説明

芳香族ポリアミド極細繊維の製造方法及び芳香族ポリアミド極細繊維

【課題】
高い安全性を有する紡糸溶液を用いて、電界紡糸法により安定的に高品質の芳香族ポリアミドからなる極細繊維を得ることができる、芳香族ポリアミド極細繊維の製造方法を提供する。また、欠点が少なく、高品質の芳香族ポリアミド極細繊維を提供する。
【解決手段】
芳香族ポリアミドからなる極細繊維の製造方法において、芳香族ポリアミドを、化学式(1)で示されるβ−アルコキシプロピオンアミド系溶剤に溶解して芳香族ポリアミド紡糸溶液とし、これを電界紡糸法により、繊維径が10〜1000nmの極細繊維に成形する。また、上記方法により製造した芳香族ポリアミド極細繊維とする。
【化1】


(式中、Rは炭素数1〜6のアルキル基を示し、R、Rはそれぞれ水素原子、又は炭素数1〜6のエーテル結合を有してもよい一価の炭化水素基を示す。ここで、炭化水素基としては直鎖状、分岐状のいずれかであってもよい。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、品質及び安全性に優れた芳香族ポリアミド極細繊維の製造方法及び芳香族ポリアミド極細繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
極細繊維を製造する方法としては、メルトブロー法、海島溶融紡糸法などが古くから知られており、溶融性ポリマーに広く適用されている。一方、芳香族ポリアミドは融点がないため上記手法を適用することが困難であるが、溶媒に溶解させた紡糸溶液を使用し、電界紡糸法によって極細繊維を得ることが可能である(特許文献1)。
【0003】
一方、芳香族ポリアミド極細繊維を得るための紡糸溶液として、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、ジメチルイミダゾリジノンなどの、アミド系極性溶媒に溶解、分散させることが一般的である。
【0004】
本発明者らは、上記紡糸溶剤を用い電界紡糸法により極細繊維を成形する検討をしてきたが、さらに高品質の芳香族ポリアミド極細繊維が得られないか検討を行った。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−170224号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記問題点を鑑みなされたもので、高い安全性を有する紡糸溶液を用いて、電界紡糸法により安定的に高品質の芳香族ポリアミドからなる極細繊維を得ることができる、芳香族ポリアミド極細繊維の製造方法を提供することにある。また、欠点が少なく、高品質の芳香族ポリアミド極細繊維を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者が鋭意検討したところ、上記課題は、以下に記載する製造方法により解決することができることを見出した。
【0008】
すなわち、本発明は、芳香族ポリアミドからなる極細繊維の製造方法であって、芳香族ポリアミドを、化学式(1)で示されるβ−アルコキシプロピオンアミド系溶剤に溶解して芳香族ポリアミド紡糸溶液とし、これを電界紡糸法により、繊維径が10〜1000nmの極細繊維に成形することを特徴とする、芳香族ポリアミド極細繊維の製造方法である。
【0009】
【化1】

(式中、Rは炭素数1〜6のアルキル基を示し、R、Rはそれぞれ水素原子、又は炭素数1〜6のエーテル結合を有してもよい一価の炭化水素基を示す。ここで、炭化水素基としては直鎖状、分岐状のいずれかであってもよい。)
また、上記の芳香族ポリアミド極細繊維の製造法により製造された芳香族ポリアミド極細繊維である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、前記β−アルコキシプロピオンアミド系溶剤の芳香族ポリアミド紡糸溶液を用いることにより、安全かつ安定的に、品質の良い芳香族ポリアミド極細繊維を製造することが可能となり、幅広い産業分野、特に電気電子分野において有用な極細繊維を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、芳香族ポリアミドからなる極細繊維の製造方法である。本発明で用いる芳香族ポリアミドとは、芳香族ジカルボン酸成分と芳香族ジアミン成分、もしくは芳香族アミノカルボン酸成分から構成される芳香族ポリアミド、又は、これらの芳香族共重合ポリアミドからなるポリマーであり、例えばポリパラフェニレンテレフタルアミド、コポリパラフェニレン・3,4‘−オキシジフェニレンテレフタルアミド、ポリメタフェニレンイソフタルアミドなどが例示できるが、これらに限定されるものではない。
