説明

芳香族ポリエステル架橋成形体

【課題】電離放射線の照射によって得られる芳香族ポリエステルの架橋成形体において、高度に向上した架橋度を有すると同時に主鎖切断量を抑制することによって力学特性や耐加水分解性等が高く保持された芳香族ポリエステル架橋成形体を提供すること。
【解決手段】芳香族ポリエステルの分子鎖末端の少なくとも一方に脂肪族系不飽和基を有するポリエステル樹脂を主成分とする成形体(A)に電離放射線を照射せしめて得られた架橋成形体であって、ゲル分率が40重量%以上、照射によるカルボキシ末端の増加量が30当量/10g以下である芳香族ポリエステル架橋成形体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は芳香族ポリエステル架橋成形体に関するものであり、更に詳しくは、未架橋の芳香族ポリエステル成形体と比較して、耐熱性、耐溶剤性、耐摩耗性等の諸物性に優れ、フィルム、繊維、チューブ、シート状物、押出し成型品などの成形体として、生活用品、電気製品部品、工業用機械部品などの用途に使用することが可能な芳香族ポリエステル架橋成形体であり、特に架橋度が高くかつ主鎖劣化の少ない芳香族ポリエステル架橋成形体に関するものである。高い架橋度は耐熱性や耐溶剤性を高め、また主鎖劣化の抑制は力学特性や耐加水分解性を高度に保持できるものである。
【背景技術】
【0002】
芳香族ポリエステル樹脂、例えばポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレートはその優れた力学特性、耐熱性、耐溶剤性、電気特性等を活かして電気・電子部品、自動車部品等の分野で既に広く用いられているが、熱可塑性樹脂であるが故に当然、融点以上の温度では熱溶融流動を起こしてしまい、成形品としての力学特性等はもとより形状も保持できなくなるという問題がある。
【0003】
そこで従来より、芳香族ポリエステルに架橋剤を添加したり、あるいは架橋性基を含有するモノマーを共重合するなどして架橋可能な樹脂組成物を得、成型した後に紫外線や電離放射線等によって分子鎖間を架橋させることによって、耐熱性や耐溶剤性等をより向上させる技術が種々開発されてきている(例えば特許文献1〜7参照)。一方、一般的な芳香族ポリエステルは、例えばポリエチレンの様に電離放射線によって架橋され易いポリマーではなく、むしろポリマー鎖の切断が優先して起こるポリマーである。つまり架橋度の向上のみを目指して過度のエネルギーで電離放射線を照射するとポリマー鎖の切断が著しく増大してしまい、力学特性の低下や加水分解性が増大するなどの問題が生じる。従って電離放射線の照射による架橋成形体の作製においては架橋度の向上のみを計るだけでなく主鎖切断の増大を抑制し、架橋度と主鎖切断量のバランスを最適化することが極めて重要になる。しかしながら、これら開発事例には主鎖切断量を把握した具体例は見当たらない。
【特許文献1】特開昭53−92894号公報
【特許文献2】特公昭61−57851号公報
【特許文献3】特公平6−84446号公報
【特許文献4】特開昭63−22841号公報
【特許文献5】特開平2−199708号公報
【特許文献6】特開2003−128741号公報
【特許文献7】特開2003−327713号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は前記問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は電離放射線の照射によって得られる芳香族ポリエステルの架橋成形体において、高度に向上した架橋度を有すると同時に主鎖劣化の少ない芳香族ポリエステル架橋成形体を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決するために本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、架橋成形体の架橋度としてゲル分率を、またポリマーの主鎖切断量としてカルボキシ末端量を定量することにより本課題を解決することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、本発明は以下の構成よりなる。
1. 芳香族ポリエステルの分子鎖末端の少なくとも一方に脂肪族系不飽和基を有するポリエステル樹脂を主成分とする成形体(A)に電離放射線を照射せしめて得られた架橋成形体であって、ゲル分率が40重量%以上、照射によるカルボキシ末端の増加量が30当量/10g以下であることを特徴とする芳香族ポリエステル架橋成形体。
2. 上記ポリエステル樹脂を主成分とする成形体(A)のカルボキシ末端量が5当量/10g以下であることを特徴とする上記第1記載の芳香族ポリエステル架橋成形体。
