説明

芳香族ポリカーボネート樹脂組成物およびその成形品

【課題】面衝撃強度および難燃性に優れる、薄肉成形品の製造に好適な、芳香族ポリカーボネート樹脂組成物および成形品の提供。
【解決手段】芳香族ポリカーボネート樹脂(a)60〜90重量%、ゴム質重合体/芳香族ビニル/シアン化ビニル系共重合体(b−1)10〜40重量%、芳香族ビニル/シアン化ビニル系共重合体(b−2)0〜35重量%の合計100重量部に対し、燐系難燃剤(c)10〜40重量部、フッ素化ポリオレフィン(d)0〜5重量部、無機充填材(e)0〜50重量部を配合して成る芳香族ポリカーボネート樹脂組成物であって、成分(b−1)及び(b−2)の合計に対するゴム質重合体成分の割合が31〜50重量%であり、流動平行方向のノッチ付きシャルピー衝撃強度(Cpf)と流動垂直方向のノッチ付きシャルピー衝撃強度(Cpc)が関係式(1)を満たす。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香族ポリカーボネート樹脂組成物およびその成形品に関するものであり、詳しくは、面衝撃強度および難燃性に優れ且つ薄肉成形品の製造に好適な芳香族ポリカーボネート樹脂組成物およびその成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリカーボネート樹脂は、優れた機械的性質を有しており、自動車分野、OA機器分野、電気・電子分野などの原材料として、工業的に広く利用されているが、溶融粘度が高く流動性が悪いこと、衝撃強度の厚み依存性が大きいこと等の欠点がある。流動性を確保するには、分子量が低いポリカーボネート樹脂を使用する方法、各種の流動性改質剤を配合する方法などが挙げられる。これらの方法によれば、何れも流動性の改良効果は認められるものの、ポリカーボネート樹脂本来の衝撃強度を犠牲にすること、耐薬品性が低下すること等の不具合がある。そこで、これらの不具合を解消するため、例えば、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン系共重合体(ABS系樹脂)の配合が行われている。
【0003】
ポリカーボネート樹脂とABS系樹脂から成る熱可塑性樹脂組成物は、近年、OA機器分野などの大型成形品、パソコン筐体、携帯端末などの小型成形品に使用されている。これらの製品は、軽量化、高機能化などを目的として、年々薄肉化されているが、従来の熱可塑性樹脂組成物では、薄い成形品の実用衝撃強度(例えば面衝撃性)に劣り、製品割れが問題となっている。また、難燃性付与を目的とした難燃剤の添加も製品強度の低下をもたらしている。難燃剤量が少ない場合や芳香族ポリカーボネート樹脂の比率が多い場合には、衝撃特性は改善されるが、難燃性や流動性が不十分であるといった問題があり、薄い成形品において、所望の難燃性を達成し、且つ、他の有用な特性を保持することは困難である。
【0004】
ポリカーボネート、ゴム−改良ビニル(コ)ポリマー及び防炎剤を主成分とし、全組成物中のゴム含有量が2〜6重量%である、耐衝撃性を改良した防炎ポリカーボネート樹脂組成物が提案され(特許文献1)、また、特定の無機添加剤の導入により、難燃性と衝撃性を改良したポリカーボネート樹脂組成物が提案されている(特許文献2)。しかしながら、これらのポリカーボネート樹脂組成物では、ABSが形成するドメインの分散や配向状態の影響により、特定方向の衝撃強さが低下するといった問題がある。さらに、上記の提案においては、面衝撃などの実薄肉成形品における衝撃強度については何ら言及されていない。
【0005】
【特許文献1】特表2005−507445号公報
【特許文献2】特開平11−199768号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、上記の問題点を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、芳香族ポリカーボネート樹脂にゴム質重合体の含量が31〜50重量%の芳香族ビニル/シアン化ビニル系共重合体を特定量配合させるならば、薄肉成形性と難燃性の特性を保持しつつ、実際成形品の薄肉部分の面衝撃強度に優れた芳香族ポリカーボネート樹脂組成物およびその成形品を提供できることを見出し、本発明を完成させた。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明の第1の要旨は、芳香族ポリカーボネート樹脂(a)60〜90重量%、ゴム質重合体/芳香族ビニル/シアン化ビニル系共重合体(b−1)10〜40重量%、芳香族ビニル/シアン化ビニル系共重合体(b−2)0〜35重量%の合計100重量部に対し、燐系難燃剤(c)10〜40重量部、フッ素化ポリオレフィン(d)0〜5重量部、無機充填材(e)0〜50重量部を配合して成る芳香族ポリカーボネート樹脂組成物であって、成分(b−1)及び(b−2)の合計に対するゴム質重合体成分の割合が31〜50重量%であり、当該芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の射出成形品について、JIS K7111規格に準拠して測定した際の流動平行方向のノッチ付きシャルピー衝撃強度(Cpf)と流動垂直方向のノッチ付きシャルピー衝撃強度(Cpc)が以下の関係式(1)を満たすことを特徴とするポリカーボネート樹脂組成物に存し、本発明の第2の要旨は、上記の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を射出成形して得られる成形品に存する。
