説明

芳香族カルボン酸の製造方法

【課題】アルキル芳香族炭化水素を溶媒中で酸化して芳香族カルボン酸のスラリーを得、加圧状態のまま固液分離する芳香族カルボン酸の製造方法において、スラリーや母液、洗浄排液の移送工程が意図に反して停止することを防ぐ。
【解決手段】加圧状態の反応器内において、溶媒中でアルキル芳香族化合物を酸化して芳香族カルボン酸を生成させる工程、及び前記芳香族カルボン酸及び溶媒を含むスラリーを前記反応器から抜き出した後、固液分離装置にて加圧状態で固液分離を行い、芳香族カルボン酸ケーキ及び母液を得る工程、を少なくとも含む芳香族カルボン酸の製造方法であって、前記反応器から前記スラリーとともに抜き出されたガスの排出を行う芳香族カルボン酸の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香族カルボン酸の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
芳香族カルボン酸はポリエステルの合成原料等として有用であり、通常、アルキル基を有する芳香族化合物(以下、アルキル芳香族化合物と称する。)を酸化することにより製造される。
芳香族カルボン酸として代表的なテレフタル酸を例に、その製造工程について説明する。
【0003】
図2に示す如く、まず、原料であるアルキル芳香族化合物aを、触媒を含み高温高圧状態である反応器1内に導入する。このアルキル芳香族化合物aを酢酸溶媒c中で、空気などの分子状酸素含有ガスbにより酸化して、芳香族カルボン酸を生成する。
従来、生成した芳香族カルボン酸と酢酸溶媒とのスラリーdは、複数段の晶析槽で段階的に圧力と温度を下げて晶析させた後に固液分離を行っていた(特許文献1)。しかし近年、スラリーdを、反応器1よりは低圧であるものの常圧を上回る加圧状態を維持したまま加圧固液分離装置3に送り、高温高圧のまま芳香族カルボン酸ケーキfと母液gとに分離する方法が提案されている(特許文献2)。なお、反応器1より低圧でかつ加圧状態とするために、スラリーdの移送経路中に圧力弁2を設ける。
【0004】
分離した母液gには、酢酸溶媒に溶解したままの芳香族カルボン酸や、芳香族カルボン酸になるまで酸化しきらなかった、一部酸化したアルキル基を有する芳香族化合物(以下、一部酸化アルキル芳香族化合物と称する。)を含むので、回収し反応器1に戻して再利用する。これにより母液gに含まれる一部酸化アルキル芳香族化合物は反応器1で酸化され、芳香族カルボン酸となる。
【0005】
また、芳香族カルボン酸ケーキfは、洗浄装置4内で洗浄液iにより洗浄され、洗浄ケーキhとなる。この洗浄ケーキhを乾燥装置6で乾燥させて芳香族カルボン酸結晶kを得る。一方、洗浄装置4から出る洗浄排液jは母液gと同様に芳香族カルボン酸を多く含むので直接又は間接的に回収し、一部は反応器1に戻すとともに、一部は系内への不純物の蓄積を避けるために廃棄処理工程9に送る。また、反応器1から排出される反応ガスmは凝縮器8で凝縮され、得られた凝縮液nの一部は反応器1に戻されるとともに、凝縮器8から出る凝縮器排ガスoの一部も反応器1に戻される。
【0006】
本方法では、晶析槽を用いず、加温加圧状態であるエネルギーを保持したまま母液gや洗浄排液jの回収、再利用を行うことができ、プロセス全体で必要とするエネルギー量を低減させることができる。
【特許文献1】特開2004−231637号公報
【特許文献2】特開2005−247839号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本方法では、反応器1より加圧固液分離装置3を低圧とすることで、スラリーdが反応器1から抜き出され加圧固液分離装置3に移送される。しかしながらこの方法を連続的に行うと、反応器1と固液分離装置3とが同圧になってしまいスラリーdが移送されなくなり、プロセスが停止してしまうことがあった。或いは、加圧固液分離装置3や洗浄装置4から母液gや洗浄液jを反応器1へ送る工程が停止することもあった。
【0008】
また、反応器1から抜き出したスラリーdをポンプでポンプアップし、より高圧にして加圧固液分離装置3に導入することでスラリーdを強制的に送る方法もあるが、この方法でもなお、移送が停止してしまう場合があった。
そこで本発明は、加圧状態の反応器1から抜き出した芳香族カルボン酸のスラリーdを加圧状態のまま固液分離する工程を含む芳香族カルボン酸の製造工程において、スラリーや母液、洗浄液の移送工程が意図に反して停止するのを防ぐことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記目的を達成するため鋭意検討した結果、反応装置からスラリーとともに抜き出されたガスを、その後の工程のいずれかの箇所で排出することで課題を解決しうることを見出し、本発明に至った。
即ち本発明は、加圧状態の反応装置内において、溶媒中でアルキル芳香族化合物を酸化して芳香族カルボン酸を生成させる工程、及び、前記芳香族カルボン酸及び溶媒を含むスラリーを前記反応装置から抜き出した後、固液分離装置にて加圧状態で固液分離を行い、芳香族カルボン酸ケーキ及び母液を得る工程、を少なくとも含む芳香族カルボン酸の製造方法であって、前記反応装置から前記スラリーとともに抜き出されたガスの排出を行うことを特徴とする芳香族カルボン酸の製造方法に関する。
また本発明は、前記固液分離工程以降の工程でガスの排出を行う前記製造方法に関する。
また本発明は、少なくとも前記固液分離装置からガスの排出を行う前記製造方法に関する。
また本発明は、前記固液分離装置がスクリーンボウルデカンターである前記製造方法に関する。
また本発明は、前記母液を、加圧状態を維持したまま前記反応装置に移送する前記製造方法に関する。
また本発明は、前記芳香族カルボン酸ケーキを洗浄液を用いて洗浄する工程を更に含み、該洗浄工程で得られた洗浄排液を、加圧状態を維持したまま前記反応装置に移送する前記製造方法に関する。
また本発明は、前記母液を反応装置移送前に貯留する母液タンク、及び/又は、前記洗浄排液を反応装置移送前に貯留する洗浄排液タンクからガスの排出を行う前記製造方法に関する。
また本発明は、前記ガスの排出をガス排出配管と圧力調整手段とを用いて行う前記製造方法に関する。
また本発明は、前記反応装置が、直列に配された2以上の反応器からなる前記製造方法に関する。
また本発明は、前記ガスを液体とともに排出する前記製造方法に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、加圧状態の反応装置でアルキル芳香族化合物の酸化を行い、得られたスラリーを加圧のまま固液分離する芳香族カルボン酸の製造において、スラリーや母液、洗浄排液等の移送工程の停止を防ぐことができ、芳香族カルボン酸の安定した製造が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明についてより詳細に説明する。なお以下の明細書において「ppm」は「重量ppm」を表す。
本発明は、加圧状態の反応装置内において溶媒中でアルキル芳香族化合物を酸化して芳香族カルボン酸を生成させる工程と、芳香族カルボン酸及び溶媒を含むスラリーを反応装置から抜き出した後、固液分離装置にて加圧状態で固液分離を行い芳香族カルボン酸ケーキ及び母液を得る工程とを少なくとも含む芳香族カルボン酸の製造方法であって、反応装置からスラリーとともに抜き出されたガスの排出を行うものである。
