説明

芳香族ポリカーボネート樹脂組成物及びその成形体

【課題】
芳香族ポリカーボネート樹脂の、優れた機械、熱、電気的特性を損なわずに流動性を向上させ、且つ薄肉成形品とした場合でも十分な難燃性、燃焼時の滴下防止性を有し、更に酸素濃度が高い、通常環境より燃焼し易い条件下でも優れた消火性・難燃性を有する、芳香族ポリカーボネート樹脂組成物及びこれを成形してなる樹脂成形体を提供する。
【解決手段】
芳香族ポリカーボネート樹脂(A)100重量部に対し、金属化合物(B)を0.001〜1重量部、オルガノポリシロキサン化合物(C)を0.001〜10重量部含有し、該芳香族ポリカーボネート樹脂のフェノール性水酸基量が100〜1500ppmであることを特徴とする芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香族ポリカーボネート樹脂組成物に関するものである。さらに詳しくは、流動性に優れ、極めて薄肉の樹脂成形体とした場合でも高い難燃性を示す、難燃性芳香族ポリカーボネート樹脂組成物、及び難燃性芳香族ポリカーボネート樹脂成形体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
芳香族ポリカーボネート樹脂は、耐熱性、機械物性、電気的特性に優れた樹脂であり、自動車材料、電気・電子機器材料、住宅材料等に幅広く利用されている。特に、難燃化された芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、コンピューター、ノートブック型パソコン、携帯電話、プリンター、複写機等のOA・情報機器の部材として使用されている。
【0003】
特に、電気・電子機器分野においては、近年、携帯電話やデジタルカメラ等の小型化によって、製品の筐体やバッテリーケース等の薄肉化が進み、それに伴い優れた流動性を有し、かつ薄肉とした場合にも、高度な難燃性を有する材料が求められている。
【0004】
芳香族ポリカーボネート樹脂に難燃性を付与する手段として、ハロゲン系、リン系、オルガノポリシロキサン系、無機系、金属塩系の難燃剤、難燃助剤の使用が提案されている。中でも近年、火災発生時や焼却処分時に有害なガスを発生しない、安全且つ周辺環境への負荷が少ない難燃剤としてオルガノポリシロキサン系難燃剤の検討がなされている。
【0005】
オルガノポリシロキサン(以下、ポリオルガノシロキサン、又はシリコーンということがある。)は、以下に示す4つの構成単位(M単位、D単位、T単位、Q単位)の少なくとも1種から構成され、この中で主鎖に分岐構造を有するオルガノポリシロキサンは、T単位及び/又はQ単位を含むものを一般的に示す。
【0006】
【化1】

