説明

芳香族ポリカーボネート樹脂組成物

【課題】ポリカーボネートの成形加工性を向上させるため、乳化重合法により製造されるABS樹脂、AS樹脂等が配合された樹脂組成物において、高温成形や大型成形機使用時の滞留によって起こるポリカーボネートの分子量低下を抑制し、樹脂成形品の機械的強度を高めることを課題とする。
【解決手段】(A)芳香族ポリカーボネート樹脂60〜95質量%、(B)乳化重合された熱可塑性樹脂5〜40質量%及び、(C)一般式(I)
(R−O)n−PO−(OH)3-n (I)
[Rは、炭素数1〜30のアルキル基を表し、nは、1又は2である。]
で示される酸性リン酸エステルを、前記(A)成分と(B)成分との合計量100質量部に対して、0.001〜1質量部の割合で含有してなる芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香族ポリカーボネート樹脂組成物に関し、さらに詳しくは、ポリカーボネートの溶融時の分子量低下を抑制し、熱安定性、外観、耐薬品性が改良された、芳香族ポリカーボネートと乳化重合によって得られた熱可塑性樹脂とを含有する樹脂組成物に関する。本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、オフィスオートメーション(OA)機器(複写機、プリンター、プロジェクター等)の内外装、テレビ外装(テレビ枠、スタンドカバー、リモコン等の通信端末)、ノートパソコン外装などに利用可能であり、特に、薄型成形品、大型成形品に有用である。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート樹脂は、耐衝撃性などの機械的特性に優れ、耐熱性、透明性に優れているため、様々な分野で用いられている。また、ポリカーボネート樹脂と他の樹脂、例えばABS樹脂を混ぜることで、低コスト化、ポリカーボネート樹脂の成形加工性、耐衝撃性における厚み依存性などが改善され、電子通信機器やOA機器のハウジング、さらには自動車内装部品など様々な分野で用いられている(特許文献1〜5)。
【0003】
ところで、このようなOA機器やテレビに使用されている樹脂部材は、近年の製品の大型化、コストダウンのための軽量化にともなう製品の薄肉化に対応するため、多点ゲート成形やガスアシスト成形などで樹脂の流動性を補っている。しかしながら、多点ゲート成形ではウェルド部の増加、ガスアシスト成形では薄肉化により、いずれも強度不足が発生するという問題がある。同時に、OA機器等に使用される樹脂部材はその安全性のため、難燃性が必要となり、薄肉での難燃性確保が課題となってくる。また、環境への配慮から製品のリサイクルに対応すべく、難燃材料のリサイクル特性向上が近年の課題となっているところでもある。しかしながら、上記したような特許文献に記載されている樹脂組成物では、次のような問題があり、満足できるものではない。
【0004】
特許文献1(特許第3836638号公報)には、ポリカーボネートと塊状重合法によって製造されたABSとが配合された樹脂組成物が開示されているが、耐衝撃性値は薄肉外装品向けには不足していた。
【0005】
特許文献2(特許第4372285号公報)には、成形加工時に発生する物性低下を改善するために、ポリカーボネート比率の向上、耐衝撃性改良剤の配合や酸価の低いリン系難燃剤の利用が報告されているが、大型製品、薄肉製品を成形する場合、流動性が不足し、成形時の物性改良効果も不足していた。
【0006】
特許文献3(特許第4489242号公報)には、ポリカーボネートと、塊状重合法または溶液重合法によって得られたゴム変性スチレン系樹脂と乳化重合法により得られたブタジエン系グラフト共重合体との組成物が、溶融流動性と難燃性、熱安定性に優れた樹脂組成物であると記載されているが、薄肉難燃性、熱安定性が不足していた。
【0007】
特許文献4(特許第3608510号公報)には、流動性、機械的物性の安定性に優れた樹脂組成物が開示されているが、難燃剤に対する酸価の選択や、ゴム含有成分の分散形態の制御だけでは耐湿熱性の確保は不十分であり、薄肉の衝撃強度ならびに薄肉難燃性に関する記載はない。
【0008】
特許文献5(特表2008−516070号公報)には、ポリカーボネートと乳化重合で誘導されたポリマーのブレンドに、水との反応によりポリマーの分子量が低下し、物理的性質を損なうことがないよう、焼成炭酸アルミノマグネシウムを添加した組成物の開示がある。しかし、焼成炭酸アルミノマグネシウムを添加した組成物では、特に薄肉外装品とした場合の機械的特性が十分ではなく、また耐薬品性や滞留熱安定性が不足したり、外観不良が生じることがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第3836638号公報
【特許文献2】特許第4372285号公報
【特許文献3】特許第4489242号公報
【特許文献4】特許第3608510号公報
【特許文献5】特表2008−516070号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、前記の課題を解決するためになされたもので、ポリカーボネートの成形加工性を向上させるため、乳化重合法により製造されるABS樹脂、AS樹脂等が配合された樹脂組成物において、高温成形や大型成形機使用時の滞留によって起こるポリカーボネートの分子量低下を抑制し、樹脂成形品の機械的強度を高めることを課題とする。また、このように薄肉成形が進む中で、薄肉における難燃性、耐衝撃性の向上を図ることも必須の課題となる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、芳香族ポリカーボネートと乳化重合によって得られる熱可塑性樹脂とを特定の割合で含む樹脂組成物に対し、特定構造の酸性リン酸エステルを安定剤として特定の割合で配合することにより、乳化重合によって得られる熱可塑性樹脂を用いることに起因すると思われるポリマーブレンド中のポリカーボネート成分の分子量低下を抑制することができ、樹脂組成物の熱安定性、成形品の外観、耐薬品性や機械的特性を改善できることを見いだし、本発明を完成した。
【0012】
即ち本発明は、以下の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を提供するものである。
1. (A)芳香族ポリカーボネート樹脂60〜95質量%、(B)乳化重合された熱可塑性樹脂5〜40質量%及び、(C)一般式(I)
(R−O)n−PO−(OH)3-n (I)
[Rは、炭素数1〜30のアルキル基を表し、nは、1又は2である。]
で示される酸性リン酸エステルを、前記(A)成分と(B)成分との合計量100質量部に対して、0.001〜1質量部の割合で含有してなる芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