【0012】
すなわち、本発明者らが上記移送工程が停止する原因を検討したところ、反応装置から抜き出しきれなかった反応ガスや溶媒に溶解した反応ガスが反応装置から抜き出されるスラリーに同伴してしまい、固液分離装置や移送配管の内部に蓄積することが分かった。蓄積したガスは固液分離装置内部の圧力を上昇させ、反応装置からスラリーを送ろうとする圧力と同圧になってしまうため、スラリーの移送が止まるのである。
【0013】
また、スラリーに同伴したガスは固液分離後の母液や洗浄排液にも同伴してしまい、固液分離装置や洗浄装置から反応装置への移送配管内、また母液タンク、洗浄排液タンク、及びこれらへの移送配管内に蓄積し、母液や洗浄排液の移送工程を止めてしまうことが分かった。
そこで本発明は、反応装置からのスラリー抜き出しより後のプロセスのいずれかにガス排出手段を設け、スラリーに同伴したガスを排出し、これによりスラリーや母液、洗浄排液等の移送の停止を起こさないようにするものである。なお排出されるガスは、通常、気体である。
【0014】
なお、本発明において反応装置は1つの反応器のみから成ってもよく、直列又は並列に配された複数の反応器から成ってもよい。例えば、反応器と直列に配された追酸化反応器とからなる。複数の反応器からなる場合、「反応装置から抜き出されたスラリー」とは、最も下流の反応器から抜き出されたスラリーを指す。
また、反応器とは、酸素源を供給しアルキル芳香族化合物を酸化することを主な目的とした装置を言う。例えば、分離装置、洗浄装置、乾燥装置、晶析装置などにおいても多少の酸化は進行しうるが、上記定義には当てはまらず、反応器ではない。
【0015】
以下、本発明の製造方法について図1を用いて詳細に説明する。
まず反応器11にアルキル芳香族化合物Aを導入し、酢酸など脂肪族カルボン酸からなる溶媒C中で、原料であるアルキル芳香族化合物Aを空気などの分子状酸素含有ガスBにより酸化して芳香族カルボン酸を生成させ、溶媒との混合物であるスラリーDを得る。酸化反応には通常、触媒が用いられる。なお本発明においてアルキル芳香族化合物Aとは、アルキル基を持つ芳香族化合物だけでなく、一部酸化されたアルキル基を持つ芳香族化合物も含む概念である。
【0016】
本発明において原料及び溶媒の混合物は、液相、気液2相、気液固3相の様々なケースが挙げられるが、通常、少なくとも液相を含む。なお本発明では固液2相、気液固3相となっているものをスラリーと呼ぶ。
本発明が適用される芳香族カルボン酸の種類は特に制限はないが、例えばオルトフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、トリメリット酸(ベンゼントリカルボン酸)、2,6−、又は2,7−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ビフェニルジカルボン酸などが挙げられる。なかでも本発明はフタル酸類(オルトフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸)の製造に適用することが好ましく、特にテレフタル酸の製造に適用することが好ましい。
【0017】
芳香族カルボン酸の原料となるアルキル芳香族化合物Aとしては、例えば、ジ−及びトリ−アルキルベンゼン類、ジ−及びトリ−アルキルナフタレン類並びにジ−及びトリ−アルキルビフェニル類が挙げられる。好ましくは、o−キシレン、m−キシレン、p−キシレン、o−、m−、又はp−ジイソプロピルベンゼン、トリメチルベンゼン類、2,6−又は2,7−ジメチルナフタレン、2,6−ジイソプロピルナフタレン、4,4’−ジメチルビフェニルなどが挙げられる。なかでもメチル基、エチル基、n−プロピル基およびイソプロピル基等の炭素数1〜4のアルキル基を2〜4個有する芳香族化合物が、反応性が高く好ましい。また原料アルキル芳香族化合物は一部酸化されたアルキル芳香族化合物(一部酸化アルキル芳香族化合物)を含んでもよく、全てが一部酸化アルキル芳香族化合物であってもよい。
【0018】
一部酸化アルキル芳香族化合物は、上記アルキル芳香族化合物におけるアルキル基が酸化されて、アルデヒド基、アシル基、カルボキシル基又はヒドロキシアルキル基等に酸化されているものの、目的とする芳香族カルボン酸となる程には酸化されていない化合物である。具体的には、例えば3−メチルベンズアルデヒド、4−メチルベンズアルデヒド、4−カルボキシベンズアルデヒド(以下、「4CBA」と称する。)、p−トルアルデヒド、m−トルイル酸、p−トルイル酸、3−ホルミル安息香酸、4−ホルミル安息香酸及び2−メチル−6−ホルミルナフタレン類等を挙げることができる。
【0019】
原料としてはこれら化合物を単独で、又は2種以上の混合物として用いることができる。
以上総合して、アルキル芳香族化合物Aとしてはキシレン類(o−キシレン、m−キシレン、p−キシレン)が好ましく、特にp−キシレンが好ましい。アルキル芳香族化合物Aとしてp−キシレンを用いる場合、一部酸化アルキル芳香族化合物としては、例えば4CBA、p−トルアルデヒド、p−トルイル酸等が挙げられ、芳香族カルボン酸としてはテレフタル酸が得られる。
【0020】
このアルキル芳香族化合物Aを分子状酸素含有ガスBにより酸化する。分子状酸素含有ガスBとしては分子状酸素を含むガスであればよく、例えば空気、酸素富化空気、不活性ガスで希釈された酸素等が用いられる。このうち、コストが低い空気が実用的には好ましい。
また、アルキル芳香族化合物Aを酸化する際には好ましくは触媒が用いられる。触媒の種類には、アルキル芳香族化合物を酸化し芳香族カルボン酸を生成する反応を促進する能力を有するものであれば特に制限はない。好ましくは重金属化合物からなる触媒である。重金属化合物に含まれる重金属としては、例えばコバルト、マンガン、ニッケル、クロム、ジルコニウム、銅、鉛、ハフニウム及びセリウム等が挙げられる。これらは単独で、または組み合わせて用いることができるが、特にコバルトとマンガンとを組み合わせて用いることが好ましい。このような重金属の化合物としては、例えば酢酸塩、硝酸塩、アセチルアセトナート塩、ナフテン酸塩、ステアリン酸塩及び臭化物等を挙げることができる。なかでも酢酸塩及び臭化物が好ましい。
【0021】
また、触媒が必要に応じて触媒助剤を含んでいてもよい。触媒助剤として好ましくは臭素化合物である。例えば分子状臭素、臭化水素、臭化ナトリウム、臭化カリウム、臭化コバルト及び臭化マンガン等の無機臭素化合物や、臭化メチル、臭化メチレン、ブロモホルム、臭化ベンジル、ブロモメチルトルエン、ジブロモエタン、トリブロモエタン及びテトラブロモエタン等の有機臭素化合物などを挙げることができる。これらの臭素化合物も単独で、又は2種以上の混合物として用いることができる。
【0022】
なかでも好ましい触媒としては、コバルト及び/又はマンガンの化合物を用い、触媒助剤として臭素化合物を用いる。特に好ましくは、酢酸コバルト、酢酸マンガン、臭化水素の組合せが挙げられる。
重金属化合物と臭素化合物との組合せからなる触媒の場合、通常、重金属原子1モルに対して臭素原子0.05モル以上とし、好ましくは0.1モル以上とし、より好ましくは0.5モル以上とする。一方、重金属原子1モルに対して、通常、臭素原子10モル以下とし、好ましくは7モル以下とし、より好ましくは5モル以下とする。これらの範囲とすることで触媒活性が高まる利点がある。