【0008】
【数1】

【発明の効果】
【0009】
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、難燃性を保持し、且つ、従来の難燃性芳香族ポリカーボネート樹脂組成物に比べ、成形品薄肉部分での面衝撃性に優れているため、薄肉難燃性成形品、例えば、パソコン、テレビ、プリンター、電子手帳、カメラ、ビデオカメラ、携帯電話、事務機器などの部品やハウジングとして好適に使用することが期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、芳香族ポリカーボネート樹脂(a)、ゴム質重合体/芳香族ビニル/シアン化ビニル系共重合体(b−1)、芳香族ビニル/シアン化ビニル系共重合体(b−2)、燐系難燃剤(c)、フッ素化ポリオレフィン(d)、無機充填材(e)を配合して成る。但し、成分(b−2)、(d)及び(e)は必須成分ではなく任意成分である。
【0011】
先ず、上記の各成分について説明する。
【0012】
芳香族ポリカーボネート樹脂(a):
本発明で使用する芳香族ポリカーボネート樹脂(a)は、芳香族ジヒドロキシ化合物またはこれと少量のポリヒドロキシ化合物をホスゲン又は炭酸ジエステルと反応させることによって得られる、分岐していてもよい熱可塑性重合体または共重合体である。
【0013】
芳香族ポリカーボネート樹脂の製造方法は、特に限定されず、ホスゲン法(界面重合法)、溶融法(エステル交換法)等の従来法によることが出来る。また、溶融法で製造され、末端基のOH基量を調節して製造されたポリカーボネート樹脂であってもよい。
【0014】
芳香族ジヒドロキシ化合物としては、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(別名:ビスフェノールA)、テトラメチルビスフェノールA、ビス(4−ヒドロキシフェニル)−p−ジイソプロピルベンゼン、ハイドロキノン、レゾルシノール、4,4−ジヒドロキシジフェニル等が挙げられ、好ましくはビスフェノールAである。さらに、上記の芳香族ジヒドロキシ化合物として、スルホン酸テトラアルキルホスホニウムが一個以上結合した化合物を使用することが出来る。
【0015】
分岐した芳香族ポリカーボネート樹脂を得るには、フロログルシン、4,6−ジメチル−2,4,6−トリ(4−ヒドロキシフェニル)ヘプテン−2、4,6−ジメチル−2,4,6−トリ(4−ヒドロキシフェニル)ヘプタン、2,6−ジメチル−2,4,6−トリ(4−ヒドロキシフェニル)ヘプテン−3、1,3,5−トリ(4−ヒドロキシフェニル)ベンゼン、1,1,1−トリ(4−ヒドロキシフェニル)エタン等のポリヒドロキシ化合物、3,3−ビス(4−ヒドロキシアリール)オキシインドール(別名:イサチンビスフェノール)、5−クロルイサチン、5,7−ジクロルイサチン、5−ブロムイサチン等で上記の芳香族ジヒドロキシ化合物の一部を置換すればよい。これらの使用量は、上記の芳香族ジヒドロキシ化合物に対し、通常0.01〜10モル%、好ましくは0.1〜2モル%である。
【0016】
芳香族ポリカーボネート樹脂の分子量を調節するには、一価の芳香族ヒドロキシ化合物を使用すればよい。一価の芳香族ヒドロキシ化合物としては、m−及びp−メチルフェノール、m−及びp−プロピルフェノール、p−tert−ブチルフェノール、p−長鎖アルキル置換フェノール等の芳香族モノヒドロキシ化合物などが挙げられる。
【0017】
芳香族ポリカーボネート樹脂としては、好ましくは、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンから誘導される芳香族ポリカーボネート樹脂、または、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンと他の芳香族ジヒドロキシ化合物とから誘導される芳香族ポリカーボネート共重合体が挙げられる。また、シロキサン構造を有するポリマー又はオリゴマーを共重合させることも出来る。これらの芳香族ポリカーボネート樹脂は二種以上を併用してもよい。
【0018】
芳香族ポリカーボネート樹脂の分子量は、溶媒としてメチレンクロライドを使用し、温度25℃で測定された溶液粘度より換算した粘度平均分子量として、通常16,000〜30,000、好ましくは18,000〜28,000である。粘度平均分子量が余りにも大きい場合は流動性が不十分となり、余りに小さい場合は衝撃強度が不十分となる。また、粘度平均分子量の異なる二種類以上の芳香族ポリカーボネート樹脂を混合してもよい。この場合、粘度平均分子量が上記の範囲外である芳香族ポリカーボネート樹脂を混合してもよい。
