説明

芳香族共重合ポリエステルの製造方法

【課題】
透明性、色調および清澄度に優れ、かつ品質変動が抑制された芳香族共重合ポリエステルを経済的に製造する。
【解決手段】
テレフタル酸を主たるジカルボン酸成分とし、エチレングリコール及びネオペンチルグリコールを主たるグリコール酸成分としてなる芳香族共重合ポリエステルを連続的に製造するための方法であって、テレフタル酸、エチレングリコール、及びネオペンチルグリコールを含むスラリーをスラリー調製槽で調製して前記スラリーをエステル化反応槽に連続的に供給し、複数の直列に連結したエステル化反応槽を用いてエステル化反応を行い、続いて重縮合反応槽で重縮合反応を行い、スラリー調製槽から最初のエステル化反応槽までの間にゲルマニウム化合物を添加し、最後のエステル化反応槽から重縮合反応槽までの間にコバルト化合物を添加する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明性および色調に優れ、かつ清澄度の高い芳香族共重合ポリエステルの連続的な製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等に代表されるポリエステルは、機械的特性や化学的特性に優れ、それぞれの特性に応じて、例えば衣料用や産業資材用の繊維、包装用、磁気テープ用、光学用などのフィルムやシート、中空成形品であるボトル、電気・電子部品のケーシング、その他エンジニアリングプラスチック成形品等の広範な分野において使用されている。
【0003】
近年、市場の多様化により、グリコール成分としてネオペンチルグリコールを使用した共重合ポリエステルが注目されている(例えば、特許文献1,2参照)。かかる共重合ポリエステルは、非晶質でガラス転移点が高いという特徴を有しており、ホモポリエステルよりも成形性や透明性が優れており、上記した各種分野での使用が拡大してきている。
【0004】
特許文献1では、特定量のアンチモン化合物、ゲルマニウム化合物、コバルト化合物およびリン化合物を含有させることにより、また、特許文献2では、特定量のチタン化合物、ゲルマニウム化合物、コバルト化合物およびリン化合物を含有させることにより、上記共重合ポリエステルの色調が改善できることが開示されているが、市場の拡大に伴い、例えば、化粧品容器等の高級感が要求される容器や光学用の成形体分野等において、より高度な透明性が求められ、また、さらなる色調および清澄度に対する改善要求が強まってきている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−123984号公報
【特許文献2】特開2004−137292号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者は、上記の従来技術の現状に鑑み創案されたものであり、透明性、色調および清澄度に優れ、かつ品質変動が抑制された芳香族共重合ポリエステルを連続的に製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記目的を達成するために鋭意研究した結果、遂に本発明を完成するに到った。
即ち、本発明は以下の(1)〜(5)の構成を有するものである。
(1)テレフタル酸を主たるジカルボン酸成分とし、エチレングリコール及びネオペンチルグリコールを主たるグリコール酸成分としてなる芳香族共重合ポリエステルを連続的に製造するための方法であって、テレフタル酸、エチレングリコール、及びネオペンチルグリコールを含むスラリーをスラリー調製槽で調製して前記スラリーをエステル化反応槽に連続的に供給し、複数の直列に連結したエステル化反応槽を用いてエステル化反応を行い、続いて重縮合反応槽で重縮合反応を行う方法において、スラリー調製槽から最初のエステル化反応槽までの間にゲルマニウム化合物を添加し、最後のエステル化反応槽から重縮合反応槽までの間にコバルト化合物を添加すること、最初のエステル化反応槽の出口のポリエステルオリゴマーのカルボキシル末端基濃度が1000〜4000eq/tonであり、かつヒドロキシル末端基濃度が1000〜5000eq/tonであること、及びコバルト化合物を添加する箇所のポリエステルオリゴマーのカルボキシル末端基濃度が100〜650eq/tonであり、かつヒドロキシル末端基濃度が1000〜3000eq/tonであることを特徴とする方法。
(2)ゲルマニウム化合物及びコバルト化合物の添加量がそれぞれ、得られる芳香族共重合ポリエステル中のゲルマニウム原子の残存量を20〜100ppmとし、コバルト原子の残存量を3〜30ppmとするようなものであることを特徴とする(1)に記載の方法。
(3)スラリー調製槽から重縮合反応槽までにリン化合物を添加することを特徴とする(1)または(2)に記載の方法。
(4)リン化合物の添加量が、得られる芳香族共重合ポリエステルのリン原子の残存量を15〜50ppmとするようなものであることを特徴とする(3)に記載の方法。
(5)エステル化反応槽から重縮合反応槽の前にネオペンチルグリコールを含むグリコール成分を追加供給することを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載の方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の芳香族共重合ポリエステルの製造方法は、透明性、色調および清澄度が高度に優れ、かつ品質の変動が抑制された均質性の高い芳香族共重合ポリエステルを経済的に優れた方法で安定して製造することができる。従って、本発明の製造方法により得られた芳香族共重合ポリエステルは、透明性、色調および清澄度の要求の厳しい成形体、例えば、化粧品容器等の高級感が要求される容器や光学用の成形体の原料として好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の芳香族共重合ポリエステルを以下に詳しく説明する。
本発明の芳香族共重合ポリエステル(以下、単に共重合ポリエステルと称することもある)におけるジカルボン酸成分は、テレフタル酸を主たる構成成分とする。全ジカルボン酸成分に対するテレフタル酸成分の割合は70モル%以上が好ましく、さらに好ましくは85モル%以上、特に好ましくは95モル%以上、最も好ましくは100モル%である。
【0010】