【0023】
触媒の濃度は、上記酸化反応を促進し得る範囲であれば特に限定されないが、通常、反応溶媒中の重金属濃度として10ppm以上とし、好ましくは100ppm以上とし、より好ましくは200ppm以上とする。一方、重金属濃度として通常10000ppm以下とし、好ましくは5000ppm以下とし、より好ましくは3000ppm以下とする。下限値以上とすることで反応速度が高まり、上限値以下とすることでコストが抑制できるとともに排液や排ガス中の重金属濃度、臭素濃度を低減でき、環境面、安全面で好ましい。
【0024】
溶媒Cは、通常、生成する芳香族カルボン酸の少なくとも一部を溶解しうるものである。なお、常圧(常圧は通常0.101MPaを指す。以下同じ。)では芳香族カルボン酸が不溶又は難溶であっても、加圧下で少なくとも一部を溶解しうるものであればよい。
また溶媒Cは、反応中で液体又は気液2層となるものであり、原料や反応後の目的化合物に化学的な変化を来さないものである。また溶媒Cの常圧における沸点は好ましくは40℃以上、より好ましくは50℃以上、更に好ましくは60℃以上であり、また好ましくは200℃以下、より好ましくは180℃以下、更に好ましくは150℃以下である。下限値以上とすることで取り扱いや回収が容易となり、上限値以下とすることで後工程での固液分離、乾燥が容易となる。
【0025】
溶媒Cの種類は特に限定されないが、溶解性や沸点から、脂肪族カルボン酸を主成分とする溶媒が好ましく、酢酸、プロピオン酸、蟻酸及び酪酸を主成分とする溶媒がより好ましい。なお、主成分とするとは溶媒の全重量の60重量%以上を占めることを言う。なかでも溶解性及び取り扱いの容易性から酢酸を主成分とする溶媒が好ましい。最も好ましくは酢酸と水との混合物である。酢酸と水との比率は、酢酸100重量部に対して水は通常1重量部以上であり、好ましくは5重量部以上である。また、通常40重量部以下であり、好ましくは25重量部以下であり、より好ましくは15重量部以下である。上限値以下とすることで反応効率を向上させることができ、下限値以上とすることで酢酸の燃焼(による分解)量をより削減することができ、エネルギー面、経済面での節源が図れ、それぞれ好ましい。
【0026】
溶媒Cの量は原料や目的反応物の溶解性等により変えうるが、アルキル芳香族化合物A100重量部に対して、通常、100重量部以上とする。また通常、500重量部以下とする。
本発明の方法は上記酸化反応で得られる芳香族カルボン酸全般に適用しうるが、なかでも芳香族カルボン酸と、該芳香族カルボン酸が難溶性である溶媒Cとの組合せに適用すると効果が高い。特に、テレフタル酸と酢酸を主成分とする溶媒との組合せである。
【0027】
本発明の製造方法において、アルキル芳香族化合物Aの酸化反応は、加圧状態、即ち常圧を超える圧力下に行われる。液相酸化の反応効率を高めるためには、反応温度において溶媒Cとアルキル芳香族化合物Aとの混合物が液相を保持できる圧力以上とする。また、反応後のスラリーを固液分離装置へ移送しやすくするためにも反応器11の圧力は高いことが好ましい。好ましくは絶対圧で0.2MPa以上とし、より好ましくは0.5MPa以上とし、更に好ましくは1MPa以上とする。一方、圧力は通常、絶対圧で20MPa以下とする。副反応や化合物の分解を抑制でき、収率の低下を抑える利点がある。また圧力をできるだけ低く抑えることで、耐圧強度の低い反応器を用いることができ、コストが節減できる。好ましくは10MPa以下とし、より好ましくは7MPa以下とし、更に好ましくは5MPa以下とし、特に好ましくは2MPa以下とする。実際の運用においては、反応混合物の組成及び設定反応温度において、沸騰状態を維持できる圧力とすることが望ましい。
【0028】
また、反応器11の温度は、通常、80℃以上とする。反応速度を高め収率を上げるためである。好ましくは100℃以上とし、より好ましくは140℃以上とし、更に好ましくは160℃以上とし、最も好ましくは180℃以上とする。一方、温度は通常300℃以下とする。溶媒の燃焼による損失量を抑えることができる。また副反応や化合物の分解を抑制でき、収率の低下を抑える利点がある。好ましくは250℃以下とし、より好ましくは230℃以下とし、更に好ましくは210℃以下とし、特に好ましくは200℃以下とする。
【0029】
本発明において、酸化反応は連続的に実施すると生産効率が高まり、望ましい。その際の反応時間(平均滞留時間)は20分以上であると好ましく、30分以上であるとより好ましく、40分以上であると更に好ましい。反応を十分に進行させ、純度の高い芳香族カルボン酸を得るためである。一方、反応時間は300分以下であると好ましく、150分以下であるとより好ましく、120分以下であると更に好ましく、90分以下であると特に好ましい。溶媒Cの燃焼による損失を抑制しコストを低減するためである。また反応器11の容量を小さくできる点でも好ましい。
【0030】
本発明において反応器11の種類は特に限定されず、従来公知のものを用い得る。例えば攪拌機付き反応器、気泡塔反応器、プラグフロー型(配管流通型)反応器などいずれでもよいが、反応効率を高めるには攪拌機付き完全混合槽型反応器が好ましい。反応器11の下部には分子状酸素含有ガスBの供給口が設けられる。反応器11の下部供給口から供給された分子状酸素含有ガスBは、アルキル芳香族化合物Aの酸化反応に利用された後、多量の溶媒Cの蒸気を含む反応ガスMとなり反応器11の塔頂部より抜き出される。
【0031】
次いで、必要に応じて凝縮器18にて溶媒Cを主とする凝縮液Nを凝縮分離した後、凝縮器排ガスOとして排出される。凝縮器18は一段でもよいし、複数段からなるものでもよい。或いは、凝縮器18に代えて蒸留塔を用いても同様の分離が可能である。
分子状酸素含有ガスBの供給量及び酸素濃度は、凝縮器排ガスO(凝縮器18が複数段からなる場合は最終段の凝縮器の排ガスを凝縮器排ガスOとする。)中の酸素濃度が特定範囲となるように制御するのが好ましい。好ましくは凝縮器排ガスO中の酸素濃度が0.5容量%以上、より好ましくは1容量%以上、更に好ましくは2容量%以上とする。下限値より高いほど反応効率が高まる利点がある。また好ましくは10容量%以下、より好ましくは8容量%以下、更に好ましくは7容量%以下となるよう制御する。上限値より低くすることで安全性が高まる。
【0032】
通常、凝縮液Nは水分を含有しており、系内の水分量調整のためにその一部を系外にパージし、残りは反応器11に還流させる。また、凝縮器排ガスOを二つの流れに分岐させ、一方は系外に排出させ、他方は反応器11に連続的に循環供給させてもよい。
また、溶媒Cとして酢酸などの脂肪族カルボン酸を用いる場合、反応器11中の上記溶媒Cの水分濃度を前述の範囲に調整するには、溶媒Cとして純粋な酢酸などの脂肪族カルボン酸を供与し、かつ、後述する母液Gや洗浄排液Jの一部を再利用すると共に、反応器11で発生した反応ガスMを凝縮器18で凝縮して得られる水を含む凝縮液Nの一部を系外にパージする量を調整することで行える。これにより、新たな溶媒Cの使用量を抑えつつ、反応への影響を無視できる程度の水分濃度に抑えることができる。
【0033】
或いは、凝縮器18に代えて蒸留塔を用いてもよい。即ち、脂肪族カルボン酸と水とを分離可能な蒸留塔を反応器11に連結し、反応器11で発生した反応ガスMを蒸留塔で蒸留する。塔底から得られる水分濃度が低減された脂肪族カルボン酸を反応器11に回収するとともに、塔頂から得られる水を含む成分を例えば系外にパージするなどして、系内の水分量を調整することができる。