3. 上記芳香族ポリエステルの主たる繰り返し単位が、エチレンテレフタレート、プロピレンテレフタレート、ブチレンテレフタレート、エチレンナフタレートから選ばれる少なくとも1種以上であることを特徴とする上記第1又は第2記載の芳香族ポリエステル架橋成形体。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、高度な架橋度を有すると同時に主鎖劣化の少ない芳香族ポリエステル架橋成形体を提供できる。高度な架橋度は優れた耐熱性、特に芳香族ポリエステルの融点以上においても形態を保持することが可能な耐熱性を発現することができ、また主鎖切断量を抑制することによって力学特性や耐加水分解性等が高く保持された芳香族ポリエステル架橋成形体を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明について詳細に説明する。上記のとおり本発明は、耐熱性、耐溶剤性、耐摩耗性等の諸物性に優れ、生活用品、電気製品部品、工業用機械部品などの用途に使用することが可能な架橋成形体であって、高い耐熱性や耐溶剤性を有すると同時に力学特性や耐加水分解性等が高く保持された芳香族ポリエステル架橋成形体を提供するものである。
【0009】
本発明における芳香族ポリエステルとは芳香族ジカルボン酸成分とジオール成分との重縮合物であって公知の物を含め特に限定されるものではない。芳香族ジカルボン酸成分としては、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸等などを例示することができる。中でもテレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸が好ましい。ジオール成分としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコールなどの脂肪族ジオール;シクロヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノールなどの脂環族ジオール;ナフタレンジオール、ビスフェノールA、レゾルシンなどの芳香族ジオール等を例示することができる。中でもエチレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコールなどの脂肪族ジオールが好ましい。本発明の芳香族ポリエステルは芳香族ジカルボン酸成分およびジオール成分はそれぞれ単独から構成されたものであっても2種以上から構成される共重合ポリエステルであっても差し支えない。これらの中で好ましく用いられる芳香族ポリエステルは、主たる繰り返し単位がエチレンテレフタレート、プロピレンテレフタレート、ブチレンテレフタレート、エチレンナフタレートから選ばれる少なくとも1種以上である。該芳香族ポリエステルは力学特性や耐熱性、耐溶剤性、耐候性、低臭・低吸着性等に優れているだけでなく、成形性にも優れていることから好適である。
【0010】
さらに上記芳香族ポリエステル中には少量の他の任意の重合体や酸化防止剤、ラジカル捕捉剤、制電剤、染色改良剤、染料、顔料、艶消し剤、蛍光増白剤、不活性微粒子その他の添加剤が含有されてもよい。かかる芳香族ポリエステルを得る方法としては、特別な重合条件を採用する必要はなく、芳香族ジカルボン酸成分および/またはそのエステル形成性誘導体とジオール成分との反応生成物を重縮合してポリエステルにする際に採用される任意の方法で合成することができる。重合の装置は回分式であっても連続式であってもよい。さらに前記液相重縮合工程で得られたポリエステルを粒状化し予備結晶化させた後に不活性ガス雰囲気下あるいは減圧真空下、融点以下の温度で固相重合することもできる。
【0011】
重合触媒は所望の触媒活性を有するものであれば特に限定はしないが、アンチモン化合物、チタン化合物、ゲルマニウム化合物、アルミニウム化合物が好ましく用いられる。これらの触媒を使用する際には単独でも、また2種類以上を併用してもよく、使用量としてはポリエステルを構成する芳香族ジカルボン酸成分に対して0.002〜0.1モル%が好ましい。
【0012】
本発明における芳香族ポリエステルの分子鎖末端の少なくとも一方に脂肪族系不飽和基を有するポリエステル系樹脂とは、上記芳香族ポリエステルのカルボキシ末端基および/またはヒドロキシ末端基への付加反応を利用して得られるものである。
【0013】
カルボキシ末端基への付加反応の例としては、例えば、分子中にエポキシ基および脂肪族系不飽和基をそれぞれ少なくとも1個以上有する化合物と芳香族ポリエステルとを混合し、高温溶融状態あるいは溶媒共存下の溶液状態で反応させることができる。更に、エポキシ基の代わりにイソシアナート基、オキサゾリン基等を有する化合物を用いることも可能である。
【0014】
