説明

芳香族ポリカーボネート樹脂組成物および成形品

【課題】透明性と難燃性に優れたポリカーボネート樹脂組成物および成形品を提供する。
【解決手段】エステル交換法により製造された分岐状芳香族ポリカーボネート(A1)30〜100質量%と、界面重合法により製造された直鎖状芳香族ポリカーボネート(A2)70〜0質量%を含有する芳香族ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、
フェノキシホスファゼン系難燃剤(B)を8質量部を超え18質量部以下含有することを特徴とする芳香族ポリカーボネート樹脂組成物による。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香族ポリカーボネート樹脂組成物および成形品に関し、詳しくは、ポリカーボネート樹脂本来の透明性を維持しつつ、優れた難燃性を有する芳香族ポリカーボネート樹脂組成物およびそれから得られる成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート樹脂は、耐熱性、機械的物性、電気的特性に優れた樹脂であり、例えば自動車材料、電気電子機器材料、住宅材料、その他の工業分野における部品製造用材料等に幅広く利用されている。特に、難燃化されたポリカーボネート樹脂組成物は、大型フラットディスプレイの枠体、コンピューター、ノートブック型パソコン、携帯電話、プリンター、複写機等のOA・情報機器等の部材として好適に使用されている。
【0003】
ポリカーボネート樹脂に難燃性を付与する手段としては、従来、ハロゲン系難燃剤やリン系難燃剤をポリカーボネート樹脂に配合することがなされてきた。しかしながら、塩素や臭素を含有するハロゲン系難燃剤を配合したポリカーボネート樹脂組成物は、熱安定性の低下を招いたり、成形加工時における成形機のスクリューや成形金型の腐食を招いたりすることがあった。また、リン系難燃剤を配合したポリカーボネート樹脂組成物は、ポリカーボネート樹脂の特徴である高い透明性を阻害したり、耐衝撃性、耐熱性の低下を招いたりするため、その用途が制限されることがあった。
加えて、これらのハロゲン系難燃剤及びリン系難燃剤は、製品の廃棄、回収時に環境汚染を惹起する可能性があるため、近年ではこれらの難燃剤を使用することなく難燃化することが望まれている。
【0004】
これに対し、パーフルオロアルカンスルホン酸アルカリ金属塩や芳香族スルホン酸ナトリウム等の有機アルカリ金属塩化合物及び有機アルカリ土類金属塩化合物に代表される金属塩化合物が有用な難燃剤として検討されている。
たとえば、特許文献1には、トルエンスルホン酸ナトリウム塩に代表される単量体芳香族スルホン酸の金属塩が提案され、特許文献2には、単量体の芳香族スルホンスルホン酸の金属塩が提案されている。
しかしながら、このような金属塩化合物によって得られる難燃効果は、限定的であり、未だ満足のいくレベルの難燃性を得ることはできなかった。また、高い難燃効果を得ようと添加量を多くしても、効果が上がらないばかりか、かえって難燃性が悪化するという問題点を有していた。
そこで、特許文献3では、芳香族スルホンスルホン酸塩と芳香族スルホン酸塩、必要によりシロキサンオリゴマーを配合した難燃性ポリカーボネート樹脂組成物が提案されているが、このような組合わせによって発現する難燃効果も依然として限定的であった。
(特許文献3〜5参照)。
【0005】
さらに、難燃剤としてホスファゼン化合物が提案され、対加水分解性や耐熱性が高いことからポリカーボネート樹脂にも使用されているが、単独ではその難燃効果は十分ではなく、そのため特許文献4では、ポリカーボネート樹脂100質量部に、フェノキシホスファゼン化合物0.1〜40質量部、有機アルカリ(土類)金属塩またはオルガノポリシロキサン0.01〜50質量部を配合することが提案され、これによって難燃性は向上する。
しかしながら、これらホスファゼン系難燃剤と他の難燃剤と併用する場合、その組み合わせによっては、ポリカーボネート樹脂の透明性を低下させやすいという問題があり、白濁が起こり、ヘイズが低下し、成形品の透明性が低下という課題を有していた。
【0006】
こうした状況下、ポリカーボネート樹脂自体の優れた透明性を維持しながら、高い難燃性を有するポリカーボネート樹脂材料の開発が強く望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特公昭57−43100号公報
【特許文献2】特公昭58−13587号公報
【特許文献3】特表2009−526899号公報
【特許文献4】特開2001−200151号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、ポリカーボネート樹脂本来の高い透明性を維持し、優れた難燃性を有する製品が得られるポリカーボネート樹脂組成物、及びこれを成形してなる樹脂成形品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記問題を解決するため、芳香族ポリカーボネート樹脂自体と、ホスファゼン化合物と他の難燃剤との組み合わせにつき、鋭意検討した。そして、ポリカーボネート樹脂として分岐状のものと直鎖状のポリカーボネート樹脂を組み合わせた芳香族ポリカーボネート樹脂を使用し、これにフェノキシホスファゼン難燃剤と芳香族スルホンスルホン酸塩とを併用することにより、透明性および難燃性に優れたポリカーボネート樹脂材料が得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち、本発明の第1の発明によれば、エステル交換法により製造された分岐状芳香族ポリカーボネート(A1)30〜100質量%と、界面重合法により製造された直鎖状芳香族ポリカーボネート(A2)70〜0質量%を含有する芳香族ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、
フェノキシホスファゼン系難燃剤(B)を8質量部を超え18質量部以下含有することを特徴とする芳香族ポリカーボネート樹脂組成物が提供される。
【0011】
また、本発明の第2の発明によれば、第1の発明において、上記分岐状芳香族ポリカーボネート(A1)を50〜95質量%、上記直鎖状芳香族ポリカーボネート(A2)を50〜5質量%の割合で含有することを特徴とする芳香族ポリカーボネート樹脂組成物が提供される。
【0012】
また、本発明の第3の発明によれば、第1または第2の発明において、前記直鎖状芳香族ポリカーボネート(A2)の少なくとも一部が、粉末状のポリカーボネート樹脂であることを特徴とする芳香族ポリカーボネート樹脂組成物が提供される。
【0013】
また、本発明の第4の発明によれば、第3の発明において、前記粉末状ポリカーボネート樹脂の比表面積が0.01〜5mm/gで、60〜95質量%が180〜1700μmの粒径を有するポリカーボネート樹脂であることを特徴とする芳香族ポリカーボネート樹脂組成物が提供される。
【0014】
また、本発明の第5の発明によれば、第1の発明において、さらに、パーフルオロアルカン金属塩(C)を、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、0.01〜1質量部含有することを特徴とする芳香族ポリカーボネート樹脂組成物が提供される。
【0015】
また、本発明の第6の発明によれば、第1の発明において、さらに、多価アルコールと脂肪族カルボン酸とのフルエステル(D)を、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、0.05〜2質量部含有することを特徴とする芳香族ポリカーボネート樹脂組成物が提供される。
【0016】
また、本発明の第7の発明によれば、第6の発明において、多価アルコールと脂肪族カルボン酸とのフルエステル(D)が、ペンタエリスリトールと脂肪族カルボン酸とのフルエステルであることを特徴とする芳香族ポリカーボネート樹脂組成物が提供される。
【0017】
また、本発明の第8の発明によれば、第1〜4のいずれかの発明において、芳香族ポリカーボネート樹脂組成物が、フェノキシホスファゼン系難燃剤(B)を前記粉末状ポリカーボネート樹脂に予め配合したマスターバッチを混合して得られたものであることを特徴とする芳香族ポリカーボネート樹脂組成物が提供される。