【0012】
本発明においては、上記芳香族ポリアミドを、化学式(1)で示されるβ−アルコキシプロピオンアミド系溶剤に溶解して芳香族ポリアミド紡糸溶液とし、これを電界紡糸法により、繊維径が10〜1000nmの極細繊維に成形することが肝要である。これにより、安全かつ安定的に、品質の良い芳香族ポリアミド極細繊維を製造することが可能となる。
【0013】
【化2】

(式中、Rは炭素数1〜6のアルキル基を示し、R、Rはそれぞれ水素原子、又は炭素数1〜6のエーテル結合を有してもよい一価の炭化水素基を示す。ここで、炭化水素基としては直鎖状、分岐状のいずれかであってもよい。)
【0014】
本発明におけるβ−アルコキシプロピオンアミド系溶剤としては、以下のものが好適に例示される。すなわち、β−メトキシプロピオンアミド、β−メトキシ−N−メチルプロピオンアミド、β−メトキシ−N,N−ジメチルプロピオンアミド、β−メトキシ−N−エチルプロピオンアミド、β−メトキシ−N,N−ジエチルプロピオンアミド、β−メトキシ−(N−プロピル)プロピオンアミド、β−メトキシ−(N,N−ジプロピル)プロピオンアミド、β−メトキシ−N−ブチルプロピオンアミド、βメトキシ−N,N−ジブチルプロピオンアミド、1−(β−メトキシプロピオニル)ピロリジン、β−メトキシ−1−(β−メトキシプロピオニル)ピペリジン、4−(β−メトキシプロピオニル)モルホリンなどが挙げられる。
【0015】
上記の芳香族ポリアミドとβ−アルコキシプロピオンアミド系溶剤からなる紡糸溶液を調整し、該紡糸溶液を用いた電界紡糸法により芳香族ポリアミド極細繊維を成形する手段としては、例えば特開2008−303521号公報を参考とすることができる。得られる極細繊維の繊維径は印加電圧、溶液濃度、スプレーの飛散距離等に依存し、これらの条件を調整することで任意の繊維径とすることができる。
【0016】
具体的には、芳香族ポリアミドとβ−アルコキシプロピオンアミド系溶剤とを1:99〜20:80の重量比で溶解させたポリマー溶液を調製し、5〜70kVの電圧下で、紡糸距離を5.0〜50cmとし、単位距離あたりの電圧に換算すると0.5〜7.0kv/cmとして電界紡糸を行うことにより前述した繊維径を有する芳香族ポリアミド極細繊維を作製することができる。
【0017】
また、紡糸溶液の安定性付与など、必要に応じ、アルカリ金属塩及び/又はアルカリ土類金属塩を、全芳香族ポリアミドポリマーを含む紡糸溶液に対し、0.05〜5重量%含んでいても良い。
【0018】
紡糸溶液の供給は、ノズルや口金から押し出す方法や、紡糸溶液中に浸した円盤やドラムに、必要量となるように紡糸溶液を付着させ、連続回転させることにより供給する方法が挙げられる。
【0019】
電界紡糸法においては、テイラーコーンを成形することが重要であり、これにより紡糸の安定性や紡糸量を向上させることができる。従来の例えばNMPを溶媒とした場合でも極細繊維を成形することが可能であるが、β−アルコキシプロピオンアミド系溶剤はNMPと比較して表面張力が低いため、紡糸の安定性や吐糸量が向上し、欠点量、つまりポリマー塊の発生を低減することができ極めて有用である。
【0020】
以上に説明したように、本発明の製造方法により製造された芳香族ポリアミド極細繊維は、欠点量、つまりポリマー塊の発生がほとんどなく極めて品質に優れた極細繊維となる。
【0021】
上記芳香族ポリアミド極細繊維の繊維径は、10〜1000nmである必要があるが、好ましくは50〜500nm、より好ましくは100〜300nmである。繊維径が10nm未満であると得られる強力が著しく低下するために取扱い性に劣り、一方、極細繊維の繊維径が1000nmを越えると、極細繊維特有の効果、例えばスリップフロー、サブミクロンダスト捕集効率などが発現できなくなる。
【0022】
