説明

芳香族ポリアミド組成物の製造方法、組成物及びそれからなるフィルム

【課題】
粗大な凝集体の形成を抑制し、無機粒子の分散性に優れた芳香族ポリアミド組成物の製造方法、その方法により得られる粗大突起がなく無機粒子の凝集率に優れた芳香族ポリアミド組成物及びそれからなるフィルムを提供する。
【解決手段】
二軸混練機を用いて、pHが7.0〜11.0である芳香族ポリアミド溶液に対し、無機粒子の分散体を、無機粒子として芳香族ポリアミドに対し0.001〜20重量%混練させることを特徴とする、芳香族ポリアミド組成物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機粒子の分散性に優れ、粗大突起がなく、無機粒子の凝集の抑制効果に優れた芳香族ポリアミド組成物の製造方法、組成物及びそれからなるフィルムに関するものである。得られるフィルムは磁気記録媒体に好適に用いることができる。
【背景技術】
【0002】
芳香族ポリアミドフィルムは、耐熱性、強度、寸法安定性に優れ、磁気記録媒体、熱転写記録媒体、コンデンサ用誘導体、印刷回路基板等のフィルムとして注目され、かつその使用が拡大している。
【0003】
近年、情報記録の高密度化のために、Co、Ni、Cr、Feなどの金属やこれらの合金を真空蒸着やスパッタリング、イオンプレーテイングなどの方法によりフィルム基板上に形成させた金属薄膜型磁気記録媒体の開発が盛んに行われている。金属薄膜タイプの磁性層は、従来の塗布型のものに較べ厚さが非常に薄いため、使用するベースフィルムの表面形態がそのまま磁性層の表面形態となる。そのためベースフィルムの表面粗さが粗いと例えば出力の低下やドロップアウトが増加する。逆にこれら電磁変換特性を向上させるためにフィルム表面を全くの鏡面にすると、フィルム製造工程や磁気テープ加工工程において各機材との滑りが悪く、フィルムに皺が発生したり走行抵抗が大きいためにフィルムが切断するなどの問題が発生する。これらの問題を解決する手段として無機粒子を添加し、フィルム表面に突起を形成せしめることで、滑り性を付与することが行われている。しかしながら、添加した無機粒子の分散性が不良となることにより、ポリマー中に粗大な凝集体を形成し、得られたフィルム表面に粗大突起が多く出現しドロップアウトが増加する問題があった。
【0004】
一方、芳香族ポリアミド組成物の製造方法として、二軸混練機を用いて連続重合により芳香族ポリアミド組成物を得る方法が開示されている。(特許文献1参照)
また、フィルム中の粗大な凝集体を抑制する方法としては、例えば、無機粒子の分散方法として、攪拌式分散器、ボールミル、サンドミル、超音波分散機などで、粒子径5nm以上500nm以下となるまで分散する方法などが提案されている。(特許文献2参照)
さらに、解離定数(pKa)が5.0以下の化合物及び平均粒径が1nm以上の無機粒子を含有する分散体を、無機粒子の含有量が芳香族ポリアミドに対して0.001〜10重量%となるように添加する方法などが開示されている。(特許文献3参照)
しかしながら、単に無機粒子スラリーをボールミルや超音波分散機などによる機械的に分散する方法や、解離定数(pKa)が5.0以下の化合物を無機粒子の分散体に含有させる方法では、ある程度、凝集体の抑制に対しての改善の効果があるものの情報記録の高密度化に対応するには、十分に満足できるものではなかった。
【特許文献1】特開平02−099611号公報
【特許文献2】特開昭60−127523号公報
【特許文献3】特開2006−265375号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、かかる問題点を解決し、芳香族ポリアミドと無機粒子とからなる芳香族ポリアミド組成物を製造するに際し、二軸混練機を用いて、特定の芳香族ポリアミド溶液に無機粒子の分散体を混練させ、粗大な凝集体の形成を抑制し無機粒子の分散性に優れた、芳香族ポリアミド組成物の製造方法、組成物及びそれからなるフィルムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の目的は、二軸混練機を用いて、pHが7.0〜11.0である芳香族ポリアミド溶液に対し、無機粒子の分散体を、無機粒子として芳香族ポリアミドに対し0.001〜20重量%混練させることを特徴とする、芳香族ポリアミド組成物の製造方法、組成物及びフィルムによって達成できる。