【0019】
ゴム質重合体/芳香族ビニル/シアン化ビニル系共重合体(b−1):
本発明で使用するゴム質重合体/芳香族ビニル/シアン化ビニル系共重合体(b−1)は、ゴム質重合体の存在下に少なくとも芳香族ビニル系単量体とシアン化ビニル系単量体とを重合し、必要であれば、更に、上記の各単量体と共重合可能な他の単量体を重合して成る共重合体である。この成分(b−1)においては、上記の二種以上の単量体が全てゴム成分とグラフト重合しグラフト共重合体を形成している必要はない。また、これら共重合体の製造方法としては、乳化重合、溶液重合、塊状重合、懸濁重合などの公知の方法が挙げられる。
【0020】
上記の成分(b−1)中のゴム質重合体成分は、ゴム質を示す重合体であれば、特に限定されない。その例としては、ジエン系ゴム、アクリル系ゴム、エチレン/プロピレンゴム、シリコンゴム、ポリウレタンゴム等が挙げられる。これらの中では、性能とコストとのバランスの点から、ジエン系ゴム又はアクリル系ゴムが好ましい。
【0021】
ジエン系ゴムとしては、例えば、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ブタジエン/スチレン共重合体、ブタジエン/アクリロニトリル共重合体、ブタジエン/(メタ)アクリル酸低級アルキルエステル共重合体、ブタジエン/スチレン/(メタ)アクリル酸低級アルキルエステル共重合体などが挙げられる。(メタ)アクリル酸低級アルキルエステルとしては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル等が挙げられる。ブタジエン/(メタ)アクリル酸低級アルキルエステル共重合体、または、ブタジエン/スチレン/(メタ)アクリル酸低級アルキルエステル共重合体における(メタ)アクリル酸低級アルキルエステルの割合は、ゴム重量の30重量%以下であることが好ましい。
【0022】
一方、アクリル系ゴムとしては、例えばアクリル酸アルキルゴムが挙げられ、アルキル基の炭素数は通常1〜8である。アクリル酸アルキルゴムの具体例としては、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸エチルヘキシル等が挙げられる。アクリル酸アルキルゴムには、架橋性のエチレン性不飽和単量体(架橋剤)が使用されていてもよい。架橋剤としては、例えば、アルキレンジオール、ジ(メタ)アクリレート、ポリエステルジ(メタ)アクリレート、ジビニルベンゼン、トリビニルベンゼン、シアヌル酸トリアリル、(メタ)アクリル酸アリル、ブタジエン、イソプレン等が挙げられる。更に、アクリル系ゴムとしては、コアとして架橋ジエン系ゴムを有するコア−シェル型重合体が挙げられる。
【0023】
上記の成分(b−1)中の芳香族ビニル系単量体としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、t−ブチルスチレン、ビニルトルエン、メチル−α−メチルスチレン、ジビニルベンゼン、ジフェニルスチレン、ビニルキシレン等が挙げられる。これらの中ではスチレン又はα−メチルスチレンが好ましい。
【0024】
上記の成分(b−1)中のシアン化ビニル系単量体としては、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、クロトンニトリル、ケイ皮酸ニトリル等が挙げられる。これらの中ではアクリロニトリル又はメタクリロニトリルが好ましい。
【0025】
上記の成分(b−1)は、芳香族ビニル系単量体およびシアン化ビニル系単量体と共重合可能な他の単量体を共に重合してもよい。ここで使用する他の単量体としては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸アミル、アクリル酸−2−エチルヘキシル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸アミル、メタクリル酸2−エチルヘキシル等の(メタ)アクリル酸アルキルエステル化合物;アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、エタクリル酸グリシジル等のα,β−不飽和酸グリシジルエステル化合物;マレイミド、N−メチルマレイミド、N−ブチルマレイミド、N−フェニルマレイミド等のマレイミド系化合物が挙げられる。これらの中では(メタ)アクリル酸アルキルエステル化合物が好ましい。
【0026】
上記の成分(b−1)における前記の各成分の割合は次の通りである。すなわち、ゴム質重合体成分は、通常31〜65重量%、好ましくは31〜55重量%、芳香族ビニル成分は、通常25〜60重量%、好ましくは30〜60重量%、シアン化ビニル成分は、通常5〜25重量%、好ましくは5〜20重量%、これらと共重合可能な他の単量体成分は、通常0〜30重量%、好ましくは0〜25重量%である。また、芳香族ビニル成分およびシアン化ビニル成分の合計重量に対するシアン化ビニル成分の重量比は、通常10〜45重量%、好ましくは15〜40重量%である。なお、成分(b−1)は二種類以上を併用してもよい。