上記芳香族ポリアミド極細繊維は、高品質であり、幅広い産業分野、特に、電気電子部品、フィルター、制振材等の分野において有用な極細繊維を提供することが可能となり、以下詳細に説明する。
【0023】
上記芳香族ポリアミド極細繊維は、電気電子部品として好適に用いることができ、例えば、該芳香族ポリアミド極細繊維を含む不織布形態として、電気電子部品用セパレータとしてその性能を発揮する。すなわち、該セパレータは、本発明の欠点の極めて少ない高品質の芳香族ポリアミド極細繊維が含まれていることから、電気・電子部品中の内部抵抗を低下させ、効率的に高いエネルギー密度を得ることができ、さらに薄葉であっても高い空隙率を有するため、電解液保液性を確保することができる。
【0024】
上記芳香族ポリアミド極細繊維の不織布をセパレータに用いる場合は、不織布の目付けは、好ましくは1.0〜30.0g/m、より好ましくは5.0〜20.0g/mである。目付けが1.0g/m未満であると、内部短絡が頻発し、極細繊維同士の接点が減ってセパレータの強度が低下する傾向にあり好ましくない。一方、上記目付けが、30.0g/mを超えると、内部抵抗値が上がりやすくなるため、好ましくない。
【0025】
また、上記セパレータは、上記芳香族ポリアミド極細繊維の不織布(不織布Aと称することがある)と、芳香族ポリアミドフィブリッドまたは芳香族ポリアミドパルプを含む不織布(不織布Bと称することがある)とを積層した複合構造体としてもよい。
【0026】
このように複合構造体とする場合は、不織布Aの目付けは、好ましくは0.1〜10.0g/m、より好ましくは0.1〜5.0g/m、さらに好ましくは0.4〜3.0g/mである。目付けが0.1g/m未満であると、内部短絡が頻発し、不織布Bとの接触面積が激減することから好ましくない。一方、上記目付けが、10.0g/mを超えると、内部抵抗値が上がりやすくなるため、好ましくない。
【0027】
なお、前記の芳香族ポリアミドフィブリッドとは、特公昭37−5732公報で開示されているようなフィルム状の粒子を指し、芳香族ポリアミドパルプとは、特許第3202597号公報で開示されているような幅広い繊維径を有するパルプ状短繊維である。いずれも不織布成形の際に、フロック(塊状になっている繊維)と組み合わせて使用され、フィブリッド、パルプはバインダーとして優れた機能を有し、セパレータに必要な電気特性も発現することが可能である。
【0028】
不織布Bの製造方法としては、それ自体既知の方法、例えば、芳香族ポリアミドフィブリッドおよび芳香族ポリアミドフロックを乾式ブレンドした後、気流を利用してシートを形成する乾式抄造法、熱可塑性ポリマーパルプと芳香族ポリアミドフロックおよび芳香族ポリアミドフロックを液体媒体中で分散混合した後、網またはベルト上に吐出していシート化し、液体を除いて乾燥する湿式抄造法などを適用することができるが、これらのなかでも水を媒体として使用する、いわゆる湿式抄造法が好適である。
【0029】
さらに、不織布Bの構成材料が芳香族ポリアミドであることは、本質的に耐熱性、難燃性などの優れた特性を備えていることや、比重が1.4程度と小さく軽量であるため電気・電子部品の導電部材間の隔離壁として好ましく用いることができる等、種々の優れた特性を有している。
【0030】
不織布Bの目付けは、好ましくは5〜25g/m、より好ましくは8〜15g/mである。目付けが5g/m未満であると、内部抵抗が頻発するため好ましくなく、25g/mを超えると、電解液保持性が低くなり、内部抵抗値が上昇するため、好ましくない。
【0031】
複合構造体の目付けは、好ましくは5.1〜30g/m、より好ましくは8〜20g/mである。また、複合構造体の平均厚さは、好ましくは5〜30μm、より好ましくは10〜20μmである。複合構造体の、目付けが5.1g/m未満、平均厚さが5μm未満では、電子部材加工に必要な強度が不十分であったり、内部短絡を頻発したりして、セパレータとして好ましくない。また、目付けが30g/mより大きく、平均厚さが30μmより大きいと、後述する電池用セパレータのイオン導電度を示す指標であるマクミラン数15以下でかつマクミラン数×複合構造体の平均厚さが250μm以下である複合構造体を得ることが困難となる。
【0032】
