分離と酢酸の脱水のための蒸留塔を必要とし、反応蒸留操作における蒸留塔部分と合わせて、特許文献4に言う固定費ならびに経費に至っていない。
【0010】
また、該反応蒸留を実施するためには、触媒として使用するイオン交換樹脂は蒸留操作が可能な成型充填物として特殊加工を行う必要があり、市販の粒状イオン交換樹脂を用いることは出来ないと言う問題がある。
【0011】
【特許文献1】特公昭56−40243号公報
【特許文献2】特開昭54−100310号公報
【特許文献3】特開昭59−53441号公報
【特許文献4】特表平10−511675号公報
【特許文献5】特公昭56−45898号公報
【特許文献6】WO98−45239号公報
【特許文献7】特開2002−326972号公報
【特許文献8】特開2001−328957号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
先ず、脱水蒸留塔の留出水からの酢酸メチルの回収法において、二成分系(酢酸−水系)蒸留法では、分離する頂部の留出水には酢酸メチルが多量の副生水の中に少量(数重量%)含有される成分として留出されるため、回収される酢酸メチルの活用目的に応じて水中の酢酸メチル濃度を蒸留により調整されることが可能である。例えば、酢酸メチル分離用蒸留塔を通して、酸化反応帯域へのリサイクルする場合には酢酸メチルを濃縮する(特許文献5、沸点97℃、約95重量%程度)か、また、触媒を用いて加水分解する場合には約20重量%程度まで、酢酸メチルを濃縮して利用している(特許文献3)。
【0013】
しかし、上記加水分解法では加水分解された生成混合液には分解された酢酸が低濃度(酢酸13重量%、水76重量%)であるため、酢酸を脱水して純度の高い回収酢酸(約95%酢酸)とするには、脱水のための蒸留エネルギーを必要としてきた。そして、未分解の酢酸メチルが分解メタノールと共存するため、酢酸メチルをメタノールと分離することもできていない。
【0014】
また、共沸蒸留による酢酸脱水蒸留法では、分離する留出水には酢酸メチルとともに共沸剤が少量(約1重量%)含有されているため、特許文献6及び特許文献7に提案されているように、蒸留法により共沸剤を回収した後の濃縮成分として、酢酸メチルが回収されることとなる。そのため、回収された酢酸メチルは高濃度(約80重量%以上)で回収されるため、加水分解するに当たっては同量以上の反応用の水を改めて加える必要がある。
【0015】
これらのように、加水分解法では分解生成物中に過剰の水が残存し、低濃度酢酸含有水(特許文献3では酢酸含有量13重量%、特許文献4では酢酸含有量20〜28重量%)からの酢酸を回収することとなり、回収酢酸に対して数倍以上の水を分離するエネルギーが必要となり、そのコストが加水分解法では課題となっている。
【0016】
酢酸メチルの加水分解反応は公知のように、次の(1)式での平衡反応であり、
CHCOOCH+HO ⇔ CHCOOH+CHOH (1)
水の量が多いほど加水分解反応が促進するが、分解で残った水の量が多くなり、生成酢酸の濃度を低下させる。即ち、加水分解の促進と酢酸回収の脱水エネルギーの消費との間の二律背反の関係にあるため、加水分解に必要な水の量が加水分解法効率化の課題となっている。特に高濃度で回収された酢酸メチルでは加水分解するために改めて添加する水が課題となる。
【0017】
次いで、加水分解された生成混合液は、分解生成物である酢酸、メタノール、そして未分解酢酸メチル、反応残余の水からなっているが、特許文献3の提案の流れ図に見られるように、加水分解生成混合液は蒸留法により酢酸−水混合液と酢酸メチル−メタノール混合液として二分され、回収されているが、その後の処理について提案がなされていない。
【0018】
酢酸−水混合液は脱水蒸留塔に供給し、多量の溶媒酢酸の回収と同時に脱水し酢酸を回収することが可能であるが、該酢酸−水混合物からの水留出の脱水エネルギーの増加は必然となる。
【0019】
また、酢酸メチル−メタノール混合液では共沸組成(酢酸メチル(80.4重量%)−メタノール(19.6重量%)、bp53.9℃)を形成するために、未分解酢酸メチルとメタノールとは分離されることなく混合物のまま回収されてきた。そのため未分解の酢酸メチルは、循環して酢酸として回収されることなく、酢酸の損失抑制に寄与してこなかった。
【0020】
一方、特許文献4では上記したように、反応と蒸留の一体操作による酢酸メチルの反応蒸留塔内での自己循環により、生成物として酢酸−メタノール混合水溶液が回収されるため、酢酸の回収にあたっては、先ず生成混合物を蒸留法により酢酸−水混合物とメタノール水溶液とに二分し、上記と同様に酢酸−水混合物を脱水蒸留塔に供給し、酢酸を回収することになる。
【0021】
そのため、酢酸メチルとメタノールの分離は反応と蒸留の一体化で可能にしたが、酢酸水溶液からのメタノールの分離と、前記した加水分解プロセスと同様、酢酸の脱水エネルギーは必要となる。
【0022】
なお、上記した方法と異にするが、類似の方法として特許文献8には、アルキル芳香族化合物の液相酸化工程から膜分離法によって水およびアルコールを分離する方法が提案されているけれども、アルコールの分離法が芳香族カルボン酸の製造ならびにその溶媒酢酸の回収工程における課題ともなっている。
【0023】