【発明の効果】
【0007】
本発明は、芳香族ポリアミドと無機粒子とからなる芳香族ポリアミド組成物を製造するに際し、二軸混練機を用いて、pHが特定の範囲内にある芳香族ポリアミド溶液に無機粒子の分散体を混練することで、芳香族ポリアミド溶液中の無機粒子の粗大な凝集体の形成が抑制でき、かつ無機粒子を均一に分散せしめることができる。得られるフィルムは、粗大突起が少なくかつ凝集率が低いためビデオ、オーディオ用にはもちろん、コンピュータのデータテープなどのデジタル記録材、アウトドアユーズのビデオカメラ用テープなどに好適に使用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の芳香族ポリアミドは、ジクロリドまたはジカルボン酸及びジアミンから製造されるものである。
本発明において用いられるジクロリドとしては、例えばテレフタル酸ジクロリド、イソフタル酸ジクロリド、4,4’−ジフェニルジカルボン酸ジクロリド、2,6’−ナフタレンジカルボン酸ジクロリド、2−クロロテレフフタル酸ジクロリド、2,5’−ジクロロテレフタル酸ジクロリド、2,6’−ジクロロテレフタル酸ジクロリド等が挙げられる。これらの中で、ポリマーの溶媒への溶解性及び吸湿性の改善の点から2−クロロテレフタル酸ジクロリドが好ましい。
【0009】
また、ジカルボン酸としては、例えばテレフタル酸、モノクロロテレフタル酸、ジクロロテレフタル酸、テトラクロロテレフタル酸、メチルテレフタル酸、イソフタル酸、2・6−ナフタレンジカルボン酸が挙げられる。
【0010】
また、ジアミンとしては、例えば、p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、2,4’−ジアミノクロロベンゼン、2,6’−ナフチレンジアミン、4,4’−ビフェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、2−クロロ−p−フェニレンジアミン、2,5’−ジクロロ−p−フェニレンジアミン、2,6’−ジクロロ−p−フェニレンジアミン、4,4’−オキシジアニリン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフォン、3,3’−ジアミノジフェニルスルフォン等が挙げられる。これらの中で、ポリマーの溶媒への溶解性、吸湿性及び剛性の改善の点から、2−クロロ−p−フェニレンジアミンまたは4,4’−ジアミノジフェニルエーテルが好ましい。これらのジアミンは単独または2種類以上用いることもできる。
【0011】
本発明における芳香族ポリアミドの製造方法としては、例えば低温溶液重合法、界面重合法、脱水触媒を用い直接重合させる方法等が挙げられる。これらの中で、高重合度のポリマーを得やすい点から低温溶液重合法が好ましい。この場合、N−メチルピロリドン(NMP)、ジメチルアセトアミド(DMAc)、ジメチルホルムアミド(DMF)などの非プロトン性有機極性溶媒中の溶液重合で合成される。また、溶解助剤として、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化リチウム、臭化リチウム、硝酸リチウムなどの存在下に重合してもよい。
【0012】
上記重合反応に用いる重合槽としては、竪型重合槽の場合、ダブルヘリカルリボン型、パドル型、プロペラ型等の撹拌翼を用いることができる。また、ニーダの場合は、フイッシュテール型またはゼット型等のブレードを取り付けたものを用いることができる。
【0013】