本発明においては、不織布Aには、芳香族ポリアミド極細繊維が繊維形状を有している部分と、複数の芳香族ポリアミド極細繊維が軟化して一体化しフィルム形状を有している部分とが存在し、該フィルム形状を有している部分と、他方の層を構成する不織布Bとが少なくとも一部において接合一体化していることが好ましい。これにより、不織布Aと不織布Bとの密着性が向上し、層間の剥離が起こりにくい。また、不織布Aの密度が向上して電極間の遮蔽性も高くなる。
【0033】
なおここで、フィルム形状とは、複数の極細繊維が軟化して一体化し、繊維形状を留めず、表面がフィルムのように平滑となっている状態をいい、該フィルム形状は厚み斑があっても空隙を有していてもよい。
【0034】
不織布Aに、芳香族ポリアミド極細繊維が繊維形状を有している部分と、フィルム形状を有している部分とが存在する前記複合構造体を製造するには、不織布Aと不織布Bとからなる複合構造体を、温度が30〜350℃、線圧が50〜300kgf/cmの加熱加圧処理を施すことにより製造することができる。上記加熱加圧処理の条件において、温度は100〜350℃、線圧は150〜300kgf/cmであることがより好ましい。ここで、加熱温度および加圧力が低すぎると、極細繊維間の接着力が弱くなり、一方、加熱温度および加圧力が高すぎると不織布Aを構成する繊維同士または不織布Bを構成する繊維同士が融着などを起こして目が潰れるなどし、電解液保持性が悪くなったり、内部抵抗値があがり易くなったりするため、好ましくない。
【0035】
また、上記の加熱加圧処理を施すことにより、不織布Aと不織布Bとの密着性が向上し、加工性が向上する。さらに、不織布Aの密度が向上し、電極間の遮蔽性も高くなることから、電気・電子部品中の導電部材間の隔壁として利用することができ、同時に不織布Bへの不織布Aの密着性が向上するため、良好な取扱い性を提供することもできる。
【0036】
以上に説明した芳香族ポリアミド極細繊維の不織布A単独、あるいは、該不織布Aおよび芳香族ポリアミドフィブリッドまたは芳香族ポリアミドパルプを含む不織布Bからなる複合構造体は、内部抵抗値が著しく上昇することなく、高空隙率を有し、かつ薄葉でも内部短絡を防止することが可能であることから、電子部品用セパレータとしてそのまま好ましく用いることができる。
【0037】
また、本発明のセパレータを使用した電池、コンデンサーなどの電気・電子部品は、耐熱性を有し、かつ薄葉であるため、電気自動車などの大電流環境下で有利に使用することができる。
【0038】
上記セパレータにおいては、透気度が、JIS P8117ガーレー試験機法で測定して、100秒/100cc以下、特に50秒/100cc以下であることが好ましい。100秒/100ccを超えるセパレータは、電解液をセパレータに含浸浸透させる場合に、十分な浸透充填が達成できない可能性があり、内部抵抗が高くなる可能性があることから好ましくない。
【0039】
セパレータのマクミラン数は、好ましくは15以下、より好ましく10以下である。また、マクミラン数×セパレータの平均厚さは、好ましくは250μm以下、より好ましくは200μm以下である。ここで、マクミラン数は電池用セパレータのイオン導電度を示す指標であり、セパレータに電解液を含浸させたときのインピーダンスと電解液のみのインピーダンスとの比であることから、内部抵抗の指標として使用することができ、低いほど好ましい。ここでは25℃において測定されたマクミラン数を採用している。
【0040】
本発明においては、30℃から昇温速度10℃/分で昇温したときの250℃におけるセパレータの縦方向及び横方向の寸法変化率はいずれも好ましくは5%未満であり、さらに好ましくは3%未満である。複合構造体の寸法変化としては昇温により収縮する場合と伸長する場合が有り得るが、寸法変化率が5%を超えると、セパレータが、収縮した場合には短絡を生じやすくなり、伸張した場合には繊維構造体に疎と密の部分が生じて、疎の部分にイオン透過が集中して負荷がかかりやすくなるため、好ましくない。
【0041】