2. (B)乳化重合された熱可塑性樹脂が、(b−1)芳香族ビニル系単量体、(b−2)シアン化ビニル系単量体、及び(b−3)アルキル(メタ)アクリレート単量体の中から選ばれる少なくとも1種を(b−4)ゴム質重合体にグラフト共重合させてなる熱可塑性共重合体である上記1に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
3. (b−4)ゴム質重合体が、ゴム状ブタジエン系重合体である上記2に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
4. 更に、(D)成分としてエチレン−(メタ)アクリル酸共重合体および/またはエチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体を、(A)成分と(B)成分との合計量100質量部に対して、0.5〜5質量部の割合で含有してなる上記1〜3のいずれかに記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
5. 更に、(E)成分としてハロゲン非含有リン酸エステルを、(A)成分と(B)成分との合計量100質量部に対して、3〜25質量部の割合で含有してなる上記1〜4のいずれかに記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
6. 更に、(F)成分として無機フィラーを、(A)成分と(B)成分との合計量100質量部に対して、0.5〜20質量部の割合で含有してなる上記1〜5のいずれかに記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
7. 更に、(G)成分としてポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を、(A)成分と(B)成分との合計量100質量部に対して、0.1〜2質量部の割合で含有してなる上記1〜6のいずれかに記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
【発明の効果】
【0013】
特定構造の酸性リン酸エステルを配合することにより、乳化重合法によって製造されるABS樹脂、MBS樹脂、MB樹脂などをポリカーボネートと溶融ブレンドし、薄肉成形品を得る際、成形機内の滞留熱安定性、高温成形、薄肉における難燃性、耐衝撃性の向上が可能となり、成形品の外観、耐薬品性、機械的強度に優れた芳香族ポリカーボネート樹脂組成物が得られる。本発明は、近年、大型化・薄肉化が進む、OA外装分野やテレビ分野に特に有用な技術である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、(A)芳香族ポリカーボネート樹脂、(B)乳化重合された熱可塑性樹脂、および(C)特定構造の酸性リン酸エステルを必須の成分として含み、必要に応じて、他の成分である(D)エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体および/またはエチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体、(E)ハロゲン非含有リン酸エステル、(F)無機フィラー、(G)ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を含むポリカーボネート樹脂組成物である。以下、詳細に説明する。
【0015】
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物において使用する(A)成分の芳香族ポリカーボネート樹脂としては、特に制限はなく、種々のものが挙げられるが、一般式(1)
【化1】

で表される構造の繰り返し単位を有する重合体が好適に使用できる。
【0016】
上記一般式(1)において、R1及びR2は、それぞれハロゲン原子(例えば、塩素、フッ素、臭素、ヨウ素)又は炭素数1〜8のアルキル基(例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、各種ブチル基(n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基)、各種ペンチル基、各種ヘキシル基、各種ヘプチル基、各種オクチル基)である。
【0017】
mおよびnは、それぞれ0〜4の整数であって、mが2〜4の場合はR1は互いに同一であっても異なっていてもよいし、nが2〜4の場合はR2は互いに同一であっても異なっていてもよい。
【0018】
Zは、炭素数1〜8のアルキレン基又は炭素数2〜8のアルキリデン基(例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基、エチリデン基、イソプロピリデン基など)、炭素数5〜15のシクロアルキレン基又は炭素数5〜15のシクロアルキリデン基(例えば、シクロペンチレン基、シクロヘキシレン基、シクロペンチリデン基、シクロヘキシリデン基など)、あるいは単結合、−SO2−、−SO−、−S−、−O−、−CO−結合、もしくは次の式(2)あるいは式(2’)
【化2】

で表される結合を示す。
【0019】
上記重合体は、通常、一般式(3)
【化3】

[式中、R1、R2、Z、mおよびnは、上記一般式(1)と同じである。]
で表される二価フェノールと、ホスゲンなどのカーボネート前駆体とを反応させることによって容易に製造することができる。
【0020】
すなわち、例えば、塩化メチレン等の溶媒中において、公知の酸受容体や分子量調節剤の存在下、二価フェノールとホスゲンのようなカーボネート前駆体との反応により製造することができる。また、二価フェノールと炭酸エステル化合物のようなカーボネート前駆体とのエステル交換反応などによっても製造することができる。
【0021】
上記一般式(3)で表される二価フェノールとしては様々なものをあげることができるが、特に、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン[通称、ビスフェノールA]が耐衝撃性の観点から好ましい。
【0022】
ビスフェノールA以外の二価フェノールとしては、例えば、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、1,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタンなどのビス(4−ヒドロキシフェニル)アルカン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロデカンなどのビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロアルカン、4,4’−ジヒドロキシジフェニル、ビス(4−ヒドロキシフェニル)オキシド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホキシド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ケトンなどがあげられる。この他、二価フェノールとしては、ハイドロキノンなどがあげられる。これらの二価フェノールは、それぞれ単独で用いてもよく、二種以上を混合して用いてもよい。