従って、芳香族カルボン酸の製造において副生される酢酸メチルを加水分解して酢酸として回収し、再使用する方法では、分解反応を促進するための水の存在が、分解酢酸の回収のための脱水エネルギーを消費し、そのエネルギーの低減が一つの課題となっていること、特に、共沸蒸留法による脱水蒸留塔の留出水中から回収されるような高濃度の酢酸メチルを加水分解して酢酸として回収するにあたっては、加水分解用に添加する水ならびにその量が課題となってくる。そして、二つめには、加水分解反応は平衡反応であるため、分解生成物からの未分解酢酸メチルに処理を加えて、酢酸への収率を向上させる効率的な加水分解プロセスを構築することが課題とされる。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明者らは芳香族カルボン酸製造における酢酸溶媒の流れを解析することによって、また、加水分解特性および分解生成物の分離特性を検討することによって以下の方法を発明した。
【0025】
即ち、本発明は、酢酸溶媒中、アルキル芳香族炭化水素を分子状酸素で酸化する芳香族カルボン酸の製造における酢酸溶媒の回収工程において、酢酸脱水蒸留塔の塔底から缶出液として酢酸を回収しながら、頂部から留出水に含有される副生酢酸メチルを回収し、
(1)該回収される副生酢酸メチルを加水分解反応器において水の存在下に、触媒と接触させて加水分解反応させて分解生成混合液を生成する加水分解反応過程と、(2)該加水分解反応過程で生成された分解生成混合液が供給された酢酸回収蒸留塔において軽質分を塔頂留分として分離回収し、酢酸を塔底より酢酸水溶液として回収する酢酸回収過程と、(3)該酢酸回収過程において分離回収された軽質留分を、酢酸メチル回収蒸留塔において塔頂から水を導入する抽出蒸留法により未分解酢酸メチルを塔頂から回収し、塔底から分解メタノールを缶出水溶液として分離する酢酸メチル回収過程とを有し、(4)前記酢酸回収過程において回収された酢酸水溶液を前記酢酸脱水蒸留塔に循環供給して水を分離して酢酸を回収し、(5)前記酢酸メチル回収過程において回収された未分解の酢酸メチルを前記加水分解反応器に循環して再使用することによって、酢酸脱水蒸留塔から回収された殆ど全量の酢酸メチルは無駄なく酢酸として回収することができる方法を見出した。
【0026】
また、本発明においては、酢酸メチルの加水分解反応用として調製される水を、芳香族カルボン酸の製造工程の各工程・セクションから酢酸溶媒の回収工程に送られている酢酸含有水溶液の中から選び、前記酢酸脱水蒸留塔に供給することなく、酢酸メチルの加水分解用として供給することが好ましい。
【0027】
また、本発明は、前記選ばれた酢酸含有水として酢酸含有量が30重量%以下であり、前記回収酢酸メチルに対して3重量倍以上の水量に調製したのち、加水分解反応を行うことを特徴とする。
【0028】
また、本発明は、前記酢酸含有水として、前記芳香族カルボン酸の製造工程における排ガス洗浄塔洗浄排出水を用いることを特徴とする。
【0029】
即ち、本発明は、前記加水分解反応過程において前記酢酸含有水によって加水分解された反応生成液を前記酢酸回収蒸留塔に供給して、頂部から軽質分を分離回収し、塔底より酢酸含有水溶液を回収して前記酢酸脱水蒸留塔に供給する酢酸の迂回回収法としたものである。そうすることによって、芳香族カルボン酸製造において排出される酢酸含有水を、即ち水を、加水分解用にも兼用するため、酢酸脱水蒸留塔での処理水を、加水分解反応過程を付加される以前の量より、増加させることなく加水分解反応が可能となる。
【0030】
従って、本発明によれば、加水分解反応のため必要とする水に、新たに酢酸脱水蒸留塔でのエネルギー負荷となる水を加えることなく、即ち、既設のカルボン酸の製造において必要とした酢酸脱水蒸留塔でのエネルギー負荷量を変えることなく、加水分解反応法によって酢酸を回収することができることになる。
【0031】
また、本発明は、加水分解プロセスにおいて課題となっていた酢酸メチルとメタノールの分離に対しても、イオン交換樹脂による新規触媒充填物の作成による反応蒸留ならびに酢酸メチルとメタノールの透過性の差を工夫した膜分離技術と言った特殊技術を創作することなく、酢酸メチル回収蒸留塔において水を導入する抽出蒸留法によって分離を可能にしたものである。
【0032】
また、本発明に係る加水分解反応の原料となる副生酢酸メチルとしては、水と共沸組成を形成する共沸剤を用いた共沸蒸留法によって回収される酢酸を塔底缶出液として回収している酢酸脱水蒸留塔において、該塔頂留出混合液からの相分離したのち、水相として分離された留出水に含有されている酢酸メチルから回収される濃度の高い回収酢酸メチルが好ましい。
【0033】
しかし、二成分系(酢酸−水系)の脱水蒸留塔から回収される酢酸メチルにおいても、上記したように、水の量を蒸留によって濃度調整をすることなく、前記脱水蒸留過程において一旦高い濃度(約90重量%以上)の酢酸メチルに濃縮したものを用いることが出来る。
【0034】
そして、濃度が高く回収された副生酢酸メチルは、加水分解のため新たに水が加えられて調製されることとなるが、その際、前記酢酸含有水を加えて加水分解反応原料液として調製されることになる。
【0035】
その加水分解反応原料調製のため加えられる水の量は酢酸メチルに対して通常同量以上の水が存在すれば、市販の粒状のイオン交換樹脂触媒を用いた加水分解反応では充分(加水分解率50%以上)に進行するが、本発明では酢酸が存在するため、酢酸メチルの加水分解抑制反応による分解率低下によって、分解生成混合物中には未分解の酢酸メチルが増加する。該増加に対して、本発明では酢酸メチル回収蒸留塔において上記した水を導入する抽出蒸留法によって酢酸メチルとメタノールを完全に分離し、該未分解の酢酸メチルのみ(メタノールを含まない)を加水分解反応に循環させるため、酢酸脱水蒸留塔からの副生酢酸メチルの殆どを酢酸として回収することができる。
【0036】