【0027】
上記の成分(b−1)の具体例としては、スチレン、ブタジエンおよびアクリロニトリルから成るABS樹脂;当該ABS樹脂のスチレンの一部または大部分をα−メチルスチレン又はマレイミドに置き換えた耐熱ABS樹脂;ブタジエンをエチレン−プロピレン系ゴムやポリブチルアクリレートに置き換えた(耐熱)AES樹脂や(耐熱)AAS樹脂;ブタジエンをシリコンゴムやシリコン/アクリル複合ゴムに置き換えた(耐熱)ABS系樹脂などが挙げられる。これらの中ではABS樹脂が好ましい。
【0028】
芳香族ビニル/シアン化ビニル系共重合体(b−2):
本発明で使用する芳香族ビニル/シアン化ビニル系共重合体(b−2)は、ゴム質重合体の非存在下に少なくとも芳香族ビニル系単量体とシアン化ビニル系単量体とを重合し、必要であれば、更に、上記の各単量体と共重合可能な他の単量体を重合して成る共重合体である。その代表例はスチレン及びアクリロニトリルから成るAS樹脂である。
【0029】
上記の成分(b−2)中の、芳香族ビニル系単量体、シアン化ビニル系単量体、これら共重合可能な他の単量体としては、例えば、前記の成分(b−1)で使用される単量体成分が挙げられる。
【0030】
上記の成分(b−2)における前記の各成分の割合は次の通りである。すなわち、芳香族ビニル成分は、通常45〜90重量%、好ましくは45〜80重量%、シアン化ビニル成分は、通常5〜50重量%、好ましくは10〜45重量%、他の単量体成分は、通常0〜30重量%、好ましくは0〜25重量%である。また、芳香族ビニル成分およびシアン化ビニル成分の合計重量に対するシアン化ビニル成分の重量比は、通常10〜45重量%、好ましくは15〜40重量%である。なお、成分(b−2)は二種類以上を併用してもよい。
【0031】
本発明で使用する成分(b−1)及び(b−2)において、これらを構成する各単量体単位はそれぞれ同種であっても異種であってもよい。
【0032】
燐系難燃剤(c):
本発明で使用する燐系難燃剤(c)は、分子中にリンを含む化合物であり、好ましい燐系難燃剤は、以下の一般式(1)又は(2)で表される燐系化合物である。
【0033】
【化1】

(式中、R、R及びRは、それぞれ、炭素数1〜6のアルキル基またはアルキル基で置換されていてもよい炭素数6〜20のアリール基を示し、h、i及びjは、それぞれ0又は1を示す。)
【0034】
一般式(1)で表される燐系化合物は、公知の方法により、オキシ塩化燐などから製造することが出来る。一般式(1)で表される燐系化合物の具体例としては、燐酸トリフェニル、燐酸トリクレジル、燐酸ジフェニル−2−エチルクレジル、燐酸トリ(イソプロピルフェニル)、メチルホスホン酸ジフェニルエステル、フェニルホスホン酸ジエチルエステル、燐酸ジフェニルクレジル、燐酸トリブチル等が挙げられる。
【0035】
【化2】

(式中、R、R、R及びRは、それぞれ、炭素数1〜6のアルキル基またはアルキル基で置換されていてもよい炭素数6〜20のアリール基を示し、p、q、r及びsは、それぞれ0又は1であり、tは、1〜5の整数であり、Xは、アリーレン基を示す。)
【0036】
一般式(2)で表される燐系化合物は、tが1〜5の縮合燐酸エステルであり、tが異なる縮合燐酸エステルの混合物の場合、tはそれらの混合物の平均値となる。Xは、アリーレン基を示し、例えば、レゾルシノール、ハイドロキノン、ビスフェノールA等のジヒドロキシ化合物から誘導される二価の基である。
【0037】
一般式(2)で表される燐系化合物の具体例としては、ジヒドロキシ化合物にレゾルシノールを使用した場合は、フェニルレゾルシン・ポリホスフェート、クレジル・レゾルシン・ポリホスフェート、フェニル・クレジル・レゾルシン・ポリホスフェート、キシリル・レゾルシン・ポリホスフェート、フェニル−p−t−ブチルフェニル・レゾルシン・ポリホスフェート、フェニル・イソプロピルフェニル・レゾルシンポリホスフェート、クレジル・キシリル・レゾルシン・ポリホスフェート、フェニル・イソプロピルフェニル・ジイソプロピルフェニル・レゾルシンポリホスフェート等が挙げられる。
【0038】
また、本発明で使用する燐系難燃剤(c)はホスファゼン化合物であってもよい。斯かる化合物としては、環状フェノキシホスファゼン化合物、鎖状フェノキシホスファゼン化合物および架橋フェノキシホスファゼン化合物から選ばれた少なくとも一種である。
【0039】
フッ素化ポリオレフィン(d):
本発明で使用するフッ素化ポリオレフィン(d)としては、例えばポリフルオロエチレンが挙げられ、好ましくはフィブリル形成能を有するポリテトラフルオロエチレンが挙げられる。これは、重合体中に容易に分散し、且つ、重合体同士を結合して繊維状材料を作る傾向を示す。フィブリル形成能を有するポリテトラフルオロエチレンはASTM規格でタイプ3に分類される。フィブリル形成能を有するポリテトラフルオロエチレンとしては、例えば、三井・デュポンフロロケミカル(株)より、「テフロン(登録商標)6J」又は「テフロン(登録商標)30J」として、ダイキン工業(株)より、「ポリフロン(商品名)」として市販されている。