【0034】
なお、反応器11での酸化反応の後、必要に応じて追酸化処理を行ってもよい。追酸化処理とは、反応器11(以下、「第1反応帯域」と言う。)での酸化反応で得られた反応混合物を、追酸化反応器11’(以下、「第2反応帯域」と言う。)において、アルキル芳香族化合物Aを供給することなく分子状酸素含有ガスB’を供給し酸化処理することである。
【0035】
追酸化処理の好ましい一例としては、第1反応帯域で得られた反応混合物に、より低温に保持した第2反応帯域において追酸化処理を行う(以下、「低温追酸化」という)。アルキル芳香族化合物Aがp−キシレンであれば、第2反応帯域の温度は第1反応帯域より1〜20℃低温とすることが好ましい。より好ましくは5℃以上低温とする。またより好ましくは15℃以下低温とする。
【0036】
低温追酸化も加圧状態、即ち常圧を超える圧力下に行われ、反応温度において内部の混合物が液相を保持できる圧力以上とする。また、反応後のスラリーを固液分離装置へ移送しやすくするためにも追酸化反応器11’の圧力は高いことが好ましい。好ましくは絶対圧で0.2MPa以上とし、より好ましくは0.5MPa以上とする。
一方、圧力は通常、絶対圧で20MPa以下とする。副反応や化合物の分解を抑制でき、収率の低下を抑える利点がある。また圧力をできるだけ低く抑えることで、耐圧強度の低い反応器を用いることができ、コストが節減できる。好ましくは10MPa以下とし、より好ましくは7MPa以下とし、更に好ましくは5MPa以下とし、特に好ましくは2MPa以下とする。実際の運用においては、反応器11から出たスラリーDを効率的に追酸化反応器11’に導入するため、反応器11よりも低い圧力とすることが望ましい。
【0037】
なお、低温追酸化反応は連続的に実施すると生産効率が高まり望ましい。その際の反応時間(平均滞留時間)は5分以上であると好ましく、10分以上であるとより好ましく、20分以上であると更に好ましい。反応を十分に行わせ、純度の高い芳香族カルボン酸を得るためである。また、反応時間は150分以下であると好ましく、120分以下であるとより好ましく、90分以下であると更に好ましい。溶媒Cの燃焼による損失を抑え、かつ装置を小型化するためである。
【0038】
追酸化処理の他の好ましい一例としては、第1反応帯域で得られた反応混合物に、より高温に保持した第2反応帯域において追酸化処理を行う(以下、「高温追酸化」という)。アルキル芳香族化合物Aがp−キシレンであれば、第2反応帯域の温度は第1反応帯域より1〜150℃高く保持することが好ましい。より好ましくは30℃以上、更に好ましくは50℃以上高温とする。またより好ましくは100℃以下、更に好ましくは80℃以下高温とするのが好ましい。
【0039】
高温追酸化も加圧状態、即ち常圧を超える圧力下に行われ、反応温度において内部の混合物が液相を保持できる圧力以上とする。また、反応後のスラリーを固液分離装置へ移送しやすくするためにも追酸化反応器11’の圧力は高いことが好ましい。好ましくは絶対圧で0.2MPa以上とし、より好ましくは0.5MPa以上とする。
一方、圧力は通常、絶対圧で20MPa以下とする。副反応や化合物の分解を抑制でき、収率の低下を抑える利点がある。また圧力をできるだけ低く抑えることで、耐圧強度の低い反応器を用いることができ、コストが節減できる。好ましくは10MPa以下とし、より好ましくは7MPa以下とし、更に好ましくは5MPa以下とし、特に好ましくは2MPa以下とする。実際の運用においては、反応器11から出たスラリーDを効率的に追酸化反応器11’に導入するため、反応器11よりも低い圧力とすることが望ましい。
【0040】
なお、高温追酸化反応は連続的に実施すると生産効率が高まり望ましい。その際の反応時間(平均滞留時間)は5分以上であると好ましく、10分以上であるとより好ましく、20分以上であると更に好ましい。反応を十分に行わせ、純度の高い芳香族カルボン酸を得るためである。また、反応時間は150分以下であると好ましく、120分以下であるとより好ましく、90分以下であると更に好ましい。溶媒Cの燃焼による損失を抑え、かつ装置を小型化するためである。
【0041】
上記追酸化処理は1回のみ行ってもよいし、2回以上連続して行ってもよい。例えば低温追酸化を2回以上行ってもよいし、低温追酸化と高温追酸化を各1回以上行ってもよいし、高温追酸化を2回以上行ってもよい。追酸化処理を2回以上行う場合、通常、追酸化反応器を2以上設ける。本発明において、好ましくは追酸化処理を1回以上行い、より好ましくは少なくとも低温追酸化を1回行う。
【0042】
追酸化処理を行うために供給する分子状酸素含有ガスB’としては、分子状酸素を含むガスであればよく、第1反応帯域と同様に、空気、酸素富化空気、不活性ガスで希釈された酸素等が用いられる。このうち、実用的には空気が好ましい。追酸化反応器11’から排出された反応ガスM’は酸素及び溶媒Cの蒸気を含み、上記反応ガスMに用いる凝縮器18と同様の凝縮器を用いて凝縮される。或いは、凝縮器に代えて蒸留塔を用いても同様の分離が可能である。
【0043】
分子状酸素含有ガスB’の供給量及び酸素濃度は、凝縮器からの凝縮器排ガス(凝縮器が複数段からなる場合は最終段の凝縮器の排ガス)中の酸素濃度が特定範囲となるように制御するのが好ましい。好ましくは凝縮器排ガス中の酸素濃度が0.5容量%以上、より好ましくは1容量%以上、更に好ましくは2容量%以上とする。下限値より高いほど反応効率が高まる利点がある。また好ましくは10容量%以下、より好ましくは8容量%以下、更に好ましくは7容量%以下となるよう制御する。上限値より低くすることで安全性が高まる。
【0044】
また分子状酸素含有ガスB’の供給量は、第1反応帯域で行う酸化反応に供給する分子状酸素含有ガスBの量の1/10000以上(体積比)であることが好ましく、1/1000以上であるとより好ましく、1/100以上であると更に好ましい。一方、ガスBの量の1/5以下であることが好ましく、1/10以下であるとより好ましい。
なお、追酸化処理を行う反応器の種類は特に限定されないが、例えば上記第1反応帯域と同様のタイプの反応器などが使用可能である。また追酸化処理の他の条件については、第1反応帯域における酸化と同様である。
【0045】
以上のようにして酸化反応が行われ、反応器11又は追酸化反応器11’から芳香族カルボン酸と溶媒Cとを含むスラリーDが抜き出される。芳香族カルボン酸は固体として、好ましくは結晶として得られ、少なくとも固体の化合物と溶媒を含むスラリーが得られる。なお芳香族カルボン酸は、一部、溶媒Cに溶解していてもよい。このスラリーDは溶媒Cや芳香族カルボン酸の他に、触媒、原料のアルキル芳香族化合物、及び副生成物(例えば、一部酸化アルキル芳香族化合物)などを含みうる。副生成物としては、p−キシレンからテレフタル酸を製造する場合には例えば4CBA、p−トルアルデヒド、p−トルイル酸、酢酸メチル等が挙げられる。スラリー中には、4CBAがテレフタル酸に対して通常、0.1〜5000ppm含まれている。好ましくは3000ppm以下、より好ましくは2500ppm以下、更に好ましくは2000ppm以下、特に好ましくは1500ppm以下である。
【0046】