【0007】
【化2】

【0008】
【化3】

【0009】
【化4】

【0010】
オルガノポリシロキサンを用いた難燃性付与方法は、これまでに数多く提案されている。中でも芳香族ポリカーボネート樹脂に対しては、上述のT単位及び/又はQ単位による分岐構造を含むものが効果的との提案がなされている(例えば特許文献1参照)。
【0011】
またシリコーン粉末(ポリオルガノシロキサン重合体を担持したシリカ)を用いることも提案されている(例えば特許文献2参照)。
【0012】
しかしながら、このようにオルガノポリシロキサンのみを添加しただけでは十分な難燃性が得られず、またオルガノポリシロキサンの添加量も多いために、樹脂組成物の機械物性等の低下を引き起こすという問題があった。
【0013】
これに対し、更に難燃性を高める目的で、オルガノポリシロキサンと金属塩化合物を併用する手法も提案されている(例えば特許文献3及び4参照)。しかしこれらに記載の方法でも、他の樹脂物性を維持しつつ且つ難燃性を向上することには限界があり、特に成形体を薄肉とした場合は安定した難燃性が得られにくいという致命的な問題があった。
【0014】
一方、末端水酸基濃度3〜60モル%のポリカーボネート樹脂に特定の金属塩を用いることで、熱分解時により早く熱分解して炭化することで、酸素遮蔽特性を発現する方法が提案されている(例えば特許文献5参照)。しかしながら金属塩化合物の添加のみでは、燃焼時の消火性や垂れ落ち防止性のいずれもが不十分であり、難燃性は未だ不十分であった。加えてポリカーボネート樹脂の末端水酸基濃度を制御しても、実際には難燃性向上の効果は僅かであり、薄肉樹脂成形体の難燃化を達成するには、未だ不十分であった。
【0015】
更にフェノール性水酸基量末端が0.05重量部以上の、重量平均分子量15000〜25000のポリカーボネート樹脂に、オルガノポリシロキサン及びポリテトラフルオロエチレンを用いる方法が提案されている(例えば特許文献6参照)。
【0016】
しかし本発明者らがこの様なポリカーボネート樹脂組成物を検討した結果、流動性は向上する反面、難燃性は未だ不十分であるか、又は難燃性が悪化することを見出した。
【0017】
ところで実際の火災時には、実験室等における、対象試料のみの燃焼試験とは異なり、火災場所周辺の可燃物の燃焼により可燃性ガスが発生するので、延焼等が発生し易い、より燃焼し易い環境となることが一般的である。例えばパソコンや携帯電話のバッテリー異常による、発熱・発火が原因となる火災においては、バッテリーからの可燃性ガスによって激しく燃焼することが指摘されている。
【0018】
この様な延焼を防ぐ為には、筐体や充電池等の電源外装(バッテリーケース)等の部材として、上述した様な、より燃焼し易い環境下でも優れた消炎性、難燃性を有する材料が望まれているが、上述した公知技術には、この様な観点からの記述や示唆は見受けられなかった。
【0019】
【特許文献1】特許第3240972号公報
【特許文献2】特許第3524192号公報
【特許文献3】特許第3439710号公報
【特許文献4】特開平11−217494号公報
【特許文献5】特開平8−295795号公報
【特許文献6】特開2000−109668号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
本発明の目的は、周辺環境への負荷が少ない、非ハロゲン系・非リン系化合物による芳香族ポリカーボネート樹脂の難燃化において、芳香族ポリカーボネート樹脂の優れた機械、熱、電気的特性を維持しつつ、流動性を向上させ、薄肉樹脂成形体としても十分な難燃性、燃焼時の滴下防止性を有するポリカーボネート樹脂組成物及びこれを成形してなる樹脂成形体の提供である。
【0021】
特に厚さ0.8mm以下の薄肉状樹脂成形体としても高度な難燃性を有し、そして酸素濃度が上昇した様な、より燃焼し易い環境下でも、優れた難燃性を有する、芳香族ポリカーボネート樹脂組成物及びこれを成形してなる樹脂成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明者らは、上述の課題に鑑み、芳香族ポリカーボネート樹脂と金属化合物と、オルガノポリシロキサンを含む樹脂組成物において、金属化合物の触媒下、芳香族ポリカーボネート樹脂とオルガノポリシロキサンが反応し、不燃層を形成することによって垂れ落ち防止性、消火性が向上し、難燃性が発現するという点に注目し、鋭意検討した。
【0023】
その結果、意外にも特定量のフェノール性水酸基量を有する芳香族ポリカーボネート樹脂は、燃焼時の不燃層形成が更に向上し、薄肉成形体とした際でも高度難燃性を有し、消炎性が改善された芳香族ポリカーボネート樹脂組成物となることを見出し、本発明を完成させた。
【0024】
即ち本発明の要旨は、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)100重量部に対し、金属化合物(B)0.001〜1重量部、オリガノポリシロキサン化合物(C)0.001〜10重量部を含有し、該芳香族ポリカーボネート樹脂のフェノール性水酸基量が160〜1500ppmである、芳香族ポリカーボネート樹脂組成物、及びこれを成形してなる樹脂成形体に関する。
【発明の効果】
【0025】
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、塩素や臭素を含むハロゲン系難燃剤やリン系難燃剤を使用せずとも、芳香族ポリカーボネート樹脂の優れた機械、熱、電気的特性を維持しつつ、薄肉樹脂成形体とした際にも十分な難燃性、特に燃焼時の滴下防止性を有する、難燃性芳香族ポリカーボネート樹脂組成物である。
【0026】
この様な特長を有する本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、幅広い分野への適用、体的には例えば、電気・電子機器やその部品、OA機器、情報端末機器、機械部品、家電製品、車輌部品、建築部材、各種容器、レジャー用品・雑貨類、照明機器などの各種用途に有用であり、特に電気・電子機器やOA機器、情報端末機器、家電製品の筐体、カバー部材、車輌外装・外板部品、内装部品への適用が期待できる。
【0027】
電気・電子機器やOA機器、情報端末機器、家電製品のハウジング、カバー部材としては、パソコン、ゲーム機、テレビなどのディスプレイ装置、プリンター、コピー機、スキャナー、ファックス、プロジェクター、電子手帳やPDA、電子式卓上計算機、電子辞書、カメラ、ビデオカメラ、携帯電話、バッテリーケース、記録媒体のドライブや読み取り装置、マウス、テンキー、CDプレーヤー、MDプレーヤー、携帯ラジオ・オーディオプレーヤー等のハウジング、カバー、キーボード、ボタン、スイッチ部材が挙げられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明を更に詳細に説明する。尚、各種化合物が有する「基」は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内において、置換基を有していてもよいことを意味する。
【0029】
芳香族ポリカ−ボネ−ト樹脂(A)
本発明に用いる芳香族ポリカ−ボネ−ト樹脂は、具体的には例えば、芳香族ジヒドロキシ化合物とカ−ボネ−ト前駆体とを、又はこれらに併せて少量のポリヒドロキシ化合物等を反応させてなる、直鎖または分岐の熱可塑性芳香族ポリカ−ボネ−ト重合体、又は共重合体である。
【0030】
本発明に用いる芳香族ポリカ−ボネ−ト樹脂は、特に限定されるものではなく、従来公知の任意のものを使用できる。またその製造方法も任意であり、従来公知の任意の方法を採用できる。具体的には例えば、界面重合法、溶融エステル交換法、ピリジン法、環状カ−ボネ−ト化合物の開環重合法、プレポリマ−の固相エステル交換法等を挙げることができる。
【0031】
これらポリカーボネート樹脂の製造方法において原料として使用される芳香族ジヒドロキシ化合物としては、具体的には例えば、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(=ビスフェノ−ルA)、2,2−ビス(3,5−ジブロモ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン(=テトラブロモビスフェノ−ルA)、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)オクタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、1,1−ビス(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−ブロモ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,5−ジクロロ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−フェニル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−シクロヘキシル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1,1−トリクロロプロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサクロロプロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン等のビス(ヒドロキシアリ−ル)アルカン類;
【0032】
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン等のビス(ヒドロキシアリ−ル)シクロアルカン類;
【0033】
9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレン等のカルド構造含有ビスフェノ−ル類;4,4’−ジヒドロキシジフェニルエ−テル、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルエ−テル等のジヒドロキシジアリ−ルエ−テル類;
【0034】
4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルフィド、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルスルフィド等のジヒドロキシジアリ−ルスルフィド類;4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホキシド、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルスルホキシド等のジヒドロキシジアリ−ルスルホキシド類;
【0035】
4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルスルホン等のジヒドロキシジアリ−ルスルホン類;ハイドロキノン、レゾルシン、4,4’−ジヒドロキシジフェニル等が挙げられる。
【0036】
これらの中でもビス(4−ヒドロキシフェニル)アルカン類が好ましく、特に耐衝撃性の点から2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン[=ビスフェノ−ルA]が好ましい。これらの芳香族ジヒドロキシ化合物は、一種または任意の割合で二種以上を併用してもよい。
【0037】
芳香族ジヒドロキシ化合物と反応させるカ−ボネ−ト前駆体としては、カルボニルハライド、カ−ボネ−トエステル、ハロホルメ−ト等が使用される。具体的には例えば、ホスゲン;ジフェニルカ−ボネ−ト、ジトリルカ−ボネ−ト等のジアリ−ルカ−ボネ−ト類;
【0038】
ジメチルカ−ボネ−ト、ジエチルカ−ボネ−ト等のジアルキルカ−ボネ−ト類;二価フェノ−ルのジハロホルメ−ト等が挙げられる。これらのカ−ボネ−ト前駆体もまた、一種または任意の割合で二種以上を併用してもよい。
【0039】
次に、本発明に用いる芳香族ポリカーボネート樹脂の製造方法について説明する。芳香族ポリカーボネート樹脂の製造方法のうち、まず界面重合法について説明する。この製造方法における重合反応は、反応に不活性な有機溶媒、及びアルカリ水溶液の存在下で、通常pHを9以上に保ち、芳香族ジヒドロキシ化合物と、必要に応じて分子量調整剤(末端停止剤)および芳香族ジヒドロキシ化合物の酸化防止のための酸化防止剤を用い、ホスゲンと反応させた後、第三級アミンまたは第四級アンモニウム塩等の重合触媒を添加し、界面重合を行うことによってポリカ−ボネ−トを得る。
【0040】
分子量調節剤の添加はホスゲン化時から重合反応開始時までの間であれば特に限定されない。なお、反応温度は、例えば、0〜40℃で、反応時間は、例えば、数分(例えば、10分)〜数時間(例えば、6時間)である。
【0041】
反応に不活性な有機溶媒としては、具体的には例えば、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、クロロホルム、モノクロロベンゼン、ジクロロベンゼン等の塩素化炭化水素等;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素等;が挙げられる。またアルカリ水溶液に用いられるアルカリ化合物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物が挙げられる。
【0042】
分子量調節剤としては、例えば一価のフェノール性水酸基量を有する化合物が挙げられ、具体的には、m−メチルフェノ−ル、p−メチルフェノ−ル、m−プロピルフェノ−ル、p−プロピルフェノ−ル、p−tert−ブチルフェノ−ル、及びp−長鎖アルキル置換フェノ−ル等が挙げられる。分子量調節剤の使用量は、芳香族ジヒドロキシ化合物100モルに対して50〜0.5モルであることが好ましく、中でも30〜1モルであることが好ましい。
【0043】
重合触媒としては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、トリプロピルアミン、トリヘキシルアミン、ピリジン等の第三級アミン類;トリメチルベンジルアンモニウムクロライド、テトラメチルアンモニウムクロライド、トリエチルベンジルアンモニウムクロライド等の第四級アンモニウム塩等;が挙げられる。
【0044】
次に、溶融エステル交換法について説明する。この製造方法における重合反応は、例えば、炭酸ジエステルと芳香族ジヒドロキシ化合物とのエステル交換反応である。炭酸ジエステルとしては、具体的には例えば、ジメチルカ−ボネ−ト、ジエチルカ−ボネ−ト、ジ−tert−ブチルカ−ボネ−ト等の炭酸ジアルキル化合物、ジフェニルカ−ボネ−トおよびジトリルカ−ボネ−ト等の置換ジフェニルカ−ボネ−ト等が挙げられる。炭酸ジエステルは、中でもジフェニルカ−ボネ−ト又は置換ジフェニルカ−ボネ−トが好ましく、特にジフェニルカ−ボネ−トが好ましい。
【0045】
また本発明に用いる芳香族ポリカーボネート樹脂は、その末端水酸基量が難燃性に大きな影響を及ぼす因子となるので、従来公知の任意の方法によって適宜調整してもよい。溶融エステル交換反応においては、通常、炭酸ジエステルと芳香族ジヒドロキシ化合物との混合比率や、エステル交換反応時の減圧度を調整して、所望の分子量および末端水酸基量を調整した芳香族ポリカーボネートを得ることができる。
【0046】
通常、溶融エステル交換反応においては、芳香族ジヒドロキシ化合物1モルに対して炭酸ジエステルを等モル量以上用いること、中でも1.01〜1.30モル、特に1.015〜1.2モル用いることが好ましい。炭酸ジエステルの使用量が少なすぎても、また多すぎても、反応性の著しい低下や、重合時間を過剰に長くする必要が生じ、色相の低下や、分子量及び分岐鎖生成の調整が困難となる場合がある。また、より積極的な調整方法として、反応時に別途、末端停止剤を添加する方法が挙げられる。末端停止剤としては一価フェノール類、一価カルボン酸類、炭酸ジエステル類が挙げられる。
【0047】
溶融エステル交換法によりポリカーボネートを製造する際には、通常、エステル交換触媒が使用される。エステル交換触媒は従来公知の任意のものを使用でき、中でも具体的には例えば、アルカリ金属化合物および/またはアルカリ土類金属化合物が好ましい。また補助的に、塩基性ホウ素化合物、塩基性リン化合物、塩基性アンモニウム化合物またはアミン系化合物などの塩基性化合物を併用してもよい。
【0048】
上記原料を用いたエステル交換反応は、通常、100〜320℃の温度で反応を行い、最終的には2mmHg以下の減圧下、芳香族ヒドロキシ化合物等の副生成物を除去しながら溶融重縮合反応を行えばよい。
【0049】
溶融重縮合は、バッチ式、連続式の何れの方法でも行うことができる。中でも、本発明に用いる芳香族ポリカーボネート樹脂や、本発明の樹脂組成物の安定性等を考慮すると、連続式で行うことが好ましい。溶融エステル交換法に用いる触媒失活剤としては、該エステル交換反応触媒を中和する化合物、例えばイオウ含有酸性化合物またはそれより形成される誘導体を使用することが好ましい。
【0050】
この様な、触媒を中和する化合物の添加量は、該触媒が含有するアルカリ金属に対して0.5〜10当量、中でも1〜5当量であることが好ましく、更にはポリカーボネートに対して1〜100ppm、中でも1〜20ppmであることが好ましい。
【0051】
本発明に用いる芳香族ポリカーボネート樹脂の分子量は任意であり、適宜選択して決定すればよいが、溶液粘度から換算した粘度平均分子量[Mv]で、10000〜40000のものが好ましい。この様に、粘度平均分子量を10000以上とすることで機械的強度がより向上する傾向にあり、機械的強度の要求の高い用途に用いる場合により好ましいものとなる。一方、40000以下とすることで流動性低下を、より抑制し改善する傾向にあり、成形加工性容易の観点からより好ましい。
【0052】
粘度平均分子量は中でも12000〜40000、特に14000〜30000であることが好ましい。また粘度平均分子量の異なる2種類以上の芳香族ポリカーボネート樹脂を混合してもよく、この際、粘度平均分子量が上記範囲外の芳香族ポリカーボネート樹脂を用いてもよい。
【0053】
ここで粘度平均分子量[Mv]とは、溶媒としてメチレンクロライドを使用し、ウベローデ粘度計を用いて温度20℃での極限粘度[η](単位dl/g)を求め、Schnellの粘度式、すなわち、η=1.23×10−40.83、から算出される値を意味する。また極限粘度[η]とは、各溶液濃度[C](g/dl)での比粘度[ηsp]を測定し、下記式により算出した値である。
【0054】
【数1】