従って、加水分解反応法における壁となっていた酢酸メチルとメタノールの分離を水による抽出蒸留法により可能にしたことにより、酢酸の存在による分解率の低下をも克服したプロセス構成とすることができた。
【0037】
また、加水分解プロセス構成から分かるように、本プロセスにおける主たるエネルギー消費は蒸留分離操作のエネルギーとなるが、蒸留エネルギーを支配する留出液組成(およびその還流液組成)は酢酸脱水蒸留塔を除きいずれも蒸発潜熱の低い有機物資からなっている(酢酸:97kcal/kg、水:586kcal/kg、メタノール:263kcal/kg、酢酸メチル:98kcal/kg)。また、比揮発度(沸点、酢酸:118℃、水:100℃、メタノール:64.5℃、酢酸メチル:57.8℃)の観点からしても、水−酢酸の分離の難度が高い(還流量が多くなる)酢酸脱水蒸留塔でのエネルギー消費を抑えたプロセスとなっている。
【0038】
そのため、本発明では、添加水中に含有される酢酸が平衡反応における加水分解反応を抑制することになり、未分解の酢酸メチルが循環されることになるが、循環のためのエネルギーは酢酸の脱水エネルギーにくらべ小さく、そして、酢酸脱水のエネルギーは、従来の酢酸回収エネルギーに比較して、改めてエネルギーを必要としないと言う本プロセスを実施する上で大きなメリットとなる。
【0039】
以上説明したように本発明によれば、芳香族カルボン酸の製造における酢酸回収工程において回収される副生酢酸メチルを、新たに脱水のためのエネルギー負荷を増加させることのない水を加えて加水分解を行い、未分解の酢酸メチルのみを分離回収し、循環して再び加水分解反応に供給することによって、殆どエネルギー負荷を増加させることのない前記副生酢酸メチルの殆ど全量を酢酸として回収する効率的な方法を提供できることになる。
【発明の効果】
【0040】
本発明によれば、芳香族カルボン酸の製造において酢酸溶媒回収工程からの、特に共沸蒸留法による酢酸脱水蒸留塔からの、副生酢酸メチルの殆ど全量を酢酸として回収することができ、その結果、芳香族カルボン酸製造における酢酸損失量の改善に寄与し、該カルボン酸製造コストの低減に寄与することが直接的効果として可能となる。
【0041】
また、本発明によれば、酢酸メチルの加水分解反応は平衡反応であるため、加水分解反応を進めるために加えられる水として、カルボン酸製造工程内に存在する酢酸含有水を転用し、そして、未分解の酢酸メチルのみを循環し、酢酸として回収することにより、芳香族カルボン酸の製造全体におけるエネルギー消費を殆ど増加させることのない効率的回収法として間接的効果が得られる。
【0042】
特に共沸蒸留法による酢酸脱水蒸留塔から回収される副生酢酸メチルのように、高濃度で回収される酢酸メチルに対しては効率的な酢酸の回収法となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0043】
本発明に係るアルキル芳香族炭化水素を酢酸溶媒中で液相酸化する芳香族カルボン酸の製造法において、溶媒酢酸の回収工程から分離・回収される副生酢酸メチルを加水分解して酢酸として回収・循環する方法の実施の形態について図を用いて説明する。
【0044】
即ち、本発明に係る方法を実施するためのプロセス形態について図1に示す流れを用いて説明する。なお、本発明に係る方法は図1のプロセス流れに限定されるものではなく、本発明の一実施の形態を示したものである。
【0045】
先ず、芳香族カルボン酸の製造ラインにおいては、濃度の異なる酢酸−水の混合溶液が各製造工程(酸化反応工程、晶析工程、分離工程、乾燥工程など)、さらにはそれらの各セクション及び機器から排出されてくる。それらの中で、カルボン酸製造反応に再使用され、直接循環される溶媒混合液を除いた酢酸溶媒(水混合溶液)101、102は直接あるいは処理を経て酢酸脱水蒸留塔(共沸蒸留)1に供給され、水を除いたのち回収酢酸106(酢酸約95重量%)として回収されたのち、上記カルボン酸の製造に循環使用される。
【0046】
各工程、セクションから排出される混合液は酢酸濃度が大きく異なる(酢酸濃度約5〜85重量%)ため、酢酸脱水蒸留塔1への供給はその濃度によって該蒸留塔の供給位置を異にした複数ヶ所からの供給となっている。通常は濃度の近い混合液を集約して2〜4ヶ所の位置から供給している。
【0047】
そのため、図1では濃度の異なる酢酸−水混合液2種を含水酢酸101、102とし酢酸脱水蒸留塔1に供給し、水と共沸組成を形成する共沸剤の存在によって酢酸を脱水する方法を取っている。そのため、塔底から水が低濃度となった回収酢酸106(約95重量%)を回収し、芳香族カルボン酸製造用として循環使用され、酢酸脱水蒸留塔1の塔頂では共沸剤と共沸組成を形成した水が蒸気流104となって留出し、凝縮器130で凝縮・冷却されたのち、凝縮液受槽2に一旦溜められる構成となっている。
【0048】
該凝縮液受槽2では共沸剤溶液(有機相)と水溶液(水相)に相分離され、上相に分離された共沸剤を主要成分とした有機相が共沸剤還流液105として上記脱水蒸留塔1の頂部にポンプ141を用いて還流される。また、上記凝縮液受槽2の下相に分離された水溶液の一部はポンプ142により水還流液108として還流し、残りが留出水107として取り出される。なお、109は、凝縮液受槽2に補充される補充共沸剤である。
【0049】
なお、酢酸脱水蒸留塔1への供給は該蒸留塔1内の水濃度に対応して、含水酢酸の水濃度の高い酢酸ほど該蒸留塔1の上部側から順に供給される。
【0050】