以下では便宜上、反応装置が反応器11のみからなり、反応器11から抜き出されるスラリーを反応装置から抜き出されるスラリーDとする場合について説明する。ただしこの説明は、反応装置が反応器11及び追酸化反応器11’からなり、追酸化反応器11’から抜き出されるスラリーを反応装置から抜き出されるスラリーDとした場合にも全く同様に適用される。
【0047】
このスラリーDを溶媒と芳香族カルボン酸とに固液分離するため、加圧状態を維持したままで加圧固液分離装置13へ移送する。この移送に当たっては、スラリーDを順次加圧固液分離装置13へ向けて移動させるために、例えば、ポンプ12を設けてポンプアップし、スラリーDを反応器内より更に加圧したうえで加圧固液分離装置13に導入してもよい。またこれとは逆に、圧力弁を設けて反応器11内よりもやや減圧させることでスラリーDを加圧固液分離装置13に導入してもよい。いずれの場合も、生じる圧力差によって反応器11への逆流を防ぎスラリーDを加圧固液分離装置13に移送することができる。
【0048】
加圧固液分離装置13は加圧状態での固液分離が可能な固液分離装置であり、スラリーDを加圧状態、即ち常圧を超える圧力下で芳香族カルボン酸ケーキFと母液Gとに固液分離する。加圧状態で固液分離を行うことで内部エネルギーの大きいケーキFが得られ、後のケーキFの乾燥工程でケーキ付着液の蒸発を効率的に行うことができる。好ましくは絶対圧で0.2MPa以上とし、より好ましくは0.3MPa以上とし、更に好ましくは0.5MPa以上とする。一方、圧力は通常、絶対圧で20MPa以下とする。低めの圧力とすることで耐圧性がやや低い装置が使用でき、コストが節減できる。好ましくは10MPa以下とし、より好ましくは5MPa以下とし、更に好ましくは3MPa以下とし、特に好ましくは2MPa以下とする。実際の運用においては、移送中に移送中にポンプ12によりポンプアップする場合にはその圧力程度とし、圧力弁を用いる場合は反応器11の圧力よりやや低い圧力とすることが望ましい。
【0049】
加圧固液分離装置13としては公知の装置を制限なく使用しうるが、例えば、スクリーンボウルデカンター、ソリッドボウルセパレーター、ロータリー加圧フィルター、ロータリーバキュームフィルター等が挙げられる。好ましくはスクリーンボウルデカンターである。その場合、回転速度は100rpm以上が好ましい。分離効率が高く、得られるケーキFの含液率が低くなる。より好ましくは500rpm以上、更に好ましくは1000rpm以上とする。一方、回転速度は通常、10000rpm以下とする。好ましくは5000rpm以下とし、より好ましくは3000rpm以下とする。スクリーンボウルデカンターについては後に詳述する。
【0050】
加圧固液分離装置13で分離された母液Gは、通常、母液タンク20に回収されるが、反応に用いた溶媒が主成分であり、溶解した芳香族カルボン酸や、未反応のアルキル芳香族化合物、触媒、副生成物、水などが含まれている。従って母液Gは反応器11へ移送し溶媒、未反応原料、触媒を再利用するとともに、含まれる芳香族カルボン酸を反応系内に戻すと、プロセス全体の収率を上げることができ好ましい。より好ましくは、母液Gは加圧状態を維持したまま反応器11へ移送する。再加圧ためのエネルギーが節減でき、好ましい。特に好ましくは、母液Gは加圧、高温状態を維持したまま反応器11へ移送すると、触媒の活性も維持され、再加圧、再加温のためのエネルギーが節減でき好ましい。
【0051】
加圧固液分離装置13で母液Gと分離された芳香族カルボン酸ケーキFは、そのまま乾燥してもよいが、洗浄装置14で洗浄することで、不純物や副生成物、触媒等を除去でき、得られる芳香族カルボン酸の結晶の純度が高まるので好ましい。
洗浄装置14では芳香族カルボン酸ケーキFが洗浄液Iにより洗浄され、付着母液が除去され不純物濃度が低減された洗浄ケーキHが得られる。洗浄排液Jは洗浄ケーキHと分離され洗浄排液タンク21に回収することができる。洗浄排液Jには母液G同様、溶解した芳香族カルボン酸や、未反応のアルキル芳香族化合物、触媒、副生成物、水などが含まれるため、洗浄排液Jは反応器11へ移送し溶媒、未反応原料、触媒を再利用するとともに、含まれる芳香族カルボン酸を反応系内に戻すと、収率を上げることができ好ましい。より好ましくは、洗浄排液Jは加圧状態を維持したまま反応器11へ移送する。再加圧のためのエネルギーが節減でき、好ましい。
【0052】
なお、工程内に副生成物や触媒などの不純物が蓄積するのを避けるため、洗浄排液Jの一部は廃棄処理工程19へ送り廃棄し、残部を反応器11へ送り再利用することで、工程内への不純物の蓄積を抑制することが好ましい。廃棄処理工程19は、例えば溶媒蒸発工程や触媒回収工程などからなる。
また、母液タンク20と洗浄排液タンク21とをまとめて、1つの母液・洗浄排液タンクとしてもよい。その場合、反応器11への移送、溶媒、未反応原料、触媒の再利用や、廃棄処理工程へ移送しての廃棄もまとめて行うことができる。
以下、母液タンク20や洗浄排液タンク21に関する説明は、このような母液・洗浄排液タンクをも含むものとする。
【0053】
洗浄に用いる洗浄液Iは、水や有機溶媒などを用い得、特に制約はないが、反応器11で用いる溶媒Cと相溶するものが好ましい。例えば、溶媒Cが酢酸を主成分とする溶媒である場合、洗浄液Iとしては、酢酸、水、或いは酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル等の比較的蒸発潜熱の小さい酢酸エステル類、又はこれらの混合物を主成分とする溶媒を用いることが好ましい。溶媒Cと主成分が共通するものであると、上記のような洗浄排液Jの再利用がより行い易く、より好ましい。溶媒Cが酢酸を主成分とする溶媒である場合、洗浄液Iも酢酸を主成分とする溶媒が好ましく、酢酸を80重量%以上含む溶媒であると好ましく、90重量%以上含む溶媒であることが特に好ましい。
【0054】
洗浄装置14では、芳香族カルボン酸ケーキFを、好ましくは加圧状態、即ち常圧を超える圧力下で洗浄する。洗浄排液Jを加圧状態のまま反応器11に戻すことができ、エネルギーが節減できるためである。好ましくは絶対圧で0.2MPa以上とし、より好ましくは0.3MPa以上とし、更に好ましくは0.5MPa以上とする。一方、圧力は通常、絶対圧で20MPa以下とする。低めの圧力とすることで耐圧性がやや低い装置が使用でき、コストが節減できる。好ましくは10MPa以下とし、より好ましくは5MPa以下とし、更に好ましくは3MPa以下とし、特に好ましくは2MPa以下とする。実際の運用においては、加圧固液分離装置13の圧力と同程度かやや低い圧力とすることが望ましい。
【0055】
母液Gや洗浄排液Jを反応装置に移送する場合、反応装置の中のどの反応器に移送してもよい。但し、反応効率を高めるため、好ましくは最も上流の反応器に移送する。
このようにして得られた洗浄ケーキHは、好ましくは乾燥装置16により乾燥させることにより、ケーキに残留する付着液を除去して芳香族カルボン酸を得る。通常、芳香族カルボン酸結晶Kとして得られる。乾燥装置16は1つのみでもよいし複数の同一又は異なる装置で構成されていてもよい。
【0056】