【0055】
本発明に用いる芳香族ポリカーボネート樹脂として分岐ポリカーボネートを用いる際、その製造方法は特に制限はなく、従来公知の任意の製造方法を用いることが出来る。具体的には例えば、特開平8−259687号公報、特開平8−245782号公報等に記載の様に、溶融法(エステル交換法)により芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸のジエステルとを反応させる際、触媒の条件または製造条件を選択することにより、分岐剤を添加することなく、構造粘性指数が高く、加水分解安定性に優れた芳香族ポリカーボネート樹脂を得ることができる。
【0056】
また他の方法として、上述のポリカーボネート樹脂の原料である、芳香族ジヒドロキシ化合物とカ−ボネ−ト前駆体の他に、三官能以上の多官能性芳香族化合物を用い、ホスゲン法、又は溶融法(エステル交換法)にて、これらを共重合する方法が挙げられる。
【0057】
三官能以上の多官能性芳香族化合物としては、具体的には例えば、フロログルシン、4,6−ジメチル−2,4,6−トリ(4−ヒドロキシフェニル)ヘプテン−2、4,6−ジメチル−2,4,6−トリ(4−ヒドロキシフェニル)ヘプタン、2,6−ジメチル−2,4,6−トリ(4−ヒドロキシフェニル)ヘプテン−3、1,3,5−トリ(4−ヒドロキシフェニル)べンゼン、1,1,1−トリ(4−ヒドロキシフェニル)エタン等のポリヒドロキシ化合物類;
【0058】
3,3−ビス(4−ヒドロキシアリ−ル)オキシインド−ル(=イサチンビスフェノ−ル)、5−クロロイサチン、5,7−ジクロロイサチン、5−ブロムイサチン等が挙げられる。中でも1,1,1−トリ(4−ヒドロキシフェニル)エタンが好ましい。
【0059】
多官能性芳香族化合物は、前記芳香族ジヒドロキシ化合物の一部を置換して使用することができ、その使用量は芳香族ジヒドロキシ化合物に対して0.01〜10モル%、中でも0.1〜3モル%であることが好ましい。
【0060】
溶融法(エステル交換法)によって得られた芳香族ポリカーボネート樹脂に含まれる分岐構造は、具体的には例えば、以下の一般式(5)〜(8)の構造が挙げられる。
【0061】
【化5】