【0018】
さらに、本発明の第9の発明によれば、第1〜8のいずれかの発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物から得られた成形品が提供される。
【発明の効果】
【0019】
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、分岐状と直鎖状ポリカーボネート樹脂との組み合わせ、さらにフェノキシホスファゼン系難燃剤を組み合わせることで、機械的強度と透明性と難燃性に優れ、また流動性にも優れている。透明性については、成形時のシリンダー滞留時間が長い成形においてもヘイズ変化が小さく、厚肉部を有する成形品においても優れた透明性を示すので、着色した際には色調の深みが増し、意匠性・デザイン性に優れる。また、難燃性は、UL94に準拠した垂直燃焼試験において「V−0」を達成するという優れた難燃性を有している。
したがって、これらの特長を生かして、テレビや各種大型フラットディスプレイの枠体、コンピューター、ノートブック型パソコン、携帯電話、プリンター、複写機等のOA・情報機器等の部品として幅広く使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明する。
[1.概要]
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、エステル交換法により製造された分岐状芳香族ポリカーボネート(A1)30〜100質量%と、界面重合法により製造された直鎖状芳香族ポリカーボネート(A2)70〜0質量%を含有する芳香族ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、
フェノキシホスファゼン系難燃剤(B)を8質量部を超え18質量部以下含有することを特徴とする。
【0021】
以下、本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物に使用される各成分について、詳細に説明する。
【0022】
[2.芳香族ポリカーボネート樹脂(A)]
[2.1 エステル交換法による分岐状ポリカーボネート(A1)]
本発明に使用されるエステル交換法により製造された分岐状ポリカーボネート(A1)は、芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとを原料とし、エステル交換触媒の存在下、溶融重縮合させることにより得ることができる。
【0023】
・芳香族ジヒドロキシ化合物
芳香族ポリカーボネートの製造原料の一つである芳香族ジヒドロキシ化合物としては、例えば、ビス(4−ヒドロキシジフェニル)メタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−t−ブチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジブロモフェニル)プロパン、4,4−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘプタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ジヒドロキシビフェニル、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ケトン等が挙げられる。これらの芳香族ジヒドロキシ化合物は、単独で、又は2種以上を混合して用いることができる。これらの芳香族ジヒドロキシ化合物のなかでは、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(以下、「ビスフェノールA」とも言い、「BPA」と略記することもある。)が特に好ましい。
【0024】
また、エステル交換法による分岐状ポリカーボネート(A1)は、芳香族ジヒドロキシ化合物の一部として1分子中に3個以上のジヒドロキシ基を有する多官能性芳香族化合物を使用してカーボネート前駆体と反応させて得られる分岐構造を有しても良いが、これらの化合物は使用しない方が好ましい。
【0025】
・炭酸ジエステル
エステル交換法により製造される分岐状ポリカーボネート(A1)の原料の他の一つである炭酸ジエステルの代表的な例としては、例えば、ジフェニルカーボネート、ジトリルカーボネート等に代表される置換ジフェニルカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジ−t−ブチルカーボネート等に代表されるジアルキルカーボネートが挙げられる。これらの炭酸ジエステルは、単独で、又は2種以上を混合して用いることができる。これらのなかでも、ジフェニルカーボネート(以下、「DPC」と略記することもある。)、置換ジフェニルカーボネートが好ましい。
【0026】
また、上記の炭酸ジエステルは、好ましくはその50モル%以下、更に好ましくは30モル%以下の量を、ジカルボン酸またはジカルボン酸エステルで置換しても良い。代表的なジカルボン酸またはジカルボン酸エステルとしては、テレフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸ジフェニル、イソフタル酸ジフェニルなどが挙げられる。この様なジカルボン酸又はジカルボン酸エステルで置換した場合には、ポリエステルポリカーボネートが得られる。
【0027】
これら炭酸ジエステル(上記の置換したジカルボン酸又はジカルボン酸のエステルを含む。以下同じ。)は、芳香族ジヒドロキシ化合物に対して、通常、過剰に用いられる。すなわち、芳香族ジヒドロキシ化合物に対して1.001〜1.3、好ましくは1.01〜1.2の範囲内のモル比で用いられる。モル比が1.001より小さくなると、製造された芳香族ポリカーボネートの末端OH基が増加して、熱安定性、耐加水分解性が悪化し、また、モル比が1.3より大きくなると、芳香族ポリカーボネートの末端OH基は減少するが、同一条件下ではエステル交換反応の速度が低下し、所望の分子量の芳香族ポリカーボネートの製造が困難になる傾向がある。本発明においては、末端OH基含有量を50〜2,000ppm、好ましくは100〜1,500ppm、さらに好ましくは200〜1,000ppmの範囲内に調整した芳香族ポリカーボネートとすることが好ましい。
【0028】
・エステル交換触媒
エステル交換法により分岐状芳香族ポリカーボネート(A1)を製造する際には、触媒が使用される。本発明においては、触媒種に制限はないが、一般的にはアルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物、塩基性ホウ素化合物、塩基性リン化合物、塩基性アンモニウム化合物又はアミン系化合物等の塩基性化合物が使用されるが、中でもアルカリ金属化合物及び/又はアルカリ土類金属化合物が特に好ましい。これらは、1種類で使用してもよく、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0029】
アルカリ金属化合物としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウムの水酸化物、炭酸塩、炭酸水素化合物等の無機アルカリ金属化合物、アルコラート、フェノラート、有機カルボン酸塩等の有機アルカリ金属化合物等がある。これらのアルカリ金属化合物の中でも、セシウム化合物が好ましく、具体的に最も好ましいセシウム化合物を挙げれば炭酸セシウム、炭酸水素セシウム、水酸化セシウムである。
また、アルカリ土類金属化合物としては、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムの水酸化物、炭酸塩等の無機アルカリ土類金属化合物、アルコラート、フェノラート、有機カルボン酸塩等の有機アルカリ土類金属化合物等がある。
【0030】
これらの触媒のうち、成形に適した溶融特性を有する分岐状ポリカーボネート(A1)を得るためには、アルカリ金属化合物が望ましい。アルカリ金属触媒の使用量は、芳香族ジヒドロキシ化合物1モルに対してアルカリ金属として4×10−7〜1×10−5モル、好ましくは1×10−6〜6×10−6モルの範囲内で用いられる。触媒の使用量が上記量より少なければ、所望の分子量の分岐状ポリカーボネート(A1)を製造するのに必要な重合活性と成形に適した溶融特性を有する分岐状芳香族ポリカーボネートが得られ難くなる。