エポキシ基および脂肪族系不飽和基をそれぞれ少なくとも1個以上有する化合物とは公知のものを含め特に限定されるものではないが、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、アリルグリシジルエーテル、2,6−ジアリルフェニルグリシジルエーテル、2,4,6−トリアリルフェニルグリシジルエーテル、4−ビニルフェニルグリシジルエーテル、1,4−ジグリシジルオキシ−2,6−ジアリルベンゼン、4−ビニル−1−シクロヘキセン−1,2−エポキシド、3,4−エポキシシクロヘキシルエチルアクリレート、3,4−エポキシシクロヘキシルエチルメタアクリレート、アリル2,3−オキシプロピルカルボネート、プロペニル2,3−オキシプロピルカルボネート、ジアクリルモノグリシジルシアヌレート、ジメタクリルモノグリシジルシアヌレート、ジアリルモノグリシジルシアヌレート、ジアクリロイルモノグリシジルシアヌレート、ジクロチルモノグリシジルシアヌレート、ジアリルモノグリシジルイソシアヌレート、ジアクリルモノグリシジルイソシアヌレート、ジメタクリルモノグリシジルイソシアヌレート、ジアクリロイルモノグリシジルイソシアヌレート、モノアクリルジグリシジルシアヌレート、モノメタクリルジグリシジルシアヌレート、モノアリルジグリシジルシアヌレート、モノアクリロイルジグリシジルシアヌレート、モノクロチルジグリシジルシアヌレート、モノアクリルジグリシジルイソシアヌレート、モノメタクリルジグリシジルイソシアヌレート、モノアリルジグリシジルイソシアヌレート、モノアクリロイルジグリシジルイソシアヌレート、及び上記化合物のグリシジル基を2,3−エポキシブチル基、2,3−エポキシ−2−メチルプロピル基、2,3−エポキシ−2−メチルブチル基等で置き換えた化合物、N−アリルグリシジルオキシベンズアミド、N,N−ジアリルグリシジルオキシベンズアミド、N,N−ジアリルグリシジルオキシイソフタラミド、N,N−ジアリルグリシジルオキシテレフタラミド、ジアリルグリシジルアミン、ジアリルビスフェノールAジグリシジルエーテル、ジアクリルビスフェノールAジグリシジルエーテル、ジメタクリルビスフェノールAジグリシジルエーテル、2,2−ビス(3−アリル−4−グリシジルオキシフェニル)メタン、2,2−ビス(3−アリル−4−グリシジルオキシフェニル)プロパン、1,1−ビス(3−アリル−4−グリシジルオキシフェニル)シクロヘキサン、2,2−ビス(3、5−ジアリル−4−グリシジルオキシフェニル)メタン、2,2−ビス(3、5−ジアリル−4−グリシジルオキシフェニル)プロパン、ビス(3−アリル−4−グリシジルオキシフェニル)エーテル、ビス(3,5−ジアリル−4−グリシジルオキシフェニル)エーテル、ビス(3−アリル−4−グリシジルオキシフェニル)スルホン、ビス(3,5−ジアリル−4−グリシジルオキシフェニル)スルホン、3,3’−ジアリル−4,4’−ジグリシジルオキシベンゾフェノン、N−〔4−(2,3−エポキシプロポキシ)−3,5−ジメチルベンジル〕アクリルアミドなどが例示される。
【0015】
上記化合物のうち、分子内に2個以上の脂肪族系不飽和基を有するジアリルフェニルグリシジルエーテル、ジアリルモノグリシジルイソシアヌレート、ジアクリルモノグリシジルイソシアヌレート、ジメタクリルモノグリシジルイソシアヌレート、ジアクリロイルモノグリシジルイソシアヌレート、ジアリルビスフェノールAジグリシジルエーテルなどが好ましく用いられる。上記化合物は単独で用いても構わないし2種類以上を併用して用いても構わない。さらには上記化合物の重合体であってもよく、1種類のホモポリマーあるいは2種類以上の共重合体であっても構わない。さらに共重合においては、上記化合物と共重合可能な単量体であれば任意の化合物との共重合体であっても構わない。
【0016】
これらの付加反応条件は芳香族ポリエステルのカルボキシ末端と効率よく反応する条件であれば特に限定されるものではないが、芳香族ポリエステル樹脂の融点以上において、エポキシ基および脂肪族系不飽和基をそれぞれ少なくとも1個以上有する化合物を0.1〜10重量%添加し、1〜20分間、溶融混練りする方法が好ましい。このとき、付加反応を促進する触媒を所定量添加しても構わない。該触媒は特に限定されて用いられるものではなく、例えば、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物、イミダゾール化合物、第4級アンモニウム塩、ホスフィン化合物、ホスホニウム塩、リン酸エステル、有機酸、ルイス酸などが例示できる。これらは1種類または2種類以上を併用して使用することができる。
【0017】
イソシアナート基および脂肪族系不飽和基をそれぞれ少なくとも1個以上の有する化合物についても公知のものを含め特に限定されるものではないが、ビニルイソシアナート、アリルイソシアナート、プロペニルイソシアナート、イソプロペニルイソシアナート、ブテニルイソシアナート、ヘキセニルイソシアナート、クロチルイソシアナート、アクリロイルイソシアナート、メタクリロイルイソシアナート、2−アクリロイルオキシエチルイソシアナート、2−アクリロイルオキシブチルイソシアナート、2−アクリロイルオキシプロピルイソシアナート、2−アクリロイルオキシヘキシルイソシアナート、2−メタクリロイルオキシエチルイソシアナート、2−メタクリロイルオキシブチルイソシアナート、2−メタクリロイルオキシプロピルイソシアナート、2−メタクリロイルオキシヘキシルイソシアナート、アリル−α,α’−ジメチルベンジルイソシアナート、プロペニル−α,α’−ジメチルベンジルイソシアナート、イソプロペニル−α,α’−ジメチルベンジルイソシアナート、ブテニル−α,α’−ジメチルベンジルイソシアナート、ヘキセニル−α,α’−ジメチルベンジルイソシアナート、アリルベンジルイソシアナート、プロペニルベンジルイソシアナート、イソプロペニルベンジルイソシアナート、ブテニルベンジルイソシアナート、ヘキセニルベンジルイソシアナート、などが好ましく用いられる。