【0040】
無機充填材(e):
本発明で使用する無機充填材(e)としては、特に限定されず、慣用の全ての無機充填材が挙げられる。具体的には、例えば、ガラス繊維、ガラスフレーク、ガラスビーズ、ミルドガラス、中空ガラス、タルク、クレー、マイカ、炭素繊維、ウォラストナイト、チタン酸カリウムウィスカー、酸化チタンウィスカー、酸化亜鉛ウィスカー等が挙げられる。これらの中では、外観の観点から、ミルドガラス、タルク、クレー又はウォラストナイトが好ましい。特に、レーザー回折法で測定した数平均粒子径が9.0μm以下であり、Fe成分およびAl成分の含有量がそれぞれFe及びAlとして0.5重量%以下である表面処理されていないタルクが好ましい。
【0041】
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物における、前記の必須成分および任意成分の割合は次の通りである。以下において、芳香族ポリカーボネート樹脂(a)、ゴム質重合体/芳香族ビニル/シアン化ビニル系共重合体(b−1)及び芳香族ビニル/シアン化ビニル系共重合体(b−2)の配合量は、これらの成分(a)、(b−1)及び(b−2)の合計100重量%に対する値であり、燐系難燃剤(c)、フッ素化ポリオレフィン(d)及び無機充填材(e)の配合量は、成分(a)、(b−1)及び(b−2)の合計100重量部に対する値である。
【0042】
芳香族ポリカーボネート樹脂(a)の配合量は、60〜90重量%、好ましくは70〜90重量%であり、配合量が上記の上限を超えると流動性が低下し易く、上記の下限未満では耐熱性が低下し易い。
【0043】
ゴム質重合体/芳香族ビニル/シアン化ビニル系共重合体(b−1)の配合量は、10〜40重量%、好ましくは10〜30重量%である。芳香族ビニル/シアン化ビニル系共重合体(b−2)の配合量は、0〜35重量%、好ましくは0〜25重量%である。これらの成分(b−1)及び(b−2)の配合量が上記の上限を超えると耐衝撃性が低下し易く、上記の下限未満では流動性が低下し易い。
【0044】
燐系難燃剤(c)の配合量は、10〜40重量部、好ましくは10〜30重量部、更に好ましくは15〜25重量部であり、配合量が上記の上限を超えると機械的物性が低下し易く、上記の下限未満では難燃性が不十分である。
【0045】
フッ素化ポリオレフィン(d)の配合量は、0〜5重量部、好ましくは0.02〜4重量部、更に好ましくは0.03〜3重量部であり、配合量が上記の上限を超えると成形品外観の低下が起こり易い。
【0046】
無機充填材(e)の配合量は、0〜50重量部であり、好ましくは、1〜40重量部、更に好ましくは3〜30重量部であり、配合量が上記の上限を超えると、成形品外観の悪化や衝撃強度の低下が起こり易い。
【0047】
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、上述した成分(a)〜(e)以外に、必要に応じ、本発明の目的を損なわない範囲で他の各種樹脂添加剤を含有してもよい。例えば、安定剤(酸化防止剤、紫外線吸収剤など)、離型剤、滑剤、可塑剤、帯電防止剤、摺動性改良剤、流動性改良剤、抗菌剤、着色剤(顔料、染料など)、エラストマー、相溶化剤、その他の難燃剤などは、要求される性能を損なわない範囲で含有させることが出来る。
【0048】
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の製造方法としては、特に制限されず、通常の熱可塑性樹脂組成物の製造方法を採用することが出来る。例えば、タンブラーやヘンシェルミキサーなどの各種混合機を使用して予め原料成分を混合した後、バンバリーミキサー、ロール、ブラベンダー、単軸混練押出機、二軸混練押出機、ニーダー等で溶融混練することによって樹脂組成物を製造することが出来る。なお、樹脂以外の成分は、予備混合せずに、溶融混練時、押出機など混練機の途中から供給してもよい。
【0049】
予め一部の成分を溶融混練し中間組成物を製造した後、その他の成分を配合し溶融混練して樹脂組成物を製造することも出来る。また、一部の成分のマスターバッチを製造し、得られたマスターバッチとその他の成分とを溶融混練し、目的の樹脂組成物を得てもよい。
【0050】
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の最大の特徴は、前記の様に構成される芳香族ポリカーボネート樹脂組成物であって、前記成分(b−1)及び(b−2)の合計に対するゴム質重合体成分の割合が31〜50重量%であり、当該芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の射出成形品について、JIS K7111規格に準拠して測定した際の流動平行方向のノッチ付きシャルピー衝撃強度(Cpf)と流動垂直方向のノッチ付きシャルピー衝撃強度(Cpc)が以下の関係式(1)を満たす点にある。
【0051】
【数2】

【0052】