本発明において、ジクロリドまたはジカルボン酸と、ジアミンの反応により副生する塩化水素を、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、炭酸リチウムなどの無機系中和剤で中和反応を行い、その後エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、アンモニア、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、アミノエチルエタノールアミンなどのpH調整剤で芳香族ポリアミド溶液のpHを調整してもよい。また、重合工程と中和工程は、同一槽で可能である。
【0014】
本発明の芳香族ポリアミド溶液は、上記の低温溶液重合法により得られた芳香族ポリアミド溶液をそのまま用いることができる。また、重合により得られたポリマーを一旦再沈などで単離し、再度上記有機溶媒に再溶解して調整された芳香族ポリアミド溶液等を用いてもよい。芳香族ポリアミド溶液としては、さらに溶解助剤として、無機塩たとえば塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化リチウム、臭化リチウム、硝酸リチウムなどを添加する場合もある。
【0015】
本発明の芳香族ポリアミド溶液のpHは、無機粒子の分散性、得られるフィルムの凝集率低減、粗大突起削減の点から、7.0〜11.0である必要がある。好ましくは8.0〜10.0、より好ましくは8.5〜9.5である。芳香族ポリアミド溶液のpHがかかる範囲外であると無機粒子の分散性に劣り、得られるフィルムは、無機粒子の凝集率が高く粗大突起が多くなる。本発明の芳香族ポリアミド溶液のpHは、pH調製剤を添加することにより行われ、pH調製剤としてエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、アンモニア、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、アミノエチルエタノールアミンなどのpH調整剤を1種または2種以上を組み合わせて添加することができる。
【0016】
本発明の芳香族ポリアミド溶液は30℃の際の溶液粘度として、無機粒子の分散性、得られるフィルムの粗大突起及び凝集率の点から、1,000〜50,000ポイズが好ましく、より好ましくは2,000〜10,000ポイズ、さらに好ましくは3,000〜6,000ポイズである。溶液粘度が1,000ポイズ以下の場合は、二軸混練機で無機粒子を混練する時の剪断作用が小さいため無機粒子の分散性に劣ったり、50,000ポイズを超えると二軸混練機の攪拌負荷が高くなり、攪拌機が故障する場合がある。芳香族ポリアミド溶液の粘度を調整する方法としては、規定の粘度となるようポリマー溶液の濃度を調整する方法が挙げられる。
【0017】
得られたポリマー溶液には、フィルムの物性を損なわない程度に、酸化防止剤その他の添加剤などがブレンドされていてもよい。この製膜原液中の溶媒はポリマー溶液に対して、70重量%以上97重量%以下であることが好ましい。
【0018】
上記方法で製造した芳香族ポリアミドの固有粘度ηinh(ポリマー0.5gを硫酸中で100mlの溶液として30℃で測定した値)は、0.5dl/g以上であることがフィルムに加工した場合に十分な強度を有し好ましい。
【0019】
本発明の芳香族ポリアミド組成物の製造方法においては、二軸混練機を用いて、上記芳香族ポリアミド溶液と無機粒子の分散体の混練が行われる。
本発明において、二軸混練機を用いて芳香族ポリアミド溶液に無機粒子の分散体を混練する量は、無機粒子の分散性、得られるフィルムの粗大突起及び凝集率の点から、無機粒子として0.001〜20重量%混練する必要がある。好ましくは0.01〜5重量%である。0.001重量%未満であるとフィルムにした場合、走行性に劣り、20重量%を超えると粒子が粗大な凝集体を形成し粗大突起が多くなる。
【0020】
本発明における無機粒子の分散体とは、分散媒として無機粒子の分散性の点から、有機溶媒が好ましい。例えばN−メチルピロリドン(NMP)、ジメチルアセトアミド(DMAc)、ジメチルホルムアミド(DMF)などを挙げることができ、中でも無機粒子の分散性の点からN−メチルピロリドン(NMP)が好ましい。
【0021】