またこれら化合物のイソシアナート基は、2級アルコール、3級アルコール、活性メチレン化合物、オキシム類、ラクタム類、イミダゾール類などのブロック剤にてブロックされていても構わないが、芳香族ポリエステル樹脂との混練り温度よりも低い温度で該ブロックが解離することが必要である。上記化合物は単独で用いても構わないし2種類以上を併用して用いても構わない。さらには上記化合物の重合体であってもよく、1種類のホモポリマーあるいは2種類以上の共重合体であっても構わない。さらに共重合においては、上記化合物と共重合可能な単量体であれば任意の化合物との共重合体であっても構わない。
【0018】
これらの付加反応条件は芳香族ポリエステルのカルボキシ末端と効率よく反応する条件であれば特に限定されるものではないが、芳香族ポリエステル樹脂の融点以上において、イソシアナート基および脂肪族系不飽和基をそれぞれ少なくとも1個以上有する化合物を0.1〜10重量%添加し、1〜20分間、溶融混練りする方法が好ましい。このときイソシアナート基とカルボキシル基末端の反応を促進する触媒を同時に添加しても良く、公知のものであれば特に限定されて用いられるものではないが、例えば、アミン類、フォスフィン類などのルイス塩基、アルミニウムや錫、鉄系の有機金属類を挙げることができる。これらは1種類または2種類以上を併用して使用することができる。
【0019】
さらにオキサゾリン基および脂肪族系不飽和基をそれぞれ少なくとも1個以上有する化合物についても公知のものを含め特に限定されるものではないが、プロペニルオキサゾリン、イソプロペニルオキサゾリン、ブテニルオキサゾリン、イソブテニルオキサゾリン等を例示することができる。これら化合物は単独で用いても構わないし2種類以上を併用して用いても構わない。
【0020】
上記化合物が芳香族ポリエステルのカルボキシ末端基に付加反応した後の、芳香族ポリエステル中の残存カルボキシ末端量は5当量/10g以下であることが好ましく、さらに好ましくは0当量/10gである。本発明における芳香族ポリエステル架橋成形体のゲル分率すなわち架橋度を高度に発現させるためには、上記化合物の芳香族ポリエステルのカルボキシ末端基への付加反応量をなるべく多くする方が有利だからである。付加反応後の残存カルボキシ末端量が5当量/10gより多い場合には電離放射線照射後の架橋度が不十分となりやすく好ましくない。
【0021】
一方、ヒドロキシ末端基への付加反応の例としては、例えば、分子中に不飽和基を少なくとも1個以上有するカルボン酸無水物と芳香族ポリエステルとを混合し、溶融状態あるいは溶媒共存下の溶液状態で反応させることができる。少なくとも1個以上の不飽和基を有するカルボン酸無水物とは公知のものを含め特に限定されるものではないが、無水マレイン酸、無水ハロゲン化マレイン酸、無水シトラコン酸、無水ハロゲン化シトラコン酸、無水1,2−ジメチルマレイン酸、無水エチルマレイン酸、無水フェニルマレイン酸、2,3−ジフェニルマレイン酸無水物、無水アリルマレイン酸、無水イタコン酸、無水ハロゲン化イタコン酸、無水メチルイタコン酸、無水アリルイタコン酸、無水グルタコン酸、cis-アコニット酸無水物、5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸無水物、メチル−5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸無水物、無水テトラヒドロフタル酸、無水メチルテトラヒドロフタル酸、エンド−ビシクロ−[2,2,1]−5−ヘプテン−2,3−ジカルボン酸無水物、トリメリット酸アンハイドライド[トリス(アクリロイル)ペンタエリスリトール]エステルやトリメリット酸アンハイドライド[トリス(メタクリロイル)ペンタエリスリトール]エステル等の無水トリメリット酸誘導体などが挙げられる。一方、カルボン酸無水物の代わりにイソシアナート基を有する化合物を用いることも可能である。上記した様にイソシアナート基はカルボキシ末端基とも付加反応することが可能であるため、芳香族ポリエステル分子鎖末端のカルボキシ末端およびヒドロキシ末端の両方への付加反応が可能であり、結果として芳香族ポリエステル分子鎖の両末端に脂肪族不飽和基を導入することが可能となり、架橋成形体の架橋密度を向上できる点において好適である。
【0022】
上記したように芳香族ポリエステル分子鎖末端へ付加反応させる化合物の添加量は、化合物の反応性や反応条件にもよるが芳香族ポリエステルに対して0.1〜10重量%であることが好ましい。本発明における芳香族ポリエステル架橋成形体のゲル分率すなわち架橋度を向上させるためには、ポリエステル末端基により多くの架橋性基を付加させることが好ましく、一般的にポリエステル末端基当量より過剰に添加する方が好ましい。過剰に添加することによって該ポリエステル分子鎖末端への付加反応量を向上することができるだけでなく、過剰に添加した未反応化合物も電離放射線照射による架橋反応に関与し架橋密度を向上させることに寄与するので好ましいが、10重量%よりも過剰の添加は経済的でないばかりか、成形体を作製するときの熱によって樹脂がゲル化を引き起こし易くなるので好ましくない。添加量が0.1重量%未満の場合には末端への付加反応量が少なすぎて架橋密度が不足するので好ましくない。