すなわち、本発明者らの知見によれば、上記の2つの条件を満たす場合に、薄肉成形品における所望の面衝撃性と難燃性を同時に達成できる。成分(b−1)及び(b−2)の合計に対するゴム質重合体成分の割合は、好ましくは31〜45重量%であり、また、射出成形品についてのCpf/Cpcは1.5未満である。
【0053】
本発明におけるシャルピー衝撃強度とは、長さ100mm、幅150mm、肉厚2mmの射出成形品の中心部から、樹脂流動平行方向および垂直方向に、長さ80mm、幅10mmの寸法に切り出した試験片にノッチ加工を施し、JIS K7111規格に準拠して測定して得られた測定値である。また、射出成形品は、射出成形機として東芝機械社製「IS150」を使用し、シリンダー温度240℃、金型温度60℃、射出速度100mm/秒、成形サイクル40秒の条件で作製したものである。
【0054】
面衝撃強度は、成分(b−1)及び(b−2)が形成するドメイン粒径と配向に関連があると考えられる。成分(b−1)及び成分(b−2)が形成するドメインは、成形時の剪断力の影響により、その形状が樹脂流動方向に細長く配向する傾向があり、成形品を成形した場合、樹脂流動平行方向と垂直方向での耐衝撃性に差が生じる。
【0055】
上記の関係式(1)におけるCpf/Cpcの値が小さいということは、ドメイン配向による衝撃の異方性が小さい、すなわち、樹脂流動と平行方向へのドメイン配向が小さいことを意味している。このようなドメイン配向を小さくすることによって衝撃の異方性を低減でき、特定方向での割れが発生し難くなり、その結果、面衝撃性が向上すると考えられる。
【0056】
本発明者らの知見によれば、成分(b−1)及び(b−2)の合計に対するゴム質重合体含有量が31重量%以上の場合に、射出成形時に、成分(b−1)及び成分(b−2)が形成するドメインが微分散し易くなり、ドメイン配向による衝撃の異方性を低減できる。特に、シャルピー衝撃試験において上記の関係式(1)を満たす場合には、特定方向での割れが発生し難く、面衝撃性が向上する。一方、ゴム質重合体含有量が50重量%を超えると、薄肉部での難燃性が低下する。従って、ゴム質重合体含有量が31〜50重量%であって、上記の関係式(1)を満たす場合のみ、実薄肉成形品に要求される面衝撃性と難燃性を同時に達成できる。
【0057】
Cpf/Cpcの値は、例えば、樹脂組成物の組成比や製造条件、原材料の種類や製造方法などにより様々の値を取るが、例えば、以下のような方法を採用することにより、本発明で規定する組成範囲内において上記の関係式(1)を満足させることがより容易となる。
【0058】
原材料の成分(b−1)としては、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン(ABS)樹脂を、成分(b−2)としては、アクリロニトリル/スチレン(AS)樹脂を使用するのが好ましい。
【0059】
本発明の樹脂組成物は、ABS樹脂およびAS樹脂中のゴム質重合体成分(ブタジエン成分)の割合が31〜50重量%と高いため、ABS樹脂およびAS樹脂のAN比が同程度の場合でも、成分(b−1)及び成分(b−2)が形成するドメインの凝集を防止することが出来、その結果、ドメイン配向の影響が少なくなり、高い面衝撃性を発現させることが可能である。
【0060】
しかしながら、押出機を使用し溶融混練によって本発明の樹脂組成物を製造する場合は、上記の両成分の相溶性の面から、特に、成分(b−1)及び(b−2)を構成するスチレン及びアクリロニトリル単量体の合計重量に対するアクリロニトリル単量体の重量比、すなわち、以下に規定する「AN比」が十分に相違するものを使用するのがより好ましい。
【0061】
【数3】

【0062】
すなわち、ABS樹脂およびAS樹脂のAN比は、相溶性の観点から、通常は同程度のものが使用される。しかしながら、本発明においては、上記と異なり、ABS樹脂およびAS樹脂のAN比が十分に相違するするものを組み合わせて使用するならば、ドメインの分散性を向上させ、その結果、より高い面衝撃性を発現させることが可能である。
【0063】
本発明の樹脂組成物の製造方法としては、ベント口から脱揮できる設備を有する2軸の押出機を混練機として使用する溶融混練法が好ましい。各成分の分散性を向上させ、安定した混練を行うために、燐系難燃剤(c)以外の成分、すなわち、成分(a)、(b−1)、(b−2)及び任意の添加成分は、タンブラーやヘンシェルミキサー等の混合機を使用して予め混合しておくことが好ましい。溶融混練に際しては、バレル温度200〜350℃、スクリュー回転数50〜1000rpmの条件を採用し、燐系難燃剤(c)は押出機の途中のブロックから、ギアポンプ、プランジャーポンプ等の各種ポンプにて添加することが有効である。
【0064】
本発明で規定する樹脂組成範囲において、上記のような条件の何れかを採用することにより、または、複数の条件を組み合わせることにより、上記の関係式(1)を満足させることが容易となる。その結果、本発明の芳香族ポリカーポネート樹脂組成物を使用し、成形品、特に厚み1.5mm以下の薄肉成形品を成形した場合、高い面衝撃強度と難燃性を同時に達成することが出来る。