無機粒子は特に限定されないが、例えば酸化ケイ素、酸化チタン、酸化アルミニウム、コロイダルシリカ、炭酸カルシウム、酸化ジルコニウム、硫化カルシウム、硫化バリウム、ゼオライト、カーボンブラック、金属微粉末などの無機粒子を挙げることができる。中でも本発明の効果の点からコロイダルシリカが好ましい。
【0022】
さらに無機粒子の平均粒子径は、無機粒子の分散性及び粗大突起削減、凝集率低減の点から、1nm以上が好ましく、より好ましくは1〜1,000nm、さらに好ましくは10〜100nmである。平均粒径が1nm未満または1,000nmを越える場合、無機粒子の分散性に劣ったり、得られるフィルムは粗大突起数が多なったり、凝集率が高くなったりする場合がある。
【0023】
本発明における無機粒子の分散体中には、無機粒子の分散性、得られるフィルムの粗大突起削減、凝集率低減の点から、解離定数(pKa)が5.0以下の化合物を含有することが好ましく、より好ましくは3.0以下、さらに好ましくは1.0以下である。解離定数(pKa)が5.0を超えた化合物の場合は、無機粒子の分散性に劣ったり、得られるフィルムは粗大突起数が多く無機粒子の凝集率が高くなったりする場合がある。
【0024】
解離定数(pKa)が5.0以下の化合物は、特に限定されるものでないが、例えばギ酸、酒石酸、酢酸、塩酸、硫酸、リンゴ酸を挙げることができる。中でも無機粒子の分散性の点から酸化合物が好ましく、より好ましくはギ酸、酒石酸、塩酸、硫酸であり、特に無機粒子の分散性、得られるフィルムの粗大突起及び凝集率の点から、解離定数(pKa)が−8.0の塩酸が好ましい。
【0025】
本発明の無機粒子の分散体中の解離定数(pKa)が5.0以下の化合物の含有量は、無機粒子の分散性、得られるフィルムの粗大突起及び凝集率の点から、無機粒子に対して5,000ppm以下が好ましく、より好ましくは1,000ppm以下、さらに好ましくは50ppm以下である。化合物の含有量が5,000ppmを超える場合は、無機粒子の分散性の効果が変わらないばかりか、逆に無機粒子の凝集が起こったりフィルム粗大突起に劣ったりする場合がある。
【0026】
本発明の解離定数(pKa)が5.0以下の化合物を無機粒子を含有する分散体に含有せしめる方法は、特に限定されないが、例えばあらかじめ純水、または分散体の分散媒などで、0.01〜10重量%に希釈した後に分散体に添加する方法を挙げることができる。化合物濃度が10重量%を越えると分散体に添加する際に、無機粒子が凝集したりする場合がある。
【0027】
本発明において、解離定数(pKa)が5.0以下の化合物、及び平均粒子径が1nm以上の無機粒子を含有する分散体を芳香族ポリアミドに添加する前に、無機粒子の分散体をホモジナイザー、超音波分散機、攪拌式分散機、ボールミル、サンドミルなどで機械的に分散処理してもよく、また無機粒子の分散体をフイルター等で濾過し、あらかじめ凝集した無機粒子を除去してもよい。
【0028】
本発明で使用する二軸混練機は特に限定されないが、2本のシャフトに左右一対で位相が常に90度ずれているパドルおよびスクリューが組み込まれており、2本のシャフトが同一速度で同一方向に回転するものが好ましい。また、シャフトに組み込まれるパドルは、(1)混ぜ、(2)混ぜおよび送り、(3)戻しの機能を備えるエレメントから選ばれた2種以上を組み合わせたものであることが望ましい。また、本発明の二軸混練機は、混練時の攪拌温度をコントロールするための冷却ジャケットを有するものであってもよい。また、無機粒子の分散性を向上させるために、二軸混練機のL/D(トラフ長さ/パドル径)は、4.0以上であることが好ましい。二軸混練機以外の一軸混練機等を使用した場合、不活性粒子の分散性に劣りポリマー中に粗大な凝集体を形成し、得られるフィルムの粗大突起及び凝集率ともに不良となり本発明の効果を充たすことができない。
【0029】
本発明の二軸混練機への芳香族ポリアミド組成物の供給は、事前に溶液中の泡を抜いた後、ギヤーポンプなどの定量性のあるポンプを用いて行われ、さらに無機粒子の分散体についても、含有量が芳香族ポリアミドに対して規定量となるよう、定量性のある供給装置により供給されることが好ましい。