また、セパレータの200℃にて1時間加熱した際の透気度の変化率は好ましくは5%未満であり、より好ましくは3%未満である。透気度は、前述したJIS P8117ガーレー試験機法に準じて測定した数値を指すが、数値が増加することは密な構造、数値が減少することは、疎な構造に変化していることを意味する。透気度の数値が5%を超えて上昇、すなわち密な構造となると、内部抵抗が上昇するため好ましくない。一方、透気度の数値が5%を越えて減少し、疎な構造となると、極細繊維の破損する割合が高くなり、短絡防止の効果が低下するため好ましくない。
【0042】
また、従来のセパレータには、電池内部温度が上昇した場合、セパレータが平面形態を保持することができず、また、セパレータ端部においても電極接触の機会が増えるため、十分な短絡防止作用が得られないといった課題が有ったが、本発明の電気電子部品用セパレータは、寸法変化率、前記の透気度の変化率を同時に満足し、高い性能を有している。
【0043】
また、前記芳香族ポリアミド極細繊維は、不織布形態として、気体および液体のろ過に使用するフィルターとして用いることができる。つまり、該フィルターは、本発明の欠点の極めて少ない高品質の芳香族ポリアミド極細繊維を含むことから、捕集効率が良好でありながら圧力損失が低いといった優れた性能を有しており、さらに耐熱性にも優れているため、広い分野に応用することができる。
【0044】
フィルターの用途によっても異なるが、目付けは、0.1〜30.0g/mが好ましく、1.0〜30.0g/mがより好ましい。上記目付けが、0.1g/m未満では十分な選択透過性が得られないだけでなく、取扱いも難しくなり、一方、30.0g/mを超えると圧力損失が高くなる傾向にあり好ましくない。
【0045】
また、芳香族ポリアミド極細繊維は、基材上に積層して複合体の形態としてフィルターに用いることもできる。
【0046】
上記基材としては、本発明において基材は、織物、編物、不織布など例示することができる。また、これらを構成する繊維は、合成繊維であっても天然繊維または無機繊維であっても良い。天然繊維としては、セルロース繊維、タンパク質繊維など、無機繊維としては、ガラス繊維、炭素繊維、スチール繊維などが挙げられる。合成繊維としては、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維などのポリオレフィン系繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維、ポリブチレンテレフタレート繊維、ポリエチレンナフタレート繊維などのポリエステル繊維、ナイロン6繊維、ナイロン66繊維などの脂肪族ポリアミド系繊維、ポリアクリロニトリル繊維、芳香族ポリアミド繊維などが挙げられる。
【0047】
上記複合体においては、全芳香族ポリアミド極細繊維の一部が溶融または軟化してフィルム状となって基材と接合していてもよい。このような形態を有する制振複合材は、芳香族ポリアミド極細繊維を基材に積層した後、これに加熱加圧処理を施すことによって得られ、該複合体は、芳香族ポリアミド極細繊維と基材がより密着し、加工性に優れ、使用寿命も向上する。
【0048】
さらに、前述した芳香族ポリアミド極細繊維の一部が溶融または軟化してフィルム形状となり基材と接合している部分が存在する制振複合材は、例えば、基材上に芳香族ポリアミド極細繊維を積層体とした後、これに、カレンダー加工装置、エンボス加工装置等により、加熱加圧処理を施すことにより製造することができる。
【0049】
さらに、前記芳香族ポリアミド極細繊維は、不織布形態として、制振材にも適している。すなわち、該制振材または後述する制振複合材は、本発明の欠点の極めて少ない高品質の芳香族ポリアミド極細繊維を含むことから、その広い比表面積が振動エネルギーを極細繊維全体、または該極細繊維を基材に積層してなる制振複合材の場合は基材にも、効率的に伝達することができ、高い制振性を発揮する。
【0050】
芳香族ポリアミド極細繊維からなる不織布を制振材に用いる場合、その目付けは、0.5〜30.0g/mが好ましく、0.5〜10.0g/mがより好ましく、0.8〜5.0g/mがさらに好ましい。上記目付けが、0.5g/m未満では十分な制振性が得られないだけでなく、取扱いも難しくなり、一方、30.0g/mを超えても制振性の向上効果が大きくなく好ましくない。
【0051】
また、上記全芳香族ポリアミド極細繊維を、繊維径が0.5〜30μmの繊維よりなる織物、編物、乾式不織布、湿式不織布、あるいはフィルムのうち少なくとも1種からなる基材上に積層した制振複合材としてもよい。