【0065】
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、熱可塑性樹脂組成物について一般に使用される成形法、すなわち、射出成形、中空成形、押出成形、シート成形、真空成形、異形成形、発泡成形、圧縮成形、射出圧縮成形、ブロー成形、回転成形、積層成形などにより、OA・家電分野、電気・電子・通信分野、コンピューター分野、雑貨分野、車両分野などの各種成形品にすることが出来る。流動性および面衝撃性に優れている点から、特に射出成形による大型成形品や薄肉成形品として有用である。
【0066】
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、特に1.5mm以下の樹脂厚みの部分を有する射出成形品において、優れた面衝撃性を発揮できる。更に、上記の樹脂厚みにおいても、実成形品の要求性能を満たすに十分な難燃性を備えている。そのため、近年、軽量化・薄肉化する傾向にあるOA・家電分野、電気・電子・通信分野、コンピューター分野、雑貨分野、車両分野などの各種成形品向け材料として、本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は好適である。
【実施例】
【0067】
以下、本発明を実施例によって更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。使用した原料は次の通りである。
【0068】
芳香族ポリカーボネート樹脂(a):
ポリ−4,4−イソプロピリデンジフェニルカーボネート[三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製「ユーピロン(登録商標)S−2000」、粘度平均分子量25,000]
【0069】
成分(b−1)(ABS樹脂−1):
アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン共重合体[日本サムスン社製「CHT」(商品名)、ブタジエン含有量58重量%、AN比=22重量%]
【0070】
成分(b−1)(ABS樹脂−2):
アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン共重合体[日本エイアンドエル社製「AT−08」(商品名)、ブタジエン含有量17重量%、AN比=25重量%]
【0071】
成分(b−2)(AS樹脂−1):
アクリロニトリル/スチレン共重合体[テクノポリマー社製「SAN−C」(商品名)、AN比=26重量%]
【0072】
成分(b−2)(AS樹脂−2):
アクリロニトリル/スチレン共重合体[テクノポリマー社製「SAN−FF」(商品名)、AN比=24重量%]
【0073】
燐系難燃剤(c):下記式(3)(式中、t1=1.1)で示される縮合燐酸エステル[旭電化工業社製「アデカスタブ FP700」(商品名)]
【0074】
【化3】

【0075】
フッ素化ポリオレフィン(d):
ポリテトラフルオロエチレン[三井・デュポンフロロケミカル社製「テフロン(登録商標)6J」]
【0076】
無機充填材(e):
タルク(数平均粒子径2.8μm、表面処理なし)[林化成社製「ミクロンホワイト5000S」(商品名)]
【0077】
離型剤:
ペンタエリスリト−ルテトラステアレート[コグニス社製「VPG861」(商品名)]
【0078】
安定剤:
トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト[旭電化工業社製「アデカスタブ2112」(商品名)]
【0079】
実施例1〜5及び比較例1〜5:
燐系難燃剤を除く各成分を表1及び表2に示す割合(重量比)で配合し、タンブラーにて20分混合した後、バレル温度を以下の所定温度とし、スクリュー回転数250rpm、押出速度20kg/時間に設定した2軸押出機(日本製鋼所社製「TEX30HSST」、バレル:12ブロック構成)で混練し、押出されたストランドを切断してペレットを作製した。バレル温度は、比較例5以外では250℃、比較例5では360℃とした。そして、燐系難燃剤は、80℃に加温し、ホッパー側から数えて3番目のブロックからギアポンプにて添加した。得られたペレットを使用し、以下に記載の各試験を行い、その結果を表1及び表2に示した。
【0080】
[落錘衝撃試験]
得られたペレットを、80℃で5時間乾燥した後、射出成形機(東芝機械社製「IS150」)にて、シリンダー温度240℃、金型温度60℃、射出速度100mm/秒、成形サイクル40秒の条件で、射出成形を行い、長さ100mm、幅150mm、肉厚1.2mm及び2mmの成形品を作製した。得られた成形品について、JIS K7211規格に準拠して落錘衝撃試験を行なった。
【0081】
[シャルピー衝撃試験]