【0031】
本発明において、分岐状ポリカーボネート(A1)の製造方法は、通常のエステル交換法ポリカーボネート製造設備で重合可能であれば特に限定されないが、触媒種、触媒量、モノマー仕込み比、重合温度、滞留時間、減圧度等の重合条件で、これらの値は様々に変化する。例えば、本発明では分岐状ポリカーボネート(A1)の重合反応(エステル交換反応)は、一般的には2以上の重合槽での反応、すなわち2段階以上、通常3〜7段の多段工程で連続的に実施されることが好ましい。具体的な反応条件としては、温度:150〜320℃、圧力:常圧〜2Pa、平均滞留時間:5〜150分の範囲とし、各重合槽においては、反応の進行とともに副生するフェノールの排出をより効果的なものとするために、上記反応条件内で、段階的により高温、より高真空に設定する。
なお、多段工程で重合槽を複数用いる場合の実際の触媒量の制御は、触媒の供給量を連続的に自動制御することが好ましく、その場合は、第1重合槽の滞留時間の1/3以内に測定及び制御が完了していることが必要である。
【0032】
上記方法で製造した分岐状ポリカーボネート(A1)中には、界面法の場合と異なり、ホスゲンや反応溶媒に由来する、塩素元素は無いが、原料モノマー、触媒、エステル交換反応で副生する芳香族モノヒドロキシ化合物、ポリカーボネートオリゴマー等の低分子量化合物が残存している。なかでも、原料モノマーと芳香族モノヒドロキシ化合物は、残留量が多く、耐熱老化性、耐加水分解性、シートの成形時や使用時の臭気があるので、除去されることが好ましい。芳香族モノヒドロキシ化合物の残存量は200質量ppm以下が好ましく、より好ましくは100質量ppm以下である。芳香族ジヒドロキシ化合物の残存量は200質量ppm以下が好ましく、より好ましくは150質量ppm以下である。炭酸ジエステル化合物の残存量は200質量ppm以下であることが好ましい。炭酸ジエステル化合物の残存量が200質量ppmを越えると異臭が感じられるので、シート成形用樹脂としては好ましくない。
【0033】
上記の各種低分子量化合物を除去する方法は、特に制限はなく、例えば、ベント式の押出機により連続的に脱揮してもよい。その際、樹脂中に残留している塩基性エステル交換触媒を、あらかじめ酸性化合物又はその前駆体を添加し、失活させておくことにより、脱揮中の副反応を抑え、効率よく原料モノマー及び芳香族ヒドロキシ化合物を除去することができる。
【0034】
添加する酸性化合物又はその前駆体には特に制限はなく、重縮合反応に使用する塩基性エステル交換触媒を中和する効果のあるものであれば、いずれも使用できる。具体的には、塩酸、硝酸、ホウ酸、硫酸、亜硫酸、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸、ポリリン酸、アジピン酸、アスコルビン酸、アスパラギン酸、アゼライン酸、アデノシンリン酸、安息香酸、ギ酸、吉草酸、クエン酸、グリコール酸、グルタミン酸、グルタル酸、ケイ皮酸、コハク酸、酢酸、酒石酸、シュウ酸、p−トルエンスルフィン酸、p−トルエンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、ニコチン酸、ピクリン酸、ピコリン酸、フタル酸、テレフタル酸、プロピオン酸、ベンゼンスルフィン酸、ベンゼンスルホン酸、マロン酸、マレイン酸等のブレンステッド酸及びそのエステル類が挙げられる。これらは、単独で使用しても、また、2種以上を組み合わせて使用してもよい。これらの酸性化合物又はその前駆体のうち、スルホン酸化合物又はそのエステル化合物、例えば、p−トルエンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸メチル、p−トルエンスルホン酸ブチル等が特に好ましい。
【0035】
これらの酸性化合物又はその前駆体の添加量は、重縮合反応に使用した塩基性エステル交換触媒の中和量に対して、0.1〜50倍モル、好ましくは0.5〜30倍モルの範囲から選ばれる。酸性化合物又はその前駆体を添加する時期としては、重縮合反応後であれば、いつでもよく、添加方法にも特別な制限はなく、酸性化合物又はその前駆体の性状や所望の条件に応じて、直接添加する方法、適当な溶媒に溶解して添加する方法、ペレットやフレーク状のマスターバッチを使用する方法等のいずれの方法でもよい。
【0036】
脱揮に用いられる押出機は、単軸でも二軸でもよい。また、二軸押出機としては、噛み合い型二軸押出機で、回転方向は同方向回転でも異方向回転でもよい。脱揮の目的には、酸性化合物添加部の後にベント部を有するものが好ましい。ベント数に制限は無いが、通常は2段から10段の多段ベントが用いられる。また、該押出機では、必要に応じて、安定剤、紫外線吸収剤、離型剤、着色剤等の添加剤を添加し、樹脂と混練することもできる。
【0037】
本発明で使用されるエステル交換法で得られた分岐状ポリカーボネート(A1)は、通常、粘度平均分子量が、12,000〜40,000の範囲から選ばれる。好ましくは16,000〜35,000、さらに好ましくは19,000〜30,000であり、最も好ましくは20,000〜28,000である。粘度平均分子量が12,000未満のものは、界面重合法で製造された分子量の高い直鎖状ポリカーボネート(A2)と混合しても、所望の粘度平均分子量の樹脂組成物が得られにくく、このような組成物は衝撃強度が低かったり、シート成形性が低下するなどの問題点があり、一方、50,000以上では界面法直鎖ポリカーボネートとの混合性が劣りやすく、フィッシュアイ等の原因となるので好ましくない。
【0038】
さらに、エステル交換法で得られた分岐状ポリカーボネート(A1)は、構造粘性指数Nが所定範囲にあるポリカーボネート樹脂を、全量または一定割合以上含有することが好ましい。すなわち、ポリカーボネート樹脂(A1)中、通常20質量%以上、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上含むことが望ましい。ポリカーボネート樹脂(A1)中の、所定Nポリカーボネート樹脂の含有量の上限に制限は無く、通常100質量%以下であるが、好ましくは90質量%以下であり、より好ましくは85質量%以下である。
【0039】
構造粘性指数Nとは、文献「化学者のためのレオロジー」(化学同人、1982年、第15〜16頁)にも詳記されているように、溶融体の流動特性を評価する指標である。通常、ポリカーボネート樹脂の溶融特性は、数式:γ=a・σにより表示することができる。なお、前記式中、γ:剪断速度、a:定数、σ:応力、N:構造粘性指数を表す。
【0040】
上記式において、N=1のときはニュートン流動性を示し、Nの値が大きくなるほど非ニュートン流動性が大きくなる。つまり、構造粘性指数Nの大小により溶融体の流動特性が評価される。一般に、構造粘性指数Nが大きいポリカーボネート樹脂は、低剪断領域における溶融粘度が高くなる傾向がある。このため、構造粘性指数Nが大きいポリカーボネート樹脂を別のポリカーボネート樹脂と混合した場合、得られるポリカーボネート樹脂組成物の燃焼時の滴下を抑制し、難燃性を向上させることができる。ただし、得られるポリカーボネート樹脂組成物の成形性を良好な範囲に維持するためには、このポリカーボネート樹脂の構造粘性指数Nは過度に大きくないことが好ましい。
【0041】
従って、エステル交換法で得られた分岐状ポリカーボネート(A1)は、構造粘性指数Nが、1.2以上であることが好ましく、より好ましくは1.25以上、さらに好ましくは1.28以上であり、また、好ましくは1.8以下、より好ましくは1.7以下である。
構造粘性指数Nが高いことは、ポリカーボネート樹脂が分岐鎖を有することを意味し、このように構造粘性指数Nが高いポリカーボネート樹脂を含有することにより、ポリカーボネート樹脂組成物の燃焼時の滴下を抑制し、難燃性を向上させることができる。
【0042】
なお、「構造粘性指数N」は、例えば特開2005−232442号公報に記載されているように、上述の数式から誘導した、Logη=〔(1−N)/N〕×Logγ+Cによって表示することも可能である。なお、式中、N:構造粘性指数、γ:剪断速度、C:定数、η:見かけの粘度を表す。