【0030】
本発明における二軸混練機中の混練温度は、無機粒子の分散性、得られるフィルムの粗大突起及び凝集率の点から、120℃以下が好ましく、より好ましくは90℃以下、さらに好ましくは70℃以下である。120℃を超えると二軸混練機中の芳香族ポリアミド溶液の溶液粘度が低下し、無機粒子を混練する時の剪断作用が小さくなり無機粒子の分散性に劣る。
【0031】
本発明は、上述したように二軸混練機を用いてpHが特定の範囲にある芳香族ポリアミド溶液に、無機粒子の分散体を混練することで、無機粒子の分散性に優れ、粗大突起が無く、無機粒子の凝集率に優れた芳香族ポリアミド組成物及びフィルムを得ることができる。無機粒子の分散性が向上する理由は、定かでないが次の通りと推定される。無機粒子は、粒子のまわりに界面を持ちその界面は、特定の電荷を帯びていると考えられ、芳香族ポリアミド溶液のpHの違いにより、粒子廻りの電荷に変化が生じ無機粒子の分散性に影響を及ぼし向上すると考えられる。
【0032】
このようにして製造された芳香族ポリアミド組成物と溶媒からなるポリマー溶液は製膜原液として、いわゆる溶液製膜法によりフィルムに加工される。溶液製膜法には乾湿式法、乾式法、湿式法などがあり、いずれの方法で製膜してもよいが、ここでは乾湿式法を例にとって説明する。
【0033】
乾湿式法で製膜する場合は、製膜原液を口金からドラム、エンドレスベルトなどの支持体上に押し出して薄膜とし、次いでかかる薄膜層から溶媒を蒸散させ薄膜が自己保持性を持つまで乾燥する。乾燥条件は、好ましくは、室温以上220℃以下、60分以内であり、より好ましくは室温以上200℃以下である。
【0034】
乾燥されたフィルムは支持体から剥離されて、凝固浴(通常は水系)内で脱塩、脱溶媒、縦延伸などが行なわれ、さらにテンター内で延伸、乾燥、熱処理が行なわれてフィルムとなる。延伸倍率は面倍率(延伸後のフィルム面積を延伸前のフィルム面積で除した値で定義する。1未満はリラックスを意味する)で0.8以上8.0以下が好ましく、1.1以上5.0以下がより好ましい。
【0035】
また、本発明の芳香族ポリアミド組成物からなるフィルムは、積層フィルムであってもよい。たとえば2層の場合には、重合した芳香族ポリアミド溶液を二分し、それぞれ異なる粒子を添加した後に積層すればよい。3層以上の場合でも同様であり、積層方法としては、周知の技術たとえば、口金内での積層、複合管での積層や、一旦1層を形成してからその上に他の層を形成する方法などがある。
【0036】
本発明の芳香族ポリアミド組成物からなるフィルムの粗大突起は、20個/cm以下が好ましく、より好ましくは10個/cm以下、さらに好ましくは5個/cm以下である。
本発明のフィルムが適用される高密度記録媒体の磁性層は、特に限定されないが、強磁性金属薄膜層であれば好ましい。強磁性金属薄膜層の形成手段としては、例えば真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法が好ましく用いられるが、強磁性粉と有機バインダからなる磁性層を塗布法により形成してもよい。強磁性金属材料としては、Co、Ni、Cr、Feなどの金属やこれらを主成分とする合金などを用いることができる。
【0037】
磁性層を形成後、ダイヤモンドライクコーテングの付与及び潤滑保護層の付与を行うことは磁気記録媒体の耐久性向上の点で好ましい。さらに磁性層と反対側の面により走行性を向上させるために、バックコート層を設けてもよい。
【0038】
こうして得られた磁気記録媒体は、小型化、薄膜化が可能であり、コンパクトで大容量のデータを記録することができ、ビデオ、オーディオ用にはもちろん、湿度、温度による寸法変化が少ないので、特にコンピュータのデータテープなどのデジタル記録材として好適である。また高温、高湿下での走行性及び電磁変換特性に優れるので、屋外使用向きビデオカメラ用テープなどにも好適に用いることができる。
【実施例】