【0062】
【化6】

【0063】
【化7】

【0064】
【化8】

(上述の一般式(5)〜(8)において、Xは、単結合、炭素数1〜8のアルキレン基、炭素数2〜8のアルキリデン基、炭素数5〜15のシクロアルキレン基、炭素数5〜15のシクロアルキリデン基、または、−O−、−S−、−CO−、−SO−、−SO−で示される2価の基からなる群より選ばれるものを示す。)
【0065】
本発明に用いる分岐芳香族ポリカーボネート樹脂は、通常、構造粘性指数Nが1.2以上であり、この分岐芳香族ポリカーボネート樹脂を用いることで、滴下防止効果(燃焼時に火のついた溶融樹脂の滴下を防止する効果)が増すので好ましい。ここで構造粘性指数Nとは、例えば公知文献(小野木重治著「化学者のためのレオロジー」第15〜16頁)等に記載の値である。
【0066】
本発明に用いる芳香族ポリカーボネート樹脂は、フェノール性水酸基量が160ppm〜1500ppmであることが、難燃性向上の為に必要であり、中でも180〜1200ppm、特に200〜1000ppmであることが好ましい。ここでフェノール性水酸基量とは、芳香族ポリカーボネートの末端水酸基のことを指すが、この他に意図的に構造中に水酸基を含有させたものも当然含まれる。
【0067】
フェノール性水酸基量を160ppm以上とすることで、オルガノポリシロキサンとの反応性が著しく大きくなり、燃焼時に不燃層を形成し易くなり、高度な難燃性が得られる傾向にあるので好ましい。またフェノール水酸基を1500ppm以上とした場合には、樹脂組成物の滞留熱安定性や色調が低下する傾向にあり、またこの様な芳香族ポリカーボネートの製造はゲル化等の問題から困難であり、加えて粘度平均分子量が著しく高くなり、得られる芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の流動性が低下する場合がある。
【0068】
尚、フェノール性水酸基量の単位は、芳香族ポリカーボネート樹脂重量に対する、フェノール性水酸基の重量をppmで表示したものであり、測定方法は、四塩化チタン/酢酸法による比色定量(Macromol.Chem.88 215(1965)に記載の方法)である。
【0069】
この様なフェノール性水酸基を有する芳香族ポリカーボネート樹脂は、従来公知の任意の方法により、適宜調整することができる。特に、溶融エステル交換反応においては、通常、炭酸ジエステルと芳香族ジヒドロキシ化合物との混合比率や、エステル交換反応時の減圧度を調整して、所望の分子量および末端水酸基量を調整した芳香族ポリカーボネートを容易に得ることができるため、特に好ましい。
【0070】
界面重合法においては、反応温度や触媒量、末端停止剤の量等の反応条件等でフェノール性水酸基の量をコントロールすることができる。このような例として、例えば、特許第3692022号公報において、フェノール性水酸基量が160〜1500ppmの芳香族ポリカーボネート樹脂の製造法が記載されている。
【0071】
本発明に用いる芳香族ポリカーボネート樹脂は、フェノール性水酸基の量が上記の範囲であれば、その製造法については特に限定されないが、界面重合法によって製造された芳香族ポリカーボネート樹脂と芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとのエステル交換反応により製造された芳香族ポリカーボネート樹脂を混合して用いることが好ましく、その割合は、適宜選択して決定すればよい。
【0072】
界面法は溶融法に比べて、得られる芳香族ポリカーボネート樹脂のフェノール性水酸基量の調整が比較的容易であり、フェノール性水酸基量が10〜200ppmという、非常に低いフェノール性水酸基量の芳香族ポリカーボネート樹脂を、精度良く製造することが可能である。よって、この様な界面法による芳香族ポリカーボネート樹脂を用いることで、フェノール性水酸基量を所望の値に調整することが可能となる。
【0073】
加えて、界面法によって得られる芳香族ポリカーボネート樹脂は、通常、顆粒状、フレーク状、又はパウダー状であり、本発明における(B)成分、(C)成分、(D)成分の分散性をより向上させることができるので好ましい。また、溶融エステル交換法によって得られる芳香族ポリカーボネート樹脂は、その製造工程上、熱安定剤や酸化防止剤、離型剤等の添加剤を高度に分散した状態で容易に得ることができるので、界面重合法によって製造された芳香族ポリカーボネート樹脂と芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとのエステル交換反応により製造された芳香族ポリカーボネート樹脂を併用することで、上述の効果を更に向上することができる。
【0074】
本発明に用いる芳香族ポリカーボネート樹脂は、ポリカーボネート樹脂単独(ポリカーボネート樹脂単独とは、ポリカーボネート樹脂の1種のみを含む態様に限定されず、例えば、モノマー組成や分子量が互いに異なる複数種のポリカーボネート樹脂を含む態様を含む意味で用いる。)や、ポリカーボネート樹脂と他の熱可塑性樹脂とのアロイ(混合物)の他、例えば、本発明の目的である難燃性を更に高める目的で、シロキサン構造を有するオリゴマーまたはポリマーとの共重合体等の、ポリカーボネート樹脂を主体とする共重合体をも含むものである。
【0075】
また、成形品外観の向上や流動性の向上を図るため、本発明に用いる芳香族ポリカーボネート樹脂は、芳香族ポリカーボネートオリゴマーを含有していてもよい。この芳香族ポリカーボネートオリゴマーの粘度平均分子量[Mv]は、中でも1500〜9500、特に2000〜9000であることが好ましい。芳香族ポリカーボネートオリゴマーは、芳香族ポリカーボネート樹脂の30重量%以下とすることが好ましい。
【0076】
更に本発明に用いる芳香族ポリカーボネート樹脂は、バージン原料だけでなく、使用済みの製品から再生された芳香族ポリカーボネート樹脂、いわゆるマテリアルリサイクルされた芳香族ポリカーボネート樹脂を使用してもよい。使用済みの製品としては、光学ディスク等の光記録媒体、導光板、自動車窓ガラス・自動車ヘッドランプレンズ・風防等の車両透明部材、水ボトル等の容器、メガネレンズ、防音壁・ガラス窓・波板等の建築部材等が好ましく挙げられる。また、製品の不適合品、スプルー、ランナー等から得られた粉砕品またはそれらを溶融して得たペレット等も使用可能である。再生された芳香族ポリカーボネート樹脂は、本発明に用いる芳香族ポリカーボネート樹脂のうち、80重量%以下であることが好ましく、中でも50重量%以下であることが好ましい。
【0077】
金属化合物(B)
本発明に用いる金属化合物(B)とは、燃焼時にオルガノポリシロキサンと芳香族ポリカーボネート樹脂の複合体形成の触媒となり得る金属のことを示し、このような触媒能を持つ化合物ならば特に限定されない。
【0078】
このような金属化合物としては、例えば有機アルカリ(土類)金属塩、無機アルカリ(土類)金属塩が挙げられ、中でも有機アルカリ(土類)金属塩は芳香族ポリカーボネート樹脂への分散性が優れ、良好な外観、難燃性が得られる傾向にあるので好ましい。
【0079】
本発明における有機アルカリ(土類)金属塩は、各々有機酸あるいは有機酸エステルと、アルカリ金属元素あるいはアルカリ土類金属元素との間で生成したものである。
【0080】
有機アルカリ(土類)金属塩に用いられるアルカリ金属元素は、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Cs)であり、また有機アルカリ(土類)金属塩に用いられるアルカリ土類金属元素は、ベリリウム(Be)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)である。この中で好ましくはナトリウム、カリウム、セシウムである
【0081】
有機アルカリ(土類)金属塩の生成に用いられる有機酸の例としては、有機スルホン酸、カルボン酸、リン酸、ホウ酸、などが挙げられ、有機酸エステルの例としては、スルホン酸エステル、リン酸エステルなどが挙げられる。この中で好ましくはスルホン酸、スルホン酸エステルである。
【0082】
有機スルホン酸と、アルカリ金属元素あるいはアルカリ土類元素との間で生成される有機アルカリ(土類)金属塩(以下、有機スルホン酸金属塩と呼ぶことがある。)としては、脂肪族スルホン酸、芳香族スルホン酸のアルカリ(土類)金属塩などが挙げられる。
【0083】
脂肪族スルホン酸の例としては、アルカンスルホン酸、アルカンスルホン酸のアルキル基の一部がフッ素原子で置換されたスルホン酸、及びパーフルオロアルカンスルホン酸等が挙げられ、これらは1種若しくは2種以上を併用して使用することができる。
【0084】
アルカンスルホン酸の好ましい例として、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、プロパンスルホン酸、ブタンスルホン酸、メチルブタンスルホン酸、ヘキサンスルホン酸、ヘプタンスルホン酸、オクタンスルホン酸、デカンスルホン酸、ドデシルスルホン酸などが挙げられ、これらは1種もしくは2種以上を併用して使用することができる。またかかるアルキル基の一部がフッ素原子で置換されたアルカンスルホン酸も挙げることができる。
【0085】
一方、パーフルオロアルカンスルホン酸の好ましい例としては、パーフルオロメタンスルホン酸、パーフルオロエタンスルホン酸、パーフルオロプロパンスルホン酸、パーフルオロブタンスルホン酸、パーフルオロメチルブタンスルホン酸、パーフルオロヘキサンスルホン酸、パーフルオロヘプタンスルホン酸、パーフルオロオクタンスルホン酸などが挙げられ、この中で特に炭素数が1〜4のものが好ましい。これらは1種もしくは2種以上を併用して使用することができる。
【0086】
