説明

芳香族炭化水素電解質膜、およびこれを用いた燃料電池

【課題】プロトン伝導度およびラジカル耐久性を同等に保持または大きく低下することなく電解質膜の柔軟性を改善できるため、乾燥湿潤サイクルにおける機械的耐久性を改善し、ひいてはPEFCの耐久性が向上する技術を提供する。
【解決手段】芳香族炭化水素系電解質と、 下記化学式1:


式中、 Rは、特定の置換基、で表される繰り返し単位を有する高分子と、を含み、 前記高分子が、前記芳香族炭化水素系電解質に対して、1〜40質量%含まれる、複合電解質膜。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香族炭化水素電解質膜、およびこれを用いた燃料電池に関するものである。より詳しくは、特に、柔軟性が向上した芳香族炭化水素電解質膜に関するものである。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、水素やメタノール等の燃料を電気化学的に酸化することによって電気エネルギーを取り出す一種の発電装置であり、近年クリーンなエネルギー供給源として注目されている。燃料電池は用いる電解質の種類によって、リン酸型、溶融炭酸塩型、固体酸化物型、固体高分子電解質型等に分類されるが、このうち固体高分子電解質型燃料電池は標準的な作動温度が100℃以下と低く、かつエネルギー密度が高いことから電気自動車などの電源として幅広い応用が期待されている。
【0003】
固体高分子電解質型燃料電池は固体高分子電解質膜の両側に電極を接合して一体化した膜電極接合体(MEA: membrane electrode assembly)から成っており、一方の電極に水素、他方に酸素を供給し、両電極間を外部負荷回路に接続することによって発電を起こすものである。より具体的には、水素側電極でプロトンと電子が生成され、プロトンは電解質膜の内部を移動して酸素側電極に達した後、酸素と反応して水を生成する。一方、水素側電極から導線を伝って流れ出した電子は外部負荷回路において電気エネルギーが取り出された後、さらに導線を伝って酸素側電極に達し、前記水生成反応の進行に寄与する。
【0004】
従来、燃料電池の電解質膜は、構成材料であるイオン交換樹脂の種類によって、フッ素系電解質膜と炭化水素系電解質膜とに大別される。これらのうち、フッ素系電解質膜は、C−F結合を有しているために耐熱性や化学的安定性に優れるため、特に、Nafion(登録商標、デュポン社製)の商品名で知られるパーフルオロスルホン酸膜に代表されるフッ素系電解質膜が使用されている。
【0005】
しかしながら、上記フッ素系電解質は、製造が困難で、非常に高価であるという欠点がある。このため、パーフルオロスルホン酸系の膜に代えて、炭化水素系電解質膜を使用することが考えられている。この炭化水素系電解質膜は、上記フッ素系電解質膜と比較すると、原料が安価で製造工程が簡便であり、かつ材料の選択性が高いという利点があるが、プロトン伝導性が低いため、電解質膜として使用するには不十分であった。
【0006】
上記問題を解決するために、プロトン伝導性を維持しつつ、メタノール透過を抑制できるプロトン伝導性高分子電解質膜、この高分子電解質膜を使用した高分子電解質膜−電極接合体、それらの製造方法及びそれを用いた燃料電池が開示されている(例えば、特許文献1)。
【特許文献1】特開2006−31970号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、電解質膜への要求特性としては、コストパフォーマンスの優位性、プロトン伝導性だけではなく、ラジカル耐久性、化学的耐久性および機械的耐久性等が求められる。
【0008】
ラジカル耐久性は、燃料電池、特に固体高分子型燃料電池(PEFC)の運転中にカソードまたはアノードにおいて生成する過酸化水素(H)由来のラジカルに対する電解質膜の耐久性をいう。
【0009】
化学的耐久性は、燃料電池運転に伴って生成する各種活性種、例えば過酸化水素やヒロドキシラジカル等に対する耐久性をいう。フッ素系電解質膜は全ての炭素骨格がフッ素原子で覆い隠されているため化学的耐久性に優れている。一方、このような構造を持たない芳香族炭化水素系電解質膜は、同条件ではフッ素系電解質膜に劣るのだが、燃料電池においては水素および酸素の透過性が大幅に低いために前記のような各種活性種の生成速度が遅く、結果的にフッ素系電解質膜と同等の化学的耐久性を実現する。
【0010】
また、機械的耐久性は、電解質膜が燃料電池運転に伴う生成水を吸収したときや運転停止時に水を失って乾燥したときなど、燃料電池という拘束された空間で電解質膜が膨潤収縮することによって生じる、断続的な機械的ストレスに対する耐久性をいう。
【0011】
芳香族炭化水素系電解質膜は、フッ素系電解質膜に比べて1)イオン交換容量が比較的高く含水にともなう体積変化が大きい、2)芳香族炭化水素ポリマーの多くが高耐熱性かつ高剛性のスーパーエンジニアリングプラスチックスであり柔軟性に乏しい、の2点から機械的耐久性が本質的に弱いという問題点があり、その問題の解決が望まれている。
【0012】
そこで本発明は、芳香族炭化水素系電解質膜を使ったPEFCにおいて、プロトン伝導性・耐ラジカル性を低下させることなく、電解質膜が燃料電池運転に伴う生成水を吸収したときや運転停止時に水を失って乾燥したときの、芳香族炭化水素系電解質膜の劣化を充分に抑制し、芳香族炭化水素系電解質膜の機械的耐久性の向上に寄与しうる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記の現状に鑑み、鋭意研究を行った。その過程の中で、ヒンダードフェノール型酸化防止剤を利用して上記課題を解決できないかを詳細に検討した。
【0014】
一般的に、ヒンダードフェノール型酸化防止剤は、フェノール性水酸基の水素原子(本明細書中では、「フェノール水素」とも称する)がケト−エノール互変異性を生じる過程でラジカルを失活させることで酸化防止機能を発現すると考えられている。この際、ヒンダードフェノール型酸化防止剤はフェノール水素の強い水素結合性によって、炭化水素だけでなく酸素や窒素を含む高分子材料ともよく相溶することが知られている。
【0015】
本発明に係る複合電解質に供される、化学式1で表される繰り返し単位を有する高分子(以下、「本発明に係るヒドロキシスチレン系高分子」とも称する)は、このような「フェノール水素」を有する高分子である。
【0016】
これまでに、本発明者は、ポリヒドロキシスチレンが、一般的に他樹脂との相溶性が極めて乏しいとされるポリオキシメチレンとよく相溶するとともに、非晶部を水素結合で拘束することによってガラス転移点を上昇させ、当該樹脂からなる高剛性フィルムを更に高弾性率化できることを見出している。
【0017】
本発明者らは、上記知見をもとに、上記課題を解決すべく、鋭意研究していたところ、本発明に係るヒドロキシスチレン系高分子を用いると、驚くべきことに当該電解質膜が柔軟化することを見出し、本発明を想到した。
【0018】
すなわち、芳香族炭化水素系電解質膜に本発明に係るヒドロキシスチレン系高分子を一定量含有させることで、プロトン伝導度およびラジカル耐久性を低下することなく電解質膜の柔軟性を改善できるため、乾燥湿潤サイクルにおける機械的耐久性を改善し、ひいてはPEFCの耐久性が向上させうることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0019】
すなわち、本発明は、芳香族炭化水素系電解質と、
下記化学式1:
【0020】
【化1】