【0039】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。なお、実施例中の特性の測定は、以下の通りである。
(1)芳香族ポリアミド溶液のpH(−)
ビーカに芳香族ポリアミド溶液6.7gを採取した後、pH6.5〜7.5の純水40gを加えて溶液中の固形分を除く成分を抽出して、抽出液のpHを堀場製作所製M−12にて測定した。
(2)芳香族ポリアミド溶液の溶液粘度(ポイズ)
株式会社トキメック製B型粘度計にて、温度30℃の条件下において、NO.1のローターを用いて10rpmの回転数にて測定した。
(3)無機粒子の平均粒子径(nm)
無機粒子をNMP中に均一に分散してスラリーとし、遠心沈降式粒子径測定装置(島津製作所製SA−CP2型)で測定した。得られた粒子径分布を対数確率紙にプロットし、積算通過百分率が50%となった点のメジアン径を、その無機粒子の平均粒子径とした。
(4)フィルムの粗大突起(個/100cm
作成したフィルムのフィルム表面100cmの範囲を実体顕微鏡にて偏光下、異物を観測しマーキングする。マーキングした異物の高さを波長546nmで多重干渉計を用いて観測し、干渉縞の数をカウントする。一重環以上のものを粗大突起とした。
(5)フィルムの凝集率(%)
作成したフィルムのフィルム表面を電界放射型走査型反射型電子顕微鏡(UHR−FE−SEM)を用いて下記の条件で10カ所撮影し、凝集ユニット数(2個以上凝集している粒子のひとかたまりをひとつと数えたときの値)及び全粒子数(凝集の有無に関わらずフィルム表面に突起を形成している全ての粒子数)をカウントし、下記の式から凝集率を求めた。凝集率が低いほどフィルム中での無機粒子の分散性が優れる。
装置 :株式会社日立製作所S−900H
加速電圧:5kV
試料調製:直接法、Agシャドーイング、傾斜角5°
倍率 :3万倍
得られた写真から、凝集率を下記の式から求めた。
凝集率(%)=(凝集ユニット数/全粒子数)×100
実施例1
アンカー型攪拌翼を有する冷却ジャケット付き重合槽を使用して、N−メチルピロリドン(NMP)に芳香族ジアミン成分として85モル%に相当する2−クロロ−p−フェニレンジアミンと、15モル%に相当する4,4’−ジアミノジフェニルエーテルとを溶解させ、これに芳香族ジアミンに対して98.7モル%に相当する2−クロロテレフタル酸ジクロリドを添加し、線速度4.0m/秒で攪拌しながら重合を開始した。溶液温度が上昇するに従い、槽内温度を35℃以下に保持できるよう段階的に攪拌速度を下げ、最終的に線速度2.0m/秒にし、2時間攪拌し重合を完了した。副生した塩化水素を炭酸リチウムで中和し、ポリマー濃度10.5重量%、溶液粘度4000ポイズのポリマー溶液を得た。このポリマー溶液にpH9.0となるようジエタノールアミン及びトリエタノールアミンを添加してpH調整を行った。
【0040】
次に内容量0.6L、L/D13.2の二軸混練機を用いて、パドル回転数180rpm、ポリマー供給量30Kg/hr、混練温度60℃で、平均粒子径70nmのコロイダルシリカ粒子10重量部、N−メチルピロリドン(NMP)90重量部を分散した分散体に、解離定数(pKa)―8.0の塩酸を純水を用いて0.2%濃度に調整した塩酸水溶液を、コロイダルシリカ粒子に対し塩酸濃度が30ppm添加し含有させた無機粒子の分散体を、無機粒子として芳香族ポリアミドに対し0.05重量%となるように、上記ポリマー溶液と混練した。
【0041】
この原液を5μmカットのフィルターを通した後、径が30μm以上の表面欠点の頻度が0.006個/mmのベルト上に流延し、180℃の熱風で2分間加熱して溶媒を蒸発させ、自己保持性を得たフィルムをベルトから連続的に剥離した。次にNMP濃度勾配のつけた水槽(3槽)内へフィルムを導入して残存溶媒と中和で生じた無機塩の水抽出を行ない、テンターで水分の乾燥と熱処理を行なって、厚さ6μmのフィルムを得た。この間にフィルムの長手方向と幅方向にそれぞれ1.2倍、1.3倍延伸を行ない、280℃で1.5分間乾燥と熱処理を行なった後、20℃/秒の速度で徐冷した。得られた芳香族ポリアミドフィルムの凝集率及び粗大突起を評価し特性を表1に示す。フィルムの凝集率及び粗大突起ともに良好であった。