【0023】
また、本発明においては、(A)成分の芳香族ポリカーボネート樹脂として、ポリカーボネート−ポリオルガノシロキサン共重合体を用いることもできる。このポリカーボネート−ポリオルガノシロキサン共重合体としては、例えば、下記一般式(1)
【化4】

[式中、R1、R2、Z、m及びnは、上記と同じである。]
で表される構造の繰返し単位を有するポリカーボネート部と、下記一般式(4)
【化5】

[式中、R3、R4及びR5は、それぞれ水素原子、炭素数1〜5のアルキル基(例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、n−ブチル基、イソブチル基など)又はフェニル基であり、p及びqは、それぞれ0又は1以上の整数であるが、pとqとの合計は1以上の整数である。]
で表される構造の繰返し単位を有するポリオルガノシロキサン部からなるものである。
ここで、ポリカーボネート部の重合度は、3〜100が好ましく、又、ポリオルガノシロキサン部の重合度は、2〜500が好ましい。
【0024】
上記のポリカーボネート−ポリオルガノシロキサン共重合体は、上記一般式(1)で表される繰返し単位を有するポリカーボネート部と、上記一般式(4)で表される繰返し単位を有するポリオルガノシロキサン部とからなるブロック共重合体であり、難燃性や耐衝撃性を向上することができる。
【0025】
このようなポリカーボネート−ポリオルガノシロキサン共重合体は、例えば、予め製造されたポリカーボネート部を構成するポリカーボネートオリゴマーと、ポリオルガノシロキサン部を構成する末端に反応性基を有するポリオルガノシロキサン(例えば、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、ポリジエチルシロキサンなどのポリジアルキルシロキサンあるいはポリメチルフェニルシロキサンなど)とを、塩化メチレン、クロロベンゼン、クロロホルムなどの溶媒に溶解させ、ビスフェノールの水酸化ナトリウム水溶液を加え、触媒として、トリエチルアミンやトリメチルベンジルアンモニウムクロライドなどを用い、界面重縮合反応することにより製造することができる。
また、特公昭44−30105号公報に記載された方法や特公昭45−20510号公報に記載された方法によって製造されたポリカーボネート−ポリオルガノシロキサン共重合体を用いることもできる。
【0026】
炭酸エステル化合物としては、例えば、ジフェニルカーボネート等のジアリールカーボネート、ジメチルカーボネート,ジエチルカーボネート等のジアルキルカーボネートなどを挙げることができる。
【0027】
分子量調整剤としては、通常、ポリカーボネートの重合に用いられるものでよく、例えば、一価のフェノールである、フェノール、p−クレゾール、p−tert−ブチルフェノール、p−tert−オクチルフェノール、p−クミルフェノール、ノニルフェノール等があげられる。
【0028】
ポリカーボネート樹脂は、上記の二価フェノールの一種を用いたホモポリマーであってもよく、又、二種以上を用いたコポリマーであってもよい。
【0029】
更に、多官能性芳香族化合物を上記二価フェノールと併用して得られる熱可塑性ランダム分岐ポリカーボネート樹脂であってもよい。
この多官能性芳香族化合物は、一般に分岐剤と称され、具体的には、1,1,1−トリス(4−ヒドキシフェニル)エタン、α,α’,α”−トリス(4−ヒドロキシフェニル)−1,3,5−トリイソプロピルベンゼン、1−[α−メチル−α−(4’−ヒドロキシフェニル)エチル]−4−[α’,α’−ビス(4”−ヒドロキシフェニル)エチル]ベンゼン、フロログルシン、トリメリット酸、イサチンビス(o−クレゾール)などがあげられる。前記で説明したポリカーボネート樹脂は、単独で用いても良いし、2種以上を併用して用いてもよい。
【0030】
通常は、入手が容易で耐衝撃性にも優れることから二価フェノールとしてビスフェノールAを用いたポリカーボネート樹脂が、好ましく用いられる。
このような特性を有するポリカーボネート樹脂は、例えば、タフロンFN3000A、FN2500A、FN2200A、FN1900A、FN1700A、FN1500〔商品名、出光興産(株)製〕のような芳香族ポリカーボネート樹脂として市販されている。これらの芳香族ポリカーボネート樹脂は、単独で用いてもよく、また、2種以上混合して用いてもよい。
【0031】
この本発明で(A)成分として用いる芳香族ポリカーボネート樹脂の好ましい粘度平均分子量は18,000〜40,000であり、さらに好ましくは20,000〜26,000である。粘度平均分子量が18,000未満であると耐薬品性、耐衝撃性が低下し、他の物性とのバランスが悪くなる。また、粘度平均分子量が40,000を超えると成形性が低下するようになる。
【0032】
なお、粘度平均分子量(Mv)は、ウベローデ型粘度計を用いて、20℃における塩化メチレン溶液の粘度を測定し、これより極限粘度[η]を求め、[η]=1.23×10-5Mv0.83の式により算出した値である。
【0033】
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物において用いる(B)成分の乳化重合された熱可塑性樹脂は、ビニル系の単量体を乳化重合することにより得られる重合体であって、(b−1)芳香族ビニル系単量体、(b−2)シアン化ビニル系単量体、及び(b−3)アルキルアクリレート単量体またはアルキルメタクリレート単量体(両者をあわせて、アルキル(メタ)アクリレート単量体という)の中から選ばれる少なくとも1種が、(b−4)ゴム質重合体に、乳化重合法によりグラフト共重合された共重合体である。
【0034】