テレフタル酸とともに使用できる他のジカルボン酸成分としては、(1)イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、ジフェニ−ル−4,4’−ジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸、(2)アジピン酸、セバシン酸、コハク酸、グルタル酸等の脂肪族ジカルボン酸、(3)1,4−シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環族ジカルボン酸等が挙げられる。
【0011】
また、本発明の共重合ポリエステルは、ジカルボン酸成分以外の酸成分をさらに共重合していてもよく、かかる酸成分としては、p−オキシ安息香酸、オキシカプロン酸等のオキシ酸等が挙げられる。なお、本発明において、ジカルボン酸成分およびジカルボン酸成分以外の酸成分には、重合される前の原料段階での例えば炭素数1〜4個程度のアルキルエステル等のエステル形成性誘導体も含まれる。
【0012】
本発明の共重合ポリエステルにおけるグリコール成分は、エチレングリコール(EG)とネオペンチルグリコール(NPG)を主たる構成成分とする。全グリコール成分に対するEGとNPGの合計量の割合は70モル%以上が好ましく、さらに好ましくは85モル%以上、特に好ましくは95モル%以上、最も好ましくは100モル%である。全グリコール成分に対して、EGの割合は60〜99モル%、NPGの割合は1〜40モル%であることが好ましい。NPGの割合が1モル%未満では、ポリエステルの結晶化度が大きくなり、透明性が悪化しやすくなる。そのため、成形品とした際のヘーズ値が高くなる傾向がある。一方、NPGの割合が40モル%を越えると、重合度が上がりにくくなり、所定の固有粘度に到達するまでに著しく時間を要する。そのため、その間の熱履歴により色調が悪化しやすくなる。また、NPGの量が多すぎると、所定の固有粘度に到達しない場合もある。EGの割合の下限値は、65モル%であることがさらに好ましく、特に好ましくは68モル%である。一方、EGの割合の上限値は、95モル%がさらに好ましく、特に好ましくは90モル%である。
【0013】
また、全グリコール成分に対するNPGの割合の下限値は、5モル%が好ましく、さらに好ましくは10モル%である。一方、NPGの割合の上限値は、35モル%が好ましく、さらに好ましくは32モル%である。
【0014】
本発明の共重合ポリエステルは、全グリコール成分がEGとNPGから構成されることが好ましいが、本発明の目的とする透明性及び色調等を阻害しない範囲で、ポリエステルに他の機能を付与ないし特性を改良するために、EGとNPG以外の他のグリコール成分を全グリコール成分に対して30モル%まで使用してもよい。
【0015】
他のグリコール成分としては、(1)トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ペンタメチレングリコール、ヘキサメチレングルコール等の脂肪族グリコール類、(2)1,3−シクロヘキサンジメタノール等の脂環式グリコール類、(3)p−キシリレングリコール、m−キシリレングリコール等の芳香族グリコール類等が挙げられる。これらの中でも、1,4−シクロヘキサンジメタノールが好適である。また、これらのグリコール成分は、いずれかを単独で使用しても2種以上を任意の割合で組み合わせて使用してもよい。
【0016】
本発明の共重合ポリエステルの製造時には、重縮合触媒としてゲルマニウム化合物が添加される。重縮合触媒として好適なゲルマニウム化合物としては、結晶性二酸化ゲルマニウム、非晶性二酸化ゲルマニウム、ゲルマニウムテトラエトキシド、ゲルマニウムテトラn−ブトキシド等が挙げられる。これらの中でも、結晶性二酸化ゲルマニウム、非晶性二酸化ゲルマニウムが好適であり、非晶性二酸化ゲルマニウムが特に好適である。
【0017】
ゲルマニウム化合物の添加量は、共重合ポリエステル中のゲルマニウム原子の含有量が20〜100ppmになるように適宜決定される。ゲルマニウム原子の含有量は、30〜80ppmが好ましく、40〜60ppmがさらに好ましい。ゲルマニウム原子の含有量が上記範囲未満では、重縮合活性が不足し、重縮合の生産性が低下するので好ましくない。一方、上記範囲を超えると、得られる芳香族ポリエステルの清澄度や色調が悪化する上に経済的にも不利になるので好ましくない。ゲルマニウム化合物は、共重合ポリエステル重合時の減圧環境下で、重合装置や重合条件により、添加量の約40%が系外に除去されることを考慮した上で、添加量を決める必要がある。そのため、数回の試行実験を行い、添加量を決める必要がある。実際のゲルマニウム化合物の添加量は、ゲルマニウム原子基準で30〜170ppm、好ましくは50〜140ppmである。
【0018】
特許文献1や2のようにアンチモン化合物やチタン化合物等の他の重縮合触媒を併用すると、例えば、アンチモン化合物の併用では、透明性や清澄度が悪化し、チタン化合物の併用では、色調が悪化するので好ましくない。
【0019】
また、本発明の共重合ポリエステルの製造時には、重縮合触媒として、また色調改善のために、コバルト化合物が添加される。コバルト化合物は、特にカラーb値を小さくする効果を持つ。コバルト化合物としては、酢酸コバルト、塩化コバルト、安息香酸コバルト、クロム酸コバルト等が挙げられる。これらの中でも、酢酸コバルトが好適である。
【0020】
コバルト化合物の添加量は、共重合ポリエステル中のコバルト原子の含有量が3〜30ppmになるように選択される。コバルト原子の含有量は、5〜25ppmが好ましく、5〜20ppmがさらに好ましい。コバルト原子の含有量が上記範囲未満では、色調改善効果が低下し、好ましくない。一方、上記範囲を越えると、コバルト金属の還元により共重合ポリエステルが黒ずんだり、青味が強くなったりし、カラーL値が50未満となったり、カラーb値が−2未満となったりし、商品価値が低下する。コバルト化合物は、共重合ポリエステル重合時の減圧環境下でも、添加量のほぼ100%が系外に除去されることなく、共重合ポリエステル中に残存する。そのため、実際のコバルト化合物の添加量は、コバルト原子基準で3〜30ppm、好ましくは5〜25ppmである。
【0021】
また、本発明の共重合ポリエステルの製造時には、安定剤として、また清澄度改善のために、リン化合物が添加される。リン化合物としては、例えば、リン酸、亜リン酸、ホスホン酸およびそれらの誘導体等が挙げられる。好適な具体例としては、リン酸、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル、リン酸トリブチル、リン酸トリフェニル、リン酸モノメチル、リン酸ジメチル、リン酸モノブチル、リン酸ジブチル、亜リン酸、亜リン酸トリメチル、亜リン酸トリブチル、メチルホスホン酸、メチルホスホン酸ジメチル、エチルホスホン酸ジメチル、フェニールホスホン酸ジメチル、フェニールホスホン酸ジエチル、フェニールホスホン酸ジフェニールが挙げられる。これらの中でも、リン酸トリメチル、リン酸トリエチルおよびリン酸が特に好適である。