この式から分かるように、粘度挙動が大きく異なる低剪断領域におけるγとηaからN値を評価することもできる。例えば、γ=12.16sec−1及びγ=24.32sec−1でのηaからN値を決定することができる。
【0043】
構造粘性指数Nが1.2以上の芳香族ポリカーボネート樹脂は、例えば、特開平8−259687号公報、特開平8−245782号公報に記載されているように、溶融法(エステル交換法)によって芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルを反応させる際、触媒の条件または製造条件を選択することにより、分岐剤を添加することなく、構造粘性指数が高く、加水分解安定性に優れた芳香族ポリカーボネート樹脂を得ることができる。
【0044】
[2.2 界面重合法による直鎖状ポリカーボネート(A2)]
本発明に使用される界面重合法により製造された直鎖状ポリカーボネート(A2)は、芳香族ジヒドロキシ化合物とホスゲンから公知の方法、例えば、特開2001−316467号公報等に記載の方法により製造される直鎖状芳香族ポリカーボネート樹脂である。
【0045】
原料の芳香族ジヒドロキシ化合物としては、上記したエステル交換法による芳香族ポリカーボネートの製造原料として例示した芳香族ジヒドロキシ化合物と同じ化合物を挙げることが出来、好ましくは、ビスフェノールAである。
【0046】
界面重合法による直鎖状芳香族ポリカーボネート(A2)の粘度平均分子量(Mv)は、好ましくは、12,000〜50,000であり、より好ましくは16,000〜40,000、さらに好ましくは19,000〜30,000である。粘度平均分子量が12,000未満のものは、エステル交換法で製造された分岐状ポリカーボネート(A1)と混合しても、得られた樹脂組成物の衝撃強度が低かったり、溶融粘度が低過ぎ、得られる成形品の外観や精度が低下しやすい。また、粘度平均分子量が50,000を越えると、エステル交換法で製造された分岐状ポリカーボネート(A1)と混合し難く、均一な組成物となり難い。また、界面重合法による直鎖状ポリカーボネート(A2)には、少量の界面重合法による分岐状ポリカーボネートを含むことも出来る。分岐状ポリカーボネートの含有量は、界面法ポリカーボネート中の40%以下、好ましくは30%以下である。
【0047】
[2.3 分岐状ポリカーボネート(A1)と直鎖状ポリカーボネート(A2)の割合]
本発明に係わる芳香族ポリカーボネート樹脂(A)は、エステル交換法により製造された分岐状芳香族ポリカーボネート(A1)30〜100質量%と、界面重合法により製造された直鎖状芳香族ポリカーボネート(A2)70〜0質量%を含有する。直鎖状ポリカーボネート(A2)を配合することにより、分散性が良好となる。好ましい配合割合は、(A1)を50〜95質量%、(A2)を50〜5質量%含有するものである。樹脂組成物中で、分岐状ポリカーボネート(A1)の含有率が30質量%未満では、溶融特性が低下し、成形品の精度や外観が劣る。直鎖状ポリカーボネート(A2)の含有率が低いと、芳香族スルホンスルホン酸アルカリまたはアルカリ土類金属塩の存在下では、樹脂組成物が加水分解を受けやすくなるので好ましくない。特に好ましい含有比率は、(A1)が70〜95質量%、(A2)が30〜5質量%である。
【0048】
本発明に係わる樹脂組成物を構成するエステル交換法分岐状ポリカーボネート(A1)および界面重合法直鎖状ポリカーボネート(A2)は、それらのポリカーボネートの一部又は全部に再生材を使用してもよい。ポリカーボネート樹脂組成物100質量%中に占める再生ポリカーボネートの配合比率は、成形品の要求性能に応じて適宜選択できるが、通常は50質量%以下、好ましくは30質量%以下である。
【0049】
[3.フェノキシホスファゼン系難燃剤(B)]
本発明において用いられるフェノキシホスファゼン系難燃剤(B)は、分子中に−P=N−結合を有する有機化合物、好ましくは、下記一般式(1)で表される環状ホスファゼン化合物、下記一般式(2)で表される鎖状ホスファゼン化合物、ならびに、下記一般式(1)及び下記一般式(2)からなる群より選択される少なくとも一種のホスファゼン化合物が架橋基によって架橋されてなる架橋ホスファゼン化合物からなる群より選択される少なくとも1種の化合物である。架橋ホスファゼン化合物としては、下記一般式(3)で表される架橋基によって架橋されてなるものが難燃性の点から好ましい。
フェノキシホスファゼン系難燃剤(B)は難燃化効果が高く、特に後述の芳香族スルホンスルホン酸金属塩(C)と併用することにより、少ない含有量でも優れた難燃性を発揮することができるため、難燃剤の配合によって起こり得る機械的強度の低下やガスの発生を抑制することができる。
【0050】
【化1】

(式(1)中、mは3〜25の整数であり、Rは、同一又は異なっていてもよく、アリール基又はアルキルアリール基を示す。)
【0051】
【化2】

(式(2)中、nは3〜10,000の整数であり、Xは、−N=P(OR基又は−N=P(O)OR基を示し、Yは、−P(OR基又は−P(O)(OR基を示す。Rは、同一又は異なっていてもよく、アリール基又はアルキルアリール基を示す。)
【0052】
【化3】

(式(3)中、Aは−C(CH−、−SO−、−S−、又は−O−であり、lは0又は1である。)
【0053】
一般式(1)及び(2)で表される環状及び/又は鎖状フェノキシホスファゼン化合物としては、例えば、フェノキシホスファゼン、(ポリ)トリルオキシホスファゼン(例えば、o−トリルオキシホスファゼン、m−トリルオキシホスファゼン、p−トリルオキシホスファゼン、o,m−トリルオキシホスファゼン、o,p−トリルオキシホスファゼン、m,p−トリルオキシホスファゼン、o,m,p−トリルオキシホスファゼン等)、(ポリ)キシリルオキシホスファゼン等の環状及び/又は鎖状C1−6アルキルC6−20アリールオキシホスファゼンや、(ポリ)フェノキシトリルオキシホスファゼン(例えば、フェノキシo−トリルオキシホスファゼン、フェノキシm−トリルオキシホスファゼン、フェノキシp−トリルオキシホスファゼン、フェノキシo,m−トリルオキシホスファゼン、フェノキシo,p−トリルオキシホスファゼン、フェノキシm,p−トリルオキシホスファゼン、フェノキシo,m,p−トリルオキシホスファゼン等)、(ポリ)フェノキシキシリルオキシホスファゼン、(ポリ)フェノキシトリルオキシキシリルオキシホスファゼン等の環状及び/又は鎖状C6−20アリールC1−10アルキルC6−20アリールオキシホスファゼン等が例示でき、好ましくは環状及び/又は鎖状フェノキシホスファゼン、環状及び/又は鎖状C1−3アルキルC6−20アリールオキシホスファゼン、C6−20アリールオキシC1−3アルキルC6−20アリールオキシホスファゼン(例えば、環状及び/又は鎖状トリルオキシホスファゼン、環状及び/又は鎖状フェノキシトリルフェノキシホスファゼン等)である。
【0054】
一般式(1)で表される環状ホスファゼン化合物としては、Rがフェニル基である環状フェノキシホスファゼンが特に好ましい。このような環状フェノキシホスファゼン化合物としては、例えば、塩化アンモニウムと五塩化リンとを120〜130℃の温度で反応させて得られる環状及び直鎖状のクロロホスファゼン混合物から、ヘキサクロロシクロトリホスファゼン、オクタクロロシクロテトラホスファゼン、デカクロロシクロペンタホスファゼン等の環状のクロルホスファゼンを取り出した後にフェノキシ基で置換して得られる、フェノキシシクロトリホスファゼン、オクタフェノキシシクロテトラホスファゼン、デカフェノキシシクロペンタホスファゼン等の化合物が挙げられる。また、該環状フェノキシホスファゼン化合物は、一般式(1)中のmが3〜8の整数である化合物が好ましく、mの異なる化合物の混合物であってもよい。なかでも、m=3のものが50質量%以上、m=4のものが10〜40質量%、m=5以上のものが合わせて30質量%以下である化合物の混合物が好ましい。
【0055】