【0042】
実施例2
実施例1と同様の方法で得た芳香族ポリアミド溶液に、pH11.0となるようにジエタノールアミン及びトリエタノールアミンを添加しpH調整を行った。
【0043】
次に、塩酸化合物が800ppmとなるように調整した無機粒子の分散体を使用し、無機粒子として芳香族ポリアミドに対し0.001重量%となるように、温度90℃で混練した以外は、実施例1と同様の方法で芳香族ポリアミド組成物を製造し、フイルムを得た。芳香族ポリアミド溶液の特性、無機粒子の分散体の調整方法、二軸混練機の混練条件及びフィルム特性を表1に示す。フイルムの粗大突起及び凝集率ともに良好であった。
【0044】
実施例3
溶液粘度が50,000ポイズとなるようポリマー濃度の調整を行った以外は、実施例1と同様の方法で芳香族ポリアミド溶液を得た後、pH調整を行った。ポリマー濃度は、13.2%であった。
【0045】
次に、平均粒子径900nmのコロイダルシリカ粒子を用い、温度120℃で混練した以外は、実施例1と同様の方法で芳香族ポリアミド組成物を製造し、フイルムを得た。芳香族ポリアミド溶液の特性、無機粒子の分散体の調整方法、二軸混練機の混練条件及びフィルム特性を表1に示す。フイルムの粗大突起及び凝集率ともに良好であった。
【0046】
実施例4
実施例1と同様の方法で得た芳香族ポリアミド溶液に、pH7.0となるようにジエタノールアミン及びトリエタノールアミンを添加しpH調整を行った。
【0047】
次に、解離定数(pKa)1.99の硫酸化合物を無機粒子の分散体に添加した以外は、実施例1と同様の方法で芳香族ポリアミド組成物を製造し、フイルムを得た。芳香族ポリアミド溶液の特性、無機粒子の分散体の調整方法、二軸混練機の混練条件及びフィルム特性を表1に示す。フイルムの粗大突起及び凝集率ともに良好であった。
【0048】
実施例5
溶液粘度が1,000ポイズとなるようポリマー濃度の調整を行った以外は、実施例1と同様の方法で芳香族ポリアミド溶液を得た後、pH調整を行った。ポリマー濃度は、9.5%であった。
【0049】
次に、無機粒子の分散体を無機粒子として芳香族ポリアミドに対し0.16重量%となるように、温度40℃で混練した以外は、実施例1と同様の方法で芳香族ポリアミド組成物を製造し、フイルムを得た。芳香族ポリアミド溶液の特性、無機粒子の分散体の調整方法、二軸混練機の混練条件及びフィルム特性を表1に示す。フイルムの粗大突起及び凝集率ともに良好であった。
【0050】
実施例6
溶液粘度が2,500ポイズとなるようポリマー濃度の調整を行った以外は、実施例1と同様の方法で芳香族ポリアミド溶液を得た後、pH10.0となるようにジエタノールアミン及びトリエタノールアミンを添加しpH調整を行った。ポリマー濃度は、10.1%であった。
【0051】
次に、平均粒子径100nmのコロイダルシリカ粒子に、塩酸化合物が5,000ppmとなるよう調整した無機粒子の分散体を使用し、無機粒子として芳香族ポリアミドに対し20重量%となるように、温度50℃で混練した以外は、実施例1と同様の方法で芳香族ポリアミド組成物を製造し、フイルムを得た。芳香族ポリアミド溶液の特性、無機粒子の分散体の調整方法、二軸混練機の混練条件及びフィルム特性を表1に示す。フイルムの粗大突起及び凝集率ともに良好であった。
【0052】
実施例7
実施例1と同様の方法で芳香族ポリアミド溶液を得た後、pH調整を行った。
【0053】
次に、平均粒子径100nmの凝集シリカに塩酸化合物が100ppmとなるように調整した無機粒子の分散体を使用し、無機粒子として芳香族ポリアミドに対し4重量%となるように混練した以外は、実施例1と同様の方法で芳香族ポリアミド組成物を製造し、フイルムを得た。芳香族ポリアミド溶液の特性、無機粒子の分散体の調整方法、二軸混練機の混練条件及びフィルム特性を表1に示す。フイルムの粗大突起及び凝集率ともに良好であった。
【0054】
比較例1