このような、脂肪族スルホン酸アルカリ(土類)金属塩の具体的な例としては、エタンスルホン酸ナトリウム塩、ドデシルスルホン酸ナトリウム塩、パーフルオロメタンスルホン酸ナトリウム塩、パーフルオロメタンスルホン酸カリウム塩、パーフルオロブタンスルホン酸リチウム塩、パーフルオロブタンスルホン酸ナトリウム塩、パーフルオロブタンスルホン酸カリウム塩、パーフルオロブタンスルホン酸セシウム塩などが挙げられ、この中で特に、パーフルオロメタンスルホン酸カリウム、パーフルオロブタンスルホン酸カリウムが好ましい。
【0087】
芳香族スルホン酸アルカリ(土類)金属塩としては、その芳香族スルホン酸部分として、モノマー状又はポリマー状の芳香族サルファイドのスルホン酸、芳香族カルボン酸及び/又はそのエステルのスルホン酸、モノマー状又はポリマー状の芳香族エーテルスルホン酸、芳香族スルホネートスルホン酸、モノマー状又はポリマー状の芳香族スルホン酸、モノマー状又はポリマー状の芳香族スルホンスルホン酸、芳香族ケトンスルホン酸、複素環式スルホン酸、芳香族スルホキサイドスルホン酸、芳香族スルホン酸のメチレン型結合による縮合体等が挙げられる。
【0088】
芳香族スルホン酸部分としてモノマー状又はポリマー状の芳香族サルファイドスルホン酸を有する、芳香族スルホン酸アルカリ(土類)金属塩としては、特開昭50−98539号公報に記載されており、具体的には例えば、ジフェニルサルファイド−4,4’−ジスルホン酸ジナトリウム、ジフェニルサルファイド−4,4’−ジスルホン酸ジカリウム等が挙げられる。また上記芳香族カルボン酸及びエステルのスルホン酸アルカリ(土類)金属塩としては、特開昭50−98540号公報に記載されており、5−スルホイソフタル酸カリウム、5−スルホイソフタル酸ナトリウム、ポリエチレンテレフタル酸ポリスルホン酸ポリナトリウム等が好ましい。
【0089】
芳香族スルホン酸部分としてモノマー状又はポリマー状の芳香族エーテルスルホン酸を有する、芳香族スルホン酸アルカリ(土類)金属塩としては、特開昭50−98542号公報に記載されており、具体的には例えば、1−メトキシナフタレン−4−スルホン酸カルシウム、4−ドデシルフェニルエーテルジスルホン酸ジナトリウム、ポリ(2,6−ジメチルフェニレンオキシド)ポリスルホン酸ポリナトリウム、ポリ(1,3−フェニレンオキシド)ポリスルホン酸ポリナトリウム、ポリ(1,4−フェニレンオキシド)ポリスルホン酸ポリナトリウム、ポリ(2,6−ジフェニルフェニレンオキシド)ポリスルホン酸ポリカリウム、ポリ(2−フルオロ−6−ブチルフェニレンオキシド)ポリスルホン酸リチウム等が挙げられる。
【0090】
芳香族スルホネートスルホン酸アルカリ(土類)金属塩としては、特開昭50−98544号公報に記載されており、具体的には例えば、ベンゼンスルホネートスルホン酸の、ナトリウム、カリウム、セシウム塩等が好ましい。
【0091】
また上記モノマー状又はポリマー状の芳香族スルホン酸アルカリ(土類)金属塩は、特開昭50−98546号公報に記載されており、具体的には例えば、ベンゼンスルホン酸ナトリウム、ベンゼンスルホン酸カリウム、ベンゼンスルホン酸セシウム、ベンゼンスルホン酸ルビジウム、ベンゼンスルホン酸ストロンチウム、ベンゼンスルホン酸マグネシウム、パラトルエンスルホン酸ナトリウム、パラトルエンスルホン酸カリウム、パラトルエンスルホン酸セシウム、パラトルエンスルホン酸ルビジウム、パラトルエンスルホン酸ストロンチウム、パラトルエンスルホン酸マグネシウム、メタベンゼンジスルホン酸ジカリウム、パラベンゼンジスルホン酸ジカリウム、ナフタレン−2,6−ジスルホン酸ジカリウム、ビフェニル−3,3’−ジスルホン酸カルシウム等が好ましい。
【0092】
芳香族スルホン酸部分としてモノマー状又はポリマー状の芳香族スルホンスルホン酸を有する、芳香族スルホン酸アルカリ(土類)金属塩としては、特開昭52−54746号公報に記載されており、具体的には例えば、ジフェニルスルホン−3−スルホン酸ナトリウム、ジフェニルスルホン−3−スルホン酸カリウム、ジフェニルスルホン−3,3’−ジスルホン酸ジカリウム、ジフェニルスルホン−3,4’−ジスルホン酸ジカリウム等が好ましい。
【0093】
そして芳香族ケトンのスルホン酸アルカリ(土類)金属塩としては、特開昭50−98547号公報に記載されており、具体的には例えば、α,α,α−トリフルオロアセトフェノン−4−スルホン酸ナトリウム、ベンゾフェノン−3,3’−ジスルホン酸ジカリウム等が好ましい。
【0094】
複素環式スルホン酸アルカリ(土類)金属塩としては、特開昭50−116542号公報に記載されており、具体的には例えば、チオフェン−2,5−ジスルホン酸ジナトリウム、チオフェン−2,5−ジスルホン酸ジカリウム、チオフェン−2,5−ジスルホン酸カルシウム、ベンゾチオフェンスルホン酸ナトリウム等が好ましい。
【0095】
芳香族スルホキサイドのスルホン酸アルカリ(土類)金属塩としては、特開昭52−54745号公報に記載されており、具体的には例えば、ジフェニルスルホキサイド−4−スルホン酸カリウム等が好ましい。
【0096】
また芳香族スルホン酸アルカリ(土類)金属塩のメチレン型結合による縮合体としては、ナフタレンスルホン酸ナトリウムのホルマリン縮合物、アントラセンスルホン酸ナトリウムのホルマリン縮合物等が好ましい。
【0097】
一方、硫酸エステルのアルカリ(土類)金属塩としては、特に、一価及び/又は多価アルコール類の硫酸エステルのアルカリ(土類)金属塩が挙げられる。かかる一価及び/又は多価アルコール類の硫酸エステルとしては、具体的には例えば、メチル硫酸エステル、エチル硫酸エステル、ラウリル硫酸エステル、ヘキサデシル硫酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルの硫酸エステル、ペンタエリスリトールのモノ、ジ、トリ、テトラ硫酸エステル、ラウリン酸モノグリセライドの硫酸エステル、パルミチン酸モノグリセライドの硫酸エステル、ステアリン酸モノグリセライドの硫酸エステル等が挙げられる。中でもラウリル硫酸エステルのアルカリ(土類)金属塩が好ましい。
【0098】
また、本発明に用いるその他の有機アルカリ(土類)金属塩としては、芳香族スルホンアミドのアルカリ(土類)金属塩が挙げられる。具体的には例えば、サッカリン、N−(p−トリルスルホニル)−p−トルエンスルホイミド、N−(N’−ベンジルアミノカルボニル)スルファニルイミド、及びN−(フェニルカルボキシル)スルファニルイミドのアルカリ(土類)金属塩等が挙げられる。
【0099】
本発明に用いる有機アルカリ(土類)金属塩としては、中でも、芳香族スルホン酸のアルカリ(土類)金属塩や、パーフルオロアルカンスルホン酸のアルカリ(土類)金属塩が好ましい。
【0100】
また、本発明における無機アルカリ(土類)金属塩は、各々無機酸とアルカリ金属元素、無機酸とアルカリ土類金属元素との間で生成したものである。
【0101】
アルカリ金属元素としてはリチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウムであり、中でもナトリウム、カリウム、セシウムが好ましい。
【0102】
また無機アルカリ(土類)金属塩に用いられるアルカリ土類金属元素は、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムであり、好ましくはマグネシウム、カルシウムである。
【0103】
無機アルカリ(土類)金属塩の生成に用いられる無機酸の例としては、フッ化水素、塩化水素、臭化水素、ヨウ化水素、硫酸、亜硫酸、チオ硫酸、ピロ亜硫酸、亜二チオン酸、硝酸、亜硝酸、リン酸、ピロリン酸、ホウ酸、ヘキサフルオロアルミン酸、ヘキサフルオロケイ酸、ヘキサフルオロチタン酸、ヘキサフルオロリン酸、テトラフルオロホウ酸などが挙げられる。
【0104】
無機アルカリ(土類)金属塩としては、フッ化水素、塩化水素、臭化水素、ヨウ化水素と、アルカリ金属元素またはアルカリ土類金属元素とからなるハロゲン化アルカリ金属塩、ハロゲン化アルカリ土類金属塩や、硫酸と、アルカリ金属元素またはアルカリ土類金属元素とからなる硫酸アルカリ金属塩、硫酸アルカリ土類金属塩が好ましい。
【0105】
ハロゲン化アルカリ金属塩およびハロゲン化アルカリ土類金属塩の具体的な例としては、LiF、LiCl、LiBr、LiI、NaF、NaCl、NaBr、NaI、KF、KCl、KBr、KI、MgF、MgCl、MgBr、MgI、CaF、CaCl、CaBr、CaIが挙げられる。これらのうち、特にNaCl、NaBr、KCl、KBrを用いることが好ましい。
【0106】
硫酸アルカリ金属塩および硫酸アルカリ土類金属塩の具体的な例としては、NaSO、KSO、CsSO、MgSO、CaSO、NaSO、KSO、MgSO、CaSO、NaSO、KSO、CsSO、MgS、CaS、Na、K、MgS、CaS、Na、K、MgS、CaSが挙げられる。これらのうち、特にNaSO、KSO、CsSOを用いることが好ましい。
【0107】
上記以外の無機アルカリ(土類)金属塩の具体的な例としては、NaNO、KNO、Mg(NO、Ca(NO、NaNO、KNO、Mg(NO、Ca(NO、NaPO、KPO、Mg(PO、Ca(PO、Na、K、Mg、Ca、Na、K、MgB、CaB、NaAlF、KAlF、Mg(AlF、Ca(AlF、NaSiF、KSiF、MgSiF、CaSiF、NaTiF、KTiF、MgTiF、CaTiF、NaPF、KPF、Mg(PF、Ca(PF、NaBF、KBF、Mg(BF、Ca(BFが挙げられる。
【0108】
本発明における金属化合物の含有量は、芳香族ポリカーボネート樹脂100重量部に対して0.001〜1重量部であり、中でも0.005〜0.5重量部、特に0.01〜0.3重量部であることが好ましい。金属化合物の含有量が0.001重量部未満では難燃効果が不十分であり、1重量部を超えると効果が頭打ちとなるばかりでなく、分子量低下等の熱物性や機械物性低下や、場合により難燃性が低下することがある。
【0109】
オルガノポリシロキサン(C)
本発明に用いるオルガノポリシロキサンは、以下に示す4つの単位(M単位、D単位、T単位、Q単位)の少なくとも1種から構成される。
【0110】
【化9】