得られたペレットを、80℃で5時間乾燥した後、射出成形機(東芝機械社製「IS150」)にて、シリンダー温度240℃、金型温度60℃、射出速度100mm/秒、成形サイクル40秒の条件で射出成形を行い、長さ100mm、幅150mm、肉厚2mmの成形品を作製した。得られた成形品から、樹脂流動平行方向および流動垂直方向に、長さ80mm、幅10mmの寸法に試験片を切り出した後、ノッチ加工を施し、JIS K7111規格に準拠してシャルピー衝撃試験を行なった。
【0082】
[燃焼試験]
得られたペレットを、80℃で5時間乾燥した後、射出成形機(日本製鋼所社製 J50)シリンダー温度250℃、金型温度60℃、射出速度100mm/秒、成形サイクル45秒の条件で射出成形を行い、長さ127mm、幅12.7mm、肉厚0.8mmの燃焼試験片を作製した。得られた試験片について、UL94規格に準拠して燃焼性の評価を行なった。表2中の「NG」は、UL94規格による燃焼性評価の基準に当てはまらないことを意味する。
【0083】
【表1】

【0084】
【表2】

【0085】
表1及び表2より次のことが分かる。すなわち、ABS樹脂およびAS樹脂中のブタジエン成分が31〜50重量%であり、Cpf/Cpcの比が2未満の範囲において、V−0レベルの難燃性を保持し、且つ、良好な面衝撃性を示す。ABS樹脂およびAS樹脂中のブタジエン成分が31重量%未満では落錘衝撃強度が低い値を示し(比較例1及び2)、31重量%以上であってもCpf/Cpcの比が2以上では面衝撃性が低下する(比較例4)。また、ABS樹脂およびAS樹脂中のブタジエン成分が50重量%を超える場合は、十分な難燃性を得られない(比較例3)。更に、樹脂組成物の製造時のバレル温度が高すぎる場合は、Cpf/Cpcの比が2以上となり、面衝撃性および難燃性は共に悪化する(比較例5)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ポリカーボネート樹脂(a)60〜90重量%、ゴム質重合体/芳香族ビニル/シアン化ビニル系共重合体(b−1)10〜40重量%、芳香族ビニル/シアン化ビニル系共重合体(b−2)0〜35重量%の合計100重量部に対し、燐系難燃剤(c)10〜40重量部、フッ素化ポリオレフィン(d)0〜5重量部、無機充填材(e)0〜50重量部を配合して成る芳香族ポリカーボネート樹脂組成物であって、成分(b−1)及び(b−2)の合計に対するゴム質重合体成分の割合が31〜50重量%であり、当該芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の射出成形品について、JIS K7111規格に準拠して測定した際の流動平行方向のノッチ付きシャルピー衝撃強度(Cpf)と流動垂直方向のノッチ付きシャルピー衝撃強度(Cpc)が以下の関係式(1)を満たすことを特徴とする芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
【数1】

【請求項2】
上記の成分(b−1)がアクリロニトリル/ブタジエン/スチレン共重合体、成分(b−2)がアクリロニトリル/スチレン共重合体である請求項1に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項3】
芳香族ポリカーボネート樹脂(a)の粘度平均分子量が16,000〜30,000である請求項1又は2に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項4】
燐系難燃剤(c)が以下の一般式(1)又は(2)で表される燐系化合物である請求項1〜3の何れかに記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
【化1】

(式中、R、R及びRは、それぞれ、炭素数1〜6のアルキル基またはアルキル基で置換されていてもよい炭素数6〜20のアリール基を示し、h、i及びjは、それぞれ0又は1を示す。)
【化2】

(式中、R、R、R及びRは、それぞれ、炭素数1〜6のアルキル基またはアルキル基で置換されていてもよい炭素数6〜20のアリール基を示し、p、q、r及びsは、それぞれ0又は1であり、tは1〜5の整数であり、Xはアリーレン基を示す。)
【請求項5】
無機充填材(e)がタルクである請求項1〜4の何れかに記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1〜5の何れかに記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を射出成形して得られる成形品。
【請求項7】
1.5mm以下の厚みの部分を有する請求項6に記載の成形品。

【公開番号】特開2007−169616(P2007−169616A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−316705(P2006−316705)
【出願日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【出願人】(594137579)三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社 (609)
【Fターム(参考)】