次に、留出水107は蒸留塔である軽質分分離塔3に供給され、少量溶解している共沸剤(約1重量%以下)、酢酸メチル(数重量%)などの軽質有機質分は水と共沸混合物を形成するかなどにより、水より低沸点となって、軽質の含水有機成分として塔頂より留出し、凝縮器131で凝縮・冷却して凝縮液110として凝縮液受槽4に一旦溜められ、軽質留分回収液112(凝縮液110および還流液111も軽質留分)として分離・回収される。そして、軽質分分離塔3の塔底からの排出水113は芳香族カルボン酸製造の反応生成水として、処理負荷の少ない廃水とし、あるいはカルボン酸精製用の水に有効活用される。
【0051】
なお、酢酸脱水蒸留塔1に通常用いられる共沸剤は酢酸ブチル(28.7重量%水と共沸混合物、沸点90.2℃)、酢酸イソブチル(16.5重量%水と共沸混合物、沸点87.4℃)などのエステル類である。
【0052】
凝縮液受槽4からの軽質有機成分の回収液112は再び蒸留塔である共沸剤回収塔(酢酸メチル分離塔)5に供給され、塔底より缶出液として回収された回収共沸剤117は酢酸脱水蒸留塔1の凝縮液受槽2に循環して、脱水用の共沸剤として再使用される。そして、軽質留分回収液112に含まれる酢酸メチルは蒸留により塔頂から留出し、凝縮器132で凝縮・冷却して凝縮液114として凝縮液受槽6に一旦溜められ、留出液(回収酢酸メチル)116として回収される。なお、115は留出液(回収酢酸メチル)の還流液である。
【0053】
従って、水および共沸剤に対して、比揮発度の高い酢酸メチル116は上記蒸留系からは高濃度(酢酸メチル約90重量%以上)で回収されることになる。
【0054】
なお、酢酸脱水蒸留塔1の凝縮液受槽2における相分離に際して、酢酸メチルの有機相への分配率は水相に対し約4〜10重量倍濃度と高く、該蒸留系内の酢酸メチル濃度を下げるために、酢酸メチル濃度の高い有機相還流液(共沸剤還流液)107の一部を軽質分分離塔3あるいは酢酸メチル回収塔5に供給して、共沸剤から酢酸メチルを分離して、回収することも行われている。
【0055】
また、高濃度の酢酸メチル(約80重量%以上)を回収するために、上記実施例では、軽質分分離塔3と共沸剤回収塔(酢酸メチル分離塔)5の2塔を用いたが、軽質分分離塔3と共沸剤回収塔5の2塔の機能を一つの蒸留塔(分離塔)で行い、共沸剤を該蒸留塔(分離塔)のサイド留分として抜き出し、また、酢酸メチルを塔頂留分として、あるいは塔頂の未凝縮蒸気流として、回収する方法でも可能である。
【0056】
従って、上記方法によって回収された回収酢酸メチル116は高濃度の酢酸メチルを加水分解プロセスの出発原料となる。なお、先に記述したように二成分系(酢酸−水系)の脱水蒸留塔から蒸留により回収された酢酸メチルに対しても、高濃度で回収して加水分解原料とする本発明の方法を適用することが好ましい。
【0057】
即ち、加水分解するための原料となる副生酢酸メチルは、水と共沸組成を形成する共沸剤を用いた共沸蒸留法によって回収される酢酸を塔底缶出液として回収している脱水蒸留塔の場合には、該塔頂留出混合液からの相分離したのち、水相として分離された留出水に含有されている酢酸メチルから回収される濃度の高い回収酢酸メチルが好ましい。
【0058】
また、加水分解するための原料となる副生酢酸メチルは、二成分系(酢酸−水系)の脱水蒸留塔から回収される酢酸メチルにおいても、水の量を蒸留によって濃度調整をすることなく、該蒸留過程において一旦高い濃度(約90重量%以上)に濃縮したものを用いることが出来る。
【0059】
次いで、回収された酢酸メチル116は加水分解をするために、水(酢酸含有水103)が加えられ、混合器7で充分混合されたのち、加水分解反応器8に供給される。本発明の方法では酢酸メチル回収塔11で回収した未分解の酢酸メチル(回収酢酸メチル(126))をも混合器7に循環され、加水分解反応に供給される。そして、酢酸含有水103としては、上記したように芳香族カルボン酸製造における各工程・セクションから排出される酢酸含有水(約30重量%以下)を、加水分解用として使用される。
【0060】
なお、酢酸メチルと水との混合は、酢酸メチルの水への溶解は部分溶解(水に24重量%(常温))であるため、水/酢酸メチル=約3重量倍以上の水を加え充分混合・溶解されることになるが、本発明に係る混合器7での混合方法では酢酸含有水103に酢酸が含有されているため酢酸含有水/酢酸メチル=約3重量倍で混合すれば充分溶解されることになる。
【0061】
また、混合器7は動力攪拌による攪拌槽形式、あるいは静的なラインミキサー形式のものでも、該両液を混合・溶解し、均一な溶液として加水分解反応器8に供給できるものであれば良い。
【0062】
従って、カルボン酸の製造の工程から供給される(排出される)酢酸含有量30重量%以下の酢酸含有水103を、原料酢酸メチル116、126に対して3重量倍以上になるよう添加調製することになる。
【0063】
次に、加水分解反応器8には固体触媒が充填されており、常温から200℃の温度範囲で、酢酸メチル−水混合液(加水分解原料118)が充填触媒に対してLHSVで0.5〜5.0(1/h)の割合で供給され、酢酸メチルの加水分解が行われる。なお、触媒にはシリカ・アルミナ、イオン交換樹脂などの固体触媒を用いられるが、上記反応器8が常圧、100℃以下状態で反応が進行する強酸性陽イオン交換樹脂が通常は使用される。例えば市販のアンバーライトIR120B(オルガノ社製)などが好ましいイオン交換樹脂として使用される。
【0064】
次いで、加水分解を受けた加水分解液119は酢酸回収塔9に供給され、未分解の酢酸メチルおよび分解メタノールなど軽質分(回収酢酸メチル/メタノール(122))を塔頂から分離して凝縮器132で凝縮・冷却して凝縮液120として凝縮液受槽10に一旦溜められ、回収酢酸メチル/メタノール122として回収し、塔底から分解および流入酢酸を分解に過剰となった水の溶液(回収酢酸水123)として回収する。即ち、塔底から回収される回収酢酸水123は低濃度の酢酸水溶液(約15〜30重量%)である。なお、121は回収酢酸メチル/メタノールの還流液である。