【0111】
【化10】

【0112】
【化11】

【0113】
【化12】

【0114】
このようなオルガノポリシロキサンとしては、具体的には、M/D系、M/D/T系、M/D/T/Q系、M/D/Q系、M/T系、M/T/Q系、M/Q系、D系、D/T系、D/T/Q系、D/Q系、T系、T/Q系の組合せが挙げられる。
【0115】
中でも、主鎖に分岐構造を有するオルガノポリシロキサンが良好な難燃性を示す傾向にあるので好ましい。この様なオルガノポリシロキサンとしては、T単位及び/又はQ単位を含むものであり、具体的にはM/D/T系、M/D/T/Q系、M/D/Q系、M/T系、M/T/Q系、M/Q系、D/T系、D/T/Q系、D/Q系、T系、T/Q系の組合せが挙げられる。
【0116】
特にM/D/T系、M/D/T/Q系、M/T系、M/T/Q系、D/T系、D/T/Q系、T系、T/Q系等のT単位を必須に含有するものが好ましい。一方、M単独系では分子量が低過ぎる為に難燃効果が不十分となる場合がある。またQ単独系では、無機的性質が強過ぎる為に芳香族ポリカーボネート樹脂への分散性が極端に低下することがある。
【0117】
また、D単独系のオルガノポリシロキサンには、D3(3量体)、D4(4量体)、D5(5量体)、D6(6量体)等の環状シロキサンも当然含まれる。
【0118】
この様な環状シロキサンとしては、例えばヘキサメチルシクロトリシロキサン、ヘキサエチルシクロトリシロキサン、ヘキサフェニルシクロトリシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、オクタフェニルシクロテトラシロキサン、1,3,5,7−テトラエトキシ−1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサン、1,3,5,7−テトラメチル−1,3,5,7−テトラプロポキシシクロテトラシロキサン、1,3,5,7−テトラメチル−1,3,5,7−テトラビニルシクロテトラシロキサン、ドデカメチルシクロペンタシロキサン、1,3,5,7,9−ペンタメチルシクロペンタシロキサン、ドデカメチルシクロヘキサシロキサン等が挙げられる。
【0119】
上記の各組合せにおける各単位の割合は、任意であるが、T単位を50モル%〜100モル%含むことが好ましく、中でも75〜100モル%、特に90〜100モル%含むことが好ましい。
【0120】
また、本発明におけるオルガノポリシロキサンは、末端基として水酸基(シラノール基)やアルコキシ基を含んでもよい。末端基の含有量は0.5〜10重量%が好ましく、中でも1〜8重量%、特に2〜7.5重量%であることが好ましい。末端基の含有量が少なすぎるものは化学工業的製造困難な為に入手し難く、また10重量部以上のものは、芳香族ポリカーボネート樹脂との混練の際に、オルガノポリシロキサンの自己縮合が起こり易くなり、その結果、芳香族ポリカーボネート中への分散性が低下し、難燃効果の低下や、また芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の加水分解等を引き起こす場合がある。
【0121】
上記末端基のうち、アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基が挙げられる。この中では、メトキシ基、エトキシ基が特に好ましい。
【0122】
本発明に用いる、オルガノポリシロキサンに含有する、1官能性のM単位は、RSiO0.5で、2官能性のD単位は、RSiO1.0で、3官能性のD単位は、RSiO1.5でそれぞれ表わされる。ここでR、R、R、R、R及びRは、それぞれ同一又は異なる、炭素数1〜6の置換されていてもよい1価の炭化水素基より選択され、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基等のアルキル基、ビニル基、アリル基等のアルケニル基、フェニル等のアリール基が挙げられ、特にメチル基、フェニル基が好ましい。
【0123】
オルガノポリシロキサンにおけるアリール基、特にフェニル基の含有量は、芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の成形性、透明性、機械的強度、難燃性に大きく影響する。オルガノポリシロキサンにおけるフェニル基の含有量が高いほど、芳香族ポリカーボネート樹脂への分散性及び相溶性が高くなり、成形性、透明性、機械的強度、難燃性が良好となる。このため、オルガノポリシロキサン分子中のケイ素原子に結合する全有機置換基中のフェニル基の割合は、中でも30〜100重量%、更には50〜100重量%、特に80〜100重量%であることが好ましい。
【0124】
本発明に用いるオルガノポリシロキサンは、その分子中に、上述の有機基の他に、エポキシ基、アルコキシ基、ヒドロシリル(SiH)基、ビニル基等の官能基を含んでいても良い。これらの特殊な官能基を含有することで芳香族ポリカーボネート樹脂との相溶性が向上したり、燃焼時の反応性が向上したりし、その結果、難燃性が高まることがある。
【0125】
また本発明に用いるオルガノポリシロキサンの重量平均分子量は特に限定されないが、通常450〜100000であり、中でも750〜20000、更には1000〜10000、特に1500〜5000であることが好ましい。重量平均分子量が小さすぎるものは化学工業的製造困難な為に入手し難く、またシリコーンレジンの耐熱性が著しく低い使用に適さない場合がある。重量平均分子量が大きすぎても、分散性に劣る為か難燃性が低減する傾向にあり、かつ樹脂組成物の機械物性を低下させる傾向にある。尚、重量平均分子量は、通常GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフ)によって測定される。
【0126】
本発明におけるオルガノポリシロキサン成分の含有量は、芳香族ポリカーボネート樹脂100重量部に対して0.001〜10重量部である。オルガノポリシロキサン成分の含有量が少なすぎると、得られるポリカーボネート樹脂組成物の難燃性、滴下防止性が不十分となり、逆に多すぎてもポリカーボネート樹脂成形品の外観不良や機械的強度の低下、耐熱性の低下、熱安定性の低下が生ずる場合がある。
【0127】
よって本発明におけるオルガノポリシロキサンの含有量は、芳香族ポリカーボネート樹脂100重量部に対して、0.03〜7重量部であることが好ましく、中でも0.1〜5重量部、特に0.5〜3.5重量部であることが好ましい。本発明に用いるオルガノポリシロキサンは、単独で、又は2種以上を任意の割合で併用してもよい。
【0128】
また、オルガノポリシロキサンをシリカ粉、タルク粉、炭酸カルシウム等の無機充填剤と予め混合及び/又は含浸したものを使用してもよい。このような無機充填剤、特にシリカ粉に含浸することにより、芳香族ポリカーボネート樹脂への分散性を向上することが可能である。
【0129】
このような無機充填剤に含浸したオルガノポリシロキサンとしては、例えば、60000cStの粘度を有するポリジメチルシロキサンをシリカに担持した粉末(東レ・ダウコーニング・シリコーン(株)製、トレフィルF202、ポリジメチルシロキサン含有量 60重量%)等が挙げられる。
【0130】
フルオロポリマー(D)
本発明における樹脂組成物は、さらに難燃性、滴下防止性を高める目的で、フルオロポリマーを含んでも良い。このような、フルオロポリマーとしては、従来公知の任意のものを使用でき、中でもフルオロオレフィン樹脂が好ましい。フルオロオレフィン樹脂としては、通常、フルオロエチレン構造を含む重合体や共重合体が用いられ、具体的には例えば、ジフルオロエチレン樹脂、テトラフルオロエチレン樹脂、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合樹脂等が挙げられる。中でもテトラフルオロエチレン樹脂等が好ましく、このフルオロエチレン樹脂としては、フィブリル形成能を有するフルオロエチレン樹脂が好ましい。
【0131】
本発明に用いる、フィブリル形成能を有するフルオロエチレン樹脂としては、具体的には例えば、三井・デュポンフロロケミカル社製テフロン(登録商標)6J、ダイキン化学工業社製ポリフロンF201L、ポリフロンF103等が挙げられる。またフルオロエチレン樹脂の水性分散液として、三井デュポンフロロケミカル社製のテフロン(登録商標)30J、ダイキン化学工業社製フルオンD−1等が挙げられる。更に本発明においては、ビニル系単量体を重合してなる多層構造を有するフルオロエチレン重合体も使用することができ、具体的には三菱レイヨン社製メタブレンA−3800等が挙げられる。
【0132】
本発明におけるフルオロポリマーの含有量は、芳香族ポリカーボネート樹脂100重量部に対して0.001〜0.5重量部である。フルオロポリマーの含有量が少なすぎると、得られるポリカーボネート樹脂組成物の難燃性、滴下防止性が不十分となり、逆に多すぎてもポリカーボネート樹脂成形品の外観不良や機械的強度の低下が生ずる場合がある。
【0133】
よって本発明におけるフルオロポリマーの含有量は、芳香族ポリカーボネート樹脂100重量部に対して、0.05〜0.45重量部であることが好ましく、中でも0.075〜0.4重量部、特に0.1〜0.35重量部であることが好ましい。
【0134】
その他の成分
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、必要に応じ、本発明の目的を損なわない範囲において、他の樹脂や各種樹脂添加剤を含有していてもよい。
【0135】
他の樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリトリメチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂などの熱可塑性ポリエステル樹脂;ポリスチレン樹脂、高衝撃ポリスチレン樹脂(HIPS)、アクリロニトリル−スチレン共重合体(AS樹脂)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS樹脂)、アクリロニトリル−スチレン−アクリルゴム共重合体(ASA樹脂)、アクリロニトリル−エチレンプロピレン系ゴム−スチレン共重合体(AES樹脂)などのスチレン系樹脂;ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂等のポリオレフィン樹脂;ポリアミド樹脂;ポリイミド樹脂;ポリエーテルイミド樹脂;ポリウレタン樹脂;ポリフェニレンエーテル樹脂;ポリフェニレンサルファイド樹脂;ポリスルホン樹脂;ポリメタクリレート樹脂、ポリ乳酸(PLA)、ポリブチレンサクシネート(PBS)樹脂等が挙げられ、これらは1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0136】
また、各種樹脂添加剤としては、従来公知の任意の、熱安定剤、酸化防止剤、離型剤、紫外線吸収剤、染顔料、難燃剤、滴下防止剤、帯電防止剤、防曇剤、滑剤・アンチブロッキング剤、流動性改良剤、可塑剤、分散剤、防菌剤等から、適宜選択して使用すればよい。これらは2種以上を併用してもよい。以下、本発明の難燃性芳香族ポリカーボネート樹脂組成物に用いる添加剤について説明する。
【0137】
熱安定剤としては、例えばリン系化合物が挙げられる。リン系化合物としては、従来公知の任意のものを使用できる。具体的には例えば、リン酸、ホスホン酸、亜燐酸、ホスフィン酸、ポリリン酸などのリンのオキソ酸;酸性ピロリン酸ナトリウム、酸性ピロリン酸カリウム、酸性ピロリン酸カルシウムなどの酸性ピロリン酸金属塩;リン酸カリウム、リン酸ナトリウム、リン酸セシウム、リン酸亜鉛など第1族または第2B族金属のリン酸塩;有機ホスフェート化合物、有機ホスファイト化合物、有機ホスホナイト化合物等が挙げられる。これらの中でも、下記一般式(13)で表される有機ホスフェート化合物及び/又は下記一般式(14)で表される有機ホスファイト化合物が好ましい。
【0138】
O=P(OH)(OR)3−m (13)
(上記式中、Rはアルキル基またはアリール基を示し、それぞれ同一でも、異なっていてもよく、mは0〜2の整数を示す。)
【0139】
【化13】