式中、
は、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基または炭素数6〜30のアリール基であり、
およびRは、それぞれ独立して、水素原子またはハロゲン原子であり、
は、水素原子、ハロゲン原子または炭素数1〜10のアルキル基であり、この際、Rは、同一であってもまたは異なるものであってもよい、
で表される繰り返し単位を有する高分子を含み、
前記高分子が、前記芳香族炭化水素系電解質に対して、1〜40質量%含まれる、
複合電解質膜である。
【発明の効果】
【0021】
本発明の複合電解質膜によると、プロトン伝導度およびラジカル耐久性を同等に保持または大きく低下することなく電解質膜の柔軟性を改善できるため、乾燥湿潤サイクルにおける機械的耐久性を改善し、ひいてはPEFCの耐久性が向上しうる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
[第1実施形態]
まず、第1実施形態を説明する。
【0023】
本発明の第1実施形態は、芳香族炭化水素系電解質と、
下記化学式1:
【0024】
【化2】

式中、
は、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基または炭素数6〜30のアリール基であり、
およびRは、それぞれ独立して、水素原子またはハロゲン原子であり、
は、水素原子、ハロゲン原子または炭素数1〜10のアルキル基であり、この際、Rは、同一であってもまたは異なるものであってもよい、
で表される繰り返し単位を有する高分子とを含み、
前記高分子が、前記芳香族炭化水素系電解質に対して、1〜40質量%含まれる、
複合電解質膜である。
【0025】
本発明は、芳香族炭化水素系電解質が、化学式1で表される繰り返し単位を有する高分子を一定量含有することを特徴とする。かような態様とすることにより、プロトン伝導度およびラジカル耐久性を同等に保持または大きく低下することなく電解質膜の柔軟性を改善できるため、乾燥湿潤サイクルにおける機械的耐久性を改善し、ひいてはPEFCの耐久性が向上しうる。
【0026】
以下、上記第1実施形態について詳説する。
【0027】
(ヒドロキシスチレン系高分子)
本発明に係るヒドロキシスチレン系高分子は、化学式1で表される繰り返し単位を有する。
【0028】
上記化学式1において、Rは、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基または炭素数6〜30のアリール基である。
【0029】
ハロゲン原子としては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素原子が挙げられる。
【0030】
炭素数1〜10のアルキル基としては、直鎖状または分岐状のいずれであってもよく、特に制限されないが、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基などの直鎖状アルキル基、イソプロピル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert−ペンチル基、1−メチルヘプチル基などの分岐状アルキル基などを挙げることができる。
【0031】
炭素数6〜30のアリール基としては、特に制限されないが、特に制限されないが、フェニル、ベンジル、フェネチル、o−,m−若しくはp−トリル、2,3−若しくは2,4−キシリル、メシチル、ナフチル、アントリル、フェナントリル、ビフェニリル、ベンズヒドリル、トリチル及びピレニルなどが挙げられる。
【0032】
これらのうち、Rは、好ましくは、水素原子であるが、Rと結合している主鎖炭素(α−炭素)が4級炭素である場合には、耐ラジカル性が向上するため、複合電解質膜として、さらに耐熱性および耐酸化性が向上しうる。耐熱性および耐酸化性が向上するメカニズムは、以下が考えられる。すなわち、Rがアルキル基またはアリール基である、すなわち、Rと結合している主鎖炭素(α−炭素)が4級炭素である場合には、外部からのエネルギーによっても、主鎖の分解の引き金となりうるRの主鎖からの脱離を引き起こしにくく、安定性が向上できるため、より好ましい。
【0033】
上記化学式1において、RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子またはハロゲン原子であると好ましい。
【0034】
上記化学式1において、Rは、水素原子、ハロゲン原子または炭素数1〜10のアルキル基である。ここで、Rは、同一であってもまたは異なるものであってもよい。好ましくは、Rは、水素原子、臭素原子、フッ素原子であり、より好ましくは、Rは、水素原子である。
【0035】
本発明に係るヒドロキシスチレン系高分子は、化学式1で表される繰り返し単位を必須に有するが、単一の化学式1で表される繰り返し単位のみからなるものであっても、または異なる化学式1で表される繰り返し単位からなるものであってもよい。後者の場合、各繰り返し単位は、ランダム、ブロックのいずれの形態で付加してもよい。後者の例としては、下記実施例1に記載されるように、Rとしての臭素原子が1繰り返し単位当たり平均1.5個置換される場合などが挙げられる。
【0036】
続いて、下記に化学式1で表される繰り返し単位の好ましい実施形態をさらに具体的に説明する。
【0037】
化学式1で表される繰り返し単位としては、本発明のR〜Rが、いずれも水素原子であると、柔軟化効果がすぐれる点で好ましい。
【0038】
化学式1で表される繰り返し単位としては、R〜Rがいずれも水素原子であり、Rが、臭素原子であると、難燃性に優れる点で好ましい。
【0039】
化学式1で表される繰り返し単位としては、Rが、炭素数1〜10のアルキル基および炭素数6〜30のアリール基からなる群から選択されるいずれか1種であり、R〜Rが水素原子またはハロゲン原子であると耐ラジカル性に優れる点で好ましい。すなわち、Rとして嵩高い置換基である炭素数1〜10のアルキル基や炭素数6〜30のアリール基等が用いられると、上述の通り、さらに耐熱性および耐酸化性が向上しうるのである。
【0040】
更に、化学式1で表される繰り返し単位を有する高分子は、上記化学式1で表される繰り返し単位のみから構成されてもよいが、上記化学式1で表される繰り返し単位に加えて、他の繰り返し単位を有する共重合体の形態であってもよい。
【0041】
具体的には、前記高分子が、化学式2:
【0042】
【化3】

式中、
は、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基または炭素数6〜30のアリール基であり、
およびRは、それぞれ独立して、水素原子またはハロゲン原子である、
で表される繰り返し単位ならびに
化学式3:
【0043】
【化4】