【0022】
リン化合物は、本発明の共重合ポリエステルの色調改善の点から、次のように作用していると推察される。
【0023】
リンを中心元素とする酸素酸は、リン原子のまわりにOH及びHが合計4個配位した四面体形の構造を有する。オルトリン酸が縮合すると、ポリリン酸、メタリン酸などの縮合リン酸を生じる。これらの縮合リン酸は金属イオンに配位しやすい性質を有している。したがって、ポリエステルの重合反応系内で、リン化合物とフリーの金属イオン(本願発明では、ゲルマニウム、コバルトなどのイオン)が存在すると、リン化合物は金属イオンと優先的に反応する。
【0024】
ゲルマニウム化合物をリン化合物と特定のモル比で反応させることにより、ゲルマニウム化合物は安定化し、触媒活性を維持しながらカラーb値を小さくすることが可能となる。この際、リン化合物が過剰に存在すると、それがゲルマニウム化合物と反応し、共重合ポリエステルに不溶性の化合物を形成し共重合ポリエステルの清澄度を低下させることがある。
【0025】
また、リン化合物とコバルト化合物との反応により、前記したコバルト化合物による共重合ポリエステルに対する青味付け効果を増大することができ、カラーb値を小さくすることが可能となる。この際、リン化合物が過剰に存在すると、ポリエステル自身の耐熱性が悪化するためカラーb値が上昇する。一方、リン化合物が少量であると、コバルト化合物と反応しないため、ポリエステル対する青味付け効果が減少する。また、フリーのゲルマニウム化合物が増加するため、カラーb値が上昇する。
【0026】
リン化合物の添加量は、共重合ポリエステル中のリン原子の含有量が15〜50ppmになるように適宜選択される。リン原子の含有量は、20〜40ppmが好ましい。リン原子の含有量が上記範囲を超えると、重縮合活性の低下や共重合ポリエステル中の不溶性の化合物が生成する場合があるので好ましくない。一方、上記範囲未満では、色調改善効果が低下するので好ましくない。リン化合物は、共重合ポリエステル重合時の減圧環境下で、重合装置や重合条件により、添加量の約30%が系外に除去されることを考慮した上で、添加量を決める必要がある。そのため、数回の試行実験を行い、添加量を決める必要がある。実際のリン化合物の添加量は、リン原子基準で20〜70ppm、好ましくは25〜60ppmである。
【0027】
本発明の共重合ポリエステルは、共重合ポリエステル5gをフェノール/テトラクロロエタン(質量比60:40)混合溶媒50gに溶解した溶液を波長657nm、光路長10mmにて測定した時の吸光度が0.004以下であることが好ましい。吸光度は0.0035以下がより好ましく、0.003以下がさらに好ましい。下限は0が最も好ましいが、コストパフォーマンスの点で0.001が好ましい。
【0028】
このように吸光度を低くすることにより透明性の高い成形体を安定して得ることができる。例えば、特許文献1および2においては、これらの文献において開示されている共重合ポリエステルの成形体の透明性の尺度として段付成形板のヘーズ値が記載されており、かつこの評価においては、金型温度が20℃にて評価されている。ところが、これらの文献の方法で得られた共重合ポリエステルは、必ずしも透明性の高い成形体が安定して得られない場合があった。本発明者等は、この原因を鋭意検討した結果、金型の温度変動や共重合ポリエステル中に存在するポリエステルに不溶性の微粒子により成形体の透明性の変動が引き起こされていることを見出した。すなわち、共重合ポリエステル中に存在する極微量存在する、共重合ポリエステルに不溶性の微粒子の量を低減することにより、金型温度が変動して設定値よりも高い温度になっても安定して透明性の高い成形体が得られることを見出した。
【0029】
従って、本発明の共重合ポリエステルは、下記の方法で定量される共重合ポリエステルに不溶なゲルマニウム原子及びコバルト原子の量がそれぞれ3ppm以下、5ppm以下であることが好ましい。
【0030】
〔共重合ポリエステルに不溶性のゲルマニウム原子およびコバルト原子の定量方法〕
試料共重合ポリエステルペレット30gおよびパラクロロフェノール/テトラクロロエタン(3/1:重量比)混合溶液300mlを攪拌機付き丸底フラスコに投入し、該ペレットを混合溶液に100〜105℃、2時間で攪拌・溶解する。該溶液を室温になるまで放冷し、直径47mm/孔径1.0μmのポリテトラフルオロエチレン製のメンブレンフィルター(Advantec社製PTFEメンブレンフィルター、品名:T100A047A)を用い、全量を0.15MPaの加圧下で異物を濾別する。有効濾過直径は37.5mmとする。濾過終了後、引き続き300mlのクロロホルムを用い洗浄し、次いで、30℃で一昼夜減圧乾燥する。メンブレンフィルターの濾過面を走査型蛍光X線分析装置(RIGAKU社製、ZSX100e、Rh管球4.0kW)でゲルマニウム原子およびコバルト原子の量を定量する。定量はメンブレンフィルターの中心部直径30mmの部分について行なう。なお、該蛍光X線分析法の検量線はゲルマニウム原子およびコバルト原子の量が既知のポリエチレンテレフタレート樹脂を用いて求め、見掛けのゲルマニウム原子およびコバルト原子の量をppmで表示する。測定はX線出力50kV−70mAで分光結晶としてペンタエリスリトール、検出器としてPC(プロポーショナルカウンター)を用い、PHA(波高分析器)100−300の条件でAl−Kα線強度を測定することにより実施する。検量線用ポリエチレンテレフタレート樹脂中のゲルマニウム原子およびコバルト原子の含有量は、後述する方法により定量する。
【0031】
より好ましくは、不溶なゲルマニウム原子の量は2ppm以下、コバルト原子の量は4ppm以下である。これらの金属原子の量は、共重合ポリエステルに対するこれらの金属化合物の不溶性成分量の尺度である。従って、この量が上記範囲を超えた場合は、共重合ポリエステルの清澄度が低くなり、成形体の透明性や外観の悪化に繋がるので好ましくない。また、共重合ポリエステルの製造工程において、共重合ポリエステルの清澄度を上げるために使用されるポリマーフィルターの目詰まりを引き起こし、フィルターの寿命低下を引き起こすので好ましくない。
【0032】
また、本発明の共重合ポリエステルは、カラーL値が58%以上であり、カラーb値が0±1であることが好ましい。この特性と上記の吸光度特性は同時に満たすことが好ましい。