一般式(2)で表される鎖状ホスファゼン化合物としては、Rがフェニル基である鎖状フェノキシホスファゼンが特に好ましい。このような鎖状フェノキシホスファゼン化合物は、例えば、上記の方法で得られるヘキサクロロシクロトリホスファゼンを220〜250℃の温度で開還重合し、得られた重合度3〜10,000の直鎖状ジクロロホスファゼンをフェノキシ基で置換することにより得られる化合物が挙げられる。該直鎖状フェノキシホスファゼン化合物の、一般式(2)中のnは、好ましくは3〜1,000、より好ましくは3〜100、さらに好ましくは3〜25である。
【0056】
架橋フェノキシホスファゼン化合物としては、例えば、4,4’−スルホニルジフェニレン(ビスフェノールS残基)の架橋構造を有する化合物、2,2−(4,4’−ジフェニレン)イソプロピリデン基の架橋構造を有する化合物、4,4’−オキシジフェニレン基の架橋構造を有する化合物、4,4’−チオジフェニレン基の架橋構造を有する化合物等の、4,4’−ジフェニレン基の架橋構造を有する化合物等が挙げられる。
また、架橋ホスファゼン化合物としては、一般式(1)においてRがフェニル基である環状フェノキシホスファゼン化合物が上記一般式(3)で表される架橋基によって架橋されてなる架橋フェノキシホスファゼン化合物又は、上記一般式(2)においてRがフェニル基である鎖状フェノキシホスファゼン化合物が上記一般式(3)で表される架橋基によって架橋されてなる架橋フェノキシホスファゼン化合物が難燃性の点から好ましく、環状フェノキシホスファゼン化合物が上記一般式(3)で表される架橋基によって架橋されてなる架橋フェノキシホスファゼン化合物がより好ましい。
また、架橋フェノキシホスファゼン化合物中のフェニレン基の含有量は、一般式(1)で表される環状ホスファゼン化合物及び/又は一般式(2)で表される鎖状フェノキシホスファゼン化合物中の全フェニル基及びフェニレン基数を基準として、通常50〜99.9%、好ましくは70〜90%である。また、該架橋フェノキシホスファゼン化合物は、その分子内にフリーの水酸基を有しない化合物であることが特に好ましい。
【0057】
本発明においては、フェノキシホスファゼン系難燃剤(B)は、上記一般式(1)で表される環状フェノキシホスファゼン化合物、及び、上記一般式(1)で表される環状フェノキシホスファゼン化合物が架橋基によって架橋されてなる架橋フェノキシホスファゼン化合物よる成る群から選択される少なくとも1種であることが、難燃性及び機械的特性の点から好ましい。
【0058】
このフェノキシホスファゼン系難燃剤(B)の含有量は、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、8質量部を超え18質量部であり、9〜15質量部がより好ましい。8質量部を超える量とすることにより、難燃性を十分に改良することができ、18質量部以下とすることにより、機械的強度を良好に保つことができる。
【0059】
[4.パーフルオロアルカン金属塩(C)]
本発明において、さらにパーフルオロアルカン金属塩(C)を配合するのが好ましい。
パーフルオロアルカンスルホン酸金属塩としては、好ましくは、パーフルオロアルカンスルホン酸のアルカリ金属塩、パーフルオロアルカンスルホン酸のアルカリ土類金属塩等が挙げられ、より好ましくは、炭素数4〜8のパーフルオロアルカン基を有するスルホン酸アルカリ金属塩、炭素数4〜8のパーフルオロアルカン基を有するスルホン酸アルカリ土類金属塩等が挙げられる。
パーフルオロアルカンスルホン酸金属塩の具体例としては、パーフルオロブタンスルホン酸ナトリウム、パーフルオロブタンスルホン酸カリウム、パーフルオロメチルブタンスルホン酸ナトリウム、パーフルオロメチルブタンスルホン酸カリウム、パーフルオロオクタンスルホン酸ナトリウム、パーフルオロオクタンスルホン酸カリウム、パーフルオロブタンスルホン酸のテトラエチルアンモニウム塩等が挙げられる。
これらの中でも、特に、パーフルオロブタンスルホン酸カリウムが好ましい。
【0060】
有機スルホン酸金属塩の好ましい含有量は、ポリカーボネート樹脂組成物100質量部に対し、0.01〜1質量部、より好ましくは0.02〜0.5質量部、特には0.03〜0.3質量%である。含有量が0.01質量%を下回る場合は十分な難燃性が得られにくく、1質量%を超えると、熱安定性や耐加水分解性が低下しやすい。
【0061】
[5.多価アルコールと脂肪族カルボン酸とのフルエステル(D)]
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、離型剤として多価アルコールと脂肪族カルボン酸とのフルエステル(D)を含有することが好ましい。
多価アルコールと脂肪族カルボン酸とのフルエステル(D)は、好ましくは3〜6価である炭素数3〜10の脂肪族多価アルコールと炭素数10〜19の脂肪族カルボン酸とのフルエステルが好ましい。
【0062】
(D)成分のエステルを形成するための好ましい上記多価脂肪族アルコールとしては、例えば、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、メソエリスリトール、ペンチトース、ヘキシトール、ソルビトールなどが挙げられ、好ましくはグリセリン、ペンタエリスリトール、特にはペンタエリスリトールである。
エステルとしては、グリセリントリステアリレート、ペンタエリスリトールテトラステアリレートが好適に用いられ、特にはペンタエリスリトールテトラステアリレートが好ましい。
【0063】
上記多価脂肪族アルコールと上記脂肪族カルボン酸とのエステル化物は、フルエステル化物であることが好ましいが、本発明において、「フルエステル化物」は、そのエステル化率が必ずしも100%である必要はなく、80%以上であればよく、より好ましくは85%以上であり、特に好ましくは90%以上である。
なお、(D)成分は、それを構成する脂肪族カルボン酸や多価脂肪族アルコールが異なるエステル化物や、エステル化率の異なるエステル化物の2種以上を併用してもよい。
【0064】
多価アルコールと脂肪族カルボン酸とのフルエステル(D)の含有量は、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対して0.05〜2質量部である。含有量が0.05質量部未満では、成形時の離型性、成形品の外観に改良効果が見られず、逆に、2質量部を超えると、成形品の透明性が損なわれてしまい、耐加水分解性の低下、射出成形時の金型汚染等の問題がある好ましくない。特に好ましいのは、0.05〜0.5重量部である。このような特定の脂肪酸エステルと組合せることにより、本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は良好な透明性および離型性を有することができる。
【0065】
[6.その他の成分]
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物には、必要に応じて、本発明の効果を損なわない範囲で、上述した成分に加えて、更に他の樹脂、各種の樹脂添加剤などを用いてもよい。
他の樹脂としては、具体的には例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂などのポリオレフィン系樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリメタクリレート樹脂、ポリエステル樹脂、アクリロニトリル−スチレン−ブタジエン共重合樹脂(ABS)などが挙げられる。
【0066】
また樹脂添加剤としては、耐衝撃性改良剤、染顔料、帯電防止剤、防曇剤、滑剤・アンチブロッキング剤、流動性改良剤、可塑剤、分散剤、防菌剤、蛍光増白剤、紫外線吸収剤が挙げられ、無機系樹脂添加剤としては、ガラス繊維、ガラスミルドファイバー、ガラスフレーク、ガラスビーズ、炭素繊維、シリカ、アルミナ、硫酸カルシウム粉体、石膏、石膏ウィスカー、硫酸バリウム、タルク、マイカ、珪酸カルシウム、カーボンブラック、グラファイト等の無機フィラーが挙げられる。これらは、一種または任意の割合で二種以上を併用してもよい。
【0067】
[6.1 熱安定剤および酸化防止剤]
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、更に、溶融加工時や、高温下での長期間使用時等に生ずる黄変抑制、更に機械的強度低下抑制等の目的で、熱安定剤や酸化防止剤を含有することが好ましい。