【0065】
そして、該回収酢酸水123は酢酸脱水蒸留塔1に循環し、芳香族カルボン酸製造に用いた多量の溶媒酢酸の回収101、102と同時に、該回収酢酸水123中の酢酸を回収する。
【0066】
従って、酢酸回収塔(酢酸メチル/メタノール分離塔)9では軽質分をストリッピングさせ、酢酸を留出させないよう蒸留が行われ、生成酢酸の殆どが塔底から水溶液123として回収される。
【0067】
一方、酢酸回収塔9から分離された酢酸メチル/メタノール混合液(回収酢酸メチル/メタノール(122))は酢酸メチル回収塔(水抽出蒸留)11に供給され、塔頂から水128を注入し、過剰の水を存在させることにより、図3に太い実線で示すように、酢酸メチルとメタノールの気液平衡組成に変化を与えて、共沸組成を乖離させる水抽出蒸留により、塔頂より未分解酢酸メチル(回収酢酸メチル126)を主成分とした酢酸メチルを凝縮器134により凝縮・冷却して一旦凝縮液受槽12に溜めて回収したのち、上記混合器7に循環される。そして、塔底より缶出液として分解メタノールを含んだ水(メタノール含有水(127))を排出し、メタノール含有水として活性汚泥などの廃水処理するか、メタノールを分離・回収(例えば、蒸留あるいはストリッピング)したのち廃水とする方法が行われる。図3は、酢酸メチル−メタノールの気液平衡組成と液側温度(℃)との関係を示す図である。太い実線は気液平衡(X−Y線)を示し、細い実線は液側温度(℃)を示す。なお、共沸点は53.9℃であり、酢酸メチルが80.4wt%で、メタノールが19.6wt%となる。
【0068】
酢酸メチル回収塔11での水の導入量は、該蒸留塔11の還流比(0.5〜3)により変わるが、塔頂留出液(回収酢酸メチル(126))の約0.3〜2.0重量倍相当量の水128を塔頂から導入することにより、供給された殆どのメタノールと導入された水を缶出液(メタノール含有水(127))として分離・排出(メタノール分離率95%以上)することが出来る。
【0069】
なお、導入水の量と蒸留塔の還流比の関係は還流比が小さくするにしたがって導入水の量を増量させる方がメタノールの分離に好ましい。
【0070】
そのため、上記したように酢酸メチルとメタノールは共沸混合物を形成するため、メタノールの分離には反応蒸留法あるいは膜分離法など特殊な操作が必要であったが、本発明に係る方法では、酢酸メチル回収塔11において、通常の蒸留方法に塔頂から水の導入による通称水抽出蒸留法を使用することによって、メタノールを分離した酢酸メチル126を回収し、混合器7を介して加水分解反応器8、酢酸回収塔9へと循環させることが可能となる。
【0071】
従って、酢酸メチルの加水分解と言う平衡反応において、未分解となる酢酸メチルが高い濃度で回収されて循環することになり、酢酸脱水蒸留塔1から取り出された酢酸メチルの殆ど全量を回収酢酸水123により酢酸として回収し、再使用することが出来る方法となる。
【0072】
最後に、本発明に係る加水分解反応では、加水分解反応器8に供給される酢酸メチルの量S(加水分解原料118中の酢酸メチル量)は、酢酸脱水蒸留塔1からの酢酸メチル量A(回収酢酸メチル116)と、循環された未分解酢酸メチル126により、定常的には酢酸メチルの量は理論上次の(2)式の通りとなる。
【0073】
S=A(1+r+r+r+・・・・・・+r)=A/(1−r) (2)
Aは回収酢酸メチル116の酢酸メチル量、1−rは加水分解率、r(<1)は残存率、Sは加水分解原料118の酢酸メチル量である。
【0074】
そのため加水分解反応器8では上記定常状態における酢酸メチル量をベースに加水分解用に水の量を酢酸含有水103によって添加調整することになる。そのため酢酸の存在による分解率の低下においても、加水分解原料118の酢酸メチルの量が回収酢酸メチル116の量の2倍程度(50%の加水分解率:S=2*A)までを確保されることが望ましい水の量となる。
【0075】
そして、加水分解反応の原料調製に加えられる酢酸含有水103としては、芳香族カルボン酸の製造系から排出される酢酸含有水の内、下記の高圧排ガス洗浄塔21、22からの洗浄排出水38が酢酸濃度ならびに水量と言った観点から好ましい選択となる。
【0076】
なお、140〜150はポンプを示す。130〜134は凝縮器を示す。
【0077】
即ち、酸化反応槽(図示せず)から排出される高圧反応排ガス、未反応炭化水素蒸気、副生酢酸メチル蒸気、ならびに溶媒酢酸の蒸気などが含有され、それら有機性の蒸気を除去するため、図2に示した高圧のガス洗浄塔が通常使用されている。図2に示すガス洗浄塔は酢酸洗浄塔21ならびに水洗浄塔22からなり、酸化反応槽(図示せず)から排出された高圧反応排ガス31を、先ず洗浄用酢酸33で洗浄し、酢酸以外の上記有機性蒸気を除去したのち、次いで酢酸蒸気含有のガス(酢酸洗浄済排ガス32)は洗浄用水36および循環洗浄水37などの水で充分洗浄され、酢酸蒸気を除去したのち洗浄済高圧排ガス35として大気放出されている。その際、洗浄排水38は酢酸が約10〜30重量%含有した酢酸含有水103として排出され、副生酢酸メチルに対するその水量もカルボン酸製造の全体のバランスから好ましい量となっている。
【0078】
また、その他、カルボン酸製造系の各容器(図示せず)および機器(図示せず)から排出される低圧排ガスのガス洗浄塔(図示せず)からの洗浄排水なども酢酸含有量も少なく(約10重量%)、加水分解用に加える水103として使用することができる。
【0079】