【0023】
本発明の芳香族ポリエステル架橋成形体は、電離放射線による架橋処理を行なう前にフィルムや繊維、チューブ、シート状物、押出し成型品などの成形体に成形加工されるが、これらの成形方法は常法の方法を採用することができる。予め上記芳香族ポリエステルの分子鎖末端の少なくとも一方に脂肪族系不飽和基を有するポリエステル系樹脂を作製しペレット化しておき、これを原料として成形加工する方法や、芳香族ポリエステル樹脂を溶融成形する際に、末端反応可能な上記化合物を混練り機に直接添加し溶融混練りの過程で末端付加反応を行う方法などを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。またフィルムや繊維などの成形加工の場合、所望の物性に応じて延伸倍率を設定し、熱延伸を行なうこともできる。
【0024】
本発明の芳香族ポリエステル架橋成形体は電離放射線を照射することによって脂肪族系不飽和基部分に架橋構造を形成せしめたものであるが、この電離放射線としては照射エネルギーの透過力が大きい電子線やγ線が好ましい。
【0025】
この電離放射線の照射は芳香族ポリエステルの分子鎖末端の少なくとも一方に脂肪族系不飽和基を有するポリエステル樹脂を主成分とする成形体を作製する任意の工程で照射することが可能であるが、電離放射線の照射効率や品質安定、さらには経済効率を考慮して決定することが望ましい。一般的には各成形過程を経て最終成形品となった状態の物に対して照射することが好ましい。電離放射線の照射線量は架橋度と主鎖切断量と密接に関係するのでその設定は重要である。しかしながら成形体中の脂肪族不飽和基の含有量や照射時の雰囲気温度、照射雰囲気の酸素濃度、さらには成形品の形状などによって、最適な照射線量は異なってくる。従って本発明品が規定するゲル分率およびカルボキシ末端増加量を満足する範囲であれば特に限定はないが、20〜1000kGyであることが好ましい。照射線量が20kGyよりも低い場合には架橋度が不十分となりやすく、また1000kGyよりも高い場合には芳香族ポリエステル分子鎖が主鎖分解が顕著になり好ましくない。また電離放射線の照射プロセスは一般的に常温で行われるプロセスであるが、0〜200℃の任意の温度環境下において照射することができる。また電離放射線を照射する雰囲気ガスには特に限定はないが、酸化分解を抑制するために酸素濃度は低いことが好ましい。好ましい酸素濃度は5000ppm以下であり、更に好ましくは1000ppm以下である。
【0026】
本発明におけるゲル分率とは芳香族ポリエステル架橋成形体を溶媒で加熱溶解した後の不溶解物の重量%であり、さらに詳しくは、架橋成形体の粉砕物0.1g(秤量)に25mlのパラクロロフェノール/1,1,2,2−テトラクロロエタン=3/1(重量比)の混合溶媒を加え、90℃で100分間処理した後、細孔サイズが120μm以下のガラスフィルターで不溶解物を吸引ろ過し、これを減圧乾燥した後の不溶解物の重量%である。本発明の芳香族ポリエステル架橋成形体のゲル分率は40〜95%であることが好ましく、より好ましくは45〜90%である。40%より少ない場合でも耐熱性が向上する場合もあるが、融点以上でも、より安定して熱溶融流動性が抑制され、高度に形態保持性を保つためには40%以上であることが好ましい。またゲル分率を95%よりも大きくすることは技術的に可能ではあるが、このように架橋度を高めるためにはポリエステル樹脂中の脂肪族系不飽和基の量を著しく増やす必要があり、この場合、不飽和基が熱重合しやすくなって熱的に不安定になるだけでなく経済性が悪くなってしまい好ましくない。
【0027】
上記したように一般的な芳香族ポリエステルは電離放射線の照射によって主として主鎖切断が優先して起こるポリマーである。その切断量は照射線量や温度、照射雰囲気の酸素濃度などの影響を受け、一般的に線量や温度が高いほど切断量が多くなり、また酸素濃度も高いほど酸化分解による切断量が増えることが知られている。電離放射線によって切断された芳香族ポリエステル分子鎖の末端構造は、例えばH-NMRなどを用いて分析、定量することができる。本発明者らはポリエチレンテレフタレート繊維を窒素雰囲気中で電子線照射し、その末端構造を分析した結果、カルボキシ末端やエトキシ末端、アルデヒド末端、フェニル末端、メトキシ末端、アセチル末端などが生成しており、中でもカルボキシ末端の生成量が最も多いことを突き止めた。
【0028】