【0033】
カラーL値は、59%以上がより好ましく、60%以上がさらに好ましい。カラーL値は、共重合ポリエステルの明度の尺度であり、カラーL値が上記の値未満では、成形体にくすみが生じ、クリアー感が低下するので好ましくない。例えば、従来公知のアンチモン化合物を重縮合触媒として用いると、重縮合工程でアンチモン化合物の還元によりアンチモン金属の析出が起こり、カラーL値が低くなり、くすみが発生する。
【0034】
一方、カラーb値は、0±0.8がより好ましい。カラーb値は、共重合ポリエステルの青味と黄味の尺度であり、b値がプラス側に増大すると黄味が、逆にマイナス側に増大すると青味が増すので好ましくない。例えば、チタン化合物を重縮合触媒として用いると、共重合ポリエステルの劣化が増加し、b値が増大する。また、コバルト化合物とリン化合物の適度な量の添加により、共重合ポリエステルの劣化により引き起こされるb値の増大を青味付けにより抑制することができる。コバルト化合物とリン化合物の配合量が過度になると、b値が下がり過ぎて青味が強くなる。従って、L値およびb値を上記範囲にすることで無色透明な成形体が得られる。例えば、チタン化合物を重縮合触媒として用いて、コバルト化合物およびリン化合物により青味付けを行うという従来公知の製造方法では、共重合ポリエステルの黄味が強くなるためにコバルト化合物およびリン化合物の配合量を増やす必要があり、該配合量を増やすとL値が低下するので両特性を満たすことができない。
【0035】
本発明の共重合ポリエステルは、固有粘度(IV)が0.60〜1.2dl/gであることが好ましい。固有粘度の下限値は0.65dl/gであることがさらに好ましく、特に好ましくは0.70dl/gである。固有粘度が上記範囲未満では、成形品の機械的特性が低下する傾向がある。
【0036】
一方、固有粘度の上限値は1.1dl/gであることがさらに好ましく、特に好ましくは1.05dl/gである。固有粘度が上記範囲を越えると、成形機等による溶融時に樹脂温度が高くなって熱分解が激しくなる傾向があるため、保香性に影響を及ぼす遊離の低分子量化合物が増加し、成形体が黄色に着色する等の問題が起こりやすくなる。
【0037】
本発明の共重合ポリエステルを段付成形板に成形した際、金型温度40℃において成形した場合の段付成形板の厚み5mm部位におけるヘーズ値は、5%以下、好ましくは3%以下、さらに好ましくは2%以下、特に好ましくは1.5%以下である。ヘーズ値が上記範囲を越えると、成形品の透明性が悪化し、透明性の要求が厳しい用途では使用できない場合がある。
【0038】
本発明においては、上記した共重合ポリエステルを連続式の重縮合法により製造する。連続式重縮合法は回分式の方法に比べて品質の均一性や経済性において有利である。
【0039】
具体的には、テレフタル酸、エチレングリコール、及びネオペンチルグリコールを含むスラリーをスラリー調製槽で調製して前記スラリーをエステル化反応槽に連続的に供給し、複数の直列に連結したエステル化反応槽を用いてエステル化反応を行い、続いて重縮合反応槽で重縮合反応を行うことにより芳香族共重合ポリエステルを連続的に製造する。複数のエステル化反応槽を直列に連結した多段式装置を用いてエステル化反応工程を行うことにより、本発明の効果を効率良く、しかも安定して発現することが可能となる。
【0040】
本発明の製造方法では、ゲルマニウム化合物をスラリー調整槽から最初のエステル化反応槽までの間に添加し、コバルト化合物を最後のエステル化反応槽から重縮合反応槽までの間に添加する。このような添加方法により、前記した方法で評価される共重合ポリエステルに不溶性のゲルマニウム原子およびコバルト原子の量を低減させることができる。共重合ポリエステルに不溶性のゲルマニウム原子およびコバルト原子は最大径が2μm以上の粗大粒子であるので、共重合ポリエステルに不溶性のゲルマニウム原子やコバルト原子の量を低減させることにより、得られる共重合ポリエステルの清澄度が高められる。また、共重合ポリエステルに不溶性のゲルマニウム原子およびコバルト原子の量が増大すると共重合ポリエステルの製造工程に設置されるオリゴマーやポリマーを濾過するフィルターの目詰まりが増大するので、共重合ポリエステルに不溶性のゲルマニウム化合物およびコバルト化合物の量を低減させることにより、これらのフィルターの目詰まりによる圧力上昇を抑制することができ、フィルター寿命の延長が可能となる。
【0041】
また、本発明の製造方法では、最初のエステル化反応槽出口のポリエステルオリゴマーのカルボキシル末端基濃度が1000〜4000eq/tonであり、ヒドロキシル末端基濃度が1000〜5000eq/tonである。好ましくは、カルボキシル末端基濃度が1200〜3500eq/tonであり、ヒドロキシル末端基濃度が1200〜4800eq/tonであり、より好ましくは、カルボキシル末端基濃度が1400〜3000eq/tonであり、ヒドロキシル末端基濃度が1400〜4600eq/tonである。これによりゲルマニウム化合物を最初のエステル化反応槽に添加しても上記の共重合ポリエステルに不溶性のゲルマニウム原子の量を低減させることが可能となり、かつ長期に渡る生産の安定化が可能となる。カルボキシル末端基濃度が上記範囲未満の場合は、ゲルマニウム化合物を最初のエステル化反応槽に添加すると、共重合ポリエステルに不溶性のゲルマニウム原子の量が増大するので好ましくない。また、エステル化反応時間が増大し、ジエチレングリコールの副生量の増大に繋がるので好ましくない。さらに、重縮合活性の低下に繋がり重縮合時間も増大するので好ましくない。逆に、上記範囲を超えた場合は、オリゴマーによる移送ライン等の配管詰りが発生することがあるので好ましくない。ヒドロキシ末端基濃度が上記範囲未満の場合は、触媒として使用するゲルマニウム化合物がオリゴマー系中に溶けきれずに異物となり、ポリマーとしての透明度の低下を引き起こす。逆に、オリゴマーのヒドロキシ末端基濃度が上記範囲を超えた場合は、過剰にグリコールを追加する必要があり生産性に劣る。
【0042】
ゲルマニウム化合物をスラリー調製槽に添加する場合は、共重合ポリエステルに不溶性のゲルマニウム原子の量の増大に関しては上記のカルボキシル末端基濃度の下限の制約はなくなるが、生産の安定化の点より上記範囲で実施するのが好ましい。
【0043】