式中、
は、水素原子またはメチル基であり、
は、炭素数1〜10のアルキル基または炭素数1〜10のヒドロキシアルキル基である、
で表される繰り返し単位からなる群から選択される少なくとも1種をさらに含む、複合電解質膜であってもよい。
【0044】
なお、より好ましくは、前記高分子が、化学式2で表される繰り返し単位または化学式3で表される繰り返し単位のいずれか1種を含み、さらに好ましくは、前記高分子が、化学式2で表される繰り返し単位のみを含む。
【0045】
かような場合であっても、有意に、プロトン伝導度およびラジカル耐久性を同等に保持または大きく低下することなく電解質膜の柔軟性を改善できる。
【0046】
上記化学式2において、Rは、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基または炭素数6〜30のアリール基である。ここで、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基および炭素数6〜30のアリール基は、上記化学式1における定義と同様である。好ましくは、水素原子である。
【0047】
上記化学式2において、RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子またはハロゲン原子である。好ましくは水素原子である。
【0048】
すなわち、化学式2で表される繰り返し単位としては、スチレンなどの化合物由来の繰り返し単位などが挙げられる。
【0049】
上記化学式3において、Rは、水素原子またはメチル基である。
【0050】
上記化学式3において、Rは、炭素数1〜10のアルキル基または炭素数1〜10のヒドロキシアルキル基である。好ましくは、メチル基、エチル基;メチルヒドロキシ基、2−ヒドロキシエチル基、2−ヒドロキシプロピル基であり、特に好ましくは、メチル基;2−ヒドロキシエチル基である。
【0051】
すなわち、化学式3で表される繰り返し単位としては、(メタ)アクリル酸;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸アルキルエステル;(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アククリル酸2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルなどの化合物由来の繰り返し単位などが挙げられる。
【0052】
また、本発明に係るヒドロキシスチレン系高分子は、上記記載の化合物由来の繰り返し単位以外の任意の繰り返し単位と共重合可能である。
【0053】
本発明に係る重合体を構成する繰り返し単位の結合形式は、特に制限されず、ランダム、ブロックのいずれの形態で付加してもよい。また、各繰り返し単位の重合度は、当業者に既知の方法で測定でき、例えばESR、NMR、IRなどが考えられるが、これらに制限されるものではない。
【0054】
上記各共重合体において、化学式1で表される繰り返し単位と化学式2で表される繰り返し単位および/または化学式3で表される繰り返し単位との組成割合は、特に限定されないが、「化学式1で表される繰り返し単位:化学式2で表される繰り返し単位および/または化学式3で表される繰り返し単位」のモル比は、好ましくは10:90以上、より好ましくは20:80以上、さらに好ましくは30:70以上である。すなわち化学式1で表される繰り返し単位が、本発明の効果を有意に奏するものであるため、化学式1で表される繰り返し単位の割合が多い方が好ましいのである。すなわち、化学式1で表される繰り返し単位が、全体に占める割合が50mol%以上であると、特に好ましい。
【0055】
本発明に係るヒドロキシスチレン系高分子の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)、ガスクロマトグラフィやゲル透過クロマトグラフィなどのクロマトグラフィ、MSスペクトル、静的光散乱法、粘度測定法などの公知の分子量の測定方法を用いて測定できる。
【0056】
本発明に係るヒドロキシスチレン系高分子の分子量は、特に制限されないが、加工性、溶解性、靭性の観点から好ましい重量平均分子量が1000〜1000000であり、より好ましくは3000〜100000である。本明細書において、ヒドロキシスチレン系高分子重量平均分子量は、下記方法にしたがって測定された値を意味する。
【0057】
<GPCによる重量平均分子量の測定条件>
装置名:Agilent社製 1100シリーズ
カラム :PLgel製 MIXED−B(2連)
溶離液 :10mM Libr DMF 1ml/min
注入量 :100μl
スタンダード:ポリスチレン
検出器 :RI検出器
本発明に係るヒドロキシスチレン系高分子は、上記繰り返し単位を有するように、適当な単量体を、重合開始剤の存在下で、溶液重合や塊状重合などの公知の方法によって、(共)重合することによって製造でき、その製造方法は、特に制限されない。または、本発明に係るヒドロキシスチレン系高分子は、市販品を使用してもよく、市販品としては、マルカリンカー(丸善石油化学製:登録商標)などが挙げられる。
【0058】
上述したように、本発明の化学式1で表される繰り返し単位を有している高分子が、プロトン伝導度およびラジカル耐久性を同等に保持または大きく低下することなく電解質膜の柔軟性を改善するメカニズムは明確ではないが、例えば、前記フェノール水素(ケト−エノール互変異性による安定化)の効果に加えて、芳香族炭化水素系電解質に含まれるベンゼン環と本発明に係るヒドロキシスチレン系高分子のベンゼン環とが高い親和性を示すことによって芳香族電解質分子鎖間の相互作用が緩和し、その結果として柔軟化する効果を奏するものと推測することができる。すなわち、本発明に係るヒドロキシスチレン系高分子が、主成分として化学式1で表される繰り返し単位を有していれば、その上述した置換基如何によっては、本発明の効果が滅殺されることはない。ただし、このメカニズムは、発明者らの推測に過ぎず、当該メカニズムにより本発明の技術的範囲が制限されないことは言うまでもない。
【0059】
本発明に係るヒドロキシスチレン系高分子は、上述したとおり、化学式1で表される繰り返し単位を含んでいれば、本発明の効果を奏することができるため、上記したような、その他のモノマー(繰り返し単位)が1種または2種以上含まれてもよい。すなわち、上記共重合体の共重合モノマーのモル比は、繰り返し単位が2種以上含まれた場合、それらを相加して、それぞれのモル比を算出する。
【0060】
化学式1で表される繰り返し単位のみからなる重合体だけでなく、各種モノマーと共重合した共重合体であっても好ましい理由は以下の通りである。すなわち、化学式1で表される繰り返し単位のみからなる重合体である場合、OH基が多くなり、酸として働く虞もあるが、各種モノマーと共重合することで、酸を有意に希釈するという効果に繋がり、酸による電解質の過度の劣化防止という点で好ましい。
【0061】
(ヒドロキシスチレン系高分子含有量)
上述の通り、本発明の複合電解質膜は、芳香族炭化水素系電解質、および上記芳香族炭化水素系電解質に対して一定量の化学式1で表される繰り返し単位を有する高分子を含有することを特徴とする。
【0062】
化学式1で表される繰り返し単位を有する高分子の含有量は、特に制限はないが、1質量%〜40質量%である。好ましくは、3質量%〜30質量%であり、さらに好ましくは5質量%〜25質量%であり、特に好ましくは、10質量%〜25質量%である。含有量が1質量%未満であると、本発明の効果を達成することが困難となる虞があり、含有量が40質量%超であると弾性率が増加してしまう虞があるからである。
【0063】
(芳香族炭化水素系電解質)
本発明の複合電解質膜を構成する芳香族炭化水素系電解質は、例えば、プロトン伝導性の固体高分子電解質(以下、単に「アイオノマ」とも称する)から構成され、PEFCの運転時にアノード触媒層で生成したプロトンを膜厚方向に沿ってカソード触媒層へと選択的に透過させる機能を有する。また、本発明の複合電解質膜は、アノード側に供給される燃料ガスとカソード側に供給される酸化剤ガスとを混合させないための隔壁としての機能をも有する。
【0064】
本発明においては、複合電解質膜には、芳香族炭化水素系電解質が用いられる。よって、複合電解質膜が、芳香族炭化水素系電解質であれば、特に制限されず、公知の芳香族炭化水素系電解質膜が使用される。
【0065】
具体的には、スルホン酸基を有する炭化水素系樹脂系膜、リン酸などの無機酸を炭化水素系高分子化合物にドープさせたもの、一部がプロトン導電体の官能基で置換された有機/無機ハイブリッドポリマー、高分子マトリックスにリン酸溶液や硫酸溶液を含浸させたプロトン導電体などが使用される。
【0066】
より、具体的には、ポリアリーレン系ポリマーが好ましく、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンオキシド、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンスルフィドスルホン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトンがより好ましく、本発明の芳香族炭化水素系電解質に用いられるイオン交換基としては、スルホン酸基、ホスホン酸基、カルボン酸基が好ましい。
【0067】
さらに、具体的には、例えば、ポリ(トリフルオロスチレン)スルホン酸、ポリビニルホスホン酸、ポリビニルカルボン酸、ポリビニルスルホン酸ポリマー、ポリフェニレンオキシド、ポリフェニレンスルホキシド、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンスルフィドスルホン、ポリスルホン、ポリスルホン酸、ポリアリールエーテルケトンスルホン酸、ポリベンズイミダゾールアルキルスルホン酸、ポリベンズイミダゾールアルキルホスホン酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリエーテルエーテルケトンスルホン酸、ポリフェニルスルホン酸、スルホン化ポリエーテルスルホン(S−PES)、スルホン化ポリアリールエーテルケトン、スルホン化ポリベンズイミダゾールアルキル、ホスホン化ポリベンズイミダゾールアルキル、スルホン化ポリスチレン、スルホン化ポリエーテルエーテルケトン(S−PEEK)、スルホン化ポリフェニレンまたはこれらの共重合体などが好適な一例として挙げられる。
【0068】
なかでも、プロトン伝導性の点から、スルホン酸基を有する芳香族炭化水素系電解質が好ましく、特に好ましくは、芳香族炭化水素系電解質が、スルホン化ポリアリーレン、スルホン化ポリエーテルスルホン、スルホン化ポリエーテルエーテルケトンまたはこれらの共重合体である。スルホン酸基を有する芳香族炭化水素系電解質を使用する場合には、EW(Equivalent Weight;スルホン酸基1モル当たりの乾燥膜重量を表わし、小さいほどスルホン酸基の比重が大きい)が200〜1500程度のものを使用することが好ましい。
【0069】
(複合電解質膜の製膜方法)
本発明に係る複合電解質膜の製膜方法としては、本発明に係るヒドロキシスチレン系高分子を使って、本発明の効果を奏するように製膜することができれば、特に制限されないが、例えば、本発明に係る芳香族炭化水素電解質および化学式1で表される繰り返し単位を有する高分子を溶液状態より製膜する方法や、本発明に係る芳香族炭化水素電解質および化学式1で表される繰り返し単位を有する高分子の混合物を溶融状態より製膜する方法、等が挙げられ、例えば、カレンダー法、インフレーション法、Tダイ法、キャスト法等が挙げられる。後述する実施例では、溶液状態より製膜する方法を採用しているが、これに限定されることは言うまでもない。上記電解質溶液を滴下する基板は特に制限されず、平坦なものであればよく、ガラス基板、テフロンシートなどが挙げられる。
【0070】
上記電解質溶液に用いられる溶媒は、使用する電解質、フィラー、濃度などにより適宜選択されるものであり制限されるものではないが、例えば、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N−メチルピロリドン(NMP)、低級アルコール(メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール)、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどが挙げられる。
【0071】
上記電解質溶液における芳香族炭化水素電解質と化学式1で表される繰り返し単位を有する高分子との合計濃度は、特に制限はないが、製膜の容易性、乾燥の容易性等の理由から、電解質溶液中の樹脂固形分比として、1〜95質量%が好ましく、5〜60質量%がより好ましく、10〜40質量%がさらに好ましい。
【0072】
本発明の場合、芳香族炭化水素電解質と化学式1で表される繰り返し単位を有する高分子とを含む溶液を調製し、これを任意の方法(押出、流延、インフレーション、圧延、延伸等)でフィルム状に成形したあと、溶媒を除去することにより、所望の膜厚である複合電解質膜を得ることが出来る。
【0073】
(複合電解質膜の厚さ)
複合電解質膜の厚さは、当該膜を組み込むMEAや固体電解質型燃料電池(PEFC)の特性を考慮して適宜決定すればよく、特に制限されない。ただし、複合電解質膜の厚さは、好ましくは5〜300μmであり、より好ましくは10〜200μmであり、さらに好ましくは15〜150μmであり、特に好ましくは30〜50μmである。厚さがこのような範囲内の値であると、製膜時の強度や使用時の耐久性、および使用時の出力特性のバランスが適切に制御されうる。なお、複合電解質膜の調製は、既知の方法を好適に用いることが出来る。
【0074】
(複合電解質膜の物性)
上記のような一定量の化学式1で表される繰り返し単位を有する高分子と、芳香族炭化水素系電解質と、を含む複合電解質膜の、好ましい物性について、ここに説明する。
【0075】
過酸化水素暴露試験における重量残存率は、好ましくは95%以上であり、より好ましくは96%以上、さらに好ましくは97%以上、さらにより好ましくは98%以上、特に好ましくは99%以上であり、最も好ましくは100%である。
【0076】
80℃、95%RHにおけるプロトン伝導度は、特に制限はないが、好ましくは0.05S/cm以上であり、より好ましくは0.08S/cm以上、さらにより好ましくは0.10S/cm以上、特に好ましくは0.11S/cm以上、最も好ましくは0.12S/cm以上であるが、多くの場合、10.0S/cm以下であっても十分な燃料電池特性を得ることができる。
【0077】
初期弾性率は、特に制限はないが、好ましくは2GPa未満、より好ましくは1.8GPa未満、さらに好ましくは1.6GPa以下、さらにより好ましくは1.4GPa以下、さらにより好ましくは1.2GPa以下、特に好ましくは1.0GPa以下、最も好ましくは0.5Gpa以下である。初期弾性率が、2GPa以上では本発明の効果を奏することが困難となる虞がある。なお、初期弾性率の下限は、特に制限されないが、初期弾性率が0.02GPa以下では、燃料電池内で変形が大きくなりすぎる虞があるために、好ましくない場合があるため、初期弾性率の下限は0.02GPaを超えることが好ましい。
(補強材)
加えて、本発明の複合電解質膜は、補強材が含有されてもよい。補強材が添加されると、機械的耐久性をさらに改善することができる。
【0078】
本発明の複合電解質膜に用いられる補強材としては、高分子繊維、シリカ・タルクに代表される無機粒子、ガラス・チタニアに代表される無機繊維など、本発明の目的を損なわない範囲で公知の様々な補強材を用いることができる。このうち、高分子繊維の一種であるフィブリル状PTFEが好ましい。
【0079】
一般的にこうした補強材は、1)電解質中に分散した補強材の比表面積、および、2)電解質に対する補強材の弾性率比、が高いほど優れた補強効果を発現する。前記のフィブリル状PTFEは、容易に1ミクロン以下の繊維径を得られることから他の補強材と比較して高い比表面積を得ることが可能であり、補強材としてのフッ素系電解質膜への適用も既に知られている(特開平6−231779号公報)。
【0080】
これに対して、芳香族炭化水素系電解質膜は弾性率が高いことから従来は十分な補強効果を発現することは困難であったが、化学式1で表される繰り返し単位を有する高分子を併用することによりこれを改善することが可能となりうる。
【0081】
補強材含有量は、特に制限はないが、ポリマー成分の質量に対して、好ましくは0.1質量%〜20質量%、より好ましくは0.5質量%〜10質量%、さらに好ましくは1質量%〜10質量%、特に好ましくは、3質量%〜10質量%、最も好ましくは5質量%〜10質量%である。含有量が20質量%を超えると、プロトン伝導度が低下する虞があるからである。
【0082】
[第2実施形態]
続いて、第2実施形態を説明する。
【0083】
第2実施形態は、本発明に係る複合電解質膜と、前記複合電解質膜の一方の面に配置された、カソード触媒層およびカソードガス拡散層を含むカソードガス拡散電極と、前記複合電解質膜の他方の面に配置された、アノード触媒層およびアノードガス拡散層を含むアノードガス拡散電極と、を有する膜電極接合体、特に燃料電池用膜電極接合体である。
【0084】
前記膜電極接合体(MEA)は、高分子電解質膜として、上述した本発明に係る複合電解質膜が形成されてなることを特徴とする。従って、当該特徴的な構成以外のMEAやPEFCの構成については、従来公知の知見に基づいて適宜変更や修飾が加えられてもよい。
【0085】
なお、本願において、「膜電極接合体(MEA)」とは、固体高分子電解質膜と、前記固体高分子電解質膜を挟持する1対のガス拡散電極触とを有する集合体を意味する。
【0086】
(カソードガス拡散電極)
カソードガス拡散電極は、カソード触媒層とカソードガス拡散層とから構成される。
【0087】
カソード触媒層は、触媒成分が担持されてなる電極触媒、およびアイオノマを含む層である。
【0088】
カソード触媒層において、電極触媒は、主に電解質膜経由のプロトン(H)と、外部回路経由の電子(e)と、酸化剤ガス由来の酸素(O)とから水を生成する反応(すなわち、酸素の還元反応)を促進する機能を有する。
【0089】
電極触媒は、簡単に言えば、カーボンなどからなる導電性担体の表面に、白金などの触媒成分が担持されてなる構造を有する。
【0090】
電極触媒を構成する導電性担体としては、触媒成分を所望の分散状態で担持させるのに充分な比表面積を有し、かつ、充分な電子伝導性を有するものであればよい。導電性担体の組成は、主成分がカーボンであることが好ましい。導電性担体の材質として、具体的には、カーボンブラック、活性炭、コークス、天然黒鉛、人造黒鉛などが挙げられる。なお、「主成分がカーボンである」とは、主成分として炭素原子を含むことをいい、炭素原子のみからなる、実質的に炭素原子からなる、の双方を含む概念である。場合によっては、燃料電池の特性を向上させるために、炭素原子以外の元素が含まれていてもよい。なお、「実質的に炭素原子からなる」とは、2〜3質量%程度以下の不純物の混入が許容されうることを意味する。
【0091】
導電性担体のBET比表面積は、触媒成分を高分散担持させるのに充分な比表面積であればよく、特に制限はないが、好ましくは100〜1500m/gであり、より好ましくは600〜1000m/gである。導電性担体の比表面積がかような範囲内の値であると、導電性担体上での触媒成分の分散性と触媒成分の有効利用率とのバランスが適切に制御されうる。