以上のフローによる副生酢酸メチルの加水分解プロセスにおいて、各成分の分離ならびに回収に用いられる分離法には特殊な分離法を用いることはなく、通常の棚段式および充填式の蒸留法で行うことができ、また、それぞれの蒸留においても還流比が約0.5〜5重量倍といった酢酸メチル、メタノールおよび水などの溶剤の分離において通常採用される量の還流を行うことによってそれぞれの目的が達成される。
【0080】
[実施例]
本発明に係る具体的な態様について図面を用いてさらに詳細に説明するが、本発明はそれらの例示に限定されるものではない。
【0081】
本発明は、酢酸溶媒中、コバルト、マンガン、および、臭素からなる触媒の存在下、p-キシレンを液相酸化してテレフタル酸を連続生産する製造装置(製造ライン)において、酸化反応器(図示せず)にp-キシレンと上記反応溶媒、そして、空気を連続供給して酸化反応を行い、該反応器から排出される反応生成混合物を冷却・晶析したのち、固液分離を行ってテレフタル酸を連続して生産する。
【0082】
その際、酢酸溶媒回収工程においては、酸化反応器(図示せず)の上部から排出される酢酸含有蒸気を冷却・凝縮し、該酸化反応器に還流している凝縮還流液の一部、ならびに、生成混合物の固液分離によって排出される分離母液の一部などの含水酢酸101、102を、酢酸イソブチルを共沸剤として用いた共沸蒸留法で実施している酢酸脱水蒸留塔1に供給して、酢酸を脱水して塔底から約95重量%の酢酸106を回収し、上記酸化反応に供給使用した。
【0083】
なお、上記反応器凝縮還流液は直接上記酢酸脱水蒸留塔1に供給していたが、上記分離母液ついては一旦蒸発塔において触媒ならびに高沸点有機物を分離した蒸気状の酢酸−水混合物として、上記酢酸脱水蒸留塔1に供給した。
【0084】
上記酢酸脱水蒸留塔1では、図1のフローに示されるように、塔頂凝縮液は凝縮液受槽2で二相に分離されたのち、上相の有機相は共沸剤還流液105として全量還流され、下相の水相の一部は水還流液108として還流されるが、他は留出水107として排出した。該留出水107には約2重量%の酢酸メチルと約0.5重量%の酢酸イソブチルが含有され、その水相の還流比は約0.4であり、対有機相還流量比は約0.06で行われた。
【0085】
次いで、得られた留出水107を軽質分分離塔3に供給し、該留出水含有の酢酸メチル、酢酸イソブチルを蒸留分離して、該塔頂から軽質留分回収液112を酢酸メチル約58重量%、酢酸イソブチル約12重量%の含有水で回収した。
【0086】
さらに、上記軽質分回収液112を共沸剤回収塔(酢酸メチル分離塔)5に供給し、酢酸メチルと酢酸イソブチル(共沸剤)とを蒸留分離して、該塔頂から酢酸メチル約96重量%の回収酢酸メチル116を得るとともに、塔底から酢酸イソブチル約55重量%含有した回収共沸剤117を排出して、上記酢酸脱水蒸留塔1の凝縮液受槽2にリサイクルした。
【0087】
なお、酢酸脱水蒸留塔1での酢酸メチルのバランスを取るため、酢酸メチルの含有濃度の高い(約10〜20重量%)凝縮液受槽2の有機相の一部を共沸剤回収塔5に供給して、酢酸メチルの酢酸脱水蒸留塔1への蓄積を抑えることを行った。
【0088】
また、高濃度の酢酸メチル(約80重量%以上)を回収するために、上記実施例では、軽質分分離塔3と共沸剤回収塔(酢酸メチル分離塔)5の2塔を用いたが、軽質分分離塔3と共沸剤回収塔5の2塔の機能を一つの蒸留塔で行い、共沸剤を該蒸留塔のサイド留分として抜き出し、また、酢酸メチルを塔頂留分として、あるいは塔頂の未凝縮蒸気流として、回収する方法でも可能である。
【0089】
以上のテレフタル製造における酢酸溶媒回収工程の共沸蒸留法による酢酸脱水蒸留塔1とその付属設備から回収された95.8重量%の回収酢酸メチル116を用いて、本発明の方法に基づく加水分解プロセスの試験的追試を以下行った。
【0090】
[実施例1]
酢酸を回収するため上記テレフタル酸の製造において、上記回収酢酸メチル(116)100重量部と図2に示す高圧ガス洗浄塔21、22からの酢酸12.1重量%含有の洗浄排水(103)1060重量部とを混合器7で混合し、イオン交換樹脂(アンバーライト120B)を充填したステンレス管で作製した加水分解反応塔(4inch×120cmH)8に供給して下記の条件で加水分解反応を行った。
【0091】
なお、回収酢酸メチル116と上記洗浄排水(酢酸含有水)103の重量割合は上記テレフタル酸製造において排出されるそれぞれの量に大略対応した相対量で行った。
【0092】
(加水分解反応)
加水分解反応器8への加水分解原料118の供給は、温度60℃、常圧で、充填触媒に対してLHSVで約2(1/h)の割合で供給した。
【0093】
供給原料118の組成ならびに加水分解生成物(分解生成混合液)119の組成は次の表1に示す通りであり、酢酸メチルの加水分解率は73.5%を得た。
【0094】
【表1】

【0095】
(蒸留分離(酢酸メチル/メタノール分離))
図1のフローに示す酢酸回収塔(酢酸メチル/メタノール分離塔)9を想定して、オールダーショウ式連続蒸留塔(塔径34φ、25段)を用い、上記加水分解生成物119から酢酸の回収を行った。
【0096】
上記加水分解生成物(119)100重量部を蒸留塔中段(上から10段目)に供給し、還流比2で連続蒸留を行った結果、塔頂留出液(122)5.7重量部と塔底缶出液(123)94.3重量部を得た。なお、得られた留出液(122)と缶出液(123)の組成は次の表2に示す通りであり、酢酸メチル、メタノールの軽質分は留出液(122)に、酢酸は缶出液(123)にそれぞれ分離・回収された。
【0097】