グラフト共重合された共重合体に用いられる(b−4)ゴム質重合体には特に制限はないが、ガラス転移温度が0℃以下のものが好適であり、ジエン系ゴム、アクリル系ゴム、エチレン系ゴムなどが使用できる。ゴム質重合体の具体例としては、ポリブタジエン、スチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−ブタジエンブロック共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、アクリル酸ブチル−ブタジエン共重合体、ポリイソプレン、ブタジエン−メタクリル酸メチル共重合体、アクリル酸ブチル−メタクリル酸メチル共重合体、ブタジエン−アクリル酸エチル共重合体、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−プロピレン−ジエン系共重合体、エチレン−イソプレン共重合体およびエチレン−アクリル酸メチル共重合体などがあげられ、これらのゴム質重合体のうちでも、ポリブタジエン、スチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−ブタジエンブロック共重合体およびアクリロニトリル−ブタジエン共重合体などのゴム状ブタジエン系重合体が、耐衝撃性の観点で好ましく用いられる。
【0035】
グラフト共重合された共重合体を構成する(b−4)ゴム質重合体の重量平均粒子径には特に制限はないが、0.1〜2μmが好ましく、より好ましくは0.2〜1μmの範囲のものが衝撃強度の面から好ましい。
これらの(b−4)ゴム質重合体は、1種または2種以上の混合物で使用することが可能である。
【0036】
グラフト共重合に用いる(b−1)芳香族ビニル系単量体としては、特に制限はないがスチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、o−エチルスチレン、p−t−ブチルスチレンなどがあげられ、なかでも特にスチレンが好ましい。これらは、1種または2種以上を用いることができる。
【0037】
グラフト共重合に用いる(b−2)シアン化ビニル系単量体としては、特に制限はないが、アクリロニトリル、メタクリロニトリルおよびエタクリロニトリルなどが挙げられ、なかでもアクリロニトリルが最も好ましく用いられる。これらは、1種または2種以上用いることができる。
【0038】
また、グラフト共重合に用いられる共重合可能な(b−3)アルキル(メタ)アクリレート単量体は、炭素数1〜6のアルキル基または置換アルキル基を持つアクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステルが好ましい。具体例として、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸クロロメチル、(メタ)アクリル酸2−クロロエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2,3,4,5,6−ペンタヒドロキシヘキシルおよび(メタ)アクリル酸2,3,4,5−テトラヒドロキシペンチルなどが挙げられ、なかでもメタクリル酸メチルが好ましい。これらは、1種または2種以上用いることができる。
【0039】
さらに、グラフト共重合に用いる上記の(b−1)、(b−2)および(b−3)のビニル系単量体に加えて、必要に応じて、(b−5)共重合可能な他のビニル系単量体を用いることができる。これらの他のビニル系単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸グリシジル、イタコン酸グリシジル、アリルグリシジルエーテル、スチレン−p−グリシジルエーテル、p−グリシジルスチレン、マレイン酸、無水マレイン酸、マレイン酸モノエチルエステル、イタコン酸、無水イタコン酸、フタル酸、N−メチルマレイミド、N−エチルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド、N−フェニルマレイミド、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、ブトキシメチルアクリルアミド、N−プロピルメタクリルアミド、アクリル酸アミノエチル、アクリル酸プロピルアミノエチル、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸エチルアミノプロピル、メタクリル酸フェニルアミノエチル、メタクリル酸シクロヘキシルアミノエチル、N−ビニルジエチルアミン、N−アセチルビニルアミン、アリルアミン、メタアリルアミン、N−メチルアリルアミン、p−アミノスチレン、2−イソプロペニル−オキサゾリン、2−ビニル−オキサゾリン、2−アクロイル−オキサゾリンおよび2−スチリル−オキサゾリンなどがあげられ、これらは、1種または2種以上用いることができる。
【0040】
(B)乳化重合された熱可塑性樹脂であるグラフト共重合された共重合体は、(b−4)ゴム質重合体20〜70質量部程度の存在下に、上記の(b−1)芳香族ビニル系単量体、(b−2)シアン化ビニル系単量体、及び(b−3)アルキル(メタ)アクリレート単量体の中から選ばれる少なくとも1種の単量体30〜80質量部程度、必要に応じ、(b−5)共重合可能な他のビニル系単量体を、(b−4)ゴム質重合体との合計量が100質量部になるように用いてグラフト重合させることによって得られる。重合方法としては乳化重合法が、製造コストが安価であること、ゴム質重合体の比率を高められる、即ち衝撃強度向上効果が高い共重合体を得ることができる等の理由から用いられる。このように、(b−1)、(b−2)、(b−3)成分の比率が30〜80質量%程度の範囲であると熱安定性が良好である。そして(B)成分中に占める、(b−4)成分の比率が20〜70質量%程度の範囲であると耐衝撃性向上効果と熱安定性のバランスに優れることから好ましいものとなる。
【0041】
このグラフト共重合された(B)熱可塑性樹脂の具体例としては、例えば、アクリロニトリル−ブタジエンゴム−スチレン共重合体(ABS樹脂)、メチルメタクリレート−ブタジエンゴム−スチレン共重合体(MBS樹脂)、メチルメタクリレート−ブタジエンゴム共重合体(MB樹脂)、アクリロニトリル−アクリルゴム−スチレン共重合体(AAS樹脂)、およびアクリロニトリル−(エチレン・プロピレン・ジエンゴム)−スチレン共重合体(AES樹脂)、ポリブタジエンなどがあげられるが、これらのうち、特に、アクリロニトリルとブタジエンとスチレンとを共重合したABS樹脂、ポリブタジエンにメタクリル酸メチルとスチレンが重合したMBS樹脂、ポリブタジエンにメタクリル酸メチルが重合したMB樹脂が、耐加水分解性向上効果、および、耐衝撃性向上効果の面から好適に用いられる。なお、これらの(B)成分としては、単独で使用することも、2種以上混合して用いることもできる。
【0042】
(B)成分は、(A)成分との合計量が100質量%になるように、(A)成分の芳香族ポリカーボネート樹脂を60〜95質量%、(B)成分の乳化重合された熱可塑性樹脂、好ましくはグラフト重合された共重合体を5〜40質量%の範囲で配合して用いられる。
【0043】
(B)成分の配合量は5〜40質量%であり、40〜10質量%であることが好ましく、25〜10質量%の範囲であると、強度、流動性、難燃性のバランスにより優れたものとなることから、さらに好ましいものとなる。配合量が40質量%を超えると、薄肉の衝撃強度、難燃性が低下する。また、配合量が5質量%未満であると、薄肉の衝撃強度、流動性が低下する。