熱安定剤や酸化防止剤は、従来公知の任意のものを使用でき、熱安定剤としては中でもリン系化合物が、そして酸化防止剤としてはフェノール化合物が好ましく、これらは併用してもよい。リン系化合物は一般的に、ポリカーボネート樹脂を溶融混練する際、高温下での滞留安定性や樹脂成形体使用時の耐熱安定性向上に有効であり、フェノール化合物は一般的に、耐熱老化性等の、ポリカーボネート樹脂成形体使用時の耐熱安定性に効果が高い。またリン系化合物とフェノール化合物を併用することによって、着色性の改良効果が一段と向上する。
【0068】
本発明に用いるリン系化合物としては、亜リン酸、リン酸、亜リン酸エステル、リン酸エステル等が挙げられ、中でも3価のリンを含み、変色抑制効果を発現しやすい点で、ホスファイト、ホスホナイト等の亜リン酸エステルが好ましい。
【0069】
ホスファイトとしては、具体的には例えば、トリフェニルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、ジラウリルハイドロジェンホスファイト、トリエチルホスファイト、トリデシルホスファイト、トリス(2−エチルヘキシル)ホスファイト、トリス(トリデシル)ホスファイト、トリステアリルホスファイト、ジフェニルモノデシルホスファイト、モノフェニルジデシルホスファイト、ジフェニルモノ(トリデシル)ホスファイト、テトラフェニルジプロピレングリコールジホスファイト、テトラフェニルテトラ(トリデシル)ペンタエリスリトールテトラホスファイト、水添ビスフェノールAフェノールホスファイトポリマー、ジフェニルハイドロジェンホスファイト、4,4’−ブチリデン−ビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェニルジ(トリデシル)ホスファイト)テトラ(トリデシル)4,4’−イソプロピリデンジフェニルジホスファイト、ビス(トリデシル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(ノニルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ジラウリルペンタエリスリトールジホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、トリス(4−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、水添ビスフェノールAペンタエリスリトールホスファイトポリマー、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、2,2’−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)オクチルホスファイト、ビス(2,4−ジクミルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト等が挙げられる。
【0070】
また、ホスホナイトとしては、テトラキス(2,4−ジ−iso−プロピルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4−ジ−n−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,3’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−3,3’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6−ジ−iso−プロピルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6−ジ−n−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,3’−ビフェニレンジホスホナイト、およびテトラキス(2,6−ジ−tert−ブチルフェニル)−3,3’−ビフェニレンジホスホナイトなどが挙げられる。
【0071】
また、アシッドホスフェートとしては、例えば、メチルアシッドホスフェート、エチルアシッドホスフェート、プロピルアシッドホスフェート、イソプロピルアシッドホスフェート、ブチルアシッドホスフェート、ブトキシエチルアシッドホスフェート、オクチルアシッドホスフェート、2−エチルヘキシルアシッドホスフェート、デシルアシッドホスフェート、ラウリルアシッドホスフェート、ステアリルアシッドホスフェート、オレイルアシッドホスフェート、ベヘニルアシッドホスフェート、フェニルアシッドホスフェート、ノニルフェニルアシッドホスフェート、シクロヘキシルアシッドホスフェート、フェノキシエチルアシッドホスフェート、アルコキシポリエチレングリコールアシッドホスフェート、ビスフェノールAアシッドホスフェート、ジメチルアシッドホスフェート、ジエチルアシッドホスフェート、ジプロピルアシッドホスフェート、ジイソプロピルアシッドホスフェート、ジブチルアシッドホスフェート、ジオクチルアシッドホスフェート、ジ−2−エチルヘキシルアシッドホスフェート、ジオクチルアシッドホスフェート、ジラウリルアシッドホスフェート、ジステアリルアシッドホスフェート、ジフェニルアシッドホスフェート、ビスノニルフェニルアシッドホスフェート等が挙げられる。
【0072】
亜リン酸エステルの中では、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、2,2’−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)オクチルホスファイト、ビス(2,4−ジクミルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイトが好ましく、耐熱性が良好であることと加水分解しにくいという点で、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイトが特に好ましい。
【0073】
酸化防止剤としては特定構造を分子内に有するフェノール化合物が好ましく、具体的には例えば2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4’−ブチリデンビス(6−tert−ブチル−3−メチルフェノール)、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−tert−ブチルフェニル)ブタン、3,9−ビス[2−{3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ}−1,1−ジメチルエチル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、トリエチレングリコールビス[β−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオネート]、1,6−ヘキサンジオールビス[β−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオネート]、ペンタエリスリトール−テトラキス[β−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオネート]、オクタデシル[β−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオネート]等が挙げられる。
【0074】
中でも、ポリカーボネート樹脂と混練される際に黄変抑制が必要なことから、4,4’−ブチリデンビス(6−tert−ブチル−3−メチルフェノール)、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−tert−ブチルフェニル)ブタン、3,9−ビス[2−{3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ}−1,1−ジメチルエチル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカンが好ましく、特に、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−tert−ブチルフェニル)ブタン、3,9−ビス[2−{3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ}−1,1−ジメチルエチル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカンが好ましい。