【0092】
導電性担体の平均粒子径についても特に制限はないが、通常は5〜200nmであり、好ましくは10〜100nm程度である。なお、「導電性担体の平均粒子径」の値としては、透過型電子顕微鏡(TEM)による一次粒子径測定法によって算出される値を採用するものとする。
【0093】
導電性担体に担持される触媒成分は、上述した酸素の還元反応を触媒的に促進する機能を有するものであれば特に制限はなく、従来公知の触媒成分が適宜用いられうる。触媒成分として、具体的には、白金、ルテニウム、イリジウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、タングステン、鉛、鉄、クロム、コバルト、ニッケル、マンガン、バナジウム、モリブデン、ガリウム、アルミニウム等の金属、およびこれらの合金などが挙げられる。これらのうち、触媒活性、一酸化炭素等に対する耐被毒性、耐熱性などに優れるという観点からは、触媒成分は少なくとも白金を含むことが好ましい。カソード触媒層122cにおける触媒成分として合金を使用する場合の合金の組成は、合金化する金属の種類などによって異なり、当業者によって適宜選択されうるが、好ましくは白金が30〜90原子%程度、合金化する他の金属が10〜70原子%程度である。なお、「合金」とは、一般に金属元素に1種以上の金属元素または非金属元素を加えたものであって、金属的性質をもっているものの総称である。合金の組織には、成分元素が別個の結晶となるいわば混合物である共晶合金、成分元素が完全に溶け合い固溶体となっているもの、成分元素が金属間化合物または金属と非金属との化合物を形成しているものなどがあり、本願ではいずれであってもよい。ここで、合金組成の特定は、ICP発光分析法を用いることで可能である。
【0094】
触媒成分の形状や大きさは特に制限されず、従来公知の触媒成分と同様の形状および大きさが適宜採用されうるが、触媒成分の形状は、粒状であることが好ましい。そして、触媒粒子の平均粒子径は、好ましくは1〜30nmであり、より好ましくは1.5〜20nmである。触媒粒子の平均粒子径がかような範囲内の値であると、電気化学反応が進行する有効電極面積に関連する触媒利用率と担持の簡便さとのバランスが適切に制御されうる。なお、本発明において、「触媒粒子の平均粒子径」の値は、X線回折における触媒成分の回折ピークの半値幅より求められる結晶子径や、透過型電子顕微鏡像より調べられる触媒成分の粒子径の平均値として算出されうる。
【0095】
電極触媒における導電性担体と触媒成分との含有量の比は、特に制限されない。ただし、触媒成分の含有率(担持量)は、導電性担体100質量%を基準として、好ましくは110〜300質量%であり、より好ましくは130〜250質量%であり、さらに好ましくは150〜200質量%である。触媒成分の含有率が110質量%以上であると、電極触媒の触媒製能が充分に発揮され、ひいてはPEFC100の発電性能の向上に寄与しうる。一方、触媒成分の含有率が300質量%以下であると、導電性担体の表面における触媒成分どうしの凝集が抑制され、触媒成分が高分散担持されるため、好ましい。
【0096】
カソード触媒層は、上述した電極触媒に加えて、アイオノマをさらに含む。カソード触媒層に含まれるアイオノマの具体的な形態に特に制限はなく、燃料電池の技術分野において従来公知の知見が適宜参照されうる。例えば、カソード触媒層に含まれるアイオノマとしては、上述した電解質膜を構成するアイオノマが同様に用いられうる。そのため、アイオノマの具体的な形態の詳細はここでは省略する。なお、カソード触媒層に含まれるアイオノマは、1種単独であってもよいし、2種以上であってもよい。
【0097】
カソード触媒層122cに含まれるアイオノマのイオン交換容量は、イオン伝導性に優れるという観点から、0.9〜1.5mmol/gであることが好ましく、1.1〜1.5mmol/gであることがより好ましい。
【0098】
なお、アイオノマの「イオン交換容量」とは、アイオノマの単位乾燥質量当りのスルホン酸基のモル数を意味する。「イオン交換容量」の値は、アイオノマ分散液の分散媒を加熱乾燥等により除去して固形の高分子電解質とし、これを中和滴定することにより、算出されうる。
【0099】
カソード触媒層におけるアイオノマの含有量についても特に制限はない。ただし、カソード触媒層における導電性担体の含有量に対するアイオノマの含有量の比(アイオノマ/導電性担体の質量比)は、好ましくは0.5〜2.0であり、より好ましくは0.7〜1.5であり、さらに好ましくは0.9〜1.3である。アイオノマ/導電性担体の質量比が0.9以上であると、膜電極接合体の内部抵抗の抑制という観点から好ましい。一方、アイオノマ/導電性担体の質量比が1.3以下であると、フラッディングの抑制という観点から好ましい。
【0100】
カソードガス拡散層は、上述したカソード触媒層の、固体高分子電解質膜と対向する面に配置される。カソードガス拡散層は、後述するセパレータの有するガス流路を介して供給された酸化剤ガスのカソード触媒層への拡散を促進させる機能、および電子伝導パスとしての機能を有する。
【0101】
カソードガス拡散層の基材を構成する材料は特に限定されず、従来公知の知見が適宜参照されうる。例えば、炭素製の織物、紙状抄紙体、フェルト、不織布といった導電性および多孔質性を有するシート状材料が挙げられる。基材の厚さは、得られるガス拡散層の特性を考慮して適宜決定すればよいが、30〜500μm程度とすればよい。基材の厚さがかような範囲内の値であれば、機械的強度とガスおよび水などの拡散性とのバランスが適切に制御されうる。
【0102】
カソードガス拡散層は、親水処理されてなるものであることが好ましい。ガス拡散層が親水処理されていることで、カソード触媒層に存在する(または流入した)過剰な水分の排出が促進され、フラッディング現象の発生が効果的に抑制されうる。ここで、ガス拡散層に対して施される親水処理の具体的な形態としては、例えば、カーボン基材表面への酸化チタンのコーティングといった処理やカーボン基材表面を酸性官能基により修飾するといった処理が挙げられる。ただし、これらの形態のみに限定されることはなく、場合によってはその他の親水処理が採用されてもよい。
【0103】
カソードガス拡散電極は、必要に応じて、他の部材(層)をさらに含んでもよい。例えば、カソード触媒層に存在する過剰な水分の排出を促進させてフラッディング現象の発生を抑制するために、カソードガス拡散層は、カーボン粒子を含むカーボン粒子層を基材の触媒層側に有してもよい。
【0104】
カーボン粒子層に含まれるカーボン粒子は特に限定されず、カーボンブラック、黒鉛、膨張黒鉛などの従来公知の材料が適宜採用されうる。なかでも、電子伝導性に優れ、比表面積が大きいことから、オイルファーネスブラック、チャネルブラック、ランプブラック、サーマルブラック、アセチレンブラックなどのカーボンブラックが好ましく用いられうる。カーボン粒子の平均粒子径は、10〜100nm程度とするのがよい。これにより、毛細管力による高い排水性が得られるとともに、触媒層との接触性も向上させることが可能となる。
【0105】
カーボン粒子層は撥水剤を含んでもよい。撥水剤としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)などのフッ素系の高分子材料、ポリプロピレン、ポリエチレンなどが挙げられる。なかでも、撥水性、電極反応時の耐食性などに優れることから、フッ素系の高分子材料が好ましく用いられうる。
【0106】
(アノードガス拡散電極)
アノードガス拡散電極は、アノード触媒層とアノードガス拡散層とから構成される。
【0107】
アノード触媒層は、触媒成分が担持されてなる電極触媒、およびアイオノマを含む層である。
【0108】
アノード触媒層において、電極触媒は、燃料ガス由来の水素(H)を、プロトン(H)および電子(e)とする反応(すなわち、水素の酸化反応)を促進する機能を有する。
【0109】
アノード触媒層を構成する電極触媒やアイオノマの具体的な形態については、カソード触媒層の欄において上述した形態が同様に採用されうる。従って、ここでは詳細な説明を省略する。なお、カソード触媒層とアノード触媒層とで、触媒層を構成する電極触媒やアイオノマの具体的な形態は同じであってもよいし、異なってもよい。
【0110】
本実施形態のMEAにおいて、アノード触媒層の平均厚み(Ya)は、カソード触媒層の平均厚み(Yc)よりも小さいことが好ましい。YaがYcよりも小さいことにより、カソード触媒層へのプロトン伝導が向上する。具体的には、Ya/Ycは、好ましくは0.1〜0.9であり、より好ましくは0.2〜0.5である。なお、アノード触媒層122aの平均厚みは、好ましくは1.0〜20.0μmであり、より好ましくは2.0〜5.0μmである。なお、触媒層の厚みの値としては、走査型電子顕微鏡(SEM)により触媒層断面を観察して得られた値を採用するものとする。
【0111】
本実施形態のMEAにおいて、アノード触媒層は、単層構造を有することが好ましい。これは、アノード触媒層はカソード触媒層に比べて、電解質膜側とガス拡散層側とで反応性の差が小さいため、特に複数層とする必要がなく、また、単層とすることで複数層にすることによる層平均厚みの増加を回避できるためである。ただし、アノード触媒層が2層以上の触媒層からなる積層構造を有する形態もまた、本発明の技術的範囲に包含される。
【0112】
アノードガス拡散電極を構成するアノードガス拡散層の具体的な形態については、カソードガス拡散電極を構成するカソードガス拡散層の欄において上述した形態が同様に採用されうる。従って、ここでは詳細な説明を省略する。また、アノードガス拡散電極が、必要に応じてカーボン粒子層などの部材(層)をさらに含んでもよいこともまた、上述したカソードガス拡散電極と同様である。
(膜電極接合体の製造方法)
次に、膜電極接合体(MEA)の製造方法について説明する。MEAは電解質膜に電極を接合することにより作成される。
【0113】
電極は触媒金属の微粒子とこれを担持した導電剤から構成され、必要に応じて撥水剤が含まれる。電極に使用される触媒としては、水素の酸化反応及び酸素による還元反応を促進する金属であれば特に限定されず、白金、金、銀、パラジウム、イリジウム、ロジウム、ルテニウム、鉄、コバルト、ニッケル、クロム、タングステン、マンガン、バナジウム又はそれらの合金が挙げられる。この中では主として白金が用いられる。導電剤としては電子電導性物質であればいずれでもよく、例えば各種金属や炭素材料を挙げることができる。炭素材料としては、例えばファーネスブラック、チャンネルブラック、アセチレンブラック等のカーボンブラック、活性炭、黒鉛等が挙げられ、これらを単独又は混合して使用される。撥水剤としては撥水性を有するような含フッ素樹脂が好ましく、耐熱性、耐酸化性に優れたものがより好ましい。例えばポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体を挙げることができる。このような電極としては、例えばE−TEK社製の電極が広く用いられている。
【0114】
前記電極と電解質膜からMEAを作成するには、例えば次のような方法が行われる。フッ素系イオン交換樹脂をアルコールと水の混合溶液に溶解したものに電極物質となる白金担持カーボンを分散させてペースト状にする。これをPTFEシートに一定量塗布して乾燥させる。次に当該PTFEシートの塗布面を向かい合わせにしてその間に電解質膜を挟み込み、熱プレスにより接合する。熱プレス温度は電解質膜の種類によるが、通常は100℃以上であり、好ましくは130℃以上、より好ましくは150℃以上である。
【0115】
前記以外のMEAの製作方法としては、「J.Electrochem.Soc.Vol.139,No2,L28−L30(1992)」に記載の方法がある。これによれば、フッ素系イオン交換樹脂をアルコールと水の混合溶液に溶解した後、SONaに変換した溶液を作成する。次にこの溶液に一定量の白金担持カーボンを添加してインク状の溶液とする。別途SONa型に変換しておいた電解質膜の表面に前記インク状の溶液を塗布し、溶媒を除去する。最後に全てのイオン交換基をSOH型に戻す事によりMEAを作成する。本発明はこのようなMEAにも適用することができる。
【0116】
[第3実施形態]
続いて、第3実施形態を説明する。
【0117】
第3実施形態では、第2実施形態のMEAを用いて、燃料電池を構成する。すなわち、本発明の第3実施形態は、第2実施形態のMEAと、前記膜電極接合体を挟持する、カソードセパレータおよびアノードセパレータからなる1対のセパレータと、を有する燃料電池である。
【0118】
前記燃料電池の種類としては、特に限定されず、固体高分子電解質型燃料電池(PEFC)、アルカリ型燃料電池、ダイレクトメタノール型燃料電池、マイクロ燃料電池などが挙げられる。なかでも小型かつ高密度・高出力化が可能であるから、高分子電解質型燃料電池が好ましく挙げられる。また、前記燃料電池は、搭載スペースが限定される車両などの移動体用電源の他、定置用電源などとして有用であるが、特にシステムの起動/停止や出力変動が頻繁に発生する自動車用途で特に好適に使用できる。
【0119】
前記高分子電解質型燃料電池は、定置用電源の他、搭載スペースが限定される自動車などの移動体用電源などとして有用である。なかでも、比較的長時間の運転停止後に高い出力電圧が要求されることによるカーボン担体の腐食、および、運転時に高い出力電圧が取り出されることにより高分子電解質の劣化が生じやすい自動車などの移動体用電源として用いられるのが特に好ましい。
【0120】
PEFCは、第1実施形態のMEAを有する。そして、PEFCにおいてMEAは、カソードセパレータおよびアノードセパレータからなる1対のセパレータにより挟持されている。ここで、カソードセパレータのカソードガス拡散層側表面には、運転時に酸化剤ガスが流通する酸化剤ガス流路が設けられており、反対側の表面には、運転時に冷却剤が流通する冷却流路が設けられている。一方、アノード側セパレータのアノード側ガス拡散層表面には、運転時に燃料ガスが流通する燃料ガス流路が設けられており、反対側の表面には、運転時に冷却剤が流通する冷却流路が設けられている。そして、PEFCの周囲には、1対のガス拡散電極を包囲するように、ガスケットが配置されている。
【0121】
(セパレータ)
セパレータは、PEFC等の燃料電池の単セルを複数個直列に接続して燃料電池スタックを構成する際に、各セルを電気的に直列接続する機能を有する。また、セパレータは、燃料ガス、酸化剤ガス、および冷却剤を互に分離する隔壁としての機能も有する。そのため、上述したように、セパレータのそれぞれにはガス流路および冷却流路が設けられている。
【0122】
セパレータを構成する材料としては、緻密カーボングラファイト、炭素板等のカーボンや、ステンレス等の金属など、従来公知の材料が適宜制限なく用いられうる。
【0123】
セパレータの厚さやサイズ、設けられる各流路の形状やサイズなどは特に限定されず、得られるPEFCの所望の出力特性などを考慮して適宜決定されうる。
【0124】
(ガスケット)
ガスケットは、1対のガス拡散電極を包囲するようにPEFCの周囲に配置され、触媒層に供給されたガスが外部にリークするのを防止する機能を有する。
【0125】
ガスケットを構成する材料としては、特に制限はないが、フッ素ゴム、シリコンゴム、エチレンプロピレンゴム(EPDM)、ポリイソブチレンゴム等のゴム材料、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)等のフッ素系の高分子材料、ポリオレフィンやポリエステル等の熱可塑性樹脂などが挙げられる。また、ガスケットの厚さにも特に制限はなく、好ましくは50μm〜2mmであり、より好ましくは100μm〜1mm程度とすればよい。
【0126】
(燃料電池の製造方法)
次に、固体高分子電解質型燃料電池の製造方法について説明する。固体高分子電解質型燃料電池は、MEA、集電体、燃料電池フレーム、ガス供給装置等から構成される。このうち集電体(セパレータ)(バイポーラプレート)は、表面などにガス流路を有するグラファイト製又は金属製のフランジのことを言い、電子を外部負荷回路に伝達する他に、水素や酸素をMEA表面に供給する流路としての機能を持っている。
【0127】
こうした集電体の間にMEAを挿入して複数積み重ねることにより、燃料電池を作成することができる。燃料電池の作動は、一方の電極に水素を、他方の電極に酸素又は空気を供給することによって行われる。燃料電池の作動温度は高温であるほど触媒活性が上がるために好ましいが、通常は水分管理が容易な50℃〜100℃で作動させることが多い。一方、本発明のような補強された電解質膜については高温高湿強度の改善によって100℃〜150℃で作動できる場合がある。酸素や水素の供給圧力については高いほど燃料電池出力が高まるため好ましいが、膜の破損等によって両者が接触する確率も増加するため適当な圧力範囲に調整することが好ましい。
【0128】
[第4実施形態]
続いて、第4実施形態を説明する。
【0129】
第4実施形態では、第3実施形態の燃料電池を用いて、燃料電池スタックを構成する。
【0130】
燃料電池スタックは、複数個の上記第2実施形態のPEFCが、セパレータを介して電気的に直列に接続され、両端は集電板およびエンドプレートで固定されている。ここで、セパレータの2つのガス流路(燃料ガス流路、酸化剤ガス流路)の中央には、冷却剤(冷媒)が流通するための冷却流路設けられている。燃料電池スタックにおいて電気的に直列に接続されるPEFCの単セルの直列数を変更することで、所望の電圧の燃料電池スタックを構成することが可能となる。なお、燃料電池の形状などは、特に限定されず、所望する電圧などの電池特性が得られるように適宜決定すればよい。
【0131】
また、上述した本発明のPEFCや燃料電池スタックを搭載した車両も、本発明の技術的範囲に包含される。本発明のPEFCや燃料電池スタックは、出力性能に非常に優れているため、高出力を要求される車両用途に適している。
【実施例】
【0132】
以下、実施例を用いて、より具体的に本発明を説明する。ただし、本発明の技術的範囲が下記実施例に限定されることはない。
【0133】
なお、下記実施例において示される特性の試験方法は次の通りである。
(1)膜厚
酸型にした電解質膜を23℃・65%の恒温室で1時間以上放置した後、膜厚計(東洋精機製作所:B−1)を用いて測定した。
(2)過酸化水素暴露試験における重量残存率
酸型にした電解質膜を1.5cm×3cmの短冊状に切り出し、真空80℃で4時間乾燥したのち重量Aを測定した。これを30mlの30%過酸化水素水溶液に浸漬し、80℃5時間オーブン内で放置したあと電解質膜を水洗後真空80℃で4時間乾燥したのち重量Bを測定した。重量B÷重量Aを重量残存率とした。
(4)初期弾性率
長さ60mm、幅5mmの試験片をチャック間距離40mmで引っ張り試験機にセットし、速度100mm/分で、温度23℃、湿度50%にて応力−歪み曲線を求め、この曲線の初期勾配から初期弾性率を算出した。
(5)プロトン伝導度
酸型にした電解質膜を幅1.5cmの短冊状に切り出し、その表面に直径0.03mmの電極線を1cm間隔で平行に4本接触させる。80℃,30%RHに調節した恒温恒湿槽に2時間以上保持したあと、60%RH,95%RHの各ステップで50分保持したときの80℃,95%RHにおける交流インピーダンスの実軸交点をプロトン伝導度Z(S/cm)とした。
【0134】
[実施例1]
下記化学式4:
【0135】
【化5】