缶出液(123)に含有されている酢酸はテレフタル酸製造における溶媒酢酸の回収工程の酢酸脱水蒸留塔(図1のフローに示す酢酸脱水蒸留塔1)にリサイクルして酢酸を回収する。
【0098】
【表2】

【0099】
(水抽出蒸留分離)
図1のフローに示す酢酸メチル回収塔11を想定して、オールダーショウ式連続蒸留塔(塔径34φ、25段)を用い、頂部から水128を注入する水抽出蒸留法により、上記蒸留留出液122からメタノール127を分離、酢酸メチル126の回収を行った。
前記蒸留留出液(122)100重量部を蒸留塔中段(上から10段目)に供給し、同時に、該蒸留塔頂部から水(128)を50.6重量部の割合で供給して、還流比1で連続蒸留を行った結果、塔頂留出液(126)40.2重量部と塔底缶出液(127)110.4重量部を得た。
【0100】
従って、留出液(124)に対して1.26重量倍の割合で頂部に水128を導入して水抽出蒸留を行った。
【0101】
なお、得られた留出液(124)と缶出液(127)の組成は次の表3に示す通りであり、殆どのメタノールが酢酸メチルから分離され、未分解の酢酸メチルが高濃度で回収された。
【0102】
【表3】

【0103】
従って、この回収酢酸メチル(図1のフローに示す回収酢酸メチル126)は酢酸脱水蒸留塔1からの回収酢酸メチル(図1のフローに示す回収酢酸メチル116)に混合して、加水分解反応に循環使用することが出来る。
【0104】
[比較例1]
比較例1は、上記実施例1の蒸留塔である酢酸メチル回収塔11における(抽出蒸留分離)過程において、蒸留塔の頂部に水の注入を行うことなく、また、還流比2に増加させて、蒸留分離を行った結果、塔頂留出液47.3重量部と塔底缶出液52.7重量部を得た場合である。この比較例1において得られた留出液組成と缶出液組成は次の表4に示す通りであり、メタノールは酢酸メチルからは分離することなく、酢酸メチルとメタノールの混合物の組成で留出されている。従って、酢酸メチル回収塔11においては、塔頂より水128を注入して水抽出蒸留をすることが必要であることが明らかになった。
【0105】
【表4】

【0106】
[実施例2]
実施例2において、実施例1と相違する点は、加水分解反応器8における(加水分解反応)過程において、酢酸メチル回収塔11から回収された未分解の回収酢酸メチル126をリサイクルするために混合器7を介して加水分解反応器8に供給するようにした点である。
【0107】
実施例1では、(加水分解反応)過程における酢酸メチルの量は酢酸脱水蒸留塔1から得られる酢酸メチルの量(図1のフローに示す回収酢酸メチル116)のみを想定して行ったものである。しかし、実施例2は、実施例1の流れに見られるように、未分解の回収酢酸メチルをリサイクルし(図1のフローに示す回収酢酸メチル126)、加水分解反応器8に供給するものであるため、酢酸メチルの加水分解反応器8への供給量は定常状態において、次のように想定される。
【0108】
即ち、上記実施例1において、未分解の酢酸メチル126が30%(加水分解率70%)リサイクルされると仮定し、未分解酢酸メチル126を循環し、該循環サイクルが定常状態になったときの加水分解反応器8への供給酢酸メチルの量は実施例1の約1.43倍の量になると算出される。
【0109】
従って、実施例2は、酢酸脱水蒸留塔1から回収された回収酢酸メチル(116)100重量部、上記高圧ガス洗浄塔21、22からの酢酸12.1重量%含有の洗浄排水(38)1057重量部、及び実施例1の(水抽出蒸留分離)過程からの留出液(126)43.2重量部を混合器7で混合して、加水分解原料118を調製してのち、実施例1の(加水分解反応)過程と同様の条件で加水分解反応を行った。
【0110】
実施例2において、加水分解反応を行った原料ならびに生成物の組成は次の表5に示す通りであり、加水分解率は実施例1の結果に比べ若干低下するが71%であった。
【0111】
従って、この反応では、当初の酢酸メチル量、即ち、酢酸脱水蒸留塔1から回収された副生酢酸メチル100重量部(酢酸メチル含有量95.8重量%)相当量を加水分解したことになり、酢酸メチルから酢酸を回収する収支のとれた加水分解プロセスを進めることができる。
【0112】
【表5】

【0113】
[実施例3]
実施例3において、実施例1と相違する点は、加水分解反応器8における(加水分解反応)過程に用いられた、高圧のガス洗浄塔21、22から排出されていた酢酸含有水38(103)の量の低下並びに含有酢酸濃度の上昇などにより、加水分解率が50%に低下した場合である。即ち、実施例3は、酢酸脱水蒸留塔1からの回収酢酸メチル(116)100重量部、27.9重量%の酢酸を含有している酢酸含有水(38)917重量部、及び実施例1の(水抽出蒸留分離)過程からの留出液(回収酢酸メチル126)100重量部を混合器7で混合して、加水分解原料118を調製し、実施例1(加水分解反応)過程と同様の条件で加水分解反応を行った。
【0114】
なお、加水分解率50%となる加水分解反応の定常状態においては、加水分解反応器8への酢酸メチルの供給量は、酢酸脱水蒸留塔1からの副生酢酸メチル(126)の量の2重量倍と想定したものであり、酢酸メチル(116+126)の量に対して約4.5重量倍の約28重量%の酢酸含有水38(103)を加えて加水分解反応を行った。
【0115】
その時における加水分解反応の供給原料118および生成物119の組成は次の表6に示す通りであり、加水分解率は51.7%であった。
【0116】
従って、この反応においても、当初の酢酸メチル量、即ち、酢酸脱水蒸留塔1からの副生酢酸メチル(116)100重量部(酢酸メチル含有量95.8重量%)を、加水分解した量に相当し、酢酸含有ならびに水量の低下により加水分解率が50%に低下しても、回収酢酸メチルから酢酸を回収する加水分解プロセスを収支良く進めることが出来る。