乾燥装置16の種類は特に制限されないが、好ましくは、洗浄ケーキHを高圧状態から低圧状態へ移行させることで洗浄ケーキHに付着している付着液を放圧蒸発させる装置、いわゆるフラッシュ乾燥装置を含むことが好ましい。ここで放圧蒸発とは、高圧状態にある液体が、移行前の温度が移行後の圧力における沸点以上となる低圧状態へ急激に移行させられることによって、その内部エネルギーを気化熱として一部液体が蒸発することを言う。放圧蒸発を行える乾燥装置としては、例えば、高圧状態から低圧状態への抜き出しが可能なディスチャージバルブを備えた加圧乾燥装置などが挙げられる。例えば、高圧状態を保持したまま洗浄ケーキHを蓄えたケーキ保持槽から、ディスチャージバルブを開放して洗浄ケーキHをより低圧である粉体滞留槽へ抜き出す。
【0057】
放圧蒸発によれば、更なるエネルギーを加えることなく洗浄ケーキHの乾燥が行えるので、放圧蒸発でできるだけ多くの付着液を蒸発させることがエネルギーコスト節減上、好ましい。
ディスチャージバルブは抜き出し方式が連続式であっても間欠式であってもよく、また乾燥装置はディスチャージバルブを1つ備えていても複数備えていてもよい。なお、ディスチャージバルブによる抜き出しの際、粉体滞留槽での洗浄ケーキH滞留量が一定となるようタイミングや回数を調整すると、安定的に工程を進行させやすく好ましい。
【0058】
放圧蒸発前の高圧状態とは、通常、加圧状態、即ち常圧を超える圧力を言うが、好ましくは絶対圧で0.2MPa以上とし、より好ましくは0.3MPa以上とし、更に好ましくは0.5MPa以上とする。より高圧とすることでケーキHの付着液の蒸発を効率的に行うことができる。一方、圧力は通常、絶対圧で20MPa以下とする。低めの圧力とすることで耐圧性がやや低い装置が使用でき、コストが節減できる。好ましくは10MPa以下とし、より好ましくは5MPa以下とし、更に好ましくは3MPa以下とし、特に好ましくは2MPa以下とする。実際の運用においては、加圧固液分離装置13や洗浄装置14の圧力と同じかそれ以下とすることで、新たな加圧が必要無くエネルギーコストが節減でき、好ましい。
【0059】
放圧蒸発後の低圧状態とは、放圧前の圧力より低圧であればよく制限はないが、通常、1MPa以下とする。放圧前後の圧力差が大きいほど付着液の放圧蒸発量が多く、好ましい。好ましくは0.5MPa以下とし、より好ましくは0.3MPa以下とし、更に好ましくは0.2MPa以下とする。一方、低圧状態は、好ましくは常圧以上とする。新たな加圧や減圧が必要無くエネルギーコストが節減できるためである。
【0060】
放圧蒸発前の洗浄ケーキHの温度を、付着液の常圧における沸点より高い温度としておくと、付着液の放圧蒸発量を増やすことができ、好ましい。また、好ましくは放圧蒸発前後の温度差を5℃以上とする。より好ましくは10℃以上とし、更に好ましくは20℃以上とする。下限値より高いほど放圧蒸発の効果が高まり含液率を下げることができる。また、好ましくは250℃以下とし、より好ましくは200℃以下とし、更に好ましくは170℃とする。上限値より低いほど、設備コストが低減できる利点がある。放圧蒸発装置としては例えば、特開2002−336687号公報に記されているものが使用しうる。
【0061】
なお、加圧固液分離工程と洗浄工程とを一つの装置で行える加圧固液分離洗浄装置15(図中、破線囲みの15に相当する。)により、両工程を行ってもよい。工程を簡略化できる利点がある。このように二つの工程をまとめて行うことのできる加圧固液分離洗浄装置15としては、スクリーンボウルデカンター(スクリーンボウル型遠心分離装置)、ソリッドボウルセパレーター、ロータリー加圧フィルター、水平ベルトフィルター等が挙げられる。これらの中でも、特にスクリーンボウルデカンターは耐熱性に優れ、反応器11の温度に近い高温域でも使用可能であるため好ましい。
【0062】
また、加圧固液分離工程、洗浄工程及び乾燥工程を一つの装置で行える加圧固液分離洗浄乾燥装置17(図中、破線囲みの17に相当する。)により、これら3つの工程を行ってもよい。工程を簡略化できる利点がある。このような装置としては特に制限はなく、例えばスクリーンボウルデカンター、ソリッドボウルデカンターのような遠心分離機や、水平ベルトフィルター、ロータリー加圧フィルターなどを用いることができる。なかでもスクリーンボウルデカンターは耐熱性に優れるため好ましい。
【0063】
スクリーンボウルデカンターでの処理について説明する。スクリーンボウルデカンター内では、遠心力によって芳香族カルボン酸ケーキFと母液Gが分離され、ケーキFは螺旋状の板により、濾過材を備えた洗浄部位に搬送される。次いで、ケーキFが濾過材を備えた洗浄部位を通過する際、洗浄液Iの散布によってこのケーキFを洗浄することができ、付着母液が除去され不純物濃度が低減された洗浄ケーキHが得られる。洗浄ケーキHは加圧状態を保ったままケーキ保持槽で保持される。また洗浄排液Jは濾過材を通り、洗浄ケーキHと分離され回収することができる。このようにして、固液分離と洗浄を一体化された装置内で行うことができる。分離や洗浄の際の好ましい操作圧力、回転数など条件は前述の通りである。
【0064】
使用しうる濾過材の材質及び形状には特に制約はなく、例えばセラミックフィルター、金網、金属バースクリーン等が挙げられ、耐食性や目詰まりを考慮して選定することができる。例えば金属バースクリーンを使用すると、若干のケーキ目漏れはあるが、目詰まりを回避することができ、安定的な連続生産が行え好ましい。
またスクリーンボウルデカンターでは母液Gと洗浄排液Jを別々に回収することができる。いずれも前述の通り再利用し、又は一部廃棄することが好ましい。
【0065】
ケーキ保持槽の洗浄ケーキHは、更に、ディスチャージバルブによってより低圧の粉体滞留槽へ抜き出され、ケーキ付着液の放圧蒸発が行われる。乾燥の際の好ましい操作圧力、温度など条件は前述の通りである。
このようにして得られる芳香族カルボン酸結晶Kの乾燥が不十分な場合は、乾燥装置16の後に加熱乾燥装置などを設け、更に乾燥を行うことが好ましい。加熱乾燥装置の種類は特に制限は無いが、乾燥効率やコスト等の点から、流動層乾燥装置(Fluidized Bed Dryer)、回転型乾燥装置(スチームチューブドライヤー等)などが好ましく用いられる。
【0066】
以上のような工程により、アルキル芳香族化合物から芳香族カルボン酸が得られる。得られた芳香族カルボン酸はそのまま使用してもよいし、純度を上げるために還元工程に供してもよい。
本発明の製造方法は上記で示した全工程を必須とするものではなく、反応器11で芳香族カルボン酸を生成させ、加圧状態のままで加圧固液分離装置13に移送し、芳香族カルボン酸を溶媒から分離するものであればよい。また必要に応じて上記以外の装置や配管を設けてもよい。
【0067】
上記製造プロセスにおいては、反応器11からスラリーDを抜き出した際に、スラリーとともにガス(気体)も抜き出されてしまう場合がある。このガスは通常、酸素ガスのうち消費されず残ったガスや、酸素源として供給される空気などのうち酸素以外の窒素などのガスや、ガス状の酢酸などを主成分とする。以下このガスを反応ガスと称することもある。このガスのうち、反応器11の上方から抜き出しきれずに溶媒中にガス状態で存在したり、高圧下で溶媒Cに溶解したりしたものが、反応器11からスラリーとともに抜き出されるのである。
【0068】
上記製造プロセスは、乾燥装置16での乾燥後の段階を除いては、通常いずれも加圧状態で進行する。スラリーDに同伴したガスはこのような加圧状態の装置や配管に蓄積することがあり、ガスが蓄積した場所の圧力が高まり前工程との圧力差が無くなったり、配管中にガス溜まりを生じたりしてスラリー、液体、ケーキの次工程への移送が停止してしまうことがある。固液分離以降の工程は反応器11より圧力が低いため、溶媒に溶解していたガスが配管や装置中で気化する事も、ガスの蓄積が生じる原因の1つと考えられる。