で表される繰り返し単位を有するポリヒドロキシスチレン(丸善石油化学製マルカリンカーMB)(重量平均分子量:25000、数平均分子量:11000)10重量部に、芳香族炭化水素電解質としてのスルホン化ポリエーテルスルホン(S−PES)(EW:480)90重量部を加え、これらの樹脂固形分比が5質量%となるようにN−メチルピロリドンを加え80℃に加熱し、4時間攪拌して複合電解質混合液を調製した。この複合電解質混合液を、10cm×20cmのガラス板上に、室温23℃で複合電解質混合液20gを流延展開し、100℃のオーブンで10時間、加熱し、乾燥することによって、厚みが50μmの均一な厚みの複合電解質膜を得た。
【0136】
この膜を水で膨潤させ剥離した後、1Nの塩酸で1回、純水で2回洗浄した。これを80℃、4時間乾燥して複合電解質膜とした。これを性能試験に供し、その結果を下記表1に示す。下記表1において、ポリヒドロキシスチレンを「PHS」で表わす。
【0137】
なお、このようにして得られた複合電解質膜におけるポリヒドロキシスチレンの含有量は、電解質に対して、10wt%である。
【0138】
[実施例2]
化学式4で表される繰り返し単位を有するポリヒドロキシスチレン(丸善石油化学製マルカリンカーMB)20重量部に、電解質としてのスルホン化ポリエーテルスルホン(S−PES)80重量部を加えた以外は、実施例1と同様の方法で、複合電解質膜を得た。
【0139】
なお、このようにして得られた複合電解質膜におけるポリヒドロキシスチレンの含有量は、電解質に対して、20wt%である。
【0140】
[比較例1]
化学式4で表される繰り返し単位を有するポリヒドロキシスチレン(丸善石油化学製マルカリンカーMB)50重量部に、電解質としてのスルホン化ポリエーテルスルホン(S−PES)50重量部を加えた以外は、実施例1と同様の方法で、複合電解質膜を得た。
【0141】
なお、このようにして得られた複合電解質膜におけるポリヒドロキシスチレンの含有量は、電解質に対して、50wt%である。
【0142】
[比較例2]
本発明に係るヒドロキシスチレン系高分子であるスルホン化ポリエーテルスルホンを添加しない以外は実施例1と同様の方法で、電解質膜を得た。
【0143】
【表1】