【0044】
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物において用いる(C)成分の酸性リン酸エステルは、一般式(I)
(R−O)n−PO−(OH)3-n (I)
で表され、Rが炭素数1〜30のアルキル基であり、nは1または2であり、nが2の場合、Rは同一であっても異なっていてもよい化合物である。Rのアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、へキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基、ステアリル基、イソステアリル基、パルミトレイル基、オレイル基など種々のアルキル基をもつものがあげられるが、これらのうちでも、ステアリル基、イソステアリル基、パルミトレイル基、オレイル基などのリン酸のジエステルまたはモノエステルが、樹脂への分散性の点で好ましく、特に、ステアリル基、イソステアリル基が好ましいものとしてあげられる。
【0045】
このような酸性リン酸エステルは、例えば、オキシ塩化リンと対応するアルコールとを反応させた後、加水分解する方法や五酸化リンと対応するアルコールとを反応させる方法など、公知の方法により合成でき、また、アデカスタブAX−71(商品名、モノステアリルリン酸及びジステアリルリン酸混合物、ADEKA社製)などの市販品を利用することできる。
【0046】
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物で用いる(C)成分の酸性リン酸エステルは、滞留熱安定性の向上、成形品の外観不良低減のため添加するものである。(C)成分の酸性リン酸エステルの配合量としては、(A)成分の芳香族ポリカーボネート樹脂と(B)成分の乳化重合された熱可塑性樹脂との合計100質量部に対して、0.001〜1質量部であることを要し、0.01〜1質量部であることが好ましく、0.01〜0.5質量部であることがさらに好ましい。配合量がこの範囲であると、滞留熱安定性に優れ、外観不良が著しく減少する。配合量が0.001質量部未満であると、上記効果が得られず、また、1質量部を超えると、滞留熱安定性が低下する。
【0047】
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、上記の(A)から(C)の各成分を必須の成分とし、特に、乳化重合法によって製造された(B)成分を(A)成分の芳香族ポリカーボネート樹脂とブレンドするにあたり、(C)成分として、特定構造の酸性リン酸エステルを添加することによって、薄肉の衝撃強度、熱安定性の向上が図られ、成形品の外観不良が低減するという効果を達成するが、必要に応じ、(A)から(C)の各成分に加え、次の(D)から(G)の各成分を含有させることもできる。例えば、(D)成分のエチレン−(メタ)アクリル酸共重合体やエチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体を併用することにより、耐薬品性が向上し、また、(E)成分のハロゲン非含有リン酸エステルを併用することにより難燃性を向上することができ、さらに、(F)成分の無機フィラーを併用することにより剛性や難燃性を高めることができ、(G)成分のポリテトラフルオロエチレンを併用することにより、さらに難燃性を高めることができる。
【0048】
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物には、上記のように(D)成分として、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体などのエチレン系共重合体、または、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体とエチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体とを含有することができ、もちろん、エチレンと(メタ)アクリル酸と(メタ)アクリル酸エステルとが共重合された共重合体であっても、同様に使用できる。
【0049】
使用することができるエチレン系共重合体の単量体としては、(メタ)アクリル酸の他、(メタ)アクリル酸エステルとしては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、へキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、2−エチルへキシル(メタ)アクリレート、シクロへキシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、オクタデシル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレートなどの単量体があげられ、これらは1種または2種以上併用して用いられる。これらの(メタ)アクリレートのうちでも、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレートなどが、樹脂中における分散性の点で好ましいものである。
【0050】
また、これら以外に、第三の他のモノマーとして、一酸化炭素、無水マレイン酸などを使用した共重合体も好適に使用することができる。さらに、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体が金属に配位したアイオノマーも好適に使用することができる。
【0051】
(D)成分は耐衝撃性、耐薬品性向上のため含有させるものであり、含有量としては(A)成分と(B)成分との合計量100質量部に対して、0.5〜3質量部であることが好ましく、1〜2質量部であることが耐衝撃性、耐薬品性のバランスに優れることから、さらに好ましい。含有量が、0.5質量部未満であると上記効果が得られにくく、また、含有量が3質量部を超えると難燃性が低下するようになる。
【0052】
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物には、(E)成分として、ハロゲン非含有リン酸エステルを含有させることができる。
【0053】
使用することができるハロゲン非含有リン酸エステルとしては、ハロゲン原子を含まないリン酸エステルであればよく、特に制限されないが、例えば、一般式(II)
【化6】

(式中、R6、R7、R8、R9は、それぞれ独立して、水素原子または有機基を表し、Xは2価以上の有機基を表し、aは0または1であり、bは1以上の整数であり、rは0以上の整数を表す。)で示されるリン酸エステルを好ましく用いることができる。
【0054】