【0075】
本発明に用いる熱安定剤、および酸化防止剤の含有量は、適宜選択して決定すればよいが、通常、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対して0.0001〜0.5質量部であり、0.0003〜0.3質量部が好ましく、0.001〜0.1質量部が特に好ましい。熱安定剤や酸化防止剤の含有量が少なすぎると効果が不十分であり、逆に多すぎてもポリカーボネート樹脂の分子量低下や、色相低下が生ずる場合がある。
【0076】
[7.ポリカーボネート樹脂組成物の製造方法]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物を製造するには、上記した各成分(A2)および(A2)、(B)〜(D)、必要または所望により添加されるその他成分を、同時に又は逐次、直接ポリカーボネートに混合又は混練すればよい。
具体例を挙げると、上記各成分、並びに必要に応じて配合されるその他の成分を、例えば、リボンブレンダー、ヘンシェルミキサー、バンバリーミキサー、ドラムタンブラー、単軸又は二軸スクリュー押出機、コニーダー等を使用して溶融混練する方法等が挙げられる。なお、溶融混練の温度は特に制限されないが、通常240〜320℃の範囲である。
【0077】
[7.1 マスターバッチ]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、ポリカーボネート樹脂(A1)および(A2)、フェノキシホスファゼン系難燃剤(B)および芳香族スルホンスルホン酸金属塩(C)、その他必要な成分を一括してブレンドする製造方法を用いてもよいが、以下に記載の、マスターバッチ配合物を得た後、該マスターバッチをポリカーボネート樹脂組成物と溶融混練する製造方法でもよい。
【0078】
具体的には、本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、樹脂組成物中および成形品中のフェノキシホソファゼン系難燃剤(B)の分散性を向上させるために、粉末状のポリカーボネート樹脂と予め混合して高濃度の難燃剤(B)を含有するマスターバッチを得、これを他の成分と溶融混練して、所定組成のポリカーボネート樹脂組成物を得ることが好ましい。より好ましくは、比表面積が0.01〜5mm/gで、60〜95質量%が180〜1,700μmの粒径を有する粉末状の直鎖状ポリカーボネート樹脂(A2)に配合することにより、最終配合量より多量のフェノキシホソファゼン系難燃剤(B)を含有するポリカーボネート−フェノキシホソファゼン系難燃剤(B)を得た後、該マスターバッチを、ペレット形状あるいは粉粒体形状の必要量のポリカーボネート樹脂(A1)、(A2)、その他の成分と溶融混練して、ポリカーボネート樹脂組成物を得る製造方法が好ましい。
【0079】
マスターバッチの製造方法はリボンブレンダー、ヘンシェルミキサー、バンバリーミキサー、ドラムタンブラーなどを使用して混合する方法が挙げられるが、ドラムタンブラー使用が好ましい。ポリカーボネート−フェノキシホソファゼン系難燃剤(B)マスターバッチ中の難燃剤(B)の配合量は、ポリカーボネート樹脂100質量部に対し、20〜120質量部であることが好ましく、さらに好ましくは25〜100質量部である。このようなポリカーボネート−フェノキシホソファゼン系難燃剤(B)マスターバッチを製造時に溶融混練することで、難燃剤(B)の分散性が良くなり、成形品の外観がより良好になる。
【0080】
また、上記と同様に、パーフルオロアルカン金属塩(C)の分散性を向上させ、安定した燃焼性を得るためには、パーフルオロアルカン金属塩(C)を、上記と同様のマスターバッチ法を適用することも好ましい。
マスターバッチとともに製造時に溶融混練することで、得られたポリカーボネート樹脂組成物からの成形品は、外観がより良好になるだけでなく、燃焼性のばらつきも抑制することができる。
【0081】
[8.成形体]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、ペレタイズしたペレットを各種の成形法で成形して成形品を製造することができる。またペレットを経由せずに、押出機で溶融混練された樹脂を直接、シートやフィルム、異型押出成形品、ブロー成形品あるいは射出成形品等にすることもできる。
本発明に係るポリカーボネート樹脂組成物は、各種成形品の成形材料として使用できる。成形品の形状、模様、色彩、寸法などに制限はなく、その用途に応じて任意に設定すればよい。適用できる成形方法は、熱可塑性樹脂の成形に適用できる方法をそのまま適用することが出来、射出成形法、押出成形法、中空成形法、回転成形法、圧縮成形法、差圧成形法、トランスファー成形法などが挙げられる。
【0082】
本発明に係る成形品は、透明性と難燃性に優れるためテレビ等の各種大型フラットディスプレイの枠体、コンピューター、ノートブック型パソコン、携帯電話、プリンター、複写機等のOA・情報機器等の部品に有用である。
【実施例】
【0083】
以下に実施例及び比較例を示し、本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、以下の例に限定して解釈されるものではない。
なお、以下の実施例、比較例において部及び%は、特に断りがない限り、質量部及び質量%を意味する。
【0084】
(実施例1〜4および比較例1〜6)
使用した原材料は、以下のとおりである。
[原材料]
(A)芳香族ポリカーボネート樹脂(ポリ−4,4−イソプロピリデンジフェニルカーボネート)
(A−1)エステル交換法により得られた分岐状芳香族ポリカーボネート樹脂
三菱エンジニアリングプラスチックス社製「ノバレックス(登録商標)M7027BF」 粘度平均分子量27,000、構造粘性指数N値1.4
(A−2)界面重合法により得られた直鎖状芳香族ポリカーボネート樹脂
三菱エンジニアリングプラスチックス社製「ユーピロン(登録商標)E−2000FN」 粘度平均分子量26,000
(粉末状、比表面積:1.2mm/g、180〜1,700μmの粒径:90質量%)
【0085】
(B)フェノキシホスファゼン系難燃剤
(B−1)大塚化学社製商品名「SPB−100」(主として環状のフェノキシホスファゼンからなるフェノキシホスファゼン系難燃剤。)
【0086】
(C−1)パーフルオロブタンスルホン酸カリウム塩
ランクセス社製商品名「BayowetC4」
(C−2)他の難燃剤として、以下のリン酸エステル系難燃剤(C−2)を用いた。
1,3−フェニレンビス(ジキシレニル)ホスフェート
大八化学工業社製商品名「PX−200」
【0087】
(D)離型剤
(D−1)ペンタエリスリトールテトラステアレート(PETS)
コグニスジャパン社製商品名「ロキシオールVPG861」
(D−2)ステアリルステアレート 日油社製商品名「ユニスターM9676」
【0088】
[1.組成物ペレットの製造]
下記表1に示した各成分を、表に示した割合(質量比)となるよう、配合し、タンブラーにて混合した後、1ベントを備えた日本製鋼所社製二軸押出機(TEX30XCT)に供給し、スクリュー回転数200rpm、吐出量20kg/時間、バレル温度270℃の条件でベント吸引下で混練し、ストランド状に押出された溶融樹脂組成物を水槽にて急冷しペレタイザーを用いてペレット化し、ポリカーボネート樹脂組成物のペレットを得た。
なお、実施例2〜4においては、粉状のポリカーボネート樹脂E−2000FN(A−2)全量とフェノキシフォスファゼン系難燃剤(B−1)全量を、あらかじめマスターブレンドしたものを使用し、これを、他の成分と所定の組成となるように配合した。
得られた樹脂組成物は、以下の方法により各種評価を行った。
【0089】
(成形品の物性評価方法)
[2.ISO物性評価用ダンベルの成形]