また、本発明の製造方法では、コバルト化合物を添加する箇所のポリエステルオリゴマーのカルボキシル末端基濃度が100〜650eq/tonであり、ヒドロキシル末端基濃度が1000〜3000eq/tonである。好ましくは、カルボキシル末端基濃度が150〜600eq/tonであり、ヒドロキシル末端基濃度が1200〜2800eq/tonであり、より好ましくは、カルボキシル末端基濃度が200〜550eq/tonであり、ヒドロキシル末端基濃度が1400〜2600eq/tonである。カルボキシル末端基が上記範囲を超えた場合は、共重合ポリエステルに不溶性のコバルト原子の量が増大し、共重合ポリエステルの清澄度が悪化するので好ましくない。逆に、上記範囲未満の場合は、エステル化反応時間が増大し、ジエチレングリコールの副生量の増大に繋がるので好ましくない。また、重縮合活性の低下に繋がり重縮合時間も増大するので好ましくない。ヒドロキシル末端基濃度が上記範囲未満の場合は、触媒として使用するゲルマニウム化合物がオリゴマー系中に溶けきれずに異物となり、ポリマーとしての透明度の低下を招く。ヒドロキシル末端基濃度が上記範囲を超えた場合は、オリゴマー中のグリコール成分が多く、重合時間が長くなり、重縮合での真空工程にて突沸を引き起こすなど生産性が劣ってしまう。
【0044】
本発明の製造方法では、スラリー調製槽から重縮合反応槽までの間にリン化合物を添加することが好ましい。これにより、前述したリン化合物の添加による効果が発現される。リン化合物の添加時期は限定されないが、ゲルマニウム化合物の添加後に添加するのが好ましい。これによりゲルマニウム化合物とリン化合物の直接反応が抑制される。
【0045】
以上のようにすることにより、共重合ポリエステルに不溶性のゲルマニウム化合物およびコバルト化合物の量を低減させることができ、共重合ポリエステルの清澄度が高められる理由は明確でないが、共重合ポリエステルオリゴマー末端基、コバルト化合物、ゲルマニウム化合物およびリン化合物の相互間の反応が変化することにより、共重合ポリエステルに不溶性のゲルマニウム化合物およびコバルト化合物よりなる粗大粒子の生成が抑制されるものと思われる。
【0046】
本発明の製造方法の一例を以下に示す。
テレフタル酸1モルに対して1.02〜3.0モル、好ましくは1.5〜2.5モルのEGとNPGとよりなる混合グリコールのスラリ−を調製し、これをエステル化反応工程に連続的に供給する。エステル化反応は、複数のエステル化反応槽を直列に連結した多段式装置を用いて、反応によって生成した水を精留塔で系外に除去しながら実施する。エステル化反応の温度は240〜290℃、好ましくは245〜280℃、圧力は常圧〜290KPa、好ましくは20〜190KPaである。最終的にはエステル化反応率は90%以上、好ましくは93%以上に達することが望ましい。なお、圧力はゲージ圧である。
【0047】
エステル化反応後、重縮合反応槽に移送し、重縮合を行う。重縮合工程の反応槽数は限定されないが、一般には初期重縮合、中期重縮合および後期重縮合の3段階方式が採られている。重縮合反応条件は、第1段階目の重縮合の反応温度は250〜290℃、好ましくは260〜280℃であり、圧力は10〜2.7KPa、好ましくは2.7〜0.27KPaで、最終段階の重縮合反応の温度は265〜300℃、好ましくは275〜295℃であり、圧力は1.3〜0.13KPa、好ましくは0.65〜0.065KPaである。3段階以上で実施する場合には、中間段階の重縮合反応の反応条件は、上記第1段目の反応条件と最終段目の反応条件の間の条件である。これらの重縮合反応工程の各々において到達される極限粘度の上昇の度合は滑らかに分配されることが好ましい。
【0048】
本発明の製造方法では、NPGの反応系への添加を2ヶ所以上に分割して行うことが好ましい。前記した特許文献において開示されている製造方法においては、NPGはスラリー調合においてその全量が供給されているが、該方法で実施した場合は、長期に渡り連続生産をした場合に、共重合ポリエステル中のNPG含有量の変動が大きくなるという問題があった。本発明者等は、かかる問題について検討をして、EGおよびNPGの一部を第2エステル化反応槽以降にも分割して添加することにより該変動が抑制できることを見出した。分割回数、分割添加比率および添加場所は限定されないが、第2エステル化反応槽へ、全量の2〜10質量%を添加するのが好ましい。4〜8質量%がより好ましい。これにより、第2エステル化反応槽以降におけるNPGの系外への留出割合の変動が抑制されるものと推察される。
【0049】
本発明の製造方法では、上記のエステル化反応工程において、上記の第2エステル化反応槽以降にNPGを分割供給するエステル化反応槽温度をそれより前の反応槽のエステル化反応温度より5〜15℃低くすることが好ましい。これにより、NPGを分割供給するエステル化反応槽におけるエステル化反応物の発泡が抑制され、長期に渡り安定した運転が可能となる。通常、複数個の反応槽でエステル化反応を行う場合は、反応の進行に従い反応槽内温度を高めて行く方法で実施されるが、この場合、NPGの分割供給により該エステル化反応槽内の発泡が増大して該反応槽に設置されている蒸留塔への配管や蒸留塔にポリエステルオリゴマーが飛散し操業できないことが発生する。
【0050】
本発明の製造方法では、共重合ポリエステルの製造工程においてオリゴマーやポリマーをフィルターによりろ過をすることにより、清澄度を高めるのが好ましい。該フィルターの目開き、構造、容量および設置場所等は特に限定されない。
【0051】
本発明の製造方法では、新規のNPGは溶融状態またはエチレングリコールとの混合溶液として平均孔径が20μm以下のフィルターでろ過してポリエステル製造工程に供給するのが好ましい。NPGは常温で固体であるので、通常は紙袋で包装されて流通している。固体状のNPGで取り扱うと異物が混入し、得られる共重合ポリエステルの清澄度が低下するという問題があったが、上記フィルターにより異物混入が抑制され、共重合ポリエステルの清澄度が向上する。上記フィルターの平均孔径は15μm以下がより好ましく、10μm以下がさらに好ましい。清澄度に対する要求度とろ過の操業性の点より平均孔径の下限は1μm程度である。フィルターの形式や容量は限定されない。共重合ポリエステルの清澄度や操業性等を考慮して適宜選択すればよい。設置場所も限定されない。NPGの供給タンクから共重合ポリエステルの製造装置までの間の任意の場所に設置すればよい。
【0052】
上記のろ過は、溶融状態のNPGを直接ろ過してもよいし、新規エチレングリコールや回収グリコールと混合したエチレングリコールとの混合溶液としてろ過してもよい。本発明では、後者での実施が好ましい。
【0053】