前記一般式(II)において、有機基とは、置換されていても、されていなくてもよいアルキル基、シクロアルキル基、アリール基などである。また置換されている場合の置換基としては、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、アリールオキシ基、アリールチオ基などがある。さらに、これらの置換基を組み合わせた基であるアリールアルコキシアルキル基など、またはこれらの置換基を酸素原子、窒素原子、イオウ原子などにより結合して組み合わせたアリールスルホニルアリール基などを置換基としたものなどがある。
【0055】
また、一般式(II)において、2価以上の有機基Xとしては、上記した有機基から、炭素原子に結合している水素原子の1個以上を除いてできる2価以上の基を意味する。たとえば、アルキレン基、(置換)フェニレン基、多核フェノール類であるビスフェノール類から誘導されるものである。好ましいものとしては、ビスフェノールA 、ヒドロキノン、レゾルシノール、ジフエニルメタン、ジヒドロキシジフェニル、ジヒドロキシナフタレン等の残基がある。
【0056】
このハロゲン非含有リン酸エステルは、モノマー、オリゴマー、ポリマーあるいはこれらの混合物であってもよい。具体的には、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリブトキシエチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、オクチルジフェニルホスフェート、トリ(2−エチルヘキシル)ホスフェート、ジイソプロピルフェニルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、トリス( イソプロピルフェニル)ホスフェート、トリナフチルホスフェート、ビスフェノールAビスホスフェート、ビスフェノールAビス(ジフェニルホスフェート)、ヒドロキノンビスホスフェート、レゾルシンビスホスフェート、レゾルシノール−ジフェニルホスフェート、トリオキシベンゼントリホスフェート、あるいはこれらの置換体、縮合物などを例示できる。
【0057】
ここで、市販のハロゲン非含有リン酸エステル化合物としては、たとえば、大八化学工業株式会社製の、TPP〔トリフェニルホスフェート〕、TXP〔トリキシレニルホスフェート〕、CR−741〔ビスフェノールA ビス(ジフェニルホスフェート)〕、CR−733S〔レゾルシノールビス(ジフェニルホスフェート)〕、PX200〔1,3−フェニレン−テスラキス(2,6−ジメチルフェニル)リン酸エステル、PX201〔1,4−フェニレン−テトラキス(2,6−ジメチルフェニル)リン酸エステル、PX202〔4,4’−ビフェニレン−テスラキス〕2,6−ジメチルフェニル〕リン酸エステルなどをあげることができ、これらを好適に使用することができる。
【0058】
(E)成分の含有量は、難燃性、耐衝撃性の点で、(A)成分と(B)成分との合計量100質量部に対して、3〜25質量部の範囲であることが好ましく、10〜25質量部であることがさらに好ましい。この含有量が3質量部未満であると薄肉の難燃性が得られにくく、また、含有量が25質量部を超えると、耐衝撃性の低下が著しく、また成形時に難燃剤の分解により発生したガスを巻き込み、成形品の外観が著しく低下するようになる。
【0059】
また、本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物には、成形品の剛性や難燃性をさらに向上させるために(F)成分として、無機フィラーを含有することができる。
【0060】
使用することができる無機フィラーとしては、タルク、マイカ、カオリン、珪藻土、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、ガラス繊維、炭素繊維、チタン酸カリウム繊維などをあげることができる。なかでも、板状であるタルク、マイカなどや、繊維状の充填材が好ましい。タルクとしては、マグネシウムの含水ケイ酸塩であり、一般に市販されているものを用いることができる。また、この(F)成分である無機フィラーの平均粒径は、0.1〜50μmであることが好ましく、0.2〜20μmであることがより好ましい。これら(F)無機フィラーのうち、特に、タルクが樹脂中における分散性の点で好ましいものである。
【0061】
(F)成分の無機フィラーは上述のように、剛性ならびに薄肉難燃性(特に5VB性能)向上のため含有させるものであるが、その含有量としては、(A)成分と(B)成分との合計量100質量部に対して、0.5〜20質量部であることが好ましく、2〜10質量部であることがさらに好ましい。含有量が、0.5質量部未満であると剛性、薄肉難燃性の向上がみられず、また、含有量が20質量部を超えると耐衝撃性が低下し、外観不良が生じるようになる。
【0062】
(G)成分として、本発明の熱可塑性樹脂組成物には、必要に応じて(G)ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を添加することができる。(G)成分を含むことにより、溶融滴下防止効果を付与し、難燃性を向上させることができる。
【0063】
本発明における(G)成分は、フィブリル形成能を有するものであれば特に制限はない。ここで、「フィブリル形成能」とは、せん断力等の外的作用により、樹脂同士が結合して繊維状になる傾向を示すことをいう。本発明の(G)成分としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン系共重合体(例えば、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体等)等を挙げることができる。これらの中では、ポリテトラフルオロエチレンが好ましい。
【0064】
フィブリル形成能を有するポリテトラフルオロエチレン(PTFE)は、極めて高い分子量を有し、標準比重から求められる数平均分子量で、通常50万以上、好ましくは50万〜1000万である。
【0065】
また、ファインパウダー形状の他、水性分散液(ディスパージョン)形態、顆粒状形態のものも使用可能であり、ファインパウダー形状の市販品としては、例えば、CD076、CD097E(商品名、旭硝子株式会社製)、水性分散液形状の市販品としては、例えば、ポリフロンD210C(商品名、ダイキン工業株式会社製)、Fluon AD938L、Fluon AD939E(商品名、旭硝子株式会社製)、顆粒状形態の市販品としては、例えばアルゴフロンF5(商品名、ソルベイソレクシス社製)、等が挙げられる。
【0066】
上記フィブリル形成能を有するポリテトラフルオロエチレン(PTFE)は、単独で又は2種以上を組合せて使用することができる。
【0067】