(式中、R’はアルキル基またはアリール基を示し、それぞれ同一でも、異なっていてもよい。)
【0140】
一般式(13)中、Rは炭素原子数1〜30のアルキル基または炭素原子数6〜30のアリール基であることが好ましく、中でも炭素原子数2〜25のアルキル基であることが好ましい。またmは、1又は2であることが好ましい。
【0141】
一般式(14)中、R’は炭素原子数1〜30のアルキル基または炭素原子数6〜30のアリール基であることが好ましい。一般式(7)で表される有機ホスファイトの好ましい具体例としては、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト等が挙げられる。
【0142】
これらリン系化合物の含有量は、芳香族ポリカーボネート樹脂100重量部に対して、0.001〜1重量部であることが好ましく、中でも0.01〜0.7重量部、特に0.03〜0.5重量部であることが好ましい。
【0143】
酸化防止剤としては、例えばヒンダ−ドフェノール系酸化防止剤が挙げられる。具体的にはペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、チオジエチレンビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、N,N’−ヘキサン−1,6−ジイルビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニルプロピオナミド)、2,4−ジメチル−6−(1−メチルペンタデシル)フェノール、ジエチル[[3,5−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシフェニル]メチル]ホスフォエート、3,3’,3’’,5,5’,5’’−ヘキサ−tert−ブチル−a,a’,a’’−(メシチレン−2,4,6−トリイル)トリ−p−クレゾール、4,6−ビス(オクチルチオメチル)−o−クレゾール、エチレンビス(オキシエチレン)ビス[3−(5−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−m−トリル)プロピオネート]、ヘキサメチレンビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,3,5−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオン,2,6−ジ−tert−ブチル−4−(4,6−ビス(オクチルチオ)−1,3,5−トリアジン−2−イルアミノ)フェノール等が挙げられ、これらは2種以上併用してもよい。
【0144】
上記の中では、ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネートが好ましい。これら2つのフェノール系酸化防止剤は,チバ・スペシャルテイ・ケミカルズ社より、「イルガノックス1010」及び「イルガノックス1076」の名称で市販されている。
【0145】
酸化防止剤の含有量は、芳香族ポリカーボネート樹脂100重量部に対し、通常0.001〜1重量部、中でも0.01〜0.5重量部であることが好ましい。この含有量が少なすぎると効果が不十分であり、逆に多すぎても効果が頭打ちとなり経済的でない。
【0146】
離型剤としては、具体的には例えば、脂肪族カルボン酸や、このアルコールエステル、数平均分子量200〜15000の脂肪族炭化水素化合物、ポリシロキサン系シリコーンオイル等が挙げられる。
【0147】
脂肪族カルボン酸としては、飽和または不飽和の、鎖式又は環式の、脂肪族1〜3価のカルボン酸が挙げられる。これらの中でも炭素数6〜36の1価または2価カルボン酸が好ましく、特に炭素数6〜36の脂肪族飽和1価カルボン酸が好ましい。この様な脂肪族カルボン酸の具体例としては、パルミチン酸、ステアリン酸、カプロン酸、カプリン酸、ラウリン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、メリシン酸、テトラリアコンタン酸、モンタン酸、アジピン酸、アゼライン酸等が挙げられる。
【0148】
脂肪族カルボン酸エステルにおける脂肪族カルボン酸としては、前記脂肪族カルボン酸と同様のものが使用できる。エステルのアルコール部分としては、飽和または不飽和の、鎖式又は環式の、1価または多価アルコールが挙げられ、これらはフッ素原子、アリール基等の換基を有していてもよい。中でも炭素数30以下の、一価または多価飽和アルコールが好ましく、特に炭素数30以下で飽和脂肪族の1価又は多価アルコールが好ましい。
【0149】
このようなアルコールの具体例としては、オクタノール、デカノール、ドデカノール、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール、2,2−ジヒドロキシペルフルオロプロパノール、ネオペンチレングリコール、ジトリメチロールプロパン、ジペンタエリスリトール等が挙げられる。尚、この脂肪族カルボン酸エステルは、不純物として脂肪族カルボン酸及び/またはアルコールを含有していてもよく、更には複数の脂肪族カルボン酸エステルの混合物でもよい。
【0150】
脂肪族カルボン酸エステルの具体例としては、蜜ロウ(ミリシルパルミテートを主成分とする混合物)、ステアリン酸ステアリル、ベヘン酸ベヘニル、ベヘン酸ステアリル、グリセリンモノパルミテート、グリセリンモノステアレート、グリセリンジステアレート、グリセリントリステアレート、ペンタエリスリトールモノパルミテート、ペンタエリスリトールモノステアレート、ペンタエリスリトールジステアレート、ペンタエリスリトールトリステアレート、ペンタエリスリトールテトラステアレート等が挙げられる。
【0151】
数平均分子量200〜15000の脂肪族炭化水素としては、流動パラフィン、パラフィンワックス、マイクロワックス、ポリエチレンワックス、フィッシャ−トロプシュワックス、炭素数3〜12のα−オレフィンオリゴマー等が挙げられる。ここで脂肪族炭化水素は脂環式炭化水素をも含み、またこれら炭化水素化合物は部分酸化されていてもよい。
【0152】
これら脂肪族炭化水素の中でも、パラフィンワックス、ポリエチレンワックスまたはポリエチレンワックスの部分酸化物が好ましく、特にパラフィンワックスや、ポリエチレンワックスが好ましい。数平均分子量は中でも、200〜5000であることが好ましい。これらの脂肪族炭化水素は単一物質であっても、構成成分や分子量が様々なものの混合物であっても、主成分が上記の範囲内であればよい。
【0153】
ポリシロキサン系シリコーンオイルとしては、例えばジメチルシリコーンオイル、フェニルメチルシリコーンオイル、ジフェニルシリコーンオイル、フッ素化アルキルシリコーン等が挙げられ、これらは一種または任意の割合で二種以上を併用してもよい。
【0154】
本発明における離型剤の含有量は、芳香族ポリカーボネート樹脂100重量部に対して、通常0.001〜2重量部、好ましくは0.01〜1重量部である。離型剤の含有量が少なすぎると、離型効果が十分に発揮されず、逆に多すぎても芳香族ポリカーボネート樹脂の耐加水分解性の低下や、射出成形時の金型汚染等が生ずる場合がある。
【0155】
紫外線吸収剤の具体例としては、酸化セリウム、酸化亜鉛などの無機紫外線吸収剤の他、ベンゾトリアゾール化合物、ベンゾフェノン化合物、トリアジン化合物などの有機紫外線吸収剤が挙げられ、中でも有機紫外線吸収剤が好ましい。特に、ベンゾトリアゾール化合物、2−(4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5−[(ヘキシル)オキシ]−フェノール、2−[4,6−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−1,3,5−トリアジン−2−イル]−5−(オクチロキシ)フェノール、2,2’−(1,4−フェニレン)ビス[4H−3,1−ベンゾキサジン−4−オン]、[(4−メトキシフェニル)−メチレン]−プロパンジオイックアシッド−ジメチルエステルの群から選ばれる少なくとも1種が好ましい。
【0156】
ベンゾトリアゾール化合物の具体例としては、メチル−3−〔3−tert−ブチル−5−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−ヒドロキシフェニル〕プロピオネート−ポリエチレングリコールとの縮合物が挙げられる。また、その他のベンゾトリアゾール化合物の具体例としては、2−ビス(5−メチル−2−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(3,5−ジ−tert−ブチル−2−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(3’,5’−ジ−tert−ブチル−2’−ヒドロキシフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(3−tert−ブチル−5−メチル−2−ヒドロキシフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−tert−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(3,5−ジ−tert−アミル−2−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2−[2−ヒドロキシ−3,5−ビス(α,α−ジメチルベンジル)フェニル]−2H−ベンゾトリアゾール、2,2’−メチレン−ビス〔4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2N−ベンゾトリアゾール2−イル)フェノール〕[メチル−3−〔3−tert−ブチル−5−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−ヒドロキシフェニル〕プロピオネート−ポリエチレングリコール]縮合物などが挙げられる。これらは単独で、又は2種以上を任意の割合で併用してもよい。
【0157】
これらベンゾトリアゾール化合物の中でも、2−(2’−ヒドロキシ−5’−tert−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−[2−ヒドロキシ−3,5−ビス(α,α−ジメチルベンジル)フェニル]−2H−ベンゾトリアゾール、2−(4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5−[(ヘキシル)オキシ]−フェノール、2−[4,6−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−1,3,5−トリアジン−2−イル]−5−(オクチロキシ)フェノール、2,2’−メチレン−ビス〔4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2N−ベンゾトリアゾール2−イル)フェノール〕等が好ましい。
【0158】
本発明における紫外線吸収剤の含有量は、芳香族ポリカーボネート樹脂100重量部に対して、通常0.01〜3重量部、好ましくは0.1〜1重量部である。紫外線吸収剤の含有量が少なすぎると、耐候性の改良効果が不十分となる場合があり、逆に多すぎてもモールドデボジット等の問題が生じる場合がある。
【0159】
染顔料としては、無機顔料、有機顔料、有機染料などが挙げられる。無機顔料としては例えば、カーボンブラック、カドミウムレッド、カドミウムイエロ−等の硫化物系顔料;群青などの珪酸塩系顔料;酸化チタン、亜鉛華、弁柄、酸化クロム、鉄黒、チタンイエロ−、亜鉛−鉄系ブラウン、チタンコバルト系グリ−ン、コバルトグリ−ン、コバルトブル−、銅−クロム系ブラック、銅−鉄系ブラック等の酸化物系顔料;黄鉛、モリブデ−トオレンジ等のクロム酸系顔料;紺青などのフェロシアン系顔料が挙げられる。
【0160】
有機顔料および有機染料としては、銅フタロシアニンブル−、銅フタロシアニングリ−ン等のフタロシアニン系染顔料;ニッケルアゾイエロ−等のアゾ系染顔料;チオインジゴ系、ペリノン系、ペリレン系、キナクリドン系、ジオキサジン系、イソインドリノン系、キノフタロン系などの縮合多環染顔料;アンスラキノン系、複素環系、メチル系の染顔料などが挙げられる。
【0161】
これらは単独で、又は2種以上を任意の割合で併用してもよく、中でも熱安定性の点から、酸化チタン、カーボンブラック、シアニン系、キノリン系、アンスラキノン系、フタロシアニン系化合物等が好ましい。
【0162】
染顔料の含有量は、芳香族ポリカーボネート樹脂100重量部に対し、通常5重量部以下、中でも3重量部以下、特に2重量部以下であることが好ましい。染顔料の含有量が多すぎると、耐衝撃性が低下する場合がある。
【0163】
難燃剤としては、従来公知の任意のものを使用でき、単独で、又は2種以上を任意の割合で併用してもよい。中でも、環境汚染の可能性が極めて低い有機金属塩系難燃剤や、シリコーン系難燃剤、無機化合物系難燃(助)剤が好ましく、無機化合物系難燃(助)剤としては、タルク、マイカ、カオリン、クレー、シリカ粉末、ヒュームドシリカ、ガラスフレークが挙げられる。
【0164】
本発明における難燃剤の含有量は、芳香族ポリカーボネート樹脂100重量部に対して、通常0.0001〜30重量部であり、中でも0.01〜25重量部、特に0.1〜20重量部であることが好ましい。難燃剤の含有量が少なすぎると、難燃効果が不十分となり、逆に多すぎても耐熱性や機械物性が著しく低下する場合がある。
【0165】
芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の製造
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、芳香族ポリカーボネート樹脂に、上述したオルガノポリシロキサン及び金属化合物を特定量含有することを特徴とする。そしてその製造方法は特に制限されることはなく、従来公知の任意の、樹脂組成物の製造方法から適宜選択して決定すればよい。
【0166】
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の製造方法は、具体的には例えば、上述した芳香族ポリカーボネート、及び金属化合物成分、更に必要に応じてその他の添加成分を、タンブラ−やヘンシェルミキサ−などの各種混合機を用い予め混合した後、バンバリ−ミキサ−、ロ−ル、ブラベンダ−、単軸混練押出機、二軸混練押出機、ニ−ダ−などで溶融混練する方法が挙げられる。
【0167】
また各成分を予め混合せずに、又は一部の成分のみ予め混合して、フィーダーを用いて押出機に供給し溶融混練して、樹脂組成物を製造してもよい。更には、一部の成分を予め混合し押出機に供給して溶融混練することで得られる樹脂組成物をマスターバッチとし、再度、他の成分と混合し溶融混練し、樹脂組成物を製造することもできる。
【0168】
中でも本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の製造方法においては、上述したオルガノポリシロキサンや金属化合物を予め樹脂成分でマスターバッチ化して、樹脂組成物を製造することによって、分散性、更には押出作業性が向上するので好ましい。また上述した金属化合物の分散性向上の観点から、予め水や有機溶剤等の溶媒にこれを溶解してから、混練することもできる。
【0169】
樹脂成形体の製造
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂成形体は、上述してきた、本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を、従来公知の任意の樹脂成形方により、得ることが出来る。樹脂成形体の製造する方法は特に限定されず、熱可塑性樹脂について一般に用いられる成形法を用いることが出来る。
【0170】
樹脂成形体の製造方法としては、具体的には例えば、一般的な射出成形法、超高速射出成形法、射出圧縮成形法、二色成形法、ガスアシスト等の中空成形法、断熱金型を使用した成形法、急速加熱金型を使用した成形法、発泡成形(超臨界流体も含む)、インサ−ト成形、IMC(インモールドコ−ティング成形)成形法、押出成形法、シ−ト成形法、熱成形法、回転成形法、積層成形法、プレス成形法等が挙げられる。また、ホットランナ−方式を使用した成形法を用いることも出来る。
【0171】
中でも樹脂成形体として、バッテリーケース等の電気・電子機器部材とする場合には、成形速度等の観点から、射出成形による成形が好ましい。
【実施例】
【0172】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、これらの実施例に限定されるものではない。尚、「部」は「重量部」を示す。
【0173】
樹脂ペレット製造
表1に記した各成分を、表3に記した割合(重量比)で配合し、タンブラーにて20分混合後、1ベントを備えた日本製鋼所社製(TEX30HSST)に供給し、スクリュー回転数200rpm、吐出量15kg/時間、バレル温度260℃の条件で混練し、ストランド状に押出された溶融樹脂を水槽にて急冷し、ペレタイザーにてペレット化した。
【0174】
尚、二種類以上のポリカーボネート樹脂を併用する際の、ポリカーボネート樹脂のフェノール性水酸基量は、例えば、フェノール性水酸基量がX(ppm)の芳香族ポリカーボネート樹脂A(重量部)と、Y(ppm)の芳香族ポリカーボネート樹脂B(重量部)を用いる際には、X×A+Y×B/(A+B)として求めた。
【0175】
【表1】

