説明

芳香族ポリアミド溶液およびそれからなる樹脂組成物

【課題】芳香族ポリアミドを容易に溶解し、さらには安全に取り扱うことの出来る溶液を提供すること。
【解決手段】芳香族ポリアミドとβ−アルコキシプロピオンアミド系溶剤を含む芳香族ポリアミド溶液を製造し、該溶液から樹脂組成物を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、品質及び安全性に優れた芳香族ポリアミド繊維、フィルム、テープ、フィブリッド、パウダーなどを製造するための芳香族ポリアミド溶液を提供するためのものである。
【背景技術】
【0002】
芳香族ポリアミド繊維等を製造する方法としては、芳香族ポリアミドを溶媒に溶解した紡糸原液を無機塩水溶液の凝固液中に押し出し、凝固させた糸条を引き出した後に水洗、延伸、熱処理する方法(特公昭48−17551号公報)、あるいは、エレクトロスピニング(電界紡糸)法により、該紡糸原液を、ノズルから押し出すとともに、押し出した紡糸溶液に電界を作用させて、極細繊維化する方法(特開2007−170224号公報)、さらには、該紡糸原液を水系凝固液中に導入した後、攪拌等のせん断力下、凝固させることによって得られた芳香族ポリアミドの含水生成物を叩解処理してフィブリル繊維を得る方法(特開2008−255550号公報)などが例示されている。
【0003】
上記の方法はいずれも芳香族ポリアミドをN,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルイミダゾリジノンなどのアミド系極性溶媒に溶解・分散させることが一般的である。これらアミド系極性溶媒は、芳香族ポリアミドの良溶媒であると同時に、凝固浴として一般的に用いられる金属塩水溶液にも任意の割合にて混合・溶解するため、紡糸原液調整用の溶媒として好ましく用いられる。なかでもN−メチル−2−ピロリドン(NMP)、N,N−ジメチルアセトアミドが芳香族ポリアミドの溶解性が良好で好ましく用いられている。また、近年の報告により、一部のアミド溶媒について、ウサギの皮膚を用いた試験結果より皮膚に対する刺激性があることが明らかとなってきた。このため、より安全で洗浄効率の高い紡糸溶液系を構築することには、非常に高い関心、要望があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公昭48−17551号公報
【特許文献2】特開2007−170224号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
我々発明者は、上記のような背景を受けて、芳香族ポリアミドを容易に溶解し、さらには安全に取り扱うことの出来る溶媒を発見することに着手した。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、芳香族ポリアミドを容易に溶解し、さらには安全に取り扱うことの出来る溶液として以下を提案する。すなわち、芳香族ポリアミドと化学式(1)で示されるβ−アルコキシプロピオンアミド系溶剤を含む芳香族ポリアミドの溶液である。
【0007】
【化1】