NPGを溶融状態で取り扱うことは、NPG供給の計量精度が向上にも繋がる。NPGの溶融は共重合ポリエステルの製造設備内に溶融槽を設置して行ってもよいし、NPGを溶融状態で購入してもよい。
【0054】
本発明においては、前記した溶融重縮合法で上記固有粘度のものを直接得てもよいし、溶融重縮合法で目的の固有粘度よりも低い固有粘度のものを得て、引き続き固相重縮合法で目的の固有粘度まで上昇させてもよい。本発明の共重合ポリエステルには、各種酸化防止剤や潤滑剤等の添加剤を配合してもよい。
【0055】
本発明の製造方法で得られる共重合ポリエステルは、前述のように透明性、色調および清澄度が高度に優れており、かつ均質性が高いので、該共重合ポリエステルを押し出し成形や射出成形して得られる成形体は、色調が良好で、透明性および清澄度が優れており、化粧品用容器等の高級感が要求される容器や光学用部材の成形体として好適に使用することができる。
【実施例】
【0056】
以下に実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。なお、これらの実施例は本発明を例示するものであり、限定されるものではない。なお、共重合ポリエステルの特性は以下の方法に従って測定した。
【0057】
1.固有粘度(IV)
共重合ポリエステル試料0.1gを精秤し、25mlのフェノール/テトラクロロエタン=3/2(質量比)の混合溶媒に溶解し、オストワルド粘度計を用いて30℃で測定した。
【0058】
2.オリゴマーカルボキシル末端基濃度
オリゴマーを乾燥に呈すことなくハンディーミル(粉砕器)にて粉砕した。試料1.00gを精秤し、ピリジン20mlを加えた。沸石を数粒加え、15分間煮沸還流し溶解させた。煮沸還流後直ちに、10mlの純水を添加し、室温まで放冷した。フェノールフタレインを指示薬としてN/10−NaOHで滴定した。試料を入れずにブランクも同じ作業を行う。なお、オリゴマーがピリジンに溶解しない場合は、ベンジルアルコール中で行った。下記式に従って、AVo(eq/ton)を算出する。
AVo=(A−B)×0.1×f×1000/W
(A=滴定数(ml),B=ブランクの滴定数(ml),f=N/10−NaOHのファクター,W=試料の重さ(g))
【0059】
3.オリゴマーヒドロキシル末端基濃度
オリゴマーを乾燥に呈すことなくハンディーミル(粉砕器)にて粉砕した。試料0.5gを精秤し、それに、無水酢酸1.02gとピリジン10mlの混合溶液に添加し、95℃で1.5時間反応させた。反応物に蒸留水10mlを加え、室温で放冷した。次いで、N/10の水酸化ナトリウム溶液(溶液:水/メタノール=5/95(体積比))でフェノールフタレインを指示薬として滴定した。なお、オリゴマー水酸価は次式より求めた。
OHV(eq/ton)=((B−A)×f)/(Wg×10)×10
(A=滴定数(ml),B=ブランクの滴定数(ml),f=N/10−NaOHのファクター,W=試料の重さ(g))
【0060】
4.共重合ポリエステルの組成比
共重合ポリエステル試料約5mgを重クロロホルムとトリフルオロ酢酸の混合溶液(体積比9/1)0.7mlに溶解し、H−NMR(varian製、UNITY50)を使用して求めた。
【0061】
5.共重合ポリエステル溶液の吸光度
共重合ポリエステル試料5gをフェノール/テトラクロロエタン(質量比60:40)混合溶媒50gに溶解した溶液を波長657nm、光路長10mmにて測定した時の吸光度を求めた。
【0062】
6.色調
共重合ポリエステルチップのカラーをカラーメーター(日本電色社製、Model 1001DP)を使用し測定し、カラーL値及びカラーb値を求めた。なお、ポリエステルチップサイズは2.0〜3.5mmΦ×2.5〜3.5mmの大きさのものについて測定した。
【0063】
7.ヘーズ値
射出成形機(名機製作所製、M−150C−DM)を使用して、280℃で共重合ポリエステルを溶融させ、金型温度40℃で厚さ2〜11mmの段付成形板を成形し、厚さ5mmの部位をヘーズメーター(日本電色社製、Model NDH2000)にてヘーズ値(%)を測定した。
【0064】
8.元素分析
以下に示す方法で元素分析を行った。
【0065】
(a)Sbの分析
試料1gを硫酸/過酸化水素水の混合液で湿式分解させた。次いで、亜硝酸ナトリウムを加えてSb原子をSb5+とし、ブリリアングリーンを添加してSbとの青色錯体を生成させた。この錯体をトルエンで抽出後、吸光光度計(島津製作所製、UV−150−02)を用いて、波長625nmにおける吸光度を測定し、Sbの比色定量を行った。
【0066】
(b)Geの分析
試料2gを白金ルツボにて灰化分解させ、さらに10質量%の炭酸水素ナトリウム溶液5mlを加えて蒸発させ、次いで塩酸を加えて蒸発乾固させた。電気炉にて400℃から950℃まで昇温させ、30分放置して残渣を融解させた。融解物を水10mlに加温溶解させ、ゲルマニウム蒸留装置に移した。なお、白金ルツボ内を7.5mlのイオン交換水で2回水洗し、この水洗液もゲルマニウム蒸留装置に移した。次いで、塩酸35mlを加え、蒸留して留出液25mlを得た。その留出液中から適当量を分取し、最終濃度が1.0〜1.5mol/Lとなるように塩酸を加えた。さらに、0.25質量%のポリビニルアルコール溶液2.5ml及び0.04質量%のフェニルフルオレン(2,3,7−トリヒドロキシ−9−フェニル−6−フルオレン)溶液5mlを添加し、イオン交換水にて25mlとした。生成したGeとの黄色錯体を吸光光度計(島津製作所製、UV−150−02)により波長505nmにおける吸光度を測定し、Geの比色定量を行った。
【0067】
(c)Coの分析
試料1gを白金ルツボにて灰化分解し、6モル/L塩酸を加えて蒸発乾固させた。これを1.2モル/Lの塩酸で溶解し、ICP発光分析装置(島津製作所製、ICPS−2000)を用いて発光強度を測定した。予め作成した検量線から、試料中のCoを定量した。
【0068】
(d)Pの分析
試料1gを、炭酸ナトリウム共存下で乾式灰化分解させる方法、あるいは硫酸/硝酸/過塩素酸の混合液または硫酸/過酸化水素水の混合液で湿式分解させる方法によってリン化合物を正リン酸とした。次いで、1mol/Lの硫酸溶液中においてモリブデン酸塩を反応させてリンモリブデン酸とし、これを硫酸ヒドラジンで還元して生成したヘテロポリ青を吸光光度計(島津製作所製、UV−150−02)により波長830nmにおける吸光度を測定し、Pの比色定量を行った。
【0069】
(e)Tiの分析