【0117】
【表6】

【図面の簡単な説明】
【0118】
【図1】本発明に係る芳香族カルボン酸の製造における反応副生物の酢酸メチルを、溶媒酢酸の回収工程において、共沸剤を用いた共沸蒸留法による酢酸の脱水蒸留塔から回収する一つの流れ及び本発明に係る酢酸メチルの加水分解法による酢酸回収プロセスの流れを示した図である。
【図2】本発明に係る芳香族カルボン酸の製造における反応排ガスの高圧ガス洗浄塔の一実施例を示した図である。
【図3】本発明に係る酢酸メチル−メタノールの気液平衡組成と液側温度(℃)との関係を示す図である。
【符号の説明】
【0119】
1…酢酸脱水蒸留塔(共沸蒸留)、2…凝縮液受槽(二相分離型)、3…軽質分分離塔、4…凝縮液受槽、5…酢酸メチル分離塔、6…凝縮液受槽、7…混合器、8…加水分解反応器、9…酢酸回収塔(酢酸メチル/メタノール分離塔)、10…凝縮液受槽、11…酢酸メチル回収塔(水抽出蒸留)、12…凝縮液受槽、21…酢酸洗浄塔、22…水洗浄塔、31…高圧反応ガス、32…酢酸洗浄済排ガス、33…洗浄用酢酸、34…洗浄済酢酸、35…洗浄済高圧排ガス、36…洗浄用水、37…循環洗浄水、38…洗浄排水(酢酸含有水)、101、102…含水酢酸、103…酢酸含有水、104…水共沸蒸気、105…共沸剤還流液、106…回収酢酸、107…留出水、108…水還流液、109…補充共沸剤、110…凝縮液、111…還流液、112…軽質留分回収液、113…排出水(廃水)、114…凝縮液、115…還流液、116…回収酢酸メチル、117…回収共沸剤、118…加水分解原料(水/酢酸メチル)、119…加水分解液(分解生成混合液)、120…凝縮液、121…還流液、122…回収酢酸メチル/メタノール、123…回収酢酸水、124…凝縮液、125…還流液、126…回収酢酸メチル(循環酢酸メチル)、127…メタノール含有水(廃水)、128…抽出蒸留用添加水、130〜134…凝縮器、140〜150…ポンプ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酢酸溶媒中、触媒の存在下、アルキル芳香族炭化水素を分子状酸素で酸化して芳香族カルボン酸を製造する芳香族カルボン酸の製造工程における酢酸回収方法であって、
前記製造工程から回収された酢酸溶媒が供給された酢酸脱水蒸留塔において、塔底から缶出液として酢酸を回収しながら、頂部から留出水に含有される副生酢酸メチルを回収する酢酸脱水蒸留過程と、
該酢酸脱水蒸留過程で回収された回収酢酸メチルを加水分解反応器において調製水の存在下、触媒と接触させて加水分解反応させて分解生成混合液を生成する加水分解反応過程と、
該加水分解反応過程で生成された分解生成混合液が供給された酢酸回収蒸留塔において軽質分を塔頂留分として分離回収し、酢酸を塔底より酢酸水溶液として回収する酢酸回収過程と、
該酢酸回収過程において分離回収された軽質分が供給された酢酸メチル回収蒸留塔において水による抽出蒸留法により未分解の酢酸メチルを塔頂から回収し、塔底から分解メタノールを水溶液として分離する酢酸メチル回収過程とを有し、
前記酢酸回収過程において回収された酢酸水溶液を前記酢酸脱水蒸留塔に循環供給し、
前記酢酸メチル回収過程において回収された未分解の酢酸メチルを前記加水分解反応器に循環して再使用することを特徴とする芳香族カルボン酸の製造工程における酢酸回収方法。
【請求項2】
前記酢酸脱水蒸留過程において、前記酢酸脱水蒸留塔での脱水を、水と共沸組成を形成する共沸剤を加えた共沸蒸留法で行い、
更に、前記酢酸脱水蒸留塔の頂部から留出される留出水に含有される副生酢酸メチルと共沸剤とを分離塔において分離して酢酸メチルを回収する分離過程を有し、
前記加水分解反応過程において、前記分離過程で回収された回収酢酸メチルに水を加えて水混合物を調製した後加水分解反応を行うことを特徴とする請求項1に記載の芳香族カルボン酸の製造工程における酢酸回収方法。
【請求項3】
前記加水分解反応過程において、更に、前記酢酸脱水蒸留過程で回収された回収酢酸メチルと前記調製水と前記酢酸メチル回収過程において回収された未分解の酢酸メチルとを混合させる混合過程を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の芳香族カルボン酸の製造工程における酢酸回収方法。
【請求項4】
前記加水分解反応過程において、前記調製水として、前記芳香族カルボン酸の製造工程から排出される酢酸含有水を用いることを特徴とする請求項1又は2又は3に記載の芳香族カルボン酸の製造工程における酢酸回収方法。
【請求項5】
前記酢酸含有水として酢酸含有量が30重量%以下であり、前記回収酢酸メチルに対して3重量倍以上の水量に調製したのち、加水分解反応を行うことを特徴とする請求項4に記載の芳香族カルボン酸の製造工程における酢酸回収方法。
【請求項6】
前記酢酸含有水として、前記製造工程における排ガス洗浄塔洗浄排出水を用いることを特徴とする請求項3又は4に記載の記載の芳香族カルボン酸の製造工程における酢酸回収方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−63153(P2007−63153A)
【公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−248121(P2005−248121)
【出願日】平成17年8月29日(2005.8.29)
【出願人】(000005452)株式会社日立プラントテクノロジー (1,767)
【Fターム(参考)】