【0069】
本発明においては、反応装置からのスラリー抜き出し以降の加圧状態の工程や工程間のいずれかにガス排出手段を設け、スラリー、ケーキ、母液、洗浄排液等からガスの排出を行うことにより、移送の停止を防ぐ。反応器11からスラリーに同伴したガスはスラリーから得られるケーキや母液、洗浄排液にも含まれ得るため、ガスの排出を行う対象は、スラリーに限らず、ケーキや母液、洗浄排液も含み得る。
【0070】
ガス排出手段を設ける箇所は特に限定されないが、例えば、反応器11又は追酸化反応器11’から加圧固液分離装置13までの移送配管、加圧固液分離装置13、また母液Gの再利用を行う場合は、加圧固液分離装置13から母液タンク20までの移送配管、母液タンク20、母液タンク20から反応器11までの移送配管、さらに洗浄排液Jの再利用を行う場合は、洗浄装置15から洗浄排液タンク21までの移送配管、洗浄排液タンク21、洗浄排液タンク21から反応器11までの移送配管などが挙げられる。なお母液タンク20と洗浄排液タンク21とをまとめて母液・洗浄排液タンクとする場合には、加圧固液分離装置13や洗浄装置15から該タンクまでの移送配管や、該タンクから反応器11までの移送配管なども含まれる。
【0071】
本発明の製造方法においては、固液分離工程以降にガス排出手段を設けてガス排出を行う事が好ましい。固液分離工程以降とは、固液分離工程、洗浄工程、乾燥工程、母液や洗浄排液の再利用工程、及びこれら工程間の移送工程等を含む。芳香族カルボン酸の製造方法においては、反応器11から加圧固液分離装置13に至るまでに圧力をやや下げ、その後の洗浄、乾燥工程や母液、洗浄排液の再利用まではほぼ同程度の圧力とすることが望ましい。従って、圧力がやや下がった固液分離工程(加圧固液分離装置13)以降でガス排出を行うことで、溶解していたガスが気化した後に排出することができガス排出効果が高まる利点がある。
【0072】
なかでも、加圧固液分離装置13そのものにガス排出手段を設けることが好ましい。スラリーDに溶解していたガスが気化した後であり、かつスラリーDから直接ガスを排出することで以降の工程へのガスの悪影響も低減でき、非常に効率的である。
本発明においてガス排出手段は特に限定されないが、通常、ガス排出配管と圧力調整手段とを組みあわせて用いる。移送配管途中などの場合は、ガス排出槽を設け、更にそこからガス排出配管と圧力調整手段を設けてもよい。圧力調整手段としては、例えば圧力調整弁等が用いられる。
【0073】
または、母液タンク20及び/又は洗浄排液タンク21にガス排出手段を設けることも好ましい。タンクでの貯蔵中に気液の分離(母液や洗浄排液からのガス発生)が進むと考えられるため、これらタンクからガスを排出すると効率的であり好ましい。
ただし、ガス排出後も装置や配管の内部は所定の加圧状態を維持できることが好ましい。ガス排出の結果、圧力が大きく低下したり常圧になってしまったりすると、再加圧や乾燥のためのエネルギーが必要となるためである。即ち、工程の進行を妨げる程度のガスの蓄積を防ぐのに必要なだけのガスを排出することができれば、この発明の効果は達成される。
【0074】
また、加圧固液分離装置13から反応器11へ母液Gを移送して再利用する母液移送配管を有している場合は、この母液移送配管の途中にガス排出手段を設けてガス排出を行ってもよい。スラリーではなく溶液になっても、加圧状態にあるため大量の反応ガスが溶けており、配管途中で気化し反応器11への移送が停止してしまうことがあるためである。洗浄装置14ら反応器11へ洗浄排液Jを移送して再利用する洗浄排液移送配管を有している場合も同様に、ガス排出手段を設けてガス排出を行うことができる。
【0075】
ガス排出手段は、1箇所だけであってもよく複数箇所に設けてもよい。特に、加圧固液分離装置13でのガス排出とともに他の箇所でのガス排出を併用して行うと、ガスの蓄積を効率的に防ぐことができるのでより好ましい。
ガス排出方法は、プロセスの運転が安定的に行える限り特に限定されず、自動操作でも手動操作でもよく、常時排出しても間欠的に排出してもよく、また間欠的に排出する場合の頻度も限定されない。更に、ガスを一定量排出するのでもよいし装置や移送配管の圧力を一定に保つように排出するのでもよい。
【0076】
ただし、好ましくは装置や移送配管の圧力を所定範囲に保つように圧力調整手段を制御し、常時ガス排出を行う方法である。例えば加圧固液分離装置13にガス排出配管と圧力調整弁を設けた場合、加圧固液分離装置13内の圧力が所定範囲に収まりスラリーDの移送が滞りなく行われるように、圧力調整弁の開閉度合いを制御する。
図1に、加圧固液分離装置13、母液タンク20、洗浄排液タンク21の3箇所からガス排出を行う例を示す。加圧固液分離装置13のガス溜まりができやすい部分、例えば装置上部のいずれかの箇所にガス排出ライン22を設け、スラリーDから加圧固液分離装置排出ガスPを排出させる。また、母液タンク20のガス溜まりができやすい部分、例えばタンク上部のいずれかの箇所にガス排出ライン22を設け、母液Gから母液タンク排出ガスQを排出させる。さらに洗浄排液タンク21のガス溜まりができやすい部分、例えばタンク上部のいずれかの箇所にガス排出ライン22を設け、洗浄排液Jから洗浄排液タンク排出ガスRを排出させる。これらガスはガス排出ライン22を通り圧力調整弁23を経て圧力調整用排出ガスSとして排出される。ガス排出量は圧力調整弁23の開閉の程度により制御しうる。なお圧力調整弁23やガス排出ライン22は個々の対象に対して個別に設けてもよいが、装置の簡略化のためには共通で1つのみ設けることが好ましい。
【0077】
また加圧固液分離装置13、母液タンク20、又は洗浄排液タンク21の圧力が低くなりすぎた場合に、圧力調整用導入ガスTを圧力調整弁24を経てこれら装置へ導入し、圧力を高めることができる機構を設けてもよい。
本発明においては、反応器11及び/又は追酸化反応器11’内で生じるスラリーのガス同伴量を低減させるため、上記のように、反応器11及び/又は追酸化反応器11’から反応ガスM、M’の排出を行うことが望ましい。また本発明においては、追酸化反応器11’を設けることがより望ましい。即ち反応装置が直列に配された2以上の反応器からなることが望ましい。反応器11で生じてスラリーDに同伴されたガスが、追酸化反応器11’で発生する反応ガスM’とともにある程度排出されるため、スラリーのガス同伴量をより低減できるためである。
【0078】
また本発明においては、ガスを液体とともに排出する、即ちガスを液体ごと排出すると、ガス排出手段を別途設けることなく、通常の液体排出手段を用いてガス排出が行える点で好ましい。またガスのみを排出する場合に比べ、液体中のガスを完全に排出しやすい傾向があり好ましい。ここで液体とはスラリーや母液、洗浄排液等を含む。好ましくは固液分離工程以降の工程でガスを液体とともに排出する。
【実施例】
【0079】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
[実施例1]
図1に示す装置を用いて、アルキル芳香族化合物から芳香族カルボン酸を製造した。