試料1gを白金ルツボにて灰化分解し、硫酸と硫酸水素カリウムを加え、加熱溶融させた。この溶融物を2モル/L硫酸に溶解させた後、過酸化水素水を添加し、吸光光度計(島津製作所製、UV−150−02)により波長420nmにおける吸光度を測定した。予め作成した検量線から、試料中のTiを比色定量した。
【0070】
9.共重合ポリエステルに不溶性のゲルマニウム原子およびコバルト原子の定量方法
試料共重合ポリエステルペレット30gおよびパラクロロフェノール/テトラクロロエタン(3/1:重量比)混合溶液300mlを攪拌機付き丸底フラスコに投入し、該ペレットを混合溶液に100〜105℃、2時間で攪拌・溶解する。該溶液を室温になるまで放冷し、直径47mm/孔径1.0μmのポリテトラフルオロエチレン製のメンブレンフィルター(Advantec社製PTFEメンブレンフィルター、品名:T100A047A)を用い、全量を0.15MPaの加圧下で異物を濾別する。有効濾過直径は37.5mmとした。濾過終了後、引き続き300mlのクロロホルムを用い洗浄し、次いで、30℃で一昼夜減圧乾燥する。該メンブレンフィルターの濾過面を走査型蛍光X線分析装置(RIGAKU社製、ZSX100e、Rh管球4.0kW)でゲルマニウム原子およびコバルト原子の量を定量した。定量はメンブレンフィルターの中心部直径30mmの部分について行った。なお、該蛍光X線分析法の検量線はゲルマニウム原子およびコバルト原子の量が既知のポリエチレンテレフタレート樹脂を用いて求め、見掛けのゲルマニウム原子およびコバルト原子の量をppmで表示した。測定はX線出力50kV−70mAで分光結晶としてペンタエリスリトール、検出器としてPC(プロポーショナルカウンター)を用い、PHA(波高分析器)100−300の条件でAl−Kα線強度を測定することにより実施した。検量線用ポリエチレンテレフタレート樹脂中のゲルマニウム原子およびコバルト原子の含有量は、上記方法により定量した。
【0071】
10.共重合ポリエステル中の粗大粒子数
上記の共重合ポリエステルに不溶性のゲルマニウム原子およびコバルト原子の定量方法
において得られた濾過後のメンブレンフィルターの濾過面を走査型電子顕微鏡にて倍率1000倍にて濾過面の全面を観察して、最大径が2μm以上の粗大異物の個数をカウントした。
【0072】
実施例1
(1)スラリー調製
スラリー調製槽に、テレフタル酸/エチレングリコール/ネオペンチルグリコール/水を1.00/0.53/0.31/0.025の質量比で連続的に供給し、攪拌しながら、テレフタル酸のグリコールスラリーを調製した。なお、ネオペンチルグリコールは、ネオペンチルグリコールの溶融槽で溶融し、エチレングリコールおよび水を上記組成になるように混合槽で混合したものを、平均孔径が5μmのフィルターで濾過した上で、スラリー調製槽へ供給した。さらに、結晶性二酸化ゲルマニウムを0.8g/Lの水溶液として、生成共重合ポリエステルに対して残存ゲルマニウム原子量が50ppmになるように、スラリー調製槽に連続的に供給した。
【0073】
(2)エステル化反応
エステル化反応装置として、攪拌装置、蒸留塔、原料仕込口および生成物取り出し口を有する3段の完全混合槽よりなる連続エステル化反応装置を使用した。上記(1)で調製したテレフタル酸のグリコールスラリー1651kg/時間と共に、第1のエステル化反応槽に供給し、絶対圧122kpa、温度258℃、平均滞留時間6時間でエステル化反応を行った。
【0074】
第1のエステル化反応槽内の液面が一定となるように反応液を取り出し、第2のエステル化反応槽に投入した。第2のエステル化反応槽の別の投入口からエチレングリコール/ネオペンチルグリコール=75/25(質量比)のグリコール混合物を50kg/時間で投入し、絶対圧122kpa、温度247℃、平均滞留時間1.5時間でエステル化反応を行った。第1のエステル化反応槽出口のオリゴマーのカルボキシル末端基濃度及びヒドロキシ末端基濃度はそれぞれ平均値で1950eq/ton、2500eq/tonであった。
【0075】
第2エステル化反応槽内の液面が一定となるように反応液を取り出し、第3のエステル化反応槽に投入した。別の供給口よりリン酸トリエチルを65g/Lのエチレングリコール溶液として、生成共重合ポリエステルに対して残存リン原子量が30ppmになるように第3エステル反応槽に連続的に供給した。圧力は常圧、温度253℃、平均滞留時間1.0時間でエステル化反応を行った。第3エステル化反応槽出口オリゴマーのカルボキシル末端基濃度及びヒドロキシ末端基濃度はそれぞれ平均値で340eq/ton、1700eq/tonであった。
【0076】
第3エステル化反応槽から第1重縮合反応槽への移送ラインに設けたインラインミキサーに酢酸コバルト2水和物を50g/Lのエチレングリコール溶液として、生成共重合ポリエステルに対して残存コバルト原子量が10ppmになるように連続的に供給した。
【0077】
(3)重縮合反応
第3エステル化反応槽内の液面が一定となるように反応液を取り出し、第1重縮合反応槽に投入して、圧力5.3kpa、温度261℃、平均滞留時間1.5時間で第1重縮合反応を行った。
【0078】
第1重縮合反応槽内の液面が一定となるように反応液を取り出し、第2重縮合反応槽に投入した。圧力0.45kpa、温度272℃、平均滞留時間1.2時間で第2重縮合反応を行った。
【0079】
第2重縮合反物の液面が一定となるように反応液を取り出し、第3重縮合反応槽に投入した。温度272℃、平均滞留時間1.2時間で、反応生成物の平均固有粘度が0.74となるように真空度(圧力)を調節した。圧力は0.06〜0.15kpaの範囲であった。
【0080】
第3重縮合反応内の液面が一定となるように共重合ポリエステルをストランド状に取り出し、当該共重合ポリエステルを水冷却固化し、ストランドカッターでペレット化した。なお、第3重縮合反応槽出口に平均孔径20μmのフィルターを設置して、共重合ポリエステルを濾過した。
【0081】
第3エステル化反応槽から第1重縮合反応槽への移送ラインに設けたインラインミキサーに酢酸コバルト2水和物を50g/Lのエチレングリコール溶液として、生成共重合ポリエステルに対して残存コバルト原子量が10ppmになるように連続的に供給した。
【0082】
得られた共重合ポリエステルの組成は、平均値でテレフタル残基//エチレングリコール残基/ネオペンチルグリコール残基/ジエチレングリコール残基(副生成物)=100//69/30/1(モル比)であった。得られた共重合ポリエステルの特性値を表1に示す。
【0083】
本実施例で得られた共重合ポリエステルは、共重合ポリエステル溶液の吸光度が低く、