(式中、Rは炭素数1〜6のアルキル基を示し、R、Rはそれぞれ水素原子、又は炭素数1〜6のエーテル結合を有してもよい一価の炭化水素基を示す。ここで、炭化水素基としては直鎖状、分岐状のいずれであってもよい。)
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、芳香族ポリアミドを容易に溶解し、さらには安全に取り扱うことの出来る溶液を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明における芳香族ポリアミドとは、芳香族ジカルボン酸成分と芳香族ジアミン成分、もしくは芳香族アミノカルボン酸成分から構成される芳香族ポリアミド、又はこれらの芳香族共重合ポリアミドからなるポリマーであり、例えばポリパラフェニレンテレフタルアミド、コポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミド、ポリメタフェニレンイソフタルアミドなどが例示できるがこれらに限定されるものではない。
【0010】
本発明におけるβ―アルコキシプロピオンアミド類としては、以下のものが好適に例示される。すなわち、β―メトキシプロピオンアミド、β―メトキシ−N―メチルプロピオンアミド、β−メトキシ−N,N−ジメチルプロピオンアミド、β−メトキシ−N−エチルプロピオンアミド、β―メトキシ−N,N−ジエチルプロピオンアミド、β―メトキシ−(N−プロピル)プロピオンアミド、β−メトキシ−(N,N−ジプロピル)プロピオンアミド、β−メトキシ−N−ブチルプロピオンアミド、βメトキシ−N,N−ジブチルプロピオンアミド、1−(β−メトキシプロピオニル)ピロリジン、β−メトキシ−1−(β―メトキシプロピオニル)ピペリジン、4−(β−メトキシプロピオニル)モルホリンなどが挙げられる。
【0011】
本発明の芳香族ポリアミド溶液には、必要に応じて溶液の安定性を向上させるために各種金属塩、または/および性能向上のための難燃剤、着色剤、艶消剤、耐光剤、導電剤などの添加剤が含有されていても良い。
【0012】
本発明における樹脂組成物とは、繊維、フィルム、テープ、フィブリッド、またはパウダーを指す。芳香族ポリアミド繊維を製造する方法としては、前述のように芳香族ポリアミドを溶媒に溶解した紡糸原液を無機塩水溶液の凝固液中に押し出し、凝固させた糸条を引き出した後に水洗、延伸、熱処理する方法、あるいは、エレクトロスピニング法により、該紡糸原液に電界を作用させて、極細繊維化する方法、さらには、該紡糸原液を水系凝固液中に導入した後、攪拌等のせん断下、凝固させることによって得られた芳香族ポリアミドの含水生成物を叩解処理してフィブリル繊維を得る方法など、特に限定されることなく使用できる。
【実施例】
【0013】
以下、実施例により、本発明を更に具体的に説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限られるものではない。実施例における各項目は次の方法で測定した。
(1)<固有粘度(IV)>
ポリマー0.5gをNMP100mlに溶解し、オストワルド粘度計を用い30℃で測定した。
(2)<繊度>
JIS−L−1015に準拠し測定した。
(3)<強度、伸度>
JIS−L−1015に準拠し、試料長20mm、初荷重0.44mN/dTex、伸張速度20mm/分にて測定した。
(4)<難燃性>
JIS−K−7201のLOI測定法に準拠して、LOI値を求めた。
【0014】
[実施例1]
IV=1.9のポリメタフェニレンイソフタルアミド18重量%をβ−メトキシ−N,N−ジメチルプロピオンアミド82重量%に混合し−5℃に冷却した溶液とした後、攪拌しながら60℃まで加温、溶解させ紡糸溶液(ポリマー濃度18重量%)を得た。
このポリマー溶液を85℃に加温して紡糸原液とし、孔径0.07mm、孔数1500の紡糸口金から85℃の凝固浴中に吐出して紡糸した。この凝固浴の組成は、塩化カルシウムを40重量%、β−メトキシ−N,N−ジメチルプロピオンアミドを5重量%含み、残り55重量%が水である。紡糸糸条をこの凝固浴中に浸漬長(有効凝固浴長)30cmにて糸速7.0m/分で通過させた後、いったん空気中に引き出した。この凝固糸条を水温25℃、45℃、70℃の三段階の水洗浴を通して繊維中の残存溶媒を除去した。
水洗後の糸条を引続き98℃の温水中で段階的に4.45倍に延伸し、更に70℃の乾燥ローラを通して乾燥した後、200℃の熱ローラで予熱し、次いで340℃のローラで熱セットし目的のポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維を得た。
【0015】
[比較例1]
溶剤にNMPを用いた以外は実施例と同様の処理を行い、延伸トウを得た。
結果を表1に示す。
【0016】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0017】
本発明によれば、芳香族ポリアミドを容易に溶解し、さらには安全に取り扱うことの出来る溶液を提供することができ、樹脂組成物、例えば、フィルム、テープ、フィブリッド、またはパウダーなどが好適に製造できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ポリアミドと化学式(1)で示されるβ−アルコキシプロピオンアミド系溶剤を含むことを特徴とする芳香族ポリアミド溶液。
【化1】

(式中、Rは炭素数1〜6のアルキル基を示し、R、Rはそれぞれ水素原子、又は炭素数1〜6のエーテル結合を有してもよい一価の炭化水素基を示す。ここで、炭化水素基としては直鎖状、分岐状のいずれであってもよい。)
【請求項2】
芳香族ポリアミドが芳香族ジカルボン酸成分と芳香族ジアミン成分、もしくは芳香族アミノカルボン酸成分から構成される芳香族ポリアミドである請求項1記載の芳香族ポリアミド溶液。
【請求項3】
芳香族ポリアミドがポリパラフェニレンテレフタルアミド、コポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミド、ポリメタフェニレンイソフタルアミドのいずれかである請求項1又は2記載の芳香族ポリアミド溶液。
【請求項4】
請求項1に記載した芳香族ポリアミド溶液から製造されることを特徴とする芳香族ポリアミド樹脂組成物。
【請求項5】
樹脂組成物が繊維またはフィルム、テープ、フィブリッド、またはパウダーである請求項4記載の芳香族ポリアミド樹脂組成物。

【公開番号】特開2011−184478(P2011−184478A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−47770(P2010−47770)
【出願日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【出願人】(303013268)帝人テクノプロダクツ株式会社 (504)
【Fターム(参考)】