本発明における(G)成分の添加量は、(A)成分と(B)成分との合計量100質量部に対して、通常0.1〜2質量部であることが好ましい。(G)成分は本発明の熱可塑性樹脂組成物のさらなる難燃性向上のために添加されるが、2質量部を超える量を添加してもそれ以上の難燃性の向上効果が得られない。2質量部以下であれば、樹脂組成物の耐衝撃性、成形性(成形体の外観)に悪影響を及ぼすおそれもなく、混練押出し時においても吐出が良好であり、安定してペレットを製造することができる。
【0068】
また、本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物には、外観改善、帯電防止、耐光性改善、剛性改善などの目的で、上記の(A)から(G)成分に加えて、適宜任意の添加剤を含有させることができる。このような添加剤としては、例えば、脂肪族カルボン酸エステル系やパラフィン等の外部滑剤、ポリエチレンワックス、ペンタエリスリトールテトラステアレートなどの離型剤、アルキルベンゼンスルホン酸アルカリ金属塩などの帯電防止剤、ベンゾトリアゾール系やベンゾフェノン系などの紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系などの光安定剤(耐候性改善)、ガラス繊維(剛性改善)、着色剤などがあげられる。これらの添加剤の含有量は、通常、芳香族ポリカーボネート樹脂組成物全量に基づき、0.05〜5質量%程度である。
【0069】
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、上記の(A)成分、(B)成分および(C)成分と、更に必要に応じてその他の成分(D)から(G)成分などを配合し、溶融混錬することによって得ることができる。この配合、混錬は、通常用いられている方法、例えば、リボンブレンダー、ヘンシェルミキサー、バンバリーミキサー、ドラムタンブラー、単軸スクリュー押出機、二軸スクリュー押出機、コニーダ、多軸スクリュー押出機等を用いる方法により行うことができる。なお、溶融混錬に際しての加熱温度は、通常220〜260℃の範囲で選ばれる。
【0070】
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、上記の溶融混練物、あるいは、得られたペレットを原料として、中空成形法、射出成形法、射出圧縮成形法、押出成形法、真空成形法、圧空成形法、熱曲げ成形法、圧縮成形法、カレンダー成形法、回転成形法などにより各種成形体を製造することができる。本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の成形方法としては、上記溶融混練方法により、ペレット状の成形原料を製造し、ついで、このペレットを用いて、射出成形、射出圧縮成形することが好ましい。
【0071】
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、乳化重合法によって製造された(B)成分であるABS樹脂、MBS樹脂、MB樹脂などを芳香族ポリカーボネートと溶融ブレンドするにあたり、特定構造の(C)酸性リン酸エステルを添加することによって、薄肉の衝撃強度、熱安定性を向上させ、成形品の外観不良を低減することができ、特に、薄肉成形品を得る際に、成形機内の滞留熱安定性を高め、高温成形を可能とし、薄肉における難燃性、耐衝撃性を向上させることができる。
【0072】
したがって、本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、大型化・薄肉化が進む、オフィスオートメーション(OA)機器(複写機、プリンター、プロジェクター等)の内外装、テレビ外装(テレビ枠、スタンドカバー、リモコン等の通信端末)、ノートパソコン外装などに広く用いることができる。
【実施例】
【0073】
次に、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。
【0074】
以下の実施例および比較例において、性能評価を下記の方法により行った。
(1)シャルピー衝撃強度
試験はISO179−1に従い実施した。ただし、実施にあたり長さ80mm、幅10mm、厚み1/16inchの試験片をシリンダ温度260℃、金型温度40℃にて成形し、幅方向へノッチをつけ、ノッチ部の背面をハンマで打撃したときの衝撃値から算出した。成形サイクル30秒の通常成形条件と、成形サイクル20分で成形機内で滞留させた後に取り出した滞留条件とについて、物性を評価した。
なお、衝撃強度保持率は、下記の式により算出した値である。
衝撃強度保持率(%)=〔滞留後成形衝撃強度/通常成形衝撃強度〕×100
【0075】
(2)引張降伏強度
試験はISO527−1/ISO527−2に従い実施した。試験片はシリンダ温度260℃、金型温度40℃で成形し、成形サイクル30秒の通常成形条件と、成形サイクル20分で成形機内で滞留させた後に取り出した滞留条件とについて、物性を評価した。
なお、引張降伏強度保持率は、下記の式により算出した値である。
引張降伏強度保持率(%)=〔滞留後成形引張降伏強度/通常成形引張降伏強度〕×100
【0076】
(3)外観
(ア)連続成形時のモールドデポジット
射出成形機のシリンダ温度280℃、金型温度60℃の条件で、成形サイクル30秒で120ショット成形した後の、金型への付着物の有無を目視観察した。
(イ)滞留後の外観変化(シルバー発生の有無)
射出成形機のシリンダ温度280℃、金型温度60℃の条件で、成形機内で30分滞留させた後成形し、成形品表面の外観変化(特にシルバー発生)を目視観察した。
(ウ)ウェルド部のガス巻き込み評価
射出成形機のシリンダ温度260℃、金型温度60℃の条件で、成形品のウェルド部にガスの巻き込みの有無を目視観察した。
【0077】
(4)耐薬品性
試験片形状が長さ127mm、幅12.7mm、厚み3.2mmであり、その試験片を3点曲げ状態で1.5%の歪をかけ、歪部に所定の薬品を塗布し、外観変化(白化、クレーズ、クラック)の有無を目視観察した。薬品にはHENKEL社製のLOCTITE 648(ネジ部品用嫌気性接着剤)を用いた。
【0078】
(5)流動性
射出成形機のシリンダ温度240℃、金型温度40℃の条件で、厚み2mmにてスパイラルフロー長を測定した。
なお、流動性の評価は、実施例16〜実施例28および比較例14〜比較例23について実施した。
【0079】
(6)難燃性
UL94規格に従い、試験片厚み0.6mmならびに1.0mmについてV試験を実施し、試験片厚み1.0mmについて5VB試験を実施した。
V試験の結果はV−0、V−1、V−2、V−2outにより判定し、5VB試験の結果は合格・不合格にて判定した。
なお、難燃性の評価は、実施例16〜実施例28および比較例14〜比較例23について実施した。
【0080】
実施例1〜28、比較例1〜31