本発明の芳香族ポリエステル架橋成形体においても、当然ながら電離放射線の照射によって主鎖切断が起こっている。この架橋成形体は分子鎖間で架橋しているために溶媒には溶解し難くなっており、H-NMR等を用いて主鎖末端量を定量することが困難である。しかし本発明者らはサンプルが溶媒に完全には溶解していない粘調な溶液状態であっても中和滴定法であればその定量に支障がないことを見出し、芳香族ポリエステル架橋成形体のカルボキシ末端量を定量することに成功した。そのカルボキシ末端の定量方法とは、試料をベンジルアルコールで加熱溶解した後、水酸化ナトリウム溶液で滴定する方法であり、さらに詳しくは、芳香族ポリエステル架橋成形体を凍結粉砕した後、十分乾燥し、この0.1g(秤量)を10mlのベンジルアルコールで加熱溶解し、氷水にて冷却した後、これにフェノールフタレイン等の指示薬を添加して、0.1NのNaOHのメタノール/ベンジルアルコール=1/9(重量比)の溶液で滴定するという方法である。サンプルをベンジルアルコールに加熱溶解する間にもポリエステル主鎖が切断されカルボキシ末端量が変化するため、この溶解時間と滴定値との正の比例関係から溶解時間0時点の酸価を計算にて求める。本発明における芳香族ポリエステル架橋成形体の加熱ベンジルアルコールへの溶解性をできるだけ高めるために、この溶解時間は3分以上であることが好ましく、また溶解時間と滴定値との相関係数を高めるために3水準以上の溶解時間にて測定を行なうことが好ましい。なお本測定には、溶媒のベンジルアルコールのみをブランクとして滴定を行なっておく必要あり、サンプルの滴定値からこのブランク値を減じることによって所望の酸価を求めることが出来る。
【0029】
この電離放射線照射によって増加した芳香族ポリエステル架橋成形体中のカルボキシ末端量は30当量/10g以下であることが好ましい。30当量/10gよりも多い場合は力学特性の低下や加水分解性の増大がより顕著になり好ましくない。本発明の芳香族ポリエステル架橋成形体においてはカルボキシ末端の増加量がなるべく少ない方が好ましいが、電離放射線による芳香族ポリエステルの主鎖切断を完全に抑制することは困難であることから、目的の架橋度を満足させるためにはカルボキシ末端の増加量が5当量/10g以上であることが好ましい。
【実施例】
【0030】
以下に実施例を示し本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。なお各種特性の評価方法は下記に従った。
【0031】
(1)固有粘度〔IV〕
ポリマーを0.4g/dlの濃度でパラクロロフェノール/1,1,2,2−テトラクロロエタン=3/1(重量比)の混合溶媒に溶解し30℃において測定した値(dl/g)である。
【0032】
(2)カルボキシ末端量
凍結粉砕した後、十分乾燥しポリマーサンプル0.1g(秤量)を10mlのベンジルアルコールで加熱溶解した後、フェノールフタレインを指示薬として0.1NのNaOHのメタノール/ベンジルアルコール=1/9(重量比)溶液で滴定して測定した値(当量/10g)である。
【0033】
(3)ポリマーの融点
試料を300℃で2分間加熱溶融した後、液体窒素で急冷して得たサンプル10mgを用い、窒素気流中、示差走査型熱量計(DSC)を用いて20℃/分の昇温速度で発熱・吸熱曲線(DSC曲線)を測定したときの、融解に伴う吸熱ピークの頂点温度を融点Tm(℃)とした。
【0034】
(4)ゲル分率
試料0.1g(秤量)に25mlのパラクロロフェノール/1,1,2,2−テトラクロロエタン=3/1(重量比)の混合溶媒を加え90℃で100分間浸漬した後、30℃で30分間おき、ガラスフィルターで吸引ろ過した残渣を減圧乾燥し、不溶解物の重量%をゲル分率(%)とした。
【0035】
(5)熱流動開始温度
一定温度に設定可能なホットプレートにサンプルを1分間置いた後、熱溶融流動しているかを光学顕微鏡にて判断し、熱流動が生じている温度を熱流動開始温度(℃)とした。
【0036】
(6)強度
オリエンティック社製「テンシロン」を用い、試料長20mm(チャック間長さ)、伸長速度100%/分の条件で、応力−歪曲線を雰囲気温度20℃、相対湿度65%条件下で測定し、破断点での応力を繊度あるいは試料幅で割り返した値を強度として求めた。なお、各値は5回の測定の平均値を使用した。電子線照射前の強度に対する照射後の強度の割合を強度保持率(%)とした。
【0037】
(7)耐溶剤性
非晶フィルムの試料をアセトンに1分間、室温にて浸漬した後の表面の状態を目視で観察した。
○:変化なし、△:やや白化、×:白化 とした。
【0038】
(実施例1)
反応器にテレフタル酸100モル部、エチレングリコール200モル部、三酸化アンチモン0.025モル部、安定剤としてトリエチルアミン0.3モル部をとり、250℃、内圧2.5kg/cm2で150分間脱水反応を行った。その後、徐々に昇温および減圧し275℃、0.1mmHgにて所定トルクまで重縮合反応を行った。反応終了後ポリマーを常法に従ってチップ化し、さらに230℃、0.01mmHgの真空下で固相重合を実施し、固有粘度1.05のポリエチレンテレフタレートのチップを得た。このチップを常法に従って乾燥させた後、溶融押出機に供給し、同時にエクストルーダー入口から50〜60℃に加温したジアリルモノグリシジルイソシアヌレートおよびイルガノックス1010(酸化防止剤、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)の混合溶液をポリマーに対してそれぞれ1.5重量%、0.15重量%になるよう一定流量で添加した。