まず反応器11にp−キシレンを導入し、酢酸に対し10重量%程度の水を含む溶媒中で、触媒存在下に空気酸化してテレフタル酸を生成させ、テレフタル酸と溶媒からなるスラリーを得た。p−キシレンに対する溶媒の量(重量)は約3倍程度である。空気の供給量は、凝縮器排ガスO中の酸素濃度が3〜7容量%となるように制御した。
【0080】
反応器11としては攪拌機付き反応器を用い、反応器の温度は185〜195℃、圧力は1.0〜1.7MPa(絶対圧)とし、反応時間(滞留時間)は約1時間とした。
触媒としては酢酸コバルト、酢酸マンガン及び臭化水素を用いた。重金属原子1モルに対して臭素原子は2.5モルとし、反応溶液中の重金属濃度は、コバルトが約300ppm、マンガンが約300ppmであった。
【0081】
得られたスラリーを反応器11から抜き出し追酸化反応器11’へ移送し、追酸化を1回行った。追酸化反応器11’としては攪拌機付き反応器を用い、反応器の温度は180〜194℃、圧力は0.9〜1.7MPa(絶対圧)とし、反応時間(滞留時間)は約40分〜60分とした。追酸化反応器11’への空気の供給量は、凝縮器排ガス中の酸素濃度が3〜7容量%となるように制御し、また反応器11への空気供給量の1/30(体積比)とした。
【0082】
得られたスラリーを追酸化反応器11’から抜き出し、ポンプ12によりポンプアップして、加圧固液分離洗浄乾燥装置17であるスクリーンボウルデカンターへ移送した。スラリー中には4CBAがテレフタル酸に対して約1000ppm程度含まれていた。スラリーの流量は30t/時間とした。次いでスクリーンボウルデカンターにて固液分離を行い、テレフタル酸ケーキと母液とに分離した。固液分離の圧力は0.9〜1.0MPa、温度は180〜190℃、回転速度は約2050rpmとした。母液は母液タンクに回収した後、固液分離と同程度かやや低い加圧及び高温状態を保ったまま反応器11へ移送し再利用した。
【0083】
分離されたテレフタル酸ケーキを、酢酸に対し10重量%程度の水を含む洗浄液にて洗浄し、洗浄ケーキを得た。濾過材としては金属バースクリーンを用い、洗浄時の圧力は0.9〜1.0MPa、温度は180〜190℃とした。洗浄排液は洗浄排液タンクに回収した後、一部は廃棄処理工程19へ送り廃棄し、残部を固液分離と同程度かやや低い加圧状態を保ったまま反応器11へ移送し再利用した。
【0084】
得られた洗浄ケーキを圧力0.9〜1.0MPa、約180〜190℃を保ったままケーキ保持槽に保持した後、1つのディスチャージバルブを開放して、常圧(0.101MPa)の粉体滞留槽へ抜き出し、付着液を放圧蒸発させ乾燥させ脱液ケーキとした。脱液ケーキの温度は110〜120℃であり、含液率は0.1重量%であった。
本実施例では、スクリーンボウルデカンター、母液タンク、洗浄排液タンクの3箇所からガス排出ライン22、圧力調整弁23を通じてガス排出を行った。ガス排出は常時行い、スクリーンボウルデカンター内の固液分離時の圧力が0.9〜1.0MPaの範囲を保持するよう圧力調整弁23が自動的に開閉される機構とした。
【0085】
またスクリーンボウルデカンター、母液タンク、洗浄排液タンクの圧力が低くなりすぎた場合に、圧力調整用導入ガスTを圧力調整弁24を経てこれら装置へ導入し圧力を高めることができる機構を設けた。
その結果、72時間連続で運転させても工程が停止することがなかった。
【0086】
[比較例1]
実施例1と同じ構成で、圧力調整弁23を閉じてガスが排出されないようにしたところ、3分後に工程が停止してしまった。
原因を調べた結果、スクリーンボウルデカンター内にガスが蓄積して圧力が上昇し、ポンプ12の圧力と同程度となってしまい、スラリーの移送が停止したことが分かった。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】本発明に係わる芳香族カルボン酸の製造工程を示す概念図
【図2】従来の芳香族カルボン酸の製造工程を示す概念図
【符号の説明】
【0088】
1,11 反応器
11’ 追酸化反応器
2 圧力弁
12 ポンプ
3,13 加圧固液分離装置
4,14 洗浄装置
15 加圧固液分離洗浄装置
6,16 乾燥装置
17 加圧固液分離洗浄乾燥装置
8,18 凝縮器
9,19 廃棄処理工程
20 母液タンク
21 洗浄排液タンク
22 ガス排出ライン
23、24 圧力調整弁
a,A アルキル芳香族化合物
b,B,B’ 分子状酸素含有ガス
c,C 溶媒
d,D スラリー
f,F 芳香族カルボン酸ケーキ
g,G 母液
h,H 洗浄ケーキ
i,I 洗浄液
j,J 洗浄排液
k,K 芳香族カルボン酸結晶
m,M,M’ 反応ガス
n,N 凝縮液
o,O 凝縮器排ガス
P 加圧固液分離装置排出ガス
Q 母液タンク排出ガス
R 洗浄排液タンク排出ガス
S 圧力調整用排出ガス
T 圧力調整用導入ガス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加圧状態の反応装置内において、溶媒中でアルキル芳香族化合物を酸化して芳香族カルボン酸を生成させる工程、及び
前記芳香族カルボン酸及び溶媒を含むスラリーを前記反応装置から抜き出した後、固液分離装置にて加圧状態で固液分離を行い、芳香族カルボン酸ケーキ及び母液を得る工程、を少なくとも含む芳香族カルボン酸の製造方法であって、
前記反応装置から前記スラリーとともに抜き出されたガスの排出を行うことを特徴とする、芳香族カルボン酸の製造方法。
【請求項2】
前記固液分離工程以降の工程でガスの排出を行う、請求項1に記載の芳香族カルボン酸の製造方法。
【請求項3】
少なくとも前記固液分離装置からガスの排出を行う、請求項1又は2に記載の芳香族カルボン酸の製造方法。
【請求項4】
前記固液分離装置がスクリーンボウルデカンターである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の芳香族カルボン酸の製造方法。
【請求項5】
前記母液を、加圧状態を維持したまま前記反応装置に移送する、請求項1〜4のいずれか1項に記載の芳香族カルボン酸の製造方法。
【請求項6】
前記芳香族カルボン酸ケーキを洗浄液を用いて洗浄する工程を更に含み、該洗浄工程で得られた洗浄排液を、加圧状態を維持したまま前記反応装置に移送する、請求項1〜5のいずれか1項に記載の芳香族カルボン酸の製造方法。
【請求項7】
前記母液を反応装置移送前に貯留する母液タンク、及び/又は、前記洗浄排液を反応装置移送前に貯留する洗浄排液タンクからガスの排出を行う、請求項5又は6に記載の芳香族カルボン酸の製造方法。
【請求項8】
前記ガスの排出をガス排出配管と圧力調整手段とを用いて行う、請求項1〜7のいずれか1項に記載の芳香族カルボン酸の製造方法。
【請求項9】
前記反応装置が、直列に配された2以上の反応器からなる、請求項1〜8のいずれか1項に記載の芳香族カルボン酸の製造方法。
【請求項10】
前記ガスを液体とともに排出する、請求項1〜9のいずれか1項に記載の芳香族カルボン酸の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−23957(P2009−23957A)
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−189315(P2007−189315)
【出願日】平成19年7月20日(2007.7.20)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】