第1表−1、第1表−2、第1表−3、第2表−1および第2表−2に示す割合で各成分を配合し、ベント式二軸押出成形機[機種名:TEM35、東芝機械(株)製]に供給し、240℃で溶融混錬し、ペレット化した。得られたペレットを80〜120℃で5時間乾燥した後、成形温度260℃、金型温度80℃で射出成形して試験片を得た。得られた試験片を用いて、性能を前述した各種評価試験によって評価した。結果を第1表−1、第1表−2、第1表−3、第2表−1および第2表−2に示した。
【0081】
【表1】

【0082】
【表2】

【0083】
【表3】

【0084】
【表4】

【0085】
【表5】

【0086】
なお、各表における(A)〜(H)成分は次のとおりである。
(A)成分
粘度平均分子量21,500の芳香族ポリカーボネート(製品名:タフロンFN2200A、出光興産製)
(B)成分
(B1)ABS樹脂(製品名:クララスチックSXH−330、日本エイアンドエル製)(乳化重合品)
(B2)MBS樹脂(製品名:メタブレンC−223A、三菱レイヨン製)(乳化重合品)
(B3)MB樹脂(製品名:パラロイドEXL2603、ロームアンドハース製)(乳化重合品)
(B4)AS樹脂(製品名:S101N、UMG ABS製)(懸濁重合品)
(B5)ABS樹脂(製品名:AT−05、日本エイアンドエル製)(塊状重合品)
(C)成分
酸性リン酸エステル:モノステアリルリン酸及びジステアリルリン酸混合物
(商品名:アデカスタブ AX−71、ADEKA製)
(D)成分
エチレン−アクリル酸共重合体(製品名:エルバロイHP662、三井デュポン製)
(E)成分
(E1)ビスフェノールAビス(ジフェニルホスフェート)(製品名:CR−741、大八化学工業製)
(E2)1,3−フェニレンビス(ジ−2,6−キシレニルホスフェート)(製品名:PX−200、大八化学工業製)
(E3)1,3−フェニレンビス(ジフェニルホスフェート)(製品名:CR−733S、大八化学工業製)
(F)成分
タルク(製品名:TP−A25、富士タルク工業製)
(G)成分
(G1)ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)(製品名:ポリフロンD210C、ダイキン工業製)
(G2)ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)(製品名:Fluon AD938L、旭硝子製)
(H)成分
焼成ハイドロタルサイト(製品名:DHT−4C、Kisuma社製)
【0087】
第1表−1、第1表−2、第1表−3、第2表−1および第2表−2によると、特定の酸性リン酸エステルを配合することにより、成形時の滞留によるポリカーボネートの分子量の低下を抑制できることがわかる。即ち、衝撃強度、引張降伏強度は、滞留試験後も高い保持率を有しており、ポリカーボネート成分による強度保持が確認できる。
【0088】
また、流動性に優れることから、薄肉においても機械的強度に優れ、しかも難燃性に優れたものを得ることができることがわかる。
【0089】
なお、(B)成分の乳化重合によって重合された共重合体に代え、塊状重合による共重合体を用いると、流動性が低下し、外観が悪くなるとともに、滞留後成形品の機械的強度なども低下することが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、ポリカーボネートの成形加工性を向上させるため、乳化重合法により製造されるABS樹脂、AS樹脂等が配合された樹脂組成物であって、高温成形や大型成形機使用時の滞留によって起こるポリカーボネートの分子量低下を抑制し、樹脂成形品の機械的強度を高めることができる。また、薄肉成形が進む中で、薄肉における難燃性、耐衝撃性の向上を図ることもできる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)芳香族ポリカーボネート樹脂60〜95質量%
(B)乳化重合された熱可塑性樹脂5〜40質量%及び
(C)一般式(I)
(R−O)n−PO−(OH)3-n (I)
[Rは、炭素数1〜30のアルキル基を表し、nは、1又は2である。]
で示される酸性リン酸エステルを、
前記(A)成分と(B)成分との合計量100質量部に対して、0.001〜1質量部の割合で含有してなる芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項2】
(B)乳化重合された熱可塑性樹脂が、(b−1)芳香族ビニル系単量体、(b−2)シアン化ビニル系単量体、及び(b−3)アルキル(メタ)アクリレート単量体の中から選ばれる少なくとも1種を(b−4)ゴム質重合体にグラフト共重合させてなる熱可塑性共重合体である請求項1に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項3】
(b−4)ゴム質重合体が、ゴム状ブタジエン系重合体である請求項2に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項4】
更に、(D)成分としてエチレン−(メタ)アクリル酸共重合体および/またはエチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体を、(A)成分と(B)成分との合計量100質量部に対して、0.5〜5質量部の割合で含有してなる請求項1〜3のいずれかに記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項5】
更に、(E)成分としてハロゲン非含有リン酸エステルを、(A)成分と(B)成分との合計量100質量部に対して、3〜25質量部の割合で含有してなる請求項1〜4のいずれかに記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項6】
更に、(F)成分として無機フィラーを、(A)成分と(B)成分との合計量100質量部に対して、0.5〜20質量部の割合で含有してなる請求項1〜5のいずれかに記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項7】
(G)成分としてポリテトラフルオロエチレンを、(A)成分と(B)成分との合計量100質量部に対して、0.1〜2質量部の割合で含有してなる請求項1〜6のいずれかに記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。

【公開番号】特開2012−158737(P2012−158737A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−85709(P2011−85709)
【出願日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】