混練りポリマーは孔径0.5mmのオリフィスを168個有する310℃の紡糸口金から繊度が1440デシテックスになるように調整して吐出させ、70℃、1.0m/secの冷却風にて冷却固化せしめた糸条を、オイリング後、紡糸速度2000m/分で引き取り、引き続き巻き取ることなく1.7倍に延伸して1440dtex、336フィラメントの延伸糸を得た。この延伸糸を合糸し1440dtex/2、43T/10cmの下撚りおよび上撚りをかけ繊維コードとした。この繊維コードを一定張力下、窒素雰囲気中(酸素濃度200ppm)で加速電圧600keVの電子線を150kGy照射した(80〜100℃加熱下)。結果を表1に示すが、照射後のゲル分率は61%、熱流動開始温度は335℃であり、PETの融点以上においても溶融することなく繊維コードとしての形態を保持していることが分かった。さらにこの架橋繊維コードのカルボキシ末端量を測定した結果、18当量/10gであった。電子線照射前の繊維コードのカルボキシ末端量が 0当量/10gであったことから、電子線照射によるカルボキシ末端増加量は18当量/10gであった。
【0039】
(実施例2)
実施例1と同様の重縮合反応を行った後、該ポリマーを常法に従ってチップ化し、さらに230℃、0.01mmHgの真空下で固相重合を実施して固有粘度0.95のポリエチレンテレフタレートのチップを得た。このチップを常法に従って乾燥させた後、ジアリルモノグリシジルイソシアヌレートの粉体をレジンに対して1.7重量%、酸化防止剤であるイルガノックス565(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)を0.085重量%添加して均一に予備混合した後、2軸溶融押出機(池貝鉄工(株)製、PCM30)のホッパーに供給して280℃で100rpmにて溶融混練りした。ストランドを水冷した後、カットしてジアリルモノグリシジルイソシアヌレートがPETのカルボキシ末端に付加反応した樹脂組成物のレジンチップを得た。このチップを常法に従って乾燥し、これを二軸押出し機(池貝製PCM45)を用いて280℃で混練して押出し、厚さ500μmの未延伸フィルム を成形し、この未延伸フィルム を90℃で縦方向に3.3倍に延伸した後、一軸延伸装置内で約10sec間の予熱ゾーンで延伸温度にまで予熱し、延伸ゾーンで延伸速度1.50%/minで設定4.0倍に延伸した後、約10sec間の固定ゾーンで熱処理を施し、厚さ50μmの延伸配向フィルム得た。このフィルムのカルボキシ末端量を測定した結果、0当量/10gであった。次いで窒素雰囲気中(酸素濃度30ppm)で加速電圧165keVの電子線を600kGy照射した。結果を表1に示すが、照射後のゲル分率は65%、熱流動開始温度は340℃であり、PETの融点以上においても溶融することなくフィルムの形態を保持していた。さらにこの架橋フィルムのカルボキシ末端量を測定した結果、25当量/10gであったことから電子線照射によるカルボキシ末端増加量は25当量/10gであった。
【0040】
(実施例3)
実施例2と同様の方法で得た固有粘度0.95のポリエチレンテレフタレートのチップを常法に従って乾燥させた後、小型溶融混練り機に供給し、同時にジアリルモノグリシジルイソシアヌレートをおよび2−メタクリロイルオキシエチレンイソシアネートをポリマーに対してそれぞれ1.0重量%、3.0重量%になるように添加した。300℃で10分間、溶融混練りしたあとに空気中にてノズルから吐出させた。得られた樹脂を290℃、200kgf/cm2の圧力でヒートプレスした後、水中に急速冷却することで70μm厚の非晶フィルムを得た。このフィルムのカルボキシ末端量は2.0当量/10gであった。この非晶フィルムに窒素雰囲気中(酸素濃度30ppm)、加速電圧165keVの電子線を600kGy照射した。結果を表1に示すが、照射後のゲル分率は55%、熱流動開始温度は340℃であり、PETの融点以上においても溶融することなくフィルムの形態を保持していた。さらにこの架橋フィルムのカルボキシ末端量を測定した結果、26当量/10gであったことから電子線照射によるカルボキシ末端増加量は24当量/10gであった。また、この架橋フィルムのアセトンに対する耐溶剤性が向上していることが確認された。
【0041】
(実施例4)
実施例1と同様の重縮合反応を行った後、該ポリマーを常法に従ってチップ化し、固有粘度0.65のポリエチレンテレフタレートのチップを得た。このチップを常法に従って乾燥させた後、溶融押出機に供給し、同時にエクストルーダー入口から50〜60℃に加温したジアリルモノグリシジルイソシアヌレートおよびイルガノックス1010(酸化防止剤、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)の混合溶液をポリマーに対してそれぞれ1.5重量%、0.15重量%になるよう一定流量で添加した。混練りポリマーは紡糸温度285℃でオリフィス径φ0.2mmのノズルより単孔当り1.0g/minで紡出し、空気引取り方式により紡出速度4800m/minで引き取り、金網のネットコンベアー上に長繊維不織ウェブとして捕集した。該ウェブに圧接面積16%の1対の熱彫刻ロールを用いて温度230℃、線圧20kg/cmで圧接接着させ、目付55g/m2、厚さ0.3mmの長繊維不織布シートを得た。窒素雰囲気中(酸素濃度200ppm)にて、この長繊維不織布シートに加速電圧400keVの電子線を150kGy照射した(80〜100℃加熱下)。照射後のゲル分率は58%、熱流動開始温度は330℃であり、PETの融点以上においても溶融流動することはなかった。また電子線照射によるカルボキシ末端の増加量は16当量/10gであった。