上記表1に示されるように、芳香族炭化水素系電解質膜は、ヒドロキシスチレン系高分子が添加されることによって、重量残存率、プロトン伝導性および初期弾性率が有意に向上していることが示される。
【0144】
[実施例3]
下記化学式5:
【0145】
【化6】

で表される繰り返し単位を有するポリヒドロキシスチレン(丸善石油化学製マルカリンカーH−2P)(重量平均分子量:88000、数平均分子量:19000)10重量部に、芳香族炭化水素電解質としての、スルホン化ポリエーテルスルホン(EW:480)90重量部を加え、これらの樹脂固形分比が5質量%となるようにN−メチルピロリドンを加え80℃に加熱し、4時間攪拌して複合電解質混合液を調製した。この複合電解質混合液を、10cm×20cmのガラス板上に、23℃で複合電解質混合液20gを流延展開し、100℃のオーブンで10時間、加熱し、乾燥することによって、厚みが50μmの均一な厚みの複合電解質膜を得た。
【0146】
この膜を水で膨潤させ剥離した後、1Nの塩酸で1回、純水で2回洗浄した。これを80℃、4時間乾燥して複合電解質膜とした。これを性能試験に供し、その結果を下記表2に示す。
【0147】
なお、このようにして得られた複合電解質膜におけるポリヒドロキシスチレンの含有量は、電解質に対して、10wt%である。
【0148】
[実施例4]
化学式5で表される繰り返し単位を有するポリヒドロキシスチレン(丸善石油化学製マルカリンカーH−2P)20重量部に、電解質としてのスルホン化ポリエーテルスルホン(S−PES)80重量部を加えた以外は、実施例1と同様の方法で、複合電解質膜を得た。
【0149】
なお、このようにして得られた複合電解質膜におけるポリヒドロキシスチレンの含有量は、電解質に対して、20wt%である。
【0150】
[実施例5]
下記化学式6:
【0151】
【化7】