上記1で得られたペレットを120℃で5時間乾燥させた後、日本製鋼所製のJ55AD型射出成形機を用いて、シリンダー温度280℃、金型温度80℃の条件で射出成形し、ISO試験用ダンベル(4mm)を成形した。
【0090】
[3.色相評価用カラープレートの成形]
上記1で得られたペレットを120℃で5時間乾燥させた後、日本製鋼所製のJ55AD型射出成形機を用いて、シリンダー温度280℃、金型温度80℃の条件で射出成形し、色相評価用カラープレート(3mm)を成形した。
【0091】
[4.厚肉カラープレートの成形]
上記1で得られたペレットを120℃で5時間乾燥させた後、日精樹脂工業株式会社製のNEX80−9E型成形機を用いて、シリンダー温度280℃、金型温度80℃の条件で、厚さ5mm、縦65mm、横45mmの厚肉カラープレートを成形した。
【0092】
[5.燃焼試験片の成形]
上記1で得られたペレットを120℃で5時間乾燥させた後、日本製鋼所製のJ55AD型射出成形機を用いてシリンダー温度270℃、金型温度80℃の条件下で射出成形し、長さ125mm、幅13mm、厚さ1.5mm及び2.5mmのUL試験用試験片を成形した。
【0093】
[6.燃焼性評価(UL94)]
難燃性の評価は、上記方法で得られたUL試験用試験片を、温度23℃、湿度50%の恒温室の中で48時間調湿し、米国アンダーライターズ・ラボラトリーズ(UL)が定めているUL94試験(機器の部品用プラスチック材料の燃焼試験)に準拠して行なった。UL94Vとは、鉛直に保持した所定の大きさの試験片にバーナーの炎を10秒間接炎した後の残炎時間やドリップ性から難燃性を評価する方法であり、良好な順にV−0、V−1及びV−2と表し、規格外のものをNGとした。
【0094】
[7.流動性評価(メルトボリュームレート、MVR)]
上記1で得られたペレットを120℃で5時間乾燥した後、JIS K7210に準拠して温度300℃、荷重1.2kgfの条件下で測定した。単位はcm/10minである。MVRは流動性の指標であり、値が高いほど流動性に優れていることを示す。
【0095】
[8.透明性評価(ヘイズ)]
上記の方法で得た厚み3mmのカラープレート試験片、並びに5mmの厚肉カラープレートを用い、JIS K−7136に準拠し、日本電色工業社製のNDH−2000型ヘイズメーターで測定した。ヘイズ(%)は樹脂の白濁の尺度として用いられる指標であり、数値が小さい程、透明性が高いことを示し好ましい。
また、5mm試験片を厚み方向から肉眼で観察して、白モヤの有無を観察した。
【0096】
[9.色調評価(YI)]
上記の方法で得た厚み3mmのカラープレート試験片を用い、JIS K7105に準拠し、日本電色工業(株)製のSE2000型分光式色彩計で、透過法により測定した。YI値が小さいほど樹脂の黄変度合いが低いことを示し好ましい。
【0097】
[10.耐熱性(荷重たわみ温度、HDT)]
上記の方法で得た4mmのISOダンベル試験片の両端を切削して長さ80mmとし、ISO 75−1に準拠し荷重たわみ温度を測定した。HDTが高いほど耐熱性に優れるため好ましい。
以上の評価結果を、表1に示す。
【0098】
【表1】

【0099】
表1の結果より、次のことがわかる。
実施例1〜4の樹脂組成物は、優れた難燃性(V−0)を有し、高い透明性(ヘイズ、3mm)を示し、これは5mmの厚肉部においても良好である。
一方、比較例1は、分岐状ポリカーボネート樹脂の量が30質量%より不足しているため難燃性がV−2と劣り、比較例2は分岐ポリカーボネート樹脂を使用していないため難燃性が悪く、比較例3はフェノキシホスファゼンの量が多いため、流動性(MVR)と色調(YI)、耐熱性(HDT)が悪い。比較例4は、フェノキシホスファゼンの代わりにスルホン酸金属塩のみを配合したものであるが、1.5mmでの難燃性が悪く(V−2)、また、透明性は不十分であり、5mm厚でのヘイズが特に悪い。
比較例5は、フェノキシホスファゼンの量が少ないため、スルホン酸金属塩を併用しても燃焼性が不充分(V−2)となる。比較例6は、リン酸エステル系難燃剤を使用したものであるが、難燃性は悪く、耐熱性も悪い。
【産業上の利用可能性】
【0100】
以上のように、本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、従来の難燃性ポリカーボネート組成物と比べて、難燃性、透明性に優れており、また流動性にも優れている。厚肉部を有する成形品においても優れた透明性を示すので、着色した際には色調の深みが増し、意匠性・デザイン性に優れる。
したがって、これらの特長を生かして、テレビ(例えば40インチ以上)等の各種大型フラットディスプレイの枠体、コンピューター、ノートブック型パソコン、携帯電話、プリンター、複写機等のOA・情報機器等の部品として幅広く使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エステル交換法により製造された分岐状芳香族ポリカーボネート(A1)30〜100質量%と、界面重合法により製造された直鎖状芳香族ポリカーボネート(A2)70〜0質量%を含有する芳香族ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、
フェノキシホスファゼン系難燃剤(B)を8質量部を超え18質量部以下含有することを特徴とする芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項2】
前記分岐状芳香族ポリカーボネート(A1)を50〜95質量%、前記直鎖状芳香族ポリカーボネート(A2)を50〜5質量%の割合で含有することを特徴とする請求項1に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項3】
前記直鎖状芳香族ポリカーボネート(A2)の少なくとも一部が、粉末状のポリカーボネート樹脂であることを特徴とする請求項1または2に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項4】
前記粉末状ポリカーボネート樹脂の比表面積が0.01〜5mm/gで、60〜95質量%が180〜1700μmの粒径を有するポリカーボネート樹脂であることを特徴とする請求項3に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項5】
さらに、パーフルオロアルカン金属塩(C)を、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、0.01〜1質量部含有することを特徴とする請求項1に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項6】
さらに、多価アルコールと脂肪族カルボン酸とのフルエステル(D)を、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、0.05〜2質量部含有することを特徴とする請求項1に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項7】
多価アルコールと脂肪族カルボン酸とのフルエステル(D)が、ペンタエリスリトールと脂肪族カルボン酸とのフルエステルであることを特徴とする請求項6に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項8】
芳香族ポリカーボネート樹脂組成物が、フェノキシホスファゼン系難燃剤(B)を前記粉末状ポリカーボネート樹脂に予め配合したマスターバッチを混合して得られたものであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物から得られた成形品。

【公開番号】特開2012−1580(P2012−1580A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−135741(P2010−135741)
【出願日】平成22年6月15日(2010.6.15)
【出願人】(594137579)三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社 (609)
【Fターム(参考)】