【0052】
該基材は使用される制振用途によって選択することができ、例えばスピーカー用ダンパーには、全芳香族ポリアミド繊維、アクリル繊維、綿繊維などの織物を好ましく用いることができる。上記以外にも、織物等に用いる繊維を構成するポリマー、および、フィルムを構成するポリマーとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリ乳酸などのポリエステル系、ナイロンなどのポリアミド系、ポリプロピレン、ポリエチレンなどのポリオレフィン系なども使用することができる。
【0053】
上記基材の目付けは、50〜400g/mが好ましく、100〜300g/mがより好ましい。該目付けが、50g/m未満では強度が低下し、一方、200g/mを超えると、制振性が低下する傾向にある。
【0054】
本発明においては、上記制振複合材においては、芳香族ポリアミド極細繊維の重量は、基材重量に対して好ましくは0.1〜5重量%、より好ましくは0.3〜5重量%であり、かかる重量比率とすることでこれを音響部材、特にスピーカー用ダンパーとして用いて良好な音響効果(損失係数)が得られる。
【0055】
上記制振複合材においては、全芳香族ポリアミド極細繊維の一部が溶融または軟化してフィルム状となって基材と接合していてもよい。このような形態を有する制振複合材は、芳香族ポリアミド極細繊維を基材に積層した後、これに加熱加圧処理を施すことによって得られ、該制振複合材は、芳香族ポリアミド極細繊維と基材がより密着し、加工性に優れ、使用寿命も向上する。
【0056】
さらに、前述した芳香族ポリアミド極細繊維の一部が溶融または軟化してフィルム形状となり基材と接合している部分が存在する制振複合材は、例えば、基材上に芳香族ポリアミド極細繊維を積層体した後、これに、カレンダー加工装置、エンボス加工装置等により、温度30〜350℃、線圧50〜300kgf/cmとして加熱加圧処理を施すことにより製造することができる。
【0057】
本発明の制振材および制振複合材は、音響部材に適しており、特に本発明の制振複合材は、ピーカー用ダンパーに適している。具体的効果としては、芳香族ポリアミド極細繊維を積層した制振複合材は、JIS G0602−1993により測定する損失係数を、基材単体に対し10%以上向上させることが可能である。
【0058】
制振性複合材をピーカー用ダンパーに用いる場合、基材、または、基材およびナノファイバーに樹脂が含浸されていてもよい。該樹脂としては、フェノール樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂等を用いることができる。
【0059】
本発明の制振材および制振複合材は、用途に応じて2層以上、好ましくは2〜10層積層して用いてよく、その際上記のように樹脂を含浸し加熱加圧処理を行い、これらを一体化した成形体とするのが好ましい。
【実施例】
【0060】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに詳細に説明する。しかし、以下の例によって、本発明が限定されることはない。
(1)繊維径
芳香族ポリアミド極細繊維を任意に100本サンプリングし、走査型電子顕微鏡JSM6330F(JEOL社製)にて測定し、繊維径の平均値を求めた。なお測定は、30,000倍の倍率で行った。
(2)欠点数(ポリマー塊数)
芳香族ポリアミド極細繊維の積層表面を任意に10ヶ所サンプリングし、走査型電子顕微鏡JSM6330F(JEOL社製)にて測定し、ビーズの長軸方向について1μmを超えるポリマー塊の数を数え、平均値を算出した。なお測定は、1,000倍の倍率で行い、約90×120μmの視野であった。
【0061】
<セパレータ性能評価>
(1)透気度
JIS P8117に従って測定した。
(2)マクミラン数
得られた複合構造体を200mmφに切り出し、2枚のSUS電極に挟み、10kHzでの交流インピーダンスから算出した伝導度で電解液のイオン伝導度を除し、算出する。電解液は1M LiBFEC/PCを重量比で1/1に調整したものを用い、測定温度は25℃とする。この数値が低いほど、イオン透過が良く好ましい。
(3)複合構造体の平均厚さ