で表される繰り返し単位を有するポリヒドロキシスチレン(丸善石油化学製マルカリンカーCST−50)(重量平均分子量:76000、数平均分子量:15000;p=50、q=50)10重量部に、芳香族炭化水素電解質としての、スルホン化ポリエーテルスルホン(EW:480)90重量部を加え、これらの樹脂固形分比が5質量%となるようにN−メチルピロリドンを加え80℃に加熱し、4時間攪拌して複合電解質混合液を調製した。この複合電解質混合液を、10cm×20cmのガラス板上に、23℃で複合電解質混合液20gを流延展開し、100℃のオーブンで10時間、加熱し、乾燥することによって、厚みが50μmの均一な厚みの複合電解質混合液膜を得た。
【0152】
この膜を水で膨潤させ剥離した後、1Nの塩酸で1回、純水で2回洗浄した。これを80℃、4時間乾燥して複合電解質膜とした。これを性能試験に供し、その結果を下記表2に示す。
【0153】
なお、このようにして得られた複合電解質膜におけるポリヒドロキシスチレンの含有量は、電解質に対して、10wt%である。
【0154】
[実施例6]
上記化学式6で表される繰り返し単位を有するポリヒドロキシスチレン(丸善石油化学製マルカリンカーCST−50)20重量部に、電解質としてのスルホン化ポリエーテルスルホン(S−PES)80重量部を加えた以外は、実施例1と同様の方法で、複合電解質膜を得た。
【0155】
なお、このようにして得られた複合電解質におけるポリヒドロキシスチレンの含有量は、電解質に対して、20wt%である。
【0156】
【表2】