段付成形板のヘーズ値が小さかった。また、色調が良好であった。さらに、共重合ポリエステルに不溶性のゲルマニウムおよびコバルト原子の量が低いので、粗大異物量も少なく清澄度が高かった。また、10日間連続運転をした時の共重合ポリエステル特性の平均値は30モル%で、12時間毎に測定した時のネオペンチルグリコール含有量の変動範囲は±2モル%と、品質変動も小さく均質性が高かった。
【0084】
本実施例で得られた共重合ポリエステルを押し出し成形または射出成形し、成形体を得た。得られた成形体は、色調が良好で、透明性および清澄度が優れており高品質であり、化粧品用容器等の高級感が要求される容器や光学用部材の成形体として好適に使用することができた。
【0085】
実施例2〜5
実施例1において、原料の投入割合、反応条件を調整することにより、最初のエステル化反応槽出口・コバルト添加箇所のオリゴマーのカルボキシル末端基濃度・ヒドロキシル末端基濃度を表1に記載の値にした以外は、実施例1と同様にして共重合ポリエステルを得た。評価結果を表1に示す。実施例2〜5で得られた共重合ポリエステル及びそれを使用して得られた成形体は、実施例1と同様に良好であった。
【0086】
実施例6〜11
実施例1において、それぞれ、ゲルマニウム含有量、コバルト含有量、リン含有量が表1に記載の量になるように変更した以外は、実施例1と同様にして共重合ポリエステルを得た。評価結果を表1に示す。実施例6〜11で得られた共重合ポリエステル及びそれを使用して得られた成形体は、実施例1と同様に良好であった。
【0087】
実施例12〜14
実施例1において、それぞれ、ゲルマニウム化合物、コバルト化合物、リン化合物の添加場所を変えた以外は、実施例1と同様にして共重合ポリエステルを得た。評価結果を表1に示す。実施例12〜14で得られた共重合ポリエステル及びそれを使用して得られた成形体は、実施例1と同様に良好であった。
【0088】
実施例15
実施例1において、エチレングリコール/ネオペンチルグリコールよりなるグリコール混合物を第2エステル化反応槽へ供給しない以外は、実施例1と同様にして共重合ポリエステルを得た。評価結果を表1に示す。得られた共重合ポリエステルは色調、共重合ポリエステル溶液の吸光度および段付き成形板ヘーズ値は、実施例1で得られた共重合ポリエステルと同等の品質を有しており高品質であり、かつ10日間連続運転をした時の共重合ポリエステル特性の平均値は同等であったが、12時間毎に測定した時のネオペンチルグリコール含有量の変動範囲は±4モル%であり、実施例1の方法に比べて変動幅が広くなった。
【0089】
比較例1,2
実施例1において、それぞれ、ゲルマニウム化合物、コバルト化合物の添加場所を変えた以外は、実施例1と同様に行った。評価結果を表2に示す。比較例1,2で得られた共重合ポリエステル及びそれを使用して得られた成形体は、実施例のものに比べて劣っていた。
【0090】
比較例3〜10
実施例1において、原料の投入割合、反応条件を調整することにより、最初のエステル化反応槽出口・コバルト添加箇所のオリゴマーのカルボキシル末端基濃度・ヒドロキシル末端基濃度を表2に記載の値にした以外は、実施例1と同様に行った。評価結果を表2に示す。比較例3〜10で得られた共重合ポリエステル及びそれを使用して得られた成形体は、実施例のものに比べて劣っていた。
【0091】
【表1】

【0092】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明の製造方法により、透明性、色調および清澄度が高度に優れ、かつ品質の変動が抑制された均質性の高い芳香族共重合ポリエステルを経済性の高い方法で安定して製造することができる。従って、本発明の製造方法により得られた芳香族共重合ポリエステルは、透明性、色調および清澄度の要求の厳しい成形体、例えば、化粧品容器等の高級感が要求される容器や光学用の成形体の原料として好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
テレフタル酸を主たるジカルボン酸成分とし、エチレングリコール及びネオペンチルグリコールを主たるグリコール酸成分としてなる芳香族共重合ポリエステルを連続的に製造するための方法であって、テレフタル酸、エチレングリコール、及びネオペンチルグリコールを含むスラリーをスラリー調製槽で調製して前記スラリーをエステル化反応槽に連続的に供給し、複数の直列に連結したエステル化反応槽を用いてエステル化反応を行い、続いて重縮合反応槽で重縮合反応を行う方法において、スラリー調製槽から最初のエステル化反応槽までの間にゲルマニウム化合物を添加し、最後のエステル化反応槽から重縮合反応槽までの間にコバルト化合物を添加すること、最初のエステル化反応槽の出口のポリエステルオリゴマーのカルボキシル末端基濃度が1000〜4000eq/tonであり、かつヒドロキシル末端基濃度が1000〜5000eq/tonであること、及びコバルト化合物を添加する箇所のポリエステルオリゴマーのカルボキシル末端基濃度が100〜650eq/tonであり、かつヒドロキシル末端基濃度が1000〜3000eq/tonであることを特徴とする方法。
【請求項2】
ゲルマニウム化合物及びコバルト化合物の添加量がそれぞれ、得られる芳香族共重合ポリエステル中のゲルマニウム原子の残存量を20〜100ppmとし、コバルト原子の残存量を3〜30ppmとするようなものであることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
スラリー調製槽から重縮合反応槽までにリン化合物を添加することを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
リン化合物の添加量が、得られる芳香族共重合ポリエステルのリン原子の残存量を15〜50ppmとするようなものであることを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項5】
エステル化反応槽から重縮合反応槽の前にネオペンチルグリコールを含むグリコール成分を追加供給することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の方法。

【公開番号】特開2011−46829(P2011−46829A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−196304(P2009−196304)
【出願日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】