ONO SOKKI DG−925 ディジタルリニアゲージを用い、任意に選択した20箇所において厚さを測定し、平均値を求めた。
(4)寸法変化率
得られた複合構造体から任意に10ヶ所選んで、縦、横方向にそれぞれ5mm×25mmの試験片を切り出して用い、TMA4000SA(Bruker AXS社製)により、試験長20mm、荷重2g、昇温速度10℃/分として、30℃から昇温しながら試験長20mmに対する寸法変化率(%)を連続して測定し、表1には250℃における寸法変化率(%)を示した。
(5)透気度変化率
得られた複合構造体を20cm×20cmに切り出し、200℃に設定した乾燥機に、その壁面に複合構造体が接触しないように吊り下げた状態で、1時間加熱処理を実施し、前記(1)と同様にして透気度を測定した。さらに、加熱処理前後の透気度差の、加熱処理前の透気度に対する変化率を算出した。
【0062】
<フィルター性能評価>
芳香族ポリアミド極細繊維を、平均繊維径25μm、目付け50g/mのポリプロピレンからなるスパンボンド不織布に乗せて積層体とし、この積層体を100mm×100mmに切り出し、0.3μmのNaCl粒子の試験用粉塵含有空気を面速度5.3cm/sになるように調整し、フィルター前後の圧力差(圧力損失)を微差圧計にて測定し、さらに積層体の上流側および下流側におけるNaCl粒子濃度CINおよびCOUTを、それぞれパーティクルカウンタによって測定し、下記式によって捕集効率を求めた。フィルターとして使用する際には、圧力損失は低い方が好ましく、捕集効率は高い方が好ましい。
捕集効率(%)=(1−CIN/COUT)×100
【0063】
<制振材性能評価>
(1)損失係数および損失係数上昇率
JIS G0602−1993片端固定打撃加振法に準拠して実施した。試験片を10mm×45mmにカットし、任意に測定用サンプルを5枚選んだ。サンプルの片端をサンプル台に固定し、開放されている片端に与えるインパクトによって生じる振幅をCCDレーザー変異計、FFTアナライザに取り込み、解析した。なお、損失係数ηは下記式にて算出した。
Λ=log(X/X)=1/nlog(X/X
Λ:対数減衰率、X:振幅歪、X:n番目の振幅歪
η=Λ/π
制振複合材サンプルおよび基材のみについて上記損失係数を測定、基材のみの損失係数(比較例1)に対する上昇率を下記式から算出した。
損失係数上昇率[%]=(サンプルの損失係数/基材のみの損失係数)×100
【0064】
[実施例1]
特公昭47−10863号公報実施例1記載の方法に準じ、界面重合法によりメタ型芳香族ポリアミドを主成分とする芳香族ポリアミド粉末状体を製造した。得られた芳香族ポリアミド粉末状体、溶媒β−メトキシ−N,N−ジメチルプロピオンアミドを13:87の重量比で溶解させたポリマー溶液を調製した。この紡糸溶液を電解紡糸法にて印加電圧20kV下にて芳香族ポリアミド極細繊維を30分間成形した。結果を表1に示す。
【0065】
[比較例1]
溶媒にNMPを使用した以外は、実施例1と同様にして芳香族ポリアミド極細繊維を得た。結果を表1に示す。
【0066】
【表1】

【0067】
[実施例2]
特許第3202597号公報に準じ、メタ型芳香族ポリアミドパルプを作製した。得られたメタ型芳香族ポリアミドパルプを、水1.5Lとともに公知の離解機にて離解し、25×25cm角のTAPPI式手漉きマシーンを用いて抄造した。さらに120℃で5時間乾燥させて湿式不織布を得た。その後、得られた湿式不織布に、上ローラが金属製加熱フラットローラ、下ローラが金属製フラットローラであるカレンダー装置により、上下ローラの温度を330℃、線圧を300kgf/cmとして1回目のカレンダー加工を施し、さらに、上下ローラの温度を250℃、線圧を300kgf/cmとして2回目のカレンダー加工を施し、メタ型芳香族ポリアミドパルプからなる目付け10g/mの不織布を得た。
また、実施例1と同様にして芳香族ポリアミド極細繊維を成形し、成形時間を調整し目付が0.6g/mとなるように、上記のメタ型芳香族ポリアミドパルプからなる不織布上に積層させ、平均厚さ20μmの複合構造体を得た。得られた複合構造体を用い、セパレータとしての性能評価を行った。結果を表2に示す。寸法変化率は縦方向、横方向何れも1%未満、透気度変化率は1%未満であった。
【0068】