上記表2に示されるように、芳香族炭化水素系電解質膜は、ヒドロキシスチレン系高分子が添加されることによって、重量残存率、プロトン伝導性および初期弾性率が有意に向上していることが示される。
【産業上の利用可能性】
【0157】
本発明の電解質膜は、プロトン伝導性及び耐久性に優れたものであるから、本発明の電解質膜は、MEAに、さらには当該MEAを有する燃料電池に有用であり、本発明の電解質膜を有する燃料電池は、耐久性に優れ、システムの起動/停止や出力変動が頻繁に発生する自動車用途において特に好適に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族炭化水素系電解質と、
下記化学式1:
【化1】

式中、
は、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基または炭素数6〜30のアリール基であり、
およびRは、それぞれ独立して、水素原子またはハロゲン原子であり、
は、水素原子、ハロゲン原子または炭素数1〜10のアルキル基であり、この際、Rは、同一であってもまたは異なるものであってもよい、
で表される繰り返し単位を有する高分子と、を含み、
前記高分子が、前記芳香族炭化水素系電解質に対して、1〜40質量%含まれる、
複合電解質膜。
【請求項2】
化学式1において、R〜Rの少なくとも1つが、水素原子であり、
が、水素原子またはハロゲン原子である、請求項1に記載の複合電解質膜。
【請求項3】
化学式1において、Rが、炭素数1〜10のアルキル基または炭素数6〜30のアリール基であり、
〜Rが水素原子またはハロゲン原子である、請求項1に記載の複合電解質膜。
【請求項4】
化学式2:
【化2】

式中、
は、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基または炭素数6〜30のアリール基であり、
およびRは、それぞれ独立して、水素原子またはハロゲン原子である、
で表される繰り返し単位ならびに
化学式3:
【化3】

式中、
は、水素原子またはメチル基であり、
は、炭素数1〜10のアルキル基または炭素数1〜10のヒドロキシアルキル基である、
で表される繰り返し単位からなる群から選択される少なくとも1種をさらに含む、
請求項1に記載の複合電解質膜。
【請求項5】
前記芳香族炭化水素系電解質が、スルホン化ポリアリーレン、スルホン化ポリエーテルスルホン、スルホン化ポリエーテルエーテルケトンまたはこれらの共重合体である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の複合電解質膜。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の複合電解質膜と、
前記複合電解質膜の一方の面に配置された、カソード触媒層およびカソードガス拡散層を含むカソードガス拡散電極と、
前記複合電解質膜の他方の面に配置された、アノード触媒層およびアノードガス拡散層を含むアノードガス拡散電極と、
を有する膜電極接合体。
【請求項7】
請求項6に記載の膜電極接合体と、
前記膜電極接合体を挟持する、カソードセパレータおよびアノードセパレータからなる1対のセパレータと、
を有する燃料電池。
【請求項8】
請求項7に記載の燃料電池を搭載した車両。

【公開番号】特開2008−276979(P2008−276979A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−116056(P2007−116056)
【出願日】平成19年4月25日(2007.4.25)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】