【0176】
UL試験用試験片の作成
上述の製造方法で得られたペレットを120℃、5時間乾燥後、日本製鋼所製のJ50−EP型射出成形機を用いて、シリンダー温度300℃、金型温度80℃、成形サイクル30秒の条件で射出成形し、長さ125mm、幅13mm、厚さ0.8mmの試験片を成形した。
【0177】
消炎性試験用試験片の作成
上述の製造方法で得られたペレットを120℃、5時間乾燥後、日本製鋼所製のJ50−EP型射出成形機を用い、シリンダー温度300℃、金型温度80℃、成形サイクル30秒の条件で射出成形し、長さ124mm、幅6mm、厚さ3mmの試験片を成形した。
【0178】
難燃性試験
各芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の難燃性の評価は、UL試験用サンプルを温度23℃、湿度50%の恒温室の中で48時間調湿し、米国アンダーライターズ・ラボラトリー(UL)ULが定めているUL94試験(機器の部品用プラスチック材料の燃焼試験)に準拠して行った。UL94Vとは、鉛直に保持した所定の大きさの試験片にバーナーの炎を10秒間接炎した後の残炎時間やドリップ性から難燃性を評価する方法であり、V−0、V−1及びV−2の難燃性を有するためには、以下の表2に示す基準を満たすことが必要となる。
【0179】
【表2】

【0180】
ここで残炎時間とは、着火源を遠ざけた後の、試験片の有炎燃焼を続ける時間の長さであり、ドリップによる綿着火とは、試験片の下端から約300mm下にある標識用の綿が、試験片からの滴下(ドリップ)物によって着火されるかどうかによって決定される。また5試料のうち、1つでも上記基準を満たさないものがある場合、V−2を満足しないとしてNR(not rated)と評価した。
【0181】
消炎性試験
JIS K7201−2に準拠したキャンドル法燃焼試験機D(東洋精機製作所製)を用いて、酸素指数OI(%)を30%に固定し、各サンプルに10秒間接炎し、炎を離してから完全に消炎するまでの時間を測定し、3回の平均値を求めた。この値が小さい程、消炎性が高いことを示す。
【0182】
流動性評価
樹脂組成物のペレットを120℃で4時間以上乾燥し、高荷式フローテスターを使用し、280℃、荷重160kgf/cm2の条件下で組成物の単位時間当たりの流出量Q値(単位:ml/s)を測定し、流動性を評価した。なお、オリフィスは直径1mm×長さ10mmのものを使用した。Q値が高いほど、流動性に優れていることを示す。
【0183】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ポリカーボネート樹脂(A)100重量部に対し、金属化合物(B)を0.001〜1重量部、オルガノポリシロキサン化合物(C)を0.001〜10重量部含有し、該芳香族ポリカーボネート樹脂のフェノール性水酸基量が160〜1500ppmであることを特徴とする芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項2】
金属化合物(B)が、有機酸及び/又は無機酸と、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属からなる金属塩化合物であることを特徴とする請求項1に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項3】
オルガノポリシロキサン化合物(C)が、芳香族基を含有し、かつ主鎖に分岐構造を有するオルガノポリシロキサン化合物であることを特徴とする請求項1又は2に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項4】
芳香族ポリカーボネート樹脂(A)のフェノール性水酸基量が200〜1200ppmであることを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項5】
芳香族ポリカーボネート樹脂(A)が、芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとのエステル交換反応により製造された芳香族ポリカーボネート樹脂であることを特徴とする請求項1乃至4の何れかに記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項6】
芳香族ポリカーボネート樹脂(A)が、界面重合法によって製造された芳香族ポリカーボネート樹脂と芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとのエステル交換反応により製造された芳香族ポリカーボネート樹脂とからなることを特徴とする請求項1乃至5の何れかに記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項7】
更に、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)100重量部に対して、フルオロポリマー(D)を、0.001〜0.5重量部含有することを特徴とする請求項1乃至6の何れかに記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1乃至7の何れかに記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を成形して成る芳香族ポリカーボネート樹脂成形体。
【請求項9】
電気・電子機器部材であることを特徴とする請求項8に記載の樹脂成形体。
【請求項10】
バッテリーケースであることを特徴とする請求項8に記載の樹脂成形体。

【公開番号】特開2009−40876(P2009−40876A)
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−207103(P2007−207103)
【出願日】平成19年8月8日(2007.8.8)
【出願人】(594137579)三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社 (609)
【Fターム(参考)】