[比較例2]
比較例1と同様に溶媒としてNMPを使用した以外は、実施例2と同様にして芳香族ポリアミド極細繊維を成形し、複合構造体を得、セパレータとしての性能評価を行った。結果を表2に示す。寸法変化率は縦方向、横方向何れも1%未満、透気度変化率は1%未満であった。
【0069】
【表2】

【0070】
[実施例3]
前記フィルター性能評価に記載したように、平均繊維径25μm、目付け50g/mのポリプロピレンからなるスパンボンド不織布の基材上に、実施例1と同様にして芳香族ポリアミド極細繊維を成形して積層して積層体を得、フィルター性能を評価した。結果を表3に示す。
【0071】
[比較例3]
比較例1と同様に溶媒としてNMPを使用した以外は、実施例3と同様にして芳香族ポリアミド極細繊維を成形し、積層体を得、フィルター性能を評価した。結果を表3に示す。
【0072】
【表3】

【0073】
[実施例4]
帝人テクノプロダクツ(株)製コーネックス紡績糸20番手(単繊維断面直径15μm)からなる目付けが163g/mの織物にフェノール樹脂含浸し、目付けが175g/mの基材を作成した。
【0074】
上記基材上に、実施例1と同様にして芳香族ポリアミド極細繊維を成形して積層し、積層体を得た。得られた積層体を5枚重ねて、プレス機にて250℃、150kgf/cmにて加熱加圧処理を行い、制振複合材を得た。極細繊維の目付けは成形時間を調整し1.0g/mとした。結果を表4に示す。
【0075】
また、上記積層体を重ねず1枚のみ用いて同様の条件で加熱加圧処理を行って制振複合材を成形し、得られた制振複合材から直径80mmのスピーカー用ダンパーを切り出し、これを用いてスピーカーを作成し試聴を行ったが、音質は比較例5より明瞭であった。
【0076】
[比較例4]
比較例1と同様に溶媒としてNMPを使用した以外は、実施例4と同様にして芳香族ポリアミド極細繊維を成形し、制振複合材を得た。結果を表4に示す。また、実施例1と同様にスピーカーを作成し試聴を行ったが、音質は比較例5より明瞭であったが、実施例4より若干劣っていた。
【0077】
[比較例5]
全芳香族ポリアミド極細繊維を積層せず、基材のみを用いた以外は、実施例4と同様にして制振材を得た。結果を表4に示す。また、実施例4と同様にスピーカーを作成し試聴を行い、これを基準として実施例4、比較例4の音質を比較した。
【0078】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明によれば、安全かつ安定的に、品質の良い芳香族ポリアミド極細繊維を成形することができる。このため、上記製造法によれば、欠点が極めて少なく高品質の芳香族ポリアミド極細繊維が得られ、フィルター、電気電子部品、制振材といった幅広い分野に用い、優れた性能を発揮する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ポリアミドからなる極細繊維の製造方法であって、芳香族ポリアミドを、化学式(1)で示されるβ−アルコキシプロピオンアミド系溶剤に溶解して芳香族ポリアミド紡糸溶液とし、これを電界紡糸法により、繊維径が10〜1000nmの極細繊維に成形することを特徴とする、芳香族ポリアミド極細繊維の製造方法。
【化1】

(式中、Rは炭素数1〜6のアルキル基を示し、R、Rはそれぞれ水素原子、又は炭素数1〜6のエーテル結合を有してもよい一価の炭化水素基を示す。ここで、炭化水素基としては直鎖状、分岐状のいずれかであってもよい。)
【請求項2】
請求項1に記載の芳香族ポリアミド極細繊維の製造法により製造された芳香族ポリアミド極細繊維。
【請求項3】
請求項2記載の芳香族ポリアミド極細繊維を含む電気電子部品。
【請求項4】
請求項2記載の芳香族ポリアミド極細繊維を含むフィルター。
【請求項5】
請求項2記載の芳香族ポリアミド極細繊維を含む制振材。

【公開番号】特開2011−184815(P2011−184815A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−49201(P2010−49201)
【出願日】平成22年3月5日(2010.3.5)
【出願人】(303013268)帝人テクノプロダクツ株式会社 (504)
【Fターム(参考)】