【0042】
(実施例5)
実施例2と同様の方法で得たジアリルモノグリシジルイソシアヌレートがPETのカルボキシ末端に付加反応したレジンチップを常法に従って乾燥させた後、シリンダー温度240−260−260℃に調節された射出成形機(東芝機械株式会社製、IS80)のホッパーに供給して、表面温度が30℃に温度調節された金型を使用して、射出時間10秒、冷却時間10秒の条件にて、100×100×1mmの平板を射出成形した。窒素雰囲気中(酸素濃度200ppm)にて、この平板に加速電圧800keVの電子線を400kGy照射した。照射後のゲル分率は71%であり、また電子線照射によるカルボキシ末端の増加量は23当量/10gであった。
【0043】
(比較例1)
実施例1と同様の方法で繊維コードを得たが、電子線照射を窒素中ではなく加熱空気中(80〜100℃)で150kGy照射した。表1に結果を示すが、ゲル分率は22%、熱流動開始温度は285℃となり架橋反応が不十分であって、さらに主鎖切断の増加量は28当量/10gとやや高かった。酸素によって架橋反応が阻害され、またPET主鎖の酸化劣化が促進されたことを示唆する結果となった。
【0044】
(比較例2)
実施例2と同様の方法で延伸配向フィルムを得たが、窒素雰囲気中(酸素濃度30ppm)で加速電圧165keVの電子線を2000kGy照射した。表1に結果を示すが、ゲル分率は67重量%と十分なレベルであったが、主鎖切断の増加量は54当量/10gと高く、強度保持率が73%と低いものになった。
【0045】
(比較例3)
2−メタクリロイルオキシエチレンイソシアネートのみを3.0重量%添加したこと以外は実施例3と同様の方法でフィルムを得た。このフィルムのカルボキシ末端量は22当量/10g、ヒドロキシ末端量はH−NMR分析の結果からテレフタル酸に対して0.5mol%であった。2−メタクリロイルオキシエチレンイソシアネート等を添加せずに同じ熱履歴を経て作製したPETフィルムのカルボキシ末端量が34当量/10g、ヒドロキシ末端量がテレフタル酸に対して0.8mol%であったことから、PETのカルボキシ末端およびヒドロキシ末端への付加反応は認められたが、その付加量は十分とは言えなかった。このフィルムに実施例3と同条件で電子線を照射した結果、照射後のゲル分率は12%、熱流動開始温度は265℃であり、耐熱性は十分なものではなかった。さらにアセトンに対する耐溶剤性も十分ではなかった。
【0046】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明の芳香族ポリエステル架橋成形体は、高度な架橋度を有すると同時に主鎖劣化の少ない芳香族ポリエステル架橋成形体であり、特に芳香族ポリエステルの融点以上においても形態を保持することが可能な耐熱性を発現することができ、さらに力学特性や耐加水分解性等が高く保持されていることから、フィルム、繊維、チューブ、シート状物、押出し成型品などの成形体として、生活用品、電気製品部品、工業用機械部品などの用途に好適な芳香族ポリエステル架橋成形体である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ポリエステルの分子鎖末端の少なくとも一方に脂肪族系不飽和基を有するポリエステル樹脂を主成分とする成形体(A)に電離放射線を照射せしめて得られた架橋成形体であって、ゲル分率が40重量%以上、照射によるカルボキシ末端の増加量が30当量/10g以下であることを特徴とする芳香族ポリエステル架橋成形体。
【請求項2】
上記ポリエステル樹脂を主成分とする成形体(A)のカルボキシ末端量が5当量/10g以下であることを特徴とする請求項1記載の芳香族ポリエステル架橋成形体。
【請求項3】
上記芳香族ポリエステルの主たる繰り返し単位が、エチレンテレフタレート、プロピレンテレフタレート、ブチレンテレフタレート、エチレンナフタレートから選ばれる少なくとも1種以上であることを特徴とする請求項1又は2記載の芳香族ポリエステル架橋成形体。

【公開番号】特開2008−260805(P2008−260805A)
【公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−102834(P2007−102834)
【出願日】平成19年4月10日(2007.4.10)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】