実施例1と同様の方法で芳香族ポリアミド溶液を得た後、pH6.0となるようジエタノールアミン及びトリエタノールアミンを添加してpH調整を行った以外は、実施例1と同様の方法で芳香族ポリアミド組成物を製造し、フィルムを得た。無機粒子の分散体の調整条件および二軸混練機の混練条件、得られた芳香族ポリアミドフィルムの特性を表1に示す。得られたフィルムの粗大突起及び凝集率ともに不良であった。
【0055】
比較例2
実施例1と同様の方法で芳香族ポリアミド溶液を得た後、pH12.0となるようジエタノールアミン及びトリエタノールアミンを添加してpH調整を行った以外は、実施例1と同様の方法で芳香族ポリアミド組成物を製造し、フィルムを得た。無機粒子の分散体の調整条件および二軸混練機の混練条件、得られた芳香族ポリアミドフィルムの特性を表1に示す。得られたフィルムの粗大突起及び凝集率ともに不良であった。
【0056】
比較例3
アンカー型攪拌翼を有する冷却ジャケット付き重合槽を使用して、N−メチルピロリドン(NMP)に芳香族ジアミン成分として85モル%に相当する2−クロロ−p−フェニレンジアミンと、15モル%に相当する4,4’−ジアミノジフェニルエーテルとを溶解させ、これに芳香族ジアミンに対して98.7モル%に相当する2−クロロテレフタル酸ジクロリドを添加し、線速度4.0m/秒で攪拌しながら重合を開始した。溶液温度が上昇するに従い、槽内温度を35℃以下に保持できるよう段階的に攪拌速度を下げ、最終的に線速度2.0m/秒にし、2時間攪拌し重合を完了した。副生した塩化水素を炭酸リチウムで中和し、ポリマー濃度10.5重量%、溶液粘度4000ポイズのポリマー溶液を得た。このポリマー溶液にpH9.0となるようジエタノールアミン及びトリエタノールアミンを添加してpH調整を行った。
【0057】
次に、平均粒子径70nmのコロイダルシリカ粒子10重量部、N−メチルピロリドン(NMP)90重量部を分散した分散体に、解離定数(pKa)―8.0の塩酸を純水を用いて0.2%濃度に調整した塩酸水溶液を、コロイダルシリカ粒子に対し塩酸濃度が30ppm添加し含有させた無機粒子の分散体を、無機粒子として芳香族ポリアミドに対して0.05重量%となるように、重合槽内において上記ポリマー溶液とブレンドし、60℃で2時間混練した。
【0058】
この原液から、実施例1と同様の方法でフィルムを得た。無機粒子の分散体の調整条件及び得られたフィルム特性を表1に示す。フィルムの粗大突起及び凝集率ともに不良であった。
【0059】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
二軸混練機を用いて、pHが7.0〜11.0である芳香族ポリアミド溶液に対し、無機粒子の分散体を、無機粒子として芳香族ポリアミドに対し0.001〜20重量%混練させることを特徴とする、芳香族ポリアミド組成物の製造方法。
【請求項2】
無機粒子の分散体が解離定数(pKa)5.0以下の化合物を無機粒子に対して5,000ppm以下含有することを特徴とする、請求項1に記載の芳香族ポリアミド組成物の製造方法。
【請求項3】
芳香族ポリアミド溶液の30℃での粘度が1,000〜50,000ポイズであることを特徴とする、請求項1または2に記載の芳香族ポリアミド組成物の製造方法。
【請求項4】
二軸混練機による混練温度が120℃以下であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の芳香族ポリアミド組成物の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の製造方法により得られた芳香族ポリアミド組成物。
【請求項6】
請求項5に記載の芳香族ポリアミド組成物からなるフィルム。

【公開番号】特開2008−201837(P2008−201837A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−36428(P2007−36428)
【出願日】平成19年2月16日(2007.2.16)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】